以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一又は相当する部分については、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、実施の形態の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「表」、「裏」といった配置や向き等は、説明の便宜上、そのように記しているだけであって、装置、器具、部品等の配置や向き等を限定するものではない。装置、器具、部品等の構成について、その材質、形状、大きさ等は、本発明の範囲内で適宜変更することができる。
実施の形態1.
図1及び図2は、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置10の回路図である。図1は、冷房運転時の冷媒回路11aを示している。図2は、暖房運転時の冷媒回路11bを示している。
本実施の形態において、冷凍サイクル装置10は、空気調和機である。なお、冷凍サイクル装置10が冷蔵庫、ヒートポンプサイクル装置といった空気調和機以外の機器であっても、本実施の形態を適用することができる。
図1及び図2に示すように、冷凍サイクル装置10は、冷媒が循環する冷媒回路11a,11bを備える。
冷媒回路11a,11bには、圧縮機12と、四方弁13と、室外熱交換器14と、膨張弁15と、室内熱交換器16とが接続されている。圧縮機12は、冷媒を圧縮する。四方弁13は、冷房運転時と暖房運転時とで冷媒の流れる方向を切り換える。室外熱交換器14は、第1熱交換器の例である。室外熱交換器14は、冷房運転時には凝縮器として動作し、圧縮機12により圧縮された冷媒を放熱させる。室外熱交換器14は、暖房運転時には蒸発器として動作し、室外空気と膨張弁15で膨張した冷媒との間で熱交換を行って冷媒を加熱する。膨張弁15は、膨張機構の例である。膨張弁15は、凝縮器で放熱した冷媒を膨張させる。室内熱交換器16は、第2熱交換器の例である。室内熱交換器16は、暖房運転時には凝縮器として動作し、圧縮機12により圧縮された冷媒を放熱させる。室内熱交換器16は、冷房運転時には蒸発器として動作し、室内空気と膨張弁15で膨張した冷媒との間で熱交換を行って冷媒を加熱する。
冷凍サイクル装置10は、さらに、制御装置17を備える。
制御装置17は、例えば、マイクロコンピュータである。図1及び図2では、制御装置17と圧縮機12との接続しか示していないが、制御装置17は、圧縮機12だけでなく、冷媒回路11a,11bに接続された各要素に接続される。制御装置17は、各要素の状態を監視したり、制御したりする。
冷媒回路11a,11bを循環する冷媒としては、R407C冷媒、R410A冷媒、R1234yf冷媒等、任意の冷媒を使用することができる。
図3は、圧縮機12の縦断面図である。図4は、図3のA−A断面図である。なお、図3及び図4において、断面を表すハッチングは省略している。また、図4では、密閉容器20の内側のみを示している。
本実施の形態において、圧縮機12は、1気筒のロータリ圧縮機である。なお、圧縮機12が多気筒のロータリ圧縮機、或いは、スクロール圧縮機であっても、本実施の形態を適用することができる。
図3に示すように、圧縮機12は、密閉容器20と、圧縮機構30と、電動機40と、クランク軸50とを備える。
密閉容器20は、容器の例である。密閉容器20には、冷媒を吸入するための吸入管21と、冷媒を吐出するための吐出管22とが取り付けられている。密閉容器20は、高さ方向の一端が開口された容器本体26と、容器本体26の開口された一端を塞ぐように容器本体26に取り付けられる容器蓋27とからなる。
圧縮機構30は、密閉容器20の内側に収納される。具体的には、圧縮機構30は、密閉容器20の内側下部に設置される。圧縮機構30は、電動機40によって駆動される。圧縮機構30は、吸入管21に吸入された冷媒を圧縮する。
電動機40も、密閉容器20の内側に収納される。具体的には、電動機40は、密閉容器20の内側で、圧縮機構30により圧縮された冷媒が吐出管22から吐出される前に通過する位置に設置される。即ち、電動機40は、密閉容器20の内側で、圧縮機構30の上方に設置される。電動機40は、集中巻のモータである。なお、電動機40が分布巻のモータであっても、本実施の形態を適用することができる。
密閉容器20の底部には、圧縮機構30の各摺動部を潤滑するための冷凍機油25が貯留されている。冷凍機油25は、クランク軸50の回転に伴い、クランク軸50の下部に設けられたオイルポンプによって汲み上げられ、圧縮機構30の各摺動部へ供給される。冷凍機油25としては、例えば、合成油であるPOE(ポリオールエステル)、PVE(ポリビニルエーテル)、AB(アルキルベンゼン)が使用される。
以下では、圧縮機構30の詳細について説明する。
図3及び図4に示すように、圧縮機構30は、シリンダ31と、ローリングピストン32と、ベーン36と、主軸受33と、副軸受34とを備える。
シリンダ31の外周は、平面視略円形である。シリンダ31の内部には、平面視略円形の空間であるシリンダ室62が形成される。シリンダ31は、軸方向両端が開口している。
シリンダ31には、シリンダ室62につながり、半径方向に延びるベーン溝61が設けられる。ベーン溝61の外側には、ベーン溝61につながる平面視略円形の空間である背圧室63が形成される。
図示していないが、シリンダ31には、冷媒回路11a,11bからガス冷媒が吸入される吸入ポートが設けられる。吸入ポートは、シリンダ31の外周面からシリンダ室62に貫通している。
図示していないが、シリンダ31には、シリンダ室62から圧縮された冷媒が吐出される吐出ポートが設けられる。吐出ポートは、シリンダ31の上端面を切り欠いて形成されている。
ローリングピストン32は、リング状である。ローリングピストン32は、シリンダ室62内で偏心運動する。ローリングピストン32は、クランク軸50の偏心軸部51に摺動自在に嵌合する。
ベーン36の形状は、平坦な略直方体である。ベーン36は、シリンダ31のベーン溝61内に設置される。ベーン36は、背圧室63に設けられるベーンスプリング37によって常にローリングピストン32に押し付けられている。密閉容器20内が高圧であるため、圧縮機12の運転が開始すると、ベーン36の背圧室63側の面であるベーン背面に密閉容器20内の圧力とシリンダ室62内の圧力との差による力が作用する。このため、ベーンスプリング37は、主に密閉容器20内とシリンダ室62内の圧力に差がない圧縮機12の起動時に、ベーン36をローリングピストン32に押し付ける目的で使用される。
主軸受33は、側面視略逆T字状である。主軸受33は、クランク軸50の偏心軸部51よりも上の部分である主軸部52に摺動自在に嵌合する。主軸受33は、シリンダ31のシリンダ室62及びベーン溝61の上側を閉塞する。
副軸受34は、側面視略T字状である。副軸受34は、クランク軸50の偏心軸部51よりも下の部分である副軸部53に摺動自在に嵌合する。副軸受34は、シリンダ31のシリンダ室62及びベーン溝61の下側を閉塞する。
図示していないが、主軸受33は、吐出弁を備える。主軸受33の外側には、吐出マフラ35が取り付けられる。吐出弁を介して吐出される高温かつ高圧のガス冷媒は、一旦吐出マフラ35に入り、その後吐出マフラ35から密閉容器20内の空間に放出される。なお、吐出弁及び吐出マフラ35は、副軸受34、或いは、主軸受33と主軸受33との両方に設けられてもよい。
シリンダ31、主軸受33、副軸受34の材質は、ねずみ鋳鉄、焼結鋼、炭素鋼等である。ローリングピストン32の材質は、例えば、クロム等を含有する合金鋼である。ベーン36の材質は、例えば、高速度工具鋼である。
密閉容器20の横には、吸入マフラ23が設けられる。吸入マフラ23は、冷媒回路11a,11bから低圧のガス冷媒を吸入する。吸入マフラ23は、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ31のシリンダ室62に入り込むことを抑制する。吸入マフラ23は、シリンダ31の吸入ポートに吸入管21を介して接続される。吸入マフラ23の本体は、溶接等により密閉容器20の側面に固定される。
以下では、電動機40の詳細について説明する。
本実施の形態において、電動機40は、ブラシレスDC(Direct・Current)モータである。なお、電動機40が誘導電動機等、ブラシレスDCモータ以外のモータであっても、本実施の形態を適用することができる。
図3に示すように、電動機40は、略円筒状の固定子41と、略円柱状の回転子42とを備える。
固定子41は、密閉容器20の内周面に当接して固定される。回転子42は、固定子41の内側に0.3〜1mm程度の空隙を介して設置される。
固定子41は、固定子鉄心43と、巻線44とを備える。固定子鉄心43は、鉄を主成分とする、厚さが0.1〜1.5mmの複数枚の電磁鋼板を一定の形状に打ち抜き、軸方向に積層し、カシメや溶接等により固定して製作される。巻線44は、固定子鉄心43に絶縁部材47を介して集中巻で巻かれている。巻線44は、芯線と、芯線を覆う少なくとも1層の被膜とからなる。芯線の材質は、例えば、銅である。被膜の材質は、例えば、AI(アミドイミド)/EI(エステルイミド)である。絶縁部材47の材質は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、フェノール樹脂である。巻線44には、リード線45が接続されている。
回転子42は、回転子鉄心46と、図示していない永久磁石とを備える。回転子鉄心46は、固定子鉄心43と同様に、鉄を主成分とする、厚さが0.1〜1.5mmの複数枚の電磁鋼板を一定の形状に打ち抜き、軸方向に積層し、カシメや溶接等により固定して製作される。永久磁石は、回転子鉄心46に形成される複数の挿入孔に挿入される。永久磁石は、磁極を形成する。永久磁石としては、例えば、フェライト磁石、希土類磁石が使用される。
永久磁石が軸方向に抜けないようにするために、回転子42の軸方向両端である回転子上端及び回転子下端には、それぞれ上端板48及び下端板49が設けられる。上端板48及び下端板49は、回転バランサを兼ねる。上端板48及び下端板49は、図示していない複数の固定用リベット等により回転子鉄心46に固定されている。
図示していないが、回転子鉄心46の平面視中心には、クランク軸50の主軸部52が焼き嵌め又は圧入される軸孔が形成されている。回転子鉄心46の軸孔の周囲には、略軸方向に貫通する複数の貫通孔が形成されている。それぞれの貫通孔は、吐出マフラ35から密閉容器20内の空間へ放出されるガス冷媒の通路の1つとなる。
図示していないが、電動機40が誘導電動機として構成される場合には、回転子鉄心46に形成される複数のスロットにアルミニウムや銅等で形成される導体が充填又は挿入される。そして、導体の両端をエンドリングで短絡したかご形巻線が形成される。
密閉容器20の頂部には、インバータ装置等の外部電源と接続する端子24が取り付けられている。端子24は、例えば、ガラス端子である。端子24は、例えば、溶接により密閉容器20に固定されている。端子24には、電動機40からのリード線45が接続される。
密閉容器20の頂部には、軸方向両端が開口した吐出管22が取り付けられている。圧縮機構30から吐出されるガス冷媒は、密閉容器20内の空間から吐出管22を通って外部の冷媒回路11a,11bへ吐出される。
詳細については後述するが、電動機40の固定子41の外周面71には、凹部72が形成される。密閉容器20の内周面81には、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定するために、凹部72に入り込む凸部82が形成される。
以下では、圧縮機12の動作について説明する。
端子24からリード線45を介して電動機40の固定子41に電力が供給される。これにより、固定子41の巻線44に電流が流れ、巻線44から磁束が発生する。電動機40の回転子42は、巻線44から発生する磁束と、回転子42の永久磁石から発生する磁束との作用によって回転する。回転子42の回転によって、回転子42に固定されたクランク軸50が回転する。クランク軸50の回転に伴い、圧縮機構30のローリングピストン32が圧縮機構30のシリンダ31のシリンダ室62内で偏心回転する。シリンダ31とローリングピストン32との間の空間は、圧縮機構30のベーン36によって2つに分割されている。クランク軸50の回転に伴い、それらの2つの空間の容積が変化する。一方の空間では、徐々に容積が拡大することにより、吸入マフラ23から低圧のガス冷媒が吸入される。他方の空間では、徐々に容積が縮小することにより、中のガス冷媒が圧縮される。圧縮され、高圧かつ高温となったガス冷媒は、吐出マフラ35から密閉容器20内の空間に吐出される。吐出されたガス冷媒は、さらに、電動機40を通過して密閉容器20の頂部にある吐出管22から密閉容器20の外へ吐出される。密閉容器20の外へ吐出された冷媒は、冷媒回路11a,11bを通って、再び吸入マフラ23に戻ってくる。
図示していないが、圧縮機12がスイング式のロータリ圧縮機として構成される場合には、ベーン36が、ローリングピストン32と一体に設けられる。クランク軸50が駆動されると、ベーン36は、ローリングピストン32に回転自在に取り付けられた支持体の受入溝に沿って出入りする。ベーン36は、ローリングピストン32の回転に従って揺動しながら半径方向へ進退することによって、シリンダ室62の内部を圧縮室と吸入室とに区画する。支持体は、横断面が半円形状の2つの柱状部材で構成される。支持体は、シリンダ31の吸入口と吐出口との中間部に形成された円形状の保持孔に回転自在に嵌められる。
以下では、電動機40の固定子41の固定子鉄心43、及び、密閉容器20の構成について順番に説明する。
図5は、電動機40の固定子41の固定子鉄心43の斜視図である。図6は、電動機40の固定子41の固定子鉄心43の平面図である。
図5及び図6に示すように、本実施の形態では、固定子鉄心43の外周面71の円周方向における複数箇所に、円周方向に沿って並ぶ2つの凹部72が形成され、当該2つの凹部72の間に切り欠き73が形成される。なお、固定子鉄心43の外周面71は、電動機40の固定子41の外周面に相当する。
それぞれの凹部72は、軸方向に沿って溝状に延びている。
それぞれの切り欠き73は、吐出マフラ35から密閉容器20内の空間へ放出されるガス冷媒の通路の1つとなる。それぞれの切り欠き73は、電動機40の上から密閉容器20の底部に戻る冷凍機油25の通路にもなる。
固定子鉄心43は、複数の分割鉄心74が円周方向に連結されて構成される。即ち、本実施の形態では、電動機40の固定子41が、円周方向に連結されて固定子鉄心43を構成する複数の分割鉄心74を有する。それぞれの分割鉄心74には、ティース75が形成される。ティース75は、根元から一定の幅で半径方向の内側に延び、先端において幅が広がった形状となっている。ティース75の一定の幅で延びている部分には、巻線44が巻かれる。巻線44に電流が流されると、巻線44が巻きつけられたティース75が磁極となる。磁極の方向は、巻線44に流される電流の方向によって決まる。
図5及び図6では、一例として、外周面71の円周方向における9箇所に2つの凹部72と切り欠き73とが形成された固定子鉄心43を示しているが、2つの凹部72と切り欠き73とが形成される箇所の数は適宜変更することができる。なお、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に確実に固定するため、外周面71の円周方向における3箇所以上に2つの凹部72と切り欠き73とが形成されることが望ましい。
また、一例として、2つの凹部72に対して、当該2つの凹部72の間に1つの切り欠き73が形成される構成を示しているが、当該2つの凹部72の間に2つ以上の切り欠き73が形成される構成を採用してもよい。
また、一例として、9個のティース75が形成された固定子鉄心43を示しているが、ティース75の個数は適宜変更することができる。
また、一例として、複数の分割鉄心74で構成された固定子鉄心43を示しているが、一体の固定子鉄心43が用いられてもよい。
また、一例として、全てのティース75に、或いは、全ての分割鉄心74に2つの凹部72と切り欠き73とが形成される構成を示しているが、一部のティース75のみに、或いは、一部の分割鉄心74のみに2つの凹部72と切り欠き73とが形成されてもよい。なお、全ての分割鉄心74に2つの凹部72と切り欠き73とが形成される場合は、一部の分割鉄心74のみに2つの凹部72と切り欠き73とが形成される場合と比べて、分割鉄心74の形状の統一化によるコスト削減が可能である。
また、一例として、それぞれの凹部72が軸方向の全体に亘って溝状に延びる構成を示しているが、それぞれの凹部72が軸方向の一部のみに延びる構成、即ち、それぞれの凹部72が穴として形成される構成を採用してもよい。それぞれの凹部72が軸方向の全体に亘って溝状に延びる場合は、それぞれの凹部72が穴として形成される場合と比べて、積層される電磁鋼板の形状の統一化によるコスト削減、或いは、電磁鋼板の組み間違えのリスク回避が可能である。
図5及び図6に示したように、凹部72は、近接した状態の2つが1組となって設けられている。以下では、2つの凹部72と、当該2つの凹部72によって挟まれた部位とを合わせた、固定子鉄心43の外周面71の部分的な領域を固定部76と呼ぶものとする。本実施の形態では、固定部76が、固定子鉄心43の外周面71にほぼ等間隔で9個設けられている。よって、凹部72は、全部で18個ある。18個のうち、6個が電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定するために使用される。
図7は、密閉容器20の部分斜視図である。図8は、密閉容器20の横断面図である。なお、図7は、密閉容器20の軸方向における一部のみを示している。密閉容器20の軸方向とは、密閉容器20の高さ方向のことである。密閉容器20の軸方向は、電動機40の固定子41の軸方向と平行である。
図7及び図8に示すように、本実施の形態では、密閉容器20の内周面81の円周方向における複数箇所に、円周方向に沿って並ぶ2つの凸部82が形成される。2つの凸部82が図5及び図6に示した2つの凹部72に入り込んで電動機40の固定子41の切り欠き73が形成された部分を挟み込むことで、密閉容器20の内側に電動機40の固定子41が固定される。
密閉容器20の外周面83において、それぞれの凸部82に対応する位置には、それぞれの凸部82を内周面81に形成するために外周面83が押し込まれて形成された加工穴84がある。
図7及び図8では、一例として、内周面81の円周方向における3箇所に2つの凸部82が形成された密閉容器20を示しているが、2つの凸部82が形成される箇所は適宜変更することができる。なお、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に確実に固定するため、内周面81の円周方向における3箇所以上に、2つの凸部82が形成されることが望ましい。
図7及び図8に示したように、凸部82は、近接した状態の2つが1組となって設けられるが、後述するように、凸部82は、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に設置した状態で密閉容器20の外周面83を密閉容器20の内側に押し込むことで形成される。組となる2つの凸部82は、組となる2つの凹部72に入り込んで、2つのかしめ点を形成する。以下では、これらのかしめ点を形成する2つの凸部82を合わせた、密閉容器20の内周面81の部分的な領域をかしめ部85と呼ぶものとする。本実施の形態では、かしめ部85が、密閉容器20の内周面81及び外周面83にほぼ等間隔で3個設けられている。よって、凸部82は、全部で6個ある。
図9は、電動機40の固定子41の分割鉄心74の平面図である。
前述したように、本実施の形態では、電動機40の固定子41及び密閉容器20の互いに対応する複数箇所で、2つの凸部82が2つの凹部72に入り込んで電動機40の固定子41の切り欠き73が形成された部分を挟み込むことで、密閉容器20の内側に電動機40の固定子41が固定される。切り欠き73がない場合、2つの凸部82で2つの凹部72の間の部分が締め付けられることにより、図9に示すBの箇所、即ち、分割鉄心74の継ぎ目の半径方向内側の端部に応力が集中する。Bの箇所は、本来、ティース75に形成される磁極からの磁束が流れる位置であるため、この箇所に応力が集中するとヒステリシス損失が発生する。ヒステリシス損失とは、応力が集中する箇所の磁気抵抗が増大することにより、その箇所で磁束が流れにくくなって損失が発生することをいう。ヒステリシス損失は、いわゆる鉄損であり、電動機効率を低下させる要因となる。一方、本実施の形態では、2つの凹部72の間に切り欠き73があるため、図9に示すCの箇所、即ち、切り欠き73の半径方向内側の隅部に応力を集中させることができる。Cの箇所は、磁極からの磁束の流路から離れた位置であるため、この箇所に応力が集中してもヒステリシス損失は発生しにくい。また、Cの箇所に応力が集中すれば、Bの箇所にかかる応力を大幅に低減させることができる。したがって、鉄損の発生を回避し、電動機効率の低下を抑制することができる。
また、図9に示すように、本実施の形態では、固定子鉄心43を構成する分割鉄心74の外周面71の切り欠き73と2つの凹部72のそれぞれとの間の領域に、分割鉄心74の外周面71の他の領域よりも半径方向の外側に突出する突出部77が形成される。密閉容器20の内周面81が突出部77に接触することで、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に、より確実に固定することが可能となる。しかも、固定子41の外周面71全体が密閉容器20の内周面81に接触する代わりに、突出部77が密閉容器20の内周面81に接触することで、固定子41の内径真円度が向上する。即ち、本実施の形態では、密閉容器20に形成された2つの凸部82が固定子41の切り欠き73が形成された部分を挟み込んでいるため、密閉容器20から固定子41に作用する締め付け力が低くても、固定子41を密閉容器20の内側に固定することができる。よって、密閉容器20の内周面81と固定子41の外周面71とを接触させつつ、その接触面積を小さくすることで、固定子41の確実な固定と、固定子41の内径真円度の向上とを両立させることが可能となる。固定子41の外周面71において、密閉容器20の内周面81と接触する領域を突出部77に限定することで、接触面積を小さくすることができる。
本実施の形態では、固定子鉄心43を構成する分割鉄心74の外周面71の切り欠き73と2つの凹部72のそれぞれとの間の領域が、切り欠き73につながり突出部77が形成されない非接触領域78と、2つの凹部72のいずれかにつながり突出部77が形成される接触領域79とに分かれる。なお、非接触領域78と接触領域79との位置関係を逆にしてもよいが、非接触領域78が凹部72の側にある場合、凸部82が根元まで凹部72に入り込まなくなる。よって、凸部82による締め付け力を増大させるには、接触領域79を凹部72の側に設けるほうが望ましい。非接触領域78と接触領域79との面積比は、任意に設定することができる。
本実施の形態では、電動機40の固定子41が焼き嵌めにより密閉容器20の内側に嵌められることで、密閉容器20の内周面81が突出部77に接触する。ここで、焼き嵌めとは、固定子41の外径よりも小さい内径の密閉容器20を加熱し、熱膨張させた状態で、固定子41を密閉容器20に嵌め込み、その後、密閉容器20が熱収縮することを利用して固定子41を密閉容器20に固定する手法のことである。焼き嵌めのみによって電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定する場合は、固定子鉄心43の内径真円度が悪化することにより、固定子41と回転子42との間のエアギャップが不均一となり、磁気アンバランス音が引き起こされるおそれがある。しかし、本実施の形態では、電動機40の固定子41及び密閉容器20の互いに対応する複数箇所で、2つの凸部82が2つの凹部72に入り込んで電動機40の固定子41の切り欠き73が形成された部分を挟み込んでいるため、焼き嵌めによる固定の度合いを低くすることができる。即ち、固定子鉄心43の外周面71において、焼き嵌めによる締め付け箇所を接触領域79のみに留めることができる。仮に非接触領域78がなく、分割鉄心74の外周面71の切り欠き73と2つの凹部72のそれぞれとの間の領域全体が密閉容器20の内周面81と接触する構成を採用したとしても、焼き嵌めのみによって電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定する構成よりも、焼き嵌めによる締め付け箇所の面積を低減することができる。したがって、固定子鉄心43の内径真円度を向上させることができ、磁気アンバランス音の発生を抑制することが可能となる。なお、電動機40の固定子41が冷やし嵌めにより密閉容器20の内側に嵌められても構わない。
本実施の形態では、2つの凹部72が複数の分割鉄心74のそれぞれの円周方向における中央位置の両側に分かれて配置される。なお、図9では、分割鉄心74の円周方向における中央位置を示す中心線を一点鎖線Dによって表している。
なお、電動機40の固定子41の2つの凹部72に切り欠き73がなくてもよい。切り欠き73の有無に関わらず、電動機40の固定子41及び密閉容器20の互いに対応する複数箇所で、2つの凸部82が2つの凹部72に入り込んで固定子41の2つの凹部72の間の部分を挟み込むことで、密閉容器20の内側に電動機40の固定子41が固定される。
以下では、圧縮機12を製造する装置の構成、圧縮機12を製造する方法、当該装置及び当該方法により得られる効果について順番に説明する。
***構成の説明***
図10は、圧縮機12を製造する装置である、本実施の形態に係る圧縮機製造装置90及び圧縮機12の平面図である。図11は、圧縮機製造装置90及び圧縮機12の縦断面図である。なお、図10及び図11は、製造途中の圧縮機12を簡略化して示している。
図10及び図11に示すように、圧縮機製造装置90は、押し付けプレス機である押し付け治具91と、内張治具である押さえ治具95とを備える。
押し付け治具91は、密閉容器20の外側から密閉容器20の外周面83に半径方向の力Fを作用させることで、後述するように、密閉容器20の内周面81に円周方向に沿って並ぶ2つの凸部82を形成し、2つの凸部82を2つの凹部72に入り込ませる。このとき、密閉容器20は、容器蓋27が取り付けられておらず、容器本体26だけの状態である。押さえ治具95は、固定子41の内側から固定子41の内周面70に半径方向の力Gを作用させることで、後述するように、押し付け治具91からの力Fによる固定子41の内周面70の変形を抑制する。
前述したように、2つの凹部72は、固定子41の外周面71の円周方向における複数箇所に形成される。そのため、押し付け治具91は、密閉容器20の外周面83における当該複数箇所に対応する位置に半径方向の力Fを作用させる。押さえ治具95は、固定子41の内周面70における当該複数箇所に対応する位置に半径方向の力Gを作用させる。本実施の形態では、押し付け治具91は、密閉容器20の外周面83の3箇所に半径方向の力Fを作用させる。押さえ治具95は、固定子41の内周面70における少なくとも3箇所に半径方向の力Gを作用させる。
押さえ治具95は、駆動機構96と、駆動機構96により半径方向に駆動され、固定子41の内周面70に接触する外型97とからなる。前述した半径方向の力Gは、固定子41の内周面70に対する外型97の押圧力である。この押圧力は、駆動機構96により外型97が半径方向の外側に駆動されるほど大きくなり、駆動機構96により外型97が半径方向の内側に駆動されるほど小さくなる。よって、半径方向の力Gは、駆動機構96により適宜調整することができる。
駆動機構96としては、外型97を半径方向に駆動できるものであれば、任意の機構を採用することができる。例えば、油圧又は空気圧により外型97を半径方向に駆動する機構を採用してもよいし、後述する実施の形態2又は3のような機構を採用してもよい。
***方法の説明***
圧縮機12を製造する方法である、本実施の形態に係る圧縮機製造方法が備える工程として、以下のようなものがある。
・収納工程:圧縮機構30を密閉容器20の内側に収納する工程である。なお、密閉容器20は、容器蓋27が取り付けられておらず、容器本体26だけの状態である。
・設置工程:電動機40の固定子41を、密閉容器20の内側に設置する工程である。
・加工工程:密閉容器20の内周面81の円周方向における複数箇所を加熱し、加熱した複数箇所を加工して、2つの凹部72に入り込む2つの凸部82を形成する工程である。この工程では、押し付け治具91によって密閉容器20の外側から密閉容器20の外周面83に半径方向の力Fを作用させることで、密閉容器20の内周面81に円周方向に沿って並ぶ2つの凸部82を形成し、これら2つの凸部82を2つの凹部72に入り込ませる。同時に、押さえ治具95によって固定子41の内側から固定子41の内周面70に半径方向の力Gを作用させることで、押し付け治具91からの力Fによる固定子41の内周面70の変形を抑制する。
・固定工程:2つの凸部82を熱収縮させて、2つの凸部82により電動機40の固定子41の切り欠き73が形成された部分を挟み込むことで、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定する工程である。
・閉塞工程:容器本体26の開口された一端を容器蓋27で閉塞する工程である。
上記5つの工程は、収納工程、設置工程、加工工程、固定工程、閉塞工程の順番に実施される。
以下、加工工程及び固定工程について説明する。
図12及び図13及び図14は、電動機40の固定子41を密閉容器20の内側に固定するための各工程における電動機40の固定子41及び密閉容器20の部分断面図である。図12及び図13及び図14は、具体的には、固定子41の固定子鉄心43の断面の一部、及び、密閉容器20の容器本体26の断面の一部を示している。
加工工程では、図12に示すように、密閉容器20の外周面83における、各固定部76の2つの凹部72の間の中心位置に対応する位置を中心とする一定の範囲が、密閉容器20における、各固定部76に対向する部分を密閉容器20の外側から局所的に加熱する。加熱により密閉容器20を熱膨張させた後、図13に示すように、密閉容器20の外側から2つの凹部72に向けて押し付け治具91を真っ直ぐに押し付ける。具体的には、凹部72の幅よりもわずかに小さい幅を有し、端面が四角形状の平坦面である、押し付け治具91の2つの先端部92を同時に2つの凹部72に向けて押し付ける。これにより、図14に示すように、密閉容器20の外周面83に、押し付け治具91の先端部92と幅が等しい加工穴84が形成される。密閉容器20の内周面81には、2つの凹部72に入り込む2つの凸部82が形成される。即ち、2つのかしめ点を有するかしめ部85が形成される。押し付け治具91は、3つの固定部76のそれぞれに対して1つずつ用いられる。即ち、3つの押し付け治具91が用いられて、3つのかしめ部85が形成される。3つのかしめ部85は、3つの押し付け治具91が固定子鉄心43の外周面71の3箇所にほぼ同時に押し付けられて形成される。
固定工程では、図14に示すように、熱膨張した密閉容器20が冷却する。密閉容器20が冷却すると、熱収縮により2つの凸部82が、加熱された範囲の中心に向かって引き寄せられる。そのため、2つの凸部82によって、固定部76の近接する2つの凹部72が円周方向に締め付けられる。これにより、固定子鉄心43を含む電動機40の固定子41が密閉容器20に固定される。従来の焼き嵌めによる固定方法のように、半径方向の力によって電動機40の固定子41が固定されるのではなく、円周方向の力によって電動機40の固定子41が固定されるため、固定子鉄心43に与える歪を小さくすることができる。また、従来のアークスポット溶接及びレーザ溶接による固定方法と異なり、密閉容器20に穴あけ加工を施さないため、異物が混入したり、冷媒が漏れたりするおそれもない。
図15は、図14のE矢視図である。即ち、図15は、図14に示したE方向から密閉容器20の外周面83を見た図である。
図15に示すように、加工工程では、密閉容器20が局所的に加熱され、例えば円形の加熱範囲93で熱の影響により密閉容器20が軟化する。加熱範囲93に押し付け治具91の2つの先端部92が押し付けられると、密閉容器20の外周面83に、近接する2つの加工穴84が形成される。密閉容器20の内周面81の対応する位置には、2つの凸部82が形成される。固定工程では、密閉容器20が冷却し、2つの凸部82が加熱中心94に向かって引き寄せられる。
加工工程において、押し付け治具91の押し込み量H(図14参照)を増加させていくと、密閉容器20の最小肉厚部の厚さK(図14参照)は減少していく。ここで、最小肉厚部の厚さKとは、密閉容器20に形成される凸部82の根元と加工穴84との間の距離のことである。加工穴84の深さJ(図14参照)の増加に伴い、押し込み量Hは大きくなる。なお、加工穴84の深さJは、基本的には凸部82の内周面81からの突出長さに等しい。そして、最小肉厚部の厚さKは、加工穴84の深さJによって決まる。押し込み量Hを確保するうえで加工穴84は必ず形成され、最小肉厚部の厚さKは、密閉容器20の板厚よりも、ほぼ加工穴84の深さJだけ小さい値となる。押し込み量Hを大きくするために、加工穴84の深さJを増大させると、密閉容器20の最小肉厚部の厚さKが薄くなってしまい、密閉容器20に内圧が作用したときに、その最小肉厚部から冷媒が漏れてしまうおそれがある。よって、密閉容器20に要求される耐圧強度を満足できる範囲で、加工穴84の深さJの最大許容値が決定される。最小肉厚部の厚さKが密閉容器20の板厚の0.5倍以上であれば、通常、密閉容器20の耐圧強度を十分満足することができる。例えば、密閉容器20の板厚が2.6mmであれば、加工穴84の深さJを1.3mm以下にしておけばよい。したがって、押し込み量Hも密閉容器20の板厚の0.5倍以下となる。
本実施の形態では、固定子41の外周面71の3箇所で固定部76を形成しているが、3箇所の配置は120°の等ピッチとすることが望ましい。図13に示したように、加工工程において、押し付け治具91の先端部92は、密閉容器20に直接接触して密閉容器20を塑性変形する。これにより、かしめ部85が3箇所に形成される。1箇所で2つのかしめ点が形成されるので、かしめ点数は合計で6つとなる。1つのかしめ部85につき、1台の押し付け治具91が使用される。即ち、押し付け治具91は、合計で3台設置される。図10に示したように、押し付け治具91から密閉容器20に与えられる力Fは、密閉容器20の中心に向かって作用する。3つの力Fの大きさは等しい。
図16は、加工工程における圧縮機製造装置90の押さえ治具95及び電動機40の固定子41の平面図である。図16は、具体的には、押さえ治具95の駆動機構96及び外型97と、固定子41の固定子鉄心43とを示している。
電磁鋼板の積層で形成されている固定子41は剛性が低いため、密閉容器20の外周面83に半径方向に押し付け治具91の先端部92を押し付ける際に固定子41の内周面70が変形し、固定子41の内径真円度が悪化するおそれがある。その対策として、本実施の形態では、図16に示すように、固定子41の内周面70に半径方向に力Gを作用させ、固定子41の内周面70の変形を抑制するために押さえ治具95を用いる。
押さえ治具95は、駆動機構96によって固定子41の半径方向に駆動され、力Gを作用させる外型97を有している。この外型97の少なくとも一部は、固定子鉄心43に形成されているティース75の数と同数に分割されている。外型97の分割された部分の外周形状は、固定子41の内周面70に接触するために、ティース75の内周形状と同じ円弧形状になっている。押さえ治具95の外型97の分割された部分は、それぞれ対向するティース75を適宜設定される力Gで押圧する。なお、押さえ治具95の外型97の分割された部分のうち、一部のみがティース75に接触し、残りがティース75に接触しなくてもよい。即ち、G=0となる箇所があってもよい。
***効果の説明***
以下、本実施の形態の奏する効果について説明する。
本実施の形態では、圧縮機製造装置90の押さえ治具95が、固定子41の内側から固定子41の内周面70に半径方向の力Gを作用させることで、押し付け治具91からの力Fによる固定子41の内周面70の変形を抑制する。このため、本実施の形態によれば、固定子41の内径真円度が向上する。
本実施の形態では、固定子41の外周面71に設けた2つの凹部72に入り込む2つの凸部82を形成し、2つの凸部で2つの凹部72の間の部分を挟み込んで固定する。このため、本実施の形態によれば、異物が発生するアークスポット溶接又はレーザ溶接を不要とすることができ、異物量の少ない、より信頼性の高い圧縮機12を製造することができる。また、固定子41の保持力を十分に確保することができるため、焼き嵌めによる固定子41の外周面71と密閉容器20の内周面81との接触面積を大幅に低減することが可能となる。よって、焼き嵌めによる固定子41に対する締め付け力を大幅に低減することができ、より性能の高い圧縮機12を製造することができる。
本実施の形態では、固定子41の外周面71に設けた2つの凹部72に入り込む2つの凸部82を形成する際に、固定子41の内側から力Gを作用させることで固定子41の内径真円度の悪化を低減することができる。このため、本実施の形態によれば、運転中に磁気アンバランス音が発生しにくい、より信頼性の高い圧縮機12を製造することができる。
本実施の形態では、圧縮機12の密閉容器20に形成された2つの凸部82が、圧縮機12の電動機40の固定子41に形成された2つの凹部72に入り込んで、これら2つの凹部72の間の切り欠き73が形成された部分を挟み込むことで、電動機40の固定子41が密閉容器20の内側に固定される。切り欠き73があることで損失の要因となる応力集中が緩和される。また、固定子41の外周面71の切り欠き73と2つの凹部72のそれぞれとの間の領域に、固定子41の外周面71の他の領域よりも半径方向の外側に突出する突出部77が形成される。固定子41の外周面71全体が密閉容器20の内周面81に接触する代わりに、突出部77が密閉容器20の内周面81に接触することで、固定子41の内径真円度が向上する。したがって、本実施の形態によれば、電動機効率の低下を抑制することができる。
本実施の形態によれば、電動機40の固定子41の鉄損の発生及び内径真円度の悪化を最小限に抑えることで、電動機効率が高く騒音の小さい密閉型電動圧縮機を得ることができる。長期的な使用に対しても、電動機40の固定子41のがたつきによる騒音や振動の増加等の不具合が生じない信頼性が高く、固定子41の応力集中による鉄損を低減し、電気効率の優れた密閉型電動圧縮機を提供することができる。
本実施の形態によれば、密閉容器20の近接した2つの凸部82にて電動機40の固定子41の2つの凹部72の間に十分な挟み込み力を発生させることで、密閉容器20に電動機40の固定子41を強固に固定することができる。密閉型電動圧縮機の長期的な使用に対しても、稼働中に発生する普通及び過剰な力に耐え、電動機40の固定子41のがたつきによる騒音や振動の増加等の不具合が生じない信頼性の高い圧縮機12を得ることができる。また、電動機40の固定子41が受ける力を減少させ、応力集中による鉄損の発生を抑制することができるので、性能の向上につながる。
密閉容器20の材料は、一般的に鉄である。鉄は、600℃辺りから、急激に降伏点が低下する。このように急激に降伏点が低下し始める温度を、ここでは軟化する温度と呼ぶことにする。つまり、鉄が軟化する温度は600℃ということになる。密閉容器20の材料の降伏点を下げ、密閉容器20を効率よく一定の形状に変形させるため、加熱時の温度は材料が軟化する温度以上で融点未満が良い。加熱により降伏点を低下させることで、密閉容器20を塑性変形させて凸部82を形成した後における密閉容器20の半径方向のスプリングバック、即ち、凸部82の戻りが抑制される。また、効率よく、しかも確実に一定の押し込み量H(図14参照)を確保することができる。ここで押し込み量Hとは、凹部72に凸部82が入り込む深さのことである。上記のように、密閉容器20の材料は鉄であり、その軟化する温度は600℃である。そして、鉄の融点は1560℃程度である。そのため、局所加熱する加熱温度は、600℃以上1500℃以下が望ましい。もちろん材料が鉄以外であれば、加熱温度は変化し、その材料の軟化する温度以上で融点未満とすることが望ましい。
加熱範囲93が、押し付け治具91の押し付け部位となる加工穴84を全て含むことで、前述したような密閉容器20の材料の高温時の特性を用いて、凸部82を確実に形成することができる。また、凸部82の形成のための押し込み力が低下し、圧縮機12の組み立て時の固定子鉄心43に発生する歪を低減できる。さらに、密閉容器20の加熱中心94を2つの凹部72の中心に重なる位置とすることで、密閉容器20に2つの凸部82を確実に形成させた後、加熱中心94に向かって熱収縮する2つの凸部82で2つの凹部72を強固に挟み込むことができる。
このように密閉容器20の凸部82が確実に形成され、電動機40の固定子41の凹部72の間を密閉容器20の凸部82が強固に挟み込むことで電動機40の固定子41を固定するため、長期的な圧縮機12の使用に対して、圧縮機12の稼働中に発生する普通及び過剰な力に耐え、がたつきが発生することのない強固な電動機40の固定子41の固定が可能となる。また、固定子41の固定に焼き嵌めを併用する場合にも、固定子41と密閉容器20との焼き嵌めによる接触面積を従来より大幅に低減することができる。
圧縮機12の軸方向に対しては、電動機40の固定子41は密閉容器20の凸部82の挟み込みにより支持され、接線方向に対しては、電動機40の固定子41は密閉容器20の凸部82の挟み込みによる支持だけでなく、密閉容器20の凸部82の剛性でも支持される。固定部76に発生する加速度に応じて必要な固定強度を得られるよう、固定形状を選択すればよい。例えば、凸部82の断面積を増加させたり、固定部76の個数を増やしたりすることで、固定強度を増加させることができる。また、固定子41の凹部72の幅を、軸方向の加速度が発生する圧縮機12の輸送や落下等に対しての抜け強度仕様を満足するように選定することができる。
また、本実施の形態では、固定子鉄心43の複数箇所に溝状の複数の凹部72が形成されているため、固定子鉄心43を同一型の電磁鋼板の積層により形成することができ、多くの型を用意する必要がないため、コストを抑えることができ、さらに組み間違いのリスクも低減することができる。
なお、本実施の形態では、固定子41と密閉容器20とのより高い固定強度を確保するため、前述した設置工程で固定子41と密閉容器20とを焼き嵌めした後に、加工工程及び固定工程を実施しているが、焼き嵌めは必須ではない。
焼き嵌めを行う場合、固定子41と密閉容器20とを焼き嵌めした後に、密閉容器20の外周面83における、固定子41の凹部72に対応する箇所を局所的に加熱する。その後、密閉容器20の外周面83に押し付け治具91を半径方向内向きに押し付け、凹部72に係合する凸部82を密閉容器20に形成する。そして、密閉容器20の冷却による熱収縮により、密閉容器20の複数の凸部82で凹部72間を締め付ける。これにより、固定子41を密閉容器20に強固に固定することができ、かつ、熱収縮による固定のときにがたが発生することなく安定的に固定子41を密閉容器20に固定することができる。
本実施の形態では、固定子41と熱収縮したときの密閉容器20の凸部82との間に微小ながたが発生しない程度の強度で固定子41を密閉容器20に焼き嵌めればよいので、固定子41と密閉容器20の焼き嵌めによる接触面積を従来の焼き嵌めのみにより固定する場合より大幅に低減させることができる。そのため、固定子41に作用する応力を低減することができ、圧縮機12の性能を向上させることができる。
本実施の形態では、固定子鉄心43が複数のT字型の分割鉄心74を輪状に接合したものになっている。固定子鉄心43の外周面71に形成される凹部72は、それぞれの分割鉄心74に設けられている。仮に、近接する2つの凹部72が2つの分割鉄心74に跨って形成されるとすると、対応する2つの凸部82の熱収縮時に作用する力が2つの分割鉄心74を互いに押し当てるように作用するため、固定子鉄心43の内径真円度を悪化させるおそれがある。一方、図9に示したように、近接する2つの凹部72が1つの分割鉄心74の円周方向の中央位置を挟むようにして当該1つの分割鉄心74に形成される場合には、対応する2つの凸部82が熱収縮したときにも、当該1つの分割鉄心74の剛性により良好な内径真円度を保つことができるため、磁気アンバランス音の発生を抑制できる。
本実施の形態では、前述したように、固定子41の凹部72を溝状に設けるかわりに、例えば、四角形状の下穴として設けてもよい。その場合においても、同様に固定子41を密閉容器20に固定することができる。例えば、固定子41の四角形状の下穴は、2種類の電磁鋼板を積層することにより形成することができる。固定子41の下穴を四角形状とすることで、固定子41が密閉容器20の凸部82による挟み込みだけでなく、密閉容器20の凸部82自身の剛性でも支持されるため、より強固に固定子41を密閉容器20に固定することができる。
実施の形態2.
本実施の形態について、主に実施の形態1との差異を説明する。
図17は、本実施の形態に係る圧縮機製造装置90及び圧縮機12の縦断面図である。なお、図17は、図11と同様に、製造途中の圧縮機12を簡略化して示している。
図17に示すように、圧縮機製造装置90の押さえ治具95の駆動機構96は、チャック機構として実装されてもよい。
実施の形態3.
本実施の形態について、主に実施の形態1との差異を説明する。
図18は、本実施の形態に係る圧縮機製造装置90及び圧縮機12の縦断面図である。なお、図18は、図11と同様に、製造途中の圧縮機12を簡略化して示している。
図18に示すように、圧縮機製造装置90の押さえ治具95の駆動機構96は、くさび機構として実装されてもよい。即ち、本実施の形態では、押さえ治具95が、くさび形の引き出し棒98と、引き出し棒98が挿入されるテーパ状の中空部が形成され、固定子41の内周面70に接触する外型97とからなる。引き出し棒98を外型97の中空部から下方に引き出すことで、くさび効果により外型97が半径方向に駆動し、固定子41の内周面70に力Gが作用する。
実施の形態4.
本実施の形態について、主に実施の形態1との差異を説明する。
図19は、本実施の形態に係る圧縮機製造装置90及び圧縮機12の平面図である。図20は、圧縮機製造装置90及び圧縮機12の縦断面図である。なお、図19及び図20は、図10及び図11と同様に、製造途中の圧縮機12を簡略化して示している。図19では、押し付け治具91を省略している。
図19及び図20に示すように、圧縮機製造装置90は、実施の形態1と同様の押し付け治具91及び押さえ治具95に加えて、押し付けプレス機である他の押さえ治具99を備える。
実施の形態1のように、容器本体26を局所加熱後、押し付け治具91で加圧する際、押し付け治具91の加圧、容器本体26の熱収縮等により、容器本体26の開口された端部が変形するおそれがある。本実施の形態では、その変形量を低減するため、固定子41の上端面と密閉容器20の上端面との間を密閉容器20の外側から押さえ治具99でクランプし、力Iを作用させる。
即ち、押し付け治具91は、密閉容器20が加熱された状態で2つの凸部82を形成する。これら2つの凸部82は、密閉容器20が加熱された後に熱収縮することで、固定子41の2つの凹部72の間の部分を挟み込むが、このとき、密閉容器20を変形させる力がはたらく。そのため、本実施の形態では、図19に示すように、押さえ治具99が、密閉容器20の外側から密閉容器20の外周面83に半径方向の力Iを作用させることで、2つの凸部82の熱収縮による密閉容器20の外周面83の変形を抑制する。具体的には、図20に示すように、押さえ治具99は、密閉容器20の軸方向の両端のうち圧縮機構30よりも固定子41に近い一端と固定子41との間に半径方向の力Iを作用させる。ここで、密閉容器20の軸方向の両端のうち圧縮機構30よりも固定子41に近い一端とは、容器本体26の開口された一端のことである。例えば、図20に示すように、押さえ治具99は、固定子41の内周面70における、等間隔で離れた4箇所に半径方向の力Iを作用させる。即ち、4台の押さえ治具99が等間隔に配置され、これらの押さえ治具99によって密閉容器20がクランプされる。これにより、密閉容器20の変形を抑えることができる。なお、半径方向の力Iを作用させる箇所の数、即ち、押さえ治具99の台数は、4つに限らず、2つ以上であればよい。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、これらの実施の形態のうち、いくつかを組み合わせて実施しても構わない。或いは、これらの実施の形態のうち、いずれか1つ又はいくつかを部分的に実施しても構わない。例えば、これらの実施の形態の説明において「部」として説明するもののうち、いずれか1つのみを採用してもよいし、いくつかの任意の組み合わせを採用してもよい。なお、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
本発明の実施の形態に係る圧縮機製造装置は、
固定子を有し、前記固定子の外周面に円周方向に沿って並ぶ2つの凹部が形成される電動機と、前記電動機によって駆動される圧縮機構と、前記固定子及び前記圧縮機構を収納する容器とを備える圧縮機を製造する圧縮機製造装置であって、
前記容器の外側から前記容器の外周面に半径方向の力を作用させることで、前記容器の内周面に円周方向に沿って並ぶ2つの凸部を形成し、前記2つの凸部を前記2つの凹部に入り込ませる押し付け治具と、
前記固定子の内側から前記固定子の内周面に半径方向の力を作用させることで、前記押し付け治具からの力による前記固定子の内周面の変形を抑制する押さえ治具と
を備える。
前記2つの凹部は、前記固定子の外周面の円周方向における複数箇所に形成され、
前記押し付け治具は、前記容器の外周面における前記複数箇所に対応する位置に半径方向の力を作用させ、
前記押さえ治具は、前記固定子の内周面における前記複数箇所に対応する位置に半径方向の力を作用させる。
前記押さえ治具は、駆動機構と、前記駆動機構により半径方向に駆動され、前記固定子の内周面に接触する外型とからなる。
前記押さえ治具は、くさび形の引き出し棒と、前記引き出し棒が挿入されるテーパ状の中空部が形成され、前記固定子の内周面に接触する外型とからなる。
前記押し付け治具は、前記容器が加熱された状態で前記2つの凸部を形成し、
前記2つの凸部は、前記容器が加熱された後に熱収縮することで、前記固定子の前記2つの凹部の間の部分を挟み込み、
前記圧縮機製造装置は、さらに、
前記容器の外側から前記容器の外周面に半径方向の力を作用させることで、前記2つの凸部の熱収縮による前記容器の外周面の変形を抑制する他の押さえ治具を備える。
前記他の押さえ治具は、前記容器の軸方向の両端のうち前記圧縮機構よりも前記固定子に近い一端と前記固定子との間に半径方向の力を作用させる。
本発明の実施の形態に係る圧縮機製造方法は、
固定子を有し、前記固定子の外周面に円周方向に沿って並ぶ2つの凹部が形成される電動機と、前記電動機によって駆動される圧縮機構と、前記固定子及び前記圧縮機構を収納する容器とを備える圧縮機を製造する圧縮機製造方法であって、
押し付け治具によって前記容器の外側から前記容器の外周面に半径方向の力を作用させることで、前記容器の内周面に円周方向に沿って並ぶ2つの凸部を形成し、前記2つの凸部を前記2つの凹部に入り込ませ、
押さえ治具によって前記固定子の内側から前記固定子の内周面に半径方向の力を作用させることで、前記押し付け治具からの力による前記固定子の内周面の変形を抑制する。