JP2017510026A - 多電子水系電池 - Google Patents

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Abstract

Ni/Mg2NiH4およびMgイオン二次電池ケミストリーを組み合わせるハイブリッド高電圧水系電解質電池に関する。ハイブリッド水系電解質電池は、プラグインハイブリッド電気自動車および電気自動車に使用することができる。

Description

連邦政府資金援助を受けた研究開発に関する声明
本発明は、エネルギー省によって付与されたDEAR0000389の下、政府支援をもって成されたものである。政府は本発明に特定の権利を所有する。
発明の分野
本発明は、Ni/Mg2NiH4およびMgイオン二次電池ケミストリーを組み合わせるハイブリッド高電圧水系電解質電池に関する。ハイブリッド水系電解質電池は、プラグインハイブリッド電気自動車および電気自動車に使用することができる。
背景
ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)およびバッテリー式電動輸送機器(BEV)のための自動車電池は、充電1回あたり300マイルの走行距離に十分なエネルギー密度を有し、$100/kWh未満のコストであり、道路上で遭遇する様々な酷使に対して堅牢かつ安全であるべきである。有機非水系電解質に基づくLiイオン電池(LIB)が、すべての充電可能系の中で利用可能な最高のエネルギー密度を提供するが、その高額なコストおよび電解質系の危険な性質が上記要件を満たすことができない。壊滅的な熱暴走を防ぐために、セルレベルおよびパックレベルの両方で熱制御および電子制御を使用する電池管理システムを用いなければならず、それが、コストを増すだけでなく、全装置エネルギー密度を下げる。固体電解質LIBは相対的に安全であるが、ガラスまたはセラミック固体電解質の低いイオン伝導率を示し、従来の電池の固/液界面(面−面)と比べて劣る固/固界面の接触(点−点)を有する。固体電解質LIBは装置の出力密度を大きく制限する。低い伝導率(約10-4〜10-6S/cm)に対処するために、非常に薄い膜(<50ミクロン)を使用しなければならず、それが、機械的堅牢さに制限を加える。加えて、固体電極と固体電解質との間の界面の高い固/固抵抗が充放電サイクルとともに絶えず悪化する。理由は、リチウム化/脱リチウム化時の二つの電極の大きな体積変化を一定体積の硬い固体電解質が受け入れることができないからである。これらの機械的応力が最終的にセル構造の破壊を招く。
固体LIBは、体積変化が予想されない固体酸化物形燃料電池(SOFC)とは根本的に異なる。これが、固体酸化物形燃料電池からの成熟セラミック電解質をそのまま借用し、電池技術に適用することができない本来の理由である。したがって、全固体型電池は、オンボードメモリバックアップのための小型記憶ユニットの隙間市場に限られており、大型の自動車電池としてそれらの展開は疎遠なままである。液体またはスラリー系の反応体を用いるフロー電池が、安全性を改善し、コストを下げながらも、セル反応部位からの活物質の物理的分離を可能にした。しかし、主に活物質の溶解度および動作電位の制限ならびにインフラストラクチャ(貯蔵所、配管およびポンプ)の不活性質量のせいで、フロー電池の比エネルギー密度は低い(Duduta, M., et al., Adv. Energy Mater. 1:511-516 (2011)を参照)。他方、水系電解質を使用する二次電池もまた、ハイブリッド電気自動車に使用されているアルカリニッケル/金属水素化物電池によって例証されるように、本質的に安全である(Liu, Y., et al., J. Materials Chem. 21:4743-4755 (2011)を参照)。しかし、それらのエネルギー密度は、LIBと比較すると、なおも、理想的な電気自動車のための要求性能には満たない。
水系電池のセル電圧は水の狭い熱力学的電気化学的安定領域(1.23V)によって限定される。しかし、H2および02の発生を速度論的に抑制することにより、この領域を増大させることができる。中性電解質(pH=7)中のイオン溶媒和を増すことにより、水系電池およびスーパーキャパシタは通常、2.0〜2.50Vまで充電することができ、ほぼ100%のクーロン効率および1000を超えるサイクル寿命を示し、自己放電率は低い(Yang, J., et al., J. Power Sources 218:222-236 (2012)およびFic, K., et al., Energy Environ. Sci. 5:5842-5850 (2012))。加えて、2.0V鉛蓄電池が商品化され、自動車のスタータ電池として広く使用されている。水系電池の拡大された2.0〜2.5V電圧は、LIBに一般的な3.5〜4.0Vよりもまだ低いが、容量からの十分な補償があれば、匹敵しうるエネルギー密度を得ることができるであろう。
水系電解質は、その非水系対応物と比較して、低いコスト、高い安全性、高い伝導率、低い粘性、容易な操作および環境的「エコ性」の利点を有する。二次電池中の水系電解質は通常、最大のイオン伝導率を達成するために、濃縮された酸性またはアルカリ性溶液(たとえば10M H2SO4または6M KOH)を使用する。しかし、それらは、取り扱うには苛性でありすぎ、セルパッケージング材料に対してはむしろ腐食性である。しかし、一般的に高い水系の伝導率のおかげで、安全かつ可溶性の高いアルカリ塩に基づく無害な中性水溶液は、より腐食性が低い溶液として、なおも電池の要求性能を満たすことができる。熱力学的に、水の電気化学的安定領域はpH値とともに変化することはないが、中性水系電解質の実電圧領域はより容易に拡大させることができる。そのような中性電解質中、H+/OH-平衡は、いずれかの種を好むようにシフトすることはなく、したがって、H2またはO2の発生を最小化することができる。電解質中、カチオンおよびアニオンの両方が水に会合して溶媒和殻を形成する。強い溶媒和は、より多くの水分子がカチオンおよびアニオンに強く会合することを可能にし、それにより、分解におけるそれらの活性を抑制し、その結果、電解質安定電圧領域を拡大する。たとえば、Li2SO4電解質中、Li+は27個の水分子によって包囲され、硫酸アニオンSO4 2-は、大きな水和エネルギー(160〜220kJ/molのオーダ)で17個の水分子を溶媒和することができる(上記Fic)。高濃縮電解質中では、小数の「自由」水分子しか残らず、したがって、酸化および還元を最小化し、水系安定領域は大きく拡大されることができる。たとえば、1M Li2SO4電解質中では、Li2SO4電解質の電気化学的安定領域を2.2Vに拡大することができる(上記Fic)。飽和Li2SO4電解質が使用されるならば、水系Li2SO4電解質の電気化学的安定領域をさらに拡大することができる。様々な塩の溶媒和能力が研究されており、水分解を最小化する場合のそれらの有効性を評価するための定量化として役立ち得る。アルカリ金属イオンの溶媒和能力が、イオン−溶媒複合体直径の増大とともに、K+<Na+<Li+の順で増大することが報告されている(上記Fic)。アニオンのうち、硫酸アニオンSO4 2-が、最大かつ最強の溶媒和無機アニオンの一つであり、SO4 2--H2O結合一つあたり約108kJ/mlの脱溶媒和エネルギーを有する(上記Fic)。
水系電解質中の水の活性は、以前には報告されていない、固体電解質の「塩中水型(water-in-salt)」の概念によって塩濃度を飽和値よりも高めることにより、さらに下げることができる。「塩中水型電解質」は、提案されている「塩中溶媒型」および「塩中ポリマー型」の概念に類似している。たとえば、リチウム樹枝状結晶成長を抑制し、多硫化リチウム溶解を防ぐために、超高塩濃度の電解質が有機電解質Li-S電池に使用されている(Suo, L., et al., Nature Communications 4:1481 (2013))。そのような「塩中溶媒型」電解質中では、リチウムイオン輸率はその希釈対応物よりもはるかに高かったが(0.73)、Liイオン伝導率が10-3S/cmまで低下することが示された。「塩中水型」電解質の独自性は、イオン伝導率低下の欠点が水系電解質にとっては問題にならないことである。理由は、水系電解質は、有機電解質よりもずっと高い伝導率を有し、水系電解質のイオン伝導率は塩濃度にあまり敏感ではないからである。「塩中水型」水系電解質のイオン伝導率は有機電解質のイオン伝導率よりも高いはずである。
増大した塩濃度では、水和数が小さくなり、溶媒和イオンが凝集塊を形成するとともに、各電荷担体(水和イオン)の体積は縮小する。より小さな電荷担体はより高い伝導率につながるが、それらの凝集は粘度を高め、それによってイオンの易動度を遅らせる。全体的に、濃度変化は、Li2SO4電解質のイオン伝導率に対して小さな影響しか及ぼさない。たとえば、Li2SO4電解質の濃度が0.1Mから4Mに高まると、イオン伝導率の変化は20mS/cmより小さくなった(すなわち、0.1Mでの30mS/cmから2Mでの50mSおよび4Mでの40mS/cm)(上記Fic)。濃縮水系電解質を使用することによるさらなる恩恵は、自動車電池の場合に求められる広い使用温度範囲である。これは、H2O-イオン相互作用を使用することから受ける融点降下によって示されている(Yin, J., et al., J. Power Sources 196:4080-4082 (2011))。さらには、セラミックリチウム超イオン伝導体(Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3yO12(LATSP))薄膜を使用して酸性電解質をアルカリ性電解質から分離して酸性−アルカリ性二電解質接合を形成することにより、3Vの電気化学的安定領域が達成された(Chen, L., et al., Chem. Commun. 49:2204-2206 (2013))。しかし、このタイプの電池に伴う低い信頼性および安全性の懸念が電気自動車へのその適用を制限している。
水系電解質の安定領域を拡大するための代替方法は、アノードにおける水素発生またはカソードにおける酸素発生のために高い過電圧を有する添加物を用いる方法である。陰極における水素発生を抑制する場合には、Pb、Cd、ZnおよびSnがそのような添加物の最も効果的な例であり、酸素発生を抑制するためには、炭素およびいくつかの金属酸化物が有用であることがわかっている。
最も成功した水系電池は鉛蓄電池およびアルカリNi/MH電池である。しかし、鉛蓄電池は、低いエネルギー密度(約10〜20Wh/Kg)のせいで、大部分の自動車におけるスタータ/照明電源として使用されるだけである。Ni/MH電池はより高いエネルギー密度を有し、ハイブリッド電気自動車動力系においてエネルギー貯蔵部品として使用されているが、そのエネルギー密度は、電気自動車用途に求められるエネルギー密度よりもはるかに低い。加えて、全世界的に、限定的かつ不均一な希土類金属(MH電極における不可欠な成分)の分布が、敵対的な地政学的勢力によって価格が操作されるおそれがある国家安全保障の懸念を呈している。
他方、理論容量(1001mAh/g)がAB5H6(370mAh/g)のほぼ3倍の高さであり、地殻中の豊富さが持続可能性のいかなる懸念も本質的に解消する、Mg2NiH4によって例示されるMg系の合金は、電池用途に非常に有望な水素貯蔵ホスト材料である(上記Liu)。
Ni(OH)2はまた、金属水素化物電池の活性カソードとして働くことができる。Ni/MH電池(図1)において、エネルギー貯蔵金属(M)の陰極は、充放電中、以下の反応によって電気化学的に水素化/脱水素化されることができる。
M+H2O+e-←→MH+OH-
その間、Ni陽極中では以下の反応が起こる。
Ni(OH)2+OH←→NiOOH+H2O+e-
Mg系の合金において、Mgは主要な水素貯蔵要素として働き(MgH2の場合、2200mAh/g)、Mg系合金中の合金化金属(Ni、Fe、Mn、Co、Cu、Al、Ti、V、Crなど)は、アルカリ電解質中、水素化/脱水素化促進物質および耐食物質として機能する。Ni30%がMgに加えられるとしても(たとえばMg2Ni)、Mg系の水素貯蔵電極は、6Mアルカリ電解質中のMgの連続的な腐食(アルカリ電解質中のMg上に高密度のMg(OH)2層を形成し、持続性の反応を阻害する)のせいで、なおも低いサイクル安定性をこうむる。Mg2Niの腐食は、Mg2Niの形成電位が水素発生電位よりも低いからである。塩溶媒和および濃度を操作することによってMg系の電極における水素発生電位を合金の形成電位よりも押し下げることができるならば、Ni/MH電池中のMg系アノードを安定化する見込みはある。これは、現在Ni/MH電池に使用されているAB5系MHの容量の3倍の大きさのMg系MHの容量のおかげでNiMHの容量を増加させ、現行のLiイオン電池に匹敵しうるエネルギー密度を提供するであろう。理由は、Mg2Niの容量(1001mAh/g)は、Liイオン電池中の黒鉛アノードの容量のほぼ3倍の大きさであり、LIBと比較して低いNi/MgNi2H4の電圧(2.0〜2.5V)による損失を補償するからである。
H2発生電位をマイナスにシフトさせて電解質中のMgの腐食を減らすことは水系一次Mg空気電池において実証されている(Winther-Jensen, B., et al., Electrochemica Acta 53:5881-5884 (2008)およびKong, Y., et al., Synthetic Metals 162:584-589 (2012)を参照)。Winther-Jensenは、(1)強度50%の溶媒和LiClをMgClと混合し;(2)pH値を7から11に上げ;(3)MgCl塩の濃度を1Mから飽和状態まで高めることにより、水素発生電位がよりマイナスの値にシフトしたことを報告している(上記Winther-Jensen)。H2発生電位のマイナスシフトは、Mgの腐食速度の遅れにより、Mg空気電池の放電容量および動作電圧を増強した(上記Winther-Jensen)。水系電解質中のMgにおける水素発生の抑制はまた、Mgを希釈水溶液に浸漬したとき普通に認められるような有意なガス発生を生じさせなかった、高濃縮塩溶液に浸漬されたMg標本の目視によっても確認されている(上記Winther-Jensen)。Mg-M合金はMgよりもプラスの電位を提供するため、高溶媒和塩を使用し、塩濃度を高めることによって水系電解質中でMg-M合金アノードを安定化することはより容易である。
Mgイオン電池ケミストリーを用いる水系電解質中のアノードとカソードとの間でのMg2+挿入/脱離によってカソードおよびアノードをインサイチューで電気化学的に形成することができるならば、水系Ni/Mg2Ni電池(図1)の容量をさらに増すことができる。たとえば、水系電解質中でMg2+をNiに挿入することによってMg2Niを形成して、余分の容量を提供することができる。「ハイブリッドセルケミストリー」概念の実現が、Mgイオン電池とNi/MH電池とを合わせた容量を利用可能にして、現行のLiイオン電池のエネルギー密度の2倍の高さのエネルギー密度をもたらす。
Mgは、地殻中に最も豊富に存在する元素40種のうち5番目として、長期持続可能性を提供し、環境的に無害であり、したがって、制御されない周囲大気中で取り扱うことができる。二価カチオンであるため、その比容量は、Li金属の比容量(2046mAh/cc)よりも高い3833mAh/ccに達する。最先端のMgイオン電池技術は、飽和水系電解質の電気化学的安定領域よりもわずかに高い2.0〜3.0Vの電気化学的安定領域を有する有機電解質を使用する(Yoo, H.D., Energy & Environmental Science 6:2265-2279 (2013))。
多くの金属は様々な電位でMgと電気化学的に合金化し、Mg電池のアノードとして働くことができる。Arthurらは、Bi、Sbおよびそれらの合金が、0.3V(vs. Mg/Mg2+)(x<0.45)でMgイオンと可逆的に反応して合金を形成し、その合金が、100サイクルの場合、100サイクル目に222mAh/gでMgとの電気化学的合金化/脱合金化において非常に安定なサイクル能力を示すことを報告している(Arthur, T.S., et al., Electrochem. Commun. 16:103-106 (2012))。スズ(Sn)粉体電極もまた、0.2V(vs. Mg/Mg2+)でMgイオンと反応して、低レート(<0.05C)で200〜300mAh/gをもたらすことができる(Singh, N., et al., Chem. Commun. 49:149-151 (2013))。図2に示すように、水系電解質の電気化学的安定領域を2.5〜3.0Vに拡大することができるとき、0.7Vよりも高いMg2+挿入電位を有する金属は、約11のpHの水系電解質中、デュアルケミストリーアノードとして安全に使用することができる。pH値の上昇がHz発生電位を下げることができるが(図2)、pHが11よりも高いならば、Mg表面上に固体Mg(OH)が形成して、反応速度を低下させ得ることが知られている。
提示される例においては、Mgイオンと合金化するいくつかの金属の平衡電位が計測され、Mgイオンが、飽和MgSO4-Li2SO4(1:1)水系電解質中、1.5V(vs. Mg/Mg2+)でNiと合金化してMg2Niを形成することができ、形成したMg2Niが、同じ水系電解質中、さらなる充電中に水素を吸収してMg2NiH4を形成することができることが確認され、それが、飽和水系電解質中、Mg2+がNiに挿入されたのち、形成したMg2Ni中にH+が挿入される連続反応が起こる「ハイブリッドセルケミストリー」概念を立証した。
他方、いくつかの金属酸化物および硫化物は高い電位でMgイオンと反応することができ、それらを、Mgイオン電池カソード材料としての候補物質にする。典型的な例は、シェブレル相MxMo3T4(M=金属、T=S、Se)(Levi, E., et al., Journal of Electroceramics 22:13 (2009))、酸化バナジウム(Imamura, D., et al., J. Electrochemical Society 150:A753 (2003)およびNovak, P., et al., Electrochimica Acta 45:351 (1999))、TiS2ナノチューブ(Tao, Z., et al., Chem. Commun. 2080 (2004))、メソ多孔性Mg1.03Mn0.97SiO4および黒鉛様MoS2(Liang, Y., et al., Advanced Materials 25:640 (2011))、CO3O4(Sutto, T.E., Electrochimica Acta 80:413-417 (2012))およびMnO2(Rasul, S., et al., Electrochimica Acta 82:243-249 (2012);Zhang, R., et al., Electrochemistry Commun. 23:110-113 (2012)およびRasul, S. et al., Solid State Ionics 225:542-546 (2012))である。これらのうち、MnO2だけが、水系電解質が安定なままである電位でMgイオンおよびHイオンの両方と反応することができる。
Mgイオンは、以下の式
2MnO2+Mg2++2e-←→2Mg0.5MnO2
にしたがってMnO2に挿入されて、有機電解質中、2.0〜3.3V(vs. Mg/Mg2+)の電位範囲で、200〜470mAh/g(MgxMnO2、x=0.4〜0.8)の容量を提供することができ、これは、図2に示すような水系電解質の安定領域内である。
また、以下の式によって示すように、MnO2が、Mgイオン挿入電位よりもわずかに低い電位でプロトンを可逆的に貯蔵するために、水系電池カソードに使用されている(Chen, L., Chem. Commun. 49:2204-2206 (2013))。
MnO2+H++e-←→MnOOH(pH<7の場合)
MnO2+H2O+e-←→MnOOH+OH-(pH>7の場合)
MnOOH+H++e-←→Mn(OH)2(pH<7の場合)
MnOOH+H2O+e-←→Mn(OH)2+OH-(pH>7の場合)
したがって、Mg0.5MnOOHカソードは、Niアノードおよび有機電解質と結合して、フルセルを形成することができる。従来のMg電池におけるように有機電解質が使用されるならば、Mg2+だけがMg0.5MnOOHカソードとNiアノードとの間を移動する(図3)。充電中、Mg2+は、Mg0.5MnOOHカソードの間を移動してアノードでNiと合金化してMg2Niを形成し、その後、放電時、Mg2+は、Mg2NiからMg0.5MnOOHに戻って「Mgイオン電池」容量をもたらす(図3)。しかし、本発明にしたがって、飽和した「塩中水型」水系電解質が使用されるならば、Mg2+およびH+の両方がMg0.5MnOOHカソードとNiアノードとの間を次々に移動して(図4)「ハイブリッドセルケミストリー」の容量をもたらす。
ハイブリッドセルの場合、充電中、Mg0.5MnOOHカソードから脱離したMg2+および次いでH+は水系電解質中を移動し、次々にNiアノードに挿入されて、まずMg2Niを形成し、次いでMg2NiH4を形成し、その間、Mg0.5MnOOHカソードはMnOOHに変化し、次いでMnO2に変化する。放電中、逆の反応が起こる(図4)。
優れた安全性、低い環境への影響および低いコストを含む、水系Liイオンケミストリーの数多くの利点にもかかわらず、水分子の狭い電気化学的安定領域(<1.5V)が、そのようなケミストリーの使用から出力される実エネルギーに本質的な制限を加える。
1991年のSony Companyによる市販の非水系Liイオン電池(LiCoO2/有機電解質/黒鉛)の出現以降、Liイオン電池は、より高い実エネルギー密度およびより長いサイクル寿命の明瞭な利点を拠り所として、数年にわたり電気化学的蓄電装置市場を徐々に支配した(Armand, M. and Tarascon, J. M., Nature 451:652-657 (2008)およびWhittingham, M. S., Chemical Reviews 104:4271-4301 (2004))。
水系二次電池(Ni-MHおよびPb蓄電池)とは対照的に、非水系Liイオン電池は、安全性の考慮および可燃性有機電解質によるそのコストおよび厳格な無水条件を要する製造過程に基づくと、望ましくない(Tarascon, J. M. and Armand, M., Nature 414:359-367 (2001);Goodenough, J. B.; Kim, Y., Chemistry of Materials 22:587-603 (2010)およびXu, K., Chemical Reviews 104:4303-4417 (2004))。
安全性および費用効果比を考慮して、1993年に水系Liイオン電池が発明された(Li, W., et al., Science 264:1115-1118 (1994))。残念ながら、以下の問題を呈する水系電解質がネックとなり、Liイオン電池ケミストリーの進歩は非常に遅く、幾度となく行き詰まっている。(1)狭い熱力学的かつ力学的な安定領域がフルセルの出力電圧を1.5V未満に制限する(Wang, Y.G., et al., Advanced Energy Materials 2(7):830-840 (2012));(2)高い水素発生電位がアノードの選択を大きく制限し、フル充電におけるH2発生が、電極と水との副反応によって生じる自己放電のせいでアノードの安定性を急速に悪化させる(Li, W., et al., J. Electrochemical Society 141(9):2310-2316 (1994));(3)水系電解質中への酸素の不可避な溶解が電極容量減少を加速させる(Luo, J.-Y., et al., Nature Chemistry 2(9):760-765 (2010))および(4)水系電解質分解は、有機電解質のように、保護的な固体電解質界面(SEI)を電極上に形成することができない。上述の理由すべてが、水系リチウムイオン二次電池において、相対的に低い実エネルギー密度(低い出力電圧)、短いサイクル寿命(自己放電)および低いクーロン効率(水分解)を生じさせる。
Liイオン電池に固有の問題を解決するために、最も一般的な手法は、プールベ図に基づいて電解質のアルカリ度を調節することによって水素発生電位を下げることであるが(上記Liおよび上記Luoを参照)、同時に、強アルカリ電解質中で低下する酸素発生電位のせいでカソードの選択が制限される。他の方法は、電極に炭素/ポリマーを塗布することによって水分解の過電圧を上げることであるが(Tang, W., et al., Energy & Environmental Science 5:6909-6913 (2012);Aravindan, V., et al., Physical Chemistry Chemical Physics 14(16):5808-5814 (2012)およびLuo, J. Y., et al., Advanced Functional Materials 17(18):3877-3884 (2007))、この動的改善策は、電極容量減少を遅らせるだけのように思える。サイクル過程中、容量保持は主に試験時間によって決まるため、試験電圧およびクーロン効率をセットする範囲は充放電率に敏感である。これらすべての現象は、水系電解質分解が充放電過程全体で常に存在することを明らかにする。LIBの高いエネルギー密度を達成するためには高い電圧が望ましいが、現在、実際の出力電圧および電極の安定性は水系電解質の電気化学的安定領域によって制限される。したがって、高い電圧および長いサイクル寿命を達成したいならば、概して、安定な水系電解質の研究開発が必須であると考えられる。
水系電解質の電気化学的安定領域を拡大することにより、または電極容量を増すことにより、水系電池のエネルギー密度を、Liイオン電池のエネルギー密度に匹敵しうる、またはそれを超えるレベルにまで改善する余地が多大にある。
本発明は、強い溶媒和エネルギーを有する全Liイオン−H2O複合体の形成および最初の放電中にアノード上に形成する安定なSEI保護層のおかげで広い電気化学的安定領域(2.7V)を有する「LiTFSI中水型(water-in-LiTFSI)」と称される水系電解質を提供する。この系において、水素発生電位は、中性溶液中で−1.3V(vs. Ag/AgCl基準)まで拡大することができる。フルセル(LiMn2O4/塩中水/Mo3S4)は、超高出力電圧(>2.0V)、低レート(0.15C)および高レート(4.5C)の両方で超長期的に安定なサイクル寿命および100%近いクーロン効率ならびにカソードおよびアノードの全質量に基づいて達成することができる100Wh/kgのエネルギー密度を提示する。
いくつかの態様において、本発明は、
(a)アノード;
(b)カソード;および
(c)塩中水型電解質
を含む電気化学セルを提供する。
いくつかの態様において、カソードはMg0.05AOOHを含み、式中、Aは金属または金属の合金である。いくつかの態様において、Aは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属であるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、AはMn、Co、NiまたはFeである。
いくつかの態様において、アノードはMg2Mを含み、式中、Mは金属または金属の合金である。いくつかの態様において、Mは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択されるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、Mは、Fe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuであるか、またはFe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、MはNiである。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の塩はスルホン系の塩である。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の塩は、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CH3)2、LiN(SO2C4H9)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2C4F9)2、LiN(SO2F3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F4SO2)、LiN(SO2F)2およびLiN(SO2F)(SO2CF3)からなる群から選択される。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の塩はLiN(SO2CF3)2である。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の水の量は20(体積)%〜100(体積)%である。いくつかの態様において、塩中水型電解質中の水の量は30(体積)%〜100(体積)%である。いくつかの態様において、塩中水型電解質中の水の量は40(体積)%〜100(体積)%である。
いくつかの態様において、塩中水型電解質は7〜11のpHを有する。
いくつかの態様において、セルは−40℃〜100℃の動作温度を有する。いくつかの態様において、セルは−40℃〜70℃の動作温度を有する。
いくつかの態様において、セルは1.5V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する。いくつかの態様において、セルは1.8V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する。
いくつかの態様において、本発明は、
(a)アノード;
(b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
(c)水系電解質
を含む電気化学セルを提供する。
いくつかの態様において、Aは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属であるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、AはMn、Co、NiまたはFeである。
いくつかの態様において、水系電解質は塩中水型電解質である。
いくつかの態様において、水系電解質中の塩はスルホン系の塩である。
いくつかの態様において、水系電解質中の塩は、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CH3)2、LiN(SO2C4H9)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2C4F9)2、LiN(SO2F3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F4SO2)、LiN(SO2F)2およびLiN(SO2F)(SO2CF3)からなる群から選択される。
いくつかの態様において、水系電解質中の塩はLiN(SO2CF3)2である。
いくつかの態様において、水系電解質中の水の量は20(体積)%〜100(体積)%である。いくつかの態様において、水系電解質中の水の量は30(体積)%〜100(体積)%である。いくつかの態様において、水系電解質中の水の量は40(体積)%〜100(体積)%である。
いくつかの態様において、水系電解質は7〜11のpHを有する。
いくつかの態様において、本発明は、
(a)Mg2Mを含むアノードであって、式中、Mは金属または金属の合金である、アノード;
(b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
(c)塩中水型電解質
を含む電気化学セルを提供する。
アルカリ電解質中のNi/Mg2NiH4電池の電気化学的反応過程を示す図である。充電中、プロトンがNi(OH)2から水系電解質を通ってMg2Ni合金に移動してMg2NiH4を形成する。放電時、プロトンはMg2NiH4合金を離れ、水系電解質を通ってNiOOHに移動してNi(OH)2を形成する。 発生電位を示す図であり、左側は、水および塩中水型溶液の場合の、様々なpHにおける02/H2発生電位(vs.標準水素電極(NHE))である。右側は、Mg2+を金属(M)に合金化してMg2Mを形成するための挿入電位およびMg2MがMg2MH4陰極を形成するための連続プロトン挿入電位、Mg2+がMgxA(OH)2(式中、AはMn、Ni、Co、Feおよびそれらの合金である)から脱離してA(OH)2陽極を形成するための電位およびAOOH陽極を形成するためのA(OH)2からの連続プロトン脱離である。図中、実線の四角は、文献に報告されている電極値を表し、破線の四角は、提案された電極値を表す。 有機電解質中のMgイオン電池の電気化学的反応過程を示す図である。 塩中水型電解質中のMg2+/H+電池の電気化学的反応過程を示す図である。充電中、Mg0.5AOOH陽極中のMgイオンが電解質から金属M(または合金)陰極に移動し、AOOH陽極およびMg2M陰極を形成する。さらに充電されると、AOOH中のH+が水系電解質を通ってMg2M中に移動してMg2NiH4を形成し、さらなる容量を解放する。放電中には逆の反応が起こる。 ハイブリッド電池の利点を示す図である。飽和(または塩中水型)電解質と有機電解質とで電極電位および電気化学的安定領域を比較している。 サイクリックボルタンメトリーを使用して10mV/sの走査速度で計測した、飽和Li2SO4-MgSO4(1:1)電解質および塩中水型(Li2SO4-MgSO4(1:1))電解質の電気化学的安定領域を示すグラフである。 電気化学インピーダンス分光法を使用して計測された様々な電解質のイオン伝導率を示す棒グラフである。 様々な濃度および温度におけるLi2SO4電解質の伝導率を示すグラフである。 電解質モル濃度を増したとき、溶媒に対する塩の重量および体積比を示すLiTFSI-H2O電解質のグラフである。 10℃〜約50℃の温度範囲におけるσと1000/Tとの間のアレニウスの式を示す、様々なモル濃度(1m、5m、10mおよび22.2m)におけるLiTFSI-H2O電解質のグラフである。 室温における溶存酸素量、イオン伝導率および粘度を示すLiTFSI-H2O電解質のグラフである。 サイクリックボルタンメトリーによって計測された電気化学的安定領域(1.8〜約−1.8V(vs. Ag/AgCl)、10mV/s)を示す、様々なモル濃度(1m、5m、10mおよび22.2m)におけるLiTFSI-H2O電解質のグラフである。 0.1mV/sで様々なモル濃度電解質(5m、10mおよび22.2m)中Mo3S4の計測を示すサイクリックボルタンメトリープロットである。計測は、5m、10mおよび22.2mの順であり、走査電位範囲は−1.05〜約0Vにセットされている。 0.1mV/sで様々なモル濃度電解質(5m、10mおよび22.2m)中LiMn2O4の計測を示すサイクリックボルタンメトリープロットである。計測は、5m、10mおよび22.2mの順であり、走査電位範囲は0.5〜約1.3Vにセットされている。 0.1mV/sの走査速度で電解質22.2mのMo3S4のサイクリックボルタンメトリー計測を示すプロットである。 3電極装置中、22.2m電解質中0.2CでのLiMn2O4の充放電プロフィールのグラフである。 3電極装置中、22.2m電解質中0.2CでのMo3S4の充放電プロフィールのグラフである。 塩中水型電解質中のLiMn2O4/Mo3S4フルセルの充放電を示すグラフである。 塩中水型電解質中、0.15CでのLiMn2O4/Mo3S4フルセルの電気化学的性能を示すグラフである。 塩中水型電解質中、4.5CでのLiMn2O4/Mo3S4フルセルの電気化学的性能を示すグラフである。 高レート(4.5C)での充放電プロフィールのためにフルセル形態で塩中水型電解質を用いて電気化学的性能を示すグラフである。 2.3Vまでフル充電し、次いで緩和させた後のフルセルの開路電圧変化を時間とともに示すグラフである。 異なる初期電圧から出発する三つのセルのエネルギー密度を示すグラフである。 文献に報告されている水系リチウムイオン電池中のフルセル形態の三つの性能指標を示すグラフである。 新品のMo3O4および完全リチウム化状態のX線電子分光法(XPS)スペクトルである。 溶媒に対する塩のモル比および様々な電解質の対応する水和イオン構造を示すグラフである。 Mo3S4をアノードとして用い、LiMn2O4をカソードとして用いるハーフセル系において計算された相対活量係数を示すグラフである。 様々な電解質のO17NMRスペクトルを示す。 様々な電解質のCF3変角振動を示すラマンスペクトルを示す。 水中溶媒型の分子相互作用を示す図である。 溶媒中水型の分子相互作用を示す図である。 様々な電解質の場合の電圧電位を示す図である。 0.1mV/sで様々なモル濃度電解質(5m、10mおよび12.5m)を有するLiNO3-H2O中Mo3S4の計測を示すサイクリックボルタンメトリープロットである。 0.1mV/sで飽和Li2SO4-H2O中Mo3S4の計測を示すサイクリックボルタンメトリープロットである。
発明の詳細な説明
本明細書の中で使用されるように、「一つの(a)」および「その(the)」は同義であり、文言および/または文脈がそうではないことを明確に指示しない限り、「一つまたは複数の」および「少なくとも一つの」と互換可能に使用される。
量、材料の比、材料の物性および/または使用を示す本明細書におけるすべての数は、そうではないことが明示的に示されない限り、「約」によって修飾されるものと理解されなければならない。
本明細書中、「約」は、所与の数±1〜10%を意味するために使用される。
本明細書の中で使用されるように、「カソード」は、放電過程中に電気化学的還元が起こる電極をいう。
本明細書の中で使用されるように、「アノード」は、放電過程中に電気化学的酸化が起こる電極をいう。
本明細書の中で使用されるように、「ナノ」は、粒径が100nm未満であることを意味する。
本発明のMg2+/H+ハイブリッドケミストリーは、ナノMアノード(Mは金属または金属合金である)、塩飽和電解質または「塩中水型」電解質に基づく水系電解質、およびMg0.5AOOH(式中、Aは金属、金属合金または金属層間材料である)に基づく金属カソードを含む。
図4に示すように、充電中、まず、Mg2+イオンがMg0.5AOOH陽極から水系電解質を通って移動して、ナノM(粒径100ナノメートル未満)陰極とで金属間合金を形成する。理由は、これらのナノMアノードは、Mgとでのみ電気化学的に合金化し、Hとは合金化しないからである。MからのMg2Mの形成が高い容量を発生させ(Niの場合で1816mAh/g)、Mg0.5AOOH陽極はAOOHへと変化する(容量:Mg0.5AOOHの場合で268mAh/g)。飽和電解質および「Mg塩中水型」電解質の特に低い水の活性のせいで、このMg2+挿入段階中、Mg2M中のMg腐食は効果的に抑制される。形成したMg2M(公知の水素貯蔵材料であり、以前からアルカリNi/MH電池陰極として使用されている)は、次の段階のケミストリー、すなわち、H+吸収のためのホストとして働き、さらなる容量を生む(Mg2NiがMg2NiH4を形成する場合で1001mAh/g)。この過程中、AOOHはAO2へとさらに酸化して、さらなる容量を与える(MnO2の場合で308mAh/g)。NiアノードおよびMg0.5AOOHカソードの全理論容量はそれぞれ2817mAh/gおよび576mAh/gである。したがって、最適なアノード/カソードマッチングにより、Mg+挿入/H+吸収を組み合わせるこのハイブリッド化セルケミストリーは、潜在的に、2.5Vの電圧範囲のフルセルレベルで478mAh/gを提供することができ、これは、C/LiCoO2電池の理論容量(390Wh/kg)の3倍超の−1195Wh/kgのエネルギー密度に等しい。
放電中は、良好な可逆性のせいで逆の反応が起こる(図4)。したがって、ハイブリッドMg2+/H+水系ケミストリーは材料レベルで本質的にハイブリッド化される。
ハイブリッドMg2+/H+水系ケミストリーの革新的局面
(1)塩飽和液体電解質および「塩中水型」固体電解質の使用が水の活性を効果的に減らすことができ、それにより、(a)セル電圧を増大させることによってセルエネルギー密度を高め(図2を参照);(b)水系電解質中のMg2Mアノードの腐食を防ぐことによって電池のサイクル寿命を改善し;(c)Ni/MH電池として、水分解および再結合による過充放電からセルを保護し、安全性を改善し;(d)飽和電解質の凝固点のせいで−30℃の低温で作動する(上記Yin)。「塩(LiSO4-MgSO4)中水」中の塩のイオン伝導率は、高い使用濃度のせいでその最大値から0.1S/cmに低下するが、それでもなお、現在Liイオン電池に使用されている有機電解質の一般的なイオン伝導率(10mS/cm)の10倍の高さである。
(2)材料レベルで水性Mg2をMn/MH電池に配合し、それにより(a)Mn/MHセルの容量を3倍超増加させ;(b)Mg2MH4への水素の組み合わせによってO2によるMg2MH4アノードの酸化を防止して電池のサイクル安定性を改善する。水系電解質セル中のO2の存在において、すべての陰極材料(MH電極を除く)は、理論的に、電気化学的レドックス過程を受けるよりも、O2による化学酸化を受けるであろう(Wang, Y., et al., Adv. Energy Mater. 2:830-840 (2012))。
活性金属アノードを使用する水系イオン(Mg2+、Li+、Na+)電池に固有の深刻な問題は、これらの金属が、充電(カソード容量がアノード容量よりも低い場合)または過充電中にカソードで発生するO2によって化学的に酸化される傾向にあることである。この寄生反応がアノードの利用可能容量を速やかに減らす(Luo, J.Y., et al., Nat. Chem. 2:760 (2010))。しかし、Mg2+/H+ハイブリッド電池においては、吸収されたHは、Mg2MH4中のMgよりも先に酸化されて水を形成し、Mgを腐食から保護する。したがって、このシャトル保護機構のせいで、有機電解質中に使用される過充電を防ぐための制御電子回路は除かれる。
したがって、水系電解質電池(図4)は、二つの異なる電池ケミストリーを材料レベルで水系ハイブリッドMg2+/H+電池系へとハイブリッド化して、両方の欠点を回避しながらNi/Mg2NiH4の高い容量(図1)とMgイオン充電可能ケミストリー(図3)とを組み合わせる。
(3)水系ハイブリッドMgイオン/Hイオン電池は、(a)現行のLiイオン電池の2倍のエネルギー密度を有し;(2)80%の放電深度(DOD)で1000を超えるサイクル寿命を有し;(3)水系電解質、使用される豊富なMg金属および電池管理システムの非存在のおかげでずっと安価であり;(4)Liイオン電池に匹敵しうる出力密度を有し;(5)本質的に安全性であり;(6)−30℃〜+70℃の広い温度範囲で作動する。これらの性能は、任意の既存の電池ケミストリーによって到達することはできず、EV電池技術における最先端技術に対して根本的な進歩となる。
一つの態様において、本開示は、
(a)アノード;
(b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
(c)水系電解質
を含む電気化学セルを提供する。
いくつかの態様において、電気化学セルは電池セルである。いくつかの態様において、電気化学セルは二次電池セルである。
アノード
MgxM中のMの役割は、ハイブリッド化/脱ハイブリッド化のための反応促進物質および耐食物質ならびに水系電解質中のMgイオン挿入/脱離のための安定化物質であるため、0.8〜1.3Vの電位でMgイオンと電気化学的に反応することができる任意の金属および合金を、飽和液体電解質または塩中水型固体電解質におけるH+挿入/脱離のために選択することができる。
いくつかの態様においては、0.8〜1.3V(vs. Mg)の理論電位、および高い容量を有するアノード材料が選択される。アノード材料は、Mgイオン挿入/脱離の動態を加速するためにナノサイズに設計されることができる。アノード材料のMgイオン挿入/脱離電位を比較し、有機電解質中でそれらの容量を計測し、理論値に照らして評価することができる。ナノM中のMgイオンの拡散係数は、相数変換、定電流間欠滴定法(GITT)、定電位間欠滴定法(PITT)および/または定電圧(CV)計測法を使用して決定することができる(Zhu, Y., et al., J. Phys. Chem. C 115:823-832 (2011)およびZhu, Y., J. Phys. Chem. C 114:2830-2841 (2010)を参照)。当業者は、サイクル安定性試験に基づいてナノMアノードを選択することができる。また、当業者は、走査型電子顕微鏡法(SEM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)および/またはX線回折分光法(XRD)を使用して、アノード材料の構造および形態を決定することができる。
いくつかの態様において、アノード材料はナノM(Mは金属または金属合金である)である。いくつかの態様において、Mは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される。いくつかの態様において、Mは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。
いくつかの態様において、アノード電極はMg2M(Mは金属または金属合金である)である。いくつかの態様において、Mは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される。いくつかの態様において、Mは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、アノード材料はMg2Niである。
いくつかの態様において、アノード材料はMo3S4である。
アノード材料は、有機Mgイオン伝導性電解質を使用してスクリーニングすることができる。いくつかの態様において、伝導性電解質は、>3.5Vの電気化学的領域を有するホウ素系Mgイオン伝導性電解質である(Guo, Y.-S., et al., Energy Environ. Sci. 5:9100-9106 (2012)を参照)。
ホウ素系Mgイオン伝導性電解質は、THF中トリ(3,5-ジメチルフェニル)ボランとPhMgClとの反応生成物からなる。電解質は、非常に高いマグネシウム可逆性およびほぼ100%の析出/溶解効率を示す。0.0〜3.5Vの広い電気化学的領域が副反応の影響を受けずにカソードの電位および容量を正確に計測することができる。
カソード
カソード材料は、当業者に公知である熱水的および電気化学的方法を使用して合成することができる。有機電解質中のMgイオン挿入/脱離中のカソード材料の電気化学的性能ならびにMgフリー飽和水系電解質および塩中水型電解質中のプロトン挿入/脱離中のMgイオン脱離AOOHの電気化学的性能は、当業者に公知の技術を使用して試験することができる。また、ハイブリッドMg2+中のカソード材料の性能は、当業者に公知の技術を使用して分析することができる。
ホウ素系Mgイオン伝導性電解質は、THF中トリ(3,5-ジメチルフェニル)ボランとPhMgClとの反応生成物からなる。電解質は、非常に高いマグネシウム可逆性およびほぼ100%の析出/溶解効率を示す。0.0〜3.5Vの広い電気化学的領域が副反応の影響を受けずにカソードの電位および容量を正確に計測することができる。
いくつかの金属酸化物および硫化物は高い電位でMgイオンと反応する。いくつかの態様において、カソードはMgイオン電池カソード材料である。いくつかの態様において、Mgイオン電池カソード材料は、シェブレル相MxMo3T4(M=金属、T=SまたはSe)、酸化バナジウム、TiS2ナノチューブ、メソ多孔性Mg1.03Mn0.97SiO4または黒鉛様MoS2である。
いくつかの態様において、カソード材料はMg0.5AOOH(Aは金属または金属合金である)である。いくつかの態様において、Aは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属である。いくつかの態様において、Aは、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である。いくつかの態様において、カソード材料はMg0.5MnOOHである。いくつかの態様において、カソード材料はMg0.5CoOOH、Mg0.5NiOOHまたはMg0.5FeOOHである。
いくつかの態様において、カソード材料はLiMn2O4である。
カソード材料は、有機Mgイオン伝導性電解質を使用してスクリーニングすることができる。いくつかの態様において、伝導性電解質は、>3.5Vの電気化学的領域を有するホウ素系Mgイオン伝導性電解質である(上記Guoを参照)。
いくつかの態様において、カソード材料は、当業者に公知である熱水的および電気化学的方法を使用して合成することができる。たとえば、MnOOHは、1工程熱水法(He, L., et al., Journal of Power Sources 220:e228-e235 (2012))を使用して合成することができる。Mg0.5MnOOHは、電気化学的方法(Mgイオン挿入)または熱水法(MgSO4を前駆体に加える)を使用して合成することができる。
高電圧水系電解質
水系電解質中のハイブリッド化Mg2+/H+ケミストリーの理論エネルギー密度は非水系LiCoO2/黒鉛Liイオン電池の理論エネルギー密度の約2倍の高さである。塩中水型中の塩の高い濃度はイオン伝導率を下げるが(約0.1S/cm(図7を参照))、それでもなお、有機電解質のイオン伝導率(約5〜10mS/cm)の約10〜20倍の高さである。したがって、ハイブリッドセルはまた、Liイオン電池の電力密度に匹敵しうる電力密度を支持するはずである。そのうえ、塩中水型電解質の使用は、Ni/MH電池中のMg系金属水素化物アノードの容量低下の主な理由である、マグネシウム合金の腐食を軽減することができ、したがって、ハイブリッドセルのサイクル寿命を増強することができる。さらに、ハイブリッド化Mg2+/H+ケミストリーにおいては、O2の存在におけるMg2Mアノード中のMgの化学的酸化がMg2MH4中のプロトンの酸化によって防止されて水を形成し、サイクル寿命をさらに改善する。
水系電解質の使用によって熱暴走の危険を本質的に除くことができる。水系電解質中のシャトル反応および再結合がハイブリッド化Mg2+/H+イオンセルを過充放電から保護して、安全性をさらに改善する。水系電解質はまた、Mgの豊富さだけでなく有機溶媒の非存在のおかげで、非水系電解質よりもずっと安価である。さらに、LaNi5H6(371mAh/g)合金に代わるMg系アノード(すなわちMg2Ni:1001mAh/g)の使用が、セル容量を増強し、エネルギー密度あたりのコストを減らす。
水系電解質中、一部の水分子は、塩の解離によって発生した金属カチオンおよび無機アニオンと結合する。K+、Na+およびLi+カチオンのうち、Li+が最高の水溶媒和能力を有する。Li+は27個の水分子と結合することができ(上記Ficを参照)、それが水の活性を有意に低下させ、ひいてはH2およびO2発生のための過電圧を高める。アニオンのうちでは、SO4 2-が、40個の水分子が結合した最強の溶媒和無機アニオンの一つである。1M Li2SO4電解質の電気化学的安定領域は2.2Vに達することができる(上記Ficを参照)。塩濃度が飽和状態に達するならば、ほぼすべての水分子がアニオンおよびカチオンに結合し、H2およびO2への分解のための水の活性は最小になると予想される。図7に示すように、飽和Li2SO4-MgSO4(1:1)電解質の電気化学的安定領域は2.5Vである。抑制された水活性にもかかわらず、Li2SO4電解質のイオン伝導率は、対象の塩濃度ほどは減損をこうむらない。図8は、飽和Li2SO4-MgSO4電解質が、室温で、非水系電解質の約20〜40倍の高さである0.22S/cmをなおも提供する、様々な濃度および温度におけるLi2SO4電解質の伝導率を示す。
いくつかの態様において、水系電解質は塩中水型電解質である。本明細書の中で使用されるように、「塩中水型」とは、溶媒に対する塩の重量比または溶媒に対する塩の体積比が1.0を超えることをいう。いくつかの態様において、塩の重量または体積は溶媒よりも多い。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の塩:水のモル比は、0.5:1〜200:1、0.5:1〜150:1、0.5:1〜100:1、0.5:1〜50:1、0.5:1〜10:1、0.5:1〜5:1、0.5:1〜1:1、0.8:1〜200:1、0.8:1〜150:1、0.8:1〜100:1、0.8:1〜50:1、0.8:1〜10:1、0.8:1〜5:1、0.8:1〜1:1、1:1〜200:1、1:1〜150:1、1:1〜100:1、1:1〜50:1、1:1〜10:1または1:1〜5:1である。
いくつかの態様において、塩中水型電解質中の塩の重量%(塩の重量%=((塩の重量/(塩の重量+水の重量))×100)は、5%〜90%、10%〜90%、20%〜90%、30%〜90%、40%〜90%、50%〜90%、60%〜90%、70%〜90%、80%〜90%、5%〜80%、10%〜80%、20%〜80%、30%〜80%、40%〜80%、50%〜80%、60%〜80%、70%〜80%、5%〜70%、10%〜70%、20%〜70%、30%〜70%、40%〜70%、50%〜70%、60%〜70%、5%〜60%、10%〜60%、20%〜60%、30%〜60%、40%〜60%、50%〜60%、5%〜50%、10%〜50%、20%〜50%、30%〜50%、40%〜50%、5%〜40%、10%〜40%、20%〜40%、20%〜30%、5%〜30%、10%〜30%、20%〜30%、5%〜20%、10%〜20%または5%〜10%である。
いくつかの態様において、塩中水型電解質は、スルホン系電解質、たとえばLiN(SO2CF3)2(LiTFSI)、LiN(SO2CH3)2、LiN(SO2C4H9)2、LiN(SO2C2F5)2(LiBETI)、LiN(SO2C4F9)2、LiN(SO2F3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F4SO2)、LiN(SO2F)2(LiFSI)またはLiN(SO2F)(SO2CF3)(LiFTI)である。いくつかの態様において、水系電解質はLiN(SO2CF3)2である。
いくつかの態様において、水系電解質はLiPF6またはLiSO3CF3である。
いくつかの態様において、水系電解質はMg塩中水型電解質である。いくつかの態様において、Mg塩中水型電解質はLiSO4-MgSO4、LiCl-MgCl2またはLi(NO3)-Mg(NO3)2である。
いくつかの態様において、水系電解質は高電圧水系電解質である。
いくつかの態様において、水系電解質は有意な量の水(すなわち、単に極微量ではない)を含み、電解質は、カソードと直接接するようにセル中に配置される。特定の態様においては、水が電解質の主液体溶媒として働く。いくつかの態様において、水は唯一の電解質溶媒である。
いくつかの態様においては、有意量(非極微量)の水が電解質に配合される。いくつかの態様において、全液体溶媒体積に対する電解質中の水の体積%は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%よりも大きい。いくつかの態様において、水は電解質中の唯一の液体溶媒である(すなわち、水が電解質の溶媒体積の100%を構成する)。いくつかの態様において、水は電解質中の主溶媒である。いくつかの態様において、電解質中の水の体積%は、5%〜90%、10%〜90%、20%〜90%、30%〜90%、40%〜90%、50%〜90%、60%〜90%、70%〜90%、80%〜90%、5%〜80%、10%〜80%、20%〜80%、30%〜80%、40%〜80%、50%〜80%、60%〜80%、70%〜80%、5%〜70%、10%〜70%、20%〜70%、30%〜70%、40%〜70%、50%〜70%、60%〜70%、5%〜60%、10%〜60%、20%〜60%、30%〜60%、40%〜60%、50%〜60%、5%〜50%、10%〜50%、20%〜50%、30%〜50%、40%〜50%、5%〜40%、10%〜40%、20%〜40%、20%〜30%、5%〜30%、10%〜30%、20%〜30%、5%〜20%、10%〜20%または5%〜10%である。
いくつかの態様において、水系電解質溶液のpHは7〜11である。いくつかの態様において、水系電解質溶液のpHは、6、7、8、9、10、11、12または13よりも大きい。いくつかの態様において、水系電解質溶液のpHは、5〜14、5〜13、5〜12、5〜11、5〜10、5〜9、5〜8、6〜14、6〜13、6〜12、6〜11、6〜10、6〜9、6〜8、7〜14、7〜13、7〜12、7〜11、7〜10、7〜9、7〜8、8〜14、8〜13、8〜12、8〜11、8〜10または8〜9である。いくつかの態様において、pHは、塩基性塩、酸性塩および緩衝物質を含むpH調整添加物を使用して調整することができる。いくつかの態様において、pHは、LiOHを使用して調整される。
いくつかの態様において、電解質は、酸性(pH<7)、塩基性(pH>7)または中性(pH約7)であるpHを有するように調合される。
いくつかの態様において、水系電解質はさらに、一つまたは複数の非水溶媒を含む。いくつかの態様において、電解質中の非水溶媒の体積%は、1%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%または80%〜90%である。
いくつかの態様において、アノードおよびカソードセルは同じ電解質を含む。いくつかの態様において、アノードおよびカソードセルは異なる電解質を含む。
いくつかの態様において、非水溶媒は、非プロトン性、プロトン性有機溶媒(固体および液体、通常は液体または固体ポリエチレンオキシド)またはイオン液である。いくつかの態様において、非水溶媒はプロトン性有機溶媒である。
いくつかの態様において、適当な非水非プロトン性およびプロトン性溶媒は、エーテル類(たとえば2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、4-メチルジオキソラン(4-MeDIOX)、テトラヒドロピラン(THP)および1,3-ジオキソラン(DIOX))グリム類(たとえば1,2-ジメトキシエタン(DME/モノグリム)、ジグリム、トリグリム、テトラグリムおよび高級グリム)、カーボネート(たとえば環式カーボネート、たとえば炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、非環式カーボネート、たとえば炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)および炭酸ジエチル(DEC)、ホルメート(たとえばギ酸メチル)およびブチロラクトン(GBL)を含む。他の適当な非プロトン性溶媒は、高いドナー数を有するもの(すなわちドナー溶媒)、たとえばヘキサメチルホスホラミド、ピリジン、N,N-ジエチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素(TMU)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、リン酸トリブチル、リン酸トリメチル、N,N,N',N'-テトラエチルスルファミド、テトラエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミンおよびペンタメチルジエチレントリアミンを含む。いくつかの態様において、ドナー溶媒は、少なくとも15、約15〜40または約18〜40のドナー数を有する。いくつかの態様において、ドナー溶媒は、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、たとえばDMFを含む。適当なアクセプター溶媒は、ルイス酸(プロトン性または非プロトン性溶媒であり得る)として特徴づけられ、アニオンの溶媒和を促進することができる。例は、アルコール類、たとえばメタノール、グリコール類、たとえばエチレングリコールおよびポリグリコール類、たとえばポリエチレングリコールならびにニトロメタン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、二酸化硫黄および三フッ化ホウ素ならびにエチレングリコール(EG)を含む。他は、ニトリル類(たとえばアセトニトリル(AN)、高級ニトリル類、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル)、アミド類(たとえばホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N,N'N'-テトラエチルスルファミド、テトラメチル尿素(TMU)、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-メチルピロリジノン)、アミン類(たとえばブチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ピリジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)、テトラエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、有機硫黄溶媒(たとえばジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、他のスルホン類、亜硫酸ジメチル、亜硫酸エチレンおよび有機リン溶媒(たとえばリン酸トリブチル、リン酸トリメチル、ヘキサメチルホスホラミド(HMPA))を含む。
いくつかの態様においては、非水溶媒が、溶解に影響を及ぼすために、水系電解質に加えられてもよい。いくつかの態様において、溶媒はトルエンまたは二硫化炭素である。
非水溶媒、たとえば非プロトン性有機溶媒、一般には液体の使用は、そのようなものとして限定されず、高級ポリスルフィド種の溶解を促進するために有用であり得る。また、硫化リチウムの溶解をさらに増強する、または、セル性能をより一般的に改善するために、プロトン性溶媒およびイオン液が水系電解質に配合されてもよい。
いくつかの態様において、電解質は、所望の凝固点温度(すなわち融解温度)を達成するための量の非水プロトン性溶媒を用いて調合される。いくつかの態様において、電解質は、0℃未満、−5℃未満、−10℃未満、−15℃未満、−20℃未満、−25℃未満、−30℃未満、−35℃未満または−40℃未満の融解温度を有するように調合される。
いくつかの態様において、電気化学セルは、約100℃未満、約90℃未満、約80℃未満、約70℃未満、約60℃未満、約50℃未満、約40℃未満、約30℃未満、約20℃未満または約10℃未満の温度で作動する。いくつかの態様において、電気化学セルは、−40℃〜100℃、−40℃〜90℃、−40℃〜80℃、−40℃〜70℃、−40℃〜60℃、−40℃〜50℃、−40℃〜40℃、−40℃〜30℃、−30℃〜100℃、−30℃〜90℃、−30℃〜80℃、−30℃〜70℃、−30℃〜60℃、−30℃〜50℃、−30℃〜40℃、−30℃〜30℃、−20℃〜100℃、−20℃〜90℃、−20℃〜80℃、−20℃〜70℃、−20℃〜60℃、−20℃〜50℃、−20℃〜40℃または−20℃〜30℃の温度で作動する。
いくつかの態様において、電気化学セルは、1.5Vよりも大きい、1.6Vよりも大きい、1.7Vよりも大きい、1.8Vよりも大きい、1.9Vよりも大きい、または2.0Vよりも大きいフルセル出力電圧を有する。いくつかの態様において、電気化学セルは、1.0V〜4.0V、1.0V〜3.5V、1.0V〜3.0V、1.0V〜2.5V、1.0V〜2.0V、1.0V〜1.5V、1.5V〜4.0V、1.5V〜3.5V、1.5V〜3.0V、1.5V〜2.5V、1.5V〜2.0V、2.0V〜4.0V、2.0V〜3.5V、2.0V〜3.0V、2.0V〜2.5V、2.5V〜4.0V、2.5V〜3.5Vまたは2.5V〜3.0Vのフルセル出力電圧を有する。
別の態様において、本開示は、
(a)アノード;
(b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
(c)水系電解質
を含む水系電解質電池を提供する。
いくつかの態様において、水系電解質電池は、陽極と陰極との間にセパレータを含む。いくつかの態様において、セパレータは、水系電解質溶液がセパレータに浸透して、イオンがセパレータを透過可能にすることができるように親水処理されているか、または穿孔されている。セパレータは、電池において一般に使用される任意のセパレータであり得る。セパレータの例は、ポリマー不織布、たとえばポリプロピレン不織布およびポリ(硫化フェニレン)不織布およびオレフィン樹脂、たとえばポリエチレンおよびポリプロピレンのマクロ孔質膜を含む。これらは、単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。
本発明はまた、水系電解質電池の製造方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、電解質を脱酸素化する工程およびセルを形成し、分子酸素を欠く不活性または還元性環境(たとえば窒素環境)中に密封して、電解質溶液中の自由酸素を減らす、または除去する工程を含む。このようにして、水系電解質中の不可逆性酸化および結果的な材料損失が避けられる。
いくつかの態様において、セルは自蔵式であり、気密ケーシング中に密封され、セル製造中、セル全体がケーシングから得られ、ケーシング中に配置される。これらの完全密封セルは二次セルであり得る。いくつかの態様において、ケーシングは一つの層を含む。いくつかの態様において、ケーシングは二つ以上の層を含む。いくつかの態様において、ケーシングは、ポリエチレンテレフタレート層、ポリマー層およびプロピレン層から選択される少なくとも一つの層を含む。いくつかの態様において、ケーシングは、少なくとも一つの炭化プラスチック層を含む。
いくつかの態様において、セルは、水系電解質がセルの中に流動および/または循環させられる電池フローセル系で構成される。いくつかの態様において、水系電解質は、アノードとカソードとの間の電極間領域を通って流動および/または循環させられる。いくつかの態様において、アノードおよびカソード中の電解質は同じである。いくつかの態様において、アノードおよびカソード中の電解質は異なる。いくつかの態様において、アノードおよびカソード中の電解質は流動可能であり、動作中、セルを通過して流動させられる。
本発明の水系電解質電池は、任意の形状、たとえばコイン形、ボタン形、シート形、積層状、円柱形、フラットまたは正方形であり得る。本発明の水系二次電池は、大きな物体、たとえば電気自動車に適用され得る。
いくつかの態様において、水系電解質電池は二次電池である。
以下の実施例は例示的であり、本明細書に記載される電気化学セル、製造方法および使用方法を限定するものではない。本開示を考慮して当業者には自明である、当技術分野において通常に遭遇される様々な条件、組成および他のパラメータの適当な改変および適応は本発明の精神および範囲内である。
実施例1
H2Oに対する様々な比のLiN(SO2CF3)2(LiTFSI)の物理化学的および電気化学的性質が図9A〜Dに示されている。二成分電解質系(図9A)中の溶媒に対する塩の重量比および体積比に基づくと、重量モル濃度が5mol/kgに上昇すると、溶媒に対する塩の重量比は1.0を超える。この点から、系を「塩中水型」と定義することができ、それは、液体水が固体LiTFSI中に溶解しているものとみなすこともできる。この場合、カチオンと水との相互作用の変化(水和イオンの構造および動態)、カチオンとアニオンとの相互作用の変化(格子エネルギー)などにより、物理化学的および電気化学的性質は根本的な変化を受ける。H2Oに対するLiTFSIの様々な比の場合の温度の関数としてイオン伝導率の変化が図10Bに示されている。図9Bに示すように、22.2mのイオン伝導率は、より低い重量モル濃度比に比べて高い粘度のせいで、わずかな低下を示す。それにもかかわらず、25℃での22.2mサンプルの伝導率は、市販のリチウムイオン有機電解質のイオン伝導率に近い8mS/cmのイオン伝導率を示す(図9C)。室温における溶存酸素量の変化は、LiTFSI-H2O二成分組成物のLiTFSI含量の増加とともに単調に低減する傾向がある(図9C)。概して、溶存酸素の水への溶解度は、溶液中の他の溶質の存在によって有意に影響を受ける。LiTFSIが水に溶解するとき、カチオン(Li+)が水分子を引き寄せ、それが、水に対する非極性酸素分子の弱い親和力を下げ、極性水から溶存酸素を押し出す傾向を示す。電気化学的安定領域が図9Dに示されている。図9Dは、水に対するLiTFSIの比を調節することによって酸素および水素発生電位が有意に拡大することを示す。22.2mサンプルの場合、集電装置単位面積あたりの水素および酸素の発生量は、水領域の範囲を超えると、有意に抑えられている。他方、アノード電位の拡大グラフは、すべての電解質のアノード電流が−0.4V(vs. Ag/AgCl基準)で発生するが、走査電位の低下とともに、アノード電流は増大し続けず、一定の範囲中、一定の値で安定なままであり、アノード電流は、2.41uA/cm2(5m)から0.11uA/cm2(22.2m)までの程度だけ減り、水素発生電位に対応する−1.3V(vs. Ag/AgCl)から電流の顕著な増加があることを示す。
実施例2
ネルンストの式が化学反応エネルギーを電解質エネルギーに関連させる。
Figure 2017510026
式中、
E=所与の濃度におけるエネルギー密度であり、
EO=標準1モル濃度におけるエネルギーであり、
Q=モル濃度であり、
kT/q=298°Kで26mVである。
ネルンストの式に基づくと、ハーフセル中の電極の電位は電解質中のリチウムイオン活量によって決まる。この傾向を捕らえるために、三つの電極系において、サイクリックボルタンメトリー(CV)を使用して、H2Oに対するLiTFSIの様々な比で絶対電極電位を記録した(図10(LiMn2O4)および10A(Mo3S4))。図10Aおよび10Bは、溶媒に対する塩の比の増加によってLiMn2O4およびMo3S4両方の絶対電極電位が顕著に増大し、この絶対電極電位調節が、フルセル出力電圧に影響せず、アノード電位を電解質領域内に移動させないことを示す。対照実験として、異なるLiNO3濃度を有する従来の水系電解質および飽和Li2SO4(<3m)を有する従来の水系電解質をも試験した(図19および20)。図19および20に見られるように、塩濃度の増大とともに電極絶対電極電位は高電圧へとシフトしたが、無機リチウム塩の水への溶解度の限界のせいで、変化は小さな幅に限られた。加えて、飽和に近い最高のLiNO3濃度(12.5M)でさえ、低い電位範囲(<0.8V vs. Ag/AgCl)で明らかに水素発生が起こっている。
実施例3
塩中水型電解質の効果をさらに評価するために、LiMn2O4をカソードとして有し、Mo3S4をアノードとして有するフルセル形態を用いた(図12Aおよび12B)。1サイクル目中のアノード不可逆容量により、フルセル中のカソード:アノード質量比を約2:1にセットした。
図12Aおよび12Cに示すように、フルセルは、二つの充放電プラトーを示し、平均電圧出力はそれぞれ1.5および2.0Vである。フルセルの放電容量は、全電極重量を使用して計算して47mAh/gで達成された。したがって、このデータに基づき、このフルセル形態においては、エネルギー密度がほぼ84Wh/kgに近いと概算することができる。フルセルのサイクル寿命が、高レート(4.5C)だけでなく低レート(0.15C)ででも非常に安定であることが注目に値する。これは、充放電速度の加速がサイクル寿命を延ばすという従来の知見とは顕著な対照を成す。
図13Aに示すように、フルセルを、2.3Vまでフル充電したのち、放置時間に対して開路電圧を記録して、フル充電状態のフルセルの自己放電を評価する。2日後、開路電圧はまだ2.0Vよりも高く、低い自己放電、ひいては高度に安定な電解質を明らかに実証する。したがって、全二リチウム化アノードと電解質との間に任意の化学反応はほとんどなかった。アノードの最初の不可逆容量によって過剰なLiMn2O4を消費することを避けるために、フルセル中の5サイクル後のMo3S4電極を、Mo3S4電極と1:1の質量比でマッチするように選択する。図14に示すように、フルセルは、放電容量(55mA/g)および二つの出力電圧(1.5および2.0V)に基づいて100Wh/kgの非常に高いエネルギー密度をもたらす。
概して、水系リチウム二次電池のフルセル形態を評価するために使用される四つの性能パラメータは、出力電圧、全電極に基づく容量、クーロン効率およびサイクル数を含む。前者二つの指標はエネルギー密度を決定し、後者二つは電池の寿命を示す。ここで、以前に報告されている水系リチウムイオン電池のフルセル形態に関してこれら三つの性能指標を図14に要約する。
サイクル寿命の指標を、以前に報告されている水系リチウムイオン電池に割り当てる。(1)LiMn2O4/VO2、LiMn2O4/TiP2O7およびLiMn2O4/LixV2O5の場合、サイクル数N<100サイクル、(2)LiMn2O4/LiTi2(PO4)3およびLiCOO2/ポリイミドの場合、サイクル数100<N<200サイクル、および(3)LiMnO2O4/ABおよびLiFePO4/LiTi2(PO4)3の場合、サイクル数N>1000サイクル。今日まで、O2電解質を除くハイブリッド電池LiMnO2O4/ABおよびLiFePO4/LiTi2(PO4)3だけが、1000サイクルを超える長いサイクルを達成しているが、エネルギー密度を犠牲にすることにより、水系リチウム二次電池の利点が弱められている。約2.0Vの出力電圧の指標により、水系リチウムイオン電池は、他の種類の水系電気化学的蓄電系よりも競合的である。現行のリチウムイオン電池製造レベル(不活性物質が少なくとも40%を占める)を参照すると、実際の水系電池における推定エネルギー密度は60Wh/kg超をもたらし、これは、以前に文献に報告されているすべての現行の水系リチウム二次電池よりも高いだけでなく、他の水系電池(Ni-H、鉛蓄電池、約30〜40Wh/kg)との比較においても明確な利点を示す。
示された優れた電気化学的性能、特に低レートでのサイクル寿命およびフル充電状態で記録された開路電圧は、動的条件の寄与だけでは十分ではなく、おそらくは、有機リチウムイオン電池で起こるようなアノード上の安定な固体電解質界面(SEI)層の形成によるものと思われる。
実施例4
アノード表面にSEI層が形成したかどうかを確認するために、フルセル形態の完全リチウム化後のアノードの表面をエクスサイチューX線光電子分光法によって検査した(図15)。明白なMo3dおよびS2p特徴シグナルならびにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)結合物質に属するF1sシグナルを有する新品のMo3S4電極と比較すると、フルセルを2.3Vまでフル充電したのち、Mo3S4のMo3dおよびS2pシグナルは消滅し、SEIがアノード上に形成されたことが直接証明された。その結果、本発明者らは、全リチウム化アノードの深さプロファイリング分析を実施した。分析は、アルゴンイオンスパッタリング時間が増すとともに、SEI層が徐々にエッチングされ、Mo3S4シグナルが一定に増強することを示した。同時に、SEI層の主成分であるLiFの量をXPSによって検出した。
図9A〜D、図10A〜Cおよび図11A〜Bによって示すように、溶液中の塩の割合を変化させることにより、リチウムイオン活量は、カチオンとアニオンとの間またはイオンと水との間の相互作用に対する効果により、大きな変化を受ける。したがって、活量係数の調査は、塩中水型電解質溶液の習性を理解する場合に特に有用である。図10A〜Cのサイクリックボルタンメトリーデータに基づき、様々な電解質の相対活量係数を計算した(図16B)。
実施例5
LiTFSI-H2O二成分電解質系におけるカチオン−アニオンまたはイオン−溶媒相互作用を研究するために、ラマン分光法およびO17NMRを適用して、それぞれカチオン−アニオン相互作用およびイオン−溶媒相互作用を研究した。カチオンとアニオンとの間の相互作用は、H2Oに対するLiTFSIの比が異なる電解質のラマンスペクトルによって検出される(図16D)。最強のピークが、CF3基の変角振動に対応する747cm-1にあることが明らかにわかる。このピークは、すべてのピークの中で溶媒:塩比の変化に対して最も明白かつ高感度であると考えられ、したがって、カチオンとアニオンとの間の相互作用を説明し、分析するために使用することができた。図16Dに示すように、溶媒に対する塩の比を高めると、CF3変角振動のピークは徐々に高い波数にシフトし、最高の強さは純粋なLiTFSI塩に属し、それは、カチオンとアニオンとの相互作用がますます強くなることを意味する。溶液中、溶解したカチオンとアニオンとは一般にイオン対を形成する。非常に薄い溶液中では、強いLi水和により、自由イオンと定義されるカチオンとアニオンとの間に相互作用はほとんどない。塩濃度が増すと、少量のアニオンがカチオン水和と相互作用する機会を有するため、弱い対合が起こる。溶媒に対する塩の比がより増すならば、密接対が電解質において大きな役割を演じ、それにより、純粋なLiTFSI塩における場合と同様に、CF3のラマンピークをシフトさせる。
O17NMR(図16C)によって示すように、154ppmが、水に対するLiTFSIの比の増大によって影響されない、TFSI-のO要素に属すると考えられる。逆に、H2Oに対するLiTFSIの比の増大によるLiイオン水和構造の大きな変化により、H2Oのシグナルはマイナス方向に強烈にシフトした。
希釈溶液中の水和Liイオン構造の従来の考察(Marcus, Y., et al., Chemical Reviews 109(3):1346-1370 (2009)およびOhtaki, H., et al., Chemical Reviews 93(3):1157-1204 (1993))(図18A〜B)においては、Liイオンを包囲する二つの殻鞘があり、各鞘は四つの水分子で構成され、それがリチウムイオン有機電解質に類似している(Bogle, X., et al., J. Physical Chem. Letters 4(10):1664-1668 (2013))。しかし、22.2Mの塩中水型電解質中、水に対するLiTFSIの比は2.5であり、それは、4配位数を有する水和構造を形成するには十分でない。したがって、この場合、Li静電場はH2O分子によって遮蔽されることはできず、それが、Li+とTFST-との間の直接相互作用を生じさせ、それを、接触イオン対(CIP)およびカチオン−アニオン凝集塊(AGG)とみなすことができる。
SEIは、SEI形成に寄与することができないH2Oのガス(O2およびH2)への分解、およびH2O水素発生よりも低い塩還元電位のせいで、水系電解質中では形成することができないと一般に認められている。本発明者らが知る限り、これは、中性電解質中で水系電解質領域を−1.3Vへと広げることができる、水系リチウム二次電池中の安定なSEI形成を報告する最初の研究である。
SEI形成の起源は二つの要因から導出された。(1)LiTFSI中H2Oの高い溶媒和エネルギーが水分解のガス産物(O2およびH2)を効果的に減らし、それが、塩分解産物をアノードの表面に付着させるのに好都合である。(2)カチオンとアニオンとの間の強い相互作用が電解質中で多量の接触イオン対(CIP)およびカチオン−アニオン凝集塊(AGG)を形成し、それらが、低濃度溶液中、自由TFSI-(1.8V)よりも高い還元電位(2.4V)を有した。したがって、塩は、充放電過程中に分解して安定なSEI層を形成した。
本発明を十分に説明した今、本発明を、本発明またはその任意の態様の範囲に影響することなく、条件、組成および他のパラメータの広く均等な範囲内で実施することができることが当業者には理解されよう。
本明細書に開示された発明の詳細な説明および実施を考慮すると、本発明の他の態様が当業者には明らかになるであろう。詳細な説明および例は、単に例示的であるとみなされ、本発明の真の範囲および精神は特許請求の範囲によって示されるものとされる。
本明細書に引用されるすべての特許および刊行物は参照により全体として本明細書に組み入れられる。

Claims (39)

  1. (a)アノード;
    (b)カソード;および
    (c)塩中水型(water-in-salt)電解質
    を含む電気化学セル。
  2. カソードがMg0.05AOOHを含み、式中、Aは金属または金属の合金である、請求項1に記載の電気化学セル。
  3. Aが、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属であるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である、請求項2に記載の電気化学セル。
  4. AがMn、Co、NiまたはFeである、請求項2に記載の電気化学セル。
  5. アノードがMg2Mを含み、式中、Mは金属または金属の合金である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  6. Mが、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択されるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である、請求項5に記載の電気化学セル。
  7. Mが、Fe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuであるか、またはFe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuからなる群から選択される金属の合金である、請求項5に記載の電気化学セル。
  8. MがNiである、請求項5に記載の電気化学セル。
  9. 塩中水型電解質中の塩がスルホン系の塩である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  10. 塩中水型電解質中の塩が、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CH3)2、LiN(SO2C4H9)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2C4F9)2、LiN(SO2F3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F4SO2)、LiN(SO2F)2およびLiN(SO2F)(SO2CF3)からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  11. 塩中水型電解質中の塩がLiN(SO2CF3)2である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  12. 塩中水型電解質中の水の量が20(体積)%〜100(体積)%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  13. 塩中水型電解質中の水の量が30(体積)%〜100(体積)%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  14. 塩中水型電解質中の水の量が40(体積)%〜100(体積)%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  15. 塩中水型電解質が7〜11のpHを有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  16. −40℃〜100℃の動作温度を有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  17. −40℃〜70℃の動作温度を有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  18. 1.5V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  19. 1.8V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  20. (a)アノード;
    (b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
    (c)水系電解質
    を含む電気化学セル。
  21. Aが、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属であるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である、請求項に記載の電気化学セル。
  22. AがMn、Co、NiまたはFeである、請求項20に記載の電気化学セル。
  23. アノードがMg2Mを含み、式中、Mは金属または金属の合金である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  24. Mが、Li、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択されるか、またはLi、Mg、Mn、Co、Ti、Zn、Al、Zn、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、H、Cu、Ag、Pd、Hg、Pt、Bi、ZrおよびAuからなる群から選択される金属の合金である、請求項23に記載の電気化学セル。
  25. Mが、Fe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuであるか、またはFe、Ni、Mn、Co、Al、Zn、Sn、Bi、ZrもしくはCuからなる群から選択される金属の合金である、請求項23に記載の電気化学セル。
  26. MがNiである、請求項23に記載の電気化学セル。
  27. 水系電解質が塩中水型電解質である、請求項20〜26のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  28. 水系電解質中の塩がスルホン系の塩である、請求項20〜27のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  29. 水系電解質中の塩が、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CH3)2、LiN(SO2C4H9)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2C4F9)2、LiN(SO2F3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F4SO2)、LiN(SO2F)2およびLiN(SO2F)(SO2CF3)からなる群から選択される、請求項20〜28のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  30. 水系電解質中の塩がLiN(SO2CF3)2である、請求項20〜28のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  31. 水系電解質中の水の量が20(体積)%〜100(体積)%である、請求項20〜30のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  32. 水系電解質中の水の量が30(体積)%〜100(体積)%である、請求項20〜30のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  33. 水系電解質中の水の量が40(体積)%〜100(体積)%である、請求項20〜30のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  34. 水系電解質が7〜11のpHを有する、請求項20〜33のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  35. −40℃〜100℃の動作温度を有する、請求項20〜34のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  36. −40℃〜70℃の動作温度を有する、請求項20〜34のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  37. 1.5V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する、請求項20〜36のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  38. 1.8V〜4.0Vのフルセル電圧出力を有する、請求項20〜36のいずれか1項に記載の電気化学セル。
  39. (a)Mg2Mを含むアノードであって、式中、Mは金属または金属の合金である、アノード;
    (b)Mg0.05AOOHを含むカソードであって、式中、Aは金属または金属の合金である、カソード;および
    (c)塩中水型電解質
    を含む電気化学セル。
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