JP2018123382A - アルミニウム材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】化成処理皮膜の生成ムラを抑制すると共に、化成処理速度を向上させた化成処理用のアルミニウム材及びその製造方法を提供する【解決手段】Cu:5〜5000ppmを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム基材からなり、表面から深さ方向に1μmまでのCu濃縮層におけるCu濃度が、当該Cu濃縮層から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍以上であり、表面に存在する5nm以上のCu粒子が20個/μm2以下であることを特徴とするアルミニウム材及びその製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、自動車のボディ材、熱交換器のフィン材などに用いられる表面処理に対して優れた処理性を示すアルミニウム材及びその製造方法に関し、詳細には、Cuの析出ではなくCuの濃縮層を形成させることにより、表面処理性を向上させたアルミニウム材及びその製造方法に関する。
純アルミニウム材及びアルミニウム合金材(以下、これらを総称して「アルミニウム材」と記す)は、軽量で耐食性、加工性、装飾性、強度、電気伝導性、熱伝導性などに優れているため、様々な分野に使用されている。そのため、アルミニウム材は、軽量性の観点から、自動車、鉄道車両、航空機、船舶などの輸送機の外板や構造部材などの用途分野に用いられ、熱伝導性の観点から、熱交換器などのチューブ材やフィン材などの用途分野に用いられている。輸送機の外板や構造部材として用いられるアルミニウム材が塗装される場合には、塗装の下地処理として、リン酸亜鉛処理やクロム酸クロメート処理等の表面処理が施される。また、熱交換器なども親水性の塗料を塗布する前に下地処理としてリン酸クロメート又はノンクロメート等の表面処理が施される。
上記の用途分野において、成形加工メーカーにおいて、アルミニウム材に対して表面処理を施す場合には、素材メーカーから納入されたアルミニウム合金材を加工・成形し所定の形に組み立てた後に表面処理を施す場合が多い。
アルミニウム材は、母材の合金元素の濃度が同様であっても、表面状態の相異により表面処理性能は著しく変化する。そのため、同一条件で表面処理を施しても目標とする表面処理皮膜量が得られない場合や、表面処理皮膜にムラが生じる場合などの問題があった。
このような問題を解消するため、自動車の表面処理においては、例えば特許文献1には、酸洗浄又はアルカリ洗浄によりCuを表面に析出させる方法が提案されている。しかしながら、表面にCuを析出させるのでは、局所的な表面処理皮膜の形成反応が促進されることによって、自動車としての耐食性が低下する。また、化成処理の向上として、例えば特許文献2には、水洗水のCa濃度とSi濃度を低くすることが提案されている。しかしながら、このような濃度低下によって反応性のムラは改善されるが、処理速度の向上を図るには至っていない。
特開平6−287672号公報 特開2007−70653号公報
本発明は上記事情を背景としてなされたもので、表面処理皮膜の生成ムラを抑制すると共に、処理速度を向上させた表面処理用アルミニウム材及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者は、まず表面処理の反応に着目した。前述したリン酸亜鉛処理、クロメート処理、ノンクロメート処理などによる表面処理皮膜の形成は、アルミニウム材のアノード溶解の対となるカソード反応により引き起こされる溶液pHの上昇によりもたらされる。つまり、カソード反応がアルミニウム材表面で均一に生起すれば、表面処理皮膜は均一に形成される。また、カソード反応の速度が大きくなれば、表面処理皮膜の形成速度である処理速度が向上する。
本発明者は、脱脂・酸洗浄後におけるアルミニウム材表層のCu量に着目し、析出したCuではないCu濃縮層を形成させる方法を検討した。その結果、析出したCuではないCu濃縮層の形成により、表面全体における均一なカソード反応を生起させることが可能となり、更に、このCu濃縮層が表面処理時におけるカソード反応速度を大きくすることで、表面処理速度を高めることが可能となることを見出した。このように、表面処理皮膜の均一形成と表面処理速度を高めるという表面処理性の向上を達成した。このようなCu濃縮層は、アルミニウム材の表面から深さ方向に1μmまでの領域であり、アルカリエッチング処理とそれに続く酸エッチング処理によって、アルミニウム基材の表面におけるアルミニウム元素を優先溶解させることにより達成される。なお、表面処理としては、化成処理、めっき処理などが挙げられる。
本発明は請求項1において、Cu:5〜5000ppmを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム基材からなり、表面から深さ方向に1μmまでのCu濃縮層におけるCu濃度が、当該Cu濃縮層から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍以上であり、表面に存在する5nm以上のCu粒子が20個/μm以下であることを特徴とするアルミニウム材とした。
本発明は請求項2では請求項1において、前記表面に形成される酸化物等皮膜の厚さが4〜20nmであるものとした。
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記酸化物等皮膜の厚さの算術平均値をTavとして、Tavの1.2倍以上の厚さを有する酸化物等皮膜部分の酸化物等皮膜全体に占める割合をP(%)が30%以下であるものとした。
本発明は請求項4において、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム材の製造方法であって、Cu:5〜5000ppmを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム基材を、pH9以上のアルカリ性エッチング処理液を用いて10〜1000mg/mのエッチング量でアルカリエッチング処理した後に、pH3以下の酸性エッチング処理液を用いて10〜500mg/mのエッチング量で酸エッチング処理することを特徴とするアルミニウム合金材の製造方法とした。
本発明は請求項5では請求項4において、前記アルカリエッチング処理に用いるアルカリエッチング処理液中のCu濃度が200ppm以下であり、前記酸溶エッチング処理に用いる酸性エッチング処理液中のCu濃度が200ppm以下であるものとした。
本発明により、表面処理皮膜の生成ムラを抑制すると共に、表面処理速度を向上させるアルミニウム材及びその製造方法が得られる。
1.アルミニウム材
1−1.アルミニウム基材
まず、本発明に係る表面処理用アルミニウム材に用いるアルミニウム基材について説明する。用いるアルミニウム基材は、Cuを5〜5000ppm含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる。ここで、アルミニウム材とアルミニウム基材を区別したのは、本発明に係るアルミニウム材は、アルミニウム基材にアルカリエッチング処理と、それに続く酸エッチング処理を施すことによって得られるためである。アルミニウム基材の材質としては上記合金組成を有していれば特に限定されるものではなく、純アルミニウム、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金等が用いられる。また、アルミニウム基材としては、圧延材、押出材、鋳造材、鍛造材、鋳鍛材のいずれであってもよい。
Cuがマトリクス中に固溶している場合、カソード反応を促進させる。リン酸亜鉛処理、クロメート処理、ノンクロメート処理などの化成処理による表面処理では、カソード反応により生じる局所的な溶液pHの上昇を利用して表面処理皮膜(化成皮膜)が形成される。そのため、カソード反応を促進させることは、表面処理時の反応性(反応速度)を高めることになる。アルミニウム基材中のCu濃度が5ppm未満の場合には、これにアルカリエッチング処理とこれに続く酸エッチング処理を施して調製したアルミニウム材におけるCu濃縮層中のCu濃度も少なくなるため、表面処理性を向上させるには不十分である。一方、アルミニウム基材中のCu濃度が5000ppmを超える場合には、Cu濃縮層中にCuが濃縮する際にCu粒子の析出が多くなる。その結果、表面処理皮膜が局所的に形成され、表面処理皮膜にムラが発生する。
1−2.Cu濃縮層の特性
本発明に係るアルミニウム材におけるCu濃縮層の特性について説明する。この特性は、アルミニウム材の表面から深さ方向に1μmまでの領域であるCu濃縮層におけるCu濃度が、このCu濃縮層から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍以上であり、かつ、アルミニウム材の表面に存在する5nm以上のCu粒子が20個/μm以下存在するというものである。なお、アルミニウム基材として板材を用いる場合には、このようなCu濃縮層を板材の両方の表層に形成しても良く、或いは、一方の表層にのみ形成しても良い。
上述のように、Cu濃縮層にCuが濃縮されることで、カソード反応の促進により表面処理性を向上させる。Cu濃縮層が、深さ方向において、アルミニウム材の表面から1μmよりも更に深い領域、すなわち、深さ方向の中心側(母材側)にわたる場合には、表面処理時において、アルミニウム材の表面から深さ方向に1μmよりも更に深い部分にわたる溶解(表面処理による)が必要となり、表面処理性の向上に寄与しない。従って、表面処理性の向上のためには、Cu濃縮層をアルミニウム材の表面から深さ方向に1μmまでの領域とする必要がある。なお、Cu濃縮層は、好ましくは、アルミニウム材の表面から深さ方向に0.5μmまでの領域である。
更に、Cu濃縮層におけるCu濃度が、このCu濃縮層の領域から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍未満の場合には、カソード反応の促進効果が十分に得られず、表面処理性の向上に寄与しない。従って、表面処理性の向上のためには、Cu濃縮層におけるCu濃度が、Cu濃縮層の領域から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍以上とする必要がある。なお、Cu濃縮層におけるCu濃度は、Cu濃縮層の領域から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.10倍以上とするのが好ましい。また、この濃度比の上限は特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の合金組成や、アルカリエッチング処理及び酸エッチング処理の条件に依存する。
アルミニウム材中におけるCu濃度は、GD−OES(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)を用いて測定される。アルミニウム材の深さ方向プロファイルにおいて、ピークO強度の半値から母材側に1μm以内のCu濃度の最大値とピークO強度の半値から母材側に1μmの部分におけるCu濃度の比からCuの濃縮量を算出した。しかしながら、測定法は、GD−OESと同精度以上を有する測定法であれば、GD−OESに限定されるものではない。
アルミニウム材の表面に存在するCu粒子上において、カソード反応が生起する。このようなCu粒子が多い場合には、ソード反応がCu粒子上で支配的に生起するため、表面処理性にムラが生じる。従って、アルミニウム材の表面に存在するCu粒子の量を制御する必要がある。本発明者は、Cu粒子の存在密度が20個/μmを超える場合に、ソード反応がCu粒子上で支配的に生起することを見出した。従って、アルミニウム材の表面におけるCu粒子の存在密度を20個/μm以下に規定する。この存在密度は、好ましくは10個/μm以下である。また、この存在密度の下限は特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の合金組成や、アルカリエッチング処理及び酸エッチング処理の条件に依存する。
なお、5nm未満のCu粒子はその存在を明確に確認できないため対象とせず、5nm以上のものを対象とした。また、Cu粒子の大きさの上限については、5nm以上であれば特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の合金組成や、アルカリエッチング処理及び酸エッチング処理の条件に依存する。ここで、Cu粒子の大きさと数密度はSEM(Scanning Electron Microscope)により倍率1000000倍で観察し、その大きさは、最大粒子径(円相当直径)として画像解析によって決定した。このように、EDSによりCuと同定され、かつ、5nm以上の大きさを有する粒子の数を測定して、測定面積から数密度を決定した。しかしながら、Cu粒子の大きさと数密度の測定法は、1000000倍以上で観察・同定できる測定法であれば、SEM観察に限定されるものではない。
1−3.酸化物等皮膜
本発明に係るアルミニウム材表面の酸化物等皮膜について説明する。アルミニウム材の表面には、酸化物及び/又は水酸化物の皮膜(以下、「酸化物等皮膜」と記す)が形成されている。この酸化物等皮膜の厚さは、4〜20nmであることが好ましい。アルミニウム材の表面に形成される酸化物等皮膜は、表面処理時における溶解反応の点で表面処理性に大きく寄与する。酸化物等皮膜の厚さが20nmを超える場合には、表面処理を施してもアルミニウム材に対する表面処理反応が生起し難いため、表面処理皮膜も形成され難い。ところで、アルミニウム材は、空気などの酸化性雰囲気中において容易、かつ直ちに酸化されることで、その表面に酸化物等皮膜が形成される。このような酸化反応の容易性と迅速性により、形成される酸化物等皮膜の厚さは、通常4nm以上となる。表面処理性への寄与の点から、酸化物等皮膜の厚さは4〜15nmであるのがより好ましい。
酸化物等皮膜の厚さは、GD−OESを用いて測定される。深さ方向プロファイルにおいて、ピークO強度の半値幅から算出される。しかしながら、測定法はGD−OESと同精度以上を有する測定法であれば、GD−OESに限定されるものではない。
ところで、アルミニウム材表面に形成される酸化物等皮膜の厚さは、一定ではなく厚い部分や薄い部分が存在する。厚い部分は表面処理され難いために、表面処理工程において、厚い部分が表面処理されず、或いは、表面処理の程度が低くなる。本発明者は、このような厚い部分が多く存在すると、これらの部分が表面処理後に顕著な処理ムラとなることを見出し、このような厚い部分の存在割合と発生する処理ムラとの関係を明らかにした。
具体的には、酸化物等皮膜の厚さの算術平均値をTavとして、Tavの1.2倍以上の厚さを有する酸化物等皮膜部分に着目した。酸化物等皮膜の全体に対するTavの1.2倍以上の厚さの酸化物等皮膜部分が占める割合をP(%)としてPが30%を超える場合に、顕著な処理ムラが発生することを見出した。従って、Pを30%以下に制御することが好ましい。Pは、15%以下に制御することがより好ましい。ここで、厚い部分を、Tavの1.2倍以上の厚さを有する酸化物等皮膜部分に限定したのは以下の理由による。Tavの1.2倍未満の厚さを有する酸化物等皮膜部分では、表面処理工程において表面処理がされないことはなく、表面処理の程度も表面処理性が損なわれるほどではないからである。
酸化物等皮膜の全体に対して、Tavが1.2倍以上の厚さの酸化物等皮膜部分が占める割合Pの測定方法としては、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)が用いられる。具体的には、加速電圧は7kVとし、アルミニウム材の表面に対して強度のマッピングを行い、得られたO強度の平均値よりも1.2倍以上のO強度が得られる部分をTavが1.2倍以上の厚さの酸化物等皮膜部分として、この部分の酸化物等皮膜の全体に対する割合を算出してPとした。しかしながら、測定方法としては、EPMAと同精度以上を有するものであれば、EPMAに限定されるものではない。
2.アルミニウム材の製造方法
次に、本発明に係るアルミニウム材の製造方法につて説明する。上記のアルミニウム基材を、pH9以上のアルカリ性エッチング処理液を用いて10〜1000mg/mのエッチング量でアルカリエッチング処理した後に、pH3以下の酸性エッチング処理液を用いて10〜500mg/mのエッチング量で酸エッチング処理することによりアルミニウム材が製造される。
2−1.アルカリ性エッチング処理液とエッチング量
用いるアルカリ性エッチング処理液のpHは、9以上である。pHが9未満では、アルミニウム基材の溶解がほとんど起こらず生産性が低下する。なお、アルカリ性エッチング処理液の好ましいpHは、10以上である。また、pHが13を超えるとスマットの生成量が増加し生産性を低下させることになる場合があるため、13以下のものを用いるのが好ましい。
アルカリエッチング処理におけるアルミニウム基材のエッチング量は、10〜1000mg/mとする。このエッチング量が10mg/m未満では、表面に形成されている酸化物等皮膜を完全に溶解できないため、アルミニウム基材における母材の溶解は起こらずCu濃縮層が形成されない。一方、エッチング量が1000mg/mを超えるとスマット量が多くなる。その結果、排水処理に問題が生じる問題が生じ、更にスマット除去に時間を要するため生産性が低下する。好ましいエッチング量は、50〜500mg/mである。
2−2.酸エッチング処理液とエッチング量
用いる酸性エッチング処理液のpHは、3以下である。pHが3を超えると、アルカリエッチング処理時に析出したCu粒子が溶解しないため、表面処理における処理ムラが生じる。なお、酸性エッチング処理液の好ましいpHは、2以下である。
酸エッチング処理におけるエッチング量は、10〜500mg/mとする。このエッチング量が10mg/m未満では、アルカリエッチング処理で発生したスマットを除去できず表面処理性が低下する。一方、エッチング量が500mg/mを超えると、Cu濃縮層も溶解してしまうため表面処理性の向上が図れない。好ましいエッチング量は、50〜500mg/mである。
2−3.エッチング処理液中のCu濃度
アルカリエッチング処理に用いるアルカリ性エッチング処理液中のCu濃度(Cu2+濃度)を200ppm以下とするのが好ましい。アルカリ性エッチング処理液中のCu濃度が200ppmを超える場合には、アルカリエッチング処理中にCu析出量が多くなり、表面処理において処理にムラが発生する。アルカリ性エッチング処理液中のCu濃度は、100ppm以下とするのがより好ましい。このCu濃度の下限値は特に限定されるものではないが、純水の使用がコストの増加に繋がるとの理由から90ppm程度とするのが好ましい。
酸エッチング処理に用いる酸性エッチング処理液中のCu濃度(Cu2+濃度)を200ppm以下とするのが好ましい。酸性エッチング処理液中のCu濃度が200ppmを超える場合には、酸エッチング処理中にCu析出量が多くなり、更に析出したCu粒子が溶解しないため、表面処理において処理ムラが発生する。酸性エッチング処理液中のCu濃度は、100ppm以下とするのがより好ましい。このCu濃度の下限値は特に限定されるものではないが、純水の使用がコストの増加に繋がるとの理由から90ppm程度とするのが好ましい。
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。これら実施例は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
実施例に用いた厚さ1mmのアルミニウム板(70mm×150mm)の合金組成を、表1に示す。A1は1000系、A2は2000系、A3は3000系、A4は4000系、A5は5000系のアルミニウム合金を基にして、それぞれにCuを添加してアルミニウム材を調製した。このようにして調製したアルミニウム材を、表2に示す60℃のアルカリ性エッチング処理液に5秒〜1分間浸漬した。次いで、アルカリエッチング処理した試料を25℃の純水で水洗した後に、表3に示す70℃の酸性エッチング処理液に5
秒〜1分間浸漬した。更に、酸エッチング処理した試料を25℃の純水で水洗してアルミニウム材試料を作製した。なお、アルカリエッチング処理量及び酸エッチング処理量はそれぞれ、エッチング処理前後の質量差から求め、処理時間を変えることでエッチング処理量を調整した。
Figure 2018123382
Figure 2018123382
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上記のようにして作製したアルミニウム材試料をGD−OESを用いて測定し、Cu濃縮層において濃縮されたCu濃縮量を以下の式から算出した。
Cu濃縮量=(ピークO強度の半値から表面側に1μm以内のCu濃度の最大値−ピークO強度の半値から母材側に1μmの部分におけるCu濃度)/(ピークO強度の半値から母材側に1μmの部分におけるCu濃度)
また、Cu粒子数は、SEMによって倍率1000000倍で観察し、EDSによりCuと同定された粒子の数を測定して得た。更に、酸化物等皮膜の厚さは、GD−OESを用いてピークO強度の半値幅より算出した。なお、Tavが1.2倍以上の厚さの酸化物等皮膜部分については、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、加速電圧は7kVとし、アルミニウム材料表面に対してO強度のマッピングを行い、得られたO強度の平均値よりも1.2倍以上のO強度が得られる部分とした。
アルミニウム材試料の表面処理は、市販のリン酸亜鉛処理剤又はZr系処理剤にアルミニウム材試料を浸漬することによってリン酸亜鉛処理又はZr系処理として実施した。処理条件は、処理液温度50℃、処理時間10秒とした。このような表面処理を施した表面処理材に対して、XRF(X−ray Fluorescence)を用いて表面処理皮膜量を測定した。
表面処理性として向上率を、以下のようにして評価した。上述のようにして、アルカリエッチング処理と、それに続く酸エッチング処理したアルミニウム材に対してリン酸亜鉛処理剤又はZr系処理剤による化成処理で形成された表面処理材の表面処理皮膜量を測定し、比較材として、30mass%HNOに30秒間浸漬して硝酸処理を行ったアルミニウム材に対してリン酸亜鉛処理剤又はZr系処理剤による化成処理で形成された表面処理材の表面処理皮膜量を測定した。そして、以下の式によって、表面処理性の向上率を求めた。なお、表面処理皮膜量はXRFを用いて測定した
向上率(%)={(アルカリエッチング処理と、それに続く酸エッチング処理したアルミニウム材の表面処理皮膜量−硝酸処理したアルミニウム材の表面処理皮膜量)/(硝酸処理後の表面処理皮膜量)}×100
向上率が20%以上であれば、表面処理性の向上率を合格とし、それ未満を不合格として評価した。
また、表面処理性としてムラについても、以下のようにして評価した。上述の表面処理材、或いは、上述の硝酸処理した硝酸処理材に対して上述のリン酸亜鉛処理又はZr系処理を施した材料に対して、SEM(Scanning Electron Microscope)―EDX(Energy dispersive spectroscopy)を用いて表面処理皮膜をそれぞれ観察・分析した。そして、以下の式によって、表面処理皮膜のムラを求めた。なお、ムラの評価は、リン酸亜鉛処理皮膜に対してはSEM
表面処理のムラ(%)={(アルカリエッチング処理と、それに続く酸エッチング処理したアルミニウム材の表面処理皮膜の被覆率−硝酸処理したアルミニウム材の表面処理皮膜量)/(硝酸処理後の表面処理皮膜の被覆率)}×100
表面処理のムラが1%以上であれば、表面処理のムラが向上したとして合格とし、それ未満を不合格とした。
以上の評価結果を表4、5に示す。本発明例1〜10では、リン酸亜鉛処理及びZr系処理に対する表面処理性(向上率、ムラ)に優れ良好な結果が得られた。
Figure 2018123382
Figure 2018123382
比較例1では、アルミニウム基材中のCu含有量が少なく濃縮が起こらなかった。その結果、表面処理性の向上率が不合格であった。
比較例2では、アルミニウム基材中のCu含有量が多かったため、Cu粒子が多量に析出した。その結果、表面処理性の向上率が不合格であり、Zr系処理において表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例3では、アルカリ性エッチング処理液中のCu2+濃度が高かったため、アルカリエッチング処理中にCu粒子が多量に析出した。その結果、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例4では、酸性エッチング処理液のpHが高かったため、析出したCuが溶解せず、更にアルカリエッチング処理で発生したスマットも除去されず、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において表面処理皮膜量が増加しなかった。その結果、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において、表面処理性の向上率が不合格であり、表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例5では、酸性エッチング処理液中のCu2+濃度が高かったため、酸性エッチング処理液中でCu粒子が多量に析出した。その結果、Zr系処理において表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例6では、アルカリエッチング処理におけるエッチング量が少なかったため、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において表面処理性の向上率が不合格であり、Zr系処理において表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例7では、酸性エッチング処理におけるエッチング量が多かったため、アルカリエッチング処理で形成されたCu濃縮層が除去された。その結果、リン酸亜鉛処理において表面処理性の向上率が不合格であり、Zr系処理において表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例8では、酸性エッチング処理におけるエッチング量が少なかったため、析出したCuが溶解せず、更にアルカリエッチング処理で発生したスマットも除去されず、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において表面処理皮膜量が増加しなかった。その結果、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において、表面処理性の向上率が不合格であり、表面処理皮膜にムラが発生した。
比較例9では、アルカリエッチング処理液のpHが低かったため、アルカリエッチング処理におけるエッチング量が少なくなり、Cu濃縮層が形成されなかった。その結果、リン酸亜鉛処理及びZr系処理において表面処理性の向上率が不合格であった。
表面処理皮膜の生成ムラを抑制すると共に、表面処理速度を向上させるアルミニウム材及びその製造方法が提供される。

Claims (5)

  1. Cu:5〜5000ppmを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム基材からなり、表面から深さ方向に1μmまでのCu濃縮層におけるCu濃度が、当該Cu濃縮層から深さ方向に更に深い領域におけるCu濃度の1.02倍以上であり、表面に存在する5nm以上のCu粒子が20個/μm以下であることを特徴とするアルミニウム材。
  2. 前記表面に形成される酸化物等皮膜の厚さが4〜20nmである、請求項1に記載のアルミニウム材。
  3. 前記酸化物等皮膜の厚さの算術平均値をTavとして、Tavの1.2倍以上の厚さを有する酸化物等皮膜部分の酸化物等皮膜全体に占める割合をP(%)が30%以下である、請求項1又は2に記載のアルミニウム材。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム材の製造方法であって、Cu:5〜5000ppmを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム基材を、pH9以上のアルカリ性エッチング処理液を用いて10〜1000mg/mのエッチング量でアルカリエッチング処理した後に、pH3以下の酸性エッチング処理液を用いて10〜500mg/mのエッチング量で酸エッチング処理することを特徴とするアルミニウム材の製造方法。
  5. 前記アルカリエッチング処理に用いるアルカリ性エッチング処理液中のCu濃度が200ppm以下であり、前記酸エッチング処理に用いる酸性エッチング処理液中のCu濃度が200ppm以下である、請求項4に記載のアルミニウム材の製造方法。
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