JP2018011511A - 3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法、および形質転換体 - Google Patents

3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法、および形質転換体 Download PDF

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Abstract

【課題】S.ポンベの形質転換体を用いて、アルカリによる中和を必要とせずに高い生産性で3−HPを産生する方法、および該方法に好適なS.ポンベの形質転換体の提供。【解決手段】シゾサッカロミセス・ポンベを宿主とし、外来のマロニルCoAレダクターゼ遺伝子および外来のアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子を有している形質転換体を、酢酸または酢酸塩を含みそれらの合計の濃度が10〜50mMである液体培地中で培養し、該液体培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を取得することを特徴とする、3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe、以下、「S.ポンベ」ということがある。)を宿主とし、外来遺伝子を組込んだ形質転換体を用いて、3−ヒドロキシプロピオン酸(3−HP)を製造する方法に関する。
3−HPは、アクリル酸エステルなど様々な化学製品の原料として非常に有用な化合物である。3−HPは、微生物による発酵工程を経て製造できる。たとえば、マロニルCoAレダクターゼ(MCR)遺伝子を導入した微生物では、マロニルCoAから3−HPが産生される。また、グリセロールデヒドラターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ等をコードする遺伝子を導入した微生物では、グリセリンから3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド(3−HPA)を介して3−HPが産生される。
微生物に3−HPを産生させた場合、産生された3−HPにより、培養培地が酸性となる。該微生物の耐酸性が低い場合には、培養培地のpH低下に伴い微生物自体の生育が抑制される結果、3−HPの産生量も低下してしまうため、一般的には、培養培地のpHを中和しながら培養する必要がある。しかし、中和した場合には、3−HPは塩として回収されるため、3−HPに変換するための工程が必要になる。そこで、中和を必要とせずに3−HP生産が可能になることから、3−HPを産生させる微生物としては、耐酸性の高いものが好ましい。たとえば、特許文献1には、耐酸性の高いS.ポンベに、外来のMCR遺伝子と外来のアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)遺伝子を導入した形質転換体を、中和をせずに培養することにより、3−HPが産生されたことが記載されている。
一方で、酵母などの真核細胞微生物を用いた異種タンパク質生産系においては、目的の異種蛋白質の生産効率を向上させるべく、異種タンパク質生産に不要または有害な宿主のゲノム部分の一部または全部を削除または不活性化した改良宿主を用いることが知られている。たとえば、特許文献2には、S.ポンベにおいて、特定のプロテアーゼをコードする遺伝子(プロテアーゼ遺伝子群)から選ばれる少なくとも1種の遺伝子を削除または不活性化した改良宿主を用いることにより、異種タンパク質の生産効率を向上させられることが記載されている。
国際公開第2013/137277号 国際公開第2007/015470号
本発明では、S.ポンベの形質転換体を用いて、アルカリによる中和を必要とせずに高い生産性で3−HPを産生する方法、および該方法に好適なS.ポンベの形質転換体を提供することを目的とする。
本発明に係る3−HPの製造方法は、S.ポンベを宿主とし、外来のMCR遺伝子および外来のACC遺伝子を有している形質転換体を、酢酸または酢酸塩を含みそれらの合計の濃度が10〜50mMである液体培地中で培養し、該液体培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を取得することを特徴とする。
本発明に係る3−HPの製造方法においては、前記形質転換体が、少なくとも1種のプロテアーゼをコードする遺伝子が削除または不活性化されていることが好ましく、メタロプロテアーゼをコードする遺伝子(メタロプロテアーゼ遺伝子群)、セリンプロテアーゼをコードする遺伝子(セリンプロテアーゼ遺伝子群)、システインプロテアーゼをコードする遺伝子(システインプロテアーゼ遺伝子群)、およびアスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子(アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群)からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されていることがより好ましく、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除または不活性化されていることがさらに好ましい。
また、本発明に係る3−HPの製造方法においては、前記MCR遺伝子および前記ACC遺伝子が染色体に組み込まれていることが好ましく、前記MCR遺伝子および前記ACC遺伝子がプラスミドに組み込まれていることも好ましい。
また、本発明に係る3−HPの製造方法においては、前記液体培地が、グルコースまたはスクロースを含み、それらの合計の濃度が1〜50質量%であることが好ましい。
また、本発明に係る3−HPの製造方法においては、培養により前記液体培地のpHが3.5以下になった後にさらに培養を継続することが好ましく、前記液体培地中の3−ヒドロキシプロピオン酸を中和することなく培養を継続することも好ましい。
本発明に係る形質転換体は、S.ポンベを宿主とし、外来のMCR遺伝子および外来のACC遺伝子を有し、かつ前記宿主が本来有する少なくとも1種のプロテアーゼをコードする遺伝子が削除または不活性化されていることを特徴とする。
本発明に係る形質転換体としては、前記宿主が本来有するメタロプロテアーゼをコードする遺伝子(メタロプロテアーゼ遺伝子群)、セリンプロテアーゼをコードする遺伝子(セリンプロテアーゼ遺伝子群)、システインプロテアーゼをコードする遺伝子(システインプロテアーゼ遺伝子群)、およびアスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子(アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群)からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されていることが好ましく、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除または不活性化されていることがより好ましい。
また、本発明に係る形質転換体としては、前記MCR遺伝子および前記ACC遺伝子が染色体に組み込まれていることが好ましく、前記MCR遺伝子および前記ACC遺伝子がプラスミドに組み込まれていることも好ましい。
本発明に係る3−HPの製造方法により、中和処理を要することなく、形質転換体を培養することにより、効率よく3−HPを製造できる。
また、本発明に係る形質転換体を培養することにより、効率よく3−HPを製造できる。
pREP1−CaMCR−FLAGベクターの構造の模式図である。 pREP2−cut6−FLAGベクターの構造の模式図である。 参考例1において、pREP1−CaMCR−FLAGベクターを導入した形質転換体の抗FLAG抗体を用いたイムノブロットの結果を示した図である。 参考例1において、pREP2−cut6−FLAGベクターを導入した形質転換体の抗FLAG抗体を用いたイムノブロットの結果を示した図である。 1−hsp9p−CaMCR−LPItベクターの構造の模式図である。 2−hsp9p−cut6−LPItベクターの構造の模式図である。 pREP1−CaMCRベクターの構造の模式図である。 pREP2−cut6ベクターの構造の模式図である。 pREPAde−ACS2ベクターの構造の模式図である。 pREPAde−acs1ベクターの構造の模式図である。
本発明に係る3−HPの製造方法は、S.ポンベを宿主とし、外来のMCR遺伝子および外来のACC遺伝子を有している形質転換体を、酢酸または酢酸塩を含有する液体培地中で培養し、該液体培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を取得することを特徴とする。MCR遺伝子およびACC遺伝子を有している形質転換体では、アセチルCoAからACCによりマロニルCoAが産生され、このマロニルCoAからMCRにより3−HPが産生される。また、該形質転換体を酢酸存在下で培養することにより、該形質転換体に取り込まれた酢酸により、アセチルCoAの産生量が増大する結果、3−HPの産生量も多くなる。ただし、酢酸量が多すぎる場合には、かえって3−HPの産生が抑制されてしまう。本発明に係る3−HPの製造方法においては、該形質転換体を、酢酸または酢酸塩の合計の濃度が10〜50mMである液体培地中で培養することにより、効率よく3−HPを製造できる。
[形質転換体]
本発明に係る3−HPの製造方法において培養する形質転換体は、S.ポンベを宿主とし、外来のMCR遺伝子および外来のACC遺伝子を有している形質転換体である。これらの外来遺伝子により、該形質転換体内ではアセチルCoAから3−HPが産生される。
なお、本発明および本願明細書において、外来遺伝子とは、宿主が本来有している構造遺伝子(形質転換前の天然型の宿主の染色体に含まれている構造遺伝子)ではなく、形質転換操作等により導入された構造遺伝子を意味する。宿主が本来有している遺伝子であっても、形質転換操作等により導入された遺伝子は、本発明における外来遺伝子である。
<S.ポンベ>
宿主であるS.ポンベは、シゾサッカロミセス属に属する酵母(分裂酵母)であり、他の酵母に比べて特に耐酸性に優れる微生物である。また、S.ポンベは、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の他の酵母に比べ、高濃度のグルコース下における3−HPの生産性に優れ、高密度培養(大量の酵母を用いた培養)にも適していることがわかった。そのため、S.ポンベの形質転換体を用いることにより、極めて高い生産性で3−HPを製造できる。
なお、S.ポンベの染色体の全塩基配列は、サンガー研究所のデータベース「GeneDB」に「Schizosaccharomyces pombe Gene DB (http://www.genedb.org/genedb/pombe/)」として、収録され、公開されている。本明細書記載のS.ポンベの遺伝子の配列データは前記データベースから遺伝子名や前記系統名で検索して、入手できる。
<MCR遺伝子>
本発明において用いられる形質転換体は、MCR遺伝子を有する。S.ポンベは本来MCR遺伝子を有していない。したがって、S.ポンベ以外の生物由来のMCR遺伝子を遺伝子工学的方法でS.ポンベに導入して形質転換体を得る。該形質転換体に導入されるMCR遺伝子としては、S.ポンベに導入した場合にMCR活性を発揮するタンパク質を発現させ得る構造遺伝子であればよく、いずれの生物種由来のMCR遺伝子であってもよい。また、該形質転換体が有する外来のMCR遺伝子は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
外来遺伝子として導入されるMCR遺伝子がコードするMCRとしては、たとえば、クロロフレクサス・オーランティアカス(Chloroflexus aurantiacus)、クロロフレクサス・アグレガンス(Chloroflexus aggregans)、ロセイフレクサス・カステンホルジイ(Roseiflexus castenholzii)、ロセイフレクサス・エスピー(Roseiflexus sp.)、ロセイフレクサスエスピー・ストレインRS−1(Roseiflexussp. Strain RS-1)、エリスロバクター・エスピー(Erythrobacter sp.)、エリスロバクターエスピー・ストレインNAP1(Erythrobactersp. Strain NAP1)、ガンマ・プロテオバクテリウム(gamma proteobacterium)、メタロスファエラ・セデュラ(Metallosphaera sedula)、スルフォロバス・トコダイ(Sulfolobus tokodaii)、スルフォロバス・メタリカス(Sulfolobus metallicus)、スルフォロバス・エスピー(Sulfolobus sp.)、アシディアヌス・ブリーエリイ(Acidianus brierleyi)、アシディアヌス・インフェルノス(Acidianus infernos)、アシディアヌス・アンビバレンス(Acidianus ambivalens)、スティギオロバス・アソリカス(Stygiolobus azoricus)、およびピロロバス・フマリ(Pyrolobus fumarii)に由来のMCR等が挙げられる。また、これらのMCRの改変体であってもよい。MCRの改変体としては、たとえば、これらのMCRのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加、または欠失したアミノ酸配列からなり、かつMCR活性を有するポリペプチドが挙げられる。これらのMCRのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつMCR活性を有するポリペプチドが挙げられる。本発明において用いられる形質転換体が有するMCRとしては、クロロフレクサス・オーランティアカス由来のMCR(CaMCR、配列番号1)が好ましい。
<ACC遺伝子>
本発明において用いられる形質転換体は、外来のACC遺伝子を有する。該形質転換体に導入されるACC遺伝子としては、S.ポンベに導入した場合にACC活性を発揮するタンパク質を発現させ得る構造遺伝子であればよく、いずれの生物種由来のACC遺伝子であってもよい。また、該形質転換体が有する外来のACC遺伝子は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
外来遺伝子として導入されるACC遺伝子がコードするACCとしては、たとえば、S.ポンベ、サッカロミセス・セレビシエ、バチラス・セレウス(Bacillus cereus)、バチラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ボス・タウラス(Bos taurus)、ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、キャンディダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・カテヌラタ(Candida catenulata)、キャンディダ・グロペンギエセリ(Candida gropengiesseri)、キャンディダ・ルゴサ(Candida rugosa)、キャンディダ・ソノレンシス(Candida sonorensis)、キャンディダ・メタノソルボサ(Candida methanosorbosa)、キャンディダ・カルバタ(Candida curvata)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クリベロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)、イタッツェンキア・オリエンタリス(Ittatchenkia orientalis)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ピキア・ハプロフィラ(Pichia haplophila)、アスペルギルス・クレバタス(Aspergillus clavatus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・オケラセウス(Aspergillus ochraceus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、クリプトスポリディウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、エシュケリキア・コリ(Escherichia coli)、エシュケリキア・ブラッタエ(Escherichia blattae)、ホルデウム・バルガレ(Hordeum vulgare)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei)、セタリア・ビリヂス(Setaria viridis)、ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum)、スピナシア・オレラセア(Spinacia oleracea)、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、スルフォロバス・メタリカス、タキフグ・エスピー(Takifugu sp.)、プロピオニバクテリウム・シェラマニ(Propionibacterium shermanii)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・フルオレスセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)、クロロフレクサス・オーランティアカス、クロロフレクサス・アグレガンス、メタロスファエラ・セデュラ、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、クリプトコッカス・カルバタス(Cryptococcus curvatus)、トリコスポラン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)、リポマイセス・スタルケイ(Lipomyces starkeyi)、およびコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に由来のACC等が挙げられる。また、これらのACCの改変体であってもよい。ACCの改変体としては、たとえば、これらのACCのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加、または欠失したアミノ酸配列からなり、かつACC活性を有するポリペプチドが挙げられる。これらのACCのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつACC活性を有するポリペプチドが挙げられる。本発明において用いられる形質転換体が有するACCとしては、S.ポンベ由来のACC(配列番号2)が好ましい。なお、S.ポンベのACCをコードする遺伝子は、cut6遺伝子である。
<ACS(アセチルCoAシンセターゼ)遺伝子>
本発明において用いられる形質転換体は、MCR遺伝子とACC遺伝子に加えて、外来のACS遺伝子を有することが好ましい。形質転換体内で充分量のACSが発現していることにより、酢酸から変換されるアセチルCoA量が多くなり、結果として3−HPの生産量も多くなる。
外来遺伝子として導入されるACS遺伝子がコードするACSとしては、たとえば、S.ポンベ、サッカロミセス・セレビシエに由来のACS等が挙げられる。また、これらのACSの改変体であってもよい。ACSの改変体としては、たとえば、これらのACSのアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加、または欠失したアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するポリペプチドが挙げられる。これらのACSのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するポリペプチドが挙げられる。本発明において用いられる形質転換体が有するACCとしては、サッカロミセス・セレビシエ由来のACS(ACS2、配列番号3)またはS.ポンベ由来のACS(acs1、配列番号4)が好ましい。
<プロテアーゼ遺伝子>
本発明において用いられる形質転換体としては、プロテアーゼをコードする遺伝子(プロテアーゼ遺伝子)のうちの少なくとも1種が削除または不活性化されているものが好ましい。形質転換体内においてS.ポンベが本来有する少なくとも1種のプロテアーゼ遺伝子のプロテアーゼ活性が阻害されていることにより、MCRおよびACCの生産効率が向上し、3−HPの生産量がより高まる。本発明において用いられる形質転換体としては、セリンプロテアーゼをコードする遺伝子(セリンプロテアーゼ遺伝子群)、アミノペプチダーゼをコードする遺伝子(アミノペプチダーゼ遺伝子群)、カルボキシペプチダーゼをコードする遺伝子(カルボキシペプチダーゼ遺伝子群)およびジペプチダーゼをコードする遺伝子(ジペプチダーゼ遺伝子群)からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子が削除または不活性化されているものが好ましい。
本発明において用いられる形質転換体としては、1種類のプロテアーゼ遺伝子のみが削除等されたものであってもよく、2種類以上のプロテアーゼ遺伝子が削除等されたものであってもよい。なかでも、メタロプロテアーゼをコードする遺伝子(メタロプロテアーゼ遺伝子群)、セリンプロテアーゼ遺伝子群、システインプロテアーゼをコードする遺伝子(システインプロテアーゼ遺伝子群)、およびアスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子(アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群)からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が削除等された形質転換体が好ましく、メタロプロテアーゼ遺伝子群およびセリンプロテアーゼ遺伝子群からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子とシステインプロテアーゼ遺伝子群およびアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群内からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子とが削除等された形質転換体も好ましい。
S.ポンベの該4種のプロテアーゼ遺伝子群としては、たとえば以下のものが挙げられる。
メタロプロテアーゼ遺伝子群:cdb4(SPAC23H4.09)、mas2(SPBC18E5.12c)、pgp1(SPCC1259.10)、ppp20(SPAC4F10.02)、ppp22(SPBC14C8.03)、ppp51(SPAC22G7.01c)、ppp52(SPBC18A7.01)、ppp53(SPAP14E8.04)。
セリンプロテアーゼ遺伝子群:isp6(SPAC4A8.04)、ppp16(SPBC1711.12)、psp3(SPAC1006.01)、sxa2(SPAC1296.03c)。
システインプロテアーゼ遺伝子群:ppp80(SPAC19B12.08)、pca1(SPCC1840.04)、cut1(SPCC5E4.04)、gpi8(SPCC11E10.02c)。
アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群:sxa1(SPAC26A3.01)、yps1(SPCC1795.09)、ppp81(SPAC25B8.17)。
本発明において用いられる形質転換体において削除等されているメタロプロテアーゼ遺伝子としては、cdb4遺伝子、pgp1遺伝子、ppp20遺伝子、ppp22遺伝子、ppp52遺伝子、またはppp53遺伝子の少なくとも1種が好ましく、cdb4遺伝子、ppp22遺伝子、またはppp53遺伝子の少なくとも1種がより好ましい。
本発明において用いられる形質転換体において削除等されているセリンプロテアーゼ遺伝子としては、isp6遺伝子、ppp16遺伝子、psp3遺伝子、またはsxa2遺伝子の少なくとも1種が好ましい。
本発明において用いられる形質転換体において削除等されているシステインプロテアーゼ遺伝子としては、ppp80遺伝子が好ましい。
本発明において用いられる形質転換体としては、cdb4遺伝子、ppp22遺伝子、およびppp53遺伝子からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子と、isp6遺伝子、ppp16遺伝子、psp3遺伝子、およびsxa2遺伝子からなる群から選ばれる2種以上の遺伝子の合計3種以上の遺伝子が削除等されているものが好ましく、ppp53遺伝子およびcdb4遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子とisp6遺伝子とpsp3遺伝子とを含む合計3種以上の遺伝子が削除等されているものがより好ましい。たとえば、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子の少なくとも3種の遺伝子が削除等されているものがさらに好ましい。
本発明において用いられる形質転換体としては、さらに、ppp53遺伝子、isp6遺伝子、psp3遺伝子、およびppp16遺伝子を含む4種以上の遺伝子が削除等されているものが好ましく、ppp53遺伝子、isp6遺伝子、psp3遺伝子、ppp16遺伝子、およびppp22遺伝子を含む5種以上の遺伝子が削除等されているものがより好ましく、ppp53遺伝子、isp6遺伝子、psp3遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、およびsxa2遺伝子を含む6種以上の遺伝子が削除等されているものがさらに好ましく、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除等されているものがよりさらに好ましい。
<形質転換体の製造>
本発明に係る形質転換体は、宿主となるS.ポンベに、MCR遺伝子とACC遺伝子(必要に応じて、ACS遺伝子)を遺伝子工学的方法で導入することにより製造できる。複数の外来遺伝子を導入する場合、全てを同時に宿主に導入してもよく、順次(順不同)導入してもよい。酵母を宿主として用いた遺伝子組換え法に関しては、異種タンパク質をより安定に効率よく発現させるために種々の発現システム、特に発現ベクター、分泌シグナル遺伝子導入発現ベクター等が開発されており、本発明に係る形質転換体の製造においては、
これらを広く応用可能である。例えば、S.ポンベを宿主とした発現システムとしては、特許2776085号公報、特開平07−163373号公報、特開平10−215867号公報、特開平10−215867号公報、特開平11−192094号公報、特開11−192094号公報、特開2000−262284号公報、国際公開第96/023890号等が知られており、本発明に係る形質転換体を製造する方法には広くこれら発現システムが利用できる。
宿主とするS.ポンベは、野生型であってもよく、用途に応じて特定の遺伝子を欠失または失活させた変異型であってもよい。特定の遺伝子を欠失または失活させる方法としては、公知の方法を用いられる。具体的には、Latour法(Nucreic Acids Res誌、2006年、34巻、e11頁、国際公開第2007/063919号に記載)を用いることにより遺伝子を欠失させられる。また、変異剤を用いた突然変異分離法(酵母分子遺伝学実験法、1996年、学会出版センター)や、PCRを利用したランダム変異法(PCR Methods Application誌、第2巻、28-33ページ、1992年)等により遺伝子の一部に変異を導入することにより該遺伝子を失活させられる。また、特定の遺伝子の削除または不活性化を行う部分はORF(オープンリーディングフレーム)部分であってもよく、発現調節配列部分であってもよい。特に好ましい方法は、構造遺伝子のORF部分をマーカー遺伝子に置換するPCR媒介相同組換え法(Yeast誌、第14巻、943-951ページ、1998年)による削除または不活性化の方法である。
特定遺伝子を欠失または失活させたシゾサッカロミセス属酵母宿主としては、たとえば、国際公開第2002/101038号、国際公開第2007/015470号、国際公開第2013/137277号等に記載されている。本発明において用いられる宿主としては、S.ポンベが本来有する少なくとも1種のプロテアーゼ遺伝子が削除または不活性化されているものが好ましく、セリンプロテアーゼ遺伝子群、アミノペプチダーゼ遺伝子群、カルボキシペプチダーゼ遺伝子群およびジペプチダーゼ遺伝子群からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されているものがより好ましく、メタロプロテアーゼ遺伝子群、セリンプロテアーゼ遺伝子群、システインプロテアーゼ遺伝子群、およびアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されているものがさらに好ましく、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除または不活性化されているものがよりさらに好ましい。
さらに宿主として使用するS.ポンベには、形質転換体を選択するためのマーカーを有するものを用いることが好ましい。たとえば、ある遺伝子が欠落していることにより特定の栄養成分が生育に必須である宿主を使用することが好ましい。目的遺伝子配列を含むベクターにより形質転換をして形質転換体を作製する場合、ベクターにこの欠落している遺伝子(栄養要求性相補マーカー)を組み込んでおくことにより、形質転換体では宿主の栄養要求性が消失する。宿主と形質転換体の栄養要求性の相違により、両者を区別して形質転換体を得られる。
たとえば、オロチジンリン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(ura4遺伝子)が欠失または失活してウラシル要求性となっているS.ポンベを宿主とし、ura4遺伝子(栄養要求性相補マーカー)を有するベクターにより形質転換した後、ウラシル要求性が消失したものを選択することにより、ベクターが組み込まれた形質転換体を得られる。宿主において欠落により栄養要求性となる遺伝子は、形質転換体の選択に用いられるものであればura4遺伝子には限定されず、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(leu1遺伝子)等であってもよい。
<外来遺伝子導入方法>
各外来遺伝子はS.ポンベの染色体に導入することが好ましい。染色体に外来遺伝子を導入することにより継代の維持安定性に優れた形質転換体が得られる。また、外来遺伝子は染色体に複数導入することもできる。
遺伝子工学的方法で宿主に外来遺伝子を導入する方法としては、公知の方法を使用できる。外来遺伝子をS.ポンベの染色体に導入する方法としては、外来遺伝子を有する発現カセットと組換え部位とを有するベクターを用い、相同組換え法により導入する方法が好ましい。
<発現カセット>
発現カセットとは、目的の蛋白質を発現するために必要なDNAの組み合わせであり、目的の蛋白質をコードする構造遺伝子と宿主内で機能するプロモーターとターミネーターを含む。本発明において用いられる形質転換体の製造において用いられる発現カセットは、外来遺伝子と、S.ポンベ内で機能するプロモーターとS.ポンベ内で機能するターミネーターとを含む。該発現カセットは、5’−非翻訳領域、3’−非翻訳領域のいずれか1つ以上が含まれていてもよい。さらに、前記栄養要求性相補マーカーが含まれていてもよい。1の発現カセットには複数の外来遺伝子が存在していてもよい。1の発現カセット中の外来遺伝子の数は1〜8が好ましく、1〜5がより好ましい。また、1の発現カセット中に複数の外来遺伝子が含まれている場合、2種類以上の外来遺伝子を含んでいてもよい。具体的には、該形質転換体の製造において、MCR遺伝子およびACC遺伝子は、それぞれ別個の発現カセットにより宿主に導入してもよく、両遺伝子を1の発現カセットにより宿主に導入してもよい。
発現カセットに含めるMCR遺伝子とACC遺伝子(必要に応じて、ACS遺伝子)の遺伝子配列としては、野生型がコードする遺伝子をそのまま用いてもよいが、宿主として用いるS.ポンベ内での発現量を増大させるために、野生型の遺伝子配列を、S.ポンベにおいて使用頻度の高いコドンに改変してもよい。
S.ポンベ内で機能するプロモーターとターミネーターは、本発明に係る形質転換体により3−HPが蓄積して酸性になっても(pH6以下になっても)、形質転換体内で機能して外来遺伝子がコードするタンパク質の発現を維持できるものであればよい。S.ポンベ内で機能するプロモーターとしては、S.ポンベが本来有するプロモーター(転写開始活性が高いものが好ましい)やS.ポンベが本来有しないプロモーター(ウイルス由来のプロモーターなど)を使用できる。なお、プロモーターはベクター内に2種以上存在していてもよい。
S.ポンベが本来有するプロモーターとしては、たとえば、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、チアミンの代謝に関与するnmt1遺伝子プロモーター、グルコースの代謝に関与するフルクトース−1、6−ビスホスファターゼ遺伝子プロモーター、カタボライト抑制に関与するインベルターゼ遺伝子のプロモーター(国際公開第99/23223号パンフレット参照)、熱ショック蛋白質遺伝子プロモーター(国際公開第2007/26617号パンフレット参照、国際公開第2014/030644号)などが挙げられる。
S.ポンベが本来有しないプロモーターとしては、たとえば、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、特開平10−234375号公報に記載されている動物細胞ウイルス由来のプロモーターが挙げられ、hCMVプロモーター、SV40プロモーターが好ましい。
S.ポンベ内で機能するターミネーターとしては、S.ポンベが本来有するターミネーターやS.ポンベが本来有しないターミネーターを使用できる。なお、ターミネーターはベクター内に2種以上存在していてもよい。
ターミネーターとしては、たとえば、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、特開平10−234375号公報に記載されているヒト由来のターミネーターが挙げられ、ヒトリポコルチンIのターミネーターが好ましい。
<ベクター>
本発明において用いられる形質転換体は、外来遺伝子を含む発現カセットを、染色体中に有するか、または染色体外遺伝子として有する。発現カセットを染色体中に有するとは、宿主細胞の染色体中の1カ所以上に発現カセットが組み込まれていることであり、染色体外遺伝子として有するとは、発現カセットを含むプラスミドを細胞内に有するということである。各発現カセットを含む形質転換体は、各発現カセットを含むベクターを用いて宿主であるS.ポンベを形質転換することにより得られる。
該ベクターは、環状DNA構造または線状DNA構造を有するベクターに、該発現カセットを組み込むことにより製造できる。該発現カセットが、宿主の細胞内で染色体外遺伝子として保持される形質転換体を作製する場合には、該ベクターは、宿主細胞内で複製されるための配列、即ち、自律複製配列(Autonomously Replicating Sequence:ARS)を含むプラスミドであることが好ましい。一方で、該発現カセットが、宿主細胞の染色体中に組み込まれた形質転換体を作製する場合には、該ベクターは、線状DNA構造であり、かつARSを有していないものとして、宿主細胞へ導入されることが好ましい。たとえば、該ベクターは、線状DNAからなるベクターであってもよく、宿主への導入時に、線状DNAに切り開くための制限酵素認識配列を備える環状DNA構造のベクターであってもよい。該ベクターがARSを有するプラスミドの場合、ARS部分を削除して線状DNA構造、またはARS部分を開裂させることによりARSの機能を失活させた線状DNA構造とした後、宿主へ導入できる。
該ベクターは、形質転換体を選択するためのマーカーを有することが好ましい。該マーカーとしては、たとえば、ura4遺伝子(栄養要求性相補マーカー)、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(leu1遺伝子)が挙げられる。
該ベクターをS.ポンベの染色体に導入する場合、該ベクターの組換え部位は、S.ポンベの染色体における相同組換えの標的部位に対して相同組換えを行わせることのできる塩基配列を有する部位である。また、標的部位は、S.ポンベの染色体内で発現カセットを組み込む標的となる部位である。標的部位は、ベクターの組換え部位を該標的部位に対して相同組換えを行わせる塩基配列とすることにより自由に設定できる。
前記組換え部位の塩基配列と標的部位の塩基配列との相同性は70%以上とすることが必要である。また、組換え部位の塩基配列と標的部位の塩基配列との相同性は、相同組換えが起きやすくなる点から、90%以上とすることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。該組換え部位を有するベクターを用いることにより、発現カセットが相同組換えにより標的部位に組み込まれる。
組換え部位の長さ(塩基数)は、20〜2000bpであることが好ましい。組換え部位の長さが20bp以上であれば、相同組換えが起きやすくなる。また、組換え部位の長さが2000bp以下であれば、ベクターが長くなりすぎて相同組換えが起き難くなることを防ぎやすい。組換え部位の長さは100bp以上であることがより好ましく、200bp以上であることがさらに好ましい。また、組換え部位の長さは800bp以下であることがより好ましく、400bp以下であることがさらに好ましい。
ベクターは、前記発現カセットと組換え部位以外に他のDNA領域を有していてもよい。たとえば、大腸菌内での複製のために必要な「ori」と呼ばれる複製開始領域や抗生物質耐性遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)が挙げられる。これらは大腸菌を使用してベクターを構築する場合に通常必要とされる遺伝子である。ただし、前記複製開始領域は後述のようにベクターを宿主の染色体に組み込む際には除去されることが好ましい。
染色体に外来遺伝子を組み込む場合、ベクターは、S.ポンベの細胞に導入する際には線状DNA構造で導入することが好ましい。すなわち、通常用いられるプラスミドDNA等の環状DNA構造を有するベクターである場合には、制限酵素でベクターを線状に切り開いた後にS.ポンベの細胞に導入することが好ましい。
この場合、環状DNA構造を有するベクターを切り開く位置は、組換え部位内とする。これにより、切り開かれたベクターの両端にそれぞれ組換え部位が部分的に存在することとなり、相同組換えによりベクター全体が染色体の標的部位に組み込まれる。
ベクターは、両端それぞれに組換え部位の一部が存在するような線状DNA構造とすることができれば、環状DNA構造を有するベクターを切り開く方法以外の方法で構築してもよい。
ベクターとしては、たとえば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等の大腸菌由来のプラスミドを好適に用いられる。
この場合、相同組換えに用いる際のプラスミドベクターは、大腸菌内での複製のために必要な「ori」と呼ばれる複製開始領域が除去されていることが好ましい。これにより、上述したベクターを染色体に組み込む際に、その組み込み効率を向上させられる。
複製開始領域が除去されたベクターの構築方法は特に限定されないが、特開2000−262284号公報に記載されている方法を用いることが好ましい。すなわち、組換え部位内の切断箇所に複製開始領域が挿入された前駆体ベクターを構築しておき、前述のように線状DNA構造とすると同時に複製開始領域が切り出されるようにする方法が好ましい。これにより、簡便に複製開始領域が除去されたベクターを得られる。
また、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、国際公開第96/23890号パンフレット、特開平10−234375号公報等に記載された発現ベクターやその構築方法を適用して、発現カセットおよび組換え部位を有する前駆体ベクターを構築し、さらに通常の遺伝子工学的手法で該前駆体ベクターから複製開始領域を除去して相同組換えに用いるベクターを得る方法であってもよい。
<標的部位>
ベクターを組み込む標的部位は、S.ポンベの染色体中の1箇所のみに存在していてもよく、2箇所以上に存在していてもよい。標的部位が2箇所以上存在している場合、S.ポンベの染色体の2箇所以上に該ベクターを組み込める。また、1の発現カセット中の外来遺伝子を複数とした場合には、標的部位の1箇所に複数の外来遺伝子を組み込める。さらに、2種以上の標的部位に、それぞれの標的部位に対応する組換え部位を有する2種以上のベクターを用いて、発現カセットを組み込むこともできる。該方法で、S.ポンベの染色体に複数の外来遺伝子を組み込むことができ、これにより外来遺伝子がコードするMRCまたはACCの発現量を増大させ、3−HPの生産性を向上できる。たとえば、MRC遺伝子を含む発現カセットを第1の標的部位を有するベクターに組み込み、ACC遺伝子を含む発現カセットを第2の標的部位を有するベクターに組み込み、該ベクターをS.ポンベを宿主として形質転換することにより、本発明に係る形質転換体が得られる。
1箇所の標的部位に発現カセットを組み込む場合、たとえば特開2000−262284号公報に記載の方法記載の標的部位を使用できる。異なる組込み部位を有する2種以上のベクターを用いて、異なる標的部位にそれぞれベクターを組み込める。しかし、染色体の2箇所以上にベクターを組み込む場合、該方法は煩雑である。
染色体中に複数箇所存在する互いに実質的に同一の塩基配列部分を標的部位として、この複数箇所の標的部位にそれぞれベクターを組み込められれば、1種類のベクターを使用して染色体の2箇所以上にベクターを組み込める。互いに実質的に同一の塩基配列とは、塩基配列の相同性が90%以上であることを意味する。標的部位同士の相同性は95%以上であることが好ましい。また、互いに実質的に同一である塩基配列の長さは、前記ベクターの組換え部位を包含する長さであり、1000bp以上であることが好ましい。1箇所の標的部位に複数の外来遺伝子が組み込まれている場合に比較して、外来遺伝子の組み込み数が同一であっても、複数存在する標的部位に外来遺伝子が分散して組み込まれている場合には、形質転換体が増殖する際に外来遺伝子が染色体から1度に脱落することが少なくなり、形質転換体の継代における維持安定性が向上する。
染色体中に複数箇所存在する標的部位としては、トランスポゾン遺伝子Tf2が好ましい。Tf2は、S.ポンベの3本(一倍体)の染色体それぞれに合計13箇所存在するトランスポゾン遺伝子であり、長さ(塩基数)は約4900bpであり、それらの遺伝子間における塩基配列相同性は99.7%であることが知られている(下記文献参照)。
Nathan J. Bowen et al, “Retrotransposons and Their Recognition of pol II Promoters: A Comprehensive Survey of the Transposable Elements From the Complete Genome Sequence of Schizosaccharomyces pombe”, Genome Res. 2003 13: 1984-1997
染色体に13箇所存在するTf2の1箇所のみにベクターを組み込められる。この場合、2個以上の外来遺伝子を有するベクターを組み込むことにより、2個以上の外来遺伝子を有する形質転換体を得られる。また、Tf2の2箇所以上にベクターを組み込むことにより、2個以上の外来遺伝子を有する形質転換体を得られる。この場合、2個以上の外来遺伝子を有するベクターを組み込むことにより、さらに多くの外来遺伝子を有する形質転換体を得られる。Tf2の13箇所すべてにベクターが組み込まれると、形質転換体の生存や増殖に対する負荷が大きくなりすぎるおそれがある。好ましくは、13箇所のTf2の8箇所以下にベクターが組み込まれることが好ましく、5箇所以下にベクターが組み込まれることがより好ましい。
<形質転換方法>
形質転換方法は、公知の形質転換方法がいずれも用いられる。該形質転換方法としては、たとえば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、ガラスビーズ法など従来周知の方法や、特開2005−198612号公報記載の方法が挙げられる。また、市販の酵母形質転換用キットを用いてもよい。
形質転換体の製造では、通常、相同組換えを行った後、得られた形質転換体を選択する。選択する方法としては、たとえば、以下に示す方法が挙げられる。前記栄養要求性マーカーにより形質転換体を選択できる培地によりスクリーニングし、得られたコロニーから複数を選択する。次に、それらを別々に液体培養した後、それぞれの液体培地における異種蛋白質の発現量を調べ、該異種蛋白質の発現量がより多い形質転換体を選択する。それら選択した形質転換体に対してパルスフィールドゲル電気泳動法によるゲノム解析を行うことにより、染色体に組み込まれたベクターの数や発現カセットの数を調べられる。
染色体に組み込まれるベクターの数は組み込み条件などを調整することによりある程度は調整できる。ベクターの大きさ(塩基数)や構造により、組み込み効率や組み込み数も変化すると考えられる。
[3−HPの製造]
本発明に係る3−HPの製造方法において、該形質転換体を植菌する液体培地の酢酸または酢酸塩の濃度は、酢酸等が無添加の液体培地で培養した場合よりも3−HPの生産量が高くなるような濃度であればよく、培養する形質転換体の遺伝子型および該液体培地のその他の組成、特にグルコースまたはスクロースの濃度等を考慮して適宜決定できる。該液体培地の酢酸または酢酸塩の濃度としては、10〜50mMであることが好ましく、10〜40mMであることがより好ましく、20〜30mMであることがさらに好ましい。
3−HPの製造に用いる液体培地としては、糖を含有する公知の酵母培養培地を酢酸または酢酸塩の濃度が所定の範囲内になるように調整したものを用いられる。該液体培地としては、さらにS.ポンベが資化しうる窒素源、無機塩類等を含有し、S.ポンベの培養を効率良く行えるものが好ましい。該液体培地としては、天然培地を用いてもよく、合成培地を用いてもよい。
炭素源である糖としては、たとえば、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース等の糖が挙げられる。窒素源としては、たとえば、アンモニア、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機酸または無機酸のアンモニウム塩、ペプトン、カザミノ酸、イーストエキス等が挙げられる。無機塩類としては、たとえば、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。さらには、プロテオリピド等の発酵促進因子などを含ませられる。
本発明に係る3−HPの製造方法では、糖として特にグルコースまたはスクロースを含有する液体培地を用いることが好ましい。培養初期の液体培地(100質量%)中のグルコースまたはスクロースの濃度は1質量%以上が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜16質量%がさらに好ましい。培養によりグルコース濃度が低下することより、必要によりグルコースを添加して培養を継続することが好ましい。培養終期のグルコース濃度は1質量%以下となってもよい。また、3−HPを分離しながら液体培地を循環させて連続的に培養を行う場合には、前記グルコース濃度を維持することが好ましい。グルコース濃度を2質量%以上とすることにより、3−HPの生産性がより向上する。また、液体培地中のグルコースを16質量%以下とすることにより、3−HPの生産効率がより向上する。
また、3−HP製造の生産性を高くするために、高密度培養を行うことが好ましい。高密度培養では、液体培地中の形質転換体の初発菌体濃度を乾燥菌体重量換算値で表して0.1〜5g/Lとすることが好ましい。液体培地中の形質転換体の初発菌体濃度を乾燥菌体重量換算値で表して0.2〜2g/Lとすることがより好ましい。初発菌体濃度を高くすることにより短時間で高い生産性を達成できる。また、初発菌体濃度があまりに高すぎると菌体の凝集および精製効率の低下等の問題が生じるおそれがある。
なお、後述の実施例等で示す菌体濃度は、日本分光社製可視紫外分光器V550によって測定した波長600nmの光の吸光度(OD600)値である。
培養には公知の酵母培養方法を用いることができ、たとえば振とう培養、攪拌培養等により行える。
また、培養温度は、23〜37℃であることが好ましい。また、培養時間は適宜決定できる。
また、培養は、回分培養であってもよく、連続培養であってもよい。たとえば、回分培養で培養を行った後、菌体を液体培地から分離して、3−HPを含む液体培地を取得できる。また、連続培養法では、たとえば、培養中の培養槽から液体培地の一部を抜き出し、抜き出した液体培地から3−HPを分離するとともに、培養上清を回収し、該培養上清にグルコースおよび新たな液体培地等を加えて培養槽に戻すことを繰り返して、連続的に培養する方法が挙げられる。連続培養を行うことにより、3−HPの生産性がより向上する。
本発明に係る3−HPの製造方法では、耐酸性に特に優れたS.ポンベの形質転換体を用いているため、3−HPの蓄積により低pH(pH2〜4程度)となっても中和を行わずに3−HPを生産できる。そのため、液体培地のpHが3.5以下になった後も、さらに培養を継続する連続培養により3−HPを製造できる。培養終期のpHおよび連続培養におけるpHは、3.5以下が好ましく、特に2.3〜3.5が好ましい。3−HPの生産性を高くするために、液体培地のpHが3.5以下になった後にさらに培養を継続することが好ましい。本発明において用いられる形質転換体は耐酸性が優れているため、該形質転換体により産生された液体培地中の3−HPを中和することなく培養を継続できる。
液体培地からの3−HPの取得は、公知の方法を用いられる。特に、液体培地中の3−HPを中和することなく、液体培地と3−HPを分離して、3−HPを取得することが好ましい。たとえば、培養終了後の液体培地から遠心分離により菌体を分離し、pH1以下にした後にジエチルエーテルや酢酸エチル等により抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着させて洗浄した後に溶出させる方法、活性炭を用いて不純物を除去する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させた後に蒸留する方法、分離膜を用いて分離する方法が挙げられる。また、場合によっては液体培地中の3−HPを中和した後液体培地と3−HP塩を分離して、3−HPを取得することもできる。たとえば、液体培地中の3−HPをカルシウム塩またはリチウム塩に変換し、該中和塩を晶析する方法で3−HPを取得することもできる。
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。また、本実施例においては特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
[参考例1]
野生型のS.ポンベARC039株(遺伝子型:h leu1−32 ura4−C190T)と、S.ポンベのうち、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除されているMGF433株(遺伝子型:h leu1−32 ura4−D18 psp3::ura4(FOA) isp6::ura4(FOA) ppp53::ura4(FOA) ppp16::ura4(FOA) ppp22::ura4(FOA) sxa2::ura4(FOA) ppp80::ura4(FOA) ppp20::ura4)(特許文献2参照)をFOA処理してウラシル要求性にしたMGF438株(遺伝子型:h leu1−32 ura4−D18 psp3::ura4(FOA) isp6::ura4(FOA) ppp53::ura4(FOA) ppp16::ura4(FOA) ppp22::ura4(FOA) sxa2::ura4(FOA) ppp80::ura4(FOA) ppp20::ura4(FOA))に、CaMCR−FLAG(CaMCRのC末端にFLAGタグを付加したもの)の発現カセットまたはcut6−FLAG(S.ポンベ由来のACC(cut6)のC末端にFLAGタグを付加したもの)の発現カセットを導入し、発現を比較した。
まず、CaMCR−FLAG発現カセットを保持する組換えベクターpREP1−CaMCR−FLAG(12471bp、図1)を作製した。pREP1−CaMCR−FLAGベクターは、DNA合成により、配列番号5に示す塩基配列からなるDNA断片として作製した。
同様にして、cut6−FLAG発現カセットを保持する組換えベクターpREP2−cut6−FLAG(15166bp、図2)を作製した。pREP2−cut6−FLAGベクターは、MGF438株から抽出したRNAを鋳型としたRT−PCRにより、配列番号6に示す塩基配列からなるDNA断片として作製した。
次いで、ARC039株およびMGF438株を、それぞれ、pREP1−CaMCR−FLAGベクターで形質転換した。形質転換物をMM−leuプレート(MM(最小培地)プレートからロイシンを除いたプレート)にストリークして30℃にて培養し、得られたコロニーから5個を選択し、それぞれMM−leu培地(MM培地からロイシンを除いた培地)に植え継ぎ、30℃にて培養した。
また、ARC039株およびMGF438株を、それぞれ、pREP2−cut6−FLAGベクターで形質転換した。形質転換物をMM−uraプレート(MMプレートからウラシルを除いたプレート)にストリークして30℃にて培養し、得られたコロニーから1個を選択し、それぞれMM−ura培地(MM培地からウラシルを除いた培地)に植え継ぎ、30℃にて培養した。得られた培養物から回収された菌体にSDS−PAGE用サンプルバッファーを添加し、99℃で3分間インキュベートし、SDS−PAGE用サンプルを調製した。該SDS−PAGE用サンプルをポリアクリルアミドゲルにアプライし、SDS−PAGE後にPVDF膜へ転写した。タンパク質を転写したPVDF膜に対して、HRP標識抗FLAG抗体((株)医薬生物学研究所製、Anti−DDDDK−tag mAb−HRP−DirecT)を用い、イムノブロットを行った。
pREP1−CaMCR−FLAGベクターを導入した形質転換体のイムノブロットの結果を図3に、pREP2−cut6−FLAGベクターを導入した形質転換体のイムノブロットの結果を図4に、それぞれ示す。この結果、ARC039株を宿主とした形質転換体では、CaMCR−FLAGとcut6−FLAGのいずれもプロテアーゼにより著しく分解され、多数の分解物が検出されたが、MGF438株を宿主とした形質転換体では、CaMCR−FLAGとcut6−FLAGのいずれも分解が抑制されていた。
[実施例1]
S.ポンベのうち、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子がLatour法で削除されているMSP0080株(遺伝子型:h leu1−32 ura4−D18 psp3−D13 isp6−D14 oma1−D10 ppp16−D20 fma2−D13 sxa2−D15 aap1−D17 ppp80−D11)にCaMCRをコードする遺伝子とS.ポンベ由来のcut6遺伝子とを組込んだ形質転換体を用いて3−HPを産生するに当たり、培養に用いる液体培地のグルコース濃度および酢酸濃度の3−HP産生に対する影響を調べた。
<MCR/ACC−1発現株の作製>
まず、hsp9プロモーターとLPIターミネーターの間にCaMCRをコードする遺伝子が組み込まれている組換えベクター1−hsp9p−CaMCR−LPIt(11052bp、図5、配列番号7)と、hsp9プロモーターとLPIターミネーターの間にS.ポンベ由来のcut6遺伝子が組み込まれている組換えベクター2−hsp9p−cut6−LPIt(13749bp、図6、配列番号8)とを、DNA合成により作製した。
次いで、MSP0080株を、1−hsp9p−CaMCR−LPItベクターおよび2−hsp9p−cut6−LPItベクターで形質転換し、両ベクターを導入した形質転換体を選抜した。該形質転換体を、MCR/ACC−1発現株とした。
<MCR/ACC−2発現株およびMCR/ACC/ACS2発現株の作製>
まず、nmt1プロモーターとnmt1ターミネーターの間にCaMCRをコードする遺伝子が組み込まれている組換えベクターpREP1−CaMCR(12431bp、図7、配列番号9)と、nmt1プロモーターとnmt1ターミネーターの間にcut6遺伝子が組み込まれている組換えベクターpREP2−cut6(15114bp、図8、配列番号10)と、nmt1プロモーターとnmt1ターミネーターの間にサッカロミセス・セレビシエ由来のACS2をコードする遺伝子が組み込まれている組換えベクターpREPAde−ACS2(10970bp、図9、配列番号11)と、nmt1プロモーターとnmt1ターミネーターの間にS・ポンべ由来のacs1をコードする遺伝子が組み込まれている組換えベクターpREPAde−acs1(10907bp、図10、配列番号12)とをDNA合成により作製した。
次いで、MSP0080株のade7遺伝子を破壊してアデニン要求性を付与した株を、pREP1−CaMCRベクターおよびpREP2−cut6ベクターで形質転換し、2種のベクターが全て導入された形質転換体を選抜した。該形質転換体を、MCR/ACC−2発現株とした。
次いで、MCR/ACC−2発現株を、pREPAde−ACS2ベクターで形質転換し、該ベクターを導入した形質転換体を選抜した。該形質転換体を、MCR/ACC/ACS2発現株とした。また、MCR/ACC−2発現株を、pREPAde−acs1ベクターで形質転換し、該ベクターを導入した形質転換体を選抜した。該形質転換体を、MCR/ACC/acs1発現株とした。
<3−HP産生>
MCR/ACC−1発現株およびMCR/ACC/ACS2発現株を、グルコースと酢酸の濃度が様々である液体培地を用いて培養し、産生された3−HP量を測定して比較した。
具体的には、MCR/ACC−1発現株を、MM−leu−ura培地(MM培地からロイシンとウラシルを除いた培地)に植菌して、温度30℃、振盪速度200rpmの条件下で30時間培養を行った。
次いで、培養終了後の液体培地から遠心分離処理により菌体を分離し、該菌体を表1に記載のグルコース濃度および酢酸濃度のMM−leu−ura培地に、初発菌体濃度がOD600=0.05)になるように接種し、144時間培養した。培養終了後の培養液の3−HP濃度(mM)を以下に示すHPLC条件で測定した。
使用カラム:InertSustain C18 5μm、4.6 I.D.×250 mm (GLサイエンス社製)
溶離液:10mM NHPO (pH2.6、リン酸で調製)
注入量:10μl
流量:0.5ml/min
カラム温度:30℃
検出:UV(波長210nm)
同様に、MCR/ACC/ACS2発現株を、MM−leu−ura−adenine培地(MM培地からロイシンとウラシルとアデニンを除いた培地)に植菌して、温度30℃、振盪速度200rpmの条件下で30時間培養を行った。
次いで、培養終了後の液体培地から遠心分離処理により菌体を分離し、該菌体を表2に記載のグルコース濃度および酢酸濃度のMM−leu−ura−adenine培地に、初発菌体濃度がOD600=0.05)になるように接種したものを発酵液として、144時間発酵させた。発酵終了後の発酵液の3−HP濃度(mM)をHPLCで測定した。
各発酵液の3−HP濃度(mM)の測定結果を表1および表2に示す。この結果、両株とも、いずれのグルコース濃度においても、菌体を接種する液体培地の酢酸濃度が0mMの場合よりも20mMの場合のほうが、3−HP産生量が多かったが、酢酸濃度が高くなりすぎると、3−HP産生は阻害された。また、酢酸濃度が20mMの場合には、グルコース濃度依存的に3−HPの産生量が多くなっており、特に、MCR/ACC−1発現株では、酢酸濃度20mM、グルコース濃度15%において、43.033mMもの3−HPが産生された。また、MCR/ACC/ACS2発現株では、酢酸濃度30mM、グルコース濃度12%の場合と、酢酸濃度40mM、グルコース濃度6%の場合に、26mM以上の3−HPが産生された。
[実施例2]
MSP0080株に、CaMCRをコードする遺伝子とS.ポンベ由来のcut6遺伝子とを導入した形質転換体と、CaMCRをコードする遺伝子とS.ポンベ由来のcut6遺伝子とサッカロミセス・セレビシエ由来のACS2をコードする遺伝子とを導入した形質転換体の3−HP産生量を比較した。
具体的には、実施例1で製造したMCR/ACC−2発現株を、MM−leu−ura培地に植菌して、温度30℃、振盪速度200rpmの条件下で30時間培養を行った。
次いで、培養終了後の液体培地から遠心分離処理により菌体を分離し、該菌体をグルコースおよび酢酸を含有するMM−leu−ura培地(グルコース濃度:9%、酢酸濃度:20mM)に、初発菌体濃度が(OD600=0.05)になるように接種したものを発酵液として、144時間発酵させた。発酵終了後の発酵液の3−HP濃度(mM)をHPLCで測定した。
また、実施例1で製造したMCR/ACC/ACS2発現株を、MM−leu−ura−adenine培地に植菌して、温度30℃、振盪速度200rpmの条件下で30時間培養を行った。
次いで、培養終了後の液体培地から遠心分離処理により菌体を分離し、該菌体をグルコースおよび酢酸を含有するMM−leu−ura−adenine培地(グルコース濃度:9%、酢酸濃度:20mM)に、初発菌体濃度が(OD600=0.05)になるように接種したものを発酵液として、144時間発酵させた。発酵終了後の発酵液の3−HP濃度(mM)をHPLCで測定した。
この結果、MCR/ACC−2発現株の3−HP生産量は15.9mMであり、MCR/ACC/ACS2発現株の3−HP生産量は27.9mMであり、MCR/ACC−2発現株よりもMCR/ACC/ACS2発現株のほうが、3−HP生産量が1.75倍向上した。これらの結果から、ACS2を過剰発現させることにより、酢酸存在下で発酵させた場合の3−HP生産量を増大させられることがわかった。
また、実施例1で製造したMCR/ACC/acs1発現株を、MM−leu−ura−adenine培地に植菌して、温度30℃、振盪速度200rpmの条件下で30時間培養を行った。
次いで、培養終了後の液体培地から遠心分離処理により菌体を分離し、該菌体をグルコースおよび酢酸を含有するMM−leu−ura−adenine培地(グルコース濃度:9%、酢酸濃度:20mM)に、初発菌体濃度が(OD600=0.05)になるように接種したものを発酵液として、144時間発酵させた。発酵終了後の発酵液の3−HP濃度(mM)をHPLCで測定した。
この結果、MCR/ACC−2発現株の3−HP生産量は18.7mMであり、MCR/ACC/acs1発現株の3−HP生産量は29.3mMであり、MCR/ACC−2発現株よりもMCR/ACC/acs1発現株のほうが、3−HP生産量が1.56倍向上した。これらの結果から、acs1を過剰発現させることにより、酢酸存在下で発酵させた場合の3−HP生産量を増大させられることがわかった。

Claims (14)

  1. シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)を宿主とし、外来のマロニルCoAレダクターゼ遺伝子および外来のアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子を有している形質転換体を、酢酸または酢酸塩を含みそれらの合計の濃度が10〜50mMである液体培地中で培養し、該液体培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を取得することを特徴とする、3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  2. 前記形質転換体が、少なくとも1種のプロテアーゼをコードする遺伝子が削除または不活性化されている、請求項1に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  3. 前記形質転換体が、メタロプロテアーゼをコードする遺伝子(メタロプロテアーゼ遺伝子群)、セリンプロテアーゼをコードする遺伝子(セリンプロテアーゼ遺伝子群)、システインプロテアーゼをコードする遺伝子(システインプロテアーゼ遺伝子群)、およびアスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子(アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群)からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されている、請求項1または2に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  4. 前記形質転換体が、psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除または不活性化されている、請求項2または3に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  5. 前記マロニルCoAレダクターゼ遺伝子およびアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子が染色体に組み込まれている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  6. 前記マロニルCoAレダクターゼ遺伝子およびアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子がプラスミドに組み込まれている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  7. 前記液体培地が、グルコースまたはスクロースを含み、それらの合計の濃度が1〜50質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  8. 培養により前記液体培地のpHが3.5以下になった後にもさらに培養を継続する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  9. 前記液体培地中の3−ヒドロキシプロピオン酸を中和することなく培養を継続する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法。
  10. シゾサッカロミセス・ポンベを宿主とし、外来のマロニルCoAレダクターゼ遺伝子および外来のアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子を有し、かつ前記宿主が本来有する少なくとも1種のプロテアーゼをコードする遺伝子が削除または不活性化されていることを特徴とする形質転換体。
  11. 前記宿主が本来有するメタロプロテアーゼをコードする遺伝子(メタロプロテアーゼ遺伝子群)、セリンプロテアーゼをコードする遺伝子(セリンプロテアーゼ遺伝子群)、システインプロテアーゼをコードする遺伝子(システインプロテアーゼ遺伝子群)、およびアスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子(アスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子群)からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子が削除または不活性化されている、請求項10に記載の形質転換体。
  12. psp3遺伝子、isp6遺伝子、ppp53遺伝子、ppp16遺伝子、ppp22遺伝子、sxa2遺伝子、ppp80遺伝子、およびppp20遺伝子が削除または不活性化されている、請求項10に記載の形質転換体。
  13. 前記マロニルCoAレダクターゼ遺伝子およびアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子が染色体に組み込まれている、請求項10〜12のいずれか一項に記載の形質転換体。
  14. 前記マロニルCoAレダクターゼ遺伝子およびアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子がプラスミドに組み込まれている、請求項10〜12のいずれか一項に記載の形質転換体。
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