JP2017202661A - クリヤ塗装ステンレス鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】ステンレス鋼板の表面のクリヤ樹脂層の厚さを厚くした場合でも、耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11と、ステンレス鋼板11の一方の面11aに形成された第一のクリヤ樹脂層12と、ステンレス鋼板11の他方の面11bに形成された第二のクリヤ樹脂層13と、第二のクリヤ樹脂層13に含有される樹脂ビーズ(C)14とを具備し、第一のクリヤ樹脂層12は熱硬化性樹脂組成物(A)12aを含み、第一のクリヤ樹脂層12の厚さが10μm超であり、第二のクリヤ樹脂層13は熱硬化性樹脂組成物(B)13aを含み、樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)が、第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して3.0〜8.0倍であり、かつ樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d90)が粒子径(d50)の1.8倍以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、クリヤ塗装ステンレス鋼板に関する。
ステンレス鋼板は、ステンレス特有の美麗な金属光沢を活かした高級感のある外観が得られることから、家庭用や業務用の電化製品の筐体や内装材、表装材に広く使われている。
電化製品に使用されるステンレス鋼板は、非塗装で使用されるものと、表面に塗装を施して使用されるもの(以下、ステンレス鋼板の表面に塗装が施されたものを「クリヤ塗装ステンレス鋼板」という。)とに大別される。電化製品の外装材として使用されるステンレス鋼板は意匠性を付与したり、耐食性や耐汚染性等を高めたりする目的からステンレス鋼板の表面(品質保証面)を塗装して使用される場合が多い。
しかし、クリヤ塗装ステンレス鋼板には、プレッシャーマークと呼ばれる圧痕が発生するという問題があった。「プレッシャーマーク」とは、クリヤ塗装ステンレス鋼板を複数重ねて積み上げた場合や、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板をコイル巻き状態で保管する際に、ステンレス鋼板の表面に形成された塗膜(クリヤ樹脂層)に、クリヤ塗装ステンレス鋼板の自重によって圧力が加わり、クリヤ樹脂層が押し潰される形となって生じる圧痕のことである。
プレッシャーマークという現象は、発生した圧痕が塗膜表面の光沢ムラとして観察される。光沢ムラとなる原因は、以下のように考えられる。なお、クリヤ塗装ステンレス鋼板を複数重ねたり、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板をコイル巻き状態にしたときに、任意の層のクリヤ塗装ステンレス鋼板を「下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板」といい、該下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板上に位置するクリヤ塗装ステンレス鋼板を「上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板」という。また、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板のクリヤ樹脂層側の面を「クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面」といい、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板のステンレス鋼板側の面を「クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面」という。
例えば、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の粗度が、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面の粗度よりも高い場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面側からの圧力によって、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の凹凸が均されることにより、光沢が上昇する。このとき、凹凸を構成する凸部の頂上部のみが均されるため、光沢の上昇にムラが生じ、その結果、光沢ムラとなると考えられる。
一方、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の粗度が、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面の粗度よりも低い場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面側からの圧力によって、該裏面の凹凸がクリヤ塗装ステンレス鋼板の表面に転写されることで、光沢が低下する。このとき、凹凸を構成する凸部がより強く転写されるため、光沢の低下にムラが生じ、その結果、光沢ムラとなると考えられる。
このように、プレッシャーマークと呼ばれる圧痕は、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の全面的もしくは部分的な光沢の低下、または光沢の上昇として観察される。プレッシャーマークが発生すると、これらの光沢の変化がムラ状に発生してしまうことから、クリヤ塗装ステンレス鋼板の意匠性が低下し、商品価値を損ねることとなる。
プレッシャーマークに対する対策としては、クリヤ塗装ステンレス鋼板を巻き付けるコイルを軽量化したり、クリヤ塗装ステンレス鋼板を積み上げる枚数を制限したりすることで、かかる圧力そのものを小さくするという方法が一般的である。
しかし、この方法はクリヤ塗装ステンレス鋼板の生産性が大きく下がるだけでなく、クリヤ塗装ステンレス鋼板を保管する際の保管スペースを増やす必要があり、一般的な量産品、とりわけ安価な製品においては、現実的には適用が困難である。
そこで、コイルの重さや積み上げ枚数を制限することなく、プレッシャーマークを抑制する方法が検討されている。
例えば、ステンレス鋼板の表面(品質保証面)とは反対側の面(以下、「ステンレス鋼板の裏面」ともいう。)にも塗装を施し、裏面側の塗膜(クリヤ樹脂層)によるクッション効果により、プレッシャーマークを抑制する方法が知られている。
しかし、この方法では一定の効果を期待できるものの、単にステンレス鋼板の裏面を塗装するだけでは、充分な効果は得られなかった。
そこで、鋼板の表面側の塗膜(クリヤ樹脂層)と、裏面側の塗膜(クリア樹脂層)との光沢値や表面粗度を近づけることで、プレッシャーマークを抑制する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、鋼板の表面側の塗膜(クリヤ樹脂層)と、裏面側の塗膜(クリア樹脂層)とのガラス転移温度の差を小さくすることで硬度差を小さくし、プレッシャーマークを抑制する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
しかし、特許文献1、2に記載の方法の場合、鋼板の表面側の塗膜(クリヤ樹脂層)と、裏面側の塗膜(クリア樹脂層)の物性を制御する必要があるため、手間がかかるものであった。
また、特許文献1に記載の方法の場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面と裏面の光沢値や表面粗度が近いため、意匠性の面で制限されることがあった。
特許文献2に記載の方法の場合、ガラス転移温度は加工性や耐水性など、表面硬度以外の塗膜性能にも影響を及ぼす。そのため、加工性や耐水性への影響も考慮しつつ、ガラス転移温度の差を小さくするには、塗料の種類が制限されることがあった。
そこで、より簡便にプレッシャーマークを抑制する方法として、ステンレス鋼板の表面に形成されるクリヤ樹脂層に樹脂ビーズを配合する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
特開2003−200528号公報 特許第3157105号公報 特開2011−224975号公報
しかしながら、特許文献3に記載の方法の場合、ステンレス鋼板の表面に形成されるクリヤ樹脂層の厚さが薄い場合は充分な耐プレッシャーマーク性を発現できるものの、例えば耐摩耗性を付与するなどの目的でクリヤ樹脂層の厚さを厚くすると、耐プレッシャーマーク性が低下しやすかった。
本発明の課題は、ステンレス鋼板の表面のクリヤ樹脂層の厚さを厚くした場合でも、耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供することにある。
本発明は以下の態様を有する。
[1] ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板の一方の面に形成された第一のクリヤ樹脂層と、該ステンレス鋼板の他方の面に形成された第二のクリヤ樹脂層と、該第二のクリヤ樹脂層に含有される樹脂ビーズ(C)とを具備し、前記第一のクリヤ樹脂層は熱硬化性樹脂組成物(A)を含み、第一のクリヤ樹脂層の厚さが10μm超であり、前記第二のクリヤ樹脂層は熱硬化性樹脂組成物(B)を含み、前記樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)が、第二のクリヤ樹脂層の厚さに対して3.0〜8.0倍であり、かつ樹脂ビーズ(C)の粒子径(d90)が粒子径(d50)の1.8倍以下である、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
[2] 30℃における第一のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E1)が、30℃における第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E2)の1.2〜3.0倍である、[1]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
[3] 前記第二のクリヤ樹脂層は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、樹脂ビーズ(C)を0.2〜10.0質量部含む、[1]または[2]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
本発明によれば、ステンレス鋼板の表面のクリヤ樹脂層の厚さを厚くした場合でも、耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。本実施形態例のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11と、該ステンレス鋼板11の一方の面11aに形成された第一のクリヤ樹脂層12と、該ステンレス鋼板11の他方の面11bに形成された第二のクリヤ樹脂層13と、該第二のクリヤ樹脂層13に含有される樹脂ビーズ(C)14を具備して構成されている。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
また、以下の説明において、ステンレス鋼板11の一方の面11aを「ステンレス鋼板の表面」とし、ステンレス鋼板11の一方の面(表面)11aとは反対側の面、すなわちステンレス鋼板11の他方の面11bを「ステンレス鋼板の裏面」とする。ステンレス鋼板11の表面11aは、ステンレス鋼板の品質保証面である。ここで、「品質保証面」とは、例えば製品の外板に本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板を用いたときに、製品の外面となる面のことである。
また、本発明において、「クリヤ」とは、可視光領域の光線透過率が30%以上のことである。可視光領域の光線透過率は、分光光度計を用いて、380nm〜750nmの波長範囲で測定した光線透過率である。
第一のクリヤ樹脂層12、第二のクリヤ樹脂層13の可視光領域の光線透過率が30%未満であると、可視光は僅かに透過しているものの、目視ではステンレス鋼板11を殆ど見ることはできない。そのため、ステンレスの持つ美麗な外観を活かした意匠は得られない。
特に、第一のクリヤ樹脂層12の可視光透過率は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
「ステンレス鋼板」
ステンレス鋼板11としては、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)など、一般に使用される公知のステンレス鋼板を用いることができる。
ステンレス鋼板11の表面11aは、研磨処理が施されていてもよい。研磨処理としては、No.4研磨、ヘアライン(HL)研磨など、一般に使用される研磨方法が挙げられる。
また、ステンレス鋼板11の表面11aや他方の面(裏面)11bには、第一のクリヤ樹脂層12、第二のクリヤ樹脂層13との密着性を向上させる観点から、化成処理が施されて化成処理膜(図示略)が形成されていてもよい。
「第一のクリヤ樹脂層」
第一のクリヤ樹脂層12は、ステンレス鋼板11の表面11a上に形成された層であり、熱硬化性樹脂組成物(A)12aを含む。
(熱硬化性樹脂組成物(A))
熱硬化性樹脂組成物(A)12aに含まれる熱硬化性樹脂としては特に制限されないが、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などが挙げられる。例えば、第一のクリヤ樹脂層12に高硬度および透明性を付与する目的ではアクリル樹脂が好ましく、加工性を付与する目的ではポリエステル樹脂が好ましい。
アクリル樹脂としては、架橋性官能基を有するアクリル樹脂が好ましい。
架橋性官能基を有するアクリル樹脂はステンレス鋼板11に対する密着性に優れるので、第一のクリヤ樹脂層12が該アクリル樹脂を含むことで、ステンレス鋼板11と第一のクリヤ樹脂層12とが良好に密着する。
架橋性官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシシラン基などが挙げられる。
アクリル樹脂は、非官能性単量体と架橋性官能基を有する重合性単量体とを反応させることで得られる。
非官能性単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族又は環式アクリート;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミドなどが挙げられる。
これら非官能性単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋性官能基を有する重合性単量体としては、ヒドロキシル基含有重合性単量体、カルボキシル基含有重合体単量体、アルコキシシラン基含有重合体単量体などが挙げられる。
ヒドロキシル基含有重合性単量体は、1分子中にヒドロキシル基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル;ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマー(例えば、プラクセルFM1、2、3、4、5、FA−1、2、3、4、5(以上、株式会社ダイセル製)等)などが挙げられる。
カルボキシル基含有重合体単量体は、1分子中にカルボキシル基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アルコキシシラン基含有重合体単量体は、1分子中にアルコキシシラン基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これら架橋性官能基を有する重合性単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル樹脂としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の架橋性官能基を有する樹脂が挙げられ、多価アルコールと多価カルボン酸とを反応させることで得られる。
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,8−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,3−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリエトフメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−(ヒドロキシエチル)イソシアナートなどが挙げられる。
多価カルボン酸としては、例えばフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸などが挙げられる。
これら多価アルコールや多価カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂組成物(A)12aは、当該熱硬化性樹脂組成物(A)12aに含まれる熱硬化性樹脂を硬化させる架橋樹脂をさらに含有することが好ましい。熱硬化性樹脂組成物(A)12aが架橋樹脂を含有することで、熱硬化性樹脂が架橋構造となり、第一のクリヤ樹脂層12の強度が高まるとともに、ステンレス鋼板11に対する第一のクリヤ樹脂層12の密着性が向上する。
架橋樹脂は、熱硬化性樹脂組成物(A)12aに含まれる熱硬化性樹脂の種類に応じて決定される。例えば、熱硬化性樹脂組成物(A)12aが熱硬化性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合、架橋樹脂としてはイソシアネート樹脂が好ましい。また、熱硬化性樹脂組成物(A)12aが熱硬化性樹脂としてポリエステル樹脂を含有する場合、架橋樹脂としてはアミノ樹脂やイソシアネート樹脂が好ましい。
イソシアネート樹脂は、アクリル樹脂やポリエステル樹脂を硬化させる架橋樹脂である。熱硬化性樹脂組成物(A)12aがイソシアネート樹脂を含有することで、アクリル樹脂やポリエステル樹脂が架橋構造となり、第一のクリヤ樹脂層12の強度が高まるとともに、ステンレス鋼板11に対する第一のクリヤ樹脂層12の密着性がより向上する。
イソシアネート樹脂には、常温下でも硬化反応が進行するノンブロックタイプと、イソシアネート基をフェノール類、オキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類等のブロック剤によって封鎖することで、常温下では反応が進まないが、加熱することによって硬化反応が進行するブロックタイプとがある。
イソシアネート樹脂としては、ノンブロックタイプおよびブロックタイプのいずれも使用可能であるが、プレコート型塗装による生産を行う場合は、連続生産時の作業性に優れる点で、ブロックタイプが好ましい。
ブロックタイプのイソシアネート樹脂は、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物である。このような化合物としては、具体的に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;これらイソシアネートのビューレットタイプの付加物やイソシアヌル環タイプの付加物などが挙げられる。
イソシアネート樹脂の含有量は、アクリル樹脂またはポリステル樹脂の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)とイソシアネート樹脂のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比で架橋性官能基/NCO基=1.0/0.2〜1.0/2.0となる量が好ましく、1.0/0.2〜1.0/1.5となる量がより好ましく、1.0/0.5〜1.0/1.2となる量がさらに好ましい。当量比が1.0/0.2以上であれば、熱硬化性樹脂組成物(A)12aの架橋が充分となるため、ステンレス鋼板11に対する第一のクリヤ樹脂層12の密着性が向上するとともに、耐水性や耐薬品性も良好となる。一方、当量比が1.0/2.0以下であれば、イソシアネート基が適量となるため未反応のイソシアネート樹脂が残りにくくなり、熱硬化性樹脂組成物(A)12aの硬化性を良好に維持できる。熱硬化性樹脂組成物(A)12aの硬化性が良好であれば、熱硬化性樹脂組成物(A)12aの硬度が低下するのを抑制できるので、第一のクリヤ樹脂層12に加圧による圧痕が発生するのをより抑制できる。
アミノ樹脂は、ポリエステル樹脂を硬化させる架橋樹脂である。熱硬化性樹脂組成物(A)12aがアミノ樹脂を含有することで、ポリエステル樹脂が架橋構造となり、第一のクリヤ樹脂層12の強度が高まるとともに、ステンレス鋼板11に対する第一のクリヤ樹脂層12の密着性がより向上する。
アミノ樹脂は、アミノ化合物(例えばメラミン、グアナミン、尿素など)とホルムアルデヒド(ホルマリン)とを付加反応させ、アルコールで変性した樹脂の総称であり、具体的には、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化尿素メラミン樹脂、グリコールウリル樹脂、アセトグアナミン樹脂、シクロヘキシルグアナミン樹脂などがある。これらの中でも、反応速度と加工性の両面を考慮して、メラミン樹脂が好ましい。
また、メラミン樹脂は、変性するアルコールの種類によってメチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂などに分類される。これらの中でも、反応性に優れ、かつ可とう性とのバランスに優れる点で、メチル化メラミン樹脂が特に好ましい。
アミノ樹脂の含有量は、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して、15〜50質量部が好ましく、25〜40質量部がより好ましい。アミノ樹脂の含有量が15質量部以上であれば、第一のクリヤ樹脂層12の架橋密度が上がるので、ステンレス鋼板11に対する密着性がより向上する。また、第一のクリヤ樹脂層12の表面硬度が充分なものとなるので、耐傷付き性が高まる。一方、アミノ樹脂の含有量が50質量部以下であれば、第一のクリヤ樹脂層12の柔軟性が上がる。よって、詳しくは後述するが、第一のクリヤ樹脂層12が樹脂ビーズを含有する場合、樹脂ビーズを保持しやすくなる。また、加工による割れを抑制できる。
熱硬化性樹脂組成物(A)12aが架橋樹脂を含有する場合、熱硬化性樹脂組成物(A)12aには熱硬化性樹脂と架橋樹脂との架橋反応を促進させるための硬化触媒がさらに含まれていてもよい。
硬化触媒は、熱硬化性樹脂組成物(A)12aに含まれる熱硬化性樹脂および架橋樹脂の種類に応じて決定される。例えば、熱硬化性樹脂組成物(A)12aがアクリル樹脂もしくはポリエステル樹脂と、イソシアネート樹脂とを含有する場合、硬化触媒としては有機錫触媒が好ましい。
有機錫触媒としては、例えばジ−n−ブチルチンオキサイド、n−ジブチルチンクロライド、ジ−n−ブチルチンジラウリレート、ジ−n−ブチルチンジアセテート、ジ−n−オクチルチンオキサイド、ジ−n−オクチルチンジラウリレート、テトラ−n−ブチルチンなどが挙げられる。
これら有機錫触媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化触媒として有機錫触媒を用いる場合、その含有量は、アクリル樹脂もしくはポリエステル樹脂と、イソシアネート樹脂との固形分の合計100質量部に対して、0.005〜0.08質量部が好ましく、0.01〜0.06質量部がより好ましい。硬化触媒の含有量が0.005質量部以上であれば、硬化触媒の効果が充分に得られる。一方、硬化触媒の含有量が0.08質量部を超えると、単に硬化触媒の効果が頭打ちするだけでなく、反応性が過剰に高くなることによってイソシアネート基(NCO基)が空気中の水分等と反応するなど、アクリル樹脂もしくはポリエステル樹脂の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)との1:1反応をかえって阻害する場合がある。その結果、耐侯性が低下するなど本来の性能を発揮できなくなる恐れがある。また、イソシアネート樹脂としてノンブロックタイプを用いた場合、塗料の反応性が極端に速くなるために、アクリル樹脂もしくはポリエステル樹脂と、イソシアネート樹脂とを混合した後、直ちに塗装する必要性が生じ、塗装作業性が著しく低下する。
また、熱硬化性樹脂組成物(A)12aがポリエステル樹脂とアミノ樹脂とを含有する場合、硬化触媒としてはスルホン酸系やアミン系の硬化触媒が好ましい。特に、第一のクリヤ樹脂層12の表面硬度をより高める目的で、より反応性の高いスルホン酸系の硬化触媒である、p−トルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
また、詳しくは後述するが、第一のクリヤ樹脂層12等を形成する際には、通常、熱硬化性樹脂組成物(A)12a等を含む塗料を調製し、この塗料を用いて第一のクリヤ樹脂層12を形成する。塗料の貯蔵安定性を向上させる観点から、硬化触媒としては、アミン等によって反応基が封鎖して常温下での反応を抑制されたブロック型酸触媒を用いることもできる。これらブロック型酸触媒としては、上述したスルホン酸系の硬化触媒のアミンブロックタイプなどが挙げられる。
硬化触媒としてスルホン酸系やアミン系の硬化触媒を用いる場合、その含有量は、ポリエステル樹脂とアミノ樹脂の固形分の合計100質量部に対して、0.1〜4.0質量部が好ましい。硬化触媒の含有量が0.1質量部以上であれば、硬化触媒の効果が充分に得られる。硬化触媒の含有量が4.0質量部を超えても、硬化触媒の効果が頭打ちとなるだけでなく、塗料の貯蔵安定性が低下する場合がある。
(他の成分)
第一のクリヤ樹脂層12は、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐光性付与剤、透明性を有する有機顔料や無機顔料、各種パール顔料やアルミペースト等の光輝材、分散剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、湿潤剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
(厚さ)
第一のクリヤ樹脂層12の厚さは、10μm超であり、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。第一のクリヤ樹脂層12の厚さが10μm超であれば、耐摩耗性に優れるようになる。特に、第一のクリヤ樹脂層12の厚さが20μm以上であれば、摩耗による素地露出がより抑制され、耐久性がより向上する傾向にある。第一のクリヤ樹脂層12の厚さの上限値については特に制限されないが、第一のクリヤ樹脂層12が図1に示すような単層構造の場合、35μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。特に、第一のクリヤ樹脂層12の厚さが25μm以下であれば、透明性を良好に維持できるので、意匠性により優れる。
「第二のクリヤ樹脂層」
第二のクリヤ樹脂層13は、ステンレス鋼板11の裏面11b上に形成された層であり、熱硬化性樹脂組成物(B)13aを含む。また、第二のクリヤ樹脂層13は、樹脂ビーズ(C)14を含有する。
(熱硬化性樹脂組成物(B))
熱硬化性樹脂組成物(B)13aとしては、第一のクリヤ樹脂層12の説明において先に例示した熱硬化性樹脂組成物(A)12aが挙げられる。
熱硬化性樹脂組成物(B)13aと熱硬化性樹脂組成物(A)12aは同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
(樹脂ビーズ(C))
樹脂ビーズ(C)14は、クリヤ塗装ステンレス鋼板10に耐プレッシャーマーク性を付与する成分である。
プレッシャーマークの発生を抑制するためには、クリヤ塗装ステンレス鋼板10を複数重ねたり、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板10をコイル巻き状態にしたりして保管する際(以下、これらを総称して「クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時」ということもある。)に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第一のクリヤ樹脂層12と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第二のクリヤ樹脂層13との接触面積を小さくすることで達成できる。この接触面積を小さくするには、第二のクリヤ樹脂層13および/または第一のクリヤ樹脂層12の表面の粗度を上げればよく、第二のクリヤ樹脂層13が樹脂ビーズ(C)14を含有していれば、第二のクリヤ樹脂層13の表面の粗度を上げることができる。
ここで、「クリヤ樹脂層の表面」とは、ステンレス鋼板11とは接していない側の面のことである。
樹脂ビーズ(C)14の材料となる樹脂としては特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ビーズ自体の硬度が高く、また透明性を有している点で、アクリル樹脂系のビーズ(アクリル樹脂ビーズ)が好ましい。
樹脂ビーズ(C)14には、使用される樹脂の種類によって架橋型と非架橋型とがある。
樹脂ビーズ(C)14としては、架橋型および非架橋型のいずれも使用可能である。詳しくは後述するが、樹脂ビーズ(C)14は第二のクリヤ樹脂層13の形成に用いる塗料に配合して用いるが、この塗料が溶剤系である場合、樹脂ビーズ(C)14には耐溶剤性が求められる。架橋型の樹脂ビーズは、塗料に添加された後、長期間貯蔵された場合においても、その形状が維持され、耐プレッシャーマーク性を付与するために必要な形状や弾性を保持し続ける。一方、非架橋型の樹脂ビーズは架橋型の樹脂ビーズに比べて耐溶剤性に劣るため、塗料に添加した初期の段階では耐プレッシャーマーク性を付与するために必要な形状や弾性を保持できるが、時間の経過とともに徐々に膨潤したり溶解したりする傾向にあり、本来の機能を損ねてしまうことがある。
よって、樹脂ビーズ(C)14としては架橋型の樹脂ビーズが好ましい。
架橋型のアクリル樹脂ビーズの市販品としては、例えばアートパールA−400、G−200、G−400、G−600、G−800、GR−200、GR−300、GR−400、GR−600、GR−800、J−4P、J−5P、J−7P、S−5P(以上、根上工業株式会社製);テクポリマーMBX−8、MBX−12、MBX−15、MBX−30、MBX−40、MBX−50、MB20X−5、MB20X−30、MB30X−5、MB30X−8、MB30X−20、BM30X−5、BM30X−8、BM30X−12、ARX−15、ARX−30、MBP−8、ACP−8(以上、積水化成品工業株式会社製);ケミスノーMX−150、MX−180TA、MX−300、MX−500、MX−500H、MX−1000、MX−1500H、MX−2000、MX−3000、MR−2HG、MR−7HG、MR−10HG、MR−3GSN、MR−2G、MR−7G、MR−10G、MR−20G、MR−30G、MR−60G、MR−90G、MZ−10HN、MZ−12H、MZ−16H、MZ−20HN(以上、綜研化学株式会社製);スタフィロイドAC−3355、AC−3816、AC−3832、AC−4030、AC−3364、GM−0401S、GM−0801、GM−1001、GM−2001、GM−2801、GM−4003、GM−5003、GM−9005、GM−6292(以上、ガンツ化成株式会社製)などが挙げられる。
架橋型のウレタン樹脂ビーズの市販品としては、例えばアートパールC−100、C−200、C−300、C−400、C−800、CZ−400、P−400T、P−800T、HT−400BK、U−600T、CF−600T、MT−400BR、MT−400YO(以上、根上工業株式会社製)などが挙げられる。
樹脂ビーズ(C)14は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)は、第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して3.0〜8.0倍であり、3.3〜6.0倍が好ましく、3.5〜6.0倍がより好ましい。樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)が上記範囲内であれば、樹脂ビーズ(C)14の一部が第二のクリヤ樹脂層13の表面に露出する(頭出しする)ので、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第一のクリヤ樹脂層12と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第二のクリヤ樹脂層13との接触面積を小さくできる。しかも、露出した樹脂ビーズ(C)14が、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10と上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10との間で、支え(つっかえ棒)の役割を果たす。その結果、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第一のクリヤ樹脂層12に圧力が加わっても、支えとなっている樹脂ビーズ(C)14により第一のクリヤ樹脂層12が変形するのを抑制できる。すなわち、第一のクリヤ樹脂層12に圧痕が残りにくく、耐プレッシャーマーク性が向上する。樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)が第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して3.0倍以上であれば、樹脂ビーズ(C)14の一部が確実に第二のクリヤ樹脂層13の表面に露出するので、上記接触面積を小さくできる。特に、樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)が第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して3.5倍以上であれば、第一のクリヤ樹脂層12に加わる圧力による樹脂ビーズ(C)14の沈み込みが抑制される。よって、樹脂ビーズ(C)14が支えとしての役割を充分に発揮でき、第一のクリヤ樹脂層12の変形がさらに抑制され、耐プレッシャーマーク性がより向上する場合がある。一方、樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d50)が第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して8.0倍を超えると、樹脂ビーズ(C)14が第二のクリヤ樹脂層13の表面に過度に露出してしまい、第一のクリヤ樹脂層12に対する圧痕の原因となる。そのため、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の意匠性に影響を及ぼす。
また、樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d90)は、粒子径(d50)の1.8倍以下であり、1.6倍以下が好ましい。また、樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d90)は、粒子径(d50)の1.0倍以上が好ましく、1.1倍以上がより好ましい。
通常、特に断り無く平均粒子径と表記した場合、メジアン径とも呼ばれる粒子径(d50)の値として用いられる場合が多いが、本発明においては、この粒子径(d50)の値はもちろん、粒子径(d90)の値も重要となる。特に、第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対して樹脂ビーズ(C)14の平均粒子径の値が大きい場合により重要となる。その理由は以下のように考えられる。
粒子径(d90)の値が粒子径(d50)の値よりも非常に大きい場合、一般的に用いられるメジアン径(粒子径(d50))の値と第二のクリヤ樹脂層13の厚さとの比較から推定される、第二のクリヤ樹脂層13の表面から露出する樹脂ビーズ(C)14の割合が過度に多くなる。その結果、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の保管時に、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第二のクリヤ樹脂層13から露出した一部の樹脂ビーズ(C)14によって、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第一のクリヤ樹脂層12に圧痕が残る要因となると考えられる。
樹脂ビーズ(C)14の粒子径(d90)が、粒子径(d50)の1.8倍を超えると、第二のクリヤ樹脂層13の厚さに対する粒子径(d50)が上記範囲内であっても、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の保管時に下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10の第一のクリヤ樹脂層12に圧痕が残ってしまう。
なお、本発明において、レーザー回折散乱法によって測定された粒子の体積平均径を積算分布で表したときに、累積値が50%となる粒子径を「粒子径(d50)」、累積値が90%となる粒子径を「粒子径(d90)」とする。
第二のクリヤ樹脂層13中の樹脂ビーズ(C)14の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(B)13aの固形分100質量部に対して、0.2〜10.0質量部が好ましく、0.5〜10.0質量部がより好ましい。樹脂ビーズ(C)14の含有量が0.2質量部以上であれば、耐プレッシャーマーク性がより向上する。一方、樹脂ビーズ(C)14の含有量が10.0質量部を超えても効果は頭打ちとなるので、樹脂ビーズ(C)14の含有量が10.0質量部以下であればコスト面で有利である。
(他の成分)
第二のクリヤ樹脂層13は、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐光性付与剤、透明性を有する有機顔料や無機顔料、各種パール顔料やアルミペースト等の光輝材、分散剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、湿潤剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
(厚さ)
第二のクリヤ樹脂層13の厚さは、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。第二のクリヤ樹脂層13の厚さが1μm以上であれば、生産上、安定して第二のクリヤ樹脂層13を形成できる。第二のクリヤ樹脂層13の厚さの上限値は特に限定されないが、第二のクリヤ樹脂層13にも意匠性が求められる場合には、20μm以下が好ましい。
(動的貯蔵弾性率)
ステンレス鋼板の両面にクリヤ樹脂層が形成されている場合、第一のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E1)と第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E2)の差が小さいほど、プレッシャーマークは発生しにくい傾向にあり、差が大きいほどプレッシャーマークが発生しやすい傾向にある。
しかし、本発明であれば、第二のクリヤ樹脂層13が特定の粒子径の樹脂ビーズ(C)14を含有するので、第一のクリヤ樹脂層12の動的貯蔵弾性率(E1)と第二のクリヤ樹脂層13の動的貯蔵弾性率(E2)に差があっても、具体的には、第一のクリヤ樹脂層12の動的貯蔵弾性率(E1)が、第二のクリヤ樹脂層13の動的貯蔵弾性率(E2)の1.2〜3.0倍であっても、耐プレッシャーマーク性に優れる。動的貯蔵弾性率(E1)が動的貯蔵弾性率(E2)の3.0倍以下であれば、耐プレッシャーマーク性を良好に維持できる。また、動的貯蔵弾性率(E1)が動的貯蔵弾性率(E2)の1.2倍以上であれば、クリヤ塗装ステンレス鋼板10のプレス加工性が向上するという効果も得られる。
ここで、動的貯蔵弾性率(E1)とは、第一のクリヤ樹脂層12を構成する熱硬化性樹脂組成物(A)12aを用いて厚さ25μmの塗膜(A)を形成し、動的粘弾性測定装置を用い、引張モード、チャック間距離3cm、駆動周波数10Hz、昇温温度2℃/分、測定温度範囲25〜200℃の条件にて測定した塗膜(A)の動的貯蔵弾性率のうち、測定温度30℃における動的貯蔵弾性率のことである。
また、動的貯蔵弾性率(E2)とは、第二のクリヤ樹脂層13を構成する熱硬化性樹脂組成物(B)13aを用いて厚さ25μmの塗膜(B)を形成し、動的貯蔵弾性率(E1)と同様の条件にて測定した塗膜(B)の動的貯蔵弾性率のうち、測定温度30℃における動的貯蔵弾性率のことである。
「クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法」
クリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11の表面11aに第一のクリヤ樹脂層12を形成し、ステンレス鋼板11の裏面11bに第二のクリヤ樹脂層13を形成すること(クリヤ樹脂層形成工程)で得られる。
なお、クリヤ樹脂層形成工程に先立ち、上述したようにステンレス鋼板11を化成処理することが好ましい(化成処理膜形成工程)。
(化成処理膜形成工程)
化成処理膜形成工程は、ステンレス鋼板11の表面11aおよび/または裏面11bに化成処理液を塗装し、乾燥させて化成処理膜を形成する工程である。
化成処理液としては、一般的に塗料の塗布前に使用される化成処理液であれば、その種類は特に限定されない。化成処理液には、クロメートタイプとノンクロメートタイプがあるが、環境に対する配慮の観点からノンクロメートタイプが好ましい。
ノンクロメートタイプの化成処理液は、カップリング剤と、水または溶剤等の溶媒と、必要に応じて架橋剤や液状防錆剤とを含むものである。
化成処理液に用いられるカップリング剤としては、環境問題を考慮してノンクロメートが好ましく、具体的にはN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤などが挙げられる。
これらカップリング剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
化成処理液に用いられる溶剤としては特に限定されず、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;ジエチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒などが挙げられる。
これら溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
化成処理は、化成処理液を付着量が2〜50mg/m(蛍光X線にてSiO量を測定)になるようにステンレス鋼板11の表面11aおよび/または裏面11bに塗装し、乾燥することで行われる。
化成処理液の塗装方法としては、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等の方法を用いることができる。
化成処理液の乾燥は、ステンレス鋼板11に塗装された化成処理液中の溶媒を蒸発させればよく、その温度はステンレス鋼板11の素材最高到達温度(PMT)が60〜140℃程度が適当である。
なお、化成処理を行うに際し、必要に応じてアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理をステンレス鋼板11の表面11aおよび/または裏面11bに施してもよい。
(クリヤ樹脂層形成工程)
クリヤ樹脂層形成工程は、第一のクリヤ樹脂層形成工程と、第二のクリヤ樹脂層形成工程とを有する。
第一のクリヤ樹脂層形成工程は、ステンレス鋼板11の表面11aまたはステンレス鋼板11の表面11aに形成された化成処理膜上に、第一のクリヤ樹脂層形成用塗料(以下、「塗料(A)」ともいう。)を塗装し、硬化させて第一のクリヤ樹脂層12を形成する工程である。
塗料(A)は、熱硬化性樹脂組成物(A)12aと、溶剤と、必要に応じて添加剤とを含むものである。
塗料(A)に用いられる溶剤としては、化成処理液の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
塗料(A)の塗装方法としては、化成処理液の塗装方法と同様の方法が挙げられる。
塗料(A)を塗装した後の硬化条件は、ステンレス鋼板11の素材最高到達温度(PMT)にして200〜270℃となるように加熱することが好ましく、より好ましくは210〜250℃である。素材最高到達温度が200℃未満であると、硬化反応が充分に進まず、第一のクリヤ樹脂層12の表面硬度が低下するだけでなく、ステンレス鋼板11と第一のクリヤ樹脂層12との密着性が低下することがある。一方、素材最高到達温度が270℃を超えると、第一のクリヤ樹脂層12の柔軟性が低下しやすくなる。加えて、クリヤ塗装ステンレス鋼板10が黄変して意匠性を低下させることがある。
第二のクリヤ樹脂層形成工程は、ステンレス鋼板11の裏面11bまたはステンレス鋼板11の裏面11bに形成された化成処理膜上に、第二のクリヤ樹脂層形成用塗料(以下、「塗料(B)」ともいう。)を塗装し、硬化させて第二のクリヤ樹脂層13を形成する工程である。
塗料(B)は、熱硬化性樹脂組成物(B)13aと、樹脂ビーズ(C)14と、溶剤と、必要に応じて添加剤とを含むものである。
塗料(B)に用いられる溶剤としては、化成処理液の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
塗料(B)の塗装方法、および塗料(B)の塗装した後の硬化条件は、塗料(A)と同様である。
「作用効果」
以上説明した本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板によれば、第二のクリヤ樹脂層が特定の粒子径を有する樹脂ビーズ(C)を含むので、耐プレッシャーマーク性に優れる。耐プレッシャーマーク性に優れる理由は以下のように考えられる。
上述したように、プレッシャーマークは、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、ステンレス鋼板の表面に形成された塗膜(第一のクリヤ樹脂層)に、クリヤ塗装ステンレス鋼板の自重によって圧力が加わり、第一のクリヤ樹脂層が押し潰される形となって生じる。
第二のクリヤ樹脂層が特定の粒子径を有する樹脂ビーズ(C)含むことで、樹脂ビーズ(C)の一部が第二のクリヤ樹脂層の表面に露出する。その結果、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第二のクリヤ樹脂層との接触面積を小さくする。また、第一のクリヤ樹脂層に圧力が加わっても、樹脂ビーズ(C)が支えとなり第一のクリヤ樹脂層が変形するのを抑制できる。すなわち、第一のクリヤ樹脂層に圧痕が残りにくい。よって、耐プレッシャーマーク性が向上するものと考えられる。
なお、上記接触面積を小さくするという観点では、第一のクリヤ樹脂層に樹脂ビーズを配合することでも達成できる。しかし、耐摩耗性を付与するなどの目的で第一のクリヤ樹脂層の厚さを10μm超に厚くすると、樹脂ビーズの沈み込みなどが発生し、充分な耐プレッシャーマーク性を発揮できない。第一のクリヤ樹脂層に配合する樹脂ビーズの粒子径を大きくすれば、厚さを厚くしても耐プレッシャーマーク性を発揮することはできるが、第一のクリヤ樹脂層の表面がザラついてしまう。第一のクリヤ樹脂層はステンレス鋼板の品質保証面に形成される層であるため、第一のクリヤ樹脂層の表面のザラツキは、意匠性に影響を及ぼすこととなる。
しかし、本発明であれば、第二のクリヤ樹脂層の厚さに対して3.0〜8.0倍の大きさの樹脂ビーズ(C)を第二のクリヤ樹脂層に配合するので、第一のクリヤ樹脂層の厚さを10μm超に厚くしても優れた耐プレッシャーを発現できる。第二のクリヤ樹脂層の表面は樹脂ビーズ(C)によってザラつくが、ステンレス鋼板の裏面側であるため意匠性には影響しにくい。
「用途」
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、家庭用や業務用の電化製品、電子機器製品の筐体や内装材、表装材として好適に使用される。
「他の実施形態」
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、上述したものに限定されない。図1に示すクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、第二のクリヤ樹脂層13のみに樹脂ビーズ(C)が含まれているが、第一のクリヤ樹脂層12にも樹脂ビーズ(C)が含まれていてもよい。
第一のクリヤ樹脂層12に含まれる樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)は、第一のクリヤ樹脂層の厚さに対して0.7〜1.5倍であることが好ましい。第一のクリヤ樹脂層の厚さに対して、樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)が0.7倍以上であれば耐プレッシャーマーク性がより向上し、1.5倍以下であれば意匠性を良好に維持できる。
第一のクリヤ樹脂層中の樹脂ビーズ(C)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(A)の固形分100質量部に対して、0.2〜5.0質量部が好ましい。樹脂ビーズ(C)の含有量が0.2質量部以上であれば、耐プレッシャーマーク性がより向上する。一方、樹脂ビーズ(C)の含有量が5.0質量部以下であれば、第一のクリヤ樹脂層の透明性や、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の光沢が低下するのを抑制でき、意匠性を良好に維持できる。また、第一のクリヤ樹脂層の可撓性が低下するのを抑制でき、クリヤ塗装ステンレス鋼板の加工性を良好に維持できる。
第二のクリヤ樹脂層に含まれる樹脂ビーズ(C)としては、第一のクリヤ樹脂層の説明において先に例示した樹脂ビーズ(C)が挙げられる。
また、図1に示すクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、単層構造の第一のクリヤ樹脂層12および第二のクリヤ樹脂層13を備えているが、第一のクリヤ樹脂層12や第二のクリヤ樹脂層13は2層以上の多層構造であってもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
「熱硬化性樹脂組成物の調製」
<熱硬化性樹脂組成物(1)の調製>
ポリエステル樹脂溶液(三井化学株式会社製、「アルマテックスP−646」)100質量部と、メチル化メラミン樹脂溶液(三井サイテック株式会社製、「サイメル303」)15質量部とを混合し、熱硬化性樹脂組成物(1)を得た。
<熱硬化性樹脂組成物(2)の調製>
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液(三井化学株式会社製、「エポキー803」)100質量部と、メチル化メラミン樹脂溶液(三井サイテック株式会社製、「サイメル703」)20質量部とを混合し、熱硬化性樹脂組成物(2)を得た。
<熱硬化性樹脂組成物(3)の調製>
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにトルエン25質量部と、酢酸ブチル24質量部とを投入し、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタアクリル酸メチル16質量部、スチレン5質量部、メタアクリル酸n−ブチル19.5質量部、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル9質量部、アクリル酸メチル0.5質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1質量部からなる原料の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させることにより、不揮発分50質量%のアクリル系共重合体(アクリル樹脂(3−1))を得た。このアクリル樹脂(3−1)100質量部をキシレン60質量部に溶解させ、アクリル樹脂溶液(3−2)を得た。
得られたアクリル樹脂溶液(3−2)と、イソシアネート樹脂溶液としてブロックタイプのイシシアネート樹脂溶液(住化バイエルウレタン株式会社製、「デスモジュールBL3575」、NCO基含有率10.5%)とを、アクリル樹脂溶液(3−2)のヒドロキシル基(OH基)と、イソシアネート樹脂溶液のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比でOH基/NCO基=1/1となるように混合し、熱硬化性樹脂組成物(3)を得た。
<熱硬化性樹脂組成物(4)の調製>
アクリル樹脂溶液(三井化学株式会社製、「アルマテックス748−5M」)100質量部と、メチル化メラミン樹脂溶液(三井サイテック株式会社製、「サイメル303」)20質量部とを混合し、熱硬化性樹脂組成物(4)を得た。
<熱硬化性樹脂組成物(5)の調製>
アクリル樹脂溶液(DIC株式会社製、「アクリディックA801−P」)100質量部と、イソシアネート樹脂溶液としてブロックタイプのイシシアネート樹脂溶液(住化バイエルウレタン株式会社製、「デスモジュールBL3575」、NCO基含有率10.5%)とを、アクリル樹脂溶液のヒドロキシル基(OH基)と、イソシアネート樹脂溶液のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比でOH基/NCO基=1/1となるように混合し、熱硬化性樹脂組成物(5)を得た。
「樹脂ビーズ(C)」
樹脂ビーズ(C)として、以下に示す化合物を用いた。
・C−1:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「MX−1000」、粒子径(d50):10μm、粒子径(d90):12μm)
・C−2:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「MZ−12H」、粒子径(d50):12μm、粒子径(d90):20μm)
・C−3:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「MR−2HG」、粒子径(d50):2μm、粒子径(d90):5μm)
・C−4:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(アイカ工業株式会社製、「GM−0401S」、粒子径(d50):4μm、粒子径(d90):8μm)
・C−5:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「GM−0801S」、粒子径(d50):8μm、粒子径(d90):15μm)
・C−6:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「MX−3000」、粒子径(d50):30μm、粒子径(d90):35μm)
・C−7:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「タフチックAR−650S」、粒子径(d50):10μm、粒子径(d90):30μm)
・C−8:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「MR−20G」、粒子径(d50):20μm、粒子径(d90):60μm)
なお、レーザー回折散乱法によって測定された樹脂ビーズ(C)の体積平均径を積算分布で表したときに、累積値が50%となる粒子径を「粒子径(d50)」、累積値が90%となる粒子径を「粒子径(d90)」とした。
「実施例1」
<塗料の調製>
熱硬化性樹脂組成物(A)として熱硬化性樹脂組成物(1)を第一のクリヤ樹脂層形成用塗料(塗料(A))として用いた。
別途、熱硬化性樹脂組成物(B)として熱硬化性樹脂組成物(2)を固形分換算で100質量部と、樹脂ビーズ(C)として樹脂ビーズ(C−1)を固形分換算で0.5質量部とを混合し、第二のクリヤ樹脂層形成用塗料(塗料(B))を調製した。
<クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造>
(化成処理膜形成工程)
ステンレス鋼板としては、SUS430/No.4研磨仕上げ材を用いた。
このステンレス鋼板の両面にノンクロメートの化成処理液をロールコーターにて蛍光X線にてSiOが2〜10mg/mになるように塗装し、素材最高到達温度(PMT)が100℃になるよう乾燥させ、ステンレス鋼板の表面および裏面に化成処理膜を形成した。
(クリヤ樹脂層形成工程)
ステンレス鋼板の表面に形成された化成処理膜上に、塗料(A)を乾燥後の厚さが20μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材最高到達温度(PMT)が210℃になるように乾燥させて、第一のクリヤ樹脂層を形成した。
ついで、ステンレス鋼板の裏面に形成された化成処理膜上に、塗料(B)を乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材最高到達温度(PMT)が232℃になるように乾燥させて、第二のクリヤ樹脂層を形成した。
このようにして、ステンレス鋼板の一方の面(表面)に第一のクリヤ樹脂層が形成され、ステンレス鋼板の他方の面(裏面)に第二のクリヤ樹脂層が形成されたクリヤス塗装テンレス鋼板を得た。
第一のクリヤ樹脂層および第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率を以下の測定方法に基づき測定した。結果を表1に示す。
また、得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板について、以下の評価方法に基づき、密着性、耐プレッシャーマーク性、および樹脂ビーズの経時安定性を調べた。結果を表1に示す。
<測定・評価>
(1)動的貯蔵弾性率の測定
第一のクリヤ樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物(A)を用いて厚さ25μmの塗膜(A)を形成し、動的粘弾性測定装置を用い、引張モード、チャック間距離3cm、駆動周波数10Hz、昇温温度2℃/分、測定温度範囲25〜200℃の条件にて塗膜(A)の動的貯蔵弾性率を測定した。このうち、測定温度30℃における動的貯蔵弾性率を動的貯蔵弾性率(E1)とした。
別途、第二のクリヤ樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物を用いて厚さ25μmの塗膜(B)を形成し、動的貯蔵弾性率(E1)と同様の条件にて塗膜(B)の動的貯蔵弾性率を測定した。このうち、測定温度30℃における動的貯蔵弾性率を動的貯蔵弾性率(E2)とした。
ついで、動的貯蔵弾性率(E1)の動的貯蔵弾性率(E2)に対する倍率を求めた。
(2)密着性の評価
JIS K 5600−5−6/付着性(クロスカット法)に従って、ステンレス鋼板に対する第二のクリヤ樹脂層の密着性を以下の評価基準にて評価した。
5:カットの交差点を含めて、剥離は全く見られない。
4:カットの交差点や縁にごく僅かな剥離が見られる。
3:カットの交差点や縁から、マス目の2割近くが剥離する。
2:カットの縁に沿って大きく欠け、マス目の5割近くが剥離する。
1:カットした部分が全面的に剥離する。
(3)耐プレッシャーマーク性の評価
クリヤ塗装ステンレス鋼板を単重2tのステンレスコイルに巻き付けて1週間放置した。放置後のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐プレッシャーマーク性を評価した。
5:プレッシャーマークの発生は見られない。
4:僅かなプレッシャーマークが確認できるが、1日以内で消失する。
3:僅かなプレッシャーマークが確認でき、消失しない。
2:強いプレッシャーマークが確認できる。
1:極めて著しいプレッシャーマークが発生し、ブロッキングも発生している。
(4)樹脂ビーズの経時安定性の評価
樹脂ビーズの経時安定性は、熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加して塗料を調製した直後に硬化・乾燥させた塗膜(塗膜α)と、熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加して塗料を調製した後、一定期間を経た後に硬化・乾燥させた塗膜(塗膜β)のそれぞれに対して、(3)と同様にして耐プレッシャーマーク性の評価を行い、塗膜αと比較して塗膜βの耐プレッシャーマーク性が低下したかどうかを確認し、以下の評価基準にて樹脂ビーズの経時安定性を評価した。
5:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1ヶ月以上経過した後に硬化・乾燥させた塗膜でも耐プレッシャーマーク性に変化がない。
4:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1ヶ月以上経過した後に硬化・乾燥させた塗膜では耐プレッシャーマーク性がわずかに低下していることが確認された。
3:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、2週間以上1ヶ月未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
2:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1週間以上2週間未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
1:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1週間未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
「実施例2〜22、比較例1〜6」
表1〜5に示す構成の第一のクリヤ樹脂層および第二のクリヤ樹脂層となるように、塗料(A)および塗料(B)を調製し、得られた塗料(A)および塗料(B)を用いた以外は、実施例1と同様にしてクリヤ塗装ステンレス鋼板を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1〜5に示す。
「比較例7」
熱硬化性樹脂組成物(A)として熱硬化性樹脂組成物(3)を固形分換算で100質量部と、樹脂ビーズ(C)として樹脂ビーズ(C−6)を固形分換算で3質量部とを混合し、第一のクリヤ樹脂層形成用塗料(塗料(A))として用いた。
得られた塗料(A)を用い、実施例1と同様にして第一のクリヤ樹脂層を形成し、かつ第二のクリヤ樹脂層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にしてクリヤ塗装ステンレス鋼板を製造し、各種測定・評価を行った。なお、密着性の評価については、ステンレス鋼板に対する第一のクリヤ樹脂層の密着性を評価した。結果を表5に示す。
Figure 2017202661
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なお、表1〜5中の熱硬化性樹脂組成物(A)、(B)および樹脂ビーズ(C)の量は、固形分量(質量部)である。
また、「(d50)/厚さ[倍]」とは、樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)を第二のクリヤ樹脂層の厚さに対する倍率で求めたものである。ただし、比較例7の場合、「(d50)/厚さ[倍]」とは、樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)を第一のクリヤ樹脂層の厚さに対する倍率で求めたものである。
また、「(d90)/(d50)[倍]」とは、樹脂ビーズ(C)の粒子径(d90)を粒子径(d50)に対する倍率で求めたものである。
また、「(E1)/(E2)[倍]」とは、第一のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E1)を第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E2)に対する倍率で求めたものである。
表1〜5の結果より、各実施例で得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に優れていた。また、ステンレス鋼板に対する第二のクリヤ樹脂層の密着性にも優れていた。また、各実施例で用いた樹脂ビーズ(C)は、経時安定性に優れていた。
特に、第一のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E1)が第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E2)の3.0倍以下である実施例1〜19、22は、耐プレッシャーマーク性により優れていた。
一方、樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)が第二のクリヤ樹脂層の厚さの0.67倍、1.33倍、2.67倍、10倍のいずれかである比較例1〜4のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に劣っていた。
樹脂ビーズ(C)の粒子径(d90)が粒子径(d50)3倍である比較例5、6のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に劣っていた。
第二のクリヤ樹脂層を形成せず、第一のクリヤ樹脂層に樹脂ビーズ(C)を含むものの、第一のクリヤ樹脂層の厚さが20μmである比較例7のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に劣っていた。
10 クリヤ塗装ステンレス鋼板
11 ステンレス鋼板
11a 一方の面(表面)
11b 他方の面(裏面)
12 第一のクリヤ樹脂層
12a 熱硬化性樹脂組成物(A)
13 第二のクリヤ樹脂層
13a 熱硬化性樹脂組成物(B)
14 樹脂ビーズ(C)

Claims (3)

  1. ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板の一方の面に形成された第一のクリヤ樹脂層と、該ステンレス鋼板の他方の面に形成された第二のクリヤ樹脂層と、該第二のクリヤ樹脂層に含有される樹脂ビーズ(C)とを具備し、
    前記第一のクリヤ樹脂層は熱硬化性樹脂組成物(A)を含み、第一のクリヤ樹脂層の厚さが10μm超であり、
    前記第二のクリヤ樹脂層は熱硬化性樹脂組成物(B)を含み、
    前記樹脂ビーズ(C)の粒子径(d50)が、第二のクリヤ樹脂層の厚さに対して3.0〜8.0倍であり、かつ樹脂ビーズ(C)の粒子径(d90)が粒子径(d50)の1.8倍以下である、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
  2. 30℃における第一のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E1)が、30℃における第二のクリヤ樹脂層の動的貯蔵弾性率(E2)の1.2〜3.0倍である、請求項1に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
  3. 前記第二のクリヤ樹脂層は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、樹脂ビーズ(C)を0.2〜10.0質量部含む、請求項1または2に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
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