JP2018155745A - 分離剤、並びに当該分離剤を用いた標的分子の分離方法及びクロマトグラフィー用カラム - Google Patents

分離剤、並びに当該分離剤を用いた標的分子の分離方法及びクロマトグラフィー用カラム Download PDF

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Abstract

【課題】吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量の向上したイオン交換分離剤を提供する。【解決手段】多孔性粒子と、前記多孔性粒子に結合したイオン交換基を含む分離剤であって、水銀圧入法で測定される比表面積が、65m2/g以上である分離剤。水銀圧入法で測定される細孔半径が100Å以上、水銀圧入法で測定される比表面積が200m2/g以下、水銀圧入法で測定される細孔容積が0.4mL/g以上1.5mL/g以下、水分含有率が55質量%以上90質量%以下、体積平均粒子径が1μm以上1000μm以下、湿潤状態での見掛密度が500g/L以上1000g/L以下であることが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、クロマトグラフィー用充填剤に好適に用いられる分離剤に関するものであり、中でもタンパク質等の生体高分子の分離に適したイオン交換分離剤、並びに当該分離剤を用いた分離方法、及びクロマトグラフィー用カラムに関する。
タンパク質等の生体高分子の研究・開発において、それらの吸着・分離・精製にはクロマトグラフィーが多く用いられている。液体クロマトグラフィー用分離剤に用いられる担体としては、シリカゲル、ヒドロキシアパタイト等の無機系担体や、アガロース、デキストラン、セルロース、キトサン等の天然高分子系担体、およびポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の合成高分子系担体が知られている。これらの担体はそのままで、又は多様な分離モードでの使用を可能とするために必要に応じて各種官能基を付与して用いられる。
担体への官能基の導入は、通常は担体の多孔性の有無に関わらず、担体表面に直接、又はスペーサーと称される比較的分子量の小さな化合物を介して行われる。
いずれのタイプの分離剤であっても、分離対象物の吸着量が大きいことが望まれる。
分離剤の分離対象物の吸着量は、分離対象物の分子量が小さい場合には、担体を多孔質構造として比表面積を高くすることで増大させることが可能である。
しかしながら、タンパク質のように分離対象物の分子量が大きい場合には、多孔質構造を発達させた担体では細孔径が小さくなることから、分離対象物が細孔内部に拡散できない、又は拡散速度が低いためクロマトグラフィー法を用いる場合に流速を上げると分離対象物の細孔内部への拡散が充分に行われない、等の理由から、動的吸着量が低くなる問題があった。
一方で、分子量の大きい分離対象物の担体の細孔内部への拡散効率を高めるためには、細孔径の大きな担体を用いる必要があるが、細孔径の大きな担体は比表面積が小さくなることから、分離対象物の吸着量が下がることとなる。
例えば、特許文献1には、多孔質架橋粒子に高分子を共有結合にて固定化した分離剤が開示され、本技術に拠れば、多孔質架橋粒子の表面に効率的に高分子を導入することで、タンパク質などの分離対象物質の吸着分離に優れたものとすることができるとされている。
特開2013−88398号公報
しかしながら、担体表面に直接、又はスペーサーと称される比較的分子量の小さな化合物を介して官能基を導入した従来の分離剤には、タンパク質のような分子量が大きな分離対象物に対して高い吸着量を示すものが存在しなかった。
また、従来品は一般に、細孔径の大きいものが吸着量が大きいとされており、例えば合成高分子の多孔性粒子を重合法で製造する際の多孔質化溶媒の添加量を増やすことで、細孔径の大きな樹脂を得てきたが、このような樹脂では、強度が劣るものとなる。このため、乾燥工程に耐久性があり乾燥細孔物性を測定可能なほど強度が良好で、かつ含水状態では空孔率が高く、水分含有量の大きいイオン交換分離剤とすることはできなかった。
例えば、特許文献1に記載の発明では、細孔径、細孔容積、比表面積などの指標で示される細孔分布が比較的幅広いため、目的とする抗体の吸着量や分離性、選択率の面で依然として改良の余地があった。また、従来の吸着剤においては吸着量が増大するにつれて吸着剤の強度は下がる傾向があるため、吸着量の大きな領域において強度面で優れた合成高分子をベースとする分離剤が期待されていた。
また、水銀圧入法による細孔物性測定は、圧力をかけて水銀を開孔部に侵入させる方法であり、数MPaから数百MPaの高圧がかかるため、強度の良好な多孔性物質しか測定出来ない方法である。本発明者らの検討に拠れば、空孔率が高く、水分含有量が高い多孔性粒子のうち、強度の小さいものを水銀圧入法による測定に供すると、途中で圧入が出来なくなる現象が観察された。これは水銀の圧力により多孔性粒子が破壊されるためと考えられ、水銀圧入法で細孔物性が測れるかどうかは強度が良好かどうかの判別指標にもなっている。
また、水銀圧入法による測定の前に、多孔性粒子を乾燥させる必要があるが、空孔率が高く、水分含有量が高い多孔性粒子のうち強度の小さいものは、この乾燥工程で樹脂の収縮、破砕が起こる問題がある。また、イオン交換分離剤の工業的な生産のためには、乾燥して分級する工程が必須であるので、乾燥した状態で強度の高い多孔性粒子が望まれる。
以上より、合成高分子をベースとするクロマトグラフィー用充填剤としては、乾燥工程に耐久性があり乾燥細孔物性評価に耐えられる強度を有するとともに、含水状態では空孔率が高く、水分含有量の大きい分離剤、つまり、動的吸着容量がより一層向上した分離剤が望まれる。
加えて、担体表面のタンパク質との相互作用を適切に制御することで、種々のタンパク質の中から目的の分離対象物を精度よく分離できるような分離性能の向上も求められている。その目的で、イオン交換相互作用を有する分離剤(イオン交換分離剤)が多用される。中でも、イオン交換分離剤において、動的吸着容量が大きいだけでなく、分離対象物の細孔内拡散が良好で、かつ、非特異的な疎水吸着も抑えられた分離剤が求められている。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量の向上したイオン交換分離剤及びその応用技術に関するものである。
本発明者らが鋭意研究を行なった結果、多孔性粒子に、イオン交換基を固定した分離剤が、特定の比表面積を有することで、吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量の向上したイオン交換分離剤となることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 多孔性粒子と、前記多孔性粒子に結合したイオン交換基を含む分離剤であって、水銀圧入法で測定される比表面積が、65m/g以上である、分離剤。
[2] 水銀圧入法で測定される細孔半径が、100Å以上である、[1]に記載の分離剤。
[3] 水銀圧入法で測定される比表面積が、200m/g以下である、[1]又は[2]に記載の分離剤。
[4] 水銀圧入法で測定される細孔容積が、0.4mL/g以上、1.5mL/g以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の分離剤。
[5] 下記の測定方法で測定される水分含有率が、55質量%以上、90質量%以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の分離剤。
[水分含有率の測定方法]
直径3cmのガラスフィルター上に試料を10g入れ、100mmHg以下の減圧条件で水を濾別しそのまま減圧を5分間継続する。得られたケーキを0.9g以上、1.1g以下の範囲になるように精秤し、精秤したケーキを乾燥機で恒量まで乾燥させたときの減量とから水分含有率を算出する。
[6] 体積平均粒子径が、1μm以上、1000μm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の分離剤。
[7] 湿潤状態での見掛密度が、500g/L以上、1000g/L以下である、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離剤。
[8] 前記多孔性粒子に結合したイオン交換基が、イオン交換基を有する合成高分子鎖である、[1]〜[7]のいずれかに記載の分離剤。
[9] 分離剤1リットルあたりの前記イオン交換基を有する合成高分子鎖の固定化密度が、1gより大きい、[8]に記載の分離剤。
[10] 前記イオン交換基を有する合成高分子鎖を構成する水溶性ポリマーを20質量%の濃度で含む水溶液の23℃での粘度が1mPa・s以上、1000mPa・s以下である、[8]又は[9]に記載の分離剤。
[11] 前記イオン交換基を有する合成高分子鎖が、下記式(1)〜(3)で表されるモノマーのいずれかに由来する構造単位を含む、[8]〜[10]のいずれかに記載の分離剤。
Figure 2018155745
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、−NR−R−R又は−O−R−Rを表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、脂肪族環を含む炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を表す。Rは、ハロゲン原子、アルコール性水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
式(2)中、Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
式(3)中、Rは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。)
[12] 以下の工程(a)及び工程(b)を含むことを特徴とする標的分子の分離方法。
(a)標的分子を含む溶液を[1]〜[11]のいずれかに記載の分離剤に接触させて、標的分子を分離剤に吸着させる工程
(b)[1]〜[11]のいずれかに記載の分離剤から標的分子を溶離する工程
[13] 標的分子が、免疫グロブリンの少なくとも一部又はこれらの化学変性物である、[12]に記載の標的分子の分離方法。
[14] 標的分子が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体或いはこれらの化学変性物である、[12]又は[13]に記載の標的分子の分離方法。
[15] 標的分子が、免疫グロブリンのFc領域の少なくとも一部を含む融合タンパク質又はこれらの化学変性物である、[12]〜[14]のいずれかに記載の標的分子の分離方法。
[16] [1]〜[11]のいずれかに記載の分離剤を含み、少なくとも1つの容器を備える、クロマトグラフィー用カラム。
本発明によれば、吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量の向上した、イオン交換分離剤が提供される。
以下に本発明について詳述するが、以下に記載する例示物等は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の一方又は双方をさし、「(メタ)アクリレート」についても同様である。また、「(共)重合」とは「重合」と「共重合」の一方又は双方を意味する。
〔1.分離剤〕
本発明の分離剤は、多孔性粒子と、前記多孔性粒子に結合したイオン交換基を含む分離剤であって、水銀圧入法で測定される比表面積が、65m/g以上であることを特徴とする。
本発明の分離剤は、水銀圧入法で測定される比表面積が以下に説明するように特定の範囲であることに特徴がある。なお、水銀圧入法は、圧力をかけて水銀を開孔部に侵入させ、圧力値と対応する侵入水銀体積とを用いて、円柱状と仮定した細孔の径をWashburnの式から算出する方法であり、セラミックス成形体について規定されたJIS R1655を準用することができる。
本発明の分離剤は、湿潤状態で高い空孔率を有するとともに、乾燥状態で水銀ポロシメーターにより0.06MPaから410MPaの範囲で細孔物性が測定できる強度を有することに特徴がある。一方で、空孔率が高く、水分含有量が高い従来の分離剤では、同様の測定を実施すると水銀の圧力により多孔性粒子が破壊されることにより、途中で圧入が出来なくなる現象が観察され、乾燥状態で水銀ポロシメーターにより0.06MPaから410MPaの範囲で細孔物性が測定できない。
本発明の分離剤は、上記特徴的な構成を有することにより、吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量が向上し、優れたイオン交換相互作用による吸着性を有する。本発明の分離剤が、吸着量の大きな領域又は分離精度の高い領域において強度面で優れ、動的吸着容量の向上する理由は、未だ定かではないが、以下のように推察される。
多孔性粒子と、当該多孔性粒子に結合したイオン交換基を含む分離剤では、乾燥状態に比べて含水状態では、分離剤における多孔性粒子の全体が膨張するとともに細孔も膨張する傾向にある。したがって、乾燥状態の比表面積が所定値以上の樹脂(多孔性粒子)がイオン交換分離剤には適しているものと考えられる。また、乾燥状態での比表面積が所定値以上の樹脂のほうが樹脂骨格の量が多くなるので強度的には有利になる。したがって、含水状態での拡散が良好かつ強度面でも強化されたイオン交換分離剤が得られるものと推察される。
なお、本明細書において、「湿潤状態(水湿潤状態)」とは、水中でスラリー状に懸濁している多孔性粒子や分離剤粒子から、粒子間に存在する大過剰の水を取り除いた状態である。この状態においては、粒子表面に付着している水分、粒子細孔内に存在する水分、および、粒子骨格内に存在する水分を含んだ状態である。具体的には、ガラスフィルターや濾過フィルター上に樹脂スラリーを流し込み減圧濾過により水を切るような操作を実施後の状態をいう。もしくは、ヌッチェに濾紙やメッシュフィルターを敷いて、その上に樹脂スラリーを流し込み、減圧濾過で水を切る操作でも良い。もしくは加圧濾過、自然濾過により水を切っても良い。あるいは、遠心分離機に濾布をセットして濾布上で水を切る操作を実施後の状態でも良い。又は、粒子スラリーをスピンカラムに入れた後遠心分離機で水を切る操作を実施後の状態をいう。又は、「イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル」、改訂4版、3章、イオン交換樹脂の性能試験法、p.131−132記載のように、樹脂の遠心分離により付着水分を除去して水分を測定する方法も適用できる。いずれの方法においても、一定の湿潤状態にするためには、一定の水切り条件に設定すると良い。
また、本明細書において、「乾燥状態」とは、多孔性粒子や分離剤の外側および細孔内に水を含まない状態である。具体的には、減圧乾燥器や水分測定器、凍結乾燥機などを用いて細孔内の水を十分除去できる条件で乾燥操作を実施後の状態をいう。この乾燥操作を実施後、多孔性粒子や分離剤に含まれていた水分は除去され、恒量に達した状態にあることをいう。
以下、水銀圧入法で測定される細孔半径、比表面積、及び細孔容積は、いずれも乾燥状態で測定した値についての説明である。
本発明の分離剤の水銀圧入法で測定される細孔半径(最頻度半径)は、100Å以上であることが好ましく、より好ましくは250Å以上、更に好ましくは300Å以上である。一方、細孔半径の上限は好ましくは1000Å以下、より好ましくは800Å以下、更に好ましくは700Å以下である。細孔半径が上記下限以上であれば、分離対象のタンパク質等が粒子の細孔中に入りやすくなり、結果的にイオン交換吸着量が増加することとなる。一方、細孔半径が上記上限以下であれば、細孔内部に吸着に寄与しない空間が形成されにくく、イオン交換吸着量が増加する上に、分離剤粒子の機械的な強度も向上する。
また、本発明の分離剤の水銀圧入法で測定される比表面積は、65m/g以上であり、70m/g以上であることが好ましく、75m/g以上であることがより好ましい。一方、比表面積の上限は、200m/g以下であることが好ましく、150m/g以下であることがより好ましい。水銀圧入法で測定される比表面積が上記下限以上であると、イオン交換基を含む合成高分子鎖の固定に必要な細孔内の面積が不足することなく、イオン交換基を含む合成高分子鎖を十分に固定化でき、イオン交換吸着量が増加する。また、分離対象物が吸着し得る面積が大きくなるため、イオン交換吸着量が増加することとなる。一方、比表面積が上記上限以下であると、細孔の内部へ分離対象物が行き渡るまでの時間が短かく、動的イオン交換吸着容量が増加するようになる。また、比表面積が上記上限以下であれば、細孔表面のうちイオン交換基を含む合成高分子鎖で被覆されない面積が少なくなるので、疎水吸着や、非特異吸着が起こり難くなり、分離対象物の回収率が向上する傾向がある。
分離剤の比表面積は窒素吸着法で測定することもできる。分離剤の窒素吸着法で測定される比表面積は、上記の水銀圧入法で測定される比表面積と同様な理由から、65m/g以上であり、70m/g以上であることが好ましく、75m/g以上であることがより好ましい。一方、200m/g以下であることが好ましく、150m/g以下であることがより好ましい。
窒素吸着法により測定される比表面積の値は、水銀圧入法の測定範囲よりも小さな細孔(例えば100Å以下の領域)の比表面積をカバーする指標でもある。したがって、この指標が大きすぎると、微細な細孔の量も多いということになる。微細な細孔の量が極端に多すぎると、分子量の大きなタンパク質(例えば抗体)が拡散できないので、分子量の大きなタンパク質の分離剤向けには好ましくない。ただし分子量の小さなタンパク質の分離剤向けには適する場合もある。
本発明の分離剤の水銀圧入法で測定される細孔容積は、好ましくは0.4mL/g以上、1.5mL/g以下であり、より好ましくは0.7mL/g以上、1.2mL/g以下、更に好ましくは、0.7mL/g以上、1.0mL/g以下である。細孔容積が上記下限値以上であると分離対象物質の拡散性が向上し、イオン交換吸着量が向上する点で好ましく、細孔容積が上記上限値以下であると分離剤の強度が維持できる点で好ましい。
本発明の分離剤は、下記の測定方法で測定される空孔率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上である。空孔率が上記下限値以上であると細孔の量が増加し分離対象物質の拡散性が増加してイオン交換吸着量も増加する点で好ましく、空孔率が上記上限値以下であると分離剤の強度を犠牲にすることなく分離対象物の拡散性が良好でイオン交換吸着量が大きい分離剤が得られる点で好ましい。
水銀圧入法や窒素吸着法で分析される細孔容積は乾燥状態での細孔量の指標であるのに対し、空孔率は、水湿潤状態での細孔量を示す指標であるので、空孔率はユーザーが実際に分離剤として使用する際の細孔量と直接関連する。そのため空孔率が上記下限値以上であると実使用時の分離対象物質の拡散性が増加してイオン交換吸着量も増加する点で好ましく、細孔容積が上記上限値以下であると分離剤の強度を犠牲にすることなく実使用時の分離対象物質の拡散性が良好でイオン交換吸着量が大きい分離剤が得られる点で好ましい。
[空孔率の測定方法]
試料(測定対象の分離剤又は多孔性粒子)を内径1cm、長さ30cmのガラスカラムに充填し、液体クロマトグラフ(LC)で水を0.5mL/minで通液する。分子量分布500万〜4000万のデキストラン試薬の0.1質量%水溶液、及びエチレングリコール試薬の1質量%水溶液を調製し、それぞれ0.1mLを前記ガラスカラムに注入し、それぞれの溶出時間を測定する。それらの溶出時間から、下記式により空孔率を求める。
(空孔率)=((エチレングリコール溶出体積)−(デキストラン溶出体積))/((カラム容積)−(デキストラン溶出体積))
なお、上記細孔半径、細孔容積、比表面積、空孔率等の物性は、多孔性粒子の製造に用いる後述の重合性単量体の種類・量や、重合時の水と単量体との量比、あるいは重合に際して重合に不活性な有機溶媒を反応系中に所定量共存させ、その種類や量を制御することによって調整することができる。更に、重合開始剤の種類・量によっても調整が可能である。
また、本発明の分離剤において、担体である多孔性粒子の細孔物性は、イオン交換基の固定の有無で有意に変化しない。そのため、本発明において、イオン交換基固定化前の多孔性粒子の細孔物性と、イオン交換基固定化後の多孔性粒子(すなわち、分離剤)の細孔物性とは、同一とみなす。
また、本発明の分離剤は、下記の「水分含有率の測定方法」で測定される水分含有率が55質量%以上、90質量%以下であることが好ましく、65質量%以上、75質量%以下であることがより好ましい。水分含有率が上記下限以上であれば、イオン交換吸着量が低くなったり、細孔内の拡散性が低下したり、分離剤自体の疎水性が増加して非特異吸着が大きくなったり、という問題が生じるおそれがない。一方、上記上限以下であれば、分離剤の強度が高くなり、分離剤の破砕が起こったり、カラムに充填したときに圧密化が起こってカラムが通液できなくなったりするおそれがない。
[水分含有率の測定方法]
直径3cmのガラスフィルター上に試料(測定対象の分離剤又は多孔性粒子)を10g入れ、100mmHg以下の減圧条件で水を濾別しそのまま減圧を5分間継続する。得られたケーキを0.9g以上、1.1g以下の範囲になるように精秤し、精秤したケーキを乾燥機で恒量まで乾燥させたときの減量とから水分含有率を算出する。
水分含有率の具体的な評価方法については、実施例の項で後述する。
なお、多孔性粒子の水分含有量はイオン交換基の固定の有無で有意に変化しないことが多いため、上記の水分含有率の測定方法では、測定対象として分離剤ではなく、イオン交換基固定前の多孔性粒子を用いてもよい。
本発明の分離剤の体積平均粒子径は、1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。より好ましい体積平均粒子径は、用いる充填用カラムの用途や大きさにもよるが、5μm以上、700μm以下であり、更に好ましい体積平均粒子径は10μm以上、500μm以下である。体積平均粒子径が上記下限以上であれば、カラムに充填して通液した時の圧力損失が小さくなり、そのため通液速度を高くでき、分離処理の生産性が向上する。一方、体積平均粒子径が上記上限以下であれば、カラムの効率が低下することなく、イオン交換吸着量や分離性能を維持できる。なお、分離剤の粒子径は、担体である多孔性粒子の粒子径で実質的に決定される。
分離剤の体積平均粒子径は、既知の方法で測定することができる。例えば、光学顕微鏡にて、100個以上の粒子径を測定し、その分布から体積メジアン径を算出することで体積平均粒子径が得られる。粒子径分布の幅の指標である均一係数は、通常小さい方がカラムに充填して通液する時の圧力損失が小さくなり好ましい。均一係数が大きくなると、カラムへの充填効率は高くなるものの、圧力損失が大きくなる傾向にある。
本発明の分離剤について、後述の実施例の項に記載の方法で測定される10%圧縮強度は0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましく、1.8MPa以上であることがさらに好ましい。10%圧縮強度が上記下限以上であると、実使用時の分離剤の強度を十分に確保することができ、好ましい。10%圧縮強度は大きい程好ましいが、通常その上限は20MPaである。
本発明の分離剤は、湿潤状態での見掛密度が500g/L以上、1000g/L以下であることが好ましい。湿潤状態での見掛密度が500g/L以上であると、分離剤の強度が十分であり、分離剤の破砕が起こったり、カラムに充填したときに圧密化が起こってカラムが通液できなくなったりすることが防止される。また、1000g/L以下であれば、分離剤の粒内拡散性が低下して動的吸着容量が低下したり、分離剤の疎水性が増加して非特異吸着が増加したりすることが防止される。
本発明の分離剤は、多孔性粒子に結合したイオン交換基がイオン交換基を有する合成高分子鎖であることが好ましく、特に、多孔性粒子とイオン交換基を有する合成高分子鎖とが直鎖のスペーサーを介して固定化されていることが好ましい。スペーサーについては、分離剤の製造方法と併せて後述する。
また、本発明の分離剤の多孔性粒子は架橋合成高分子よりなることが好ましい。
本発明の分離剤は、分離剤1リットルあたりのイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定化密度が1gより大きい(即ち、1g/Lより大)ことが好ましい。またその上限は特に限定されないが、通常50g/L以下である。イオン交換基を含む合成高分子鎖の固定化密度が1g/L以上であれば抗体の吸着量を十分に得ることができ、分離剤の効率が高くなる。一方、50g/L以下であれば、固定したイオン交換基を含む合成高分子鎖の利用効率が高くなる。
このイオン交換基を有する合成高分子鎖及び多孔性粒子を構成する架橋合成高分子については後述する。
本発明の分離剤の抗体の吸着量は5mg/mL(分離剤)以上であることが好ましく、より好ましい抗体の吸着量は10mg/mL(分離剤)以上、更に好ましくは20mg/mL(分離剤)以上、特に好ましくは40mg/mL(分離剤)以上である。なお、「mL(分離剤)」は、水中で沈降させたときの分離剤の体積を示す。また、本明細書において「抗体の吸着量」とは、種々の抗体の動的吸着量(DBC)および静的吸着量(SBC)の両方を含む概念とする。
測定原理上、DBCのほうがSBCよりも小さい値になるので、DBC/SBCの好ましい範囲としては、0.1以上0.99以下、更に好ましくは0.5以上0.9以下、更に好ましくは0.6以上0.85以下である。
このような高い吸着量を達成するためには、例えば、イオン交換基を含む合成高分子鎖の固定化密度を調整する、細孔直径を調整する、平均粒子径を調整する、イオン交換基を含む合成高分子鎖の種類を選択する、などの方法があり、必要に応じてこれらの方法を2つ以上組み合わせてもよい。これらの物性の好適範囲は上述の通りである。
抗体の静的吸着量(SBC)の測定方法は以下の通りである。
分離剤を水湿潤状態として1体積部をチューブに秤取し、これに50体積部の濃度2.5mg/mLのヒトガンマグロブリン水溶液(和光純薬試薬)を加えて室温で3〜5時間攪拌しヒトガンマグロブリンを吸着させる。吸着前後の上澄み液の吸光度を測定し、別途作成した検量線より抗体の静的吸着量(SBC)を決定する。分離剤量と抗体溶液との比率、抗体の濃度、緩衝液の種類、pH、通液速度は測定対象に応じて適宜変更可能である。また、抗体以外のタンパク質にも同じように適用できる。タンパク質の例示としては、ラクトフェリン、インシュリン、リゾチーム、アルブミン、低分子化抗体、ペプチド類、ラクトグロブリン、トランスフェリン、トリプシンインヒビター、ペプシン、である。
マウスポリクローナルIgG抗体の吸着量やヒトガンマグロブリンの吸着量が小さいと、目的とするヒト抗体の吸着量も低下するものと考えられている。
抗体の動的吸着量(DBC)の測定方法の例は以下の通りである。
分離剤粒子を内径5mm、長さ100mmのカラムに充填し、濃度1mg/mlとしたヒトガンマグロブリン(和光純薬試薬)の酢酸緩衝液(pH6)を通液する。カラム流出液の吸光度が原液の吸光度の10%に達するまで通液し、その通液量をもとに動的吸着容量を算出する。得られた値は粒子1mLあたりの吸着容量に換算する。
カラムの大きさや抗体の濃度、緩衝液の種類、pH、通液速度は測定対象に応じて適宜変更可能である。また、抗体以外のタンパク質にも同じように適用できる。
以下、本発明の分離剤を構成する多孔性粒子及びイオン交換基を含む合成高分子鎖について説明する。
<1−1.多孔性粒子>
本発明の分離剤で用いられる多孔性粒子(以下、「本発明に係る多孔性粒子」、又は単に「多孔性粒子」と記載する場合がある。)は、架橋合成高分子からなる多孔性粒子であることが好ましく、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位を2種以上含む重合体で構成される多孔性粒子であることがより好ましい。
本発明に係る多孔性粒子は、イオン交換基、好ましくはイオン交換基を含む合成高分子鎖を固定する担体であり、クロマトグラフィーの使用条件における耐久性と機械的強度を有する。また、共有結合によってイオン交換基を含む合成高分子鎖を共有結合で固定化できるための反応性官能基を有していることが好ましい。
本発明の多孔性粒子として好適な実施形態としての架橋合成高分子は、分離時の水媒体との親和性が高く、選択率向上に有効な(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位を含むことが好ましい。なお、以下で説明する各構造単位の重量割合は原料として用いられる各化合物の重量割合に基づいて定められるものとする。
本発明に係る多孔性粒子における架橋合成高分子の構成単位に相当する反応性官能基付与性を有する重合性単量体としては、イオン交換基を含む合成高分子鎖を共有結合で固定化できるような反応性官能基そのものを有する(メタ)アクリル系単量体か、又はこのような反応性官能基を有する化合物(リンカー)と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系単量体があり、本発明にはそのいずれも使用可能である。
このイオン交換基を含む合成高分子鎖を共有結合で固定化できる反応性官能基(以下、「共有結合性官能基」と称す場合がある。)としては、イオン交換基を含む合成高分子鎖の結合部位に相当する官能基の種類に応じて選択すればよいが、例えばイオン交換基を含む合成高分子鎖が、結合部位にアミノ基を有する場合、このアミノ基と共有結合可能な官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基などが挙げられる。中でも反応性の点から、エポキシ基が好ましい。
このようなエポキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4,5−エポキシブチル(メタ)アクリレート、9,10−エポキシステアリル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体などが挙げられる。
本発明に係る多孔性粒子における架橋合成高分子は、多孔性粒子に架橋構造を付与するために、重合反応時に重合可能な官能基を分子中に複数個有する多官能性単量体由来の構造単位を有していてもよい。
このような多官能性単量体としては、例えばジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、グリセロールジ(メタ)アクリル酸エステル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリカルボン酸ポリビニルエステル類、ポリカルボン酸ポリアリルエステル類、ポリオールポリビニルエーテル類、ポリオールポリアリルエーテル類、ブタジエン、メチレンビスアクリルアミド、イソシアヌル酸トリアリル等のポリビニル化合物が挙げられ、より具体的にはペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
この中でもビニル基を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体は好適な多官能性単量体の一つである。
また、多孔性粒子における架橋合成高分子は、上述の単量体以外の単量体(以下、「その他の単量体」と記載する。)由来の構造単位を含んでいてもよい。その他の単量体の割合は、本発明の効果を損なわない範囲で決定される。
その他の単量体として、例えば、スチレン系単量体としては、スチレン、エチルスチレン、メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、クロロスチレン等の単量体;(メタ)アクリル系単量体として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリルのようなニトリル類などが例示できる。
また、上述の(メタ)アクリレート以外の架橋性単量体として、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、4−エポキシ−1−ブテンなどが挙げられる。
多孔性粒子を構成する架橋合成高分子における、上記多官能性単量体、例えば、ビニル基を2つ以上を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の割合は、架橋合成高分子全量を100質量%として、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上65質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることが最も好ましい。当該構成単位の割合が10質量%以上であれば、細孔が十分に形成され、イオン交換吸着量が高くなり、また、細孔内の拡散性が向上する。また、70質量%以下であれば、分離剤自体の疎水性が増加して非特異吸着が大きくなったり、細孔が小さくなって拡散性が低下したり、イオン交換基を含む合成高分子鎖と結合させる単量体単位の割合が減るためにイオン交換基を含む合成高分子鎖の結合量が十分に稼げなくなったりすることがない。
本発明に係る架橋合成高分子において好適な官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位は、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(以下、「構成単位(a)」と記載する場合がある。)と、ビニル基を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(以下、「構成単位(b)」と記載する場合がある。)とを含むものである。
このような構成単位(a)と構成単位(b)の割合は、「架橋合成高分子を構成する官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位の合計重量」に対して、好適には
構成単位(a):90質量%以上30質量%以下、
構成単位(b):10質量%以上70質量%以下、
であり、より好適には、
構成単位(a):60質量%以上40質量%以下、
構成単位(b):40質量%以上60質量%以下、
である。
なお、「架橋合成高分子を構成する官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位の合計重量」は、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構造単位を2種以上含む重合体が、構成単位(a)及び構成単位(b)のみからなる場合には、「エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(a)」と「ビニル基を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(b)」の合計重量である。
また、構成単位(a)及び構成単位(b)以外に、他の構造単位を含む場合は、「エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(a)」、「ビニル基を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位(b)」及び「他の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体由来の構成単位」の合計重量である。
<1−2.イオン交換基を含む合成高分子鎖>
多孔性粒子に共有結合でイオン交換基を含む合成高分子鎖を結合させる処理としては、多孔性粒子表面に残存するエポキシ基及び/又はアミノ基等の共有結合性官能基を介して、イオン性官能基を有する合成高分子を付加させるグラフト処理などが挙げられる。
ここで、イオン性官能基とは、何らかのイオン性を有する官能基であり、なかでもイオン交換基であることが好ましく、例えば、カルボキシメチル基等のカルボキシル基、ホスホノエチル基等のホスホノアルキル基、スルホエチル基、スルホプロピル基、2−メチルプロパンスルホン酸基等のスルホアルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基等の各種アルキルアミノ基、ピリジン基等が挙げられ、好ましくはカルボキシル基、スルホプロピル基、2−メチルプロパンスルホン酸基が挙げられる。
イオン交換基を含む合成高分子鎖は、これらのイオン交換基の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
イオン交換基を含む合成高分子鎖の合成高分子鎖は疎水性でも親水性でもよいが、親水性であることが好ましい。よって、上記のグラフト処理に用いる合成高分子としては、水溶性ポリマーが好ましい。
なお、ここで天然ポリマーではなく、合成ポリマーを用いるのは、合成ポリマーの方が天然ポリマーよりも純度が高く、多孔性粒子への固定化反応を制御し易い、また大量製造に適する、天然物由来のウイルス混入の懸念が無い、などの理由による。
上記グラフト処理において、多孔性粒子に付加するイオン性官能基を有する水溶性ポリマー(以下、「イオン性水溶性ポリマー」と称す場合がある。)としては、天然ポリマーでなく合成ポリマーであれば特に限定されないが、多孔性粒子表面に残存するエポキシ基及び/又はアミノ基等の共有結合性官能基と反応して共有結合を形成するカルボキシメチル基等のカルボキシル基、ホスホノエチル基等のホスホノアルキル基、スルホエチル基、スルホプロピル基、2−メチルプロパンスルホン酸基等のスルホアルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基等の各種アルキルアミノ基、ピリジン基や一級水酸基を有するものが好ましく用いることができる。
多孔性粒子にイオン性水溶性ポリマーを付加した後、更に相互作用性官能基を導入してもよく、この場合、このイオン性水溶性ポリマーは、多孔性粒子と共有結合で結合する一級水酸基の他に、相互作用性官能基と結合し得る官能基を有することが好ましい。このような相互作用性官能基と結合し得る官能基としては、二級水酸基、三級水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、イソシアネート基、クロル基等のハロゲン基およびエポキシ基等が挙げられる。
導入された官能基は、固体核磁気共鳴法(固体NMR)や赤外分光法(IR)、X線光電子分光法(XPS)、元素分析などにより分析することができる。また、酸やアルカリなどによる滴定によっても官能基の導入を確認することができる。
イオン性水溶性ポリマーとしては、より好ましくは水酸基を複数有する合成ポリマーである。水酸基を複数有する合成ポリマーとしては、ポリグリセリン、ポリグリシドール、アリルグリシジルエーテル−グリシドール共重合体等のポリエーテルポリオール類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類、メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアルキロールアクリルアミド類等の一級水酸基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上の(共)重合体又はこれらの一級水酸基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上とその他の官能基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上との共重合体等が挙げられる。なお、その他の官能基を含むモノビニル単量体については相互作用性官能基、又は相互作用性官能基を後反応にて導入し得る官能基を含むものも好ましい。
本発明に係るイオン交換基を含む合成高分子鎖は、重合反応性が良好、共重合性が良好、重合完結度が良好、後処理・後反応のバリエーションが豊富、また、工業的に入手が容易といった観点から、下記式(1)〜(3)で表されるモノマーのいずれかに由来する構造単位を含むことが好ましい。
Figure 2018155745
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、−NR−R−R又は−O−R−Rを表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、脂肪族環を含む炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を表す。Rは、ハロゲン原子、アルコール性水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
式(2)中、Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
式(3)中、Rは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。)
従って、多孔性粒子にイオン交換基を含む合成高分子鎖を付加するために用いるイオン性水溶性ポリマーは、上記(1)〜(3)で表されるモノマーのいずれかを原料モノマーとして製造されたものであることが好ましい。
上記式(1)で表されるモノマーとしては、アリルグリシジルエーテル−グリシドール共重合体等のポリエーテルポリオール類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類、ヒドロキシメチルアクリルアミド等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド類、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−[3−(N’,N’−ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド等の1種又は2種以上が挙げられ、これらのうちヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−[3−(N’,N’−ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドが好ましく、ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−[3−(N’,N’−ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドがより好ましい。
上記式(2)で表されるモノマーとしては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等の1種又は2種以上が挙げられ、これらのうちスチレンスルホン酸塩が好ましく、p−スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
上記式(3)で表されるモノマーとしては、ビニルフェニルメタンスルホン酸、ビニルフェニルエタンスルホン酸、ビニルフェニルプロパンスルホン酸、ビニルフェニルブタンスルホン酸等の1種又は2種以上が挙げられ、これらのうちビニルフェニルメタンスルホン酸、ビニルフェニルプロパンスルホン酸、ビニルフェニルブタンスルホン酸が好ましく、4−ビニルフェニルメタンスルホン酸がより好ましい。
これらのうち、特に(1)のモノマーを2種以上使用することが好ましく、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドの2種を使用することが好ましい。
特に、本発明では、イオン性水溶性ポリマーの製造原料として、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基、p−スチレンスルホン酸ナトリウム等を有するモノマー(「モノマーA」と称す場合がある。)と、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のアルコール性水酸基を有するモノマー(「モノマーH」と称す場合がある。)とをモル比A/Hが1/100〜100/1となるように用いることが吸着量向上の観点から好ましい。
イオン性水溶性ポリマーの分子量については特に制限はないが、通常100以上、好ましくは1,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上であり、一方、通常5,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは600,000以下である。イオン性水溶性ポリマーの分子量が上記下限以上であれば、多孔性粒子に付加することによるイオン交換吸着量向上効果が向上する傾向にあり、一方で、上記上限以下であれば、付加されたイオン性水溶性ポリマーが多孔性粒子の細孔内空間の大多数を占めることによりタンパク質等の高分子量の分離対象物が細孔内空間に拡散浸透する余地が少なくなることが防止される。
また、本発明に係るイオン性水溶性ポリマーの粘度は、このイオン性水溶性ポリマーの20質量%濃度の水溶液について、23℃でB型粘度計で測定した値で、1mPa・s以上、1000mPa・s以下であることが好ましく、この粘度は、特に10mPa・s以上、800mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以上、500mPa・s以下であることがさらに好ましい。イオン性水溶性ポリマーの粘度が上記下限以上であれば、イオン性水溶性ポリマーの分子量が小さ過ぎないことを意味し、多孔性粒子に付加することによるイオン交換吸着量向上効果が向上する傾向にあり、上記上限以下であれば、イオン性水溶性ポリマーの分子量が大き過ぎないことを意味し、付加されたイオン性水溶性ポリマーが多孔性粒子の細孔内空間の大多数を占めることによりタンパク質等の高分子量の分離対象物が細孔内空間に拡散浸透する余地が少なくなることがない。
なお、イオン性水溶性ポリマーの粘度の測定方法の具体的な操作については、実施例の項で詳述する。
また、多孔性粒子へのイオン性水溶性ポリマーの付加量については、イオン性水溶性ポリマーを付加する前の多孔性粒子の重量Wと、これにイオン性水溶性ポリマーを付加して得られる分離剤を減圧乾燥法等の方法により恒量とした重量Wから下記式で算出される付加率として、通常0.1〜30質量%、特に0.5〜20質量%であることが好ましい。
付加率={(W−W)/W}×100
付加率が上記下限以上であれば、多孔性粒子にイオン性水溶性ポリマーをグラフトすることによるイオン交換吸着量向上効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば付加されたイオン性水溶性ポリマーが多孔性粒子の細孔内空間の大多数を占めることによりタンパク質等の高分子量の分離対象物が細孔内空間に拡散浸透する余地が少なくなることがない。
多孔性粒子に対し、イオン性水溶性ポリマーを付加する方法として、例えば、エポキシ基を表面に有する多孔性粒子に対し、イオン性水溶性ポリマーを共有結合にて付加する場合には、アルカリ触媒或いは酸性触媒を用いて、又は無触媒のいずれの方法でも付加反応を行うことができる。
付加反応に用いる溶媒についても、イオン性水溶性ポリマーを溶解することができる範囲において有機溶媒系、有機溶媒/水混合溶媒系および水系いずれのものも用いることが可能であり、反応温度および反応時間についても公知の反応条件に基いて適宜選択することができるが、例えばエポキシ基を表面に有する多孔性粒子の場合には反応温度は通常0〜200℃、反応時間は通常1分〜60時間である。
なお、多孔性粒子にイオン性水溶性ポリマーを付加した後は、多孔性粒子の表面に残存する水酸基と共有結合し得る官能基を加水分解等により相互作用性官能基と結合し得る基に変換してもよい。
多孔性粒子にイオン性水溶性ポリマーを付加した後、更に相互作用性官能基を導入してもよいが、予め相互作用性官能基が導入されたイオン性水溶性ポリマーを用いてもよい。
ここで、相互作用性官能基としては、本発明の分離剤の用途に応じて適宜決定され、例えば液体クロマトグラフィー用分離剤としての用途においては、各種のイオン交換基、疎水性相互作用基の中から適宜選択される。本発明の分離剤を用いてタンパク質を分離する場合には、これらの相互作用性官能基を、分離対象物のタンパク質に合わせて適宜選択することにより、タンパク質の吸着能が特に優れたものとなる。
イオン交換基としては、イオン性水溶性ポリマーのイオン交換基として前述したものが挙げられる。
疎水性相互作用基としては、炭素数1〜40のアルキル基、フェニル基、アルキル基の炭素数が1〜10で繰り返し数が2〜100のポリアルキルエーテル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基、フェニル基、アルキル基の炭素数が2〜4で繰り返し数が2〜20のポリアルキルエーテル基等が挙げられる。
本発明の分離剤は、これらの相互作用性官能基のうちの1種のみを有するものであってもよく、2種以上を有するものであってもよい。
相互作用性官能基を導入する方法としては、前述の相互作用性官能基を有する化合物を、イオン性水溶性ポリマーを付加した多孔性粒子に反応させればよい。イオン性水溶性ポリマーを付加した多孔性粒子に反応させる相互作用性官能基を有する化合物としては、イオン性水溶性ポリマーを付加した多孔性粒子又はイオン性水溶性ポリマー中の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、イソシアネート基、クロル基等のハロゲン基およびエポキシ基等と反応する化合物が好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの相互作用性官能基を有する化合物をイオン性水溶性ポリマーを付加した多孔性粒子に反応させて相互作用性官能基を導入する反応方式には特に制限はなく、一般的には、相互作用性官能基を有する化合物を溶解し得る溶媒に当該相互作用性官能基を有する化合物を溶解させた反応液に、イオン性水溶性ポリマーを付加した多孔性粒子を加えて所定の温度で所定の時間加熱して反応させればよい。
このようにして製造される本発明の分離剤の相互作用性官能基導入量としては、例えば、相互作用性官能基がイオン交換基である場合、イオン交換容量として0.001〜4当量/L−分離剤粒子が好ましく、特に0.01〜2当量/L−分離剤粒子が好ましい。
また、相互作用性官能基が疎水基の場合は0.001当量/L−分離剤粒子〜2当量/L−分離剤粒子が好ましい。
なお、イオン交換基を有さない水溶性ポリマーを多孔性粒子に付加させた後、上記の方法でイオン交換基を導入して本発明の分離剤とすることもできる。
<1−3.表面処理>
本発明の分離剤においては、イオン交換基を含む合成高分子鎖以外にも、多孔性粒子の表面に結合する側鎖があってもよく、例えば表面親水化処理や表面疎水化処理を実施して、親水性又は疎水性の側鎖を導入してもよい。
表面親水化処理としては、多孔性粒子の表面に残存するエポキシ基に、水酸基及び/又はアミノ基を有する化合物を付加させることによりエポキシ基を開環する処理が挙げられる。この親水化処理に用いる水酸基及び/又はアミノ基を有する化合物としては、硫酸、リン酸、水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、エタノールアミン、アミノメチルプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。親水化処理は、これらの化合物を多孔性粒子に接触させることにより行うことができる。また、親水化処理にて導入された官能基に更に同様の親水化処理を行うこともできる。またそれらを複数組み合わせて実施することもできる。具体的には、後述の実施例に示されるように、多孔性粒子を1〜50質量%程度の親水化処理用化合物の水溶液に投入し、10〜90℃で1〜24時間程度加熱撹拌する方法が挙げられる。親水化処理後は多孔性粒子を濾別し、水洗を行って、残留する親水化処理用化合物を除去する。
親水化処理を行うことで、粒子の水への分散性向上や、疎水性を有する物質の非特異的な吸着が抑制される。
表面親水化の指標としては、後述する非特異吸着量などにて評価できる。
表面疎水化処理としては、多孔性粒子の表面に残存するエポキシ基やアミノ基などに疎水性基を有する化合物を付加することにより疎水化処理する方法が挙げられる。この疎水化処理に用いる化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、メチルクロライド、エチルクロライド、ブチルクロライド、ベンジルクロライドなどのアルキルクロライド類等の1種又は2種以上が挙げられる。疎水化処理は、例えば多孔性粒子を疎水化処理用化合物を含む溶液中に分散させ、10〜90℃で1〜6時間程度加熱撹拌することにより行うことができる。疎水化処理後は多孔性粒子を濾別して水洗を行って、残留する疎水化処理用子化合物を除去する。
疎水化処理を行うことで、疎水性を有する物質の吸着を促進することができる。一般的な逆相クロマトグラフィーの評価条件において、分離対象の保持を強くすることができるため、疎水性の高い物質を分離する際などには有用である。
表面疎水化の指標としては、ジプロピルフタレートのような疎水性物質の保持時間として評価できる。
上記の親水化処理、表面疎水化処理は、イオン性水溶性ポリマー付加後に行ってもよく、イオン性水溶性ポリマー付加前に行ってもよい。
〔2.分離剤の製造方法〕
本発明の分離剤は、上述のイオン交換基を含む合成高分子鎖を、架橋構造を有する合成高分子からなる多孔性粒子に共有結合で固定化することにより製造される。
(2−1)架橋合成高分子からなる多孔性粒子の製造方法
本発明の分離剤に係る架橋合成高分子からなる多孔性粒子を得るための方法は、例えば、特公昭58−058026号公報に開示されているような方法を用い、上述の架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体(及びその他の単量体)を、懸濁重合や乳化重合させることによって行うことができる。原料となる単量体については、架橋合成高分子の構造単位として上述したため、ここでの説明を省略する。また、これらの単量体の重合における使用量は、多孔性粒子を構成する架橋合成高分子における構造単位が目的とする割合になるように調整される。
好適な単量体の種類や割合等についても架橋合成高分子の構造単位として上述したため、ここでの説明を省略する。
特に平均粒子径が1μm以上、1000μm以下の架橋合成高分子からなる多孔性粒子を形成できる点で、例えば特開平1−54004号公報に記載されているような、懸濁重合法により製造することが好ましい。
架橋合成高分子からなる多孔性粒子の物性(細孔の径、細孔の総容積、比表面積、空孔率等)は、用いる原料単量体の種類・量や、重合方法の種類、重合の操作条件、その他を調節すること等により、適宜制御することができる。
例えば、多孔性粒子の平均粒子径は、懸濁重合の操作条件、例えば、上記の各種原料単量体の種類・量の選択、乳化剤及び/又は保護コロイド剤の種類・量の選択、及び撹拌の強度(撹拌回転数等)、その他を調節すること等により、適宜制御することができる。
架橋合成高分子からなる多孔性粒子の細孔の径や細孔の総容積、比表面積、空孔率等は、用いる重合性単量体の種類・量や、重合時の水(ここで用いる水は、懸濁重合を行うために、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の界面活性剤を0.001〜5質量%含む水溶液であってもよい。)と単量体との量比、あるいは重合に際して重合に不活性な有機溶媒(多孔質化剤)を反応系中に所定量共存させ、その種類や量を制御することによって調整することができる。更に、重合開始剤の種類・量によっても調整が可能である。例えば、重合時の水と単量体との量比としては、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、水の使用量は通常400〜2000重量部であり、500〜1500重量部が好ましく、800〜1450重量部が最も好ましい。即ち、水/単量体の総量の重量比(後掲の実施例では、この重量比を「浴比」と記載している。)は、通常1〜20、好ましくは1〜15、最も好ましくは2〜10である。
また、架橋合成高分子の原料となる単量体を、多孔質化剤の共存下で重合することにより、より細孔物性に優れた多孔性粒子を得ることができる。多孔質化剤としては、トルエン、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、4−メチル−2−ペンタノン、酢酸ブチル、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、クロロベンゼン、2−オクタノン、酢酸エチル、フタル酸エステル類、1,2−ジクロロプロパン、ジクロロメタン等が挙げられる。なかでも、架橋度を低くしても細孔容積や比表面積を大きくできることから、シクロヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、4−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノン、2−オクタノン、フタル酸エステル類等の脂肪族系の多孔質化剤であることが好ましく、特に架橋合成高分子の架橋度が低い場合には2−オクタノン、4−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、酢酸エチルがより好ましい。
なお、多孔質化剤の配合量としては、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、多孔質化剤の配合量は、通常80〜300重量部であり、90〜260重量が好ましく、120〜250重量部が最も好ましい。
特に、用いる多孔質化剤の種類によっては架橋剤として働く多官能性単量体の量(架橋度)の好ましい範囲が存在する。
芳香族系多孔質化剤の場合は、重合時の相分離が良好なため、細孔が形成されやすく、架橋度が低くても細孔容積が充分で比表面積や水分含有量、空孔度の良好な多孔性粒子を得ることが出来る。原料となる単量体の合計重量に対する多官能性単量体の割合で示される架橋度の好適な範囲は10質量%以上、90質量%以下、より好ましくは40質量%以上、70質量%以下である。
一方、脂肪族多孔質化剤の場合は、単量体と多孔質化剤、ならびに重合で生成する架橋合成高分子と多孔質化剤との相溶性が良好である。この場合、細孔を発達させる手段として、架橋剤の量が少ない場合には多孔質化剤の量は少なめに設定し、緩やかに相分離を進行させると良い。一方、架橋度が高い場合には、多孔質化剤の量を増やすことで、発達した細孔の多孔質架橋粒子を得ることが出来る。
芳香族系の多孔質化剤、また、脂肪族系の多孔質化剤、それぞれに好適な架橋度、ならびに、好適な多孔質化剤の添加量がある。
芳香族系多孔質化剤を使う場合、架橋度50質量%以上、70質量%以下が好ましく、その場合の多孔質化剤の添加量の好適範囲は、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、150重量部以上、200重量部以下である。
脂肪族系多孔質化剤を使う場合、架橋度10質量%以上、40質量%以下の領域では、多孔質化剤の添加量の好適範囲は、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、100重量部以上、150重量部以下である。この場合、架橋度のより好適な範囲は20質量%以上、40質量%以下である。
脂肪族系多孔質化剤を使う場合、架橋度40質量%以上、70質量%以下の領域では、多孔質化剤の添加量の好適範囲は、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、150重量部以上、300重量部以下である。
さらに、重合開始剤の種類・量を選択することにより、より細孔物性に優れた多孔性粒子を得ることができる。重合開始剤としては、t−ブチルハイドロパーオキシド、過酸化ジベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、ADVNと略すことがある。)、ジメチル=2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(以下、MAIBと略すことがある。)等が挙げられる。なお、重合開始剤の配合量としては、架橋合成高分子の原料となる単量体の総量を100重量部とした時に、重合開始剤の配合量は、通常0.01〜3重量部であり、0.1〜2重量が好ましく、0.3〜1.5重量部が最も好ましい。
架橋合成高分子からなる多孔性粒子は、重合反応の後に、マイナス20℃以上プラス60℃以下の温度で減圧乾燥し、乾燥状態で分級して製造することが好ましい。このような処理を行う利点としては、重合工程由来、洗浄工程由来で残存する溶媒成分や単量体成分などの揮発性不純物を除去できる点、又、減圧乾燥では乾燥温度を高く設定しなくて良いため、多孔性粒子の反応性官能基の分解を抑制できる点が挙げられる。また、湿潤分級の問題点としては、イオン交換基を含む合成高分子鎖結合用の多孔性粒子の分級には水からの汚染を避けるため高純度の水を大量に消費する点、また、100μm以下の粒子を篩い分けする際には篩いの目詰まりが起こりやすく生産性が低い問題点があるが、乾燥分級の利点としては篩いを使用しない風簸分級法が適用でき、工業スケールでの大量製造に向いている。一方、従来の常圧乾燥法では、乾燥する際に粒子同士が付着しやすく、その後の分級工程で付着粒子がほぐれる時に粒子表面が剥離する問題が生じることがある。減圧乾燥では乾燥温度を高く設定しなくて良いため、そのような付着粒子の表面剥離現象は軽減される。水分含有量が高い多孔性粒子や、空孔率の大きな多孔性粒子、乾燥時に細孔容積が小さくなる多孔性粒子、また、(メタ)アクリル酸エステル系のような比較的強度の低い多孔性粒子において、上述の問題はとくに顕著に見られることがあるので、減圧乾燥のような緩やかな乾燥方法での乾燥を経て分級する方法が好ましい。
(2−2)イオン交換基を含む合成高分子鎖の固定化
多孔性粒子へのイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定化方法は、特に制限はないが、以下のような方法(第1の態様、第2の態様)が好適である。なお、以下において、イオン交換基を有する合成高分子を「イオン性水溶性ポリマー」として説明する。
本発明の分離剤の製造方法の第1の態様は、多孔性粒子を構成する架橋合成高分子に共有結合性官能基付与性を有する重合性単量体を共重合等の形で取り込ませておいた上で、この共有結合性官能基と、イオン性水溶性ポリマーの有する官能基とを直接反応させる方法である。
本発明の分離剤の製造方法の第2の態様は、多孔性粒子を構成する架橋合成高分子の構成成分の有する官能基及びイオン性水溶性ポリマーの有する官能基とそれぞれ反応可能な官能基を分子内にそれぞれ1個以上有する低分子又は高分子化合物を介して結合させる方法が用いられる。なお、本明細書において、上述の「架橋合成高分子の構成成分の有する官能基及びイオン性水溶性ポリマーの有する官能基とそれぞれ反応可能な官能基を分子内にそれぞれ1個以上有する低分子又は高分子化合物」を、「スペーサー」と称す。
例えば、第一級、第二級、第三級アミンのようなアミノ基を有するイオン性水溶性ポリマーを固定化する場合、第1の態様の方法としては、架橋合成高分子にエポキシ基、カルボキシル基などのアミノ基と共有結合を形成する官能基を含有させておき、これとイオン性水溶性ポリマーを直接反応させて固定化する方法が例示できる。
また、第2の態様の方法としては、スペーサーとしてアミノ酸(アミンカルボン酸)類を用い、そのアミノ基部位と架橋合成高分子のエポキシ基とを反応させた上で、他の末端のカルボキシル基によってイオン性水溶性ポリマーのアミノ基と反応させる方法や、スペーサーとしてジアミンやジオールと(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジル化合物を逐次的に用いて、架橋合成高分子のエポキシ基とジアミン又はジオールの一方の末端を結合させ、他の末端にジグリシジル化合物の一方のエポキシ基を結合させて、残る末端のエポキシ基をイオン性水溶性ポリマーと結合させる方法などが挙げられる。
なお、上記方法でスペーサーの一部の成分として用いられるジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン類が挙げられ、ジオールとしては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオールやポリエチレングリコール類が挙げられる。
スペーサーとしてはイオン性水溶性ポリマーとの反応性や固定化時の架橋合成高分子粒子との立体障害の関係を考慮すると、直鎖状の構造を有していることが好ましい。分岐鎖状の構造のスペーサーを用いると、立体障害が大きくなって、イオン性水溶性ポリマーと抗体とのイオン交換を抑制するためか、イオン交換吸着量が低下する傾向となる。
分離対象となる抗体の選択性には、架橋合成高分子粒子の細孔内部に結合するイオン性水溶性ポリマーの細孔壁からの距離が関係するものと考えられているが、第1の態様の方法では架橋合成高分子を製造する段階で、共重合させる共有結合性官能基付与性を有する重合性単量体の種類によって上記距離が決まってしまうのに対して、第2の態様の方法ではスペーサーの種類や組み合わせを選ぶことによって、イオン性水溶性ポリマーの固定化段階で上記距離の調整ができる点、好ましい方法である。
イオン性水溶性ポリマーの固定化反応に際しては、例えばイオン性水溶性ポリマーを水溶液として上記エポキシ基等の反応性官能基を有する多孔性粒子上に供給し、反応を行わせる。
固定化反応の温度は4〜100℃程度が好ましい。温度が高くなると樹脂やイオン性水溶性ポリマーが劣化することがあり、一方温度が低いと反応に長時間を要することとなる。
上述の通り、イオン性水溶性ポリマーの固定化密度は、分離剤1リットル当たり1gより大きいことが好ましい。またその上限は特に限定されないが、通常50g/L以下である。
イオン性水溶性ポリマーの固定化を行う官能基(例えばエポキシ基)の含有量は、樹脂(多孔性粒子)1mL当たり0.01〜100μ(エポキシ)当量であることが好ましい。この値が、0.01μ当量以上であれば、イオン性水溶性ポリマーの固定量が多くなるとともに、イオン性水溶性ポリマーの固定が強体化してイオン性水溶性ポリマーの脱離・脱落が防止される。一方、この含有量が100μ当量以下であれば、イオン性水溶性ポリマーの易動性が阻害されることなく、イオン交換のイオン交換吸着量が増加する傾向となる。
より好ましい固定化密度としては、樹脂1mL当たり0.05〜50μ(エポキシ)当量が挙げられる。
なお、末端基としてエポキシ基を持つスペーサーを有する多孔性粒子に含まれるエポキシ基の含有量は以下のようにして測定できる。
多孔性粒子5gを水湿潤状態でフラスコに量りとり、1Mのチオ硫酸ナトリウム水溶液を100mL添加する。フラスコを密栓し、100rpmで5時間撹拌し、発生したNaOHをフェノールフタレイン指示薬を用いて、0.1Nの塩酸で滴定する。
生成したNaOH量に基づいて樹脂(多孔性粒子)のエポキシ基含有量を算出する。
なお、製造される分離剤を無菌プロセス向けの分離剤として無菌状態で製出するためには、イオン性水溶性ポリマーを共有結合で固定化する前に、前記架橋合成高分子からなる多孔性粒子を40体積%以上98体積%以下のエタノール水溶液で洗浄滅菌し、滅菌状態を維持した容器内でイオン性水溶性ポリマーの固定化工程を実施することが好ましい。又、洗浄滅菌のための薬剤としては、エタノール以外に各種有機溶媒も使用することができ、エタノール以外の薬剤の例としては、メタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、ホルマリン水溶液、アセトン、ギ酸、酢酸が挙げられる。また、過酸化水素水や次亜塩素酸塩水溶液、重曹水、炭酸ナトリウム水溶液、食塩水、アルカリ水溶液(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム)のように、一般に用いられる洗浄滅菌剤を用いることができる。上記の薬剤はそれぞれ任意の割合で混合して使用可能である。洗浄温度は、任意の温度で実施可能であり、2℃〜50℃が好ましく、あまりに高い温度で行うと分離剤の分解を併発する恐れがある。また、凍結する温度では分離剤の破砕が起こり得る。なお、洗浄滅菌工程は、イオン性水溶性ポリマーを固定化する後に実施してもよいが、高濃度のエタノールで洗浄すると水溶性ポリマーの構造変化が起こり、官能基の活性が低下し(即ち、失活し)、分離剤の性能に悪影響を及ぼす恐れがある。また、その他の薬剤での洗浄においてもイオン性水溶性ポリマー固定化後に行うとイオン性水溶性ポリマー劣化の問題があるので、イオン性水溶性ポリマー固定化前に行い、その後は滅菌状態を維持した環境下で後工程を行うほうが好ましい。
前記架橋合成高分子からなる多孔性粒子をイオン性水溶性ポリマーを共有結合で固定化する前に滅菌する方法としては、イオン性水溶性ポリマーを固定化する以前の反応工程で滅菌状態にして、滅菌状態を維持したままイオン性水溶性ポリマーの固定化工程へ移る方法も好ましく用いられる。イオン性水溶性ポリマーを固定化する以前の反応工程としては、スペーサー導入の工程が挙げられ、その工程においてアルカリ触媒を使用するケースがあり、その反応液中のアルカリ濃度は0.1モル/Lから10モル/Lにもなることがあり、その反応液中で該多孔性粒子が滅菌される。その際に添加するアルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、また、炭酸ナトリウムや重曹のような物質も用いることが出来る。このスペーサー導入工程の反応時間は通常0.1〜100時間であり、好ましくは0.1〜5時間である。温度は凍結しない温度が好ましく、5℃〜200℃、好ましくは10℃〜50℃である。該工程で水酸化ナトリウムなどの水酸化物を用いる場合、水溶液もしくはアルコール溶液が好ましく、該水酸化物の溶解する液体が好ましい。該水酸化物を水溶液とする場合のアルカリ濃度の範囲は、0.1モル/Lから10モル/Lであり、より好ましくは0.5モル/Lから5モル/Lである。この範囲内であれば、該多孔性粒子の加水分解や劣化が起こることがない。
(2−3)後処理
また、上記のように固定化反応を行った後、多孔性粒子側に残存する反応性官能基は、後処理により不活性化しておくことが好ましい。不活性化せずに残った反応性官能基は、徐々にイオン交換基を含む合成高分子鎖のイオン交換基と反応し、分離剤のイオン交換容量を低下させたり、選択率を悪化させたりする場合がある。
このような後処理としては、例えば反応性官能基としてエポキシ基を例に取れば、エタノールアミン等のアミン類の水溶液と反応させて不活性化する方法が例示できる。このときのエタノールアミンの濃度やpH等の処理条件は、特に制限されるものではないが、通常、濃度0.1〜5モル/L、pH7〜14の条件で実施することができる。この範囲の条件とすることで、エタノールアミンの反応速度が実用的な範囲となり、またイオン性水溶性ポリマーの失活も抑えられるので好ましい。さらに好ましい処理条件は濃度1〜2モル/L、pH8〜9の条件である。
イオン性水溶性ポリマーの固定化反応後の分離剤、又は固定化反応に加えて後処理を加えた分離剤は、未反応物を除去するために水で洗浄するのが好ましい。洗浄に際しては、酸性の洗浄水と塩基性の洗浄水とを交互に用いて洗浄することがより好ましい。このとき、pH0〜5の緩衝液とpH8〜15の緩衝液との2種類を交互に用いて洗浄すると過剰のイオン性水溶性ポリマー等の除去と、固定化されたイオン性水溶性ポリマーの活性化を行うことができてさらに好ましい。
洗浄に使用することができる緩衝液としては、酸性緩衝液としては、塩酸/塩化カリウム、酒石酸、クエン酸、グリシン、ギ酸、酢酸、コハク酸、リン酸、又はそれらの塩が、塩基性緩衝液としては、トリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ジエタノールアミン、ホウ酸、アンモニア、炭酸、又はそれらの塩を含むものが使用できる。
使用する緩衝液のイオン強度は、0.001M〜10Mが好ましく、より好ましいイオン強度は0.01M〜2Mである。この範囲のイオン強度の緩衝液を使用すると、固定化されたイオン性水溶性ポリマーの失活を少なくすることができるので好ましい。また用いる緩衝液には、塩化ナトリウムや塩化カリウムのような塩を含有していてもよい。これらの塩が存在すると過剰のイオン性水溶性ポリマー等の除去と、固定化されたイオン性水溶性ポリマーの活性化を効果的に行うことができて好ましい。塩化ナトリウムや塩化カリウムの濃度は通常0.1〜2M、好ましくは0.5〜1Mである。
得られた分離剤は、そのまま使用する場合を除いて一時的に保管される。保管時の媒体としては、濃度1〜50質量%のエタノール水溶液を用いるのが好ましい。エタノールの濃度をこの範囲とすることで、固定化されたイオン性水溶性ポリマーの失活を少なくすることができる。
また、架橋構造を有する合成高分子の多孔性粒子を用いた上記分離剤を該保管媒体中で保管した時に、該分離剤の膨潤度が適切になり、かつ該分離剤に対する保管媒体への親和性が良好である。したがって細菌類の繁殖が抑制する効果や細孔内に固定されたイオン性水溶性ポリマーの保存安定性が良くなる効果が発現するので好ましい。より好ましいエタノールの濃度は10〜30質量%、さらに好ましい濃度は15〜25質量%である。
〔3.分離の対象物及び分離方法〕
本願発明の分離剤は、イオン交換基を含む合成高分子鎖がイオン交換基を有するため、タンパク質、特に抗体を標的分子としたイオン交換分離剤として、これらの分離に好適に使用することができる。
標的分子の分離処理は、以下の工程(a)および工程(b)を含むように行うのが好ましい。すなわち、本発明の標的分子の分離方法は、以下の工程(a)および工程(b)を含む分離方法である。
(a)標的分子を含む溶液を上記の分離剤に接触させて、標的分子を分離剤に吸着させる工程
(b)前記標的分子を吸着した分離剤から該標的分子を溶離する工程
このような方法により、上記のような各種タンパク質を選択性良く分離することが可能である。
標的分子として、免疫グロブリンの少なくとも一部又はこれらの化学変性物が挙げられ、免疫グロブリンがモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体が好ましい。中でも、免疫グロブリン又は免疫グロブリンのFc領域の少なくとも一部を含む融合タンパク質もしくはその化学変性物が、より好ましい標的分子である。
このような分離処理に際しては、上記の本発明の分離剤を充填材として含み、少なくとも1つの容器を備えた液体クロマトグラフィー用カラムが好ましく用いられる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、略号としては、以下のものを用いた。
GMM:グリシジルメタクリレート
EGDMM:エチレングリコールジメタクリレート
MIBK:4−メチル−2−ペンタノン
ADVN:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)
≪評価・評価方法≫
[測定・評価方法]
<細孔容積、細孔半径>
水湿潤状態の多孔性粒子を、減圧乾燥器で約10〜100mmHg下、50℃にて3〜24時間乾燥させ、得られた乾燥状態の多孔性粒子を用い、島津製作所製水銀ポロシメーターで試料の細孔容積、細孔半径を測定した。細孔容積、細孔半径をそれぞれ縦軸、横軸とした細孔の分布を示すヒストグラムにより、細孔容積の合計が最も多い部分の細孔半径を最頻度半径とした。なお、多孔性粒子の細孔物性はイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定の有無で有意に変化しないため、本発明の分離剤において、多孔性粒子の細孔容積、細孔半径と分離剤の細孔容積、細孔半径とは、同一とみなす。
<比表面積(Hg)>
水銀圧入法による比表面積は、水湿潤状態の多孔性粒子を、減圧乾燥器で約10〜100mmHg下、50℃にて3〜24時間乾燥させ、得られた乾燥状態の多孔性粒子を用い、島津製作所製水銀ポロシメーターにより0.06MPaから410MPaの範囲で測定を行った。圧力値と対応する侵入水銀体積とを用いて、円柱状と仮定した細孔の比表面積をWashburnの式に基づいて算出した。なお、多孔性粒子の細孔物性はイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定の有無で有意に変化しないため、本発明の分離剤において、多孔性粒子の比表面積と分離剤の比表面積とは、同一とみなす。
<水分含有率>
直径3cmのガラスフィルター上に測定対象の多孔性粒子を10g入れ、100mmHg以下の減圧条件で水を濾別しそのまま減圧を5分間継続した。得られたケーキを0.9g以上、1.1g以下の範囲になるように精秤し、精秤したケーキを乾燥機で恒量まで乾燥させたときの減量(乾燥後の秤量値および乾燥前の秤量値)とから水分含有率を算出した。なお、多孔性粒子の細孔物性はイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定の有無で有意に変化しないため、本発明の分離剤において、多孔性粒子の水分含有量と分離剤の水分含有量とは、同一とみなす。
<10%圧縮強度>
水湿潤状態の多孔性粒子を、減圧乾燥器で約10〜100mmHg下、50℃にて3〜24時間乾燥させ、得られた乾燥状態の多孔性粒子を再度水に漬けて水湿潤状態にした後、島津微小圧縮試験装置(MCT−W500型)、圧子50μm板、負荷速度2.4mN/secで平均粒径30〜60μmの粒子を選び、圧縮試験を行った。なお、多孔性粒子の細孔物性はイオン交換基を含む合成高分子鎖の固定の有無で有意に変化しないため、本発明の分離剤において、多孔性粒子の10%圧縮強度と分離剤の10%圧縮強度とは、同一とみなす。
<イオン性水溶性ポリマーの粘度>
JIS K7117−1に従って、単一円筒型回転粘度計(スピンドルタイプ、B型粘度計)を使用し、300mLトールビーカにイオン性水溶性ポリマーの水溶液を入れ、ガード無しで測定した。標準ロータのM1ロータを使用し、所定の補正係数を掛けた値を粘度とした。測定は23℃で行い、20質量%濃度のイオン性水溶性ポリマー水溶液について測定した。
<動的吸着容量(DBC)評価>
(ヒトガンマグロブリン)
分離剤粒子を内径5mm、長さ100mmのカラムに充填し、濃度1mg/mlとしたヒトガンマグロブリン(和光純薬試薬)の酢酸緩衝液(pH6)を通液した。カラム流出液の吸光度が原液の吸光度の10%に達するまで通液し、その通液量をもとに動的吸着容量を算出した。得られた値は粒子1mLあたりの吸着容量に換算した。得られた動的吸着容量を以下の指標で評価した。
A:100mg/mL以上
B:70mg/mL以上100mg/mL未満
C:70mg/mL未満
(リゾチーム)
分離剤粒子を内径7mm、長さ26mmのカラムに充填し、濃度5mg/mlとしたリゾチーム(試薬)の20mMリン酸水素ナトリウム緩衝液(pH7.0)を通液した。カラム流出液の吸光度が原液の吸光度の10%に達するまで通液し、その通液量をもとに動的吸着容量を算出した。得られた値は粒子1mLあたりの吸着容量に換算した。得られた動的吸着容量を以下の指標で評価した。
A:120mg/mL以上
B:100mg/mL以上120mg/mL未満
C:100mg/mL未満
[架橋合成高分子からなる多孔性粒子の製造]
<製造例1>
ポリビニルアルコール(日本合成化学製)を溶解し2質量%とした水1000重量部中に、グリシジルメタクリレート(和光純薬製)60重量部、エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬製)40重量部,2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1重量部(和光純薬製)、及び4−メチル−2−ペンタノン(和光純薬製)250重量部の混合物を室温下で加え、窒素流通雰囲気で撹拌して懸濁状態とした。このとき、撹拌速度を調整して液滴の平均直径が約60μmになるようにした。この懸濁液を70℃に昇温し、窒素流通雰囲気で3時間反応させた。冷却後、得られた架橋合成高分子からなる多孔性粒子を水洗後、メタノール洗浄し、乾燥、分級して目的とする多孔性粒子Iを得た。
この多孔性粒子Iの細孔物性(細孔半径、細孔容積、比表面積)を乾燥状態で測定した。また、得られた粒子を水湿潤状態にして、水分含有量を測定した。製造例1の多孔性粒子Iの製造条件を表1に、物性測定の結果を表2にまとめて示す。
<製造例2〜7>
重合工程でのモノマーの仕入組成量、多孔質化剤の種類と量、開始剤の使用量、浴比(水(ポリビニルアルコールを溶解した水)/モノマーの重量比)を表1のとおり変更し、製造例5〜7においては重合反応中の窒素流通をしなかったこと以外は、製造例1と同様にして、それぞれ製造例2〜7の多孔性粒子II〜VIIを得、細孔物性(細孔半径、細孔容積、比表面積)を乾燥状態で測定した。また、得られた粒子を水湿潤状態にして、水分含有量および10%圧縮強度を測定した。
製造例2〜7の多孔性粒子II〜VIIの製造条件を表1に、物性測定の結果を表2にまとめて示す。また、参考例として市販の多孔性粒子である東ソー社製サイズ排除クロマトグラフィー用充填剤「HW65」について、同様に物性測定を行った結果を表2に示す。なお、表2において、「−」表記部分は未測定である。
Figure 2018155745
Figure 2018155745
[実施例1]
<イオン性水溶性ポリマーの合成>
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸70重量部、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド50重量部、水460重量部、および開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド1重量部を混合し、70℃で重合を行い、イオン性水溶性ポリマーの水溶液を得た。ここで、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドとの比率(モル比)はA/Hで示され、2/3であった。得られたイオン性水溶性ポリマーの粘度は、792mPa・sであった。
<イオン性水溶性ポリマーの固定化>
上記製造例1で得られた多孔性粒子Iを5重量部、水を20重量部、上記イオン性水溶性ポリマーの水溶液を25重量部、47質量%硫酸を10重量部加えて混合し、50℃で6時間反応させた。その後降温して粒子を濾過、水洗し、目的の分離剤を得た。
<評価>
実施例1の分離剤について、動的吸着量(DBC)の評価を行った。分離剤の評価結果を表3に示す。
[実施例2〜3、比較例1〜4]
用いる多孔性粒子を表3のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、目的の分離剤を得、同様に動的吸着量(DBC)の評価を行った。分離剤の評価結果を表3に示す。
Figure 2018155745
表3からも分かるように、実施例1〜3で得られた分離剤は、ヒトガンマグロブリン(分子量約160000)の動的吸着量とリゾチーム(分子量約14000)の動的吸着量が共に高く、広範囲の分子量のタンパク質の動的吸着量の向上が期待される。一方、比較例1〜4で得られた分離剤は、ヒトガンマグロブリンの動的吸着量とリゾチームの動的吸着量の少なくとも一方が低く、広範囲の分子量のタンパク質の動的吸着量の向上を期待しにくい。
本発明の分離剤は特に抗体に対する高い選択率で分離・吸着性能を示し、かつ強度と耐久性に優れており、特に医薬・診断分野における実用上の価値は高い。

Claims (16)

  1. 多孔性粒子と、前記多孔性粒子に結合したイオン交換基を含む分離剤であって、
    水銀圧入法で測定される比表面積が、65m/g以上である、分離剤。
  2. 水銀圧入法で測定される細孔半径が、100Å以上である、請求項1に記載の分離剤。
  3. 水銀圧入法で測定される比表面積が、200m/g以下である、請求項1又は2に記載の分離剤。
  4. 水銀圧入法で測定される細孔容積が、0.4mL/g以上、1.5mL/g以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の分離剤。
  5. 下記の測定方法で測定される水分含有率が、55質量%以上、90質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の分離剤。
    [水分含有率の測定方法]
    直径3cmのガラスフィルター上に試料を10g入れ、100mmHg以下の減圧条件で水を濾別しそのまま減圧を5分間継続する。得られたケーキを0.9g以上、1.1g以下の範囲になるように精秤し、精秤したケーキを乾燥機で恒量まで乾燥させたときの減量とから水分含有率を算出する。
  6. 体積平均粒子径が、1μm以上、1000μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分離剤。
  7. 湿潤状態での見掛密度が、500g/L以上、1000g/L以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の分離剤。
  8. 前記多孔性粒子に結合したイオン交換基が、イオン交換基を有する合成高分子鎖である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分離剤。
  9. 分離剤1リットルあたりの前記イオン交換基を有する合成高分子鎖の固定化密度が、1gより大きい、請求項8に記載の分離剤。
  10. 前記イオン交換基を有する合成高分子鎖を構成する水溶性ポリマーを20質量%の濃度で含む水溶液の23℃での粘度が1mPa・s以上、1000mPa・s以下である、請求項8又は9に記載の分離剤。
  11. 前記イオン交換基を有する合成高分子鎖が、下記式(1)〜(3)で表されるモノマーのいずれかに由来する構造単位を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の分離剤。
    Figure 2018155745
    (式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、−NR−R−R又は−O−R−Rを表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは、脂肪族環を含む炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を表す。Rは、ハロゲン原子、アルコール性水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
    式(2)中、Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、アルデヒド基又はエポキシ基を表す。
    式(3)中、Rは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。)
  12. 以下の工程(a)及び工程(b)を含むことを特徴とする標的分子の分離方法。
    (a)標的分子を含む溶液を請求項1〜11のいずれか1項に記載の分離剤に接触させて、標的分子を分離剤に吸着させる工程
    (b)請求項1〜11のいずれか1項に記載の分離剤から標的分子を溶離する工程
  13. 標的分子が、免疫グロブリンの少なくとも一部又はこれらの化学変性物である、請求項12に記載の標的分子の分離方法。
  14. 標的分子が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体或いはこれらの化学変性物である、請求項12又は13に記載の標的分子の分離方法。
  15. 標的分子が、免疫グロブリンのFc領域の少なくとも一部を含む融合タンパク質又はこれらの化学変性物である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の標的分子の分離方法。
  16. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の分離剤を含み、少なくとも1つの容器を備える、クロマトグラフィー用カラム。
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