JP2017176293A - 創傷被覆材 - Google Patents

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Abstract

【課題】表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を形成するとともに、アルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、しかも創傷治癒成分及び抗菌性成分を溶出可能な創傷被覆材を提供。【解決手段】ゲル層1と、ガラス繊維不織布を含む支持層2とを有し、ゲル層1は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子からなるとともに、創面に接する第一の表面1aと、第一の表面1aに対抗する第二の表面1bとを有し、支持層2は、ガラス組成としてB2O3とCaOを含有するガラスからなるとともに、ゲル層の第二の表面1b上に形成される創傷被覆材。【選択図】図1

Description

本発明は、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対し、優れた治癒効果を示す創傷被覆材及びその製造方法に関する。
従来、創傷の治療としてまず消毒を行い、その後ガーゼで創面を保護する治療が行われている。しかしこのような治療方法は消毒によって表皮の細胞が死んでしまう。また創面が乾燥することによって表皮の細胞が増殖しにくくなることが近年分かってきた。
そこで形成外科医の夏井睦らは、消毒液とガーゼを用いた治療を行う代わりに創面の湿潤環境を保ち、繊維芽細胞の増殖を促進する治療法(moist wound healing)を提唱し、現在ではこの治療方法が広く普及している(非特許文献1)。このような治療方法において、創面の湿潤環境を保つために用いられる材料は創傷被覆材と呼ばれている。
ところで血液中のヘモグロビンと酸素の結合力は、pHが低くなると低下する。この現象は、ボーア効果と呼ばれる。ヘモグロビンが酸素を乖離しやすい程、血液中の酸素濃度が上昇し、繊維芽細胞により多くの酸素が供給されて繊維芽細胞の増殖、遊走が活発になる。さらに低pHは、黄色ブドウ球菌をはじめとする人体にとって有害な細菌の増殖を抑制する。よって創傷治癒促進の観点から、創面のpHは弱酸性に保つのが良いとされている。
WO2011/085092号公報
これからの創傷治療 夏井 睦 著 医学書院 (2003/08)
近年、ガラス成分が滲出液に溶出する事によって創傷治癒効果と抗菌性が発揮される創傷被覆材用ガラス繊維が開発されている(特許文献1)。この種の創傷被覆材用ガラス繊維を使用して治療する際は、創面にガラス繊維を貼り付けた後にガラス繊維が創面から外れないように創面周囲を包帯やサージカルテープなどで覆って固定する。しかしながら創傷被覆用ガラス繊維は、湿潤環境を保ちにくいことから、滲出液が少ない場合には創面が乾燥してしまうという問題がある。クリームや軟膏などの保湿剤をガラス繊維に含浸させて使用することも可能であるが、治療における作業性が悪化する。さらに作業者のハンドリングによって保湿剤の量が変化するため、最適な湿潤環境を安定して得ることが難しい。
また、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分が溶出することによって創面のpHが上昇する。創面のpHが上昇するとヘモグロビンが酸素を乖離しにくくなり、繊維芽細胞の増殖が起こりにくくなる。また、人体にとって有害な細菌の増殖が活発になってしまう。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を形成するとともに、アルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、しかも創傷治癒成分及び抗菌性成分を溶出可能な創傷被覆材を提供することを目的とする。
本発明の創傷被覆材は、ゲル層と、ガラス繊維不織布を含む支持層とを有し、ゲル層は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子からなるとともに、創面に接する第一の表面と、第一の表面に対抗する第二の表面とを有し、支持層は、ガラス組成としてBとCaOを含有するガラスからなるとともに、ゲル層の第二の表面上に形成されることを特徴とする。
上記構成を有する本発明の創傷被覆材は、創面から流出する血液や滲出液がゲル層に吸収、保持されることから、創面上の湿潤環境が保ちやすくなり、表皮細胞の分裂、移動を促進する効果がある。また滲出液に接触したゲル層の表面では高分子の酸性官能基の脱プロトン化が起こり、プロトンが滲出液に放出されて創面のpHの上昇を抑制する。しかもゲル層に吸収された血液や滲出液との接触によって、支持層を構成するガラス繊維不織布から表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)が溶出する。溶出したBやCaはゲル層を介して創面に供給され、創傷治癒プロセスの促進と、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性の付与が可能になる。本発明の創傷被覆材は、これらの効果が相まって創傷を早期に治癒させることができる。
本発明においては、支持層上に、さらに保護層が設けられていることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷被覆材の取り扱いが容易になるとともに、支持層やゲル層を汚れ、水分等から保護することができる。
本発明においては、ゲル層の第一の表面上に、さらに剥離紙が設けられていることが好ましい。
上記構成を採用すれば創傷被覆材の保管や取り扱いが容易になる。
本発明においては、ゲル層がカルボキシル基又はスルホ基を有する高分子からなることが好ましい。
本発明においては、ゲル層が、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
本発明においては、ゲル層の厚みが5〜500μmであることが好ましい。
本発明においては、ガラス繊維不織布が、酸化物換算の質量%で、SiO 0〜70%、B 5〜80%、CaO 1〜50%を含有するガラスからなることが好ましい。またガラス繊維不織布が、さらにMgO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜40%、P 0〜20%を含有するガラスからなることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療を促進するCaやBを十分に創傷面に供給することができる。
本発明においては、ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜12mMとなることが好ましい。
上記構成を採用すれば、創傷治療を促進するCaやBを十分に創傷面に供給することができる。
本発明においては、ガラス繊維不織布の平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。
本発明においては、保護層が、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
本発明の一実施態様を示す概略断面図である。 保護層を有する本発明の一実施態様を示す概略断面図である。 保護層、粘着剤層及び剥離紙を有する本発明の一実施態様を示す概略断面図である。
以下、本発明の創傷被覆材について詳述する。
本発明の創傷被覆材は、吸湿性高分子を主成分とするゲル層1と、ガラス繊維不織布からなる支持層2を備えることを特徴とするものである。図1〜図3は、本発明の創傷被覆材の概略断面図を示す。なお図1〜図3に示す態様は例示であり、本発明の創傷被覆材はこれらの態様に限定されるものではない。
(1)ゲル層1
本発明の創傷被覆材において、ゲル層1は、創面に接する第一の面1aと、第一の面と対向し、支持層との界面となる第二の面1bを有する。
ゲル層1は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子を主成分とするものであり、高分子と高分子が絡み合った網目構造を有している。ゲル層1は、水分と接触しなければ乾燥状態であり、水分と接触した場合には水分を吸収すると共に、官能基同士の電気的反発によって分子鎖間に隙間を生じ、この隙間に水分が浸潤する。また過剰な水分はゲル層1を通過して支持層2に供給される。その結果、ゲル層1中には、適度な水分が保持される。この機能により、ゲル層1に接触する創面は良好な湿潤環境に保たれる。また支持層を構成するガラスが滲出液や血液と接触可能となり、ガラスから溶出したCaやBがゲル層1を通過して創面に供給される。さらに滲出液が接触したゲル層の表面では、高分子の酸性官能基の脱プロトン化が起こり、滲出液中にプロトンが放出される。ゲル層1は、この機能によって創面のpH上昇を抑制する。
ゲル層1は、例えばカルボキシル基若しくはスルホ基を有する高分子、より具体的にはポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸などが挙げられる。このような水溶性又は親水性の高分子を用いることによって、創面から流出する滲出液や血液を支持層2に輸送することが可能になるとともに、創面のpH上昇を効果的に抑制することができる。
ゲル層1の厚みは、5〜500μm、10〜200μm、特に20〜100μmであることが好ましい。ゲル層1の厚みが厚くなり過ぎると、滲出液や血液の輸送スピードが極端に遅くなり、支持層からCaやBを溶出しにくくなる。ゲル層1の厚みが薄くなり過ぎると、創面の湿潤環境を維持することが難しくなる。
なおゲル層1には、創傷治癒促進のために少量の薬理学的活性成分を含有することができる。例えば成長因子(例えばTGF、bFGF、PDGF、EGF)、抗生物質(例えばグルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼニトウム、サルファ剤)、消毒剤(例えばポピドン、ヨード)、抗炎症剤(例えばヒドコロルチゾン、トリアムシノロン・アセトニド)、皮膚保護材(例えば酸化亜鉛)などを配合することができる。
(2)支持層2
本発明の創傷被覆材において支持層2は、ゲル層1と接する第一の面2aと、第一の面2aと対向する第二の面2bを有する。また支持層は、ガラス構成成分としてBとCaOを含有するガラス繊維不織布からなり、表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)を溶出する働きがある。同時に保型性に優れた支持体としての役割を有する。
支持層2には、ガラス繊維不織布に加えて、保型性向上の役割を担う繊維を混合することも可能である。保型性向上の役割を担う繊維には、例えばポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマーなどを含有する有機繊維を用いることができる。
支持層2を構成するガラス繊維不織布は、ガラス構成成分としてBとCaOを含有し、表皮細胞の栄養素となるCa(カルシウム)や、細菌に対して殺菌効果を有するB(ホウ素)を溶出するガラスからなる。以下にガラス繊維不織布1を構成するガラスの組成について、その含有量を上記のように規定した理由を説明する。尚、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
は、ガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiOのようにガラスの溶融温度を高くすることはなく、むしろ溶融温度を低下させる働きがある。また、血液あるいは滲出液に溶出することにより、殺菌効果を発揮する成分である。Bの好適な含有量は5〜80%、7〜65%、10〜55%、13〜40%、特に14〜28%である。Bの含有量が少なすぎると創面への細菌の臨界的定着、感染を防止するための殺菌性を得ることができない。Bの含有量が多すぎると創面に対して過剰な殺菌効果が働いて創傷治癒速度が低下する。
CaOはガラスの粘度を低下させる成分であり、また血液あるいは滲出液に溶出すると、細胞増殖を促進する効果を発揮する成分である。CaOの好適な含有量は1〜50%、5〜40%、10〜35%、15〜30%、特に15〜25%である。CaOの含有量が少なすぎると細胞増殖を促進する効果が得にくくなる。CaOの含有量が多すぎると液相温度が高くなって、ガラス溶融時に失透し、均質なガラスを得にくくなる。
またB及びCaO以外にも、SiO、MgO、NaO、KO及びPを含むことが好ましい。
SiOは、Bと同様に、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。また、ガラスの粘度を上昇させる成分である。SiOの好適な含有量は0〜70%、0〜50%、5〜45%、20〜45%、特に25〜42%である。SiOの含有量が多くなりすぎるとガラスの血液あるいは滲出液に対する溶解速度が低下する。また繊維化温度(101.0dPa・sの粘度に相当する温度)が高くなって繊維化するためのコストが増加する。SiOの含有量が少なすぎるとガラスの粘度が低下し、液相粘度が著しく低下して、ガラス繊維に成形した場合に球状のガラス(球状体)の混入量が増加する。
なお、球状体は真球、楕円体に加えて真球や楕円体が複数個連なった形状を指す。
MgOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に溶融温度の低下に非常に有効であり、溶融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ成分である。MgOの好適な含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.5〜8%である。MgO含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合には球状体の混入量が増加する。
NaOはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。NaOの好適な含有量は0〜20%、1〜15%、特に2〜10%である。NaOの含有量が多すぎるとガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合には球状体の混入量が増加する。
Oはガラスの粘度を低下させることによって、ガラスの溶融性や成形性を高める成分である。KOの好適な含有量は0〜40%、5〜30%、7〜20%、特に7〜15%である。KOの含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合には球状体の混入量が増加する。
はそれ自身でガラス化し、ガラスの網目を構成する成分である。Pの好適な含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.1〜5%である。P含有量が多すぎると、ガラスの粘度が低下したり、液相粘度が著しく低くなったりすることから、ガラス繊維をメルトブロー法等の方法で作製する場合には球状体の混入量が増加する。
また上記した成分(SiO、B、CaO、MgO、NaO、KO、P)以外の成分も含みうる。ただし上記した成分の含有量が合量で98%以上、特に99%以上となるように組成を調節することが望ましい。その理由は、これらの成分の合量が98%未満の場合、意図しない異種成分の混入によって血液あるいは滲出液へのガラスの溶解速度が低下する。その結果、創傷被覆材としての特性が低下したり、生体適合性が低下したりする等の不都合が生じ易くなる。
上記した成分以外の成分として、例えば殺菌効果の向上のために、Cu、Ag、Zn、Sr、Ba、Fe、F、Mo、Au、Mn、Sn、Ce、Cl、La、W、Nb、Y等を合量で2%まで含有してもよい。
支持層2を構成するガラス繊維不織布は、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜12mMとなることが好ましい。この溶出試験による擬似体液中のB濃度が0.1mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な殺菌効果が得にくくなる。一方、B濃度が70mMより多い場合、患者自身の細胞の増殖が抑制される可能性がある。また、Ca濃度が3.0mMより少ない場合、創傷被覆材として必要な細胞増殖の効果が得にくくなる。一方、Ca濃度が12mMより多い場合、細胞増殖の効果が持続しにくくなり、頻繁に創傷被覆材を交換する必要が生じる。
ガラス繊維不織布を構成するガラス繊維は、平均繊維径が100nm〜10μmであることが好ましい。ここで「ガラス繊維の平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めたものである。
ガラス繊維不織布を構成するガラス繊維は、液相粘度が100.3dPa・s以上であるガラスからなることが好ましい。ガラスの液相粘度は、好ましくは100.4dPa・s以上、より好ましくは100.5dPa・s以上、さらに好ましくは101.0dPa・s以上である。液相粘度が低すぎると、溶融ガラスを繊維化する際に、混入する球状体の量が多くなってしまう。ここで「液相粘度」とは、粘度曲線から結晶析出温度(液相温度)における粘度を測定する方法で導出した粘度を指す。
ガラス繊維不織布には、球状体が混入していても差し支えない。この場合、ガラス繊維不織布に占める球状体の割合は、質量%で50%以下、40%以下、特に30%以下であることが好ましい。球状体の割合が多くなりすぎると、ガラス繊維不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやBを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。なお球状体の混入量は次にようにして求めることができる。まず不織布を所定量秤量し、ビーカーに投入した後アルコールを注入し、マグネティックスターラーを用いて3分間撹拌する。撹拌停止後、球状体が沈殿するまで20秒待ち、その後ただちに上澄み液を別のビーカーに移す。この作業を繰り返して採取した沈殿物を乾燥させた後、沈殿物の重量を測定し、前記不織布に対する沈殿物の重量比を算出する。なお本発明における「球状体」とは、厳密な意味での真球体に限定されるものではなく、略球状、略楕円状等の角のない丸みを帯びた粒子を意味する。また球状粒子が複数連なった状態のものも「球状体」に含める。
球状体の平均直径は、500μm以下、特に100μm以下であることが好ましい。球状体の平均直径が大きすぎると、ガラス繊維不織布の比表面積が小さくなることから、ガラスの溶解速度が低下して、CaやBを血液あるいは滲出液へ十分に提供することが難しくなり、創傷被覆材としての特性が低下する。
なお本発明のガラス繊維不織布は、ガラス繊維や球状体の他にも粉末状、フレーク状等種々の形状のガラス体を含んでいてもよい。またガラス繊維不織布内に各種薬剤を添加、含浸させておくこともできる。
(3)保護層3
本発明の創傷被覆材は、図2、3に示すように、必要に応じて支持層2の第二の面2b上に、水分不透過性の保護層3を設けることができる。保護層3は、支持層2と接着可能な粘着性を有しており、また踵などの屈曲部位にも貼り付けできるように適度な柔軟性を有することが好ましい。
保護層3を設けることによって、創傷被覆材の取り扱いが容易になるとともに、ゲル層1や支持層2を汚れ、水分等から保護することができる。また図2のように、保護層3の周縁部31が皮膚と接触可能となるように、ゲル層1や支持層2よりも大きな保護層3を採用してもよい。このような構成とすれば、ゲル層1や支持層2から食み出した保護層3の周縁部31が皮膚との接着性に寄与することになり、創傷被覆材を皮膚に強固に接着固定することができる。
保護層3には、例えば水分不透過性のフィルムや救急絆創膏などに使用されるサージカルテープなどを使用することが好ましい。特に水分不透過性のフィルム、例えばポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するフィルムからなることが好ましい。なお保護層3が水分透過性である場合、支持層2から溶出したCa(カルシウム)や、B(ホウ素)が、保護層を通して流出してしまい、創傷被覆材の創傷治癒効果や殺菌効果が低下し易くなる。
(4)粘着剤層4
ゲル層2を構成する吸湿性高分子は、それ自身が自己接着性を有することが多いが、接着性が十分でない場合、図3に示すように、ゲル層1の第一の面1a上に粘着剤層4を形成することができる。ここで用いる粘着剤は、皮膚に対する良好な接着性を有するとともに、皮膚への刺激が少ないことが求められる。このような粘着剤としては、例えばアクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、ポリ酢酸ビニル系、その他の合成樹脂を含有する粘着剤を使用することができる。
(5)剥離紙5
本発明の創傷被覆材は、ゲル層1の外部雰囲気に晒される面、即ち、ゲル層1の第一の面1a上に剥離紙5を設けることが好ましい。また図2のように保護層3の周縁部31が皮膚と接着可能な構成とした場合には、ゲル層の第一の面1a及び保護層周縁部31の皮膚と接触する面上に剥離紙5を設けることが好ましい。また図3のように粘着剤層4を形成した場合は、粘着剤層4上に剥離紙5を設けることが好ましい。剥離紙5を設けない場合、創傷被覆材の保管時や使用時に、ゲル層の第一の面1a等に汚れが付着しやすくなるため、取り扱いが難しくなる。
(6)創傷被覆材の製造方法
次に本発明の創傷被覆材を製造する方法を説明する。なお本発明の創傷被覆材を製造する方法はこれに限られるものではない。
まず調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入して溶融、ガラス化し、均質化する。次に溶融ガラスを吐出ノズルを備えた貴金属製のノズル部材に供給し、ノズル部材から流下した溶融ガラスに対し、吐出ノズルの側面、両面または全周から高速エアーを吹き付けるいわゆるメルトブロー法にて溶融ガラスを繊維化する。続いて繊維化されたガラスを、金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させた後、圧延ローラーにて所望の肉厚に調整する。このようにして、ガラス繊維不織布からなる支持層1を得ることができる。なおガラスの繊維化は、上記以外にも例えばガラス吐出ノズルと該ノズル部材に対向するように配置されたターゲット電極間に高電圧を印加し、吐出ノズルから吐出される帯電した溶融ガラスを電極部材側に引き寄せつつ繊維状に成形する、いわゆるエレクトロスピニング法や、溶融ガラスをフォアハースから流下させてスピナー(回転体)に導入し、このスピナーを高速回転させてスピナー側壁部に設けられたオリフィスから繊維状ガラスを吐出する、いわゆる遠心法を採用することもできる。
次に水溶性又は親水性高分子を含有する粘稠水溶液を準備し、この粘稠水溶液を剥離処理したセパレーター上に塗布して液膜を形成し、液膜の上にガラス繊維不織布を重畳し、粘稠水溶液を乾燥させてゲル化させる。なお乾燥条件は、常温乾燥(例えば30℃で7日間保持)や凍結乾燥(例えば−20℃で1日間凍結後に30℃で8時間解凍のサイクルを15回繰り返し)を適宜採用すればよい。
このようにして支持層2上にゲル層1が形成された本発明の創傷被覆材を得ることができる。
なお保護層3を設ける場合は、まず水分不透過性フィルム、不織布を台紙とするテープ等、保護層となる材料を用意する。次いで支持層2の第二の面2b上に、保護層となる材料を貼り合わせることによって保護層3を形成することができる。
また粘着剤層4を設ける場合は、まず粘着材料を混練し、これを加圧プレス法によりシート状に成形する。次いでゲル層1の第一の面1a上に、作製したシート状粘着剤を貼り合わせることによって粘着剤層4を形成することができる。
さらに必要に応じてゲル層1の第二の面1a上、或いは粘着剤層4上に剥離紙5を付着させる。
以上の工程によって作製された本発明の創傷被覆材は、滲出液が少ない創面であっても表皮細胞の増殖に必要な湿潤環境を迅速に形成することができる。またガラスのアルカリ成分の溶出による創面のpH上昇を抑制し、繊維芽細胞が増殖し易い環境を提供できる。さらにガラス繊維不織布から創傷治癒を促進する成分と抗菌性を有する成分を溶出することによって創傷治癒プロセスを促進し、創面への細菌の臨界的定着や感染を防止するための殺菌性を発現する。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)ガラス不織布の作製
表1は、本発明で使用するガラス不織布の組成例(試料No.1〜6)を示している。
まず、表1のガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、間接加熱電気炉内で1200〜1550℃で4時間加熱して、溶融ガラスを得た。尚、均質な溶融ガラスを得るために、加熱時に、耐熱性撹拌棒を用いて、溶融ガラスを複数回攪拌した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、空気中で放冷して塊状のガラス試料を得た。得られた各試料につき、疑似体液中での溶出試験、及びガラスの液相粘度を測定した。結果を表1に示す。
次にガラス吐出ノズルを備えた貴金属製のポットに塊状のガラス試料を投入し、通電加熱によってガラス試料をリメルトした。その後、吐出ノズルから流下したガラスに対し高速エアーを吹き付け、前記溶融ガラスを延伸して繊維化し、金属製ネットを有するコンベア上に均一な厚みになるように連続的に堆積させた。このガラス繊維を水平台上に敷設し、ローラーを用いて厚み1.0〜2.0mmの不織布となるように成形した。
なお溶出試験は次のようにして測定した。まず、塊状のガラス試料を粉砕し、直径300〜500μmの粒度のガラスを比重×0.256の重量分だけ精秤し、続いて容量100mlのポリプロピレン容器(PP容器)に擬似体液60mlを入れ、ガラス試料を浸漬して、37℃、2日間の条件で溶出試験を行った。その際、1回/日の撹拌を行った。撹拌は前記PP容器を手で数回振る事によって行った。溶出試験後に試験溶液を濾過し、ICP−OESを用いて溶出液中のB、Ca濃度を定量した。
溶出試験に用いた擬似体液は、次のようにして作製した。
まず100mlの蒸留水を入れたビーカーをスターラーにセットした。次に各試薬(7.995g/LのNaCl、0.353g/LのNaHCO3、0.224g/LのKCl、0.174g/LのK2HPO4、0.305g/LのMgCl2・6H2O、0.368g/LのCaCl2・2H2O、0.071g/LのNa2SO4)を秤量し、それぞれの試薬が完全に溶けてから次の試薬を順に蒸留水に加えて溶かし、溶液を作製した。なお薬包紙についた試薬は、蒸留水をかけて溶液に溶かした。次に10mlの35%塩酸に蒸留水90mlを加えて希釈塩酸を作製し、これを濁りがなくなるまで溶液に少しずつ加えた。次に溶液を2Lのビーカーに移し、825mlの蒸留水を加えてホットスターラーで撹拌した。次にpHメーターを準備し、スポイトで希釈塩酸を徐々に入れて溶かし、pH2にした。続いて6.057(g/L)のトリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリスバッファー)を溶液に入れて溶かし、pH8にした後、ホットスターラーで加熱しながら希釈塩酸を徐々に加え、最終的に液温37℃においてpH7.25の溶液にした。この溶液を有栓メスシリンダーに移し、蒸留水を加えて1Lにし、溶液が混合されるようによく振り混ぜた。このようにして得られた溶液をポリビンに移したのち、冷蔵庫内で1日以上保管して、実験に用いる疑似体液を得た。
なお擬似体液中の無機イオン濃度の理論値は、Na+が142.0、K+が5.0、Mg2+が1.5、Ca2+が2.5、Cl−が148.8、HPO4−が1.0である。(単位はすべてmM)。
平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(HITACHI s−3400N typeII)を用いてガラス繊維の二次電子像または反射電子像を撮像し、前記走査型電子顕微鏡の測長機能を用いて50本のガラス繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする方法により求めた。
液相粘度の測定は次のようにして行った。
まず、塊状のガラス試料を粉砕し、300〜500μmの範囲の粒度となるように調整し、耐火性の容器に適切な嵩密度となるよう充填した。次にこの耐火性容器を、間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、大気雰囲気中で16時間加熱した。続いて温度勾配炉から、耐火性容器ごと試験体を取り出して室温まで冷却した後、光学顕微鏡によって結晶析出箇所を判定し、予め作製した温度勾配炉内の温度勾配グラフを用いて結晶析出温度(液相温度)を求めた。
さらに塊状のガラス試料を適正な寸法に破砕し、なるべく気泡が巻き込まれないようにアルミナ製坩堝に投入し、続いてアルミナ坩堝を加熱して試料を融液状態とし、白金球引き上げ法によって複数の温度におけるガラスの粘度の計測値を求め、Vogel−Fulcher式の定数を算出して粘度曲線を作成した。このようにして得られた粘度曲線から液相温度における粘度を求め、これを液相粘度の測定値とした。
(2)創傷被覆材の作製
上記のようにして作製したガラス繊維不織布を用いて、実施例1〜4の創傷被覆材を作製する。
[実施例1]
まずポリ乳酸(PLA)88.5質量%、ポリビニルアルコール(PVA)11.5質量%を純水に投入し、均一になるまで撹拌して粘稠水溶液を得る。この粘稠水溶液を水平台上に敷設したポリエステルフィルムの表面に塗布して液膜を形成する。続いて、液膜上にNo.1のガラス繊維不織布を重畳する。さらにこれらの材料を型枠内に保持した状態で、−20℃で1日間凍結し、30℃で8時間保存して解凍するサイクルを計15回行うことによって液膜をゲル化させる。その後、ポリエステルフィルムを剥離し、PLAとPVAからなるゲル層(厚み30μm)と、No.1のガラス繊維不織布からなる支持層とで構成される創傷被覆材を得る。
[実施例2]
まずポリアクリル酸(PAA)81.2質量、ポリビニルアルコール(PVA)18.8質量%を純水に投入し、均一になるまで撹拌して粘稠水溶液を得る。この粘稠水溶液を水平台上に敷設したポリエステルフィルムの表面に塗布して液膜を形成する。続いて、液膜上に、No.2のガラス繊維不織布を重畳する。さらにこれらの材料を型枠内に保持した状態で、−20℃で1日間凍結し、30℃で8時間保存して解凍するサイクルを計15回行うことによって液膜をゲル化させる。その後、ポリエステルフィルムを剥離し、PAAとPVAからなるゲル層(厚み40μm)と、No.1のガラス繊維不織布からなる支持層とで構成される創傷被覆材を得る。
[実施例3]
まず実施例1の粘稠水溶液を、水平台上に敷設したポリエステルフィルムの表面に塗布して液膜を形成する。この液膜上に、No.3のガラス繊維不織布を重畳する。次にこれらの材料を型枠内に保持した状態で、−20℃で1日間凍結し、30℃で8時間保存して解凍するサイクルを計15回行うことによって液膜をゲル化させる。さらに、ガラス繊維不織布上に、粘着面がガラス不織布側となるようにポリウレタン製粘着フィルムを貼り付けた後、ポリエステルフィルムを剥離する。このようにして、PLAとPVAを含むゲル層(厚み50μm)と、No.3のガラス繊維不織布からなる支持層と、ポリウレタン製粘着フィルムからなる保護層とで構成される創傷被覆材を得る。
[実施例4]
まず実施例2の粘稠水溶液を水平台上に敷設したポリエステルフィルムの表面に塗布して液膜を形成する。この液膜上にNo.4のガラス繊維不織布を重畳する。次にこれらの材料を型枠内に保持した状態で、−20℃で1日間凍結し、30℃で8時間保存して解凍するサイクルを計15回行うことによって液膜をゲル化させる。さらに、ガラス繊維不織布上に、粘着面がガラス不織布側となるようにポリプロピレン製粘着フィルムを貼り付け、保護層とする。このようにして作製したゲル層とガラス繊維不織布と保護層からなる積層体を、ポリエステルフィルムから剥離する。またイソプレンゴム(IR)及びポリイソブチレン(PIB)を混練し、ゴム接着剤を作製する。これを加圧プレス法によりシート状に成形した後、前記積層体のゲル層上に積層し、粘着剤層とする。このようにして、IR及びPIBからなる粘着剤層と、PAAとPVAからなるゲル層(厚み20μm)と、No.4のガラス繊維不織布からなる支持層と、ポリプロピレン製粘着フィルムからなる保護層とを有する創傷被覆材を得る。
1 ゲル層
2 支持層
3 保護層
4 粘着剤層
5 剥離紙

Claims (11)

  1. ゲル層と、ガラス繊維不織布を含む支持層とを有し、
    ゲル層は、酸性官能基を有する水溶性又は親水性の高分子からなるとともに、創面に接する第一の表面と、第一の表面に対抗する第二の表面とを有し、
    支持層は、ガラス組成としてBとCaOを含有するガラスからなるとともに、ゲル層の第二の表面上に形成されることを特徴とする創傷被覆材。
  2. 支持層上に、さらに保護層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の創傷被覆材。
  3. ゲル層の第一の表面上に、さらに剥離紙が設けられていることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の創傷被覆材。
  4. ゲル層が、カルボキシル基若しくはスルホ基を有する高分子からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の創傷被覆材。
  5. ゲル層が、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スルホン酸、ヒアルロン酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の創傷被覆材。
  6. ゲル層の厚みが5〜500μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の創傷被覆材。
  7. ガラス繊維不織布が、酸化物換算の質量%で、SiO 0〜70%、B 5〜80%、CaO 1〜50%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の創傷被覆材。
  8. ガラス繊維不織布が、酸化物換算の質量%で、さらにMgO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜40%、P 0〜20%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項6に記載の創傷被覆材。
  9. ガラス繊維不織布が、300〜500μmの粒度に分級された比重×0.256の重量分のガラスを37℃、60mlの擬似体液中に2日間浸漬し、1回/日の撹拌を行った溶出試験において、擬似体液中のB濃度が0.1〜70mMかつCa濃度が3.0〜12mMとなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の創傷被覆材。
  10. ガラス繊維不織布の平均繊維径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の創傷被覆材。
  11. 保護層が、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の創傷被覆材。
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