JP2017193666A - 難着霜性、難結露性、難着氷性を有する低温環境用部材 - Google Patents
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Abstract
Description
このような問題の解決策として、対象部材の表面を加工して着霜、結露、着氷を防止する対策が行われている。
また、特許文献2には、オルガノポリシロキサンと、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンの塗膜により、表面を撥水化することが開示されている。
更に、特許文献3には、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂の塗膜によって、表面の液滴に対する前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)を極めて小さくすることが開示されている。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
[1]基材上に滑落撥水層を形成してなる部材であって、該滑落撥水層は、パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造を含有してなり、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが下記の条件(1)を満たす、低温環境用部材。
0<SRsk (1)
[2]前記滑落撥水層表面の三次元算術平均粗さSRaが下記の条件(2)を満たす、上記[1]に記載の低温環境用部材。
0.3nm≦SRa≦3.0nm (2)
[3]前記滑落撥水層表面の三次元十点平均粗さSRzが下記の条件(3)を満たす、上記[1]または[2]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
SRz≦20.0nm (3)
[4]前記滑落撥水層が、海島構造によって形成されてなる、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
[5]前記海島構造中の島部分の割合が25〜90%である、上記[4]に記載の低温環境用部材。
[6]前記パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物である、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
[7]前記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物である、上記[6]に記載の低温環境用部材。
[8]前記海島構造の島部分の主成分が、パーフルオロポリエーテル構造部位である、上記[4]〜[7]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
本発明の低温環境用部材でいう「低温」とは、降雪が可能な温度範囲であり、一般的には3〜4℃以下であるが、環境によっては5℃以上になる場合もある。
<低温環境用部材>
本発明の低温環境用部材は、基材上にパーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造を含有してなる滑落撥水層を形成したものであり、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが特定の条件を満たす。
本発明の低温環境用部材に用いる滑落撥水層は、滑落撥水性を有する層であり、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが下記の条件(1)を満たす。
0<SRsk (1)
上記滑落撥水層表面は、SRsk>0であることから、該滑落撥水層表面上には、細い形状の突出部が適度に存在することを表している。該突出部は、パーフルオロポリエーテル構造部位が滑落撥水層表面近傍で立ち上がったものと考えられる。
また、上記滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskの上限値は特に限定されないが、適度な高さの突出部が存在する観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2.6以下、更に好ましくは2.0以下である。
なお、後述のSRa及びSRzの値についても同様に、上記測定面積で20点測定し、その平均により算出するものとする。
0.3nm≦SRa≦3.0nm (2)
上記SRaは、平坦性の指標とすることができ、滑落撥水層表面のSRaが小さいほど平坦性が高いことを示す。
上記滑落撥水層表面の三次元算術平均粗さSRaは、好ましくは0.3nm以上3.0nm以下であり、より好ましくは0.5nm以上2.5nm以下、より好ましくは0.6nm以上2.0nm以下、更に好ましくは0.6nm以上1.5nm以下である。SRaが条件(2)を満たすことは、滑落撥水層表面近傍に上記突出部が適切な量で存在すること、及び非突出部が緩やかな波形状であることを示している。このため、SRaが条件(2)を満たすことにより、本発明の効果をより発揮しやすくできる。
SRz≦20.0nm (3)
ここで、本発明においてSRzはJIS B0601:1994に記載されている二次元粗さパラメータの十点平均粗さRzを三次元に拡張したものである。
上記滑落撥水層表面の三次元十点平均粗さSRzは、好ましくは20.0nm以下、より好ましくは5.0nm以上16.0nm以下、更に好ましくは6.0nm以上13.0nm以下である。
実際に、本発明の低温環境用部材の滑落撥水層表面についてAFM観察画像を分析したところ、図1に示すように、該滑落撥水層表面は、緩やかな波形状(海部)であり、該波形状(海部)の中に直径200〜1000nm程度、高さ10〜30nm程度の不連続な突出部(島部)が存在する海島構造であった。
なお、上記海島構造の島部分の割合は、滑落撥水層表面の形状を原子間力顕微鏡(AFM)で測定して滑落撥水層表面の高さデータの平均値を算出した後、[平均値以上の高さを有する測定点の数×100/全測定の数]により算出し、これを20点測定し、測定した20点の平均で算出できる。
上記の三次元スキューネスの範囲を満たしつつ、海側の半値半幅(w)が上記範囲であることは、滑落撥水層表面の海島構造内の海部が均一で浅いことを表すとともに、海島構造内に一定の標高を有する島部が多く存在することを表している。このため、三次元スキューネス及び海側の半値半幅が上記範囲を満たすことにより、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。
ここで、島部分の主成分とは、島部分の80質量%以上を占める成分のことを意味する。上記島部分を占める上記パーフルオロポリエーテル構造部位の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
上記滑落撥水層が、パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造を含有すれば、パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造は、特に限定されないが、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物(以下、単に「縮重合物」ともいう)であることが、好ましい。ここで、本発明において「パーフルオロポリエーテル構造を有する」とは、パーフルオロポリエーテル結合を含む基を有することを意味する。
上記縮重合物は、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、該パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランのアルコキシ基と反応する官能基を有する化合物との縮重合物である。
上記アルコキシ基と反応する官能基を有する化合物は、アルコキシ基と反応する官能基を有するものであれば特に制限されることなく用いることができ、例えば、アルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基等を有する化合物が挙げられる。中でも、反応性、及び滑落撥水性向上の観点から、アルコキシシランが好ましく、特に、テトラアルコキシシランが好ましい。
以下、アルコキシ基と反応する官能基を有する化合物として、テトラアルコキシシランを例示して説明する。
上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮重合した構造であると、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することにより、滑落性が向上し、更に霜、結露、氷を付き難くし、かつ、付いた霜、結露、氷の拭き取りを容易にすることができる。また、上述の海島構造の島部を形成しやすくすることができる。
なお、上記滑落撥水層を占める上記縮重合物の割合は、60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。
前記縮重合物の原料として用いられるパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランは、パーフルオロポリエーテル構造を有することにより、滑落撥水層の表面自由エネルギーを低下させ、霜、結露、氷を付き難くする。更に、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することにより、更に霜、結露、氷を付き難くし、かつ、付いた霜、結露、氷の拭き取りを容易にする。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとしては、例えば、下記一般式(1)乃至(4)で表される化合物が挙げられ、滑落撥水性の観点から、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
上記R3〜R10は、それぞれ独立に、炭素数1〜12、好ましくは炭素数3〜8の2価の有機基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ等が挙げられる。また、これらの基は、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、及びビニル結合を含んでいてもよく、更に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてもよい。
中でも、滑落撥水性の観点から、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−OCF2OCF2CF2−、−CF2CF(CF3)CF2O−が好ましい。これらは、1種類のみでも2種類以上を含んでもよい。
直鎖のパーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基等が挙げられ、分岐鎖構造のパーフルオロアルキル基としては、1−(トリフルオロメチル)−1,2,2,2−テトラフルオロエチル基、1,1−ジ(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチル基、2−(トリフルオロメチル)−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基などが挙げられる。
また、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとしては、信越化学工業(株)製「X−71−195」、「KY−178」、「KY−164」、「KY−108」、「KP−911」、ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」、「オプツールDSX−E」等が商業的に入手可能であり、生産性及び滑落撥水性の観点から、「X−71−195」が好ましい。
テトラアルコキシシランは、4つのアルコキシ基を有することから、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとの反応性が高い。上記テトラアルコキシシランとしては、例えば、下記一般式(6)で表される化合物を用いることが好ましい。
本発明の低温環境用部材に用いる基材としては、例えば、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、酸化アルミ板などの各種無機系材料、スピン−オン−グラス(SOG)材料で表面を加工した材料、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などの各種有機系樹脂材料、有機−無機複合材料、金属材料などが挙げられる。なかでも、シランとの反応性の観点から、表面に水酸基を有するものが好ましく、また、材料の加工性、得られる部材の機械的強度、及び滑落撥水層の形成しやすさなどの観点から、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、スピン−オン−グラス(SOG)材料で表面を加工した材料、又は有機−無機複合材料が好ましく、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシートがより好ましい。ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、樹脂基材は強度を向上させる目的から、化学的に強化をしてもよい。SOG材料としては、メチルシロキサンなどのアルキルシロキサン系材料や、ヒドロキシシルセスキオキサン系材料、シラザン系材料、シルセスキオキサン系材料などが挙げられ、耐久性などの点からシルセスキオキサン系材料が好ましい。
市販品のSOG材料としては、例えば層間絶縁膜用塗布材料「HSG」(商品名、日立化成(株)製)、東京応化工業(株)製のOCNシリーズなどが挙げられる。また市販品の有機−無機複合材料としては、UV照射により最表面が自発的に無機化する有機−無機複合材料(商品名「NH−1000G」、日本曹達(株)製)、荒川化学工業(株)製のコンポセランSQシリーズなどが挙げられる。
なお、上記基材の形状は、平面構造であってもよいし、立体構造であってもよい。
基材の表面には、光学特性の向上のために低反射層を形成してもよい。低反射層はスパッタリング法等により無機化合物を複数層積層することで形成できる。また、基材や上記低反射層の表面には、接着性を向上させて使用環境下での長期の信頼性を向上させるために、アンカー剤又はプライマーと呼ばれる塗料の塗布や、接着層としての無機層の成膜を予め行ってもよい。無機層としてはシリコン系化合物が好ましく、SiO2やSiOxが接着性や耐久性の観点からより好ましい。上記接着層は蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法といった方法を用いて成膜できる。また、これらの層の形成の有無にかかわらず、接着性を向上させるために、コロナ放電処理、酸化処理、プラズマ処理等の物理的な処理を行ってもよい。
また、信号機表面、自動車の窓、窓ガラス等として用いる観点から、上記基材の全光線透過率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。基材の透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠する方法により測定することができる。
次に、前述する低温環境用部材の製造方法を説明する。
本発明の低温環境用部材の製造方法は、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを、有機溶媒と水と酸との混合溶媒中で加水分解、縮重合して得られた縮重合物を含む組成物を調製する工程(1)と、該組成物を該基材に塗布して滑落撥水層を形成する工程(2)とを有する。
本工程においては、例えば、有機溶媒と水と酸との混合溶媒中に、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを混合、攪拌し、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランを加水分解し、次いで縮重合することにより縮重合物を得る。
具体的には、上記縮重合物は、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランのアルコキシ基、及び上記テトラアルコキシシランのアルコキシ基がそれぞれ加水分解してシラノール基を形成した後、該パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランが有するシラノール基と該テトラアルコキシシランが有するシラノール基とが縮重合することにより得られる。
また、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの重量平均分子量は、GPC測定により求めることができる。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、上記テトラアルコキシシランとの重量比は、好ましくは1:0.1〜10.0、より好ましくは1:0.15〜8.0、更に好ましくは1:0.2〜6.0である。上記範囲内とすることにより、滑落撥水性を向上させることができる。また、上述の海島構造を形成しやすくし、上述の条件(1)〜(3)を満たしやすくする。
両親媒性溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類等の水溶性の有機溶媒が好適に用いられる。上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブチルアルコール等が挙げられる。上記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。その他の水溶性の有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル等が用いられる。これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
また、上記組成物の固形分濃度は、好ましくは0.01〜15.00質量%、より好ましくは0.05〜10.00質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%である。0.01質量%以上とすることで、滑落撥水層の硬化を促進することができ、15.00質量%以下とすることで、滑落撥水層の着色や滑落撥水性の低下を抑制することができる。
上記工程(1)で調製した組成物を基材上に塗布して乾燥し、硬化させることにより滑落撥水層を形成する。
上記組成物を塗布する方法は、所望の厚みに均一に塗布できる方法であればよく、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、グラビアコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法等が挙げられる。
滑落撥水層は、従来、霜、露、氷を着き難くするために、水と油脂との接触角を大きくすることが検討されてきた。これに対して、本発明では、水と油脂との接触角を大きくするとともに、両者の滑落角を小さくすることで、高い滑落性が得られることにより、霜、露、氷を着き難く、かつ付いた霜、露、氷をふき取りやすくしている。
滑落性は、純水及びn−ヘキサデカンの滑落角を測定することで評価でき、該滑落角が小さいほど滑落性が良好である。滑落角は、測定対象物である部材の滑落撥水層表面に、水平な状態で10μLの純水及び3μLのn−ヘキサデカンを滴下し、部材を徐々に傾斜させて、液滴が滑り始める傾斜角度(滑落角)を測定することにより求められる。測定装置としては、例えば、協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いることができる。滑落角は、具体的には参考例に記載の方法により測定できる。
上記接触角が95°以上であると、滑落撥水層が低い表面自由エネルギーを有していることを示しており、霜、露、氷を付き難くすることができる。また、本発明の低温環境用部材は、純水の接触角が120°以下であり、純水の接触角が150°以上のいわゆる超撥水性表面を有するものではない。
上記滑落角が30°以下であると、滑落撥水層表面の滑落性が向上し、さらに霜、露、氷を着き難くし、かつ、付いた霜、露、氷を拭き取りやすくすることができる。
本発明において、上記接触角を95°以上とすることができるのは、上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造部位を有することに起因すると考えられる。また、上記滑落角を30°以下とすることができるのは、上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮重合した構造であるため、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することに起因すると考えられる。
なお、接触角は、接触角測定装置(例えば、協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」)を用いて、純水及びn−ヘキサデカンに対する接触角をθ/2法により測定することで求められる。接触角は、具体的には参考例に記載の方法により測定できる。
このように、本発明の低温環境用部材が、従来の滑落撥水部材では得られなかった極めて優れた滑落撥水性を有するのは、上記縮重合物が有する隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することに起因すると考えられる。
なお、本発明において「滑り性」とは、部材の滑落撥水層表面の滑らかさを表す指標である。滑り性は、具体的には参考例に記載の方法により評価することができる。
参考例、比較例、及び実施例の低温環境用部材の評価は以下のようにして行った。
<SRa、SRsk、SRz>
白色干渉顕微鏡(New View7300、Zygo社製)を用いて、参考例、比較例、及び実施例で得られた各部材の滑落撥水層表面の形状の測定・解析を行った。その結果を表1に示す。
なお、測定・解析ソフトにはMetro Pro Version 9.0.10 64−bitのMicroscope Applicationを用いた。
(測定条件)
対物レンズ:100倍
Zoom:2倍
測定領域:50μm×50μm
解像度(1点当たりの間隔):0.57μm
(解析条件)
Removed:Plane
Filter:OFF
FilterType:OFF
Low wavelength:OFF
High wavelength:OFF
Remove spikes:OFF
Spike Height(xRMS):OFF
<半値半幅>
島津製作所製の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)SPM‐9600を用い、ソフト:SPMマネージャーにおけるOn‐Line(測定)モード時に、参考例、実施例で得られた各部材の滑落撥水層表面の形状を測定し、高さ分布のヒストグラムデータを得た。その後、Off‐Line(解析)モードを用いて、傾き補正処理を実施し、高さ:0nmを黒色、高さ:25nm以上を白色とした場合の階調画像を得た(縦:512×横:512=262144pixel)。その画像についてPhotoshop(登録商標)を用いて画像解析を行った。各画像の各pixelの濃淡を256階調(黒色:0、白色:255)とした場合の高さ分布のヒストグラムデータを得、半値半幅(w)を算出した。結果を表1に示す。なお、図2は参考例3の高さ分布のヒストグラムデータである。
(AFM測定条件)
測定モード:位相
走査範囲:10μm×10μm、
走査速度:0.8〜1Hz
画素数:512×512
使用したカンチレバー:ナノワールド社製NCHR(共鳴周波数:320kHz、ばね定数42N/m)
(AFM解析条件)
傾き補正:ラインフィット
<海島構造中の島部分の割合>
海島構造の島部分の割合は、滑落撥水層表面の形状をAFMで測定して滑落撥水層表面の高さデータの平均値を算出した後、[平均値以上の高さを有する測定点の数×100/全測定の数]により算出し、これを20点測定し、測定した20点の平均で算出した。結果を表1に示す。
(2)接触角の測定
協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いて、純水及びn−ヘキサデカンの接触角を測定した。部材の滑落撥水層表面に1.5μLの純水を滴下し、着滴1秒後に、θ/2法に従って、滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を算出した。5回測定した平均値を、接触角の値とした。なお、結果を表2に示す。
(3)表面自由エネルギー
上記接触角の測定結果から、以下の基準で表面自由エネルギーを評価した。接触角が大きいほど、表面自由エネルギーが低く優れることを示す。なお、結果を表2に示す。
◎:純水110°以上、かつn−ヘキサデカン60°以上
○:純水110°未満95°以上、かつn−ヘキサデカン60°未満50°以上
×:純水95°未満もしくはn−ヘキサデカン50°未満
(4)滑落角の測定
協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いて、純水及びn−ヘキサデカンの滑落角を測定した。部材を水平に配置し、該部材の滑落撥水層表面に10μLの純水、及び3μLのn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、部材を徐々に傾斜させて、液滴が滑り始める傾斜角度(滑落角)を測定した。5回測定した平均値を、滑落角の値とした。なお、結果を表2に示す。
(5)滑落性
上記滑落角の測定結果から、以下の基準で滑落性を評価した。滑落角が小さいほど、滑落性に優れることを示す。なお、結果を表2に示す。
◎:純水15°未満、かつn−ヘキサデカン10°未満
○:純水15°以上30°以下、もしくはn−ヘキサデカン10°以上15°以下
×:純水30°超もしくはn−ヘキサデカン15°超
(6)滑り性の評価
被験者10名が、じっし参考例1〜5および比較例1で作製した各部材の滑落撥水層表面に指を接触させて、その指を滑落撥水層表面と平行に横方向に往復移動させた(スマートフォンでスライド操作をする様な動き)。その際の指と滑落撥水層表面との摩擦による触感を下記評価基準により判定し、被験者10名の平均値を求めた。この平均値を下記判定基準に従って判定した。なお、結果を表2に示す。
<評価基準>
5点:常に滑らか
3点:滑らか
0点:悪い
<判定基準>
○:4.4点以上
△:2.1点以上4.4点未満
×:2.1点未満
(7)指紋付着
シリコーン樹脂版(10mmφ×30mmの円柱状)に人工指紋液(伊勢久(株)製、JIS C9606の付属書4に準拠)を付着させたものを部材の滑落撥水層表面に押し付けて指紋を付着させた。指紋の付着状態を目視観察し、以下の基準で評価した。なお、結果を表2に示す。
◎:指紋を強く弾いており、付着量が非常に少ない
○:指紋を弾いており、付着量が少ない
△:指紋を弾くが、付着する
×:指紋が広く付着する
(8)指紋拭取性
シリコーン樹脂版(10mmφ×30mmの円柱状)に人工指紋液(伊勢久(株)製、JIS C9606の付属書4に準拠)を付着させたものを部材の防汚層表面に押し付けて指紋を付着させた。付着させた指紋を旭化成(株)製 ベンコットンで拭取り、指紋の残り跡を目視観察し、以下の基準で評価した。なお、結果を表2に示す。
◎:3回までの拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
○:4〜7回の拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
△:8回〜10回の拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
×:10回の拭取り後に指紋の拭き取り跡がはっきりと視認できる
(組成物の調製)
フッ素系有機溶媒(3M製、商品名:Novec 7300)20.2gと、両親媒性溶媒(関東化学(株)製、商品名:2−プロパノール)3.5gと、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン溶液(信越化学工業(株)製、商品名「X−71−195」、固形分20%)0.75gと、テトラアルコキシシラン(東京化成工業(株)製、商品名:オルトけい酸テトラメチル)0.051gとを混合した混合溶液中に、水3.8mgと、1M 塩酸22.4mgとを添加し、25℃で3時間攪拌し、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物を含む組成物1を得た。
(部材の製造)
ガラス基板(日本電気硝子(株)製、商品名:OA−10G、厚さ700μm)上にスピンコーターを用いて、上記組成物1を、回転速度3000回転/minにて塗布し、塗膜を形成した。該塗膜を室温(25℃)で12時間乾燥し、溶剤を除去し、硬化させ、平均膜厚10nm(推定値)の部材を得た。
フッ素系有機溶媒(3M製、商品名:Novec 7300)を28.1g、両親媒性溶媒(関東化学(株)製、商品名:2−プロパノール)を4.8g、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン溶液(信越化学工業(株)製、商品名「X−71−195」、固形分20%)を0.15g、テトラアルコキシシラン(東京化成工業(株)製、商品名:オルトけい酸テトラメチル)を0.076g、水5.9mg、1M 塩酸31.1mg用い、得られた混合溶液の攪拌時間を1.5時間にした以外は参考例1と同様にして部材を得た。
混合溶液の攪拌時間を3時間に変更した以外は、参考例2と同様にして部材を得た。
得られた部材の防汚層表面のAFM観察画像を図1に示す。AFM観察画像を分析したところ、該防汚層表面の形状は、直径250〜500nm程度、高さ10〜20nm程度の不連続な突起状の構造がみられる海島構造であった。
混合溶液の攪拌時間を24時間に変更した以外は、参考例2と同様にして部材を得た。
混合溶液の攪拌時間を72時間に変更した以外は、参考例2と同様にして部材を得た。
フッ素系有機溶媒(3M製、商品名:Novec 7300)を23.0g、両親媒性溶媒(関東化学(株)製、商品名:2−プロパノール)を3.9g、テトラアルコキシシラン(東京化成工業(株)製、商品名:オルトけい酸テトラメチル)を0.063g混合した混合溶液中に、水5.0mgと、1M 塩酸25.4mgとを添加し、室温(25℃)で3時間攪拌した。得られた溶液をガラス基板(日本電気硝子(株)製、商品名:OA−10G、厚さ700μm)上にスピンコートし、一日、室温(25℃)で静置し、平均膜厚10nm(推定値)の部材を得た。
以下の試料を用いて着霜性、結露性、着氷性、耐久性の評価を行った。
試料1:参考例3で作成した部材(透明基材)
試料2:ポリエステルフィルム(東洋紡(株)製、商品名:コスモシャインA4100、厚さ100μm)上にバーコーターを用いて、有機−無機複合材料(日本曹達(株)製、商品名「NH−1000G」)の53質量%メチルイソブチルケトン(MIBK)溶液を塗布し、塗膜を形成した。その塗膜を70℃で60秒間乾燥し、溶剤を除去した。
次いで、上記塗膜に高圧水銀灯を用いて、照射量100mJ/cm2で照射し、塗膜を硬化させて、硬化後の膜厚が10μmの表面が無機化された基材を得た。
前記基材上に、参考例3と同様に滑落撥水層を形成した。(樹脂基材)
試料3:未処理のコーニング社製ゴリラガラス(Gorilla3、厚さ0.7mmt)
(着霜性)
試料1、2、3を、冬場(夜間の最低気温は−2.7℃)に自動車のフロントガラスに貼り付けて一晩放置した後、早朝にそれぞれの表面の様子を観察した。観察時の気温は1℃であった。
(結果)
試料1、2、3を比較した結果、試料1、2は、試料3よりも着霜した霜の厚さが薄く、解氷速度も速かった。
(結露性)
試料1、2、3を断熱ボックスの窓材として、試料1、2、3を、その処理面が断熱ボックスの内側面になるように設置した。該断熱ボックス内の容器に熱湯を入れた状態で、該断熱ボックスを室内温度−7℃の環境に2時間保管し、試料1、2の断熱ボックス内側面に付着した霜の様子を観察した。
(結果)
試料1、2は、パウダー状の霜が付着していた。この霜は、ブラシや手袋でなでる程度の力で容易に拭き取ることができた。
試料3は、水滴状の氷が付着していた。この氷は、ナイフでもなかなか削れない程度に強固に付着していた。
(着氷性1)パウダースノーの積雪評価
試料1、2、3を、水平から45度および60度の角度をつけて設置し、−7℃の環境下で、上部より人工雪を降雪させた。
(結果)
試料1、2は、雪が滑落し、積雪しなかった。
試料3は、積雪し、水平から45度に設置したサンプルは20mmの積雪で、水平から60度に設置したサンプルは10mmの積雪で落雪した。
(着氷性2)ウェットスノーの積雪評価
0℃以上の降雪は、氷状態ではなく水状態の水分を多く含み、ウェットスノーと呼ばれる。本実施例では、+2℃の環境下で、降雪実験を行った。
試料1、2、3を、水平、水平から45度および60度の角度をつけて設置し、+2℃の環境下で、上部より人工雪を降雪させた。
(結果)
水平から60度に設置した試料1、2のサンプルは、一面に積雪する前に、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平から45度に設置した試料1、2のサンプルは、約10mm積雪した後、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平に設置した試料1、2のサンプルは、積雪したが、60mm積雪後、水平から30度傾けると、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平から60度に設置した試料3のサンプルは13mm積雪、水平から45度に設置した試料3のサンプルは20mm積雪、水平に設置した試料3のサンプルは60mm積雪した。これらのサンプルは、積雪後に傾斜角度を90度まで増加しても面滑りは発生せず、雪は滑落しなかった。
(着氷性3)ウェットスノーの氷着評価
試料1、2、3を水平に設置し、上部より人工雪(+2℃)を約20mm積雪させた後、−5℃の環境に1時間保管した。それぞれの試料上の積雪にナイフで切れ目を入れて剥離しやすさを比較した。
(結果)
試料1、2は、積雪が、切れ目からきれいに剥離しガラス表面が露出した。
試料3は、ガラス表面に凍結した雪氷が残り、ナイフで削ってもガラス表面を容易に露出することができなかった。
(着氷性4)
図5に示す引手を有する治具10を準備した。該治具10は、SUS製で、内径44mm、高さ30mmの円柱であり、その側面に直径10mmの引手を溶接してある。
着氷性の評価は、図6に示すように試料20を鉄板30に貼り付け、試料10の表面に図6に示すように治具10を設置した後、該治具10の円筒内部に水を満たし−7℃の環境下に一昼夜保管し、試料10の表面に氷が着氷した状態を人工的に形成した。
このように作成した被検体を、図5に示すように、治具10の引手部に荷重計測装置40を取り付け、垂直に引っ張りあげて、試料表面と氷が剥離した際の荷重の測定を行い、着氷性の評価を行った。
(結果)
試料1は、56.6Nで剥離、試料3は95.3Nで剥離した。
(耐久性)
試料1に対して、スチールウールを用いた擦傷試験を行い、純水の接触角を評価した。試験は、ボンスタースチールウール#0000を用い、該スチールウールを荷重1kg/cm2で試料表面し押し付け、ストローク片道70mm、往復140mm、擦傷速度140mm/sで、0回から10,000回の擦傷回数のテストを行い、純水の接触角の評価を行った。
(結果)
評価結果を図6に示す。
図6に示すように、10,000回の擦傷試験後も純水接触角100°を保持していた。
表2に示すように、滑落撥水層がパーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造を含有し、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが特定の条件を満たす参考例1〜5では、純水の接触角が112〜116°、n−ヘキサデカンの接触角が66〜67°であり、いずれも表面自由エネルギーが低く優れていた。また、純水の滑落角が3〜20°、n−ヘキサデカンの滑落角が2〜6°であり、いずれも滑落性が良好であり、更に、滑り性の評価も高かった。
また、実施例1から7の着霜性、結露性、着氷性、耐久性の評価結果から、本発明の低温環境用部材は、難着霜性、難結露性、難着氷性、耐久性を有していることが確認できた。特に、実施例5に示すように、ウェットスノーが氷結した状態でも、本発明の低温環境用部材は、未処理のガラスに対して優位性を有していることが確認できた。
上述のように、本発明の低温環境用部材が、難着霜性、難結露性、難着氷性、耐久性を有していることから、難着霜性、難結露性、または難着氷性のうち少なくとも一つの性質を必要とする製品に好適に使用することができる
一方、滑落撥水層がパーフルオロポリエーテル構造を含まない比較例1では、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが−0.325で本発明の特定の条件を満たさず、表面自由エネルギーは高く、滑落性、及び滑り性の評価は悪く、参考例と比較して指紋付着及び指紋拭取性の評価が劣っていた。
20 試料
30 鉄板
40 荷重計測装置
Claims (8)
- 基材上に滑落撥水層を形成してなる部材であって、該滑落撥水層は、パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造を含有してなり、該滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskが下記の条件(1)を満たす、低温環境用部材。
0<SRsk (1) - 前記滑落撥水層表面の三次元算術平均粗さSRaが下記の条件(2)を満たす、請求項1に記載の低温環境用部材。
0.3nm≦SRa≦3.0nm (2) - 前記滑落撥水層表面の三次元十点平均粗さSRzが下記の条件(3)を満たす、請求項1又は2に記載の低温環境用部材。
SRz≦20.0nm (3) - 前記滑落撥水層が、海島構造によって形成されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
- 前記海島構造中の島部分の割合が25〜90%である、請求項4に記載の低温環境用部材。
- 前記パーフルオロポリエーテル構造及びシロキサン構造が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
- 前記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物である、請求項6に記載の低温環境用部材。
- 前記海島構造の島部分の主成分が、パーフルオロポリエーテル構造部位である、請求項4〜7のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
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