乾性角結膜炎は、ドライアイ疾患または涙液機能不全症候群としても知られており、涙液膜および眼表面の多機能障害であり、不快感、視覚障害、そしてしばしば眼表面の損傷さえもたらす。その罹患率は地域によって大きく異なり、米国の約7.4%から日本の約33%にまで及ぶと推定されている(非特許文献1)。別の推定に従えば、米国だけで約320万人の女性および105万人の男性が、乾性角結膜炎を患っている。軽い症例も考慮すれば、米国において2000万人もの罹患者がいるといえる。
涙液膜の主な生理的機能は、眼表面と内側眼瞼の潤滑である。また、眼表面が必要とする栄養分を供給し、眼に滑らかかつ規則的な光学面を与えることである。さらに、眼表面を、種々の機構(外部粒子の機械的除去、および含有される抗菌性物質が挙げられる)によって、病原体から保護することである。それゆえに、涙液膜の、構造、組成、容量および分布の動的安定性ロスならびにクリアランスにより、ドライアイ疾患が発症する虞がある。
涙液膜は、粘液成分、水性成分および脂質成分で構成される動的構造(dynamic structure)である。膜の最も内側の層は、粘液層または粘液成分であり、これは、結膜杯状細胞(conjunctival goblet cell)によって、そして結膜および角膜の層状扁平細胞(stratified squameous cell)によって生産されるムチン分子の相互作用を介して、眼の上皮と結合する。涙液膜の潤滑効果は、実質的には、粘液層およびその組成に基づくものである。
粘液層の上部に、主涙腺および副涙腺によって生産される水性層がある。その主な機能は、粘液成分を水和させ、かつ、栄養分、電解質、抗菌性化合物および酸素の、眼表面への輸送に寄与することである。水性成分は、その重要な構成素として、水、電解質、リゾチーム、ラクトフェリン、免疫グロブリン(特にIgA)、レチノール、肝細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子を含有する。
最も外側の層は脂質層であり、水性層をカバーしている。脂質層は、眼瞼の瞼板に位置するマイボーム(瞼板)腺によって、そしてある程度ではあるがまつ毛嚢に通ずるツァイス腺によっても分泌されるマイバム(極性脂質および無極性脂質(ワックスエステルおよびコレステロールエステル、リン脂質、ジグリセリドおよびトリグリセリド、ならびに炭化水素が挙げられる)の複合混合物)から形成される。脂質混合物は、融点が低く、組織温度および角膜温度にて流動性のままであり、上下の眼瞼縁の辺縁リザーバ(marginal reservoir)中に分泌される。まばたきすることで、脂質の拡散および混合が脂質層において促進されると理解されている。脂質層の重要な役割は、主に、蒸発による水性層の蒸発速度を下げることであるが、その機能として、涙液膜の拡散を増進させ、バリアを形成して涙液膜汚染を予防し、そして澄明な光学面を与えることも挙げられる。涙液膜安定性が増すにつれ、涙液膜脂質層が厚くなると提案されている。
今日、乾性角結膜炎は、わずかに理解され始めているいくつかの相互作用する病理生理学的機構に関与する複雑な多機能障害であることが認められている(非特許文献2)。この疾患の原因の中心として議論されており、そしてまた、相互に補強し合うと思われている2つの機構が、涙液高浸透圧性、および涙液膜不安定性である。高浸透圧性の涙液流体は、過剰な涙液膜蒸発、または低い水性流に由来し得る。これは、炎症カスケードを活性化し、かつ炎症メディエータの、涙液流体中への放出を引き起こして、複数の病理生理学的効果により、最終的に、涙液膜蒸発および涙液膜不安定性がさらに増大する。したがって、涙液膜不安定性は、高浸透圧化の結果であり得る。あるいはまた、涙液膜不安定性は、それ自体の病因学的経路を経て(例えば、脂質層組成の異常(マイボーム腺疾患等に由来)を介して)進行し得る。
炎症サイクルは、ドライアイ疾患を維持し、かつ潜在的に進行させる重要なプロセスの1つである。症状の重篤度によるが、患者は多くの場合、眼上皮の可逆的な扁平中期(squameous metaphase)および点状びらん(punctate erosion)を発症する。発症がドライアイ疾患によって引き起こされ得る二次疾患として、糸状角膜炎、微生物性角膜炎、角膜血管新成および眼表面ケラチン化が挙げられる。
今日、ドライアイ疾患(DED)の2つの主要なカテゴリーが識別されており、これらは水分欠乏性DEDおよび蒸発亢進型DEDである。これらの症状は、必ずしも互いに相容れないというわけではない。
DEDの水分欠乏型のクラス内で、2つの主要なサブタイプ(シェーグレンおよび非シェーグレン)が識別される。シェーグレン症候群の患者は、涙腺が活性化T細胞に侵入される自己免疫障害を患い、これにより乾性角結膜炎だけでなくドライマウスの症状ももたらされる。シェーグレン症候群は、一次疾患であることもあるし、他の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスまたは関節リウマチ等)に由来することもある。水分欠乏性DEDの非シェーグレン患者は、通常、涙腺不全、涙管閉塞症または反射分泌不全(reflex hyposecretion)を示す。
第2の主要なクラス、蒸発亢進型DEDもまた、いくぶん異質的であり、多様な根本原因の結果として発症し得る。涙液膜の蒸発ロスの増大に関連する原因として、マイボーム腺疾患、眼瞼開口障害、まばたき障害(パーキンソン病の場合等)または眼表面障害(アレルギー性結膜炎の場合等)が挙げられる。特に、マイボーム腺疾患は、蒸発亢進型ドライアイ疾患と広く(prevalently)関連している。例えば、マイボーム腺機能不全は、涙液膜に必要な脂質成分の分泌において量的または質的変化をもたらし得る。これにより今度は、安定した連続的な涙液膜が形成され得ず、蒸発ロスおよび高浸透圧化が後に続く。マイボーム腺機能不全は、多くの場合、腺閉塞症およびクロッギングによって特徴付けられ得、これらは腺の過剰ケラチン化およびマイバムの粘度増大によるものである。機能障害が、一次性眼瞼縁関連疾患、または全身性障害(酒さまたは脂漏性皮膚炎等)に起因する二次疾患から生じ得る。
今日知られているドライアイ疾患に関する多くのリスク要因のうち、最もよく研究されている要因として、加齢および雌性がある。特に、閉経後の女性が涙液生産を減らすようであり、これはおそらくホルモンの効果に関係しているが、まだあまり十分理解されていない。さらなるリスク要因として、オメガ−3−脂肪酸の低い食事、職業的な要因(例えば、まばたき頻度の少なさに関連するもの)、環境条件、コンタクトレンズの着用、眼の外科手術、ある種の全身性医薬品(抗コリン作用薬、ベータ−ブロッカー、イソトレチノイン、インターフェロン、ホルモン)および眼用医薬品(頻繁に投与される任意の点眼薬(人工涙液;特に防腐剤を含む製剤が挙げられる))、ならびにいくつかの一次疾患(パーキンソン病、C型肝炎、HIV感染症および真性糖尿病等)が挙げられる。
ドライアイ疾患の治療技術は、非薬理学的アプローチおよび薬理学的アプローチの双方に基づいており、治療オプションは、疾患状態の重篤度にかなり依存する(非特許文献3)。
薬理学的処置が、中程度からより重篤な型の乾性角結膜炎に必要となる。しかしながら、有効であることが判明しており、そして/または規制機関によって認可されている利用可能な薬理学的療法は現在、多くない。医薬活性成分(涙液生産を促進する分泌促進物質(例えば、コリン作用剤(ムスカリンアセチルコリンレセプタアンタゴニスト等)等)、および抗炎症剤(コルチコステロイドおよび経口テトラサイクリン等))による処置オプションが提案されている。米国では、中程度から重篤な乾性角結膜炎のための主な薬理学的処置は、シクロスポリン(ciclosporin)(すなわち、シクロスポリンA(サイクロスポリン(cyclosporine)Aとしても知られている))によるものである。シクロスポリンは、承認された医薬品であり、「乾性角結膜炎と関連した眼炎症により涙液生産が抑制されているとみなされる患者の涙液生産」(Restarts(登録商標)が規定する情報)を増大させる眼用エマルジョン(Restarts(登録商標))の形態である。この場合、入手可能な証拠に従えば、局所シクロスポリンは、単に対症的というものではなく、おそらく疾患修飾的なものである。
ドライアイ疾患およびその症候を処置する非薬理学的アプローチが、最初に、中程度の症候が生じた場合だけでなく、薬理学的介入および医学的介入を支持するための対症的手段としても、用いられる。非薬理学的アプローチとして、悪化させる要因(乾燥した空気、風および通風、煙草の煙等)の回避;仕事中の癖の修正;目蓋の衛生管理;涙液サプリメント;涙点プラグ(punctal plug)または治療用コンタクトレンズによる涙液の物理的保持が挙げられ得る。マイボーム腺機能不全によって悪化する、または引き起こされるドライアイ疾患の場合、熱湿布、目蓋マッサージ、または腺の強制発現等の処置も、多くの場合推奨される。
非薬理学的DED処置のメインステイは、涙液代用用の人工涙液の使用である。ほとんどの利用可能な製品は、潤滑剤として設計されている。また、これらは、栄養分および電解質(重要なものとして、カリウムおよび重炭酸イオン)のキャリアとして機能し得、一部の製品は、物理的パラメータ(ある種の形態のDEDにおける高い浸透性等)の補正を試みている。人工の涙液組成物の主な機能的成分は、眼表面上での保持時間を増やすように粘度を増大させる、または調整する剤であって、同時に潤滑剤機能性をも示す剤である。この目的のために用いられる一般的な化合物として、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩(CMC、カルメロース)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ヒプロメロース)、ヒアルロン酸およびそのナトリウム塩、ならびにヒドロキシプロピルグアーゴムが挙げられる。親水コロイド(ヒドロキシプロピルグアーゴムまたはヒアルロン酸等)が、ある程度の生体付着性を示し、涙液膜の嵩を増すように作用し得る。しかしながら、粘度が比較的高い組成物、そして特にゲルタイプの製剤は、見え方がぼやける傾向、ならびに眼瞼縁およびまつ毛上に残留物をこびりつかせ、かつ形成する傾向があり得る。
一部の人工涙液は、天然の涙液膜の脂質層を模倣して涙液流体の蒸発速度を低下させようと意図した、脂質成分の代用脂質を含む。例えば、特許文献1は、ドライアイに関する症候の緩和のための組成物を開示しており、より高脂質のグリセリド(ヒマシ油、トウモロコシ油もしくはヒマワリ油、または軽質鉱油等)を有するエマルジョンに基づくものである。しかしながら、これらのタイプの脂質は、物理的かつ生化学的に、本来備わる脂質組成物とあまり関係しない。また、生理的背景において涙液流体と混合されるエマルジョンの正確な結末(fate)は、特に、ドライアイ疾患の患者における涙液膜の容量および含有量の可変性を鑑みて、完全には予想できない。
一般に、眼投与用の油を含むこのような製剤の不利点の1つに、本質的に視力に悪影響を及ぼす虞があるということがある。油状溶液または水中油エマルジョンとして用いられるか否かにかかわらず、生理的涙液流体とは実質的に異なる屈折率が示され、これにより視力障害およびぼやけがもたらされる。
また、単一の相系とは対照的に、エマルジョンを特に滅菌形態で製造することは、より複雑かつ困難であり得る。多くの場合、エマルジョンの物理的性質に悪影響を及ぼすので、エマルジョンは、熱的処理によって容易に滅菌できない。一方で、無菌的プロセシングは、複雑であり、高コストであり、そしてより高い不具合(すなわち、微生物汚染)のリスクを伴う。
水中油エマルジョンもまた同様に、使用中の微生物汚染をより起こしやすい。単回使用バイアルよりも概ね費用効果が優れ、かつ患者に都合がいい多用量コンテナ内に与えられる場合には、微生物学的品質を保証するように保存されなければならないであろう。
しかしながら、同時に、眼用製剤において用いられ得る防腐剤が、眼に、特に眼表面に対して潜在的に有害であり、ドライアイ疾患との関連では避けられるべきである。少なくとも昔は、眼投与用の多用量製剤は、微生物の汚染および感染のリスクを減らすために、生理的に許容可能な防腐剤を用いて保存されなければならなかった。しかしながら、ほとんどの防腐剤は、眼表面に悪影響を及ぼす可能性があるため、治療趣旨を妨害するという点で、DED患者にとって問題となる。これは、特に、症候緩和のための頻繁な使用を必要とすることがある中程度から重篤なドライアイ疾患症候のある患者、および複数の保存局所薬物を必要とする患者に関連する。
代わりとして、非保存製剤の投与用の単用量コンテナが開発された。しかしながら、これは、従来の多用量ボトルよりも、費用効果が優れておらず、そして患者にとって取扱いが便利ではない。さらに、「薄れる」防腐剤(亜塩素酸ナトリウムまたは過ホウ酸ナトリウム等)(滴注、および涙液膜との接触後、非毒性イオンおよび水に変質し得る)を用いた眼用製剤が、患者、特に涙液容量が有効に防腐剤を分解し得るほど十分でない可能性がある重篤な疾患の患者を、さらに刺激する虞がある。
特許文献2は、乾性角結膜炎の処置用の、免疫抑制マクロライド(シクロスポリンA等)および半フッ化アルカンを含む眼の局所医薬組成物を開示している。開示された組成物中の半フッ化アルカンは、治療用薬剤を眼に送達するのに適した液体ビヒクルとして機能し、そして特に、溶解が極めて困難かつ不十分な化合物(シクロスポリン等)を溶解させる高い能力を有する。しかしながら、特に涙液膜および涙液膜脂質層に対する相乗効果的な半フッ化アルカン混合物の、保護効果および拡散挙動について言及されたことはない。そして、明細書は、半フッ化アルカン混合物が有し得る、変更された状態のマイバム(マイボーム腺が機能不全(腺が詰まっていることがある)の場合等)の可溶化効果について、述べていない。
特許文献3は、少なくとも1つの水溶性フッ化界面活性剤、水、および無極性成分であって、フッ化炭素またはシリコーン油であってよい無極性成分を含有するポリアフロンゲル涙液代用物を開示している。ゲル組成物は、具体的には、結膜嚢中に投与されてゲルリザーバを形成し、そして、まばたきした結果として、角膜を覆う液体膜として、眼の角膜全体に拡散されるだけである。したがって、このような組成物は、眼瞼/まばたきの(例えば、パーキンソン病の結果としての)障害によって引き起こされるドライアイ症候の患者にとって、有用ではない。
さらに、ゲルを拡散および液化するにはまばたきが必須であるので、滴注直後に見え方が著しくぼやける可能性があり、これにより、患者が直接的ではなく結膜嚢中に不正確に適用した場合に、より悪化する可能性もある。さらに、提案されているフッ化界面活性剤は、ヒトの眼に対する耐容性の臨床記録を確立しておらず、一旦生理的涙液流体と混合されると、(より強くこれと相互作用し得る無極性成分を含んでいるにもかかわらず)眼表面に損傷効果を与える虞がある。
第1態様において、本発明は少なくとも2種の半フッ化アルカンを含む組成物を提供する。少なくとも2種の半フッ化アルカンを含む組成物は、特に下記のように選択される場合に、医薬品に有用である;特に、組成物は、眼への局所投与用の医薬品として用いられ得る。組成物はさらに、乾性角結膜炎および関係のある症状の処置における使用によって特徴付けられる。
半フッ化アルカンが、当該技術、例えば欧州特許出願公開第2335735号明細書において、症状(乾性角結膜炎等)の局所処置のための眼用薬剤に有用なキャリアとして記載されているが、本発明は、半フッ化アルカンおよびその混合物それ自体が、薬剤物質がない場合でさえ、そのような症状の治療において有利に用いられ得るという発見に基づくものである。
乾性角結膜炎は、先に述べたように、複雑な多面的疾患または症状である。これは、ドライアイ症候群、ドライアイ疾患(DED)または機能不全涙液症候群としても知られている。水分欠乏性DED、蒸発亢進型DEDは、乾性角結膜炎の範囲内であり、それらの特定のサブタイプを形成する。シェーグレン症候群、涙腺機能不全、マイボーム腺疾患およびマイボーム腺機能不全、ならびに他の症状もまた、乾性角結膜炎の範囲内である(その直接的、または間接的な原因である)。
マイボーム腺疾患は、広い範囲のマイボーム腺障害(腫瘍形成および先天性疾患が挙げられる)を包含する。一方で、マイボーム腺機能不全は、マイボーム腺の異常であると理解され、これは多くの場合、腺管閉塞症および/または腺の分泌物に対する(質的および/または量的)変化によって特徴付けられる。一般に、異常な、膜涙液への脂質の送達の減少もしくは増大を引き起こす、またはこれをもたらす症状または疾患状態が、乾性角結膜炎およびこれに関連する症候を生じさせ得る。
乾性角結膜炎の症候として、眼の乾燥、チクチク感、ゴロゴロ感またはザラザラ感;異物感;痛みまたは疼き;刺すような感じまたはヒリヒリ感;ウズウズ感;まばたき増;眼疲労;羞明;ぼんやりした見え方;赤み;粘液放出;コンタクトレンズ不耐性;涙の過剰反射分泌(excessive reflex tearing)が挙げられる。記載される乾性角結膜炎の症候に加えて、マイボーム腺機能不全の患者は、症候(痒み、赤み、むくみ、痛みもしくは疼き、放出物の蓄積、または具体的には眼瞼縁でのクラストが挙げられる)を経験する場合もある。乾性角結膜炎の全ての患者が、全ての症候を同時に示すわけではないことが理解される。それゆえに、現在、疾患を診断するための統一された一連の基準がない。患者が、乾性角結膜炎の1つもしくは複数のサブタイプを、または乾性角結膜炎を引き起こす1つもしくは複数の症状もしくは疾患経路を患い得ることも理解される。しかしながら、本発明の範囲内で、ドライアイ疾患の態様、症候または病理生理学的結果のいずれかが対処され得ることに注目することが重要である。
本発明の重要な利点(ドライアイ症候群の症候の重篤度の引下げ(例えば、ゴロゴロ感もしくはザラザラ感または異物感の引下げ)等)は、少なくとも(限定されないが)2種の半フッ化アルカンを含む組成物によってもたらされる。半フッ化アルカンは、線状アルカンまたは分岐アルカンであり、その水素原子の一部がフッ素に置換されている。好ましい実施形態において、本発明において用いられる半フッ化アルカン(SFA)は、少なくとも1種の非フッ化炭化水素セグメントおよび少なくとも1種の過フッ化炭化水素セグメントで構成される。特に有用であるのは、1種の非フッ化炭化水素セグメントが1種の過フッ化炭化水素セグメントに結合されているSFA(一般式F(CF2)n(CH2)mHに従う)、または2種の過フッ化炭化水素セグメントが1種の非フッ化炭化水素セグメントによって分離されているSFA(一般式F(CF2)n(CH2)m(CF2)0Fに従う)である。
本明細書中で用いられる別の命名法は、2種または3種のセグメントを有する上記のSFAを、それぞれRFRHおよびRFRHRFと呼び、RFは、過フッ化炭化水素セグメントを示し、RHは非フッ化セグメントを示す。あるいはまた、化合物は、それぞれFnHmおよびFnHmFoと呼ばれることもあり、Fは過フッ化炭化水素セグメントを意味し、Hは非フッ化セグメントを意味し、n、mおよびoは各セグメントの炭素原子数である。例えば、F3H3は、ペルフルオロプロピルプロパンに用いられる。さらに、このタイプの命名法は、通常、線状セグメントを有する化合物に用いられる。従って、特に明記しない限り、F3H3は、1−ペルフルオロプロピルプロパンを意味し、2−ペルフルオロプロピルプロパン、1−ペルフルオロイソプロピルプロパンまたは2−ペルフルオロイソプロピルプロパンではないととられるべきである。
好ましくは、一般式F(CF2)n(CH2)mHおよびF(CF2)n(CH2)m(CF2)0Fに従う半フッ化アルカンは、セグメントサイズが3から20個の炭素原子に及ぶ、すなわちn、mおよびoは独立して、3から20までの範囲で選択される。本発明の文脈において有用なSFAが、欧州特許出願公開第965334号明細書、欧州特許出願公開第965329号明細書および欧州特許出願公開第2110126号明細書にも記載されており、これらの明細書の開示は、本明細書中に組み込まれる。
本発明の組成物は、少なくとも(限定されないが)2種の半フッ化アルカンを含む。特に、本発明におけるSFA組成物は、式F(CF2)n(CH2)mHの少なくとも2種の半フッ化アルカンを含む。好ましくは、少なくとも2種の半フッ化アルカンは、互いに混和し得る。好ましい実施形態において、組成物は、式F(CF2)n(CH2)mHの少なくとも2種の半フッ化アルカンを含み、半フッ化アルカンの1種が、式F(CF2)n(CH2)mHの半フッ化アルカンであり、式中、nは3から8までの範囲の整数であり、そしてmは3から10までの範囲の整数である。さらに好ましい実施形態において、組成物は、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である第1半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である第2半フッ化アルカンとを含む。最も好ましくは、第1半フッ化アルカンは、液体である。
理論によって拘束されることを望むものではないが、発明者らによれば、第1半フッ化アルカンおよび第2半フッ化アルカンは、眼に及ぼす効果が互いに異なり、そして互いに補完すると思われる。以下にさらに詳細に記載されるように、第1半フッ化アルカンは概して、マイボーム腺をしばしば塞ぐ脂肪質を可溶化できるクリーニング剤として機能し得る液体化合物であるが、第2半フッ化アルカンは、角膜の潤滑剤として機能し得るので、涙液膜の脂質層の代わりをし、そして水の蒸発に対する保護層として機能し得る固体化合物である。
さらなる実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも2種の半フッ化アルカンからなり、任意で1つまたは複数の賦形剤が含まれてよい。本明細書中で用いられる用語「からなる(consist of)」、「からなる(consists of)」、および「からなっている」は、言及した成分のみが存在することを意味するいわゆるクローズな文言である。対照的に、表現「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含んでいる」は、いわゆるオープンな文言として本明細書中で用いられており、さらなる成分が存在してもよいことを意味する。好ましい実施形態において、組成物は、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である第1半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である第2半フッ化アルカンと、任意で1つ以上のさらなる賦形剤とからなる。すなわち、本実施形態に従う組成物は、1つ以上のさらなる薬理的に(実質的に)不活性な添加剤を含み得るが、活性成分を含まなくともよい。この文脈において、薬理的に不活性または実質的に不活性とは、そのような賦形剤が、医薬組成物において不活性成分として考慮される、または普通に用いられることを意味する。
活性成分を含まない組成物、または薬物を含まない組成物が、少なくとも2種の半フッ化アルカンを含むことも好ましい。特に好ましいのは、活性成分を含まない、または治療有効量の活性成分を除く組成物であって、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である第1半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である第2半フッ化アルカンとを含む組成物である。
本明細書中で用いられる活性成分とは、任意のタイプの医薬的に活性のある化合物または誘導体であって、症状または疾患の予防、診断、安定化、処置または(一般的に言えば)治療技術に有用な化合物または誘導体を指す。治療有効量とは、所望の薬理効果をもたらすのに有用な用量、濃度または強度を指す。そのような活性成分を含まない組成物は、薬理学的機構を介して作用しないが、投与部位にて主にその物理的効果を介して作用すると考えられる。
式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である好ましいSFAとして、特に、F(CF2)4(CH2)5H、F(CF2)4(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)4H、F(CF2)6(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)8H、およびF(CF2)6(CH2)10Hが挙げられる。式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である好ましいSFAとして、特に、F(CF2)8(CH2)10HおよびF(CF2)10(CH2)12Hが挙げられる。さらに好ましいのは、F(CF2)4(CH2)5H、F(CF2)4(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)8HおよびF(CF2)6(CH2)10Hの少なくとも1種、ならびに/またはF(CF2)8(CH2)10HおよびF(CF2)10(CH2)12Hの少なくとも1種を含む組成物である。別の実施形態において、組成物は、F(CF2)4(CH2)5H、F(CF2)4(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)4H、F(CF2)6(CH2)6H、F(CF2)6(CH2)8HおよびF(CF2)6(CH2)10H、ならびにF(CF2)8(CH2)10HおよびF(CF2)10(CH2)12Hの少なくとも1種から選択される少なくとも2種のSFAを含む。
さらなる実施形態において、組成物は、少なくとも2種の半フッ化アルカンであって、第1半フッ化アルカンの、第2半フッ化アルカンに対する重量比が少なくとも約3:1である、少なくとも2種の半フッ化アルカンを含んでよい。好ましいのは、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である第1半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である第2半フッ化アルカンとを含む組成物であって、第1半フッ化アルカンの、第2半フッ化アルカンに対する重量比が少なくとも約3:1である組成物である。第1半フッ化アルカンの、第2半フッ化アルカンに対するさらに好ましい重量比は、少なくとも約50:1、または少なくとも約30:1、または少なくとも約10:1である。
また、好ましいのは、少なくとも2種の半フッ化アルカンを含む組成物であって、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である少なくとも1種の半フッ化アルカンが、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である少なくとも1種の半フッ化アルカン中に溶解した、または混和し得る組成物である。
さらに別の実施形態において、組成物は、2種を超える半フッ化アルカンを含んでよい。組成物は、第3、第4等の半フッ化アルカンを含んでよい。好ましくは、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である第1半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である第2半フッ化アルカンとを含む組成物がさらに、一般式F(CF2)n(CH2)mHおよび/または一般式F(CF2)n(CH2)m(CF2)0Fの半フッ化アルカンを含む。特定の実施形態において、第1半フッ化アルカンおよび第2半フッ化アルカンを有する組成物がさらに、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが4から15までの範囲の整数であり、そしてmが4から15までの範囲の整数である半フッ化アルカンを含む。
液体SFAは、化学的かつ生理的に不活性であり、無色であり、かつ安定している。その典型的な密度は1.1から1.7g/cm3に及び、そしてその表面張力は19mN/mとかなり低くあり得る。F(CF2)n(CH2)mHタイプのSFAは、水中に溶解し得ないがやや両親媒性であり、親油性は、非フッ化セグメントのサイズの増大と相関して、増す。
RFRHタイプの液体SFAは、長期のタンポナーデのために、網膜を広げ(unfold)、かつ再適用するための硝子体液代用物として(H.Meinert et al.,European Journal of Ophthalmology,Vol.10(3),pp.189−197,2000)、そして硝子体網膜手術後の残留シリコン油用の洗浄溶液として、商業的に用いられている。実験的に、これは血液代用物としても用いられている(H.Meinert et al.,Biomaterials,Artificial Cells,and Immobilization Biotechnology,Vol.21(5),pp.583−95,1993)。これらの適用により、SFAは、生理的に耐容性良好な化合物として確立された。
本発明のSFA組成物は、局所投与用の眼用組成物に適している。SFAは、臨床前試験において示されるように、眼が良好な耐容性を示す。比較として、有機溶媒または非水性溶媒は、おそらく油状化合物を除いて、眼に局所的に投与される場合、概して非常に刺激性であり、またはかなりの損傷を与えさえする。
さらに、局所用の眼用組成物における油状キャリアまたはビヒクルと比較して、SFAは、適合性がかなり良好な屈折率を示し、見え方への影響が最小限となる:油状調製物は、見え方がぼんやりするので、患者がクリアな見え方を必要とするあらゆる状況では投与され得ないが、SFAは、ほとんど、または全くぼやけさせない。
実例として、涙液流体の屈折率は、水の屈折率と近く、すなわち室温(RT)にて1.333である。油は概して、屈折率がかなり高い(約1.46(落花生油)、1.47(ゴマ油)または1.48(ヒマシ油)等)。対照的に、発明者らは、注目する種々のSFAの屈折率が、約1.29から1.35であり、すなわち水の屈折率にかなり近いことを見出した。したがって、特定の実施形態の1つにおいて、本発明は、屈折率が、20℃にて1.29から1.35まで、特に約1.30から約1.35までであるSFAによって実行される。選択したSFAの屈折率が表1に示されている。
本発明のSFA組成物は、眼に投与される場合、いくつかの機能的効果を有すると考えられる。半フッ化アルカンは、無極性かつ親油性の物質とよく混合し、かつ/または溶解することができる。式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数であるSFAが、マイバム脂質を可溶化させるのに、そして詰まったマイボーム腺管において見られる異常な閉塞性のマイバムを除去するのに特に有用であり得ると提案される。
マイバムは、マイボーム腺管の脂質分泌物であり、通常、極性脂質および無極性脂質(コレステロールエステルおよびワックスエステル、アシルグリセリド、遊離脂肪酸、ならびにリン脂質等)の複雑な混合物を含む澄明な流体として分泌される。機能不全の状態では、マイバムを生産する腺は、脂質の組成が変更された分泌物を発現することがあり、この脂質は、粘度が増大しており、そしてまた、粒状の細胞物質を含有し得る。このような分泌物は、腺管を妨げる虞があり、そして機能的に安定した連続的な涙液膜脂質層を形成するのに役立たない虞があり、脂質涙液膜欠乏、ならびに乾性角結膜炎の症状および症候をもたらし得る。少なくとも2種のSFAを含み、その1種が、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数であるSFAである半フッ化アルカン組成物は、特に、極性脂質および無極性脂質(コレステロールエステルおよびワックスエステル、アシルグリセリド、遊離脂肪酸、ならびにリン脂質等)を含む閉塞性の、かつ/または粘性のマイボーム分泌物を可溶化するのに有効であり得るので、眼からのクリアランスを高め得ると提案される。
また、本発明のSFA組成物は、涙液膜脂質層の置換物、代用物または補足物としても機能し得るとさらに提案される。ドライアイ症候群の患者にとって、本発明のSFA組成物は、潤滑効果および保護効果を有し得る。SFA組成物は、角膜表面をおおって保護膜を形成することができ、そして涙液膜の水分蒸発ロスを防止すると考えられる。特に、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数であるSFAは、この能力(既存の涙液膜脂質層と混合し、かつ既存の涙液膜脂質層を補足すること、または角膜表面をおおって膜を形成すること等)において有用であると思われる。涙液膜が蒸発すると、通常、涙液が高浸透圧化し、望ましくない炎症経路が誘発される虞がある。SFAは、非水性であり、浸透性を有していない。結果的に、一部の従来の眼用水性調製物(固有の、そして多くの場合高い浸透性を有する)とは異なり、SFA組成物は、涙液の高浸透圧化に寄与することはなく、実際、涙液蒸発を防止することによる、正反対の保護効果を有する。
さらに、水との屈折率の類似性のために、SFAは、特に、先行技術の眼用製剤において用いられてきた脂質代用物(ヒマシ油または鉱油等)であって、滴注直後、そしてまた滴注後のかなりの期間、見え方に霞またはぼやけをもたらす虞のある脂質代用物と比較して、涙液膜の置換え、涙液膜の補足、または涙液膜との混合に適している。SFAはまた、潤滑性を向上させて、水性組成物の適用直後に患者がしばしば経験する刺すような感じ、またはザラザラ感を最小にするのに役立つ。
式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である少なくとも第1の半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である少なくとも第2の半フッ化アルカンとを含む組成物は、二重機能(先に述べた、閉塞性または粘性のマイバム脂質の除去における可溶化または補助、そして涙液膜脂質層の置換物としての機能)を有すると考えられる。したがって、これらの組成物は特に、マイボーム腺機能不全および/または乾性角結膜炎ならびにこれらに関連する症状および症候の処置に有用である。
さらに、SFAは、角膜表面および結膜全体にわたって迅速かつ有効に拡散し得る注目すべき濡れ挙動および拡散挙動を示す。濡らすとは、液体が、固体表面との接触を確立および維持する能力を意味し、これは、2つがまとまった際の分子間相互作用に由来するものである。付着力と凝集力間のバランスが、濡れの程度を決定する。付着力が凝集力と比較して高いほど、液体の滴が固体材料の表面全体に拡散することとなる。逆に言えば、液体内の凝集力が非常に高いと、滴は球を形成することとなるので、表面との接触が防止される。同様に、拡散は、互いに接触している2つの液体の界面でも起こり得る。
濡れおよび拡散の測定基準は、接触角度θである。接触角度は、液体−蒸気界面が、固体−液体または液体−液体界面と触れ合う角度である。滴の拡散傾向は、接触角度が小さくなるにつれ、増大する。したがって、接触角度は、濡れ性の逆の測定基準を与える。
接触角度が90°未満と小さいと、高い濡れ性および/または拡散を示すが、接触角度がより大きいと、低い濡れ性および拡散を示す。完全な濡れおよび拡散であると、接触角度が0°となり、また、接触角度が測定できないと報告される。
SFAは、種々の表面で優れた濡れを示す。例えば、塩化トロスピウムまたはフェノフィブラートから圧縮された錠剤(150mgの薬剤物質が、15から20kNにて圧縮された、直径が13mmの錠剤)上のF4H5およびF6H8双方の接触角度は、測定できない、すなわち、完全な濡れである。なお、フェノフィブラートは、疎水性の、水溶性に乏しい化合物の例であるが、塩化トロスピウムは親水性であり、かつ水溶性である。比較のために、精製水の、フェノフィブラート錠剤上の接触角度は、92.5°と判定された。すなわち、錠剤は水で十分に濡らされなかった。
今回、本明細書中で定義される少なくとも2種のSFAを含む組成物は、単独のSFA、または非フッ化有機溶媒もしくはフッ化有機溶媒と組み合わせたSFAと比較して、驚くほど高い拡散挙動を示し得ることが、発明者らによって見出された。例えば、F(CF2)10(CH2)12HのF(CF2)4(CH2)5H溶液の50μL小滴が、ガラス表面に投与された場合、小滴の拡散面積について、単独のF(CF2)4(CH2)5Hと比較して、ほぼ2倍の広がりが観察された(表2)。
式F(CF2)n(CH2)mHの、nが3から8までの範囲の整数であり、そしてmが3から10までの範囲の整数である、少なくとも第1の半フッ化アルカンと、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である少なくとも第2の半フッ化アルカンとを含む組成物によって形成された単層膜は、単一のSFAのみによって形成されたものと比較して、安定性がさらに増していた。正味の(neat)F6H8(F(CF2)6(CH2)8H)のラングミュア等温式実験によれば、例えば、これが安定した単層を形成しないことが実証される。対照的に、F6H8と、式F(CF2)n(CH2)mHの、nが6から20までの範囲の整数であり、そしてmが10から20までの範囲の整数である(すなわちF10H12およびF10H10)半フッ化アルカンとの混合物の等温式によれば、膜単層特性が安定していることが実証されることが分かった(図1)。
SFAのそのような組合せによる拡散挙動の向上および膜性質の安定は、通常の眼用組成物にとって、そしてドライアイ症状の処置を目的とする眼用組成物にとって、特に有利である。眼の表面に投与される小滴が、角膜表面を覆うSFA混合組成物の急速な拡散、および膜の形成をもたらし得る。有効な拡散により、眼表面を覆うより効果的な分布が可能となるであろう。また、直ちに散らばら(break up)ない膜の安定性により、眼表面に及ぼす潤滑効果も、より長期間持続するであろう。
全体として、患者のまばたき機構(罹患状態によっては無効となる、または妨害される虞がある)に大きく依存せずとも、組成物は眼表面全体にわたって拡散するであろう。したがって、本発明の組成物は、一般に水性ベースの、拡散挙動がより低い従来の製剤と比較して、より効率的に眼表面に投与され得ると考えられる。したがって、本組成物によれば、投与の頻度がより少なくとも、ドライアイの緩和が達成され得る。
複数のSFAの使用に基づく本発明のさらなる利点は、投与後の滞留時間が最適に調整されるように設計または混合され得る、すなわち組成物の粘度および蒸発挙動が調整され得ることである。これは、眼におけるより効果的な滞留時間のために、眼用組成物の製剤化を最適にする付加的手段を実現する。
また、SFAは、ドロッパ(眼ドロッパ等)から分配されると、非常に小さな小滴を形成することもできる。理論によって拘束されることを望むものではないが、小さな小滴サイズは、密度、粘度および表面張力に関するSFA独特の性質の相互作用の結果であると考えられる。いずれにせよ、眼中への局所投与には、小さな滴または小容量の投与がかなり有利であると考えられる。というのも、流体を受け入れ、かつ保持する涙嚢の能力が、極めて限られているためである。実際、水または油に基づく従来の点眼剤を投与すると、直ちに、投与された医薬品のかなりの部分および涙液流体の一部が放出されるのが非常に一般的である。同時に、投与された用量の一部が、鼻涙管を介して全身的に取り込まれることになるリスクがある。
本発明はまた、微生物学的に安定した非水性眼用組成物を製剤化する手段を提供する。水性眼用組成物は、細菌汚染を受けやすい。比較すると、SFAは静菌性を有し、微生物の増殖を支持しない。それゆえに、多くの患者、特に乾性角結膜炎の患者にとって耐容性良好な、防腐剤を含まない眼用組成物を製剤化することが可能である。このような組成物はまた、例えば、マイボーム腺が塞がれた、またはブロックされた患者の眼蓋縁の細菌感染を促進しない。
したがって、本発明の組成物は、眼または眼の組織への局所投与に非常によく適している。眼の組織として、局所的にさらされる、またはさらされることがある(すなわち、非外科的手段による)眼の解剖学的組織の任意の表面が挙げられる。好ましくは、組成物は、角膜または結膜に投与される。組成物はまた、好ましくは、上眼蓋縁もしくは下眼蓋縁、マイボーム腺管、まつ毛、または眼もしくは眼蓋の解剖学的組織の任意の領域に投与される。
さらなる実施形態において、本発明の組成物は、眼または眼の組織の対症的処置およびケアに用いられ得る。組成物は、対症的方策として、すなわち、眼の障害または症状(乾性角結膜炎およびマイボーム腺機能不全が挙げられる)に関連する眼の症候を軽減する、または和らげるために用いられてよい。例えば、これは、投与頻度が一般的に耐容性または安全性の問題によって限定される、活性成分を含む医薬品に加えて、用いられてよい。組成物はまた、疾患に関係しない任意の感覚(眼の乾燥、炎症または不快感)を軽減する、または和らげる対症的方策として用いられてもよい。好ましくは、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンおよび任意で1つ以上のさらなる賦形剤からなる組成物が、任意の眼または眼の組織の対症的処置およびケアにおいて用いられる。前記組成物は、投与されても、眼の疾患およびその症候の根本病因の経路のいずれかにおいて治癒も予防も介入もしないが、前記疾患の症候を軽減し、かつ和らげるためだけに適用されてよい。特に好ましいのは、本発明の組成物の、人工涙液、涙液代用物もしくは涙液置換物、または眼潤滑剤としての使用である。前記組成物は、眼の疾患の根本原因となる経路を治癒または処置することを目的とする医薬的に活性のある成分(例えば免疫抑制眼滴)を有する眼用組成物と付随させて、またはこれと組み合わせて、用いられてよい。眼または眼の組織の対症的処置およびケア用の前記組成物の使用において、組成物は、毎日1回以上投与されてよい。
また別のさらなる実施形態において、本発明の組成物は、眼または眼の組織用の浄化溶液として用いられ得る。組成物は、好ましくは、蓄積された破片または放出物(マイバム分泌物等)があれば、眼蓋、眼蓋縁、まつ毛または眼の隙間から、すべて浄化する、または除去もしくは洗い流しに役立てるために用いられる。水性製剤と比較して、SFA組成物は、より容易に拡散することができるので、アクセスがより困難な眼蓋の解剖学的組織の領域に到達することができる。特定の実施形態において、浄化溶液として使用される組成物は、スプレーとして投与されるように製剤化される。これは、眼滴を介して組成物を適用するのが嫌な、またはそうすることができない患者に有用であり得る。
任意で、本発明の組成物はさらに、親油性ビタミン誘導体を含んでよい。なお、ビタミンおよびビタミン誘導体は、厳密な化合物および強度に応じて、活性成分としてもみなされ得る。親油性ビタミン誘導体として、ビタミンAおよびその誘導体、例えば、レチノールおよびそのエステル(例えば、パルミチン酸レチノールまたは酢酸レチノール)、レチノイン酸、レチナール、ならびに他のレチノイド誘導体およびそのエステル;ビタミンE(例えばα−トコフェロール)ならびにその誘導体(例えばトコトリエノール)およびエステル(例えば、酢酸トコフェロールまたはトコフェロールTPGS)が挙げられる。本発明の実施形態において、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンを含む液体組成物はさらに、少なくとも1つの可溶化親油性ビタミンまたはビタミン誘導体を含む。
さらに別の実施形態において、本発明の組成物はさらに、ポリ不飽和脂肪酸(オメガ−3脂肪酸および/またはオメガ−6脂肪酸等)を含んでよい。このような脂肪酸は、涙液膜脂質層に寄与し得、そして涙液膜脂質層にとって自然なものであり得る。オメガ−3脂肪酸は、抗炎症効果を有し得る。これは、抗炎症メディエータ(レソルビンおよびプロテクチン等)の生合成のための前駆体として機能する。なお、このような脂肪酸およびその誘導体は、厳密な濃度および強度に応じて、活性成分としてみなされ得る。オメガ−3脂肪酸(ω−3脂肪酸またはn−3脂肪酸としても知られている)の例として、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アルファ−リノレン酸(ALA)が挙げられる。オメガ−6脂肪酸(ω−6脂肪酸またはn−6脂肪酸としても知られている)の例として、ガンマ−リノレン酸、リノール酸、ジホモ−ガンマ−リノレン酸が挙げられる。オメガ−3脂肪酸またはオメガ−6脂肪酸の誘導体(アルキルエステル誘導体等)もまた、本発明の範囲内である。特に好ましいアルキルエステル誘導体として、エイコサペンタエン酸エチルエステルまたはドコサヘキサエン酸エチルエステルがある。エイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸の誘導体(レソルビンおよびニューロプロテクチン等)も考えられる。特定の実施形態において、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンを含む液体組成物はさらに、1つ以上の、オメガ−3−脂肪酸もしくはオメガ−3脂肪酸誘導体、および/またはオメガ−6脂肪酸もしくはオメガ−6脂肪酸誘導体を含む。
本発明の組成物はまた、任意でさらに、カロチノイドおよびカロチノイド誘導体、特にキサントフィルを含んでよい。特に好ましいのは、ルテインおよびゼアキサンチンである。ルテインまたはゼアキサンチンの誘導体(ルテインエステルまたはゼアキサンチンエステル等)も考えられる。特定の実施形態において、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンを含む液体組成物はさらに、ルテインまたはその誘導体を含む。
別の実施形態において、本発明の組成物はまた、フラバン−3−オール(カテキン等)をさらに含んでよい。カテキンまたはカテキン異性体(例えばエピカテキン)および誘導体(例えば、カテキンのエステル誘導体)が、特に好ましい。
任意で、1つ以上のさらなる賦形剤が、SFA組成物において用いられてよい。付加的な賦形剤はまた、SFAに加えて、乾性角結膜炎の患者、関係する症状の患者およびこれらと関連する症候のある患者の、欠乏している涙液膜および涙液膜脂質層に寄与するように機能してもよい。好ましいのは、生体適合性であり、眼が耐容性を示し、そして液体であり、かつ/またはSFA中で溶解し、かつ混和し得る賦形剤である。特に、賦形剤は好ましくは、脂質、油、親油性ビタミン、潤滑剤、増粘剤、抗酸化剤、界面活性剤、およびこれらの2つ以上の混合物から選択される。
本発明のSFA組成物中に含まれ得る、潜在的に有用な脂質および油状賦形剤の例として、トリグリセリド油(例えば、ダイズ油、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、甘扁桃油)、鉱油(例えば、ペトロラタムおよび流動パラフィン)、中鎖トリグリセリド(MCT)、油状脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、油状脂肪アルコール、ソルビトールおよび脂肪酸のエステル、油状スクロースエステル、油状コレステロールエステル、油状ワックスエステル、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、または眼が生理的に耐容性を示す任意の油状物質が挙げられる。涙液膜脂質層において本来見られる成分を模倣する、またはそれらと構造的に類似する、または関係する任意の合成、半合成または天然の油状賦形剤もまた、本発明の範囲内である。
潜在的に有用な親油性ビタミン賦形剤の例として、ビタミンAおよびその誘導体、例えば、レチノールおよびそのエステル(例えば、パルミチン酸レチノールまたは酢酸レチノール)、レチノイン酸、レチナール、ならびに他のレチノイド誘導体およびそのエステル;ビタミンE(例えばα−トコフェロール)ならびにその誘導体(例えばトコトリエノール)およびエステル(例えば、酢酸トコフェロールまたはトコフェロールTPGS)が挙げられる。本発明の実施形態において、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンを含む液体組成物はさらに、完全に可溶化された少なくとも1つの親油性ビタミン賦形剤を含む。さらに好ましいのは、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンおよび1つ以上のさらなる賦形剤からなる組成物であり、賦形剤の少なくとも1つは親油性ビタミンである。
潜在的に有用な脂肪酸賦形剤の例として、ポリ不飽和脂肪酸(オメガ−3脂肪酸および/またはオメガ−6脂肪酸等)が挙げられる。そのような賦形剤は、涙液膜脂質層に寄与し得、そして涙液膜脂質層にとって自然なものであり得る。オメガ−3脂肪酸(ω−3脂肪酸またはn−3脂肪酸としても知られている)賦形剤の例として、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アルファ−リノレン酸(ALA)が挙げられる。オメガ−6脂肪酸(ω−6脂肪酸またはn−6脂肪酸としても知られている)賦形剤の例として、ガンマ−リノレン酸、リノール酸、ジホモ−ガンマ−リノレン酸が挙げられる。オメガ−3脂肪酸またはオメガ−6脂肪酸の誘導体(アルキルエステル誘導体等)もまた、賦形剤として本発明の範囲内である。特に好ましいアルキルエステル誘導体として、エイコサペンタエン酸エチルエステルまたはドコサヘキサエン酸エチルエステルがある。特定の実施形態において、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンを含む液体組成物はさらに、1つ以上のオメガ−3−脂肪酸賦形剤またはオメガ−6脂肪酸賦形剤を含む。さらに好ましいのは、少なくとも2種以上の半フッ化アルカンおよび1つ以上のさらなる賦形剤からなる組成物であり、賦形剤の少なくとも1つは、オメガ−3脂肪酸賦形剤もしくはオメガ−6脂肪酸賦形剤、またはその誘導体である。
潜在的に有用な潤滑剤および/または増粘剤の例として、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グリセロール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルグアーが挙げられる。
潜在的に有用な抗酸化賦形剤の例として、カロチノイドおよびカロチノイド誘導体、特にキサントフィルが挙げられる。特に好ましいのは、ルテインおよびゼアキサンチンである。ルテインまたはゼアキサンチンの誘導体(ルテインエステルまたはゼアキサンチンエステル等)も考えられる。潜在的に有用であると考えられる他の好ましい抗酸化賦形剤として、フラバン−3−オール(カテキン等)が挙げられる。カテキンまたはカテキン異性体(例えばエピカテキン)およびその誘導体(例えば、カテキンのエステル誘導体)が、特に好ましい。
潜在的に有用な界面活性賦形剤として、特に非イオン性界面活性剤または両親媒性脂質が挙げられる。潜在的に有用であると考えられる界面活性剤として、チロキサポール、ポロキソマー(Pluronic F68LFまたはLutrol F68、Pluronic L−G2LFおよびPluronic L62D等)、ポリソルベート(ポリソルベート20およびポリソルベート80等)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシル、およびそれらの2つ以上の混合物が挙げられる。
組成物は、勿論、必要または有用なさらなる賦形剤(酸、塩基、電解質、バッファ、溶質、抗酸化剤、安定化剤、共力剤、および(特定の場合において必要であれば)防腐剤等)を含んでよい。組成物は、液体溶液、ゲル、エマルジョン、マイクロエマルジョン、懸濁液またはスプレーとして投与されるように製剤化されてよい。これは、前記液体溶液、ゲル、エマルジョン、マイクロエマルジョン、懸濁液またはスプレーの製造で一般的に知られている技術によって調製されてよい。
さらに、本発明は、先に述べた組成物、および組成物を保持するコンテナを含む医薬キットを提供する。好ましくは、組成物を含むコンテナは、患者の眼に組成物を局所的に投与するように構成された滴下デバイス等の分配手段を有する。
ラングミュア−ブロジェット等温式測定を、正味のF6H8(F(CF2)6(CH2)8H)について、そしてF6H8とF10H10(F(CF2)10(CH2)10H)との混合物、およびF6H8とF10H12(F(CF2)10(CH2)12H)との混合物について行った。
F6H8のクロロホルム溶液(1mg/ml)を調製した。この溶液の59μLを、25℃のラングミュア−ブロジェットトラフ上に広げた(副相として、ミリQ精製水)。溶媒を蒸発させた(15分)後に、4cm2/分のバリア速度で圧縮を開始した。同様の条件を、半フッ化アルカン混合物に用いた。
その結果、等温式は、正味のF6H8(F(CF2)6(CH2)8H)が、安定した単層を形成する能力が低いことを実証した。等温式は、主に、液体膨張(LE)特性を示しており、さらなる圧縮直後に、非常に短い秩序の(ordered)液体凝縮(LC)相しかないように見える。対照的に、F6H8/F10H10およびF6H8/F10H12の混合物の等温式は、より秩序のあるLC相への、LE相の顕著に検出可能な遷移を、そして単層崩壊が、より高い圧力値でしか起こらないこと示す(図1)。