JP2018029643A - 創傷被覆材 - Google Patents
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Abstract
【課題】表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を形成するとともに、アルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、しかも創傷治癒成分及び抗菌性成分を溶出可能な創傷被覆材を提供する。
【解決手段】酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子から成るゲル形成繊維とガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラス繊維との複合体からなることを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子から成るゲル形成繊維とガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラス繊維との複合体からなることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対し、優れた治癒効果を示す創傷被覆材に関する。
従来、創傷の治療としてまず消毒を行い、その後ガーゼで創面を保護する治療が行われている。しかしこのような治療方法は消毒によって表皮の細胞が死んでしまう。また創面が乾燥することによって表皮の細胞が増殖しにくくなることが近年分かってきた。
そこで形成外科医の夏井睦らは、消毒液とガーゼを用いた治療を行う代わりに創面の湿潤環境を保ち、繊維芽細胞の増殖を促進する治療法(moist wound healing)を提唱し、現在ではこの治療方法が広く普及している(非特許文献1)。このような治療方法において、創面の湿潤環境を保つために用いられる材料は創傷被覆材と呼ばれている。
ところで血液中のヘモグロビンと酸素の結合力は、pHが低くなると低下する。この現象は、ボーア効果と呼ばれる。ヘモグロビンが酸素を乖離しやすい程、血液中の酸素濃度が上昇し、繊維芽細胞により多くの酸素が供給されて繊維芽細胞の増殖、遊走が活発になる。さらに低pHは、黄色ブドウ球菌をはじめとする人体にとって有害な細菌の増殖を抑制する。よって創傷治癒促進の観点から、創面のpHは弱酸性に保つのが良いとされている。
これからの創傷治療 夏井 睦 著 医学書院 (2003/08)
近年、ガラス成分が滲出液に溶出することによって創傷治癒効果と抗菌性が発揮される創傷被覆材用ガラス繊維が開発されている(特許文献1)。この種の創傷被覆材用ガラス繊維を使用して治療する際は、創面にガラス繊維を貼り付けた後にガラス繊維が創面から外れないように創面周囲を包帯やサージカルテープなどで覆って固定する。しかしながら創傷被覆用ガラス繊維は乾燥材料であるため、滲出液が少ない場合は湿潤環境を保ちにくいという問題点がある。クリームや軟膏などの保湿剤をガラス繊維に含浸させて使用することも可能であるが、治療における作業性が悪化する。さらに作業者のハンドリングによって保湿剤の量が変化するため、いつも最適な湿潤環境を得ることが難しい。
また、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分が溶出することによって創面のpHが上昇する。創面のpHが上昇するとヘモグロビンが酸素を乖離しにくくなり、繊維芽細胞の増殖が起こりにくくなる。また、人体にとって有害な細菌の増殖が活発になってしまう。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を形成するとともに、アルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、しかも創傷治癒成分及び抗菌性成分を溶出可能な創傷被覆材を提供することを目的とする。
本発明の創傷被覆材は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子から成るゲル形成繊維とガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラス繊維との複合体からなることを特徴とする。
上記構成を有する本発明の創傷被覆材は、ゲル形成繊維が創面から流出する血液あるいは滲出液を吸収して膨潤し、創面の湿潤環境を迅速に形成することが可能である。また滲出液等に接触したゲル形成繊維の表面において高分子の酸性官能基の脱プロトン化が起こり、プロトンが滲出液に放出されて創面のpHの上昇を抑制する。しかもゲル形成繊維に吸収された血液あるいは滲出液との接触によって、ガラス繊維から表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)が溶出し、創面に供給され、創傷治癒プロセスの促進と、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性の付与が可能になる。本発明の創傷被覆材は、これらの効果が相まって創傷を早期に治癒させることができる。
本発明においては、創傷被覆材の形状が綿状体又は不織布であることが好ましい。ここで「綿状体」とは、多数の繊維が不規則に絡み合っており、且つ繊維間に存在する空隙によって三次元的に圧縮可能な不定形の繊維塊を指す。「不織布」とは、多数の繊維が不規則に絡み合っており、シート状又は布状に成形された綿状体の圧縮体を指す。
本発明の創傷被覆材はゲルが滲出液を吸収して膨潤した後、ゲル中の水分の一部がガラス繊維の溶解に使用される。つまり浸出液が多く、ゲル中の水分が多くなる環境ほどガラス繊維の溶解が進みやすく、表皮の再生に必要なCaやBが供給され易くなる。よって、本発明の創傷被覆材はゲル中に十分な水分(滲出液)が供給される創面に用いるほど治療効果が大きくなる。ただし創傷被覆材の吸水能力に比して滲出液の量が多すぎる場合は、過剰な湿潤環境に伴う皮膚のふやけや、滲出液が創外に流出するトラブルが起こり易くなる。逆に、創傷被覆材の吸水能力に比して滲出液の量が少なすぎる場合は、創面が乾燥し易くなる。
それゆえ、創面の状態に応じて、創傷被覆材の吸水能力を調整することが好ましい。例えば、本発明の創傷被覆材を滲出液の多い創面の治療に適用する場合は、綿状体の形態で用いることが好ましい。綿状体の形態で用いれば、創傷被覆材の吸水量が増加し、過剰な湿潤環境に伴う皮膚のふやけを防ぐことができる。さらに滲出液が創外に流出するトラブルが起こりにくくなる。一方、滲出液の少ない創面の治療に適用する場合は、不織布の形態で用いることが好ましい。不織布の形態で用いれば、創傷被覆材が吸水し過ぎて創面が乾燥するという事態を防ぐことができる。
本発明においては、ガラス繊維が酸化物換算の質量%で、SiO2 0〜70%、B2O3 5〜80%、CaO 1〜50%を含有することが好ましい。
上記構成を有する本発明の創傷被覆材は、生体適合性を有する。また創面から流出する血液あるいは滲出液に溶解し、表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)を創傷面に供給することができる。
本発明においては、ガラス繊維が、酸化物換算の質量%で、さらにMgO 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜40%、P2O5 0〜20%を含有することが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜20mMとなることが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維の平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療を促進するCaやBを十分に創傷面に供給することができる。
本発明においては、高分子が、カルボキシル基若しくはスルホ基を有する高分子からなることが好ましい。
本発明においては、高分子が、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
上記構成を採用すれば、創面の湿潤環境を迅速に構築することができるとともに、創面のpH値の上昇を効果的に抑制することができる。
以下、本発明の創傷被覆材について詳述する。
本発明の創傷被覆材は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子を主成分とするゲル形成繊維と、ガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラス繊維を備えることを特徴とするものである。
(1)ゲル形成繊維
酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子を主成分とするゲル形成繊維は、水分と接触しなければ乾燥状態であり、水分と接触した場合には水分を吸収すると共に、官能基同士の電気的反発によって分子鎖間に隙間を生じ、この隙間に水分が浸潤する。その結果、適度な水分がゲル形成繊維中に保持されるとともに、ゲル形成繊維を介してガラス材が滲出液や血液と接触可能になる。ガラス材が滲出液や血液と接触するとガラス材からCaやBが溶出し、創面に供給される。また滲出液が接触したゲル形成繊維の表面では、高分子の酸性官能基の脱プロトン化が起こり、滲出液中にプロトンが放出される。ゲル形成繊維は、この機能によって創面のpH上昇を抑制する。
(1)ゲル形成繊維
酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子を主成分とするゲル形成繊維は、水分と接触しなければ乾燥状態であり、水分と接触した場合には水分を吸収すると共に、官能基同士の電気的反発によって分子鎖間に隙間を生じ、この隙間に水分が浸潤する。その結果、適度な水分がゲル形成繊維中に保持されるとともに、ゲル形成繊維を介してガラス材が滲出液や血液と接触可能になる。ガラス材が滲出液や血液と接触するとガラス材からCaやBが溶出し、創面に供給される。また滲出液が接触したゲル形成繊維の表面では、高分子の酸性官能基の脱プロトン化が起こり、滲出液中にプロトンが放出される。ゲル形成繊維は、この機能によって創面のpH上昇を抑制する。
酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子の好適な例として、カルボキシル基若しくはスルホ基を有する高分子、より具体的にはポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸などが挙げられる。このような高分子を用いることによって、創面のpH上昇を効果的に抑制することができる。
なおゲル形成繊維には、創傷治癒促進のために少量の薬理学的活性成分を含有させることができる。例えば成長因子(例えばTGF、bFGF、PDGF、EGF)、抗生物質(例えばグルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼニトウム、サルファ剤)、消毒剤(例えばポピドン、ヨード)、抗炎症剤(例えばヒドコロルチゾン、トリアムシノロン・アセトニド)、皮膚保護材(例えば酸化亜鉛)などを配合することができる。
(2)ガラス繊維
本発明の創傷被覆材において、ガラス繊維は、ガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラスからなる。特にガラス組成として、質量%でSiO2 5〜70%、B2O3 5〜40.0%、CaO 1〜50%含有するガラスからなることが好ましい。ガラス繊維は、表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)を溶出することを特徴とする。同時に創傷被覆材の保型性の向上に寄与する。
(2)ガラス繊維
本発明の創傷被覆材において、ガラス繊維は、ガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラスからなる。特にガラス組成として、質量%でSiO2 5〜70%、B2O3 5〜40.0%、CaO 1〜50%含有するガラスからなることが好ましい。ガラス繊維は、表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)を溶出することを特徴とする。同時に創傷被覆材の保型性の向上に寄与する。
以下、本発明の創傷被覆材においてガラスを構成する成分の作用と、その含有量を規定した理由を説明する。尚、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
B2O3は、ガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO2のようにガラスの溶融温度を高くすることはなく、むしろ溶融温度を低下させる働きがある。また、血液あるいは滲出液に溶出することにより、殺菌効果を発揮する成分である。B2O3の好適な含有量は5〜80%、10〜35%、11〜30%、12〜27%、特に12〜20%である。B2O3の含有量が少なすぎると創面への細菌の臨界的定着、感染を防止するための殺菌性を得ることができない。B2O3の含有量が多すぎると創面に対して過剰な殺菌効果が働いて創傷治癒速度が低下する。
CaOはガラスの粘度を低下させる成分であり、また血液あるいは滲出液に溶出すると、細胞増殖を促進する効果を発揮する成分である。CaOの好適な含有量は1〜50%、5〜40%、10〜35%、15〜30%、特に15〜25%である。CaOの含有量が少なすぎると細胞増殖を促進する効果が得にくくなる。CaOの含有量が多すぎると液相温度が高くなって、ガラス溶融時に失透し、均質なガラスを得にくくなる。
またB2O3及びCaO以外にも、SiO2、MgO、Na2O、K2O及びP2O5を含むことが好ましい。
SiO2は、B2O3と同様に、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。また、ガラスの粘度を上昇させる成分である。SiO2の好適な含有量は0〜70%、0〜50%、15〜45%、25〜45%、30〜43%、特に35〜43%である。SiO2の含有量が多くなりすぎるとガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が低下する。また繊維化温度(101.0dPa・sの粘度に相当する温度)が高くなって繊維化するためのコストが増加する。SiO2の含有量が少なすぎるとガラスの粘度が低下し、液相粘度が著しく低下して、ガラス繊維に成形した場合にビーズ状、フレーク状等の非繊維状ガラス(以下、各々ガラスビーズ、ガラスフレークという)の混入量が増加する。
MgOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に溶融温度の低下に非常に有効であり、溶融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ成分である。MgOの好適な含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.5〜8%である。MgO含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはガラスビーズ、ガラスフレーク等の混入量が増加する。
Na2Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。Na2Oの好適な含有量は0〜20%、1〜15%、特に2〜10%である。Na2Oの含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはガラスビーズ、ガラスフレーク等の混入量が増加する。
K2Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。K2Oの好適な含有量は0〜40%、5〜30%、7〜20%、特に7〜15%である。K2Oの含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはガラスビーズ、ガラスフレーク等の混入量が増加する。
P2O5はそれ自身でガラス化し、ガラスの網目を構成する成分である。P2O5の好適な含有量は0〜20%、1〜8%、2.5〜8%、2.5〜6%、特に3.2〜5%である。P2O5含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合にはガラスビーズ、ガラスフレーク等の混入量が増加する。
また上記した成分(SiO2、B2O3、CaO、MgO、Na2O、K2O、P2O5)以外の成分も含みうる。ただし上記した成分の含有量が合量で98%以上、特に99%以上となるように組成を調節することが望ましい。その理由は、これらの成分の合量が98%未満の場合、意図しない異種成分の混入によって血液あるいは滲出液へのガラスの溶解速度が低下する。その結果、創傷被覆材としての特性が低下したり、生体適合性が低下したりする等の不都合が生じ易くなる。
上記以外の成分として、例えばAl、Sr、Ba、Fe、F、Mo、Au、Mn、Sn、Ce、Cl、La、W、Nb、Y、H2、CO2、CO、H2O、He、Ne、Ar、N2等の微量成分をそれぞれ0.1%まで含有してもよい。また、ガラス中にPt、Rh、Au等の貴金属元素を500ppmまで含有してもよい。
さらに殺菌効果の向上のために、Cu、Ag、Zn、等を合量で2%まで含有してもよい。
ガラス繊維は、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜20mMとなることが好ましい。この溶出試験による擬似体液中のB濃度が0.1mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な殺菌効果が得にくくなる。一方、B濃度が70mMより多い場合、患者自身の細胞の増殖が抑制される可能性がある。また、Ca濃度が3.0mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な細胞増殖の効果が得にくくなる。一方、Ca濃度が20mMより多い場合、細胞増殖の効果が持続しにくくなり、頻繁に創傷被覆材を交換する必要が生じる。
ガラス繊維は、平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。ここで「ガラス繊維の平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めたものである。
ガラス繊維は、液相粘度が100.3dPa・s以上であるガラスからなることが好ましい。ガラス繊維の液相粘度は、好ましくは100.4dPa・s以上、より好ましくは100.5dPa・s以上、さらに好ましくは101.0dPa・s以上である。液相粘度が低すぎると、溶融ガラスを繊維化する際に、混入するガラスビーズ、ガラスフレーク等の量が多くなってしまう。ここで「液相粘度」とは、粘度曲線から結晶析出温度(液相温度)における粘度を測定する方法で導出した粘度を指す。
また本発明の創傷被覆材において、ガラス繊維には、ガラスビーズ、ガラスフレーク等が混入していても差し支えない。また本発明の創傷被覆材においては、ガラス体に占めるガラスビーズ及びガラスフレークの割合が合計で、50質量%未満であることが好ましい。本発明において「ガラスビーズ」とは、表面張力によってガラスの一部若しくは全体が略球状となったものを指し、真球状のガラスに限定されるものでは無く、楕円球状のガラスや球の一部が繊維に連結しているガラス、複数の球が連結しているガラスも含まれる。「ガラスビーズ及びガラスフレークの割合」の合計は、綿状体を所定量秤量し、ビーカーに投入した後アルコールを注入し、例えばマグネティックスターラーを用いて3分撹拌、撹拌停止後ガラスビーズやガラスフレークが沈殿するまで20秒待ち、その後ただちに沈殿物を残した上澄み液を別のビーカーに移し、この作業を繰り返して採取した沈殿物を乾燥させ、その後沈殿物の重量を測定し、綿状体に対する沈殿物の重量比を算出する方法により求めたものである。
溶融ガラスを繊維化して綿状体を作製する際に、一部のガラスがガラスビーズとなってガラス体に混入する場合がある。またガラスビーズの表面の一部が剥離する等してガラスフレークが発生することがある。ガラスビーズやガラスフレークは繊維に比べて単位質量あたりの比表面積が小さいことから、体液等に溶解しにくい傾向にある。それゆえ混入するガラスビーズ、ガラスフレークの割合が多くなると、綿状体から十分な量のCaやBが溶出し難くなる。しかし上記構成を採用すれば、ガラス繊維の含有量が多いことから、体液への溶解量を十分に確保することが容易になる。また綿状体のザラツキ感等が少なくなることから、表皮の炎症や瘢痕形成を引き起こし難くなる。また創面に埋入する際の患者の痛みを軽減できる。
ガラスビーズの平均直径は、500μm以下、特に100μm以下であることが好ましい。ガラスビーズの平均直径が大きすぎると、ガラス繊維の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやBを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。
(3)創傷被覆材の製造方法
ガラス繊維とゲル形成繊維を用いた本発明の創傷被覆材は、以下の工程で製造することができる。
(3)創傷被覆材の製造方法
ガラス繊維とゲル形成繊維を用いた本発明の創傷被覆材は、以下の工程で製造することができる。
まず、調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入してガラス化し、溶融、均質化した後、吐出ノズルを備えた貴金属製のノズル部材に溶融ガラスを供給する。続いてノズル部材から、粘度が100.5〜101.5dPa・sとなるように調整された溶融ガラスを流出させながら、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付ける、いわゆるメルトブロー法によって溶融ガラスを綿状のガラス繊維に成形する。
また本発明の創傷被覆材におけるゲル形成繊維も、ガラス繊維と同様にメルトブロー法によって繊維状に成形できる。詳述すると酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子を加熱融解し、高分子融液を吐出ノズル部材に供給する。続いて吐出ノズルから高分子融液を連続的に流下させながら、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付けて冷却固化させることによってゲル形成繊維を成形する。
さらに溶融ガラスに吹き付ける高速エアー及び高分子融液に吹き付ける高速エアーを衝突させることにより、ガラス繊維とゲル形成繊維の混合体を作製する。この混合体を吸気ダクトで吸引し、金属製ネットのコンベア上に連続的に堆積させることにより綿状の創傷被覆材を得ることができる。
また不織布状の創傷被覆材は、例えば前記綿状体を圧延ローラーで圧縮することによって得ることができる。
なお本発明の創傷被覆材におけるガラス繊維は、メルトブロー法以外の方法でも作製することが可能である。例えばガラス吐出ノズルと該ノズル部材に対向するように配置されたターゲット電極との間に高電圧を印加し、前記吐出ノズルから吐出される帯電した前記溶融ガラスを前記電極部材側に引き寄せつつ繊維状に成形する、いわゆるエレクトロスピニング法や、溶融ガラスをフォアハースから流下させてスピナー(回転体)に導入し、このスピナーを高速回転させてスピナー側壁部に設けられたオリフィスから繊維状ガラスを吐出する、いわゆる遠心法を採用することもできる。
また本発明の創傷被覆材におけるゲル形成繊維は、メルトブロー法以外の方法でも作製することが可能である。例えば高分子を揮発性の低い溶媒に溶かして紡糸原液を準備し、前記紡糸原液を凝固液中に設置したノズルから連続的に吐出させ、脱溶媒化反応によって前記紡糸原液を繊維化するいわゆる湿式紡糸法や、高分子を含有する高粘度の水溶液(紡糸原液)を調整し、続いて紡糸原液を高温の空気中へ連続的に吐出させながら、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付け、加熱気体中で延伸・乾燥させることによって繊維化させるいわゆる乾式紡糸法、さらにエレクトロスピニング法を採用する事もできる。
以上の工程によって作製された本発明の創傷被覆材は、表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を迅速に形成することができる。またガラスのアルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、繊維芽細胞が増殖し易い環境を提供できる。さらにガラス材から創傷治癒を促進する成分と抗菌性を有する成分を溶出することによって創傷治癒プロセスを促進し、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性を発現する。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお以下の実施例は例示であり、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(1)ガラス試料
表1は、本発明で使用するガラス繊維の組成例(試料No.1〜6)を示している。
(1)ガラス試料
表1は、本発明で使用するガラス繊維の組成例(試料No.1〜6)を示している。
まず、表1のガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、間接加熱電気炉内で1200〜1550℃で4時間加熱して、溶融ガラスを得た。尚、均質な溶融ガラスを得るために、加熱時に、耐熱性撹拌棒を用いて、溶融ガラスを複数回攪拌した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、空気中で放冷して塊状のガラス試料を得た。得られた各試料につき、疑似体液中での溶出試験、及びガラスの液相粘度を測定した。結果を表1に示す。
なお溶出試験は次のようにして測定した。まず、塊状のガラス試料を粉砕し、直径300〜500μmの粒度のガラスを比重×0.256の重量分だけ精秤し、続いて容量100mlのポリプロピレン容器(PP容器)に擬似体液60mlを入れ、ガラス試料を浸漬して、37℃、2日間の条件で溶出試験を行った。その際、1回/日の撹拌を行った。撹拌は前記PP容器を手で数回振ることによって行った。溶出試験後に試験溶液を濾過し、ICP−OESを用いて溶出液中のB、Ca濃度を定量した。
擬似体液は以下のようにして作製した。まず100mlの蒸留水を入れたビーカーをスターラーにセットした。次に各試薬(7.995g/LのNaCl、0.353g/LのNaHCO3、0.224g/LのKCl、0.174g/LのK2HPO4、0.305g/LのMgCl2・6H2O、0.368g/LのCaCl2・2H2O、0.071g/LのNa2SO4)を秤量し、それぞれの試薬が完全に溶けてから次の試薬を順に蒸留水に加えて溶かし、溶液を作製した。なお薬包紙についた試薬は、蒸留水をかけて溶液に溶かした。次に10mlの35%塩酸に蒸留水90mlを加えて希釈塩酸を作製し、これを濁りがなくなるまで溶液に少しずつ加えた。次に溶液を2Lのビーカーに移し、825mlの蒸留水を加えてホットスターラーで撹拌した。次にpHメーターを準備し、スポイトで希釈塩酸を徐々に入れて溶かし、pH2にした。続いて6.057(g/L)のトリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリスバッファー)を溶液に入れて溶かし、pH8にした後、ホットスターラーで加熱しながら希釈塩酸を徐々に加え、最終的に液温37℃においてpH7.25の溶液にした。この溶液を有栓メスシリンダーに移し、蒸留水を加えて1Lにし、溶液が混合されるようによく振り混ぜた。このようにして得られた溶液をポリビンに移したのち、冷蔵庫内で1日以上保管して、実験に用いる疑似体液を得た。
なお擬似体液中の無機イオン濃度の理論値は、Na+が142.0、K+が5.0、Mg2+が1.5、Ca2+が2.5、Cl−が148.8、HPO4−が1.0である。(単位はすべてmM)。
液相粘度の測定は次のようにして行った。
まず、塊状のガラス試料を粉砕し、300〜500μmの範囲の粒度となるように調整し、耐火性の容器に適切な嵩密度となるよう充填した。次にこの耐火性容器を、間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、大気雰囲気中で16時間加熱した。続いて温度勾配炉から、耐火性容器ごと試験体を取り出して室温まで冷却した後、光学顕微鏡によって結晶析出箇所を判定し、予め作製した温度勾配炉内の温度勾配グラフを用いて結晶析出温度(液相温度)を求めた。
さらに塊状のガラス試料を適正な寸法に破砕し、なるべく気泡が巻き込まれないようにアルミナ製坩堝に投入し、続いてアルミナ坩堝を加熱して試料を融液状態とし、白金球引き上げ法によって複数の温度におけるガラスの粘度の計測値を求め、Vogel−Fulcher式の定数を算出して粘度曲線を作成した。このようにして得られた粘度曲線から液相温度における粘度を求め、これを液相粘度の測定値とした。
(2)創傷被覆材の作製
上記のようにして準備したガラス試料を用いて本発明の創傷被覆材(実施例1、2)を作製する。
(2)創傷被覆材の作製
上記のようにして準備したガラス試料を用いて本発明の創傷被覆材(実施例1、2)を作製する。
[実施例1]
ガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.1を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトする。その後、吐出ノズルから流下した溶融ガラスに対して高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化する(平均繊維径:1.1μm)。
ガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.1を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトする。その後、吐出ノズルから流下した溶融ガラスに対して高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化する(平均繊維径:1.1μm)。
またポリエチレングリコールが0.1〜15重量%共重合されているポリ乳酸を溶融紡糸装置に投入し、その後、吐出ノズルから流下したポリ乳酸融液に対し高速エアーを吹き付け、空気中で冷却・乾燥・延伸して繊維化する(平均繊維径:20μm)。
さらに吐出ノズルの直下にて、溶融ガラスに吹き付けた高速エアーとポリ乳酸融液に吹き付けた高速エアーを衝突させることにより、ガラス試料No.1から作製したガラス繊維及びポリ乳酸からなるゲル形成繊維の混合体を作製する。なお混合体には、ガラスビーズ、ガラスフレークが混入している。この混合体を吸気ダクトで吸引し、金属製ネットのコンベア上に連続的に堆積させて綿状の創傷被覆材を得る。
[実施例2]
ガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.2を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトする。その後、吐出ノズルから流下した溶融ガラスに対して高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化する(平均繊維径:0.9μm)。
ガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料No.2を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトする。その後、吐出ノズルから流下した溶融ガラスに対して高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化する(平均繊維径:0.9μm)。
またポリアクリル酸(PAA)81.2質量、ポリビニルアルコール(PVA)18.8質量%を純水に投入して均一になるまで撹拌し、脱泡して粘稠水溶液を得る。この水溶液を吐出ノズルを備えたノズル部材に投入し、その後、吐出ノズルから流下した前記粘稠水溶液に対し高温の高速エアーを吹き付け、空気中で加熱・乾燥・延伸して繊維化する(平均繊維径:30μm)。
さらに吐出ノズルの直下にて、溶融ガラスに吹き付けた高速エアーと前記粘稠水溶液に吹き付けた高速エアーを衝突させることにより、ガラス試料No.2から作製したガラス繊維及びポリアクリル酸からなるゲル形成繊維の混合体を作製する。なお混合体には、ガラスビーズ、ガラスフレークが混入している。この混合体を吸気ダクトで吸引し、金属製ネットのコンベア上に連続的に堆積させて綿状の創傷被覆材を得る。
なお、ガラス繊維及びゲル形成繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いて各繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本の各繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めることができる。
Claims (8)
- 酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子からなるゲル形成繊維と、ガラス構成成分としてB2O3とCaOを含有するガラス繊維との混合体からなることを特徴とする創傷被覆材。
- 形状が綿状体又は不織布であることを特徴とする請求項1に記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維が、酸化物換算の質量%で、SiO2 0〜70%、B2O3 5〜80%、CaO 1〜50%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維が、酸化物換算の質量%で、さらにMgO 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜40%、P2O5 0〜20%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜20mMとなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の創傷被覆材。
- ガラス繊維の平均繊維径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の創傷被覆材。
- 高分子が、カルボキシル基若しくはスルホ基を有する高分子からなることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の創傷被覆材。
- 高分子が、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の創傷被覆材。
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2016
- 2016-08-22 JP JP2016161873A patent/JP2018029643A/ja active Pending
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