JP2019000285A - 創傷被覆材 - Google Patents
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Abstract
【課題】繊維芽細胞の増殖や分化、コラーゲン合成を促進するために最適な量の各種イオンを、創面に提供可能であると共に、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性を付与できる創傷被覆材を提供する。【解決手段】ガラス繊維不織布と水分非吸収粘着部材とを有する創傷被覆材であって、ガラス繊維不織布は、ガラス組成として酸化物換算の質量%で、SiO25〜70%、B2O35〜40.0%、CaO 1〜50%を含有するガラス体からなるとともに、創面に接する第一の表面と、第一の表面に対向する第二の表面とを有し、水分非吸収粘着部材は、ガラス繊維不織布の全体を覆うとともに、その周縁部がガラス繊維不織布から食みだすように、ガラス繊維不織布の第二の表面上に設けられていることを特徴とする。【選択図】図1
Description
本発明は、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対し、優れた治癒効果を示す創傷被覆材及びその製造方法に関する。
従来、創傷の治療としてまず消毒を行い、その後ガーゼで創面を保護する治療が行われている。しかしこのような治療方法は消毒によって表皮の細胞が死んでしまう。また創面が乾燥することによって表皮の細胞が増殖しにくくなる。
そこで形成外科医の夏井睦らは、消毒液とガーゼを用いた治療を行う代わりに創面の湿潤環境を保ち、細胞増殖を促進する治療法(moist wound healing)を提唱し、現在ではこの治療方法が広く普及している。(非特許文献1)
創傷被覆材はドレッシング材とも呼ばれ、創傷治療において創面の湿潤環境を保つために用いられる。現在普及している創傷被覆材にはハイドロコロイド被覆材、ポリウレタンフォーム被覆材、アルギン酸塩被覆材などがあり、これらの製品は創面から流出する血液あるいは滲出液を保持し、湿潤環境を構築する働きがある。
創傷被覆材はドレッシング材とも呼ばれ、創傷治療において創面の湿潤環境を保つために用いられる。現在普及している創傷被覆材にはハイドロコロイド被覆材、ポリウレタンフォーム被覆材、アルギン酸塩被覆材などがあり、これらの製品は創面から流出する血液あるいは滲出液を保持し、湿潤環境を構築する働きがある。
これからの創傷治療 夏井 睦 著 医学書院 (2003/08)
創傷治癒のステップは(1)止血凝固期、(2)炎症期、(3)肉芽形成期、(4)成熟期の4ステップからなる。炎症期では、好中球やマクロファージと言った貧食細胞が創面の雑菌や異物を排除し、組織の再生に最適な場を構築する。肉芽形成期では、繊維芽細胞が細胞外マトリクスの主成分であるコラーゲンを産出し、血管内皮細胞が血管を形成する。ここで細胞外マトリクスは、細胞増殖の足場として働き、組織の構築において必要とされる。また血管は細胞増殖において、細胞が必要とする栄養素を送り届ける役割を果たすことから、組織が持続的に再生されるためには、血管新生が必要となる。このような治癒サイクルを経て細胞外マトリクス、細胞、血管の複合体である肉芽が形成され、成熟期へと移行する。特に炎症期、肉芽形成期では、サイトカインと呼ばれる成長因子と細胞が互いに関与しながら創傷治癒を進行させる。湿潤環境下では創面にサイトカインが豊富に存在するため、上述の細胞の増殖や遊走が促進され、結果として炎症期や肉芽形成期が短縮される。
ハイドロコロイド被覆材、ポリウレタンフォーム被覆材、アルギン酸塩被覆材などの創傷被覆材は創面から流出する滲出液を保持し、湿潤環境を構築することによって、患者が持つ本来の自然治癒力を最大限に引き出すことが可能である。しかし高齢者など治癒能力が低い患者の場合、創傷が褥瘡の場合、創面開口部の体積、面積が大きい場合、創面に継続的に力が加わる場合などは、これらの創傷被覆材を使用して治療をしたとしても治癒に相当な期間を要する。治癒時間の増加は、滲出液の多量流出やコラーゲンの異常産出などを引き起こし、表皮の炎症や瘢痕形成などが生じる懸念がある。
さらに糖尿病患者の場合は創傷被覆材を使用したとしても免疫機能の異常、蛋白質の不足状態、酸素の不足などが原因となって創傷治癒遅延を発症し、創面からの細菌が侵入する事によって重篤な合併症を引き起こす可能性がある。
また近年、創傷治療に消毒剤を使わないという方針が変化してきている。詳述すると、創面に細菌が定着しているのみの場合や、細菌が増殖していても宿主に影響を与えない場合は消毒しなくてよい。しかし細菌数が多くなり創感染に移行しそうな場合や、細菌が組織内部に侵入して宿主に実害を及ぼす場合は消毒剤の使用が必要とされるようになってきている。
このような状況の中、最近ガラス成分が創面から流出した血液あるいは滲出液に溶出する事で消毒性を有し、繊維芽細胞の増殖や分化、コラーゲン合成を促進する効果を有する創傷被覆材が開発されている(特許文献1)。このような創傷被覆材は、B2O3とCaOを主成分とした綿状のガラス繊維からなり、血液あるいは滲出液に溶解して創面への細菌の臨界的定着や感染を防止する効果を有するB(ホウ素)や、繊維芽細胞の増殖や分化を促進し、繊維芽細胞のコラーゲン産出を促進する為のシグナルとして働くCa(カルシウム)等のイオンを放出する。
しかしながら、短期間のうちに大量のBが創面に溶出すると、Caによる繊維芽細胞の増殖や分化を促進する効果を損なう恐れがある。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、繊維芽細胞の増殖や分化、コラーゲン合成を促進するために最適な量の各種イオンを、創面に提供可能であると共に、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性を付与できる創傷被覆材を提供することを目的とする。
本発明の創傷被覆材は、ガラス繊維不織布と水分非吸収粘着部材とを有する創傷被覆材であって、ガラス繊維不織布は、ガラス組成として酸化物換算の質量%で、SiO2 5〜70%、B2O3 5〜40.0%、CaO 1〜50%を含有するガラス体からなるとともに、創面に接する第一の表面と、第一の表面に対向する第二の表面とを有し、水分非吸収粘着部材は、ガラス繊維不織布の全体を覆うとともに、その周縁部がガラス繊維不織布から食みだすように、ガラス繊維不織布の第二の表面上に設けられていることを特徴とする。ここで「水分非吸収粘着部材」とは、創面から流出した血液あるいは滲出液を部材内に吸収せず、且つ皮膚と接着する性質を有する部材を指す。
上記構成を有する本発明の創傷被覆材は、水分非吸収粘着部材がガラス繊維不織布から食みだす構成を採用しているため、ガラス繊維不織布を創面に固定しつつ、血液や滲出液の貯留空間を創面上に形成することが可能となり、創面を湿潤状態に保つことができる。またガラス繊維不織布が血液や滲出液と接することにより、繊維芽細胞の増殖や分化を促進し、繊維芽細胞のコラーゲン産出を促進する為のシグナルとして働くCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)などのイオンがガラス繊維不織布から血液や滲出液に適量溶出し、創傷治癒プロセスの促進と、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性の付与が可能になる。また溶出したCaやBなどのイオンは、水分非吸収粘着部材に吸収されることがないため、創傷治癒において必要十分な量のガラス成分を創面に供給する事が可能となる。さらに水分非吸収粘着部材は防水性を有する為、外部からガラス繊維不織布や創面に水分が侵入して、ガラス繊維不織布が早期に溶解する事を防ぐことが出来る。
本発明においては、水分非吸収粘着部材が、ガラス繊維不織布の第二の表面上に直接接するように設けられていることが好ましい。
本発明においては、水分非吸収粘着部材が粘着剤層と支持層からなるポリマーフィルムであることが好ましい。またポリマーフィルムは、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の支持層と、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の粘着剤層とで構成されることが好ましい。また粘着剤層がガラス繊維不織布の第二の表面側となるように、水分非吸収粘着部材が設けられていることが好ましい。
上記構成を採用すれば、皮膚への粘着性や追従性に優れた創傷被覆材を得ることが出来る。また、正常皮膚に対する肌荒れやかぶれ、炎症等のダメージを最小限にすることが出来る。
本発明においては、水分非吸収粘着部材の24時間あたりの透湿度が50g/m2以上となることが好ましい。
上記構成を採用すれば、正常皮膚のふやけや蒸れを防止する事が可能となる。
本発明においては、水分非吸収粘着部材の厚みが5〜100μmであることが好ましい。
上記構成を採用すれば、屈曲部位にも貼り付けが可能であると共に、微細な凹凸のある皮膚表面でも密着しやすく、貼りつけ状態が目立ちにくく、貼り付け時の違和感が少ない創傷被覆材を提供することが可能となる。
本発明においては、ガラス繊維不織布が酸化物換算の質量%で、さらにMgO 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜40%、P2O5 0〜20%を含有することが好ましい。
上記構成を採用すれば、ガラス繊維不織布が、血液や滲出液等の体液に溶解した際、最表面にヒドロキシアパタイトを含む反応層を形成し易くなる。
本発明においては、ガラス繊維不織布が、Si(シリコン)とB(ボロン)のモル比(B/Si)が0.1〜20.0となるガラスからなることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療に必要なCaやBを十分に創傷面に供給することができる。
上記構成を採用すれば、創傷被覆材の生体親和性を向上することが出来る。
本発明においては、ガラス繊維不織布の厚みが0.1〜20mmであることが好ましい。
上記構成を採用すれば、滲出液の多少にかかわらず繊維芽細胞の増殖や分化に必要な湿潤環境を構築できる。
本発明においては、ガラス繊維不織布の面積当たりの重量が0.1〜100mg/cm2であることが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維不織布の平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜20mMとなることが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×1.186の重量分のガラスを37℃、100mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、重量減少率が0.5〜10.0%であることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療を促進するCaやBを十分に創傷面に供給することができる。
本発明においては、ガラス繊維不織布にガラスビーズが混入しており、その混入量が質量%基準でガラス繊維不織布全体の50%以下であることが好ましい。
本発明においては、ガラスビーズの平均直径が500μm以下であることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷被覆材使用時に創面にガラスビーズが混入し、表皮が炎症を起こしたり、表皮にケロイド、肥厚性瘢痕が形成されたりするリスクを軽減することが出来る。
以下、本発明の創傷被覆材について詳述する。図1は本発明の創傷被覆材の一実施態様を示している。ただし本発明の創傷被覆材は図1の実施態様に限定されるものではない。
図1の創傷被覆材は、ガラス繊維不織布1の片面(第二の表面1b)に水分非吸収粘着部材2が直接接した状態で設けられている。また水分非吸収粘着部材2は、ガラス繊維不織布1より寸法が大きく、その周縁部2aがガラス繊維不織布1から食みだした状態となっている。従って水分非吸収粘着部材2の周縁部2aが皮膚と接触可能であり、この部分の存在によって創傷被覆材を皮膚に貼着固定することができる。
(1)ガラス繊維不織布1
ガラス繊維不織布1は創面との接触面である第一の表面1aと、水分非吸収粘着部材2との接触面である第二の表面1bを有する。
ガラス繊維不織布1は創面との接触面である第一の表面1aと、水分非吸収粘着部材2との接触面である第二の表面1bを有する。
ガラス繊維不織布1は、ガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有し、繊維芽細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)などのイオンを溶出するガラスからなる。具体的にはガラス繊維不織布1は、質量%で、SiO2 5〜70%、B2O3 5〜40.0%、CaO 1〜50%含有するガラス体からなり、ガラス繊維不織布1は、さらに質量%で、MgO 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜40%、P2O5 0〜20%を含有するガラスからなることが好ましい。以下にガラス繊維不織布1を構成するガラスの組成について、その含有量を上記のように規定した理由を説明する。尚、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
SiO2は、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。また、ガラスの粘度を上昇させる成分である。SiO2の含有量は5〜70%であり、10〜60%、15〜55%、20〜45%、特に40〜50%であることが好ましい。SiO2の含有量が多くなりすぎるとガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が低下する。また繊維化温度(101.0dPa・sの粘度に相当する温度)が高くなって繊維化するためのコストが増加する。SiO2の含有量が少なすぎるとガラスの粘度が低下し、液相粘度が著しく低下して、ガラス繊維に成形した場合にビーズ混入量が増加する。
B2O3は、SiO2と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO2のようにガラスの溶融温度を高くすることはなく、むしろ溶融温度を低下させる働きがある。また、血液あるいは滲出液に溶出することにより、殺菌効果を発揮する成分である。B2O3の含有量は5〜40%であり、7〜35%、10〜30%、11〜25%、特に12〜19%であることが好ましい。B2O3の含有量が少なすぎると創面への細菌の臨界的定着、感染を防止するための殺菌性を得ることができない。B2O3の含有量が多すぎると創面のB濃度が上昇し過ぎて創面に対して過剰な殺菌効果が働いて、Caによる繊維芽細胞の増殖や分化の促進が阻害され、創傷治癒速度が低下する。
CaOはガラスの粘度を低下させる成分であり、また血液あるいは滲出液に溶出すると、細胞増殖を促進する効果を発揮する成分である。CaOの含有量は1〜50%であり、5〜40%、10〜35%、15〜30%、特に15〜25%であることが好ましい。CaOの含有量が少なすぎると細胞増殖を促進する効果が得にくくなる。CaOの含有量が多すぎると液相温度が高くなって、ガラス溶融時に失透し、均質なガラスを得にくくなる。
MgOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に溶融温度の低下に非常に有効であり、溶融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ成分である。MgOの好適な含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.5〜8%である。MgO含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。
Na2Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。Na2Oの好適な含有量は0〜20%、1〜15%、特に2〜10%である。Na2Oの含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。
K2Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。K2Oの好適な含有量は0〜40%、5〜30%、7〜20%、特に7〜15%である。K2Oの含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。
P2O5はそれ自身でガラス化し、ガラスの網目を構成する成分である。P2O5の好適な含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.8〜7%である。P2O5含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはビーズ混入量が増加する。
本発明の創傷治療用ガラス組成物において、ガラスの溶解速度は、ガラス組成のSi(シリコン)とB(ボロン)のモル比(B/Si)によって変化する。B/Siの値が大きい程ガラスネットワーク中のBの割合が大きくなり、化学的耐久性が低下してガラスの溶解速度が大きくなる。よってCaの溶出量を増やして細胞増殖を促進するためには、B/Siの値が大きいほど有利である。しかしB/Siの値を大きくするためにはガラスのB2O3含有量を増加させる必要があり、結果的にBの溶出量が増えて過剰な殺菌効果が働いてしまう。
B/Siの値は、0.1〜20.0、0.15〜10.0、0.2〜5.0、特に0.4〜1.0であることが好ましい。B/Siの値が小さすぎると、創傷被覆材として必要な細胞増殖の効果や殺菌効果が得にくくなる。一方、B/Siの値が大きすぎると過剰な殺菌効果が働き、細胞の増殖が抑制されてしまう。
また上記した成分(SiO2、B2O3、CaO、MgO、Na2O、K2O、P2O5)以外の成分を含みうる。ただし上記した成分の含有量が合量で98%以上、特に99%以上となるように組成を調節することが望ましい。その理由は、これらの成分の合量が98%未満の場合、意図しない異種成分の混入によって血液あるいは滲出液へのガラスの溶解速度が低下する。その結果、創傷被覆材としての特性が低下したり、生体適合性が低下したりする等の不都合が生じ易くなる。
上記した成分以外の成分として、例えば殺菌効果の向上のために、Cu、Ag、Zn、Sr、Ba、Fe、F、Mo、Au、Mn、Sn、Ce、Cl、La、W、Nb、Y等を合量で2%まで含有してもよい。
ガラス繊維不織布1は、血液や滲出液等の体液に溶解した際、最表面にヒドロキシアパタイトを含む反応層を形成することが好ましい。ヒドロキシアパタイトはCa10(PO4)6(OH)2の化学式で表される結晶であり、生体中の骨や歯の無機成分組成に酷似し、生体組織との間に強い親和性をもつ成分である。このため、アパタイトがガラス繊維表面を覆うように形成されることで、創傷被覆材に起因するアレルギー反応や炎症反応が起こるリスクを低減することが出来る。
ガラス繊維不織布1は、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0 〜12mMとなることが好ましい。この溶出試験による擬似体液中のB濃度が0.1mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な殺菌効果が得にくくなる。一方、B濃度が70mMより多い場合、患者自身の細胞の増殖が抑制されてしまう。また、Ca濃度が3.0mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な細胞増殖の効果が得にくくなる。一方、Ca濃度が12mMより多い場合、細胞増殖の効果が持続せず頻繁に創傷被覆材を交換する必要があるため好ましくない。
ガラス繊維不織布1は、300〜500μmの粒度に分級された比重×1.186の重量分のガラスを37℃、100mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、重量減少率が0.5〜10.0%となることが好ましい。この溶出試験による重量減少率が0.5%より少ない場合、繊維芽細胞の増殖や分化を促進する効果や殺菌効果が得にくくなる。一方、重量減少率が10.0%より多い場合ガラスが早期に溶解してしまい、頻繁に創傷被覆材を交換する必要がある。
ガラス繊維不織布1は、厚みが0.1〜20mm、0.2〜10mm、特に0.4〜2.4mmであることが好ましい。ガラス繊維不織布の厚みが大きすぎると創傷被覆材の厚みが大きくなり、貼りつけ状態が目立ちやすくなり、違和感も大きくなりやすい。一方、厚みが少なすぎると治癒に必要なイオンが早期に消失してしまうため、頻繁に創傷被覆材を交換する必要がある。
ガラス繊維不織布1は、ガラス繊維不織布の面積当たりの重量が0.1〜100mg/cm2、0.3〜80mg/cm2、特に1〜40mg/cm2であることが好ましい。面積当たりの重量が大きすぎるとガラス繊維不織布が過剰な血液や滲出液を吸収してしまい、創面が乾燥して湿潤環境が悪化する。一方、面積当たりの重量が小さすぎると、繊維芽細胞の増殖や分化、コラーゲン産出に必要な量のイオンを創面に供給する事が困難になる。また創面に多量の血液や滲出液が貯留されて、過湿潤になりやすい。過湿潤になった創面では細菌が繁殖し、細菌感染を引き起す懸念がある。
ガラス繊維不織布1は、平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。ここで「ガラス繊維の平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めたものである。
ガラス繊維不織布1を構成するガラスは、液相粘度が100.3dPa・s以上であることが好ましい。液相粘度は好ましくは100.4dPa・s以上、より好ましくは100.5dPa・s以上、さらに好ましくは101.0dPa・s以上である。液相粘度が低すぎると、溶融ガラスを繊維化して綿状体を作製する際に、混入するガラスビーズの量が多くなってしまう。ここで「液相粘度」とは、粘度曲線から結晶析出温度(液相温度)における粘度を測定する方法で導出した粘度を指す。
ガラス繊維不織布1には、ガラスビーズが混入していても差し支えない。この場合、ガラス繊維不織布に占めるガラスビーズの割合は、質量%で50%以下、40%以下、特に30%以下であることが好ましい。ガラスビーズの割合が多くなりすぎると、ガラス繊維不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやBを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。また、ガラスビーズが表皮を刺激して、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こす懸念がある。
ガラスビーズの平均直径は、500μm以下、特に100μm以下であることが好ましい。ガラスビーズの平均直径が大きすぎると、ガラス繊維不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやBを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。また、ガラスビーズが表皮を刺激して、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こす懸念がある。
ガラス繊維不織布は、ガラス繊維やガラスビーズの他にも粉末状、フレーク状等種々の形状のガラス体を含んでいてもよい。またガラス繊維不織布内に各種薬剤を添加、含浸させておくこともできる。
(2)水分非吸収粘着部材
水分非吸収粘着部材2は、ガラス繊維不織布1及び皮膚側となる第一の表面2a及び外気側となる第二の表面2bとを有する。水分非吸収粘着部材2の第二の表面は、ガラス繊維不織布1および皮膚と接着可能な粘着性を有する。
水分非吸収粘着部材2は、ガラス繊維不織布1及び皮膚側となる第一の表面2a及び外気側となる第二の表面2bとを有する。水分非吸収粘着部材2の第二の表面は、ガラス繊維不織布1および皮膚と接着可能な粘着性を有する。
水分非吸収粘着部材2は皮膚に接着可能である為、ガラス繊維不織布1を創面に固定する働きを有する。また創面周囲の正常皮膚と接着する事によって、ガラスから溶出した各種イオンを含む血液や滲出液を創面に留める働きを有する。ここで、水分非吸収粘着部材2は水分非吸収性の部材からなるため、ガラスから溶出したCaやB等のイオンは水分非吸収粘着部材2の中に吸収されることなく、創面に潤沢に供給される。この働きにより、創傷被覆材のガラス成分はすべて創傷治癒のために消費される。
水分非吸収粘着部材2は防水性を有する為、外界からの水分の侵入によってガラス繊維不織布が早期に溶解してしまう事を防ぐことが出来る。さらに細菌の侵入を防止し、細菌感染のリスクを低下することが出来る。
水分非吸収粘着部材2の厚みは5〜100μm、7〜80μm、10〜60μm、特に18〜34μmであることが好ましい。厚みが薄すぎると、水分非吸収粘着部材が破れやすくなり、外界からの物理的な刺激から創面を保護することが出来なくなる。厚みが厚すぎると、水分非吸収粘着部材の柔軟性が極端に低下し、踵や膝などの屈曲部位への貼り付け時に違和感が生じやすくなる。また、創傷被覆材の厚みが大きくなる結果、微細な凹凸のある皮膚表面に沿って密着しにくく、貼りつけ状態が目立ちやすくなり、違和感も大きくなりやすい。
水分非吸収粘着部材2は、材料自身が粘着性を有している、いわゆる自己接着タイプの材料であってもよいが、粘着剤層と支持層からなるポリマーフィルムであることが好ましい。
ポリマーフィルムからなる場合、支持層は、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレートの群から選ばれる少なくとも一種からなることが好ましく、粘着剤層は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤からなる群より選ばれる少なくとも一種からなることが好ましい。支持層と粘着剤層の好ましい組み合わせに制限はないが、例えばポリウレタンとアクリル系粘着剤の組み合わせが特に好ましい。
水分非吸収粘着部材2は、24時間あたりの透湿度が50g/m2以上、100g/m2以上、特に400g/m2以上であることが好ましい。ここで、「透湿度」はJIS Z0208に規定されるB条件(温度40℃、相対湿度90%)により求めた値である。透湿度が小さすぎると創傷被覆材を皮膚に貼りつけた際に、正常皮膚に汗がたまりやすく、蒸れやすくなる。
水分非吸収粘着部材は、ガラス繊維不織布と接する部分に1又は2以上の微細孔が形成されていてもよい。このような水分非吸収粘着部材を採用すれば、過剰な血液や滲出液を微細孔から外部へ排出することが可能になる。なおこの場合、排出された血液や滲出液を吸収し、かつ外部から水分がガラス繊維不織布側に侵入するのを防ぐため、防水性の吸収部材が水分非吸収粘着部材の外気側に設置されていることが好ましい。
(3)創傷被覆材の製造方法
次に本発明の創傷被覆材の製造方法を説明する。ただし本発明の創傷被覆材を製造する方法はこれに限定されるものではない。
次に本発明の創傷被覆材の製造方法を説明する。ただし本発明の創傷被覆材を製造する方法はこれに限定されるものではない。
まず調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入し、ガラス化し、溶融、均質化する。次に溶融ガラスを吐出ノズルを備えた貴金属製のノズル部材に供給し、ノズル部材から流下した溶融ガラスに対し、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付けるいわゆるメルトブロー法にて溶融ガラスを繊維化する。続いて繊維化されたガラスを金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させた後、圧延ローラーにて所望の肉厚に調整する。このようにして、マット状に成形されたガラス繊維不織布1を得ることができる。この後、ガラス繊維不織布をガンマ線滅菌する。なおガラスの繊維化は、上記以外にも例えばガラス吐出ノズルと該ノズル部材に対向するように配置されたターゲット電極間に高電圧を印加し、吐出ノズルから吐出される帯電した溶融ガラスを電極部材側に引き寄せつつ繊維状に成形する、いわゆるエレクトロスピニング法や、溶融ガラスをフォアハースから流下させてスピナー(回転体)に導入し、このスピナーを高速回転させてスピナー側壁部に設けられたオリフィスから繊維状ガラスを吐出する、いわゆる遠心法を採用することもできる。
またガラス繊維不織布1より寸法の大きい、即ちガラス繊維不織布1を完全に覆うことが可能な大きさの水分非吸収粘着部材2を用意する。水分非吸収粘着部材2としては、例えばポリマー支持層の上に粘着剤層が塗布された市販の医療用フィルムを用いることができる。
続いて水分非吸収粘着部材の粘着剤層がガラス繊維不織布1の第一の表面1bに接するとともに、水分非吸収粘着部材の周縁部全体がガラス繊維不織布1から食みだすように、水分非吸収粘着部材2をガラス繊維不織布1に接着し、創傷被覆材を得る。
以上の工程によって作製された本発明の創傷被覆材は、水分非吸収粘着部材によって、創面上に血液や滲出液の貯留空間を形成できるため、創面に湿潤環境を提供することができる。またガラス繊維不織布から溶出したイオンを効率良く創面に供給可能であり、繊維芽細胞の増殖や分化、コラーゲン合成を促進することが出来る。さらに、屈曲部位にも貼り付けが可能であると共に、微細な凹凸のある皮膚表面でも密着しやすく、貼りつけ状態が目立ちにくく、貼り付け時の違和感が少ない。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
(1)原ガラスの作製
最初に、本発明の創傷被覆材に用いるガラス繊維不織布の原ガラスを作製し、溶出特性と液相粘度を評価した。
最初に、本発明の創傷被覆材に用いるガラス繊維不織布の原ガラスを作製し、溶出特性と液相粘度を評価した。
表1は、本発明の実施例に係るガラス繊維不織布(試料No.1〜4)及び比較例に係るガラス繊維不織布(試料No.5)を示している。
まず、表1のガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、間接加熱電気炉内で1200〜1550℃で4時間加熱して、溶融ガラスを得た。尚、均質な溶融ガラスを得るために、加熱時に、耐熱性撹拌棒を用いて、溶融ガラスを複数回攪拌した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、空気中で放冷して塊状のガラス試料を得た。
続いて、得られた各ガラス試料の溶出特性評価(In vitro test)及び液相粘度の測定を実施した。結果を表1に示す。
擬似体液中に溶出するB及びCa量は次のようにして評価した。
まず、塊状のガラス試料を粉砕し、直径300〜500μmの粒度のガラスを比重×0.256の重量分だけ精秤し、続いて容量100mlのポリプロピレン容器(PP容器)に擬似体液60mlを入れ、ガラス試料を浸漬して、37℃、2日間の条件で溶出試験を行った。その際、1回/日の撹拌を行った。撹拌は前記PP容器を手で数回振る事によって行った。溶出試験後に試験溶液を濾過し、ICP−OESを用いて溶出液中のB、Ca濃度を定量した。
擬似体液中に浸漬したときの重量減少率は次のようにして評価した。
まず塊状のガラス試料を粉砕し、直径300〜500μmの粒度のガラスを比重×1.186の重量分だけ精秤し、続いて容量100mlのポリプロピレン容器(PP容器)に擬似体液100mlを入れ、ガラス試料を浸漬して、37℃、2日間の条件で溶出試験を行った。その際、1回/日の撹拌を行った。撹拌は前記PP容器を手で数回振る事によって行った。溶出試験後に、ポアサイズ10〜16μmのガラス濾過器を用いて試験溶液を濾過し、残ったガラス試料の重量をガラス濾過器ごと計測して重量減少率(試験前のガラス試料に対する試験後のガラス試料の重量比(%))を算出した。
なお、擬似体液は以下のようにして作製した。まず100mlの蒸留水を入れたビーカーをスターラーにセットした。次に各試薬(7.995g/LのNaCl、0.353g/LのNaHCO3、0.224g/LのKCl、0.174g/LのK2HPO4、0.305g/LのMgCl2・6H2O、0.368g/LのCaCl2・2H2O、0.071g/LのNa2SO4)を秤量し、それぞれの試薬が完全に溶けてから次の試薬を順に蒸留水に加えて溶かし、溶液を作製した。なお薬包紙についた試薬は、蒸留水をかけて溶液に溶かした。次に10mlの35%塩酸に蒸留水90mlを加えて希釈塩酸を作製し、これを濁りがなくなるまで溶液に少しずつ加えた。次に溶液を2Lのビーカーに移し、825mlの蒸留水を加えてホットスターラーで撹拌した。次にpHメーターを準備し、スポイトで希釈塩酸を徐々に入れて溶かし、pH2にした。続いて6.057(g/L)のトリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリスバッファー)を溶液に入れて溶かし、pH8にした後、ホットスターラーで加熱しながら希釈塩酸を徐々に加え、最終的に液温37℃においてpH7.25の溶液にした。この溶液を有栓メスシリンダーに移し、蒸留水を加えて1Lにし、溶液が混合されるようによく振り混ぜた。このようにして得られた溶液をポリビンに移したのち、冷蔵庫内で1日以上保管して、実験に用いる疑似体液を得た。
なお擬似体液中の無機イオン濃度の理論値は、Na+が142.0、K+が5.0、Mg2+が1.5、Ca2+が2.5、Cl−が148.8、HPO4−が1.0である。(単位はすべてmM)。
液相粘度は次のようにして測定した。
まず、塊状のガラス試料を粉砕し、300〜500μmの範囲の粒度となるように調整し、耐火性の容器に適切な嵩密度となるよう充填した。次にこの耐火性容器を、間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、大気雰囲気中で16時間加熱した。続いて温度勾配炉から、耐火性容器ごと試験体を取り出して室温まで冷却した後、光学顕微鏡によって結晶析出箇所を判定し、予め作製した温度勾配炉内の温度勾配グラフを用いて結晶析出温度(液相温度)を求めた。
さらに塊状のガラス試料を適正な寸法に破砕し、なるべく気泡が巻き込まれないようにアルミナ製坩堝に投入し、続いてアルミナ坩堝を加熱して試料を融液状態とし、白金球引き上げ法によって複数の温度におけるガラスの粘度の計測値を求め、Vogel−Fulcher式の定数を算出して粘度曲線を作成した。このようにして得られた粘度曲線から液相温度における粘度を求め、これを液相粘度の測定値とした。
(2)ガラス繊維不織布の作製
次にガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.1、5を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトした。その後、吐出ノズルから流下したガラスに対し高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化し、金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させた。このガラス繊維を水平台上に敷設し、ローラーを用いて厚み0.5mmの不織布となるように成形した。図2に、作製したガラス繊維不織布の電子顕微鏡写真(×100倍)を示す。また図3に、ガラス繊維不織布の外観を示す。
次にガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.1、5を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトした。その後、吐出ノズルから流下したガラスに対し高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化し、金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させた。このガラス繊維を水平台上に敷設し、ローラーを用いて厚み0.5mmの不織布となるように成形した。図2に、作製したガラス繊維不織布の電子顕微鏡写真(×100倍)を示す。また図3に、ガラス繊維不織布の外観を示す。
このようにして作製したガラス繊維不織布の一部を採取し、平均繊維径を測定した。平均繊維径の測定は次のようにして行った。まず、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像する。次に、走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とした。測定の結果、平均繊維径は、ガラス試料No.1が2.3μm、ガラス試料No.5が1.8μmであった。
また作製したガラス繊維不織布をジッパー付きナイロンパックに梱包し、ガンマ線滅菌を実施し、創傷被覆材の作製に供した。なおガンマ線滅菌の線量は、25キログレイとした。
(3)創傷被覆材の作製
上記のようにして作製、滅菌したガラス試料No.1及びNo.5を用いて創傷被覆材試料A(実施例)及びB(比較例)を作製した。
上記のようにして作製、滅菌したガラス試料No.1及びNo.5を用いて創傷被覆材試料A(実施例)及びB(比較例)を作製した。
試料Aは、以下の様にして作製した。
水分非吸収粘着部材として、ポリウレタン支持層に、アクリル系粘着剤が塗布された医療用フィルム(厚み25μm、45mm×30mm)を用意した。続いて医療用フィルムの粘着剤面に、試料No.1のガラス繊維不織布(面積当たりの重量7.7mg/cm2、厚み0.5mm、直径15mmの円形)を2枚、左右に並べて積層して試料No.Aを得た。図4に試料No.Aの外観を示す。このようにして得られた試料Aは、全周に亘って医療用フィルムがガラス繊維不織布より5〜15mm食みだした状態となっていた。
試料Bは、以下の様にして作製した。
水分非吸収粘着部材として、ポリウレタン支持層に、アクリル系粘着剤が塗布された医療用フィルム(厚み25μm、45mm×30mm)を用意した。続いて医療用フィルムの粘着剤面に、試料No.5のガラス繊維不織布(面積当たりの重量7.4mg/cm2、厚みが0.5mm、直径15mmの円形)を2枚、左右に並べて積層して試料Bを得た。このようにして得られた試料Bは、全周に亘って医療用フィルムがガラス繊維不織布より5〜10mm食みだした状態となっていた。
(4)動物実験
(4−1)創傷被覆材を貼り替える動物実験
試料A及びBを用いて、創傷被覆材を定期的に貼り替える動物実験(In vivo test)を実施した(実施例1及び比較例1)。実験動物は、8週齢のC57BL/6JJmsSlc系、雄マウスを使用した。
(4−1)創傷被覆材を貼り替える動物実験
試料A及びBを用いて、創傷被覆材を定期的に貼り替える動物実験(In vivo test)を実施した(実施例1及び比較例1)。実験動物は、8週齢のC57BL/6JJmsSlc系、雄マウスを使用した。
図5、6は、動物実験の経過を観察した創面写真である。図7は、動物実験のH&E染色写真である。図8は、動物実験の創傷面積率と貼り替え期間の関係を示している。
[実施例1]
マウスに麻酔をかけた後、背中を脱毛し、キュレットを用いてマウスの背中の左右それぞれに対し、直径6mmの円形をマーキングした。ピンセットとハサミを用いて、マーキング個所の表皮から皮下組織の全層(厚さ約0.8mm)を切除し、創傷モデルを作製した。左右両方の創面にガラス繊維不織布部分が重なるように試料Aを貼り付け、その上からマウスの胴体ごと包帯を巻き付け、さらに首にエリザベスカラーを付けた。マウスが覚醒するまで温め、覚醒したらケージに移し、飼育した。
マウスに麻酔をかけた後、背中を脱毛し、キュレットを用いてマウスの背中の左右それぞれに対し、直径6mmの円形をマーキングした。ピンセットとハサミを用いて、マーキング個所の表皮から皮下組織の全層(厚さ約0.8mm)を切除し、創傷モデルを作製した。左右両方の創面にガラス繊維不織布部分が重なるように試料Aを貼り付け、その上からマウスの胴体ごと包帯を巻き付け、さらに首にエリザベスカラーを付けた。マウスが覚醒するまで温め、覚醒したらケージに移し、飼育した。
1日後にマウスをケージから取出し、創傷被覆材を剥がした後、創面の写真を撮影した。生理食塩水を用いて創面を洗浄した後、再び創傷被覆材を載せて、胴体を包帯で巻き、さらに首にエリザベスカラーを付けてケージに戻した。なお、一連の貼り替え処置は麻酔なしで行った。
14日目までは毎日、上記の貼り替え処置と写真撮影を行い、15〜21日目の間は上記の貼り替え処置を行わず貼りっぱなしにした。
21日目にマウスをケージから取出し、創傷被覆材を剥がした後、創面の写真を撮影した。マウスを安楽死させた後、背中の組織をサンプリングし、H&E染色を行って組織の状態を観察した。
図5、6の創面写真から、試料Aは7日目までは滲出液が出続けている状態であり、肉芽形成期の過程と思われた。しかし、8日目以降は滲出液の流出が止まり、肉芽形成期を脱して成熟期に移行しているように見えた。また、創傷被覆材の貼り替えを続けても、創面上にガラスの反応生成物と思われる残渣は殆ど認められなかった。21日目では傷が完全に毛におおわれており、外見からでは傷跡が認められなかった。
図7のH&E染色写真から、試料Aは21日目において、創傷境界部から創傷中央部に至る全域において表皮と真皮の構造がしっかり形成され、また毛根も形成され始めていた。
[比較例1]
試料Bを用いて、実施例1と同様の方法により動物実験(In vivo test)を実施した。
試料Bを用いて、実施例1と同様の方法により動物実験(In vivo test)を実施した。
図5、6の創面写真から、試料Bは21日目においても滲出液が出続けている状態であり、肉芽形成期を脱していないように見えた。また貼り替えを続けると共に、ガラスの反応生成物と思われる残渣が創面上に堆積した。この残渣は、物理的に傷の収縮を妨げているように見えた。21日目において創傷被覆材を剥がすと、創面と残渣の密着個所が剥がれ、出血が認められた。そのため、治癒が完了しておらず、大きく傷痕が残っていた。
図7のH&E染色写真から、試料Bは21日目において、創傷境界部から創傷中央部に向かって治癒過程であり、創傷境界部にわずかに毛根も観察された。しかし、創傷中央部では表皮が形成しきれておらず、また、真皮にも間隙が多く見られ、治癒が遅れていることが考えられた。
[創傷面積率の評価]
続いて試料A、Bの創面写真から創傷面積率を評価した。
続いて試料A、Bの創面写真から創傷面積率を評価した。
まず、創面と正常皮膚の境界を創面写真から目視で判定し、画像解析ソフトImage Jの範囲選択ツールを用いて、選択した創面領域から創傷面積を算出した。創面作製直後の創傷面積と、創傷被覆材貼り付け後の各日数における創傷面積から下記の式(1)を用いて、創傷面積率を求めた。このようにして求めた創傷面積率と貼り替え期間の関係を図8に示した。
図8のグラフから明らかなように、本発明の実施例である試料Aは、比較例である試料Bに比べて創傷治癒能が高かった。
(4−2)創傷被覆材を貼りっぱなしにした動物実験
試料Aと医療用綿花(セルロース繊維)を用いて、創傷被覆材を貼りっぱなしにした動物実験を実施した(実施例2及び比較例2)。
図9は、動物実験の経過を観察した創面写真である。図10は、動物実験のH&E染色写真である。図11は、動物実験の創傷面積率を示している。
試料Aと医療用綿花(セルロース繊維)を用いて、創傷被覆材を貼りっぱなしにした動物実験を実施した(実施例2及び比較例2)。
図9は、動物実験の経過を観察した創面写真である。図10は、動物実験のH&E染色写真である。図11は、動物実験の創傷面積率を示している。
[実施例2]
実施例1と同じ方法で作製したマウスの左右両方の創面に、創傷被覆材試料Aを貼り付け、胴体を包帯で巻き、さらに首にエリザベスカラーを付けた後、14日目までケージ内で飼育した。
実施例1と同じ方法で作製したマウスの左右両方の創面に、創傷被覆材試料Aを貼り付け、胴体を包帯で巻き、さらに首にエリザベスカラーを付けた後、14日目までケージ内で飼育した。
14日目にマウスをケージから取出し、創傷被覆材を剥がした後、創面の写真を撮影した。マウスを安楽死させた後、背中の組織をサンプリングし、H&E染色を行って組織の状態を観察した。
図9の創面写真から、創傷被覆材試料Aは14日目において、肉芽形成期を脱して成熟期に移行しているように見えた。
図10のH&E染色写真から、創傷被覆材試料Aは14日目において、比較的厚みのある真皮層が優先的に形成されていた。また表皮は、凹凸の少ない厚みのある表皮が形成されおり、創傷治癒が進んでいることが分かった。
[比較例2]
市販の医療用綿花(セルロース繊維)を用いて、実施例2と同じ動物実験を実施した。
市販の医療用綿花(セルロース繊維)を用いて、実施例2と同じ動物実験を実施した。
図9の創面写真から、医療用綿花は14日目において、肉芽形成期から成熟期へ移行途中であるように見えた。
図10のH&E染色写真から、医療用綿花は14日目において、真皮層の形成が遅れており、その代わりに皮下組織が優先的に形成されていた。また表皮は、凹凸が見られる薄い表皮が形成されており、創傷治癒がやや遅れていることが分かった。
また創面写真から実施例1と同じ方法で創傷面積率を求めた。
[創傷面積率の評価]
実施例1と同様にして、14日経過後の創傷被覆材A及び医療用綿花の創傷面積率を評価した。結果を図11に示す。
実施例1と同様にして、14日経過後の創傷被覆材A及び医療用綿花の創傷面積率を評価した。結果を図11に示す。
図11のグラフから明らかなように、創傷被覆材試料Aは医療用綿花に比べて創傷治癒能が高かった。
1 ガラス不織布
2 水分非吸収粘着部材
11 真皮
12 表皮
13 毛根
14 皮下組織
G 間隙
2 水分非吸収粘着部材
11 真皮
12 表皮
13 毛根
14 皮下組織
G 間隙
Claims (16)
- ガラス繊維不織布と水分非吸収粘着部材とを有する創傷被覆材であって、ガラス繊維不織布は、ガラス組成として酸化物換算の質量%で、SiO2 5〜70%、B2O3 5〜40.0%、CaO 1〜50%を含有するガラス体からなるとともに、創面に接する第一の表面と、第一の表面に対向する第二の表面とを有し、水分非吸収粘着部材は、ガラス繊維不織布の全体を覆うとともに、その周縁部がガラス繊維不織布から食みだすように、ガラス繊維不織布の第二の表面上に設けられていることを特徴とする創傷被覆材。
- 水分非吸収粘着部材が、ガラス繊維不織布の第二の表面上に直接接するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の創傷被覆材。
- 水分非吸収粘着部材が、粘着剤層と支持層からなるポリマーフィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の創傷被覆材。
- ポリマーフィルムが、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の支持層と、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の粘着剤層とで構成されることを特徴とする請求項3に記載の創傷被覆材。
- 粘着剤層がガラス繊維不織布の第二の表面側となるように、水分非吸収粘着部材が設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の創傷被覆材。
- 非吸収部材の24時間あたりの透湿度が50g/m2以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の創傷被覆材。
- 水分非吸収粘着部材の厚みが5〜100μmであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布が、酸化物換算の質量%で、さらにMgO 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜40%、P2O5 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布が、Si(シリコン)とB(ボロン)のモル比(B/Si)が0.1〜20.0となるガラスからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布の厚みが0.1〜20mmであることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布の面積当たりの重量が0.1〜100mg/cm2であることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布の平均繊維径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜20mMとなることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×1.186の重量分のガラスを37℃、100mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、重量減少率が0.5〜10.0%であることを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維不織布にガラスビーズが混入しており、その混入量が質量%基準でガラス繊維不織布全体の50%以下であることを特徴とする請求項1〜14に記載の創傷被覆材。
- ガラスビーズの平均直径が500μm以下であることを特徴とする請求項15に記載の創傷被覆材。
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Cited By (3)
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CN113730643A (zh) * | 2021-09-14 | 2021-12-03 | 山东盛和纺织股份有限公司 | 一种抗菌敷料及其制备方法 |
CN117731817A (zh) * | 2024-02-19 | 2024-03-22 | 浙江大学 | 一种偶联纳米多肽HD5-myr抗菌材料的制备和应用 |
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-
2017
- 2017-06-14 JP JP2017116636A patent/JP2019000285A/ja active Pending
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