JP2018031314A - 固体ロケットモータ及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ポリウレタン生成を阻害する物質と硬化剤中のイソシアネート化合物との反応を抑制でき、推進薬側の硬化剤が不足することが少ないかあるいはない組成のライナを含む固体推進薬あるいは環境に負担が少ない組成のライナを含む固体推進薬、及びその製造方法を提供する。【解決手段】インシュレーション2を円筒状に成形する工程、インシュレーション2の内側にライナを層状に塗布し、ライナの層3を硬化させる工程、ライナの層3の内側にスラリー状の推進薬4を充填する工程、を含む方法であって、ライナがポリオール、イソシアネート系硬化剤、可塑剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、前記ジルコニウム(Zr)キレート系触媒により前記ライナの層3を硬化させる、方法、及び固体推進薬を用いる。【選択図】図1
Description
本発明は、固体推進薬を備える固体ロケットモータ(ロケットエンジンと称することもある。)及びその製造方法に関する。
固体ロケットモータは、推進薬を充填したモータケースが燃焼室を兼ねており、モータケースの尾部には固体推進薬の燃焼で生じた燃焼ガスを噴射するノズルが一体として備えられている。このため、固体ロケットモータは液体ロケットエンジンに比べて構造が簡単で可動部分が少ないため、信頼性が高く、取り扱いも容易であり、推進薬を充填したまま長期保存できるという利点を有する。
このような固体ロケットモータは、人工衛星打ち上げ用ロケットのメインエンジンや推進力増強のための補助ロケットブースターとして、あるいはミサイルやロケット弾に利用されている。一方、人工衛星やミサイル等に装備される姿勢制御用の小型スラスタ、制御機器の圧力源や、動力源用ガスジェネレータとしても幅広く利用されている。
ここで、小型スラスタやガスジェネレータのような利用分野においては、燃焼ガスの発生量や、スラストが変動せず一定であることが強く要求されるため、円柱状の固体推進薬を端面から燃焼させていく端面燃焼型あるいは内面燃焼型の固体ロケットモータが利用されている。
図1はモータケース内に固体推進薬が充填された固体ロケットモータの円筒部分について、その軸方向断面を示した図であり、図2は軸に垂直方向の断面を示した図である。図1及び図2のモータケース1の外側は外面側として示している。図1、図2に示すように、外面側から内側に向かって、モータケース1、インシュレーション2、ライナ層3、推進薬4の順に配置される。
図3、図4は図1、図2とは異なる態様である。図3は推進薬4の内側に中孔部5を有する固体ロケットモータの円筒部分について、その軸方向断面を示した図であり、図4は軸に垂直方向の断面を示した図である。図3及び図4のモータケース1の外側は外面側として示している。図3、図4に示すように、外面側から中孔部5に向かって、モータケース1、インシュレーション2、ライナ層3、推進薬4の順に配置され、推進薬4の内側に中孔部5がある。
固体ロケットモータの構成は次の通りである。最外側にはモータケース1があり、その内側面には円筒状に成形されたインシュレーション2が配置される。インシュレーション2の内側にはライナが層状に配置される。ライナ層3は、インシュレーション2と推進薬4との接着力向上及び応力リリース(緩衝材)による応力緩和向上のために設けられている。このライナ層3をセミキュア(半硬化)した後にスラリー状の推進薬4を充填し、加温硬化させて固体ロケットモータが製造される。なお、図3、図4に示す別の態様の場合には推進薬4が充填された部分の内側に中孔部5が存在する。
ここで、セミキュアとは、ライナ層3の成分を、いわゆる架橋反応により硬化反応させる場合において、架橋反応(硬化反応)を完了させない状態でとどめておくことをいい、これらの層をセミキュアするのは接着性を向上させるためである。
セミキュアの工程は、温度及び時間で管理され、硬化が完了した状態に対する硬化の程度でセミキュアの程度が表される。つまり、1/2程度の硬化が完了した状態で硬化反応を止めた場合を1/2程度のセミキュアといい、同様に3/4程度で硬化反応を止めた場合は3/4程度のセミキュアという。
従来より、ライナ層3の硬化には硬化触媒としてDBTDL(Dibutyltin dilaurate、化学式 C32H64O4Sn、ジラウリン酸ジブチルスズ)が使用される(例えば特許文献1参照)。特許文献1ではライナの形成に際し、約90重量%のヒドロキシ末端ポリブタジエン、2.5重量%のカーボンブラック、約7重量%の2,4−トルエン ジイソチアネートに、0.09重量%のジラウリン酸ジブチルスズを加え、65℃程度で加温して硬化させる方法が記載されている。しかしながら、この方法において、ライナの以外の部分あるいは大気中の水分等により硬化反応以外の副反応が生じて硬化が不十分となるといった認識はなかった。
しかしながら、本発明者らは、ロケットモータ製造後に接着界面の硬化剤(イソシアネート化合物およびポリオール)が変質し、結果として、推進薬の弾性率(硬度)が低下するという課題を見出した。これは硬化触媒としてDBTDLを用いた場合、インシュレーション中あるいは大気中の水分やイソシアネート化合物と反応しうる物質(水酸化物、アミン化合物など)とイソシアネート化合物との反応が生じるため、推進薬側の硬化剤、特にイソシアネート化合物の量が不足してしまうことが原因と推定された。
すなわち、硬化反応は、下記(i)式に示されるように、OCN−R1−NCOで表されるイソシアネート化合物と、HO−R2−OHなどの2以上の水酸基(−OH)有する化合物として表されるポリオールとが、DBTDL等の触媒の存在下で反応するものであり、この反応によりポリウレタン(1)を製造することができる。
上記(i)式では、イソシアネート化合物の複数のイソシアネート基(−NCO)とポリオールの複数の水酸基(−OH)とが反応し、重合することでポリウレタン(1)を生成する(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、下記(ii)式に示されるように、HO−R2−OHなどの2以上の水酸基(−OH)を有する化合物として表されるポリオール以外に、HO−R3などの水酸基(−OH)を1つしか有さないモノアルコール(R3は−OH基を置換基内に有さない)や水などが、インシュレーション内部に存在している場合、一部のイソシアネートはアルコールあるいは水などと反応してしまい、それらは重合することなくポリウレタン(1)以外の、例えば下記の低分子化合物(2)を生成することになる。なお、−OH基の代わりに−NH2基などを有するアミノ化合物などが存在していても同様である。
このことは、イソシアネート化合物がポリウレタン(1)を生成する以外に消費されること、つまりイソシアネートが足りなくなることを意味し、ライナとしての機能を果たすためのポリウレタン(1)生成量が不十分となってしまうのである。
従って、ロケットモータ製造後に、ライナ中のポリウレタン(1)の量が低下し、推進薬の弾性率(硬度)が低下するという課題があった。このため、インシュレーション中の水分などのポリウレタン(1)生成を阻害する物質と硬化剤との反応をいかに抑え、応力緩和力及び接着力などの機能を発現するのに十分な量のポリウレタン(1)を生成させる方法、あるいはそのための硬化用触媒が要望されていた。
また一方、有機スズ化合物はREACH規制、ロッテルダム条約等の規制を受けるため、一部の分野でジブチルスズ化合物、ジオクチルスズ化合物が使用制限を受け、またトリブチルスズは内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)として取り沙汰されるなど、本発明の属する技術分野において、DBTDL(ジラウリン酸ジブチルスズ)を使用することは、固体推進薬の国内製造、使用等において課題となりうる化合物である(例えば非特許文献1参照)。
Official Journal of the European Union, COMMISSION REGULATION (EU) No 276/2010 of 31 March 2010, pp L 86/7〜L 86/12
従って、本発明の目的は、ロケットモータにおいて、インシュレーション中の水分などのポリウレタン生成を阻害する物質と硬化剤中のイソシアネート化合物との反応を抑制でき、推進薬側の硬化剤(イソシアネート化合物)が不足することが少ないかあるいはない組成のライナを含む固体ロケットモータ及びその製造方法を提供することにある。
また本発明の他の目的は、環境に負担が少ない組成のライナを含む固体推進薬及びその製造方法を提供することにある。
本発明者等は、硬化触媒について鋭意検討した結果、驚くべきことに、インシュレーション中あるいは大気中の水分等と硬化剤との反応を抑制でき、推進薬側の硬化剤量が不足することが少ないかあるいはない硬化剤として、ジルコニウム(Zr)キレート触媒(以下、「Zrキレート触媒」と呼称する。)を用いることで、従来のDBTDL触媒と比較して、課題を解決できることを見出した。
さらに、Zrキレート触媒は、少なくとも現時点において、DBTDL等の有機スズ化合物に比して環境に負担が少ない化合物であり、REACH規制、ロッテルダム条約等の規制を受けることはなく、有機スズ化合物の代替触媒として期待される。これらの知見により、遂に本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、モータケース内に推進薬を収納してなる固体ロケットモータの製造方法において、
インシュレーションを円筒状に成形してモータケースの内側面に配置する工程、
インシュレーションの内側にはライナを層状に配置し、ライナの層を硬化させる工程、
ライナの層の内側にスラリー状の推進薬を充填する工程、
を含む方法であって、
上記ライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、ジルコニウム(Zr)キレート系触媒によりポリオールとイソシアネート系硬化剤との反応が促進されることでライナの層を硬化させる方法に係る発明である。
インシュレーションを円筒状に成形してモータケースの内側面に配置する工程、
インシュレーションの内側にはライナを層状に配置し、ライナの層を硬化させる工程、
ライナの層の内側にスラリー状の推進薬を充填する工程、
を含む方法であって、
上記ライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、ジルコニウム(Zr)キレート系触媒によりポリオールとイソシアネート系硬化剤との反応が促進されることでライナの層を硬化させる方法に係る発明である。
なお、例えばカーボンブラックなどの硬化剤の種類や、50重量%程度など高い含量まで添加する場合等では、可塑剤を含めることがある。
本発明方法において、Zrキレート系触媒が、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)からなる群より選ばれる1または2以上であるとよい。
また本発明は、モータケース内に推進薬を収納してなる固体ロケットモータであって、
モータケースの内側面には円筒状のインシュレーションが設けられ、
インシュレーションの内側にはライナが層状に設けられており、
推進薬はインシュレーションの内側にライナの層を介して充填されており、
上述のライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、ジルコニウム(Zr)キレート系触媒によりポリオールとイソシアネート系硬化剤との反応が促進されることでライナの層が硬化されてなる、固体ロケットモータに係る発明であり、硬化剤の種類や含量によっては可塑剤を含むことがある。
モータケースの内側面には円筒状のインシュレーションが設けられ、
インシュレーションの内側にはライナが層状に設けられており、
推進薬はインシュレーションの内側にライナの層を介して充填されており、
上述のライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、ジルコニウム(Zr)キレート系触媒によりポリオールとイソシアネート系硬化剤との反応が促進されることでライナの層が硬化されてなる、固体ロケットモータに係る発明であり、硬化剤の種類や含量によっては可塑剤を含むことがある。
本発明の固体推進薬において、Zrキレート系触媒が、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)からなる群より選ばれる1または2以上であるとよい。
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明において、図1〜図4に示されるように、固体ロケットモータの最外側にはモータケース1がある。モータケース1は、公知の材料、手法により成形される。
インシュレーション2はモータケース1の内側に配置され、円筒状の形状である。インシュレーション2は、公知の材料、手法により成形される。インシュレーション2に用いられる材料としては、本技術分野において通常用いることができるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、特許第4587759号公報に記載の、エチレン−プロピレンジエンモノマー、イソプロピレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどが挙げられる。
本発明において、用いられるライナ層3は、インシュレーション2の内側に層状に配置され、具体的にはインシュレーション2の内側面に塗布あるいは貼付され、セミキュア後、ライナ層3の内側にスラリー状の推進薬4が充填される。ライナとして用いられる材料としては、本技術分野において通常用いることができるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、HTPB(ポリブタジエン系、末端水酸基ポリブタジエン)などのポリオール、イソシアネート系硬化剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)などの可塑剤及びZrキレート系触媒を含むとよい。
また、インシュレーション2とライナ層3の間には、両者を結合、接着固定させるために接着剤を使用することがある。接着方法としては、インシュレーション2の側に接着剤を塗布等した後、ライナ層3を貼付等することでよく、あるいはライナ層3の側に接着剤を塗布等した後、インシュレーション2へ貼付等するなど、その方法は特に限定されない。
接着剤としては、本発明の目的を達成できるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ゴム状エポキシ樹脂接着剤、HTPBゴム接着剤、シアノアクリレート接着剤、ビスフェノールA型エポキシ樹脂接着剤、RTVシリコーンゴム接着剤などを挙げることができる。
ポリオールは、上記式(i)において、HO−R2−OHの化学式から分かるように、1分子中に2以上の水酸基を有するポリオールであればよく、本技術分野で通常使用されるものであればよい。これらの中で、分子内にイソシアネート基と反応しうる基や、イソシアネート基と水酸基やアミノ基との反応で形成できる基を持たない化合物が好ましい。例えば、ポリジエングリコール、トリメチロールプロパン、ポリオキシプロピル化グリセリン、ポリオキシアルキレントリオール等のトリオール、ペンタエリスリトリオール等の4価アルコール、2−エチル−2−アミノプロパンジオール等のアミノ基を有するポリオール、HTPB(ポリブタジエン系、末端水酸基ポリブタジエン)、グリシジルアジドポリマー(GAP)及びその誘導体等の高エネルギーバインダなどや、これらの2種以上の混合物等を挙げることができる。この内でもHTPB(ポリブタジエン系、末端水酸基ポリブタジエン)が好ましく使用される。
イソシアネート系硬化剤は、その硬化反応において、下記(i)式に示されるように、OCN−R1−NCOで表されるイソシアネート化合物と、HO−R2−OHなどの2以上の水酸基(−OH)有する化合物として表されるポリオールとが、Zrキレート系触媒の存在下で反応して、ポリウレタン(1)を製造することができるものであればよい。これらの中で、分子内にイソシアネート基と反応しうる基や、イソシアネート基と水酸基やアミノ基との反応で形成できる基を持たない化合物が好ましい。例えば、ジイソシアネートとして、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチルジシクロジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソフォロンジイソシアネート(C12H18N2O2、Isophorone Diamine diisocyanate;IPDI)、ダイメリルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、クロロトリレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4‘−ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルジエーテル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、これらの2種以上の混合物等を挙げることができる。この内でもイソフォロンジイソシアネート(IPDI)が好ましく使用される。
イソシアネート系硬化剤とポリオールとの配合比は、ポリオール1当量に対し、イソシアネート系硬化剤を1.0倍当量〜1.5倍当量とすればよく、通常、1.2倍当量程度にて配合される。
可塑剤は、樹脂に加えて柔軟性や対候性改良する添加薬品類の総称であり、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、低分子ポリエステルなど各種挙げられ、さらに具体的には、アジピン酸ジオクチル(DOA)などを挙げることができる。この添加量は、ライナ組成中、0重量%〜20重量%添加すればよく、用いるポリオールとイソシアネート系硬化剤の種類、セミキュア時の重合度等より適宜調整すればよい。
本発明において用いられるZrキレート系触媒は、上記(i)式に示されるポリウレタン(1)を生成する反応を触媒できるものであればよい。触媒は反応物のポリオールとイソシアネート系硬化剤の反応において、触媒の近傍あるいは触媒に配位等させ、反応物のイソシアネート基(−NCO)と水酸基(−OH)との反応を加速させるものと推定される。
本発明において用いられるZrキレート系触媒は、具体的には、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)が挙げられ、さらにこれらの群より選ばれる1または2以上の組合せとすればよい。
本発明において用いられるZrキレート系触媒の配合量としては、0.05phr〜0.5phrでよい。例えば、ポリオールとしてHTPBを1350g(1当量)、イソシアネート系硬化剤としてIPDIを133.4g(1.2当量)、Zrキレート系触媒を0.15phrとした場合、Zrキレート系触媒はポリマーであるHTPBに対するゆえ、1350(g) × 0.15(phr)/100 = 2.03(g)となり、これは全体として0.136重量%となる。
これは従来のDBTDL触媒が0.002phr〜0.02phrであるのに対し、数倍〜数10倍量を多目に添加することになるが、本発明においては、水等の影響を受けないライナ組成により、硬化剤が不足することなく、また環境に配慮したものとできる点で、優位性がある。
本発明方法において、図1〜図4に示されるように、用いられる推進薬4は、ライナ層3の内側に充填される。推進薬4の成分としては、本技術分野において通常用いることができる固体推進薬であれば特に制限なく用いることができる。インシュレーション2にライナを塗布しライナ層3をセミキュアした後、推進薬4はスラリーとして充填すればよい。図3、図4に示すように、推進薬4の内側に中孔部5を設ける場合は、予め中孔部5に該当する部分に管状物、棒状物などを配置して型とし、推進薬4を充填後、これら管状物、棒状物などを除去することでよい。この場合の推進薬4としては、充填後に硬化できる材料を選ぶとよい。
インシュレーション2を円筒状に成形する工程は、本技術分野において用いられる方法であれば特に制限なく採用でき、またその材料にもよるが、型に材料を入れて硬化し、あるいは平板を曲げた後成形する方法など、公知の方法を用いればよい。
インシュレーション2の内側にライナ層3を塗布する工程は、本技術分野において用いられる方法であれば特に制限なく採用でき、またその材料やライナ自体の流動性にもよるが、インシュレーション2へ実質的に液体状態としたライナをスプレー等で吹き付け塗布し、またライナをはけ等の塗布用器具で塗布したり、一定量流出させながらインシュレーション2の周りに塗り付けたり、あるいはライナを層として貼付(貼り付け)する方法など、公知の方法を用いればよい。
ライナ層3を硬化させる工程は、インシュレーション2の内側にライナ層3を塗布した後、ライナ組成材料にもよるが、40℃〜80℃、好ましくは50℃〜70℃、通常60℃程度の温度で、10分〜1日、好ましくは20分〜10時間、さらに好ましくは1時間〜3時間セミキュアする。
ライナ層3の内側にスラリー状の推進薬4を充填する工程は、インシュレーション2の内側にライナ層3を塗布し、ライナ層3をセミキュアした後、推進薬4をスラリー状としたものを充填する。推進薬4を充填後、セミキュアの際の温度と同じ又は同程度とし、5時間以上、好ましくは10時間〜2週間、通常は1週間程度硬化反応を継続させて、硬化反応を完了させる。
本発明の固体ロケットモータの製造方法は、以上の通りであるが、公知の、例えば特開2007−138796号公報に記載の、円筒状インシュレーションの内側に推進薬を充填する固体推進薬の製造方法であって、前記インシュレーションを円筒状に成形するステップと、前記インシュレーションの内側に接着剤層を塗布するステップと、前記接着剤層の内側にスラリー状のコンポジット系推進薬を充填し、当該推進薬を硬化反応させるステップと、を具備する方法、といった手法を任意に使用することができる。
本発明の固体ロケットモータは、円筒状インシュレーション2の内側にライナ層3を介して推進薬4を充填したものである。特にライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤、可塑剤及びZrキレート系触媒を含んでおり、Zrキレート系触媒により硬化されたポリオールとイソシアネート系硬化剤が反応して硬化されている。
また、上記本発明の固体ロケットモータにおいて用いられるZrキレート系触媒は、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)からなる群より選ばれる1または2以上であることが好ましい。
なお、本発明の固体ロケットモータは、上述した製造方法により得られるが、Zrキレート系触媒により硬化されたライナの構造は、従来のDBTDL触媒により得られるものよりも、水に対するイソシアネート系硬化剤の反応性を抑制することができる。しかしながら、ライナ構造あるいは本発明の固体推進薬の構成を構造から明確にすることは実質的に困難である。なぜなら従来のDBTDL触媒により得られるポリウレタンという高分子化合物の構造は、本発明において用いられるZrキレート触媒により得られるポリウレタンという高分子化合物の構造との相違点を分析することが極めて困難だからであり、むしろ、製造方法により特定することが実際的である。
本発明によれば、ロケットモータにおいて、インシュレーション中や大気中の水分などのポリウレタン生成を阻害する物質と硬化剤中のイソシアネート化合物との反応を抑制でき、推進薬側の硬化剤量(イソシアネート化合物量)が不足することが少ないかあるいはない組成のライナを含む固体推進薬及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、環境に負担が少ない組成のライナを含む固体ロケットモータ及びその製造方法を提供することができる。
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
イソシアネート濃度測定方法;
イソシアネート基(−NCO)濃度の分析に当たってはJIS K 1603−2007を参考にし、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光光度計)により計測した。具体的には、下記の通り、60℃の恒温槽においたサンプル(試料)から、所定時間ごとにサンプリングし、これを2200cm−1のNCO基(イソシアネート基)の吸収ピークをFT−IRにより測定した。
イソシアネート基(−NCO)濃度の分析に当たってはJIS K 1603−2007を参考にし、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光光度計)により計測した。具体的には、下記の通り、60℃の恒温槽においたサンプル(試料)から、所定時間ごとにサンプリングし、これを2200cm−1のNCO基(イソシアネート基)の吸収ピークをFT−IRにより測定した。
実施例1
ライナ材料の調整は、ポリオールとしてHTPB(ポリブタジエン系ポリマー)を−OH基が1当量となる量(1350g)、イソシアネート系硬化剤としてイソフォロンジイソシアネート(IPDI)を−NCO基が1.2当量となる量(133.4g)、硬化触媒としてZrキレート触媒;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)を2.0g(0.15phr)をそれぞれ同じもの2つ用意し、各々を、密栓付き容器(ビーカー)に入れた。さらに、原料の入った容器の一方に、水(H2O)を18g(1モル)添加し、もう一方は添加しなかった。これらを撹拌子により撹拌して混合した。
ライナ材料の調整は、ポリオールとしてHTPB(ポリブタジエン系ポリマー)を−OH基が1当量となる量(1350g)、イソシアネート系硬化剤としてイソフォロンジイソシアネート(IPDI)を−NCO基が1.2当量となる量(133.4g)、硬化触媒としてZrキレート触媒;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)を2.0g(0.15phr)をそれぞれ同じもの2つ用意し、各々を、密栓付き容器(ビーカー)に入れた。さらに、原料の入った容器の一方に、水(H2O)を18g(1モル)添加し、もう一方は添加しなかった。これらを撹拌子により撹拌して混合した。
温度を60℃に上げ、恒温槽にて温度を維持し、反応(セミキュア処理)を行なった。途中、開始直後(0時間)、1時間、3時間、15時間、24時間、39.5時間、48時間に反応容器を開封し、サンプリングした。サンプリングされた試料は、上記のイソシアネート濃度測定方法により測定した。その結果を図5に示す。
図5は、Zrキレート触媒による、ポリウレタン生成反応における水の影響を試験した結果であり、横軸(X軸)は反応(セミキュア)時間(単位は時間)を示し、縦軸(Y軸)はイソシアネート濃度(単位はmol/L)を示す。
図5から分かるように、水を添加したもの(H2O添加と表示)は水を添加しなかったもの(H2O無添加と表示)と比べると若干イソシアネート濃度が低かったものの、図5を各時間と濃度のデータから曲線近似し、反応がほぼ平衡となった40時間経過後で、イソシアネート濃度として約0.05mol/Lの差だった。
比較例1
ライナ材料の調整は、ポリオール及びイソシアネート系硬化剤の種類、量を実施例1と同じとし、硬化触媒として従来のDBTDL触媒を0.169g(0.0125phr)とした。これらをそれぞれ同じもの2つ用意し、各々を、密栓付き容器(ビーカー)に入れた。さらに、原料の入った容器の一方に、水(H2O)を18g(1モル)添加し、もう一方は添加しなかった。これらを撹拌子により撹拌して混合した。
ライナ材料の調整は、ポリオール及びイソシアネート系硬化剤の種類、量を実施例1と同じとし、硬化触媒として従来のDBTDL触媒を0.169g(0.0125phr)とした。これらをそれぞれ同じもの2つ用意し、各々を、密栓付き容器(ビーカー)に入れた。さらに、原料の入った容器の一方に、水(H2O)を18g(1モル)添加し、もう一方は添加しなかった。これらを撹拌子により撹拌して混合した。
温度を60℃に上げ、恒温槽にて温度を維持し、反応(セミキュア処理)を行なった。途中、開始直後(0時間)、1時間、3時間、7時間、24時間、48時間に反応容器を開封し、サンプリングした。サンプリングされた試料は、上記のイソシアネート濃度測定方法により測定した。その結果を図6に示す。
図6は、DBTDL触媒による、ポリウレタン生成反応における水の影響を試験した結果であり、横軸(X軸)は反応(セミキュア)時間(単位は時間)を示し、縦軸(Y軸)はイソシアネート濃度(単位はmol/L)を示す。
図6から分かるように、水を添加したもの(H2O添加と表示)は水を添加しなかったもの(H2O無添加と表示)と比べると明らかにイソシアネート濃度が低かった。図6を各時間と濃度のデータから曲線近似し、反応がほぼ平衡となった40時間経過後で、イソシアネート濃度として約0.1mol/Lの差だった。
従って、図5と図6の結果から、実施例1のZrキレート触媒による水の影響は、比較例1のDBTDL触媒による水の影響と比較し、明らかに水による影響、すなわち、イソシアネート濃度への影響が少ないことが分かる。このことは、ライナとしてZrキレート触媒によりセミキュアすることで、硬化剤が足りなくなることを少なくする、あるいはなくすことが可能であることを意味し、Zrキレート触媒の適用が有効であることが分かる。
上記のように、本発明に係る固体推進薬又はその製造方法によれば、ライナとしてZrキレート触媒によりセミキュアすることで、硬化剤が足りなくなることを少なくする、あるいはなくすことが可能であり、固体推進薬の品質向上に貢献することが出来る。
また、本発明に係る固体推進薬又はその製造方法によれば、ライナ組成としてZrキレート触媒を使用することにより、環境への負担を減らすことが出来る。
1 モータケース
2 インシュレーション
3 ライナ層
4 推進薬
5 中孔部
2 インシュレーション
3 ライナ層
4 推進薬
5 中孔部
Claims (4)
- モータケース内に推進薬を収納してなる固体ロケットモータの製造方法において、
インシュレーションを円筒状に成形して前記モータケースの内側面に配置する工程、
前記インシュレーションの内側にはライナを層状に配置し、前記ライナの層を硬化させる工程、
前記ライナの層の内側にスラリー状の推進薬を充填する工程、
を含む方法であって、
前記ライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、前記ジルコニウム(Zr)キレート系触媒により前記ポリオールと前記イソシアネート系硬化剤との反応が促進されることで前記ライナの層を硬化させる、方法。 - ジルコニウム(Zr)キレート系触媒が、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)からなる群より選ばれる1または2以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- モータケース内に推進薬を収納してなる固体ロケットモータであって、
前記モータケースの内側面には円筒状のインシュレーションが設けられ、
前記インシュレーションの内側にはライナが層状に設けられており、
前記推進薬は前記インシュレーションの内側に前記ライナの層を介して充填されており、
前記ライナは、ポリオール、イソシアネート系硬化剤及びジルコニウム(Zr)キレート系触媒を含み、前記ジルコニウム(Zr)キレート系触媒により前記ポリオールと前記イソシアネート系硬化剤との反応が促進されることで前記ライナの層が硬化されてなる、固体ロケットモータ。 - ジルコニウム(Zr)キレート系触媒が、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(Zr(C5H7O2)4)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(Zr(O-n-C4H9)3(C5H7O2))及びジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(Zr(O-n-C4H9)2(C6H9O3)2)からなる群より選ばれる1または2以上であることを特徴とする、請求項3に記載の固体ロケットモータ。
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