JP2018051597A - 酸洗鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
製品である冷延鋼板における板クラウンを所定のものにするためには、熱間圧延時において板クラウン制御を行うことが一般的である。すなわち、熱間圧延機を制御することで所定の板クラウンを実現し、その後の冷間圧延で板クラウンを変更することは殆どなされていなかった。
このように、製品における板クラウンを確保するためには、熱間圧延時のみならず、冷間圧延までも視野に入れた「板クラウンの制御技術」が必要となってくる。かかる技術としては、例えば、下記の(1)、(2)に示すものがある。
(2)同じ製品板厚の材料に対して、熱延鋼板の板厚を大きくしておいて(そのときの板クラウンは同等又はそれ以下にする)、その上で冷間圧延工程での圧下率を大きくする。
特許文献1は、化成処理性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法であって、製品の化成処理性を向上させることを目的としている。具体的には、Si>1.0mass%、Mn>1.5mass%含有する鋼を熱間圧延し、550℃以上の温度で熱延鋼板を巻き取り、その熱延鋼板に対する酸洗処理の時間を長く取って、粒界酸化層を全て除去する。
また、板クラウンの制御技術(2)では、冷間圧延において、圧下率を大きくするため、鋼板の両端部の割れ(エッジ割れ)や、耐圧延荷重等の設備制約が発生することとなる
。このような問題を防ぐため、冷間圧延前に、冷却された熱延鋼板を再度軟質化するため、焼鈍する工程が必要となってくる。つまり、処理工程が増えてしまい、製品の生産性が低下することとなる。
キーワードとなる「粒界酸化層の厚み」を考えるに、熱延鋼板を巻き取った後の熱延コイル材の冷却過程においては、その熱延コイル材の幅方向の両端部の方が、幅方向中央部より早く冷却される。そのため、熱延コイル材の表面に生成される粒界酸化層は、幅方向中央部が厚く、幅方向の両端部は薄く生成される。ここで粒界酸化層とは、特許文献1に示されるように、高Si高Mn含有鋼を熱間圧延→550℃以上の高温巻取りを行なうと、スケール層の直下に生成されるSi・Mnの酸化物が粒界に生成している層のことを言う。
また、特許文献2でも、粒界酸化層が鋼板の幅方向中央部で厚くなるようにはなっていない。ところで、特許文献2は、酸洗処理において、必ずしも粒界酸化層を除去する条件とはなっていないため、つまり粒界酸化層が多く残留している虞がある。
本発明にかかる酸洗鋼板の製造方法は、成分としてSiを1.0mass%以上含む鋼板を熱間圧延後に酸洗処理を行うことで、酸洗鋼板を製造するにあたって、熱間圧延後の前記鋼板を、600℃以上で巻き取って熱延コイル材とし、前記熱延コイル材を、2時間以上段積みせずに空冷し、前記空冷後の前記熱延コイル材に対して酸洗処理を行うことを特徴とする。
好ましくは、前記熱延コイル材の長手方向において、巻き取り時の温度を段階的に変更するに際しては、前記熱延コイル材の全長に対して、当該熱延コイル材の先端側から後方に向かって25%以下の領域を、後に製品材となる部位である定常部の狙い巻取り温度よりも、50℃以上150℃以下高くして巻き取るとよい。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
まず、本発明の酸洗鋼板17の製造方法が適用される圧延設備1について、図を基に説明する。
図4に示すように、本実施形態の圧延設備1は、鋳片を加熱する加熱炉(図示せず)と、加熱炉で加熱された鋳片を圧延する熱間圧延ライン2と、熱間圧延後の熱延コイル材16を冷却する冷却エリアと、冷却された熱延コイル材16に対して、酸洗を行う酸洗処理エリアと、酸洗されたコイル材、すなわち酸洗鋼板17を巻戻しながら、目標の板厚になるまで圧延する冷間圧延ライン9とを備えている。
本発明は、冷延鋼板17の製造プロセス技術であって、成分としてSiを1.0mass%以上含む鋼板14(元板材)を用いて熱間圧延を行い、熱間圧延後の熱延鋼板15を、600℃以上で巻き取って熱延コイル材16とし、その熱延コイル材16を一定時間冷却した後に酸洗することで、酸洗鋼板17を製造することとしている。この酸洗鋼板17は、冷間圧延ライン9により、最終製品である冷延鋼板18へと圧延される。
図1の右図に示すように、熱間圧延後に生成される粒界酸化層は、熱延鋼板15がコイル状態(熱延コイル材16)にされてからの冷却速度の違い、すなわち冷却過程において、幅方向両端部(エッジ部)の冷却速度が幅方向中央部(センター部)の冷却速度より速いことから、幅方向センター部に厚く生成され、幅方向エッジ部に薄く生成される。
そして、幅方向エッジ部の薄い層の部分が溶解し切り、且つ幅方向センター部の粒界酸化層が残留している状態で、さらに酸洗が進行すると、幅方向エッジ部の地鉄は、溶解速度が十分に遅いため、幅方向センター部の粒界酸化層が薄くなり、板クラウンが小さくなる。それ故、冷間圧延後の冷延鋼板17の板クラウンも小さくなる(Δt1)。
さて、図2は、熱延コイル材16の長手方向における粒界酸化層の厚みの差、及び、酸洗鋼板17の板クラウン量を示したグラフである。
図2の中央図に示すように、巻き取り後の熱延コイル材16を通常冷却した場合、熱延鋼板15の表面に生成される粒界酸化層の厚みが、長手方向中途部より、長手方向先端側及び尾端側でやや薄いものとなる。また、酸洗鋼板17の板クラウン量も、長手方向中途部で差がやや小さいものとなる。
ただし、図2の中央図において、熱延鋼板15の巻取り温度が600℃以上(詳細は後述)である場合、本発明に該当する。すなわち、熱延鋼板15の巻取り温度(600℃以上)が長手方向で同じで、巻取り後の熱延コイル材16の冷却で2時間以上段積みを行わない冷却を行った場合、本発明の作用効果(板クラウンの低減)が発現することとなる。
なお、熱延コイル材16の巻取り温度が600℃より低い場合、図1中の左図のように、粒界酸化層が十分な厚さに生成されない。
ところで、熱延コイル材16の尾端側(長手方向の終端)では、幅方向センター部も幅方向エッジ部も冷却速度が速くなるが、高温の熱延コイル材16の上に、別の熱延コイル材16を段積み(図5の上図参照)した場合、幅方向エッジ部の冷却速度が遅くなってしまい、幅方向センター部と幅方向エッジ部の冷却速度の差、すなわち粒界酸化層の厚みの差が小さくなってしまう。
熱延コイル材16を、段積みせずに2時間以上空冷した後、その鋼板(冷却された熱延鋼板15)に対して酸洗処理を行い、表面に生成されている粒界酸化層を除去する。
なお、酸洗処理において必要な浸漬時間は、鋼板14の成分組成や、熱延鋼板15の巻取り温度、巻き取り後の冷却履歴によって変化する。酸洗処理の浸漬時間としては、75秒以上とするとよい。望ましくは100秒以上がよく、より望ましくは150秒以上とするとよい。このように、酸洗処理の浸漬時間を長くすることで、効果的に粒界酸化層を除去することができる。すなわち、粒界酸化層を幅方向センター部まで除去するにあたっては、150g/m2以上の酸洗原量で溶解することとなる。
以上述べたように、本発明の酸洗鋼板17の製造方法を適用させた場合、冷間圧延後の板クラウンを低減させることができる(従来のΔt2>本願発明のΔt1)
ここで、熱延コイル材16の先端側及び後端(尾端)側の巻取り温度について、説明する。
さらに好ましくは、熱延コイル材16の長手方向において、巻き取り時の温度を段階的に変更するに際しては、熱延コイル材16の全長に対して、当該熱延コイル材16の先端側から後方に向かって25%以下の領域を、後に製品材18となる部位である定常部の狙い巻取り温度よりも、50℃以上150℃以下高くして巻き取るとよい。
熱延コイル材16を冷却する際においては、コイル内周側(熱延鋼板15の先端側)及び、コイル外周側(熱延鋼板15の尾端側)での冷却速度が、巻回部位(熱延鋼板15の長手方向中途部)の冷却速度より速い。
上でも述べたが、尾端側での巻取り温度を、熱延コイル材16の定常部の狙い巻取り温度よりも高くする領域は、尾端側から長手方向前方へ15%以上の領域が望ましい。より望ましくは、尾端側から長手方向前方へ30%以上の領域とするとよい。
熱延コイル材16の尾端側での巻取り温度を高くする領域を上記より狭い領域(尾端側:15%を下回る領域)とすると、十分な効果(冷間圧延後の板クラウンの低減)が得られない。一方、熱延コイル材16の先端側及び尾端側での巻取り温度を高くする領域を上記より広い領域(先端側:25%を超える領域、尾端側:50%を超える領域)とすると、酸洗処理工程での処理の負荷が増加してしまうため、望ましくない。
熱延コイル材16の先端側及び尾端側での巻取り温度が上記した範囲を下回ってしまうと、十分な効果(冷間圧延後の板クラウンの低減)が得られない。一方、熱延コイル材16の先端側及び尾端側での巻取り温度が上記した範囲を上回ってしまうと、酸洗処理工程での処理の負荷が増加してしまうため、望ましくない。
(1)熱延鋼板15を600℃以上で巻き取る際に、その長手方向先端側および尾端側の巻取り温度を、定常部の巻取り温度よりも高温にする(+50℃以上150℃以下)。
(3)熱延コイル材16の幅方向センター部(幅中央)で厚く且つ幅方向エッジ部(幅端部)で薄く生成された粒界酸化層を酸洗処理で除去して、板クラウンの少ない酸洗鋼板17を製造する(浸漬時間、75秒以上)。
熱延鋼板15を巻き取った後の熱延コイル材16を冷却する過程、すなわち上の(2)においては、幅方向エッジ部は幅方向センター部より早く冷却されるため、粒界酸化層は幅方向センター部で厚くなり、幅方向エッジ部で薄く生成される。また、熱延コイル材16の全長に対して、前端部(先端部)乃至は後端部(尾端部)を定常部(長手方向中途部)より高温としているため、粒界酸化層の幅方向の厚み分布を、長手方向に均一に有することができる。
その結果として、冷間圧延工程に供される酸洗鋼板17の板クラウンが低減されることとなる。その酸洗鋼板17を冷間圧延することで、従来の方法で行った場合よりも、板クラウンが大幅に小さい冷延鋼板18を製造することができる。
[実験例]
以下に、本発明における酸洗鋼板17の製造方法に基づいて行った本実験例の結果と、比較するために行った実験の結果(比較例)について、述べる。
一方で、鋼板Bは、比較例で、Siが0.09mass%含有されている鋼板である。鋼板Bにおいては、上の本実験例と圧下率が近いが、含有されるSiが少ない、すなわち本発明の規定を満たさないため、粒界酸化層が成長しなかった。
また、冷却方法については、熱延鋼板15を巻き取ってから20分後に、熱延コイル材16の段積みを行った場合をAとし、熱延鋼板15を巻き取ってから2時間空冷した後に、熱延コイル材16の段積みを行った場合をBとし、熱延コイル材16の段積みを行わなかった場合をCとした。
図3に示すように、この実験においては、熱間圧延後の板クラウン比率から、冷間圧延後の板クラウン比率への変化量(全長に対する尾端側から前方20%の領域の移動平均値)を確認した。このクラウン比率の変化量が大きいと、良好である。
表2の番号1は、元材の鋼板に含有されているSiが少ない、すなわち本発明の規定を満たしていないため、粒界酸化層が生成されない。故に、冷間圧延後の板クラウンの低減は発現しない(比較例)。
表2の番号3は、冷却方法がB、すなわち熱延鋼板15を巻き取った直後に段積みしたため、冷間圧延後の板クラウンの低減効果は小さいものとなった(比較例)。
表2の番号4は、鋼板14に含有されているSiが1.16mass%と規定を満たし、2時間以上段積みせずに空冷しその後段積みを行い(冷却方法B)、酸洗の浸漬時間が171秒と十分に長く行って酸洗鋼板17を製造したので、十分に小さい板クラウンを有する冷延鋼板18を製造することができた(本実験例)。ただし、コイル内偏差の変動が表2の番号6よりも大きくなる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
なお、粒界酸化層について、酸洗処理において完全に除去されていない、すなわち若干残留していても構わない。
2 熱間圧延ライン
3 圧延スタンド
4 ワークロール
5 バックアップロール
6 巻き取り機
7 タンク
8 酸洗液
9 冷間圧延ライン
10 圧延スタンド
11 ワークロール
12 バックアップロール
13 巻き戻し機
14 鋼板(元板材)
15 熱延鋼板
16 熱延コイル材
17 酸洗鋼板
18 冷延鋼板(製品材)
Claims (3)
- 成分としてSiを1.0mass%以上含む鋼板を熱間圧延後に酸洗処理を行うことで、酸洗鋼板を製造するにあたって、
熱間圧延後の前記鋼板を、600℃以上で巻き取って熱延コイル材とし、
前記熱延コイル材を、2時間以上段積みせずに空冷し、
前記空冷後の前記熱延コイル材に対して酸洗処理を行う
ことを特徴とする酸洗鋼板の製造方法。 - 前記熱延コイル材の長手方向において、巻き取り時の温度を段階的に変更するに際しては、
前記熱延コイル材の全長に対して、当該熱延コイル材の後端側から前方に向かって15%以上50%以下の領域を、後に製品材となる部位である定常部の狙い巻取り温度よりも、50℃以上150℃以下高くして巻き取る
ことを特徴とする請求項1に記載の酸洗鋼板の製造方法。 - 前記熱延コイル材の長手方向において、巻き取り時の温度を段階的に変更するに際しては、
前記熱延コイル材の全長に対して、当該熱延コイル材の先端側から後方に向かって25%以下の領域を、後に製品材となる部位である定常部の狙い巻取り温度よりも、50℃以上150℃以下高くして巻き取る
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸洗鋼板の製造方法。
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