ドリルビットは、1または複数の切削素子が設けられた切削部材と、ドリル軸部材と、挿入端部が設けられた受容部材とからなる。ドリルビットは、ドリル装置の工具ホルダに挿入端部を介して取り付けられ、ドリル加工を行う際には、ドリル装置によって回転軸周りに回転駆動されると共に、この回転軸に平行なドリル加工方向に向け、加工対象の基材内に移動していく。ドリルビットは、交換可能な部材を有するドリルビットと、交換可能な部材を有さないドリルビットとに区分することができる。従って、「ドリルビットの部材」という用語は、切削部材、ドリル軸部材、または受容部材として構成されるようなドリルビットの個々の部材を包含するものである。
従来技術により、交換可能な部材を有した様々なドリルビットが知られており、それらは、切削部材及び受容部材の一方または両方を交換可能に構成することができる。交換可能な部材を有するドリルビットの場合、ドリルビットの部材間の結合部分は、ドリル加工を行う際に生じる力及びトルクを伝達する必要がある。このような力及びトルクの伝達に加え、この結合部分は、基材からドリルビットを引き抜く際に生じる引張荷重にも耐えなければならないが、この引張荷重は、ドリルビットが基材内で引っかかって動かなくなってしまったときに、特に大きなものとなる。引張荷重に対する耐久性は、引き離し強さともいう。
交換可能な部材を有するドリルビットの場合、ドリルビットの部材間の結合は、着脱式結合、または非着脱式結合として構成することができる。着脱式結合の場合、破壊を生じることなく結合を解除することが可能であるが、非着脱式結合は、結合手段を破壊する以外に結合を解除することができない。着脱式結合の例としては、はめ合い結合、ねじ込み式結合、または磁力式結合があり、非着脱式結合の例としては、ハンダ結合、溶接結合、リベット結合、または接着剤結合がある。
非着脱式結合は、摩耗した切削部材の交換を行うようなドリルビットに特に好適であるが、より頻繁にドリルビットの部材の交換が必要になる場合には、非着脱式結合より着脱式結合の方が有利である。ドリルビットを様々なドリル装置に装着する場合、挿入端部がドリル装置の工具ホルダに適合している必要がある。そのような用途に好適であるのは、作業者が作業現場で着脱することが可能な着脱式結合である。
ドリルビットの部材間の着脱式結合では、特に、基材へのドリル加工中にドリルビットが動かなくなってしまった場合などに、ドリルビットの部材の意図しない離脱が生じる可能性がある。コアドリル加工の場合、基材へのドリル加工中にドリルビットが動かなくなり、作業者が引き外さなければならなくなることは、よくあることである。引っかかって動かなくなったドリルビットを外すには、台座に取り付けられたドリル装置のドリルビットを逆回転させ、ドリル加工の方向とは逆方向への引張力を、台座によってドリルビットに加える。作業者は、工具を使って手動で回転させると同時に、ドリル装置の台座を引っ張ることにより、基材からドリルビットを引き抜こうとする。
特許文献1には、交換式の切削部材を有したドリルビットが開示されており、この切削部材は、はめ合い結合とハンダ結合との組み合わせによりドリル軸部材に結合される。切削部材は雌側差込部を有し、ドリル軸部材は、これに対応する相補形状を有した雄側差込部を有しており、雄側差込部が雌側差込部に差し込まれ、互いにハンダ付けされる。雄側差込部は、雌側差込部材よりも2〜10%長くなっており、雌側差込部の端部接触面と接するようになっている。互いに結合されたこれら差込部の間には、ハンダで満たされる間隙がある。これら差込部を加熱することによってハンダが溶融し、差込部の間にハンダ結合が形成される。切削部材に対するドリル軸部材の力の伝達は、雄側差込部の端部と、雌側差込部の端部接触面とを介して行われ、トルクの伝達はハンダ結合を介して行われる。
ハンダ結合を有したドリルビットは、ハンダ結合を取り除いて新たなハンダ結合を形成するために必要なハンダ装置や、ハンダ付けの専門技術が必要となるという欠点がある。このため、これらのドリルビットは、作業現場での切削部材の迅速な交換には不向きである。また、ハンダ付けまたは溶接されることが多い切削部材の結合部分は、切削部材をハンダ付けする際に、差込部の加熱によって、悪影響を受けるおそれがある。差込部をハンダ付けする際に熱の影響を受ける領域に、確実に切削部材が含まれないようにするには、切削部材を相応の長さとする必要があり、そのために追加する材料によってコスト及び重量が増大することになる。
特許文献2には、接着剤結合によってドリル軸部材に交換式の切削部材を結合したドリルビットが開示されている。この切削部材とドリル軸部材とは、相補関係を有して形成された差込部を有しており、一方の差込部を他方の差込部に差し込むようになっている。両差込部の接触面の間には接着剤が塗布され、ドリルビットの2つの部材を接合した状態で連結している。接着剤結合は、接着された接合面が、必要なトルクを伝達すると共に、引っかかって動かなくなったドリルビットを引き外す際の引張荷重に耐えうるようになっていなければならない。摩耗した切削部材の取り外しは、接着剤結合の部分を約300℃まで加熱し、接着剤を取り除くことによって行われる。接着剤結合は、発生する温度が300℃を十分下回るような用途のドリル加工にのみ適合している。例えば大理石などの非常に堅い材料を乾式ドリル加工する場合、ドリルビットは激しく加熱される可能性があり、それにより接着剤結合が破壊されるか、少なくとも劣化するおそれがある。もう1つの欠点は、新たに接着剤結合を行うため、専用の材料や工具だけでなく、接着の専門技術も必要となるということである。接着剤結合が適切になされた場合に限り、接着接合面は、必要なトルクを伝達することが可能となると共に、引っかかって動かなくなったドリルビットを引き外す際の引張荷重に耐えることが可能となる。
特許文献3には、非着脱式結合によりドリル軸部材に結合される交換式の切削部材を有した、もう1つのドリルビットが開示されている。ドリル軸部材及び切削部材には、相補関係を有して互いに係合可能とする、密接した結合のための形状が設けられている。ドリル軸部材から切削部材への力及びトルクの伝達は、この密接した結合を介して行われる。離脱防止機能は、複数の接合点または複数の接合領域によって得られる。
特許文献4には、差込ピン式の結合により、ドリル軸部材に連結される交換式の受容部材を有したドリルビットが開示されている。ドリル軸部材には、L字型の2つのスリット状切欠が設けられており、これらスリット状切欠に、受容部材の2つのピンが差し込まれて係止するようになっている。スリット状切欠は、端部の領域が折れ曲がっており、この領域にピンが係止して固定されるように、幾分傾斜している。差込ピン式の結合を解除するのは、手動の力で十分である。受容部材からドリル軸部材への力及びトルクの伝達は、ピンを介して行われる。
ドリルビットの2つの部材間の力の伝達及びトルクの伝達の必要性は、着脱式結合の位置に関わらず生じる。ドリルビットの部材の意図しない離脱の問題は、ドリル加工の際に着脱式結合が基材内に位置して作業者には見えないため、交換式の切削部材の場合にのみ発生する。交換式の受容部材を有した公知のドリルビットでは、目視により監視している間に、差込ピン式の結合が外れてしまった場合に、いつでも受容部材をドリル軸部材に結合することができる。
特許文献5には、着脱可能な差込回転式の結合によりドリル軸部材に連結される交換式の切削部材を有したドリルビットが開示されている。切削部材は、一端に複数の切削素子が結合され、他端には、雌側差込部と、環状の規制用係止段部とを有した環状部を備えている。ドリル軸部材は、端面のある雄側差込部を切削部材側の端部に有した円筒状のドリル軸を備えている。これら差込部は、回転軸線に沿った差込方向ではめ合い結合を行う。雌側差込部は、内周面に複数のピンを有しており、これらのピンは、回転軸線に直交する平面に配置されて、径方向内方に指向されている。雄側差込部は、外周面にL字型の複数のスリット状切欠を有しており、このスリット状切欠にピンが差し込まれるようになっている。ドリル軸部材から切削部材へのトルクの伝達は、これらのピンを介して行われる。L字型のスリット状切欠は、回転軸線に直角な方向に延びる横向きスリットと、回転軸線に平行な方向に延びて、横向きスリットと雄側差込部の端部との間に形成された接続用スリットとからなる。端面及びスリット状切欠を有した雄側差込部が第1結合機構を、また規制用係止段部及びピンを有した雌側差込部が第2結合機構を、それぞれ形成する。連結状態において、これら第1及び第2結合機構が、切削部材とドリル軸部材との間の着脱可能な差込回転式の結合を形成し、これら第1及び第2結合機構を介し、力及びトルクが切削部材に伝達される。
ドリル軸部材は、受容部材と切削部材との間に挟持されたリターンスプリングが周囲を取り囲んでいる。ドリル軸部材に対し、ドリル加工を行う方向に力が作用すると、リターンスプリングが圧縮され、ドリル軸部材の端面が切削部材の規制用係止段部に当接するまで、ドリル軸部材がドリル加工を行う方向に移動する。荷重がかかっていない状態、即ちドリル加工を行う方向に力が作用していない状態では、切削部材とドリル軸部材との間に軸線方向に間隙が生じる。切削部材の意図しない離脱を防止するための離脱防止機構として、横向きスリットが、荷重がかからない状態においてピンを収容する切り込みを有している。このような離脱防止機構により、基材からドリルビットを引き抜く際の切削部材の離脱が、適切且つ確実に防止される。但し、ドリルビットが基材内で引っかかって動かなくなり、作業者がこれを解除しなければならなくなったときには問題が生じる。作業者がドリル軸部材に力を加え、ドリル軸部材が回転方向とは逆方向に動く際に、ピンが切り込みから出てしまう可能性がある。このようにピンが切り込みから出て横向きスリット内に移動すると、リターンスプリングによって差込回転式の結合が解除されやすくなる。
本発明の目的は、引っかかって動かなくなったドリルビットを基材から取り出す際に、ドリル軸部材と切削部材との着脱可能な連結が意に反して解除されてドリル軸部材だけが基材から取り出されてしまう可能性を低減した、交換可能な切削部材を有するドリルビットを提供することにある。
本発明に係るドリルビットは、最初の部分に述べたように、独立請求項1の特徴によって、このような目的を達成する。有用な態様は従属請求項に示される。
本発明によれば、切削部材は、第1結合機構とは異なる第3結合機構を有し、ドリル軸部材は、第2結合機構とは異なる第4結合機構を有しており、これら第3結合機構及び第4結合機構は、連結状態において、切削部材とドリル軸部材との間での密接した結合を、回転軸線に平行な軸線方向で行う。
軸線方向は、ドリルビットの回転軸線に平行な方向として定義される。ドリルビットの各部材の連結状態において、ドリルビットの回転軸線は、ドリルビットの各部材、切削部材、及びドリル軸部材の長手方向軸線に一致する。径方向平面は、回転軸線に直交する平面として定義され、径方向は、この径方向平面上において、回転軸線、即ちドリルビットの部材の長手方向軸線と交差する方向である。
第1結合機構及び第2結合機構は、連結状態において、切削部材とドリル軸部材との着脱可能な連結を行い、ドリル軸部材から切削部材への力の伝達及びトルクの伝達は、これら第1結合機構及び第2結合機構を介して行われる。本発明の要点は、ドリルビットが引っかかって動かなくなったとき、意に反して切削部材からドリル軸部材が離脱するのを抑止する離脱防止機能を、第3結合機構及び第4結合機構を用いて実現することにある。第3結合機構及び第4結合機構が第1結合機構及び第2結合機構とは異なることから、意に反した離脱の可能性を、より一層低減することができる。
好ましい態様において、第3結合機構及び第4結合機構は、突起及び溝を有し、この突起は溝内に移動可能となっている。第3結合機構及び第4結合機構を突起及び溝で構成することにより、切削部材からのドリル軸部材の離脱を抑止する簡単で確実な結合が可能となる。このような結合における保持力は、突起及び溝の形状により、ドリルビットの適用範囲に適合させることが可能である。
好ましくは、第1ドリルビット部材及び第2ドリルビット部材が、雄側差込部及び雌側差込部を備え、これら雄側差込部及び雌側差込部が、連結状態において、はめ合い結合を形成する。このようにして、これら差込部を用いることにより、第1ドリルビット部材及び第2ドリルビット部材は、回転軸線に直交する全ての方向において、ぴったりと密着して連結される。はめ合い結合とは、2つの差込部が差込方向に沿って移動し、少なくとも一方向においてぴったりと密着した結合状態を形成する結合のことをいう。雄側差込部と雌側差込部とのはめ合い結合は、作業者が容易に着脱可能である。また、はめ合い結合によって連結されるドリルビットの部材は、互いの向きを合致させることができる。
好ましい態様において、雄側差込部の端面は、雌側差込部との連結状態において、雌側差込部の規制用係止段部に当接する。ドリル加工の際の、ドリル軸部材から切削部材への力の伝達は、雄側差込部の端面と雌側差込部の規制用係止段部とを介して行われる。力の伝達がピンを介して行われないので、雌側差込部が変形する可能性が低減され、本発明に係るドリルビットは大きな安定性を有している。規制用係止段部は、リング状または環状の断面形状となるように形成してもよい。環状の規制用係止段部にぴったりと接する端面により、ドリルビットは、冷却洗浄剤の漏出を防止するような密封状態に構成することができる。例えば、ドリルビットの挿入端部から供給された冷却洗浄剤は、加工作業が行われる箇所に行き渡り、切削素子が確実に冷却されながら切削が行われる。
特に好ましくは、雌側差込部が切削部材に設けられ、雄側差込部がドリル軸部材に設けられる。雌側差込部は、基材によって外面が摩耗していく。従って、交換可能な切削部材の方が高い荷重を受けるように差込部を構成するのが有利である。
好ましい態様において、第1結合機構及び第2結合機構は、少なくとも1つのピンと、少なくとも1つのスリット状切欠とを有し、ピンがスリット状切欠の内部に移動可能である。ドリルビットの部材を連結した状態において、ドリル軸部材から切削部材へのトルクの伝達は、これらピン及びスリット状切欠を介して行われる。
好ましくは、少なくとも1つのピンは、雄側差込部の外周面に配置され、雌側差込部が少なくとも1つのスリット状切欠を有する。スリット状切欠を有する方のドリルビットの部材は、ピンを有する方のドリルビットの部材に比べ、引張荷重によって変形しやすい。雌側差込部の径は、雄側差込部の径より大きいので、雌側差込部の方が、スリット状切欠を設けることが可能な周面が大きい、即ち、周面におけるスリット状切欠の占める比率が小さいことになる。スリット状切欠を雌側差込部に設けた場合の方が、ドリルビットは、より一層しっかりしたものとなる。また、スリット状切欠を雌側差込部に設けた場合は、市場に流通している工具を用いて作業者が作業しやすいことから、突起及び溝によって形成される離脱防止機能を、より一層容易に解除することが可能である。雄側差込部にスリット状切欠を設けた構成では、結合を解除するための専用の工具が必要になると共に、ドリルビットが引っかかって動かなくなったときに、雄側差込部側に対する作業性が制限されることになる。
少なくとも1つのスリット状切欠は、径方向に雌側差込部を貫通する。本発明に係るドリルビットにおいては、第3結合機構及び第4結合機構が突起及び溝を有しており、連結状態において、密接した結合により切削部材からのドリル軸部材の離脱が抑制される。突起と溝との結合を作業者が解除できるように、雌側差込部は、スリット状切欠によって、弾性を有した複数の部位に分かれる。この弾性による作用は、密接した結合を解除して、溝から突起を抜き出す上で必要である。
ドリルビットの好ましい態様において、雄側差込部の外周面には、ピンが3つ以上配置され、雌側差込部は、スリット状切欠を3つ以上有しており、スリット状切欠の数は、ピンの数と等しいか、またはピンの数より多い。本発明に係るドリルビットの場合、雌側差込部へのトルク伝達は、ピンを介して行われる。このため、ピンは、ドリルビットの回転軸線周りに等間隔で配置されているのが特に好ましい。このようなピンの等間隔配置により、ピンとスリット状切欠との間に特定の割り振りが生じることはなく、任意のスリット状切欠にピンを挿入することができる。雌側差込部のスリット状切欠同士の間に形成される部分が、密接した結合を解除する上で十分な弾性変形を生じるようにするため、少なくとも3つのスリット状切欠が必要である。
好ましくは、突起が雄側差込部の外周面に配置され、雌側差込部が溝を有する。雌側差込部に溝を配置することにより、弾性変形を大きくすることができる。このような構成には、補強部材としても機能しうる突起を雄側差込部に配置して、雄側差込部をより一層堅固なものとすることができるという利点がある。
好ましくは、突起が、軸線方向、即ちドリル軸部材の長手方向軸線に平行でドリルビットの回転軸線に平行な方向において、ピンとドリル軸部材との間に配置され、溝は、軸線方向においてスリット状切欠の位置に配置される。ドリル軸部材を切削部材から分離するため、工具を用い、雌側差込部の端面に対して軸線方向に力を加える。こうして力を加えることにより、雌側差込部の弾性を有した部分が変形し、突起と溝との結合を解除することができる。溝から雌側差込部の規制用係止段部までの距離が長いほど、雌側差込部の弾性を有した部分の変形は大きくなる。
好ましくは、溝が環状に形成されており、ドリルビットの回転軸線に直交する平面に配置される。スリット状切欠の位置を通る環状の溝が、スリット状切欠同士の間にある雌側差込部の部分の弾性作用を受け止める。
好ましくは、軸線方向の溝の長さが、少なくとも1mmであって、軸線方向の突起の長さより長い。軸線方向における、溝の長さと突起の長さとの差は、許容誤差として必要な長さより長くなるように選定される。このような軸線方向の長さの相違は、密接した結合を解除するため、作業者が雌側差込部に工具を固定できるよう、ドリルビットの部材同士の位置を相対的にずらすために利用することができる。
本発明の実施形態について、図面を用い、以下に説明する。図面は、必ずしも一定の縮尺で実施形態を示すものとはなっておらず、説明する上で有用であれば、略図の形式や幾分変形して示すものとなっている。図面から直ちに明らかな教示の補足については、関連する先行技術を参酌するものとする。このため、実施形態の形状や詳細構成についての様々な変形や変更が、本発明の大要から逸脱することなく可能であることを考慮すべきである。特許請求の範囲だけではなく、明細書及び図面に示した本発明の特徴は、それ自体がそれぞれ別個に必須となり得るものであると共に、本発明の展開に関するあらゆる組み合わせも必須となり得るものである。また、明細書、図面及び特許請求の範囲に示した少なくとも2つの特徴の組み合わせは、いずれも本発明の範囲内にある。本発明の大要は、以下に示す好ましい実施形態そのもの、或いはその詳細に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示す主題よりも限定された主題に特定されるものでもない。提示した限界値内にある数値は、限界値として示しうるものとし、任意に適用することが可能である。簡略化のため、以下では、同じまたは同様の機能を有した、同じまたは同様の部材に対し、同じ参照符号を用いる。
図1A及び図1Bは、着脱可能な結合によってドリル軸部材12に結合される切削部材11を有した、本発明に係るドリルビット10を示している。即ち、図1Aは、結合が解除された連結解除状態にある切削部材11及びドリル軸部材12を示し、図1Bは、結合されて連結状態にある切削部材11及びドリル軸部材12を示している。
切削部材11は環状部13を備えており、この環状部13は、ドリル軸部材12から離間する方向に向く一端に、複数の切削素子14が結合され、ドリル軸部材12の方に向く他端側に、第1結合機構15を有している。切削素子14は、環状部13に対し、溶接、ハンダ付け、またはねじ止めにより固定されるか、或いは、その他の適切な取付方法を用いて取り付けられる。切削部材11は、複数の切削素子14に代えて、環状部13に結合される切削用スリーブとして構成された単一の切削素子を有するようにしてもよい。
ドリル軸部材12は円筒状のドリル軸16を備えており、このドリル軸16は、切削部材11の方を向く一端に第2結合機構17を有し、切削部材11から離間する方向に向く他端に受容部18が結合されている。受容部18は、カバー19と挿入端部20とを備える。ドリルビット10は、挿入端部20を介してドリル装置の工具ホルダに取り付けられる。ドリル加工の際、ドリルビット10は、回転軸線22を中心に回転方向21に駆動され、加工対象の基材内へと、回転軸線22に平行なドリル加工方向23に移動していく。回転軸線22は、ドリル軸16の中心軸線及び環状部13の中心軸線と同軸である。ドリルビット10は、回転軸線22に直交する方向に円形の断面形状を有するが、本発明に係るドリルビットは、多角形など、別の適切な断面形状を有していてもよい。
第1結合機構15は、第1差込部である雌側差込部24と、この雌側差込部24に設けられた6つのスリット状切欠25とを備える。第2結合機構17は、第2差込部である雄側差込部26と、この雄側差込部26の外周面28に取り付けられて径方向外方に指向された6つのピン27とを備える。
図1Bに示す連結状態において、第1結合機構15及び第2結合機構17は、切削部材11とドリル軸部材12との着脱可能な連結を行う。これら第1結合機構15及び第2結合機構17を介し、ドリル軸部材12から切削部材11への力の伝達及びトルクの伝達が行われる。
ピン27及びスリット状切欠25は、回転軸線22周りに等間隔に配置される。このような等間隔の配置により、ピン27とスリット状切欠25との間で、特定の割り振りが生じることはなく、ピン27は、任意のスリット状切欠25に挿入することができるようになっている。スリット状切欠25は長手方向スリットからなり、この長手方向スリットの長手方向軸線は、回転軸線22に平行となっている。このようなスリット状切欠25の形状は、I字状スリットともいう。図示した実施形態において、ピン27は、矩形状断面を有して形成されている。これに代え、ピン27は、円形断面、台形断面、またはその他の適切な断面形状で形成することが可能である。また、スリット状切欠25の形状も、上記形状に代えて、L字状、またはT字状に形成することができる。
力及びトルクの伝達を維持すると共に、個々の領域が過荷重となるのを防止するため、ドリル軸部材12から切削部材11への力及びトルクの伝達が行われる際の経路となる接触部分は、点接触や線接触ではなく、面接触とすべきである。このような接触領域は、ピン27の断面形状によって調整することが可能である。いずれにしても、ドリル軸部材12が回転する際に、I字状スリットであるスリット状切欠25の側壁に当接するピン27を介してトルク伝達が行われる。また、力の伝達も、ピン27を介し、或いは雄側差込部26の端面29が当接する規制用係止段部を介して行われる。
切削部材11は、第1結合機構15に加え、第1結合機構15とは異なる第3結合機構31を有し、ドリル軸部材12は、第2結合機構17に加え、第2結合機構17とは異なる第4結合機構32を有する。ドリルビット10が連結状態にあるとき、第3結合機構31及び第4結合機構32は、切削部材11とドリル軸部材12との密接した結合を、軸線方向で形成する。切削部材11は、第3結合機構31及び第4結合機構32によって、当該切削部材11からのドリル軸部材12の離脱防止がなされるようになっている。
第3結合機構31は、雌側差込部24の内周面に配置された溝33からなる。第4結合機構32は、雄側差込部26の外周面28に配置されて径方向外方に突設された突起34からなる。
作業者は、簡単且つ迅速に、切削部材11をドリル軸部材12に結合することが可能である。即ち、ピン27がスリット状切欠25内に位置するようにして、雌側差込部24を有した切削部材11を、ドリル軸部材12の雄側差込部26に装着する。そして、突起34が溝33内に係止するまで、切削部材11を軸線方向に移動する。
図2は、図1A中のA−A面に沿った長手方向断面で、本発明に係るドリルビット10のドリル軸部材12を示している。ドリル軸部材12は、一体で形成された円筒状のドリル軸16と雄側差込部26とを備える。このような一体構成に代えて、雄側差込部26を別体の部材として形成した後、ドリル軸16に結合するようにしてもよい。
雄側差込部26は、外周面28、端面29、及び内周面35を備えており、ドリル軸16と雄側差込部26との境界には、環状の規制用係止段部36が形成されている。雄側差込部26の外周面28には、ピン27及び突起34が配置されている。ピン27、突起34、及び雄側差込部26は、様々な材料で形成し、互いに結合するようにしてもよいし、同一の材料で形成するようにして、ピン27及び突起34を、圧縮加工やプレス加工といった成形処理によって形成してもよい。
突起34は、軸線方向、即ちドリル加工方向23で、雄側差込部26のピン27と規制用係止段部36との間に配置されている。切削部材11からドリル軸部材12を分離するには、工具を用い、雌側差込部24の端面に対し、軸線方向に力を加える。このように力を加えることで、雌側差込部24の弾性を有した部分が変形し、突起34と溝33との結合を解除することが可能となる。溝33から雄側差込部26の端面29までの距離が長いほど、雌側差込部24の変形が大きくなる。
図3は、図1A中のB−B面に沿った長手方向断面で、本発明に係るドリルビット10の切削部材11を示している。切削部材11は、環状部13、切削素子14、及び雌側差込部24を備える。図示した実施形態において、環状部13及び雌側差込部24は、一体で形成されている。このような一体構成に代えて、雌側差込部24を別体の部材として形成した後、環状部13に結合するようにしてもよい。
切削素子14は、環状部13に沿って、回転軸線22に直交する平面に、環状に配置され、それぞれが外側端41と内側端42とを有している。環状部13は、切削素子14の内側端42に対して面一となっており、反対側の外側端41に対して段部43を形成している。これら切削素子14の外側端41により、外径を有した外側円が形成され、これら切削素子14の内側端42により、内径を有した内側円が形成される。切削素子14は、これら切削素子14が形成する外側円の外径に相当する穴径を有したドリル穴を基材に形成する。また、ドリルビット10の内側には、これら切削素子14が形成する内側円の内径に相当するコア径を有したドリルコアが形成される。
環状部13は、内側にガイド部44及びコア除去部45を備える。コア除去部45は、ドリルコアの除去を補助する傾斜面を有している。ガイド部44は、切削素子14と面一となっており、ドリル加工の際に切削素子14のガイドとなる。ドリルビット10の内周面に設けるガイドの代替として、ガイド部を外周面に配置してもよいし、外周面と内周面とに配置してもよい。
雌側差込部24は、外周面46、内周面47、及び端面48を備える。環状部13と雌側差込部24との境界には、環状の規制用係止段部49が形成されている。また、雌側差込部24は、切削素子14の方に向かうにつれて増大する径を有した傾斜外面50を備える。
雌側差込部24の内周面47には、溝33が設けられている。雌側差込部24に溝を設けることにより、雌側差込部24の弾性変形を増大させることができる。溝33は、環状に形成されており、ドリルビット10の回転軸線22に直交する平面に配置される。軸線方向においてスリット状切欠25に対応する位置に配置された環状の溝33が、スリット状切欠25同士の間にある雌側差込部24の部分の弾性作用を受け止める。
図4は、着脱可能な結合によって切削部材11及びドリル軸部材12が連結された状態の、本発明に係るドリルビット10を、図1B中のC−C面に沿った長手方向断面で示している。
連結状態において、ドリル軸部材12は、切削部材11の規制用係止段部49に端面29が当接している。雄側差込部26は、雌側差込部24より長いため、雌側差込部24の端面48と、雄側差込部26の規制用係止段部36との間には、軸線方向に間隙51が生じる。雄側差込部26と雌側差込部24との長さの違いにより、雄側差込部26の端面29を雌側差込部24の規制用係止段部49に確実に当接させ、ドリル加工の際に、ドリル軸部材12から切削部材11に力を確実に伝達することが可能となる。
突起34及び溝33の保持力は、突起34及び溝33の外形形状で調整することが可能である。突起34と溝33との係合は、作業者にとって可能な限り扱いやすくすべきであって、傾斜した面により、係合が容易となる。保持力を調整する上での外形的な要素としては、例えば、突起34の高さ、即ち径方向の高さ、突起34と雄側差込部26との当接面、及び傾斜角度がある。
溝33の幅、即ち軸線方向の溝33の長さは、少なくとも1mmであって、軸線方向の突起34の長さより長くなっている。軸線方向における溝33と突起34との長さの違いは、許容誤差として必要な長さよりも長くなるように選定される。このような長さの相違は、密接した結合を解除するため、作業者が間隙51を拡大し、この間隙51内に工具を組み付けられるよう、切削部材11とドリル軸部材12との位置を相対的にずらすために利用することができる。