図1(a)は、本開示の一実施形態に係る記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pをガイドローラ82Aから搬送ローラ82Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、印刷用紙Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本開示の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向である第2方向D2に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向である第1方向D1に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙
Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、第1方向D1に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。また、第1方向と直交する方向を第2方向D2とする。第2方向D2を、液体吐出ヘッド2の短手方向と呼ぶことがある。
1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向である第2方向D2に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向である第1方向D1に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向である向印刷用紙Pの幅方向に繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのであれば、1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用して搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、75m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制
御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1は、吸引キャップ90と吸引部とを備えている。印刷する液体の一部が固着するなどして、液体吐出ヘッド2内で詰まった場合などに、吸引キャップ90は、液体吐出ヘッド2に取り付けられて、吸引部で吸引することで、詰まりを取り除く。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出量や吐出速度などの吐出特性に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
次に、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体13を示す平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、ヘッド本体13の一部を示す図である。図4は、図3と同じ位置の拡大平面図である。図3および図4では、図を分かりやすくするため、一部の流路を省略して描いている。また、図3および図4では、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき加圧室10、しぼり12および吐出孔8などを実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。図6(a)は、吸引キャップ90を取り付けた状態のヘッド本体13の縦断面図であり、(b)は、吐出孔面4−2側から見た平面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電基板である圧電アクチュエータ基板21とを有している。ヘッド本体13には、さらに、圧電アクチュエータ基板21を駆動する駆動信号を伝達する配線基板を含んでもよい。
圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向である第1方向D1に平行になるように流路部材4の上面である加圧室面4−1に配置されている。以下で、台形形状の上底および下底のうちで、長い方を長辺と呼び、短い方を短辺と呼ぶことがある。
また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチュエータ基板21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が配置されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、10個あり、流路部材
4の長手方向に平行な2本の直線上に5個ずつ配置されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避けた位置に配置されている。マニホールド5には、図示されていない液体タンクから、開口5bを通じて液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。各副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域において、隣り合って配置され、ヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4行の副マニホールド5aに分岐している。一つの副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、副マニホールド5aの片側に2行ずつ、両側で4行の加圧室行11を構成している。副マニホールド5aは4行存在するため、加圧室行11は、16行存在する。図3では、もっとも長辺側に配置された加圧室行11を加圧室行11−1、加圧室行11−1から短辺側に向かって順に加圧室行11−2〜11−16が配置されている状態を示してある。各加圧室行11に含まれる加圧室10の数は、圧電アクチュエータ基板32の外形形状に対応して、長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。
吐出孔8は、ヘッド本体13の解像度方向である長手方向において、約42μm(600dpiならば25.4mm/150=42μm間隔である)の間隔で略等間隔に配置されている。これによって、ヘッド本体13は、長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。台形形状の圧電アクチュエータ基板21がオーバーラップしている部分では、2つの圧電アクチュエータ基板21の下方にある吐出孔8が、互いに補完し合うように配置されていることにより、吐出孔8は、ヘッド本体13の長手方向に600dpiに相当する間隔で配置されている。
また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8を4行の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は加圧室10より一回り小さく、
加圧室10とほぼ相似な形状を有していて、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まる個別電極本体35aと、個別電極本体35aから、加圧室10の外まで引き出せた引出電極35bとを含んでいる。
流路部材4の下面である吐出孔面4−2には、吐出孔8の下側の開口である吐出孔8が多数開口している。吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。吐出孔8の集まりである吐出孔群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の圧電素子、すなわち変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。そして、それぞれの吐出孔群内の吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。ディセンダの吐出孔8側は特に断面積が小さい、ノズルプレート31に形成されたノズルとなっている。
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の変位する部分である変位素子50の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35は、加圧室10と対向している個別電極本体35aと、加圧室10と対向している領域外に引き出されて引出電極35bとを含んでいる。引出電極35bには、引出電極35bと配線基板とを電気的に接続する、凸形状の接続導体36が配置されている。接続導体36は、例えば、高さ5〜200μm程度であり、導電粒子を含んだ樹脂である。
圧電セラミック層21a、bおよび共通電極34は、それぞれほぼ同じ形状であることにより、これらを同時焼成により作製する場合に、反りを小さくできる。100μm以下の圧電アクチュエータ基板21は焼成過程で反りが生じやすく、その量も大きくなる。また、反りが生じていると、流路部材4に積層した際に、その反りを変形させて接合することになり、その際の変形が変位素子50の特性変動に影響し、ひいては液体吐出特性のばらつきにつながるため、反りは、圧電アクチュエータ基板21の厚さと同程度以下に小さいことが望ましい。そして、内部電極のある場所とない場所の焼成収縮挙動の差による反りを少なくするために内部電極である共通電極34は内部にパターンのないベタで形成される。なお、ここで略同じ形状であるとは、外周の寸法の差がその部分の幅の1%以内であることを言う。圧電セラミック層21a、bの外周は、基本的に焼成前に重ねられた状態で切断して形成されるので、加工精度の範囲内で同じ位置になる。共通電極34も、ベタ印刷した後に、圧電セラミック層21a、bと同時に切断することで形成されると反りが生じ難いが、圧電セラミック層21a、bと相似形状で少し小さいパターンで印刷することにより、圧電アクチュエータ21基板の側面に共通電極34が露出しなくなるため、電気的信頼性が高くなる。
詳細は後述するが、個別電極35には、制御部88からフレキシブル配線基板(FPC、Flexible Printed Circuit)などの配線基板を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷用紙Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に配線基板に電気的に接続される。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、
個別流路32を通じて、対応する吐出孔8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および吐出孔8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により構成されており、圧電アクチュエータ基板21には圧電素子である変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって吐出孔8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
圧電アクチュエータ基板21を平面視したとき、個別電極本体35aは加圧室10と重なるように配置されており、加圧室10の中央に位置している部位の、個別電極35と共通電極34とに挟まれている圧電セラミック層21bは、圧電アクチュエータ基板21の積層方向に分極されている。分極の向きは上下どちらに向かっていてもよく、その方向に対応し駆動信号を与えることで駆動できる。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック層21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
液体吐出ヘッド2における駆動信号の一例として、いわゆる引き打ちの駆動信号を用いた吐出方法を説明する。また、加圧室10内の液体の共振周期の半分の時間をAL(Acoustic Length)とする。制御部88が共通電極34および個別電極35に印加する電圧を
印加電圧vとし、加圧室10内の液体の圧力を圧力pとして説明する。圧力Pは、詳細には、加圧室10の変位素子50に面した領域の面積重心付近の圧力である。
制御部88は、吐出ユニット15から液滴を吐出しない状態においては、印加電圧vとして所定の電圧v1を印加している。これにより、変位素子50は加圧室10側へ撓んでいる。このときの圧力pを基準圧力p0とする。
吐出を行なう際には、まず、印荷電圧vを、電圧v0まで下げる。v0は、例えば0(ゼロ)[V]である。印荷電圧vを変える時点を時間的基準として、この時点をt=0(ゼロ)とする。印荷電圧vが電圧v0になったことで、変位素子50の加圧室10側への撓みは小さくなろうとする。印荷電圧vを、0(ゼロ)[V]とすれば、変位素子50は、ほぼ撓みのない状態に戻ろうとし、印荷電圧vを、v1と符号が逆の電圧にすれば、変位素子50は、加圧室10とは逆側に撓んだ状態に撓もうとする。
t=0(ゼロ)での印荷電圧vの変化により、圧力pは低くなる。標準状態の圧力p0よりも圧力pが低くなった加圧室10は、吐出孔8も含まれる加圧室10に繋がっている流路から液体を引き込み、圧力pはp0に戻っていく。t=AL/2の時点で、圧力pはp0に戻る。t=AL/2を過ぎても、加圧室10に繋がっている流路からの液体の流入は続くため、流入した液体により、圧力pはp0よりも高くなっていく。
t=ALの時点で、圧力pは、t=0(ゼロ)からこの時点までの間でもっとも高くなる。このときに、制御部88は、印荷電圧vを上げる。例えば、印荷電圧vをv1に戻す。印荷電圧vを上げる前に高くなっていた圧力に、印荷電圧vを上げたことで生じた圧力
が足されるので、圧力pはさらに高くなる。この時点の圧力pは、2回分の電圧変化の圧力が足された状態になっている。より詳細には、t=ALの時点の基準圧力p0からの圧力pの変化の絶対値(|p−p0|)は、t=0(ゼロ)の時点の基準圧力p0からの圧力pの変化の絶対値(|p−p0|)の約2倍となっている。
この約2倍になった圧力pは、加圧室10から、加圧室10に繋がっている流路に、圧力波として伝わっていく。この圧力波のうち、吐出孔8に達した圧力波によって、吐出孔8の内側の液体の一部が外部に押し出されて、液滴として吐出される。液滴の吐出後も、加圧室10においては振動が続いている。これを残留振動という。残留振動は、徐々に減衰していく。この残留振動の周期は、ALの2倍である。
2回加える電圧変化の間隔、すなわちパルス幅は、上述のようにALにすると、原理的には、液体の吐出量は最大になり、液体の吐出速度は、最高になる。パルス幅は、ALからずれた値であっても、AL/2より大きく、3×AL/2より小さい値で有れば圧力の重ね合わされて強くなる。そして、パルス幅を、ALに近い値にすれば吐出が生じる。実際の吐出においては、吐出量や吐出量を調整するため、あるいは、吐出される液体が1滴ではなくなる分滴などが生じ難いように、パルス幅は、ALから外れた値に、適宜調整される。
以上のような、プリンタ1で印刷を行なっていると、駆動信号を与えても、液体が吐出されないことがある。原因は、流路の詰まり、あるいは、気泡の流入であることが多い。吐出される液体には、固形分や粘度の高い成分が分散されていることがあり、その一部が流路内に固着することで、流路が塞がってしまったり、断面積が狭くなってしまうことがある。また、液体の溶剤成分が少なくなって、液体の粘度が高くなり、吐出できなくなることがある。こられを総称して、流路の詰まりと言う。流路の詰まりは個別流路32に起こり易く、吐出孔8の付近で特に起こり易い。
個別流路32の、加圧室10よりも吐出孔8側の流路が詰まれば、吐出孔8に、圧力波が伝わらなくなったり、伝わっても弱くなるので、吐出が生じないか、吐出量が減ったり、吐出速度が遅くなったりする。また、圧力は通常と同様に伝わっても、吐出孔8内の液体が、通常の圧力波では正常に吐出できないほど粘度になっていることにより、吐出が生じないか、吐出量が減ったり、吐出速度が遅くなったりする。個別流路32の、加圧室10よりもマニホールド5側の流路が詰まれば、加圧室10の圧力振動が通常と異なる状態になることで、吐出特性が変動する。また、加圧室10への液体の供給が不足することで、吐出ができなくなる。
気泡は、供給側、すなわちマニホールド5の開口5b側から流入する場合、および吐出孔8側から流入する場合がある。個別流路32全体の液体がなくなってしまえば、そもそも吐出される液体が存在しないので、吐出できない。個別流路32内に、小さな気泡が存在する場合も、気泡は、体積変化することで、吐出の圧力波を吸収するので、圧力が減ることで、吐出できなくなったり、吐出特性が変動する。
以降、流路の詰まり、および気泡の存在などを含めて、吐出不良の状態を詰まり等と言う。
いずれにしても、印刷を行なうには、詰まり、あるいは気泡の影響を少なくし、正常な吐出を行なえる状態に復帰させる必要がある。復帰は、例えば、次のように行なう。
吐出不良のあるヘッド本体13に吸引キャップ90を取り付ける(図6(a)、(b)参照)。吸引キャップ90は、平面形状がヘッド本体13よりも一回り大きい。吸引キャ
ップ90は、吐出孔8が配置されている領域を覆うように、吐出孔面4−2に取り付けられて、すべての吐出孔8の外側に、ほぼ密閉されたキャップ空間92を作る。吸引キャップ90のキャップ空間92に面した部分、例えば、平面方向の中央部分に吸引孔90aが設けられている。吸引孔90aは、ポンプ等の吸引部とチューブで繋がれる。吸引部は、キャップ空間92内の空気および吐出孔8内の液体を吸引する。
吸引キャップ90には、囲み部90bが設けられており、囲み部90bは、ヘッド本体13に取り付けられた際には、ヘッド本体13の側面を囲むようになっている。囲み部90bにより、ヘッド本体13に対して、吸引キャップ90の概略の位置が定められる。囲み部90bの内側には、吐出孔面4−2に当たる当接部90cが設けられている。当接部90cは、吐出孔面4−2の吐出孔8が配置されている領域の全体を囲むように配置されている。吸引された際に、キャップ空間92が減圧されて、当接部90cは、吐出孔面4−2に押し付けられる。当接部90cを、ゴムなどの弾性体で構成すれば、吸引された際に、吸引キャップ90と吐出孔面4−2との間に隙間ができ難くなる。これにより、キャップ空間92に外部から気泡が入って、吸引が不十分になったり、液体が外部に漏れたりし難くなる。
ヘッド本体13に吸引キャップ90を取り付けた後、吸引孔90aにチューブなどを介して繋がれたポンプなどの吸引部で、吸引をする。吸引されることで、キャップ空間92は減圧され、吐出孔8から液体が吸い出される。詰まりおよび気泡は、吐出孔8から流れ出る液体とともに、ヘッド本体13から外に排出される。また、詰まっていることにより、最初の内は、吐出孔8から液体が吸い出されないような流路を塞いでいる詰まりであっても、吸引時間を長くしたり、より強く吸引することで、吐出孔8から液体が吸い出される。
単に吸引して、詰まり等を除こうとする場合、回復作業を終了した後に、実際の印刷等の吐出動作を行なわないと、詰まり等が除かれたかどうかが分からない。そこで、吸引を行なっている間に、吸引によって変形した圧電素子である変位素子50に生じる電圧あるいは電流などの電気的出力を測定して、詰まり等の状態を調べる。なお、電気的出力を測定するとは、電圧の変化がない状態、あるいは電流が流れない状態などを測定する場合も含む。
変位素子50には、駆動信号を印加する為に、例えば、圧電アクチュエータ基板21に電気的に接続された配線基板にドライバIC(Integrated Circuit)が実装されている。このドライバICに、変位素子50が変形したときに生じる電気的出力を検知できる検知部を設ける。検知部は、例えば、変位素子50に生じた電圧の差を検知し、制御部88に検知結果である電圧のデータなどを送る。以降では、検知部は、吐出するのと同様な状態において、変位素子50に電圧が加わっていない状態の変位素子50の電圧を基準にした電圧を測定するものとして説明する。また、加圧室10の圧力が低くなる方が、検知部の測定する電圧が高くなるとする。
制御部88には、判定部88aが存在し、変位素子50毎に、詰まり等が生じているどうかを、検知結果である電圧を元に判定する。判定部88aは、さらに、変位素子50毎の詰まり等の判定結果をもとに、吸引部の制御を行なう。
詰まり等の判定方法について説明する。詰まり等がどのような状態であるかによって、測定された電圧は、正常な場合に比較して、異なる結果となる。吐出可能な正常な状態か、回復を必要とする状態かの判定は、例えば、下記のいずれかの方法で行なうことができる。1つ目の方法は、あらかじめ、電圧の正常な範囲を、確定した値として設定しておく方法である。測定された電圧が、正常な範囲として設定された範囲であれば、正常と判定
し、それを外れていた場合は詰まり等があると判定する。正常な範囲は、あらかじめ、判定部88aに記録しておく。2つ目の方法は、他の変位素子50と比較して判定する方法である。元々、多数の吐出孔8に詰まり等が生じることは少ない上、回復動作を行なうことで、多くの吐出孔8の詰まり等は回復するので、ある程度回復動作を行なった後には、ほとんどの吐出孔8の詰まり等は解消されている。判定部88aは、必要な範囲、例えばすべての変位素子50の電圧の平均を算出し、その平均値に対してずれの大きい変位素子50に対応する流路に詰まり等があると判定する。この際の判定は、平均値に対して正常と範囲する電圧の値をあらかじめ設定しておいてもよいし、電圧の分散や標準偏差等を計算して、その結果から、正常と範囲する電圧の値を決めてもよい。1つ目の方法では、液体の種類が変わった場合に、正常と判定する範囲の変更が必要になる場合があるが、2つ目の方法であれば、変更が必要になる可能性を低くできる。
判定する際の状態としては、液体供給状態と、液体供給制限状態とがある。液体供給状態は、ヘッド本体13への液体の供給が特に制限されていない状態であり、通常の吐出を行なう場合と同じか、あるいは、それよりも液体が供給され易い状態である。吸引による回復動作を行なう際には、液体供給状態にされて、吐出孔8から液体が吸引され易い状態にされる。
これに対して、液体供給制限状態とは、ヘッド本体13への、液体の供給が止められるか、あるいは、通常の吐出を行なう場合と比較して、液体の供給が制限された状態である。液体供給制限状態にするには、マニホールド5の供給口5aよりも液体の供給側に弁を設けて、その弁を閉じたり、変形可能な流路を設けて、その流路を変形させて流路抵抗を高くしたり、吐出の際に加えている背圧を大きくしたりする。液体供給制限状態は、吸引による回復動作を行なっている間に、詰まり等の検出を行なうために、一時的に設定される。
続いて、液体供給状態での判定について説明する。この状態では、正常な流路には、一定の速度で液体が流れ、詰まり等がある流路には、液体が流れないか、正常な流路よりも流れる速度が低くなる。正常な加圧室10には液体が流れるので、圧力は低くなり、電圧は高くなる。この場合の、圧力をP1とし、電圧をV1とする。
加圧室10よりも吐出孔8側に詰まり等が有った場合、液体が流れないか速度が遅くなるため、加圧室10の圧力は低くならないか、低くなったとしても、P1ほどには低くならない。この結果、電圧はV1よりも低くなる。加圧室10よりもしぼり12側に詰まり等が有った場合、加圧室10への液体の供給が制限されるので、加圧室10の圧力はP1よりも低くなる。この結果、電圧はV1よりも高くなる。
続いて、液体供給制限状態での判定について説明する。ここでは、液体の供給が止められた状態について説明する。供給が大きく制限されれば、以降で説明する状態に近づき、供給の制限が小さければ、上述の液体供給状態に近づく。液体の供給を止めたり、大きく制限することで、上述の液体供給状態と違う状態における電圧を測定できるので、判定部88aによる判定がより正確になる。
加圧室10よりも吐出孔8側のみに詰まり等が有った場合、および、加圧室10よりもしぼり12側のみに詰まり等が有った場合には、加圧室10の圧力はほぼP1となり、電圧もほぼV1となる。加圧室10よりも吐出孔8側および加圧室10よりもしぼり12側の両方に詰まり等が有った場合、加圧室10の圧力は低くならないか、低くなったとしても、P1ほどには低くならない。この結果、電圧はV1よりも低くなる。これは、詰まりが両方にあった場合には、加圧室10の液体は、実質的に吸引されないからである。どちらか一方、あるいは両方が気泡で有った場合には、気泡があるため、吸引の圧力の一部し
か加圧室10に伝わらなくなるので、圧力は、P1までは低下しない。
液体供給状態では、両方に詰まり等が有った場合には、それらの影響が相殺されて、V1との電圧の差が小さくなることがあるが、液体供給制限状態で判定することにより、より正確に判定できる。
また、詰まり等が存在するかの判定は、1回でもよく、複数回行ってもよい。判定を複数回行うことで、判定がより正確になる。また、単に複数回判定するだけでなく、複数回の電圧の平均を算出して比較すれば、測定誤差の影響を低減できる。
さらに、詰まり等がある場合、特に気泡がある場合は、複数回の電圧のばらつきが大きくなる。電圧の値が、正常範囲であっても、電圧の値のばらつきが大きい場合に、詰まり等があると判定してもよい。
また、吸引部による吸引は、一定の圧力、あるいは一定の流量で吸引するのではなく、吸引する強さを周期的に変化させてもよい。つまり、吸引の圧力や吸引量を大きくする強い吸引と、吸引の圧力や吸引量を小さくする弱い吸引とを交互に後に行なう。吸引の強弱の周波数は、例えば1Hz〜100kHzにする。ポンプなどの吸引部による吸引の強さを変える速さが、必要な周波数よりも遅い場合は、吸引部に、ポンプなどとは別に、振動を与える振動部を設けて、吸引する気体あるいは液体を振動させてもよい。
測定は、例えば、吸引の強さの周期よりも短い周期で行ってもよいし、吸引の強さの周期に合わせて行ってもよい。吸引の強さの周期よりも短い周期で測定すれば、電圧の最大値、最小値、および吸引の強さの周期に対する電圧の変化の周期の時間的ずれなどが分かるので、より詳細な判定ができる。吸引の強さの周期に合わせて、例えば、吸引がもっとも強くなっているとき、あるいは、吸引がもっとも弱くなっているときに測定してもよい。さらに、一般的には、吸引の強さの変化に対して、正常な加圧室10内の圧力が変化するタイミングがずれるので、正常な加圧室10内の圧力がもっとも高くなるとき、あるいは最も低くなるときに測定してもよい。
吸引する強さを周期的に変化させ、次の点で判定を行なうことで、より正確な判定ができる。
第1に、詰まり等がある場合には、詰まり等の状態が変化することがあるので、正常な場合と比較して、電圧のばらつきが大きくなる。これは、上述の測定を複数回行うのと同じであるが、吸引の強さを変化させているので、ばらつきはより大きくなり、判定がより正確になる。
第2に、周期の位相差を考慮した判定である。吸引の強さを周期的に変化させると、完全に詰まっているような場合を除けば、加圧室10の圧力は、ほぼ同じ周期で変化する。なお、完全に詰まっているような場合は、吸引したことによる電圧の変化がほとんどないので、詰まり等があることが分かる。
吸引の強さの周期と、加圧室10の圧力の周期が、ほぼ同じ周期であったとしても、周期の位相は、一般的に差がある。また、正常な加圧室10と詰まり等がある加圧室10とでは、位相に差が生じることがある。そのため、単なる吸引では区別がつき難かった詰まり等を、位相の差で判定することができる。
吸引の強さの周期のよりも短い間隔で測定を行えば、位相のずれを算出することができ、位相差で判定できる。また、例えば、吸引の強さの周期に合わせて、吸引がもっとも強
いときに測定した場合には、次のようになる。正常な加圧室10の圧力は、吸引の強さの周期に対して、ある位相差で変化していて、吸引がもっとも強いときには、圧力はP2となり、電圧はV2になったとする。詰まり等がある場合には、正常な加圧室10の圧力変化とは異なる位相差が生じる可能性が高い。位相差があれば、吸引がもっとも強いときの圧力は、位相差の分だけP2からずれ、電圧はV2からずれる。したがって、吸引の強さの周期に合わせて測定し、電圧の値で判定することでも、位相差に基づく判定ができる。
また、吸引する強さの周波数を、異なる値にして、測定することで、より正確な判定ができる。
以上の測定および判定は、適宜組み合わせて行なうことができる。具体的な組み合わせとして、次のようなものがある。液体供給状態で定圧もしくは定量で吸引した状態、液体供給状態で周期的な強さで吸引した状態、液体供給制限状態で定圧もしくは定量で吸引した状態、および液体供給制限状態で周期的な強さで吸引した状態などである。周期的な強さでの吸引では、周期を変えて複数の条件で測定してもよい。
液体供給状態での測定および判定は、詰まり等の回復動作と同時に行なうことができる。液体供給制限状態では測定および判定は、詰まり等の回復動作を中断して行なう。
詰まり等の回復方法は、例えば、次のように行なう。吐出不良が生じた場合に、正常な吐出ができるように回復動作を行なう。また、吐出不良が生じていなくても、一定時間吐出を続けたり、逆に一定時間吐出しない状態が続いた場合に、予防的に回復動作を行なう。
回復動作を行なうには、ヘッド本体13に吸引キャップ90を取り付けるなどして、吐出孔8内の液体を吸引できるようにする。この際、回復動作を始める前に、液体供給制限状態での測定および判定を行って、この状態を初期状態として記録してもよい。回復動作は、供給抑制部によるヘッド本体13への液体の供給の制限は行なわず、通常の吐出を行なう際と同じように液体が供給されるようにするか、もしくは、より液体の供給がされ易い状態で行なう。回復動作では、吸引部が、吸引孔90aから空気あるいは液体を吸引する。吸引は、定圧あるいは定量で行なってもよいし、吸引の強さを周期的に変化させてもよい。吸引を始めた初期において、測定および判定を行って、この状態を初期状態として記録してもよい。
測定および判定は、吸引による回復動作を行ないながら、連続的、あるいは離散かつ定期的に行なう。また、必要であれば、液体供給制限状態にして測定および判定を行なう。判定は、各測定において、その時の測定データだけに基づいて行ってもよいし、記録しておいた初期状態などの、それ以前の測定データと比較して行ってもよい。
回復動作は、すべての圧電素子の電圧データが正常であると判定したときに停止してもよい。そのようにすれば、使用できなくなる、もしくは、再使用できるように処理が必要になる、吸引される液体の量を少なくできる。また、所定時間経過しても、すべての圧電素子の電圧データが正常であると判定されない場合は、吸引部の吸引の圧力を高くしたり、吸引量を多くして、より強い回復動作を行なってもよい。そのようにすれば、取り除き難い詰まり等でも、復帰させられる可能性が高くなるとともに、取り除き易い詰まり等は、初期の弱い回復動作で、回復できるので、吸引する液体の量を少なくできる。
制御部88は、所定時間が過ぎても、すべての圧電素子の電圧データが正常であると、判定部88aが判定できない場合には、吸引等の回復動作を止めてもよい。
測定および判定は、複数のモードがあってもよい。例えば、液体供給状態で定量の吸引を行ないながら測定し、その結果から判定する第1のモード、液体供給状態で定量の吸引を行ないながら測定し、その後、液体供給状態で周期的な強さの吸引を行ないながら測定し、その後、液体供給制限状態で定量の吸引を行ないながら測定し、それら3つの結果から判定する第2のモードなどを持っていてもよい。第1のモードは、吸引する液体の量が少なく、時間も短いが、第2のモードよりも判定の精度が劣る場合がある。第2のモードは、吸引する液体の量が多くなり、時間も長くかかるが、判定の精度が高くなる。各モードに含まれる、測定条件および判定条件は、ここまで説明したものを適宜組み合わせられる。吐出不良が生じているにもかかわらず、詰まり等があると判定できない場合は、異なるモードに切り替えて、判定するようにしてもよい。