JP2017210508A - 難着霜性、難結露性、難着氷性を有する低温環境用部材 - Google Patents

難着霜性、難結露性、難着氷性を有する低温環境用部材 Download PDF

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Kaori Yamashita
かおり 山下
慎太郎 那須
Shintaro Nasu
慎太郎 那須
伸 宮之脇
Shin Miyanowaki
伸 宮之脇
伊藤 信行
Nobuyuki Ito
信行 伊藤
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Abstract

【課題】滑落撥水性に優れた低温環境用部材、該低温環境用部材を備えた難着霜性製品、難結露性製品、及び難着氷性製品を提供する。
【解決手段】基材上に滑落撥水層を形成してなる低温環境用部材であって、滑落撥水層は、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、該滑落撥水層表面の高さ分布曲線において、全高さデータにおける各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%が12.0nm以下である、低温環境用部材。
【選択図】なし

Description

本発明は、基材上に滑落撥水層を形成した低温環境用部材に関する。
従来から、大気温度が低い冬場に、部材表面に霜、露、氷がつくことにより不具合が発生する事案が多くあり、着霜、結露、着氷を防止する検討が多く行われてきている。
たとえば、信号機表面に着氷、着雪すると信号機が見えなくなるという危険性を有している。特にLEDを用いた信号機が多く設置されるようになり、その危険性は増大している。また、自動車の窓、窓ガラス等への着霜、結露、着氷により、その透明性を失うことがあり、問題となっている。エアコンの室外機、ヒートポンプユニットの熱交換器等においては、金属製フィンの表面温度が大気の露点以下となるため、金属製フィンの表面に凝縮によって生じた水滴が付着したり、また、暖房運転時の室外機においては、大気温度が低いため、フィン表面の水滴が霜となって凍り付いたりすることによって、通風抵抗が増大し、且つ風量が減少して、熱交換効率が著しく低下するといった問題がある。
このような問題の解決策として、対象部材の表面を加工して着霜、結露、着氷を防止する対策が行われている。
例えば、特許文献1には、有機系樹脂溶液と微粒子とからなる撥水性コーティング組成物を塗布することによって、表面を超撥水化することが開示されている。
また、特許文献2には、オルガノポリシロキサンと、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンの塗膜により、表面を撥水化することが開示されている。
更に、特許文献3には、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂の塗膜によって、表面の液滴に対する前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)を極めて小さくすることが開示されている。
特開平5−117637号公報 特開2002−323298号公報 特許第5768233号
しかしながら、特許文献1に記載の皮膜は、表面を超撥水化せしめて、着霜時間を長くすることが検討されているが、撥水性が未だ充分でなく、また耐久性に問題がある。
特許文献2に記載の皮膜は、オルガノポリシロキサンと、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンの塗膜により、表面を撥水化しているが、特許文献1と同様に、撥水性が未だ充分でなく、また撥油性が低いため水滴内部の固体不純物の表面付着による着霜機能低下が問題となる場合がある。
特許文献3に記載の皮膜は、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂の塗膜により、ヒステリシスの極めて小さい表面を、シリコン、ガラス又は石英、並びに、実用金属ないし合金の表面に形成することで、液滴の滑落性、耐水性、固体表面からの液滴の除去性、防食特性を向上させることを可能にする固体表面の改質技術に関するものである。しかしながら、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜の場合には、特許文献2と同様に撥水性、撥油性が未だ充分でないため、液滴内部の固体不純物の付着による液滴の滑落性の低下が問題となる場合がある。また非晶性フッ素樹脂の場合には、固体表面との密着性が不十分であり、実用に際しては、耐久性が問題となる場合がある。更に、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂、いずれの場合においても、低ヒステリシス機能の発現には加熱処理が必要であることから、耐熱性が低い樹脂等のフィルム表面には適用できない場合がある。
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、滑落撥水層がパーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、該滑落撥水層表面の高さ分布曲線の各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%が一定値以下であることにより、部材表面の滑落撥水性を向上させることができることを見出した。
更に、該滑落撥水層は基材表面の酸素含有極性基である水酸基との間で共有結合を介して固定化されているため、実用に耐えうる耐久性を有することも見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]を提供する。
[1]基材上に滑落撥水層を形成してなる部材であって、該滑落撥水層は、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、該滑落撥水層表面の高さ分布曲線において、全高さデータにおける各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%が12.0nm以下である、低温環境用部材。
[2]前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側における前記高さ分布曲線の変曲点が1個である、せいきゅうこう上記[1]に記載の低温環境用部材。
[3]前記高さ分布曲線のピーク値を示す高さHと、前記高さ分布曲線のピーク値の1/2を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/2Lとが、下記式(I)の関係を満たす、上記[1]又は[2]に記載の低温環境用部材。
H−H1/2L≦2.5nm (I)
[4]前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/2を示す高さのうち標高が高い側の高さH1/2Hとが、下記式(II)の関係を満たす、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
1/2H−H≦3.0nm (II)
[5]前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/3を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/3Lとが、下記式(III)の関係を満たす、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
H−H1/3L≦3.0nm (III)
[6]前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/10を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/10Lとが、下記式(IV)の関係を満たす、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
H−H1/10L≦10.0nm (IV)
[7]前記海島構造中の島部分の割合が20〜50%である、上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
[8]前記パーフルオロ構造及びシロキサン構造が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物である、上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
[9]前記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物である、上記[8]に記載の低温環境用部材。
本発明によれば、滑落撥水性に優れた低温環境用部材を提供することができる。
参考例2で得られた部材の滑落撥水層表面のAFM観察画像である。 比較例1で得られた部材の滑落撥水層表面のAFM観察画像である。 参考例1の滑落撥水層表面の高さ分布曲線である。 参考例2の滑落撥水層表面の高さ分布曲線である。 参考例3の滑落撥水層表面の高さ分布曲線である。 比較例1の滑落撥水層表面の高さ分布曲線である。 本発明の低温環境用部材の着氷性の評価に用いた治具の概略図である。(a)は治具の鳥瞰図、(b)は治具の側面図である。 本発明の低温環境用部材の着氷性の評価に用いた試料を説明する側面図である。 本発明の低温環境用部材の着氷性の評価方法を説明する側面図である。 本発明の低温環境用部材の耐久性の評価結果である。 本発明の低温環境用部材の滑落撥水層と基材との結合を説明する概略図である。
まず、本発明の低温環境用部材について説明する。
本発明の低温環境用部材でいう「低温」とは、降雪が可能な温度範囲であり、環境によっては5℃以上になる場合もあるが、一般的には3〜4℃以下である。
<低温環境用部材>
本発明の低温環境用部材は、基材上に滑落撥水層を形成したものである。該滑落撥水層は、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、該滑落撥水層表面の高さ分布曲線において、全高さデータにおける各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%が12.0nm以下である。
[滑落撥水層]
本発明の低温環境用部材に用いる滑落撥水層は、滑落撥水性を有する層であり、海島構造からなる。
実際に、本発明の低温環境用部材の滑落撥水層表面についてAFM観察画像を分析したところ、図1に示すように、該滑落撥水層表面は、緩やかな波形状(海部分)であり、該波形状(海部分)の中に直径200〜1000nm程度、高さ8〜20nm程度の不連続な突出部(島部分)が存在する海島構造であった。
上記海島構造の島部分の割合が20〜50%であることが、本発明の効果を発揮する観点から好ましく、25〜50%であることがより好ましく、30〜45%であることが更に好ましい。
なお、上記海島構造の島部分の割合は、滑落撥水層表面の形状を原子間力顕微鏡(AFM)で測定して滑落撥水層表面の高さデータの平均値を算出した後、[平均値以上の高さを有する測定点の数×100/全測定の数]により算出し、これを20点測定し、測定した20点の平均で算出できる。
但し、高さ25nm以上のデータは、異物として計算から除外した。
上記滑落撥水層は、滑落撥水層表面の高さ分布曲線において、全高さデータにおける各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%(以下、単に「H50%」と称する場合がある。)が12.0nm以下である。
図3〜5は参考例1〜3の滑落撥水層表面の任意に選択した10μm×10μmの領域における高さ分布曲線である。図3〜5にはH50%の位置を示していないが、図3のH50%は9.5nm、図4のH50%は10.3nm、図5のH50%は10.4nmであり、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHよりも若干高い位置にH50%が位置している。
上記滑落撥水層では、H50%は12.0nm以下であり、好ましくは11.5nm以下であり、より好ましくは11.0nm以下であり、更に好ましくは10.5nm以下である。
50%は、上記海島構造の海部分と島部分との境界に近似していると言える。つまり、H50%が12.0nm以下であることは、図1のAFM観察画像のように海部分が均一で浅いことを表している。したがって、H50%が12.0nm以下であることを満たすことにより、本発明の効果を発揮することができる。
なお、H50%の下限値は特に制限されることはないが、6.5nm以上であることが好ましく、7.5nm以上であることがより好ましく、9.0nm以上であることが更に好ましい。
一方、図6は比較例1の滑落撥水層表面の任意に選択した10μm×10μmの領域における高さ分布曲線である。また、図2は、比較例1で得られた部材の滑落撥水層表面のAFM観察画像である。
図6において、比較例1のH50%は13.6nmであり、参考例1〜3のH50%よりも大きくなっている。この原因は、比較例1では、図2に示すように滑落撥水層表面の海島構造が大きく崩れ、海部分の標高が不均一となっているためである。このように海島構造が崩れてH50%が大きくなった場合、滑落撥水性に悪影響を与えてしまう。
なお、本発明において、高さ分布曲線は、高さ分布のヒストグラムの各区間の値の直線補間による近似曲線である。また、ヒストグラムの各区間のピーク中心に各区間の値(頻度)を割り当てる。例えば、ヒストグラムのある区間をXnm〜Ynmとした場合、(X+Y)/2nmの位置に該区間の値(頻度)を割り当てる。また、高さ分布曲線の基礎となるヒストグラムは、滑落撥水層表面の海島構造の高さ分布状況を正確に反映するために、区間の幅を十分に狭くすることが好ましい。区間の幅は0.2nm以下であれば、高さ分布状況は正確に反映できる。一方、区間の幅が狭すぎる場合、ノイズの影響が大きくなる。このため、区間の幅は0.05〜0.2nmとすることが好ましい。例えば、後述の参考例1〜3、及び比較例1では区間の幅を0.098nmとしている。
但し、高さ25nm以上のデータは、異物として計算から除外した。
上記滑落撥水層は、高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の上記高さ分布曲線の変曲点が1個であることが好ましい。
図1のAFM観察画像のように海部分が均一で浅い場合、図3〜5のように、頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の上記高さ分布曲線は滑らかとなるため、変曲点は1個となる。一方、図2のAFM観察画像のように滑落撥水層表面の海島構造が大きく崩れて海部分の標高が不均一となった場合、図6のように、頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の上記高さ分布曲線は膨らんで滑らかではない。
つまり、頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の上記高さ分布曲線の変曲点が1個であることは、海部分の標高が均一であることを意味する。このため、変曲点が1個であることにより、本発明の効果をより発揮しやすくできる。
なお、変曲点は微細なノイズによってもカウントされてしまうため、複数の区間の幅を平均化したデータに基づき変曲点を算出することが好ましい。例えば、後述のじっし参考例1〜3、及び比較例1では、1区間0.098nmで取得したデータを5区間ごとに平均化したデータに基づき変曲点を算出している。
上記滑落撥水層は、滑落撥水層表面の高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/2を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/2Lとが、下記式(I)の関係を満たすことが好ましい。
H−H1/2L≦2.5nm (I)
図3〜5は、参考例1〜3の滑落撥水層表面の任意に選択した10μm×10μmの領域における高さ分布曲線である。図3〜5中、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/2(頻度50)を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/2Lとの差(H−H1/2L)は、上記滑落撥水層表面の海島構造内の海側の半値半幅を表している。
上記滑落撥水層は、海側の半値半幅(H−H1/2L)が2.5nm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0nm以下、更に好ましくは1.8nm以下、より更に好ましくは1.5nm以下である。海側の半値半幅(H−H1/2L)が2.5nm以下であることは、上記海島構造内に、島部分の標高より低く、一定の標高を有する海部分が2.5nm以下に多く存在し、図1のAFM観察画像のように該海部分が均一で浅いことを表している。したがって、海側の半値半幅(H−H1/2L)が2.5nm以下であることを満たすことにより、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、海側の半値半幅(H−H1/2L)の下限値は0.8nm程度であっても使用できる。
また、上記滑落撥水層は、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/2(頻度50)を示す高さのうち標高が高い側の高さH1/2Hとが、下記式(II)を満たすことが、本発明の効果を発揮する観点から、好ましい。
1/2H−H≦3.0nm (II)
上記式(II)は上記滑落撥水層表面の海島構造内の島側の半値半幅を表している。上記島側の半値半幅(H1/2H−H)は、好ましくは3.0nm以下、より好ましくは2.5nm以下、更に好ましくは2.0nm以下である。島側の半値半幅(H1/2H−H)が3.0nm以下であることは、上記海島構造内に、海部分の標高より高く、一定の標高を有する島部分が3.0nm以下に多く存在することを表している。したがって、島側の半値半幅(H1/2H−H)が3.0nm以下であることを満たすことにより、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、島側の半値半幅(H1/2H−H)の下限値は1.4nm程度であっても使用できる。
更に、上記滑落撥水層は、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/3(頻度100/3)を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/3Lとが、下記式(III)を満たすことが、本発明の効果を発揮する観点から、好ましい。
H−H1/3L≦3.0nm (III)
上記式(III)は上記滑落撥水層表面の海島構造内の海側の1/3幅を表している。上記海側の1/3幅(H−H1/3L)は、好ましくは3.0nm以下、より好ましくは2.8nm以下、更に好ましくは2.5nm以下である。
海側の1/3幅(H−H1/3L)が3.0nm以下であれば、上記海島構造内には、上述の一定の標高を有する海部分よりも低い箇所が少なく、該海部分の標高は均一となり、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、海側の1/3幅(H−H1/3L)の下限値は1.4nm程度であっても使用できる。
一方、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/3(頻度100/3)を示す高さのうち標高が高い側の高さH1/3Hとの差(H1/3H−HH)は、上記滑落撥水層表面の海島構造内の島側の1/3幅を表している。上記島側の1/3幅(H1/3H−H)は、好ましくは3.5nm以下、より好ましくは3.0nm以下、更に好ましくは2.5nm以下である。
島側の1/3幅(H1/3H−H)が3.5nm以下であれば、上記海島構造内には、上述の一定の標高を有する島部分よりも突出した箇所が少なく、該島部分の標高は均一となり、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、島側の1/3幅(H1/3H−H)の下限値は1.4nm程度であっても使用できる。
更に、上記滑落撥水層は、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/10(頻度10)を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/10Lとが、下記式(IV)を満たすことが、本発明の効果を発揮する観点から、好ましい。
H−H1/10L≦10.0nm (IV)
上記式(III)は上記滑落撥水層表面の海島構造内の海側の1/10幅を表している。上記海側の1/10幅(H−H1/10L)は、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは9.0nm以下、更に好ましくは8.5nm以下である。
海側の1/10幅(H−H1/10L)が10.0nm以下であれば、上記海島構造内の海部分には、極端に大きな凹部は存在せず、該海部分の標高は均一となり、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、海側の1/10幅(H−H1/10L)の下限値は7.0nm程度であっても使用できる。
一方、高さ分布曲線の頻度のピーク値(頻度100)を示す高さHと、該ピーク値の1/10(頻度10)を示す高さのうち標高が高い側の高さH1/10Hとの差(H1/10H−H)は、上記滑落撥水層表面の海島構造内の島側の1/10幅を表している。上記島側の1/10幅(H1/10H−H)は、好ましくは7.5nm以下、より好ましくは6.5nm以下、更に好ましくは5.5nm以下である。
島側の1/10幅(H1/10H−H)が7.5nm以下であれば、上記海島構造内には、極端に突出した島部分は存在せず、標高が均一な島部分となり、本発明の効果を発揮しやすくすることができる。なお、島側の1/10幅(H1/10H−H)の下限値は3.8nm程度であっても使用できる。
上記滑落撥水層は、その表面の三次元スキューネスSRskが下記の条件(i)を満たすことが、本発明の効果を更に発揮する観点から、好ましい。
0<SRsk (i)
上記滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskは、平均面を中心としたときの表面形状曲面の対称性を表す指標であり、表面高さ分布の偏りを示す。SRsk=0のときは、表面凹凸の高さ分布が平均線に対して対称であることを示す。また、0>SRskのときは高さ分布が平均面に対して上側に偏っていることを表し、0<SRskのときは平均面に対して下側に偏っていることを表している。
上記滑落撥水層表面は、0<SRskであることから、該滑落撥水層表面上には、細い形状の突出部(島部分)が適度に存在することを表している。
また、上記滑落撥水層表面の三次元スキューネスSRskの上限値は特に限定されないが、適度な高さの突出部が存在する観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2.6以下、更に好ましくは2.0以下である。
なお、本発明においてSRskはJIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータの粗さ曲線のスキューネスRskを3次元に拡張したものであり、基準面に直交座標軸X、Y軸を置き、測定された表面形状曲線をz=f(x,y)、基準面の大きさをLx、Lyとすると下記式(a)で算出される。
ここでSqは下記式(b)で定義される表面高さ分布の二乗平均平方根偏差である。
本発明において、SRskの値は、測定面積をLx=10μm、Ly=10μmの範囲とし、上記測定面積で20点測定し、測定した20点の平均で算出する。
なお、後述のSRa及びSRzの値についても同様に、上記測定面積で20点測定し、その平均により算出するものとする。
上記滑落撥水層表面の三次元算術平均粗さSRaが下記の条件(ii)を満たすことが本発明の効果を更に発揮する観点から、好ましい。
0.3nm≦SRa≦3.0nm (ii)
上記SRaは、平坦性の指標とすることができ、滑落撥水層表面のSRaが小さいほど平坦性が高いことを示す。
上記滑落撥水層表面の三次元算術平均粗さSRaは、好ましくは0.3nm以上3.0nm以下であり、より好ましくは0.5nm以上2.5nm以下、より好ましくは0.6nm以上2.0nm以下、更に好ましくは0.6nm以上1.5nm以下である。SRaが条件(ii)を満たすことは、滑落撥水層表面近傍に上記突出部が適切な量で存在すること、及び非突出部が緩やかな波形状であることを示している。このため、SRaが条件(ii)を満たすことにより、本発明の効果をより発揮しやすくできる。
なお、本発明においてSRaはJIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータの算術平均粗さRaを3次元に拡張したものであり、基準面に直交座標軸X、Y軸を置き、粗さ曲面をZ(x,y)とすると下記式(c)で算出される。
(式中、A=Lx×Ly)
上記滑落撥水層表面の三次元十点平均粗さSRzが下記の条件(iii)を満たすことが本発明の効果を更に発揮する観点から、好ましい。
SRz≦20.0nm (iii)
ここで、本発明においてSRzはJIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータの十点平均粗さRzを3次元に拡張したものである。
上記滑落撥水層表面の三次元十点平均粗さSRzは、好ましくは20.0nm以下、より好ましくは5.0nm以上16.0nm以下、更に好ましくは6.0nm以上13.0nm以下である。
なお、三次元粗さ曲面は、簡便性から干渉顕微鏡を用いて測定することが好ましい。このような干渉顕微鏡としては、Zygo社製の「New View」シリーズ等が挙げられる。
上記滑落撥水層の厚みは特に限定されないが、滑落撥水性及び耐久性の観点から、平均厚みが1〜30nmであることが好ましく、1〜20nmであることがより好ましい。
上記滑落撥水層は、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する。上記滑落撥水層が、パーフルオロ構造を含有することにより、滑落撥水層の表面自由エネルギーを低下させ、霜、露、氷を付き難くすることができる。
上記滑落撥水層が、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有すれば、パーフルオロ構造及びシロキサン構造は、特に限定されないが、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物(以下、単に「縮重合物」ともいう)であることが、好ましい。ここで、本発明において「パーフルオロポリエーテル構造を有する」とは、パーフルオロポリエーテル結合を含む基を有することを意味する。
上記滑落撥水層が、パーフルオロポリエーテル構造を含有する場合、上記滑落撥水層の表面自由エネルギーを低下させ、霜、露、氷を付き難くできる。また、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、該パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランのアルコキシ基と反応する官能基を有する化合物とが縮重合した構造であると、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することにより、更に霜、露、氷を付き難くし、かつ、付いた霜、露、氷の拭き取りを容易にできると考えられる。
上記縮重合物は、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、該パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランのアルコキシ基と反応する官能基を有する化合物との縮重合物である。
上記アルコキシ基と反応する官能基を有する化合物は、アルコキシ基と反応する官能基を有するものであれば特に制限されることなく用いることができ、例えば、アルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基等を有する化合物が挙げられる。中でも、反応性、及び滑落撥水性向上の観点から、アルコキシシランが好ましく、特に、テトラアルコキシシランが好ましい。
以下、アルコキシ基と反応する官能基を有する化合物として、テトラアルコキシシランを例示して説明する。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物であることが、滑落撥水性向上の観点から好ましい。
上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮重合した構造であると、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することにより、滑落性が向上し、更に霜、露、氷を付き難くし、かつ、付いた霜、露、氷の拭き取りを容易にすることができると考えられる。また、上述の海島構造を形成しやすくすることができる。
なお、上記滑落撥水層を占める上記縮重合物の割合は、60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。
(パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン)
前記縮重合物の原料として用いられるパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランは、パーフルオロポリエーテル構造を有することにより、滑落撥水層の表面自由エネルギーを低下させ、霜、露、氷を付き難くする。更に、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することにより、更に霜、露、氷を付き難くし、かつ、付いた霜、露、氷の拭き取りを容易にすると考えられる。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとしては、例えば、下記一般式(1)乃至(4)で表される化合物が挙げられ、滑落撥水性の観点から、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
(式中、R2は、炭素数1〜6のアルキル基である。但し、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。R3〜R10は、それぞれ独立に、炭素数1〜12の2価の有機基を示す。Z1はシロキサン結合を有する1〜10価のオルガノポリシロキサン基であり、Z2はシロキサン結合を有する2〜10価のオルガノポリシロキサン基である。Qはパーフルオロポリエーテル結合を含む基である。Rfは、直鎖または分岐鎖構造のパーフルオロアルキル基である。nは1〜200の整数、mは1〜10の整数である。)
上記R2の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられ、滑落撥水性及び反応性の観点からメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記R3〜R10は、それぞれ独立に、炭素数1〜12、好ましくは炭素数3〜8の2価の有機基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ等が挙げられる。また、これらの基は、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、及びビニル結合を含んでいてもよく、更に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてもよい。
上記Z2のシロキサン結合を有する2〜10価のオルガノポリシロキサン基としては、例えば、以下の一般式(5−1)〜(5−12)で表される基が挙げられる。
上記一般式(5−1)〜(5−12)で表される基の中でも、本発明の効果である滑落撥水性を得る観点から、一般式(5−1)、(5−2)、(5−3)、(5−4)、(5−7)で表される基が好ましい。
上記Qのパーフルオロポリエーテル結合を含む基としては、例えば、−CF2O−、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−OCF2OCF2CF2−、−CF2CF2CF2CF2O−、−CF2CF(CF3)CF2O−、−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−、−C(CF32O−などが挙げられる。
中でも、滑落撥水性の観点から、−CF2CF2O−、−CF2CF2CF2O−、−CF(CF3)CF2O−、−OCF2OCF2CF2−、−CF2CF(CF3)CF2O−が好ましい。これらは、1種類のみでも2種類以上を含んでもよい。
上記Rfは、直鎖または分岐鎖構造のパーフルオロアルキル基であり、本発明の効果を得る観点から、直鎖のパーフルオロアルキル基が好ましい。
直鎖のパーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基等が挙げられ、分岐鎖構造のパーフルオロアルキル基としては、1−(トリフルオロメチル)−1,2,2,2−テトラフルオロエチル基、1,1−ジ(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチル基、2−(トリフルオロメチル)−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基などが挙げられる。
上記nは、1〜200の整数であり、滑落撥水性の観点から、好ましくは2〜100、より好ましくは、3〜60である。nを1以上とすることで基材表面を十分に被覆することができ、滑落撥水層表面の表面自由エネルギーが低下し、滑落撥水性を向上させることができる。nを200以下とすることで、アルコキシシリル基(−Si(OR23)の反応性を高めることができる。
上記mは、1〜10の整数であり、滑落撥水性の観点から、好ましくは1〜7、より好ましくは、1〜5である。mを1以上とすることで滑り性が向上し、より高い滑落撥水性が得られる。mを10以下とすることで、表面自由エネルギーの増大を抑制し、滑落撥水性の低下を抑制できる。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランは、滑落撥水性及び反応性の観点から、パーフルオロポリエーテル構造を有するトリメトキシシランであることが好ましい。
また、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとしては、信越化学工業(株)製「X−71−195」、「KY−178」、「KY−164」、「KY−108」、「KP−911」、ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」、「オプツールDSX−E」等が商業的に入手可能であり、生産性及び滑落撥水性の観点から、「X−71−195」が好ましい。
(テトラアルコキシシラン)
テトラアルコキシシランは、4つのアルコキシ基を有することから、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとの反応性が高い。上記テトラアルコキシシランとしては、例えば、下記一般式(6)で表される化合物を用いることが好ましい。
(式中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基である。但し、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。)
上記R1の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。中でも、滑落撥水性及び反応性の観点からメチル基、エチル基が好ましく、具体的には、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
[基材]
本発明の低温環境用部材に用いる基材としては、例えば、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、酸化アルミ板などの各種無機系材料、スピン−オン−グラス(SOG)材料で表面を加工した材料、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などの各種有機系樹脂材料、有機−無機複合材料、金属材料などが挙げられる。なかでも、シランとの反応性の観点から、表面に水酸基を有するものが好ましく、また、材料の加工性、得られる部材の機械的強度、及び滑落撥水層の形成しやすさなどの観点から、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、スピン−オン−グラス(SOG)材料で表面を加工した材料、又は有機−無機複合材料が好ましく、ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシートがより好ましい。ガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、樹脂基材は強度を向上させる目的から、化学的に強化をしてもよい。SOG材料としては、メチルシロキサンなどのアルキルシロキサン系材料や、ヒドロキシシルセスキオキサン系材料、シラザン系材料、シルセスキオキサン系材料などが挙げられ、耐久性などの点からシルセスキオキサン系材料が好ましい。
市販品のSOG材料としては、例えば層間絶縁膜用塗布材料「HSG」(商品名、日立化成(株)製)、東京応化工業(株)製のOCNシリーズなどが挙げられる。また市販品の有機−無機複合材料としては、UV照射により最表面が自発的に無機化する有機−無機複合材料(商品名「NH−1000G」、日本曹達(株)製)、荒川化学工業(株)製のコンポセランSQシリーズなどが挙げられる。
なお、上記基材の形状は、平面構造であってもよいし、立体構造であってもよい。
透明性が必要とされる場合に基材として用いられるガラス板、ガラスフィルム、ガラスシート、樹脂基材の厚みは、特に制限はないが、光学特性や耐久性の観点から、好ましくは0.01〜100mm、より好ましくは0.02〜10mmである。また基材として用いられる樹脂フィルムの厚みは、強度及び光学特性の観点から、好ましくは1〜500μm、より好ましくは3〜300μmである。
基材の表面には、光学特性の向上のために低反射層を形成してもよい。低反射層はスパッタリング法等により無機化合物を複数層積層することで形成できる。また、基材や上記低反射層の表面には、接着性を向上させて使用環境下での長期の信頼性を向上させるために、アンカー剤又はプライマーと呼ばれる塗料の塗布や、接着層としての無機層の成膜を予め行ってもよい。無機層としてはシリコン系化合物が好ましく、SiO2やSiOxが接着性や耐久性の観点からより好ましい。上記接着層は蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法といった方法を用いて成膜できる。また、これらの層の形成の有無にかかわらず、接着性を向上させるために、コロナ放電処理、酸化処理、プラズマ処理等の物理的な処理を行ってもよい。
また、ディスプレイ等として用いる観点から、上記基材の全光線透過率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。基材の透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠する方法により測定することができる。
[低温環境用部材の製造方法]
次に、前述する低温環境用部材の製造方法を説明する。
本発明の低温環境用部材の製造方法は、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを、有機溶媒と水と酸との混合溶媒中で加水分解、縮重合して得られた縮重合物を含む組成物を調製する工程(1)と、該組成物を該基材に塗布して滑落撥水層を形成する工程(2)とを有する。
(工程(1))
本工程においては、例えば、有機溶媒、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランを含む混合溶媒中に、水と酸とを混合、攪拌し、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランを加水分解し、次いで縮重合することにより縮重合物を得る。
具体的には、上記縮重合物は、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランのアルコキシ基、及び上記テトラアルコキシシランのアルコキシ基がそれぞれ加水分解してシラノール基を形成した後、該パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランが有するシラノール基と該テトラアルコキシシランが有するシラノール基とが縮重合することにより得られる。
加水分解および縮重合反応は、これらの反応が適切に起こる一定の雰囲気下で行うことが好ましい。具体的には、−25〜120℃の範囲で、0.1〜200時間程度行うことが好ましく、−10〜100℃で、0.5〜150時間程度行うことがより好ましく、0〜70℃で、1〜100時間程度行うことが更に好ましい。例えば、10〜60℃で、1〜50時間程度、20〜50℃で、2〜12時間程度である。反応温度及び反応時間を上記範囲内で行なうことにより、上述の海島構造を形成しやすくし、また、上述の条件(i)〜(iii)を満たしやすくする。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン、テトラアルコキシシランとしては、それぞれ上述したものを用いることができる。
また、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの重量平均分子量は、GPC測定により求めることができる。
上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、上記テトラアルコキシシランとの重量比は、好ましくは1:0.1〜10.0、より好ましくは1:0.15〜8.0、更に好ましくは1:0.2〜6.0である。上記範囲内とすることにより、滑落撥水性を向上させることができる。また、上述の海島構造を形成しやすくし、また、上述の条件(i)〜(iii)を満たしやすくする。
有機溶媒としては、上記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランを溶解させる観点から、好ましくはフッ素系溶媒が用いられる。また、水との溶解性の観点から、フッ素系溶媒と両親媒性溶媒との混合有機溶媒であることが好ましい。
両親媒性溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類等の水溶性の有機溶媒が好適に用いられる。上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブチルアルコール等が挙げられる。上記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。その他の水溶性の有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル等が用いられる。これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
組成物中の有機溶媒の配合量は、好ましくは90.000〜99.999質量%、より好ましくは92.00〜99.99質量%、更に好ましくは95.0〜99.9質量%である。90.000質量%以上とすることで、混合溶媒中での反応を均一に進めると共に、該組成物から形成された滑落撥水層を均一透明なものとすることができ、99.999質量%以下とすることで、基材表面に十分な滑落撥水層を形成することができる。
水としては、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。また、上記混合溶媒中に含有される水の配合量は、0.001質量%以上であれば、特に限定されないが、好ましくは0.001〜1.000質量%、より好ましくは0.005〜0.500質量%の割合で配合する。0.001質量%以上とすることで、上記加水分解が促進され、1.000質量%以下とすることで、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの沈殿を抑制することができる。
酸としては、上記加水分解を促進する作用を有するものであれば特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、コハク酸、酢酸、蟻酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸等が挙げられ、反応性や乾燥時の滑落撥水層からの除去の観点から、塩酸が好ましい。また、上記混合溶媒中に含有される酸の配合量は、上記加水分解を促進させる観点から、好ましくは0.000001〜10.000000質量%、より好ましくは0.00001〜5.00000質量%、更に好ましくは0.0001〜1.0000質量%である。
上記組成物には、以上の各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合される光酸発生剤や光塩基発生剤等を必要に応じて配合することができる。該光酸発生剤もしくは光塩基発生剤を配合することにより、より強固な滑落撥水層を形成することができる。
また、上記組成物の固形分濃度は、好ましくは0.01〜15.00質量%、より好ましくは0.05〜10.00質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%である。0.01質量%以上とすることで、滑落撥水層の硬化を促進することができ、15.00質量%以下とすることで、滑落撥水の着色や滑落撥水性の低下を抑制することができる。
(工程(2))
上記工程(1)で調製した組成物を基材上に塗布して乾燥し、硬化させることにより滑落撥水層を形成する。
上記組成物を塗布する方法は、所望の厚みに均一に塗布できる方法であればよく、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、グラビアコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法等が挙げられる。
上記組成物を塗布して形成した膜の乾燥処理の設定条件は、原料、溶媒や、雰囲気の温度や湿度によって変わるが、本発明の効果が得られるのに適した一定の雰囲気下にコントロールした状況で行うことが好ましい。例えば、通常、室温(25℃)〜300℃で、0.1〜48時間程度行うことが好ましく、25〜250℃で、0.2〜24時間程度行うことがより好ましい。これらの処理は1種類の雰囲気下で完結させてもよく、2種類以上の雰囲気下で段階的に処理してもよい。
[低温環境用部材の評価]
滑落撥水層は、従来、霜、露、氷を付き難くするために、水と油脂との接触角を大きくすることが検討されてきた。これに対して、本発明では、水と油脂との接触角を大きくするとともに、両者の滑落角を小さくすることで、高い滑落性が得られることにより、霜、露、氷を付き難く、かつ付いた霜、露、氷をふき取りやすくしている。
滑落性は、純水及びn−ヘキサデカンの滑落角を測定することで評価でき、該滑落角が小さいほど滑落性が良好である。滑落角は、測定対象物である部材の滑落撥水層表面に、水平な状態で10μLの純水及び3μLのn−ヘキサデカンを滴下し、部材を徐々に傾斜させて、液滴が滑り始める傾斜角度(滑落角)を測定することにより求められる。測定装置としては、例えば、協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いることができる。滑落角は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
本発明の低温環境用部材は、滑落撥水層表面の純水の接触角が好ましくは95°以上120°以下であり、より好ましくは112°以上120°以下であり、更に好ましくは114°以上120°以下である。また、滑落撥水層表面の純水の滑落角が好ましくは30°以下であり、より好ましくは15°以下であり、更に好ましくは8°未満である。
上記接触角が95°以上であると、滑落撥水層が低い表面自由エネルギーを有していることを示しており、霜、露、氷を付き難くすることができる。また、本発明の低温環境用部材は、純水の接触角が120°以下であり、純水の接触角が150°以上のいわゆる超撥水性表面を有するものではない。
上記滑落角が30°以下であると、滑落撥水層表面の滑落性が向上し、さらに霜、露、氷を着き難くし、かつ、付いた霜、露、氷を拭き取りやすくすることができる。
本発明において、上記接触角を95°以上とすることができるのは、上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造部位を有することに起因すると考えられる。また、上記滑落角を30°以下とすることができるのは、上記縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとが縮重合した構造であるため、隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することに起因すると考えられる。
なお、接触角は、接触角測定装置(例えば、協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」)を用いて、純水及びn−ヘキサデカンに対する接触角をθ/2法により測定することで求められる。接触角は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
また、本発明の低温環境用部材は、滑落撥水層表面のn−ヘキサデカンの接触角が好ましくは50°以上であり、より好ましくは55°以上であり、更に好ましくは60°以上である。また、滑落撥水層表面のn−ヘキサデカンの滑落角が好ましくは15°以下であり、より好ましくは10°以下であり、更に好ましくは6°以下である。
本発明者らは、滑落撥水層がパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物を含むことにより、滑落撥水層表面と、指や拭き取りに用いる布等との摩擦係数を小さくし、滑り性を向上させることを見出した。本発明の低温環境用部材は、水と油脂との接触角を大きくすることにより滑落撥水層の表面自由エネルギーを低下させ、水と油脂との滑落角を小さくすることにより高い滑落性が得られることに加え、高い滑り性が得られることにより、上記滑落撥水層表面に対し、更に霜、露、氷を付き難くし、かつ付いた霜、露、氷をふき取りやすくすることができる。
このように、本発明の低温環境用部材が、従来の滑落撥水部材では得られなかった極めて優れた滑落撥水性を有するのは、上記縮重合物が有する隣接するパーフルオロポリエーテル構造部位の間隔が広く疎になり、該パーフルオロポリエーテル構造部位が動きやすく柔軟性を有することに起因すると考えられる。
なお、本発明において「滑り性」とは、部材の滑落撥水層表面の滑らかさを表す指標である。滑り性は、具体的には実施例に記載の方法により評価することができる。
更に、本発明の低温環境用部材は、実用に耐えうる耐久性を有することも見出した。本発明の低温環境用部材は、図11に示すように、該滑落撥水層と基材とが、基材表面の酸素含有極性基である水酸基との間で共有結合を介して固定化されていることにより、実用に耐えうる耐久性を発現することができる。
本発明の低温環境用部材は、滑落撥水性に優れるため、難着霜性、難結露性、難着氷性に優れるため、信号機、自動車の窓、窓ガラス、航空機の表面材、エアコンの室外機、ヒートポンプユニットの熱交換器等に好適に使用することができる。また防汚性に優れるため、手で触れた際に表面に指紋、皮脂、汗などの汚れが付着しやすいもの、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機・無機ELディスプレイ、電子ペーパー、VFD、EPDなどの画像表示装置、タッチパネル、携帯電話、音楽プレーヤーなどの携帯用電子機器、CD、DVD、ブルーレイディスクなどの光記録媒体、自動車、電車、航空機などの窓ガラス、外壁用建材、壁紙等の内壁、家電、車載パネル等の表面材として好適に用いられる。
以下、参考例、比較例、及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
参考例、比較例、及び実施例の部材の評価は以下のようにして行った。
(1)滑落撥水層表面の形状
<H50%、半値半幅、1/3幅、1/10幅>
島津製作所製の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)SPM‐9600を用い、ソフト:SPMマネージャーにおけるOn‐Line(測定)モード時に、参考例、比較例、及び実施例で得られた各部材の滑落撥水層表面の形状を測定し、高さ分布のヒストグラムデータを得た。その後、Off‐Line(解析)モードを用いて、傾き補正処理を実施し、高さ:0nmを黒色、高さ:25nm以上を白色とした場合の階調画像を得た(縦:512×横:512=262144pixel)。その画像についてPhotoshop(登録商標)を用いて画像解析を行った。各画像の各pixelの濃淡を256階調(黒色:0、白色:255)とした場合の高さ分布のヒストグラムデータを得(1区間0.098nm)、H50%、海側の半値半幅(H−H1/2L)、島側の半値半幅(H1/2H−H)、海側の1/3幅(H−H1/3L)、海側の1/10幅(H−H1/10L)、島側の1/3幅(H1/3H−H)、及び島側の1/10幅(H1/10H−H)を算出した。結果を表1に示す。なお、図3〜6は実施例1〜3、及び比較例1の高さ分布のヒストグラムデータである。
(AFM測定条件)
測定モード:位相
走査範囲:10μm×10μm、
走査速度:0.8〜1Hz
画素数:512×512
使用したカンチレバー:ナノワールド社製NCHR(共鳴周波数:320kHz、ばね定数42N/m)
(AFM解析条件)
傾き補正:ラインフィット
<海島構造中の島部分の割合>
海島構造の島部分の割合は、滑落撥水層表面の形状をAFMで測定して滑落撥水層表面の高さデータの平均値を算出した後、[平均値以上の高さを有する測定点の数×100/全測定の数]により算出し、これを20点測定し、測定した20点の平均で算出した。但し、高さ25nm以上のデータは、異物として計算から除外した。結果を表1に示す。
<変曲点の数>
50%を算出する際に用いた高さ分布のヒストグラムデータを利用して、頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の高さ分布曲線の変曲点の数を算出した。具体的には、1区間0.098nmで取得したデータを5区間ごとに平均化したデータに基づき高さ分布のヒストグラムデータを再取得し、該再取得したヒストグラムデータにより、頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側の高さ分布曲線の変曲点の数を算出した。
<SRa、SRsk、SRz>
白色干渉顕微鏡(New View7300、Zygo社製)を用いて、参考例、比較例、及び実施例で得られた各部材の滑落撥水層表面の形状の測定・解析を行った。その結果を表1に示す。
なお、測定・解析ソフトにはMetro Pro Version 9.0.10 64−bitのMicroscope Applicationを用いた。
(測定条件)
対物レンズ:100倍
Zoom:2倍
測定領域:50μm×50μm
解像度(1点当たりの間隔):0.57μm
(解析条件)
Removed:Plane
Filter:OFF
FilterType:OFF
Low wavelength:OFF
High wavelength:OFF
Remove spikes:OFF
Spike Height(xRMS):OFF
(2)接触角の測定
協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いて、純水及びn−ヘキサデカンの接触角を測定した。部材の滑落撥水層表面に1.5μLの純水を滴下し、着滴1秒後に、θ/2法に従って、滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を算出した。5回測定した平均値を、接触角の値とした。なお、結果を表2に示す。
(3)表面自由エネルギー
上記接触角の測定結果から、以下の基準で表面自由エネルギーを評価した。接触角が大きいほど、表面自由エネルギーが低く優れることを示す。なお、結果を表2に示す。
◎:純水110°以上、かつn−ヘキサデカン60°以上
○:純水110°未満95°以上、かつn−ヘキサデカン60°未満50°以上
×:純水95°未満もしくはn−ヘキサデカン50°未満
(4)滑落角の測定
協和界面科学(株)製の接触角計「DM 500」を用いて、純水及びn−ヘキサデカンの滑落角を測定した。部材を水平に配置し、該部材の滑落撥水層表面に10μLの純水、及び3μLのn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、部材を徐々に傾斜させて、液滴が滑り始める傾斜角度(滑落角)を測定した。5回測定した平均値を、滑落角の値とした。なお、結果を表2に示す。
(5)滑落性
上記滑落角の測定結果から、以下の基準で滑落性を評価した。滑落角が小さいほど、滑落性に優れることを示す。なお、結果を表2に示す。
◎:純水15°未満、かつn−ヘキサデカン10°未満
○:純水15°以上30°以下、もしくはn−ヘキサデカン10°以上15°以下
×:純水30°超もしくはn−ヘキサデカン15°超
(6)滑り性の評価
被験者10名が、参考例1〜3および比較例1で作製した各部材の滑落撥水層表面に指を接触させて、その指を滑落撥水層表面と平行に横方向に往復移動させた(スマートフォンでスライド操作をする様な動き)。その際の指と滑落撥水層表面との摩擦による触感を下記評価基準により判定し、被験者10名の平均値を求めた。この平均値を下記判定基準に従って判定した。なお、結果を表2に示す。
<評価基準>
5点:常に滑らか
3点:滑らか
0点:悪い
<判定基準>
○:4.4点以上
△:2.1点以上4.4点未満
×:2.1点未満
(7)指紋付着
シリコーン樹脂版(10mmφ×30mmの円柱状)に人工指紋液(伊勢久(株)製、JIS C9606の付属書4に準拠)を付着させたものを部材の滑落撥水層表面に押し付けて指紋を付着させた。指紋の付着状態を目視観察し、以下の基準で評価した。なお、結果を表2に示す。
◎:指紋を強く弾いており、付着量が非常に少ない
○:指紋を弾いており、付着量が少ない
△:指紋を弾くが、付着する
×:指紋が広く付着する
(8)指紋拭取性
シリコーン樹脂版(10mmφ×30mmの円柱状)に人工指紋液(伊勢久(株)製、JIS C9606の付属書4に準拠)を付着させたものを部材の滑落撥水層表面に押し付けて指紋を付着させた。付着させた指紋を旭化成(株)製 ベンコットンで拭取り、指紋の残り跡を目視観察し、以下の基準で評価した。なお、結果を表2に示す。
◎:3回までの拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
○:4〜7回の拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
△:8回〜10回の拭取りで、指紋の付着跡が完全に見えない
×:10回の拭取り後に指紋の拭き取り跡がはっきりと視認できる
参考例1
(組成物の調製)
フッ素系有機溶媒(3M製、商品名:Novec 7300)20.2gと、両親媒性溶媒(関東化学(株)製、商品名:2−プロパノール)3.5gと、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン溶液(信越化学工業(株)製、商品名「X−71−195」、固形分20%)0.75gと、テトラアルコキシシラン(東京化成工業(株)製、商品名:オルトけい酸テトラメチル)0.051gとを混合した混合溶液中に、水3.8mgと、1M 塩酸22.4mgとを添加し、25℃で3時間攪拌し、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物を含む組成物1を得た。
(部材の製造)
ガラス基板(日本電気硝子(株)製、商品名:OA−10G、厚さ700μm)上にスピンコーターを用いて、上記組成物1を、回転速度3000回転/minにて塗布し、塗膜を形成した。該塗膜を室温(25℃)で12時間乾燥し、溶剤を除去し、硬化させ、平均膜厚10nm(塗布量からの推定値)の部材を得た。
参考例2
フッ素系有機溶媒(3M製、商品名:Novec 7300)を28.1g、両親媒性溶媒(関東化学(株)製、商品名:2−プロパノール)を4.8g、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシラン溶液(信越化学工業(株)製、商品名「X−71−195」、固形分20%)を0.15g、テトラアルコキシシラン(東京化成工業(株)製、商品名:オルトけい酸テトラメチル)を0.076g、水5.9mg、1M 塩酸31.1mg用いた以外は参考例1と同様にして部材を得た。
得られた部材の滑落撥水層表面のAFM観察画像を図1に示す。AFM観察画像を分析したところ、該滑落撥水層表面の形状は、直径250〜500nm程度、高さ10〜20nm程度の不連続な突起状の構造がみられる海島構造であった。
参考例3
混合溶液の攪拌時間を24時間に変更した以外は、参考例2と同様にして部材を得た。
比較例1
混合溶液の攪拌時間を168時間に変更した以外は、参考例2と同様にして部材を得た。
実施例
以下の試料を用いて着霜性、結露性、着氷性、耐久性の評価を行った。
試料1:参考例2で作成した部材(透明基材)
試料2:ポリエステルフィルム(東洋紡(株)製、商品名:コスモシャインA4100、厚さ100μm)上にバーコーターを用いて、有機−無機複合材料(日本曹達(株)製、商品名「NH−1000G」)の53質量%メチルイソブチルケトン(MIBK)溶液を塗布し、塗膜を形成した。その塗膜を70℃で60秒間乾燥し、溶剤を除去した。
次いで、上記塗膜に高圧水銀灯を用いて、照射量100mJ/cm2で照射し、塗膜を硬化させて、硬化後の膜厚が10μmの表面が無機化された基材を得た。
前記基材上に、参考例2と同様に滑落撥水層を形成した。(樹脂基材)
試料3:未処理のコーニング社製ゴリラガラス(Gorilla3、厚さ0.7mmt)
実施例1
(着霜性)
試料1、2、3を、冬場(夜間の最低気温は−2.7℃)に自動車のフロントガラスに貼り付けて一晩放置した後、早朝にそれぞれの表面の様子を観察した。観察時の気温は1℃であった。
(結果)
試料1、2、3を比較した結果、試料1、2は、試料3よりも着霜した霜の厚さが薄く、解氷速度も速かった。
実施例2
(結露性)
試料1、2、3を断熱ボックスの窓材として、試料1、2、3を、その処理面が断熱ボックスの内側面になるように設置した。該断熱ボックス内の容器に熱湯を入れた状態で、該断熱ボックスを室内温度−7℃の環境に2時間保管し、試料1、2の断熱ボックス内側面に付着した霜の様子を観察した。
(結果)
試料1、2は、パウダー状の霜が付着していた。この霜は、ブラシや手袋でなでる程度の力で容易に拭き取ることができた。
試料3は、水滴状の氷が付着していた。この氷は、ナイフでもなかなか削れない程度に強固に付着していた。
実施例3
(着氷性1)パウダースノーの積雪評価
試料1、2、3を、水平から45度および60度の角度をつけて設置し、−7℃の環境下で、上部より人工雪を降雪させた。
(結果)
試料1、2は、雪が滑落し、積雪しなかった。
試料3は、積雪し、水平から45度に設置したサンプルは20mmの積雪で、水平から60度に設置したサンプルは10mmの積雪で落雪した。
実施例4
(着氷性2)ウェットスノーの積雪評価
0℃以上の降雪は、氷状態ではなく水状態の水分を多く含み、ウェットスノーと呼ばれる。本実施例では、+2℃の環境下で、降雪実験を行った。
試料1、2、3を、水平、水平から45度および60度の角度をつけて設置し、+2℃の環境下で、上部より人工雪を降雪させた。
(結果)
水平から60度に設置した試料1、2のサンプルは、一面に積雪する前に、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平から45度に設置した試料1、2のサンプルは、約10mm積雪した後、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平に設置した試料1、2のサンプルは、積雪したが、60mm積雪後、水平から30度傾けると、面滑りが発生し、雪が滑落した。
水平から60度に設置した試料3のサンプルは13mm積雪、水平から45度に設置した試料3のサンプルは20mm積雪、水平に設置した試料3のサンプルは60mm積雪した。これらのサンプルは、積雪後に傾斜角度を90度まで増加しても面滑りは発生せず、雪は滑落しなかった。
実施例5
(着氷性3)ウェットスノーの氷着評価
試料1、2、3を水平に設置し、上部より人工雪(+2℃)を約20mm積雪させた後、−5℃の環境に1時間保管した。それぞれの試料上の積雪にナイフで切れ目を入れて剥離しやすさを比較した。
(結果)
試料1、2は、積雪が、切れ目からきれいに剥離しガラス表面が露出した。
試料3は、ガラス表面に凍結した雪氷が残り、ナイフで削ってもガラス表面を容易に露出することができなかった。
実施例6
(着氷性4)
図7に示す引手を有する治具10を準備した。該治具10は、SUS製で、内径44mm、高さ30mmの円柱であり、その側面に直径10mmの引手を溶接してある。
着氷性の評価は、図8に示すように試料20を鉄板30に貼り付け、試料10の表面に治具10を設置した後、該治具10の円筒内部に水を満たし−7℃の環境下に一昼夜保管し、試料10の表面に氷が着氷した状態を人工的に形成した。
このように作成した被検体を、図9に示すように、治具10の引手部に荷重計測装置40を取り付け、垂直に引っ張りあげて、試料表面と氷が剥離した際の荷重の測定を行い、着氷性の評価を行った。
(結果)
試料1は、56.6Nで剥離、試料3は95.3Nで剥離した。
実施例7
(耐久性)
試料1に対して、スチールウールを用いた擦傷試験を行い、純水の接触角を評価した。試験は、ボンスタースチールウール#0000を用い、該スチールウールを荷重1kg/cm2で試料表面し押し付け、ストローク片道70mm、往復140mm、擦傷速度140mm/sで、0回から10,000回の擦傷回数のテストを行い、純水の接触角の評価を行った。
(結果)
評価結果を図10に示す。
図10に示すように、10,000回の擦傷試験後も純水接触角100°を保持していた。
(結果のまとめ)
表2に示すように、滑落撥水層がパーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、H50%が12.0nm以下である参考例1〜3では、純水の接触角が112〜116°、n−ヘキサデカンの接触角が66〜67°であり、いずれも表面自由エネルギーが低く優れていた。また、純水の滑落角が3〜20°、n−ヘキサデカンの滑落角が2〜4°であり、いずれも滑落性が良好であり、更に、滑り性の評価も高かった。
一方、H50%が13.6nmである比較例1では、表面自由エネルギーが参考例と比較して高く、滑落性の評価が悪かった。
また、実施例3から5の結果から、本発明の滑落撥水層には、積雪が着氷しにくいことがわかる。
このように、実施例1から7の着霜性、結露性、着氷性、耐久性の評価結果から、本発明の低温環境用部材は、難着霜性、難結露性、難着氷性、耐久性を有していることが確認できた。特に、実施例5に示すように、ウェットスノーが氷結した状態でも、本発明の低温環境用部材は、未処理のガラスに対して優位性を有していることが確認できた。
上述のように、本発明の低温環境用部材が、難着霜性、難結露性、難着氷性、耐久性を有していることから、難着霜性、難結露性、または難着氷性のうち少なくとも一つの性質を必要とする製品に好適に使用することができる。
また、参考例1〜3の部材は、いずれも指紋が付着し難く、指紋の拭取性に優れていることがわかった。比較例1の部材は、参考例と比較して指紋付着及び指紋拭取性の評価が劣っていた。
本発明の低温環境用部材は、滑落撥水性を有し、難着霜性、難結露性、難着氷性に優れるため、信号機、自動車、窓ガラス、航空機の表面材、エアコンの室外機、ヒートポンプユニットの熱交換器等に用いる難着霜性部材、難結露性部材、難着氷性部材等に好適に使用することができる。
10 治具
20 試料
30 鉄板
40 荷重計測装置

Claims (9)

  1. 基材上に滑落撥水層を形成してなる部材であって、該滑落撥水層は、パーフルオロ構造及びシロキサン構造を含有する海島構造からなり、該滑落撥水層表面の高さ分布曲線において、全高さデータにおける各高さの割合を高さの低い側から順に累積した際に、累積百分率が50%に到達する高さH50%が12.0nm以下である、低温環境用部材。
  2. 前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHよりも低い側における前記高さ分布曲線の変曲点が1個である、請求項1に記載の低温環境用部材。
  3. 前記高さ分布曲線のピーク値を示す高さHと、前記高さ分布曲線のピーク値の1/2を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/2Lとが、下記式(I)の関係を満たす、請求項1又は2に記載の低温環境用部材。
    H−H1/2L≦2.5nm (I)
  4. 前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/2を示す高さのうち標高が高い側の高さH1/2Hとが、下記式(II)の関係を満たす、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
    1/2H−H≦3.0nm (II)
  5. 前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/3を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/3Lとが、下記式(III)の関係を満たす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
    H−H1/3L≦3.0nm (III)
  6. 前記高さ分布曲線の頻度のピーク値を示す高さHと、該高さ分布曲線の頻度のピーク値の1/10を示す高さのうち標高が低い側の高さH1/10Lとが、下記式(IV)の関係を満たす、請求項1〜5のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
    H−H1/10L≦10.0nm (IV)
  7. 前記海島構造中の島部分の割合が20〜50%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
  8. 前記パーフルオロ構造及びシロキサン構造が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の低温環境用部材。
  9. 前記パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランの縮重合物が、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの縮重合物である、請求項8に記載の低温環境用部材。
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