本発明者らは、負極活物質材料の初回充放電効率及び充放電サイクル特性を高める方法について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
希土類元素を含有させれば、初回充放電効率を高めることができる。図1は、希土類元素含有量と不可逆反応量の変化との関係を示す図である。図2は、希土類元素含有量と初回充放電効率との関係を示す図である。図1及び図2は後述の実施例により得られた。
図1中の縦軸は、不可逆反応量の変化を示す。不可逆反応量の変化は、希土類元素を含有しない場合を0とした場合の、希土類元素を含有しない場合の不可逆反応量と各試験番号の不可逆反応量との差とした。不可逆反応量は次のとおり算出される。
不可逆反応量=1サイクル目の充電容量−1サイクル目の放電容量
図1を参照して、希土類元素の含有量が高くなるほど、不可逆反応量の変化は低下する。
図2中の縦軸は、初回充放電効率を示す。図2を参照して、希土類元素の含有量が高くなるほど、初回充放電効率が高くなる。
つまり、希土類元素を含有させれば、不可逆反応量が低下し、その結果、初回充放電効率が高まる。
本実施形態による負極活物質材料は、at%で、Sn:10〜25%、及び、Si:3〜15%、及び希土類元素:0.2〜0.6%を含有し、残部はCu及び不純物からなる化学組成を有する合金粒子を含む。合金粒子は、X線回折プロファイルにおいて、最大の回折積分強度を有する回折線である最強回折線のピークが回折角2θの42.0〜44.0度の範囲に現れる相を含有する。合金粒子の最強回折線の半値幅は0.15〜2.5度である。
合金粒子のX線回折プロファイルにおいて、最大の回折積分強度を有する回折線である最強回折線(以下、単に最強回折線という)のピークが回折角2θの42.0〜44.0度の範囲に現れる相(以下、特定合金相ともいう)に起因した最強回折線の半値幅が0.15〜2.5度であれば、結晶子径のサイズが適切である。この場合、リチウムイオンの貯蔵サイトが適切に存在し、かつ、結晶子の境界領域でリチウムイオンが安定化しにくい。その結果、優れた放電容量及び充放電サイクル特性(容量維持率)が得られる。
上述のとおり、本実施形態の負極活物質材料を用いて形成された負極は、非水電解質二次電池に使用した場合、黒鉛からなる負極よりも高い体積放電容量(体積当たりの放電容量)を有する。さらに、本実施形態の負極活物質材料を含む負極を用いた非水電解質二次電池は、従来の合金系負極を用いた場合よりも、容量維持率が高い。したがって、この負極活物質材料は、非水電解質二次電池の初回充放電効率及び充放電サイクル特性を十分に向上することができる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による負極活物質材料は、at%で、Sn:10〜25%、Si:3〜15%、及び、希土類元素:0.2〜0.6%を含有し、残部はCu及び不純物からなる化学組成を有する合金粒子を含む。合金粒子は、X線回折プロファイルにおいて、最大の回折積分強度を有する回折線である最強回折線のピークが回折角2θの42.0〜44.0度の範囲に現れる相を含有する。合金粒子の最強回折線の半値幅は0.15〜2.5度である。
本明細書にいう「負極活物質材料」は、好ましくは、非水電解質二次電池用の負極活物質材料である。
上記化学組成において、希土類元素は、La、Y、及びミッシュメタルからなる群から選択される1種又は2種以上であってもよい。
本実施形態による負極は、上述の負極活物質材料を含有する。本実施形態の電池は、上述の負極を備える。
以下、本実施形態による負極活物質材料について詳述する。
[負極活物質材料]
本実施形態の負極活物質材料は、上述の合金粒子(以下、特定合金粒子という)を含む。好ましくは、特定合金粒子は、負極活物質材料の主成分(主相)である。「主成分」とは、負極活物質材料中の特定合金粒子が、体積率で50%以上であることを意味する。特定合金粒子は、本発明の主旨を損なわない範囲で不純物を含有してもよい。しかしながら、不純物はできるだけ少ない方が好ましい。
特定合金粒子の化学組成は、Sn:10〜25at%、Si:3〜15at%、及び、希土類元素:0.2〜0.6at%を含有し、残部はCu及び不純物からなる。
特定合金粒子はさらに、X線回折プロファイルにおいて、最大の回折積分強度を有する回折線である最強回折線のピークが回折角2θの42.0〜44.0度の範囲に現れる相(特定合金相)を含有する。合金粒子の最強回折線の半値幅は0.15〜2.5度である。特定合金相とはたとえば、Strukturbericht表記でD03構造を有する相(以下、D03相という)、及び、F−Cell構造のδ相である。
D03相は、リチウムイオンを放出するとき、又は、リチウムイオンを吸蔵するとき、結晶構造が変化して、D03相と異なる結晶構造の合金相(吸蔵相)となる。
特定合金粒子は、リチウムイオンを吸蔵前には特定合金相を含有し、リチウムイオンを吸蔵後には、特定合金相と異なる合金相(吸蔵相)を含有する。つまり、特定合金粒子は、充放電の際にリチウムイオンの吸蔵及び放出を繰り返す。そして、特定合金相のうちのD03相は、リチウムイオンの吸蔵及び放出に応じて、結晶構造を吸蔵相に変化させる。
このような結晶構造の変化は、リチウムイオンの吸蔵及び放出時に、特定合金粒子が膨張及び収縮して生じる歪みを緩和する。そのため、歪みの蓄積により負極活物質材料が負極の集電体から剥離するのを抑制でき、充放電サイクル特性が低下するのを抑制できる。
特定合金相のうちのδ相では、リチウムイオンを吸蔵及び放出するときの結晶構造変化が小さい。この結晶構造の安定性により、充放電時の膨張及び収縮が抑えられる。そのため、従前の合金系負極活物質材料と比較して、優れた充放電サイクル特性が得られる。
吸蔵相の結晶構造の詳細は不明である。しかしながら、以下のとおり考えられる。特定合金粒子について、X線の線源にCu−Kα1線を使用してX線回折を実施した場合、リチウムイオンを吸蔵前の特定合金相においては、X線回折プロファイルにおいて、最強回折線のピーク(D03相の場合、hkl:220、δ相の場合、hkl:660)が42.0〜44.0度に現れる。一方、充電後のリチウムイオン吸蔵後には、最強回折線の回折プロファイルがブロードに(ピークの幅が広く)なる。放電後のリチウムイオン放出後には、最強回折線の回折プロファイルが再びシャープに(ピークの幅が狭く)なる。上記の可逆的挙動から、充放電にともなう結晶構造の変化は小さいと考えられる。
上述のとおり、特定合金相は、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う結晶構造の変化が少ない。その結果、負極活物質材料が集電体から剥離しにくく、充放電サイクル特性を維持できる。
D03相は、非平衡相の1種である。D03構造は、図3に示す規則構造であり、立方晶である。図3中の白丸の原子サイトM0には、例えばSnまたはSiが配置される。黒丸の原子サイトM1には、例えばCuが配置される。黒丸の原子サイトM2には、例えばCu又はSiが配置される。このような結晶構造は、空間群の分類上、International Table(Volume−A)のNo.225(Fm−3m)となる。この空間群番号に属するD03構造の格子定数及び原子座標の一例を、表1に示す。ただし、表1に示されるサイトM0、M1及びM2に配置されるべき元素は、化学組成がCu−20at%Sn−8at%Siのときには、表1の「サイト内の原子比」欄に記載のように、M0には、Sn−20at%Si、M1にはCu、M2にはCu−12at%Siとなるよう、元素の配置は置換できる。また、表1に記される格子定数aの数値は化学組成によって変化しても良い。さらに、表1に記される各サイトの原子座標や占有率の数値も、合金の化学組成によって変化しても良い。
δ相の結晶構造は、立方晶であり、Booth、Acta Crystallographica、B、3、1977、30(非特許文献1)に示されるγ−Brass相の結晶構造モデルに相当し、空間群の分類上、International Table(Volume−A)のNo.216(F−43m)となる。この空間群番号に属するδ相の結晶構造の格子定数と原子座標の一例を、表2に示す。原子座標及び結晶軸については、出典の情報に対して、原点シフト(1/2、1/2、1/2)して、標準化したものを採用した。Cu−Sn2元系のδ相の場合、DCO、CCO、ACO、BOH、COH、AOH、CIT、DOT、DIT、AIT、BOT、BIT及びCOTの各サイトにはCuが配置され、BCO、DOH及びAOTの各サイトにはSnが配置される。各サイトに配置される元素は、合金粒子の化学組成に応じて置換できる。具体的には、合金粒子の化学組成がCu−17at%Sn−5at%Siである場合、表2の「サイト内の原子比」欄に記載のように、DCO、CCO、ACO、BOH、COH、AOH、CIT、DOT、DIT、AIT、BOT、BITおよびCOTの各サイトではCu−9.5at%Snの比率、BCO、DOH及びAOTの各サイトではSn−31.2at%Siの比率となるよう、元素の配置は置換できる。表2に示される格子定数aの数値は、合金の化学組成によって変化してもよい。表2に示される各サイトの原子座標や占有率の数値も、空間群の分類を変化させない限りにおいて、合金の化学組成によって変化してもよい。
[特定合金粒子の結晶構造の解析方法]
負極活物質材料が含有する相(特定合金粒子が含有される場合も含む)の結晶構造は、X線回折装置を用いて得られたX線回折プロファイルに基づいて、リートベルト法により解析できる。具体的には、次の方法により、結晶構造を解析する。
(1)負極に使用される前の負極活物質材料に対しては、X線回折測定を実施して、X線回折プロファイルの実測データを得る。具体的には、MG処理前の粉砕処理による合金粒子(以下、粉砕まま合金粒子ともいう)に対して、X線回折測定を実施して得られたX線回折プロファイル(実測データ)に基づいて、リートベルト法により、負極活物質材料中の相の結晶構造を解析する。リートベルト法による解析には、汎用の解析ソフトである「RIETAN−2000」(プログラム名)及び「RIETAN−FP」(プログラム名)のいずれかを使用する。
(2)粉砕及びMG処理を実施した合金粒子(以下、MG後合金粒子ともいう)について、X線回折測定を実施して得られたX線回折プロファイル(実測データ)に基づいて、最強回折線の半値幅(以下、単に半値幅ともいう)を、後述の方法により算出する。
(3)電池内の充電前の負極内の負極活物質材料の結晶構造についてX線回折測定を実施して、X線回折プロファイルの実測データを得る。具体的には、充電前の状態で、電池をアルゴン雰囲気中のグローブボックス内で分解し、電池から負極を取り出す。取り出された負極をマイラ箔に包む。その後、マイラ箔の周囲を熱圧着機で密封する。マイラ箔で密封された負極をグローブボックス外に取り出す。グローブボックス内のアルゴン雰囲気は、99.9999%以上の純度の超高純度アルゴンガスボンベより供給されたアルゴンガスを用いる。さらに触媒等による純化装置を通して、窒素など系外の不純物の混入を防止する。これにより、露点を−60℃以下になるように管理して、窒素や水分による負極活物質の変質を防止する。
続いて、負極を無反射試料板(シリコン単結晶の特定結晶面が測定面に平行になるように切り出した板)にヘアスプレーで貼り付けて測定試料を作製する。測定試料をX線回折装置にセットして、測定試料のX線回折測定を行い、X線回折プロファイルを得る。得られたX線回折プロファイルに基づいて、リートベルト法により負極内の負極活物質材料の結晶構造を特定する。
(4)1〜複数回の充電後及び1〜複数回の放電後の負極内の負極活物質材料のX線回折プロファイルについても、(3)と同じ方法により測定し、充電時の負極活物質の最強回折線を特定する。充電前に最強回折線のピークが回折角2θの42.0〜44.0度の範囲に現れ、かつ最強回折線のピークが充電前の最強回折線のピークよりもブロードになっていれば、特定合金相が、充電状態の相であることを判別できる。また、放電時の負極活物質の最強回折線のピーク位置を特定したとき、最強回折線のピークが充電前のシャープな状態に近づいていれば、特定合金相が放電状態の相に変化していることを判別できる。
具体的には、電池を充放電試験装置において満充電させる。満充電された電池をグローブボックス内で分解して、(3)と同様の方法で測定試料を作製する。X線回折装置に測定試料をセットして、X線回折測定を行う。
また、電池を完全放電させ、完全放電された電池をグローブボックス内で分解して(3)と同様の方法で測定試料を作製し、X線回折測定を行う。
充放電にともなう結晶構造変化を解析するためのX線回折測定については、次の方法によって行うこともできる。充電前又は充放電前後のコイン電池を、たとえばアルゴンなど窒素以外の不活性雰囲気中で分解し、負極の電極板に塗付されている活物質合剤(負極活物質材料)をスパチュラなどで集電体箔上から剥がす。剥がされた負極活物質材料をX線回折用サンプルホルダに充填する。不活性ガス雰囲気中で密閉することが可能な専用のアタッチメントを用いることにより、X線回折装置に装着した状態でも、不活性ガス雰囲気中でX線回折が測定可能となる。これにより、大気中の酸化作用の影響を排除しつつ、負極活物質材料の充放電前後の結晶構造の異なる状態からX線回折プロファイルを測定することができる。この方法によれば、集電体の銅箔などに由来する回折線が排除されるため、解析上、活物質由来の回折線の識別がしやすい利点がある。
[化学組成]
Sn:10〜25at%
スズ(Sn)含有量の好ましい下限は、12at%であり、さらに好ましくは、13at%である。Sn含有量の好ましい上限は23at%であり、さらに好ましくは、22at%である。
Si:3〜15at%
ケイ素(Si)含有量の好ましい下限は、5at%であり、さらに好ましくは、6at%である。Si含有量の好ましい上限は12at%であり、さらに好ましくは、10at%である。
希土類元素:0.2〜0.6at%
希土類元素(REM)は、初回充放電効率を高める。この理由は定かではないが、REMを含有させれば、不可逆反応量が低下し、その結果、初回充放電効率が高まると考えられる。REM含有量が0.2at%未満であれば、この効果が得られない。一方、REM含有量が0.6at%を超えれば、放電容量が低下する。したがって、REM含有量は、0.2〜0.6at%である。REM含有量の好ましい下限は0.25at%であり、さらに好ましくは、0.3at%である。REM含有量の好ましい上限は0.55at%であり、さらに好ましくは、0.5at%である。
本明細書において、REMとは、原子番号39番のイットリウム(Y)、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)〜原子番号71番のルテチウム(Lu)及び、アクチノイドである原子番号89番のアクチニウム(Ac)〜原子番号103番のローレンシウム(Lr)からなる群から選択される1種以上の元素である。REM含有量は、特定合金粒子に含有されるREMがこれらの元素のうち1種である場合、その元素の含有量を意味する。特定合金粒子に含有されるREMが2種以上である場合、REM含有量は、それらの元素の総含有量を意味する。REMについては、一般的にミッシュメタルとして含有される。このため、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REM含有量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
[X線回折プロファイルでの最大回折積分強度の回折線の半値幅について]
上述の負極活物質材料ではさらに、特定合金粒子のX線回折プロファイルにおいて、最大の回折積分強度(最強回折線)を有する回折線の半値幅(以下、単に半値幅という)が、回折角2θで、0.15〜2.5度である。最強回折線を有する回折線は、主にD03相又はδ相に由来する。半値幅が0.15度よりも小さければ、放電容量と初回効率が低下する。一方、半値幅が2.5度よりも大きければ、充放電サイクル特性が低下する。半値幅が0.15〜2.5度であれば、放電容量と初回充放電効率を高めつつ、充放電サイクル特性も高めることができる。
上記理由として、次の事項が考えられる。半値幅は結晶子(単結晶とみなせる最小の領域)の平均的な大きさ(結晶子径)の指標となる。特に、粉末X線回折においては、粉末粒子を構成する個々の結晶子は、入射X線に対して回折に寄与する最小単位の領域とみなすことができる。結晶子の境界領域は、充放電の際にリチウムの拡散経路として機能する。結晶子の境界領域はさらに、リチウムの貯蔵サイトとして機能する。
半値幅が狭すぎる場合、結晶子径が過剰に大きくなる。この場合、貯蔵サイトの数的密度が低下して、放電容量が低下する。さらに、初回効率は放電容量と正の相関を有する場合が多い。そのため、結晶子径が大きくなれば、放電容量の低下とともに、初回効率も低下する。放電容量が小さい場合には、初回の充電により一旦活物質中に取り込まれたリチウムが安定化する比率が高まり、その結果、放電時に活物質中のリチウムが取り出せなくなるためと考えられる。
一方、半値幅が広すぎる場合、結晶子径が過剰に小さくなる。この場合、初期容量は大きくなるものの、充放電サイクルの進行とともに、結晶子の境界領域に安定化するリチウムの比率が高まりやすいと考えられる。これにより、充放電サイクル特性が低下すると考えられる。
上述のとおり、結晶子径が小さくなるほど半値幅は広がる傾向を示す。この現象は、定量的にはシェラーの式によって評価できる。シェラーの式は次のとおりである。
D=(K・λ)/{B・cosθ}
D:結晶子径(nm)
K:シェラー定数(無次元)
λ:X線の波長(nm)
B:材料由来の半値幅(radian)
B=Bobs-b
Bobs:実測された半値幅(radian)
b:X線回折装置に起因する機械的な半値幅(radian)
θ:θ−2θ法によるX線回折測定時の回折角(radian)
本明細書において、シェラー定数K=0.94を使用する。X線の波長(λ)は、Cu−Kα1にモノクロ化して測定する。その波長に相当する値として、λ=0.15401nmとする。X線回折装置に起因する機械的な半値幅bは、十分に結晶子径の大きいLaB6結晶の標準サンプルを用いて測定する。目的の2θ領域近傍の補正値としてb=8.73×10-4radian(0.05度)を用いる。したがって、本明細書において単に半値幅と記述する場合には、実測された半値幅(Bobs)ではなく、上述の補正後の半値幅、すなわち、材料由来の半値幅(B=Bobs-b)を指すものとする。さらに、その単位は便宜上、明細書本文内には「度」(degrees)で記すが、上述の計算上は、radianを用いる。
半値幅の好ましい下限は0.3度であり、さらに好ましくは0.5度であり、さらに好ましくは0.7度である。半値幅の好ましい上限は2.2度であり、さらに好ましくは2.0度である。充放電を繰り返した後の放電状態の負極活物質材料においても同様である。
なお、結晶子径の好ましい範囲は5〜80nmである。結晶子径の好ましい下限は6nmであり、さらに好ましくは10nmである。結晶子径の好ましい上限は50nmであり、さらに好ましくは40nmである。
[特定合金粒子以外で負極活物質材料に含まれる材料]
上述の負極活物質材料には、特定合金粒子以外のものを含有してもよい。たとえば、負極活物質材料は、特定合金粒子とともに、活物質としての黒鉛を含有してもよい。
[負極活物質材料及び負極の製造方法]
上記特定合金粒子を含有する負極活物質材料、及び、その負極活物質材料を用いた負極及び電池の製造方法について説明する。負極活物質材料の製造方法は、溶湯を準備する工程(準備工程)と、溶湯を急冷して合金薄帯を製造する工程(合金薄帯製造工程)と、合金薄帯に対してメカニカルグラインディング(以下、MGという)処理を実施する工程(MG処理工程)とを備える。
[準備工程]
準備工程では、上記化学組成を有する溶湯を製造する。溶湯は、アーク溶解、抵抗加熱溶解等の周知の溶解方法で原料を溶解して製造される。
[合金薄帯製造工程]
続いて、図4に示す製造装置を用いて、合金薄帯を製造する。製造装置1は、冷却ロール2と、タンディッシュ4と、ブレード部材5とを備える。
[冷却ロール]
冷却ロール2は、外周面を有し、回転しながら外周面上の溶湯3を冷却して凝固させる。冷却ロール2は円柱状の胴部と、図示しない軸部とを備える。胴部は上記外周面を有する。軸部は胴部の中心軸位置に配置され、図示しない駆動源に取り付けられている。冷却ロール2は、駆動源により冷却ロール2の中心軸9周りに回転する。
冷却ロール2の素材は、硬度及び熱伝導率が高い材料であることが好ましい。冷却ロール2の素材はたとえば、銅又は銅合金である。好ましくは、冷却ロール2の素材は銅である。冷却ロール2は、表面にさらに被膜を有してもよい。これにより、冷却ロール2の硬度が高まる。被膜はたとえば、めっき被膜又はサーメット被膜である。めっき被膜はたとえば、クロムめっき又はニッケルめっきである。サーメット被膜はたとえば、タングステン(W)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、及び、これらの元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。好ましくは、冷却ロール2の表層は銅であり、冷却ロール2は表面にさらにクロムめっき被膜を有する。
図4に示すXは、冷却ロール2の回転方向である。合金薄帯6を製造する際、冷却ロール2は一定方向Xに回転する。これにより、図4では、冷却ロール2と接触した溶湯3が冷却ロール2の外周面上で一部凝固し、冷却ロール2の回転に伴い移動する。冷却ロール2のロール周速は、溶湯3の冷却速度及び製造効率を考慮して適宜設定される。ロール周速が早ければ、冷却ロール2外周面から、合金薄帯6が剥離しやすい。したがって、ロール周速の下限は、好ましくは50m/分、より好ましくは80m/分、さらに好ましくは120m/分である。ロール周速の上限は特に限定されないが、設備能力を考慮してたとえば500m/分である。ロール周速は、ロールの直径と回転数とから求めることができる。
冷却ロール2の内部には、抜熱用の溶媒が充填されてもよい。これにより、効率的に溶湯3を冷却できる。溶媒はたとえば、水、有機溶媒及び油からなる群から選択される1種又は2種以上である。溶媒は、冷却ロール2内部に滞留してもよいし、外部と循環されてもよい。
[タンディッシュ]
タンディッシュ4は、溶湯3を収納可能であり、冷却ロール2の外周面上に溶湯3を供給する。
タンディッシュ4の形状は、冷却ロール2の外周面上に溶湯3を供給可能であれば特に限定されない。タンディッシュ4の形状は、図4に図示するとおり上部が開口した箱状でもよいし、他の形状でもよい。
タンディッシュ4は、冷却ロール2の外周面上に溶湯3を導く供給端7を含む。溶湯3は、図示しない坩堝からタンディッシュ4に供給された後、供給端7を通って冷却ロール2の外周面上に供給される。供給端7の形状は特に限定されない。供給端7の断面は、図4に示す様に矩形状であってもよいし、傾斜がついていてもよい。若しくは、供給端7はノズル状であってもよい。
好ましくは、タンディッシュ4は、冷却ロール2の外周面近傍に配置される。これにより、溶湯3を安定して冷却ロール2の外周面上に供給できる。タンディッシュ4と冷却ロール2との間の隙間は、溶湯3が漏れない範囲で適宜設定される。
タンディッシュ4の素材は、耐火物であることが好ましい。タンディッシュ4はたとえば、酸化アルミニウム(Al2O3)、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。
[ブレード部材]
ブレード部材5は、タンディッシュ4よりも冷却ロール2の回転方向下流に、冷却ロール2の外周面との間に隙間を設けて配置される。ブレード部材5はたとえば、冷却ロール2の軸方向と平行に配置される板状の部材である。
図5は、製造装置1のブレード部材5の先端近傍(図4中、破線で囲った範囲)を拡大した断面図である。図5を参照して、ブレード部材5は、冷却ロール2の外周面との間に隙間Aを設けて配置される。ブレード部材5は、冷却ロール2の外周面上の溶湯3の厚さを、冷却ロール2の外周面とブレード部材5との間の隙間Aの幅に規制する。具体的には、ブレード部材5よりも冷却ロール2の回転方向上流での溶湯3が、隙間Aの幅と比較して厚い場合がある。この場合、隙間Aの幅を超える厚さに相当する分の溶湯3が、ブレード部材5によって塞き止められる。これにより、溶湯3の厚さは隙間Aの幅まで薄くなる。溶湯3の厚さが薄くなることによって、溶湯3の冷却速度が高まる。このため、合金薄帯6の結晶粒及び結晶子が微細化する。
隙間Aの幅は、ブレード部材5よりも冷却ロール2の回転方向上流側での外周面上の溶湯3の厚さBよりも狭い方が好ましい。この場合、冷却ロール2の外周面上の溶湯3がより薄くなる。そのため、溶湯3の冷却速度がより高まる。その結果、合金薄帯6の結晶粒及び結晶子がより微細化する。
冷却ロール2の外周面とブレード部材5との間の隙間Aの幅は、ブレード部材5と冷却ロール2の外周面との最短の距離である。隙間Aの幅は、目的とする冷却速度及び製造効率に応じて適宜設定される。隙間Aの幅が狭い程、厚さ調整後の溶湯3が薄くなる。このため、溶湯3の冷却速度がより高まる。その結果、合金薄帯6の結晶粒をより微細化しやすい。したがって、隙間Aの上限は好ましくは100μm、より好ましくは50μmである。
冷却ロール2の外周面のうち、溶湯3がタンディッシュ4から供給される地点と、ブレード部材5が配置される地点との間の距離は適宜設定される。ブレード部材5は、溶湯3の自由表面(溶湯3が冷却ロール2と接触していない側の表面)が液状又は半凝固状態でブレード部材5と接触する範囲内で配置されればよい。
図6はブレード部材5の取付角度を示す図である。図6を参照して、たとえば、ブレード部材5は、冷却ロール2の中心軸9と供給端7とを含む面PL1と、冷却ロール2の中心軸9とブレード部材5の先端部とを含む面PL2とがなす角度θが一定となるように配置される。(以下、この角度θを取付角度θと称する。)取付角度θは適宜設定できる。取付角度θの上限はたとえば45°である。取付角度θの上限は好ましくは30°である。取付角度θの下限は特に限定されないが、ブレード部材5がタンディッシュ4上の溶湯3と直接接触しない範囲であることが好ましい。
図4〜図6を参照して、好ましくは、ブレード部材5は抜熱面8を有する。抜熱面8は、冷却ロール2の外周面と対向して配置される。抜熱面8は、冷却ロール2の外周面とブレード部材5との間の隙間を通過する溶湯3と接触する。
ブレード部材5の素材は耐火物であることが好ましい。ブレード部材5はたとえば、酸化アルミニウム(Al2O3)、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化クム(Cr2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。好ましくは、ブレード部材5は、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)及び酸化マグネシウム(MgO)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。
ブレード部材5は、冷却ロール2の回転方向に対して連続的に複数配置されてもよい。この場合、1つのブレード部材5にかかる負担が小さくなる。さらに、溶湯3の厚さの精度を高めることができる。
以上に説明した製造装置1では、ブレード部材5によって、冷却ロール2の外周面上の溶湯3の厚さを規制する。そのため、冷却ロール2の外周面上の溶湯3が薄くなる。溶湯3が薄くなることによって、溶湯3の冷却速度が高まる。そのため、製造装置1を用いて合金薄帯を製造すれば、より微細化した結晶子を有する合金薄帯6が製造できる。上記製造装置1を用いた場合、好ましい平均冷却速度は100℃/秒以上である。ここでいう平均冷却速度は、次の式で算出される。
平均冷却速度=(溶湯温度−急冷終了時の合金薄帯の温度)/急冷時間
[MG処理工程]
特定合金粒子は、製造装置1を用いて製造された特定の合金薄帯に対して、メカニカルグラインディング(MG)処理を実施することにより製造される。これにより、急冷凝固工程で製造された合金薄帯の結晶子をさらに小さくし、上述の半値幅に調整する。
MG処理を実施する前に、合金薄帯を予備粉砕しても良い。予備粉砕工程には、通常のボールミルや振動ボールミル、アトライタ、ピンミル、ディスクミルを用いても良い。振動ボールミルの一例は、ヴァーダー・サイエンティフィック社製の商品名ミキサーミルMM400である。
メカニカルグラインディング(MG)処理は次の工程を含む。初めに、合金薄帯をアトライタ又は振動ボールミル等のMG機器に、ボールとともに投入する。ボールとともに、造粒防止のための添加剤もMG機器に投入してもよい。
続いて、MG機器内の合金薄帯に対して高エネルギーでの粉砕と、粉砕により形成された特定合金粒子同士の圧着とを繰り返す。これにより、上述の半値幅(結晶子径)を持つ特定合金粒子を製造する。
MG機器はたとえば、高速遊星ミルである。高速遊星ミルの一例は、栗本鐵工所製の商品明ハイジーBXである。MG機器での好ましい製造条件は次の通りである。
ボール比:5〜80
ボール比とは、ボールの、原料となる合金薄帯に対する質量比であり、次の式で定義される。
ボール比=ボール質量/特定合金薄帯質量
ボール比が小さすぎれば半値幅が小さくなる。一方、ボール比が大きすぎれば、半値幅が大きくなる。したがって、好ましいボール比は5〜80である。ボール比のさらに好ましい下限は10であり、さらに好ましくは12である。ボール比のさらに好ましい上限は60であり、さらに好ましくは40である。
なお、ボールの素材はたとえば、JIS規格で規定されたSUJ2を用いる。ボールの直径はたとえば、0.8mmから10mmである。
MG処理時間:1〜48時間
MG処理時間が短ければ半値幅が小さくなり、結晶子径が大きくなる。一方、MG処理時間が長ければ半値幅が大きくなり、結晶子径が小さくなる。したがって、好ましいMG処理時間は1〜48時間である。MG処理時間の好ましい下限は2時間であり、さらに好ましくは4時間である。MG処理時間の好ましい上限は36時間であり、さらに好ましくは24時間である。なお、MG処理時間に、後述の単位停止時間は含めない。
MG処理中の冷却条件:MG処理3時間当たり30分以上の停止(間欠操業)
MG処理中の合金粒子の温度が高くなりすぎれば、結晶子が大きくなる。MG処理中の機器のチラー冷却水の好ましい温度は1〜25℃である。
さらに、MG処理3時間当たりの合計の停止時間(以下、単位停止時間という)を30分以上にする。MG処理を連続操業した場合、たとえチラー冷却水を上記範囲に調整しても、特定合金粒子の温度が高くなりすぎ、結晶子径が大きくなる。単位停止時間が30分以上であれば、合金粒子の温度が過剰に高くなるのを抑制でき、結晶子径が大きくなるのを抑制できる。
上記MG処理において、造粒防止のための添加剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加することができる。PVPの好ましい添加量は、合金薄帯(原料)の質量に対して、0.5〜8mass%であり、さらに好ましくは、2〜5mass%である。上記添加量の範囲内であれば、合金粒子の平均粒径を適切な範囲に調整しやすくなる。合金粒子の平均粒子径を、例えば、メジアン径(D50)で0.1〜25μmに調整しやすくなる。ただし、MG処理において、添加剤を添加しなくても、合金粒子の平均粒子径を上記範囲に調整できる。
以上の工程により、特定合金粒子が製造される。必要に応じて特定合金粒子に他の活物質(黒鉛)を含有する。以上の工程により、負極活物質材料が製造される。負極活物質材料は、特定合金粒子及び不純物からなるものであってもよいし、特定合金粒子と、他の活物質材料(たとえば黒鉛)とを含有してもよい。
[負極の製造方法]
本実施形態による負極活物質材料を用いた負極はたとえば、次の周知の方法で製造できる。
上記負極活物質材料の粉末に対して、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等のバインダを混合した混合物を製造する。さらに負極に十分な導電性を付与するために、この混合物に天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等の炭素材料粉末を混合し、負極合剤を製造する。これにN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、水などの溶媒を加えてバインダを溶解した後、必要であればホモジナイザ、ガラスビーズを用いて十分に攪拌し、負極合剤をスラリ状にする。このスラリを圧延銅箔、電析銅箔などの支持体に塗布して乾燥する。その後、その乾燥物にプレスを施す。以上の工程により、負極を製造する。
バインダは、負極の機械的強度や電池特性の観点から、負極合剤の総量に対して1〜10質量%であることが好ましい。支持体は、銅箔に限定されない。支持体は例えば、ステンレス、ニッケル等の他の金属の薄箔や、ネット状のシートパンチングプレート、金属素線ワイヤーで編み込んだメッシュなどでもよい。
[電池の製造方法]
本実施形態による非水電解質二次電池は、上述の負極と、正極と、セパレータと、電解液又は電解質とを備える。電池の形状は、円筒型、角形であってもよいし、コイン型、シート型等でもよい。本実施形態の電池は、ポリマー電池等の固体電解質を利用した電池でもよい。
本発明の電池においては、放電した状態における負極活物質材料が、本発明の負極活物質材料として特定される要件を満たしていればよい。
本実施形態の電池の正極は、好ましくは、リチウム(Li)含有遷移金属化合物を活物質として含有する。Li含有遷移金属化合物は例えば、LiM1−xM’xO2、又は、LiM2yM’O4である。ここで、式中、0≦x、y≦1、M及びM’はそれぞれ、バリウム(Ba)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)、スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)の少なくとも1種である。
本実施形態の電池は、遷移金属カルコゲン化物;バナジウム酸化物及びそのリチウム(Li)化合物;ニオブ酸化物及びそのリチウム化合物;有機導電性物質を用いた共役系ポリマー;シェプレル相化合物;活性炭、活性炭素繊維等、といった他の正極材料を用いてもよい。
本実施形態の電池の電解液は、一般に、支持電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水系電解液である。リチウム塩は例えば、LiClO4,LiBF4,LiPF6,LiAsF6,LiB(C6H5),LiCF3SO3,LiCH3SO3,Li(CF3SO2)2N,LiC4F9SO3,Li(CF2SO2)2,LiCl,LiBr,LiI等である。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
有機溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル類が好ましい。但し、カルボン酸エステル、エーテルをはじめとする他の各種の有機溶媒も使用可能である。これらの有機溶媒は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
セパレータは、正極及び負極の間に設置される。セパレータは絶縁体としての役割を果たす。セパレータはさらに、電解質の保持にも大きく寄与する。本実施形態の電池は周知のセパレータを備えればよい。セパレータは例えば、ポリオレフィン系材質であるポリプロピレン、ポリエチレン、又はその両者の混合布、もしくは、ガラスフィルターなどの多孔体である。
電池の容器に、上述の負極と、正極と、セパレータと、電解液又は電解質とを封入して、電池を製造する。
以下、実施例を用いて上述の本実施形態の負極活物質材料、負極及び電池をより詳細に説明する。なお、本実施形態の負極活物質材料、負極及び電池は、以下に示す実施例に限定されない。
表3に示す試験番号1〜20の合金粒子、負極活物質材料、負極、及びコイン電池を製造した。各試験番号について、(I)粉砕まま合金粒子、(II)MG後合金粒子のX線回折測定を実施した。得られたX線プロファイルから、(I)については結晶構造を特定した。(II)については半値幅を解析した。さらに、電池の充放電容量(体積当たりの充放電容量)及び初回充放電効率及び30サイクル後容量維持率を調査した。
各試験番号の合金粒子、負極活物質材料、負極、及びコイン電池の製造方法は、次のとおり実施した。
[合金粒子の製造]
合金粒子(粒状の金属活物質)の化学組成が、表3中の化学組成となるように、溶湯を製造した。たとえば、試験番号1の場合、合金粒子の化学組成が、Cu−12.98at%Sn−7.98at%Siとなるように、つまり、12.98at%のSnと7.98at%のSiを含有し、残部がCu及び不純物からなるように、溶湯を製造した。溶湯は、表3中に示す金属を含有する原料を、高周波溶解して製造した。
表3中の「SC」欄の条件1では、図4に示す製造装置を用いて、上述の実施形態のストリップキャスティング(SC)法により、合金薄帯を製造した。具体的には、水冷式の銅製の冷却ロールを用いた。冷却ロールの回転速度をロール表面の周速度で300メートル毎分とした。アルゴン雰囲気中で前述の溶湯を水平型タンディシュ(アルミナ製)を介して、回転する水冷ロールに供給した。溶湯が回転する水冷ロールに引き上げられることにより溶湯を急冷凝固させた。ブレード部材と水冷ロールとの隙間の幅は80μmであった。ブレード部材はアルミナ製であった。
表3中の「SC条件」欄の条件2では、条件1と異なり、ブレード部材を使用しなかった。その他の条件は条件1と同じとした。つまり、条件2では、従前のストリップキャスティング法により合金薄帯を製造した。
得られた合金薄帯に対して、粉砕処理とMG処理とを実施して、負極活物質材料である合金粒子を製造した。試験番号17及び20については、粉砕処理後にMG処理を実施しなかった。
[粉砕処理による合金粒子(粉砕まま合金粒子)の製造]
製造された合金薄帯に対して、ミキサーミルを用いた粉砕処理を実施した。具体的には、合金薄帯を、ヴァーダー・サイエンティフィック社製のミキサーミル(装置型番:MM400)を用いて粉砕処理した。粉砕容器には内容積が25cm3のステンレス製を用いた。粉砕容器と同じ材質で直径が15mmのボール2個と合金薄帯3gを投入し、振動数の設定値を25rpsとして、240秒間運転して、合金粒子を製造した。表3中の「合金相」の同定には、この工程で得られた合金粒子(粉砕まま合金粒子)を使用した。
[MG処理による合金粒子(MG後合金粒子)の製造]
試験番号17及び20以外の試験番号の合金薄帯に対して、MG処理を実施した。具体的には、合金薄帯と、黒鉛粉末(平均粒子径がメジアン径D50で5μm)、PVPとを90:6:4の比率で混合した。混合物を、アルゴンガス雰囲気中で、高速遊星ミル(栗本鐵工所の商品名ハイジーBX)を用いて、表3に示す「MG条件」欄に記載の条件で、MG処理を実施した。「MG条件」欄が「無」の試験番号(17及び20)では、MG処理を実施しなかった。「MG条件」欄が「条件1」「条件2」「条件3」の試験番号でのMG条件は、それぞれ次のとおりであった。
[条件1]
・回転数:200rpm(遠心加速度12Gに相当)
・ボール比:15(合金薄帯材料:ボール=40g:600g)
・PVP:4mass%
・MG処理時間:12時間
・MG処理3時間あたりの停止時間:30分
[条件2]
・回転数:200rpm(遠心加速度12Gに相当)
・ボール比:6(合金薄帯材料:ボール=100g:600g)
・PVP:1mass%
・MG処理時間:2時間
・MG処理3時間あたりの停止時間:−
[条件3]
・回転数:200rpm(遠心加速度12Gに相当)
・ボール比:150(合金薄帯材料:ボール=4g:600g)
・PVP:4mass%
・MG処理時間:100時間
・MG処理3時間あたりの停止時間:30分
以上の工程により、負極活物質材料である合金粒子を製造した。
[合金粒子の結晶構造の特定及び半値幅の測定]
製造された合金粒子に対して、結晶構造の特定、半値幅の測定、及び結晶子径の測定を実施した。
[結晶構造の特定]
粉砕後であってMG処理前の合金粒子(粉砕まま合金粒子)に対してX線回折測定を実施して、X線回折プロファイルの実測データを得た。具体的には、リガク製SmartLab(ロータターゲット最大出力9KW;45kV−200mA)を用いて、負極活物質材料の粉末のX線回折プロファイルを取得した。得られたX線回折プロファイル(実測データ)に基づいて、リートベルト法により、合金粒子の結晶構造を解析した。X線回折装置及び測定条件は次のとおりであった。解析により明らかとなった構成相を、表3の「合金相」の欄に示した。
[X線回折装置名及び測定条件]
・装置:リガク製SmartLab
・X線管球:Cu−Kα線
・X線出力:45kV、200mA
・入射側モノクロメータ:ヨハンソン素子(Cu−Kα2線及びCu−Kβ線をカット)
・光学系:集中法
・入射平行スリット:5.0degree
・入射スリット:1/2degree
・長手制限スリット:10.0mm
・受光スリット1:8.0mm
・受光スリット2:13.0mm
・受光平行スリット:5.0degree
・ゴニオメータ:SmartLabゴニオメータ
・X線源−ミラー間距離:90.0mm
・X線源−選択スリット間距離:114.0mm
・X線源−試料間距離:300.0mm
・試料−受光スリット1間距離:187.0mm
・試料−受光スリット2間距離:300.0mm
・受光スリット1−受光スリット2間距離:113.0mm
・試料−検出器間距離:331.0mm
・検出器:D/Tex Ultra
・測定範囲:10−120degree
・データ採取角度間隔:0.02degree
・スキャン方法:連続
・スキャン速度:2.0degree/min.
試験番号8の粉砕まま合金粒子の解析を例として、結晶構造の解析方法を以下に説明する。
図7は、熱力学的計算によって得られたCu−Sn−Siの3元系状態図である。図7から、725℃でのCu−19.91at%Sn−7.88at%Si合金はbcc構造のβ相である(希土類は便宜上、Cuに含める)。したがって、この組成の溶湯を急冷凝固させた場合には、必然的にβ相領域を通過することとなる。β相領域を通過中の冷却速度が十分に大きい場合にはD03相及び/又はδ相からなる構成相をほぼ全量、準安定相として生成させることができるはずである。Cu−Sn−Siの3元系合金では、at%でSn:10〜25%、Si:3〜15%及び希土類元素:0.2〜0.6%を含有し、残部はCu及び不純物からなる化学組成を有するとき、十分に速い冷却速度で急冷凝固させた場合に、D03相及び/又はδ相からなる構成相をほぼ全量、準安定状態として生成させることができることを実験的にも確認した。
D03相の結晶構造は立方晶であり、上記のとおり、空間群の分類上、International Table(Volume−A)のNo.225(Fm−3m)となる。また、δ相の結晶構造も立方晶であり、空間群の分類上、International Table(Volume−A)のNo.216(F−43m)となる。
そこで、この空間群番号の構造モデルをリートベルト解析の初期構造モデルとして、リートベルト解析により、対応する試験番号(ここでは試験番号8)の粉砕まま合金粒子の回折プロファイルの計算値(以下、計算プロファイルという)を求めた。リートベルト解析にはRietan−2000(プログラム名)を用いた。
図8は、試験番号8の粉砕まま合金粒子のX線回折プロファイル(実測プロファイル)と、リートベルト法によるフィッティング結果(構造精密化解析後)(計算プロファイル)とを示す図である。図8中の(a)はD03構造の計算プロファイルである。図8を参照して、実測のX線回折プロファイル(図中の(b))の回折ピークは、主に(a)の計算プロファイルと一致した。したがって、試験番号8の粉砕まま合金粒子は、ほぼ全量、D03相からなると同定された。他の試験番号の粉砕まま合金粒子についても、同様の方法で、その結晶構造を特定した(表3の「合金相」欄に表示)。
[半値幅及び結晶子径の測定]
半値幅及び結晶子径は次のとおり測定した。一例として、試験番号8を用いて測定方法を説明するが、他の試験番号についても同様である。
図9は、試験番号8の「MG後合金粒子」のX線回折プロファイルであり、半値幅の解析対象とする最強回折線を持つX線回折プロファイルを示す図である。図9において、試験番号8のMG処理後の粉末X線回折プロファイルの中で、D03相又はδ相に由来する、最大の回折積分強度を有する回折線は2θ=42.90度に存在した。そして、その回折線の半値幅Δ2θ=B(度)は、装置由来の分を補正後、1.68度であった。
さらに、結晶子径Dを上述のシェラーの式による解析で求めた結果、D=5.5nmであった。
他の試験番号の合金粒子についても、同様の方法で、半値幅と結晶子径を求めた。求めた結果を表3に示す。
[コイン電池用の負極の製造]
各試験番号において、上記合金粒子を負極活物質材料とし、負極活物質材料を含有する負極合剤スラリを製造した。具体的には、粉末状の合金活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)(2倍希釈液)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比75:15:10:5(配合量は1g:0.2g:0.134g:0.067g)で混合した混合物を製造した。そして、混練機を用いて、スラリ濃度が27.2%となるように混合物に蒸留水を加えて、負極合剤スラリを製造した。スチレンブタジエンゴムは水で2倍に希釈されたものを使用しているため、秤量上、0.134gのスチレンブタジエンゴムが配合された。
製造された負極合剤スラリを、アプリケータ(150μm)を用いて銅箔上に塗布した。スラリが塗布された銅箔を、100℃で20分間乾燥させた。乾燥後の銅箔は、表面に負極活物質膜からなる塗膜を有した。負極活物質膜を有する銅箔に対して打ち抜き加工を実施して、直径13mmの円板状の銅箔を製造した。打ち抜き加工後の銅箔を、プレス圧500kgf/cm2で押圧して、板状の負極を製造した。
[コイン電池の製造]
製造された負極材と、電解液としてEC−DMC−EMC−VC−FECと、セパレータとしてポリオレフィン製セパレータ(φ17mm)と、正極材として板状の金属Li(φ19×1mmt)とを準備した。準備された負極材、電解液、セパレータ、正極材を用いて、2016型のコイン電池を製造した。コイン電池の組み立てをアルゴン雰囲気中のグローブボックス内で行った。
[コイン電池の充放電特性評価]
各試験番号の電池の初回充放電効率を、次の方法で評価した。
対極に対して電位差0.005Vになるまで、0.1mAの電流値(0.075mA/cm2の電流値)又は、1.0mAの電流値(0.75mA/cm2の電流値)でコイン電池に対して定電流ドープ(電極へのリチウムイオンの挿入、リチウムイオン二次電池の充電に相当)を行った。その後、0.005Vを保持したまま、7.5μA/cm2になるまで定電圧で対極に対してドープを続け、ドープ容量を測定した。
次に、0.1mAの電流値(0.075mA/cm2の電流値)又は、1.0mAの電流値(0.75mA/cm2の電流値)で、電位差1.2Vになるまで脱ドープ(電極からのリチウムイオンの離脱、リチウムイオン二次電池の放電に相当)を行い、脱ドープ容量を測定した。
ドープ容量、脱ドープ容量は、この電極をリチウムイオン二次電池の負極として用いた時の充電容量、放電容量に相当する。したがって、測定されたドープ容量を「充電容量」と定義し、測定された脱ドープ容量を「放電容量」と定義した。コイン電池に対して充放電行い、初回の充電及び放電時のドープ容量及び脱ドープ容量を測定した。測定結果を用いて、初回充放電効率を得た。初回充放電効率は次の式により求めた。
初回充放電効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)×100
初回効率は、負極活物質材料である合金粒子に充電されるときに使用されたリチウムが可逆的に取り出せる比率とみなせる。
[充放電サイクル特性評価]
さらに、30サイクル後の容量維持率を求めた。上述と同一条件でドープと脱ドープとからなるサイクルを30回繰り返し、「1サイクル目の脱ドープ時の放電容量」に対する「30サイクル目の脱ドープ時の放電容量」の比率を求めた。求めた比率を30サイクル後容量維持率とし、充放電サイクル特性の指標とした。結果を表3に示す。
[測定結果]
表3を参照して、試験番号2、3、5、7、8、10〜12、及び15のMG後合金粒子の化学組成は適切であり、特定合金相を含んだ。さらに、特定合金相に起因した最強回折線の半値幅が0.15〜2.5の範囲内であった。そのため、これらの試験番号のコイン電池特性での初回充放電効率は、REMを含有しない実施例よりも高かった。具体的には、試験番号2及び3の初回充放電効率は試験番号1よりも高かった。試験番号5の初回充放電効率は試験番号4よりも高かった。試験番号7〜14の初回充放電効率は試験番号6よりも高かった。試験番号15の初回充放電効率は試験番号16よりも高かった。また、試験番号11〜14に示されるとおり、REM含有量が大きくなるほど、初回充放電効率が高まった。
一方、試験番号9、13及び14では、REM含有量が高すぎた。そのため、初回放電容量が、REM含有量が適切な実施例よりも低かった。具体的には、試験番号9の初回放電容量は、試験番号7及び8よりも低かった。試験番号13及び14の初回放電容量は、試験番号11及び12よりも低かった。
試験番号17では、ブレード部材を使用しないストリップキャスティング法により製造され、さらにメカニカルグラインディングを行わなかった。その結果、特定合金相を含まず、平衡相であるε相及びη’相を含んだ。そのため、初回充放電効率及び30サイクル後容量維持率が低かった。
試験番号18では、結晶子径が小さすぎたため、半値幅が2.5を超えた。そのため、30サイクル後容量維持率が低かった。
試験番号19では、Si含有量が高く、特定合金粒子の結晶構造は特定合金相を含有しなかった。その結果、初回充放電効率及び30サイクル後容量維持率が低かった。
試験番号20では、メカニカルグラインディングを行わなかったため、結晶子径が大き過ぎ、半値幅が0.15未満であった。その結果、初回充電容量、初回放電容量及び初回充放電効率が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。