以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1〜図4を参照して、本発明の一実施形態によるECU5を備える車両100について説明する。
車両100は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、油圧制御装置4と、ECU5とを備えている。この車両100は、たとえばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式であり、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2および自動変速機3を介してデファレンシャル装置6に伝達され、左右の駆動輪(前輪)7に分配されるようになっている。
−エンジン−
エンジン(内燃機関)1は、走行用の駆動力源であり、たとえば多気筒ガソリンエンジンである。エンジン1は、スロットルバルブのスロットル開度(吸入空気量)、燃料噴射量、点火時期などにより運転状態を制御可能に構成されている。
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図2に示すように、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト1aに連結されたポンプインペラ21と、自動変速機3に連結されたタービンランナ22と、トルク増幅機能を有するステータ23と、エンジン1と自動変速機3とを直結するためのロックアップクラッチ24とを含んでいる。なお、図2では、トルクコンバータ2および自動変速機3の回転中心軸に対して、下側半分を省略して上側半分のみを模式的に示している。
−自動変速機−
自動変速機3は、エンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路に設けられ、入力軸3aの回転を変速して出力軸3bに出力するように構成されている。この自動変速機3では、入力軸3aがトルクコンバータ2のタービンランナ22に連結され、出力軸3bがデファレンシャル装置6などを介して駆動輪7に連結されている。
自動変速機3は、第1遊星歯車装置31aを主体として構成される第1変速部(フロントプラネタリ)31、第2遊星歯車装置32aと第3遊星歯車装置32bとを主体として構成される第2変速部(リアプラネタリ)32、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2などによって構成されている。
第1変速部31を構成する第1遊星歯車装置31aは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS1と、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1と、これらピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアCA1と、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1とを備えている。
プラネタリキャリアCA1は、入力軸3aに連結され、その入力軸3aと一体的に回転するようになっている。サンギヤS1は、トランスミッションケース30に固定され、回転不能である。リングギヤR1は、中間出力部材として機能し、入力軸3aに対して減速されてその減速回転を第2変速部32に伝達する。
第2変速部32を構成する第2遊星歯車装置32aは、シングルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS2と、ピニオンギヤP2と、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアRCAと、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤRRとを備えている。
また、第2変速部32を構成する第3遊星歯車装置32bは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS3と、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3と、それらピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアRCAと、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤRRとを備えている。なお、プラネタリキャリアRCAおよびリングギヤRRは、第2遊星歯車装置32aおよび第3遊星歯車装置32bで共用されている。
サンギヤS2は、第1ブレーキB1によりトランスミッションケース30に選択的に連結される。また、サンギヤS2は、第3クラッチC3を介してリングギヤR1に選択的に連結される。さらに、サンギヤS2は、第4クラッチC4を介してプラネタリキャリアCA1に選択的に連結される。サンギヤS3は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に選択的に連結される。プラネタリキャリアRCAは、第2ブレーキB2によりトランスミッションケース30に選択的に連結される。また、プラネタリキャリアRCAは、第2クラッチC2を介して入力軸3aに選択的に連結される。リングギヤRRは、出力軸3bに連結され、その出力軸3bと一体的に回転するようになっている。
第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2は、いずれも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる摩擦係合要素であり、油圧制御装置4およびECU5によって制御される。
図3は、変速段(ギヤ段)毎の第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2の係合状態または解放状態を示した係合表である。なお、図3の係合表において、○印は「係合状態」を示し、空白は「解放状態」を示している。
図3に示すように、この例の自動変速機3では、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合されることにより、変速比(入力軸3aの回転速度/出力軸3bの回転速度)が最も大きい第1変速段(1st)が成立する。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合されることにより第2変速段(2nd)が成立する。
第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合されることにより第3変速段(3rd)が成立し、第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合されることにより第4変速段(4th)が成立する。第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合されることにより第5変速段(5th)が成立し、第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合されることにより第6変速段(6th)が成立する。第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合されることにより第7変速段(7th)が成立し、第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合されることにより第8変速段(8th)が成立する。なお、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合されることにより後進段(Rev)が成立する。
−油圧制御装置−
油圧制御装置4は、自動変速機3の摩擦係合要素の状態(係合状態または解放状態)を制御するために設けられている。なお、油圧制御装置4は、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ24を制御する機能も有する。
−ECU−
ECU5は、エンジン1の運転制御および自動変速機3の変速制御などを行うように構成されている。具体的には、ECU5は、図4に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53と、バックアップRAM54と、入力インターフェース55と、出力インターフェース56とを含んでいる。なお、ECU5は、本発明の「自動変速機の制御装置」の一例である。
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。RAM53は、CPU51による演算結果や各センサの検出結果などを一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM54は、イグニッションをオフする際に保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
入力インターフェース55には、クランクポジションセンサ81、入力軸回転速度センサ82、出力軸回転速度センサ83、アクセル開度センサ84およびスロットル開度センサ85などが接続されている。
クランクポジションセンサ81は、エンジン1の回転速度(角速度)を算出するために設けられている。入力軸回転速度センサ82は、自動変速機3の入力軸3aの回転速度(タービン回転速度)を算出するために設けられている。出力軸回転速度センサ83は、自動変速機3の出力軸3bの回転速度を算出するために設けられている。アクセル開度センサ84は、アクセルペダルの踏込量(操作量)であるアクセル開度を検出するために設けられている。スロットル開度センサ85は、スロットルバルブのスロットル開度を検出するために設けられている。
出力インターフェース56には、インジェクタ91、イグナイタ92、スロットルモータ93および油圧制御装置4などが接続されている。インジェクタ91は、燃料噴射弁であり、燃料噴射量を調整可能である。イグナイタ92は、点火プラグによる点火時期を調整するために設けられている。スロットルモータ93は、スロットルバルブのスロットル開度を調整するために設けられている。
そして、ECU5は、各センサの検出結果などに基づいて、スロットル開度、燃料噴射量および点火時期などを制御することにより、エンジン1の運転状態を制御可能に構成されている。また、ECU5は、油圧制御装置4を制御することにより、自動変速機3の変速制御およびトルクコンバータ2のロックアップクラッチ24の制御を実行可能に構成されている。
ECU5による変速制御では、たとえば、車速およびアクセル開度をパラメータとする変速マップに基づいて目標変速段が設定され、実際の変速段が目標変速段になるように油圧制御装置4が制御される。すなわち、ECU5は、変速マップに基づいて変速判断を行い、変速を実行すべきと判断した場合に目標変速段が得られるように変速制御を実行する。
なお、この変速制御では、1つの摩擦係合要素の解放と1つの摩擦係合要素の係合とにより成立する変速段への切り替えが許可され、2つの摩擦係合要素の解放と2つの摩擦係合要素の係合とが必要な変速段への切り替えが禁止されている。また、現在の変速段から2段以上離れた変速段に切り替え可能である。
−自動変速機の変速制御−
ここで、一般的な変速制御としては、例えば変速ショックや変速時間等が適切であるか否かを実車にて評価しつつ適合により予め定められた制御マップに基づいて、変速時の各摩擦係合要素(前記クラッチおよびブレーキ)のトルク容量(或いは油圧指令値)を決定して変速を実行する手法がある。この制御マップを用いる手法では、パワーオンダウンシフトやパワーオフアップシフト等の変速パターンおよび変速前後の変速段の組み合わせに応じて、多数の制御マップを作成しておく必要がある。そのため、自動変速機の変速段が多段化されるほど、適合作業に多くの労力が必要となってしまう。
そこで、本実施形態では、変速制御として、前記制御マップを用いる手法に代えて、変速目標値を実現させる制御操作量を決定する変速モデルを用いて変速を実行する手法を採用している。前記変速目標値は、変速時に実現したい変化態様を定める要素(例えば変速時間、駆動力等)の目標値である。前記制御操作量は、制御対象に対して操作する要素(エンジントルク、クラッチトルク等)の要求値である。
以下、変速モデルを用いた変速制御について説明する。変速中における運動方程式は、下記の式(1)および式(2)で表される。
この式(1)および式(2)は、自動変速機3を構成する相互に連結された各回転要素毎の運動方程式、および、自動変速機3を構成する遊星歯車装置における関係式から導き出されたものである。前記各回転要素毎の運動方程式は、各回転要素におけるイナーシャと回転速度時間変化率との積で表されるトルクを、遊星歯車装置の3つの部材、および摩擦係合要素の両側の部材のうち各回転要素に関与する部材に作用するトルクにて規定した運動方程式である。また、遊星歯車装置における関係式は、遊星歯車装置の歯車比を用いて、その遊星歯車装置の3つの部材におけるトルクの関係と回転速度時間変化率の関係とを各々規定した関係式である。
式(1)および式(2)において、dωt/dtは、タービン回転速度ωt(すなわち変速機入力軸回転速度ωi)の時間微分すなわち時間変化率であり、入力軸3a側の回転部材の速度変化量としての入力軸3aの加速度(以下、入力軸加速度という)を表している。dωo/dtは、変速機出力軸回転速度ωoの時間変化率であり、出力軸加速度を表している。Ttは、入力軸3a側の回転部材上のトルクとしての入力軸3a上のトルクであるタービントルクすなわち変速機入力トルクTiを表している。このタービントルクTtは、トルクコンバータ2のトルク比tを考慮すればエンジントルクTe(=Tt/t)と同意である。Toは、出力軸3b側の回転部材上のトルクとしての出力軸3b上のトルクである変速機出力トルクを表している。Tcaplは、変速時に係合動作を行う摩擦係合要素のトルク容量(以下、係合側クラッチトルクともいう)である。Tcdrnは、変速時に解放動作を行う摩擦係合要素のトルク容量(以下、解放側クラッチトルクともいう)である。a1,a2,b1,b2,c1,c2,d1,d2はそれぞれ、前記式(1)および式(2)を導き出した際に定数としたものであり、前記各回転要素におけるイナーシャおよび前記遊星歯車装置の歯車比から設計的に定められる係数である。この定数の具体的な数値は、例えば変速の種類(例えば変速パターンや変速前後の変速段の組み合わせ)毎に異なる。従って、前記運動方程式としては1つの所定のものであるが、自動変速機3の変速には、変速の種類毎に異なる定数とされたそれぞれの変速の種類に対応する運動方程式が用いられる。
前記式(1)および式(2)は、変速目標値と制御操作量との関係を定式化した自動変速機3のギヤトレーン運動方程式である。変速目標値は、変速時間および駆動力の各目標値を表現でき、ギヤトレーン運動方程式上で取り扱えるものである。本実施形態では、変速時間を表現できる物理量の一例として、入力軸加速度dωt/dtを用いている。また、駆動力を表現できる物理量の一例として、変速機出力トルクToを用いている。つまり、本実施形態では、変速目標値を、入力軸加速度dωt/dtと、変速機出力トルクToとの2つの値で設定している。
一方、本実施形態では、前記変速目標値を成立させる制御操作量を、タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)と、係合側クラッチトルクTcaplと、解放側クラッチトルクTcdrnとの3つの値で設定している。そうすると、運動方程式が前記式(1)および式(2)の2式で構成されることに対して制御操作量が3つあるため、2つの変速目標値を成立させる制御操作量を一意に解くことはできない。尚、各式中の出力軸加速度dωo/dtは、前記出力軸回転速度センサ83の検出値である変速機出力軸回転速度ωoから算出される。
そこで、前記式(1)および式(2)の運動方程式に、拘束条件を追加して制御操作量を一意に解くことについて検討した。そして、本実施形態では、変速中のトルクの受け渡しを表現したり制御したりするのに適しており、また、何れの変速パターンにも対応することができる拘束条件として、解放側クラッチと係合側クラッチとで受け持つ伝達トルクのトルク分担率を用いることとしている。つまり、変速中のトルクの受け渡しを運動方程式に組み込むことができ、且つ制御操作量を一意に解くことができる、伝達トルクのトルク分担率を拘束条件として設定することとしている。前記トルク分担率は、自動変速機3の変速時に解放側クラッチと係合側クラッチとで受け持つ必要がある合計の伝達トルク(合計伝達トルク)を、例えば入力軸3a上のトルク(入力軸上合計伝達トルク)に置き換えたときに、その入力軸上合計伝達トルクに対して両摩擦係合要素が各々分担する伝達トルクの割合である。本実施形態では、係合側クラッチのトルク分担率を「xapl」とし、解放側クラッチのトルク分担率を「xdrn」として、それぞれのトルク分担率を、変速中のトルクの受け渡しを反映するように時系列で変化するトルク分担率x(例えば0≦x≦1)を用いて次式(3)および次式(4)のように定義する。
xapl=x …(3)
xdrn=1−x …(4)
係合側クラッチトルクTcaplと解放側クラッチトルクTcdrnとの関係式は、入力軸3a上のトルクに置き換えた「Tcapl」および「Tcdrn」と、前記式(3)および式(4)とに基づいて、「x」(=xapl)と「1−x」(=xdrn)とを用いて定義することができる。そして、前記式(1)、前記式(2)、および、「Tcapl」と「Tcdrn」との関係式から、制御操作量である、タービントルクTt、係合側クラッチトルクTcapl、および、解放側クラッチトルクTcdrnを算出する関係式が導き出される。タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)は、「x」(=xapl)、「1−x」(=xdrn)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、係合側クラッチトルクTcaplは、「x」(=xapl)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、解放側クラッチトルクTcdrnは、「1−x」(=xdrn)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。
つまり、本実施形態の変速モデルは、前記変速目標値と前記制御操作量とを含む自動変速機3の運動方程式(前記式(1),(2))と、前記トルク分担率を表す関係(前記式(3),(4))とを用いて、前記変速目標値に基づいて前記制御操作量を算出するものである。このように、本実施形態では、前記式(1),(2)に、トルク分担率xにて設定した拘束条件を追加することで、変速モデルを用いて自動変速機3の変速を実行する。よって、2つの変速目標値に対して3つの制御操作量があったとしても、前記変速モデルを用いて3つの制御操作量を適切に決定することができる。この変速モデルとしては1つの所定のものであるが、上述したように変速の種類(例えば変速パターンや変速前後の変速段の組み合わせ)毎に異なる定数とされたギヤトレーン運動方程式が用いられるので、自動変速機3の変速には、それぞれの変速の種類に対応する変速モデルが用いられることになる。
−中間変速段を経由するパワーオンダウンシフト−
次に、図5〜図10を参照して、中間変速段を経由するパワーオンダウンシフトの一例について説明する。
図5〜図10の例では、現在の変速段として第8変速段が成立している状態から、アクセルペダルが踏み込まれることにより変速マップに基づいてダウンシフト判断がされ、目標変速段として第3変速段が設定される。このとき、第8変速段から第3変速段への変速には、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の解放と、第1クラッチC1および第3クラッチC3の係合とが必要であることから、中間変速段として第5変速段が設定される場合がある。この場合、第8変速段(現在の変速段)から第5変速段(中間変速段)への変速(第1変速)と、第5変速段から第3変速段(目標変速段)への変速(第2変速)とが連続的に行われる。なお、第5変速段の同期回転速度は、第5変速段の変速比と出力軸3bの回転速度とに基づいて算出され、第3変速段の同期回転速度は、第3変速段の変速比と出力軸3bの回転速度とに基づいて算出される。
ここで、図5〜図10に示すような中間変速段を経由するパワーオンダウンシフトでは、中間変速段を経由する際に第2変速部(リアプラネタリ)32の内部回転が反転する動きとなる。このため、第1変速の解放側の摩擦係合要素(第1ブレーキB1)のトルク容量が小さく、かつ、第1変速の係合側の摩擦係合要素(第1クラッチC1)の準備時のトルク容量が相対的に大きいと、第1クラッチC1の引き摺りにより、出力軸3bにかかるトルクがゼロよりも小さくなり、出力軸3bのガタが反対側に詰まった状態になる。その状態で、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度を通過すると、第1クラッチC1のトルク容量の作用する方向が反転し(第1クラッチC1を介して第2変速部32側に伝達されるトルクの向きが反転し)、出力軸3bのガタが正方向側に詰まり、ガタ打ちに起因するショックが発生するおそれがある。
(比較例の場合)
そこで、比較例では、中間変速段への変速進行度が所定値Th1以上になった場合に、解放側の摩擦係合要素のトルク容量を増加させるように構成されている。このような比較例では、実入力軸加速度(実際の入力軸加速度)が目標入力軸加速度に対して狙い通りである場合には、ショックを抑制することが可能であるが、目標入力軸加速度に対して実入力軸加速度がばらついた場合には、後述する問題が生じる。まず、図5を参照して、比較例による中間変速段を経由するパワーオンダウンシフト時において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度に対して狙い通りである場合について説明する。その後、図6および図7を参照して、比較例による中間変速段を経由するパワーオンダウンシフト時において、目標入力軸加速度に対して実入力軸加速度がばらついた場合について説明する。
[比較例において入力軸回転速度が狙い通りの場合]
図5に示すように、第8変速段が成立している状態から、時点t1において、目標変速段として第3変速段が設定されると、中間変速段として第5変速段が設定される。これにより、第8変速段から第5変速段に切り替える第1変速が開始される。そして、時点t2において、第1変速のイナーシャ相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが低下されることにより、第1ブレーキB1が解放され、入力軸回転速度が第8変速段の同期回転速度から上昇する。
入力軸回転速度が、第8変速段の同期回転速度から第5変速段の同期回転速度に近づくにつれて、第1変速の変速進行度が大きくなる。なお、第1変速の変速進行度は、たとえば、以下の式(5)により算出される。
第1変速の変速進行度={(現在の入力軸回転速度−第8変速段の同期回転速度)/(第5変速段の同期回転速度−第8変速段の同期回転速度)}×100 …(5)
そして、時点t3において、第1変速の変速進行度が所定値Th1になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが一時的に高くなる。これにより、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t4において、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態になる。なお、所定値Th1は、予め設定された値(たとえば80%)である。
時点t4では、第1変速のトルク相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクがゼロに向けて低下されるとともに、第1変速の係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1に対する要求トルクが上昇される。このとき、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態で第1クラッチC1が係合するため、ショックを抑制することが可能である。
また、時点t4では、第5変速段から第3変速段に切り替える第2変速のイナーシャ相が開始される。すなわち、第2変速の解放側の摩擦係合要素である第2クラッチC2に対する要求トルクが低下されることにより、第2クラッチC2が解放され、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度から上昇する。
そして、時点t5において、第1変速のトルク相が終了される。このため、第1変速における解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1と係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1との掛け替えが完了される。
その後、入力軸回転速度が第3変速段の同期回転速度に到達する時点t6において、第2変速のトルク相が開始される。すなわち、第2変速の解放側の摩擦係合要素である第2クラッチC2に対する要求トルクがゼロに向けて低下されるとともに、第2変速の係合側の摩擦係合要素である第3クラッチC3に対する要求トルクが上昇される。そして、時点t7において、第2変速のトルク相が終了される。このため、第2変速における解放側の摩擦係合要素である第2クラッチC2と係合側の摩擦係合要素である第3クラッチC3との掛け替えが完了される。
このように、比較例では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、第1変速の変速進行度に応じて第1変速の解放側クラッチトルクを一時的に増加させることにより、入力軸回転速度が狙い通りの場合であれば、ショックを抑制することが可能である。
[比較例において入力軸回転速度が大きい場合]
図6の時点t11〜t12までは、上記した時点t1〜t2と同様であるため、説明を省略する。
そして、図6に示すように、第1変速のイナーシャ相において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度よりも大きい場合には、入力軸回転速度の実際の値(実値)が狙い値よりも大きくなる。すなわち、入力軸回転速度の上昇度合いが大きいため、第1変速の進行が速くなる。したがって、この入力軸回転速度が大きい場合には、入力軸回転速度が狙い通りの場合(図5の場合)に比べて、第1変速の変速進行度が所定値Th1になる時点t13から、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t14までの時間が短くなる。
このため、時点t13において、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクを高くしても、要求トルクを高くすることができる時間が短いので、第1ブレーキB1のトルク容量を確保することができず、出力軸3bのガタが反対側に詰まった状態になる。
この状態で、時点t14において、第1変速のトルク相が開始され、第1変速の係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1に対する要求トルクが上昇されると、第1クラッチC1の係合時に出力軸3bのガタが正方向側に詰まり、ガタ打ちに起因するショックが発生する。なお、時点t15〜t17については、上記した時点t5〜t7と同様であるため、説明を省略する。
このように、比較例では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、第1変速の変速進行度に応じて解放側クラッチトルクを一時的に増加させるようにしても、入力軸回転速度が大きい場合には、ガタ打ちに起因するショックが発生する。
[比較例において入力軸回転速度が小さい場合]
図7の時点t21〜t22までは、上記した時点t1〜t2と同様であるため、説明を省略する。
そして、図7に示すように、第1変速のイナーシャ相において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度よりも小さい場合には、入力軸回転速度の実際の値(実値)が狙い値よりも小さくなる。すなわち、入力軸回転速度の上昇度合いが小さいため、第1変速の進行が遅くなる。したがって、この入力軸回転速度が小さい場合には、入力軸回転速度が狙い通りの場合(図5の場合)に比べて、第1変速の変速進行度が所定値Th1になる時点t23から、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t24までの時間が長くなる。
このため、時点t23において、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが高くされると、要求トルクが高くされる時間が長くなるので、第1ブレーキB1のトルク容量が必要以上になり、変速の進行が停滞する。なお、時点t24〜t27については、上記した時点t4〜t7と同様であるため、説明を省略する。
このように、比較例では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、第1変速の変速進行度に応じて解放側クラッチトルクを一時的に増加させるようにしても、入力軸回転速度が小さい場合には、変速の進行が停滞する。
(本実施形態の場合)
そこで、本実施形態では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度になるまでの同期予測時間が所定値Th2以下になった場合に、解放側の摩擦係合要素のトルク容量を増加させるように構成されている。これにより、目標入力軸加速度に対して実入力軸加速度がばらつく場合であっても、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度に到達する直前において、解放側の摩擦係合要素のトルク容量が増加される時間を適切にすることが可能である。まず、図8を参照して、本実施形態による中間変速段を経由するパワーオンダウンシフト時において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度に対して狙い通りである場合について説明する。その後、図9および図10を参照して、本実施形態による中間変速段を経由するパワーオンダウンシフト時において、目標入力軸加速度に対して実入力軸加速度がばらついた場合について説明する。
[本実施形態において入力軸回転速度が狙い通りの場合]
図8に示すように、第8変速段が成立している状態から、時点t31において、目標変速段として第3変速段が設定されると、中間変速段として第5変速段が設定される。これにより、第8変速段から第5変速段に切り替える第1変速が開始される。そして、時点t32において、第1変速のイナーシャ相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが低下されることにより、第1ブレーキB1が解放され、入力軸回転速度が第8変速段の同期回転速度から上昇する。なお、この第1変速での入力軸3aの回転は、主に解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1によりコントロールされる。また、第1ブレーキB1のトルク容量(解放側クラッチトルク)は、上記したギヤトレーン運動方程式を用いて算出される。
本実施形態では、第1変速のイナーシャ相において、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度になるまでの同期予測時間が算出される。この同期予測時間は、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達するまでの残り時間であり、第1変速の進行につれて小さくなる。なお、同期予測時間は、たとえば、第5変速段の同期回転速度と現在の入力軸回転速度との差を、その差の単位時間当たりの変化量で除算することにより算出される。
そして、時点t33において、同期予測時間が所定値Th2になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが高くなる。具体的には、ギヤトレーン運動方程式を用いて算出された解放側クラッチトルクが増加補正され、その増加補正された値が第1ブレーキB1に対して要求される。次に、第1変速の進行に伴い同期予測時間が減少し、時点t34において、同期予測時間が所定値Th3になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが元に戻される。具体的には、ギヤトレーン運動方程式を用いて算出された解放側クラッチトルクの値が第1ブレーキB1に対して要求される。すなわち、同期予測時間が、所定値Th2以下であり、かつ、所定値Th3よりも大きいとき(時点t33から時点t34までの間)に、解放側クラッチトルクが増加補正される。このため、入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t35において、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態になる。
なお、所定値Th2は、予め設定された値(たとえば100msec)であり、本発明の「所定値」の一例である。所定値Th3は、所定値Th2よりも小さい予め設定された値(たとえば40msec)である。そして、所定値Th2およびTh3と増加補正量とは、時点t35に出力軸3bのガタを正方向側に詰めることが可能なように予め設定された値である。
時点t35では、第1変速のトルク相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクがゼロに向けて低下されるとともに、第1変速の係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1に対する要求トルクが上昇される。このとき、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態で第1クラッチC1が係合するため、ショックを抑制することが可能である。なお、時点t36〜t38については、上記した時点t5〜t7と同様であるため、説明を省略する。
このように、本実施形態では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、同期予測時間に応じて第1変速の解放側クラッチトルクを一時的に増加させることにより、ショックを抑制することが可能である。
[本実施形態において入力軸回転速度が大きい場合]
図9の時点t41〜t42までは、上記した時点t31〜t32と同様であるため、説明を省略する。
そして、図9に示すように、第1変速のイナーシャ相において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度よりも大きい場合には、入力軸回転速度の実際の値(実値)が狙い値よりも大きくなる。すなわち、入力軸回転速度の上昇度合いが大きいため、第1変速の進行が速くなる。このため、同期予測時間は、第1変速のイナーシャ相の開始時では図8の場合に比べて小さくなるが、傾き(低下度合い)が図8の場合とほぼ同様になる。つまり、第1変速のイナーシャ相が開始される時点t42から同期予測時間が所定値Th2になる時点t43までの時間は、図8の時点t32から時点t33までの時間よりも短くなるが、時点t43から入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t45までの時間は、図8の時点t33から時点t35までの時間とほぼ同じである。
そして、時点t43において、図8の場合に比べて早く同期予測時間が所定値Th2になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが高くなる。次に、第1変速の進行に伴い同期予測時間が減少し、時点t44において、同期予測時間が所定値Th3になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが元に戻される。このため、時点t45において出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態になる。すなわち、解放側クラッチトルクの増加補正が図8の場合に比べて早く開始されるため、その増加補正を行う時間を確保することが可能である。
時点t45では、第1変速のトルク相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクがゼロに向けて低下されるとともに、第1変速の係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1に対する要求トルクが上昇される。このとき、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態で第1クラッチC1が係合するため、ショックを抑制することが可能である。なお、時点t46〜t48については、上記した時点t5〜t7と同様であるため、説明を省略する。
このように、本実施形態では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、同期予測時間に応じて第1変速の解放側クラッチトルクを一時的に増加させることにより、入力軸回転速度が大きい場合であっても、ショックを抑制することが可能である。
[本実施形態において入力軸回転速度が小さい場合]
図10の時点t51〜t52までは、上記した時点t31〜t32と同様であるため、説明を省略する。
そして、図10に示すように、第1変速のイナーシャ相において、実入力軸加速度が目標入力軸加速度よりも小さい場合には、入力軸回転速度の実際の値(実値)が狙い値よりも小さくなる。すなわち、入力軸回転速度の上昇度合いが小さいため、第1変速の進行が遅くなる。このため、同期予測時間は、第1変速のイナーシャ相の開始時では図8の場合に比べて大きくなるが、傾き(低下度合い)が図8の場合とほぼ同様になる。つまり、第1変速のイナーシャ相が開始される時点t52から同期予測時間が所定値Th2になる時点t53までの時間は、図8の時点t32から時点t33までの時間よりも長くなるが、時点t53から入力軸回転速度が第5変速段の同期回転速度に到達する時点t55までの時間は、図8の時点t33から時点t35までの時間とほぼ同じである。
そして、時点t53において、図8の場合に比べて遅く同期予測時間が所定値Th2になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが高くなる。次に、第1変速の進行に伴い同期予測時間が減少し、時点t54において、同期予測時間が所定値Th3になると、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクが元に戻される。このため、時点t55において出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態になる。すなわち、解放側クラッチトルクの増加補正が図8の場合に比べて遅く開始され、その増加補正を行う時間を必要以上に長くしないことにより、変速の進行の停滞を抑制することが可能である。
時点t55では、第1変速のトルク相が開始される。すなわち、第1変速の解放側の摩擦係合要素である第1ブレーキB1に対する要求トルクがゼロに向けて低下されるとともに、第1変速の係合側の摩擦係合要素である第1クラッチC1に対する要求トルクが上昇される。このとき、出力軸3bのガタが正方向側に詰まった状態で第1クラッチC1が係合するため、ショックを抑制することが可能である。なお、時点t56〜t58については、上記した時点t5〜t7と同様であるため、説明を省略する。
このように、本実施形態では、中間変速段を経由したパワーオンダウンシフト時に、同期予測時間に応じて第1変速の解放側クラッチトルクを一時的に増加させることにより、入力軸回転速度が小さい場合であっても、変速の進行の停滞を抑制することが可能である。
(クラッチトルクの演算)
次に、図11を参照して、変速制御時のクラッチトルクの演算手法について説明する。なお、以下のフローは所定の時間間隔毎に繰り返し行われる。また、各ステップはECU5により実行される。
まず、図11のステップST1において、パワーオンダウンシフトか否かが判断される。たとえば、アクセルペダルが踏み込まれてダウンシフト判断がされた場合、および、そのダウンシフト判断による変速制御の実行中である場合に、パワーオンダウンシフトであると判断される。そして、パワーオンダウンシフトであると判断された場合には、ステップST2に移る。その一方、パワーオンダウンシフトではないと判断された場合(たとえばパワーオンアップシフトなどのその他の変速パターンの場合)には、ステップST7に移る。
次に、ステップST2において、中間変速段を経由するか否かが判断される。中間変速段を経由するか否かは、たとえば、現在実行している変速の行先変速段を経由する際に解放側の摩擦係合要素が切り替わるか否かで判断される。そして、中間変速段を経由すると判断された場合には、ステップST3に移る。その一方、中間変速段を経由しないと判断された場合には、ステップST7に移る。
次に、ステップST3において、第1変速の解放側の摩擦係合要素であるか否かが判断される。そして、第1変速の解放側の摩擦係合要素であると判断された場合には、ステップST4に移る。その一方、第1変速の解放側の摩擦係合要素ではないと判断された場合(たとえば第1変速の係合側の摩擦係合要素などの場合)には、ステップST7に移る。
次に、ステップST4において、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度になるまでの同期予測時間が算出される。この同期予測時間は、たとえば、中間変速段の同期回転速度と現在の入力軸回転速度との差を、その差の単位時間当たりの変化量で除算することにより算出される。すなわち、同期予測時間は、現時点から、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度に到達するまでの残り時間である。なお、入力軸回転速度は、たとえば、入力軸回転速度センサ82の検出結果に基づいて算出される。また、中間変速段の同期回転速度は、たとえば、中間変速段の変速比と出力軸回転速度センサ83の検出結果とに基づいて算出される。
次に、ステップST5において、同期予測時間が所定値Th2以下であるか否かが判断される。そして、同期予測時間が所定値Th2以下であると判断された場合には、ステップST6に移る。その一方、同期予測時間が所定値Th2以下ではないと判断された場合(同期予測時間が所定値Th2よりも大きい場合)には、ステップST7に移る。
次に、ステップST6において、同期予測時間が所定値Th3以下であるか否かが判断される。そして、同期予測時間が所定値Th3以下であると判断された場合には、ステップST7に移る。その一方、同期予測時間が所定値Th3以下ではないと判断された場合(同期予測時間が所定値Th3よりも大きい場合)には、ステップST8に移る。
そして、ステップST7では、各摩擦係合要素のトルク容量がギヤトレーン運動方程式を用いて算出される。そして、ギヤトレーン運動方程式を用いて算出されたクラッチトルクが各摩擦係合要素に対して要求される。たとえば、第1変速の解放側の摩擦係合要素では、同期予測時間が所定値Th2よりも大きい場合(図8の時点t31〜t33、図9の時点t41〜t43および図10の時点t51〜t53)、および、同期予測時間が所定値Th3以下の場合(図8の時点t34〜t36、図9の時点t44〜t46および図10の時点t54〜t56)に、ギヤトレーン運動方程式を用いて解放側クラッチトルクが算出される。そして、その算出された解放側クラッチトルクが第1変速の解放側の摩擦係合要素に対して要求される。
また、ステップST8では、第1変速の解放側の摩擦係合要素のトルク容量がギヤトレーン運動方程式を用いて算出されて増加補正される。すなわち、ギヤトレーン運動方程式を用いて算出された解放側クラッチトルクが増加補正され、その増加補正された値が第1変速の解放側の摩擦係合要素に対して要求される。たとえば、第1変速の解放側の摩擦係合要素では、同期予測時間が、所定値Th2以下であり、所定値Th3よりも大きい場合(図8の時点t33〜t34、図9の時点t43〜t44および図10の時点t53〜t54)に、ギヤトレーン運動方程式を用いて算出された解放側クラッチトルクが増加補正される。そして、その増加補正された解放側クラッチトルクが第1変速の解放側の摩擦係合要素に対して要求される。
−効果−
本実施形態では、上記のように、現在の変速段から中間変速段を経由して目標変速段に移行するパワーオンダウンシフト時に、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度になるまでの同期予測時間を算出し、同期予測時間が所定値Th2以下になった場合に、解放側の摩擦係合要素のトルク容量を増加させるように構成されている。このように構成することによって、目標入力軸加速度に対して実入力軸加速度がばらつく場合であっても、解放側の摩擦係合要素のトルク容量を適切なタイミングで増加させることができるので、中間変速段を経由する際のショックを抑制しながら、変速の進行が停滞するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、同期予測時間が所定値Th3以下になった場合に、解放側の摩擦係合要素のトルク容量の増加補正を終了することによって、第1変速のトルク相開始時に解放側クラッチトルクが過剰になるのを抑制することができるので、トルク相の進行遅れによる駆動力の増加遅れを抑制することができる。
−他の実施形態−
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、本実施形態では、車両100がFFである例を示したが、これに限らず、車両が、FR(フロントエンジン・リアドライブ)であってもよいし、4輪駆動であってもよい。
また、本実施形態では、エンジン1が多気筒ガソリンエンジンである例を示したが、これに限らず、エンジンがディーゼルエンジンなどであってもよい。
また、本実施形態では、同期予測時間が所定値Th3以下になった場合に、解放側の摩擦係合要素のトルク容量の増加補正を終了する例を示したが、これに限らず、解放側の摩擦係合要素のトルク容量の増加補正を開始してから所定時間が経過した場合に増加補正を終了するようにしてもよい。また、第1変速のトルク相開始時に増加補正を終了するようにしてもよい。
また、本実施形態では、4要素のつかみ替えが必要であるために中間変速段が設定される例を示したが、これに限らず、2要素のつかみ替えでよい場合であっても、摩擦係合要素の摩擦負荷を低減するために中間変速段が設定されてもよい。
また、本実施形態では、現在の変速段から中間変速段を経由して目標変速段に移行する場合の一例として8−5−3変速を示したが、これに限らず、その他のパターンであってもよい。
また、本実施形態では、変速マップに基づいて目標変速段が設定される例を示したが、これに限らず、故障状態、発熱量、オーバーレブなどを考慮して実現可能な変速段が目標変速段として設定されてもよい。
また、本実施形態において、ECU5が複数のECUにより構成されていてもよい。