JP2018104730A - 溶射システム - Google Patents

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怜士 玉城
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佳晃 福永
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元 辻井
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Abstract

【課題】溶射ガンの付着物の剥離による溶射被膜の品質低下を抑制し、かつ、稼働時間の低下を抑制することができる溶射システムを提供すること。
【解決手段】表面71と、表面71から凹む筒状の内側面72とを有する被溶射物7の内側面72に溶射を行うための溶射システムA1において、 溶射物を噴射する噴射部44を備える溶射ガン40と、溶射ガン40に向けてガスを吹き付けるエア吹付部65とを備え、被溶射物7への溶射を行う溶射処理において、エア吹付部65が溶射ガン40に向けてガスを吹き付ける工程を含むようにした。
【選択図】図1

Description

本発明は、被溶射物に溶射被膜を形成する溶射システムに関する。
溶射システムを用いて行うアーク溶射においては、溶射ワイヤを溶射ガンに送給させつつアーク放電によって溶射ワイヤを溶融させる。溶融した溶射ワイヤはノズルから噴出されるガス流によって被溶射物へ噴き付けられ、当該被溶射物の表面に溶射被膜が形成される(たとえば、特許文献1,2を参照)。
特許文献1には、シリンダブロックの円筒内面にアーク溶射処理を行うための溶射装置が記載されている。同文献に記載された溶射装置は、比較的に長尺な溶射ガンを備えている。溶射ガンは、ワイヤ導管およびガス流路が円筒部材の内部に設けられた構成である。当該溶射ガンをシリンダブロックの円筒内に挿入した状態にてノズルからガス流を噴出し、円筒内面に溶射被膜を形成する。円筒内面への溶射被膜の形成は、溶射ガンおよびシリンダブロック(円筒内面)を相対移動させながら行う。また、特許文献2には、溶射被膜にならなかった溶射物が粉塵などの異物として外部空間に漂うことを防ぐために、遮蔽器および吸引機構を設けることが記載されている。
円筒内に溶射ガンを挿入して行う溶射処理においては、円筒内面(被溶射物)と溶射ガンとは比較的に近接している。このため、円筒内面にて跳ね返った反射粒子や微細粒子の酸化物(溶射ヒューム)等が溶射ガンに付着しやすい。そして、溶射ヒューム等が溶射ガンに付着した状態で溶射処理を行うと、溶射ガンの付着物が剥がれて落下し、ノズルからのガス流によって被溶射物の内側面に噴き付けられるおそれがある。このような事態を招くと、溶射被膜の品質低下を招いてしまう。これを回避するためには、定期的に手作業での清掃を行う必要があるので、溶射システムの稼働時間が低下してしまう。
特許第4496783号公報 特開2015−166482号公報
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、溶射ガンの付着物の剥離による溶射被膜の品質低下を抑制し、かつ、稼働時間の低下を抑制することができる溶射システムを提供することをその課題とする。
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
本発明によって提供される溶射システムは、表面と、前記表面から凹む筒状の内側面と、を有する被溶射物の前記内側面に溶射を行うための溶射システムであって、溶射物を噴射する噴射部を備える溶射ガンと、前記溶射ガンに向けてガスを吹き付ける吹付部とを備えており、前記被溶射物への溶射を行う溶射処理において、前記吹付部が前記溶射ガンに向けてガスを吹き付ける工程を含んでいることを特徴とする。この構成によると、吹付部が溶射ガンに向けてガスを吹き付けることで、溶射ガンに付着した付着物を剥がして吹き飛ばすことができる。これにより、溶射ガンに付着した付着物を除去することができる。したがって、溶射ガンの付着物が剥がれて落下し被溶射物の内側面に噴き付けられることを抑制することができ、溶射被膜の品質低下を抑制することができる。また、溶射処理において、吹付部が溶射ガンに向けてガスを吹き付ける工程が含まれているので、別途、付着物除去のための定期的な手作業での清掃を必要としない。したがって、溶射システムの稼働時間の低下を抑制することができる。
好ましい実施の形態においては、前記噴射部は、第1方向と前記第1方向の反対の第2方向とに沿って移動可能であり、前記溶射システムは、前記噴射部が移動途中に収容されうる内部空間が形成された遮蔽器をさらに備えている。この構成によると、噴射部が遮蔽器の内部空間に収容されているときに、溶射物の噴射の開始および終了を行うことができる。これにより、被溶射物の内部で溶射物の噴射の開始および終了を行わず、かつ、外部空間に溶射物をまき散らしてしまうことを抑制することができる。
好ましい実施の形態においては、前記吹付部は、前記遮蔽器の前記内部空間に配置されている。この構成によると、遮蔽器の内部空間で溶射ガンに向けてガスの吹き付けを行うことができる。これにより、剥がれた付着物が外部空間にまき散らされることを抑制することができる。
好ましい実施の形態においては、前記吹付部は、前記遮蔽器の外側に配置されている。この構成によると、噴射部が遮蔽器の内部空間に収容されているときに、吹付部が溶射ガンにガスの吹き付けを行っても、ガスは噴射部に吹き付けられない。したがって、吹付部は、噴射部による溶射物の噴射が停止される前に、ガスの吹き付けを開始することができる。
好ましい実施の形態においては、前記吹付部は、前記噴射部が溶射物の噴射を終了したとき以降に、ガスの吹き付けを開始する。この構成によると、噴射された溶射物が吹き付けられたガスによってまき散らされることを防止することができる。
好ましい実施の形態においては、前記吹付部は、前記第1方向に直交する方向より前記第1方向よりにガスを吹き付ける。この構成によると、溶射ガンから剥がれた付着物を、第1方向側に吹き飛ばすことができる。
好ましい実施の形態においては、前記第1方向は、重力下方である。この構成によると、溶射ガンから剥がれた付着物を、重力下方側に吹き飛ばすことができる。
好ましい実施の形態においては、前記遮蔽器は、前記被溶射物の前記表面側に配置されている。この構成によると、噴射部は、被溶射物の表面側から内部に移動する前に溶射物の噴射を開始したり、被溶射物の内部から表面側に移動した後に溶射物の噴射を終了したりすることができる。
好ましい実施の形態においては、前記遮蔽器は、前記被溶射物が配置されるのとは反対側に、前記噴射部が通過するために形成された通過孔を備えており、前記溶射システムは、前記溶射ガンが配置される筐体と、前記遮蔽器と前記筐体との間に配置される筒状部とをさらに備えており、前記筒状部は、一方端が前記溶射ガンを囲むようにして前記筐体に固定されており、他方端が前記通過孔を囲むようにして前記遮蔽器に密着されており、前記噴射部の移動方向に伸び縮みする蛇腹構造となっている。この構成によると、吹付部によるガスの吹き付けによって剥がされた付着物が遮蔽器の通過孔から噴出した場合でも、当該付着物が外部空間にまき散らされることを防止することができる。また、蛇腹構造によって、筐体と遮蔽器との距離の変化に対応することができる。
好ましい実施の形態においては、前記遮蔽器は、前記被溶射物の前記表面側とは反対側に配置されている。この構成によると、噴射部は、被溶射物の表面側とは反対側から内部に移動する前に溶射物の噴射を開始したり、被溶射物の内部から表面側とは反対側に移動した後に溶射物の噴射を終了したりすることができる。
好ましい実施の形態においては、前記溶射システムは、前記内部空間内の気体を吸引する吸引部をさらに備えている。この構成によると、溶射ガンから剥がれた付着物を気体とともに吸引して除去することができる。
好ましい実施の形態においては、前記遮蔽器は、前記吹付部より前記第1方向寄りに形成された吸気用開口を備えており、前記吸引部は、前記吸気用開口から吸引を行う。この構成によると、吹付部によって第1方向側に吹き飛ばされた付着物を効率よく吸引することができる。
好ましい実施の形態においては、前記溶射システムは、前記被溶射物における前記内側面に囲まれた空間を介して、前記内部空間内の気体を吸引する第2の吸引部をさらに備えている。この構成によると、吸引部で吸引できなかった剥がれた付着物を、第2吸引部で吸引することができる。
好ましい実施の形態においては、前記溶射ガンは、前記第1方向に沿って延びる軸を中心として回転する。この構成によると、吹付部は、溶射ガンの全周にわたってガスを吹き付けることができる。したがって、溶射ガンの付着物を全周にわたって剥がすことができる。
好ましい実施の形態においては、前記吹付部が吹き付けるガスの流速は、マッハ1以上である。この構成によると、溶射ガンの付着物が剥がれずに残ってしまうことを抑制することができる。
本発明によると、エア吹付部が溶射ガンに向けてガスを吹き付けることで、溶射ガンに付着した付着物を剥がして吹き飛ばして除去することができる。したがって、溶射ガンの付着物が剥がれて落下し被溶射物の内側面に噴き付けられることを抑制することができ、溶射被膜の品質低下を抑制することができる。また、溶射処理において、エア吹付部が溶射ガンに向けてガスを吹き付ける工程が含まれているので、別途、付着物除去のための定期的な手作業での清掃を必要としない。したがって、溶射システムの稼働時間の低下を抑制することができる。
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
本発明の第1実施形態に係る溶射システムの全体構成を模式的に示す図である。 図1に示す溶射システムの要部拡大断面図である。 図2のIII−IIIに沿う断面図である。 図1に示す溶射システムを用いて、被溶射物に溶射処理を行う際の各工程を示す図である。 図1に示す溶射システムの各構成の制御を示すためのタイムチャートである。 本発明の第2実施形態に係る溶射システムの要部拡大断面図である。 本発明の第3実施形態に係る溶射システムの要部拡大断面図である。 本発明の第4実施形態に係る溶射システムの全体構成を模式的に示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1〜図3は、本発明の第1実施形態に係る溶射システムを説明するための図である。図1は、当該溶射システムの全体構成を模式的に示す図である。図2は、当該溶射システムの要部拡大断面図であり、図1に示した遮蔽器6を主に示している。図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。
溶射システムA1は、被溶射物7に対し溶射を行うためのものである。被溶射物7に対し溶射を行い、溶射皮膜が形成された工業製品が製造される。被溶射物7は、表面71および内側面72を有する。内側面72は、表面71からへこむ筒状を呈している。内側面72の断面形状は、たとえば、円形や矩形である。
図1に示すように、溶射システムA1は、溶射装置1、吸引機構5、遮蔽器6、エア吹付部65、ステージ9、および制御装置100を備えている。被溶射物7は、ステージ9に載置される。
溶射装置1は、被溶射物7の内側面72に溶射を行うものであり、ワイヤ送給機構10、直線移動機構20、回転機構30、溶射ガン40、および筐体80を備えている。
ワイヤ送給機構10は、溶射ワイヤW1,W2を溶射ガン40に向けて送り出すものである。ワイヤ送給機構10は、筐体80内に配置されている。図1に示すように、ワイヤ送給機構10は、第1ワイヤ供給源11a、第2ワイヤ供給源11b、第1送給ローラ12a、および第2送給ローラ12bを備えている。
第1ワイヤ供給源11aは、例えばワイヤリールであり、水平方向に延びる軸心回りに回転可能なリールに溶射ワイヤW1が巻き取られた形態を有しており、回転しながら溶射ワイヤW1を繰り出すことができる。第1ワイヤ供給源11aから繰り出される溶射ワイヤW1は、溶射ガン40に至っている。また、第2ワイヤ供給源11bも、第1ワイヤ供給源11aと同様、例えばワイヤリールであって、リールに溶射ワイヤW2が巻き取られた形態を有しており、回転しながら溶射ワイヤW2を繰り出すことができる。第2ワイヤ供給源11bから繰り出される溶射ワイヤW2は、溶射ガン40に至っている。なお、本実施形態では、第1ワイヤ供給源11aおよび第2ワイヤ供給源11bをワイヤリールとした場合を示しているが、これに限られず、パックワイヤとしてもよい。
第1送給ローラ12aおよび第2送給ローラ12bは、それぞれ、対をなすローラの少なくとも一方が駆動部(図示略)によって駆動される。これにより、第1ワイヤ供給源11aから繰り出される溶射ワイヤW1および第2ワイヤ供給源11bから繰り出される溶射ワイヤW2を溶射ガン40に送り出す。本実施形態では、ワイヤ送給機構10の駆動により、溶射ワイヤW1、W2が対をなして溶射ガン40に供給される。
溶射ガン40は、直線移動および回転を行いながら、被溶射物7の内側面72に溶射を行うものである。溶射ガン40は、筐体80に回転可能に配置されている。溶射ガン40は、本体41、一対の給電チップ42a,42b、およびガス噴出孔43を備えている。
本体41は、例えば真鍮などの金属製であり、X1−X2方向に延びる円柱形状である。第1方向X1および第2方向X2は互いに反対の方向である。本実施形態では、第1方向X1は重力下方に一致する。本実施形態とは異なり、第1方向X1は重力下方に限定されない。たとえばX1−X2方向が水平方向に一致していてもよいし、X1−X2方向が水平方向に対し30度や60度傾斜する方向に一致していてもよい。本体41の内部には、ガス噴出孔43などから噴出させるガスを流すためのガス流路(図示略)、および、溶射ワイヤW1,W2を挿通させるワイヤ導管(図示略)が設けられている。なお、本体41の材質および形状は限定されない。また、絶縁性を高めるために、本体41を、円柱形状の内部本体と、内部本体を内挿される円筒形状の外部本体との二重構造にして、内部本体と外部本体との間に空気層を設けるようにしてもよい。
給電チップ42aは、溶射ワイヤW1を所望の箇所へ案内するためのものである。給電チップ42aには、溶射ワイヤW1を挿通するための挿通孔が形成されている。給電チップ42bは、溶射ワイヤW2を所望の箇所へ案内するためのものである。給電チップ42bには、溶射ワイヤW2を挿通するための挿通孔が形成されている。図2に示すように、給電チップ42a,42bは、それぞれ、本体41の中心軸Oxの方向に対して傾斜して配置されている。給電チップ42aに案内された溶射ワイヤW1と、給電チップ42bに案内された溶射ワイヤW2とは、本体41の先端側(第1方向X1側)に向かうほど近接している。また、給電チップ42a,42bは、図示しない電源装置に接続されている。電源装置が電力を供給することで、給電チップ42aに挿通された溶射ワイヤW1の先端と、給電チップ42bに挿通された溶射ワイヤW2の先端との間に、電圧が印加される。これにより、溶射ワイヤW1の先端と溶射ワイヤW2の先端との間にアークが発生する。
ガス噴出孔43は、アーク放電によって溶融した溶射ワイヤW1および溶射ワイヤW2の溶滴を飛散させるためのガスを噴出させるものである。ガス噴出孔43は、本体41の先端の下垂部分に形成されている。ガス噴出孔43は、X1−X2方向と略直交する方向を向いている。なお、ガス噴出孔43の数、配置場所、吐出方向は、上述したものに限定されない。ガス噴出孔43には、図示しないガス供給手段から、流量および圧力が制御されたガスが、本体41内部に配置されているガス流路を介して供給される。本実施形態では、ガス供給手段は、ガスとして圧縮空気を供給する。なお、ガス供給手段が供給するガスは、空気以外の気体であってもよい。本実施形態では、アークを発生させて、ガスで溶滴を飛散させる箇所を噴射部44とする(図2参照)。
直線移動機構20は、噴射部44(溶射ガン40)を被溶射物7に対して相対的に直線移動させる機構である。本実施形態では、直線移動機構20は、ガイドレール21とモータ23とを含む。ガイドレール21に沿って筐体80が移動可能になっており、筐体80に設けられた溶射ガン40も移動可能となっている。そのため、モータ23が駆動することにより、溶射ガン40が第1方向X1や第2方向X2に移動する。溶射ガン40の第1方向X1や第2方向X2への移動に伴い、溶射ガン40における噴射部44が、第1方向X1や第2方向X2に移動する。なお、本実施形態とは異なり、噴射部44(溶射ガン40)を直線移動させる代わりに、被溶射物7が載置されたステージ9を第1方向X1や第2方向X2に直線移動させるようにしてもよい。
回転機構30は、溶射ガン40の本体41の中心軸Oxを中心として、被溶射物7に対して噴射部44(溶射ガン40)を相対回転させる機構である。本実施形態では、噴射部44の直線移動方向に沿って延びる軸は、溶射ガン40の本体41の中心軸Oxに一致する。なお、本実施形態とは異なり、噴射部44の直線移動方向に沿って延びる軸は、溶射ガン40の本体41の中心軸Oxに平行となっている(一致はしていない)ものであってもよい。本実施形態では、回転機構30は、溶射ガン40を中心軸Oxを中心として回転させる機構とモータとを備えている。回転機構30は、中心軸Oxを中心として、噴射部44(溶射ガン40)を回転させる。これにより、ステージ9に載置されて固定された被溶射物7に対して、噴射部44(溶射ガン40)が相対回転する。本実施形態では、噴射部44(溶射ガン40)は、一分間に例えば100〜200回転する。
なお、本実施形態では、溶射ガン40の本体41全体が回転する場合について説明したが、これに限られない。本体41を、上述した内部本体と外部本体との二重構造としている場合は、内部本体は回転させず、外部本体だけを回転させるようにしてもよい。この場合は、給電チップ42a、42bを内部導体に固定してアーク発生個所を回転させず、ガス噴出孔43を外部本体に設けて、外部本体を中心軸Oxを中心として回転させる。ガス噴出孔43が、噴出方向をアーク発生個所に向けながら、アーク発生個所の周りを回転することで、噴射部44が被溶射物7に対して回転する。
また、本実施形態とは異なり、噴射部44(溶射ガン40)を回転させる代わりに、被溶射物7が載置されたステージ9を中心軸Oxを中心として回転させるようにしてもよい。この場合、被溶射物7が、中心軸Oxを中心として、噴射部44(溶射ガン40)に対して回転する。この場合でも、被溶射物7に対して噴射部44(溶射ガン40)を相対回転させることができる。
遮蔽器6は、噴射部44を配置させて、溶射物の噴射の開始、終了を行うための内部空間6sを提供するものである。被溶射物7における内側面72に囲まれた空間7sで噴射部44が溶射物の噴射の開始、終了を行うと、被溶射物7の内側面72の溶射被膜の形成に不良が発生する場合がある。したがって、噴射部44が被溶射物7の空間7sに入る前に溶射物の噴射を開始し、噴射部44が空間7sから出た後に溶射物の噴射を終了するのが望ましい。しかし、被溶射物7の空間7sの外側で溶射物の噴射の開始、終了を行うと、外部空間に溶射物をまき散らしてしまう。この場合、まき散らされた溶射物は粉塵などの異物として外部空間に漂うことになる。これを防ぐために、本実施形態では、噴射部44を配置させて、溶射物の噴射の開始、終了を行うための内部空間6sを提供する遮蔽器6を備えている。
遮蔽器6は、内部空間6sを有する略直方体形状をなし、たとえば金属よりなる。なお、遮蔽器6の材質および形状は限定されない。遮蔽器6は、溶射システムA1を使用する際、被溶射物7の表面71の側に配置される。遮蔽器6には、内部空間6s、下部通過孔6a、上部通過孔6b、および吸気用開口6cが形成されている。
内部空間6sは噴射部44を収容可能な空間である。下部通過孔6aは、噴射部44(および溶射ガン40)を通過させるためのものである。下部通過孔6aは、内部空間6sに通じており、且つ、第1方向X1に向かって開放している。上部通過孔6bは、噴射部44(および溶射ガン40)を通過させるためのものである。上部通過孔6bは、内部空間6sに通じており、且つ、第2方向X2に向かって開放している。上部通過孔6bは、第1方向X1視(平面視)において、下部通過孔6aと重なっている。上部通過孔6bの面積は、下部通過孔6aの面積よりも小さくてもよい。上部通過孔6bは、溶射ガン40が通過可能な限りにおいて、極力小さく形成されている。本実施形態では、下部通過孔6aおよび上部通過孔6bは、中心軸Oxを中心とする円形状とされている。吸気用開口6cは、内部空間6sに通じている。
遮蔽器6は、箱状であり、上述の内部空間6sを規定している。遮蔽器6には、上述の下部通過孔6a、上部通過孔6b、および吸気用開口6cが形成されている。本実施形態では、遮蔽器6は、保持機構(図示略)によってX1−X2方向に移動可能に保持されている。遮蔽器6は、側部61、底部62、および頂部63を備えている。
図3に示すように、側部61は、第1方向X1視において、下部通過孔6aおよび上部通過孔6bを囲む枠状である。
底部62は、遮蔽器6において第1方向X1側に位置している。底部62は、側部61につながっている。底部62には、上述の下部通過孔6aが形成されている。底部62は、溶射システムA1の使用時において、被溶射物7の表面71に当接される。
頂部63は、底部62に対し、第2方向X2側に位置している。本実施形態では、頂部63は底部62に対向している。頂部63は、側部61につながっている。頂部63には、上述の上部通過孔6bが形成されている。
遮蔽器6の頂部63の内側の面(図1および図2における第1方向X1側の面)には、エア吹付部65が取り付けられている。エア吹付部65は、高速気流を吹き付けて、溶射ガン40に付着した付着物を剥がすためのものであり、いわゆるエアスクレーパである。本実施形態では、図3に示すように、3つのエア吹付部65が、取り付けられている。各エア吹付部65は、第1方向X1視(平面視)において、噴出口が溶射ガン40の中心(中心軸Ox)に向かうように、配置されている。なお、噴出口は溶射ガン40側を向いていればよく、中心軸Oxへの方向よりずらした方向を向くようにしてもよい。また、各エア吹付部65は、図1および図2に示すように、噴出口から噴出される高速気流が水平方向より若干下方に向かうように配置されている。噴出される高速気流が下方に向かうようにしているのは、剥がれた溶接ヒューム等を下方に吹き飛ばして、エア吹付部65より下方に配置されている吸気用開口6cに吸引しやすいようにするためである。なお、噴出される高速気流の方向は、これに限定されない。高速気流の方向をより上方に向かうようにすれば、溶射ガン40のより上方(基端側)に付着した付着物を剥がすのに有利になる。また、図3に示すように、各エア吹付部65は、剥がれた溶接ヒューム等を吸気用開口6cに吸引しやすいように、いずれも、吸気用開口6c側に配置されている。なお、エア吹付部65の配置位置および配置数は限定されない。
エア吹付部65は、ガス供給手段から供給される圧縮空気を高速気流として吹き付ける。高速気流の流速は、噴出口において、例えばマッハ1以上の速度としている。本実施形態では、エア吹付部65の噴出口は、溶射ガン40の延びる方向に合わせて、X1−X2方向に長い形状とされている。なお、噴出口の形状は限定されず、例えば円形状であってもよい。また、本実施形態では、エア吹付部65は、高速気流を連続的に吹き付けるのではなく、断続的に吹き付ける。吹き付けの周期は、溶射ガン40の回転速度などに応じて、付着物をより剥がしやすいように調整される。なお、エア吹付部65による高速気流の吹き付け方法は限定されず、連続的に吹き付けるようにしてもよい。
図1に示すように、溶射装置1の筐体80と遮蔽器6との間には、筒状部81が設けられている。筒状部81は、遮蔽器6の上部通過孔6bから噴出した溶射物の粉塵や剥がれた付着物が外部空間にまき散らされないようにするための筒状の部材である。筒状部81の一方端は、溶射ガン40を囲むようにして、筐体80の第1方向X1側の面に固定されている。また、筒状部81の他方端は、遮蔽器6の上部通過孔6bを囲むようにして、頂部63の外側の面(図1および図2における第2方向X2側の面)に密着されている。筒状部81は、筐体80と遮蔽器6との距離の変化に対応できるように、X1-X2方向に伸び縮みする蛇腹構造となっている。筒状部81の素材は、溶射物の粉塵や剥がれた付着物が通らない素材であればよい。なお、筒状部81は、蛇腹構造とせずに、例えばゴムなどの伸び縮み可能な部材で形成されたものとしてもよい。本実施形態では、筒状部81のX1-X2方向に直交する面での断面形状を、遮蔽器6の頂部63の外側の面の形状に合わせて、矩形状としている。なお、当該断面形状は限定されず、例えば、溶射ガン40の断面形状および上部通過孔6bの形状に合わせて、円形状としてもよい。
吸引機構5は、遮蔽器6の内部空間6sおよび被溶射物7の空間7sにおける気体を吸引して排出するための機構である。吸引機構5は、噴射部44が溶射物の噴射を行っている間、および、噴射部44が溶射物の噴射を終了した後、エア吹付部65がエアの吹き付けを行っている間、吸引を行う。吸引機構5は、噴射部44が溶射物の噴射を行っている間、被溶射物7の溶射被膜にならなかった溶射物の粉塵を、気体とともに吸引する。また、吸引機構5は、エア吹付部65がエアの吹き付けを行っている間、剥がれた付着物を、気体とともに吸引する。本実施形態では、吸引機構5は、第1吸引部51および第2吸引部52を備えている。
第1吸引部51は、内部空間6sにおける気体を吸気用開口6cを介して吸引するためのものである。吸気用開口6cには第1ダクト51aが連結されている。そのため、内部空間6sにおける気体は、吸気用開口6cと第1ダクト51aとを通って第1吸引部51に向かう。
第2吸引部52は、空間7sにおける気体を吸引するためのものである。空間7sの図1における下部には、第2ダクト52aが配置されている。そのため、空間7sにおける気体は、第2ダクト52aを通って第2吸引部52に向かう。また、第2吸引部52は、被溶射物7の空間7sを介して、内部空間6sにおける気体も吸引する。
制御装置100は、溶射システムA1を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。なお、制御装置100は、溶射装置1の筐体80内に収納されていてもよいし、溶射装置1とは別に配置されていてもよい。制御装置100は、溶射システムA1における溶射処理の処理手順を記憶しており、処理手順に従って、各構成に指示を出力する。制御装置100は、直線移動機構20(モータ23)に、噴射部44(溶射ガン40)を移動させる指示を出力し、回転機構30(モータ)に、噴射部44(溶射ガン40)を回転させる指示を出力する。また、制御装置100は、第1送給ローラ12aおよび第2送給ローラ12bを駆動させる各モータに、溶射ワイヤW1,W2を送り出す指示を出力し、電源装置に、給電チップ42a,42bへの電力供給の指示を出力し、ガス供給手段に、ガス噴出孔43からガスを噴出させる指示を出力する。また、制御装置100は、エア吹付部65に、高速気流の吹き付けの指示を出力し、吸引機構5の第1吸引部51および第2吸引部52に、吸引の指示を出力する。
次に、図4および図5を参照して、溶射システムA1の溶射処理について説明する。
まず、図4(a)に示すように、被溶射物7における表面71の側に、内部空間6sが形成された遮蔽器6を配置する。具体的には、第1方向X1視(平面視)において、遮蔽器6の下部通過孔6aが被溶射物7の内側面72につながる開口7aに重なるようにして、遮蔽器6を第1方向X1に移動させ、底部62の外側の面(第1方向X1側の面)を、被溶射物7の表面71に当接させる。
次に、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引を開始する。第1吸引部51および第2吸引部52の吸引の開始時は、噴射部44からの溶射物の噴射開始前が好ましい。そして、図の矢印に示すように、噴射部44(溶射ガン40)を第1方向X1に移動させる。
図4(b)は、溶射ガン40を上部通過孔6bから遮蔽器6に挿入させて、噴射部44を遮蔽器6の内部空間6sの所定の位置まで移動させた状態を示している。次に、噴射部44を内部空間6sに位置させた状態で、溶射ワイヤW1、W2の供給を開始し、溶射ワイヤW1、W2への電力の供給を開始することで、溶射ワイヤW1の先端と溶射ワイヤW2の先端との間にアークを発生させる。また、ガス噴出孔43からのガスの噴出を開始する。これにより、噴射部44からの溶射物の噴射が開始される。また、噴射部44(溶射ガン40)の回転も開始される。つまり、噴射部44は、溶射物の噴射を行いながら、中心軸Ox周りに回転を行う。これにより、噴射部44は、溶射物の噴射の方向を変化させる。なお、噴射部44からの溶射物の噴射は、噴射部44が内部空間6sに位置する状態で開始するのが望ましいが、これに限られない。噴射部44が内部空間6sから空間7sまでの何処かに位置していればよい。たとえば、本実施形態とは異なり、噴射部44を空間7sに位置させた状態で、噴射部44からの溶射物の噴射を開始してもよい。噴射部44から溶射物が噴射されると、溶射物の一部が異物となって、内部空間6s内に漂う。異物は、たとえば粉塵や溶射ヒューム等である。内部空間6s内に漂う異物は、吸引機構5によって吸引される。第1吸引部51は、空間7sを通過させずに、内部空間6sにおける気体を吸引する。また、第2吸引部52は、内部空間6sにおける気体を空間7sを介して吸引する。これにより、内部空間6sにおける異物が除去される。
次に、図4(c)に示すように、噴射部44(溶射ガン40)を被溶射物7に対し相対回転させながら、噴射部44(溶射ガン40)を第1方向X1に移動させる。これにより、被溶射物7の内側面72に対し、噴射部44から溶射物が噴射されて、内側面72に対する溶射が行われる。噴射部44が溶射物を噴射している間は常に、噴射部44を、内部空間6sから空間7sまでの何処かに位置させておくとよい。なお、内側面72のうち、表面71に近い部分72aに溶射する際には、異物が内部空間6sに流入することもある。噴射部44が溶射物を噴射している間は、第1吸引部51および第2吸引部52が作動している。そのため、第2吸引部52は、空間7sにおける気体を吸引する。また、第1吸引部51は、空間7sにおける気体を、内部空間6sを介して吸引する。これにより、空間7sにおける異物が除去される。
噴射部44が被溶射物7の内側面72の最下部まで移動した後は、噴射部44(溶射ガン40)を第2方向X2に移動させる。このときはまだ、噴射部44(溶射ガン40)の回転は継続し、噴射部44からの溶射物の噴射も継続している。図4(d)に示すように、噴射部44を遮蔽器6の内部空間6sの所定の位置まで移動させた時に、噴射部44からの溶射物の噴射は停止される。つまり、溶射ワイヤW1、W2への電力の供給が停止されてアークが消滅し、溶射ワイヤW1、W2の供給も停止される。また、ガス噴出孔43からのガスの噴出も停止される。そして、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けが開始される。溶射物の噴射が停止される前に高速気流の吹き付けを開始しないのは、噴射された溶射物が高速気流によってまき散らされないようにするためである。溶射物の噴射が停止されて高速気流の吹き付けが開始されても、噴射部44(溶射ガン40)の回転は継続される。エア吹付部65からの高速気流が、回転しながら第2方向X2に移動する溶射ガン40に吹き付けられることで、溶射ガン40に付着した付着物は剥がれて吹き飛ばされる。剥がれた付着物は、第1吸引部51および第2吸引部52に吸引される。第1吸引部51は、剥がれた付着物を、空間7sを通過させずに、内部空間6sにおける気体とともに吸引して除去する。第1吸引部51で吸引できず、落下する剥がれた付着物は、空間7sを介して、第2吸引部52によって吸引される。被溶射物7への溶射はすでに終了しているので、空間7sを通過する剥がれた付着物が、被溶射物7の内側面72に吹き付けられることはない。図1および図2は、噴射部44(溶射ガン40)が第2方向X2に移動して、エア吹付部65からの高速気流が、噴射部44付近に吹き付けられている状態を示している。
噴射部44(溶射ガン40)がさらに第2方向X2に移動したところで、エア吹付部65からの高速気流の吹き付け、および、噴射部44(溶射ガン40)の回転は終了される。
図5は、溶射システムA1の各構成の制御を示すためのタイムチャートである。各構成の制御は、制御装置100によって行われる。
同図(a)は、噴射部44のX1−X2方向での位置を示している。同図(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、噴射部44からの溶射物の噴射、噴射部44(溶射ガン40)の回転、エア吹付部65からの高速気流の吹き付け、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引の動作状態(ON,OFF)を示している。
時刻t1において、溶射処理を開始すると、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引が開始され(同図(e)参照)、噴射部44の位置が第1方向X1に移動する。噴射部44の移動は、直線移動機構20による溶射ガン40の移動によって行われる。なお、溶射処理を開始する前には、図4(a)のように、遮蔽器6が被溶射物7における表面71の側に配置されている。
噴射部44が遮蔽器6の内部空間6s内に入り、時刻t2において、噴射部44が内部空間6s内の所定の位置に達したときに、噴射部44の第1方向X1への移動はいったん停止する(図5(a)参照)。そして、時刻t3において、噴射部44からの溶射物の噴射が開始され(図5(b)参照)、噴射部44(溶射ガン40)の回転も開始される(図5(c)参照)。噴射部44の回転は、回転機構30による溶射ガン40の回転によって行われる。そして、時刻t4において、噴射部44の第1方向X1への移動が再開される。なお、噴射部44の第1方向X1への移動を停止することなく、噴射部44が所定の位置に達したときに、噴射部44からの溶射物の噴射および回転を開始するようにしてもよい(つまり、図5において、t2,t3,t4が一致する状態)。
時刻t4から噴射部44は第1方向X1へ移動し、被溶射物7の空間7s内に入る。そして、噴射部44は、溶射物の噴射および回転を継続したまま、第1方向X1へ移動することで、被溶射物7の内側面72に溶射を行う。噴射部44は、時刻t5において最下点に達した後は、移動方向を反転して、第2方向X2へ移動する。なお、図5(a)では、噴射部44が第1方向X1へ移動する速度を遅くし、第2方向X2へ移動する速度を速くしているが、反対に、第1方向X1へ移動する速度を速くし、第2方向X2へ移動する速度を遅くするようにしてもよい。
そして、噴射部44が遮蔽器6の内部空間6s内に入り、時刻t6において、噴射部44が内部空間6s内の所定の位置に達したときに、噴射部44の第2方向X2への移動はいったん停止する(図5(a)参照)。そして、時刻t7において、噴射部44からの溶射物の噴射が停止され(図5(b)参照)、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けが開始される(図5(d)参照)。そして、時刻t8において、噴射部44の第2方向X2への移動が再開される。なお、噴射部44の第2方向X2への移動を停止することなく、噴射部44が所定の位置に達したときに、噴射部44からの溶射物の噴射を停止し、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けを開始するようにしてもよい(つまり、図5において、t6,t7,t8が一致する状態)。
そして、噴射部44が遮蔽器6の内部空間6sから出て、時刻t9において、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けが停止される(図5(d)参照)。なお、噴射部44が遮蔽器6の内部空間6sから出る前に、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けを停止するようにしてもよい。
さらに、噴射部44が第2方向X2に移動して、最上点に達した時刻t10において、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引が停止され(同図(e)参照)、溶射処理は終了する。なお、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引の停止は、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けが停止された後であればよく、時刻t9より後であればよい。また、第1吸引部51および第2吸引部52による吸引の開始は、噴射部44からの溶射物の噴射の開始より前であればよく、時刻t3より前であればよい。
なお、図5に示すタイムチャートは、溶射システムA1の各構成の制御の一例を示しているにすぎず、上述したものに限定されない。
次に、上記した実施形態に係る溶射システムA1の作用について説明する。
本実施形態の溶射システムA1においては、遮蔽器6の内部にエア吹付部65が取り付けられている。そして、エア吹付部65は、噴射部44からの溶射物の噴射が停止された後、高速気流の噴出を開始する。エア吹付部65からの高速気流が、回転しながら第2方向X2に移動する溶射ガン40に吹き付けられることで、溶射ガン40に付着した付着物は剥がれて吹き飛ばされる。剥がれた付着物は、吸引機構5によって吸引される。これにより、溶射ガン40に付着した付着物を除去することができる。したがって、溶射ガン40の付着物が剥がれて落下し被溶射物7の内側面72に噴き付けられることを抑制することができ、溶射被膜の品質低下を抑制することができる。また、溶射処理において、溶射物の噴射の終了後に、自動で溶射ガン40の付着物の除去を行うので、別途、付着物除去のための定期的な手作業での清掃を必要としない。したがって、溶射システムA1の稼働時間の低下を抑制することができる。また、溶射ガン40の付着物は、付着後すぐに除去されるので、時間が経過して付着物が強固に付着してしまうことを防止することができる。これにより、強固に付着した付着物をブラシで強く清掃することによって溶射ガン40の外周面を傷つけることもない。
また、本実施形態の溶射システムA1においては、エア吹付部65の下方に、第1吸引部51による吸引のための吸気用開口6cが設けられている。また、エア吹付部65は、噴出口から噴出される高速気流が水平方向より若干下方に向かうように配置されているので、剥がれた付着物を下方に吹き飛ばすことができる。したがって、エア吹付部65からの高速気流によって剥がされた付着物を効率よく吸引することができる。また、第2吸引部52は、空間7sを介して内部空間6sにおける気体を吸引する。したがって、第1吸引部51で吸引できずに落下する剥がれた付着物は、第2吸引部52によって吸引することができる。このとき、被溶射物7への溶射はすでに終了しているので、空間7sを通過する剥がれた付着物が、被溶射物7の内側面72に吹き付けられることはない。
また、本実施形態の溶射システムA1においては、溶射装置1の筐体80と遮蔽器6との間には、筒状部81が設けられている。したがって、エア吹付部65からの高速気流によって剥がされた付着物が遮蔽器6の上部通過孔6bから噴出した場合でも、当該付着物が外部空間にまき散らされることを防止することができる。
図6〜図8は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
図6は、本発明の第2実施形態に係る溶射システムを示す要部拡大断面図である。図6に示す溶射システムA2は、エア吹付部65の取り付け位置が、第1実施形態に係る溶射システムA1(図2参照)と異なっている。
エア吹付部65は、遮蔽器6の頂部63の外側の面(第2方向X2側の面)に取り付けられており、遮蔽器6の外側に配置されている。溶射装置1の筐体80と遮蔽器6との間に筒状部81が設けられているので、エア吹付部65からの高速気流によって剥がされた付着物は、外部空間にまき散らされることはない。また、吸引機構5によって内部空間6sにおける気体が吸引されるので、筒状部81内部の気体は、遮蔽器6の上部通過孔6bから内部空間6sに引き込まれて、吸引機構5によって吸引される。したがって、筒状部81内部の剥がれた付着物も、吸引機構5によって吸引される。
本実施形態においても、エア吹付部65からの高速気流が、回転しながら第2方向X2に移動する溶射ガン40に吹き付けられるので、溶射ガン40に付着した付着物は剥がれて吹き飛ばされる。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、本実施形態においては、エア吹付部65は、溶射システムA1の場合より、第2方向X2側に配置されている。したがって、溶射ガン40のより基端側に高速気流を吹き付けることができる。また、エア吹付部65は遮蔽器6の外側に配置されているので、噴射部44が遮蔽器6の内側に配置されているときには、エア吹付部65が噴出する高速気流は、噴射部44に吹き付けられない。したがって、エア吹付部65は、噴射部44による溶射物の噴射が停止される前に、高速気流の吹き付けを開始することができる。したがって、溶射ガン40のより基端側に高速気流を吹き付けることができる。よって、溶射ガン40のより基端側に付着した付着物を剥がすことができる。
なお、エア吹付部65は、遮蔽器6の内側および外側の両方に配置されていてもよい。
図7は、本発明の第3実施形態に係る溶射システムを示す要部拡大断面図である。図7に示す溶射システムA3は、エア吹付部65の配置数および配置場所が、第1実施形態に係る溶射システムA1(図3参照)と異なっている。
エア吹付部65は、4つ取り付けられており、1つは吸気用開口6c側に配置され、1つは上部通過孔6bを挟んで反対側に配置されている。また、他の2つは、側部61の、吸気用開口6cが形成されている面に直交する2つの面側にそれぞれ配置されている。4つのエア吹付部65は、上部通過孔6bの周りに、等間隔で配置されている。
本実施形態においても、エア吹付部65からの高速気流が、回転しながら第2方向X2に移動する溶射ガン40に吹き付けられるので、溶射ガン40に付着した付着物は剥がれて吹き飛ばされる。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、エア吹付部65の配置位置および配置数は限定されない。例えば、エア吹付部65は、1つだけ配置されていてもよい。エア吹付部65の数が多いほど、溶射ガン40に付着した付着物を剥がすのには有効である。
図8は、本発明の第4実施形態に係る溶射システムを示す図であり、全体構成を模式的に示している。図8に示す溶射システムA4は、ステージ9と被溶射物7との間にも遮蔽器6’が配置されており、エア吹付部65が当該遮蔽器6’に取り付けられている点で、第1実施形態に係る溶射システムA1(図1参照)と異なっている。
遮蔽器6’は、遮蔽器6と同様のものであり、ステージ9に固定されている。被溶射物7は、遮蔽器6’の第2方向X2側に載置される。第2ダクト52aは下部通過孔6aに合わせて配置されており、第2吸引部52は、遮蔽器6’の内部空間6s’における気体を吸引する。また、第2吸引部52は、内部空間6s’を介して、被溶射物7の空間7sにおける気体も吸引する。エア吹付部65は、遮蔽器6’の内部に配置されている。
溶射システムA4は、第1実施形態に係る溶射システムA1と同様、噴射部44が遮蔽器6の内部空間6sに位置するときに溶射物の噴射を開始する。しかし、溶射システムA1とは異なり、噴射部44が遮蔽器6’の内部空間6s’に位置するときに溶射物の噴射を終了する。そして、溶射システムA4は、エア吹付部65からの高速気流の吹き付けを開始する。高速気流によって剥がされた溶射ガン40の付着物は、第2吸引部52に吸引される。図8は、噴射部44が遮蔽器6’の内部空間6s’に位置して、エア吹付部65からの高速気流が溶射ガン40に吹き付けられている状態を示している。エア吹付部65からの高速気流の吹き付けが終了すると、噴射部44(溶射ガン40)の回転も終了され、噴射部44は第2方向X2へ移動して、溶射処理は終了する。
本実施形態においても、エア吹付部65からの高速気流が、回転しながら第1方向X1に移動する溶射ガン40に吹き付けられるので、溶射ガン40に付着した付着物は剥がれて吹き飛ばされる。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、本実施形態とは逆に、噴射部44が遮蔽器6’の内部空間6s’に位置するときに溶射物の噴射を開始し、噴射部44が遮蔽器6の内部空間6sに位置するときに溶射物の噴射を終了するようにしてもよい。すなわち、噴射部44を第1方向X1に移動させるときには溶射を行わず、噴射部44を第2方向X2に移動させながら溶射を行うようにしてもよい。この場合は、エア吹付部65を遮蔽器6に配置しておいて、溶射物の噴射を終了してから、高速気流の吹き付けを開始すればよい。なお、遮蔽器6を配置せずに、遮蔽器6’のみを配置して、噴射部44が遮蔽器6’の内部空間6s’に位置するときに、溶射物の噴射の開始および終了を行うようにしてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
A1,A2,A3,A4 :溶射システム
1 :溶射装置
10 :ワイヤ送給機構
11a :第1ワイヤ供給源
11b :第2ワイヤ供給源
12a :第1送給ローラ
12b :第2送給ローラ
20 :直線移動機構
21 :ガイドレール
23 :モータ
30 :回転機構
40 :溶射ガン
41 :本体
42a,42b :給電チップ
43 :ガス噴出孔
44 :噴射部
80 :筐体
81 :筒状部
5 :吸引機構
51 :第1吸引部(吸引部)
51a :第1ダクト
52 :第2吸引部(第2の吸引部)
52a :第2ダクト
6,6' :遮蔽器
6a :下部通過孔
6b :上部通過孔(通過孔)
6c :吸気用開口
6s,6s' :内部空間
61 :側部
62 :底部
63 :頂部
65 :エア吹付部 (吹付部)
9 :ステージ
100 :制御装置
7 :被溶射物
7a :開口
7s :空間
71 :表面
72 :内側面
72a :部分
Ox :中心軸
W1 :溶射ワイヤ
W2 :溶射ワイヤ
X1 :第1方向
X2 :第2方向

Claims (15)

  1. 表面と、前記表面から凹む筒状の内側面と、を有する被溶射物の前記内側面に溶射を行うための溶射システムであって、
    溶射物を噴射する噴射部を備える溶射ガンと、
    前記溶射ガンに向けてガスを吹き付ける吹付部と、
    を備えており、
    前記被溶射物への溶射を行う溶射処理において、前記吹付部が前記溶射ガンに向けてガスを吹き付ける工程を含んでいる、
    ことを特徴とする溶射システム。
  2. 前記噴射部は、第1方向と前記第1方向の反対の第2方向とに沿って移動可能であり、
    前記噴射部が移動途中に収容されうる内部空間が形成された遮蔽器をさらに備えている、
    請求項1に記載の溶射システム。
  3. 前記吹付部は、前記遮蔽器の前記内部空間に配置されている、
    請求項2に記載の溶射システム。
  4. 前記吹付部は、前記遮蔽器の外側に配置されている、
    請求項2または3に記載の溶射システム。
  5. 前記吹付部は、前記噴射部が溶射物の噴射を終了したとき以降に、ガスの吹き付けを開始する、
    請求項2ないし4のいずれかに記載の溶射システム。
  6. 前記吹付部は、前記第1方向に直交する方向より前記第1方向よりにガスを吹き付ける、
    請求項2ないし5のいずれかに記載の溶射システム。
  7. 前記第1方向は、重力下方である、
    請求項2ないし6のいずれかに記載の溶射システム。
  8. 前記遮蔽器は、前記被溶射物の前記表面側に配置されている、
    請求項2ないし7のいずれかに記載の溶射システム。
  9. 前記遮蔽器は、前記被溶射物が配置されるのとは反対側に、前記噴射部が通過するために形成された通過孔を備えており、
    前記溶射ガンが配置される筐体と、前記遮蔽器と前記筐体との間に配置される筒状部と、をさらに備えており、
    前記筒状部は、一方端が前記溶射ガンを囲むようにして前記筐体に固定されており、他方端が前記通過孔を囲むようにして前記遮蔽器に密着されており、前記噴射部の移動方向に伸び縮みする蛇腹構造となっている。
    請求項8に記載の溶射システム。
  10. 前記遮蔽器は、前記被溶射物の前記表面側とは反対側に配置されている、
    請求項2ないし9のいずれかに記載の溶射システム。
  11. 前記内部空間内の気体を吸引する吸引部をさらに備えている、
    請求項2ないし10のいずれかに記載の溶射システム。
  12. 前記遮蔽器は、前記吹付部より前記第1方向寄りに形成された吸気用開口を備えており、
    前記吸引部は、前記吸気用開口から吸引を行う、
    請求項11に記載の溶射システム。
  13. 前記被溶射物における前記内側面に囲まれた空間を介して、前記内部空間内の気体を吸引する第2の吸引部をさらに備えている、
    請求項11または12に記載の溶射システム。
  14. 前記溶射ガンは、前記第1方向に沿って延びる軸を中心として回転する、
    請求項2ないし13のいずれかに記載の溶射システム。
  15. 前記吹付部が吹き付けるガスの流速は、マッハ1以上である、
    請求項1ないし14のいずれかに記載の溶射システム。
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