以下、蓄電素子の一実施形態について、図1〜図4を参照しつつ説明する。蓄電素子には、一次電池、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
本実施形態の蓄電素子は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子が電気エネルギーを供給する。
蓄電素子1は、図1〜図4に示すように、正極23及び負極24を含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子4であって電極体2と導通する外部端子4と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子4の他に、電極体2と外部端子4とを導通させる集電体5等を有する。蓄電素子1は、電極体2とケース3とを絶縁する絶縁部材6を備える。
図4に示すように、電極体2は、巻芯21と、正極23と負極24とが互いに絶縁された状態で積層された積層体22であって、巻芯21の周囲に巻回された積層体22と、を備える。電極体2においてリチウムイオンが正極23と負極24との間を移動することにより、蓄電素子1が充放電する。
巻芯21は、通常、絶縁材料によって形成される。巻芯21は、筒形状である。本実施形態の巻芯21は、偏平な筒形状である。具体的に、巻芯21は、間隔を空けて対向する一対の湾曲部211と、互いに対向する一対の直線部212であって、湾曲部211の対応(一対の湾曲部211の並び方向に対向)する端部同士を接続する一対の直線部212と、を有する(図2参照)。各湾曲部211は、外側(互いに離間する方向)に突出するように湾曲する。一対の直線部212同士は、平行又は略平行である。本実施形態の巻芯21は、可撓性又は熱可塑性を有するシートを巻回することによって形成される。
前記シートは、合成樹脂によって形成される。シートは、電解液に対して耐性を有する。シートは、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)によって構成される。シートの厚さは、例えば、50μm〜200μmである。本実施形態のシートは、例えば、ポリプロピレンによって構成され、該シートの厚さは、例えば、150μmである。巻芯21を構成するシートの材料は、合成樹脂に限定されず、アルミニウム、銅等の金属でもよい。
図4に示すように、積層体22は、正極23及び負極24が積層された(重ねられた)状態で巻芯21の周囲に巻回されることによって形成される。
正極23は、金属箔と、金属箔の上に形成された正極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極23は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)231を有する。正極23において正極活物質層が形成される部位を被覆部232と称する。
前記正極活物質層は、正極活物質と、バインダーと、を有する。
前記正極活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極活物質は、例えば、LiaMebOc(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LiaCoyO2、LiaNixO2、LiaMnzO4、LiaNixCoyMnzO2等)、LiaMeb(XOc)d(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LiaFebPO4、LiaMnbPO4、LiaMnbSiO4、LiaCobPO4F等)である。本実施形態の正極活物質は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2である。
正極活物質層に用いられるバインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
前記正極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の正極活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
負極24は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、銅箔である。負極24は、帯形状の短手方向である幅方向の他方(正極23の非被覆部231と反対側)の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)241を有する。負極24の被覆部(負極活物質層が形成される部位)242の幅は、正極23の被覆部232の幅よりも大きい。本実施形態の蓄電素子では上記のように金属箔よりも幅が狭い帯状の領域に負極活物質層が形成されている。本実施形態の蓄電素子は、負極24の負極活物質層を部分的に被覆する多孔層28をさらに有する。多孔層28は、負極活物質層よりも狭い領域にしか形成されていない。本実施形態の蓄電素子では負極活物質層上の2箇所以上に多孔層28が形成されている。即ち、本実施形態の蓄電素子では負極活物質層上の複数箇所に散在した状態で多孔層28が形成されている。
前記負極活物質層は、負極活物質と、バインダーと、を有する。
前記負極活物質は、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素、及び易黒鉛化炭素などの炭素材、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などのリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極活物質は、難黒鉛化炭素である。
負極活物質層に用いられるバインダーは、正極活物質層に用いられたバインダーと同様のものである。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
前記負極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の負極活物質層は、導電助剤を有していない。
多孔層28は、粒子を結着させたものとすることができる。粒子は、無機物粒子であっても有機物粒子であってもよい。多孔層28は、粒子どうしを直接結着したものであっても粒子どうしをバインダーによって結着させたものであってもよい。
多孔層28の形成に用いる無機物粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物;シリコンカーバイド、炭化チタン等の炭化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶粒子;などが挙げられる。無機物粒子は、例えば、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、アパタイト、ムライト、スピネル、オリビン、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等であってもよい。無機物粒子は、またこれらの化合物を含む複合化合物であってもよい。多孔層28を形成する無機物粒子の中には、アルミナ粒子、シリカ粒子及びチタニア粒子の何れかを含むことが好ましい。無機物粒子は、0.01μm〜5μmの平均粒子径を有することが好ましい。
多孔層28の形成に用いる有機物粒子としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂を含む樹脂ビーズが挙げられる。
粒子の結着に用いるバインダーとしては、汎用の樹脂を含むものが挙げられる。バインダーを構成する樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体等の合成ゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩等のセルロース系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリイミド及びその前駆体(ポリアミック酸等)、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル等が挙げられる。
多孔層28の厚さは、例えば、セパレータ25の厚さの1%以上50%以下とすることができる。本実施形態の多孔層28は、負極活物質層の表面に固着されている。多孔層28は、セパレータ25に固着してもよいが本実施形態の負極活物質層は、セパレータ25に比べると各種の素材に対して高い接着強度を示す素材で構成されている。そのため本実施形態の多孔層28は、所定の位置から脱落してしまうおそれが低い。
本実施形態のセパレータ25は、後述するように多孔質膜で形成されている。セパレータ25として用いられる多孔質膜の孔の径は、活物質層の孔径に比べて相対的に小さい。そのため、セパレータ25に多孔層28を固着させようとするとバインダーや粒子がリチウムイオンの通路となるセパレータ25の孔に入り込んで孔を塞いでしまうおそれがある。一方で本実施形態の多孔層28は、セパレータ25に対して相対的に大きな孔を有する活物質層の表面に固着されているので孔が塞がり難く、リチウムイオンの通路が確保され易い。本実施形態の多孔層28は、セパレータ25に固着されていないためセパレータ25との間に隙間を形成させ易くなっている。セパレータ25と多孔層28との間のリチウムの移動は、この隙間によっても良好なものとなり得る。このためセパレータ25の孔の方が活物質層の孔よりも大きい場合は、多孔層28をセパレータ25に固着させてもよい。
活物質層の孔の大きさとセパレータの孔の大きさとは、水銀ポロシメータを用いて比較することができる。より詳しくは、活物質層とセパレータとのそれぞれについて水銀ポロシメータで孔径の分布曲線を求め、この分布曲線でピークを示す孔径どうしを比較することでどちらがより大きな孔を有しているかを確かめることができる。尚、分布曲線で孔径ピークが複数観測される場合、どちらがより大きな孔を有しているかを確かめるには、複数のピークの内の最も差分細孔容積が高いピークの孔径どうしを比較すればよい。
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極23と負極24とがセパレータ25によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極23、負極24、及びセパレータ25の積層体22が巻回される。セパレータ25は、絶縁性を有する部材である。セパレータ25は、正極23と負極24との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極23と負極24とが互いに絶縁される。また、セパレータ25は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ25を挟んで交互に積層される正極23と負極24との間を移動する。
セパレータ25は、帯状である。セパレータ25は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアミドなどの多孔質膜によって構成される。本実施形態のセパレータ25は、例えば、ポリエチレンによって形成される。セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極24の被覆部242の幅より僅かに大きい。セパレータ25は、被覆部232同士が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極23と負極24との間に配置される。このとき、正極23の非被覆部231と負極24の非被覆部241とは重なっていない。即ち、正極23の非被覆部231が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極24の非被覆部241が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向(正極23の非被覆部231の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極23、負極24、及びセパレータ25、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。
セパレータ25は、正極23の活物質層と負極24の活物質層との間に介装されている。セパレータ25は、活物質層間を移動するイオンを透過可能な樹脂多孔質膜である。本実施形態のセパレータ25は、該セパレータ25における他の領域に比べてイオンの透過性が高い高透過領域25aを有している。本実施形態のセパレータ25は2以上の高透過領域25aを有している。即ち、本実施形態の蓄電素子では一つのセパレータ25の複数箇所に高透過領域25aが散在している。セパレータ25の高透過領域25aと負極24の活物質層を部分的に覆う多孔層28とは重なり合うように配されている。言い換えれば、多孔層28は、高透過領域25aと、高透過領域25aに対向する活物質層との間に備えられている。
本実施形態の蓄電素子は、2以上の高透過領域25aに対応する2以上の多孔層28を有している。本実施形態の多孔層28は、前記のように負極活物質層に固着されている。本実施形態ではセパレータ25の高透過領域25aに対して位置合わせされた2以上の多孔層28が負極活物質層に備えられている。2以上の多孔層28のそれぞれの面積は、セパレータ25や負極活物質層の全面に多孔層を形成させる場合に比べてセパレータ25や負極活物質層に接する面積が小さくなる。多孔層28は、例えば、セパレータや活物質層に接する面積が小さくなってこれらに対する十分な接着強度が確保できなくなると、多孔層28の一部がセパレータや活物質層から脱落する場合がある。しかしながら、本実施形態の多孔層28は、セパレータに比べると各種の素材に対して高い接着強度を示す素材で構成された負極活物質層に固着されている。即ち、本実施形態の多孔層28は、高い接着強度で負極活物質層に固着されるため負極活物質層から脱落してしまうおそれが低い。そのため、本実施形態の多孔層28は、面積を小さくすることができ、小さな高透過領域25aに対して過剰な大きさとなることが抑制され得る。本実施形態における複数の多孔層28の内の1又は2以上のそれぞれは、例えば、10000cm2以下の面積とすることが好ましい。多孔層28の面積は、100cm2以下であることがより好ましく、10cm2以下であることが更に好ましい。本実施形態における多孔層28の面積は、例えば、0.1mm2以上であることが好ましく、1cm2以上であることが更に好ましい。
本実施形態の電極体2は、多孔層28に対向していない側においてセパレータ25を覆う無機多孔層を備えてもよい。即ち、本実施形態の電極体2は、負極活物質層とセパレータ25との間に設けられた前記の多孔層28とは別に、正極活物質層とセパレータ25との間に設けられた多孔層(無機多孔層)を有していてもよい。負極活物質層側の多孔層28(以下「一面側多孔層」ともいう)と同様に正極側の多孔層(以下「他面側多孔層」ともいう)は、無機物粒子やバインダーなどによって形成される。他面側多孔層は、セパレータ25の片面全体を覆うものであってもよい。電極体2は、他面側多孔層を有することで、異常な発熱が生じた場合にセパレータ25の熱収縮や破膜を抑制することができる。
前記のように一面側多孔層28は、複数箇所に散在しており、セパレータ25の高透過領域25aに対応した位置に存在している。複数の多孔層28の内の一つの多孔層28と他の多孔層28とは、それぞれが対向する高透過領域25aの状態に合わせて厚さや空隙率を異ならせてもよい。即ち、蓄電素子が、一高透過領域25aと、当該一高透過領域25aよりも相対的にイオン透過性が高い他高透過領域25aとを有し、一高透過領域25aに対向する一多孔層28と、他高透過領域25aに対向する他多孔層28とを有する場合、一多孔層28の厚さは他多孔層28より薄くてもよい。また、このような場合、一多孔層28の空隙率は、他多孔層28より低くてもよい。尚、2つの高透過領域のイオンの透過性は、光の透過性を測定した結果に基づいて比較することができる。より詳しくは、セパレータ25の背面側から光を照射し、且つ、1つの高透過領域と他の高透過領域とが共通する照度となるように光を照射し、この状態でセパレータ25の表面側からこれらの高透過領域の明るさを観察することで何れの高透過領域のイオン透過性が高いかを判別することができる。セパレータ25の表面側における明るさの違いが1つの高透過領域と他の高透過領域との間で判断し難い場合は、CCDカメラを用いて明るさを数値化してもよい。
セパレータ25の高透過領域25aは、対向する多孔層28よりも面積が小さいことが好ましい。そして、セパレータ25の高透過領域25aは、多孔層28の内側に収まるように配されることが好ましい。本実施形態の蓄電素子では、一つの多孔層28を複数の高透過領域25aに対向可能な面積を有するものにしてもよい。しかしながら、電極体2のコンパクト化並びに軽量化を図る上においては、多孔層28の面積は小さいことが好ましい。そこで、本実施形態の蓄電素子では、高透過領域25aと多孔層28とが一対一の対応関係にあることが好ましい。また、このような場合、個々の多孔層28をそれぞれが対向する高透過領域25aに適した状態にさせ易い。従って、このような場合、正極23と負極24との間のイオンの透過性をより均一化させ易くなる。
それぞれの多孔層28を対応する高透過領域25aに対して適した状態にするために、本実施形態においては、多孔層28の厚みや空隙率などをそれぞれ高透過領域25aの状態に応じて変更してもよい。本実施形態では、多孔層28を形成させない領域でのイオンの透過性を基準値に定め、それぞれの高透過領域25aにおけるイオンの透過性がこの基準値に近い値となるように多孔層28を形成させてイオンの透過性を全体的に均一なものにさせてもよい。本実施形態の蓄電素子では、セパレータ25よりもイオンが通過する孔の径が大きな活物質層に対して多孔層28が固着されるため、多孔層28の構成材料が孔を部分的に目詰まりさせ難い。即ち、本実施形態の蓄電素子では、多孔層28の構成材料が孔を狭くしたり、幾つかの孔を完全に閉塞してしまったりすることが抑制され得る。このような目詰まりによるイオン透過性の低下の程度は予測が難しい。高透過領域25aに多孔層28を形成させても目詰まりの影響が予測外なものであると、多孔層28を形成した後のイオン透過性と、多孔層28を形成させない領域でのイオン透過性とが十分に一致しない場合がある。その一方で、本実施形態の蓄電素子は、多孔層がセパレータ25よりも孔径が大きな活物質層に固着されるので目詰まりによるイオン透過性の低下が抑制される。即ち、本実施形態の蓄電素子は、多孔層を形成した後のイオンの透過性が予想外な結果になることを抑制することができ多孔層28を形成した後のイオン透過性を、多孔層28を形成させない領域のイオン透過性に十分近い状態にすることができる。
セパレータ25の高透過領域25aは、通常、他の領域に比べて厚さが薄いか、又は、空隙率(見掛け上の体積に占める空隙の体積割合)が大きな領域である。高透過領域25aについては、セパレータ25の背面側から光を当てて前面側を目視観察することでその存在を明らかにすることができる。より詳しくは、セパレータ25の高透過領域25aの通常の大きさは数mm以下であるためセパレータ25の背面に光を当てて前面側から観察した際に数mm以下の他よりも明るい箇所が見られれば、その箇所を高透過領域25aとして特定することができる。なお、より高精度に高透過領域25aの存在を明らかにするためにCCDカメラを用いた画像解析を行ってもよい。この場合、セパレータ25の前面側における明るさをCCDカメラを用いて数値化し、明るさが規定値以上の領域を高透過領域25aとして特定すればよい。高透過領域25aは、さらに、赤外線やX線の透過性などによっても特定できる。
セパレータ25は、幅方向における一端縁(側縁)が正極23の端縁よりも内側となるように配され、幅方向における他端縁(側縁)が正極の端縁よりも外側となるように配されている。セパレータ25は、正極よりも外側に配された前記他端縁が負極24の端縁よりも内側となるように配され、前記一端縁が負極24の端縁よりも外側となるように配されている。従って、電極体2の巻回軸方向一端部には、正極23の非被覆部231のみが積層された非被覆積層部26が形成されている。また、電極体2の巻回軸方向他端部には、負極24の非被覆部241のみが積層された非被覆積層部26が形成されている。
非被覆積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。本実施形態の非被覆積層部26は、巻回された正極23、負極24、及びセパレータ25の巻回中心方向視において、中空部27(図4参照)を挟んで二つの部位(二分された非被覆積層部)261に区分けされる。
以上のように構成される非被覆積層部26は、電極体2の各極に設けられる。即ち、正極23の非被覆部231のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における正極の非被覆積層部を構成し、負極24の非被覆部241のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における負極の非被覆積層部を構成する。
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間33に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。本実施形態のケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
前記電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO4、LiBF4、及びLiPF6等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPF6を溶解させたものである。
前記電解液は正極23と負極24との間に浸透し、充放電時にリチウムイオンを正極−負極間に伝達する媒体となる。蓄電素子の充電時には、正極活物質層から電解液にリチウムイオンが供給されるとともに電解液中のリチウムイオンが負極活物質層へと移動する。多孔層が設けられていない蓄電素子では、このときの負極活物質層へのリチウムイオンの供給がセパレータの高透過領域に対向した位置に集中しやすい。即ち、多孔層が設けられていない蓄電素子では、高透過領域を通じた正極−負極間のリチウムイオンの移動と他の領域を通じたリチウムイオンの移動との間に大きな差を生じ易い。一方で本実施形態の蓄電素子では多孔層28によって正極−負極間のリチウムイオンの移動が規制されることから高透過領域でのリチウムイオンの移動と他の領域でのリチウムイオンの移動との間に大きな差が生じにくくなる。
本実施形態の蓄電素子は、電極体2の形成に用いるセパレータ25に散在している高透過領域25aの位置情報を得ることと、該位置情報に基づいて活物質層及びセパレータの少なくとも一方の表面に多孔層を形成することと、多孔層と高透過領域とが対向した電極体を作製することとを含む製造方法によって作製することができる。高透過領域25aの位置情報に基づいて活物質層及びセパレータの少なくとも一方の表面に多孔層を形成することでは、負極活物質層の表面に多孔層28を形成してもよい。高透過領域25aの位置情報に基づいて活物質層及びセパレータの少なくとも一方の表面に多孔層を形成することでは、セパレータ25の表面に多孔層28を形成してもよい。高透過領域25aの位置情報に基づいて活物質層及びセパレータの少なくとも一方の表面に多孔層を形成することでは、正極活物質層の表面に多孔層28を形成してもよい。多孔層28は、無機物粒子とバインダーとを含み必要に応じて溶媒をさらに含む塗膜剤を調製することと、該塗膜剤を塗布することと、を実施して活物質層やセパレータの表面に形成することができる。塗膜剤の塗布は、ロールコートやスプレー塗工などの方法によって実施することができる。
高透過領域25aの位置情報を得ることは、セパレータ25の製造時に実施されてもよく、電極体2の作製時に実施されてもよい。セパレータ25の製造時に高透過領域25aの位置情報を得る方法としては、例えば、製造されたセパレータ25をロール状に巻き取る際にラインセンサーで高透過領域25aを検出する方法が挙げられる。即ち、セパレータ25の製造時に高透過領域25aの位置情報を得る方法としては、セパレータ25の搬送経路にラインセンサーを配置し、該ラインセンサーによる測定地点を通過するセパレータ25の移動速度等に基づいてセパレータ25の長さ方向における高透過領域25aの位置(MD位置)とセパレータ25の幅方向における高透過領域25aの位置(TD位置)とをラインセンサーで検出する方法が挙げられる。
高透過領域25aの検出に用いるラインセンサーとしては、例えば、セパレータ25の一面側に可視光線、赤外線、X線などのエネルギー線を照射するための線源と、セパレータ25の他面側へのエネルギー線の透過量(光量、赤外線量、X線量)を検知する検知器とを備えたものが挙げられる。該検知器としては、線量計やセパレータ25の濃淡(明暗)を計測可能なCCDカメラを採用することができる。
高透過領域25aの位置情報に基づいてセパレータの表面に多孔層を形成する方法としては、例えば、ロール状に巻き取られたセパレータ25を一定長さのロールに巻き換える際に高透過領域25aの位置情報に基づいてロールコーターやスプレー塗工機でセパレータの表面に多孔層を形成させる方法が挙げられる。高透過領域25aの位置情報に基づいて活物質層の表面に多孔層を形成する方法としては、例えば、正極23や負極24とともにセパレータ25を巻回して電極体2を作製する際にロールコーターやスプレー塗工機で活物質層の表面に多孔層を形成させる方法が挙げられる。
電極体2の作製時に高透過領域25aの位置情報を得る方法としては、例えば、正極23や負極24とともにセパレータ25を巻回して電極体2を作製するための巻回機へセパレータ25を供給する経路にラインセンサーを設置し、該ラインカメラで高透過領域25aを検出する方法が挙げられる。
高透過領域25aの位置情報に基づいて活物質層及びセパレータの少なくとも一方の表面に多孔層を形成する方法としては、例えば、正極23、負極24、及び、セパレータ25の巻回機への供給経路の何れかにラインカメラに連動するよう設定されたロールコーターやスプレー塗工機を設置し、該ロールコーターやスプレー塗工機で活物質層やセパレータの表面に多孔層を形成させる方法が挙げられる。
尚、蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
上記においては多孔層28を負極側の活物質層の上に形成させる場合を例示しているが、多孔層28は、正極側の活物質層の上に形成してもよく、セパレータ上に形成してもよい。尚、複数の無機物粒子を高透過領域にバインダーで接着させて多孔層を形成する場合、高透過領域を補強できるという利点を有する。
本実施形態の蓄電素子は、複数の多孔層28の内の一部を活物質層上に形成させ残りの多孔層をセパレータ上に形成させてもよい。また、本実施形態の蓄電素子は、多孔層28を厚さ方向に分断可能なものとし、分断された一方を活物質層側に形成し、他方をセパレータ側に形成させるようにしてもよい。さらに、本実施形態の蓄電素子は、多孔層をセパレータや活物質層の表面全体に形成してもよい。その場合、高透過領域に対応した位置における多孔層の厚さを他の領域よりも厚くしてもよい。このように本実施形態の蓄電素子は図4などに例示したものに対して各種変更を加え得る。
また、上記実施形態においては、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態において、蓄電素子の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
上記のように本実施形態の蓄電素子は、正極の活物質層と負極の活物質層との間に介装されたセパレータを備え、該セパレータが活物質層間を移動するイオンを透過可能で、該セパレータにおける他の領域に比べてイオンの透過性が高い高透過領域を有し、該高透過領域と、高透過領域に対向する前記活物質層との間に多孔層が備えられている。
また、本実施形態の蓄電素子は、前記セパレータが、2以上の前記高透過領域を有し、前記多孔層が、該高透過領域に対応した2以上の箇所に備えられている。
そのため本実施形態の蓄電素子では、正極と負極との間でイオンが移動する際にセパレータの高透過領域を通過するイオンが多孔層も通過することになる。従って、本実施形態の蓄電素子では、高透過領域を通過するイオンの移動が、多孔層によって規制される。即ち、本実施形態の蓄電素子では、高透過領域を有するセパレータが用いられていても正極と負極との間におけるイオン透過性の場所による違いが抑制され得る。
上記の蓄電素子は、活物質層に固着した前記多孔層を備えていてもよい。
本実施形態の蓄電素子における2以上の多孔層のそれぞれの面積は、セパレータや活物質層の全面に多孔層を形成させる場合に比べて小さくなる。多孔層は、面積が小さくなると固着される相手に対して十分な接着強度が発揮され難くなる。活物質層は、通常、セパレータに比べると各種の素材に対して高い接着強度を示す素材で構成されている。そのため、この蓄電素子では面積が小さな多孔層を形成しても該多孔層の脱落が抑制される。即ち、この蓄電素子ではセパレータに面積の小さな高透過領域が形成されている場合でも多孔層の脱落を抑制しつつイオン透過性の均一化を図ることができる。
上記の蓄電素子は、前記活物質層と前記セパレータとの内、水銀ポロシメータによる測定で孔径ピークを示す孔径が大きい側に固着した前記多孔層を備えていてもよい。
活物質層やセパレータのイオンが通る孔は活物質層やセパレータに多孔層が固着されることで部分的に目詰まりしてイオンの透過性が低下する場合がある。前記多孔層をセパレータの全面に固着するような場合は、全体的にイオン透過性が低下するので場所によるイオンの透過性の違いが問題になり難い。一方で本実施形態の蓄電素子では、特定の箇所に前記多孔層が固着されることになるため、目詰まりによるイオン透過性の低下は特定の箇所に発生することになる。しかも、目詰まりがイオン透過性に与える影響の大きさは予測することが難しいため、多孔層の形成時に目詰まりを発生させると多孔層形成箇所のイオン透過性を所望の状態に調整することが難しくなる。上記の蓄電素子は、孔径が大きい側に多孔層が固着されるので目詰まり自体が生じにくく、多孔層を形成した後のイオンの透過性が予想外な結果になることを抑制し得る。従って、上記の蓄電素子では、正極と負極との間におけるイオン透過の均一性がより一層向上され得る。
蓄電素子は、前記高透過領域に接着した複数の無機物粒子によって前記多孔層が形成されていてもよい。この蓄電素子では、高透過領域に接着した複数の無機物粒子によって多孔層が形成されるため、多孔層によって高透過領域が補強される。また、蓄電素子は、前記の通り上記のような変更以外にも各種の変更を加え得る。