JP2018003113A - ニッケル被膜の成膜方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】固体電解質を介して銅(合金)基材に電解ニッケルめっきをするとき、固体電解質膜が基材にくっつかない方法の提供。【解決手段】80〜150℃の範囲の温度及び30〜90分間の時間の条件で銅基板を加熱して、銅基板の表面に、酸素/銅のモル比が0.13〜0.19の範囲であり、且つ亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚)の膜厚比が0.16〜0.27の範囲である銅酸化物の膜を形成ニッケル被膜の成膜方法。固体電解質膜中のスルホン酸基と結合しやすい亜酸化銅が、加熱酸化により減少する。【選択図】図1
Description
本発明は、ニッケル被膜の成膜方法に関する。
電子回路基板等を製造する際には、金属回路パターンを形成するために、基板の表面に金属被膜が成膜される。このような金属被膜の成膜技術としては、例えば、Si等の半導体基板の表面に、無電解めっき処理等のめっき処理により金属被膜を成膜する技術が知られていた。また、スパッタリング等のPVD法により金属被膜を成膜する技術も知られていた。
無電解めっき処理等のめっき処理の場合、めっき処理後の水洗が必要であり、水洗後の廃液を処理する必要もあった。また、PVD法により基板表面に成膜を行う場合、被覆された金属被膜に内部応力が生じるため、膜厚を厚膜化するには制限があった。特に、スパッタリングの場合、高真空下でしか成膜できない場合があるという制限もあった。
このような問題に対し、例えば、特許文献1は、陽極と陰極との間に固体電解質膜を配置し、該固体電解質膜を基板に接触させると共に、前記陰極を前記基板に導通させ、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、該固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを前記陰極側に析出することにより、前記金属イオンの金属からなる金属被膜を前記基板の表面に成膜する金属被膜の成膜方法であって、前記陽極と前記固体電解質膜との間に前記金属イオンを含む溶液を配置すると共に、前記固体電解質膜を前記基板に接触させたときに、前記溶液を加圧することにより、該溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して前記基板を加圧しながら、前記金属被膜の成膜を行うことを特徴とする金属被膜の成膜方法を記載する。
特許文献2は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間において前記陽極に接触するように配置された固体電解質膜と、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電源部と、を少なくとも備えており、前記陽極と前記陰極との間に前記電源部で電圧を印加して、前記固体電解質膜の内部に含有された金属イオンから金属を前記陰極側に析出させることにより、前記金属からなる金属被膜を成膜する金属被膜の成膜装置であって、前記陽極は、前記金属イオンを含む溶液が内部に透過し、かつ前記固体電解質膜に該金属イオンを供給するように空孔が形成された多孔質体からなり、前記固体電解質膜の厚さは、100 μm〜200 μmの範囲にあることを特徴とする金属被膜の成膜装置を記載する。
特許文献3は、基板の金属表面を電気分解によりエッチングする表面処理方法であって、該表面処理方法において、陽極と陰極との間に電解液を含有した固体電解質膜を配置し、該固体電解質膜を前記基板の金属表面に接触させると共に、前記陽極を前記基板の少なくとも金属表面に導通させ、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記基板の金属表面の金属を金属イオンにイオン化させて、前記基板の金属表面をエッチングし、前記陰極として、前記電解液が透過する発泡金属からなる多孔質体を用い、前記陰極と前記固体電解質膜とを接触させた状態で、かつ、前記陰極を前記基板に向かって移動させることにより、前記固体電解質膜で前記基板の金属表面を加圧した状態で、前記陰極から前記電解液を前記固体電解質膜に供給しながら前記エッチングを行なうことを特徴とする表面処理方法を記載する。
特許文献1〜3に記載のような固体電解質膜を用いる従来技術の金属被膜の成膜方法では、ニッケル被膜を銅基板に成膜する場合、形成されたニッケル被膜に焼付が生じる、及び/又は形成されたニッケル被膜と固体電解質膜とが密着する可能性が存在した。このような場合、所望の金属被膜を得ることが困難となる。
それ故、本発明は、金属被膜の成膜方法において、ニッケル被膜を銅基板に成膜する場合に所望の金属被膜を成膜し得る手段を提供することを目的とする。
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者は、ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置して、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させて、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程を含む、ニッケル被膜の成膜方法において、所定の温度及び時間で銅基板を加熱することにより、ニッケル被膜の焼付及び固体電解質膜との密着を実質的に抑制できることを見出した。本発明者は、前記知見に基づき、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置し、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させ、且つ、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧することによって、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して銅基板を加圧して、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程を含む、ニッケル被膜の成膜方法であって、
ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程において、80〜150℃の範囲の温度及び30〜90分間の時間の条件で銅基板を加熱して、銅基板の表面に、酸素/銅のモル比が0.13〜0.19の範囲であり、且つ亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚)の膜厚比が0.16〜0.27の範囲である銅酸化物の膜を形成することを特徴とする、前記方法。
(1) ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置し、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させ、且つ、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧することによって、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して銅基板を加圧して、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程を含む、ニッケル被膜の成膜方法であって、
ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程において、80〜150℃の範囲の温度及び30〜90分間の時間の条件で銅基板を加熱して、銅基板の表面に、酸素/銅のモル比が0.13〜0.19の範囲であり、且つ亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚)の膜厚比が0.16〜0.27の範囲である銅酸化物の膜を形成することを特徴とする、前記方法。
本発明により、金属被膜の成膜方法において、ニッケル被膜を銅基板に成膜する場合に所望の金属被膜を成膜し得る手段を提供することが可能となる。
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. ニッケル被膜の成膜方法>
本発明の一態様は、ニッケル被膜の成膜方法に関する。本態様のニッケル被膜の成膜方法は、通常は、ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置して実施される。本態様のニッケル被膜の成膜方法は、ニッケル被膜成膜工程を含む。前記工程について、以下において説明する。
本発明の一態様は、ニッケル被膜の成膜方法に関する。本態様のニッケル被膜の成膜方法は、通常は、ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置して実施される。本態様のニッケル被膜の成膜方法は、ニッケル被膜成膜工程を含む。前記工程について、以下において説明する。
[1-1. ニッケル被膜成膜工程]
本工程は、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させ、且つ、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧することによって、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して銅基板を加圧して、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する。
本工程は、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させ、且つ、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧することによって、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して銅基板を加圧して、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する。
本発明の各態様において使用されるニッケル陽極は、通常は、ニッケルを含み、所望により、リンを含むNi-P合金、又はそれらの組み合わせから選択される導電性を有する材料をさらに含む。ニッケル陽極としては、例えば、ニッケル箔及びニッケル発泡体等を挙げることができる。
本発明の各態様において使用される陰極は、通常は、電極として使用可能な導電性を有し、且つ以下において説明するニッケルイオンを含む溶液に対して実質的な耐食性を有する材料からなる。このような陰極の材料としては、例えば、金、銀及び銅を挙げることができる
本発明の各態様において使用される銅基板は、通常は、銅を含み、所望により、チタン等の金属、ガラス、樹脂又はシリコン等、又はそれらの組み合わせから選択される導電性を有する材料をさらに含む。銅基板としては、例えば、銅板、及び銅/チタン/ガラスの板等を挙げることができる。
本発明の各態様において、ニッケルイオンを含む溶液は、固体電解質膜と接触させた際にニッケルイオンを固体電解質膜の内部に含浸させるために使用される。ニッケルイオンを含む溶液は、ニッケルイオンに加えて、銅、銀、若しくはスズのイオン、又はそれらの組み合わせから選択されるさらなる金属イオンを含んでもよい。ニッケルイオンを含む溶液において、ニッケルイオンと塩を形成する対イオンは、塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、又はビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(Tf2N)イオン、又はスルフォミン酸イオンであることが好ましく、塩素イオンであることがより好ましい。特に好ましくは、ニッケルイオンを含む溶液は、塩化ニッケル、又は硫酸ニッケル溶液の形態でニッケルイオンを含む。前記ニッケルイオンを含む溶液を用いることにより、固体電解質膜の内部にニッケルイオンを含浸させることができる。
本発明の各態様において使用される固体電解質膜は、ニッケルイオンを含む溶液と接触させた際にニッケルイオンをその内部に含浸することができ、且つ電圧を印加した際に陰極側においてニッケルを析出させることができるものであれば、特に限定されない。固体電解質膜としては、例えば、ナフィオン(登録商標)(デュポン社)等のフッ素系樹脂、セレミオン(登録商標)(AGC旭硝子社)等の炭化水素系樹脂、及びポリアミック酸膜等を挙げることができる。
本発明の各態様において使用される固体電解質膜は、ニッケルイオンを含む。固体電解質膜は、所望により、さらなる金属イオンを含んでもよい。固体電解質膜に含まれるさらなる金属イオンは、ニッケルイオンを含む溶液と同一のさらなる金属イオンを含み、好ましくはニッケルイオンを含む溶液と同一のさらなる金属イオンからなる。
本工程において、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置する。そして、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加する。これにより、ニッケルイオンを含む溶液に含まれるニッケルイオンが、ニッケル陽極側から陰極側に向かって移動して、固体電解質膜の内部に含浸される。さらに、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンは、陰極側に移動して、銅基板の表面に金属態の状態で析出する。このように、ニッケル陽極を消費することなく、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンに由来するニッケル被膜を成膜することができる。固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンは、ニッケルイオンを含む溶液から供給されるため、ニッケルイオンを含む溶液を適宜供給することにより、所望の膜厚を有するニッケル被膜を、複数の銅基板の表面に連続的に成膜することができる。
本工程において、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧する。ニッケルイオンを含む溶液に付与される圧力は、0.1〜1.5 MPaの範囲であることが好ましく、0.5〜1.0 MPaの範囲であることがより好ましい。ニッケルイオンを含む溶液に加圧することにより、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で、固体電解質膜を介して、銅基板の表面に成膜されるニッケル被膜を均一に加圧することとなる。これにより、成膜されるニッケル被膜の膜厚を実質的に均一にすることができる。
本工程において、80〜150℃の範囲の温度及び30〜90分間の時間の条件で銅基板を加熱することにより、銅基板の表面に、酸素/銅のモル比(O/Cu)が0.13〜0.19の範囲であり、且つ亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚)の膜厚比が0.16〜0.27の範囲である銅酸化物の膜が形成されることが判明した。亜酸化銅(Cu2O)及び酸化銅(CuO)を含む銅酸化物の膜厚及び酸素/銅のモル比は、銅基板の加熱温度及び加熱時間によって変動し得る。下記実施例において説明するように、銅基板の表面に形成される亜酸化銅は、固体電解質膜のスルホン酸基と反応して、スルホン酸基と結合を形成し得る。この結合により、銅基板の表面に形成される銅酸化物の膜と固体電解質膜とが密着し得る。それ故、銅基板の表面における亜酸化銅の量が減少するほど、銅基板の表面に形成される銅酸化物の膜と固体電解質膜との密着を抑制し得る。
本工程において使用されるニッケルイオンを含む溶液中では、通常は、電位の上昇に伴って水素が発生する。従来技術のニッケル被膜の成膜方法において、銅基板の加熱を実施しない場合、発生する水素は、ニッケル被膜の端部に移動及び集合して、ニッケル被膜の端部に多段構造の半円状の凹部を形成し得る。これに対し、本工程において、前記条件で銅基板の加熱を実施する場合、銅基板の表面に形成されたニッケル被膜の焼付による変色が実質的に抑制されるとともに、ニッケル被膜の端部における凹部の形成が抑制されることが判明した。前記条件で銅基板を加熱することにより、発生する水素が銅基板の表面に形成される亜酸化銅を還元し得る。銅酸化物において、亜酸化銅が還元されることによって、固体電解質膜のスルホン酸基と反応し得る亜酸化銅の割合が酸化銅に対して低下すると、結果的に銅基板と成膜装置の固体電解質膜との密着が実質的に抑制され得る。
本工程において、80〜150℃の範囲の温度で銅基板を加熱する場合、加熱時間が30〜90分間の範囲では、酸素及び銅のモル比は0.13〜0.19の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比は0.16〜0.27の範囲となる。このとき、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜は変色せず、且つ固体電解質膜と密着しない。これに対し、加熱時間が0〜10分間の範囲では、酸素及び銅のモル比は0.024〜0.10の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))は0.43〜0.84の範囲となる。このとき、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜は焼付により黒色に変色し、且つ固体電解質膜と密着し得る。また、加熱時間が120〜150分間の範囲では、酸素及び銅のモル比は0.22〜0.23の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比は0.13〜0.14の範囲となる。このとき、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜は変色しないものの、固体電解質膜と密着し得る。それ故、銅基板の加熱温度は、通常は80〜150℃の範囲であり、100〜150℃の範囲であることが好ましく、約150℃であることが特に好ましい。銅基板の加熱時間は、通常は30〜90分間の範囲であり、60〜90分間の範囲であることが好ましく、約90分間であることが特に好ましい。前記条件で銅基板を加熱することにより、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜の焼付による変色、端部における凹部の形成、及び/又は成膜装置の固体電解質膜との密着を実質的に抑制することができる。
本発明の各態様において、銅基板の表面における酸素及び銅のモル比(O/Cu)は、例えば、エネルギー分散型X線分析法により、通常の条件(例えばJIS K 0470)で銅基板の表面の所定範囲内における酸素及び銅のモル数を測定し、そのモル比(O/Cu)を算出することにより、決定することができる。
本発明の各態様において、銅基板の表面における銅酸化物の膜厚比(亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚))は、例えば、連続電気化学還元(SERA)法によって決定することができる。SERA法では、金属の表面に電解液を接触させて、電極より微小電流を通電して酸化物を還元する。SERA法の反応時間及び還元電位の関係を示す曲線(SERA曲線)は、測定対象物の表面の酸化物の連続還元電位を表す。この連続還元電位は、酸化物により固有値をとる。ここで、下記式(A)で表されるファラデーの電気分解則を用いて、SERA曲線から得られる反応時間及び電流密度から、還元された酸化物の質量を算出して、さらに酸化物の膜厚を算出することができる。それ故、SERA法により、通常の条件(例えば第9回電子デバイス信頼性シンポジウム、1999年11月、p. 30)で銅基板の表面に形成されるCu2O(還元電位:-0.35〜-0.50 V)及びCuO(還元電位:-0.60〜-0.75 V)を識別して、それぞれの銅酸化物の膜厚を算出することができる。SERA法によって算出された亜酸化銅膜厚及び酸化銅膜から、銅酸化物の膜厚比を決定することができる。
[式中、
Tは、膜厚(Å)であり、
Mは、式量であり、
nは、価数であり、
Fは、ファラデー係数であり、
ρは、密度(g/cm3)であり、
Iは、電流密度(μA/cm2)であり、
tは、時間(秒)である。]
Tは、膜厚(Å)であり、
Mは、式量であり、
nは、価数であり、
Fは、ファラデー係数であり、
ρは、密度(g/cm3)であり、
Iは、電流密度(μA/cm2)であり、
tは、時間(秒)である。]
本態様の方法により、銅基板の表面にニッケル被膜を成膜する際に、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜の焼付による変色、端部における凹部の形成、及び/又は成膜装置の固体電解質膜との密着を実質的に抑制することができる。それ故、本態様の方法により、ニッケル被膜を銅基板に成膜する場合に所望の金属被膜を成膜することができる。
<2. ニッケル被膜の成膜装置>
本発明の別の一態様は、ニッケル被膜の成膜装置に関する。本態様の装置は、本発明の一態様に係るニッケル被膜の成膜方法を好適に実施することができる。
本発明の別の一態様は、ニッケル被膜の成膜装置に関する。本態様の装置は、本発明の一態様に係るニッケル被膜の成膜方法を好適に実施することができる。
本態様のニッケル被膜の成膜装置の一実施形態の断面模式図を図1に示す。図1に示すように、本態様のニッケル被膜の成膜装置は、ニッケル陽極11と陰極12と銅基板13とを備え、ニッケル陽極11と陰極12との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜14を備え、ニッケル陽極11と陰極12との間に電圧を印加する電源部とを備える。
本態様のニッケル被膜の成膜装置は、ニッケル陽極11と固体電解質膜14との間にニッケルイオンを含む溶液Lが配置されるように、ニッケルイオンを含む溶液Lを収容する溶液収容部16を備える。溶液収容部16は、通常は、上方及び下方に開口を有する筒状の形状である。例えば、溶液収容部16の内部には、ニッケルイオンを含む溶液Lに接触するようにニッケル陽極11が収容されており、溶液収容部16の下方の開口を覆うように固体電解質膜14が収容されている。溶液収容部16の上方には、上方の開口を覆うように蓋部15を配置することが好ましい。
本態様のニッケル被膜の成膜装置は、溶液収容部16に収容されたニッケルイオンを含む溶液Lを加圧する加圧部を備える。固体電解質膜14は、加圧部によって加圧されたニッケルイオンを含む溶液Lの液圧によって加圧される位置に配置される。そして、銅基板13は、加圧された固体電解質膜14によってその表面が加圧される位置に配置される。
ニッケル陽極11は、電源部に電気的に接続される。ニッケル陽極11の形状及び大きさは、銅基板13の表面のうち、ニッケル被膜Fが成膜される領域の形状及び大きさに基づき、適宜設定することができる。ニッケル被膜Fが成膜される領域に基づく形状及び大きさを有するニッケル陽極11を用いることにより、ニッケル陽極11から陰極12へ向かう電気力線を均一にすることができる。これにより、所望の成膜領域に均一なニッケル被膜Fを成膜することができる。
陰極12は、電源部に電気的に接続される。陰極12の上面には、通常は、銅基板13が載置される。陰極12の形状及び大きさは、その上面に銅基板13を載置できれば特に限定されない。
銅基板13は、通常は、陰極12の上面に載置された状態で、銅基板13のアライメントを調整する基台17の上面に載置される。
本態様のニッケル被膜の成膜装置は、銅基板13を加熱する温度制御部18を備える。温度制御部18は、通常は、基台17を介して銅基板13を加熱するように配置される。例えば、温度制御部18は、基台17の下面に密着するように配置され、陰極12は、基台17の上面に載置され、銅基板13は、陰極12の上面に載置される。このような配置により、温度制御部18によって銅基板13を所定の条件で加熱することができる。
固体電解質膜14は、通常は膜又はフィルム等の形状である。
本態様のニッケル被膜の成膜装置において、ニッケル陽極11、陰極12、銅基板13、ニッケルイオンを含む固体電解質膜14、蓋部15、電源部、溶液収容部16、基台17、温度制御部18及び加圧部、並びにその他の部材の形状、大きさ及び配置は、例えば特許第5803858号公報、特許第5849941号公報又は特許第5907049号公報を参照して適宜設定することができる。
本態様のニッケル被膜の成膜装置は、温度制御部によって銅基板を所定の条件で加熱することにより、銅基板の表面にニッケル被膜を成膜する際に、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜の焼付による変色、端部における凹部の形成、及び/又は成膜装置の固体電解質膜との密着を実質的に抑制することができる。それ故、本態様のニッケル被膜の成膜装置により、ニッケル被膜を銅基板に成膜する場合に所望の金属被膜を成膜することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<I:材料>
実験1及び2における銅基板として、銅/チタン/ガラスの板(50 nm/300 nm/1 mm厚、1×40×50 mm、協同インターナショナル社製)を使用した。ニッケルイオンを含む溶液(電解液)として、1 M 塩化ニッケル及び0.5 M 酢酸/酢酸ニッケル緩衝液を含む水溶液(pH 3.0)を、固体電解質膜として、市販のフッ素系樹脂のイオン交換膜(ナフィオン(登録商標) 117、デュポン社製)を、ニッケル陽極として、ニッケル箔(電解銅、古河電気工業社製)を、陰極として、銅基板(無電解銅板、CU-113512、ニラコ社製)を、それぞれ使用した。
実験1及び2における銅基板として、銅/チタン/ガラスの板(50 nm/300 nm/1 mm厚、1×40×50 mm、協同インターナショナル社製)を使用した。ニッケルイオンを含む溶液(電解液)として、1 M 塩化ニッケル及び0.5 M 酢酸/酢酸ニッケル緩衝液を含む水溶液(pH 3.0)を、固体電解質膜として、市販のフッ素系樹脂のイオン交換膜(ナフィオン(登録商標) 117、デュポン社製)を、ニッケル陽極として、ニッケル箔(電解銅、古河電気工業社製)を、陰極として、銅基板(無電解銅板、CU-113512、ニラコ社製)を、それぞれ使用した。
<II:実験1>
[II-1:方法]
前記材料を用いて、成膜装置を準備した。ニッケル陽極と陰極と銅基板(銅/チタン/ガラス)とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間に固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間に電解液を配置した。電極間の距離を1 cmに、電解液の体積を18 cm3に、電解液を加圧する圧力を0.75 MPaに、析出させるニッケル被膜の膜厚を5 μmに、成膜速度を4 μm/分に、ニッケル被膜の成膜面積を5 mm×5 mmとした。ニッケル被膜の成膜工程において、銅基板を150℃で1又は2時間加熱して、銅基板の表面に、Cu2O及びCuOを含む銅酸化物の膜を形成させた。成膜後、膜厚測定装置を用いて、下記の条件でSERA法を実施した。
SERA法の測定条件
ガスケット径:0.32 cm
電流密度:30.0 μA/cm2
測定装置:QC100(ECIテクノロジー社製)
参照極:銀/塩化銀電極
対極:ステンレス板
電解液:6.18 g/L ホウ酸及び9.55 g/L 四ホウ酸ナトリウム・10水和物を
含む水溶液、pH 8.4
[II-1:方法]
前記材料を用いて、成膜装置を準備した。ニッケル陽極と陰極と銅基板(銅/チタン/ガラス)とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間に固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間に電解液を配置した。電極間の距離を1 cmに、電解液の体積を18 cm3に、電解液を加圧する圧力を0.75 MPaに、析出させるニッケル被膜の膜厚を5 μmに、成膜速度を4 μm/分に、ニッケル被膜の成膜面積を5 mm×5 mmとした。ニッケル被膜の成膜工程において、銅基板を150℃で1又は2時間加熱して、銅基板の表面に、Cu2O及びCuOを含む銅酸化物の膜を形成させた。成膜後、膜厚測定装置を用いて、下記の条件でSERA法を実施した。
SERA法の測定条件
ガスケット径:0.32 cm
電流密度:30.0 μA/cm2
測定装置:QC100(ECIテクノロジー社製)
参照極:銀/塩化銀電極
対極:ステンレス板
電解液:6.18 g/L ホウ酸及び9.55 g/L 四ホウ酸ナトリウム・10水和物を
含む水溶液、pH 8.4
[II-2:結果]
150℃で1又は2時間加熱処理してニッケル被膜の成膜方法を実施することによって得られた銅基板のSERA曲線を図2に示す。また、SERA曲線に基づき算出された銅酸化物の膜厚を表1に示す。表中、銅酸化物の膜厚比は、Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚)を意味する。
150℃で1又は2時間加熱処理してニッケル被膜の成膜方法を実施することによって得られた銅基板のSERA曲線を図2に示す。また、SERA曲線に基づき算出された銅酸化物の膜厚を表1に示す。表中、銅酸化物の膜厚比は、Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚)を意味する。
表1に示すように、加熱時間が長くなると、銅酸化物の膜厚が増大した。一般に、金属の酸化速度は、酸化反応の温度が低温、中温及び高温の場合に分類される。酸化反応の温度が、室温から100℃未満の範囲の低温領域の場合、酸化反応の初期は金属態の銅の酸化速度は極めて速いが、酸化反応の時間経過とともに遅くなり、20〜100 Åの薄く安定した酸化物の膜が形成される。この場合、金属の酸化反応によって形成される酸化物の膜厚は、通常は、反応時間を引数とする対数値に比例する(対数則)。酸化反応の温度が、100〜256℃の範囲の中温領域の場合、低温領域の場合と比較して酸化物の膜厚は大きくなる一方、高温領域の場合と比較して酸化物の膜厚は小さくなる。この場合、金属の酸化反応によって形成される酸化物の膜厚の三乗値は、通常は、反応時間に比例する(三乗則)。酸化反応の温度が、256℃を超える高温領域の場合、低温及び中温領域の場合と比較して酸化物の膜厚はさらに大きくなる。この場合、金属の酸化反応によって形成される酸化物の膜厚の二乗値は、通常は、反応時間に比例する(ワグナーの酸化理論による放物線則)。前記の条件でニッケル被膜の成膜方法を実施したときの銅基板の加熱温度及び加熱時間と形成された銅酸化物の膜厚との関係を図3に示す。図3に示すように、80℃(低温領域)で加熱した場合、加熱時間と形成された銅酸化物の膜厚とは対数則にしたがった関係を示し、100及び150℃(中温領域)で加熱した場合、加熱時間と形成された銅酸化物の膜厚とは三乗則にしたがった関係を示した。
一般に、金属の酸化反応において、形成される酸化物の膜の成長速度(酸化速度定数)の温度依存性は、アレニウスの式にしたがうと考えられる。実験1において150℃で加熱した場合、加熱時間と形成された酸化物の膜厚との間の関係が三乗則にしたがうと仮定して、銅基板(銅/チタン/ガラス)の銅酸化物の膜成長の活性化エネルギーを算出したところ、1.7 eVとなった。一般に、スズ酸化物の膜成長の活性化エネルギーは0.93 eVであることが知られている(第9回電子デバイス信頼性シンポジウム、1999年11月、p. 30)。両酸化物の膜成長の活性化エネルギーは、銅及びスズの酸化電位の傾向と一致していた。以上の結果から、SERA法による銅酸化物の膜厚、酸化速度定数及び銅酸化物の膜成長の活性化エネルギーの算出は、有効であることを確認することができた。
<III:実験2>
[III-1:方法]
前記材料を用いて、成膜装置を準備した。ニッケル陽極と陰極と銅基板(銅/チタン/ガラス)とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間に固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間に電解液を配置した。電極間の距離を1 cmに、電解液の体積を18 cm3に、電解液を加圧する圧力を0.75 MPaに、析出させるニッケル被膜の膜厚を5 μmに、成膜速度を4 μm/分に、ニッケル被膜の成膜面積を5 mm×5 mmとした。ニッケル被膜の成膜工程において、銅基板を150℃で所定の時間加熱して、銅基板の表面に、Cu2O及びCuOを含む銅酸化物の膜を形成させた。対照として、銅基板の加熱を行わない他は前記と同様の条件でニッケル被膜の成膜方法を実施した。得られた金属被膜を有する銅基板の表面を、実体顕微鏡で観察した。また、金属被膜を有する銅基板の表面における酸素及び銅のモル比を、エネルギー分散型X線分析法によって測定した。エネルギー分散型X線分析法の測定条件は、下記の通りである。
エネルギー分散型X線分析法の測定条件
測定装置 :日本電子 6610-A
プローブ電流:10-9〜10-10 A
分析時間 :30秒
加速電圧 :30 kV
[III-1:方法]
前記材料を用いて、成膜装置を準備した。ニッケル陽極と陰極と銅基板(銅/チタン/ガラス)とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間に固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間に電解液を配置した。電極間の距離を1 cmに、電解液の体積を18 cm3に、電解液を加圧する圧力を0.75 MPaに、析出させるニッケル被膜の膜厚を5 μmに、成膜速度を4 μm/分に、ニッケル被膜の成膜面積を5 mm×5 mmとした。ニッケル被膜の成膜工程において、銅基板を150℃で所定の時間加熱して、銅基板の表面に、Cu2O及びCuOを含む銅酸化物の膜を形成させた。対照として、銅基板の加熱を行わない他は前記と同様の条件でニッケル被膜の成膜方法を実施した。得られた金属被膜を有する銅基板の表面を、実体顕微鏡で観察した。また、金属被膜を有する銅基板の表面における酸素及び銅のモル比を、エネルギー分散型X線分析法によって測定した。エネルギー分散型X線分析法の測定条件は、下記の通りである。
エネルギー分散型X線分析法の測定条件
測定装置 :日本電子 6610-A
プローブ電流:10-9〜10-10 A
分析時間 :30秒
加速電圧 :30 kV
[III-2:結果]
加熱処理を行わない対照の生成物では、ニッケル被膜が黒色に変色しており、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着していた。これに対し、150℃で1時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜が変色しておらず、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着しなかった。150℃で2時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜は変色しなかったが、成膜装置の固体電解質膜と密着していた。また、150℃で1又は2時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜と銅基板との境界領域において、銅酸化物の一部が銅に還元されていた。
加熱処理を行わない対照の生成物では、ニッケル被膜が黒色に変色しており、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着していた。これに対し、150℃で1時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜が変色しておらず、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着しなかった。150℃で2時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜は変色しなかったが、成膜装置の固体電解質膜と密着していた。また、150℃で1又は2時間加熱処理を行った場合の生成物では、ニッケル被膜と銅基板との境界領域において、銅酸化物の一部が銅に還元されていた。
一般に、銅基板とスルホン酸基を有する固体電解質膜とを接触させて銅基板の表面に金属被膜を成膜する場合、アンカ効果による物理的な相互作用ではなく、亜酸化銅と固体電解質膜の表面のスルホン酸基とが脱水縮合反応することによる化学的な相互作用により、銅基板の表面に形成された銅酸化物の膜と固体電解質膜とが密着することが知られている(森河及び横井、大阪府立産業技術総合研究所報告、第17巻、p. 113、2003年)。銅基板の表面における亜酸化銅と固体電解質膜の表面のスルホン酸基との間の反応は、下記の反応式で表される。反応式(1)で表される反応によって銅基板の表面に形成された亜酸化銅は、反応式(2)で表される反応によって固体電解質膜のスルホン酸基と反応して、スルホン酸基と結合を形成する。この結合により、銅基板の表面に形成された銅酸化物の膜と固体電解質膜とが密着する。それ故、銅基板の表面における亜酸化銅の量を減少させれば、銅基板の表面に形成された銅酸化物の膜と固体電解質膜との密着が抑制されると考えられる。
2Cu-M + 1/2O2→ Cu2O-M (1)
R-SO3H + 1/2Cu2O-M → R-SO3-Cu-M + 1/2H2O (2)
[式中、
Mは、銅基板の銅部分を意味し、
Rは、固体電解質膜の基材部分を意味する。]
2Cu-M + 1/2O2→ Cu2O-M (1)
R-SO3H + 1/2Cu2O-M → R-SO3-Cu-M + 1/2H2O (2)
[式中、
Mは、銅基板の銅部分を意味し、
Rは、固体電解質膜の基材部分を意味する。]
ニッケル被膜の成膜方法における銅基板の加熱時間と、エネルギー分散型X線分析法によって測定された金属被膜を有する銅基板の表面における酸素及び銅のモル比(O/Cu)との関係を図4に示す。図4に示すように、150℃における加熱時間が30〜90分間の範囲では、加熱時間と酸素及び銅のモル比(O/Cu)との間には直線的な比例関係が認められ、加熱時間が120分間以上の範囲では、酸素及び銅のモル比(O/Cu)は一定値となった。
ニッケル被膜の成膜方法における銅基板の加熱時間と、SERA法によって算出された銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))との関係を図5に示す。図5に示すように、150℃における加熱時間と銅酸化物の膜厚比との間には反比例の関係が認められ、加熱時間が60分間を超える範囲では、銅酸化物の膜厚比は一定値となった。
図4及び5の結果を考慮すると、ニッケル被膜の成膜方法において、150℃における銅基板の加熱時間が0〜10分間の範囲では、酸素及び銅のモル比(O/Cu)が0.024〜0.10の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))が0.43〜0.84の範囲となった。このとき、銅基板の表面に形成されたニッケル被膜は黒色に変色しており、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着していた。150℃における銅基板の加熱時間が30〜90分間の範囲では、酸素及び銅のモル比(O/Cu)が0.13〜0.19の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))が0.16〜0.27の範囲となった。このとき、銅基板の表面に形成されたニッケル被膜は変色しておらず、且つ成膜装置の固体電解質膜と密着していなかった。150℃における銅基板の加熱時間が120〜150分間の範囲では、酸素及び銅のモル比(O/Cu)が0.22〜0.23の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))が0.13〜0.14の範囲となった。このとき、銅基板の表面に形成されたニッケル被膜は変色していなかったが、成膜装置の固体電解質膜と密着していた。
本実験に使用した電解液(1 M 塩化ニッケル及び0.5 M 酢酸/酢酸ニッケル緩衝液を含む水溶液(pH 3.0))では、成膜工程において電位の上昇に伴って、水素が発生する。ニッケル被膜の成膜方法において、銅基板の加熱を実施しなかった場合、発生した水素は、ニッケル被膜の端部に移動及び集合して、ニッケル被膜の端部に多段構造の半円状の凹部が形成された。これに対し、150℃で30〜90分間の条件で銅基板の加熱を実施した場合、銅基板の表面に形成されたニッケル被膜の焼付による変色が実質的に抑制されたとともに、ニッケル被膜の端部における凹部の形成が抑制された。前記条件で銅基板を加熱することにより、発生する水素が銅基板の表面に形成される亜酸化銅を還元し得る。銅酸化物において、亜酸化銅が還元されることによって、固体電解質膜のスルホン酸基と反応し得る亜酸化銅の割合が酸化銅に対して低下すると、結果的に銅基板と成膜装置の固体電解質膜との密着が実質的に抑制されると考えられる。以上の結果から、ニッケル被膜の成膜において、銅基板の表面における酸素及び銅のモル比(O/Cu)が0.13〜0.19の範囲となり、且つ銅酸化物の膜厚比(Cu2O膜厚/(Cu2O膜厚+CuO膜厚))が0.16〜0.27の範囲となるように銅基板を加熱することにより、銅基板の表面に形成されるニッケル被膜の焼付による変色及び端部における凹部の形成を実質的に抑制し、且つ成膜装置の固体電解質膜との密着を実質的に抑制できると考えられる。
11…ニッケル陽極
12…陰極
13…銅基板
14…固体電解質膜
15…蓋部
16…溶液収容部
17…基台
18…温度制御部
L…ニッケルイオンを含む溶液
F…ニッケル被膜
12…陰極
13…銅基板
14…固体電解質膜
15…蓋部
16…溶液収容部
17…基台
18…温度制御部
L…ニッケルイオンを含む溶液
F…ニッケル被膜
Claims (1)
- ニッケル陽極と陰極と銅基板とを配置し、ニッケル陽極と陰極との間にニッケルイオンを含む固体電解質膜を配置し、ニッケル陽極と固体電解質膜との間にニッケルイオンを含む溶液を配置し、固体電解質膜を銅基板に接触させると共に陰極を銅基板に導通させてニッケル陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、固体電解質膜の内部に含まれるニッケルイオンを陰極側に析出させ、且つ、固体電解質膜を銅基板に接触させたときにニッケルイオンを含む溶液を加圧することによって、ニッケルイオンを含む溶液の液圧で前記固体電解質膜を介して銅基板を加圧して、ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程を含む、ニッケル被膜の成膜方法であって、
ニッケル被膜を銅基板の表面に成膜する工程において、80〜150℃の範囲の温度及び30〜90分間の時間の条件で銅基板を加熱して、銅基板の表面に、酸素/銅のモル比が0.13〜0.19の範囲であり、且つ亜酸化銅膜厚/(亜酸化銅膜厚+酸化銅膜厚)の膜厚比が0.16〜0.27の範囲である銅酸化物の膜を形成することを特徴とする、前記方法。
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JP2019183241A (ja) * | 2018-04-13 | 2019-10-24 | トヨタ自動車株式会社 | ニッケル皮膜の成膜方法 |
-
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- 2016-07-05 JP JP2016133357A patent/JP2018003113A/ja active Pending
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