以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。また、本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
最初に本発明において使用される用語および一般的な技術を説明する。
本明細書において、「Glypican-1」、「GPC−1」または「GPC1」は、交換可能に使用される用語であり、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型細胞表面プロテオグリカンであり、ヘパラン硫酸を有するものである。細胞接着、移動、リポタンパク質代謝、増殖因子活性調節および血液凝固抑止に関連するとされている。いくつかの線維芽細胞増殖因子(FGF)、例えば、FGF−1、FGF−2およびFGF−7に結合するといわれる。Glypican-1は、VEGF165の細胞外シャペロンとして機能し、酸化後のレセプター結合能を回復することを支援するとされる。Glypicanは現在のところGlypican-1〜Glypican−6の6種類が知られているが、癌との関係ではGlypican-ファミリーメンバーであるからといっても必ずがんマーカーであると認識されているものではなく、メンバー相互は無関係であるようである。Glypican−1は、UniProtにアクセッション番号P35052として登録されており(http://www.uniprot.org/uniprot/P35052を参照)、このほか、NCBIでは、NP_002072.2(前駆体アミノ酸配列)、NM_002081.2(mRNA)、EMBL、GenBankおよびDDBJでは、X54232.1(mRNA)、BC051279.1(mRNA)、AC110619.3(genomic)として登録されている。これらはいずれも、本明細書において利用することができる情報であり、その情報を本明細書において参考として援用する。Glypican-1については、David G et al., J Cell Biol. 1990 Dec;111(6 Pt 2):3165-76;Haecker U et al., Nat Rev Mol Cell Biol. 2005 Jul;6(7):530-41;Aikawa T et al., J Clin Invest. 2008Jan;118(1):89-99.;Matsuda K, et al., Cancer Res. 2001 Jul 15;61(14):5562-9.等を参照。ヒトGlypican-1の核酸配列(全長)は、配列番号1が代表例であり、アミノ酸配列は配列番号2が代表例である。本明細書の目的で使用される場合は、「Glypican-1」、「GPC−1」または「GPC1」は、本発明の具体的な目的に合致する限り、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその類似体もしくは誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、本発明において用いることができることが理解される。
本明細書で使用される「誘導体」、「類似体」または「変異体」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となるタンパク質(例えば、Glypican-1)に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、(高度に)ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、天然存在タンパク質を改変した産物であり、その誘導体がなお天然存在タンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本明細書において、本発明のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。本発明では、Glypican-1についてヒトが主に論じられるが、チンパンジー(Pantroglodytes)(K7B6W5)、アカゲザル(Macaca mulatta)(F6VPW9)、マウス(Mus musculus)(Q9QZF2)、ラット(Rattus norvegicus)(P35053)、ニワトリ(Gallus gallus)(F1P150)等、ヒト以外の多くの動物がGlypican-1タンパク質を発現していることが知られているため、これらの動物、特に哺乳動物についても、本発明の範囲内に入ることが理解される。好ましくは、Glypican-1の機能的ドメイン、例えば、細胞外ドメイン(約500アミノ酸であり、12のシステイン残基を含む)やC末端の疎水性領域(GPI-アンカードメイン)は保存されていることが好ましい。
本発明において、Glypican-1のフラグメントとは、Glypican-1の任意の領域を含むポリペプチドであり、本発明の目的(例えば、マーカーまたは治療標的)として機能する限り、必ずしも天然のGlypican-1の生物学的機能を有していなくてもよい。
したがって、Glypican-1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、Glypican-1の有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ることをいう。
Glypican-1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、Glypican-1の有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ること(例えば、抗原として用いられる場合特異的エピトープとして機能し得る領域を含むこと)をいう。
本発明の関連において、「Glypican-1に結合する物質」、「Glypican-1(の)結合剤」または「Glypican-1相互作用分子」は、少なくとも一時的にGlypican-1に結合する分子または物質である。検出目的では好ましくは、結合したことを表示しうる(例えば標識されるか標識可能な状態である)ことが有利であり、治療目的では、さらに治療用薬剤が結合していることが有利である。Glypican-1に結合する物質は、例としては、抗体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができる。Glypican-1に結合する物質または「Glypican-1相互作用分子は、Glypican-1の阻害剤であってもよく、例えばGlypican-1に対して向けられる、特にGlypican-1の活性部位に対して向けられる、結合性タンパク質または結合性ペプチド、並びにGlypican-1遺伝子に対して向けられる核酸も含まれる。Glypican-1に対する核酸は、例えばGlypican-1遺伝子の発現またはGlypican-1の活性を阻害する、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、あるいはその修飾物または誘導体を指し、そしてアンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(低分子干渉RNA)およびリボザイムを含むがこれらに限定されない。本明細書において、Glypican-1について「結合タンパク質」または「結合ペプチド」とは、Glypican-1に結合する任意のタンパク質またはペプチドを指し、そしてGlypican-1に対して指向される抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)、抗体フラグメントおよび機能的等価物を含むがこれらに限定されない。
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係る抗体が「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係る蛋白質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。蛋白質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、または側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。アミノ酸は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260: 2605-2608(1985);Rossolini et al., Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本発明の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
本発明の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Market al., Proc Natl Acad Sci USA.1984 Sep;81(18): 5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。欠失等がなされた抗体は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
本発明の一実施形態において「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、または100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline-sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1-38, DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42−7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50°Cでの、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42°Cでの約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60°C、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本発明において使用されるポリペプチドには、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸あるいは部分とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子(例えば、Glypican-1)において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいい、複合分子にあっては対応する部分(例えば、ヘパラン硫酸等)をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S−S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。このような対応する領域またはドメインは、本発明において複合分子を設計する場合に有用である。
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、ヒトのGlypican-1は、それぞれ、他の動物(特に哺乳動物)において、対応するGlypican-1を見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある動物(例えば、マウス)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、Glypican-1等)は、配列番号1または配列番号2等の配列をクエリ配列として用いてその動物の配列を含むデータベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明においては、例えば、Glypican-1が食道がん細胞のアポトーシス、カスパーゼ−3の切断、AKTのリン酸化等に関与する機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子の間の結合およびそれによって生じる生物学的変化であり得、そして、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、Glypican-1の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、Glypican-1のmRNAの量、Glypican-1タンパク質の量、そしてGlypican-1タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、Glypican-1の発現レベルを知ることができる。このような測定値はコンパニオン診断において使用し得る。Glypican-1のmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「Glypican-1」またはその抗体の機能的等価物は、Glypican-1またはその抗体自体ではないが、Glypican-1またはその抗体の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、Glypican-1またはその抗体の持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、Glypican-1またはその抗体自体またはこのGlypican-1またはその抗体の変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、Glypican-1またはその抗体自体またはGlypican-1またはその抗体の変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本発明において、Glypican-1またはその抗体の機能的等価物は、格別に言及していなくても、Glypican-1またはその抗体と同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))、FASTA(Pearson &Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびinsituハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、Glypican-1のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
本明細書において「抑制剤」とは、対象となる実体(例えば、レセプターまたは細胞)に対してそのレセプターまたは細胞の生物学的作用を阻害する物質または因子をいう。本発明のGlypican-1の抑制剤としては、対象となるGlypican-1またはGlypican-1を発現する細胞等の機能を一時的または永久に低下または消失させることができる因子である。このような因子には、抗体、その抗原結合フラグメント、それらの誘導体、機能的等価物、アンチセンス、siRNA等のRNAi因子等の核酸の形態のもの等を挙げることができるがこれら
に限定されない。
本明細書において「アゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用を発現またはそれを増強する物質をいう。天然のアゴニスト(リガンドとも称される)のほか、合成されたものや改変されたもの等を挙げることができる。
本明細書において「アンタゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用の発現を抑制または阻害する物質をいう。天然のアンタゴニストのほか、合成されたものや改変されたもの等を挙げることができる。アゴニスト(またはリガンド)と競合的に抑制または阻害するもののほか、非競合的に抑制または阻害するもの等がある。アゴニストを改変することによっても得られうる。生理現象を抑制または阻害することから、アンタゴニストは抑制剤(阻害剤)または抑制(する)因子の概念に包含されうる。したがって、本明細書においては実質的にアンタゴニストは「抑制剤」と同義で用いられる。
本発明の一実施形態において「抗Glypican-1抗体」は、Glypican-1に結合性を有する抗体を含む。この抗Glypican-1抗体の生産方法は特に限定されないが、例えば、Glypican-1を哺乳類または鳥類に免疫することによって生産してもよい。
また、「Glypican-1に対する抗体(抗Glypican-1抗体)、または、そのフラグメント」の「機能的等価物」は、例えば、抗体の場合、Glypican-1の結合活性、必要であれば抑制活性を有する抗体自体およびそのフラグメント自体のほか、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、scFv−Fcなども包含されることが理解される。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、悪性腫瘍の増殖が特に強く抑制される観点からは、Glypican-1の特定のエピトープに特異的に結合する抗Glypican-1抗体であることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体であれば、ポリクローナル抗体に比べて、効率的にGlypican-1に対して作用させることができる。抗Glypican-1モノクローナル抗体を効率的に生産する観点からは、Glypican-1をニワトリに免疫することが好ましい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体の抗体クラスは特に限定されないが、例えばIgM、IgD、IgG、IgA、IgE、またはIgYであってもよい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、抗原結合活性を有する抗体断片(以下、「抗原結合性断片」と称することもある)であっても良い。この場合、安定性または抗体の生産効率が上昇する等の効果がある。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、融合蛋白質であってもよい。この融合蛋白質は、抗Glypican-1抗体のNまたはC末端に、ポリペプチドまたはオリゴペプチドが結合したものであってもよい。ここで、オリゴペプチドは、Hisタグであってもよい。また融合蛋白質は、マウス、ヒト、またはニワトリの抗体部分配列を融合したものであってもよい。それらのような融合蛋白質も、本実施形態に係る抗Glypican-1抗体の一形態に含まれる。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、例えば、精製Glypican-1、Glypican-1発現細胞、またはGlypican-1含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体であってもよい。Glypican-1陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、Glypican-1発現細胞を免疫に使用することが好ましい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、精製Glypican-1、Glypican-1発現細胞またはGlypican-1含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体の、CDRセットを有する抗体であってもよい。Glypican-1陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、Glypican-1発現細胞を免疫に使用することが好ましい。CDRセットとは、重鎖CDR1、2、および3、並びに、軽鎖CDR1、2、および3のセットである。
本発明の一実施形態において「Glypican-1発現細胞」は、例えば、Glypican-1をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入後、Glypican-1を発現させることによって得てもよい。ここでGlypican-1は、Glypican-1断片を含む。また本発明の一実施形態において「Glypican-1含有脂質膜」は、例えば、Glypican-1と脂質二重膜を混合することによって得てもよい。ここでGlypican-1は、Glypican-1断片を含む。また本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、Glypican-1陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、抗原をニワトリに免疫する工程を経て得られる抗体、またはその抗体のCDRセットを有する抗体が好ましい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、目的を達成する限り、どのような結合力を有していてもよく、例えば、少なくとも1.0×106以上、2.0×106以上、5.0×106以上、1.0×107以上を挙げることができるがこれらに限定されず、通常は、KD値(kd/ka)が、1.0×10-7以下であってもよく、1.0×10-9(M)あるいは1.0×10-10(M)であってもよい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、ADCCまたはCDC活性を有していてもよい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、Glypican-1の野生型または変異型に結合する抗体であってもよい。変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。野生型または変異型のGlypican-1のアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有している。
本明細書において「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子またはその集団を含む。また抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、様々な形態で存在することができ、例えば、全長抗体(Fab領域とFc領域を有する抗体)、Fv抗体、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、diabody、一本鎖(単鎖)抗体(例えば、scFv)、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、scFv−Fc、dsFv、多価特異的抗体(例えば、オリゴ特異的抗体、二価特異的抗体)、ダイアボディー、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-ヒトキメラ抗体等)、マウス抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはそれらの同等物(または等価物)からなる群から選ばれる1種以上の形態であってもよい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本発明で用いられる抗Glypican-1抗体は、Glypican-1のタンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本発明においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体のGlypican-1タンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
本発明の一実施形態において「ポリクローナル抗体」は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、および所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全または不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、または界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):86-91.)。
本発明の一実施形態において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体である場合を含む。または、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、モノクローナル抗体は、"KohlerG, Milstein C., Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。または、モノクローナル抗体は、"Clacksonet al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628."、または"Marks et al., J MolBiol. 1991 Dec 5;222(3):581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。または、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法でよって作製してもよい。
抗体の大量生産については、当該分野で公知の任意の手法を用いることができるが、例えば、代表的な抗体の大量生産系の構築および抗体製造としては、以下を例示することができる。すなわち、CHO細胞にH鎖抗体発現ベクターおよびL鎖抗体発現ベクターをトランスフェクションし、選択試薬であるG418およびZeocinを用いて培養を行い、限界希釈法によるクローニングを行う。クローニング後、安定的に抗体を発現しているクローンをELISA法により選択する。選択したCHO細胞を用いて拡大培養し、抗体を含む培養上清を回収する。回収した培養上清からProtein AもしくはProteinG精製により抗体を精製することができる。
本発明の一実施形態において「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
本発明の一実施形態において「Fab抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体を、蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
本発明の一実施形態において「F(ab’)2抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab’)2は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体を、蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
本発明の一実施形態において「Fab’抗体」は、例えば、F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
本発明の一実施形態において「scFv抗体」は、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFv抗体は、例えば、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
本発明の一実施形態において「ダイアボディ―(diabody)」は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
本発明の一実施形態において「dsFv」は、VHおよびVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、上記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiteretal., Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
本発明の一実施形態において「抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド」は、抗体のVH、VL、またはそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
上記のFv抗体、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、scFv抗体、diabody、dsFv抗体、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド(以下、「Fv抗体等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体におけるFv抗体等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。または、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお本発明の一実施形態に係る抗原結合性断片は、上記Fv抗体等の1種以上であってもよい。
本発明の一実施形態において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。マウス-ヒトキメラ抗体は、例えば、"Roguskaet al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。または、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域およびヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を、L鎖のものについてはCλまたはCκを各々挙げることができる。
本発明の一実施形態において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、およびヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagro etal., FRont Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al.,Blood.1999 Jun1;93(11):3922-3930.)、Re-surfacing (Roguska et al., Proc Natl Acad Sci US A.1994 Feb 1;91(3):969-973.)、またはFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmannet al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。または、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
本発明の一実施形態において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域および定常領域、軽鎖の可変領域および定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、"Lonberget al., Int Rev Immunol. 1995;13(1):65-93."に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコート蛋白質(g3p、g10p等)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合蛋白質として発現させるシステムである。例えば、"Vaughanet al., Nat Biotechnol. 1996 Mar;14(3):309-314."に記載の方法で作製できる。
また抗体は、CDR-grafting(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)によって任意の抗体に本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをグラフティングすることで作製してもよい。または、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをコードするDNAと、公知のヒトまたはヒト以外の生物由来の抗体の、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域をコードするDNAとを、当該技術分野で公知の方法に従ってベクターに連結後、公知の細胞を使用して発現させることによって得ることができる。このとき、抗Glypican-1抗体の標的抗原への作用効率を上げるために、当該分野で公知の方法(例えば、抗体のアミノ酸残基をランダムに変異させ、反応性の高いものをスクリーニングする方法、またはファージディスプレイ法等)を用いて、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域を最適化してもよい。また、例えば、FRシャッフル(Damschroderetal., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)、またはバーニヤゾーンのアミノ酸残基またはパッケージング残基を置換する方法(特開2006-241026、またはFooteetal., J Mol Biol.1992 Mar 20;224(2):487-499.)を用いて、FR領域を最適化してもよい。
本発明の一実施形態において「重鎖」は、典型的には、全長抗体の主な構成要素である。重鎖は、通常、軽鎖とジスルフィド結合および非共有結合によって結合している。重鎖のN末端側のドメインには、同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が一定しない可変領域(VH)と呼ばれる領域が存在し、一般的に、VHが抗原に対する特異性、親和性に大きく寄与していることが知られている。例えば、"Reiteretal., J Mol Biol. 1999 Jul 16;290(3):685-98."にはVHのみの分子を作製したところ、抗原と特異的に、高い親和性で結合したことが記載されている。さらに、"WolfsonW,Chem Biol. 2006 Dec;13(12):1243-1244."には、ラクダの抗体の中には、軽鎖を持たない重鎖のみの抗体が存在していることが記載されている。
本発明の一実施形態において「CDR(相補性決定領域)」は、抗体において、実際に抗原に接触して結合部位を形成している領域である。一般的にCDRは、抗体のFv(可変領域:重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む)上に位置している。また一般的にCDRは、5〜30アミノ酸残基程度からなるCDR1、CDR2、CDR3が存在する。そして、特に重鎖のCDRが抗体の抗原への結合に寄与していることが知られている。またCDRの中でも、CDR3が抗体の抗原への結合における寄与が最も高いことが知られている。例えば、"Willyet al., Biochemical and Biophysical Research Communications Volume 356, Issue 1, 27 April 2007, Pages 124-128"には、重鎖CDR3を改変させることで抗体の結合能を上昇させたことが記載されている。CDR以外のFv領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれ、FR1、FR2、FR3およびFR4からなり、抗体間で比較的よく保存されている(Kabatet al.,「Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept. Health and Human Services, 1983.)。即ち、抗体の反応性を特徴付ける要因はCDRにあり、特に重鎖CDRにあるといえる。
CDRの定義およびその位置を決定する方法は複数報告されている。例えば、Kabatの定義(Sequences of Proteins ofImmunological Interest, 5th ed., Public HealthService,National Institutes ofHealth, Bethesda, MD. (1991))、またはChothiaの定義(Chothiaet al., J. Mol.Biol.,1987;196:901-917)を採用してもよい。本発明の一実施形態においては、Kabatの定義を好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、または各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothiaの定義の折衷案である、OxfordMolecular'sAbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989;86:9268-9272)がある。このようなCDRの情報を用いて、本発明に使用されうる変異体を生産することができる。このような抗体の変異体では、もとの抗体のフレームワークに1または数個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個)の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まないように生産することができる。
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。本発明の抗体は、エピトープが同じであれば、他の配列を有する抗体であっても同様に利用することができることが理解される。
本明細書において使用される抗体は、擬陽性が減じられる限り、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識することができる手段をいう。
本明細書において「マーカー(物質または遺伝子)」とは、ある状態(例えば、疾患状態、障害状態、あるいは悪性状態のレベル、有無等)にあるかまたはその危険性があるかどうかを追跡する示標となる物質をいう。このようなマーカーとしては、遺伝子、遺伝子産物、代謝物質、酵素などを挙げることができる。本発明において、ある状態(例えば、癌等の疾患の状態)についての検出、診断、予備的検出、予測または事前診断は、その状態に関連するマーカーに特異的な薬剤、剤、因子または手段、あるいはそれらを含む組成物、キットまたはシステム等を用いて実現することができる。本明細書において、「発現産物」(遺伝子産物ともいう)とは、遺伝子によってコードされるタンパク質またはmRNAをいう。本明細書では、食道がんへの関連が示されていない遺伝子産物(Glypican-1)が食道がんの指標として使用可能であることが見出された。
本明細書において「食道がん」とは、通常の意味で使用され、食道におけるがんを含む広義の意味で使用される。食道がんとしては、扁平上皮癌のほか、腺癌、リンパ節転移部位のもの等も包含されるがこれに限定されない。日本人の食道がんは、約半数が胸の中の食道中央付近から発生し、次いで1/4が食道の下部に発生するとされており、本発明はいずれも対象とすることが理解される。理論に束縛されることを望まないが、本発明では、扁平上皮癌のほか、腺癌、リンパ節転移部位のものを含め食道がん全体の指標として使用されうることが期待される。
本明細書において「被験体(者)」とは、本発明の診断または検出、あるいは治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
本明細書において「試料」とは、被験体等から得られた任意の物質をいい、例えば、血清等が含まれる。当業者は本明細書の記載をもとに適宜好ましい試料を選択することができる。
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「診断」とは、被験体における疾患、障害、状態(例えば、食道がん)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状または未来を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。
本明細書において「検出薬(剤)」または「検査薬(剤)」とは、広義には、目的の対象を検出または検査することができるあらゆる薬剤をいう。
本明細書において「診断薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を診断できるあらゆる薬剤をいう。
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、食道がん)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお食道がんの治療薬は、食道がんの予防のために用いられる薬物(予防薬)、または食道がん細胞の増殖抑制剤を含む。
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、食道がん)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本発明の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本発明の薬剤を用いて例えば、食道がん等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。本発明の検出、検査および診断は、このような相互作用を利用して実現することができる。
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つの物質の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
従って、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に」相互作用する(または結合する)「因子」(または、薬剤、検出剤等)とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含む試料中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用する(または結合する)ことをいう。物質または因子について特異的な相互作用(または結合)としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の反応、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)ことには、抗体と、その抗原との間の相互作用(または結合)が包含される。このような特異的な相互作用または結合の反応を利用することにより、試料中の対象物の検出または定量お行うことができる。
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、検出剤、検査剤または診断剤への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、NatGenet.2002Dec;32 Suppl:526−532に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、invitro翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞、組織などにおいて、ポリペプチドまたはmRNA等が発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現量を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。減少のうち「消失」した場合は、活性、発現産物等が検出限界未満になることをいい、特に「消失」ということがある。本明細書では、「消失」は「減少」または「抑制」に包含される。
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
本明細書において「(核酸)プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。本明細書においてプライマーはマーカー検出手段として使用され得る。
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチド、特異的抗体またはそのフラグメントなどが挙げられるがそれに限定されない。本明細書においてプローブは、マーカー検出、検査または診断の手段としてもちいられる。
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本発明のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、AlexaTM Fluorが望ましい。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555の組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
本明細書において使用される場合、「タグ」とは、受容体−リガンドのような特異的認識機構により分子を選別するための物質、より具体的には、特定の物質を結合するための結合パートナーの役割を果たす物質(例えば、ビオチン−アビジン、ビオチン−ストレプトアビジンのような関係を有する)をいい、「標識」の範疇に含まれうる。よって、例えば、タグが結合した特定の物質は、タグ配列の結合パートナーを結合させた基材を接触させることで、この特定の物質を選別することができる。このようなタグまたは標識は、当該分野で周知である。代表的なタグ配列としては、mycタグ、Hisタグ、HA、Aviタグなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のマーカーまたはマーカーの検出剤、検査剤、診断剤(プライマーまたはプローブ等であり得る)にはこのようなタグを結合させてもよい。
本明細書において「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする物質が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、ある処置について、体外で行われるがその後体内に戻されることが意図される場合、一連の動作をエキソビボという。本発明においても、生体内にある細胞を本発明の薬剤で処置して再度患者に戻すような実施形態を想定することができる。
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
本明細書において「指示書」は、本発明を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、食道への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
(食道がんのマーカー、検出、検査および診断)
1つの局面において、本発明は、Glypican-1またはその発現産物あるいはそのフラグメントまたは誘導体を含む、食道がんを識別するためのマーカーを提供する。Glypican-1は生体内に存在するものであり、健常人またはその由来試料では、発現が少なく、食道がんにおいて発現が顕著に高いことから、食道がんの有効な指標マーカーとして用いることができることが本発明において見出された。
本発明において、Glypican-1の発現は、食道がんの指標となることが見出された。従って、本発明によれば、対象となる被験者またはそれに由来する試料(例えば、血清)においてGlypican-1の発現を検出することにより、食道がんを検出または選択することができる。また、従って、本発明のマーカーの減少、抑制、増加または活性化等の調節能力を指標に、食道がん治療を行う薬剤を検出、スクリーニングすることができることが理解される。
別の局面において、本発明は、Glypican-1に結合または相互作用する物質を含む、食道がんを識別するための検出剤、検査剤または診断剤を提供する。このような検出、検査または診断のためには、物質の結合は、特異的であることが好ましい。
このような検出剤、検査剤または診断剤は、Glypican-1に結合または相互作用することができる限り、どのような物質を利用してもよいが、例えば、その代表的な例として、これらの因子の抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物、あるいはこれらの因子をコードする核酸、特にGlypican-1を増幅し得る核酸プライマーもしくはGlypican-1に結合もしくは相互作用し得るプローブを挙げることができるが、それらに限定されない。
本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、検出キット、検査キットまたは診断キットとして利用することができる。
1つの実施形態では、本発明が対象とする食道がんは、リンパ節転移部位のもの、扁平上皮癌および/または腺癌を含み、特に扁平上皮癌を含むがこれに限定されない。別の実施形態では、本発明が対象とする食道がんは、Glypican-1陽性のがんである。別の実施形態では、本発明が対象とする食道がんは、ヒトのがんである。
1つの実施形態では、本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、検出、検査または診断可能とする部分(例えば、抗体等)に他の物質(例えば、標識等)を結合させた複合体または複合分子であってもよい。本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水
素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。2以上の部分がポリペプチドの場合は、キメラポリペプチドとも称しうる。従って、本明細書において「複合体」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子を含む。
本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、プローブおよびプライマーの形態を採ることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、Glypican-1と特異的にハイブリダイズすることができる。本明細書に記載されるように、Glypican-1の発現は食道がんの指標であり、指標として有用である。従って、本発明によるプローブおよびプライマーは、食道がんを識別するために用いることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、1つの実施形態では、Glypican-1の発現を検出することができればよく、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指す。二本鎖cDNAも組織insituハイブリダイゼーションにおいて利用可能であることが知られており、本発明のプローブおよびプライマーにはそのような二本鎖cDNAも含まれる。組織中のRNAの検出において特に好ましいプローブおよびプライマーとしては、RNAプローブ(リボプローブ)を挙げることができる。
特定の実施形態において、本発明はプライマーの形態をとることができる。通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列(例えば、配列番号1)と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
特定の実施形態において、本発明によるプライマーは、二種以上の該プライマーからなる、プライマーセットとしても使用することができる。特定の実施形態において、本発明によるプライマーおよびプライマーセットは、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、in situ PCR法、LAMP法等の核酸増幅法を利用して目的遺伝子を検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーおよびプライマーセットとして利用することができる。
本発明によるプライマーセットはGlypican-1等目的のタンパク質のヌクレオチド配列をPCR法等の核酸増幅法により増幅できるように選択することができる。核酸増幅法は周知であり、核酸増幅法におけるプライマーペアの選択は当業者に自明である。例えば、PCR法においては、二つのプライマー(プライマーペア)の一方がGlypican-1等目的のタンパク質の二本鎖DNAのプラス鎖に対合し、他方のプライマーが二本鎖DNAのマイナス鎖に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択できる。また、LAMP法(WO00/28082号公報)においては、標的遺伝子に対して3’末端側からF3c、F2c、F1cという3つの領域を、5’末端側からB1、B2、B3という3つの領域を、それぞれ規定し、この6つの領域を用いて4種類のプライマーを設計することができる。本発明のプライマーは、本明細書に開示したヌクレオチド配列に基づき、化学合成できる。プライマーの調製は周知であり、例えば、”Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.”(Cold Spring Harbor Press(1989))、”Current Protocolsin Molecular Biology”(John Wiley & Sons(1987-1997))に従って実施することができる。
特定の実施形態において、本発明は「プローブ」の形態をとることができる。通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列(例えば、配列番号1)と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
1つの実施形態において、本発明の検出剤は、標識されたものでありうる。あるいは、本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、タグを結合させたものであってもよい。本発明で使用される標識またはタグは、本明細書において説明された任意の形態をとることができる。
1つの局面において、本発明は、Glypican-1を、食道がんを識別する指標とするための方法、あるいは食道がんを検出、検査または診断する方法を提供する。
1つの実施形態では、本発明の方法では、Glypican-1を、食道がんを識別する指標とするために、例えば、Glypican-1の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを生体内で検出する工程を行って実施することができる。例えば、その際に、Glypican-1の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAに結合する物質を含む検出剤、検査剤または診断剤を用いることができる。そのような検出剤、検査剤または診断剤は、本明細書において記載されており、その記載を元に、必要に応じて当該分野で公知の技術を用いて当業者が本発明の方法を実施することができることが理解される。
本発明の方法は、本発明の検出剤、検査剤または診断剤を目的とする試料に接触させ、その試料中に目的とする対象であるGlypican-1の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAがあるかどうか、あるいはそのレベルまたは量を測定する。
本発明において「接触」は、複数の物質の間の相互作用または結合が生じるようにその複数の物質を配置することであり、本発明では、検出剤、検査剤、診断剤として機能し得る物質(たとえば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のマーカーまたはそれを含む試料に対して物理的に近接させることによって達成することができる。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在させることができる。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。具体的なGlypican-1の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを検出する方法は、試料(例えば、血清等)におけるGlypican-1の発現産物、例えば、タンパク質またはmRNAを検出できる方法であれば特に限定されず、例えば、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法、抗原抗体反応法が挙げられる。ここで、試料として使用されるものとしては、発現産物を含むと考えられる試料であればよく、例えば、血清を用いることができる。血清は慣用の方法により取得することができる。
特定の実施形態では、本発明による検出、検査または診断は、本発明によるプローブを核酸試料(mRNA、またはそれから転写された相補的DNA(cDNA)等)とハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーション複合体、すなわちヌクレオチド二本鎖、を直接または間接的に検出することにより細胞試料におけるGlypican-1の発現を検出することができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、”Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.”(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47-9.58)、”CurrentProtocols in Molecular Biology”(John Wiley & Sons(1987-1997)、特にSection6.3-6.4)、”DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach 2nded.”(Oxford University(1995)、条件については特にSection 2.10)を参照しうる。
ハイブリダイゼーション法を利用したGlypican-1の発現産物、例えば、mRNAの検出は、例えば、(a)被験試料由来のポリヌクレオチドと、本発明によるプローブとを接触させる工程;および(b)ハイブリダイゼーション複合体を検出する工程により実施することができる。工程(a)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を、被験細胞試料由来のポリヌクレオチドとして、プローブと接触させることができる。プローブを用いた検出法においては、プローブを標識して用いることができる。標識としては例えば、放射能活性(例えば、32P、14C、および35S)、蛍光(例えば、FITC、ユーロピウム)、化学発色のような酵素反応(例えば、ペルオキダーゼ、アルカリホスファターゼ)等を利用した標識が挙げられる。ハイブリダイゼーション産生物の検出は、ノーザンハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等の周知の方法を用いて実施できる。ハイブリダイゼーション複合体が検出された試料は、被験者の組織がGlypican-1を発現していることを示すので、該試料が由来する被験者について、食道がんの可能性が高いと判定することができる。
本発明による検出、検査または診断の別の実施形態によれば、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法により核酸試料(mRNAまたはその転写産物)を増幅させ、増幅産物を検出することにより、試料におけるGlypican-1の発現を検出、検査またはこれを用いて診断することができる。
核酸増幅法を利用したGlypican-1の発現の検出は、例えば、(i)被験試料由来のポリヌクレオチドを鋳型とし、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法を実施する工程;および(ii)形成された増幅産物を検出する工程により実施することができる。
工程(i)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を鋳型として用いることができる。増幅産物の検出は、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等の核酸増幅法を用いて実施できる。この試料中に増幅産物が検出されることは、被験者の組織がGlypican-1を発現していることを示すので、該試料が由来する被験者について、食道がんの可能性が高いと判定することができる。
本発明による検出の別の実施形態によれば、本発明による抗体と試料とを接触させ、抗原抗体反応を検出することにより試料におけるGlypican-1の発現を検出、検査またはこれを用いて診断することができる。
抗原抗体反応を利用したGlypican-1の発現の検出は、例えば、(I)被験細胞試料由来のタンパク質と、本発明による抗体とを接触させる工程;および(II)抗原抗体複合体を測定する工程により実施することができる。抗原抗体反応の検出方法は当業者に周知であり、例えば、免疫学的方法により、血清中のGlypican-1を検出することができる。免疫学的方法としては、細胞試料を必要に応じて適切な処理、例えば、細胞の分離、抽出操作などをした試料について、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、ウェスタンブロット法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行うことができる。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質を使用することができる。抗原抗体複合体が検出される試料は、Glypican-1を発現している細胞を含むので、該試料が由来する被験者について、食道がんの可能性が高いと判定することができる。
前記の各検出工程は1回のみならず、同工程を繰り返しあるいは組み合わせて行うことにより、食道がんの診断精度を高めていくことができる。従って、このような実施形態を採用した場合、本発明による検出、検査または診断方法によれば、前記の工程を2回以上行うことにより、食道がんの診断をより高精度に行うことができる。
また、他のマーカー遺伝子、好ましくはGlypican-1以外の増殖マーカー遺伝子(例えば、既知のマーカーであるSCCまたはCEA等)あるいはこれらの因子を併用することにより、食道がんの診断精度を高めていくことができる。
本発明の診断薬等の医薬等としての製剤化手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、使用すべき量等の実施形態を決定することができる。
1つの実施形態では、質量分析によってマーカーの濃度を測定することができる。この場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix−assisted laserdesorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time−of−flight massspectromer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカーの濃度を測定することができる。さらに、2台の質量分析計を用いたMS/MSによれば、より正確にマーカーの濃度を測定することができる。
電気泳動によりマーカーの濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカーを分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカーに相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカーの分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウェスタンブロッティングを行って膜上のマーカーの量を測定することもできる。
クロマトグラフィーによってマーカーの濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカーを分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカーの濃度を測定することができる。
さらに別の局面において、本発明は、以下の抗体:(a)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号3の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(b)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号4の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜187位、および222〜231位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(c)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号5の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(d)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号6の31〜35位、51〜66位、99〜112位、160〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(e)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号7の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(f)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号8の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(g)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号9の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(h)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号10の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(i)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号11の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(j)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号12の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜234位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(k)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号13の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(l)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号14の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(m)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号15の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(n)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号16の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜189位、および222〜237で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(o)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号17の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(p)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号18の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(q)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号19の31〜35位、50〜66位、99〜115位、164〜175位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(r)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号20の31〜35位、50〜66位、99〜117位、166〜177位、194〜200位、および233〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(s)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号21の32〜36位、51〜67位、100〜114位、163〜171位、188〜194位、および227〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(t)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号22の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、および(u)該(a)〜(t)のいずれかの抗体において、該抗体のフレームワークに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まない、抗体
からなる群から選ばれる抗体、またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を提供する。これらの抗体は、配列番号2の33〜61位、または、339〜358位および/もしくは388〜421位、または430〜530位をエピトープとして有していてもよい。これらの抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv−Fcから選択される抗体であってもよい。これらの抗体は、本明細書に記載される任意の用途で用いられ得る。
さらに別の局面において、本発明は、配列番号2の33〜61位、または、339〜358位および/もしくは388〜421位、または430〜530位をエピトープとして有する抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物を提供する。これらの抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)、およびscFv−Fcから選択される抗体であってもよい。これらの抗体は、本明細書に記載される任意の用途で用いられ得る。
(キット)
1つの局面において、本発明によれば、本発明による検出、検査および/または診断のための方法を実施するための検出、検査および/または診断のためのキットが提供される。このキットは、本発明の検出剤、検査剤および/または診断剤を含む。その実施形態としては、本明細書において記載された任意の実施形態を単独または組み合わせ用いることができる。
1つの実施形態では、本発明による検出キットとしては、本発明による実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、Glypican-1の発現を検出するためのキットであって、本発明によるプローブを少なくとも含んでなるキットが挙げられる。このプローブは、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法によりGlypican-1の発現を検出する。従って第一の態様の検出方法は、所望により、ハイブリッド形成法を実施するための種々の試薬、例えば標識の検出に用いられる基質化合物、ハイブリダイゼーション緩衝液、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
本発明によるこの実施形態の検出キットは、精度の高い検出を行うために、Glypican-1以外の食道がんのマーカー遺伝子(例えば、SCC、CEA等)の発現を検出可能なプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体を更に含んでいてもよい。これらのプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法、核酸増幅法、抗原抗体反応法のいずれかの方法により、Glypican-1以外の食道がんのマーカー遺伝子の発現を更に検出する。
別の実施形態において、本発明による検出用キットとしては、本発明による別の実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、Glypican-1の発現を検出するためのキットであって、本発明によるプライマーまたは本発明によるプライマーセットを少なくとも含んでなるキットが挙げられる。この検出用キットは核酸増幅法によりGlypican-1の発現を検出する。従って第二の態様の検出方法は、所望により、核酸増幅法を実施するための種々の試薬、例えば緩衝液、PCRが正常に進行し得ることを示す内部標準
、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
本発明によるこの実施形態の検出キットは、精度の高い検出を行うために、Glypican-1以外の食道がんのマーカー遺伝子の発現を検出可能なプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体を更に含んでいてもよい。これらのプローブ、プライマー、プライマーセット、または抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットはハイブリッド形成法、核酸増幅法、抗原抗体反応法のいずれかの方法により、Glypican-1以外の食道がんのマーカーの発現を更に検出する。
さらなる実施形態において、本発明による検出キットとしては、本発明によるさらなる実施形態の検出を実施するための検出キットが挙げられ、具体的には、Glypican-1のタンパク質を検出するためのキットであって、本発明による抗体を少なくとも含んでなるキットが挙げられる。この抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットは抗原抗体反応を検出することによりGlypican-1の発現を検出する。この実施形態の検出方法は、所望により、抗原抗体反応を実施するための種々の試薬、例えばELISA法等に用いる2次抗体、発色試薬、緩衝液、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。
これらのキット、組成物またはシステムは、本発明のマーカー(例えば、Glypican-1を同定することができる限り、任意の被験体由来の試料中のマーカー、該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段を用いることができることが理解され得る。従って、本明細書において具体的に記載された因子または手段のみならず、当該分野において公知の任意の等価の因子または手段を用いることができることが理解される。
1つの実施形態では、本発明において使用される因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択され、好ましくは、因子は、タンパク質または複合分子(例えば、糖タンパク質、脂質タンパク質など)である。好ましくは、因子は、抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)である。このような因子は、標識されるか、または標識可能であることが好ましい。なぜなら、診断することが容易となるからである。
本発明の好ましい実施形態において、使用される手段は、質量分析装置、核磁気共鳴測定装置、X線解析装置、SPR、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)、免疫学的手段(例えば、ウェスタンブロッティング、EIA(エンザイムイムノアッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ))、生化学的手段(例えば、pI電気泳動、サザンブロッティング、二次元電気泳動)、電気泳動機器、化学的分析機器、蛍光二次元ディファレンシャル電気泳動法(2DE−DIGE)、同位体標識法(ICAT)、タンデムアフィニティ精製法(TAP法)、物理学的手段、レーザーマイクロダイセクションおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
本発明の好ましい実施形態では、本発明のシステムまたはキットは、さらに、マーカーの標準を含む。このような標準は、マーカーの検出手段(該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段など)が正常に機能しているかどうかを確認するために用いることが好ましい。
好ましい実施形態では、本発明では、対象となる試料を精製する手段をさらに備え得る。このような精製手段としては、例えば、クロマトグラフィーなどを挙げることができる。精製することによって、診断の精度を上げることができることから、好ましい実施形態において使用され得るが、これは必須ではない。
1つの実施形態では、本発明において使用される因子または手段は、本発明のマーカーの定量をする能力を有する。このような定量は、標準曲線を描いたときに、検量線がきちんと描ける手段または因子であるものがよい。好ましくは、例えば、抗体、質量分析、クロマトグラフィー分析などを挙げることができる。従って、ある実施形態では、本発明のシステムは、マーカーの定量を行うための定量手段をさらに備える。
1つの実施形態では、定量手段は、標準曲線と測定結果とを比較して前記マーカーが正常値の範囲内かどうかを判定する判定手段を含む。このような判定手段は、コンピュータを用いて実現することができる。
1つの実施形態では、本発明のキットまたはシステムは、マーカーまたはマーカーに特異的に相互作用する前記因子を含む組成物を含む。
1つの局面において、本発明は、被験体由来の試料中のマーカー、該マーカーに特異的に相互作用する因子、または該マーカーを選択的に認識する手段の、増殖能のレベルまたは分化状態、またはそれに関する疾患、障害または状態の予測診断、事前診断、予測、検出または診断するための医薬の製造における、使用を提供する。ここで、試料の取得は、どのような手段で行ってもよい。通常、医師以外の担当者が測定に従事する場合は、何らかの形で医師が取得したものであり得る。測定結果から、増殖能のレベルまたは分化状態、またはそれに関する疾患、障害または状態またはその可能性があるかどうかの決定は、正常値と比べて、各々のマーカーに比較して異常であるかどうかを判定することによって実施することができる。本発明の方法において、使用されるマーカーなどは、本明細書の他の場所において記載される任意の1または複数の特徴を矛盾することがない限り有していても良いことが理解される。本発明の検出または診断において、マーカーの濃度を測定する方法は、そのマーカーの濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
本発明の検出または診断における好ましい実施形態の一つは、マーカーを担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカーの濃度を測定することである。すなわち、マーカーに対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカーを担体上に捕捉する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカーの濃度を測定することができる。
1つの実施形態においてマーカーの測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカーに特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカーの濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
一方、1つの実施形態において、マーカーの測定方法に質量分析を用いる場合は、抗体の他、イオン結合や疎水性相互作用によってマーカーを担体に捕捉することもできる。イオン結合や疎水性相互作用は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がなく、マーカー以外の物質も捕捉されるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を使用したプロテインチップを用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(本明細書中「SELDI−TOF−MS」と称する)を行えば、マーカーの濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、金属イオン基板が好ましく用いられる。
イオン結合によってマーカーを担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陰イオン交換体、陽イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体のいずれも用いることができる。例えば、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。一方、疎水性相互作用によってマーカーを担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。さらに、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Ca2+、Co2+、Mg2+等の金属イオンを固定化した担体にマーカーを捕捉することもできる。
1つの実施形態において、用いる担体の例としては、ビーズ、マイクロタイタープレート、樹脂等の公知のものを使用することができる。特に、ビーズとマイクロタイタープレートは、イムノアッセイにおいて従来から用いられており、測定系の構築が容易である。一方、基板のような、平面部分を有する担体を用いることもできる。この場合は、平面部分の一部にマーカーに対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基盤としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカーに特異的な抗体を固定化した担体が挙げられる。
本発明による検出、検査または診断方法は、食道がんの予防または治療に有効な物質のスクリーニングに適用することができる。すなわち、被験物質をGlypican-1またはそれをコードする核酸分子に対する結合または相互作用を指標に、有効な物質をスクリーニングすることができる。使用されうる被験物質としては、合成低分子化合物、タンパク質、合成ペプチド、精製または部分精製ポリペプチド、抗体、細菌放出物質(細菌代謝産物を含む)、核酸(アンチセンス、リボザイム、RNAi等)等が挙げられ、好ましくは、化合物もしくはその塩またはそれらの溶媒和物(例えば、水和物)であるが、これらに限定されるものではない。被験物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。本発明によるスクリーニング法により特定された物質は、食道がんの治療または予防に有効な物質として用いることができる。
(食道がんの治療および予防)
1つの局面では、本発明は、Glypican-1の抑制剤を含む、食道がんを予防または治療するための組成物または医薬(治療薬または予防薬)を提供する。この治療または予防薬を用いれば、食道がんを治療または予防することができる。またこの治療または予防薬は、抗体を使用するため、安全性の観点から優れている。
1つの実施形態では、本発明が対象とする食道がんは、Glypican-1陽性である。1つの実施形態では、本発明が対象とする食道がんは、リンパ節転移部位のもの、扁平上皮癌および/または腺癌を含む。特定の実施形態では、本発明が対象とする食道がんは扁平上皮癌を含む。
1つの特定の実施形態では、本発明の組成物または医薬(治療薬または予防薬等)はGlypican-1陽性食道がんを発症していると判断された患者に対して投与することで実施されることを想定して製剤化される。1つの実施形態では、本発明で使用されるGlypican-1の抑制剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物、あるいは核酸である。
特定の実施形態では、本発明で使用されるGlypican-1の抑制剤は、核酸であり、該核酸は、アンチセンス核酸、siRNA等である、具体的には前記siRNAは、配列番号23および/または24を含むものであり、配列番号25および配列番号26を含んでいてもよい。
別の実施形態では、前記Glypican-1の抑制剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物であり、該抗体は以下の配列番号1〜22のいずれかまたはそのフラグメントもしくは機能的等価物を有することを特徴とする。抗体は、全長配列のCDRを含む任意の配列を含む抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいは、以下の配列の可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、そのフレームワーク領域において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、12個、15個、17個、もしくは、20個、またはそれ以上の置換、不可、もしくは、欠失を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよい。より特定すると、本発明は、(a)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号3の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(b)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号4の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜187位、および222〜231位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(c)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号5の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(d)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号6の31〜35位、51〜66位、99〜112位、160〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(e)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号7の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(f)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号8の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(g)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号9の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(h)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号10の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(i)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号11の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(j)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号12の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜234位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(k)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号13の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(l)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号14の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(m)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号15の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(n)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号16の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜189位、および222〜237で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(o)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号17の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(p)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号18の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(q)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号19の31〜35位、50〜66位、99〜115位、164〜175位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(r)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号20の31〜35位、50〜66位、99〜117位、166〜177位、194〜200位、および233〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(s)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号21の32〜36位、51〜67位、100〜114位、163〜171位、188〜194位、および227〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、および(t)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号22の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、らなる群から選ばれる1種以上の抗体、あるいは該抗体の変異体であって、該変異体において該抗体のフレームワークに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まない、変異体であってもよい。抗体の製造等については、本明細書の他の箇所に記載された実施形態および/または当該分野で公知の手法を用いることができる。なお、本発明の治療または予防の目的では、このような抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物は、好ましくは、Glypican-1またはその情報伝達経路の下流の抑制活性を有することが好ましい。そのような活性は、Glypican-1の発現量またはその活性をみるか、あるいは食道がん細胞株を直接使用して細胞の増殖阻害、抗体依存性細胞傷害(ADCC)での細胞傷害活性、またはモデル動物に移植して腫瘍の退縮を観察する等をみることで確認してもよい。これらの手法は、当該分野において周知であり、本明細書において使用される手法を用いてもよい。本発明のこれらの抗体は、特定の実施形態では、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv−Fcから選択される抗体でありうる。
別の局面において、本発明は、有効量のGlypican-1の抑制剤を必要とする被験者に投与することを含む、該被験者の食道がんを予防または治療するための方法を提供する。本発明の予防または治療方法において使用されるGlypican-1の抑制剤としては、本明細書において他の箇所に記載される任意の形態を利用することができることが理解される。
別の局面において、本発明はまた、Glypican-1の結合剤を含む、食道がんを予防または治療するための組成物または医薬(治療薬または予防薬)を提供する。好ましい実施形態では、この組成物または医薬(治療薬または予防薬等)は、さらに細胞殺傷性薬剤を含む。したがって、このような組成物または医薬(治療薬または予防薬等)は複合分子を含みうるといえる。
特定の実施形態では、前記Glypican-1の結合剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物、あるいは核酸である。好ましい実施形態では、前記Glypican-1の結合剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物であり、細胞殺傷性薬剤がさらに結合されたものである。
本明細書において、「細胞殺傷性薬剤」は、細胞膜を溶解する可能性のある薬剤である。細胞殺傷性薬剤は、ペプチドの場合は細胞傷害性ペプチドと呼ばれ、細胞傷害性ペプチドは当該分野において種々の呼称があり、例えば、「溶解性ペプチド成分」、「細胞殺傷性配列」は、「細胞溶解性ペプチド(配列)」または「細胞膜溶解性ペプチド(配列)」などとも称されるが、これらは本発明の目的では同義で用いられる。このような細胞傷害性薬剤の代表例としては、GailD. et al., Cancer Res 2008;68:9280-9290.; Ian Krop and Eric P. Winer, ClinCancer Res; 20(1); 1-6.およびK Naito et al., Leukemia(2000) 14, 1436-144に列挙されたものを挙げることができ、メイタンシノイド(Maytansinoid)、エムタンシン(emtansine)、CMA-676に含まれるN-アセチルーγ−カリケアミシンジメチルヒドラジド(NAc-γカリケアミシン、DMH)などを挙げることができるがこれらに限定されない。ペプチドとしては、代表的な細胞殺傷性ペプチドとしては、細胞膜溶解性ペプチド、細胞膜電位不安定化ペプチド、細胞膜溶解・核酸結合ペプチドおよびミトコンドリア膜崩壊ペプチドを挙げることができるがこれらに限定されない。
必要に応じて、このような細胞殺傷性薬剤は抗体等の本発明の結合剤に対してスペーサーで結合されていてもよい。本明細書において「スペーサー」とは、橋をかけるように,鎖式高分子の分子間で化学結合を形成させる部分をいい、リンカーとも称される。ペプチドのスペーサーとしては例えば、代表的には、G、Pからなる0〜5アミノ酸の配列が挙げられるがこれに限定されない。スペーサーは必須ではなく、存在しなくてもよい。
本発明の結合剤と、細胞殺傷性薬剤との組み合わせは複合分子ともいえる。このような分子を例示的に説明すると、爆薬部分に当たる、細胞傷害性部分と、弾頭部分にあたるがん細胞に対する特異性を担当する部分(たとえば、がん細胞に高発現している受容体に対して特異的に結合するペプチド・配列、代表的には抗体)とを組み合わせてできる分子と説明することができる。スペーサーを使用する場合、がん細胞特異的結合剤+スペーサー+細胞殺傷性薬剤から構成されることになる。本明細書では、任意のがん細胞特異的結合剤、任意のスペーサー、任意の細胞殺傷性薬剤を任意に組み合わせることができ、その製造法および使用法の例を記載する。このような分子は、化学合成法が通常であるが、ペプチドで構成される場合は遺伝子組換えにより強制発現させ精製する方法、あるいはこれと組み合わせた方法も可能である。
本発明の使用について、治療しようとするがん細胞について、細胞表面のGlypican-1の発現および細胞殺傷性薬剤に対するがん細胞の傷害感受性を調べる。その結果をもとに弾頭と爆薬を選択し、そのがん細胞に最適な分子をデザインする。化学合成等により得られたオーダーメイドペプチドトキシンを必要に応じてアテロコラーゲン等のDDSと組み合わせ、局所投与または全身投与を行い治療することができる。
したがって、好ましい実施形態では本発明の複合分子が対象とする食道がんは、Glypican-1陽性である。特定の実施形態では、この食道がんは扁平上皮癌を含む。
1つの実施形態では、Glypican-1の結合剤は、抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物であり、該抗体は上述の任意の配列を有し得る。
治療薬の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、または経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。抗体またはポリヌクレオチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
一般的に、本発明の組成物、医薬、治療剤、予防剤等は、治療有効量の治療剤または有効成分、および薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本明細書において使用される「キャリア」は、治療剤を一緒に投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s PharmaceuticalSciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
本発明を医薬として投与する場合、種々の送達(デリバリー)系が知られ、そしてこのような系を用いて、本発明の治療剤を適切な部位(例えば、食道)に投与することも可能であり、このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:治療剤(例えば、ポリペプチド)を発現可能な組換え細胞の使用、受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用;レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての療法核酸の構築などがある。導入法には、限定されるわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路が含まれる。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の生物学的活性剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。本発明が食道領域で使用される場合、さらに、食道に直接注入する等、適切な経路いずれかによって投与されうる。
治療剤が核酸である特定の態様において、適切な核酸発現ベクターの一部として該核酸を構築し、そして細胞内に存在するように投与することによって、核酸をin vivo投与して、コードされるタンパク質の発現を促進することも可能であり、これは、例えばレトロウイルスベクターの使用によって、または直接注射によって、または微小粒子銃の使用によって、または核酸を脂質、細胞表面受容体もしくはトランスフェクション剤でコーティングすることによって、または核に進入することが知られるタグ配列に連結した核酸を投与することによって、実行可能である。あるいは、核酸治療剤を細胞内に導入し、そして発現のため、宿主細胞DNA内に相同組換えによって取り込ませることも可能である。
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
本発明の組成物、医薬、治療剤、予防剤を中性型または塩型あるいは他のプロドラッグ(例えば、エステル等)で配合することも可能である。薬学的に許容しうる塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成されるもの、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
特定の障害または状態の治療に有効な本発明の治療剤の量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。悪性腫瘍マーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量−反応曲線から推定可能である。
本発明の一実施形態において「患者」は、ヒト、またはヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、またはチンパンジー等の1種以上)を含む。また患者は、Glypican-1陽性悪性腫瘍を発症していると判断または診断された患者であってもよい。このとき、判断または診断は、Glypican-1の蛋白質レベルを検出することにより行われることが好ましい。
本発明の医薬組成物または治療剤もしくは予防剤はキットとして提供することができる。
特定の実施形態では、本発明は、本発明の組成物または医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
本発明のキットはまた、本発明の組成物、治療剤、予防剤または医薬として使用するタンパク質をコードする発現ベクターも含有することも可能であり、このタンパク質は、発現された後、生物学的に活性な複合体を形成するため、再構成されることも可能である。このようなキットは、好ましくはまた、必要な緩衝剤および試薬も含有する。場合によって、このような容器に付随して、キット使用のための指示書(添付文書)、並びに/あるいは医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
特定の実施形態において、本発明の核酸を含む医薬組成物を、リポソーム、微小粒子、または微小カプセルを介して投与することができる。本発明の多様な態様において、このような組成物を用いて、核酸の持続放出を達成することが有用である可能性もある。
本発明の一実施形態は、本発明は、(a)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号3の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(b)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号4の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜187位、および222〜231位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(c)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号5の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(d)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号6の31〜35位、51〜66位、99〜112位、160〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(e)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号7の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(f)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号8の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(g)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号9の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(h)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号10の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(i)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号11の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(j)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号12の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜234位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(k)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号13の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(l)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号14の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(m)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号15の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(n)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号16の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜189位、および222〜237で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(o)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号17の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(p)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号18の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(q)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号19の31〜35位、50〜66位、99〜115位、164〜175位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(r)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号20の31〜35位、50〜66位、99〜117位、166〜177位、194〜200位、および233〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(s)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号21の32〜36位、51〜67位、100〜114位、163〜171位、188〜194位、および227〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、および(t)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号22の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、らなる群から選ばれる1種以上の抗体、あるいは該抗体の変異体であって、該変異体において該抗体のフレームワークに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まない、変異体である、抗Glypican−1抗体であってもよい。この抗Glypican−1抗体を用いれば、Glypican−1陽性悪性腫瘍(例えば、食道がん)細胞の増殖を特に効果的に抑制することができる。また、効率的にGlypican-1陽性悪性腫瘍(例えば、食道がん)の診断をすることができる。また本発明の別の実施形態は、上に列挙した重鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗Glypican−1抗体である。これらの抗体は、特定の実施形態では、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv−Fcから選択される抗体でありうる。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、重鎖CDR1、2、および3、ならびに軽鎖CDR1、2および3のアミノ酸配列のセットを含み、さらに、重鎖FR1、2、3、4、軽鎖FR1、2、3、および4のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、あるいはすべてのフレームワークが配列番号1〜6のいずれかのものと同一または実質的に同一あるいは保存的置換を除き同一であるものであり得る。1種以上の抗体であってもよい。また本発明の別の実施形態は、上に列挙した重鎖FR1、2、3、および4のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗Glypican-1抗体である。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、scFvの形態であってもよく、その場合、重鎖と軽鎖間のリンカーは、重鎖と軽鎖との間のアミノ酸配列を有していてもよい。 本発明で使用される各抗体は、VH、VLはそれぞれ、以下のとおりである:配列番号3:抗GPC−1抗体1−4配列(VH=1〜125、VL=143〜244);配列番号4:抗GPC−1抗体1−5配列(VH=1〜121、VL=139〜240);配列番号5:抗GPC−1抗体1−10配列(VH=1〜124、VL=142〜246);配列番号6:抗GPC−1抗体1−12配列(VH=1〜123、VL=141〜245);配列番号7:抗GPC−1抗体1−18配列(VH=1〜131、VL=149〜251);配列番号8:抗GPC−1抗体1−27配列(VH=1〜125、VL=143〜244);配列番号9:抗GPC−1抗体1−28配列(VH=1〜131、VL=149〜250);配列番号10:抗GPC−1抗体1−30配列(VH=1〜124、VL=142〜246);配列番号11:抗GPC−1抗体1−50配列(VH=1〜125、VL=143〜244);配列番号12:抗GPC−1抗体1−57配列(VH=1〜124、VL=142〜243);配列番号13:抗GPC−1抗体1−66配列(VH=1〜127、VL=145〜249);配列番号14:抗GPC−1抗体1−77配列(VH=1〜125、VL=142〜243);配列番号15:抗GPC−1抗体1−91配列(VH=1〜124、VL=142〜245);配列番号16:抗GPC−1抗体2−11配列(VH=1〜121、VL=139〜241);配列番号17:抗GPC−1抗体2−14配列(VH=1〜124、VL=142〜246);配列番号18:抗GPC−1抗体2−57配列(VH=1〜127、VL=145〜249);配列番号19:抗GPC−1抗体2−60配列(VH=1〜125、VL=143〜251);配列番号20:抗GPC−1抗体2−63配列(VH=1〜128、VL=146〜251);配列番号21:抗GPC−1抗体2−70配列(VH=1〜125、VL=143〜245);配列番号22:抗GPC−1抗体2−77配列(VH=1〜125、VL=143〜244)。
上に列挙したアミノ酸配列は、抗Glypican-1抗体が所望の効果を有する限り、(i)上記のアミノ酸配列において、1または数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(ii)上記のアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、および(iii)上記のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列であってもよい。
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体をコードするポリヌクレオチドまたはベクターを細胞に導入することによって、形質転換体を作成できる。この形質転換体を用いれば、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体を作製できる。形質転換体は、ヒトまたはヒトを除く哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル等)の細胞であってもよい。哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、サル細胞COS-7などが挙げられる。または、形質転換体はEscherichia属菌、
酵母等であってもよい。
上記のベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11、pcDNA3.1-V5/His-TOPO)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクターなどを用いることができる。これらのベクターは、プロモーター、複製開始点、または抗生物質耐性遺伝子など、蛋白質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。ベクターは発現ベクターであってもよい。
上記のポリヌクレオチドまたはベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノウイルスによる方法、レトロウイルスによる方法、またはマイクロインジェクションなどを使用できる(改訂第4版新遺伝子工学ハンドブック,羊土社(2003):152-179.)。抗体の細胞を用いた生産方法としては、例えば、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):128-142."に記載の方法を使用できる。抗体の精製においては、例えば、硫酸アンモニウム、エタノール沈殿、プロテインA、プロテインG、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン、陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、またはレクチンクロマトグラフィーなどを用いることができる(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):27-52.)。
本発明を実施するために、本発明の核酸形態の抑制剤としてはアンチセンス活性を指標に核酸を選択することができる。ここで、「アンチセンス活性」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる活性をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク発現量を減少させ得る活性をいう。手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別される。
アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、21の連続するヌクレオチド長の、22の連続するヌクレオチド長の、23の連続するヌクレオチド長の、24の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。したがって、本明細書において、アンチセンス活性には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley−Liss Inc,1992)。さらに最新の研究でRNA干渉(RNA interference;RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、当該分野で一般に知られており、RNAiを引き起こす因子によって媒介される、細胞における遺伝子発現を阻害または下方制御する生物学的プロセスである。例えば、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書において「RNAi」はまた、場合によっては、「RNAiを引き起こす因子」、「RNAiを起こす因子」、「RNAi因子」などと同義に用いられ得る。RNAiについては、例えば、Zamore and Haley,2005,Science,309,1519−1524;Vaughn and Martienssen,2005,Science,309,1525−1526;Zamore et al.,2000,Cell,101,25−33;Bass,2001,Nature,411,428−429;Elbashiretal.,2001,Nature,411,494−498;およびKreutzer他、国際公開第00/44895号;Zernicka−Goetz他、国際公開第01/36646号;Fire、国際公開第99/32619号;Plaetinck他、国際公開第00/01846号;MelloおよびFire、国際公開第01/29058号;Deschamps−Depaillette、国際公開第99/07409号およびLi他、国際公開第00/44914号;Allshire,2002,Science,297,1818−1819;Volpe et al.,2002,Science,297,1833−1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215−2218;およびHall et al.,2002,Science,297,2232−2237;Hutvagner and Zamore,2002,Science,297,2056−60;McManus et al.,2002,RNA,8,842−850;Reinhart et al.,2002,gene & Dev.,16,1616−1626;及びReinhart & Bartel,2002,Science,297,1831を参照。)。また、本明細書では、RNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、エピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉の記述に用いられる他の用語と同義のものを示すものとして理解される。本明細書では、「RNAiを起こす因子」は「RNAi」を起こす限りどのようなものであってもよい。
本明細書では「RNAiを起こす因子」としては、「低分子干渉核酸」、「siNA」、「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」または「化学修飾低分子干渉核酸分子」等が挙げられ、これらの用語は、RNA干渉「RNAi」または遺伝子サイレンシングを配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害または下方制御することができる任意の核酸分子を指す。これらの用語は、個々の核酸分子、複数のかかる核酸分子、またはかかる核酸分子のプールも表し得る。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む二本鎖核酸分子であり得る。
本発明で代表的に用いられる「siRNA」は、短い長さ、通常、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAである。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
本発明において、siRNA等のRNAiを起こす因子では、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、一方の鎖がセンス鎖であり、他方がアンチセンス鎖である、2個の別々のオリゴヌクレオチドから組み立てることができる。ここで、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、アンチセンス鎖とセンス鎖が二本鎖または二本鎖構造を形成するなど、各鎖は、他方の鎖中のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。ここで、例えば、二本鎖領域は、約15から約30、例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基対でありうるが、これらより長くてもよい。アンチセンス鎖は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む(例えば、その分子の約15から約25個またはそれを超えるヌクレオチドは、標的核酸またはその一部に相補的である)。あるいは、これらの分子は、単一のオリゴヌクレオチドから組み立てられ、これらの分子の自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域は、核酸リンカーまたは非核酸リンカーによって連結されている。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む、二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピンまたは非対称ヘアピン二次構造を有するポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、別個の標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、2個以上のループ構造と、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む軸(stem)とを有する、環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有するセンス領域を含み、環状ポリヌクレオチドは、インビボまたはインビトロでプロセシングを受けて、RNAiを媒介し得る活性な分子を生成し得る。これらの因子は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドも含み得る(例えば、これらの因子は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列がこれらの因子内に存在する必要がない。)。一本鎖ポリヌクレオチドは、5’リン酸(例えば、Martinez et Al.,2002,Cell.,110,563−574およびSchwarz et al.,2002,Molecular Cell,10,537−568参照)、5’,3’−二リン酸などの末端リン酸基を更に含み得る。ある実施形態においては、本発明のGlypican-1の抑制剤は、別々のセンスおよびアンチセンス配列または領域を含む。ここで、センス領域とアンチセンス領域は、当該分野で公知のヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有結合しており、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水的相互作用および/またはスタッキング相互作用によって交互に非共有結合している。ある実施形態においては、本発明のGlypican-1の抑制剤は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。別の実施形態においては、本発明のGlypican-1の抑制剤は、標的遺伝子の発現を阻害するように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書では、Glypican-1の抑制剤は、RNAのみを含む分子に必ずしも限定されず、化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。ある実施形態においては、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、2’ヒドロキシ(2’−OH)含有ヌクレオチドを欠いていてもよいく。ある実施形態において、本発明はRNAiを媒介するのに2’ヒドロキシル基を有するヌクレオチドの存在が不要である低分子干渉核酸でありうる。したがって、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、リボヌクレオチド(例えば、2’−OH基を有するヌクレオチド)を含まなくてもよい。しかし、RNAiを維持するのにGlypican-1の抑制剤内のリボヌクレオチドの存在が不要である場合は、2’−OH基を有する1個以上のヌクレオチドを含む、結合したリンカー、または他の結合若しくは会合した基、部分若しくは鎖を有し得る。場合によっては、本発明のGlypican-1を抑制する因子は、ヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40または50%においてリボヌクレオチドを含み得る。本明細書ではGlypican-1の抑制剤は、配列特異的RNAiを媒介し得る核酸分子、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)であってもよい。
本明細書においてRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
あるいは、本発明において用いられるRNAiとしては、例えば、短い逆向きの相補的配列(例えば、15bp以上であり、例えば、24bpなど)のペアが挙げられるがそれらに限定されない。
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法等の任意の適切な方法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明において有用である。
本発明の一実施形態は、Glypican-1に対するRNAi分子、またはそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドを含む、Glypican-1陽性食道がんの治療薬である。このRNAi分子、またはそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドを用いれば、Glypican-1陽性食道がん細胞の増殖を抑制することができる。本発明の一実施形態において「ポリヌクレオチド」は、10以上のヌクレオチドを有する、ヌクレオチドが直鎖状に重合した高分子化合物であってもよい。
本発明の一実施形態において「RNAi分子」は、RNAi作用を有するRNA鎖であり、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、またはRNAi作用を有するsmallRNA等を挙げることができる。
本発明の一実施形態において「RNAi」は、siRNA、shRNA、miRNA、短鎖もしくは長鎖の1もしくは2本鎖RNA、またはそれらの修飾物等の1つ以上によって、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能が抑制、またはサイレンシングされる現象を含む。
RNAi分子のデザインには、例えば、siDirect2.0(Naito et al., BMC Bioinformatics.2009 Nov 30;10:392.)等を使用できる。また、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)に委託してもよい。RNAi作用の確認は、リアルタイムRT-PCRによるRNA鎖発現量の定量によって行なうことができる。または、ノーザンブロットによるRNA鎖発現量の解析や、ウェスタンブロットによる蛋白量の解析・表現型の観察等の方法でも行うことができる。また、特定の遺伝子に対するsiRNAまたはshRNAを生成するプラスミドは、例えば、受託会社(例えば、タカラバイオ(株)等)から購入することができる。
本発明の一実施形態において「siRNA」は、RNAiを誘導可能なRNA鎖を含む。一般的にsiRNAの2本鎖はガイド鎖とパッセンジャー鎖に分けることができ、ガイド鎖がRISCに取り込まれる。RISCに取り込まれたガイド鎖は、標的RNAを認識するために使われる。RNAi研究では主に人工的に作成したものが使用されるが、生体内において内在的に存在するものも知られている。上記ガイド鎖は15塩基以上のRNAから構成されていてもよい。15塩基以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、そのガイド鎖は40塩基以下のRNAから構成されていてもよい。40塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクがより低くなる。
本発明の一実施形態において「shRNA」は、RNAiを誘導可能で、且つヘアピン状に折りたたまれた構造(ヘアピン様構造)を形成可能な1本鎖のRNA鎖を含む。典型的には、shRNAは細胞内でDicerによって切断され、siRNAが切り出される。このsiRNAによって標的RNAの切断が生じることが知られている。上記shRNAは35以上のヌクレオチドから構成されていてもよい。35以上であれば、shRNAに特有のへアピン様構造を精度よく形成できる可能性が高まる。また、上記shRNAは100塩基以下のRNAから構成されていてもよい。100塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。但し、一般的にshRNAと構造および機能が類似しているpre-miRNAの多くが、100ヌクレオチド程度またはそれ以上の長さを有していることから、shRNAの長さは必ずしも100塩基以下でなくても、shRNAとして機能できると考えられる。
本発明の一実施形態において「miRNA」は、siRNAと類似の機能を有しているRNA鎖を含み、標的RNA鎖の翻訳抑制や分解をすることが知られている。miRNAとsiRNAとの違いは、一般的に生成経路と、詳細なメカニズムにある。
本発明の一実施形態において「small RNA」とは、比較的小さいRNA鎖をいい、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、1または2本鎖の低分子RNAなどを挙げることができる。
上記RNAi分子は、5’末端または3’末端に1〜5塩基からなるオーバーハングを含んでいてもよい。この場合、RNAiの効率が上昇すると考えられる。この数は、例えば、5、4、3、2、または1塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNAi分子が2本鎖のとき、各RNA鎖間にミスマッチRNAが存在していてもよい。その数は、例えば、1、2、3、4、5、または10個以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNAi分子は、ヘアピンループを含んでいてもよい、ヘアピンループの塩基数は、例えば、10、8、6、5、4、または3塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。塩基配列は、所望の効果を有する限り、1または複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加していてもよい。なお、各塩基配列の表記は、左側が5’末端、右側が3’末端である。
上記RNAi分子の長さは、例えば、15、18、20、25、30、40、50、60、80、100、200、または400塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この数は、Glypican-1陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、15以上、または100以
下が好ましい。
本発明の一実施形態において「RNA鎖」は、RNAまたはその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。また本発明の一実施形態において「DNA鎖」は、DNAまたはその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。このRNA鎖またはDNA鎖は、1本鎖または複数本鎖(例えば、2本鎖)の形態のRNA鎖またはDNA鎖を含む。RNA鎖またはDNA鎖は、細胞取込促進物質(例えば、PEGまたはその誘導体)、標識タグ(例えば、蛍光標識タグ等)、またはリンカー(例えば、ヌクレオチドドリンカー等)等と結合していてもよい。RNA鎖またはDNA鎖は、核酸合成装置を用いて合成可能である。その他、受託会社(例えば、インビトロジェン社等)から購入することもできる。生体内のRNA鎖またはDNA鎖は、塩または溶媒和物を形成することがある。また、生体内のRNA鎖またはDNA鎖は、化学修飾を受けることがある。RNA鎖またはDNA鎖の用語は、例えば、塩もしくは溶媒和物を形成しているRNA鎖もしくはDNA鎖、または化学修飾を受けているRNA鎖もしくはDNA鎖等を含む。またRNA鎖またはDNA鎖は、RNA鎖のアナログ、またはDNA鎖のアナログであってもよい。
本発明の一実施形態において「塩」は、例えば、任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、または任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩または有機塩を含み、例えば、Bergeet al., J.Pharm.Sci., 1977, 66, 1-19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。本発明の一実施形態において「溶媒和物」は、溶質および溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J.Honigetal., The Van Nostrand Chemist’s Dictionary P650 (1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、または各種バッファーが挙げられる。本発明の一実施形態において「化学修飾」は、例えば、PEGもしくはその誘導体による修飾、フルオレセイン修飾、またはビオチン修飾等が挙げられる。
上記RNAi分子は、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、Glypican-1mRNAの塩基配列の一部に対して、相補的な塩基配列を含むことが好ましい。上記「一部」は、例えば、5、10、15、18、20、22、24、26、28、30、35、40、または50塩基以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
後述する実施例で使用したsiRNAは、配列番号25の塩基配列を含む。これらの塩基配列は、Glypican-1 mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。本発明の一実施形態は、そのような、配列番号25の塩基配列を含むRNAi分子を含む。またこのRNAi分子は、配列番号25で示される塩基配列に対して相補的な塩基配列(例えば、配列番号26)をさらに含んでいてもよい。本発明の一実施形態において「相補的な塩基配列」とは、一つのポリヌクレオチドに対して、ハイブリダイズすることが可能な相補性の高い他のポリヌクレオチドが有している塩基配列である。なお、後述する実施例で使用したsiRNAのセンス鎖全長は配列番号27(5’-GGGACACGCUCACGGCCAATT-3’)の塩基配列であり、アンチセンス鎖全長は配列番号28(5’-UUGGCCGUGAGCGUGUCCCTG-3’)の塩基配列である。
上に列挙した塩基配列は、Glypican-1 siRNAが所望の効果を有する限り、(i)上記の塩基酸配列において、1または数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、または(ii)上記の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードする塩基配列であってもよい。
本発明の一実施形態は、Glypican-1アンタゴニストを含む、Glypican-1陽性悪性腫瘍の治療薬である。このGlypican-1アンタゴニストは、Glypican-1の発現または機能を阻害する物質を含む。このGlypican-1アンタゴニストを用いれば、Glypican-1陽性悪性腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。Glypican-1の発現または機能を阻害する作用を有していれば、アンタゴニストの形態は特に限定されず、例えば、抗体、RNA鎖、DNA鎖、低分子有機化合物、またはポリペプチドであってもよい。上記RNA鎖は、Glypican-1に対するRNAi
分子であってもよい。上記DNA鎖としては、Glypican-1に対するRNAi分子をコードするDNA鎖を使用できる。このDNA鎖の形態は、例えば、ベクターであってもよい。
本発明の一実施形態において「蛋白質の発現を阻害すること」は、例えば、遺伝子からmRNAへの転写機構を阻害、またはmRNAから蛋白質への翻訳機構を阻害することを含む。また、例えば、遺伝子、mRNA、または蛋白質の分解を誘導することによって、結果的に蛋白質量を減少させることを含む。本発明の一実施形態において「蛋白質の機能を阻害すること」は、蛋白質に構造変化を生じさせ、蛋白質の活性を低下させることを含む。また、例えば、遺伝子の発現を阻害した結果、mRNAまたは蛋白質の生成量が低下することを含む。
本発明の一実施形態において「発現が阻害されている状態」は、発現量が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。発現量はmRNA量、または蛋白質量を指標としてもよい。本発明の一実施形態において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側または両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含んでいてもよい。または、実質的に差異が生じている状態を含む。本発明の一実施形態において「機能が阻害されている状態」は、活性が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。
本発明の一実施形態は、新規の食道がんの治療方法である。この治療方法は、例えば、抗Glypican-1抗体を患者に投与する工程を含む、治療方法である。この治療方法を用いれば、Glypican-1陽性食道がんを治療することができる。またこの治療方法は、抗体を使用するため、実施例でも実証されているように、安全性の観点から優れている。対象となる食道がんとしては、リンパ節転移部位のもの、扁平上皮癌および/または腺癌が含まれ、特に、扁平上皮癌が含まれる。特に、本明細書においてGlypican-1陽性扁平上皮癌では顕著な効果が示されており、Glypican-1陽性の食道がんにおいて著効があると理解される。
特定の実施形態において、本発明の治療方法において用いられる抗体としては、(a)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号3の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(b)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号4の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜187位、および222〜231位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(c)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号5の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(d)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号6の31〜35位、51〜66位、99〜112位、160〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(e)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号7の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(f)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号8の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(g)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号9の31〜35位、50〜66位、99〜120位、169〜176位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(h)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号10の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(i)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号11の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(j)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号12の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜234位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(k)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号13の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(l)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号14の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜169位、186〜192位、および225〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(m)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号15の31〜35位、50〜66位、99〜113位、162〜170位、187〜193位、および226〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(n)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号16の31〜35位、50〜66位、99〜110位、159〜166位、183〜189位、および222〜237で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(o)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号17の31〜35位、50〜65位、98〜113位、162〜171位、188〜194位、および227〜237位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(p)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号18の31〜35位、50〜66位、99〜116位、165〜174位、191〜197位、および230〜240位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(q)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号19の31〜35位、50〜66位、99〜115位、164〜175位、193〜199位、および232〜241位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(r)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号20の31〜35位、50〜66位、99〜117位、166〜177位、194〜200位、および233〜242位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(s)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号21の32〜36位、51〜67位、100〜114位、163〜171位、188〜194位、および227〜236位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、および(t)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号22の31〜35位、50〜65位、98〜114位、163〜170位、187〜193位、および226〜235位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、らなる群から選ばれる1種以上の抗体、あるいは該抗体の変異体であって、該変異体において該抗体のフレームワークに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まない、変異体である、抗Glypican−1抗体であってもよい。この抗Glypican−1抗体を用いれば、Glypican−1陽性悪性腫瘍(例えば、食道がん)細胞の増殖を特に効果的に抑制することができる。また、効率的にGlypican-1陽性悪性腫瘍(例えば、食道がん)の診断をすることができる。また本発明の別の実施形態は、上に列挙した重鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗Glypican−1抗体である。これらの抗体は、特定の実施形態では、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv−Fcから選択される抗体でありうる。
なお、食道がん患者の中にはGlypican-1陽性とGlypican-1非陽性の患者が存在している。そのため、上記治療方法は、食道がん患者の中で、食道がんがGlypican-1陽性食道がんと判断された患者に対して行うことが好ましい。このように、事前にGlypican-1陽性の有無を診断することによって、より最適な投薬を行うことが可能となる。
従って、より最適な投薬を行う観点からは、上記食道がんの治療方法は、患者がGlypican-1陽性食道がんを発症していることを診断する工程を含むことが好ましい。またこの治療方法は、患者由来の食道がん細胞がGlypican-1を発現していることを調べる工程を含んでいてもよい。Glypican-1陽性食道がんの発症診断は、例えば、mRNA発現診断、または蛋白質発現診断で行なってもよい。この診断は、Glypican-1陽性であることを正確に診断することによって、より最適な投薬を実現する観点からは、蛋白質発現診断が好ましい。蛋白質発現診断は、例えば、抗Glypican-1抗体を用いて行ってもよい。この発症診断においては、患者由来の被験食道がん細胞から得た蛋白質をウェスタンブロットに供し、目視でGlypican-1に相当するバンドが確認できた場合に、Glypican-1陽性食道がんを発症していると判断してもよい。または、患者由来の食道がん細胞のGlypican-1発現量が、正常細胞もしくはGlypican-1陰性食道がん細胞の場合に比べて有意に大きい場合に、Glypican-1陽性食道がんを発症していると判断してもよい。または、患者由来の食道がん細胞から得た総蛋白質と、正常細胞もしくはGlypican-1陰性食道がん細胞から得た総蛋白質とをウェスタンブロットに供し、正常細胞もしくはGlypican-1陰性食道がん細胞の場合に比べて、患者由来の食道がん細胞の方が、Glypican-1に相当するバンド強度が有意に強い場合に、Glypican-1陽性食道がんを発症していると判断してもよい。これらのGlypican-1陽性食道がんの発症診断においては、ウェスタンブロットに変えて、RT-PCRを使用してもよい。または、悪性腫瘍患者から得た血清あるいは血漿と、健常人もしくはGlypican-1陰性悪性腫瘍患者から得た血清あるいは血漿を抗Glypican-1抗体を用いたELISA法に供し、健常人もし
くはGlypican-1陰性悪性腫瘍患者の場合に比べて、悪性腫瘍患者由来の血清あるいは血漿の方が、Glypican-1発現量が有意に強い場合に、Glypican-1陽性悪性腫瘍を発症していると判断してもよい。血清、血漿サンプルそのものを定量しても良いし、血清、血漿よりエクソソームを単離し、エクソソーム中のGlypican-1をELISA法に供し、解析を行っても良い。
本発明の一実施形態に係る食道がんの治療方法は、Glypican-1アンタゴニストを患者に投与する工程を含んでいてもよい。または、Glypican-1に対するRNAi分子、またはそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドを患者に投与する工程を含んでいてもよい。
本発明の一実施形態は、抗Glypican-1抗体を含む、食道がんの新規の診断薬である。この診断薬は、例えば、抗Glypican-1抗体を含む、Glypican-1を標的とした食道がん治療のためのコンパニオン診断薬であってもよい。食道がん患者の中にはGlypican-1陽性とGlypican-1非陽性の患者が存在しているため、このコンパニオン診断薬を用いて事前に食道がんがGlypican-1陽性であるかどうかを検査しておけば、Glypican-1を標的とした食道がん治療の治療有効性を診断することができる。なおこの診断において、Glypican-1陽性の結果がでれば、Glypican-1を標的とした食道がん治療が有効だと判断できる。本発明の一実施形態において「コンパニオン診断」は、薬剤効果や副作用の患者個人差を検査により予測することで、最適な投薬を補助することを目的として実施される診断を含む。
また本発明の一実施形態に係る食道がんの診断薬は、食道がんに対する、抗Glypican-1抗体またはGlypican-1アンタゴニストの治療有効性を診断するための、抗Glypican-1抗体を含む診断薬であってもよい。食道がん患者の中にはGlypican-1陽性とGlypican-1非陽性の患者が存在しているため、この診断薬を用いて事前に食道がんがGlypican-1陽性であるかどうかを検査しておけば、患者に対する抗Glypican-1抗体またはGlypican-1アンタゴニストの治療有効性を診断することができる。
本発明の一実施形態は、食道がん患者の食道がんサンプルがGlypican-1陽性であることを検査する工程を含む、Glypican-1を標的とした食道がん治療のコンパニオン診断法である。食道がん患者の中にはGlypican-1陽性とGlypican-1非陽性の患者が存在しているため、このコンパニオン診断法を用いて事前に食道がんがGlypican-1陽性であるかどうかを検査しておけば、Glypican-1を標的とした食道がん治療の治療有効性を診断することができる。この診断法は、さらに、食道がん患者の食道がんサンプルを単離または抽出する工程を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において「食道がんサンプル」は、食道がん患者から得られた食道がん組織または細胞であってもよい。
本発明の一実施形態は、食道がんに対する抗Glypican-1抗体またはGlypican-1アンタゴニストの治療有効性を検査する方法である。この方法は、例えば、食道がん患者の食道がんサンプルがGlypican-1陽性であることを検査する工程を含む、検査方法である。この検査方法は、食道がんサンプル中のGlypican-1の存在を検出する工程を含んでいてもよいこの検出方法は、食道がんサンプル中のGlypican-1量が、正常細胞もしくはGlypican-1陰性食道がん細胞に比べて有意に大きいことを検出する工程を含んでいてもよい。Glypican-1の検出には、例えば、RT-PCR、ウェスタンブロット、免疫組織化学染色法を使用してもよい。Glypican-1の存在の有無の評価基準は、上述のGlypican-1陽性食道がんの発症診断の場合と同様であってもよい。治療有効性を検査する方法は、治療に有効であることを検査する方法を含む。
本発明の一実施形態は、抗Glypican-1抗体を含む、食道がん細胞の増殖抑制剤である。または、抗Glypican-1抗体と、食道がん細胞とを接触させる工程を含む、食道がん細胞の増殖抑制方法である。または、Glypican-1アンタゴニストを含む、食道がん細胞の増殖抑制剤である。または、Glypican-1アンタゴニストと、食道がん細胞とを接触させる工程を含む、食道がん細胞の増殖抑制方法である。本発明に実施形態に係る食道がん細胞の増殖抑制剤または治療薬は、食道がんの増殖速度、増殖量、または体積を、増殖抑制剤非添加または治療薬非添加のときに比べて、10、20、30、40、50、または70%以上低下させる薬剤であってもよい。この割合は、ここに例示した2つ数値の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態は、抗Glypican-1抗体を含む、食道がん細胞の細胞分裂抑制薬である。または、抗Glypican-1抗体と、食道がん細胞とを接触させる工程を含む、食道がん細胞の細胞分裂抑制方法である。または、Glypican-1アンタゴニストを含む、食道がん細胞の細胞分裂抑制薬である。または、Glypican-1アンタゴニストと、食道がん細胞とを接触させる工程を含む、食道がん細胞の細胞分裂抑制方法である。本発明に実施形態に係る食道がん細胞の細胞分裂抑制薬は、食道がん細胞の分裂速度を、細胞分裂抑制薬非添加のときに比べて、10、20、30、または50%以上低下させる薬剤であってもよい。この割合は、ここに例示した2つ数値の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態は、抗Glypican-1抗体を含む、Glypican-1依存性食道がんの治療薬である。この治療薬を用いれば、Glypican-1依存性食道がんを治療することができる。
本発明の一実施形態は、食道がんの治療薬生産のための、抗Glypican-1抗体またはGlypican-1アンタゴニストの使用である。また別の実施形態は、Glypican-1を標的とした食道がん治療のコンパニオン診断薬製造のための、抗Glypican-1抗体の使用である。
本発明の一実施形態は、細胞にGlypican-1をコードするポリヌクレオチドを導入する工程と、上記細胞において、上記Glypican-1を発現させる工程と、上記Glypican-1を発現している細胞を含む抗原でニワトリを免疫する工程と、を含む、抗Glypican-1抗体の生産方法である。この生産方法によれば、Glypican-1陽性食道がんの治療または診断のために優れた抗Glypican-1抗体を、効率的に生産できる。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel,F.M.(1989). Short Protocols inMolecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates;Ausubel,F.M. (1995).Short Protocols in MolecularBiology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates;Innis,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods fromCurrent Protocols in Molecular Biology,Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J.et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press; Gait,M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein,F.(1991). Oligonucleotides and Analogues:APractical Approach, IRL Press;Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman&Hall; Shabarova,Z. et al.(1994). Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim;Blackburn, G.M.et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
例えば、本明細書において、当該分野に知られる標準法によって、例えば自動化DNA合成装置(Biosearch、Applied Biosystems等から市販されるものなど)の使用によって、本発明のオリゴヌクレオチドを合成することも可能である。例えば、Steinら(Steinet al., 1988, Nucl. Acids Res. 16:3209)の方法によって、ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドを合成することも可能であるし、調節孔ガラスポリマー支持体(Sarinet al.,1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:7448-7451)等の使用によって、メチルホスホネート・オリゴヌクレオチドを調製することも可能である。
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、必要な場合、医薬基盤研究所において規定される基準を遵守し、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma−Aldrich,和光純薬、ナカライ、R&DSystems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
(使用した試料)
食道がん手術組織は大阪大学医学部附属病院にてインフォームドコンセントについて同意を得た患者より提供していただいた。
(実施例1:ウェスタンブロットによるGlypican-1の各種細胞における発現)
本実施例では、ウェスタンブロットによるGlypican-1の各種細胞における発現を調べた。
(ウェスタンブロット解析)
正常食道上皮細胞HEEpic, Het1A、食道扁平上皮癌細胞株TE1,TE5,TE6,TE8,TE9,TE10,TE11,TE14,TE15について、氷冷PBS(-)で洗浄後、cell scraperではがし、遠心分離により細胞を回収した。細胞はLysisbuffer(20mM Tris-HCl,pH7.5, 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1 x protease inhibitorcocktail (ナカライテスク),1 x phosphatase inhibitor cocktail(ナカライテスク)) により溶解し、遠心分離(13,200rpm,4℃、15min)により上清をタンパク質抽出液として回収した。タンパク質濃度はタンパク質定量キット(DCProtein Assay kit(Bio-Rad Laboratories社))を用いてウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードとして定量した。
Glypican-1の糖鎖を切断するために、Heparinase III(Sigma)で酵素的に切断した。抽出したタンパク質30μgに対し、60m UnitのHeparinase IIIを添加し、37度で6時間酵素反応を行った。反応後に、5xSDS-PAGE sample bufferを終濃度が1xになるように添加し、95度で5分間加熱した。
SDS-PAGE(5-20%グラジェントゲル(和光純薬))には、10μgのタンパク質をアプライした。40mAで50min泳動し、PVDF膜に120mA、1時間転写した。転写後、1%BSA/TBST(TBS+0.1% Tween 20)にて室温で1時間ブロッキングし、抗GPC-1抗体(Atlas antibodies:HPA030571)で、室温で1時間インキュベートした。TBSTで10分間、3回ずつ洗浄した後、TBSTで5,000倍希釈したHRP標識抗ウサギ抗体(GE healthcare)を用いてPVDF膜を室温で1時間インキュベートした。PVDF膜をTBSTで10分間、3回ずつ洗浄した後、蛍光反応システム(PerkinElmer社)により、反応したタンパク質を検出した。ローディングコントロールとして、抗β-actin抗体(Sigma)を用いた。
(結果)
その結果を図1に示す。Glypican-1について、特異的な抗体を用いてWestern blot法にて解析を行った。その結果、Glypican-1がHEEpicとHet1Aで発現しておらず、食道扁平上皮癌細胞株で発現していることを確認した。
これらの結果、Glypican-1が正常食道細胞ではなく、食道がん細胞に特異的に高発現することが明らかとなった。
(実施例2: Glypican-1(Accession No. P35052)の相対発現量)
本実施例では、Glypican-1(Accession No. P35052)の正常細胞および各種食道がん細胞株における相対発現量を調べた。
(手法)
正常食道上皮細胞HEEpic,Het1Aに対して食道扁平上皮癌細胞株TE1, TE6, TE8, TE9, TE10, TE14におけるGlypican-1の発現量を相対的に評価した。
150mmシャーレで培養した8種類の細胞株に対して、sulfo-NHS-SS-biotinでGlypican-1を含む細胞表面膜タンパク質をビオチン標識した。抽出したタンパク質をNeurto-avidinビーズにて精製した。このとき、サンプル間での誤差を補正するため、sulfo-NHS-SS-biotinで標識したウシ血清アルブミンを内部標準として等量ずつ加え、質量分析計による定量結果の補正に用いた。精製したタンパク質をトリプシンで消化し、iTRAQ試薬で標識した。8サンプルを1つに混合し、イオン交換HPLCにて24個のフラクションに粗分画し、それぞれの分画を脱塩後、質量分析計(nanoLC-MS/MS)解析にて測定した。得られたデータについて、proteome discovererver1.3にてデータベースサーチすることで、Glypican-1を含む細胞表面膜タンパク質の同定と定量を行った。
(結果)
その結果を図2に示す。図2に示すように、正常株では、1.2台であったのに対して、食道がん細胞株では、TE6、TE9、TE10およびTE14では2倍以上、TE1およびTE8でも1.6〜1.7と高い相対比率を示し、6種類の食道扁平上皮癌細胞株の内、4種類の癌細胞株にて2倍以上に高発現することが分かった。したがって、Glypican-1は食道がんのマーカーとして有用であることが示された。
(実施例3:Glypican-1は食道がん細胞の細胞表面に発現することをFACS解析)
次に、本実施例では、Glypican-1は食道がん細胞の細胞表面に発現することをFACSにて確認した。
(FACS解析)
細胞はPBS(Nacalai Tesque)で2回洗浄し、0.02% EDTA solution (Nacalai Tesque)でdishよりはがした。細胞をFACSstaining buffer (PBS supplemented with 1% FBS and 0.1% sodium azide)で2回洗浄し、5倍希釈したgoat anti-human Glypican-1 antibody (R&D Systems, Minneapolis, MN) で染色し、続いて50倍希釈したPE-labeled anti-goat IgG antibodyで染色した。染色した細胞はFACSCanto II (Becton Dickinson, Mountain View, CA, USA)で測定し、FlowJo software (TreeStar, Stanford, CA, USA)を用いてデータ解析した。
(結果)
結果を図3に示す。示されるように、正常細胞では、Glypican-1の発現はバックグラウンド程度であったのに対して、いずれの食道がん細胞株においてもGlypican-1は有意に発現が増大していることが示された。
以上のFACS解析によりGlypican-1がHEEpicで発現しておらず、食道がん細胞株の細胞表面に発現していることを明らかにした。
実施例1−3の結果、Glypican-1が正常食道細胞ではなく、食道がん細胞に特異的に高発現することが明らかとなった。
(実施例4:食道扁平上皮癌におけるGlypican-1 の免疫染色による発現)
本実施例では、食道扁平上皮癌症例の組織(原発およびリンパ節転移)におけるGlypican-1を免疫組織化学染色により確認した。
(免疫組織化学染色法による癌抗原の発現解析)
パラフィン包埋組織の薄切は脱パラフィン処理、アルコールによる脱水を行った。Glypican-1に対する免疫組織化学染色はABC法により抗GPC-1抗体(Atlasantibodies:HPA030571)を用いて行った。
(結果)
図4Aにその結果を示す。また、さらに別のシリーズで行った結果を図4Bに示す。いずれのシリーズにおいても、Glypican-1について、手術組織に対し免疫組織化学染色法を行うことで、細胞株でなく、癌組織における、癌抗原候補分子の発現について評価した。示されるように、免疫組織化学染色によっても、Glypican-1の食道がん細胞株における有意な発現増強が観察された。この実験の結果、Glypican-1が、食道扁平上皮癌組織の細胞膜において高発現することが判明した。
さらに、食道癌のリンパ節転移部位においてもGlypican-1が発現している事が確認された(図4C))。すなわち、抗Glypican-1抗体は原発部位のみならず転移巣に対しても治療効果が期待される。続いて、食道扁平上皮癌(88)症例の組織に対して、Glypican-1の発現を免疫組織化学染色により解析した。1次抗体はAtlas antibodies社(HPA030571)を使用し、Dako ChemMate ENVISION Kit/HRP (DAB)-universal kit (K5007)を用いて染色した。 染色の強度を0から2の3段階、面積を0から3の4段階とし、その積を染色スコアとした。染色スコア0から3をGPC1低発現群、4から6をGPC1高発現群として2群に分け、カプラン・マイヤー法を用いて生存曲線を作成し、ログランク検定を行った。その結果、88症例中35症例はGPC1低発現群、53症例がGlypican-1高発現群に分類され、、Glypican-1高発現症例では低発現症例と比較して有意に予後が悪い事が明らかとなった(Log-ranktest p=0.0001)(図4D)。
(実施例5:リアルタイムPCRによる各種正常組織、食道癌細胞株TE11におけるGlypican-1発現解析)
ヒトの各種正常組織由来RNAはHuman Total RNA Master Panel II (Clontech, Palo Alto, CA, USA)を用いた。食道扁平上皮癌細胞株TE11について、RNeasyminikit(QIAGEN)によりRNAを精製した。QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen)を用いてトータルRNAをcDNAへ逆転写した。
リアルタイムPCRはSYBR Premix Ex taq (Takara Bio, Shiga, Japan)を用いて行った。装置はABI7900HT (Applied Biosystems)を用いた。以下のプライマー配列を用いた。
・GPC-1, forward primer 5’- GCCAGATCTACGGAGCCAAG-3’(配列番号27;NM_002046.3)
・GPC-1,reverse primer 5’-AGGTTCTCCTCCATCTCGCT-3’(配列番号28;NM_002046.3)
・GAPDH, forward primer’-AGCAATGCCTCCTGCACCACCAAC-3’(配列番号29;NM_002081.2)
・GAPDH, reverse primer 5’-CCGGAGGGGCCATCCACAGTCT-3’ (配列番号30;NM_002081.2)
・β-actin,forward primer ’-AGCCTCGCCTTTGCCGA-3’(配列番号31;NM_001101.3)
・β-actin, reverse primer 5’-CTGGTGCCTGGGGCG-3’ (配列番号32;NM_001101.3)。
(結果)
結果を図5Aに示す。図に示すように、市販の各種ヒト正常組織由来RNAを用いて、リアルタイムPCR解析による各種正常組織におけるglypican-1の発現解析を行い、GAPDH発現に対する相対値としてglypican-1の発現量を調べたところ、正常組織での発現は低いことが確認された。いずれの組織においても、Glypican-1の有意な発現は見られなかったのに対して、食道癌細胞株では、顕著な発現増加がみられた。(図5A)。食道癌組織、非癌部位、TE14を加えた場合でも同様の傾向が見られた。図5BリアルタイムPCR解析による同一患者の食道癌組織および非癌部位におけるGlypican-1の発現解析を行った結果を示す。β-actin発現に対する相対値としてGlypican-1の発現量を調べたところ、食道癌組織では非癌部位と比較して有意な発現レベルの上昇が認められた。したがって、これらの結果からも、本発明のglypican-1は食道がんのマーカーとして有用であることが理解される。
(実施例6:健常人および食道扁平上皮癌患者における血清中Glypican-1濃度比較)
健常人血清(N=5)、及び、食道がん患者血清(N=9)をPBSで2倍希釈し、USCNLife ScienceINC社のhuman ELISAキットで定量を行った。その結果、食道がん患者9例中6例において、健常人血清よりも血清中Glypican-1の濃度が高値を示すことが判明した(図6〜図7)。
抗Glypican-1抗体による抗体医薬品を臨床応用するには、Glypican-1を発現する食道がん患者選択的に治療を行うことが個別化医療に結びつくものと考えられる。そのため、Glypican-1陽性患者を選別する方法が必要である。食道がんの生検組織におけるGlypican-1を免疫組織化学染色法で検査する手法も可能性があるが、侵襲性が高いため、好ましくは、侵襲性の低い方法が好ましい。食道がん組織に発現しているGlypican-1あるいはその細胞外ドメインが血液中に遊離して存在している可能性がある。そこで、食道がん患者血液中のGlypican-1を定量することができれば、血中Glypican-1濃度の高いにおいては食道がん組織において、Glypican-1の発現量が高い可能性が示唆される。血液サンプルは生検よりも低侵襲性であるというメリットがある。本発明において、血液中のGlypican-1濃度をELISA法にて定量した結果、健常人と比べて血中Glypican-1濃度が上昇している食道がん患者を検出することに初めて成功した。これらの患者組織ではGlypican-1が高発現している可能性が高く、コンパニオン診断薬として血中Glypican-1濃度の測定は有用性が高いと考えられる。
(実施例7:Glypican-1に対するsiRNAを用いた発現抑制、アポトーシスおよびAKTの抑制)
本実施例では、Glypican-1が食道扁平上皮癌細胞株の増殖と関係しているかどうかについて明らかにするため、Glypican-1に対するsiRNAを用いたGlypican-1の発現抑制を用いて、invitroでの抗腫瘍効果を検討した。
(siRNAおよびモノクローナル抗体による増殖阻害アッセイ)
食道がん細胞は96ウェルプレートに2,000cells/wellまき、lipofectamine2000を用いたsiRNAトランスフェクション後72時間後にWST-8アッセイ法によって細胞増殖アッセイを行った。Glypican-1に対するsiRNAおよび、negative control siRNAはQIAGEN社より入手した。
(アポトーシスアッセイ)
lipofectamine2000を用いてTE6, TE8, TE14 細胞にsiRNAトランスフェクションした72時間後に、PBSで細胞を洗浄し、caspase-3fluorometric assay キット(R&D systems)を用いて測定した。
(AKTのウェスタンブロット解析)
TE6,TE8, TE14について、氷冷PBS(-)で洗浄後、cell scraperではがし、遠心分離により細胞を回収した。細胞はRIPA buffer(10 mMTris-HCl, pH 7.5, 150 mM NaCl, 1% Nonidet P-40, 0.1% sodium deoxycholate, 0.1%SDS, phosphatase ,1 x protease inhibitor (ナカライテスク)cocktail (ナカライテスク)) により溶解し、遠心分離(13,200rpm,4℃、15min)により上清をタンパク質抽出液として回収した。タンパク質濃度はタンパク質定量キット(DC Protein Assay kit (Bio-RadLaboratories社))を用いてウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードとして定量した。
SDS-PAGEとPVDF膜への転写、ブロッキングは実施例1に記載した方法で行った。
抗-phospho-AKT(Thr308)抗体、抗- phospho-AKT(Sre473)抗体、抗-AKT抗体、抗-cleaved caspase-3抗体はCellSignaling Technologyより購入した。メンブレンを各種1次抗体で、1時間、室温でインキュベートした。TBSTで10分間、3回ずつ洗浄した後、TBSTで5,000倍希釈したHRP標識抗ウサギ抗体(GE healhcare)を用いてPVDF膜を室温で1時間インキュベートした。PVDF膜をTBSTで10分間、3回ずつ洗浄した後、蛍光反応システム(PerkinElmer社)により、反応したタンパク質を検出した。ローディングコントロールとして、抗GAPDH抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いた。
(結果)
その結果を図8、9、10A、10Bおよび10Cに示す。Glypican-1に対するsiRNA はGlypican-1陽性食道扁平上皮癌細胞(TE5、TE6、TE8、TE14およびTE15)に対して抗腫瘍効果を示した。このとき、Glypican-1のsiRNAによるGlypican-1の発現抑制により、TE6,TE8,TE14においてcaspase-3活性の上昇が認められたことから、アポトーシスが誘導されていることが明らかになった。また、TE6、TE8およびTE14においてGlypican-1の発現抑制はAKTのリン酸化レベルの低下を引き起こすことが明らかとなった。TE8細胞において、Glypican-1のsiRNAによるGlypican-1の発現抑制により、アポトーシス促進性のタンパク質(pro-apoptotic protein)であるPuma, Bik, Bimの発現増加と抗アポトーシス性のタンパク質(Anti-apoptotic protein)であるBcl-wの発現減少が認められ、さらにEGFRのリン酸化レベルの減少も認められた。
以上から、本発明は、食道がん、特に食道扁平上皮癌の治療剤または予防剤として機能し得ることが示された。
(実施例8:抗体生産および特徴づけ)
本実施例では、GPC-1ニワトリ抗体を作製し、特徴づけを行った。以下にプロトコールを示す。
(ヒトGlypican-1発現ニワトリ細胞株の作製とニワトリへの免疫)
ヒトGlypican-1のcDNAをほ乳動物発現ベクター(pcDNA3.1-V5/His-TOPO)にライゲーションし、C末端にV5/Hisタグ融合タンパク質となるようにクローニングした。次に、発現ベクターをニワトリリンパ芽球様細胞株にエレクトロポレーション法でトランスフェクトした後、2mg/mlのG418を添加して発現細胞の選択をおこなった。得られたLSR発現細胞株をニワトリに過免疫した。抗体価の測定はcell-ELISAにて実施した。細胞株はGlypican-1発現ニワトリリンパ芽球様細胞株を4×105cells/wellで使用した。
(免疫ニワトリ脾臓からのscFv ファージ抗体ライブラリーの作製)
免疫をおこなったニワトリから脾臓を摘出した後、リンパ球を分離した。得られたリンパ球からRNAを抽出してcDNAの合成を行いscFv ファージ抗体ライブラリーを作製した。ファージ抗体ライブラリーの作製に関しては、[nakamuraet al., J Vet Med Sci. 2004 Jul;66(7):807-14]に記載の一般的な手法に従った。
(パニング選択とscFvクローンの反応性評価)
scFvファージライブラリーを用いてcell panningを行いGlypican-1特異的なファージの濃縮を行った。Glypican-1非発現細胞株に添加して非特異ファージの吸収操作をおこなった後、ヒトGlypican-1発現細胞株と反応させた。細胞株はリンパ芽球様細胞株を用いた。有機溶媒で洗浄後、Glypican-1発現細胞株に特異的に結合したファージを回収し、大腸菌に感染させた。4回パニングをおこなった後、ライブラリーの反応性をGlypican-1発現細胞株を用いたcell-ELISA、及びFACS解析で確認した。反応性が上昇し始めていたライブラリーからファージのクローニングを行いcell-ELISA、及びFACS解析にて反応性を確認した。陽性クローンを選択した後、配列を決定した。Cell panningに関しては、[Giordano et al., Nat Med. 2001 Nov;7(11):1249-53.]に記載の方法に従った。
(分析)
抗体を用いたFACS解析を行うにあたり、Glypican-1陰性細胞として、ニワトリTリンパ芽球様細胞株(CT01細胞)、Glypican-1陽性細胞としてヒトGlypican-1を強制発現させたCT01細胞(CT01-GPC-1#42)を用いた。開発した抗体の各種クローンを一次抗体として用い、2次抗体としてはFITC標識GoatAnti-Mouse IgG(H+L chain specific)(southern biothech社)を用い、FACS CantoII (BD社)を用いて測定し、測定データはFlowJo(Tree Star社)を用いて解析した。その結果、Glypican-1をFACSで染色出来る抗体として、20種類
のクローンを開発することに成功した。
(結果)
結果を図11に示す。示されるように、いずれの抗体も反応性の結果から、これらの抗体は、診断薬・治療薬として使用される可能性があることが理解される。
(実施例9:抗Glypican-1モノクローナル抗体によるマウスでの抗腫瘍効果の解析)
Scidマウス(6週齢、メス)皮下に食道がん細胞株TE-8を2x106cells/100μl (PBS:マトリゲル=1:1)で移植する。移植後14日目にマウスを2群に分け、抗Glypican-1抗体あるいはisotype control抗体(MouseIgG2a、M7769、Sigma)を10mg/kg週2回の頻度で計6回、腹腔内に投与した。TE-8移植マウスは抗体投与開始後25日目に解剖し、腫瘍重量も計測する。腫瘍体積=長径x短径x高さより計算する。これにより抗腫瘍効果を確認することができる。
抗Glypican-1抗体を介した抗腫瘍効果がADCCを依存性か非依存性かを調べるため、NOD/Scidマウス(6週齢、メス)皮下に食道がん細胞株TE-8を1x106cells/100μl(PBS:マトリゲル=1:1)で移植する。移植後14日目にマウスを2群に分け、抗Glypican-1抗体あるいはisotype control抗体(MouseIgG2a、M7769、Sigma)を10mg/kg週2回の頻度で計6回、腹腔内に投与する。TE-8移植マウスは抗体投与開始後25日目に解剖し、腫瘍重量も計測する。腫瘍体積=長径x短径x高さより計算する。NOD/ScidマウスはNK細胞の活性が低いため、抗腫瘍効果が認められなければ、Scidマウスにて示された抗Glypican-1抗体による抗腫瘍効果はADCC活性が主であるといえる。NOD/Scidマウスでも抗腫瘍効果がある程度見られる場合、抗Glypican−1抗体がADCC活性以外にも、Glypican−1の機能そのものを阻害することで抗腫瘍効果を発揮していることを意味する。
(Biacore解析による抗Glypican-1抗体の親和性解析)
抗Glypican-1抗体の親和性解析はBiacore3000を用いて測定した。CM5 sensor tipにMouse Antibody Capture Kitウサギ抗マウスIgGポリクローナル抗体を固相化し、各種抗Glypican1抗体クローンをキャプチャーし、リガンドとしてリコンビナントGlypican-1(R&D systems 4519-GP-050)を各種濃度で添加し、結合と解離をモニターした。得られたセンサーグラムはBIAevaluation 4.1 softwareを用いて解析し、KD値を算出した(図12)。その結果抗GPC1抗体(#1-12)はKD値が2.61nMと高親和性を示す事が明らかとなった。
(抗Glypican-1モノクローナル抗体のマウスGlypican-1との交差反応アッセイ)
293細胞にマウスGlypican-1発現ベクターあるいは空ベクターを、lipofectamine2000を用いてトランスフェクションし、抗Glypican-1抗体各種クローンとの反応性をFACSにて解析した。その結果、#18(2-63)以外のクローンにおいてマウスGlypican-1と交差反応を示すことが明らかとなった(図13)。
(抗Glypican-1モノクローナル抗体による細胞増殖阻害アッセイ)
TE14細胞を96ウェルプレートに2000cells/wellまき、37℃のCO2インキュベーターにて一晩インキュベートした。96ウェルプレートの細胞上清を捨て、抗Glypican-1抗体の希釈液(0μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、100μg/ml)を100μL/wellずつ加えた。72時間後にWST-8アッセイ法によって細胞増殖アッセイを行った。また、コントロールとして、非抗LSR抗体であるマウスIgG2(biolegend社、400224、MOPC-173)を使用した。結果を図14に示す。抗Glypican-1抗体#19(2-70)を接触させることによって、食道癌細胞(TE14)の増殖が抑制された。
(エピトープ解析)
各種抗Glypican-1抗体のエピトープ解析を実施した。ヒトGlypican-1の全長の発現ベクターより33-61番目のアミノ酸を欠失させたtruncate mutantを作成した。この発現ベクターを293細胞にトランスフェクションし、各種抗Glypican-1抗体との反応性をFACSにより解析した。その結果、#7(1-28)と#19(2-70)の2クローンにおいて、FACSでの反応性が消失していたことから、#7(1-28)と#19(2-70)のエピトープは33-61番目の領域に存在すると考えられた(図16A、図16B)。
続いて、各種抗Glypican-1抗体がGlypican-1とは反応するが、Glypican-3とは反応しない性質を利用して、Glypican-1の430番目以降のアミノ酸配列をGlypican-3に置換したキメラタンパク質発現ベクターを作成した(図17)。各種発現ベクターを293細胞にトランスフェクションし、各種抗Glypican-1抗体との反応性をFACSにより解析した。その結果、#17(2-60),#2(1-5),#10(1-57)の3クローンにおいては、FACSでの反応性が認められなかったため、これらのクローンにおいて、エピトープ領域はGlypican-1の細胞外領域に相当する430から530番目に存在すると考えられる(図18)。
また、抗Glypican-1抗体#4(1-12)のエピトープ領域を免疫沈降した抗原抗体複合体をトリプシン消化し、抗体に結合した、ペプチド領域を質量分析計で同定することを実施した。
抗Glypican-1抗体#4(1-12)あるいはマウスIgG2(biolegend社、400224、MOPC-173)とリコンビナントGlypican-1(R&Dsystems 4519-GP-050)を混合し、protein G sepharoseを用いて免疫沈降した。その後、トリプシンを用いてビーズ状で酵素消化し、さらにビーズを洗浄した後、抗体に結合したペプチドを0.1%ギ酸で溶出し、LC-MS/MS解析とMASCOT search program(version 2.4.1;Matrix Science)によるデータベースサーチを行う事で、ペプチドの解析を行った。その結果、コントロール抗体と比較して抗Glypican-1抗体#4(1-12)のサンプルに特異的に検出されたペプチド配列として、339-358,388-404,405-421()が検出された。従って、抗Glypican-1抗体#4(1-12)のエピトープは339-358番目のアミノ酸領域および388-421のアミノ酸領域に存在する事が確認された。
(実施例10:抗GPC1モノクローナル抗体によるマウスでの抗腫瘍効果の解析)
SCIDマウス(6週齢、メス)皮下に食道扁平上皮癌細胞株E14を2x106cells/100μl(PBS:マトリゲル=1:1)で移植した。移植後14日目にマウスを2群に分け、抗GPC1抗体#4(1-12)、抗GPC1抗体#19(2-70)あるいはisotypecontrol抗体(MouseIgG2a、M7769、Sigma)を10mg/kg週2回の頻度で計6回、腹腔内に投与した(図18)。TE14移植マウスは抗体投与開始後24日目に解剖し、腫瘍重量も計測した。腫瘍体積=長径x短径x短径x0.5より計算した。
腫瘍体積を測定した結果、抗GPC1抗体投与群ではcontrol IgG投与群に対してTE14移植マウスにおいてもin vivoでの腫瘍の増殖に対して有意な阻害効果が認められた(図19〜20)。また、腫瘍重量においても有意な差が認められた。
(実施例11:抗GPC1モノクローナル抗体によるマウスでの抗腫瘍効果の解析)
NOD/SCIDマウス(6週齢、メス)皮下に食道扁平上皮癌細胞株TE14を2x106cells/100μl(PBS:マトリゲル=1:1)で移植した。移植後14日目にマウスを2群に分け、抗GPC1抗体#4(1-12)、抗GPC1抗体#19(2-70)あるいはisotypecontrol抗体(MouseIgG2a、M7769、Sigma)を10mg/kg週2回の頻度で計6回、腹腔内に投与した。TE14移植マウスは抗体投与開始後24日目に解剖し、腫瘍重量も計測した。腫瘍体積=長径x短径x短径x0.5より計算した。
腫瘍体積を測定した結果、NOD/ SCIDマウスにおいて抗GPC1抗体#4(1-12)投与群ではcontrol IgG投与群に対してin vivoでの腫瘍の増殖に対して部分的ではあるが有意な阻害効果が認められた(図21)。腫瘍重量においても有意な差が認められた。腫瘍重量でも同様の結果が認められた(図22)。
(実施例12:抗GPC1モノクローナル抗体によるマウスでの抗腫瘍効果の解析)
SCIDマウス(6週齢、メス)皮下にGPC1陰性の肺扁平上皮癌細胞株であるLK2に2×106cells/100μl(PBS:マトリゲル=1:1)で移植した。移植後14日目にマウスを2群に分け、抗GPC1抗体(#1-12)あるいはisotype control抗体(MouseIgG2a、M7769、Sigma)を1週2回の頻度で計6回、腹腔内に投与した(図23)。マウスは抗体投与開始後24目に解剖し、腫瘍重量も計測した。腫瘍体積=長径x短径x短径x0.5より計算した。
腫瘍体積を測定した結果、GPC1陰性のLK2移植SCIDマウスにおいて抗GPC1抗体投与群ではcontrol IgG投与群と比較してin vivoでの腫瘍の増殖に対して有意な阻害効果は認められなかった(図24)。腫瘍重量においても同様の結果が得られた(図25)。このことから、抗GPC1抗体による抗腫瘍効果が発揮されるには腫瘍細胞にGPC1が発現している必要があることが示唆された。
(実施例13:安全性試験)
抗Glypican-1抗体#4(1-12)はマウスGlypican-1とも交差反応を示すため、マウスに投与したときの急性毒性試験を実施した。C57BL/6J(8w)マウスの雄、雌それぞれにマウスIgG2a(Sigma,M7769)あるいは抗Glypican-1抗体#4(1-12)を1mg腹腔内投与し、7日目にマウスを解剖し、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓を摘出しHE染色による病理解析を実施した。また、採血を行い、自動血球計測装置(VetScanHMII)、動物用生化学血液分析器(VetScanVS2)を用いて解析した(図26)。その結果、血球数のデータにおいて両者に有意な変化は認められなかった(図27、図28)。同様に血液生化学データにおいても両者に有意な変化は認められなかった(図29、図30)。このことから抗LSR抗体#1-25は毒性が少なく安全性が高いことが示唆された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特願2013−272085(2013年12月27日出願)に対して優先権主張をするものであり、当該出願の明細書の内容は本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。