以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
以下では、物理量として角速度を検出する物理量センサー(角速度センサー)を例にとり説明する。
1.物理量センサー
1−1.第1実施形態
図1は、第1実施形態の物理量センサーの機能ブロック図である。第1実施形態の物理量センサー1は、物理量に関わるアナログ信号を出力する物理量検出素子(センサー素子)2と信号処理回路3とを含んで構成されている。
物理量検出素子2は、駆動電極と検出電極が配置された振動片を有し、一般的に、振動片のインピーダンスをできるだけ小さくして発振効率を高めるために、振動片は気密性が確保されたパッケージに封止されている。本実施形態では、物理量検出素子2は、T型の2つの駆動振動腕を有するいわゆるダブルT型の振動片を有する。
図2は、物理量検出素子2の振動片の平面図である。物理量検出素子2は、例えば、Zカットの水晶基板により形成されたダブルT型の振動片を有する。水晶を材料とする振動片は、温度変化に対する共振周波数の変動が極めて小さいので、角速度の検出精度を高めることができるという利点がある。なお、図2におけるX軸、Y軸、Z軸は水晶の軸を示す。
図2に示すように、物理量検出素子2の振動片は、2つの駆動用基部104a、104bからそれぞれ駆動振動腕101a、101bが+Y軸方向及び−Y軸方向に延出している。駆動振動腕101aの側面及び上面にはそれぞれ駆動電極112及び113が形成されており、駆動振動腕101bの側面及び上面にはそれぞれ駆動電極113及び112が形成されている。駆動電極112、113は、それぞれ、図1に示す信号処理回路3のDS端子,DG端子を介して駆動回路20に接続される。
駆動用基部104a、104bは、それぞれ−X軸方向と+X軸方向に延びる連結腕105a、105bを介して矩形状の検出用基部107に接続されている。
検出振動腕102は、検出用基部107から+Y軸方向及び−Y軸方向に延出している。検出振動腕102の上面には検出電極114及び115が形成されており、検出振動腕102の側面には共通電極116が形成されている。検出電極114、115は、それぞれ、図1に示した信号処理回路3のS1端子,S2端子を介して検出回路30に接続される。また、共通電極116は接地される。
駆動振動腕101a、101bの駆動電極112と駆動電極113との間に駆動信号として交流電圧が与えられると、図3に示すように、駆動振動腕101a、101bは逆圧電効果によって矢印Bのように、2本の駆動振動腕101a、101bの先端が互いに接近と離間を繰り返す屈曲振動(励振振動)をする。
この状態で、物理量検出素子2の振動片にZ軸を回転軸とした角速度が加わると、駆動振動腕101a、101bは、矢印Bの屈曲振動の方向とZ軸の両方に垂直な方向にコリオリの力を得る。その結果、図4に示すように、連結腕105a、105bは矢印Cで示
すような振動をする。そして、検出振動腕102は、連結腕105a、105bの振動(矢印C)に連動して矢印Dのように屈曲振動をする。このコリオリ力に伴う検出振動腕102の屈曲振動と駆動振動腕101a、101bの屈曲振動(励振振動)とは位相が90°ずれている。
ところで、駆動振動腕101a、101bが屈曲振動(励振振動)をするときの振動エネルギーの大きさ又は振動の振幅の大きさが2本の駆動振動腕101a、101bで等しければ、駆動振動腕101a、101bの振動エネルギーのバランスがとれており、物理量検出素子2に角速度がかかっていない状態では検出振動腕102は屈曲振動しない。ところが、2つの駆動振動腕101a、101bの振動エネルギーのバランスがくずれると、物理量検出素子2に角速度がかかっていない状態でも検出振動腕102に屈曲振動が発生する。この屈曲振動は漏れ振動と呼ばれ、コリオリ力に基づく振動と同様に矢印Dの屈曲振動であるが、駆動信号とは同位相である。
そして、圧電効果によってこれらの屈曲振動に基づいた交流電荷が、検出振動腕102の検出電極114、115に発生する。ここで、コリオリ力に基づいて発生する交流電荷は、コリオリ力の大きさ(言い換えれば、物理量検出素子2に加わる角速度の大きさ)に応じて変化する。一方、漏れ振動に基づいて発生する交流電荷は、物理量検出素子2に加わる角速度の大きさに関係せず一定である。
なお、駆動振動腕101a、101bの先端には、駆動振動腕101a、101bよりも幅の広い矩形状の錘部103が形成されている。駆動振動腕101a、101bの先端に錘部103を形成することにより、コリオリ力を大きくするとともに、所望の共振周波数を比較的短い振動腕で得ることができる。同様に、検出振動腕102の先端には、検出振動腕102よりも幅の広い錘部106が形成されている。検出振動腕102の先端に錘部106を形成することにより、検出電極114、115に発生する交流電荷を大きくすることができる。
以上のようにして、物理量検出素子2は、Z軸を検出軸としてコリオリ力に基づく交流電荷(角速度成分)と、励振振動の漏れ振動に基づく交流電荷(振動漏れ成分)とを検出電極114、115を介して出力する。この物理量検出素子2は、角速度を検出する角速度センサーとして機能する。
図1に戻り、本実施形態における信号処理回路3は、基準電圧回路10、駆動回路20、検出回路30、デジタル処理部40、クロック出力部50、発振回路52、逓倍回路54、記憶部60及びインターフェース回路70を含んで構成されており、例えば、1チップの集積回路(IC:Integrated Circuit)であってもよい。なお、本実施形態における信号処理回路3は、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
基準電圧回路10は、信号処理回路3のVDD端子より供給される電源電圧から基準電圧VR1,VR2などの定電圧や定電流を生成し、駆動回路20や検出回路30に供給する。
駆動回路20は、物理量検出素子2を駆動する(励振振動させる)ための駆動信号DRVを生成し、DS端子を介して物理量検出素子2の駆動電極112に供給する。すなわち、駆動回路20(「第1発振回路」の一例)は、物理量検出素子2を励振振動させる発振回路として機能する。また、駆動回路20は、物理量検出素子2の励振振動により駆動電極113に発生する発振電流がDG端子を介して入力され、この発振電流の振幅が一定に保持されるように駆動信号DRVの振幅レベルをフィードバック制御する。また、駆動回
路20は、駆動信号DRVと位相が同じ検波信号SDETを生成し、検出回路30に出力する。
図5は、駆動回路20の構成例を示す図である。図5に示すように、駆動回路20は、I/V変換回路21、ローパスフィルター22、ハイパスフィルター23、コンパレーター24、全波整流回路25、積分器26、コンパレーター27及びコンパレーター28を含んで構成されている。なお、本実施形態における駆動回路20は、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
I/V変換回路21、ローパスフィルター22、ハイパスフィルター23、コンパレーター24、全波整流回路25、コンパレーター27及びコンパレーター28は、基準電圧回路10から供給される基準電圧VR1を基準に動作する。基準電圧VR1は、アナロググランド電圧であり、例えば、VDD端子から供給される電源電圧の1/2の電圧である。また、積分器26は、基準電圧回路10から供給される基準電圧VR2を基準に動作する。
I/V変換回路21は、物理量検出素子2の励振振動により発生し、DG端子を介して入力された発振電流を交流電圧信号に変換する。
ローパスフィルター22は、I/V変換回路21の出力信号の高周波成分を除去し、ハイパスフィルター23は、ローパスフィルター22の出力信号の低周波成分(オフセットなど)を除去する。ローパスフィルター22とハイパスフィルター23によってバンドパスフィルターが構成され、物理量検出素子2の励振振動により生じる信号を通過させる。
コンパレーター24は、ハイパスフィルター23の出力信号の電圧を基準電圧VR1と比較して2値化信号を生成する。この2値化信号は、ハイレベルの電圧が積分器26の出力電圧であり、ローレベルの電圧がグラウンド電圧(0V)である。そして、コンパレーター24の出力信号は、駆動信号DRVとして、DS端子を介して物理量検出素子2に供給される。駆動信号DRVの周波数(駆動周波数)を物理量検出素子2の共振周波数と一致させることで、物理量検出素子2を安定発振させることができる。
全波整流回路25は、I/V変換回路21の出力信号を整流(全波整流)して直流化された信号を出力する。
積分器26は、基準電圧VR2を基準に、全波整流回路25の出力電圧を積分して出力する。この積分器26の出力電圧は、全波整流回路25の出力電圧が高いほど(I/V変換回路21の出力信号の振幅が大きいほど)低くなる。従って、発振振幅が大きいほど、コンパレーター24の出力信号(駆動信号DRV)のハイレベルの電圧が低くなり、発振振幅が小さいほど、コンパレーター24の出力信号(駆動信号DRV)のハイレベルの電圧が高くなるので、発振振幅が一定に保持されるように自動利得制御(AGC:Auto Gain Control)がかかる。
コンパレーター27は、ハイパスフィルター23の出力信号の電圧を増幅して2値化信号(方形波電圧信号)を生成し、検波信号SDETとして出力する。この検波信号SDETは、ハイレベルの電圧が電源電圧であり、ローレベルの電圧がグラウンド電圧(0V)である。
コンパレーター28は、ハイパスフィルター23の出力信号の電圧を増幅して2値化信号(方形波電圧信号)を生成し、クロック信号CK2として出力する。このクロック信号CK2は、ハイレベルの電圧が電源電圧であり、ローレベルの電圧がグラウンド電圧(0
V)である。
図1に戻り、検出回路30は、物理量検出素子2の検出電極114,115からそれぞれS1,S2端子を介して入力される交流電荷に含まれる角速度成分を検出し、角速度の大きさに応じた電圧レベルのアナログ信号を出力する。
図6は、検出回路30の構成例を示す図である。図6に示すように、検出回路30は、QVアンプ31、差動アンプ32、可変ゲインアンプ(PGA:Programmable Gain Amplifier)33及び同期検波回路34を含んで構成されている。なお、本実施形態における検出回路30は、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
QVアンプ31は、S1端子を介して、物理量検出素子2の検出電極114から、角速度成分と振動漏れ成分を含む交流電荷(検出電流)が入力され、当該交流電荷に応じた電圧の信号を発生させる。また、QVアンプ31は、S2端子を介して、物理量検出素子2の検出電極115から、角速度成分と振動漏れ成分を含む交流電荷(検出電流)が入力され、当該交流電荷に応じた電圧の信号を発生させる。検出電極114からQVアンプ31に入力される交流電荷と検出電極114からQVアンプ31に入力される交流電荷は互いに逆位相(位相差が180°)であり、QVアンプ31から出力される2つの信号も互いに逆位相である。
差動アンプ32は、QVアンプ31から出力される2つの信号を差動増幅してシングルエンドの信号を出力する。
可変ゲインアンプ33は、差動アンプ32から出力される信号を増幅又は減衰させて、所望の電圧レベルの信号を出力する。
同期検波回路34は、駆動回路20が出力する検波信号SDETを用いて、可変ゲインアンプ33から出力される信号(被検波信号)に含まれる角速度成分を同期検波する。同期検波回路34は、例えば、検波信号SDETがハイレベルの時は可変ゲインアンプ33から出力される信号をそのまま出力し、検波信号SDETがローレベルの時は可変ゲインアンプ33から出力される信号を基準電圧VR1に対して反転した信号を出力する回路として構成することができる。
以上に説明したように、駆動回路20により物理量検出素子2が励振振動された状態で、検出回路30が物理量検出素子2の出力信号に基づいて角速度を検出するので、図1に示す物理量検出素子2、駆動回路20及び検出回路30を含む構成は、角速度を検出する振動型センサー4として機能する。
記憶部60は、レジスター61及び不揮発性メモリー62を有している。レジスター61には、インターフェース回路70を介した外部装置との通信において使用されるアドレスやデータの情報が設定される。また、レジスター61には、DSP44から出力される角速度データや角度データが記憶される。
不揮発性メモリー62には、駆動回路20や検出回路30に対する各種のトリミングデータ(調整データや補正データ)やインターフェース回路70を介した外部との通信を成立させるための各種の情報が記憶されている。不揮発性メモリー62は、例えば、MONOS(Metal Oxide Nitride Oxide Silicon)型メモリーやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)として構成することができる。
また、不揮発性メモリー62には、物理量センサー1(信号処理回路3)の動作モードを選択するためのモード選択データが記憶されている。本実施形態では、モード選択データによって、物理量センサー1(信号処理回路3)の動作モードとして、ノーマルモード、低パワーモード及び高精度モードのいずれか1つを選択可能である。
信号処理回路3の電源投入時(VDD端子の電圧が0Vから所望の電圧まで立ち上がる時)に、不揮発性メモリー62に記憶されている各種のトリミングデータやモード選択データがレジスター61に転送されて保持される。そして、レジスター61に保持された各種のトリミングデータが駆動回路20や検出回路30に供給され、レジスター61に保持されたモード選択データに基づくモード選択信号MDSEL(ノーマルモード、低パワーモード及び高精度モードのいずれか1つを選択するための信号)がデジタル処理部40(DSP44)、クロック出力部50、発振回路52及び逓倍回路54に供給される。
インターフェース回路70は、XCS端子、SCLK端子、MOSI端子及びMISO端子と電気的に接続されており、これらの端子を介して外部装置と通信するための回路である。インターフェース回路70を介した通信では、外部装置がマスターとして機能し、物理量センサー1(信号処理回路3)がスレーブとして機能する。そして、外部装置は、インターフェース回路70を介して、レジスター61の所定のアドレスにデータを書き込むことや、レジスター61の所定のアドレスからデータを読み出すことや、各種のコマンドを送信して信号処理回路3の動作を制御することができる。
インターフェース回路70は、SPI(Serial Peripheral Interface)インターフェース回路とI2C(Inter-Integrated Circuit)インターフェース回路のいずれか一方として機能してもよい。例えば、インターフェース回路70は、XCS端子がローレベルのときは、SPIインターフェース回路として機能し、SCLK端子を介してクロック信号が入力され、MOSI端子を介してデータ信号が入力され、MISO端子を介してデータ信号が出力される。また、インターフェース回路70は、XCS端子がハイレベルのときは、I2Cインターフェース回路として機能し、SCLK端子を介してクロック信号が入力され、MOSI端子を介してデータ信号が入出力される。
インターフェース回路70を介した外部装置との間の通信は、レジスター61に記憶される各種の情報に基づいて行われる。そして、外部装置は、インターフェース回路70を介して、レジスター61の所定のアドレスから角速度データを読み出すことができる。このように、物理量センサー1(信号処理回路3)は、外部装置からの要求に応じて、角速度データを出力可能に構成されている。
また、外部装置は、インターフェース回路70を介して、レジスター61の所定のアドレスにモード選択データを設定(書き込み)可能であってもよい。すなわち、物理量センサー1(信号処理回路3)は、外部装置からの要求に応じて、動作モードを切り替え可能に構成されていてもよい。
発振回路52(「第2発振回路」の一例)は、クロック信号CK1を出力する発振回路であり、その発振周波数(クロック信号CK1の周波数)は駆動回路20の発振周波数(クロック信号CK2の周波数)よりも高い。発振回路52は、例えば、CR発振器やリングオシレーターを含んで構成されてもよい。また、発振回路52は、CR発振器等の出力信号を分周してクロック信号CK1を出力する分周回路を含んで構成されてもよい。
逓倍回路54は、駆動回路20が出力するクロック信号CK2を逓倍したクロック信号CK3を出力する。また、逓倍回路54は、クロック信号CK3の周波数が安定した状態であるか否かを示すLOCK信号を出力する。逓倍回路54は、例えば、PLL(Phase
Locked Loop)回路やDLL(Digital Locked Loop)回路であってもよい。
本実施形態では、モード選択信号MDSELに基づいて、発振回路52及び逓倍回路54の動作のON/OFFが制御される。具体的には、図7に示すように、モード選択信号MDSELがノーマルモードの選択を示す場合、発振回路52はON(動作)、逓倍回路54はOFF(停止)となる。また、モード選択信号MDSELが低パワーモードの選択を示す場合、発振回路52及び逓倍回路54はともにOFF(停止)となる。また、モード選択信号MDSELが高精度モードの選択を示す場合、発振回路52はOFF(停止)、逓倍回路54はON(動作)となる。なお、駆動回路20は、ノーマルモード、低パワーモード、高精度モードのいずれの場合も、オン(動作)となる。
クロック出力部50は、デジタル処理部40にクロック信号CLKを出力する。具体的には、クロック出力部50は、モード選択信号MDSELに基づいて、発振回路52が出力するクロック信号CK1、駆動回路20が出力するクロック信号CK2及び逓倍回路54が出力するクロック信号CK3のいずれか1つを選択し、クロック信号CLKとして出力する。本実施形態では、図7に示すように、クロック出力部50は、モード選択信号MDSELがノーマルモードの選択を示す場合、クロック信号CK1を選択し、クロック信号CLKとして出力する。また、クロック出力部50は、モード選択信号MDSELが低パワーモードの選択を示す場合、クロック信号CK2を選択し、クロック信号CLKとして出力する。また、クロック出力部50は、モード選択信号MDSELが高精度モードの選択を示す場合、クロック信号CK3を選択し、クロック信号CLKとして出力する。
このように、本実施形態では、ノーマルモード(「第2モード」の一例)では、発振回路52が動作し、クロック出力部50が発振回路52の出力信号(クロック信号CK1)に基づいてクロック信号CLKを出力する。また、低パワーモード(「第1モード」の一例)では、発振回路52及び逓倍回路54が停止し、クロック出力部50が駆動回路20の出力信号(クロック信号CK2)に基づいてクロック信号CLKを出力する。また、高精度モード(「第3モード」の一例)では、発振回路52が停止するとともに逓倍回路54が動作し、クロック出力部50が逓倍回路54の出力信号(クロック信号CK3)に基づいてクロック信号CLKを出力する。
物理量センサー1(信号処理回路3)は、インターフェース回路70を介して、外部から入力される信号(レジスター61に書き込まれるモード選択データ)に基づいて、ノーマルモードと低パワーモードと高精度モードとを切り替えてもよい。そして、レジスター61に保持されるモード選択データが変更されると、クロック出力部50は、クロック信号CLKにグリッチが発生しないように、クロック信号CK1、クロック信号CK2、クロック信号CK3の選択を切り替える。すなわち、本実施形態では、物理量センサー1(信号処理回路3)は、クロック信号CLKにグリッチが発生しないようにノーマルモードと低パワーモードと高精度モードとを切り替える。これにより、クロック信号CLKのグリッチに起因するデジタル処理部40の誤動作を防止することができる。
また、ノーマルモード又は低パワーモードから高精度モードに切り替わる際、クロック出力部50は、逓倍回路54が出力するLOCK信号がアクティブ(クロック信号CK3の周波数が安定した状態)になった後に、クロック信号CK1又はクロック信号CK2からクロック信号CK3に切り替えてクロック信号CLKを出力する。これにより、不安定なクロック信号CLKに起因するデジタル処理部40の誤動作を防止することができる。
デジタル処理部40は、A/D(Analog to Digital)変換器42(「アナログ/デジタル変換器」の一例)及びDSP(Digital Signal Processor)44を含んで構成されている。
A/D変換器42は、クロック出力部50が出力するクロック信号CLKに同期して動作し、振動型センサー4(検出回路30)の出力信号をデジタル信号(角速度データ)に変換して出力する。このA/D変換器42から出力されるデジタル信号(角速度データ)は、所定のレートで順次更新される。A/D変換器42は、例えば、デルタシグマ型や逐次比較型のA/D変換回路であってもよい。
DSP44は、クロック出力部50が出力するクロック信号CLKに同期して動作し、A/D変換器42から出力されるデジタル信号(角速度データ)に対して、フィルター処理を含むデジタル処理を行う。DSP44は、例えば、図8に示すような1次のIIR(Infinite impulse response)フィルターによってフィルター処理を行う。図8において、XはIIRフィルターへの入力データであり、YはIIRフィルターからの出力データである。フィルター係数a1,b0,b1は、例えば、記憶部60(不揮発性メモリー62)に記憶される。
また、DSP44は、角速度データのゼロ点のオフセットや角速度データの温度による変動を補正するデジタル処理を行ってもよい。これらのデジタル処理が行われた角速度データの値は、物理量検出素子2が検出した角速度を表し、所定のレートで順次更新される。さらに、DSP44は、順次更新される角速度データを時間積分(加算)して角度データを計算するデジタル処理を行ってもよい。
ノーマルモードでは、クロック信号CLKとして、駆動回路20よりも発振周波数が高い発振回路52が出力するクロック信号CK1が選択され、デジタル処理部40(A/D変換器42及びDSP44)が高速に処理を行うことになるため、物理量センサー1(信号処理回路3)の消費電力が大きい。一方、低パワーモードでは、クロック信号CLKとして、駆動回路20が出力するクロック信号CK2が選択され、デジタル処理部40が低速に処理を行うことになり、さらに発振回路52と逓倍回路54が停止するので、物理量センサー1(信号処理回路3)の消費電力が非常に小さい。
ここで、ノーマルモードと低パワーモードとでは、クロック信号CLKの周波数が異なるため、DSP44のフィルター処理におけるサンプリング周波数も異なる。そこで、本実施形態では、デジタル処理部40は、ノーマルモードと低パワーモードとが切り替わった後に、DSP44のフィルター処理を初期化する。例えば、DSP44が図8に示した1次のIIRフィルターによってフィルター処理を行う場合、フィルター処理の過渡応答時間を短くするために、デジタル処理部40は、ノーマルモード又は低パワーモードに切り替わった後に、遅延回路Z−1によって保持されるデータを入力データXに初期化する。また、デジタル処理部40は、ノーマルモード又は低パワーモードに切り替わった後に、フィルター係数a1,b0,b1を所望の値に初期化する。例えば、ノーマルモードと低パワーモードとで角速度の検出帯域を不変とするために、デジタル処理部40は、ノーマルモードと低パワーモードとでカットオフ周波数が一定になるようにフィルター処理を初期化してもよい。具体的には、DSP44は、図8に示した1次のIIRフィルターによってフィルター処理を行う場合、ノーマルモードではサンプリング周波数が10kHzであり、低パワーモードではサンプリング周波数が1kHzであれば、例えば、フィルター係数a1,b0,b1が、ノーマルモードではa1=−0.93906,b0=b1=0.03047になり、低パワーモードではa1=−0.50953,b0=b1=0.024524になるようにフィルター処理を初期化することにより、カットオフ周波数を100Hzで一定にすることができる。なお、ノーマルモードと高精度モードとでクロック信号CLKの周波数が異なる場合も、デジタル処理部40は、ノーマルモードと高精度モードとでカットオフ周波数が一定になるようにDSP44のフィルター処理を初期化してもよい。
図10は、ノーマルモードから低パワーモードに切り替わるときの各クロック信号の波形及びデジタル処理部40の動作の一例を示す図である。また、図11は、低パワーモードからノーマルモードに切り替わるときの各クロック信号の波形及びデジタル処理部40の動作の一例を示す図である。図10及び図11のいずれにおいても、クロック信号CLKにグリッチが発生しないように動作モードが切り替わり、動作モードが切り替わった直後にDSP44のフィルター処理が初期化されている。また、低パワーモードでは、クロック信号CK1及びクロック信号CK3が一定電圧(ローレベル)に固定されている。
本実施形態では、発振回路52はCR発振器等やリングオシレーター等の小面積で実現される発振回路であり、発振回路52が出力するクロック信号CK1の周波数温度特性は半導体素子の温度特性の影響を受ける。これに対して、物理量検出素子2は、例えば、温度安定性の高い水晶振動片を有するため、駆動回路20が出力するクロック信号CK2は、クロック信号CK1と比較して周波数温度特性が極めて良い。図9は、クロック信号CK1とクロック信号CK2の周波数温度特性の一例を示す図であり、実線がクロック信号CK1の周波数温度特性を示し、破線がクロック信号CK2の周波数温度特性を示す。図9の例では、−35℃〜+85℃(使用温度範囲)において、クロック信号CK1の周波数偏差が±0.2%程度の範囲であるのに対して、クロック信号CK2の周波数偏差は±0.01%以下の範囲である。
そこで、本実施形態では、高精度モードでは、クロック信号CLKとして、クロック信号CK2が逓倍された周波数偏差が小さいクロック信号CK3が選択され、デジタル処理部40は、ノーマルモードよりも高精度にデジタル処理を行うことが可能になっている。例えば、デジタル処理部40(DSP44)が角速度データを時間積分(加算)して角度データを計算する場合、動作モードを高精度モードに設定することにより、積分誤差を低減することができるので、より高精度な角度データが得られる。また、ノーマルモードと高精度モードでデジタル処理のレートが変わらないように、クロック信号CK1の周波数とクロック信号CK3の周波数が同じになるように構成してもよい。例えば、発振回路52が非常に高い周波数で発振するCR発振器等の出力信号を分周回路で整数分周してクロック信号CK3と同じ周波数のクロック信号CK1を出力するようにしてもよい。この高精度モードでは、非常に高い周波数で発振する発振回路52が停止するため、物理量センサー1の消費電力が低減される。
図12は、ノーマルモードから高精度モードに切り替わるときの各クロック信号の波形及びデジタル処理部40の動作の一例を示す図である。図12において、逓倍回路54が動作を開始してLOCK信号がアクティブ(ハイレベル)になった後に、クロック信号CLKとしてクロック信号CK3が出力されている。また、高精度モードでは、クロック信号CK1が一定電圧(ローレベル)に固定されている。なお、図12の例では、クロック信号CK1の周波数とクロック信号CK3の周波数が同じであり、ノーマルモードと高精度モードでフィルター係数が変更されないものとして、フィルター処理の初期化は行われていないが、高精度モードに切り替わった直後にフィルター処理の初期化が行われてもよい。
以上に説明したように、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、クロック出力部50からデジタル処理部40に出力されるクロック信号CLKは、ノーマルモードにおいて発振回路52が出力するクロック信号CK1であり、低パワーモードにおいて発振回路52よりも発振周波数が低い駆動回路20が出力するクロック信号CK2である。従って、低パワーモードにおいて、デジタル処理部40は、振動型センサー4の出力信号に対してノーマルモードよりも低消費電流で単位時間あたりの処理を行うことができる。従って、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)によれば、低パワー
モードにおいてノーマルモードよりも消費電流を低減させてセンシングすることができる。
また、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、ノーマルモードにおいて、クロック出力部50から低パワーモードよりも高い周波数のクロック信号CLKがデジタル処理部40に出力されるので、デジタル処理部40は、振動型センサー4の出力信号に対して低パワーモードよりも高いレートで処理を行うことができる。従って、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)によれば、ノーマルモードにおいて低パワーモードよりも高分解能にセンシングすることができる。
さらに、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、高精度モードにおいて、クロック出力部50から、低パワーモードよりも高い周波数であり、かつ、ノーマルモードよりも周波数偏差が小さいクロック信号CK3がデジタル処理部40に出力されるので、デジタル処理部40は、振動型センサー4の出力信号に対して低パワーモードより高いレートで、かつ、ノーマルモードよりも高精度に処理を行うことができる。従って、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)によれば、高精度モードにおいて低パワーモードよりも高分解能に、かつ、ノーマルモードよりも高精度にセンシングすることができる。
また、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、外部からの信号に基づいて、ノーマルモード、低パワーモード及び高精度モードのいずれかの動作モードを選択可能である。すなわち、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)によれば、動作中に、低消費電流でのセンシング、高分解能なセンシング及び高精度なセンシングを外部装置によって自在に切り替えることができる。
また、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、動作モードが切り替わる際に、クロック信号CLKにグリッチが発生しないので、デジタル処理部40の誤動作を防止することができる。
また、第1実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、動作モードが切り替わった直後に、デジタル処理部40によるフィルター処理の対象となるデータが初期化されるのでフィルター処理の過渡応答時間を短くすることができ、また、フィルター係数が初期化されるのでフィルター特性を最適化することができる。例えば、低パワーモードとノーマルモード及び高精度モードとでフィルター係数を変えることにより、動作モードによらず、デジタル処理部40によるフィルター処理のカットオフ周波数を一定に保つことができる。これにより、動作モードによらず、センシングの検出帯域を一定に保つことができる。また、低パワーモードでは、低周波の角速度信号のみをセンシングできれば良い場合には、低パワーモードにおけるフィルター処理のカットオフ周波数をノーマルモード及び高精度モードにおけるカットオフ周波数よりも低くすることにより、低パワーモードにおけるセンシングのS/Nを向上させることができる。
1−2.第2実施形態
以下、第2実施形態の物理量センサー1について、主に第1実施形態と異なる内容について説明し、第1実施形態と重複する説明を省略する。図13は、第2実施形態の物理量センサーの機能ブロック図である。図13において、第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。第2実施形態の物理量センサー1では、信号処理回路3は、第1実施形態と同様に構成に加えて、さらにインターフェース回路80を含んで構成されている。
インターフェース回路80は、MSCK端子及びMSDA端子と電気的に接続されており、これらの端子を介して複数の外部装置と通信するための回路である。インターフェー
ス回路80を介した通信では、物理量センサー1(信号処理回路3)がマスターとして機能し、複数の外部装置がスレーブとして機能する。そして、物理量センサー1(信号処理回路3)は、インターフェース回路80を介して、複数の外部装置がそれぞれが有する記憶部(レジスター)の所定のアドレスにデータを書き込むことや、複数の外部装置がそれぞれ有する記憶部(レジスター)の所定のアドレスからデータを読み出すことができる。インターフェース回路80は、例えば、I2Cインターフェース回路として機能し、MSCK端子を介してクロック信号が出力され、MSDA端子を介してデータ信号が入出力される。
レジスター61には、インターフェース回路80を介した複数の外部装置との通信において使用されるアドレスやデータの情報が設定される。
本実施形態では、デジタル処理部40は、A/D変換器42及びDSP44に加えて姿勢演算部46を含んで構成されている。
姿勢演算部46は、クロック出力部50が出力するクロック信号CLKに同期して動作し、3軸の角速度データに基づいて姿勢演算を実行する。具体的には、姿勢演算部46は、DSP44から第1軸の角速度ω1を表す第1角速度データを所定の周期Δtで順次取得する。また、姿勢演算部46は、インターフェース回路80を介して複数の外部装置から周期Δtで順次取得されて記憶部60(レジスター61)に記憶される、第2軸の角速度ω2を表す第2角速度データ及び第3軸の角速度ω3を表す第3角速度データを順次取得する。第1軸、第2軸及び第3軸は、例えば、互いに直交する軸である。そして、姿勢演算部46は、周期Δtで順次取得した第1角速度データ(角速度ω1)、第2角速度データ(角速度ω2)及び第3角速度データ(角速度ω3)を用いて姿勢演算を行う。
本実施形態では、姿勢演算部46は、記憶部60(不揮発性メモリー62)に記憶されている、第1軸、第2軸及び第3軸とあらかじめ定義されているx軸、y軸及びz軸との対応関係の情報を用いて、例えば、第1角速度データ(角速度ω1)をx軸の角速度データ(x軸回りの角速度ωx)と認識し、第2角速度データ(角速度ω2)をy軸の角速度データ(y軸回りの角速度ωy)と認識し、第3角速度データ(角速度ω3)をz軸の角速度データ(z軸回りの角速度ωz)と認識する。そして、姿勢演算部46は、x軸回りの角速度ωx(=ω1)、y軸回りの角速度ωy(=ω2)及びz軸回りの角速度ωz(=ω3)に基づき、クォータニオンを用いて姿勢演算を行うことができる。例えば、姿勢演算部46は、3軸分の角速度ωx,ωy,ωzを取得する毎に、式(1)に従ってクォータニオンqを更新し、更新したクォータニオンqを式(2)に従って正規化することにより、姿勢演算を行う。
図14は、クォータニオンを用いて姿勢演算を行う姿勢演算部46の構成例を示す図である。図14に示すように、姿勢演算部46は、変換部211、行列演算部212、乗算器213、加算器214及び正規化部215を含んで構成されている。
変換部211は、記憶部60(不揮発性メモリー62)に記憶されている、第1軸、第2軸及び第3軸とx軸、y軸及びz軸との対応関係の情報に基づいて、3軸の角速度データ(角速度ω1,ω2,ω3)をx軸回りの角速度ωx、y軸回りの角速度ωy及びz軸回りの角速度ωzに変換して出力する。
行列演算部212は、クロック信号CLKに同期して、x軸回りの角速度ωx、y軸回りの角速度及びz軸回りの角速度ωz(いずれも単位はLSB)と最新のクォータニオンq(各要素qw,qx,qy,qzの単位はラジアン)とを用いて、式(1)の右辺第1項中の行列積の部分を計算して出力する。
乗算器213は、行列演算部212の出力値と係数値COEFとの積を計算して出力する。この乗算器213の出力値は、式(1)の右辺第1項の計算値に相当する。係数値COEFは、記憶部60(不揮発性メモリー62)に記憶されており、式(3)で計算される定数値である。
式(3)において、GSは、検出回路30(GSは物理量検出素子2の検出感度(単位:°/s/LSB))である。また、FREQは、クロック信号CLKの周波数(単位はHz)である。
加算器214は、乗算器213の出力値と最新のクォータニオンqとの和を計算して出力する。この加算器214の出力値は、式(1)の計算値に相当する。
正規化部215は、クロック信号CLKに同期して、加算器214の出力値を、その大きさが1になるように正規化して出力する。この正規化部215の出力値は、式(2)の計算値に相当し、最新のクォータニオンqとなる。そして、姿勢演算部46による姿勢演算の結果(クォータニオンq)は、記憶部60(レジスター61)に記憶され、外部装置からの要求に応じて、インターフェース回路70を介して出力される。
図15は、第2実施形態の物理量センサー1を用いた姿勢演算装置6の構成例を示す図である。図15に示す姿勢演算装置6は、3個の物理量センサー1(1−1,1−2,1−3)を備えている。各物理量センサー1−k(k=1〜3)は、物理量検出素子2−k及び信号処理回路3−kを備えている。
物理量センサー1−1が備えている信号処理回路3−1のMSCK端子と、物理量センサー1−2が備えている信号処理回路3−2のSCLK端子と、物理量センサー1−3が備えている信号処理回路3−3のSCLK端子とが電気的に接続されている。また、物理量センサー1−1が備えている信号処理回路3−1のMSDA端子と、物理量センサー1−2が備えている信号処理回路3−2のMOSI端子と、物理量センサー1−3が備えている信号処理回路3−3のMOSI端子とが電気的に接続されている。そして、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1の姿勢演算部46(図13参照))が姿勢演算を行う。
物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、インターフェース回路80(図13参照)を介して、物理量センサー1−2,1−3とそれぞれ通信する。物理量センサー1−2,1−3は、インターフェース回路70(図13参照)を介して、物理量センサー1−1と通信する。信号処理回路3−2,3−3において、XCS端子が電源にプルアップされており、信号処理回路3−2,3−3のインターフェース回路70は、I2Cインターフェース回路として機能する。マスターである物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、スレーブである物理量センサー1−2,1−3(信号処理回路3−2,3−3)に対して、データの書き込みやデータの読み出しを行う。従って、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、物理量センサー1−2(信号処理回路3−2)から第2角速度データ(角速度ω2)を読み出して取得し、物理量センサー1−3(信号処理回路3−3)から第3角速度データ(角速度ω3)を読み出して取得することができる。
そして、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、自身で検出した第1角速度データ(角速度ω1)、物理量センサー1−2(信号処理回路3−2)から第2角速度データ(角速度ω2)及び物理量センサー1−3(信号処理回路3−3)から第3角速度データ(角速度ω3)に基づいて、姿勢演算を行う。
また、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、インターフェース回路70(図13参照)を介して、ホストである制御装置5と通信する。信号処理回路3−1のインターフェース回路70は、SPIインターフェース回路として機能し、マスターである制御装置5は、スレーブである物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)に対して、データの書き込みやデータの読み出しを行い、あるいは、コマンドを送信する。従って、制御装置5は、姿勢演算装置6から姿勢演算の結果(クォータニオンq)を読み出して取得することができる。
このように構成された姿勢演算装置6は、例えば、パッケージ化された状態で、姿勢演算の対象物に取り付けられる。そして、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)の姿勢演算部46は、クロック信号CLKの1周期をΔtとして、式(1)及び式(2)に従ってクォータニオンqを計算する。そして、式(1)及び式(2)より、クォータニオンqの演算精度は、Δtの精度、すなわち、クロック出力部50が出力するクロック信号CLKの周波数精度によって決まる。前述の通り、例えば、クロック信号CK1の周波数偏差が±0.2%程度の範囲であるのに対して、クロック信号CK2の周波数偏差は±0.01%以下の範囲である。従って、物理量センサー1−1(信号処理回路3−1)は、姿勢演算部46による演算精度を高めるために、クロック信号CLKとして、クロック信号CK2が逓倍された周波数偏差が小さいクロック信号CK3が選択される高精度モードに設定されることが望ましい。一方、物理量センサー1−2(信号処理回路3−2)は、第2角速度データ(角速度ω2)を出力すればよく、姿勢演算部46が動作しなくてよい(Δtに基づく計算を行う必要がない)ため、ノーマルモードに設定されてもよい。同様に、物理量センサー1−3(信号処理回路3−3)は、第3角速度データ(角速度ω3)を出力すればよく、姿勢演算部46が動作しなくてよい(Δtに基づく計算を行う必要がない)ため、ノーマルモードに設定されてもよい。姿勢演算装置6において、物理量センサー1−1,1−2,1−3(信号処理回路3−1,3−2,3−3)の各動作モードをこのように設定することにより、消費電力の増加を抑制しながら高精度に姿勢演算を行うことができる。
2.電子機器
図16は、本実施形態の電子機器の構成の一例を示す機能ブロック図である。図16に示すように、本実施形態の電子機器300は、物理量センサー310、制御装置(MCU)320、操作部330、ROM(Read Only Memory)340、RAM(Random Access
Memory)350、通信部360、表示部370を含んで構成されている。なお、本実施形態の電子機器は、図16の構成要素(各部)の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
物理量センサー310は、物理量を検出して検出結果を制御装置(MCU)320に出力する。物理量センサー310として、例えば、上述した本実施形態の物理量センサー1を適用することができる。
制御装置(MCU)320は、ROM340等に記憶されているプログラムに従い、物理量センサー310に通信信号を発信し、物理量センサー310の出力信号を用いて各種の計算処理や制御処理を行う。その他、制御装置(MCU)320は、操作部330からの操作信号に応じた各種の処理、外部装置とデータ通信を行うために通信部360を制御する処理、表示部370に各種の情報を表示させるための表示信号を送信する処理等を行う。
操作部330は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号を制御装置(MCU)320に出力する。
ROM340は、制御装置(MCU)320が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。
RAM350は、制御装置(MCU)320の作業領域として用いられ、ROM340から読み出されたプログラムやデータ、操作部330から入力されたデータ、制御装置(MCU)320が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
通信部360は、制御装置(MCU)320と外部装置との間のデータ通信を成立させるための各種制御を行う。
表示部370は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、CPU320から入力される表示信号に基づいて各種の情報を表示する。表示部370には操作部330として機能するタッチパネルが設けられていてもよい。
物理量センサー310として、例えば上述した本実施形態の物理量センサー1を適用することにより、例えば、信頼性の高い電子機器を実現することができる。
このような電子機器300としては種々の電子機器が考えられ、例えば、パーソナルコンピューター(例えば、モバイル型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター)、スマートフォンや携帯電話機などの移動体端末、デジタルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えば、インクジェットプリンター)、ルーターやスイッチなどのストレージエリアネットワーク機器、ローカルエリアネットワーク機器、移動体端末基地局用機器、テレビ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、カーナビゲーション装置、リアルタイムクロック装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ゲーム用コントローラー、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター、ヘッドマウントディスプレイ、モーショントレース、モーショントラッキング、モーションコントローラー、PDR(歩行者位置方位計測)等が挙げられる。
図17は、本実施形態の電子機器300の一例であるデジタルカメラ1300を模式的に示す斜視図である。なお、図17には、外部機器との接続についても簡易的に示している。ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、デジタルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
デジタルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部1310が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、表示部1310は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側(図中裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。撮影者が表示部1310に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。また、このデジタルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、ビデオ信号出力端子1312には、テレビモニター1430が、データ通信用の入出力端子1314には、パーソナルコンピューター1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、メモリー1308に格納された撮像信号が、テレビモニター1430や、パーソナルコンピューター1440に出力される構成になっている。デジタルカメラ1300は、物理量センサー310を有し、物理量センサー310の出力信号を用いて、例えば手振れ補正等の処理を行う。
3.移動体
図18は、本実施形態の移動体の一例を示す図(上面図)である。図18に示す移動体400は、物理量センサー410、コントローラー440,450,460、バッテリー470、ナビゲーション装置480を含んで構成されている。なお、本実施形態の移動体は、図18の構成要素(各部)の一部を省略し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
物理量センサー410、コントローラー440,450,460、ナビゲーション装置480は、バッテリー470から供給される電源電圧で動作する。
物理量センサー410は、物理量を検出して検出結果をコントローラー440,450,460に出力する。
コントローラー440,450,460は、それぞれ、物理量センサー410の出力信号を用いて、姿勢制御システム、横転防止システム、ブレーキシステム等の各種の制御を行う制御装置である。
ナビゲーション装置480は、内蔵のGPS受信機(不図示)の出力情報に基づき、移動体400の位置や時刻その他の各種の情報をディスプレイに表示する。また、ナビゲーション装置480は、GPSの電波が届かない時でも物理量センサー410の出力信号に基づいて移動体400の位置や向きを特定し、必要な情報の表示を継続する。
例えば、物理量センサー410として、上述した各実施形態の物理量センサー1を適用することにより、例えば、信頼性の高い移動体を実現することができる。
このような移動体400としては種々の移動体が考えられ、例えば、自動車(電気自動車も含む)、ジェット機やヘリコプター等の航空機、船舶、ロケット、人工衛星等が挙げられる。
4.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、上記各実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)は、ノーマルモード、低パワーモード及び高精度モードの3つの動作モードを有しているが、これ以外の動作モードを有していてもよい。あるいは、上記各実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)は、動作モードとして高精度モードを有していなくてもよい。
また、例えば、上記各実施形態の物理量センサー1(信号処理回路3)では、A/D変換器42とDSP44とは、共通のクロック信号CLKによって動作しているが、互いに異なるクロック信号によって動作してもよい。例えば、DSP44は、クロック出力部50が出力するクロック信号CLKによって動作し、A/D変換器42は、クロック信号CLKの分周クロック信号によって動作してもよい。
また、例えば、上述した実施形態では、角速度を検出する物理量検出素子を含む物理量センサー(角速度センサー)並びに当該物理量センサー(角速度センサー)を備えた電子機器及び移動体を例に挙げて説明したが、本発明は、種々の物理量を検出する物理量検出素子を含む物理量センサー並びに当該物理量センサーを備えた電子機器及び移動体にも適用することができる。物理量検出素子が検出する物理量は、角速度に限らず、角加速度、加速度、地磁気、傾斜などであってもよい。従って、振動型センサーは、振動型角速度センサーに限らず、例えば、振動型圧力センサー、振動型傾斜センサー等であってもよい。また、物理量検出素子の振動片は、ダブルT型でなくてもよく、例えば、音叉型やくし歯型であってもよいし、三角柱、四角柱、円柱状等の形状の音片型であってもよい。また、物理量検出素子の振動片の材料としては、水晶(SiO2)の代わりに、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電単結晶やジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスなどの圧電性材料を用いてもよいし、シリコン半導体を用いてもよい。また、例えば、シリコン半導体の表面の一部に、駆動電極に挟まれた酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)等の圧電薄膜を配置した構造であってもよい。また、物理量検出素子は、圧電型の素子に限らず、動電型、静電容量型、渦電流型、光学型、ひずみゲージ型等の振動式の素子であってもよい。あるいは、物理量検出素子の方式は、振動式に限らず、例えば、光学式、回転式、流体式であってもよい。
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。