以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の実施の形態に係る第1の振動型アクチュエータの構成例について説明する。図1A〜図1Cは、第1の振動型アクチュエータ10の概略構成を説明するための図であり、図1Aは、振動型アクチュエータ10の概略構成を示す斜視図である。振動型アクチュエータ10は、被駆動体1及び振動体2を備える。振動体2は、基材である略矩形平板状の弾性体2bと、弾性体2bの一方の面に接着剤等により接合された略平板状の圧電素子2cと、弾性体2bにおいて圧電素子2cが接合されている面の反対側の面に設けられた2つの突起部2aとを有する。
説明の便宜上、図1Aに示すように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を規定する。X軸方向は、2つの突起部2aを結ぶ方向であり、後述するように、被駆動体1と振動体2の相対的な移動方向である。Z軸方向は、弾性体2bの厚み方向であり、突起部2aの突出方向である。Y軸方向は、X軸及びZ軸の両軸と直交する方向であり、弾性体2bの幅方向である。被駆動体1は、不図示の加圧手段により、Z軸方向において2つの突起部2aと加圧接触している。以降、振動体2において被駆動体1と接触する部分を第1の接触部、被駆動体1において振動体2の第1の接触部と接触する部分を第2の接触部とする。振動型アクチュエータ10では、例えば、突起部2aの先端にX軸方向とZ軸方向とを含む面内(ZX面内)で楕円運動を生じさせることにより、被駆動体1と振動体2とをX軸方向に相対的に移動させることができる。
図1Bは、圧電素子2cの電極構造を示す平面図である。電気−機械エネルギ変換素子の一例である圧電素子2cには、X軸方向に2等分された電極領域が形成されており、各電極領域における分極方向は同一方向(+)となっている。例えば、面外1次曲げ振動モードと面外2次曲げ振動モードの各共振周波数に近い周波数の交番電圧VA,VBを圧電素子2cの2つの電極に図1Bに示すように印加する。これにより、面外1次曲げ振動モードの振動と面外2次曲げ振動モードの振動が合成されることで、突起部2aにZX面内での楕円運動が生じ、この楕円運動によって被駆動体1と振動体2とをX軸方向に相対移動させることができる。
なお、面外1次曲げ振動モードは、Y軸方向での曲げ振動であり、振動体2にX軸方向と略平行に2本の節線が現れる振動モードである。面外2次曲げ振動モードは、X軸方向での曲げ振動であり、振動体2にY軸方向と略平行に3本の節線が生じる振動モードである。2つの突起部2aは、面外1次曲げ振動モードの振動の腹となる位置、且つ、面外2次曲げ振動モードの振動の腹となる位置に設けられている。このようにして振動体2の突起部2aにZX面内で楕円運動を生じさせる原理は周知であるので、より詳細な説明は省略する。
図1Cは、被駆動体1の概略構成を示す斜視図である。角棒状の被駆動体1は、一定の気孔率を有するようにステンレス粉末を焼結させたステンレス焼結体からなり、被駆動体1の一方のXY面が突起部2aと加圧接触する第2の接触部(摩擦面、摩擦摺動面)となっている。被駆動体1は、例えば、ステンレス粉末を周知の成形方法によって角棒状に成形し、成形体を真空雰囲気等の非酸化雰囲気で焼結させ、得られた焼結体の少なくとも摩擦面を研磨(研削)加工することにより作製される。ステンレス粉末としては、例えば、JIS規格で規定されるSUS420j2粉末(例えば、平均粒径が10μm程度)を用いることができる。この場合の焼結条件としては、例えば、真空雰囲気、1100℃で30分間保持する焼結処理を行った後、急冷するプロセスを用いることができる。SUS420j2焼結体を作製する場合、焼結温度からの急冷処理を通じて焼結体に対して焼き入れによる硬化処理を施すことができる。これにより、SUS420j2焼結体からなる被駆動体1の耐摩耗性を高めて、振動型アクチュエータ10の耐久性を向上させることができる。この効果を得るためには、SUS420j2焼結体のビッカース硬さは、600HV以上であることが望ましい。
被駆動体1であるステンレス焼結体は、一定量の気孔を有する。したがって、振動型アクチュエータ10が高湿度環境下に放置されて被駆動体1の第2の接触部(摩擦面)に水分(水分子)が付着しても、気孔が水分の排斥場所となることで、突起部2aと被駆動体1との間の真実接触部が確保されやすくなる。その結果、振動型アクチュエータ10の保持力の低下を抑制することができる。また、被駆動体1は、従来技術で説明したような、硬質粒子が相手材に食い込むことで摩擦駆動力を発生させる摩擦材とは異なり、相手材である突起部2aの摩耗を促進することはない。このステンレス焼結体の摩擦面における突起部2aと接触する範囲の気孔の割合(以下、「表面気孔率」という。)は平均値が約5〜40%の時に、保持トルク又は保持力の低下が低減される効果が確認されている。特に耐摩耗性の観点から表面気孔率の平均値は10%前後であることが望ましい。表面気孔率は、例えば、顕微鏡を用いて摩擦面の表面を画像として画像処理ソフトに取り込むことにより、測定することができる。なお、ステンレス焼結体の摩擦面は徐々に摩耗していくため、軽微な摩耗であれば表面気孔率はほぼ変わらないが、摩耗後でも表面気孔率は前述の通りであることが望ましい。
上述した効果は、被駆動体1がSUS420j2焼結体からなる場合に限定されず、その他のステンレス材の焼結体からなる場合にも得ることができる。なお、被駆動体1に存在する気孔は、摩耗粉の吸収(吸着)場所となるため、摩擦面での摩耗粉の堆積が抑制されることによって、駆動性能に変化が生じることを抑制することができると共に摩耗粉の飛散により美観を損なう等の問題の発生を回避することができる。また、摩耗粉の外部への飛散が抑制されることで、振動型アクチュエータ10を装備した電子機器等の各種機器への摩耗粉の影響を抑制することができる。
図1Dは、被駆動体1の変形例の概略構成を示す斜視図である。被駆動体1の変形例は、基材である本体部1bと、本体部1bに設けられた摩擦部1aとを有する。摩擦部1aは、振動体2の突起部2aと接触する第2の接触部であり、振動型アクチュエータ10を駆動すると振動体2の突起部2aと摩擦摺動する部位である。摩擦部1aは、ステンレス焼結体を含み、気孔(空孔)が存在する。これらの気孔が水分の排斥場所となることで、突起部2aと摩擦部1aとの間の真実接触部が確保されやすくなる。その結果、振動型アクチュエータ10の保持力の低下を抑制することができる。また、摩擦部1aに存在する気孔は摩耗粉の吸収(吸着)場所となるため、摩擦面(摩擦摺動面)での摩耗粉の堆積が抑制されることによって、駆動性能に変化が生じることを抑制することができる。更に、摩耗粉の外部への飛散が抑制されることで、振動型アクチュエータを装備した電子機器等の各種機器への摩耗粉の影響を抑制することができる。加えて、摩擦部1aは、従来技術で説明したような、硬質粒子が相手材に食い込むことで摩擦駆動力を発生させる摩擦材とは異なり、相手材である突起部2aの摩耗を促進してしまうことはない。
摩擦部1aの本体部1bへの形成方法を説明する。まず、ステンレス粉末を分散させたスラリー(ペースト)を、角棒状のステンレス材からなる本体部1bの1つの面上にスクリーン印刷法等を用いて塗布することにより、ステンレス粉末を本体部1b上に成形する。続いて、スラリー塗布部(ステンレス粉末の成形部)と本体部1bとを一体で所定温度に加熱して焼成することにより、成形されたステンレス粉末を焼結させる。これにより、ステンレス焼結体である摩擦部1aと角棒状の本体部1bが一体焼結により直接に結合した被駆動体1を得ることができる。なお、摩擦部1aと本体部1bが直接に結合したとは、接着剤やろう材等の他の素材を介さずに結合していることをいう。
また、本体部1bにはSUS304等のステンレス材が用いられ、摩擦部1aの原料となるステンレス粉末には平均粒径が10μm程度のSUS420j2粉末を用いることができる。この場合の焼結条件は、上述した被駆動体1の焼結条件と同じである。
被駆動体1やその摩擦部1aにステンレス焼結体を用いると共に或いはその代わりに、突起部2aの第1の接触部にステンレス焼結体を設けて摩擦面を形成してもよい。図2A、図2Bは、ステンレス焼結体からなる摩擦部(第1の接触部)2aaを有する突起部2aの概略構成を説明するための図である。図2Aは、摩擦部2aaを有する突起部2aの概略構成を示す斜視図であり、図2Bは、摩擦部2aaを有する突起部2aの概略構成を示す断面図である。弾性体2bには、例えば、SUS420j2等の板状のステンレス材をプレス加工することにより、弾性体2bに突起部2aを一体的に形成すると共に、突起部2aの先端の中心部に凹部を形成した部材を用いることができる。突起部2aの凹部には、摩擦部1aと同等の組織(微構造)を有する摩擦部2aaが設けられ、摩擦部2aaは、例えば、弾性体2bとの一体焼結により形成される。摩擦部2aaの表面は略球面状に形成されており、これにより、被駆動体1との接触位置を規定することができると共に、摩擦部2aaの摩耗の進行に伴って形成される面を円形に維持することができる。その結果、振動型アクチュエータ10の性能を安定させることができる。
次に、本発明の実施の形態に係る摩擦材が用いられる第2の振動型アクチュエータの構成について説明する。図3A〜図3Cは、第2の振動型アクチュエータ20の概略構成を説明するための図であり、図3Aは、振動型アクチュエータ20の分解斜視図である。振動型アクチュエータ20は、リング状の被駆動体5及び3個の振動体2を備える。3個の振動体2はそれぞれ、2つの突起部2aを結ぶ方向が被駆動体5の内周又は外周と同心の円の接線方向となるように、不図示の基台に配置され、これにより被駆動体5をその周方向に回転させることができる。なお、振動体2の突起部2aの先端と被駆動体5において径方向と略平行な一方の面(摩擦面5d(図3B参照))とが、不図示の加圧手段により加圧接触している。同じ仕様の3個の振動体2を配置した上で、各振動体2が配置される基台と被駆動体5のそれぞれの大きさ(形状)を変えることにより、種々の外径及び内径を有する振動型アクチュエータを作製することができる。
被駆動体5は、例えば、オーステナイト系ステンレスの一種であるSUS316粉末の焼結体からなり、振動体2と接触する第2の接触部の摩擦面5dには窒化層が設けられると共に樹脂が含浸されている。図3Bは、被駆動体5の製造工程を模式的に示す図である。SUS316粉末を周知の成形方法を用いて円環状に成形し、所定の条件で焼結することにより、平均粒径が例えば75μm程度の焼結体5aを作製する。焼結体5aに対して切削加工を施すことによって形状を整えた後に、焼結体5aにおいて径方向と略平行な一方の面に耐摩耗性を高めるための硬化処理を施す。具体的には、イオン窒化法により、窒化層5bを設ける。更に、窒化層5bの表面に液状のエポキシ樹脂5cを塗布し、焼結体5aを50℃に保持することによりエポキシ樹脂の粘度を低下させて、窒化層5bの気孔部へ含浸させる。この含浸処理は真空雰囲気で行ってもよい。これによりエポキシ樹脂5cの気孔への含浸を促進することができる。その後、エポキシ樹脂5cの硬化処理を、例えば、焼結体5aを80℃に1時間保持することにより行う。続いて、窒化層5b上の樹脂硬化部の除去処理を、例えば、GC#320のエメリー紙を用いて行った後、銅定盤と多結晶ダイヤモンド(平均粒径:3μm)とを用いた研磨加工(ラッピング)を行い、平滑化された摩擦面5dを形成する。これにより、被駆動体5が得られる。
なお、振動型アクチュエータ20において、摩耗粉を気孔内部に堆積させるためには、被駆動体5が有する全ての気孔に樹脂を含浸させずに、一部に気孔を残存させることが望ましい。このような被駆動体5に対する樹脂含浸は、図1を参照して説明した被駆動体1に対しても同様に適用することができる。また、被駆動体5に求められる特性に応じて、液状のエポキシ樹脂中にグリーンカーボランダム(GC)或いはホワイトアランダムセラミック粉末(WA)等のセラミック粉末を混合してもよい。添加するセラミック粉末の種類、粒径、粒形態、量等は、焼結体5aの気孔率や気孔径等を考慮した上で、被駆動体5に要求される特性に応じて適宜調整することができる。また、エポキシ樹脂に代えて、アクリル樹脂を用いて含浸処理を行ってもよい。
被駆動体5に用いられるステンレス材はオーステナイト系ステンレスに限定されるものではなく、SUS420j2等のマルテンサイト系ステンレスのリング状焼結体であってもよい。被駆動体5にSUS420j2粉末の焼結体を用いる場合、焼結温度で所定時間保持した後に急冷処理を行うことにより、焼き入れが行われて硬度を高めることができ、これにより耐摩耗性(耐久性)を向上させることができる。但し、湿度の影響による保持トルク又は保持力の低下を抑制するという本発明の目的に照らせば、被駆動体5の摩擦面5dが硬化処理された面であることは必須ではなく、また、窒化層5bに樹脂が含浸されていることも必須ではない。図3Cは、窒化層を設けない場合の被駆動体5の製造工程を模式的に示す図である。被駆動体5にSUS420j2粉末の焼結体を用いる場合には、焼き入れにより硬度を高めることができるため、窒化層は必須ではなくなる。その一方で、耐摩耗性を高める(耐久性を向上させる)という特性が得られるように、摩擦面5dは、硬化処理が施されると共に樹脂の含浸処理が施された面であることが望ましい。
図3D、図3Eは、第2の振動型アクチュエータの変形例の概略構成を説明するための図である。
図3Dは、第2の振動型アクチュエータの変形例の被駆動体5の斜視図である。図3Eは、当該被駆動体5のスラスト軸を含む断面図であり、2つ現れる断面のうちの一方のみを表している。被駆動体5は、第2の接触部としての摩擦部5aa及び基材である本体部5bbを有する。摩擦部5aaは振動体2の突起部2aと加圧接触し、振動型アクチュエータを駆動すると突起部2aに励起された楕円運動による摩擦駆動力を受ける。摩擦部5aaは、本体部5bbに設けられた円環状の凹部(溝)に埋設されるように配置されている。
被駆動体5の第1の作製方法について説明する。まず、SUS316から成り、一方の面に凸部5b2が形成され、凸部5b2に凹部5b1が形成された本体部5bbを準備する。なお、本体部5bbの作製方法はこれに限定されない。具体的には、SUS316粉末(平均粒径10μmの水アトマイズ粉末)に対して銅粉末(平均粒径:10μm)を2重量%混合した混合粉末を作製する。次いで、混合粉末を凹部5b1に充填し、筒状のポンチ(加圧部材)を用いて約50MPa(1.5トン/300mm2)の圧力を所定時間加えて成形した後、本体部5bbと一体で、真空雰囲気中、1100℃で1時間保持し、窒素ガスにて急冷する。これにより、本体部5bbと強固に結合したステンレス焼結体が形成される。
摩擦部5aaは、高い耐摩耗性を有することが望ましい。ここで、SUS316は、オーステナイト系ステンレスであり、オーステナイト系ステンレスでは、マルテンサイト変態を用いた硬化方法を採ることができない。そこで、ステンレス焼結体の上面を凸部5b2と共に切削加工した後、ステンレス焼結体の表面にイオン窒化法により窒化層を形成する。最後に、銅定盤を有する周知のラッピング装置と多結晶ダイヤモンド粉末(平均粒径:3μm)とを用いて、窒化層の表面を凸部5b2の表面と共に平滑化する。これにより、凸部5b2の上面と摩擦部5aaとが同一平面となる。平滑化処理では、本体部1bから突出している焼結体及び凸部5b2のみを平滑化処理すればよいため、処理時間の短縮を図ることができる。その結果、摩擦部5aaを有する被駆動体5を得ることができる。
次に、窒化処理を行わないことにより、製造工程の工数を削減することが可能な被駆動体5の第2の作製方法について説明する。図4は、被駆動体5の第2の作製方法を模式的に説明するための工程図である。被駆動体5の本体部5bbは、例えば、フェライト系ステンレスであるSUS430の切削加工により作製されるが、作製方法はこれに限定されるものではない。SUS430の熱膨張率の値は、摩擦部5aaの原料となるマルテンサイト系ステンレスであるSUS420j2の熱膨張率に近い。そのため、本体部5bbにSUS430を用いることにより、焼結により摩擦部5aaが形成されたときに、摩擦部5aaにクラックが生じることを抑制することができる。なお、熱膨張率を含めた諸特性が摩擦部5aaに用いられるステンレス材と類似している鉄系材料を本体部5bbに用いることは、クラックの発生を抑制するだけでなく、摩擦部5aaと本体部5bbとの相互拡散による密着性の向上を図る観点からも望ましい。
本体部5bbには周方向に凹部5b1が設けられている。摩擦部5aaの原料となるSUS420j2粉末(例えば、平均粒径:10μm)を凹部5b1に充填し、表層付近の粉末をすり切ることで凹部5b1が形成されている凸部と同一高さの粉末充填部5a1を形成する。なお、摩擦部5aaの原料にマルテンサイト系ステンレスを用いることにより、焼結処理に引き続いて焼き入れによる硬化処理を行うことができる。粉末充填部5a1を形成する際に造粒した粉体を使用すると、粉体の流動性が向上する。これにより、次工程であるプレス工程で用いるポンチ等への粉体の付着を低減することができる等、取り扱い性を向上させることができる。続いて、筒状のポンチ8を用いて粉末充填部5a1を、例えば1〜15ton/300mm2の圧力で加圧するプレス工程を行うことにより圧粉体5a2とする。その際、ポンチ8の内外周面(加圧方向と略平行な面)と凹部5b1の内外周壁面(側壁面)との間に充分なクリアランスを設ける。振動体2の突起部2aと摩擦摺動する領域は圧粉体5a2の中央付近であり、その部分では、ポンチ8による加圧力が作用しているためにSUS420j2粉末の充填密度は高められている。
続いて、圧粉体5a2が形成された本体部5bbの焼結処理を行う。焼結処理は、例えば、真空雰囲気中(真空炉内)、1150℃で1時間保持した後に1050℃に温度を下げ、1050℃で30分間保持した後に、同一炉内において窒素ガスで急冷することによって行う。これにより、粉末充填部5a1は、焼結体5a3となって本体部5bbと直接に結合して一体化する。なお、別途実施した硬さ試験により、焼結体5a3において前段のプレス工程においてポンチ8による加圧力が作用した部分でのビッカース硬さは600HV以上となっていた。すなわち、焼結工程において同時に焼き入れ硬化が行われたことが確認された。
次いで、焼結体5a3の凹部に液状エポキシ樹脂5cを塗布し、50℃で30分間保持することにより液状エポキシ樹脂5cの粘度を低下させることにより、焼結体5a3の気孔の一部へ液状エポキシ樹脂5cを含浸させる。このとき、含浸処理を真空中で行ってもよい。これにより液状エポキシ樹脂5cの気孔への含浸を促進することができる。その後、例えば、液状エポキシ樹脂5cを80℃で1時間放置することにより、液状エポキシ樹脂5cを硬化させる。これにより、焼結体5a3は樹脂含浸部5a4となる。なお、摩擦部5aaに求められる特性に応じて、液状エポキシ樹脂5c中にグリーンカーボランダム(GC)或いはホワイトアランダムセラミック粉末(WA)等のセラミック粉末を混合してもよい。これにより、焼結体5a3の気孔の一部にセラミック粉末を分散させることができる。添加するセラミック粉末の種類、粒径、粒形態、量等は、焼結体5a3の気孔率や気孔径等を考慮した上で、摩擦部5aaに要求される特性に応じて適宜調整することができる。凸部5b2の上面部及び硬化した樹脂含浸部5a4を切削加工した後、切削加工面を銅定盤に当接させ、銅定盤を回転させながら銅定盤に多結晶ダイヤモンド粒子(平均粒径:3μm)を含む研磨材(スラリー)を滴下することにより平滑化処理(研磨処理)を行う。なお、凸部5b2及び硬化した樹脂含浸部5a4の上面部の除去は、切削加工に代えて、グリーンカーボランダム(GC)等の粒子からなる砥石による研削加工によって行ってもよい。
図5は、平滑化処理後の摩擦部5aaと本体部5bb(凸部5b2)の研磨面(表面)における境界近傍の微構造を示す写真である。摩擦部5aaの中心部(写真左側)と本体部5bb(写真右側)との境界部では、写真上で黒く見える気孔が多く、摩擦部5aaの中心部よりも密度が小さくなっていることがわかる。これは、ポンチ8の加圧力が直接的に作用する圧粉体5a2の中心部では粉末充填密度が高いために焼結体密度は高くなり、ポンチ8の加圧力が直接的に作用しない圧粉体5a2の周縁部では、粉末充填密度が小さいために焼結体密度も小さくなるからである。摩擦部5aaでは、中心部と周縁部(本体部5bbとの境界部)とに焼結体密度の差又は傾斜を設けることによって、緻密体である本体部5bbと一体で焼結処理を行った場合であっても、焼結体にクラック等が発生することが抑制されると考えられる。なお、クラックの発生が抑制される効果は、SUS420j2よりも熱膨張率の大きなオーステナイト系ステンレスSUS304を摩擦部5aaに用いた場合であっても同様に得ることができる。
図6は、被駆動体5の第3の作製方法を模式的に説明するための工程図である。準備する本体部5bbは、第2の作製方法で用いたものと同じであるため、ここでの説明を省略する。SUS420j2粉末(平均粒径:10μm)のスラリーを作製する。作製したスラリーを凹部5b1に充填した後、80℃で1時間保持して乾燥させることにより、粉末充填部5a1を形成する。次に、筒状の形状を有し、径方向中央部に窪み(凹部)が形成されたポンチ9を用いて、粉末充填部5a1を170MPa(=約5ton/300mm2)で加圧することにより圧粉体5a2とする。ポンチ9の窪みは、凸部5b2を凹部5b1側に倒すことができる形状に設計されている。そのため、凸部5b2が粉末充填部5a1側に倒れることで、圧粉体5a2の表面と凸部5b2とはほぼ同じ高さとなる。その後、第2の作製方法と同様に焼結処理と平滑化処理を行う。これにより、平滑な表面を有する摩擦部5aaを備える被駆動体5が得られる。
なお、スラリーにバインダ等の有機物が多く含まれる場合には、焼結処理に先立って、圧粉体5a2及び本体部5bbが酸化されない条件で、脱バインダ(脱脂)処理を行うことが望ましい。焼結処理後には、焼結体5a3を形成している粒子間の接合性を高めるために、エポキシ系或いはアクリル系等の接着剤を焼結体5a3に含浸させてもよい。第3の作製方法では、凸部5b2において凹部5b1側に折り曲げられた部分を、切削加工等で除去する工程を設けることなく平滑化処理(研削加工又は研磨加工)によって除去することができるため、摩擦部5aaの表面を短時間で所望の状態に仕上げることが可能となる。
次に、本発明の実施の形態に係る摩擦材が用いられる第3の振動型アクチュエータの構成例について説明する。図7は、第3の振動型アクチュエータ30の概略構成を説明する断面図である。図8は、振動型アクチュエータ30の分解断面図であり、主要部品のみを示している。振動型アクチュエータ30では、大略的に、フランジ19、側面カバー25、ハウジング21a,21bからなるケースに内部構成部品が収容されている。振動型アクチュエータ30は、内部構成部品として、被駆動体11A,11B、振動体12、支持部材14、フレキシブルプリント配線基板13、加圧ばね23a,23b及び加圧力均一化リング24a,24bを有する。また、振動型アクチュエータ30は、回転伝達部材22a,22b、内部軸受け15a,15b、シャフト16、軸受け26a,26b、Eリング17及びスペーサ18を有する。
振動型アクチュエータ30は、2つの被駆動体11A,11Bで振動体12を挟み込むことで、被駆動体が1つの振動型アクチュエータと比べて、2倍のトルクを発生させることができる。また、振動体12に2つの被駆動体11A,11Bを押し当てるための加圧ばね23a,23bによる加圧力の反力は、その中心にある出力軸であるシャフト16の張力になっているだけである。よって、加圧ばね23a,23bに起因するスラスト力は、軸受け26a,26bには加わらない。そのため、加圧ばね23a,23bに起因するスラスト力を受け止める大きな軸受けは不要であり、またその軸受けの摩擦によるエネルギ損失も生じない。このような構造により、小型、高トルク、高効率という特性を実現することができる。また、加圧ばね23a,23bに起因するスラスト力は、軸受け26a,26bには加わらないため、振動体12を支持する支持部材14には被駆動体11A,11Bの回転トルクに起因するねじれ反力のみが加わることから、シャフト16の軸方向での剛性は小さくても構わない。そして、支持部材14自体を、シャフト16の軸方向と直交する方向で柔軟な構成とすることで、振動体12の振動を阻害しないようにしている。支持部材14は、ハウジング21aと側面カバー25との間に挟まれることによって固定されている。ハウジング21aには軸受け26aが固定されており、スペーサ18を介してEリング17を設けることで、シャフト16にスラスト力が加わっても、振動型アクチュエータ30の摩擦部(詳細は後述する)の加圧力には影響が及ばない構造となっている。
振動体12は、中央部分に電気−機械エネルギ変換素子である圧電素子12cが配置され、圧電素子12c、支持部材14及びフレキシブルプリント配線基板13を挟んで2つの弾性体12a,12bが互いに電気抵抗溶接により接合された構造を有する。フレキシブルプリント配線基板13は、圧電素子12cに電力を供給し、また、圧電素子12cの変形の結果として生じる電圧を検出する端子としての役割を担う。
振動型アクチュエータ30は、圧電素子12cを中心として、シャフト16の軸方向で略対称な構造を有している。振動体12が樹脂製の内部軸受け15a,15bによって挟まれるように振動体12と内部軸受け15a,15bにシャフト16を挿入する。ここで、振動体12は略円柱状に構成されており、2つの曲げ振動を合成することで縄跳びでの縄のような振動運動を行う。内部軸受け15a,15bは、振動体12に励起される振動を阻害しないように振動のほぼ節となる位置に配置され、これにより、振動体12とシャフト16との直接接触を回避しながら、シャフト16との同軸性が確保されている。シャフト16には、被駆動体11A,11Bと、被駆動体11A,11Bを振動体12に押し当てて摩擦力を発生させる加圧ばね23a,23bが挿入されている。加圧ばね23aと被駆動体11Aとの間及び加圧ばね23bと被駆動体11Bとの間にはそれぞれ、加圧ばね23a,23bの端部で生じる加圧ムラを軽減するための樹脂製の加圧力均一化リング24a,24bが配置されている。
被駆動体11Aは、バネ性を有する円環状の金属摩擦部材31と円環状の弾性体32とを接着した後に金属摩擦部材31の摩擦面を平滑化加工し、回転伝達部材22aに弾性体32を接着することにより形成される。被駆動体11Bの構造は、被駆動体11Aと同じである。回転伝達部材22a,22bは、シャフト16に圧入される。
図9A、図9Bは、振動体12に設けられた摩擦部12dを説明するための図である。図9Aは、図7に示す領域Aの拡大図である。バネ性を有する金属摩擦部材31は、加圧バネ23a,23bが伸びようとする力によって振動体12に設けられた摩擦部(第1の接触部)12dと加圧接触する第2の接触部である。図9Bは、弾性体12aの斜視図である。摩擦部12dは、振動型アクチュエータ20の被駆動体5と同様のステンレス焼結体であり、接着剤により弾性体12aに接合されている。ステンレス焼結体は、一般には振動減衰が大きく、特に焼結体の気孔部に樹脂が含浸されている場合に振動減衰が大きくなる傾向が顕著に現れる。しかし、ステンレス焼結体である摩擦部12dが、弾性体12aの一部にのみ形成されている場合には、摩擦部12dが原因で振動が減衰することは実質的に起こらない。つまり、摩擦部12dを金属摩擦部材31と接触するように振動体12(弾性体12a)の一部に設けることで、振動が減衰しにくいという振動体12に要求される特性を確保することができる。また、摩擦部12dが基材である弾性体12aの一部に設けられる場合、振動型アクチュエータ20について上述した第2の作製方法又は第3の作製方法によって形成することができる。その際、弾性体12aの外周を囲む金型等の治具を用いることで、弾性体12aに粉末充填部5a1を容易に形成することができる。
次に、本発明の実施の形態に係る摩擦材が用いられる第4の振動型アクチュエータの構成例について説明する。図10A〜図10Dは、第4の振動型アクチュエータを構成する振動体42を説明するための図である。図10Aは、振動体42の斜視図である。振動体42の下面には不図示の圧電素子が接合されている。振動体42は、周方向に進む進行型の駆動振動(進行波)が励起されることにより、振動体42の摩擦部となる上面に加圧接触する不図示の被駆動体に回転駆動力を与える周知の振動型アクチュエータに用いられる。振動体42の上面部は、周方向に一定の間隔で凹凸が繰り返される櫛歯状に形成されており、これにより振動体42に励起される振動変位を拡大することができる。
図10Bは、振動体42の作製に用いられる前駆体41(振動体42に加工される前の状態にある部品)の斜視図である。図10Cは、前駆体41の加工方法を模式的に説明するための図である。図10Dは、振動体42の断面図である。櫛歯状の摩擦部を形成する場合に、個々の凸部にステンレス焼結体からなる摩擦部を設けることは、製造工程が複雑になるために望ましいものではない。そこで、例えば、円環状で周方向に溝部が形成された本体部42bを準備すると共に、この溝部に嵌合可能なステンレス焼結体からなる摩擦部材42aを準備する。なお、摩擦部材42aは、振動型アクチュエータ20の被駆動体5と同様に作製することができる。本体部42bの溝部に接着剤を塗布し、溝部に摩擦部材42a(第2の接触部)を嵌め込む。こうして、本体部42bに摩擦部材42aが接合された状態で、上面の平滑化処理を行うことにより、前駆体41が得られる。若しくは、振動型アクチュエータ20の第2の作製方法や第3の作製方法と同様にして、凹部にステンレス焼結体からなる摩擦部材42aを形成し、上面の平滑化処理を行う。これによっても、前駆体41が得られる。なお、上述したスクリーン印刷法を用いて、凹部が形成されていない円環状の本体部の上面に、振動型アクチュエータ10の摩擦部1aと同様の摩擦部を形成してもよい。また、スラリーを塗布する場合、スピンコートの要領で本体部42bを回転させながら、遠心力を利用して塗布膜の厚さの均一化を図ってもよい。
得られた前駆体41の上面部に対して図10Cに示すようにカッター43による切削加工を施すことにより溝(凹部)を形成することで、前駆体41の上面部を櫛歯状の形状に加工する。これにより、図10Dに示すように、本体部42bに形成された個々の凸部の上面に摩擦部材42aが配置された振動体42を得ることができる。摩擦部材42aは、被駆動体1,5と同等と同様の効果を奏する。
次に、上述した各種の振動型アクチュエータの動作特性、特に高湿度環境下に放置された後の起動特性について説明する。振動型アクチュエータには、高湿度環境下に放置された後の起動特性が低下するという問題がある。つまり、振動体に励起された振動による摩擦駆動力が被駆動体に効率よく作用しないことで、振動体と被駆動体との相対移動速度の立ち上がりが鈍くなるという問題がある。その原因としては、振動型アクチュエータを湿度のある環境に放置しておくと、振動体と被駆動体の摩擦面に水分子が吸着し、摩擦面が滑りやすくなることが考えられる。特に、高湿度環境下に置かれた場合には、水分が水膜として存在してしまうことで、更に滑りやすくなるものと考えられる。
振動型アクチュエータを湿度のある環境に放置すると摩擦面が滑りやすくなる理由は、混合潤滑状態や流体潤滑状態を考慮すると説明が可能である。即ち、乾燥環境下(低湿度環境下)では固体の真実接触部によって大きな摩擦力が得られるが、摩擦面間に水が存在すると、その水膜が摩擦面と垂直方向の力を支えてしまい、固体の真実接触面積は減少してしまう。水自体は、固体とは異なり、剪断方向に抵抗する力が極めて小さいため、振動型アクチュエータの起動時に水で支えられた面積比率が容易に大きくなり、被駆動体と振動体との摩擦面での摩擦力が小さくなってしまう。また、振動型アクチュエータの保持トルク(保持力)も、起動特性の低下の問題と同様の理由で、被駆動体と振動体との摩擦面に存在する水分の影響で低下する。この理由も上述した混合潤滑状態や流体潤滑状態を考慮すると説明が可能である。
これに対応して、本実施の形態に係る摩擦材の摩擦部1a,2aa,5aa,42aは、ステンレス焼結体を含み、且つ、空孔を有している。これにより、摩擦部の摩擦面と、その摩擦材と摩擦接触する部材の摩擦面との間に湿度等に起因した水分が存在した場合でも、その水分が焼結体の気孔に移動するため、摩擦面間の真実接触面積の低下を抑制することができる。したがって、互いに摩擦接触する振動体と被駆動体の少なくとも一方の摩擦面に本実施の形態に係る摩擦材を適用することにより、振動体と被駆動体との摩擦面での真実接触面積の低下を抑制することができる。つまり、互いに摩擦接触する振動体と被駆動体の少なくとも一方の摩擦面が本実施の形態に係る摩擦材からなる振動型アクチュエータでは、高湿度環境下に放置された後の起動特性の低下を抑制することができる。
次に、振動型アクチュエータ20の構成を例として行った試験結果について説明する。試験では、振動型アクチュエータ20の被駆動体5として、図3Cに示す被駆動体5を用いた。
実施例1〜3の振動型アクチュエータを、被駆動体5を用いて作製した。比較例1の振動型アクチュエータには、通常のステンレス作製方法により作製された鋳造ビレットを圧延加工した丸棒を切削加工により切り出したSUS420j2溶製材からなり、摩擦面にイオン窒化法により窒化層を設けた被駆動体を用いた。なお、SUS420j2溶製材は、緻密質な組織(微構造)を有する。実施例1の振動型アクチュエータには、SUS420j2粉末を焼結させたステンレス焼結体からなり、焼結処理における焼結温度での保持後に急冷することで焼き入れ処理(硬化処理)が施された被駆動体5を用いた。実施例2の振動型アクチュエータには、図3Bに示したように、SUS316粉末を周知の成形方法を用いて円環状に成形し、所定の条件で焼結した後に、窒化層を設けたステンレス焼結体にエポキシ樹脂を含浸させた被駆動体5を用いた。実施例3の振動型アクチュエータには、実施例1に用いた被駆動体5と同等のステンレス焼結体にセラミック粉末であるGC#2000を含むエポキシ樹脂を含浸させた被駆動体5を用いた。図11は、実施例3の被駆動体5の摩擦部の摩擦面の状態(微構造)を示す電子顕微鏡写真である。結合したステンレス粒子間に気孔が存在しており、気孔の一部にセラミック粉末を含む樹脂が含浸している状態を確認することができる。実施例1〜3の振動型アクチュエータのそれぞれに用いられている被駆動体5の作製には、上述した振動型アクチュエータ20の被駆動体5の作製方法を用いることができる。
作製した実施例1〜3の振動型アクチュエータのそれぞれについて、被駆動体の回転角度範囲を0°〜50°として7万回の往復駆動を行い、更に、回転角度範囲を50°〜100°として5千回の往復駆動を行った。このような往復駆動によって、突起部2aと摩擦面5dに「馴染み」が生じる。馴染みとは、摩擦面の真実接触部周辺の二面間距離が近付いたことをいう。馴染みが生じることによって突起部2aでは摩擦面5dに対する接触面積が広がり、これに伴って摩擦面同士の二面間距離の近い部分の面積が増加する。突起部2aと摩擦面5dに馴染みが生じた後は、湿度の影響を更に強く受けることとなり、摩擦面が滑りやすくなる。即ち、摩擦材と相手部材とが一定領域(真実接触部)で接触しているときに、馴染みが生じる前(馴染み前)と馴染みが生じた後(馴染み後)とを比較すると、馴染み後では、馴染み前に互いに接触していなかった部分の距離が小さくなっている。このような状態で互いに接触していない二面間に水分(水分子)が存在すると、その水分が垂直抗力を支えることになるため、真実接触面積が減少して摩擦面の剪断力(摩擦係数)が低下する。一方、互いに接触していない二面間に水分が存在しない場合には、真実接触面積が増加することで、高い摩擦係数が得られる。したがって、馴染みが生じた部分に水分が存在するか否かによって、摩擦面の滑りやすさに大きな違いが生じるものと考えられる。このような理由から、摩擦面における水分の影響が現れやすくなるように、上述の往復駆動を行っている。
往復駆動後の各振動型アクチュエータを、温度が60℃で相対湿度が90%の高湿度環境に12時間放置し、続いて室温環境(温度が25℃で相対湿度が50%)に取り出して2時間放置した後、被駆動体5の周方向での保持トルクを測定した。なお、保持トルクの測定は、次のようにして行った。即ち、図3Aの構成の通りに被駆動体5と3個の振動体2を配置し、これらの間の加圧力を900gf(9N)とした。この場合、突起部2aには1個当たり150gfの荷重が掛かった。突起部2aの接触部は略円形であり、その直径が0.9mmである場合、みかけの面圧は235gf(24N)/mm2となる。振動型アクチュエータの径方向中心を通って径方向と直交する軸部材を配置し、軸部材と被駆動体5とを連結させ、軸部材を回転させて被駆動体5を回転させることで、突起部に対して被駆動体5を相対的に回転移動させることができるようにした。軸部材にプーリーを取り付けると共にプーリーに弾性を有する糸を巻きつけ、この糸を引張り試験機によって巻き上げてプーリーを回転させることにより軸部材を回転させた。このときの引張り試験機のロードセルからの出力を力に換算した数値から保持トルクを求めた。
なお、本試験では、糸を介して被駆動体5に外力を動的に付与しているため、その間の摩擦抵抗力の変化を連続的に捉えているが、その際にスティックスリップが生じた静摩擦力に相当するノコギリ刃の頂点部分の数値を保持トルクとして読み取っている。スティックスリップが現れる最大速度は2mm/minであったため、測定時間を短縮することを目的として、保持トルクを求めるための突起部2aと被駆動体5との相対移動速度には、この最大速度を用いた。
図12は、保持トルクの測定結果を示す図である。被駆動体5の動き始めは、比較的高いトルクを示すが、一旦、動き始めて突起部2aと摩擦面5dの相対位置が変わると、保持トルクが動き始めに比べて低下していることがわかる。この結果から、高湿度環境にさらされても、当初の真実接触部は維持されていることで動き始めは高い保持トルクが維持されるが、摩擦面同士の相対的位置が移動した後は、前述した水膜の影響で急激に保持トルクの低下が引き起こされるものと考えられる。つまり、摩擦面5dには水分(水分子)が吸着すると考えられ、突起部2aと摩擦面5d間に水分が膜となって存在することで、摩擦面間の摩擦力が低下すると考えられる。
比較例1では、スティックスリップ(保持トルクの大きさの変動幅)が小さく、これは摩擦面が流体潤滑状態に近いためと考えられる。それとは反対に、実施例1〜3では保持トルクの大きさの変動幅が大きく、これは、摩擦面の相対速度と摩擦係数が負の関係になる混合潤滑状態となったために、比較例1よりもスティックスリップが明瞭に現れた結果と考えられる。
保持トルクの大きさの序列は、比較例1<実施例1<実施例2<実施例3となっており、実施例3の保持トルクは、約0.96kgf・cm〔0.10N・m〕となって、比較例1の保持トルクの約0.30kgf・cm〔0.03N・m〕の3倍の値を示した。実施例1では、摩擦面5dに水分が付着しても、気孔が水分の排斥場所となることにより突起部2aとの真実接触部が確保された結果、比較例よりも大きな保持トルクを示したものと考えられる。
比較例1及び実施例1〜3の全てで、摩擦面5dにおいて高湿度環境下に放置する前の往復駆動を行っていない部分(馴染みを生じさせていない部分)での保持トルクは、往復駆動させた部分よりも大きな値を示した。このことから、摩擦摺動を繰り返すことによって摩擦面に馴染みが生じることで、水膜の影響が顕著に現れると考えられる。実施例2,3では、往復駆動後の摩擦面5dにおけるステンレス部分に摩擦により生成した酸化被膜と樹脂の移着膜が存在し、これらの膜が突起部2aと摩擦部材を構成するステンレス材との金属同士の直接接触を防止する。その結果、実施例2に用いられている摩擦部材(樹脂が含浸されたステンレス焼結体)は、実施例1に用いられている摩擦部材(樹脂が含浸されていないステンレス焼結体)よりも高い耐摩耗性を有する。実施例2が実施例1よりも大きな保持トルクを示したのは、実施例2では、耐摩耗性の違いに起因して実施例1よりも馴染みの進行が遅く、作製当初の摩擦面の状態からの変化が小さいことによると推測される。
同様に、実施例3が実施例2よりも大きな保持トルクを示したのは、セラミック粉末の有無に起因する耐摩耗性の差に起因するものと考えられる。つまり、樹脂中にセラミック粉末が含まれている構造のように、硬くてしかも相手材とは拡散反応しにくい膜が摩擦面に存在している構造では、高い耐摩耗性が得られる。実施例3が実施例2よりも大きな保持トルクを示したのは、実施例3では、耐摩耗性の違いに起因して実施例2よりも馴染みの進行が遅く、作製当初の摩擦面の状態からの変化が小さいことによると推測される。
なお、ステンレスは変形抵抗が大きく、耐食性も高いため、摩擦材として適している面がある一方で、摩擦条件によっては表面の酸化被膜が損傷して金属凝着(又は焼き付き)が生じるおそれがある。この問題に対して、ステンレス焼結体の気孔の一部に樹脂を含浸させておくと、気孔に含浸された樹脂が摩擦面に移動して付着することで、直接の金属接触が防止され、これにより金属凝着(又は焼き付き)の発生を抑制することができる。また、実施例1〜3には気孔を有する摩擦材(ステンレス焼結体)が用いられているため、摩擦材の摩擦面では実質面圧が高くなる。その結果、実施例1〜3に用いられている摩擦材では、摩擦面の硬化処理を行わなければ、比較例1に用いられている緻密質なステンレス材よりも耐摩耗性で劣ることは否めない。そこで、耐摩耗性(耐久性)をも考慮して、気孔を有するステンレス焼結体を摩擦材として用いる場合には、焼き入れ処理を行うか又は少なくとも摩擦面に窒化処理を行う等の硬化処理を行うことが望ましい。窒化処理を行った場合、ステンレス焼結体には、窒化処理の条件や表面からの深さに応じて窒素を含有する領域(窒化物相(化合物相)からなる層、窒素が拡散した層、それらの中間状態の層等)が形成される。窒化物相からなる層は、ステンレスのクロムや鉄と窒素が化合した窒化物からなる層である。窒素が拡散した層は、ステンレスの格子間に窒素原子が拡散した層である。中間状態の層は、窒素原子とクロム原子が互いに近接集合しているが、安定な化合物にはなっていない状態の層である。
次に、図3Dに示す第2の振動型アクチュエータ20の変形例を用いた試験結果について説明する。比較例2及び実施例4〜6の振動型アクチュエータを、互いに異なる摩擦部5aaを有する被駆動体5を用いて作製した。比較例2には、摩擦部5aaとしてのSUS420j2溶製材からなる円環状部材が接着剤により本体部5bbの凹部5b1に接合された被駆動体5が用いられ、突起部2aに対する摩擦面となる円環状部材の表面には、イオン窒化法により窒化層が設けられた。なお、SUS420j2溶製材は、通常のステンレス作製方法により作製された鋳造ビレットを圧延加工した丸棒を切削加工により切り出したものであり、緻密質な組織(微構造)を有する。
実施例4には、SUS420j2粉末を焼結させたステンレス焼結体からなり、焼結処理における焼結温度での保持後に急冷することで焼き入れ処理(硬化処理)が施された摩擦部5aaを有する被駆動体5が用いられた。実施例5には、実施例4で用いられている摩擦部5aaと同等のステンレス焼結体にエポキシ樹脂を含浸させた摩擦部5aaを有する被駆動体5が用いられた。実施例6には、実施例4で用いられている摩擦部5aaと同等のステンレス焼結体にグリーンカーボランダムセラミック粉末を含むエポキシ樹脂を含浸させた被駆動体5が用いられた。実施例4〜6に用いられている被駆動体5の作製方法は、図4を参照して説明した通りである。よって、実施例4〜6に用いられている被駆動体5では、摩擦部5aaであるステンレス焼結体は本体部5bbとの一体焼結によって形成されている。
作製した振動型アクチュエータのそれぞれについて、実施例1〜3や比較例1に施した往復駆動を施した。これにより、突起部2aと摩擦部5aaの摩擦面に「馴染み」が生じさせた。その後、実施例4〜6や比較例2の各振動型アクチュエータを、実施例1〜3や比較例1と同じ条件で高湿度環境に放置し、さらに、実施例1〜3や比較例1と同じ方法で被駆動体5の周方向での保持トルクを測定した。
図13は、保持トルクの測定結果を示す図である。被駆動体5(摩擦部5aa)の動き始めは、比較的高いトルクを示すが、一旦、動き始めて突起部2aと摩擦部5aaの摩擦面の相対位置が変わると、保持トルクが動き始めに比べて低下していることがわかる。
この結果から、高湿度環境にさらされても、当初の真実接触部は維持されていることで動き始めは高い保持トルクが維持されるが、摩擦面同士の相対的位置が移動した後は、前述した水膜の影響で急激に保持トルクの低下が引き起こされるものと考えられる。つまり、摩擦部5aaの摩擦面には水分(水分子)が吸着すると考えられ、突起部2aと摩擦部5aaの摩擦面間に水分が膜となって存在することで、摩擦面間の摩擦力が低下すると考えられる。
保持トルクの大きさの序列は、比較例2<実施例4<実施例5<実施例6となっており、実施例6の保持トルクは、約1.00kgf・cm〔0.10N・m〕となって、比較例2の保持トルクの約0.30kgf・cm〔0.03N・m〕の3倍の値を示した。実施例4では、摩擦部5aaの摩擦面に水分が付着しても、気孔が水分の排斥場所となることにより突起部2aとの真実接触部が確保された結果、比較例2よりも大きな保持トルクを示したものと考えられる。
比較例2及び実施例4〜6の全てで、摩擦部5aaにおいて高湿度環境下に放置する前の往復駆動を行っていない部分(馴染みを生じさせていない部分)での保持トルクは、往復駆動させた部分よりも大きな値を示した。このことから、摩擦摺動を繰り返すことによって摩擦面に馴染みが生じることで、水膜の影響が顕著に現れると考えられる。実施例5,6では、往復駆動後の摩擦部5aaの摩擦面におけるステンレス部分に、摩擦により生成した酸化被膜と樹脂の移着膜が存在し、これらの膜が突起部2aと摩擦部5aaを構成するステンレス材との金属同士の直接接触を防止する。その結果、実施例5に用いられている摩擦部5aa(樹脂が含浸されたステンレス焼結体)は、実施例4に用いられている摩擦部5aa(樹脂が含浸されていないステンレス焼結体)よりも高い耐摩耗性を有する。実施例5が実施例4よりも大きな保持トルクを示したのは、実施例5では、耐摩耗性の違いに起因して実施例4よりも馴染みの進行が遅く、作製当初の摩擦面の状態からの変化が小さいことによると推測される。
図14Aは、実施例5の往復駆動前の摩擦面の状態(微構造)を示す電子顕微鏡写真である。結合したステンレス粒子間に気孔が存在しており、気孔の一部に樹脂が含浸している状態を確認することができる。図14Bは、7万回の往復駆動が終了した後の実施例5の摩擦面の状態を示す顕微鏡写真である。摩擦摺動範囲の気孔部には茶色を呈する摩耗粉が確認され、摩耗粉は、その色と成分分析からヘマタイト〔Fe(Cr)2O3〕であることが確認された。図14Cは、実施例6の往復駆動前の摩擦面の状態(微構造)を示す電子顕微鏡写真である。ステンレス中に樹脂がまだら状に分散しており、まだら状に分散した樹脂中にセラミック粒子(セラミック粉末)が分散していることを確認することができる。
次に、本発明に係る摩擦材の別の作製方法について説明する。図15は、金型を用いた摩擦材の作製方法を模式的に説明するための図である。ここでは、ピンオンディスク摩擦試験機(JIS R 1613−1993)での試験用ピンに摩擦材を形成するが、振動型アクチュエータ30の摩擦材を同様の方法を用いて作製することが可能である。なお、摩擦材の周囲に摩擦材が一体的に形成される基材の壁部がない構造のものを作製する場合(摩擦材を凹部に形成しない場合)には、本方法が至便である。
第1の金型53に設けられた円柱状空間に円柱形状を有する第2の金型54を挿入する。このとき、第1の金型53と第2の金型54の間には一定のクリアランスがあるため、第2の金型54は挿入された円柱状の空間において、そのスラスト方向(図では上下方向)に移動可能となっている。続いて、第1の金型53の円柱状空間にステンレス粉末を充填するための空間部51が形成されるように、摩擦材(焼結体)を形成する基材となる円柱形状の弾性体52bを第2の金型54と同様に、第1の金型53の円柱状空間に挿入する。空間部51にステンレス粉末を充填し、粉末充填部52a1を形成する。粉末充填部52a1をポンチ55を用いて加圧、圧縮することにより成形体52a2とする。
続いて、ノックアウトピン56を用いて第2の金型54を弾性体52b側へ押し出すことにより、成形体52a2を弾性体52bと共に取り出す。このとき、弾性体52bと成形体52a2とは結合しており、強い力を加えない限り成形体52a2が弾性体52bから離れることはない。なお、ステンレス粉末同士を結合するバインダの種類、ステンレス粉末に対する添加比率及びポンチ55による加圧成形圧力を調整することによって、成形体強度と密度を調整することができる。弾性体52bと一体化された成形体52a2を、図4を参照して説明した圧粉体5a2の焼結条件と同じ条件で焼結処理することにより、成形体52a2は、弾性体52bと強固に結合した焼結体52a3となる。焼結体52a3の上面を研削加工又は研磨加工により平滑化処理することで、摩擦材である焼結体52a3が形成された摩擦試験用ピンを得ることができ、上記と同様の方法により、振動型アクチュエータ30の摩擦材を得ることができる。なお、焼結体52a3の側面(円周曲面)は、摩擦面とならないため、焼結処理後のままでよい。
図16は、摩擦材が形成された摩擦試験用ピンの別の作製方法を模式的に説明するための図である。摩擦材(焼結体)を形成する基材となる弾性体62bとして、入手が容易な直径が10mmφのSUS304丸棒を準備し、その一方の端面に切削加工等により側壁部62b2を有する凹部62b1を形成する。但し、弾性体62bの直径は10mmφに限定されるものではない。弾性体62bの凹部62b1にステンレス粉末(例えば、SUS316L)を充填して粉末充填部62aを形成した後、粉末充填部62aをポンチ55により加圧、圧縮することにより成形体62a2とする。弾性体62bと一体化された成形体62a2を、図4を参照して説明した圧粉体5a2の焼結条件と同じ条件で焼結処理することにより、成形体62a2は、弾性体62bと強固に結合した焼結体62a3となる。最後に、側壁部62b2を除去する切削処理(例えば、円筒研削処理)と、焼結体62a3の上面の平滑化処理を行う。これにより、摩擦材である焼結体62a3が形成された摩擦試験用ピンを得ることができ、上記と同様の方法により、振動型アクチュエータ30の摩擦材を得ることができる。
上述した摩擦材の作製方法では、図15を参照して説明した第1の金型53を用いた成形方法とは異なり、ここでは、ステンレス粉末として、バインダ(例えば、ステアリン酸エマルジョン、ポリビニルアルコール等)を含まないものを用いる。一般に、バインダを混合させずに金型を用いてステンレス粉末を圧縮した場合、成形体の強度が小さいために、金型から取り出す際に破壊してしまうことが多い。これに対して、金型に相当する弾性体62bに側壁部62b2を有する凹部62b1を形成し、凹部62b1でステンレス粉末から成形体を成形した場合、成形体62a2を取り出す必要がないため、成形体62a2の破壊は起こらない。また、焼結体を作製するにあたって、バインダの役割は主に焼結までの間、成形体の形状を維持することにある。しかし、バインダを含有している場合には、焼結処理前に脱バインダ工程が必要であり、脱バインダ工程は、一般的に大気中、400℃前後の温度に所定時間保持することで行われる。その際、脱バインダ後に成形体の強度が小さくなることで、焼結処理時に成形体の形状を維持することができずにクラックが生じてしまうことがある。また、脱バインダ工程でステンレス粉末の粒子表面が酸化してしまうことで、焼結反応での粒子同士の金属拡散結合が阻害されてしまい、粒子間が十分に結合せずに所望の強度が得られないこともある。特に、気孔率の大きい焼結体を作製する場合に、焼結時の収縮率が大きくなるため、このような不都合が生じやすい。
また、焼結時の収縮を部分的に拘束せずにできる限り自由に収縮することができるように、焼結中に成形体を乗せる板として、摩擦係数の小さいカーボン等が用いられる。しかし、成形体にかかる重力によって焼結時の収縮が阻害されることで、焼成体に変形や割れが発生することがある。これに対して、弾性体62bに設けられた凹部62b1に成形体62a2を形成すれば、得られる焼成体に変形や割れが生じる可能性を著しく低減することができる。この理由は、側壁部62b2が存在するために成形体62a2自体が外力に対して強くなり、バインダを用いなくとも成形体62a2が凹部62b1において形状を維持することができるためである。つまり、側壁部62b2を有する凹部62b1が設けられていることにより、成形体62a2は、その形状を崩すことなく維持することができる。
次に、振動型アクチュエータ10,20,30の応用例について説明する。図17は、振動型アクチュエータを搭載したロボット100の概略構造を示す斜視図であり、ここでは、産業用ロボットの一種である水平多関節ロボットを例示している。産業用ロボット等のアーム関節部の曲げやハンド部の把持動作や回転動作に用いられる回転駆動型モータには、低回転数で高トルクが得られるTN特性(負荷トルク−回転速度の関係を示す垂下特性)を有するものが求められる。そこで、例えば、回転駆動型の振動型アクチュエータ20(又は振動型アクチュエータ30)が、ロボット100において、アーム関節部111a〜111cやハンド部112に内蔵される。
不図示の基台に取り付けられているアーム関節部111aは、アーム120aをそのスラスト軸を中心軸として回転させる。アーム関節部111bは、アーム120a,120bの交差角度を変えることができるようにアーム120a,120bを接続し、アーム関節部111cは、アーム120b,120cの交差角度を変えることができるようにアーム120b,120cを接続する。ハンド部112は、アーム120dと、アーム120dの一端に取り付けられる把持部121と、アーム120dと把持部121とを接続するハンド関節部122とを有し、ハンド関節部122は把持部121を回転させる。振動型アクチュエータ20(又は振動型アクチュエータ30)は、アーム関節部111a〜111c及びハンド関節部122の回転駆動装置として用いられる。
続いて、リニア駆動型の振動型アクチュエータ10を備える撮像装置(光学機器)について説明する。図18は、レンズ鏡筒が備えるレンズ駆動機構200の概略構造を示す斜視図である。レンズ駆動機構200は、振動体201、レンズホルダ202、第1のガイドバー203、第2のガイドバー204、加圧磁石205及びレンズ206を備える。振動体201及び第2のガイドバー204はそれぞれ、図1で説明した振動型アクチュエータ10を構成する振動体2及び被駆動体1に対応する。
第1のガイドバー203及び第2のガイドバー204は、互いに平行となるように、不図示の基体に保持されている。レンズホルダ202は、レンズ206を保持する円筒状のホルダ部202a、振動体201と加圧磁石205を保持する保持部202b、第1のガイドバー203が挿通されるガイド部202cを有する。第1のガイドバー203に対してガイド部202cが移動自在に挿通されることにより第1のガイド部が形成される。
加圧磁石205は、永久磁石と、永久磁石の両端に配置される2つのヨークから構成される。加圧磁石205と第2のガイドバー204との間には磁気回路が形成され、これら部材間に吸引力が発生することにより、加圧磁石205と第2のガイドバー204との間に配置された振動体201が、第2のガイドバー204へ押し当てられる。これにより、振動体201が有する2つの突起部(振動体2の突起部2aに対応する)が第2のガイドバー204と加圧接触して、第2のガイド部が形成される。なお、第2のガイド部は、磁気による吸引力を利用してガイド機構を形成しており、加圧磁石205は第2のガイドバー204とは非接触となっている。そのため、第2のガイド部が外力を受ける等した場合に振動体201と第2のガイドバー204とが引き離される状態が生じることが予想される。その対策として、レンズ駆動機構200では、レンズホルダ202に設けられた脱落防止部202dが第2のガイドバー204に当接することで、レンズホルダ202(振動体201)が所定位置に戻るように構成されている。
振動体201の駆動方法は、振動体2の駆動方法と同じであり、振動体201が有する2個の突起部に楕円振動を発生させることで、振動体201と第2のガイドバー204との間に摩擦駆動力を発生させる。このとき、第1のガイドバー203と第2のガイドバー204は固定されているため、発生した摩擦駆動力によって、レンズホルダ202を第1のガイドバー203と第2のガイドバー204の長さ方向に沿って移動させることができる。なお、レンズ駆動機構200では、加圧機構に磁力を用いているが、これに限られず、ばねによる付勢力を加圧機構に用いてもよい。また、レンズ駆動機構200には、リニア駆動型の振動型アクチュエータ10が用いられているが、これに限られず、図3A又は図7に示した回転駆動型の振動型アクチュエータ20,30を用いてもよい。即ち、振動型アクチュエータ20,30の回転出力が、カムピンとカム溝との係合やギア等によって、レンズを保持する部材を光軸方向に直線的に移動させる駆動力に変換される構造とすればよい。振動型アクチュエータによるレンズの駆動は、オートフォーカス用レンズの駆動に好適であるが、これに限られず、ズーム用レンズの駆動にも用いることができる。更に、振動型アクチュエータは、手ぶれ補正時のレンズ又は撮像素子の駆動に用いることもできる。
以上、本発明をその好適な実施の形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。更に、上述した各実施の形態は本発明の一実施の形態を示すものにすぎず、各実施の形態を適宜組み合わせることも可能である。本発明に係る振動型アクチュエータは、図17及び図18を参照して説明したロボット及びレンズ鏡筒(撮像装置)に限定されるものではなく、振動型アクチュエータの駆動による位置決めが必要とされる部品を備える電子機器に広く適用することができる。