JP2018104223A - 創傷治療用ガラス組成物、創傷被覆材及びその製造方法 - Google Patents

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拡志 澤里
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研 長壽
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Shunsuke Fujita
俊輔 藤田
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Abstract

【課題】細胞増殖や血管新生を促進する成分を溶出可能であるとともに、創面のpH上昇を抑制し、しかも湿潤環境を形成可能な創傷被覆材を提供する。【解決手段】ガラス組成として、酸化物換算の質量%で、P2O540〜90%、CaO 1〜60%、ZnO 0.1〜50%を含有するガラス繊維からなることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対し、優れた治癒効果を示すガラス組成物、これを用いて作製した創傷被覆材及びその製造方法に関する。
従来、創傷の治療としてまず消毒を行い、その後ガーゼで創面を保護する治療が行われている。しかしこのような治療方法は消毒によって表皮の細胞が死んでしまう。また創面が乾燥することによって表皮の細胞が増殖しにくくなることが近年分かってきた。
そこで形成外科医の夏井睦らは、消毒液とガーゼを用いた治療を行う代わりに創面の湿潤環境を保ち、細胞増殖を促進する治療法(moist wound healing)を提唱し、現在ではこの治療方法が広く普及している。(非特許文献1)
このような治療方法において、創面の湿潤環境を保つために用いられる材料は創傷被覆材と呼ばれている。
これからの創傷治療 夏井 睦 著 医学書院 (2003/08)
創傷治癒のステップは(1)止血凝固期、(2)炎症期、(3)肉芽形成期、(4)成熟期の4ステップからなる。炎症期では、好中球やマクロファージと言った貧食細胞が創面の雑菌や異物を排除し、組織の再生に最適な場を構築する。肉芽形成期では、繊維芽細胞が細胞外マトリクスの主成分であるコラーゲンを産出し、血管内皮細胞が血管を形成する。ここで細胞外マトリクスは、細胞増殖の足場として働き、組織の構築において必要とされる。また血管は細胞増殖において、細胞が必要とする栄養素を送り届ける役割を果たすことから、組織が持続的に再生されるためには、血管新生が必要となる。このような治癒サイクルを経て細胞外マトリクス、細胞、血管の複合体である肉芽が形成され、成熟期へと移行する。特に炎症期、肉芽形成期では、サイトカインと呼ばれる成長因子と細胞が互いに関与しながら創傷治癒を進行させる。湿潤環境下では創面にサイトカインが豊富に存在するため、上述の細胞の増殖や遊走が促進され、結果として炎症期や肉芽形成期が短縮される。
また創傷部位のpHが低くなると血液中のヘモグロビンと酸素の結合力が低下する。この現象は、ボーア効果と呼ばれる。ヘモグロビンが酸素を乖離しやすい程、血液中の酸素濃度が上昇し、繊維芽細胞により多くの酸素が供給されて繊維芽細胞の増殖、遊走が活発になる。さらに低pHは、黄色ブドウ球菌をはじめとする人体にとって有害な細菌の増殖を抑制する。よって創傷治癒促進の観点から、創面のpHは弱酸性に保つのが良いとされている。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、細胞増殖や血管新生を促進する成分を溶出可能であるとともに、創面のpH上昇を抑制できる創傷治療用ガラス組成物を提供することを目的とする。また本発明は、上記に加えて湿潤環境を構築可能な創傷被覆材を提供することを目的とする。
本発明者の検討の結果、P、CaO及びZnOを適正な範囲で含有させることにより、上記目的を達成できることを見出した。即ち、本発明の創傷治療用ガラス組成物は、酸化物換算の質量%で、P 40〜90%、CaO 1〜60%、ZnO 0.1〜50%を含有することを特徴とする。ここで「創傷治療用」とは、創傷を被覆して治療する場合を含め、創傷治療のためのあらゆる形態で使用される用途を指す。
上記構成を有する本発明の創傷治療用組成物は、生体適合性を有する。またガラス中のPは、創面から流出する血液あるいは滲出液に溶解して、リン酸水素イオンHPO 2−となる。このHPO 2−は弱酸として働き、アルカリ成分やアルカリ土類成分の溶出による創面のpHの上昇を抑制する働きを有する。またPを主成分とするガラス骨格は、分極率が高く水分のアタックを受けやすいという性質がある。このため創面から流出する血液あるいは滲出液に容易に溶解し、細胞増殖を促進するCa(カルシウム)と細胞増殖や血管新生を促進するZn(亜鉛)を十分に創傷面に供給することができる。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物においては、酸化物換算の質量%で、さらにB 0〜40%、SiO 0〜20%、MgO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%含有することが好ましい。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物においては、酸化物換算の質量%で、NaO+KO 0〜20%であることが好ましい。ここで「NaO+KO」とは、NaOとKOの含有量の合量を意味する。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物においては、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のZn濃度が0.01mM〜10mMとなることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療に必要なZnを十分に創傷面に供給することができる。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物においては、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験後に測定した25℃での擬似体液のpHが8.0以下となることが好ましい。ここで「25℃での疑似体液のpH」とは、液温を25℃に調節した疑似体液のpHを意味する。
上記構成を採用すれば、繊維芽細胞により多くの酸素が供給されて繊維芽細胞の増殖、遊走が活発になる。
本発明の創傷被覆材は、上記したガラス組成物からなる綿状体又は不織布であることを特徴とする。ここで「綿状体」とは、多数の繊維が不規則に絡み合っており、且つ繊維間に存在する空隙によって三次元的に圧縮可能な不定形の繊維塊を指す。「不織布」とは、多数の繊維が不規則に絡み合っており、シート状又は布状に成形された綿状体の圧縮体を指す。
上記構成を有する本発明の創傷被覆材は、創面から流出する滲出液を保持することができることから、細胞増殖にとって必要なCaやZnを溶出しつつ、湿潤環境も提供することができる。
また滲出液の多い創面の治療に用いる場合は、綿状体の形態で用いることが好ましい。綿状体の形態で用いれば、創傷被覆材の吸水量が増加し、過剰な湿潤環境に伴う皮膚のふやけを防ぐことができる。さらに滲出液が創外に流出するトラブルが起こりにくくなる。一方、滲出液の少ない創面の治療に用いる場合は、不織布の形態で用いることが好ましい。不織布の形態で用いれば、創傷被覆材の吸水量が低下し、創面の乾燥を防ぐことができる。
また本発明の創傷被覆材においては、綿状体や不織布を構成するガラス繊維の平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。ここで「ガラス繊維の平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めたものである。
上記構成を採用すれば、血液や体液を保持するのに十分な形状を維持しつつ、体液への溶解量を十分に確保することが容易になる。
また本発明の創傷被覆材においては、綿状体や不織布中にガラスビーズが混入しており、その混入量が質量%基準で綿状体又は不織布全体の50%以下であることが好ましい。本発明において「ガラスビーズ」とは、表面張力によって溶融ガラスが略球状となったものを指す。ここで「ガラスビーズの混入量」は前記綿状体又は不織布を所定量秤量し、ビーカーに投入した後アルコールを注入し、例えばマグネティックスターラーを用いて3分撹拌、撹拌停止後ビーズが沈殿するまで20秒待ち、その後ただちに沈殿物を残した上澄み液を別のビーカーに移し、この作業を繰り返して採取した沈殿物を乾燥させ、その後沈殿物の重量を測定し、前記綿状体又は不織布に対する沈殿物の重量比を算出する方法により求めたものである。
溶融ガラスを繊維化して綿状体や不織布を作製する際に、一部のガラスがビーズ状となって綿状体や不織布中に混入する場合がある。ビーズは繊維に比べて単位質量あたりの比表面積が小さいことから、体液等に溶解しにくい傾向にある。それゆえ混入するガラスビーズの割合が多くなると、綿状体や不織布からCaやZnが溶出し難くなる。しかし上記構成を採用すれば、ガラス繊維の含有量が多いことから、体液への溶解量を十分に確保することが容易になる。また綿状体や不織布のザラツキ感等が少なくなることから、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こし難くなる。また創面に埋入する際の患者の痛みを軽減できる。
また本発明の創傷被覆材においては、ガラスビーズの平均直径が500μm以下であることが好ましい。ここで「ガラスビーズの平均直径」は光学顕微鏡の測長機能を用いて50個のビーズの直径を測定し、その平均値をガラスビーズの平均直径とする方法で求めたものである。
上記構成を採用すれば、ガラスビーズの比表面積が大きくなり、体液への溶解量を十分に確保することが容易になる。また綿状体や不織布のザラツキ感等が少なくなることから、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こし難くなる。また創面に埋入する際の患者の痛みを軽減できる。
本発明の創傷被覆材の製造方法は、上記したガラス組成物となるように調合した原料バッチをガラス溶融炉で溶融し、溶融ガラスをガラス吐出ノズルから連続的に流出させるとともに、前記ガラス吐出ノズル周囲にエアーを噴射して、ガラスを綿状に成形することを特徴とする。
上記構成を有する本発明の方法は、溶融ガラスにエアーを吹き付けてガラスを吹き飛ばしながら繊維状に延伸する、いわゆるメルトブロー法を採用するため、繊維が絡み合った綿状の創傷被覆材を容易に得ることができる。
また本発明の方法は、上記した組成、特性を有するガラスを使用することから、得られる創傷被覆材は創傷治療効果が高い。
また本発明の創傷被覆材の製造方法は、綿状に成形されたガラスを圧縮して不織布に成形することを特徴とする。
以下、本発明の創傷治療用ガラス組成物について、ガラスを構成する成分の作用と、その含有量を上記のように規定した理由を説明する。尚、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
は、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。Pの含有量は40〜90%、好ましくは50〜90%、より好ましくは55〜80%、特に好ましくは60〜80%、さらに好ましくは60〜75%、最も好ましくは63〜73%である。Pの含有量が多くなりすぎるとガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が極端に増加して、CaやZnの溶出が持続しにくくなり、細胞増殖の効果を持続させるためには頻繁に創傷被覆材を交換する必要が生じる。また、細胞にとって過剰のCaやZnが供給される懸念がある。Pの含有量が少なすぎると、ガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が極端に低下して、細胞増殖にとって必要なCaやZnが供給されにくくなる。また、血液や滲出液に溶解するリン酸水素イオンHPO 2−の量が低下して、アルカリ成分やアルカリ土類成分の溶出によるpHの上昇を抑制することが難しくなる。
CaOはガラスを安定化させ、ガラスの失透性を改善する成分である。さらにCaは繊維芽細胞の増殖と分化を促進する役割があるため、血液あるいは滲出液に溶出すると、細胞増殖を促進する効果を発揮する効果をも有する。CaOの含有量は1〜60%、好ましくは5〜45%、より好ましくは5〜40%、特に好ましくは5〜38%、さらに好ましくは8〜30%、最も好ましくは8〜26%である。CaOの含有量が少なすぎる場合や多すぎる場合は液相温度が高くなって、ガラス溶融時に失透し、均質なガラスを得にくくなる。またCaOの含有量が多すぎると過剰なCaが溶出して、角化細胞の増殖や遊走を遅らせるおそれがある。
ZnOは、ガラス構造の網目を構成する成分にも、網目を修飾する成分にもなりうる。また、ガラスの溶解速度を低下させる成分である。さらに、血液あるいは滲出液に溶出すると、成長因子の様に働き、細胞増殖や血管新生を促進し傷口の炎症を抑える効果がある。ZnOの含有量は0.1〜30%であり、0.5〜28%、1.0〜25%、2〜23%、特に2〜20%であることが好ましい。ZnOの含有量が少なすぎると、細胞増殖や血管新生の効果、抗炎症作用が得にくくなる。ZnOの含有量が多すぎるとガラスの溶解速度が極端に低下して、創傷治癒促進に必要なCaやZnの溶出量が得にくくなる。
は、Pと共にガラス骨格構造を形成する事が可能な成分である。また、血液あるいは滲出液に溶出することにより、殺菌効果を発揮する成分である。Bの含有量は0〜40%、0〜30%、0〜25%、特に0〜15%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると同様に創面に対して過剰な殺菌効果が働いて創傷治癒速度が低下する。
SiOは、Pと共にガラス骨格構造を形成する事が可能な成分である。またガラスの溶解速度を大きく低下させる為、ガラスのCaやZnの溶出速度のコントロールに有用な成分である。SiOの含有量は0〜20%、0〜18%、0〜15%、特に0〜12%である事が好ましい。SiOの含有量が多くなりすぎるとガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が低下して、創傷治癒促進に必要なCaやZnの溶出量が得にくくなる。
MgOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に溶融温度の低下に非常に有効であり、溶融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ成分である。MgOの含有量は好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜10%、さらに好ましくは0〜8%である。MgO含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下し、液相粘度が低くなったりすることから、創傷被覆材をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。さらに、血液あるいは滲出液へのMg(マグネシウム)の溶出量が増加し、相対的にCaやZnの溶出量が著しく低下する。
アルカリ金属酸化物であるNaO、KOはガラスの粘度を低下させ、溶融性や成形性を高める成分である。NaO及びKOの含有量の合量(NaO+KO)は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜17%、さらに好ましくは0〜15%である。NaO+KOが少なすぎると、ガラスの紡糸温度が高くなって繊維化するためのコストが増加する。NaO+KOが多すぎると、血液あるいは滲出液へのNa(ナトリウム)及びK(カリウム)の溶出量が増加し、相対的にCaやZnの溶出量が著しく低下する。またガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、創傷被覆材をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。
NaOはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。NaOの含有量は好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜17%、さらに好ましくは0〜11%である。NaOの含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下し、液相粘度が著しく低くなったりすることから、創傷被覆材をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。さらに、血液あるいは滲出液へのNaの溶出量が増加し、相対的にCaやZnの溶出量が著しく低下する。
Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。KOの含有量は好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜18%、さらに好ましくは0〜15%、特に好ましくは0〜13%である。KOの含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下し、液相粘度が著しく低くなったりすることから、創傷被覆材をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。さらに、血液あるいは滲出液へのKの溶出量が増加し、相対的にCaやZnの溶出量が著しく低下する。
本発明の創傷治療用ガラス組成物において、ガラスの溶解速度は、ガラス組成のO(酸素)とP(リン)のモル比(O/P比)によって変化する。O/P比が小さい程ガラスネットワークの分極率が大きくなり、HOのアタックを受けやすくなるためガラスの溶解速度が大きくなる。よってCaやZnの溶出量を増やして細胞増殖を促進するためには、O/P比の値が小さいほど有利である。
O/P比は好ましくは2.5〜3.6、より好ましくは2.8〜3.4、特に好ましくは2.9〜3.3である。O/P比が大きすぎるとガラスネットワークの分極率が小さくなり、溶出速度が極端に低下して細胞増殖に必要なCaやZn溶出量が得られない。一方、O/P比が小さすぎるとガラスネットワークの分極率が大きく、溶出速度が極端に上昇して細胞増殖の効果が持続しにくくなり、頻繁に創傷被覆材を交換する必要が出てしまう。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物は、上記した成分(P、CaO、ZnO、B、SiO、MgO、NaO、KO)以外の成分を含みうる。ただし上記した成分の含有量が合量で98%以上、特に99%以上となるように組成を調節することが望ましい。その理由は、これらの成分の合量が98%未満の場合、意図しない異種成分の混入によってCaやZnの血液あるいは滲出液へのガラスの溶解速度が低下して創傷被覆材としての特性が低下したり、液相粘度が著しく低下してビーズ混入量が増加したり、生体適合性が低下したりする等の不都合が生じ易いためである。
上記した成分以外の成分として、例えばH、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の微量成分をそれぞれ0.1%まで含有してもよい。また、ガラス中にPt、Rh、Au等の貴金属元素を500ppmまで含有してもよい。
さらに殺菌効果の向上のために、Cu、Ag、Sr、Ba、Fe、F、Mo、Au、Mn、Sn、Ce、Cl、La、W、Nb、Y等を合量で2%まで含有してもよい。
本発明の創傷治療用ガラス組成物は、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37度、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のZn濃度が0.01mM〜10mMとなることが好ましい。この溶出試験による擬似体液中のZn濃度が低すぎる場合、創傷被覆材として必要な細胞増殖の効果を得にくくなる。一方、Zn濃度が高すぎる場合、細胞増殖の効果が持続しにくくなり、頻繁に創傷被覆材を交換する必要が生じる。また上記溶出試験において、さらにCa濃度が3mM以上となることが好ましい。Ca濃度が高ければ細胞増殖効果を一層促進することができる。ただしCa濃度が高すぎると細胞増殖の効果が持続しにくくなり、頻繁に創傷被覆材を交換する必要が生じる。このためCa濃度の上限は20mM以下とすることが望ましい。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物は、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37度、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験後に測定した25℃の擬似体液のpHが8.0以下となることが好ましい。pHが8.0より大きい場合、ヘモグロビンが酸素を乖離しにくくなり、繊維芽細胞の増殖が起こりにくくなる。また、人体にとって有害な細菌の増殖が活発になってしまう。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物は、液相粘度が好ましくは100.5dPa・s以上、100.6dPa・s以上、特に100.8dPa・s以上である。液相粘度が低すぎると、溶融ガラスを繊維化して綿状体や不織布を作製する際に、混入するガラスビーズの量が多くなってしまう。
また本発明の創傷治療用ガラス組成物は、101.0dPa・sの粘度に相当する温度(紡糸温度)が好ましくは1500℃以下、1400℃以下、1300℃以下、特に1200℃以下である。紡糸温度が高すぎると、高温で紡糸を行う必要があることから、貴金属製の紡糸装置の損傷が激しくなり、交換頻度が高くなって生産コストが高くなる。
本発明の創傷被覆材は、上記した組成、特性を有する創傷治療ガラス組成物からなる。より具体的には上記組成、特性を有する多数のガラス繊維が不規則に絡み合った不定形の綿状体や不織布であることが好ましい。なお綿状体は、繊維間に存在する空隙によって三次元的に圧縮可能である。
創傷被覆材を構成するガラス繊維は、繊維径が不均一であってよいが、その平均繊維径は100nm〜10μmの範囲、特に500〜5μmの範囲にあることが好ましい。平均繊維径が小さすぎるとガラス繊維の機械的強度が低下する。さらに綿状体の形態で使用する場合は、綿状体が圧縮されやすくなるため、血液あるいは滲出液の保持量が低下し、湿潤環境を維持しにくくなる。平均繊維径が大きくなりすぎると綿状体や不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやZnを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。
創傷被覆材を構成する綿状体や不織布には、ガラスビーズが混入していても差し支えない。この場合、綿状体や不織布に占めるガラスビーズの割合は、質量%で50%以下、40%以下、特に30%以下であることが好ましい。ガラスビーズの割合が多くなりすぎると、綿状体や不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやZnを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。また、ガラスビーズが表皮を刺激して、治癒後の皮膚に違和感や炎症、外傷性刺青、肥厚性瘢痕を引き起こす懸念がある。さらに創面に埋入する際に、患者の痛みを伴う場合がある。
ガラスビーズの平均直径は、500μm以下、特に100μm以下であることが好ましい。ガラスビーズの平均直径が大きすぎると、綿状体や不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやZnを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。また、ガラスビーズが表皮を刺激して、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こす懸念がある。さらに創面に埋入する際に、患者の痛みを伴う場合がある。
なお本発明の創傷被覆材は、ガラス繊維やガラスビーズの他にも粉末状、フレーク状等種々の形状のガラス体を含んでいてもよい。また綿状体や不織布内に各種薬剤を添加、含浸させておくこともできる。
次に本発明の創傷被覆材を製造する方法を、メルトブロー法を例にして説明する。なお本発明の創傷被覆材は、メルトブロー法以外の方法でも作製することが可能である。例えばガラス吐出ノズルと該ノズル部材に対向するように配置されたターゲット電極との間に高電圧を印加し、前記吐出ノズルから吐出される帯電した前記溶融ガラスを前記電極部材側に引き寄せつつ繊維状に成形する、いわゆるエレクトロスピニング法や、溶融ガラスをフォアハースから流下させてスピナー(回転体)に導入し、このスピナーを高速回転させてスピナー側壁部に設けられたオリフィスから繊維状ガラスを吐出する、いわゆる遠心法を採用することもできる。
まず上記組成のガラスとなるようにガラス原料を調合する。なおガラス原料の一部又は全部にガラスカレットを使用してもよい。ガラス組成やその特性等については既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
次いで、調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入し、ガラス化し、溶融、均質化する。溶融温度は1200〜1600℃程度が好適である。
続いて溶融ガラスを紡糸してガラス繊維に成形する。詳述すると、溶融ガラスを吐出する吐出ノズルを備えた貴金属製のノズル部材に溶融ガラスを供給する。ノズル部材に供給された溶融ガラスは、その底面に設けられた一つ以上のガラス吐出ノズルから流下する。このようにして流下した溶融ガラスに対し、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付け、延伸して繊維状に成形することにより、綿状のガラス繊維で構成される創傷被覆材を得ることができる。さらに、このようにして作製した綿状体を圧縮して不織布とする。例えば、金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させ、ローラーで圧縮する方法等を利用することができる。なおガラス吐出ノズルの内径は、好ましくは直径2mm以下、より好ましく1.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。前記高速エアーの温度は好ましくは500℃以上であり、より好ましくは800℃以上、さらに好ましくは900℃以上である。また創傷被覆材の特徴については既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
なお本発明の創傷治療用ガラス組成物は、上記したような創傷被覆材としての利用に限られるものではない。例えば粉末状、リボン状、フレーク状、中空球状等の形状に成形し、種々の用途に供してもよい。例えば粉末状に成形し、ワセリンなどの軟膏やクリーム、ローションなどと混合し、創面に使用することも可能である。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜13)及び比較例(試料No.14,15)を示している。
表の各試料は、次のようにして調製した。
まず、各表中のガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、間接加熱電気炉内で900〜1200℃で4時間加熱して、溶融ガラスを得た。尚、均質な溶融ガラスを得るために、加熱時に、耐熱性撹拌棒を用いて、溶融ガラスを複数回攪拌した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、空気中で放冷して塊状のガラス試料を得た。得られた各試料につき、溶出試験を行って擬似体液中のCa、Zn濃度とpHを測定した。
溶出試験は次のようにして測定した。まず、塊状のガラス試料を粉砕し、直径300〜500μmの粒度のガラスを比重×0.256の重量分だけ精秤し、続いて容量100mlのポリプロピレン容器(PP容器)に擬似体液60mlを入れ、ガラス試料を浸漬して、37℃、2日間の条件で溶出試験を行った。その際、1回/日の撹拌を行った。撹拌は前記PP容器を手で数回振る事によって行った。溶出試験後に試験溶液を濾過し、ICP−OESを用いて試験溶液中のCa、Zn濃度を定量した。また、堀場製作所製 卓上型pHメーターF−71を用いて、試験溶液の25℃におけるpHを測定した。
なお、擬似体液は以下のようにして作製した。まず100mlの蒸留水を入れたビーカーをスターラーにセットした。次に各試薬(7.995g/LのNaCl、0.353g/LのNaHCO、0.224g/LのKCl、0.174g/LのKHPO、0.305g/LのMgCl・6HO、0.368g/LのCaCl・2HO、0.071g/LのNaSO)を秤量し、それぞれの試薬が完全に溶けてから次の試薬を順に蒸留水に加えて溶かし、溶液を作製した。なお薬包紙についた試薬は、蒸留水をかけて溶液に溶かした。次に10mlの35%塩酸に蒸留水90mlを加えて希釈塩酸を作製し、これを濁りがなくなるまで溶液に少しずつ加えた。次に溶液を2Lのビーカーに移し、825mlの蒸留水を加えてホットスターラーで撹拌した。次にpHメーターを準備し、スポイトで希釈塩酸を徐々に入れて溶かし、pH2にした。続いて6.057(g/L)のトリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリスバッファー)を溶液に入れて溶かし、pH8にした後、ホットスターラーで加熱しながら希釈塩酸を徐々に加え、最終的に液温37℃においてpH7.25の溶液にした。この溶液を有栓メスシリンダーに移し、蒸留水を加えて1Lにし、溶液が混合されるようによく振り混ぜた。このようにして得られた溶液をポリビンに移したのち、冷蔵庫内で1日以上保管して、実験に用いる疑似体液を得た。
このようにして作製した擬似体液中の無機イオン濃度の理論値は、Naが142.0、Kが5.0、Mg2+が1.5、Ca2+が2.5、Clが148.8、HPO4−が1.0である。(単位はすべてmM)。

Claims (11)

  1. 酸化物換算の質量%で、P 40〜90%、CaO 1〜60%、ZnO 0.1〜30%を含有することを特徴とする創傷治療用ガラス組成物。
  2. 酸化物換算の質量%で、さらにB 0〜40%、SiO 0〜20%、MgO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1に記載の創傷治療用ガラス組成物。
  3. 酸化物換算の質量%で、NaO+KO 0〜20%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の創傷治療用ガラス組成物。
  4. 300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のZn濃度が0.01mM〜10mMとなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の創傷治療用ガラス組成物。
  5. 300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験後に測定した25℃での擬似体液のpHが8.0以下となることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の創傷治療用ガラス組成物。
  6. 請求項1〜5の何れかに記載のガラス組成物からなる綿状体又は不織布であることを特徴とする創傷被覆材。
  7. 綿状体又は不織布を構成するガラス繊維の平均繊維径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項6に記載の創傷被覆材。
  8. 綿状体又は不織布中にガラスビーズが混入しており、その混入量が質量%基準で綿状体全体の50%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の創傷被覆材。
  9. ガラスビーズの平均直径が500μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の創傷被覆材。
  10. 請求項1〜5の何れかのガラス組成物となるように調合した原料バッチをガラス溶融炉で溶融し、溶融ガラスをガラス吐出ノズルから連続的に流出させるとともに、前記ガラス吐出ノズル周囲にエアーを噴射して、ガラスを綿状に成形することを特徴とする創傷被覆材の製造方法。
  11. 綿状に成形されたガラスを圧縮して不織布に成形することを特徴とする請求項10に記載の創傷被覆材の製造方法。
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