(1.ステアリング装置の構成)
ステアリング装置10の構成について、図1〜図5を参照して説明する。ステアリング装置10は、転舵シャフトをその転舵シャフトの軸方向Aに沿って移動させることにより、その転舵シャフトの両端それぞれに連結されている転舵輪を転舵させる装置である。
ステアリング装置10は、図1に示す如く、操舵機構12を備えている。操舵機構12は、ステアリングホイール14と、ステアリングシャフト16と、を有している。ステアリングホイール14は、車両運転者による操作可能に車室内に配設されており、回転可能に支持されている。ステアリングホイール14は、車両運転者の回転操作により回転する。ステアリングホイール14には、ステアリングシャフト16の一端部が連結されている。ステアリングシャフト16の他端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン18が形成されている。ステアリングシャフト16は、車体に固定されたハウジング20に回転可能に保持されている。ステアリングシャフト16は、ステアリングホイール14の回転に伴って回転する。
ステアリング装置10は、図1及び図2に示す如く、転舵シャフト22を備えている。転舵シャフト22は、車幅方向に延在する軸部材である。転舵シャフト22には、ラック24が形成されている。ラック24は、転舵シャフト22の何れか一端に偏った位置に設けられている。ラック24は、上記ピニオン18と共にラックアンドピニオン機構を構成する。ステアリングシャフト16のピニオン18と転舵シャフト22のラック24とは、互いに噛合している。
ステアリングシャフト16は、車両運転者の回転操作によってステアリングホイール14に加わったトルクを転舵シャフト22に伝達する。転舵シャフト22は、ステアリングシャフト16の回転に伴って車幅方向すなわち軸方向Aに移動する。ステアリングシャフト16の回転は、ラックアンドピニオン機構により転舵シャフト22の軸方向Aへの直線移動に変換される。
転舵シャフト22の両端部には、ボールジョイント26を介してタイロッド28が揺動可能に連結されている。タイロッド28には、ナックルアーム30を介して転舵輪32が連結されている。転舵輪32は、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動により転舵される。この転舵輪32の転舵により車両は左右に操舵される。
ステアリング装置10は、ボールネジ機構34と、電動モータ36と、伝達機構38と、を備えている。ステアリング装置10は、電動モータ36を駆動源として車両運転者がステアリングホイール14を回転操作するときの操舵トルクを補助することができる。すなわち、ステアリング装置10は、電動モータ36の発生した回転トルクを、伝達機構38を介してボールネジ機構34に伝達すると共に、そのボールネジ機構34によって転舵シャフト22を軸方向Aに直線移動させる力に変換することで、転舵シャフト22に転舵輪32の転舵を補助する補助力を付与する。ステアリング装置10は、いわゆるラックパラレル型のステアリング装置である。
ボールネジ機構34は、ボールネジ部40と、ボールネジナット42と、を有している。ボールネジ部40は、転舵シャフト22の外周面に螺旋状に複数回巻かれて形成されたネジ溝としての外周溝である。ボールネジ部40は、転舵シャフト22の他端に偏った位置(具体的には、ラック24とは異なる位置であって、ラック24が設けられた一端部とは反対側の他端部)に設けられている。ボールネジナット42は、円筒状に形成された軸方向Aに延在する円筒部材であって、転舵シャフト22と同軸に配置されている。ボールネジナット42は、その内周面に螺旋状に複数回巻かれて形成されたネジ溝としての内周溝を有している。
ボールネジ部40の外周溝とボールネジナット42の内周溝とは、径方向に対向配置されており、両溝間で複数の転動ボール44が転動する転動路46を形成する。この転動路46内には、複数の転動ボール44が転動可能に配列されている。ボールネジ部40の外周溝とボールネジナット42の内周溝とは、複数の転動ボール44を介して螺合している。転動ボール44は、ボールネジナット42に設けられるデフレクタ(図示せず)により無限循環される。
転舵シャフト22は、軸方向Aへ移動可能にハウジング20に挿通されてそのハウジング20に保持されている。ハウジング20は、転舵シャフト22を軸方向Aに移動可能に覆っている。ハウジング20は、略筒状に形成された軸方向Aに延在する部材である。ハウジング20は、小径部50と、大径部52と、を有している。小径部50は、転舵シャフト22の外径に比して僅かに大きな内径を有している。小径部50には、ステアリングシャフト16が挿通されるステアリングシャフト挿通部54が連結されている。大径部52は、小径部50の内径に比して大きな内径を有している。大径部52には、ボールネジ機構34が収容されると共に、伝達機構38が収容される。大径部52は、ボールネジナット42を回転可能に覆っている。
ハウジング20は、転舵シャフト22の軸方向へ接離可能な、第1ハウジング20−1と、第2ハウジング20−2と、を有している。このハウジング20の接離部分は、大径部52である。すなわち、ハウジング20は、大径部52において軸方向へ接離可能である。これは、大径部52にボールネジ機構34のボールネジナット42と伝達機構38とを収容するためである。第1ハウジング20−1は、ステアリングシャフト挿通部54を含むと共に、大径部52の一部を含む。また、第2ハウジング20−2は、大径部52の残り部分を含む。
第1ハウジング20−1は、転舵シャフト22の外形或いは外径に応じた内径を有する本体部20−1aと、本体部20−1aの内径に比して大きな内径を有する大径部52を構成する大径部20−1bと、を有している。大径部20−1bは、本体部20−1aに軸方向Aで隣接する第1部20−1b1と、その第1部20−1b1に軸方向で隣接して軸方向端部に位置しかつその第1部20−1b1の外径に比して小さな外径を有する第2部20−1b2と、を有している。
第2ハウジング20−2は、転舵シャフト22の外形に応じた内径を有する本体部20−2aと、本体部20−2aの内径に比して大きな内径を有する大径部52を構成する大径部20−2bと、を有している。大径部20−2bは、軸方向において略同じ外径を有している。第2ハウジング20−2の大径部20−2bの外径は、第1ハウジング20−1の大径部20−1bの第1部20−1b1の外径と略同じであり、その大径部20−1bの第2部20−1b2の外径に比して大きい。また、第2ハウジング20−2の大径部20−2bの内径は、第1ハウジング20−1の大径部20−1bの第2部20−1b2の外径と略同じである。
ハウジング20の第1ハウジング20−1と第2ハウジング20−2とは、互いに嵌合される。具体的には、この嵌合は、第1ハウジング20−1の大径部20−1bの第2部20−1b2と第2ハウジング20−2の大径部20−2bとがインロー(印篭継ぎ)で連結されることにより実現される。また、この嵌合は、大径部52にボールネジ機構34のボールネジナット42と伝達機構38とが収容された後に行われる。
ステアリング装置10は、また、トルクセンサ56と、電子制御ユニット(以下、ECUと称す。)58と、を有している。トルクセンサ56は、ステアリングシャフト16に配設されている。トルクセンサ56は、ステアリングシャフト16の捩れ量に応じた信号を出力する。ECU58及び電動モータ36は、ハウジング20の大径部52近傍に固定されるケース60に収容されている。ECU58と電動モータ36とは、ケース60内において互いに隣接して配設されている。電動モータ36は、その出力軸が転舵シャフト22の軸方向Aに対して平行となるように配置されている。トルクセンサ56は、ECU58に電気的に接続されている。トルクセンサ56の出力信号は、ECU58に供給される。
ECU58は、トルクセンサ56から入力される信号に基づいてステアリングホイール14に加わるトルクを検出する。また、ECU58は、検出トルクに基づいて電動モータ36によるアシストトルクを設定して電動モータ36の出力を制御する。電動モータ36は、ECU58からの指令に従ってアシストトルクを発生する。電動モータ36により発生されたアシストトルクは、伝達機構38に伝達される。
伝達機構38は、入力側が電動モータ36の出力軸に接続されていると共に、出力側がボールネジナット42の外周側に接続された構造を有している。具体的には、伝達機構38は、駆動プーリ62と、ベルト64と、従動プーリ66と、からなる。駆動プーリ62及び従動プーリ66はそれぞれ、外歯を有する歯付きプーリである。ベルト64は、内歯を有する歯付きベルトであって、環状のゴム部材である。
駆動プーリ62は、電動モータ36の出力軸が挿通される貫通孔を有しており、その電動モータ36の出力軸に取り付け固定されている。従動プーリ66は、ボールネジ機構34のボールネジナット42が挿通される貫通孔を有している。従動プーリ66は、ボールネジナット42の軸方向Aの一端側に取り付け固定されている。ベルト64は、駆動プーリ62と従動プーリ66とに巻き掛けられており、駆動プーリ62の外歯に噛合していると共に、従動プーリ66の外歯に噛合している。
伝達機構38は、電動モータ36の出力軸の回転を駆動プーリ62、ベルト64、及び従動プーリ66を介してボールネジナット42に減速して伝達し、すなわち、駆動プーリ62と従動プーリ66との間でベルト64を介して電動モータ36の発生する回転トルクを伝達する駆動力伝達機構である。ベルト64は、駆動プーリ62の回転を従動プーリ66へ滑りなく伝達する。電動モータ36から伝達機構38にアシストトルクが伝達されると、従動プーリ66と一体化されたボールネジナット42が回転駆動されて、複数の転動ボール44を介して転舵シャフト22が軸方向Aに移動される。
ステアリング装置10は、軸受70を備えている。軸受70は、ハウジング20の大径部52とボールネジ機構34のボールネジナット42との間に介在しており、大径部52の内周面とボールネジナット42の外周面との間に配置されている。軸受70は、円環状に形成されている。軸受70は、ボールネジナット42の軸方向Aの他端側に設けられている。すなわち、軸受70は、従動プーリ66に対して軸方向Aに隣接して配置されており、従動プーリ66の軸方向における配置位置とは異なる軸方向位置に配置されている。軸受70は、ボールネジナット42をハウジング20の大径部52に対して回転可能に支持する。軸受70は、ボールネジナット42を片持ち支持する。軸受70は、ボールベアリングなどにより構成された、例えば複列アンギュラ玉軸受である。
軸受70は、外輪部72と、内輪部74と、玉76と、を有している。外輪部72は、円環状に形成されている。外輪部72は、ハウジング20の大径部52の内径と略同じ外径を有している。外輪部72は、その外周面がハウジング20の大径部52の内周面に接するように大径部52の径方向内方に配置されている。内輪部74は、円環状に形成されている。内輪部74は、軸方向に2分割されている。内輪部74は、ボールネジナット42の外径と略同じ内径を有している。内輪部74は、その内周面がボールネジナット42の外周面に接するようにボールネジナット42の径方向外方に配置されており、ボールネジナット42に取り付け固定されている。内輪部74は、ボールネジナット42の回転に伴って一体で回転する。
外輪部72の内周面及び内輪部74の外周面にはそれぞれ、溝が円環状に形成されている。外輪部72の溝と内輪部74の溝とは、径方向に対して所定の角度を成して対向するよう配置されており、両溝間で複数の玉76が転動する円環状の転動路78を形成する。転動路78は、軸方向Aに沿って2列設けられている。玉76は、2列の転動路78それぞれに周方向に沿って転動可能に配置されている。玉76は、外輪部72に支持されながら内輪部74の回転に伴って転動する。
ボールネジナット42には、径方向外方へ放射状に広がるフランジ部80が形成されている。フランジ部80は、従動プーリ66が配置される軸方向一端側とは反対側の軸方向他端側に設けられており、その外周縁部から突出している。軸受70の内輪部74は、ボールネジナット42のフランジ部80と従動プーリ66とで軸方向Aに挟まれるように両者の間に配置されている。
ハウジング20の第1ハウジング20−1には、係止部82が形成されている。係止部82は、第1ハウジング20−1の大径部20−1bの第2部20−1b2の軸方向先端に設けられている。また、ハウジング20の第2ハウジング20−2には、係止部84が形成されている。係止部84は、大径部52と小径部50との段差部分(すなわち、大径部20−2bと本体部20−2aとの段差部分)において径方向に放射状に広がるフランジ部である。係止部84は、ボールネジナット42の従動プーリ66が配置された軸方向一端側とは反対側の軸方向他端側に位置している。
ハウジング20の係止部82と軸受70の外輪部72との間、及び、ハウジング20の係止部84と軸受70の外輪部72との間にはそれぞれ、弾性部材86及びプレート部材88が配置されている。弾性部材86は、弾性を有する円環状の弾性部材である。弾性部材86は、金属により成形された皿バネなどである。プレート部材88は、鉄などの金属により成形され、断面L字状でかつ円環状に形成されている。プレート部材88は、弾性部材86を保持する部材である。
プレート部材88は、円筒部90と、弾性部材86を収容可能な溝部92と、を有している。溝部92は、円筒部90の外周側かつ軸方向一方側に円環状に形成されている。溝部92の径方向内側底面の径は、弾性部材86の内径に略一致している。弾性部材86は、プレート部材88にその溝部92において嵌め込まれ、円筒部90の軸方向端面と軸方向で隣接する。
プレート部材88は、弾性部材86を保持した状態で、ボールネジナット42の外周側において、軸受70の外輪部72とハウジング20の係止部82,84との間に軸方向で挟持されるように配置されている。具体的には、プレート部材88は、弾性部材86がハウジング20の係止部82,84側とは反対側の軸方向に位置するようにすなわち外輪部72に接するように配置されている。
弾性部材86の径方向内側端部(すなわち内径側端部)は、プレート部材88の断面L字の角部に接することで円筒部90のフランジ部を軸方向Aへ押圧する。また、弾性部材86の径方向外側端部(すなわち外径側端部)は、軸受70の外輪部72の軸方向端面と接することで軸受70を軸方向Aへ押圧する。軸受70の外輪部72を軸方向で挟む2つの弾性部材86はそれぞれ、弾性力によりその外輪部72を挟持する。軸受70の外輪部72は、これら2つの弾性部材86の弾性力によりその位置が保持される。すなわち、軸受70の外輪部72は、弾性部材86によりハウジング20に対して軸方向Aに弾性的に変位可能に保持されている。
軸受70は、ハウジング20に形成された軸受収容部94に収容されている。すなわち、ハウジング20は、軸受70を収容する軸受収容部94を有している。軸受収容部94は、ハウジング20の大径部52(具体的には、第2ハウジング20−2の大径部20−2b)に設けられた円筒状の収容穴である。軸受収容部94は、軸受70の外輪部72の外径に比して僅かに大きな内径を有している。すなわち、ハウジング20の軸受収容部94の内周面と軸受70の外輪部72の外周面との間には、微小な隙間が形成されている。軸受70は、この微小な隙間の範囲内でハウジング20に対して変位可能である。
第2ハウジング20−2の大径部20−2bは、軸受収容部94を有すると共に、その軸受収容部94に対して開口側に隣接する円筒状の開口部96を有する。軸受収容部94の内径は、開口部96の内径に比して小さい。開口部96の軸中心線は、ステアリング装置10において転舵シャフト22があるべき位置での軸中心線に一致すると共に、第1ハウジング20−1の大径部20−1bの第2部20−1b2の外周面の軸中心線に一致する。開口部96の内径は、第2部20−1b2の外径と略同じである。
転舵シャフト22があるべき位置は、車両において説明すると、転舵シャフト22、タイロッド28、ナックルアーム30、及び転舵輪32から構成されるリンク機構において転舵シャフト22が車両の左方向に移動したときと右方向に移動したときとで、左右の転舵輪32の角度が車両の進行方向の中心線に関して対称となるための位置である。通常、車両においては、進行方向に対して正確に垂直な方向にかつ水平に転舵シャフト22が配置される必要がある。
転舵シャフト22があるべき位置は、本実施形態のステアリング装置10において説明すると、開口部96の軸中心線となる。これは、開口部96の軸中心線が、転舵シャフト22を収容するハウジング20の略円筒状空洞の中心軸と一致するように形成されているためである。この中心軸がハウジング20の基準軸中心線Cである。ハウジング20の車両への取付部は、ハウジング20を車両に取り付けた時に、ハウジング20の基準軸中心線Cが、車両の進行方向に対して正確に垂直な方向にかつ水平になるように、配置され形成されている。
軸受収容部94は、ステアリング装置10において転舵シャフト22があるべき位置(具体的には、その転舵シャフト22のあるべき位置に対応して形成されたハウジング20の基準となる基準軸中心線Cの位置)に対して、径方向にオフセットするように形成されている。また、軸受収容部94は、ステアリング装置10において転舵シャフト22のあるべき軸中心線(具体的には、上記の基準軸中心線C)に対して傾斜するように形成されている。
尚、軸受収容部94は、軸受収容部94の軸中心線における軸受70が占める範囲(いわゆる、所定線分範囲)が全長に亘ってハウジング20の基準軸中心線Cに対して径方向にオフセットするように形成されていてよい。また、図3及び図4には、オフセット及び傾斜が施された軸受収容部94を実線で示すと共に、そのオフセット及び傾斜が施されていない軸受収容部を一点鎖線で示す。
上記したハウジング20の基準軸中心線Cは、ボールネジナット42が収容される大径部52において軸方向Aに接離される第1ハウジング20−1と第2ハウジング20−2とのインロー部の軸中心線である。この第1ハウジング20−1のインロー部である大径部20−1bの第2部20−1b2は、その軸中心線から外周面までの距離が半径Rとなるように形成されている。また、この第2ハウジング20−2のインロー部である大径部20−2bは、その軸中心線から内周面までの距離が半径Rとなるように形成されている。このハウジング20の基準軸中心線Cは、ハウジング20に収容される転舵シャフト22のあるべき軸中心線に一致する。
上記のハウジング20における軸受収容部94のオフセットは、ハウジング20の基準位置又は上記の基準軸中心線Cに対する、ベルト64から従動プーリ66を介してボールネジナット42に付与される張力Tが作用する径方向とは反対側の径方向へのオフセットである。尚、上記したハウジング20の基準位置は、上記の基準軸中心線C上の位置であって軸受70が軸方向において占める範囲における中央部の位置である。上記のオフセットのオフセット量Lは、ボールネジナット42が上記の張力Tにより転舵シャフト22側に引っ張られたときに径方向に変位するストローク量と同じストローク量に設定されており、上記の軸受収容部94の内周面と軸受70の外輪部72の外周面との間の径方向隙間と、軸受70内の径方向隙間と、軸受70の内輪部74とボールネジナット42との径方向隙間との合算値の範囲内の値である。この場合の軸受収容部94の軸中心線(以下、オフセット軸中心線と称す。)C´は、ハウジング20の基準位置又は上記の基準軸中心線Cに対して径方向にオフセット量Lだけオフセットしている。
また、上記のハウジング20における軸受収容部94の傾斜は、軸受収容部94の上記オフセット軸中心線C´上の、軸受70の軸方向両端間(すなわち、その軸受70が軸方向において占める範囲)における中央部(具体的には、中央点O´)を中心にして行われる傾斜であって、ベルト64から従動プーリ66を介してボールネジナット42に付与される張力Tが作用する際に、ボールネジナット42が上記の中央点O´を中心にして回動する回動方向とは反対側の周方向への傾斜である。この傾斜の角度θは、ボールネジナット42が上記の張力Tにより転舵シャフト22側に引っ張られたときに上記の中央点O´を中心にして周方向に回動する角度と同じ角度に設定されており、上記の軸受収容部94の内周面と軸受70の外輪部72の外周面との間の径方向隙間と、軸受70内の径方向隙間と、軸受70の内輪部74とボールネジナット42との径方向隙間との合算値の範囲でボールネジナット42の回動が許容される角度範囲内の値である。
この場合の上記の中央点O´は、ハウジング20の基準軸中心線C上の、軸受70の軸方向両端間(すなわち、その軸受70が軸方向において占める範囲)における中央部(具体的には、中央点O)に対して径方向にオフセット量Lだけオフセットしている。また、この場合の軸受収容部94の実軸中心線C´´は、上記の基準軸中心線Cに対して径方向にオフセット量Lだけオフセットしていると共に、上記の基準軸中心線C或いは軸受収容部94の上記オフセット軸中心線C´に対して角度θだけ傾斜している。
尚、第2ハウジング20−2の、軸受収容部94以外の部位(例えば、本体部20−2a)は、上記の基準軸中心線Cに対する上記のオフセットが施されていなくてよく、また、その基準軸中心線C或いは軸受収容部94のオフセット軸中心線C´に対する上記の傾斜が施されていなくてよい。
転舵シャフト22には、大径部材100が装着されている。大径部材100は、転舵シャフト22の軸方向両端部それぞれに設けられており、転舵シャフト22と同軸に連結されている。大径部材100は、転舵シャフト22の外径に比して大きな外径を有している。大径部材100には、軸方向外側に向けて開口する略球状の開口孔102が形成されている。開口孔102には、ボールジョイント26を構成するボールスタッド104のボール先端が収容されている。ボールスタッド104は、そのボール先端が開口孔102に収容されつつ回動自在である。
ハウジング20の軸方向両端部にはそれぞれ、大径部材100を収容する大径収容部106が形成されている。大径収容部106は、大径部材100の外径に比して大きな径を有するように形成されている。ハウジング20は、ストッパ部108を有している。ストッパ部108は、ハウジング20の円筒内面から径方向内方に延びており、円環状に形成されている。ストッパ部108は、大径収容部106を形成するための壁部材である。
ストッパ部108の軸中心には、図5に示す如く、転舵シャフト22が貫通する貫通孔110が形成されている。貫通孔110は、転舵シャフト22を案内するガイド孔である。貫通孔110は、転舵シャフト22の外径に比して大きな径を有している。貫通孔110の軸中心線の位置は、ハウジング20の基準位置に一致しており、転舵シャフト22があるべき位置に一致している。ストッパ部108は、大径部材100が連結される転舵シャフト22が軸方向Aに所定ストロークを超えて移動するのを規制する機能を有している。
ダンパ装置112は、転舵シャフト22の軸方向移動に伴って大径部材100の軸方向端面がハウジング20のストッパ部108に当接する際の衝撃を吸収するための装置であって、その衝撃吸収により伝達機構38のベルト64の歯とびなどを防止する装置である。ダンパ装置112は、大径部材100とストッパ部108との間に配置されている。
(2.ステアリング装置の作用)
次に、ステアリング装置10の作用について説明する。上記のステアリング装置10において、ステアリングホイール14が操作されると、その操舵トルクがステアリングシャフト16に伝達され、ピニオン18とラック24とからなるラックアンドピニオン機構を介して転舵シャフト22が軸方向Aに移動される。また、ステアリングシャフト16に伝達された操舵トルクは、トルクセンサ56を用いてECU58に検出される。ECU58は、操舵トルク及び電動モータ36の回転位置などに基づいて電動モータ36の出力制御を行う。電動モータ36は、ECU58からの指令に従ってアシストトルクを発生する。このアシストトルクは、伝達機構38及びボールネジ機構34を介して転舵シャフト22を軸方向に移動させる駆動力に変換される。
転舵シャフト22が軸方向に移動されると、ボールジョイント26、タイロッド28、及びナックルアーム30を介して転舵輪32の向きが変更される。従って、かかるステアリング装置10によれば、ステアリングシャフト16への操舵トルクに応じた電動モータ36によるアシストトルクを転舵シャフト22の軸方向移動に付与することができるので、運転者がステアリングホイール14を操作する際の操舵力を軽減することができる。
また、ステアリングホイール14の中立状態からの操作開始直後は、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動がボールネジナット42の回転を伴うものでないので、ボールネジナット42が軸受70と一体で軸方向Aに僅かに移動してその軸受70が2つの弾性部材86のうちの一方を圧縮しつつ変位規制される。そしてその後は、電動モータ36の駆動によりボールネジナット42が回転することで、転舵シャフト22の軸方向Aへの移動が補助される。従って、軸受70を2つの弾性部材86の弾性力により軸方向Aに変位可能に保持することができるので、ボールネジナット42の回転ひいては転舵シャフト22の軸方向Aへの移動をスムースに行うことができる。
ステアリング装置10の製造においては、まず、ボールネジナット42に軸受70及び従動プーリ66が一体的に組み付けられ、その後、転舵シャフト22に転動ボール44及びそのボールネジナット42が組み付けられてボールネジ機構34が構成される。次に、その転舵シャフト22に組み付けられたボールネジナット42がハウジング20の第2ハウジング20−2の開口部96側からその第2ハウジング20−2の内部へ挿入される。そして、ボールネジナット42に一体的に組み付けられた軸受70が第2ハウジング20−2の軸受収容部94の径方向内方に配置される。この際、軸受収容部94の内周面と軸受70の外輪部72の外周面との間には、微小な隙間が形成される。次に、ベルト64が従動プーリ66に掛けられた後に、ハウジング20の第1ハウジング20−1が第2ハウジング20−2に組み付けられ、駆動プーリ62が組み付けられた電動モータ36が第1ハウジング20−1に組み付けられる。そして、ベルト64が駆動プーリ62に掛けられた後、電動モータ36及び駆動プーリ62が移動されてベルト64に張力が付与される。
ハウジング20の軸受収容部94は、その軸中心線C´´上の位置であって軸受70が占める範囲における中央部(すなわち、中央点O)の位置が、ハウジング20の基準位置すなわち上記の基準軸中心線Cに対して、径方向にオフセットするように形成されている。このオフセットは、ベルト64から従動プーリ66を介してボールネジナット42に付与される張力Tが作用する径方向とは反対側の径方向に対して、ボールネジナット42がその張力Tにより径方向に変位するストローク量と同じオフセット量Lだけ行われている。
軸受収容部94は、また、その軸中心線C´´がハウジング20の上記インロー部の軸中心線Cに対して傾斜するように形成されている。この傾斜は、上記オフセット後の軸受収容部94のオフセット軸中心線C´上の、軸受70が占める範囲における中央点O´を中心にして、ベルト64から従動プーリ66を介してボールネジナット42に付与される張力Tによりボールネジナット42が回動する回動方向とは反対側の周方向へ、その張力Tによりボールネジナット42が回動する角度と同じ角度θだけ行われている。
上記の如く軸受70が軸受収容部94の径方向内方に配置されると、上記のベルト張力Tの発生前は、その軸受70の軸中心線は、その軸受収容部94の実軸中心線C´´と略一致しており、ハウジング20の上記基準軸中心線Cに対して径方向にオフセットすると共に傾斜している。この際、ボールネジナット42の軸中心線Pも、軸受70の軸中心線と同様に、その軸受収容部94の実軸中心線C´´と略一致しており、ハウジング20の上記基準軸中心線Cに対してオフセットすると共に傾斜している。すなわち、ベルト張力Tの発生前は、軸受70の軸中心線上の軸受70が占める範囲における中央部の位置及びボールネジナット42の軸中心線P上の軸受70が占める範囲における中央部の位置は、ハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットしている。
その後、上記のベルト張力Tが発生すると、軸受70により片持ち支持されたボールネジナット42が、転舵シャフト22に接近する側に引っ張られて、軸受70の中央点O´を中心にして駆動プーリ62に接近する周方向へ回動すると共に、径方向へ変位する。すなわち、ボールネジナット42が、軸中心線P上の軸受70が占める範囲における中央部が径方向に変位しつつ、周方向へ回動する。この際、周方向への回動は軸受収容部94の傾斜の角度θと同じ角度だけ行われると共に、径方向への変位は軸受収容部94のオフセット量Lと同じストローク量だけ行われる。
(3.効果)
従って、ステアリング装置10の伝達機構38のベルト張力Tがボールネジナット42に付与された後は、そのボールネジナット42の軸中心線Pをハウジング20の上記基準軸中心線Cすなわち転舵シャフト22のあるべき軸中心線に一致させることができ、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれ及び傾斜ずれを抑えることができる。このため、その径方向ずれに起因するボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えることができると共に、その傾斜ずれに起因するボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えることができる。
このように、本実施形態のステアリング装置10によれば、ハウジング20における軸受70を収容する軸受収容部94を、ハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットさせかつ基準軸中心線Cに対して傾斜させるように形成することで、ボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えることができる。このため、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれ及び傾斜ずれに起因する車両走行中の有負荷時におけるトルク変動を抑えることができるので、ステアリング操舵感を向上させることができる。また、その径方向ずれ及び傾斜ずれに起因する電動モータ36の停止中の無負荷時における転舵シャフト22を軸方向Aに移動させる力の変動を抑えてステアリングホイール14を回転させるのに必要な操舵トルクの変動を抑えることができるので、ハンドル戻り特性を向上させることができる。
以上、説明したことから明らかなように、ステアリング装置10においては、ハウジング20の基準となる基準軸中心線C上の位置であって軸受70が占める範囲における中央部の位置を、ハウジング20の基準位置と定義し、軸受収容部94の軸中心線上の位置であって軸受70が占める範囲における中央部の位置を、軸受収容部94の中央位置と定義した場合、その軸受収容部94の中央位置は、ハウジング20の基準位置に対して、ベルト64から従動プーリ66を介してボールネジナット42に付与される張力Tが作用する径方向とは反対側の径方向にオフセットしている。
この構成によれば、ベルト張力Tの発生前は、軸受収容部94に収容された軸受70の軸中心線上の軸受70が占める範囲における中央部の位置及びボールネジナット42の軸中心線P上の軸受70が占める範囲における中央部の位置が、ハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットした軸受収容部94の中央位置と略一致しており、ハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットしている。一方、ベルト張力Tの発生後は、そのベルト張力Tによりボールネジナット42が転舵シャフト22に接近する側に引っ張られて径方向へ変位する。従って、伝達機構38でのベルト64による張力Tがボールネジナット42に付与された後、そのボールネジナット42の上記した中央部の位置をハウジング20の基準位置に一致させることができ、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれを抑えることができる。このため、径方向ずれに起因するボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えることができる。
ステアリング装置10において、軸受収容部94の軸中心線は、ハウジング20の基準軸中心線Cに対して傾斜している。
この構成によれば、ベルト張力Tの発生前は、軸受収容部94に収容された軸受70の軸中心線及びボールネジナット42の軸中心線Pが、ハウジング20の基準軸中心線Cに対して傾斜している。一方、ベルト張力Tの発生後は、そのベルト張力Tによりボールネジナット42が転舵シャフト22に接近する側に引っ張られて周方向へ回動する。従って、伝達機構38でのベルト64による張力Tがボールネジナット42に付与された後、そのボールネジナット42の軸中心線をハウジング20の基準軸中心線Cに一致させることができ、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の傾斜ずれを抑えることができる。このため、径方向ずれに起因するボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えると共に、傾斜ずれに起因するボールネジナット42の回転抵抗変動を抑えることができる。
ステアリング装置10において、ハウジング20の基準軸中心線Cは、ハウジング20の第1ハウジング20−1と第2ハウジング20−2とのインロー部の軸中心線である。この構成によれば、ベルト張力付与後、ボールネジナット42の軸中心線をハウジング20のインロー部の軸中心線に一致させることができ、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれ(更には、傾斜ずれ)を抑えることができる。
ステアリング装置10において、ハウジング20は、転舵シャフト22が貫通する貫通孔110が形成された、転舵シャフト22が軸方向Aに所定ストロークを超えて移動するのを規制するストッパ部108を有し、ハウジング20の基準軸中心線Cは、貫通孔110の軸中心線である。この構成によれば、ベルト張力付与後、ボールネジナット42の軸中心線をハウジング20の貫通孔110の軸中心線に一致させることができ、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれ(更には、傾斜ずれ)を抑えることができる。
ステアリング装置10において、軸受70は、弾性部材86によりハウジング20に対して軸方向Aに変位可能に保持されている。この構成によれば、ベルト張力Tの発生後においても、軸受70とボールネジナット42を軸方向Aに弾性支持可能であるので、操舵感を向上させることができる。
ところで、上記の実施形態においては、ハウジング20の軸受収容部94が、その中央位置がハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットすると共に、その軸中心線がハウジング20の基準軸中心線Cに対して傾斜するように形成されている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ハウジング20の軸受収容部94が、その中央位置がハウジング20の基準位置に対して径方向にオフセットするように形成されていればよい。すなわち、軸受収容部94の軸中心線がハウジング20の基準軸中心線Cに対して平行にオフセットしていてもよい。かかる変形形態の構造によれば、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれを抑えることができる。
また、上記の実施形態においては、ボールネジナット42の軸方向一端側に従動プーリ66が取り付けられると共に、ボールネジナット42の軸方向他端側に軸受70が配置されている。すなわち、ボールネジナット42における従動プーリ66の軸方向配置位置と軸受70の軸方向配置位置とが互いに異なっている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、両軸方向配置位置が互いに重なるものに適用することとしてもよい。この変形形態においても、上記実施形態と同様の効果、具体的には、転舵シャフト22に対するボールネジナット42の径方向ずれを抑えることができる。
尚、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。