以下に本発明を詳細に説明する。但し、この実施の形態は、発明の趣旨をよく理解させため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
(1) 発明の説明
本発明は、水圧転写技術で利用できる無電解めっき用水圧転写フィルム(以下、「本発明の転写フィルム」とも記す)である。
本発明は、水圧転写技術により、プラスチック等の触媒活性の無い非導電性基材に対して、特定の触媒層(触媒組成物)を有する水圧転写フィルム(無電解めっき用水圧転写フィルム)を用いて、触媒層を良好に転写(付着)できる。本発明は、次いで、無電解めっきを行って、その非導電性基材に無電解めっき皮膜を形成させることができる。
(i)大型の成形品に対する優れためっき技術
インモールドによる転写では、転写面積の大きさが制限される場合がある。ロールによる転写では、巾及び長手において、大きさが制限される場合がある。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、大型(大面積)の成形品(非導電性基材)に対して、触媒層を良好に転写(付着)でき、次いで、無電解めっきを行って、その成形品に無電解めっき皮膜を形成させることができる。
(ii)複雑な形状の成形品に対する優れためっき技術
3次元筐体の具体例として、球状成形品、細かい凹凸を有する成形品、穴周りを有する成形品、薄肉な成形品等がある。球状成形品、細かい凹凸を有する成形品等に対して転写する際、その絞り深さ、穴周りの絞り後のめっき皮膜の密着性を確保することが困難である場合がある。また、薄肉な成形品等に対して転写する際、薄肉な成形品を加熱すると、変形(そり)が生じるため、めっき(加飾)することが困難である場合がある。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、平面材料の他に、より大きな(複雑な)3次曲面状の表面や、より深い3次曲面状の表面を有する3次元筐体に対しても、表面が滑らかな無電解めっき皮膜を形成できる。本発明は、より複雑な3次曲面状の表面を有する3次元筐体に対して、金属めっき光沢を施すことが可能である。
(iii)加熱を必要としない優れためっき技術
勘合を有する製品に対して転写する際、製品を加熱すると、変形が生じ、その勘合が合わなくなる場合がある。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、加熱する必要性が無く、勘合を有する製品に対しても良好に転写することができる。また、本発明の転写フィルムを用いると、薄肉な成形品に対して、加熱する必要性が無く、そり等の変形が発生しない。製品に対して、金属めっき光沢(加飾)を施すことが可能である。
水圧転写に使用する材料(転写被基材)は、転写作業で加熱する必要がないために、その材料(転写被基材)の選定幅が広く、耐熱性等を考慮せずに、柔軟な選定が可能である。
(iv)成型品の樹脂や材料に対して優れためっき技術
本発明の転写フィルムを用いると、インモールド転写技術や射出成型技術では採用できない種々の樹脂や材料を用いた成形品に対しても、水圧転写技術により、良好に転写(加飾)することができる。例えば、形状や密着の点で、一部のエンジニアプラスチック等、射出成型技術には適さない材料に対しても、本発明の転写フィルムを用いると、形状に制限されること無く、密着性が優れた転写(加飾)が可能である。
本発明の転写フィルムを用いると、セラミックや陶器等の基材に対して、接着剤を溶解させることで、それら基材への密着性を確保して、転写(加飾)することが可能である。
(v)転写後の成型品に対して優れためっき技術
従来のインモールド転写技術では、製造方法の仕様から、成型品に転写(加飾)した後、その転写後の成型品の表面に、新たに機能性表面を付与することは困難である。仮に、その転写後の成型品の表面に、新たに機能性表面を付与する場合、新たな塗装工程が必要となる。
水圧転写技術には、製造方法に塗装工程が含まれる。本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、製造工程の既存のラインを使用することで、転写後(加飾後)に成型品に、そのまま新たに耐指紋性(AF)等の性能を付与することが可能である。本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、従来のインモールド転写技術や、熱転写技術と比べて、低コストで、成型品の表面に機能性を付与することができる。
(vi)専用の治具や金型を要性としない優れためっき技術
本発明の転写フィルムを用いる水圧転写技術は、従来のインモールド転写技術や、熱転写技術と比べて、初期投資費用(イニシャルコスト)や運転費用(ランニングコスト)を低く抑えることができ、経済的である。
(vii)種々の仕様に対応可能な優れためっき技術
上記(i)〜(vi)を考えると、本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、一回の製造に必要な数量を抑えることができ、小ロット生産への対応が可能である。
本発明の転写フィルムを用いる水圧転写技術は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)等の汎用樹脂、これらの樹脂の組み合わせ(PC/ABS等)であるプラスチック製品に適用できる。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、プラスチック等の素地(非導電性基材)の平面から円筒物等の3次曲面状の素地の表面に対して、パターンめっき又は部分めっきされためっき皮膜を形成することができる。めっき皮膜を載せた成形品(被めっき物)は、めっき皮膜の密着性に優れる。
めっき皮膜を載せた成形品は、例えば、携帯電話、パソコン、冷蔵庫等の電化製品の筐体、エンブレム、スイッチベース、ラジエータグリル、ドアハンドル、ホイールカバー等の自動車用部品等に使用することができる。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、パターンめっき等のめっきの反応性が高く、素地に対して、クロムめっきとの優れた密着性と装飾用めっきの優れた平滑性を発現することができる。そのめっきでは、パターンの拡がりを抑え、良好に部分めっきをすることが可能である。
本発明のめっき転写フィルムを用いると、めっきの反応性を向上させる目的で、めっきにおける還元剤の濃度を高める必要が無く、まためっきの反応温度を上げる必要もない。更に、また有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、物品基材(素地)に対して厚みの均一性が優れためっき皮膜を形成させることができる。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、転写された触媒層により、表面が滑らかな無電解めっき皮膜を形成できる。
本発明の転写フィルムを用いると、その無電解めっき皮膜の下地となる層には予め触媒が含まれており、触媒吸着工程が必要でなく、転写及び無電解めっき技術に含まれる工程を簡素化することができる。
(2)水圧転写技術(図3)
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、水圧転写フィルム用基材上に、少なくとも触媒層が積層されてなり、る無電解めっき用水圧転写フィルムであって、前記触媒層が(1)金属粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒及び(3)バインダーを含有する触媒組成物からなり、前記金属粒子がパラジウム粒子、金粒子、銀粒子又は白金粒子であることを特徴とする。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、非導電性基材に触媒層(触媒組成物)、つまり無電解用めっきを施すための皮膜を形成(露出)させることができる。その無電解めっき用の皮膜(触媒層)が形成された非導電性基材に対して、無電解めっきを行うことで、非導電性基材に滑らかな無電解めっき皮膜を形成させることができる。
電子機器のプリント配線板や3次元筐体の製造では、より大きな(複雑な)3次曲面状の表面や、より深い3次曲面状の表面を有する筐体への金属配線回路の形成に、本発明の「転写フィルム」を用いて、無電解めっきを行うことができる。
本発明の水圧転写技術とは、水面に無電解めっき用水圧転写フィルム(触媒層)を浮かべ、無電解めっき用の触媒層(その後、無電解めっきにより絵柄が付けられる層)を付ける素地(転写被基材、非導電性基材)を上から沈めるないし、水中に沈めておき持ち上げ、無電解めっき用の触媒層を転写させる技術である。
本発明の水圧転写技術を用いると、複雑な形状でも、水圧が均一に掛かる事を利用して触媒層を付けることができる。その無電解めっき用の皮膜(触媒層)が形成された非導電性基材に対して、無電解めっきを行うことで、非導電性基材に滑らかな無電解めっき皮膜を形成させることができる。
水圧転写技術は、平面状の板等だけでなく、3次曲面を有する筐体への転写が可能である。無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材を溶かすことで、従来のシールやラベルとは異なる柔らかな触媒層になり、この柔らかい状態で転写を行いことから、従来不可能であった3次曲面の素地(転写被基材)に対しても、シワなく転写加工を施すことができる。3次曲面状の素地の表面に、無電解めっき用皮膜(触媒層)を形成し、次いで、無電解めっき技術により、絵柄、金属調、パール、マット調等のデザインを付与する(加飾する)ことができる。
本発明の転写フィルムを用いると、水圧転写技術により、電子機器のプリント配線板や3次元筐体に対して、より大きな(複雑な)3次曲面状の表面や、より深い3次曲面状の表面を有する筐体への金属配線回路の形成に、無電解めっきを行うことも可能である。本発明の転写フィルムを用いて、配線板(非導電性基材)に触媒層(触媒組成物)、つまり無電解用めっきを施すための皮膜をパターン形成(露出)させる。その無電解めっき用の皮膜(触媒層)が形成された配線板に対して、無電解めっきを行うことで、配線板に電子回路形成用の無電解めっき皮膜を形成させる。
(3) 無電解めっき用水圧転写フィルム
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、水圧転写フィルム用基材上に、少なくとも触媒層が積層されてなり、前記触媒層が(1)金属粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒及び(3)バインダーを含有する触媒組成物からなり、前記金属粒子がパラジウム粒子、金粒子、銀粒子又は白金粒子であることを特徴とする。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、非導電性基材(成形品)の加飾を行う転写技術に適用できる。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、(1)水圧転写フィルム用基材上に、触媒組成物を塗布し、触媒層を設ける工程、を含む方法により、製造することができる。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、
(1)無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材側を水面に浮かべ、水圧転写フィルム用基材を溶解させる工程、
(2)無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤を吹き付ける工程、
(3)転写被基材(素地、非導電性基材、成形品等)に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる工程、
(4)触媒層が定着した転写被基材を洗浄し触媒層を露出させる工程、及び
(5)露出した触媒層に対して、無電解めっきを行う工程
を含む方法により、無電解めっき物を製造することができる。
電子機器のプリント配線板や3次元筐体が、より大きな(複雑な)3次曲面状の表面や、より深い3次曲面状の表面を有する筐体への回路製造では、本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、金属配線回路の形成を行うことができる。
水圧転写フィルム用基材
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、水圧転写フィルム用基材上に、少なくとも触媒層が積層される。
前記水圧転写フィルム用基材は、水溶性フィルムからなる基材であることが好ましい。水溶性フィルムは、水溶性を有するものであれば良い。
前記水溶性フィルムを構成する樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、アセチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、アセチルブチルセルロース、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、ポリエチレンオキサイド及び酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
これらの樹脂は、単独で用いられても良く、2種以上が混合されて用いられても良い。また、水溶性フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガム等のゴム成分が添加されていても良い。
水溶性フィルムの中で、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムを用いることが好ましい。PVA系樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴム等の添加剤を含有していても良い。
水溶性フィルム(PVA系樹脂フィルム)は、PVAの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴム等の添加剤の配合量等を変えることにより、水溶性フィルムに対して転写用の触媒層を形成する際に必要な機械的強度を有する。
水溶性フィルムは、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さ等を適宜調節することができる。
PVA系樹脂フィルムからなる水溶性フィルムとして、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%及び澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3質量%程度のものが好適である。
PVA系樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の印刷層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
水圧転写フィルム用基材(水溶性フィルム)の厚さは、1〜100μm程度が好ましい。水圧転写フィルム用基材(水溶性フィルム)の厚さが1μm以上であることで、膜の均一性が良好で、且つ生産安定性が高い。また、水圧転写フィルム用基材(水溶性フィルム)の厚さが100μm以下であることで、水に対する溶解性が適度であり、且つ印刷適性に優れる。水溶性フィルムの厚さは、2〜50μm程度の範囲がより好ましく、3〜20μm程度の範囲が更に好ましい。
水圧転写フィルム用基材は、水溶性フィルムに、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド(PA、ナイロン)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ウレタン(PU)、セロファン、酢酸セルロース、アイオノマー等の樹脂フィルム等を用いた基材(台紙)と積層して使用することもできる。
これらの中でも、薄膜化可能で安価な汎用性プラスチックであるポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
PET等の基材(台紙)の厚みは、適宜調整することができる。通常の使用性の観点から、10〜60μm程度が好ましく、15〜50μm程度がより好ましい。例えば、ハンドリング、コスト等の点で、一般的に38μm程度の厚みを有するPETが好ましい。
水溶性フィルムにPET等の基材(台紙)を積層した時は、水圧転写フィルム用基材を水面に浮かべる前に前記PET等の基材(台紙)を水溶性フィルムから分離させることが好ましい。或いは、水圧転写フィルム用基材を水面に浮かべた後、水の作用によって水溶性を有する水溶性フィルムから前記PET等の基材(台紙)が分離するように構成しておくことが好ましい。
水圧転写フィルム用基材の厚みは、無電解めっき用水圧転写フィルムの強度維持することができること、素地(非導電性基材)への形状追従性が良く触媒層を良好に転写することができること等の理由がある。また、無電解めっき用水圧転写フィルムのハンドリングやコスト等の点も考慮することができる。
水圧転写フィルム用基材(水溶性フィルム)は、構成する樹脂をグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により、形成することができる。
また、水溶性フィルムを、PET等の基材(台紙)等に、塗布・乾燥させて、積層することも可能である。
触媒層
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、水圧転写フィルム用基材上に、少なくとも触媒層が積層される。
触媒層は(1)金属粒子と分散剤との複合体(金属複合体)、(2)溶媒及び(3)バインダーを含有する触媒組成物からなり、前記金属粒子がパラジウム粒子、金粒子、銀粒子又は白金粒子であることを特徴とする。
触媒組成物の組成
金属粒子と分散剤との複合体(1)
触媒組成物は、金属粒子と分散剤との複合体を含む。
複合体として、パラジウム粒子(Pd粒子)を含むパラジウム複合体(Pd複合体)が好ましい。Pd複合体は、例えばポリカルボン酸系高分子等の分散剤の存在下、塩化パラジウム(塩化Pd)等のパラジウム化合物(Pd化合物)から供給されるパラジウムイオン(Pdイオン)を、ヒドラジンヒドラート等の2級又は3級アミン類で還元することによって得ることができる。
分散剤
前記分散剤として、ポリカルボン酸系分散剤、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤等を用いることが好ましい。分散剤は、市販品を使用することもできる。
ポリカルボン酸系高分子分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等を使用することが好ましい。例えば、サンノプコ(株)製ノプコサントK, R, RFA、ノプコスパース44-C、SNディスパーサント5020, 5027, 5029, 5034, 5045, 5468、花王(株)製デモールP, EP、ポイズ520, 521, 530, 532A等を使用することができる。
ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等を使用することが好ましい。例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190, 2010等を使用することができる。
カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤として、アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸共重合体等を使用することが好ましい。例えば、ビックケミー・ジャパン(株)DISPERBYK180, 187, 191, 194、(株)日本触媒製アクアリックTL, GL, LSを使用することができる。
分散剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。分散剤の中でも、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤が好ましい。
金属粒子
金属粒子は、無電解めっき触媒として機能するものであり、パラジウム粒子(Pd粒子)、金粒子(Au粒子)、銀粒子(Ag粒子)、白金粒子(Pt粒子)等の貴金属の超微粒子である。金属粒子として、特にPd粒子が好ましい。
Pd粒子
Pd粒子は、分散剤の存在下、Pd化合物から供給されるPdイオンを、還元剤を用いて還元することによって得ることができる(液相還元法)。
Pdイオンを供給するPd化合物として、塩化パラジウム(塩化Pd)、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等を用いることが好ましい。
Pd化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
還元剤として、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の1級、2級又は3級アミン類、アスコルビン酸、2,3-ジヒドロキシマレイン酸等のエンジオール類を用いることが好ましい。
還元剤としては、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン系化合物類;N,N-ジアルキルヒドラジン等のヒドラジン系化合物類;ハイドロキノン、アミノフェノール等のフェノール類、及びフェニレンジアミン類;2-ヒドロキシアセトン、2-ヒドロキシヘキサン-1,3-ジオン、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシケトン類やヒドロキシカルボン酸類;アスコルビン酸や2,3-ジヒドロキシマレイン酸等のエンジオール類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン等のアミノアルコール類;1級アミン類、2級アミン類、3級アミン類等の各種アミン類;等を用いることが好ましい。
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、次の(2)溶媒を使用することができる。溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
Pdイオンを還元する方法としては、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法が挙げられる。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、Pdイオンを還元することができる。
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは当該球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との重量比は、Pd粒子:分散剤=50:50〜95:5程度が好ましく、Pd粒子:分散剤=65:35〜85:15程度がより好ましい。
例えば、精製水(89重量部程度)に塩化Pd(1重量部程度)を溶解し、更にクエン酸三ナトリウム(10重量部程度)を溶解して均一に攪拌する。次いで、水素化ホウ素ナトリウム(0.01重量部程度)を添加して、塩Pdを還元させることで、クエン酸で安定し、保護コロイド化されたパラジウムコロイド(Pdコロイド)を得ることができる。その後、限外濾過により濃縮脱塩を行い、Pd(0.5重量部程度)を含有するPdコロイドを得ることができる。
Pd粒子単独の平均粒子径は、特に限定されず、2〜10nm程度が好ましい。Pd粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定することが可能である。Pd粒子単独の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均することで算出することができる(個数基準平均径)。
Pd複合体の平均粒子径は、特に限定されず、全体としては平均粒子径20〜300nm程度の球形状の構造を有していることが好ましい。Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR-1000)で測定することが可能である(重量基準平均径)。
その他の金属粒子
金属粒子として、その他、無電解めっき触媒として機能するものが好ましく、マイクロ波液中プラズマ法で製造される金属粒子、超音波法で製造される金属粒子、気相法(CVDレーザー等)で製造される金属粒子、貴金属担持微粒子等が好ましい。これらの金属粒子として、Pd粒子、Au粒子、Ag粒子、Pt粒子等の貴金属の超微粒子が好ましい。
金属粒子がPt粒子である場合、分散剤の存在下、塩化白金(IV)等の白金化合物(Pt化合物、貴金属化合物)から供給される白金イオン(Ptイオン)を、ヒドラジンヒドラート等の2級又は3級アミン類で還元することによって得ることができる。複合体は、分散剤の存在下、Ptイオンを還元することによって得られるものが好ましい。
Ptイオンを供給するPt化合物(貴金属化合物)として、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、ヘキサクロリド白金(IV)酸、テトラクロリド白金(II)酸、ヘキサクロリド白金(IV)酸カリウム、テトラクロリド白金(II)酸カリウム、ヘキサクロリド白金(IV)酸アンモニウム、酸化白金(IV)、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、水酸化白金(II)、フッ化白金(VI)等を用いることが好ましい。
その他の条件は、前記Pd粒子の場合と同じである。
金属粒子として、特にPd粒子が好ましい。
溶媒(2)
触媒組成物は溶媒を含む。
溶媒(分散媒)は、金属複合体(Pd複合体等)を分散させることができる。また、溶媒はバインダーとの親和性に優れている。
溶媒は、触媒組成物に含まれる(1)金属粒子と分散剤との複合体(金属複合体)の分散性、(3)バインダーの溶解性等を考慮し、更に触媒組成物の粘度、蒸発速度等の観点で選択することが好ましい。また、触媒組成物が、接着層を介して、非導電性基材(成形品、成型品(ABS樹脂等のプラスチック材料、ガラス板等)と良好に密着する点を満足させることが好ましい。
具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、1-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジアセトンアルコール(4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-へキサン、n-へプタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;2-フェノキシエタノール(エチレングリコールフェニルエーテル)等を追加で用いることが好ましい。
特に、印刷性及び塗装性、印刷・塗装後のレベリング過程を考慮して、蒸発速度が遅い溶媒の使用が好ましい。蒸発速度が遅い溶媒として、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート及び2-フェノキシエタノールが例示される。これらの溶媒を用いることが好ましい。
触媒組成物中の金属複合体(Pd複合体等)を良好に分散させることができるという観点から、水及びN-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
非プロトン性極性溶媒として、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド;γ-ブチロラクトン等を用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒の中でも、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましい。
溶媒は、金属イオン(Pdイオン等)の還元反応後に変換することが可能である。例えば、溶媒を水からNMPに変換することが可能である。
溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
触媒組成物中の分散溶媒の含有量(2種以上の溶媒である時は合計量)は、特に限定されず、前記金属複合体(Pd複合体等)100重量部に対して、1×102〜1×106重量部程度が好ましい。前記金属複合体(Pd複合体等)が、分散溶媒中に1重量%程度含まれることが好ましい。分散溶媒は、前記金属複合体(Pd複合体等)100重量部に対して、5×102〜3×105重量部程度がより好ましく、1×103〜2×105重量部程度が更に好ましく、5×103〜2×104重量部程度が特に好ましい。
バインダー(3)
触媒組成物はバインダーを含む。
バインダーは、触媒組成物の粘度、触媒組成物と非導電性基材(成形品、成型品(ABS樹脂等のプラスチック材料、ガラス板等))との密着性、硬化条件等の観点から、良好に無電解めっきの反応性が得られるものを選択することが好ましい。バインダーは、前記溶媒に分散又は溶解するものである。
具体的には、アセタール樹脂(POM)、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂(PA、ポリアミド、ナイロン)、イミド樹脂(ポリイミド)、アミドイミド樹脂(PAI、ポリアミドイミド)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、硝化綿、アルキド樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、スチレン/マレイン酸樹脂、シリコン樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体、アクリルモノマー/オリゴマー及びオレフィン樹脂(ポリオレフィン)等を用いることが好ましい。
塩ビ-酢ビ共重合体(塩化ビニル・酢酸ビニル系変性樹脂)とは、塩化ビニルと酢酸ビニル等との共重合樹脂である。
アセタール樹脂(POM)は、ポリビニルアセタール等を用いることが好ましい。ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化した樹脂である。アルデヒドとしてホルマリン(ホルムアルデヒド37%水溶液)を用いてアセタール化したものがポリビニルホルマールである。アルデヒドとしてブタノール(ブチルアルコール)でアセタール化したものがポリビニルブチラール(ブチラール樹脂、PVB)である。
アミド樹脂は、ナイロン6(ε-カプロラクタム)、ナイロン11(ウンデカンラクタム)、ナイロン12(ラウリルラクタム)、ナイロン66(ヘキサメチレンジアミン+アジピン酸)、ナイロン610(ヘキサメチレンジアミン+セバシン酸)、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミン+テレフタル酸)、ナイロン6I(ヘキサメチレンジアミン+イソフタル酸)、ナイロン9T(ノナンジアミン+テレフタル酸)、ナイロンM5T(メチルペンタジアミン+テレフタル酸)、ナイロン612(カプロラクタムとラウリルラクタムとのωアミノ酸同士の共縮重合体)等を用いることが好ましい。
アミドイミド樹脂とは、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂を用いることが好ましい。
エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂を使用することにより、ABS樹脂等を含む物品上に無電解めっき用塗膜をより強固に密着させることができる。エポキシ樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)となる。
エポキシ樹脂は、1液性又は2液性エポキシ樹脂のいずれを用いることができる。エポキシ樹脂は、変性エポキシ樹脂を包含する。
1液性エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、グリシジルエステル型、グリシジルエーテル型、ビフェニル型等を用いることが好ましい。
1液性エポキシ樹脂は、例えば、DIC(株)製EPICLON830, 830-S, 835, 840, 840-S, 850, 850-S, N-730A, N-740A, N-770, N-775;ナガセケムテックス(株)製XNR-3053, XNR3505, XN1244, XN1278;荒川化学工業(株)製アラキード9201N, 9203N, 9205, 9208、モデピクス301,302,401;東亞合成(株)製アロンマイティAP-0786, AS-60, BX-60, AS-315等の市販されている商品を使用することができる。
2液性エポキシ樹脂としては、前記エポキシ樹脂を本剤とする樹脂を使用することができる。本剤と共に使用する硬化剤として、ポリアミド、ポリアミン、ポリアミドアミン、ケチミン、イミダゾール、ジアミン、ジアミンジアミド、テトラヒドロフタル酸無水物等を用いることが好ましい。
2液性エポキシ樹脂の本剤は、例えば、三菱化学(株)製jER-806, 807, 825, 827, 828, 1256, 4250, 4275, W2821R70;(株)ADEKA製アデカレジンEP-4100HF, EP-4088S, EPR-4030;ナガセケムテックス(株)製AV138-HV998, XNR3106-XNH3103;東亞合成(株)製アロンマイティAP-400BD等の市販されている商品を使用することができる。
2液性エポキシ樹脂の硬化剤は、例えば、DIC(株)製ラッカマイド17-202, TD-961, TD-977, TD-992, WN-155, WN-170, WN-405, WN-505;三菱化学(株)製jERキュア-ST11, ST12, St13, ST14, LV11, DC11, RC11, FL11, QX11, H3, WD11M60;(株)ADEKA製アデカハードナーEH-3636AS, EH-5010S,EH-5015S; 日立化成(株)HN-2200, HN-2000, HN-5500;T&K TOKA(株)製トーマイド245, 275, 210, 241, フジキュア-5000, FXS-654, FXS-8077等の市販されている商品を使用することができる。
エポキシ樹脂として、作業性、経時安定性等の観点から、1液性エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
エポキシ樹脂の硬化温度は、60〜200℃が好ましく、80℃〜150℃が更に好ましい。
アミド樹脂は、ナイロン6(ε-カプロラクタム)、ナイロン11(ウンデカンラクタム)、ナイロン12(ラウリルラクタム)、ナイロン66(ヘキサメチレンジアミン+アジピン酸)、ナイロン610(ヘキサメチレンジアミン+セバシン酸)、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミン+テレフタル酸)、ナイロン6I(ヘキサメチレンジアミン+イソフタル酸)、ナイロン9T(ノナンジアミン+テレフタル酸)、ナイロンM5T(メチルペンタジアミン+テレフタル酸)、ナイロン612(カプロラクタムとラウリルラクタムとのωアミノ酸同士の共縮重合体)等を用いることが好ましい。
アミドイミド樹脂とは、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂を用いることが好ましい。
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルの重合体若しくはメタクリル酸エステルの重合体又はこれらをコモノマーとする共重合体であり、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等を用いることが好ましい。
バインダーは、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アミドイミド樹脂、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体及びオレフィン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。バインダーは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
バインダーの含有量は、金属複合体(Pd複合体等)100重量部に対して、1〜1×105重量部程度が好ましく、50〜5×104重量部程度がより好ましい。
バインダーは、その固形分比は1〜50重量%程度であることが好ましい。
前記バインダーは、本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、水圧転写技術により、無電解めっき物を製造する方法において、適切である。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、無電解めっき物を製造する方法は、
(1)無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材側を水面に浮かべ、水圧転写フィルム用基材を溶解させる工程、
(2)無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤を吹き付ける工程、
(3)転写被基材に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる工程、
(4)触媒層が定着した転写被基材を洗浄し触媒層を露出させる工程、及び
(5)露出した触媒層に対して、無電解めっきを行う工程
を含む。
前記バインダーは、特に、無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤(有機溶剤、活性化剤)を吹き付ける際に(工程(2))、その溶剤により軟化・溶解し易く、その状態を比較的長い時間維持することができる。
前記バインダーは、特に、転写被基材に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる(工程(3))際に、その溶解した面で、無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側が転写被基材に接着し易く、転写被基材に触媒層を定着し易い。
触媒組成物の製造方法
金属粒子(Pd粒子等)は、前述の通り、分散剤の存在下、金属化合物(Pd化合物等)から供給される金属イオン(Pdイオン等)を、還元剤を用いて還元することによって得ることができる。
触媒組成物は、
(i)(2)溶媒中に、金属イオン(Pdイオン等)と分散剤とを存在させ、還元剤を用いてその金属イオン(Pdイオン等)を還元し、(1)金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体を作製する工程、
(ii)(2)溶媒中に、(3)バインダーを混合して混合物を作製する工程、並びに、
(iii)前記工程(i)で得られた(2)溶媒及び(1)金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体の混合物に、前記工程(ii)で得られた(2)溶媒及び(3)バインダーの混合物を混合する工程、
を含む製造方法により製造することが好ましい。
工程(i)及び工程(ii)は、どちらが先の工程であっても良い。
前記製造方法によれば、転写技術で利用するめっき転写フィルムに適用できる触媒組成物を製造することができる。
このめっき転写フィルムを用いて、非導電性基材に触媒層(触媒組成物)及びめっき皮膜を形成(露出)させることができる。
本発明の触媒組成物は、めっき(無電解めっき又は電解めっき)の反応性が高く、めっきとの密着性が良好であり、良好な平滑性を発現できるめっき皮膜が形成することが可能である。
めっき転写フィルムにより、更に、非導電性基材(成形品、成型品(ABS樹脂等のプラスチック材料、ガラス板等)上にパターンの拡がりを抑えつつ、部分めっきを形成することが可能である。めっき転写フィルムを用いると、更に、有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
工程(i)
(2)溶媒中に、金属イオン(Pdイオン等)と分散剤とを存在させ、還元剤を用いてそのPdイオンを還元し、(1)金属粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体を作製する。
先ず、金属イオン(Pdイオン等)と分散剤とを溶媒(分散媒)中に存在させる。金属イオン(Pdイオン等)として、供給源として前記金属イオン(Pdイオン)を供給する金属化合物(Pd化合物等)を使用することができる。
各成分の使用量(重量部)は「金属化合物(Pd化合物等)」基準とする。
分散剤として、前記分散剤を使用することができる。金属イオン(Pdイオン等)と分散剤との使用比率(重量比)は、金属化合物(Pd化合物等)100重量部に対して、分散剤を10〜200重量部程度使用することが好ましく、30〜150重量部程度がより好ましく、50〜100重量部程度が更に好ましい。
溶媒として、前記(2)溶媒を使用することができる。溶媒の使用量は、金属イオン(Pdイオン等)と分散剤を均一に存在させることができれば特に限定されず、金属化合物(Pd化合物等)100重量部に対して、1×104〜3×105重量部程度が好ましく、1×104〜1×105重量部程度がより好ましい。
次に、金属イオン(Pdイオン等)と還元剤とを反応させることにより、金属イオン(Pdイオン等)が還元剤によって還元される。即ち、金属イオン(Pdイオン等)の還元反応が生じ、結果として前記(1)金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体(金属複合体(Pd複合体等))を得ることができる。その還元剤として、前記金属複合体(Pd複合体等)を作製するために使用される還元剤を使用することができる。還元剤の使用量は、特に限定されず、金属化合物(Pd化合物等)100重量部に対して、100〜800重量部程度が好ましく、200〜600重量部程度がより好ましい。
還元剤を用いる反応は、35〜45℃程度の温度で行うことが好ましく、50〜60℃程度まで昇温することが好ましい。反応時間は、特に限定されず、1〜5時間程度とすることが好ましい。
反応の際の圧力及び雰囲気は、特に限定されず、大気圧下又は大気(空気)雰囲気下で行うことが好ましい。反応はビーカー等の開放系で行うことができる。反応方法として、金属イオン(Pdイオン等)(金属化合物(Pd化合物等))、分散剤及び還元剤を含有する溶液を羽根付き撹拌棒で撹拌することが好ましい。
溶媒及び金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体を含む混合物(金属複合体含有液(Pd複合体含有液等))を限外濾過し、金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体を分離することが好ましい。この操作により、金属複合体含有液(Pd複合体含有液等)に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去することができる。例えば、Pd複合体含有液に対して濾過処理を行い、分散溶媒を補填することが可能である。この処理は、操作を繰り返すことができる。
金属イオン(Pdイオン等)の還元反応後に溶媒を変換することが可能である。例えば、前記溶媒として水を使用し、その後、前記水をNMP等(溶媒、分散媒)に変換することにより、NMP((2)溶媒)及び(1)金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体の混合物を作製することが可能である。
工程(ii)
(2)溶媒中に、(3)バインダーを混合して混合物を作製する。
溶媒として、前記2-フェノキシエタノール、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の(2)溶媒を使用することができる。溶媒の使用量は特に限定されない。
バインダーとして、前記(3)バインダーを使用することができる。バインダーの使用量は、触媒組成物の粘度を考慮することがこのましい。また、接着層を介して、触媒組成物と非導電性基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性、硬化条件等を考慮することが好ましい。
混合は、特に限定されず、大気圧下又は大気(空気)雰囲気下で行うことが好ましい。混合はビーカー等の開放系で行うことができる。混合方法として、溶媒及びバインダーを含有する混合物を羽根付き撹拌棒で撹拌することが好ましい。
工程(iii)
前記工程(i)で得られた(2)溶媒及び(1)金属粒子(Pd粒子等)と分散剤との複合体の混合物に、前記工程(ii)で得られた(2)溶媒及び(3)バインダーの混合物を混合する。
(4) 無電解めっき用水圧転写フィルムの製造方法
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、
(1)水圧転写フィルム用基材上に、触媒組成物を塗布し、触媒層を設ける工程、
を経ることで、製造することができる。
水圧転写フィルム用基材
前記水圧転写フィルム用基材は、前述の通り、水溶性フィルムからなる基材であることが好ましい。水溶性フィルムは、水溶性又は水膨潤性を有するものであれば良い。
前記水溶性フィルムを構成する樹脂は、前述の通り、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、アセチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、アセチルブチルセルロース、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、ポリエチレンオキサイド及び酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
その他、水圧転写フィルム用基材については、前述の通りである。
触媒層の形成
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムは、水圧転写フィルム用基材上に、触媒組成物を塗布し、触媒層を設けることで、製造することができる。
水圧転写技術により、この転写フィルムを素地(非導電性基材、成形品又は成型品)に貼り付け、素地に触媒層を露出させ、次いで無電解めっきにより、成形品又は成型品に無電解めっき皮膜を形成することができる。
触媒層を形成する触媒組成物を、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により、水圧転写フィルム用基材上に、塗布・乾燥させて、触媒層を形成することができる。
塗布には、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いることができる。
マスキングレスや生産効率の観点ではグラビアオフセット印刷やパッド印刷が好ましい。
パターンによってはスプレー塗装が好ましい。
塗布方法に合わせて、触媒組成物の粘度を調整することが好ましい。
グラビアオフセット印刷やパッド印刷にて塗布する場合、触媒組成物の粘度は50〜1,000mPa・s程度が好ましい。マスキングを施した上で、スプレー塗装する場合、触媒組成物の粘度は100mPa・s程度以下が好ましい。
触媒層の厚みは、良好に無電解めっきを行い、素地にめっき皮膜を良好に形成することができること等から、0.01〜10μm程度が好ましく、0.02〜8μm程度がより好ましく、0.03〜5μm程度が更に好ましく、0.05μm(50nm)〜2μm程度が特に好ましい。
触媒層に対して、無電解めっきを施すことで素地に目的とする意匠を表現することができる。
乾燥及び硬化前の触媒組成物の膜厚は、使用用途によって適宜選択することができ、触媒組成物の粘度に依存する。その膜厚は、触媒組成物を良好に塗布できる観点から、1〜120μm程度が好ましい。その膜厚が120μmを超えると、触媒組成物が液垂れを引き起こす傾向がある。
硬化処理
水圧転写フィルム用基材に触媒組成物を塗布した後、触媒組成物に含まれる溶媒(溶剤)を揮発及び/又は乾燥させ、次いで硬化処理を行う。
硬化処理により、バインダーが硬化される。
水圧転写フィルム用基材に触媒組成物を塗布した後、乾燥処理を行うことができる。乾燥処理によって、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去するとともに、塗膜と基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させることができる。乾燥処理の温度は、60〜400℃程度が好ましく、80〜150℃程度がより好ましい。乾燥処理の時間は、乾燥温度に合わせて、6秒〜60分程度が好ましく、10分〜30分程度がより好ましい。
硬化処理の温度は触媒組成物に含まれる前記(3)バインダーの種類に合わせて調整することができる。硬化処理の温度は40〜400℃程度が好ましい。また、基材としてプラスチックを用いる場合、プラスチック素材の軟化温度を考慮し、硬化処理の温度を40〜200℃程度に設定することが好ましい。
乾燥及び硬化後の触媒組成物の膜厚は、触媒組成物の固形分濃度に依存する。その膜厚は、無電解めっきを効率良く行うことができ、十分なめっき密着性が発揮されるという点から、0.05〜20μm程度が好ましい。その膜厚が0.05μm未満であっても、無電解めっきの反応性を得ることができるが、めっき密着性については十分に発揮されない傾向がある。その膜厚が20μmを超えると、無電解めっきの反応速度が劣る傾向がある。
触媒組成物に含まれる溶媒を揮発及び/又は乾燥させ、触媒組成物に含まれるバインダーを硬化させる。
水圧転写フィルム用基材上に触媒層(触媒膜)を形成することができる。触媒層には、金属複合体(Pd複合体等)が含まれる。金属複合体(Pd複合体等)は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、触媒膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
素地(非導電性基材)に露出した触媒層に対して、無電解めっきを行うことで、無電解めっき物を製造することができる。その無電解めっきにより、素地(成形品又は成型品)に意匠性を付与することができる。素地に、模様、文字、パターン状の絵柄等を表現するための層である。素地に、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、ストライプ状、グラデーションの絵柄等を付与することができる。
(5)めっきを形成する方法(水圧転写技術、図3)
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いて、
(1)無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材側を水面に浮かべ、水圧転写フィルム用基材を溶解させる工程、
(2)無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤を吹き付ける工程、
(3)転写被基材(素地、非導電性基材、成形品等)に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる工程、及び
(4)触媒層が定着した転写被基材を洗浄し触媒層を露出させる工程、
を経ることで、水圧転写技術により、素地(非導電性基材)に触媒層が設けられる。
触媒層は、素地に設けれ、無電解めっきを行うための層である。
次いで、(5)その露出した触媒層に対して、無電解めっきを行う工程
を経ることで、無電解めっき物を製造することができる。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用い、水圧転写技術により、非導電性基材に滑らかな無電解めっき皮膜を形成させることができる
(1)無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材側を水面に浮かべ、水圧転写フィルム用基材を溶解させる工程
無電解めっき用水圧転写フィルムを、触媒層を上にして、水圧転写フィルム用基材側を下にして水に浮かべ、有機溶剤により触媒層を活性化し(活性化は水に浮かべる前に行っても良い)、触媒層を被転写体に転写し、支持体を除去する。
具体的には、無電解めっき用水圧転写フィルムを、水圧転写フィルム用基材側を下にして水槽中の水に浮かべ、水圧転写フィルム用基材を水で溶解若しくは膨潤させる。
(2)無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤を吹き付ける工程
無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤(有機溶剤、活性化剤)を吹き付けることで、触媒層を活性化させる。触媒層に活性化剤となる有機溶剤を塗布又は噴霧する。触媒層の溶剤(有機溶剤)による活性化は、フィルムを水に浮かべる前又は後に行っても良い。
溶剤(活性化剤)の吹き付け(塗布)工程は、水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤を塗布することで、触媒層の表面が荒れ、触媒層と転写被基材(被転写体、素地、非導電性基材、成形品等)とが密着し易くなる。
溶剤(有機溶剤、活性化剤)
溶剤は、無電解めっき用水圧転写フィルムの転写用の触媒層の表面を荒らすことができ成分であることが好ましい。溶剤は、触媒層を可溶化させる有機溶剤であることが好ましい。
溶剤は、転写被基材(被転写体、素地、非導電性基材、成形品等)の表面を溶解させる機能を有する成分であることが好ましい。
溶剤は、転写被基材の被転写面に触媒層を転写させるまで、蒸発しないような性状を有することが好ましい。
溶剤として、一般の水圧転写に用いる活性化剤と同様なものを用いることができる。溶剤としては、例えばエステル類、アセチレングリコール類、エーテル類、樹脂等を含む組成物を用いることが好ましい。
エステル類として、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチル等を用いることが好ましい。
アセチレングリコール類として、メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等を用いることが好ましい。
エーテル類として、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブ等を用いることが好ましい。
溶剤として、トルエン、キシレン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノール、ブチルカルビトールアセテート、カルビトール、カルビトールアセテート、セロソルブアセテート、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸アミル、酢酸イソアミル、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、メトキシブチルアセテート、ソルフィットアセテート、ダイアセトンアルコール等の溶剤、及びそれらの混合物を用いることが好ましい。
樹脂としては、アクリレート系単量体の単独又は共重合体等の熱可塑性樹脂等を用いることが好ましい。溶剤に樹脂成分を含ませることで、印刷インキ又は塗料と成形品との密着性を高めることができる。
樹脂として、ポリアミド、ポリエステル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸アルキッド樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
樹脂として、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
溶剤の好ましい組成(含有割合)は、エステル類を5〜40質量%程度含み、アセチレングリコール類を40〜80質量%程度含み、エーテル類を5〜30質量%程度、樹脂を1〜20質量%程度含むことが好ましい。
溶剤の塗布は、スプレーコート法等により行うことができる。
溶剤の塗布量は通常1〜50g/m2程度であり、好ましくは3〜30g/m2程度であり、更に好ましくは10〜20g/m2程度である。
触媒組成物に含まれるバインダーは、特に、無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側に溶剤(有機溶剤、活性化剤)を吹き付ける際に(工程(2))、その溶剤により軟化・溶解し易く、その状態を比較的長い時間維持することができる。
(3)転写被基材に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる工程
触媒層に転写被基材を押し付けながら、転写被基材と無電解めっき用水圧転写フィルムを水中に沈めて行き、水圧によって触媒層を転写被基材に密着させて転写する。
転写被基材(被転写体、素地、非導電性基材、成形品等)
転写被基材は、無電解めっきを施す対象物である。
本発明で使用される転写被基材は、特に限定されない。転写被基材として、プラスチック(樹脂)、ガラス、セラミックス等の非導電性基材を用いることが好ましい。
プラスチックとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン等のポリオレフィン等を用いることが好ましい。
プラスチックとして、また、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンの共重合樹脂(ABS樹脂)等を用いることが好ましい。
プラスチックとして、更に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリ塩化ビニル;ポリアミド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;ポリエーテルエーテルケトン;ノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン;ポリフェニレンスルファイド;液晶ポリマー;変性ポリフェニルエーテル;ポリスルホン;フェノール;ポリフタルアミド(PPA);ポリアリレート等を用いることが好ましい。
セラミックスとしては、ガラス、アルミナ等が挙げられる。また、基材として不織布を使用する場合、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維等の不織布が挙げられる。
転写被基材の形状としては、特に限定されない。例えば、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)、糸状、金型で成形された各種形状、等のいずれであってもよい。
転写被基材によって、触媒組成物(転写フィルムの触媒層)に含まれる溶剤、バインダー等を適宜選択することができる。
触媒層を無電解めっき用水圧転写フィルムから転写被基材へ転写する際に、触媒層が柔軟化され、転写被基材の三次元曲面へ十分に追従できる程度に行われる。
水圧転写技術により、転写フィルムの触媒層を転写被基材(非導電性基材)に貼り付けることができる。
水圧転写における水槽の水は、触媒層を転写する際に水圧転写用フィルムの触媒層を転写被基材の三次元曲面に密着させる水圧媒体として働く。
水圧転写フィルム用基材は、水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムからなることが好ましい。水圧転写における水槽の水は、その水圧転写フィルム用基材を膨潤又は溶解させることができる。無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層上に転写被基材を押圧し、水圧によって触媒層を転写被基材の被転写面に密着させる。
水圧転写における水槽の水として、水道水、蒸留水、イオン交換水等の水を用いることが好ましい。水圧転写フィルム用基材を考慮して、水にホウ酸等の無機塩類を10質量%程度以下、又はアルコール類を50質量%程度以下溶解させても良い。
無電解めっき用水圧転写フィルムを浮かべ水圧を印加するための水は、無電解めっき用水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材の種類等に応じ、適宣水温を調整することが好ましい。水の水温は、好ましくは25〜50℃程度であり、より好ましくは25〜35℃程度である。
無電解めっき用水圧転写フィルムと転写被基材との転写時間は、20〜120秒程度が好ましく、より好ましくは30〜60秒程度である。転写時間は、無電解めっき用水圧転写フィルムを水に浮遊させてから、転写被基材への転写が完了するまでの時間である
クラック幅を広くするには、塗布量を多めにすることが好ましく、水温を高めに設定することが好ましく、転写時間を長めに設定することが好ましい。
触媒組成物に含まれるバインダーは、特に、転写被基材に無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側を接着させ、転写被基材に触媒層を定着させる(工程(3))際に、その溶解した面で、無電解めっき用水圧転写フィルムの触媒層側が転写被基材に接着し易く、転写被基材に触媒層を定着し易い。
(4)触媒層が定着した転写被基材を洗浄し触媒層を露出させる工程
触媒層が定着した転写被基材を洗浄し触媒層を露出させる。
水から出した無電解めっき用水圧転写フィルムから水圧転写フィルム用基材を除去し、転写被基材に転写された水圧転写体(転写被基材+触媒層)を得る。
転写被基材に触媒層を水圧転写した後、水圧転写フィルム用基材を水で溶解若しくは剥離して除去した後、乾燥させる。転写被基材からの水圧転写フィルム用基材の除去は、従来の水圧転写方法と同様に水流で水圧転写フィルム用基材を溶解若しくは剥離して除去する。
水圧転写体は、転写被基材の表面に触媒層が十分密着する。転写被基材として、ABS樹脂やSBSゴム等の溶媒吸収性の高い樹脂成分を用いると、触媒層の密着性は良好である。
その後、無電解めっき技術を用いて、その露出した触媒層に対して無電解めっきを行い、非導電性基材(成形品)を加飾することができる。
(5)その露出した触媒層に対して、無電解めっきを行う工程
無電解めっき処理
触媒層(触媒膜)が形成された素地に対して、無電解めっきを行うことで、基材の上にパターンめっきを形成することができる。触媒層が形成された素地は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、これにより無電解めっき皮膜が形成される。
触媒組成物(転写フィルム)によって形成された触媒層は、無電解めっきの反応性がよく、得られた無電解めっき皮膜はむらがなく、密着性及び外観性に優れる。
めっき液は、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば特に限定されない。めっき液として、例えば、銅、金、銀、ニッケル等を用いることが好ましい。めっき液として、触媒層(触媒膜)との関係から、銅又はニッケルを含むめっき液を用いることが好ましい。
めっき条件は、常法に従うことができる。触媒層(触媒膜)は無電解めっきの反応性が非常に良好であるため、めっき液の還元剤濃度やアルカリ成分濃度を高める必要がない。そのため、めっき液の寿命が長持ちするだけでなく、触媒層のパターン通りにめっきが選択的に析出される。即ち、触媒組成物(転写フィルム)から形成される触媒(触媒膜)は、パターン形成能に優れる。
めっき皮膜の厚みは、加飾用途の場合、素地に良好な意匠性を付与することができること等から、0.05〜10μm程度が好ましく、0.1〜6μm程度がより好ましく、0.2〜4μm程度が更に好ましく、0.3〜2μm程度が特に好ましい。めっきにより、素地に目的とする意匠を表現することができる。
無電解めっき処理で、無電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は25〜65℃程度が好ましく、その処理時間は10〜20分程度が好ましい。この無電解めっき処理により、0.3〜1μm程度の析出膜厚を形成することができる。
無電解めっき処理で、無電解ニッケルボロン浴を用いる場合、その処理温度は55〜70℃程度が好ましく、その析出速度は5μm/hr(60℃)程度が好ましい。
無電解めっき処理で、無電解ニッケルりん浴を用いる場合、その処理温度は30〜95℃程度が好ましく、その析出速度は浴温30℃においては3μm/hr程度、90℃においては20μm/hr程度が好ましい。
触媒組成物(転写フィルム)を用いて、素地上にめっきを形成する技術は、パターンめっきを対象とすることが好ましい。しかし、本発明では、本発明の触媒組成物(転写フィルム)を全面めっきに使用しても良い。
加飾を目的とする場合、無電解めっきの後、電解銅(Cu)めっき、半光沢ニッケル(Ni)めっき、光沢ニッケル(Ni)めっき、クロム(Cr)めっき等の一般的なプロセスを用いることが好ましい。
加飾処理で、電解銅(Cu)めっき浴を用いる場合、その処理温度は20〜60℃程度が好ましく、電流密度は1〜10A/m2程度が好ましく、処理時間は10〜60分程度が好ましい。この加飾処理により、5〜40μm程度の析出膜厚を形成することができる。
加飾処理で、半光沢ニッケル(Ni)めっき浴を用いる場合、その処理温度は45〜55℃程度が好ましく、電流密度は1〜10A/m2程度が好ましく、処理時間は10〜60分程度が好ましい。この加飾処理により、5〜20μm程度の析出膜厚となる。
加飾処理で、光沢ニッケル(Ni)めっき浴を用いる場合、その処理温度は45〜55℃程度が好ましく、電流密度は1〜10A/m2程度が好ましく、処理時間は10〜60分程度が好ましい。この加飾処理により、5〜20μm程度の析出膜厚となる。
加飾処理で、クロム(Cr)めっき浴を用いる場合、その処理温度は40〜60℃程度が好ましい。電流密度は10〜60A/m2程度が好ましい。処理時間は1〜5分程度が好ましい。Crめっき浴を用いる加飾処理により、0.1〜0.3μm程度の析出膜厚となる。
(6)無電解めっき皮膜及び前記皮膜を載せた成形品
本発明の転写フィルムの触媒層を素地(非導電性基材、プラスチック(樹脂)等)に塗布し、触媒層(触媒膜)を形成し、無電解めっきを行う。これにより、パターンめっき又は部分めっきされた無電解めっき皮膜を形成することができる。無電解めっき皮膜を載せた成形品(被めっき物)は、めっき皮膜の密着性に優れる。非導電性基材に滑らかなめっき皮膜(無電解めっき皮膜又は電解めっき皮膜)を形成させることができる。
無電解めっき皮膜を載せた成形品は、例えば、携帯電話、パソコン、冷蔵庫等の電化製品の筐体;エンブレム、スイッチベース、ラジエータグリル、ドアハンドル、ホイールカバー等の自動車用部品等に使用することができる。
触媒組成物を用いると、素地上に、パターンめっきを行う無電解めっきにおいて、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっきとの優れた密着性と装飾用めっきの優れた平滑性を発現することができる。その無電解めっきでは、パターンの拡がりを抑え、良好に部分めっきをすることが可能である。
触媒組成物(転写フィルム)を用いると、無電解めっきの反応性を向上させる目的で、無電解めっきにおける還元剤の濃度を高める必要が無く、また無電解めっきの反応温度を上げる必要もない。更に、また有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
無電解めっきの反応性及び密着性向上のメカニズムを説明する。
素地(非導電性基材)に形成された触媒組成物(触媒層)の無電解めっきの触媒作用を持つ金属粒子(Pd粒子)と、無電解めっき液とが接触する。この現象により、触媒層(触媒膜)の表面から膜内部の深いところに存在する金属粒子(Pd粒子等)により無電解めっき液中の金属イオンが還元され、還元された金属が根をはうように膜内部から析出するため、触媒層(触媒膜)とめっき膜との高い密着性が得られる。
本発明の触媒組成物は、特にABS等の素地(非導電性基材、プラスチック等)を対象とする時に、無電解めっきの反応性が高く、めっきまでの多層めっきに耐え得る良好な密着性を実現できる。ABS等の素地と触媒組成物との密着メカニズムを説明する。本発明の触媒組成物に含まれる溶媒(溶剤)成分により、素地表面が浸食され、触媒組成物のバインダー成分が基材に入り込み、素地と相溶し混成層を形成する。ABS樹脂に含まれるブタジエンゴムが溶解し、膨潤するので、触媒組成物のバインダー成分が基材に入り込む。
本発明の水圧転写技術は、非導電性基材に対して、従来不可能とされた3次元曲面、穴あき成形品、緩やかな凹凸面へのめっき(加飾)が可能である。ハードコート等の機能性材料と組み合わせることで、商品の付加価値を高めることができる。
水圧転写技術は、工程の簡略化によりコストダウンが図れる。省エネ、省スペースが図れ、作業環境の改善に繋がる。水圧転写技術は、非導電性基材(成型品)に対して、3次曲面状の表面に様々な意匠性の高いデザイン(めっき)を、位置精度良く施す(加飾する)ことができる。
本発明のめっき転写フィルムを用いると、素地上にパターンめっきを行うめっきにおいて、無電解めっきの反応性が高く、優れた密着性と装飾用めっきの優れた平滑性を発現することができる。そのめっきでは、パターンの拡がりを抑え、良好に部分めっきをすることが可能である。
本発明の無電解めっき用水圧転写フィルムを用いると、無電解めっきの反応性を向上させる目的で、無電解めっきにおける還元剤の濃度を高める必要が無く、また無電解めっきの反応温度を上げる必要もない。更に、また有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
電子機器のプリント配線板や3次元筐体が、より大きな(複雑な)3次曲面状の表面や、より深い3次曲面状の表面を有する筐体への金属配線回路の形成に、本発明の転写フィルムを用いて、無電解めっきを行うことができる。本発明の転写フィルムを用いて、配線板(非導電性基材)に触媒層(触媒組成物)、つまり無電解用めっきを施すための皮膜をパターン形成(露出)させる。その無電解めっき用の皮膜(触媒層)が形成された配線板に対して、無電解めっきを行うことで、配線板に電子回路形成用の無電解めっき皮膜を形成させる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
(1)インク(転写フィルム用触媒組成物)
1-1
Pd複合体含有液(Pd分12.75wt%、株式会社イオックス社製):1.96g、
塩ビ-酢ビ樹脂(固形分10wt%、DICグラフィックス社製):9.0g、及び
シクロヘキサン/MIBK/MEK 混合溶剤(溶媒)を、
Pd濃度が5,000ppm(0.5重量%)になるように混合して、金属めっき転写フィルム用触媒組成物を作製した。
1-2
Pd複合体含有液(Pd分16.7wt%、株式会社イオックス社製):0.075g、
アルキド樹脂(6%固形分 DICグラフィックス社製):0.75g、及び
シクロヘキサン/MIBK 混合溶剤(溶媒)を、
Pd濃度が6,000ppm(0.6重量%)になるように混合して、金属めっき転写フィルム用触媒組成物を作製した。
1-3
ML-100(株式会社イオックス社製) オフセット印刷、回路用インク
(2)無電解めっき用水圧転写フィルムの形成
2-1
バーコーター#4(塗工厚み:4μm)を用いて、得られた金属めっき転写フィルム用触媒組成物1-1及び1-2を、水圧転写フィルム(商品名ソルブロン、PVA樹脂、アイセロ化学製)上に塗布した(塗工厚み:4μm)。
次いで乾燥用オーブン内で70℃、5分間乾燥させた。
2-2
オフセット印刷方式で、得られた無電解めっき用転写フィルム用触媒組成物1-3を、水圧転写フィルム(商品名ソルブロン、PVA樹脂、アイセロ化学製)上に、印刷パターン版(図1)を用いて印刷塗布した。
次いで乾燥用オーブン内で80℃、15分間乾燥させた。
(3)水圧転写
べた面転写:3-1及び3-2
得られた金属メッキ用水圧転写フィルム2-1の水圧転写フィルム側を、水面(25℃、水道水、容積10L)に浮かべ、水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材(PVA樹脂)を水に溶解させた(1-2:約100sec、1-1:約40sec)。
その際、触媒組成物塗布側に転写被基材を接着させるため、霧吹き(ザ・スプレー、マルハチ産業(株)製)を使用して、溶剤(トルエン:MIBK:酢酸エチル=3:3:3)を約3secに1回吹き付けた。
所定の時間を経過した後、約45°〜80°の角度で成型物(ABS樹脂成形品、小森樹脂(株))をゆっくりと水圧転写フィルムに沈み込ませた。次いで、水中で定着させた後、ゆっくりと取り出し、流水により水洗した。
回路形成:3-3.
得られた金属メッキ用水圧転写フィルム3-1の水圧転写フィルム側を、水面(25℃、水道水、容積10L)に浮かべ、水圧転写フィルムの水圧転写フィルム用基材(PVA樹脂)を水に溶解させた(約40sec)。
フィルムを水面に浮かべた後、約30sec後、触媒組成物塗布側に転写被基材を接着させるため、霧吹き(ザ・スプレー、マルハチ産業(株))を使用して、溶剤(トルエン・MIBK・酢酸エチル=3:3:3)を約3secに1回印刷パターン部分に吹き付けた。
所定の時間を経過した後、約45°〜80°の角度で成型物(ABS樹脂成形品、小森樹脂(株))をゆっくりと水圧転写フィルムに沈み込ませた。次いで、水中で定着させた後、ゆっくりと取り出し、定着させた後、流水により水洗した。
水圧転写は問題なかった。
ABS樹脂成型品への転写後の画像を図2に示す。
(4)無電解めっき
べた面転写:3-1及び3-2
無電解Cuめっき浴及び無電解Niめっき浴条件
無電解銅(Cu)めっき浴は、奥野工業株式会社製HFS(初期Cu濃度2.5g/L、浴容積500mL、40℃)を用いた。
無電解ニッケル(Ni)めっき浴は、奥野工業株式会社製HX(初期Ni濃度6g/L、浴容積500mL、60℃)を用いた。
無電解めっき性の評価は次の通りである。
○:5分間めっき無電解めっきを行い、めっき浴に浸漬直後から良好な金属析出が起こり、銅(Cu)又はニッケル(Ni)のめっき皮膜が形成できた場合。
△:金属析出反応は起こるが、全面に均一なめっき被膜が形成できなかった場合。
(5)導電率測定
回路形成:3-3
株式会社カスタム社製のKM-320Nテスターを用いて、水圧転写で得られた無電解めっき転写回路の表面抵抗を、めっきパターン又はめっき皮膜面の電極10mm間の電気抵抗を測定した。
いずれの場合も電気抵抗値は0.0Ωを示した。