特許文献1には、電池パックのケースの側面に、外側に張り出した取手を設けることが開示されている。作業者は、この取手を把持して、当該ケースを搬送する。しかしながら、特許文献1に開示されているような、ケースの側面から外側に張り出した取手を設けた場合、電池パック全体の体格が増加する。車両では、搭載スペースが限られているため、車載の電池パックの体格増加は、大きな問題となる。
また、特許文献1に開示された取手は、電池パックとして組み立てる前のケース単体を作業者が人力で搬送するときに利用されるに過ぎない。換言すれば、従来、組み立てられた電池パック全体を持ちあげて搬送するための把持部を電池パックに設けることは考えられていなかった。その結果、従来の電池パックでは、搬送性が悪かった。
そこで、本発明では、搬送容易でありながら、体格増加が抑えられた電池パックを提供することを目的とする。
本願が開示する電池パックは、電池ユニットと、前記電池ユニットを収容する電池ケースと、を有し、車両に搭載される電池パックであって、前記電池ケースは、互いに分割された側方フレームおよび上方フレームを有し、前記上方フレームは、前記電池ユニットの上面を覆う上面部と、前記上面部の幅方向端部から下方に延びる垂下部と、を有し、前記側方フレームは、前記電池ユニットの側面を覆う側面部と、前記上面部の下側に入り込むように前記側面部の上端から前記幅方向内側に延びて当該上面部と上下方向に対向する中間部と、前記中間部の端部から上方に延びて前記上面部に接触する接触部と、を有し、前記垂下部には、前記上下方向に対向する前記上面部および前記中間部の間の空間にアクセス可能なアクセス開口が1以上形成されている、ことを特徴とする。
上方フレームの垂下部にアクセス開口を形成することで、上面部に、手指や搬送装置の一部を引っかけて吊り下げ保持することができ、電池パックの搬送性を向上できる。また、垂下部にアクセス開口を形成しているだけであり、電池パックの吊り下げ保持のために、幅方向外側に張り出す専用部材を設けていないため、電池パックの体格の増加を抑えることができる。さらに、側方フレームの接触部が、上方フレームの上面部に接触しているため、上方フレームにアクセス開口を形成しても、異物や水が、電池パックの内部に侵入することが防止される。
また、前記アクセス開口は、前記垂下部の下端から前記上面部の途中までを切り欠いた切り欠き部であってもよい。
アクセス開口を、上面部の途中まで延ばすことで、搬送装置の保持爪と上方フレームとの接触面積が増加し、電池パックをより安定して搬送できる。
また、前記上方フレームは、前記上面部の幅方向両端から下方に延びて、互いに前記幅方向に対向する一対の垂下部を有し、前記側方フレームは、前記電池ユニットの幅方向両側に配されており、各垂下部には、前記アクセス開口が2つ形成されていてもよい。
電池パックの幅方向両側に2つずつ、合計4つのアクセス開口が形成されることで、保持位置を分散でき、電池パックをより安定して搬送できる。
また、前記垂下部の下端近傍は、前記側面部の上端近傍に接触しており、前記上方フレームの前記上面部と前記側方フレームの前記接触部とが互いに接合され、前記上方フレームの前記垂下部と前記側方フレームの前記側面部とが互いに接合されていてもよい。
上面部と接触部を接合することで、両者の隙間をより確実に無くすことができ、水や異物が、両者の隙間から電池パックの内部に侵入することをより確実に防止できる。また、上面部と接触部だけでなく、垂下部と側面部も接合することで、吊り下げ保持時に接合部分にかかる力を分散でき、上方フレームと側方フレームが分離することをより効果的に防止できる。
また、前記側方フレームの板厚と、前記上方フレームの板厚と、が互いに異なっていてもよい。
求められる強度等に応じて、側方フレームおよび上方フレームの板厚を変えることで、必要な強度を維持しつつ、側方フレームおよび上方フレームに必要な材料を低減でき、ひいては、電池パックの重量およびコストをより低減できる。
本願で開示した電池パックによれば、上方フレームの垂下部にアクセス開口を形成しているため、上面部に、手指や搬送装置の一部を引っかけて吊り下げ保持することができ、電池パックの搬送性を向上できる。また、垂下部にアクセス開口を形成しているだけであり、電池パックの吊り下げ保持のために、幅方向外側に張り出す専用部材を設けていないため、電池パックの体格の増加を抑えることができる。さらに、側方フレームの接触部が、上方フレームの上面部に接触しているため、上方フレームにアクセス開口を形成しても、異物や水が、電池パックの内部に侵入することが防止される。
以下、実施形態である電池パック10について図面を参照して説明する。図1は、電池パック10の概略的な斜視図であり、図2は、電池パック10の分解斜視図である。また、図3は、図1のA−A断面図であり、図4は、図1のB−B断面図である。なお、図1〜図4では、理解を容易にするために、各部材の寸法を実際とは変えており、また、各部材の形状を実際に比べて簡素化して描写している。
この電池パック10は、電動車両、例えば、ハイブリッド車両や電気自動車等に搭載される車載用の電池パックである。電池パック10は、電池ユニット12と当該電池ユニット12を収容する電池ケースと、を備えている。なお、図1では、電池ケースの奥行き方向(Y方向)の両端が開口されているが、この開口部は、フロントカバーおよびバックカバー(いずれも図示せず)により覆われる。フロントカバーおよびバックカバーには、さらに、冷媒を電池ユニット12に供給する供給ダクトや、冷媒を外部に放出するための排気ダクト等が接続される。
電池ユニット12は、走行用モータに供給する電力を蓄電するもので、複数の単電池および付属部材を機械的または電気的に連結して一体化したものである。単電池は、充放電可能な二次電池で、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等である。付属部品としては、複数の単電池を電気的に接続するバスバやハーネス、複数の単電池を機械的に連結する連結部材、単電池の電圧や温度等を検知するセンサ、単電池と外部機器との間を中継するリレー、単電池を保持する樹脂枠やホルダ等が該当する。複数の単電池および付属部品からなる電池ユニット12の形状は、特に限定されないが、本実施形態では、奥行き方向(Y方向)に長尺な略直方体形状としている。
電池ユニット12は、電池ケースに収容される。電池ケースは、電池ユニット12が載置されるロアケース14と、当該ロアケース14の上端開口を覆うアッパーカバー16と、奥行き方向(Y方向)両端を覆うフロントカバーおよびバックカバーと、を備えている。さらに、アッパーカバー16は、互いに分割された上方フレーム18および側方フレーム20を有している。ロアケース14、アッパーカバー16、フロントカバー、および、バックカバーは、いずれも、金属、例えば、アルミニウム等からなる金属板を、板金成形してなる。
ロアケース14は、電池ユニット12が載置されるとともに上端が開口された部材である。より具体的には、ロアケース14は、幅方向(X方向)両端が、階段状に立ちあがった断面略コ字状形状となっている。ただし、幅方向一端側に形成された階段状の立ち上がり部分は、幅方向他端側に形成された階段状の立ち上がり部分よりも低くなっている。以下では、この幅方向一端側を「手前側」、幅方向他端側を「奥側」と呼ぶ。電池ユニット12は、ロアケース14の内部で組み立てられるが、この組み立ての作業は、ロアケース14の手前側を手前に、奥側を奥にした状態で行われる。この組み立て作業を阻害しないために、ロアケース14の手前側の立ち上がり部分は、奥側の立ち上がり部分より低くなっている。
手前側の立ち上がり部分には、図1から明らかな通り、1段目の段差面22と、2段目の段差面24と、がある。奥側の立ち上がり部分には、1段目の段差面22と、当該段差面22から垂直に立脚する背壁26と、がある。電池ユニット12は、1段目の段差面22に、載置される。したがって、図3、図4に示すように、電池ユニット12の下端と、ロアケース14の底面部21との間には、空間23が形成される。この空間23は、流体、例えば、電池ユニット12を冷却する冷媒や、電池ユニット12から放出される排煙等が流れる流路として機能する。手前側に形成された2段目の段差面24および奥側に形成された背壁26には、後述するアッパーカバー16の一部が重ね合わされる。そして、この重ね合わせた状態で、ロアケース14とアッパーカバー16とが螺合締結される。
アッパーカバー16は、ロアケース14の上端開口を覆う部材であり、一つの上方フレーム18に、一対の側方フレーム20を接合して構成される。上方フレーム18は、電池ユニット12の上面を覆う上面部30と、当該上面部30の幅方向両端から下方に延びる一対の垂下部28と、を有した断面略コ字状となっている。各垂下部28には、アクセス開口32が二つずつ、奥行き方向に間隔を開けて形成されている。本実施形態において、アクセス開口32は、垂下部28の下端から上面部30の途中までを略矩形に切り欠いた切り欠き部である。
側方フレームは、電池ユニット12の側面を覆う側面部34と、当該側面部34の上端から幅方向内側に延びる中間部36と、中間部36の端部から上方に延びる接触部38と、を有している。側面部34の上端は、垂下部28の下端より高くなっている。換言すれば、側面部34の上端近傍は、上下方向において、垂下部28に重畳している。そして、アッパーカバー16をロアケース14に組み付けた際、側面部34の外面は、垂下部28の内面に、接触する。
側面部34の下端は、ロアケース14に螺合締結される。具体的には、手前側の側面部34の下端は、幅方向外側に折り曲げられ、ロアケース14の段差面24に上に重ねられる。また、奥側の側面部34の下端は、ロアケース14の背壁26と重複する高さ位置まで延び、背壁26の幅方向外側に重ねられる。この重ね合わされた箇所において、ロアケース14と側方フレーム20とが螺合締結される。
中間部36は、上面部30の下側に入り込むように側面部34の上端から幅方向内側に延びており、当該上面部30と上下方向に対向している。換言すれば、上面部30と中間部36との間には、空間42が形成されている。既述したアクセス開口32は、この空間42への外部からのアクセスを許容する。また、中間部36は、電池ユニット12の上端面に接触している。換言すれば、電池ユニット12は、ロアケース14の段差面22と、アッパーカバー16の中間部36とで、上下に挟まれた状態となる。
中間部36の幅方向内側端部からは、上方に立ち上がった後、幅方向内側に屈曲する、断面略略L字状の接触部38が延びている。この接触部38の上端は、上面部30に接触している。
上方フレーム18および側方フレーム20は、互いに、溶接により接合され、一体化される。図3、図4における黒塗りの楕円は、溶接箇所を示している。この図3、図4から明らかな通り、本実施形態では、上面部30と接触部38との接触部分、および、垂下部28の下端近傍と側面部34との接触部分が、溶接により接合される。
電池パック10を組み立てる際には、ロアケース14の内部で、電池ユニット12を組み立てていく。この電池ユニット12の組み立て作業を容易にするために、ロアケース14の手前側の高さは、奥側の高さよりも低くなっている。電池ユニット12が組み上がれば、続いて、ロアケース14の上側に、アッパーカバー16を取り付ける。次に、ロアケース14の前側および後側にフロントカバーおよびバックカバーを取り付け、さらに、これらのカバーに各種ダクト等を組み付ければ、電池パック10が完成される。電池パック10が組み上がれば、搬送装置により電池パック10を所望の位置に搬送する。搬送装置には、保持爪100(図4参照)が設けられている。搬送装置は、この保持爪100を、アクセス開口32に挿しこんで上面部30に係合させた状態で保持爪100を上昇させることで、電池パック10を吊り下げ保持する。
ここで、以上の説明から明らかな通り、本実施形態では、アッパーカバー16を、互いに分割された上方フレーム18および側方フレーム20で構成しており、上方フレーム18の一部にアクセス開口32を設けている。換言すれば、アッパーカバー16の上端かつ幅方向両端部分を、その外面と内面との間に空間42が存在する二重構造とし、当該空間42に外部からアクセスできるアクセス開口32を設けている。かかる構成とする理由について、従来技術と比較して説明する。図7は、従来の電池パック10の断面図である。
従来の電池パック10のアッパーカバー16は、図7に示す通り、断面略コ字状の単一部材で構成されていた。また、アッパーカバー16の側面には、把持部となり得る開口は、設けられていなかった。そのため、搬送装置の保持爪100で、電池パック10を吊り下げ保持する場合には、当該保持爪100を、電池パック10の底部に係合させ、当該底部を吊り下げ保持する必要があった。しかし、電池パック10の底部を吊り下げ保持すると、電池パック10の重心が保持部分より高くなるため、搬送される電池パック10の姿勢が安定しにくく、搬送性が悪かった。
また、特許文献1には、図8に示すように、電池ケースの側面に、外側に張り出した取手110を設けることが開示されている。かかる取手110を、電池ケースの上端近傍に設ければ、電池パックの重心が保持部分(取手110部分)より高くなるため、安定性が向上する。しかし、図8に示すように、外側に張り出す取手110を設けた場合、電池パック全体の体格が増加する。車両では、搭載スペースが限られているため、車載の電池パック10の体格増加は、大きな問題となる。
本実施形態では、搬送容易でありながら、体格増加を抑えるために、アッパーカバー16の一部を、内面と外面との間に空間42が存在する二重構造にするとともに、当該空間42にアクセス可能なアクセス開口32を設けている。この場合、図4に示す通り、アクセス開口32を介して、空間42内に、保持爪100を挿入でき、ひいては、当該保持爪100を、上面部30に係合させることができる。上面部30に保持爪100を係合させれば、電池パック10の重心が保持部分より低くなるため、電池パック10を安定して搬送できる。特に、本実施形態では、互いに対向する一対の垂下部28それぞれに、2つずつ、合計4つのアクセス開口32を設けている。このように、アクセス開口32を、四箇所に、分散して設けた場合、電池パック10を保持する保持位置が均等に分散されるため、より安定して搬送することができる。なお、電池パック10の質量や、形状、重心位置等によっては、アクセス開口32の位置や、個数は、適宜、変更されてもよい。
また、本実施形態によれば、アッパーカバー16の幅は、ロアケース14の幅とほぼ同じであり、従来技術(図7)と比べて、体格は、殆ど増加していないことが分かる。その結果、搬送容易でありながら、体格増加を抑えることができる。
また、アッパーカバー16は、二重構造となっているため、垂下部28にアクセス開口32を形成しても、電池ケースの内部空間と外部空間とは、連通しない。結果として、アクセス開口32を介して空間42に侵入した異物や水が、電池ケースの内部にまで到達することが防止される。そして、これにより、電池ユニット12が適切に保護される。特に、本実施形態では、上述した通り、接触部38と上面部30とが溶接により接合されているため、接触部38と上面部30の隙間から、異物等がパック内部へ侵入することがより効果的に防止される。
ここで、保持爪100を上面部30に引っかけて、電池パック10を吊り下げ保持した場合、上面部30と接触部38との接合部には、互いに離れる方向の力F1がかかる。この力F1により、上面部30と接触部38との接合が解除されることを防止するために、本実施形態では、垂下部28と側面部34も溶接で接合している。垂下部28と側面部34が接合されることで、上面部30および接触部38にかかる力F1の一部が、垂下部28と側面部34の接合部に分散される。そして、これにより、上面部30および接触部38の分離が効果的に防止される。なお、上面部30および接触部38が強固に接合されているなら、垂下部28と側面部34との接合は、省略されてもよい。
いずれにしても、本実施形態によれば、電池パック10の体格の増加を抑えつつ、搬送性を向上できる。なお、これまで説明した構成は、一例であり、アッパーカバー16が、互いに分割された上方フレーム18と側方フレーム20を有し、上方フレーム18の一部にアクセス開口32が形成されているのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、本実施形態では、上方フレーム18の板厚と側方フレーム20の板厚とを同じにしているが、これらは、互いに異なっていてもよい。例えば、電池パック10の上面部分に求められる耐荷重が、踏まれ等に備えるため、側面部分に求められる耐荷重よりも大きい場合がある。この場合には、図5に示すように、上方フレーム18の板厚を、側方フレーム20の板厚よりも大きくしてもよい。かかる構成とすれば、側方フレーム20の板厚を上方フレーム18の板厚と同じにする場合に比して、電池パック10の上面部分の耐荷重を確保しつつも、電池ケース全体に要する材料を低減、ひいては、電池パック10の重量やコストを低減できる。
また、アクセス開口32は、垂下部28に形成され、少なくとも保持爪100が挿脱できるサイズであれば、適宜、変更されてもよい。例えば、図5に示すように、アクセス開口32は、上面部30に到達しないサイズでもよい。ただし、この場合、保持爪100と上方フレーム18との接触面積が小さくなるため、アクセス開口32は、上面部30の途中まで延びていることが望ましい。また、図6に示すように、アクセス開口32は、切欠き部に限らず垂下部28に形成された貫通孔としてもよい。
また、中間部36と上面部30との間に空間42が形成でき、また、接触部38が上面部30に接触できるのであれば、中間部36および接触部38の形状は、適宜、変更されてもよい。例えば、図5に示すように、中間部36および接触部38は、側面部34の上端から斜め上方向に延びる傾斜面等でもよい。