以下、適宜図面を参照しながら、本発明の電極触媒、ならびにこれを使用した膜電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[電極触媒(触媒)]
本発明の一形態は、白金および白金以外の金属成分からなる合金微粒子を含む触媒成分が触媒担体に担持されてなる電極触媒に関する。ここで、触媒担体は、半径が1nm以上であるメソ孔を有し、前記メソ孔の空孔分布のモード半径が1nm以上2.5nm未満である。また、合金微粒子の少なくとも一部は前記メソ孔内に担持されている。そして、合金微粒子の格子定数の実測値Q[Å]は、下記数式1により算出されるベガード則に沿った格子定数の理論値P[Å]よりも小さい点に特徴がある。
なお、本明細書中、白金以外の金属成分を単に「非白金金属」とも称する。また、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
図1は、本形態に係る触媒の形状・構造を示す概略断面説明図である。図1に示されるように、本形態に係る電極触媒20は、触媒金属(合金微粒子)22および触媒担体23からなる。また、電極触媒20は、半径1nm以上であるメソ孔24を有する。この際、メソ孔のモード径は1nm以上2.5nm未満である。また、図1に示す形態において、触媒金属(合金微粒子)22は実質的に白金および白金以外の金属成分からなっており、その少なくとも一部は上記メソ孔内に担持されている。ここで「実質的に」とは、触媒金属中、80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは98重量%以上(上限100重量%)が白金および白金以外の金属成分からなる合金微粒子からなることを指す。なお、触媒金属(合金微粒子)22は、その少なくとも一部がメソ孔24の内部に担持されていればよく、一部が担体23の表面に担持されていてもよい。
「合金微粒子がメソ孔内に担持されている」ことは、以下の手順によって確認することができる。すなわち、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscopy;SEM)および透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscopy;TEM)を用いて、触媒粒子表面に露出した触媒金属粒子およびメソ孔内の触媒金属粒子を特定する。各粒子についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、金属成分の含有モル比率を測定し、白金および非白金金属からなる合金微粒子であることを確認する。
また、メソ孔内に担持される合金微粒子における白金以外の金属成分に対する白金の含有モル比(以下、「メソ孔内に担持される合金微粒子における白金以外の金属成分に対する白金の含有モル比」を単に「白金の含有モル比」とも称する)は、好ましくは1.0〜10.0である。白金の含有モル比をかような範囲内とすることで、触媒活性が顕著に向上する。白金の含有モル比は、触媒活性の観点から、1.0〜9.0であることが好ましく、1.5〜4.0であることがより好ましい。なお、「メソ孔内に担持される合金微粒子における白金以外の金属成分に対する白金の含有モル比」の値は、メソ孔内の触媒金属粒子を10〜50個特定し、各粒子についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、金属成分の含有モル比率を小数点第2位まで測定した後、平均含有モル比率を算出することで求めた値を採用する。この際、平均含有モル比率は小数点第2位まで求め、小数点第2位を四捨五入する。
ここで、白金の含有モル比は、非白金金属を担持する際の非白金金属前駆体の仕込み量、非白金金属担持前のメソ孔に担持されている白金粒子の粒子径、非白金金属担持前の担体の親水化度、非白金金属担持前の担体のメソ孔の大きさ、または脱泡処理の実施などによって制御することができる。非白金金属前駆体の仕込み量が多いほど、白金の含有モル比が小さくなる。メソ孔に担持されている白金粒子の粒子径が大きいほど、白金粒子と非白金金属の合金化が促進され、白金の含有モル比が小さくなる。非白金金属担持前の担体の親水化度が高いほど、非白金金属前駆体液のメソ孔への導入が促進されやすく、白金粒子と非白金金属の合金化が促進され、白金の含有モル比が小さくなる。非白金金属担持前の担体のメソ孔の大きさが大きいほど、非白金金属前駆体液のメソ孔への導入が促進されやすく、白金粒子と非白金金属の合金化が促進され、白金の含有モル比が小さくなる。また、必要に応じて脱泡処理をすると非白金金属前駆体液のメソ孔への導入が促進されやすく、白金粒子と非白金金属の合金化が促進され、白金の含有モル比が小さくなる。さらに、メソ孔に担持されている白金粒子の粒子径の制御は、後述するように、白金粒子担持後に熱処理を行って白金粒子を成長させる;白金金属を担持する際の白金金属前駆体の仕込み量などによって制御することができる。
また、メソ孔内の合金微粒子の平均粒径(直径)は、好ましくは2.0nm以上、より好ましくは2.0nm以上30.0nm以下、さらに好ましくは3.0nm以上10.0nm以下である。メソ孔内の合金微粒子の平均粒径を2.0nm以上とすることで、触媒活性がより向上する。これは、メソ孔内に担持される合金微粒子における非白金金属の比率が向上し、所望の非白金金属含有比を有する触媒が得られやすいためであると考えられる。また、メソ孔内の合金微粒子の平均粒径が2.0nm以上であれば、合金微粒子がメソ孔内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。また、メソ孔内の合金微粒子の平均粒径が30.0nm以下であれば、担体のメソ孔内部に合金微粒子を簡便な方法で担持することができ、合金微粒子の電解質被覆率を低減することができる。
なお、本発明における「メソ孔内の合金微粒子の平均粒径」は、以下のようにして算出された値を採用する:すなわち、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscopy;SEM)および透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscopy ;TEM)を用いて、触媒粒子表面に露出した触媒金属およびメソ孔内の触媒金属を特定する。メソ孔内の触媒金属を10〜50個特定し、各粒子について粒径(直径)を小数点第2位まで取得し、平均値を算出する。この際、平均値は、小数点第2位まで求め、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求める。
本形態に係る電極触媒において、触媒担体は半径が1nm以上であるメソ孔を有し、前記メソ孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上2.5nm未満であり、1nm以上2nm以下であることが好ましい。本明細書においては、半径が1nm以上の空孔をメソ孔とするため、メソ孔のモード径も当然に1nm以上となる。また、触媒担体のメソ孔の空孔分布のモード半径が2.5nm未満であることで、メソ孔内部に電解質(電解質ポリマー)がより侵入しにくいため、触媒活性が顕著に向上する。
また、触媒担体のメソ孔の空孔分布のモード半径は、メソ孔内の合金微粒子の平均粒径に対して0.6以下であることが好ましく、0.1〜0.6であることがより好ましい。かような関係を満たすことで、合金微粒子と触媒担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間がより減少する(すなわち、合金微粒子表面に吸着する水の量を減らすことができる)。また、水が空孔内壁面の相互作用を受け、水が空孔内壁面に保持されやすくなる。よって、金属酸化物の形成反応がより遅くなり、金属酸化物がより形成されにくくなる。その結果、合金微粒子表面の失活がより抑制され、高い触媒活性をより発揮できる(すなわち、触媒反応をより促進できる)。また、触媒金属が空孔(メソ孔)内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる(すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる)。
触媒担体における半径1nm以上、2.5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.4cc/g担体以上であることが好ましい。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層内で電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。なお、本明細書では、半径1nm以上、2.5nm未満の空孔の空孔容積を単に「メソ孔の空孔容積」とも称する。メソ孔の空孔容積は、より好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.4〜1.5cc/g担体である。
「メソ孔の空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「メソ孔の空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。触媒担体のメソ孔の空孔の半径(nm)は、DH法を適用することによって測定することができる。
「メソ孔の空孔容積」は、触媒担体に存在する半径1nm以上、2.5nm未満のメソ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「メソ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。触媒担体の空孔容積は、DH法を適用することによって測定することができる。
「微分細孔分布」とは、細孔径を横軸に、触媒担体中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。すなわち、窒素吸着法(DH法)により得られる触媒担体の空孔容積をVとし、空孔直径をDとした際の、差分空孔容積dVを空孔直径の対数差分d(logD)で割った値(dV/d(logD))を求める。そして、このdV/d(logD)を各区分の平均空孔直径に対してプロットすることにより微分細孔分布曲線が得られる。差分空孔容積dVとは、測定ポイント間の空孔容積の増加分をいう。本明細書において、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径および空孔容積の測定方法は、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版近藤精一、石川達雄、安部郁夫共著、丸善株式会社)や「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己編、化学同人)、D.Dollion,G.R.Heal:J.Appl.Chem.,14,109(1964)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。
本明細書では、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径および空孔容積は、D.Dollion,G.R.Heal:J.Appl.Chem.,14,109(1964)に記載される方法によって、測定された値である。
触媒担体のBET比表面積(m2/g担体)は、特に制限されないが、600m2/g担体以上であることが好ましく、600〜3000m2/g担体であることがより好ましく、1100〜1800m2/g担体であることがさらに好ましい。上記したような比表面積であれば、メソ孔により多くの合金粒子を格納(担持)できる。また、触媒層での電解質と合金微粒子とを物理的に離し、合金微粒子と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる。ゆえに、合金微粒子の触媒活性をより有効に利用できる。
なお、本明細書において、触媒担体の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。より詳細には、触媒担体粉末約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、株式会社島津製作所製の電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
(触媒金属(合金微粒子))
触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する金属成分であり、本発明に係る電極触媒において、触媒金属は白金と白金以外の金属成分との合金微粒子を含む形態で触媒担体に担持されている。
非白金金属としては、特に制限されないが、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム等が挙げられる。非白金金属は、特に制限されないが、触媒活性、後述する金属間化合物やL12構造の形成しやすさなどの観点から、遷移金属であることが好ましい。ここで、遷移金属とは、第3族元素から第12族元素を指し、遷移金属の種類もまた、特に制限されない。触媒活性、金属間化合物やL12構造の形成しやすさなどの観点から、遷移金属は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびジルコニウム(Zr)からなる群より選択されることが好ましい。中でも、コバルト(Co)であることが好ましい。このように、遷移金属のなかでも白金(Pt)と金属間化合物を形成する金属原子を含有することで、活性が高くなる。上記遷移金属は、白金(Pt)と金属間化合物を形成しやすいため、白金の使用量を低減しつつも、より高い面積比活性(単位面積当たりの活性)を達成できる。なお、上記遷移金属は、単独で白金と合金化されても、あるいは2種以上が白金と合金化されても、いずれでもよい。
ここで、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがある。
触媒金属としての活性をより高めることができることから、電極触媒中の合金微粒子が、内部構造として白金原子および白金以外の金属原子が規則正しく配列した金属間化合物構造を有することが好ましい。金属間化合物構造を有することは、X線回折(X−ray diffraction)(XRD)パターンにおいて、金属間化合物特有のピークの存在によって検出することができる。また、電極触媒中の合金微粒子の結晶構造について特に制限はないが、触媒活性に優れるという観点からは、面心立方格子構造であることが好ましい。
さらに、電極触媒中の合金微粒子がL12構造を有し、L12構造の規則度(Extent of ordering)が30〜100%であることが好ましい。上記構成を有する合金微粒子は、少ない白金含有量であっても、高い活性を発揮できる。L12構造の規則度は、40〜100%であることが好ましく、45〜100%であることがより好ましく、47〜95%であることがさらにより好ましい。これにより、電極触媒の活性(特に面積比活性)をより向上できる。
「L12構造の規則度(Extent of ordering)(%)」は、J.Mater.Chem.,2004,14,1454−1460に記載される方法を基に求めることができ、本明細書においては、X線回折(X−ray diffraction)(XRD)パターンの最大強度のピーク面積(Ia)と、金属間化合物に特有のピーク面積(Ib)との比として定義される。具体的には、「L12構造の規則度(Extent of ordering)(%)」は、下記方法によって測定される値である。
<L12構造の規則度(Extent of ordering)の測定方法>
触媒粒子を、下記条件によりX線回折(X−ray diffraction)(XRD)を行い、XRDパターンを得る。得られたXRDパターンにおいて、2θ値が39〜41°の範囲に観測されるピーク面積(Ia)および31〜34°の範囲に観測されるピーク面積(Ib)を測定する。ここで、2θ値が39〜41°の範囲に観測されるピークは、白金部分もしくは合金部分の(111)由来のピークである。また、2θ値が31〜34°の範囲に観測されるピークは、合金微粒子のL12構造に固有のピークである。
上記ピーク面積Ia及びIbを用いて、下記数式により、L12構造の規則度を算出する。
上記数式において、Xは、合金微粒子を構成する非白金金属に特有の値である。具体的には、Xは、下記表に示される値である。
ここで、合金の組成とその格子定数との関係を表す経験則として、ベガード則(Vegard則)が知られている。これは、合金の構成金属のそれぞれのモル分率と単体の格子定数とを用いた加重平均値として当該合金の格子定数が得られるというものである。例えば、ベガード則によれば、金属原子Aと金属原子Bとからなる合金の格子定数aは、当該合金における金属原子Aのモル分率および金属原子Bのモル分率をNAおよびNBとし、金属原子A単体の格子定数および金属原子B単体の格子定数をそれぞれaAおよびaBとしたときに、a=NAaA+NBaBにより算出されることになる。
合金における格子定数の実測値は、上述したベガード則に沿った値となるか、場合によってはこれよりも大きい値となるのが一般的である。これに対し、本発明にかかる電極触媒を構成する触媒金属の合金微粒子は、ベガード則に沿った格子定数よりも小さい格子定数を有する点に特徴がある。すなわち、本形態に係る電極触媒では、触媒金属に含まれる合金微粒子の格子定数の実測値Q[Å]が、下記数式1により算出されるベガード則に沿った格子定数Pの理論値[Å]よりも小さい点に特徴があるのである。
本形態に係る電極触媒によれば、このようにベガード則による理論値Pよりも小さい格子定数を有することで、よりいっそう触媒活性を向上させることが可能となることが本発明者らによって見出された。なお、格子定数の実測値Qとしては、後述する実施例の欄に記載の手法により測定した値を採用するものとする。また、PとQとの関係は、上述したようにQ<Pを満たせば特に制限はないが、格子定数の実測値Qが理論値Pに対してどの程度圧縮されているかを示す下記数式によって算出される圧縮率の値が、好ましくは−0.1%以下(すなわち、Q≦0.999P)であり、より好ましくは−0.2%以下(すなわち、Q≦0.998P)であり、さらに好ましくは−0.3%以下(すなわち、Q≦0.997P)であり、特に好ましくは−0.4%以下(すなわち、Q≦0.996P)である。圧縮率の値がこのような範囲内の値であることで、触媒活性に特に優れた電極触媒が提供されうる。一方、圧縮率の値の下限値について特に制限はないが、製造の容易性の観点から、通常は−2.0%以上(すなわち、Q≧0.98P)であればよい。
ここで、上述したような構成を有することによって触媒活性の向上が見られるメカニズムについては完全に明らかとはなっていない。ただし、格子定数が小さくなることはPt原子間の距離が短縮していることを意味することから、隣接する金属原子の間のd軌道の重なりが増加することによりdバンドセンターが低下することが触媒活性の向上に寄与しているものと考えられる。すなわち、dバンドセンターの低下によってカソードにおける反応物質である酸素原子の2p軌道と触媒金属原子のd軌道との共有結合のうちの反結合軌道が下方シフトすることによりその占有が増加する。その結果、酸素原子と触媒金属原子との結合力が低下し、これにより酸素原子と触媒金属原子との間の相互作用が最適化されることで、触媒活性が向上しているものと推測される。なお、このメカニズムはあくまでも推測に基づくものであり、本発明の技術的範囲は当該メカニズムによって何ら影響を受けることはない。
本形態に係る電極触媒においては、メソ孔内に白金および非白金金属からなる合金微粒子が担持されている。ただし、メソ孔以外の部位に合金微粒子が存在していてもよい。電極触媒全体に存在する触媒金属の組成は、特に制限されない。触媒活性などの観点から、電極触媒全体に存在する触媒金属の組成は、非白金金属1モルに対して、白金が1.0〜10.0モルであることが好ましく、1.0〜9.0モルであることがより好ましく、1.5〜4.0モルであることが特に好ましい。このような組成であれば、白金の含有量を低減しつつ、高い触媒活性を示すことができ、燃料電池の低コスト化が可能となる。なお、電極触媒全体に存在する触媒金属の組成は、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)により測定することができる。
電極触媒は、上記合金微粒子とともに、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の他の触媒成分の単体または合金をさらに含んでいてもよい。
合金微粒子の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。
電極触媒において、触媒金属の担持濃度(担持量、担持率とも称する場合がある)は、特に制限されないが、触媒担体の全量100重量%に対して、好ましくは2〜70重量%とすることが好ましい。担持濃度をこのような範囲にすることで、触媒粒子同士の凝集が抑制され、また、電極触媒層の厚さの増加を抑制できるため好ましい。触媒金属の担持濃度は、より好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜60重量%である。なお、触媒金属の担持量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP atomic emission spectrometry)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP mass spectrometry)、蛍光X線分析(XRF)等の、従来公知の方法によって調べることができる。
(触媒担体)
触媒担体の材質は、メソ孔を有し、メソ孔のモード径が1nm以上2.5nm未満となる空孔を担体の内部に形成することができ、触媒成分をメソ孔内部に分散状態で担持させるのに充分な比表面積と充分な電子伝導性とを有するものであれば特に制限されない。好ましくは、主成分がカーボンである。好適には、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書)や国際公開第2009/075264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書)などの公報に記載される方法を用いて製造された担体を出発原料として、これに白金および非白金金属を担持したものを電極触媒とすることが好ましい。その他、主成分がカーボンであるものとして具体的に、アセチレンブラック、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック(例えば、バルカン)、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック;ブラックパール(登録商標);黒鉛化アセチレンブラック;黒鉛化チャンネルブラック;黒鉛化オイルファーネスブラック;黒鉛化ガスファーネスブラック;黒鉛化ランプブラック;黒鉛化サーマルブラック;黒鉛化ケッチェンブラック;黒鉛化ブラックパール;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリル;活性炭;コークス;天然黒鉛;人造黒鉛などを出発原料の例として挙げることができる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
上記カーボン材料の他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性金属酸化物なども担体として使用可能である。
担体の平均粒径(直径)は20〜100nmであることが好ましい。かような範囲であれば、担体に上記空孔構造を設けた場合であっても機械的強度が維持され、かつ、触媒層を適切な範囲で制御することができる。「担体の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
[電極触媒の製造方法]
電極触媒の製造方法は特に限定されるものではないが、白金粒子を触媒担体に担持して白金粒子担持担体を得た後、当該白金粒子担持担体に対して非白金金属を担持・合金化することが好ましい。
また、メソ孔内の白金粒子に対して非白金金属を効率的に合金化し、格子定数を短縮させるために、非白金金属を接触させる前の触媒担体に対して熱処理および親水化処理を行うことが好ましい。
以下、好適な電極触媒の製造方法について説明する。なお、以下の記載は製造方法の一例であって、本発明に係る電極触媒の製造方法は以下に記載の方法に限定されない。
本発明の一形態において、電極触媒の製造方法は、担体および白金前駆体を含む溶液に還元剤を添加して白金粒子担持担体を調製する工程(1)と、白金粒子担持担体および非白金金属前駆体を混合し、さらに合金化処理を施す工程(2)と、を含み、白金粒子担持担体に対して熱処理および親水化処理を施す工程(A)をさらに含む。ここで、工程(A)は、メソ孔内の非白金金属の合金化を促進するという観点から、工程(1)の後、工程(2)の前に行うことが好ましい。すなわち、電極触媒の製造方法の好適な形態は、担体および白金前駆体を含む混合液に還元剤を添加して白金粒子担持担体を調製する工程(1)と、白金粒子担持担体に対して熱処理および親水化処理を施す工程(A)と、熱処理および親水化処理された白金粒子担持担体に非白金金属前駆体を混合し、さらに合金化処理を施す工程(2)と、をこの順に含む、電極触媒の製造方法である。
以下、各工程について説明する。
工程(1)
工程(1)は、担体および白金前駆体を含む混合液に還元剤を添加して白金粒子担持担体を調製する工程である。
まず、担体を準備する。上記したような特定の空孔分布を有する電極触媒の製造にあたっては、通常、担体のメソ孔分布を上記したような空孔分布とすることが重要である。このため用いられる担体としては、半径1nm以上のメソ孔を有し、かつ、そのメソ孔のモード径が1nm以上2.5nm未満である担体を用いることが好ましい。メソ孔を有する担体を、本明細書では、「多孔質担体」とも称する。かような担体は、具体的には、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書)や国際公開第2009/075264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書)などの公報に記載される方法を参酌して製造することができる。これにより、特定の空孔分布を有する空孔(半径1nm以上のメソ孔を有し、かつ、そのメソ孔のモード径が1nm以上2.5nm未満である)を担体に形成できる。
用いられる担体のBET比表面積は、好ましくは600〜3000m2/g、より好ましくは1000〜1800m2/gである。上記したような比表面積であれば、十分なメソ孔を確保できるため、メソ孔内により多くの合金粒子を格納(担持)できる。また、触媒層での電解質と合金粒子とを物理的に離し、合金粒子と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる。ゆえに、合金粒子の活性をより有効に利用できる。また、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
用いられる担体のメソ空孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上2.5nm未満であり、1nm以上2nm以下であることが好ましい。用いられる担体の半径1nm以上2.5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.6cc/g担体以上であることが好ましく、より好ましくは0.6〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.6〜1.5cc/g担体である。
また、上記特定の空孔を有する担体にさらに熱処理を行ったものを担体として用いてもよい。かような熱処理を行うことで、熱処理前の担体の非晶質な部分が除去されるため、担体のメソ孔のモード径が大きくなり、非白金金属前駆体液のメソ孔への導入が促進されやすく、白金粒子と非白金金属の合金化が促進されるため、好ましい。
具体的には、上記熱処理における担体の熱処理温度は1300℃を超えて1880℃以下であることが好ましく、1380〜1880℃であることがより好ましく、1400〜1860℃であることがさらに好ましい。熱処理における昇温速度は、100〜1000℃/時間であることが好ましく、300〜800℃/時間であることが特に好ましい。熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は、1〜10分であることが好ましく、2〜8分であることが特に好ましい。なお、熱処理は、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
白金前駆体としては、特に制限されないが、白金塩および白金錯体が使用できる。より具体的には、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H2[PtCl6]・6H2O)、ジニトロジアンミン白金等の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、テトラアンミン白金およびヘキサアンミン白金等のアンミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、塩化白金等のハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩ならびに水酸化物、アルコキサイドなどを使用することができる。なお、上記白金前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
担体および白金前駆体を含む混合液を調製する際に用いられる溶媒は、特に制限されず、使用される白金前駆体の種類によって適宜選択される。なお、上記混合液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。これらのうち、白金のイオン化合物を十分に溶解する観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
担体および白金前駆体の混合液中の含有重量比は、白金担持量を考慮して適宜設定されるが、担体:白金=1:0.02〜2.3とすることが好ましい。
担体および白金前駆体を含む混合液の調製方法は特に制限されない。例えば、白金前駆体を溶媒に溶解した後、これに担体を添加する;担体を溶媒に添加した後、白金前駆体を添加する;担体および白金前駆体を溶媒に添加する;白金前駆体および担体をそれぞれ別々に溶媒に添加した後、これらを混合する;のいずれの方法を使用してもよい。白金前駆体が均一に担体を被覆することができるので、白金前駆体を溶媒に溶解した後、これに担体を添加することが好ましい。白金前駆体を溶媒に溶解させる際の白金濃度は特に限定されるものではないが、溶解後の溶液に対して、白金濃度は0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましい。
また、上記混合液は、均一に混合するために、撹拌することが好ましい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよい。
還元剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩、ホルムアルデヒド、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどのクエン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)およびヒドラジン(N2H4)などが使用できる。これらは水和物の形態になっていてもよい。また、2種類以上を混合して使用してもよい。また、還元剤は還元剤溶液の形態で添加してもよい。
還元剤の添加量としては、白金イオンを還元させるのに十分な量であれば特に制限されない。具体的には、還元剤の添加量は、白金イオン1モルに対して、好ましくは1〜200モルであり、より好ましくは1.5〜100モルである。このような量であれば、白金イオンを十分還元できる。なお、2種以上の還元剤を用いる場合には、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。
還元剤を添加後、撹拌することが好ましい。これにより、白金前駆体および還元剤が均一に混合するため、均一な還元反応が可能になる。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0℃〜溶液沸点である。また、撹拌時間は、白金前駆体および還元剤を均一に混合できる時間であれば特に制限されない。
上記還元反応により、白金粒子担持担体が得られる。
また、必要であれば、得られた白金粒子担持担体を溶液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、白金粒子担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、白金粒子担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、白金粒子担持担体を乾燥してもよい。ここで、白金粒子担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
また、工程(1)においては、混合液中の白金濃度、担体の浸漬時間、還元条件等を適宜設定することで、担体への白金担持量を制御することができる。
工程(A)
工程(A)は、工程(1)で得られた白金粒子担持担体に対して熱処理および親水化処理を施す工程である。このような熱処理により、得られる合金微粒子の格子定数を理論値よりも短縮させることが可能となる。また、親水化処理により、非白金金属前駆体のメソ孔への導入が促進され、メソ孔内の触媒粒子が均一に合金化した合金粒子を形成することができ、触媒活性を向上させることができる。
熱処理条件は特に制限されないが、例えば、熱処理温度は、好ましくは500〜1200℃であり、より好ましくは700〜1100℃である。また、熱処理時間は、好ましくは0.1〜3時間であり、より好ましくは0.1〜1.5時間である。なお、熱処理工程は、空気雰囲気下や不活性ガス雰囲気下で行われてもよいが、水素雰囲気下で行われることが好ましい。
担体の親水化処理としては、特開2012−124001号公報に記載のように、担体に親水基を導入する方法などが挙げられる。該親水基としては、ヒドロキシル基、ラクトン基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
親水基の導入量は、メソ孔内の合金組成が適切な範囲となるように適宜設定されるが、0.01〜5.0mmol/gであることが好ましく、0.1〜3.0mmol/gであることがより好ましい。なお、親水基の定量は、滴定法を用い、具体的には、特開2012−124001号公報の段落「0025」に記載の方法により、詳細には下記の通りである。
親水基の量は、以下のような滴定法により測定する。すなわち、まず、2.5gのサンプルを1Lの温純水にて洗浄、乾燥する。乾燥後、サンプルに含まれるカーボン量が0.25gとなるよう計量し、55mlの水と10分間攪拌後、2分間超音波分散を行う。次に、この分散液を窒素ガスにてパージしたグローブボックスへ移動させ、窒素ガスを10分間バブリングする。そして、分散液に0.1Mの塩基水溶液を過剰に投入し、この塩基性溶液に対して0.1Mの塩酸にて中和滴定を行ない、中和点から官能基量を定量する。ここで、塩基水溶液は、NaOH、Na2CO3、NaHCO3の3種類を用い、それぞれについて中和滴定作業を行っている。これは使用する塩基毎に中和される官能基の種類が異なるからであり、NaOHの場合はカルボキシル基、ラクトン基、ヒドロキシル基と、Na2CO3の場合はカルボキシル基、ラクトン基と、NaHCO3の場合はカルボキシル基と中和反応するからである。そして、これら滴定で投入した3種類の塩基種類と量、および消費した塩酸量の結果により、親水基の量を算出する。なお、中和点の確認には、pHメーターを使用し、NaOHの場合はpH7.0、Na2CO3の場合はpH8.5、NaHCO3の場合はpH4.5を中和点とする。これにより、カルボキシル基、ラクトン基、およびヒドロキシル基の総量を求める。
親水基の導入は、担体を酸化性溶液に接触させることで行うことができる。酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸等の溶液が挙げられる。中でも、親水基を導入しやすいことから、硫酸あるいは硝酸の少なくとも1種を用いることが好ましい。この酸化性溶液処理は、担体を酸化性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに溶液の種類を変更しても良い。
酸化性溶液の濃度は、0.1〜10.0mol/Lとするのが好ましく、溶液に担体を混合(浸漬)するのが好ましい。混合の担体分散液は、均一に混合するために、撹拌することが好ましい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよい。
次いで、上記分散液を加熱することが好ましく、加熱により親水基の導入が促進される。ここで、加熱条件は、担体に親水基を付与できる条件であれば特に制限されない。例えば、加熱温度が、好ましくは50〜100℃であり、より好ましくは60〜95℃である。加熱時間は、0.5〜3時間が好ましい。
ここで、必要であれば、親水化処理後の白金担持担体を分散液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、白金担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、白金担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、白金担持担体を乾燥してもよい。ここで、白金担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
また、親水化処理後の白金担持担体の分散液をそのまま、工程(2)に用いてもよい。この場合、該分散液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加してpH調整(好ましくは、pH1〜5に調整)を行うことが好ましい。
工程(2)
工程(2)は、熱処理および親水化処理が施された白金粒子担持担体に非白金金属前駆体を混合し、さらに合金化処理を施す工程である。
非白金金属前駆体としては、非白金金属塩および非白金金属錯体が使用できる。より具体的には、非白金金属の、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物および塩化物などのハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩ならびに水酸化物、アルコキサイド、酸化物などを用いることができる。つまり、非白金金属が、純水などの溶媒中で金属イオンになれる化合物が好ましく挙げられる。これらのうち、非白金金属の塩としては、ハロゲン化物(特に塩化物)、硫酸塩、硝酸塩がより好ましい。非白金金属前駆体としては、具体的には、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ルテニウム酸ナトリウム、ルテニウム酸カリウム、塩化イリジウム、硝酸イリジウム、ヘキサアンミンイリジウム水酸化物、塩化イリジウム、塩化イリジウム酸アンモニウム、塩化イリジウム酸カリウム、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、塩化鉄、硫酸コバルト、塩化コバルト、水酸化コバルト等が挙げられる。なお、上記非白金金属前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。また、非白金金属前駆体は、水和物の形態であってもよい。
非白金金属前駆体は、非白金金属前駆体液として白金粒子担持担体と混合してもよい。非白金金属前駆体液に用いられる溶媒としては、上記工程(1)の欄に挙げた溶媒と同様である。非白金金属前駆体液の非白金金属濃度は0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましい。
白金粒子担持担体を、上記非白金金属前駆体に混合(浸漬)することで、白金および非白金金属を担持した担体を調製することができる。
ここで、親水化処理された白金粒子担持担体および非白金金属前駆体の混合方法は特に制限されない。例えば、非白金金属前駆体液に白金粒子担持担体を混合(浸漬)する;親水化処理された白金粒子担持担体の溶媒分散液と、非白金金属前駆体(または非白金金属前駆体液)とを混合する;のいずれの方法を使用してもよい。
親水化処理された白金粒子担持担体および非白金金属前駆体液の混合重量比は、非白金金属担持量を考慮して適宜設定されるが、白金粒子担持担体:非白金金属=1:0.05〜2とすることが好ましい。
また、熱処理および親水化処理された白金粒子担持担体および非白金金属前駆体液の混合の後、均一に混合し、非白金金属を均一に担持するために、撹拌することが好ましい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよい。
また、非白金金属前駆体の白金粒子担持担体上への付着を確実とするために、熱処理および親水化処理された白金粒子担持担体および非白金金属前駆体の混合液、または非白金前駆体液に還元剤を加えてもよい。還元剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩、ホルムアルデヒド、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどのクエン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)およびヒドラジン(N2H4)などが使用できる。これらは水和物の形態になっていてもよい。また、2種類以上を混合して使用してもよい。また、還元剤は還元剤溶液の形態で添加してもよい。
還元剤の添加量としては、非白金金属前駆体を還元させるのに十分な量であれば特に制限されない。具体的には、還元剤の添加量は、非白金金属前駆体1モルに対して、好ましくは1〜20モルであり、より好ましくは1.5〜10モルである。このような量であれば、非白金金属前駆体を十分還元できる。なお、2種以上の還元剤を用いる場合には、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。
工程(2)においては、非白金金属前駆体液の非白金金属濃度、非白金金属前駆体の浸漬時間等を適宜設定することで、担体への非白金金属担持量を制御することができる。
上記処理により、白金および非白金金属が担持された担体を得ることができる。
ここで、必要であれば、白金および非白金金属担持担体を分散液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、白金および非白金金属担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、白金および非白金金属担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、白金および非白金金属担持担体を乾燥してもよい。ここで、白金および非白金金属担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
次いで、合金化処理を行う。
合金化処理の具体的な方法は特に制限されず、公知の手法が適宜採用されうる。例えば、熱処理を行う方法等が挙げられる。熱処理条件は合金化が進行する条件であれば特に限定されるものではないが、例えば、熱処理温度は、600〜1200℃であることが好ましく、800〜1200℃であることがより好ましい。また熱処理時間は、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜4時間であることがより好ましい。また、熱処理雰囲気は、特に制限されないが、熱処理は、合金(白金及び非白金金属)の酸化を抑制防止するため、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気下としては、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気が挙げられる。ここで、不活性ガスは、特に制限されないが、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、及び窒素(N2)などが使用できる。上記不活性ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。また、還元性ガス雰囲気は、還元性ガスが含まれていれば特に制限されないが、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気であることがより好ましい。ここで、還元性ガスは、特に制限されないが、水素(H2)ガス、一酸化炭素(CO)ガスが好ましい。
上記合金化処理後に、さらに熱処理を行ってもよい。当該熱処理によって、触媒中の合金粒子のL12構造の規則度を30〜100%にまで増加させうる。なお、熱処理条件を選択することで、L12構造の規則度を制御することができる。
熱処理条件は、規則度を30〜100%にまで増加できる条件であれば特に制限されないが、熱処理の温度および時間の制御が重要である。
具体的には、熱処理温度が350〜450℃である場合には、好ましくは120分を超える時間、さらに好ましくは240分以上、熱処理を行うことが好ましい。
なお、上記熱処理温度での熱処理時間の上限は、触媒粒子が担体に担持する状態を維持できる温度であれば特に制限されず、触媒粒子の粒径や種類によって適宜選択される。例えば、熱処理時間は、通常、36時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、さらにより好ましくは5時間以下である。
熱処理温度が350〜450℃である場合の、熱処理雰囲気は、特に制限されないが、熱処理は、合金(白金及び非白金金属)の酸化を抑制防止するため、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気は上記合金化処理の欄での記載と同様の定義であるため、ここでは説明を省略する。また、還元性ガス雰囲気は、還元性ガスが含まれていれば特に制限されないが、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気であることがより好ましい。また、不活性ガスに含有される還元性ガスの濃度も、特に制限されないが、不活性ガス中の還元性ガスの含有量が、好ましくは10〜100体積%、より好ましくは50〜100体積%である。このような濃度であれば、合金(白金及び非白金金属)の酸化を十分抑制・防止できる。上記のうち、熱処理は、還元性ガス雰囲気で行われることが好ましい。このような条件であれば、触媒粒子径の増大を抑えつつ、得られる触媒粒子(合金粒子)の規則度を30〜100%により有効に制御できる。
また、熱処理温度が450℃を超え750℃以下である場合には、10分以上、より好ましくは20分以上、熱処理を行うことが好ましい。なお、上記熱処理温度での熱処理時間の上限は、触媒粒子が担体に担持する状態を維持できる温度であれば特に制限されず、触媒粒子の粒径や種類によって適宜選択される。例えば、熱処理時間は、通常、36時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、さらにより好ましくは5時間以下である。
熱処理温度が450℃を超え750℃以下である場合の、熱処理雰囲気は、特に制限されないが、熱処理は、合金(白金及び非白金金属)の酸化を抑制防止するために、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気は上記合金化処理の欄での記載と同様の定義であるため、ここでは説明を省略する。上記のうち、熱処理は、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気で行われることが好ましい。上記条件であれば、触媒粒子径の増大を抑えつつ、得られる触媒粒子(合金粒子)の規則度を30〜100%により有効に制御できる。
さらに、熱処理温度が750℃を超える場合には、還元性ガス雰囲気下で、10〜45分間、より好ましくは20〜40分間、熱処理を行うことが好ましい。または、熱処理温度が750℃を超える場合には、不活性ガス雰囲気下で、10〜120分間、より好ましくは30〜100分間、特に好ましくは45分を超えて90分以下の時間、熱処理を行うことが好ましい。
なお、上記熱処理温度の上限は、触媒粒子が担体に担持する状態を維持できる温度であれば特に制限されず、触媒粒子の粒径や種類によって適宜選択される。また、熱処理時の温度及び時間に比例して、規則度は上昇するものの、シンタリングにより粒子径の増大を引き起こす傾向にある。上記点を考慮すると、例えば、熱処理温度は、1000℃以下でありうる。このような条件であれば、触媒粒子径の増大は抑えつつ、さらに得られる触媒粒子(合金粒子)の担体上での凝集も抑制できる。上記において、「不活性ガス雰囲気」および「還元性ガス雰囲気」は、上記合金化処理の欄での記載と同様の定義であるため、ここでは説明を省略する。上記条件であれば、触媒粒子径の増大を抑えつつ、得られる触媒粒子(合金粒子)の規則度を30〜100%により有効に制御できる。
上記より、本発明の好ましい形態によれば、合金化処理後の熱処理が、(a)還元性ガス雰囲気または不活性ガス雰囲気下で、350〜450℃の温度で、120分を超える時間行われる;(b)還元性ガス雰囲気または不活性ガス雰囲気下で、450℃を超え750℃以下の温度で、10分以上行われる;(c)不活性ガス雰囲気下で、750℃を超える温度で、10〜120分の時間行われる;または(d)還元性ガス雰囲気下で、750℃を超える温度で、10〜45分の時間行われる。
[燃料電池]
本発明の他の実施形態は、第一実施形態の電極触媒を含む膜電極接合体および燃料電池である。第一実施形態の電極触媒の電極触媒は、少ない白金含有量であっても、高い活性(面積比活性(単位面積当たりの活性)、質量比活性(質量当たりの活性))を発揮できる。このため、第一実施形態の電極触媒を触媒層に用いた膜電極接合体および燃料電池は、発電性能に優れる。
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
図2は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC 1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC 1において、MEA 10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図2において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA 10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC 1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図2ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図2に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA 10と接触している。これにより、MEA 10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC 1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC 1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図2に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
上記のような、本実施形態のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能および耐久性を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。したがって、本発明は、本発明の燃料電池を有する車両を提供する。
以下、本形態の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
[電解質膜−電極接合体(MEA)]
MEAは、電解質膜、上記電解質膜の両面に順次形成されるアノード触媒層およびアノードガス拡散層ならびにカソード触媒層およびカソードガス拡散層から構成される。そしてこの電解質膜−電極接合体において、カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方に第一実施形態の電極触媒が使用される。
(触媒層)
触媒層は、電極触媒および電解質を含む。
触媒層内では、触媒は電解質で被覆されているが、電解質は、触媒(担体)のメソ孔内には侵入しない。このため、担体表面の合金微粒子は電解質と接触するが、メソ孔内部に担持された合金微粒子は電解質と非接触状態である。メソ孔内の合金微粒子が、電解質と非接触状態で酸素ガスと水との三相界面を形成することにより、合金微粒子の反応活性面積を確保できる。
第一実施形態の電極触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在してもいてもよいが、カソード触媒層で使用されることが好ましい。上述したように、第一実施形態の触媒は、電解質と接触しなくても、水との三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できるが、カソード触媒層で水が形成するからである。
本形態において、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01〜1mg/cm2である。また、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量は、0.5mg/cm2以下であることが好ましい。合金粒子を構成する白金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。白金含有量の下限値は発電性能が得られる限り特に制限されないが、例えば、0.01mg/cm2以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.02〜0.4mg/cm2である。本形態では、担体の空孔構造を制御することにより、高い活性を有する合金粒子を使用し、かつ、触媒重量あたりの活性を向上させることができるため、高価な触媒の使用量を低減することが可能となる。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで含有量を調整することができる。
電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりの高分子電解質の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
本形態の触媒層は、触媒と高分子電解質との間に、触媒と高分子電解質とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる液体プロトン伝導材を含んでもよい。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒と高分子電解質との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒と高分子電解質との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(メソ孔等:一次空孔)内に配置されうる。
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒と高分子電解質と間のプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、プロトン性イオン液体、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができる。
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。例えば、触媒と電解質との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒と高分子電解質との非接触状態を保持しながら、触媒と高分子電解質の間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
イオン性液体など、水以外のものを液体プロトン伝導材として使用する場合には、触媒インク作製時に、イオン性液体と高分子電解質と触媒とを溶液中に分散させることが望ましいが、触媒を触媒層基材に塗布する際にイオン性液体を添加してもよい。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の膜厚(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかしながら、カソード触媒層およびアノード触媒層は、同じであってもあるいは異なってもよい。
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、固体高分子電解質膜から構成される。この固体高分子電解質膜は、例えば、燃料電池(PEFC等)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上記触媒層にて高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を同様にして用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
(電解質膜−電極接合体の製造方法)
電解質膜−電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層のマイクロポーラス層側(マイクロポーラス層を含まない場合には、基材層の片面)に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
[セパレータ]
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して電解質膜−電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや電解質膜−電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限りは、各操作は、室温(25℃)で/相対湿度40〜50%の条件で行われる。
(合成例1)
国際公開第2009/075264号に記載の方法により、担体Aを作製した。得られた担体AのBET比表面積は1570m2/gであり、メソ孔の空孔分布のモード半径は1.2nmであり、メソ孔の空孔容積は0.73cc/gであった。
(合成例2)
上記の合成例1で作製した担体Aを、アルゴン雰囲気下で1800℃まで加熱した後、この温度で8分間保持することにより、担体Bを作製した。得られた担体BのBET比表面積は1200m2/gであり、メソ孔の空孔分布のモード半径は1.65nmであり、メソ孔の空孔容積は0.63cc/gであった。
(実施例1)
1.白金粒子担持担体の作製
白金濃度4.6重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液1000g(白金含有量:8g)に、担体Aを19g浸漬させ、撹拌後、還元剤として100%エタノールを100mL添加した。この溶液を沸点(約95℃)で7時間、撹拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより白金粒子担持担体を得た。この白金粒子担持担体における白金の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、29重量%であった。なお、白金の担持濃度(担持量)については、ICP分析により測定した。
2.熱処理工程
上記1.で得られた白金粒子担持担体に対して、水素雰囲気下、温度900℃にて1時間の熱処理を施した。
3.親水化処理工程
3.0mol/Lの硝酸水溶液20Lに、上記2.で熱処理を施された白金粒子担持担体20gを添加し、撹拌後、撹拌を維持しながら、80℃にて2時間加熱した。その後、室温まで冷却することにより、熱処理および親水化処理された白金粒子担持担体を得た(親水基結合量1.2mmol/g)。
4.コバルト合金化工程
塩化コバルト水溶液60g(コバルト濃度0.66重量%、コバルト含有量0.4g、pH2)に、上記3.で得られた親水化処理後の白金粒子担持担体の10gを浸漬し、室温にて1時間、スターラーで撹拌・混合した。次いで、この溶液を60℃にて乾燥させることにより、コバルト金属前駆体がさらに担持された白金粒子担持担体を得た。最後に、100体積%水素ガス中、1000℃にて2時間の合金化処理を施すことで、本実施例の電極触媒(1)を製造した。この電極触媒(1)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、32.3重量%(Pt:29.7重量%、Co:2.6重量%、Pt:Co=77.5:22.5(原子%))であった。なお、本実施例の触媒において、合金微粒子の少なくとも一部がメソ孔内に担持されていることを確認した。
(実施例2)
担体Aに代えて担体Bを用い、かつ、白金およびコバルトの担持量を変化させたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の電極触媒(2)を製造した。なお、この電極触媒(2)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、30.8重量%(Pt:26.4重量%、Co:4.4重量%、Pt:Co=64.4:35.6(原子%))であった。なお、本実施例の触媒において、合金微粒子の少なくとも一部がメソ孔内に担持されていることを確認した。
(実施例3)
白金およびコバルトの担持量を変化させたこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、得られた電極触媒を、さらに100体積%水素ガス中、1100℃にて2時間の合金化処理を実施することで、本実施例の電極触媒(3)を製造した。なお、この電極触媒(3)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、56.3重量%(Pt:49.5重量%、Co:6.8重量%、Pt:Co=68.7:31.3(原子%))であった。なお、本実施例の触媒において、合金微粒子の少なくとも一部がメソ孔内に担持されていることを確認した。
(比較例1)
触媒担体としてケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例の比較電極触媒(1)を製造した。なお、この比較電極触媒(1)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、50.9重量%(Pt:45.8重量%、Co:5.1重量%、Pt:Co=73.1:26.9(原子%))であった。
(比較例2)
触媒担体としてアセチレンブラックを用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例の比較電極触媒(2)を製造した。なお、この比較電極触媒(2)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、52.5重量%(Pt:47.9重量%、Co:4.6重量%、Pt:Co=75.9:24.1(原子%))であった。
(比較例3)
触媒担体としてブラックパール(キャボット社製)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例の比較電極触媒(3)を製造した。なお、この比較電極触媒(3)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、51.2重量%(Pt:47.0重量%、Co:4.2重量%、Pt:Co=77.2:22.8(原子%))であった。
(比較例4)
触媒担体として黒鉛化ケッチェンブラックを用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例の比較電極触媒(4)を製造した。なお、この比較電極触媒(4)における触媒金属(合金微粒子)の担持濃度(担持量)は、担体100重量%に対して、32.5重量%(Pt:29.2重量%、Co:3.3重量%、Pt:Co=72.8:27.2(原子%))であった。
(電極触媒を構成する合金微粒子の格子定数の測定)
上記の各実施例および各比較例で得られた電極触媒を構成する合金微粒子の格子定数を、粉末X線回折測定法により測定した。具体的には、2θ=68〜72°の領域において観測される(220)面に相当するピークのピーク位置(°)から、下記に示すブラッグの式より面間隔を算出し、格子定数に変換することで算出した。
ブラッグの式:2dsinθ=nλ
(d:格子面間隔、θ:X線入射角、λ:X線入射波長、n:整数)
なお、電極触媒(1)〜(3)を構成する合金微粒子はいずれも、面心立方格子構造を有していることを、この粉末X線回折測定法による格子定数の測定の際に併せて確認した。
得られた格子定数の実測値を、ベガード則に沿った格子定数(理論値)とともに、下記の表2に示す。また、実測値から理論値を減算した値(この値が負であれば本発明の範囲内の触媒である)と、下記数式に従って算出した圧縮率の値も併せて下記の表2に示す。
(電極触媒をカソードに用いた場合の酸素還元活性の評価)
<性能評価用回転電極(RDE)の作製>
上記の各実施例および各比較例で得られた電極触媒を、それぞれ、直径5mmのグラッシーカーボンディスクにより構成される回転ディスク電極(幾何面積:0.19cm2)上に白金の単位面積当たりの担持量が34μg/cm2となるように均一にNafionとともに分散担持し、性能評価用電極を作製した。
<面積比活性(RDE)の測定>
各実施例および各比較例について上記で作製した性能評価用回転電極(RDE)に対して、N2ガスで飽和した25℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して0.05〜1.2Vの電位範囲で、50mVs−1の走査速度でサイクリックボルタンメトリーを行った。得られたボルタモグラムの0.05〜0.4Vに現れる水素吸着ピークの面積より、各電極触媒の電気化学的表面積(cm2)を算出した。
次に、電気化学計測装置を用い、酸素で飽和した25℃の0.1M過塩素酸中で、0.2Vから1.2Vまで速度10mV/sで電位走査を行った。さらに、電位走査により得られた電流から、物質移動(酸素拡散)の影響をKoutecky−Levich式を用いて補正した上で、0.9Vでの電流値を抽出した。そして、得られた電流値を上述の電気化学的表面積で除した値を面積比活性(μAcm−2)とした。なお、Koutecky−Levich式を用いた方法は、例えば、Electrochemistry Vol.79,No.2,p.116−121(2011)(対流ボルタモグラム(1)酸素還元(RRDE))の「4 Pt/C触媒上での酸素還元反応の解析」に記載されている。
各触媒の製造条件、物性および評価結果を下記の表2に示す。
以上の結果より、実施例1〜3の電極触媒を用いたMEAは、比較例1〜4の触媒を用いたMEAよりも顕著に高い面積比活性を示した。