以下、実施形態によるブレーキシステムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4および図5に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」)。
図1ないし図6は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成する。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、それぞれがブレーキ装置(駐車ブレーキ装置)であり、後述の駐車ブレーキ制御装置24と共にブレーキシステム(電動駐車ブレーキシステム)を構成している。図3に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを含んで構成されている。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ4の外周側を跨いで形成されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられ、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
この場合、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B1内に液圧(ブレーキ液圧)が供給されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6には、電動アクチュエータ7と押圧部材保持機構8とが設けられている。電動アクチュエータ7は、ピストン6Dを推進する電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機構(図示せず)等を含んで構成されている。押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。押圧部材保持機構8は、例えば、スピンドルナット機構等の回転直動変換機構として構成されている。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、駐車ブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより押圧部材保持機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(駐車ブレーキないし補助ブレーキ)を付与する。
即ち、駐車ブレーキ装置としての後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキを付与するためのアプライ要求となる駐車ブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じてピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持することが可能となっている。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置15)からの液圧供給により車両の制動が可能となっている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、駐車ブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、駐車ブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、押圧部材保持機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、駐車ブレーキ装置として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、駐車ブレーキ装置は、例えば、電動ドラム式の駐車ブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式ブレーキ装置等を用いてもよい。即ち、駐車ブレーキ装置は、電動モータ(電動アクチューエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動駐車ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて各ディスクブレーキ5,6は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントロールユニット17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20、または、液圧供給装置用コントロールユニット17と駐車ブレーキ制御装置24とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置24に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル9の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。
このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置15(以下、ESC15という)に送られる。ESC15は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置され、マスタシリンダ12からの液圧をブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC15は、ブレーキペダル9の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,6に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,6の液圧を高めることができる。
このために、ESC15は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントロールユニット17(以下、コントロールユニット17という)を有している。コントロールユニット17は、ESC15の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行う。これにより、コントロールユニット17は、ブレーキ側配管部16A〜16Dから各ディスクブレーキ5,6に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動停止制御、自動運転制御等が実行される。
コントロールユニット17には、車両電源となるバッテリ18からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC15の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC15を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部16A〜16Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、各種のECU)、コントロールユニット17、駐車ブレーキ制御装置24等は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
ここで、加速度センサは、車体1に設けられ、車両の加速度、例えば、車両の前後方向の加速度を検出する。この場合、加速度センサは、車両が停止している路面の傾斜角度(勾配)を検出するセンサ(傾斜検出手段)を兼ねることができる。即ち、加速度センサには、車両の加速、減速(制動)等に基づく前後加速度(車両の走行に基づく前後加速度)が加わるだけでなく、路面の勾配(車両の傾斜)に応じた重力加速度も加わる。換言すれば、車両が停止(停車)しているときは、加速度センサには、その車両が停止している路面の勾配(車両の傾斜)に応じた重力加速度のみが加わる。
このため、車両が停止しているときは、加速度センサにより検出される加速度に基づいて、路面の勾配(傾斜量、傾斜角)を算出することができる。この場合、車両が停止しているか否は、例えば、車輪速センサや車速センサの検出信号から検知することができる。なお、車両が停車している路面の傾斜角度の検出(ないし算出)は、加速度センサ以外のセンサ、例えば、ジャイロセンサ、傾斜センサ、勾配センサ等の路面の勾配(車両の傾斜)を検知(検出)できるセンサを用いてもよい。
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、W/C圧力センサ21、M/C圧力センサ22からの検出信号(情報)も挙げられる。ここで、ホイルシリンダ圧検出手段としてのW/C圧力センサ21は、ブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dにそれぞれ設けられ、それぞれの配管内圧力(液圧)、即ち、該配管内圧力に対応するキャリパ5A,6B内のW/C液圧PW/Cを個別に検出するものである。
W/C圧力センサ21は、1つの配管系統に対し1つ設ける構成としてもよく、例えばX配管の場合は、ブレーキ側配管部16Aまたは16Dのいずれかに1つと、ブレーキ側配管部16Bまたは16Cのいずれかに1つとに、それぞれ設ける構成としてもよい。また、ブレーキ側配管部16A,16D、および、ブレーキ側配管部16B,16Cのいずれか1系統に1つだけ設ける構成としてもよい。さらには、W/C圧力センサ21を設けずに(省略し)、ESC15のコントロールユニット17で、M/C圧力センサ22の検出信号からブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dの配管内圧力(W/C液圧PW/C)を推定(算出)してもよい。
マスタシリンダ圧検出手段としてのM/C圧力センサ22は、シリンダ側液圧配管14A,14Bにそれぞれ設けられ、それぞれの配管内圧力(液圧)、即ち、該配管内圧力(液圧)に対応するマスタシリンダ12のM/C液圧PM/Cを、配管系統(プライマリ側、セカンダリ側)毎に検出するものである。即ち、M/C圧力センサ22は、キャリパ5A,6Bへ供給されるM/C液圧PM/Cを検出するものである。M/C圧力センサ22は、1つだけ設ける構成としてもよく、例えば、プライマリ側にだけ設ける構成としてもよい。
さらには、倍力装置11にストロークセンサを設け、該ストロークセンサにより検出されるストロークから、M/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。このストロークセンサとして、倍力装置11ではなくブレーキペダル9に設けたブレーキ操作検出センサ10により検出される操作量(ストローク量)から、M/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。また、倍力装置11として電動アクチュエータ(電動モータ)を用いる場合は、電動アクチュエータの電流値あるいはストローク量(作動量)からM/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。もちろん、電動アクチュエータに圧力センサが内蔵されていれば、その圧力センサの検出値を用いてM/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。
W/C圧力センサ21およびM/C圧力センサ22の検出信号、または、推定計算された液圧の算出値は、W/C液圧PW/C、M/C液圧PM/Cの情報として、車両データバス20に送られる。駐車ブレーキ制御装置24を含む、車両に搭載された多数の電子機器(ECU)は、W/C液圧PW/C、M/C液圧PM/Cを含む各種の車両情報を、車両データバス20を通じて入手することができる。
次に、駐車ブレーキスイッチ23および駐車ブレーキ制御装置24について説明する。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、操作スイッチとしての駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)23が設けられている。駐車ブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。駐車ブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じた駐車ブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置24へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッドをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置24に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(駐車ブレーキ要求信号)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、駐車ブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ23からリリース要求信号が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、駐車ブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(解除状態)となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置24での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置24での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。オートアプライ、オートリリースは、駐車ブレーキスイッチ23が故障したときに、自動的に制動力の付与または解除を行うスイッチ故障時補助機能として構成することができる。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ23によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合も、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキスイッチ23の操作に応じて制動力の付与と解除を行う。例えば、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)制動力を付与し、その操作が終了すると制動力の付与を解除する。このとき、駐車ブレーキ制御装置24は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)とを行う構成とすることができる。
次に、駐車ブレーキ制御装置24について、図2を参照しつつ説明する。
制御装置としての駐車ブレーキ制御装置24は、左右一対の後輪側ディスクブレーキ6,6と共にブレーキシステム(電動駐車ブレーキシステム)を構成している。駐車ブレーキ制御装置24は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25を有し、駐車ブレーキ制御装置24には、バッテリ18からの電力が電源ライン19を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、入力側が駐車ブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。
駐車ブレーキ制御装置24は、運転者の駐車ブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、押圧部材保持機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッドの保持または解除が行われる。このように、駐車ブレーキ制御装置24は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、駐車ブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29等が接続されている。車両データバス20からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置24(の演算回路25)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット17)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置24に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット17で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット17に駐車ブレーキ制御装置24の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置24は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムが格納されている。これに加え、メモリ26には、後述の図4および図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、駐車ブレーキをアプライ作動させるときの制御処理に用いる処理プログラム、図6(の第3象限)に示す路面傾斜Gと目標電流値Aと下限液圧値Pcとの関係等が格納されている。さらに、メモリ26には、電動モータ7Aによる駐車ブレーキの現在の状態(ステータス)、即ち、アプライ状態であるかリリース状態であるかが記憶される。この場合、駐車ブレーキの状態は、その状態が変更される毎にメモリ26に更新可能に記憶される。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24をESC15のコントロールユニット17と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置24をコントロールユニット17と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置24は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれの駐車ブレーキ制御装置24を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置24には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ部27、左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29等が内蔵されている。これら電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29は、それぞれ演算回路25に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25では、駐車ブレーキを付与するときに、電流センサ部29,29により検出される電動モータ7A,7Aの電流値に基づいて、電動モータ7A,7Aの駆動を停止できる。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキスイッチ23または前述の駐車ブレーキの作動判断ロジック等による駐車ブレーキ要求信号に応じて、ピストン6Dの押圧力が目標押圧力値になるまで電動モータ7Aを駆動する。この場合、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動するための目標電流値によって目標押圧力値を設定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの駆動(回転)によりピストン6Dを推進して制動力を付与するときに、目標押圧力値に対応する目標電流値に達するまで電動モータ7Aを駆動する。
ところで、前述の特許文献1によれば、路面の傾斜が大きい程、目標電流値(目標押圧力値)を大きくする。この場合、例えば、アプライ時の路面の傾斜角度と液圧値によっては、目標電流値が大きくなり、ピストンが過剰に推進されるおそれがある。これにより、駐車ブレーキを解除するときのピストンの戻し量が多くなり、解除に要する時間が長くなるおそれがある。
これに対して、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24は、車両が停車している路面の傾斜角度に応じて目標押圧力値(目標電流値)を設定する。この場合、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動し始めた後、車両が停車している路面の傾斜角度が所定角度よりも大きいときは、路面の傾斜角度が大きくなる毎に目標押圧力値(目標電流値)が小さくなるように設定する。
図6は、路面傾斜Gに対する押圧力Fと目標電流値Aと下限液圧値Pcとの関係(第2象限および第3象限)、および、実押圧力Fと実液圧Pとの関係(第1象限)の一例を示している。第1の実施形態は、図6の第2象限に示すように、路面の傾斜角度Gに対し目標押圧力Fc1が最大値で一定となるように制御する場合を示している。なお、図6の第2象限のX軸、即ち、路面の傾斜角度Gは、0から左に進む程、その値が大きくなる(傾斜が大きくなる)。また、図6の第2象限のY軸、即ち、押圧力Fは、0から上に進む程、その値が大きくなる(押圧力が大きくなる)。
ここで、図6の第2象限の特性線31は、路面の傾斜角度Gと目標押圧力Fc1との関係を示している。また、図6の第2象限の特性線32は、路面の傾斜角度Gと駐車ブレーキによる制動保持(停車維持)に必要な押圧力の下限Flim1との関係を示している。目標押圧力Fc1(特性線31)は、駐車ブレーキによる制動保持に必要な押圧力の下限Flim1(特性線32)よりも大きい値に設定されている。これにより、例えば船で車両を輸送しているとき等、停車中に路面の傾斜角度Gが変化するような場合にも、駐車制動を保持することができる。
なお、図6の第2象限の押圧力の下限Flim1は、駐車ブレーキの制動、即ち、後輪側ディスクブレーキ6,6の2輪のみで制動するときに、停車の維持に必要な左右の後輪3,3の1輪分の押圧力Flim1と傾斜角度Gとの関係である。電動モータ7Aによるピストン6Dの押圧力がFlim1よりも小さければ車両はずり下がり、電動モータ7Aによるピストン6Dの押圧力がFlim1よりも大きければ制動を保持できる(停車を維持できる)。
これに対して、図6の第2象限の特性線33は、路面の傾斜角度Gと液圧による制動保持(停車維持)に必要な押圧力PA1との関係を示している。液圧による押圧力PA1は、ブレーキ液圧による制動、即ち、ブレーキ液圧の供給により前輪側ディスクブレーキ5,5および後輪側ディスクブレーキ6,6の4輪で制動するときに、停車の維持に必要な左右の後輪3,3の1輪分の押圧力PA1と傾斜角度Gとの関係である。液圧によるピストン6Dの押圧力がPA1よりも小さければ車両はずり下がり、液圧によるピストン6Dの押圧力がPA1よりも大きければ制動を保持できる(停車を維持できる)。従って、Flim1とPA1との差は、停車に必要な前輪1輪分の制動力(押圧力)に対応する。
一方、図6の第3象限の特性線34は、路面の傾斜角度Gと目標電流値Aとの関係を示している。なお、図6の第3象限のY軸、即ち、目標電流値A(および下限液圧値Pc)は、0から下に進む程その値が大きくなる。駐車ブレーキ制御装置24は、路面の傾斜角度Gが所定角度となる0°よりも大きいときは、特性線34(目標電流値Ay1)として示すように、目標電流値Aを、傾斜角度Gが大きくなる程、小さくなるように設定する。このように小さく設定する理由は、次の通りである。
即ち、車両が停止している状態でアプライ要求があった場合、換言すれば、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23からのアプライ要求信号があった場合は、後輪側ディスクブレーキ6には、少なくとも特性線33の押圧力PA1に対応する液圧が供給されていると考えることができる。そこで、駐車ブレーキ制御装置24は、液圧による押圧力PA1を考慮して、目標電流値Ay1を、傾斜角度Gが大きくなる程、小さくなるように設定する。この場合、第1の実施形態では、特性線34は、単調増加となっている。換言すれば、目標電流値Ay1は、傾斜角度Gに対して比例関係(正比例)となっている。
このような第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキ要求信号を受信すると、その駐車ブレーキ要求信号が駐車ブレーキスイッチ23によるものであるか否か、および、ブレーキペダル9が踏まれているか否かを判定する。ブレーキペダル9が踏まれているか否かは、例えば、ペダルスイッチに対応するブレーキ操作検出センサ10の検出信号から判定することができる。駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキ要求信号が駐車ブレーキスイッチ23によるものであり、かつ、ブレーキペダル9が踏まれていると判定した場合は、特性線34に基づいて、そのときの車両が停止している路面の傾斜角度Gに対応する目標電流値Ay1を設定する。傾斜角度Gは、例えば、加速度センサの検出信号(重力加速度)から算出することができる。
ここで、図6に示すように、例えば、傾斜角度GがG11のときは、目標電流値Ay1はAy11となる。この場合には、駐車ブレーキ制御装置24は、目標電流値AをAy11に設定し、電動モータ7Aに対して電力を供給する。駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの電流値が目標電流値Ay11に達すると、電動モータ7Aに対する電力の供給を停止し、電動モータ7Aの回転を停止する。
一方、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキ要求信号を受信したときに、ブレーキペダル9が踏まれていない、または、駐車ブレーキ要求信号が駐車ブレーキスイッチ23によるものでないと判定した場合は、図6の第3象限の特性線35(目標電流値An1)に基づいて、目標電流値Aを設定する。特性線35は、ブレーキペダル9が踏まれていない、または、駐車ブレーキ要求信号が駐車ブレーキスイッチ23によるものでないときの、路面の傾斜角度Gと目標電流値Aとの関係を示している。特性線35は、傾斜角度Gに拘わらず一定(An1=An11)となっている。
即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、ブレーキペダル9が踏まれていない場合は、目標電流値An1を、傾斜角度Gに拘わらず一定値となるAn11に設定する。この場合は、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの電流値が目標電流値An11に達すると、電動モータ7Aに対する電力の供給を停止し、電動モータ7Aの回転を停止する。このように、第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24は、ブレーキペダル9が踏まれていない場合は、目標押圧力値を、ブレーキペダル9が踏まれている場合の目標押圧力値とは異なる所定の押圧力値(第3の所定押圧力値)に設定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、ブレーキペダル9が踏まれていない場合は、ブレーキペダル9が踏まれている場合の目標電流値Ay1とは異なる目標電流値An1に設定する。この場合、所定の押圧力値(目標電流値An1=An11)は、例えば、最大押圧力(フルクランプ)にすることができる。
また、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aが停止すると、後輪側ディスクブレーキ6の実液圧Pを検出および/または推定(算出)する。実液圧Pは、W/C圧力センサ21により検出されるW/C液圧PW/C、M/C圧力センサ22により検出されるM/C液圧PM/C、M/C液圧PM/Cから算出されるW/C液圧PW/C等、液圧Pに直接的に対応する液圧(PW/C、PM/C)を用いることができる他、実液圧Pを推定できる情報を用いることができる。実液圧Pを推定できる情報は、例えば倍力装置11に設けられるストロークセンサの検出量(ストローク量)、ブレーキペダル9に設けられるブレーキ操作検出センサ10の検出量(ストロークセンサであればストローク量、踏力センサであれば踏力)、倍力装置11として電動アクチュエータを用いる場合は、電動アクチュエータの電流値または作動量(ストローク)等を用いることができる。
駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aが停止すると、そのときの実液圧Pの値から、電動モータ7Aを再駆動させる(再アプライを行う)必要があるか否かを判定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、車両が停車している路面の傾斜角度Gと電動モータ7Aが停止したときの実液圧Pとに応じて、電動モータ7Aの再駆動の要否を判定する。
ここで、図6の第3象限の特性線36は、再駆動を行うか否かの液圧判定値となる下限液圧値Pcと路面の傾斜角度Gとの関係を示している。図6に示すように、特性線36は、単調増加となっている。換言すれば、下限液圧値Pc1は、傾斜角度Gに対して比例関係(正比例)となっている。駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを停止させたときの実液圧Pの値が、そのときの路面の傾斜角度Gに対応する下限液圧値Pc1よりも小さい場合は、電動モータ7Aの再駆動(再アプライ)を行う。
この場合には、駐車ブレーキ制御装置24は、特性線35(目標電流値An1)に基づいて目標電流値Aを設定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを停止させた後、目標電流値AをAn11に再設定する。そして、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aに再び電力を供給し、電動モータ7Aの電流値が目標電流値An11に達すると、電動モータ7Aに対する電力の供給を停止し、電動モータ7Aの回転を停止する。このような駐車ブレーキをアプライさせるときの電動モータ7Aの制御に関しては、後で詳しく述べる。
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC15およびブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッドに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッドがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッドがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、駐車ブレーキ制御装置24から後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が押圧部材保持機構8により直線運動に変換され、ピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッドによりディスクロータ4が押圧される。このとき、押圧部材保持機構8は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、押圧部材保持機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置24から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aが駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、押圧部材保持機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
次に、駐車ブレーキ制御装置24で行われる制御処理について、図4および図5を参照しつつ説明する。なお、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6の電動アクチュエータ7,7にそれぞれ内蔵される左側の電動モータ7Aと右側の電動モータ7Aは、それぞれ同じ内容の制御処理を行う。このため、以下、一方の電動モータ7Aの制御処理について説明する。また、図4の処理は、アプライ制御処理のメインの処理に対応し、図5の処理は、図4中のS11の処理(再アプライ要否判定処理)に対応する。図4の制御処理は、例えば、駐車ブレーキ制御装置24に通電している間、所定の制御周期で、即ち、所定時間(例えば、10ms)毎に繰り返し実行される。
図4の制御処理が開始されると、駐車ブレーキ制御装置24は、S1で、フラグF1がオン(ON)であるか否かを判定する。フラグF1は、電動モータ7Aが駆動中(回転中)であるか否か、換言すれば、S2からS7の処理を介することなくS8に進むか否かを判定するためのアプライ作動中フラグである。後述するように、アプライ作動中フラグF1は、電動モータ7Aの駆動を開始するとS6またはS24でオンとなる。また、アプライ作動中フラグF1は、電動モータ7Aを停止する直前のS9でオフになる。
S1で「YES」、即ち、アプライ作動中フラグF1がオン(アプライ作動中)と判定された場合は、電動モータ7Aが駆動中(アプライ作動中)であるため、S2からS7の処理を介することなくS8に進む。一方、S1で「NO」、即ち、アプライ作動中フラグF1がオフ(OFF)と判定された場合は、電動モータ7Aが駆動中でない(停止中である)ため、S2に進む。
S2では、駐車ブレーキがリリース状態にあり、かつ、駐車ブレーキスイッチ23等によるアプライ指示(指令・要求)があるか否かを判定する。S2で「NO」、即ち、駐車ブレーキがリリース状態でない、または、アプライ指示がないと判定された場合は、エンドを介してスタートに戻る。この場合は、所定時間後にスタートからS1に進み、S1以降の処理を繰り返す。一方、S2で「YES」、即ち、リリース状態、かつ、アプライ指示ありと判定された場合、S3に進む。
S3では、緩和条件を満足するか否かを判定する。緩和条件は、車両が停車している路面の傾斜角度Gに応じて目標電流値を小さくする(緩和する)か否かを判定するための条件である。即ち、S3では、目標電流値を図6の特性線34で設定するか特性線35で設定するかを判定する。S3では、緩和条件を満たすか否かを、運転者がブレーキペダル9を操作して停車しているか否かにより判定する。
具体的には、緩和条件を満たすか否かは、次の(a)と(b)との両方を満たすか否かにより判定する。
(a)ブレーキ操作検出センサ10によりブレーキペダル9が操作されている(ペダルスイッチがONである)。
(b)アプライ指令が駐車ブレーキスイッチ23によるものである。
なお、(a)の判定は、例えば、W/C圧力センサ21による圧力(W/C液圧PW/C)、または、M/C圧力センサ22による圧力(M/C液圧PM/C)を用いてもよい。この場合は、圧力が0よりも大きい場合に、ブレーキペダル9が操作されていると判定する。
また、緩和条件の信頼性を高めるために、(a)と(b)とに加えて、次の(c)、(d)、(e)を満たすか否かを適宜判定条件として用いてもよい。
(c)アクセル開度が0である。
(d)車速が0である。
(e)変速機のギヤ位置がニュートラルである(シフトレバーがニュートラル位置である)。
なお、(e)の判定は、MT車の場合であり、AT車の場合は、例えば、シフトレバー(セレクトレバー)がニュートラル位置またはパーキング位置であるか否かを判定する。アクセル開度、車速、ギヤ位置(シフトレバーの位置)等は、例えば、車両データバス20経由で取得することができる。
緩和条件を満たす場合、車両は、ブレーキペダル9の操作、即ち、液圧の作用で制動を保持していると考えられる。このため、運転者がブレーキペダル9を操作して停車している場合は、後輪側ディスクブレーキ6(のシリンダ6B1内)には、図6の第2象限に示すPA1(特性線33)以上の押圧力が作用していると考えられる。
そこで、S3で「YES」、即ち、緩和条件を満たす(運転者がブレーキペダル9を操作して停車している)と判定された場合は、S4に進む。S4では、緩和条件にて目標電流値Aを設定すると共に、後述するS11の再アプライ要否判定処理で用いる下限液圧値Pcも緩和条件にて設定する。具体的には、目標電流値Aを、図6の第3象限の特性線34(Ay1)を用いて設定する。また、下限液圧値Pcを、図6の第3象限の特性線36(Pc1)を用いて設定する。
即ち、特性線34と特性線36とに基づいて、車両が停車する現在の路面の傾斜角度Gに対応する目標電流値Ay1と下限液圧値Pc1を設定する。例えば、現在の傾斜角度GがG11の場合は、目標電流値AyはAy11となり、下限液圧値PcはP11となる。このように、S4に進んだ場合(緩和条件の場合)は、目標電流値Ay1は、図6の第2象限の特性線33、即ち、液圧による押圧力PA1を考慮し、傾斜角度Gが大きくなる毎に小さくなるように設定している。
なお、路面の傾斜角度Gは、例えば、液圧供給装置用コントロールユニット17に内蔵された傾斜センサの値を車両データバス20経由で取得することができる。傾斜角度Gは、傾斜センサに代えて、加速度センサ、勾配センサ、ジャイロセンサ等、傾斜センサ以外の情報を用いてもよい。また、傾斜センサは、駐車ブレーキ制御装置24に設けてもよいし、他の車載機器に設けられ傾斜センサからの情報を用いてもよい。
一方、S3で「NO」、即ち、緩和条件を満たさないと判定された場合は、S5に進む。S5では、非緩和条件にて目標電流値Aを設定すると共に、下限液圧値Pcも非緩和条件にて設定する。具体的には、目標電流値Aを、図6の第3象限の特性線35(An1)を用いて設定する。また、下限液圧値Pcは、0とする。即ち、S5に進んだ場合(非緩和条件の場合)は、現在の傾斜角度Gに拘わらず、目標電流値AをAn11とすると共に、下限液圧値Pcを0とする。
S4またはS5で目標電流値Aと下限液圧値Pcとを設定したら、続くS6では、アプライ作動中フラグF1をオンにする。続くS7では、電動モータ7Aをアプライ側に駆動し、S8に進む。S8では、モータ停止条件を満たすか否かを判定する。モータ停止条件は、電動モータ7Aを停止するか否かを判定するための条件である。
モータ停止条件を満たすか否かは、次の(i)と(ii)との両方を満たすか否かにより判定する。
(i)電動モータ7Aの駆動を開始してから所定時間を経過した。
(ii)電動モータ7Aの電流値がS4またS5で設定した目標電流値A以上となり所定時間継続した。
なお、(i)の所定時間は、電動モータ7Aの起動による突入電流が十分小さくなるまでの時間として設定することができる。(ii)の所定時間は、目標電流値Aに達したことを判定できる時間、即ち、ノイズ等により誤判定せずに目標電流値Aに達したことを判定できる時間として設定することができる。S8で「NO」、即ち、モータ停止条件を満たしていないと判定された場合は、エンドを介してスタートに戻り、所定時間後にスタートからS1に進む。一方、S8で「YES」、即ち、モータ停止条件を満たすと判定された場合は、S9に進む。S9では、アプライ作動中フラグF1をクリア(OFF)する。続くS10では、電動モータ7Aを停止し、S11に進む。
S11では、再アプライ要否判定処理を行う。具体的には、図5に示す処理を行う。再アプライ要否判定処理がスタートすると、S21では、P情報(液圧情報)の取得を行う。即ち、S21では、現在(今回の制御周期)の後輪側ディスクブレーキ6(のシリンダ6B1内)の実液圧Pを車両データバス20から取得する。実液圧Pは、例えば、W/C圧力センサ21の値(W/C液圧PW/C)、または、M/C圧力センサ22の値(M/C液圧PM/C)を用いることができる。
続くS22では、実液圧Pが下限液圧値Pcより小さいか否かを判定する。これは、アプライ完了時に、路面の傾斜に応じた液圧による押圧力PA1を得られているかを確認する判定処理である。ここで、例えば、図4のS3で「YES」と判定されることにより、S4で下限液圧値Pcが緩和条件で設定されていた場合は、実液圧Pが路面の傾斜に応じたPc1よりも小さいか否かを判定する。一方、図4のS3で「NO」と判定されることにより、S5で下限液圧値Pcが非緩和条件で設定されていた場合は、実液圧Pが0よりも小さいか否かを判定する(非緩和条件の場合は、S22でNOと判定される)。いずれにしても(緩和条件でも非緩和条件でも)、S22で「NO」、即ち、実液圧Pが下限液圧値Pc以上であると判定された場合は、図5のリターンを介して図4のエンドに進み、所定時間後にスタートからS1に進む。
一方、S22で、「YES」、即ち、実液圧Pが下限液圧値Pc未満であると判定された場合は、S23に進む。ここで、実液圧Pが下限液圧値Pc未満となる場合は、例えば、「駐車ブレーキスイッチ23が操作されたときは、ブレーキペダル9の操作により車両が停止している(緩和条件を満たす)が、電動モータ7Aの駆動中にブレーキペダル9の操作が解除されることにより、路面の傾斜によって車両が動き出しそうな状態」に相当する。
そこで、S23では、S5と同様に、非緩和条件にて目標電流値Aと下限液圧値Pcを設定する。即ち、現在の傾斜角度Gに拘わらず、目標電流値AをAn11とすると共に、下限液圧値Pcを0とする。続くS24では、アプライ作動中フラグF1をオンにし、S25では、電動モータ7Aをアプライ側に駆動し、図5のリターンを介して図4のエンドに進む。このように、液圧による押圧力が小さいと判定した場合は、アプライ完了後に再度アプライを行うことにより、制動力を十分に得ることができる。
なお、S22では、再アプライを行うか否かの判定に実液圧Pを用いたが、車両データバス20から取得できる車輪速情報を用いてもよい。この場合、S22の判定は、「車輪速>0」とする。即ち、制動保持できず車輪速が発生する場合は、S23に進み、制動保持でき車輪速が発生しない場合は、リターンを介して図4のエンドに進む。車輪速情報を用いる場合は、液圧センサ(W/C圧力センサ21、M/C圧力センサ22)の故障等による失陥時にも、制動力が確保されているか否かを判定することができる。
次に、駐車ブレーキ制御装置24で図4および図5の処理を行ったときの一例を図6に基づいて説明する。図6では、第1象限がアプライ完了時点の実液圧Pと押圧力Fとの関係を示し、第2象限が傾斜角度Gと押圧力Fとの関係を示し、第3象限が傾斜角度Gに対する目標電流値Aと下限液圧値Pcとの関係を示している。
駐車ブレーキスイッチ23によるアプライ指令があると、電動モータ7Aを駆動する前に、現在の路面の傾斜角度Gに基づいて、目標電流値Aと下限液圧値Pcとを決定する。例えば、現在の傾斜角度GをG11(G=G11)とする。この場合、緩和条件では、図6のAy1(特性線34)に基づいて目標電流値AをAy11(A=Ay11)にし、図6のPc1(特性線36)に基づいて下限液圧値PcをP11(Pc=P11)とする(図4のS4)。一方、非緩和条件では、図6のAn1(特性線35)に基づいて目標電流値AをAn11(A=An11)にし、下限液圧値Pcを0(Pc=0)とする(図4のS5)。図6の第2象限に示すように、目標押圧力FはF11であるが、緩和条件においては、図6のPA1(特性線33)の液圧による押圧力Fp11が期待される。このため、緩和条件の目標電流値Ay11は、非緩和条件の目標電流値An11に対して小さい値となっている。即ち、緩和条件における電動モータ7Aによる押圧力(駐車ブレーキ)は、非緩和条件よりも小さくなっている。
アプライ完了時点の実液圧Pと押圧力Fとの関係は、第1象限に示している。即ち、第1象限の特性線37は、緩和条件での実液圧Pと押圧力Fとの関係(Fy1)に対応し、第1象限の特性線38は、非緩和条件での実液圧Pと押圧力Fとの関係(Fn1)に対応する。ここで、アプライ完了時点の実液圧PがP11の場合、非緩和条件では、押圧力FがFn11となり、目標押圧力F11に対して大きくなる。これに対して、緩和条件では、押圧力Fが目標押圧力F11と等しくなり、適正な押圧力を得ることができる。
なお、アプライ完了時点の実液圧PがP11よりも小さいP12であった場合、緩和条件での押圧力FはFy12となる。この場合は、図5のS23からS25の処理により、非緩和条件にて目標電流値Aと下限液圧値Pcとが再設定され、電動モータ7Aが再駆動される。このように駐車ブレーキの再アプライが行われるため、制動力を確保することができる。
かくして、実施形態では、電動モータ7Aによるピストン6Dの過剰な推進を抑制することができる。
即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、車両が停車している路面の傾斜角度Gが所定角度(0度)よりも大きいときは、特性線34(Ay1)に基づいて、そのときの傾斜角度Gに応じた目標電流値Aに設定される。この場合、目標電流値Aは、路面の傾斜角度Gが大きくなる毎に小さくなるように設定される。このため、路面の傾斜角度Gが大きい場合に、ピストン6Dの押圧力値を小さくでき、ピストン6Dの過剰な推進を抑制することができる。これにより、駐車ブレーキの解除に要する時間の短縮、消費電力(消費電流)の低減を図ることができる。
また、駐車ブレーキ制御装置24は、ブレーキペダル9が踏まれていない場合は、特性線34(Ay1)とは別の特性線35(An1)に基づいて目標電流値Aが設定される。この場合、特性線35(An1)は、全傾斜範囲にわたって特性線34(Ay1)よりも大きな値となっている。このため、ブレーキペダル9が踏まれていないときに、駐車ブレーキによる制動力が過小になることを抑制でき、制動力を確保できる。
また、駐車ブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動するための目標電流値Aによってピストン6Dの目標押圧力値を設定する。このため、電動モータ7Aの電流値に基づいて、電動モータ7Aを目標押圧力値に達した状態で精度良く停止させることができる。
さらに、駐車ブレーキ制御装置24は、路面の傾斜角度が大きくなる程、目標電流値Aを小さくする。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、液圧センサを用いずに目標電流値Aを小さくできる。このため、故障等により液圧センサ値が得られない場合でも、目標電流値Aを小さくするこができる。また、液圧センサ値を車両データバス20から所得することによりその値がずれる(周期遅れがある)場合にも、目標電流値Aを適正に設定できる。このため、これらの面からも、ピストン6Dの過剰な推進を抑制し、駐車ブレーキの解除に要する時間が長くなることを回避できる。
次に、図7は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、路面の傾斜角度に対して目標押圧力を非連続的に複数段階(例えば、2段階)で切換える構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第2の実施形態では、図7の第2象限に特性線41A,41Bとして示すように、目標押圧力Fc2を、2段階で切換える、即ち、傾斜角度G10を境に非連続的に切換える構成としている。この場合、特性線41A,41B、即ち、目標押圧力Fc2は、図7の第2象限の特性線42よりも大きい値に設定されている。なお、特性線42は、第1の実施形態の特性線32と同様に、路面の傾斜角度Gと駐車ブレーキによる制動保持に必要な押圧力の下限Flim2との関係を示している。また、図7の第2象限の特性線43は、第1の実施形態の特性線33と同様に、路面の傾斜角度Gと液圧による制動保持に必要な押圧力PA2との関係を示している。第2の実施の形態では、駐車中の路面傾斜が変化しないと分かっている場合(例えば、エンジンが駆動中の駐車の場合、GPSにより駐車位置を判定できる場合等)に、傾斜の緩やかな路面条件では、目標押圧力を下げる。これにより、駐車ブレーキの解除に要する時間のさらなる短縮、消費電力(消費電流)のさらなる低減を図ることができる。
即ち、第2の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24は、路面の傾斜角度Gが所定角度であるG10未満のときの目標押圧力値を第1の所定押圧力値に設定し、路面の傾斜角度GがG10のときの目標押圧力値を第1の所定押圧力値よりも大きな第2の所定押圧力値に設定し、路面の傾斜角度GがG10よりも大きいときの目標押圧力値を、第1の所定押圧力値よりも大きく、かつ、路面の傾斜角度Gが大きくなる毎に第2の所定押圧力値から小さくなっていく値に設定する。
このために、駐車ブレーキ制御装置24は、目標電流値Aを、緩和条件を満たす場合は図7の第3象限に示すAy2、即ち、特性線44A,44Bに基づいて設定する。一方、駐車ブレーキ制御装置24は、目標電流値Aを、緩和条件を満たさない非緩和条件の場合は、図7の第2象限に示すAn2、即ち、特性線45A,45Bに基づいて設定する。なお、駐車ブレーキ制御装置24で行われる制御処理の内容は、第1の実施形態の図4および図5と同様である。
まず、緩和条件を満たす場合の特性線44A,44Bについて説明する。この場合、傾斜角度Gが所定角度であるG10未満のときの目標電流値Aは、第1の緩和目標電流値に設定している。即ち、路面の傾斜角度Gが0からG10未満の間は、傾斜角度Gが0から大きくなる毎に、傾斜角度Gが0のときの目標電流値Ay0から小さくなり、傾斜角度GがG10の直前でほぼ目標電流値Ay10aとなるように設定している(Ay10a<第1の緩和目標電流値≦Ay0)。なお、路面の傾斜角度Gが0のときの緩和条件での目標電流値Ay0は、非緩和条件での目標電流値An0よりも小さい。また、第1の緩和目標電流値は、Ay10aよりも大きくAy0以下の値(Ay10a〜Ay0)としたが、一定値(例えば、An0以下の一定値)としてもよい。
一方、路面の傾斜角度GがG10のときの目標電流値Aは、第1の緩和目標電流値Ay10a〜Ay0よりも大きな第2の緩和目標電流値Ay10bに設定している。なお、路面の傾斜角度GがG10のときの緩和条件での目標電流値Ay10bは、非緩和条件での目標電流値An10よりも小さい。さらに、路面の傾斜角度GがG10よりも大きいときの目標電流値Aは、第1の緩和目標電流値Ay10a〜Ay0よりも大きく、かつ、路面の傾斜角度Gが大きくなる毎に第2の緩和目標電流値Ay10bから小さくなっていく値に設定している。
次に、非緩和条件の場合の特性線45A,45Bについて説明する。この場合、傾斜角度GがG10未満のときの目標電流値Aは、第1の非緩和目標電流値An0に設定している。より具体的には、路面の傾斜角度Gが0からG10未満の間は、第1の非緩和目標電流値An0で一定となっている。傾斜角度GがG10以上のときの目標電流値は、第1の非緩和目標電流値An0よりも大きな第2の非緩和目標電流値An10に設定している。より具体的には、路面の傾斜角度GがG10以上では、第2の非緩和目標電流値An10で一定となっている。なお、図7の第3象限に示す特性線46は、第1の実施形態の特性線36と同様に、電動モータ7Aの再駆動(再アプライ)を行うか否かを判定するための下限液圧値Pc2と路面の傾斜角度Gとの関係を示している。
次に、駐車ブレーキ制御装置24により、図7の特性線44A,44B,45A,45B、46を用いて、図4および図5の処理を行ったときの一例を、図7に基づいて説明する。傾斜角度Gが大きい場合、即ち、傾斜角度GがG10以上のときは、第1の実施形態と同様であるため、ここでは、傾斜角度Gが小さい場合、即ち、傾斜角度GがG10未満の場合を説明する。
駐車ブレーキスイッチ23によるアプライ指令があると、電動モータ7Aを駆動する前に、現在の路面の傾斜角度Gに基づいて、目標電流値Aと下限液圧値Pcとを決定する。例えば、現在の傾斜角度GをG21(G=G21)とする。この場合、緩和条件では、図7のAy2(特性線44A,44B)に基づいて目標電流値AをAy21(A=Ay21)にし、図7のPc2(特性線46)に基づいて下限液圧値PcをP21(Pc=P21)とする(図4のS4)。一方、非緩和条件では、図6のAn2(特性線45A,45B)に基づいて目標電流値AをAn21(A=An21=An0)にし、下限液圧値Pcを0(Pc=0)とする(図4のS5)。図7の第2象限に示すように、目標押圧力FはF21であるが、緩和条件においては、図6のPA1(特性線43)の液圧による押圧力Fp21が期待される。このため、緩和条件の目標電流値Ay21は、非緩和条件の目標電流値An21に対して小さい値となっている。
アプライ完了時点の実液圧Pと押圧力Fとの関係は、第1象限に示している。即ち、第1象限の特性線47は、緩和条件での実液圧Pと押圧力Fとの関係(Fy2)に対応し、第1象限の特性線48は、非緩和条件での実液圧Pと押圧力Fとの関係(Fn2)に対応する。ここで、アプライ完了時点の実液圧PがP21の場合、非緩和条件では、押圧力FがFn21となり、目標押圧力F21に対して大きくなる。これに対して、緩和条件では、押圧力Fが目標押圧力F21と等しくなり、適正な押圧力を得ることができる。なお、アプライ完了時点の実液圧PがP21よりも小さい場合は、第1の実施形態と同様に、非緩和条件にて目標電流値Aと下限液圧値Pcとが再設定され、電動モータ7Aが再駆動される。
第2の実施形態は、上述の如き特性線44A,44B,45A,45Bに基づいて目標電流値Aを設定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第2の実施形態では、路面の傾斜角度Gが所定角度となるG10未満とG10以上とで、目標電流値を非連続的に2段階で切換える。このため、路面の傾斜角度Gが小さい(G10未満の)場合に、ピストン6Dの目標押圧力値をより小さくすることができる。この結果、駐車ブレーキの解除に要する時間のさらなる短縮、消費電力(消費電流)のさらなる低減を図ることができる。
なお、第2の実施形態では、路面の傾斜角度Gに対して目標電流値(目標押圧力)を非連続的に2段階で切換える構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、路面の傾斜角度Gに対して目標電流値(目標押圧力)を非連続的に3段階以上の複数段階で切換える構成としてもよい。あるいは無段階で切換える構成、すなわち連続的に切換える構成にしてもよい。
各実施形態では、傾斜角度Gに対する下限液圧値Pc(特性線36,46)を固定値とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、初期設定値から学習させて適正化してもよい。より具体的には、アプライ完了時点の実液圧Pと傾斜角度Gとを用いて下限液圧値Pc(特性線36,46)を徐々に補正する。これにより、傾斜角度Gに対する運転者のブレーキペダル9の操作の癖を反映し、押圧力を最適化することができる。なお、学習としては実液圧Pと下限液圧値Pcとの乖離を一気に補正することが最も早いが、突発的にいつもと違う操作をした場合に備えて、複数回の作動で緩やかに補正することが好ましい。
各実施形態では、目標電流値で電動モータ7Aを停止した後、S11の処理、即ち、再アプライ要否判定処理を行う構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、S11の処理を省略してもよい。
各実施形態では、左右の後輪側ディスクブレーキ6を電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左右の前輪側ディスクブレーキ5を電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、前輪と後輪の全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。即ち、車両の少なくとも一対の車輪のブレーキを、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成することができる。
各実施形態では、駐車ブレーキ装置(電動駐車ブレーキ機構)として、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。
さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上の実施形態によれば、電動機によるピストンの過剰な推進を抑制することができる。
即ち、実施形態によれば、制御装置は、車両が停車している路面の傾斜角度が所定角度よりも大きいときは、ピストンの目標押圧力値を路面の傾斜角度が大きくなる毎に小さくなるように設定する構成としている。このため、路面の傾斜角度が大きい場合に、目標押圧力値を小さくでき、ピストンの過剰な推進を抑制することができる。これにより、駐車ブレーキの解除に要する時間の短縮、消費電力(消費電流)の低減を図ることができる。
実施形態によれば、制御装置は、路面の傾斜角度が所定角度未満のときの目標押圧力値を第1の所定押圧力値に設定し、路面の傾斜角度が所定角度のときの目標押圧力値を第1の所定押圧力値よりも大きな第2の所定押圧力値に設定し、路面の傾斜角度が所定角度よりも大きいときの目標押圧力値を、第1の所定押圧力値よりも大きく、かつ、路面の傾斜角度が大きくなる毎に第2の所定押圧力値から小さくなっていく値に設定する構成としている。このため、路面の傾斜角度が小さい(所定角度未満の)ときの目標押圧力値をより小さくすることができる。この結果、駐車ブレーキの解除に要する時間のさらなる短縮、消費電力(消費電流)のさらなる低減を図ることができる。
実施形態によれば、制御装置は、ブレーキペダルが踏まれていない場合は、目標押圧力値を所定の押圧力値に設定する構成としている。この場合は、所定の押圧力値を大きな値とすることにより、ブレーキペダルが踏まれていないときに、駐車ブレーキによる制動力が過小になることを抑制でき、制動力を確保できる。
実施形態によれば、制御装置は、電動機を駆動するための目標電流値によって目標押圧力値を設定する構成としている。このため、電動機の電流値に基づいて、該電動機を目標押圧力値に達した状態で精度良く停止させることができる。