しかしながら、上述した非特許文献3に記載のフィルタにおいては、金属膜の両面の凹凸構造が金属膜を挟んで対称な構造を有している。そのため、従来のフィルタを製造する際には精密な加工工程が必要とされ、製造効率が低下する傾向にあった。
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、高い透過波長選択性を有し、かつ効率的に製造することが可能な光学素子を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の一形態にかかる光学素子は、金属製の膜状部材を備え、膜状部材は、一方の面上において一方の面に沿った一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む第1の表面構造と、他方の面上において一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む第1の裏面構造と、一方の面から他方の面に貫通する貫通部と、を有し、第1の表面構造の凹面と第1の裏面構造の凸面とは、膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成されており、第1の表面構造の凸面と第1の裏面構造の凹面とは、膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成されている。
或いは、本発明の他の形態にかかる光学素子の製造方法は、基板部材の表面に表面に沿った一方向に沿って周期的に凹面を形成するステップと、基板部材の表面に金属材料を成膜することによって、一方の面上において一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に並んだ凹面及び凸面を含む第1の表面構造と、他方の面上において一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に並んだ凹面及び凸面を含む第1の裏面構造と、を有する膜状部材を、第1の表面構造の凹面と第1の裏面構造の凸面との膜状部材の一方の面に沿った位置が揃い、かつ、第1の表面構造の凸面と第1の裏面構造の凹面との膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成するステップと、膜状部材において、一方の面から他方の面に貫通する貫通部を形成するステップと、を備える。
上記形態の光学素子、あるいは光学素子の製造方法によれば、膜状部材の一方の面に入射する入射光を高い波長選択性で透過させることが可能な光学素子が実現される。すなわち、一方の面と他方の面との両面に凹面及び凸面とが同一周期で交互に並んだ構造を有することで、入射光に対して膜状部材の両面で発生する表面プラズモンの共鳴性を高めることができ、効率的に特定波長の入射光を透過させることができる。また、第1の表面構造の凹面及び凸面のそれぞれと第1の裏面構造の凸面及び凹面のそれぞれとが膜状部材を挟んで位置が揃った構成の光学素子は、金属材料を基板部材の表面に成膜することによって簡易な工程で製造することができる。その結果、高い透過波長選択性を有する光学素子を効率的に製造することが可能とされる。
ここで、上記形態の光学素子においては、第1の表面構造の凹面及び凸面は、一方の面上で環状に形成されており、第1の裏面構造の凹面及び凸面は、他方の面上で環状に形成されている、ことが好適である。この場合、膜状部材の一方の面に入射する入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高まり、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。
また、第1の表面構造の凹面及び凸面は、一方の面上で円環状に形成されており、第1の裏面構造の凹面及び凸面は、他方の面上で円環状に形成されていてもよい。この場合にも、膜状部材の一方の面に入射する入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高くされ、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。
また、第1の表面構造の凹面及び凸面は、一方の面上で一方の面に沿った一方向に交差する他方向に沿って交互に周期的に形成されており、第1の裏面構造の凹面及び凸面は、他方の面上で一方の面に沿った一方向に交差する他方向に沿って交互に周期的に形成されていてもよい。この場合、様々な偏光成分の入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高くされ、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。
さらに、膜状部材は、一方の面上のN個(Nは2以上の整数)に分割されたそれぞれの分割領域において一方の面に沿った方向に沿って交互に第1〜第Nの周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む第1〜第Nの表面構造と、他方の面上のN個に分割されたそれぞれの分割領域において一方の面に沿った方向に沿って交互に第1〜第Nの周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む第1〜第Nの裏面構造と、一方の面上のそれぞれの分割領域において一方の面から他方の面に貫通する第1〜第Nの貫通部と、を有し、第1〜第Nの表面構造の凹面のそれぞれと第1〜第Nの裏面構造の凸面のそれぞれとは、膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成されており、第1〜第Nの表面構造の凸面のそれぞれと第1〜第Nの裏面構造の凹面のそれぞれとは、膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成されている、ことも好適である。かかる構成の光学素子には、同一の膜状部材上の複数の分割領域に、異なる波長域の透過波長選択性を持たせることができる。さらに、このような複数の波長域に透過波長選択性を有する光学素子を、効率的に製造することができる。
またさらに、第1〜第Nの表面構造のうちの隣接する表面構造は、一方の面上で互いに重なり合うように形成されており、第1〜第Nの裏面構造のうちの隣接する裏面構造は、他方の面上で互いに重なり合うように形成されていてもよい。この場合、1つの分割領域に入射した入射光を基に発生した表面プラズモンをその分割領域に隣接する分割領域に伝搬させことができるので、複数の波長域のそれぞれにおいて透過効率を向上させることができる。
本発明の他の形態にかかる撮像素子は、受光素子が二次元的に配列された半導体基板と、半導体基板上で受光素子に対向するように配置された光学素子と、を備える。
或いは、本発明の他の形態にかかる撮像素子の製造方法は、受光素子が内部に形成された半導体基板を用意するステップと、半導体基板の表面に表面に沿った一方向に沿って周期的に凹面を形成するステップと、半導体基板の表面に金属材料を成膜することによって、一方の面上において一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に並んだ凹面及び凸面を含む第1の表面構造と、他方の面上において一方向に沿って交互に第1の周期で周期的に並んだ凹面及び凸面を含む第1の裏面構造と、を有する膜状部材を、第1の表面構造の凹面と第1の裏面構造の凸面との膜状部材の一方の面に沿った位置が揃い、かつ、第1の表面構造の凸面と第1の裏面構造の凹面との膜状部材の一方の面に沿った位置が揃うように形成するステップと、膜状部材において、一方の面から他方の面に貫通する貫通部を形成するステップと、を備える。
本発明によれば、高い透過波長選択性を有し、かつ効率的に製造することが可能な光学素子を提供できる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係る光学素子、それを含む撮像素子、及び光学素子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
まず、図1を参照しながら、実施形態に係る撮像素子1の構成を説明する。図1は、撮像素子1の一部を示す斜視図である。撮像素子1は、外部からの入射光を基にカラー画像を取得するための素子であり、複数の画素が二次元的に配列されて構成されている。図1には、撮像素子1の一部の画素の構造が示されている。同図に示すように、撮像素子1は、受光素子が2次元的に配列された半導体基板3と半導体基板3の主面5に対向するように設けられた薄膜フィルタ(光学素子)7とを備える。半導体基板3は、主面5に沿って矩形状に分割された複数の画素部3a,3b,3c,3dを有している。それぞれの画素部3a,3b,3c,3dは、内部に受光素子が形成されており、主面5側から入射した光を検出して画素信号を生成する。薄膜フィルタ7は、SiO2等の光透過性の材料からなる絶縁層9を挟んで半導体基板3の主面5を覆うように設けられている。撮像素子1は、図1に示す薄膜フィルタ7及び画素部3a,3b,3c,3dが主面5に沿って2次元的に複数連結されて構成されている。なお、撮像素子1においては、2次元的に連結された薄膜フィルタ7が、互いに一体的されたものであってもよいし、それぞれが分離された部材であってもよい。2次元的に連結された画素部3a,3b,3c,3dが、半導体基板3として互いに一体化されたものであってもよいし、それぞれが分離された半導体基板3であってもよい。ただし、画素が微細化された際の製造効率を高めるためには、2次元的に配列された薄膜フィルタ7、及び2次元的に配列された画素部3a,3b,3c,3dが、それぞれ、一体化されていることが好ましい。
次に、図2及び図3を参照して薄膜フィルタ7の詳細構成について説明する。図2は、薄膜フィルタ7を半導体基板3の反対側の主面11側から見た平面図であり、図3において、(a)は、撮像素子1の後述する第1の表面構造13aの中心付近の平面図、(b)は、(a)に示す撮像素子の主面11の一辺に平行なIII−III線に沿った断面図である。
薄膜フィルタ7は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の金属薄膜(膜状部材)13からなり、その金属薄膜13の半導体基板3の反対側の主面11上には、半導体基板3の画素部3a,3b,3c,3dのそれぞれに対応した位置に、第1の表面構造13a、第2の表面構造13b、第3の表面構造13c、及び第4の表面構造13dが形成されている。さらに、金属薄膜13の半導体基板3側の主面15上には、半導体基板3の画素部3a,3b,3c,3dのそれぞれに対応した位置に、第1の裏面構造23a、第2の裏面構造23b、第3の裏面構造23c、及び第4の裏面構造23dが形成されている。
第1の表面構造13aの中心には、金属薄膜13の一方の主面11から半導体基板3側の他方の主面15に貫通する開口が略円形の貫通孔(貫通部)17aが設けられ、第1の表面構造13aは、主面11上において貫通孔17aを中心として第1の間隔Paで交互に周期的に形成された円環状の凹面19a及び凸面21aを有している。このような第1の表面構造13aは、円環状の形状を有しているので、主面11の一辺に沿った一方向(図2のX方向)に沿って第1の間隔Paで交互に周期的に形成された凹面及び凸面を有するとともに、主面11上の一方向に垂直な方向(図2のY方向)に沿って第1の間隔Paで交互に周期的に形成された凹面及び凸面を有することになる。つまり、第1の表面構造13aは、2次元的な周期構造の凹面及び凸面を有する。
同様に、第2〜第4の表面構造13b,13c,13dの中心には、それぞれ、主面11から主面15に貫通する開口が略円形の貫通孔17b,17c,17dが設けられている。また、第2〜第4の表面構造13b,13c,13dは、それぞれ、貫通孔17b,17c,17dを中心として第2〜第4の間隔Pb,Pc,Pdで交互に周期的に形成された円環状の凹面19b,19c,19d及び凸面21b,21c,21dを有している。
これらの第1〜第4の表面構造13a,13b,13c,13dは、それぞれ、主面11上において、半導体基板3の画素部3a,3b,3c,3dに対応する矩形状の分割領域内に形成されるとともに、第1〜第4の表面構造13a,13b,13c,13dのうちの隣接する2つの表面構造が主面11上の分割領域の境界付近で重なり合うように形成されている。具体的には、第1の表面構造13aと第4の表面構造13dとは、互いの外側に形成された凹面19a,19dが接続されて構成される。ここでは、第1の表面構造13aの凸面21aと第4の表面構造13dの凸面21dとが外側で接続されてもよい。他の隣接する2つの表面構造も、同様に凹面又は凸面が接続されて構成される。
図3(b)に示すように、第1の裏面構造23aは、主面15上において第1の表面構造13aの反対側に第1の表面構造13aと対応するパターンで形成されている。すなわち、第1の裏面構造23aは、円環状の凸面25aと円環状の凹面27aとが交互に間隔PaでX方向及びY方向に周期的に並んで構成されており、第1の裏面構造23aの凸面25aは、第1の表面構造13aの凹面19aと、主面11に沿った位置が揃うように形成されており、第1の裏面構造23aの凹面27aは、第1の表面構造13aの凸面21aと、主面11に沿った位置が揃うように形成されている。言い換えれば、第1の表面構造13aの凹面19a及び凸面21aのそれぞれが、第1の裏面構造23aの凸面25a及び凹面27aと同じ形状を有している。同様に、第2〜第4の裏面構造23b〜23dは、それぞれ、主面15上において第2〜第4の表面構造13b〜13dの反対側に第2〜第4の表面構造13b〜13dと対応するパターンで形成されている。すなわち、第2〜第4の裏面構造23b〜23dは、円環状の凸面と円環状の凹面とが交互に間隔Pb〜PdでX方向及びY方向に周期的に並んで構成されており、第2〜第4の裏面構造23b〜23dの凸面は、第2〜第4の表面構造13b〜13dの凹面19b〜19dと、主面11に沿った位置が揃うように形成されており、第2〜第4の裏面構造23b〜23dの凹面は、第2〜第4の表面構造13b〜13dの凸面21b〜21dと、主面11に沿った位置が揃うように形成されている。
薄膜フィルタ7の各構造のサイズは、様々な値に設定されうる。例えば、貫通孔17a〜17dの開口径は100nm程度に設定されうる。また、第1〜第4の表面構造13a〜13d及び第1〜第4の裏面構造23a〜23dの配列周期の間隔Pa〜Pdは様々な値に設定されうる。例えば、間隔Pa=300nm程度に設定することにより、第1の表面構造13a及び第1の裏面構造23aの領域を青色領域に光透過性を有するフィルタとして機能させることができる。また、間隔Pb=400nm程度に設定することにより、第2の表面構造13b及び第2の裏面構造23bの領域を緑色領域に光透過性を有するフィルタとして機能させることができる。また、間隔Pc=600nm程度に設定することにより、第3の表面構造13c及び第3の裏面構造23cの領域を近赤外領域に光透過性を有するフィルタとして機能させることができる。さらに、間隔Pd=500nm程度に設定することにより、第4の表面構造13d及び第4の裏面構造23dの領域を赤色領域に光透過性を有するフィルタとして機能させることができる。このように、周期構造の間隔を制御することにより、薄膜フィルタ7に、可視光領域を含む紫外光領域から赤外光領域までの間から選択された波長域に光透過性を有する領域を複数備えさせることができる。
次に、上述した薄膜フィルタ7及び撮像素子1の製造方法の実施形態について説明する。図4は、薄膜フィルタ7を含む撮像素子1の製造方法の各工程における加工状態を示す断面図である。なお、同図においては撮像素子1における薄膜フィルタ7の第1の表面構造13a及び第1の裏面構造23aの加工状態を部分的に示している。
まず、受光素子および必要な回路部が形成された半導体基板(基板部材)3を用意し、その半導体基板3の主面5上に絶縁層9を形成した後に、その絶縁層9の表面に電子線用レジスト29をスピンコートにより形成する(図4(a))。この電子線用レジスト29の厚さが第1の表面構造13a及び第1の裏面構造23aの凹凸面の深さを決定する。電子線用レジスト29の厚さは、レジストの粘性及びスピンコートの回転数によって20〜400nmの範囲で制御される。この範囲は、プラズモン励起効率の観点から好ましい範囲である。
次に、電子線用レジスト29に対して電子線描画装置により描画する(図4(b))。詳細には、電子線用レジスト29としてポジ型レジストを用いる場合、貫通孔17aの開口と凹面19aに該当する箇所を描画する。この際、半導体基板3の主面5に沿って間隔Paで2次元的に周期的に繰り返される円環状のパターンを描画する。なお、円環状のパターンを描画する際にはナノインプリントによって行われてもよい。この間隔Paは、凹凸面の周期を決定し、透過波長に対応するプラズモン共鳴波長を決める上で重要であり、100nm〜数μmの範囲に設定される。この工程により、絶縁層9上に、主面5に沿って間隔Paで周期的に繰り返される凹面19aに対応する露出面が形成されるとともに、主面5に沿って間隔Paで周期的に繰り返される凸面21aに対応するパターンで電子線用レジスト29が残される。
そして、電子線用レジスト29が残された半導体基板3の主面5上の絶縁層9に、銀、アルミニウム等の金属材料を真空蒸着あるいはスパッタにより成膜する(図4(c))。成膜する金属材料の膜厚は100nm程度が好ましいが、透過波長または用途に応じて数10nm〜数μmの範囲に設定されてもよい。これによって、金属薄膜13において、一方の主面上に凹面19a及び凸面21aを有する第1の表面構造13aと、他方の主面上に凸面25a及び凹面27aを有する第1の裏面構造23aとが、互いのパターンの位置が金属薄膜13の両面で揃うように形成される。
最後の工程として、金属薄膜13の第1の表面構造13aの中心において、一方の面11から他方の面15に貫通する貫通孔17aが、集束イオンビーム加工装置を用いて金属薄膜13をエッチングすることにより形成される(図4(d))。貫通孔17aの開口径は、光の透過効率、透過光のスペクトル幅の観点から、100nm程度が好ましいが、この値には限定されない。
以上説明した本実施形態の作用効果について説明する。
上記形態の薄膜フィルタ7、撮像素子1、あるいは薄膜フィルタ7の製造方法によれば、金属薄膜13の一方の面11に入射する入射光を高い波長選択性で透過させることが可能な光学素子が実現される。すなわち、一方の面11と他方の面15との両面に凹面及び凸面とが同一周期で交互に並んだ構造を有することで、入射光に対して金属薄膜13の両面で発生する表面プラズモンの共鳴性を高めることができ、効率的に特定波長の入射光を透過させることができる。入射光は、一方の面11の凹凸構造の周期に依存した波長域において表面プラズモンを励起する。このようにして一方の面11で励起された表面プラズモン振動は、他方の面15上で同一周期で配列された凹凸構造においても表面プラズモン振動を誘起する。そして、凹凸構造の中心部に形成された貫通孔が欠陥部として機能することにより、放射モードに遷移される結果、波長選択された入射光が貫通孔の他方の面15上の開口からビーム状に放射される。ビーム状に透過された入射光は半導体基板3内部のそれぞれの受光素子によって検出されて電気信号として読み出される。
また、一方の面11上の凹面及び凸面のそれぞれと他方の面15上の凸面及び凹面のそれぞれとの間で位置が揃った構成の薄膜フィルタ7は、金属材料を半導体基板3の表面に成膜することによって簡易な工程で製造することができる。つまり、絶縁層9上の凹凸面が形成された面上に一定膜厚で金属膜を成膜するだけで薄膜フィルタ7を一定の精度で容易に作製できる。その結果、高い透過波長選択性を有する光学素子を効率的に製造することが可能とされる。
ここで、上記形態の薄膜フィルタ7においては、第1の表面構造13a及び第1の裏面構造23aは円環状に形成されているので、金属薄膜13の一方の面11に入射する入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高くされ、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。また、第1の表面構造13a及び第1の裏面構造23aが2次元的な周期構造を有することで、様々な偏光成分の入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高くなり、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。
さらに、薄膜フィルタ7は、同一の金属薄膜13上の複数の分割領域に複数の表面構造及び複数の裏面構造を有しているので、1つの部材に異なる波長域の透過波長選択性を分割して持たせることができる。例えば、本実施形態によれば、4つの分割領域を有することで赤色(R)領域、緑色(G)領域、青色(B)領域、近赤外(NIR)領域の4種類の透過波長選択性を有するフィルタを画素ごとに分割して実現することができる。このような構成の薄膜フィルタ7をCMOSセンサ等を構成する半導体基板3と組み合わせることで、クロストークの少ない高色再現性を有するカラーのイメージセンサを実現できる。すなわち、ピクセル間のクロストークを少なくすることができる。特に、従来のフィルタは、R,G,Bの可視光をフィルタリングする構成では材料的な性質に起因して近赤外光を透過するため、そのフィルタの上面に近赤外カットフィルタを積層することが一般的である。本実施形態によれば、1つの膜状部材のみで可視光及び近赤外光をフィルタリングする光学素子が可能とされる。従って、複数の波長域に透過波長選択性を有する光学素子を、効率的に製造することができる。
またさらに、薄膜フィルタ7の第1〜第4の表面構造13a〜13dのうちの隣接する表面構造は、一方の面11上で互いに重なり合うように形成されており、第1〜第4の裏面構造23a〜23dのうちの隣接する裏面構造は、他方の面15上で互いに重なり合うように形成されている。この場合、1つの分割領域に入射した入射光を基に発生した表面プラズモンをその分割領域に隣接する分割領域に伝搬させことができるので、複数の波長域のそれぞれにおいて透過効率を向上させることができる。
次に、本実施形態の薄膜フィルタ7の特性の例を示す。図5は、薄膜フィルタ7の第2の表面構造13bの領域に入射する入射光の透過強度の波長依存性の計測結果を示すグラフ、図6は、薄膜フィルタ7の第4の表面構造13dの領域に入射する入射光の透過強度の波長依存性の計測結果を示すグラフ、図7は、薄膜フィルタ7の第2の表面構造13bの領域に入射する入射光の透過率の波長依存性のシミュレーション結果を示すグラフ、図8は、薄膜フィルタ7の第4の表面構造13dの領域に入射する入射光の透過率の波長依存性のシミュレーション結果を示すグラフである。図9は、薄膜フィルタ7の第1〜第4の表面構造13a〜13dのそれぞれに入射する入射光の透過率の波長依存性Ga〜Gdのシミュレーション結果を示すグラフである。
図5及び図7に示すように、薄膜フィルタ7によってピーク波長が530nmの緑色光が選択的に透過されることが示され、測定結果がシミュレーション結果とよく一致している。また、図6及び図8に示すように、薄膜フィルタ7によってピーク波長が623nmの赤色光が選択的に透過されることが示され、測定結果がシミュレーション結果とよく一致している。さらに、図9の波長依存性のシミュレーション結果を示すグラフGa〜Gdから、1つの薄膜フィルタ7によって、青色領域、緑色領域、赤色領域、及び近赤外領域を選択的に透過するフィルタを実現できることが示された。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態においては下記の構成に変更されてもよい。
例えば、薄膜フィルタ7の表面構造及び裏面構造のパターンは円環状に限定されるものではない。図10には、薄膜フィルタ7の表面構造及び裏面構造のパターンの他の実施例を示す平面図である。表面構造及び裏面構造は、図10(a)に示すように矩形環状に形成されてもよいし、楕円環状に形成されてもよいし、任意の多角形で環状に形成されてもよい。本明細書でいう「環状」とは円形の環の形状には限定されず、一つの位置から循環して戻る形状を意味している。この場合、表面構造の中心部には表面構造の形状に対応する形状(例えば、矩形状)の開口部を有する貫通孔17eが形成される。このような構造によっても、様々な偏光成分の入射光に対して表面プラズモンの共鳴性がより高くされ、透過波長の選択性をより高めることが可能となる。また、図10(b)に示すように、表面構造及び裏面構造は、1次元で周期的に並ぶ帯状のパターンで形成されてもよい。この場合、表面構造の中心部には表面構造の形状に対応する帯状(スリット状)の開口部を有する貫通溝(貫通部)17fが形成される。このような構造によれば、所定の偏光方向の表面プラズモンの共鳴性が高くされ、所定の偏光方向の光の透過波長の選択性を高めることが可能となる。
また、上記形態の薄膜フィルタ7には主面11上において矩形状の分割領域内に4つの表面構造が形成されているが、この分割領域の形状は矩形状には限定されず、分割領域の分割数も2以上であれば特定の個数に限定されない。
上記形態の撮像素子1では、薄膜フィルタ7が半導体基板3の受光素子および回路部側の主面5上に配置されていたが、半導体基板3が裏面照射型のセンサを採用している場合には、薄膜フィルタ7が半導体基板3の主面5の反対側の主面(裏面)上に配置されてもよい。