本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
<A.画像形成装置の装置構成>
まず、本実施の形態に従う画像形成装置100の装置構成について説明する。以下では、典型例として、複合機(MFP:Multi-Functional Peripheral)として実装されるカラー画像形成装置である画像形成装置100について説明するが、カラー画像形成装置に限定されるわけではなく、モノクロ画像形成装置にも適用可能である。また、カラー画像を形成する機構として、タンデム方式を例示するが、サイクル方式(典型的には、4サイクル方式)にも適用可能である。
図1は、本実施の形態に従う画像形成装置100の断面構成を示す概略構成図である。図1を参照して、画像形成装置100は、プリントエンジン110と、原稿読取部120と、排出トレイ130とを含む。
プリントエンジン110は、電子写真方式の画像形成プロセスを実行する。図1に示す構成においては、フルカラーの印刷出力が可能である。印刷出力された媒体は、排出トレイ130へ排出される。プリントエンジン110の詳細な構成については、後述する。
原稿読取部120は、原稿を読み取って、その読み取り結果をプリントエンジン110に対する入力画像として出力する。より具体的には、原稿読取部120は、イメージスキャナー122と、原稿給紙台124と、原稿自動送り装置126と、原稿排紙台128とを含む。
イメージスキャナー122は、プラテンガラス上に配置された原稿をスキャンする。イメージスキャナー122は、主要な構成要素として、原稿に対して光を照射する光源と、光源から照射された光が原稿で反射して生じる画像を取得するイメージセンサーと、イメージセンサーから画像信号を出力するためのAD(Analog to Digital:アナログデジタル)変換器と、イメージセンサーの前段に配置された結像光学系とを含む。
原稿自動送り装置126は、原稿給紙台124に配置された原稿を連続的にスキャンする。原稿給紙台124上に配置された原稿は、図示しない送出ローラーにより1枚ずつ送り出され、イメージスキャナー122または原稿自動送り装置126内に配置されたイメージセンサーによって順次スキャンされる。スキャン後の原稿は、原稿排紙台128へ排出される。
プリントエンジン110は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のそれぞれのトナー像を生成するイメージングユニット10C,10M,10Y,10K(以下、「イメージングユニット10」と総称することもある。)を含む。
本実施の形態に従う画像形成装置100は、一例として、それぞれのイメージングユニット10が生成したトナー像を、中間転写体を介して被転写部材である媒体40に転写する構成を採用する。画像形成装置100は、中間転写体として、中間転写体駆動ローラー14および16により張架された中間転写ベルト12を含む。中間転写ベルト12は、中間転写体駆動ローラー14および16の回転駆動により、所定方向に回動される。中間転写体としては、図1に示す中間転写ベルトに代えて、中間転写ローラーを採用してもよい。なお、図1には、トナー像を中間転写体に一旦転写した後、媒体40に転写する構成について例示するが、感光体上のトナー像を媒体40に直接転写するようにしてもよい。
イメージングユニット10C,10M,10Y,10Kは、プリントエンジン110内に張架されて回転駆動される中間転写ベルト12に沿って、その順序に配置される。イメージングユニット10の各々は、感光体1と、帯電部2と、露光部3と、現像部4(対応するイメージングユニット10が生成するトナー像の色に対応させて、4C,4M,4Y,4Kとそれぞれ記載する)と、クリーニングブレード5と、中間転写体接触ローラー6とを含む。
感光体1は、トナー像を担持する像担持体であり、その表面に感光層が形成された感光体ローラーが用いられる。感光体1は、その表面にトナー像が形成されるように配置されるとともに、中間転写ベルト12の回転方向に対応する方向に回転する。なお、像担持体としては、感光体ローラーに代えて、感光体ベルトを採用してもよい。
感光体1には、露光部3により静電潜像が形成されるとともに、現像部4によって静電潜像が現像されてトナー像が生成される。このようにして、帯電部2、露光部3、および現像部4は、感光体1に静電潜像およびトナー像を形成する。
帯電部2は、感光体1の表面を一様に帯電する。露光部3は、レーザー書き込み等により、指定された画像パターンに従って感光体1の表面を露光することで、その表面上に静電潜像を形成する。典型的には、露光部3は、レーザー光を発生するレーザダイオードと、主走査方向に沿ってレーザー光を感光体1の表面を露光させるポリゴンミラーとを含む。
現像部4は、像担持体である感光体1上に形成された静電潜像をトナー像として現像する。典型例として、現像部4は、トナーおよびトナーを帯電するためのキャリアを含む二成分系の現像剤を用いて静電潜像を現像する。トナーとしては、特に限定されることなく、公知のトナーを用いることができる。例えば、バインダー樹脂中に着色剤、および、必要に応じて荷電制御剤および離型剤等を含有させた上で、外添剤を処理させたものをトナーとして使用してもよい。トナー粒径としては、例えば、3〜15μm程度が好ましい。二成分系の現像剤に限らず、一成分系の現像剤(トナー)を用いてもよい。
また、キャリアとしては、特に限定されることなく、公知のキャリアを用いることができる。例えば、バインダー型キャリア、コート型キャリア等を使用できる。キャリア粒径としては、例えば、15〜100μmが好ましい。
感光体1の表面に形成されたトナー像は、中間転写体接触ローラー6によって中間転写ベルト12に転写される。中間転写体接触ローラー6は、感光体1上に現像されたトナー像を被転写媒体である中間転写ベルト12に転写する。感光体1と中間転写ベルト12とは、中間転写体接触ローラー6を設けた部分で接触している。この接触している部分には、所定の転写電位差(転写バイアス)が印加されるように構成されており、この転写電位差によって、感光体1上のトナー像が中間転写ベルト12へ転写される。
中間転写ベルト12上には、それぞれの感光体1からトナー像が順次転写されて、4色のトナー像が重ね合わされることになる。重ね合わされたトナー像は、転写ローラー20および21によって、中間転写ベルト12から媒体40へ転写される。媒体40の転写に関する構成として、プリントエンジン110は、媒体40を保持する給紙部30と、送出ローラー32と、搬送ローラー34および36と、定着部22とを含む。送出ローラー32は、給紙部30から媒体40を順次送り出すとともに、搬送ローラー34および36によって搬送される。媒体40の送り出しおよび搬送のタイミングと、中間転写ベルト12上でトナー像が重ね合わされた位置とを同期させることで、媒体40の適切な位置に、トナー像を転写できる。トナー像が転写された媒体40は、搬送経路38に沿って定着部22まで搬送され、定着部22でトナー像の定着処理が実行される。そして、トナー像が定着された後の媒体40は、排出トレイ130へ排出される。
プリントエンジン110は、画像形成装置100の全体制御を司る制御部50を含む。制御部50は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリー、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリー、および、各種インターフェイスを含む。典型的には、プリントエンジン110では、プロセッサが不揮発性メモリーに格納されている各種プログラムを実行することで、画像形成装置100における画像形成に係る処理等が実行される。
制御部50としては、プロセッサがプログラムを実行することで実現されるが、これに代えて、その処理の全部または一部を専用のハードウェアを用いて実現してもよい。また、プロセッサがプログラムを実行する場合には、そのプログラムは、各種の記録媒体を介して不揮発性メモリーにインストールされ、あるいは、通信回線を介して図示しないサーバー装置等からダウンロードされてもよい。
<B.基本的な画像形成プロセス>
次に、図1に示す画像形成装置100で実行される基本的な画像形成プロセスについて、その実行順に沿って説明する。
イメージングユニット10の各々において、感光体1は、帯電部2によりその表面を一様に帯電された後、露光部3により、入力画像の情報に従って発光が制御されるレーザーの走査露光を受ける。これによって、感光体1の表面には静電潜像が形成される。この感光体1を回転させながら露光部3により走査露光し、静電潜像を形成する工程(光書込工程)に用いる画像情報は、指定された入力画像(フルカラー画像)をシアン、マゼンタ、イエロー、黒のそれぞれの色情報に分解して得られた単色の画像情報であり、制御部50は、それぞれの画像情報に従って、レーザーの発光および走査を制御する。
単色の画像情報に従って形成された感光体1上の静電潜像は、それぞれの感光体1上で現像部4C,4M,4Y,4Kによって、対応するシアン、マゼンタ、イエロー、黒のトナーからなる単色の現像剤により現像され、それぞれの画像情報に応じたトナー像が形成される。すなわち、それぞれの感光体1上に対応する色の単色トナー像が形成される。それぞれの単色トナー像は、所定の転写電位差の作用により、対応する感光体1と同期して、中間転写ベルト12上に順次転写されて重ね合わされる。中間転写ベルト12上に重ね合わされたそれぞれの単色トナー像は、転写ローラー20および21により、給紙部30から搬送された媒体40上に一括転写される。このとき、中間転写ベルト12と媒体40との間には、所定の転写電位差が印加される。転写終了後、媒体40上のトナー像が定着部22により定着されることで、フルカラー画像が完成し、フルカラー画像が形成された媒体40が排出トレイ130へ排出される。
感光体1における画像形成プロセスの最終工程として、感光体1上の転写残トナー(感光体1の表面に形成されたトナー像を中間転写ベルト12に転写した後に残ったトナー)がクリーニングされる。感光体1の表面に対するクリーニングを実施するために、感光体1に常時圧接するクリーニングブレード5が設けられている。クリーニングブレード5は、トナー像の転写後に像担持体である感光体1上に残留するトナーを回収するクリーニング部材であり、感光体1に圧接してその表面から残留トナーを掻き取る。
同様に、中間転写ベルト12上の残留トナーについてもクリーニングされる。中間転写ベルト12の表面に対するクリーニングを実施するために、中間転写ベルト12に圧接するクリーニングブレード18が設けられている。クリーニングブレード18は、トナー像の転写後に像担持体である中間転写ベルト12上に残留するトナーを回収するクリーニング部材である。
<C.滑材供給機構>
次に、像担持体である感光体1上に潤滑剤(滑材)を供給する滑材供給機構について説明する。滑材供給機構としては、大別して、像担持体である感光体1の表面に滑材を塗布する構成と、滑材をトナーに外添する構成とが存在する。両構成を組み合わせてもよい。以下、それぞれの構成について説明する。
(c1:表面塗布構成)
図2および図3は、本実施の形態に従うイメージングユニット10の一構成例を示す模式図である。図2および図3には、感光体1の表面に滑材を塗布するのに適した構成例を示す。すなわち、図2および図3に示す構成例においては、現像部4(現像手段)とは独立した、滑材を塗布する滑材供給機構が設けられる。
図2を示すイメージングユニット10においては、感光体1の周辺に、帯電部2、露光部3、現像部4、クリーニングブレード5に加えて、滑材供給機構として、滑材供給部8および均し部材9が配置される。
滑材供給部8は、感光体1および固形滑材84のいずれにも圧接する塗布ブラシ81を含む。塗布ブラシ81は、感光体1に対して相対回転することで、固形滑材84を掻き取って感光体1に塗布する。均し部材9は、滑材供給部8によって供給された滑材を均すことで、感光体1表面での滑材層の形成を促進する。
塗布ブラシ81は、感光体1の幅方向(紙面奥行き方向)に延在する軸部材82と、軸部材82の外周面に配置された複数の起毛83とを含む。一例として、塗布ブラシ81は、複数の起毛を植設した基布を軸部材82に巻き付け固定することによって構成される。基布の長さは、少なくとも感光体1の幅方向全域に起毛を接触させ得るように調整されている。軸部材82は、図示しないモーターと機械的に結合されており、感光体1と独立に駆動可能となっている。また、専用のモーターを設けなくても、他の部材の駆動部と機械的に結合して駆動させることも可能である。
塗布ブラシ81の回転により、固形滑材84が塗布ブラシ81の起毛に掻き取られて付着した後、感光体1表面に塗布される。すなわち、塗布ブラシ81が回転駆動することにより、滑材供給部8が滑材供給機構として機能することになる。
固形滑材84としては、脂肪酸金属塩、シリコーンオイル、フッ素系樹脂等を用いることができる。これらの物質を、単独または2種類以上を混合して滑材として用いることができる。特に、脂肪酸金属塩を含めることが好ましい。
脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、直鎖状の炭化水素が好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好ましく、ステアリン酸が一層好ましい。脂肪酸金属塩の金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、セリウム、チタン、鉄等が挙げられる。これらの中で、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸鉄等が好ましく、特に、ステアリン酸亜鉛が最も好ましい。また、カルナウバワックスのような天然ワックスであってもよい。これらの中で、特に好ましいのは、ステアリン酸金属塩である。
図2には、滑材供給部8をクリーニングブレード5の下流に配置した構成例を示したが、クリーニングブレード5の上流に配置してもよい。図3に示す構成例においては、クリーニングブレード5の下流に滑材供給部8を配置することで、クリーニングブレード5が、感光体1上の残留トナーをクリーニングする機能に加えて、滑材供給部8によって供給された滑材を均す機能を発揮する。
なお、図2および図3には、滑材を感光体1の表面に塗布する手段として、塗布ブラシを用いる構成について例示したが、それ以外にも公知の方法にて、滑材を感光体1の表面に塗布するようにしてもよい。
(c2:トナー外添構成)
図4は、本実施の形態に従うイメージングユニット10の別の構成例を示す模式図である。図4には、現像部4が供給するトナーに滑材を添加することで、感光体1に滑材を供給するのに適した構成例を示す。すなわち、図4に示す構成例においては、現像部4が供給するトナーに滑材が添加されることで、現像部4が滑材供給部としての機能を有することになる。
現像部4が供給するトナーは潤滑性外添剤を含む。潤滑性外添剤としては、特に限定されることなく、脂肪酸金属塩、シリコーンオイル、フッ素系樹脂等を用いることができる。これらの物質を、単独または2種類以上を混合して滑材として用いることができる。特に、脂肪酸金属塩を含めることが好ましい。脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、上述の固形滑材84と同様に、直鎖状の炭化水素が好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好ましく、ステアリン酸が一層好ましい。脂肪酸金属塩の金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、セリウム、チタン、鉄等が挙げられる。これらの中で、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸鉄等が好ましく、特に、ステアリン酸亜鉛が最も好ましい。
(c3:付加的構成)
図2〜図4に示す構成においては、感光体1の残留電位を打ち消すため、および、トナー荷電量を調整するために、クリーニングブレード5(クリーニング部材)の上流に副帯電部7を配置してもよい。さらに、図2〜図4に示す構成例を適宜組み合わせてもよい。
また、図2および図3に示すような、現像部4(現像手段)とは独立した滑材を塗布する機構と、現像部4が供給するトナーに滑材を添加する構成とを併用するようにしてもよい。
<D.クリーニングのメカニズムおよび新たな課題の発見>
次に、本願発明者らの鋭意検討によって見出した、クリーニングのメカニズムおよび新たな課題について説明する。
図5および図6は、感光体表面に当接するクリーニングブレードの状態を説明する模式図である。図5を参照して、平板上のクリーニングブレード5は、その先端にあるエッジ(以下、「ブレードエッジ」とも称す。)51を感光体1に押し付け、高いピーク圧を掛けることによってトナーを堰き止め、これによって感光体1上に残った残留トナーを除去する。このとき、クリーニングブレード5は、感光体1に接する端面の接線方向53が感光体1の接線方向54に対してある程度の角度をもって当接されるのが一般的である。これは、クリーニングブレード5を感光体1に対してあまりにも寝た状態(いわゆる腹当たり状態)で当接させる、すなわち、クリーニングブレード5の端面の接線方向53と像担持体の接線方向54とを直交に近い状態で当接させると、クリーニングブレード5と感光体1との間の当接面積が大きくなってしまい、ピーク圧が低減して、クリーニング能力が低下してしまうからである。
クリーニングブレード5を適切な角度で感光体1に当接させると、クリーニングブレード5と感光体1との間には、くさび状の空間(くさび部52)ができる。イメージングユニット10での画像形成が繰り返されると、図6に示すように、くさび状の空間(くさび部52)には、トナーに含まれる外添剤等により生じた微粒子が堆積および凝集することで、溜り部(以降、「静止層56」とも称する)が形成される。この静止層56は、くさび部52を埋めることにより、トナーの侵入および通過を防ぐ役割を果たすと考えられる。以上の知見によれば、静止層56を安定して形成させることが、クリーニングブレード5によるクリーニング能力を適切に維持する上で重要である。
一方で、ブレードクリーニング方式では、クリーニング能力が様々な要因によって変動し得る。このような要因のうち、代表的なものが、ブレードエッジ51の摩耗である。
ブレードエッジ51が摩耗すると、感光体1に対するクリーニングブレード5の接触面積が増加する。この接触面積の増加に伴って、ピーク圧が低減するため、クリーニングブレード5のクリーニング能力が低下する。この結果、トナーの拭き残し、すなわちクリーニング不良が発生する可能性が高まる。なお、ピーク圧が低減すると、微粒子のすり抜けが多くなり、静止層56が安定して形成できなくなることも、このようなクリーニング不良が発生しやすくなる一因と考えられる。
したがって、このようなクリーニングブレード5の摩耗を最小限に抑制することが、長期にわたる安定的な印刷動作に対する要求に応えるために必要である。
さらに、ブレードクリーニング方式のクリーニング能力に対して大きな影響を与え得る要因として、画像形成対象になった画像パターンが挙げられる。例えば、1枚の画像内に配置されるトナー付着領域の比率が相対的に高い画像パターンについては、それだけ単位時間あたりにブレードエッジ51に突入するトナーの量が多くなる。単位時間あたりにブレードエッジ51に突入するトナー量が多くなると、ブレードエッジ51がトナーから受ける圧力(粉圧)が高くなる。その粉圧にクリーニングブレード5のクリーニング能力が負けると、トナーがすり抜けるという結果になる。すり抜けたトナーは、次の画像パターンの印刷において、地汚れやスジとなって現れ、印刷品質を低下させる。
したがって、画像パターンに影響されることなく、安定してクリーニングできる状態を確保することも、クリーニング能力を考慮する際に重要な要素である。
このようなクリーニング装置についての背景知識および要求を踏まえて、本願出願人らは、画像パターンとその画像パターンの印刷枚数、さらには画像パターンの印刷順序についての複数の組み合わせを作成し、それぞれの条件下での品質検証を行なった。その結果、ある条件において、特異的にクリーニング不良が発生しやすいことを新たに見出した。
具体的には、印字率の低い画像(例えば、白ベタ)を連続して印刷したのち、印字率の高い画像を印刷した場合などにおいて、クリーニング不良が発生しやすいことがわかった。なお、本明細書において、「印字率」は、トナーを付着可能な領域(印刷可能領域)の面積に対する、実際にトナーによって着色が行なわれる領域の面積の比率を意味する。「印字率」は、「画像面積率」と同義で用いられる場合もある。印字率は、印刷可能領域をどのように定義するのかによって複数の算出方法を採用し得るが、基本的には、1枚(ページ)を基準単位として算出するようにしてもよい。すなわち、ある1つの媒体に対して印刷可能領域が予め定められ、この印刷可能領域内に付着されるトナーの面積から印字率が算出される。
このような印字率に依存して、クリーニング不良が特異的に発生するメカニズムとしては、以下のようなものであることを突き止めた。
すなわち、低印字率の画像が連続して印刷された場合、クリーニングブレード5に突入するトナー量も少なくなる。すると、トナーに付随してブレードエッジ51に供給される微粒子(外添剤等)も少なくなる。この状態が続くと、ブレードエッジ51の静止層56が枯渇し、トナー等のすり抜けが生じやすい状態となる。この状態で高印字率の画像が印刷されると、クリーニングブレード5に大量のトナーが突入することになり、この大量のトナーを堰き止めることができずに、クリーニング不良が生じるというものである。
このようなメカニズムによるクリーニング不良を防止するためには、高印字率の画像がクリーニングブレード5に突入する前に、ブレードエッジ51のくさび部52に、十分な静止層56を形成すればよい。これを実現するためには、紙間領域などの印刷領域外の区間を用いて、クリーニングブレード5の全幅または一部にトナーを定期的に供給するなどの方法が考えられる。このようなトナーの定期的な供給は、一般的に、トナーパッチとも称される。このようなトナーの定期的な供給によって、静止層56の枯渇は軽減される。
一方で、トナーを定期的に供給する方法は、印刷に供さないトナーを消費することになるため、コストアップ要因となり得る。画像形成装置のランニングコストを低減するという要求を満たすためには、無駄なトナー消費は可能な限り低減することが好ましい。
本願発明者らは、上述したような、低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷したときに発生し得るクリーニング不良という課題に対して、トナーを強制的に供給する方法以外の対策を検討した結果、トナーではなく、より多くの滑材を供給することによっても、トナーと同様の効果があることを新たに見出した。これは、滑材がトナーに付帯する外添剤の効果を代替しているものと考えられる。すなわち、トナーに含まれる外添剤ではなく、滑材によって静止層56が形成されることにより、クリーニングブレード5の堰き止め能力が上昇しているものと考えられる。
しかしながら、本願発明者らのさらなる鋭意検討によって、滑材を使用した場合には、別の課題があることが判明した。すなわち、クリーニング不良を抑制するのに十分な量の滑材を供給し続けた場合、滑材が感光体1上で被膜化して感光体1の凹凸を埋めて、その滑材の被膜によって、感光体1表面の平滑性が上昇する。この平滑性が上昇した状態で、クリーニングブレード5を感光体1に当接した状態で感光体1を駆動し続けると、滑材を供給しない場合に比較して、ブレードエッジ51の摩耗が促進されてしまった。これは、平滑性の高い物体にブレードエッジ51が圧接および摺動することによる凝着摩耗が原因であると考えられる。このような状態で印刷を続けた結果、クリーニングブレード5の寿命が大幅に短くなってしまった。
以上のような本願発明者らの知見を総合すると、以下のような結論を導くことができる。
(1)低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷すると、クリーニング不良が発生し得る(このクリーニング不良の原因は、くさび部52の静止層56が枯渇することによる)
(2)滑材供給量を増加させるとクリーニング不良を解決できるが、ブレードエッジ51の摩耗が促進し得る
(3)トナーを余分に供給することでクリーニング不良を解決できるが、トナー消費量が増加する
図7は、クリーニング不良およびブレードエッジの摩耗を説明するための模式図である。図7(A)は、健全な状態を示し、必要な静止層56が形成されることでクリーニング能力が健全に保たれるとともに、感光体1上の滑材が適正量に維持されることで、ブレードエッジ51の摩耗も抑制されている。
図7(B)は、上述の(1)の状態を示すものであり、低印字率の画像が連続印刷されることで、静止層56が枯渇し、高印字率の画像の印刷に切り替わると、トナーを堰き止めることができずに、クリーニング不良が生じている。
図7(C)は、上述の(2)の状態を示すものであり、滑材が過剰に供給されることで、感光体1表面の平滑性が上昇し過ぎ、その結果、ブレードエッジ51の摩耗が促進されている。
<E.新たな課題に対する解決手段>
以上のような新たな知見および課題について、本願発明者らは、無駄なトナー消費およびブレード摩耗を抑制しつつ、低印字率の画像を連続印刷した後の高印字率の画像を印刷する際に発生し得るクリーニング不良を抑制できる手段を提案する。
図8および図9は、低印字率の画像の連続印刷から高印字率の画像の印刷への切り替わりにおける滑材供給量の時間的変化を説明するための模式図である。
上述したように、本実施の形態においては、感光体1上の滑材供給量を適切な値に維持しつつ、低印字率の画像の連続印刷から高印字率の画像の印刷への切り替わり時におけるクリーニング能力を確保することを目的とする。一般的な滑材供給機構を有する画像形成装置は、通常の画像形成時においては、一定の供給量にて滑材を感光体1上に供給する。
これに対して、本実施の形態に従う画像形成装置100は、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像(すなわち、ある期間にわたって印刷された画像および/または印刷中の画像)についての印字率(所定期間の平均印字率:第1の印字率)と、次に印刷することが指示されている画像についての印字率(第2の印字率)とを評価し、第2の印字率が第1の印字率に比較して高い場合に、現在印刷中の画像の印刷終了後であって、次に印刷する画像(予約印刷画像)の印刷開始前に、先行の画像の印刷時に供給されていた滑材の供給量より多い第1の所定量まで滑材の供給量を増加させるとともに、増加させた供給量を所定期間内に第2の所定量まで低減させるといった滑材供給量を制御する機能を有する。
典型的には、この滑材供給量の制御は、以下のような条件に合致した場合に有効化される。
(1)所定期間の平均印字率(積算印字率:第1の印字率)が第1のしきい値以下である、かつ
(2)次に印刷される画像の印字率(第2の印字率)が第2のしきい値以上である
なお、次に印刷される画像は、例えば、予め原稿読取部120にて複数の原稿をスキャンすることで生成される。あるいは、パーソナルコンピュータなどから出力される印刷ジョブが予約印刷画像となり得る。以下では、説明の便宜上、先行の画像の後に印刷されることが予定されており、まだ印刷が開始されていない画像を「予約印刷画像」とも称す。
上述の2つの条件が満たされると、滑材供給量を増加させる操作が実行される。滑材供給量を増加させる方法の詳細については後述する。このような滑材供給量を増加させる操作を行なうことで、低印字率の画像を連続印刷することで枯渇し得る静止層56が、より多く供給される滑材によって一時的に再形成される。静止層56が十分に再形成されると想定される量だけ滑材が供給されると、滑材供給量を低減させる。このような滑材供給量を一時的に増加させるという操作を採用することで、滑材の過剰供給によるブレード摩耗を抑制でき、クリーニングブレードを長期間にわたって使用することができる。また、高印字率の画像がクリーニングブレードに突入した後は、当該高印字率の画像を構成するトナーに付帯する外添剤により静止層56が再形成または維持されるため、滑材供給量を低減させてもクリーニング不良が発生することもない。
図7および図8は、上述のような操作に伴う滑材供給量の時間的変化の一例を示す。低印字率の画像を連続印刷している間は、感光体1に対する滑材供給量は一定に維持される。ここで、高印字率の画像の印刷が予め指示されていると、当該高印字率の画像への切り替わりの直前で、滑材供給量を増加させる。すると、感光体1上の滑材量は一時的に増加する。その後、高印字率の画像の印刷が開始される前後にわたって、滑材供給量を漸次低減させる。感光体1上に存在する滑材は、クリーニングブレード5のブレードエッジ51に存在するトナーにて研磨されるため、感光体1上の滑材量はある水準で安定化する。
本明細書において、「低印字率の画像」および「高印字率の画像」は、印字率(基本的には、平均印字率)の大きさに基づいて判断してもよい。各画像の印字率に基づいて、「低印字率」および「高印字率」のいずれに該当するのかを、同一のしきい値を境界にして判断してもよい。
図10は、本実施の形態に従う画像形成装置における印字率に対するしきい値判断を説明するための模式図である。図10(A)は、第1のしきい値TH1と第2のしきい値TH2とが同一の値に設定されている例を示す。図10(A)に示すように、第1のしきい値TH1と第2のしきい値TH2とが同一の値に設定される場合には、印字率がこれらのしきい値以下である画像が「低印字率」と判断され、印字率がこれらのしきい値以上である画像が「高印字率」と判断される。
例えば、第1のしきい値TH1および第2のしきい値TH2として、感光体1の所定の移動距離(走行距離)における、トナーが付着される面積の印刷可能領域に対する比率(印字率)が20%以上であるか否かを判断してもよい。この場合、第1のしきい値および第2のしきい値は、いずれも20%とすることになる。なお、次に印刷する画像(予約印刷画像)の印字率としては、所定の移動距離の平均ではなく、当該画像内での平均を用いることが好ましい。
あるいは、「低印字率の画像」および「高印字率の画像」の区分に加えて、いずれにも該当しない画像の区分を設けてもよい。図10(B)は、第1のしきい値TH1と第2のしきい値TH2とがそれぞれ異なる値に設定されている例を示す。すなわち、第2のしきい値TH2は、第1のしきい値TH1より大きな値に設定される。このようなしきい値がそれぞれ設定される場合には、印字率が第1のしきい値TH1以下である画像が「低印字率」と判断され、印字率が第2のしきい値TH2以上である画像が「高印字率」と判断される。なお、第1のしきい値TH1以上であって、第2のしきい値TH2未満である画像については、いずれにも属さない画像と判断される。この場合には、例えば、「低印字率」に該当する画像は、その印字率を5%以下とし、「高印字率」に該当する画像は、その印字率を20%以上とすることができる。
上述したしきい値は、いずれも例示であり、画像形成装置の構成やシステムなどに応じて、それらの値は適宜調整される。
上述のように、本実施の形態においては、所定期間の平均印字率が第1のしきい値以下であって、かつ、第2のしきい値以上の印字率の画像が印刷されるタイミングにおいて、第2のしきい値以上の印字率の画像が出力される前に、所定の期間にわたって、感光体の全体的または部分的な滑材供給量を増加させた後、滑材供給量を低減させるという解決手段を採用する。
このような滑材供給量を一時的に増加させることで、それ以前の連続印刷によって静止層が枯渇している状態でも、クリーニング不良の発生を抑制できる。また、通常印刷時には、滑材供給量を適正化することで凝着摩耗の進行を抑制できる。このような滑材供給量を制御する方法を採用することで、トナーを過剰に供給するトナーパッチなどの方法を採用しなくてもよく、トナーの消費量を低減できる。
滑材の一般的な作用としては、感光体1(像担持体)表面のトナーに対する摩擦係数を低減できることが挙げられる。これによって感光体1表面に形成されたトナー像を転写部材に転写するときの転写不良を抑制でき、トナー像の画質を高めることができる。また、感光体1に圧接されている部材(クリーニングブレード等)と感光体1との間の摩擦係数も低減できるため、感光体1の磨耗を抑制する効果があり、感光体1の寿命を延ばす点においても貢献する。本実施の形態においては、このような滑材を、低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷したときに発生し得るクリーニング不良という課題に対する解決手段として用いる。
<F.印字率の算出手段>
上述したように、本実施の形態に従う画像形成装置100は、滑材供給量を印字率に基づいて制御する。画像形成装置100の制御部50が上述したような印字率を算出するためのロジックを有する。すなわち、制御部50は、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての第1の印字率を算出するとともに、次に印刷する画像(予約印刷画像)についての第2の印字率を算出する。
画像形成装置100において印刷対象となる画像データは、制御部50に内蔵されるメモリーに格納され、格納された順番に順次読み出されることになる。制御部50は、先に印刷した画像(過去に印刷された画像)および予約印刷画像の各々について、画像部(トナーを付着すべき領域)と非画像部(トナーを付着すべきではない領域)との面積(典型的には、各領域に含まれるドット数)を算出し、画像部と非画像部との比率から印字率を算出する。この印字率は、新たな画像が印刷される毎、あるいは、所定周期毎に、随時更新される。
過去に印刷された画像についての印字率の算出に用いられる所定の移動距離(走行距離)は、基本的に、画像形成装置の構成やシステムにおいて用いられる感光体1(像担持体)の周長やトナーによる感光体1上に形成される滑材に対する摩耗速度などに基づいて適宜設定するのが好ましい。一例として、感光体1(像担持体)の一周から数百週の時間(あるいは、走行距離)に相当する距離に設定することが好ましい。
制御部50は、このような印字率の算出に加えて、当該算出された印字率に基づいて、後述するような滑材供給量の制御を実行する制御主体となる。すなわち、制御部50は、滑材供給機構により供給される滑材の量を制御する。
<G.制御手順>
次に、本実施の形態に従う画像形成装置100における制御手順について説明する。図11は、本実施の形態に従う画像形成装置100における制御手順を示すフローチャートである。図11に示す各ステップは、典型的には、制御部50が予めインストールされた制御プログラムを実行することで実行される。
まず、制御部50は、印刷対象の画像データが存在するか否かを判断する(ステップS2)。印刷対象の画像データが存在しない場合(ステップS2においてNOの場合)には、ステップS2の処理が繰り返される。
印刷対象の画像データが存在する場合(ステップS2においてYESの場合)、制御部50は、最初の画像データの印刷を開始する(ステップS4)。そして、制御部50は、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての印字率を算出するとともに、まだ印刷されていない画像データに関する、予約印刷画像の印字率を算出する(ステップS6)。
続いて、制御部50は、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての印字率が第1のしきい値以下であるか否かを判断する(ステップS8)とともに、予約印刷画像の印字率が第2のしきい値以上であるか否かを判断する(ステップS10)。
少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての印字率が第1のしきい値を超えている場合(ステップS8においてNOの場合)、または、予約印刷画像の印字率が第2のしきい値未満である場合(ステップS10においてNOの場合)、制御部50は、印刷処理が継続されるとともに、印刷対象のすべての画像データについて印刷が完了したか否かを判断する(ステップS12)。すなわち、所定期間の平均印字率が第1のしきい値を超えており、または、予約印刷画像の印字率が第2のしきい値未満である場合には、本実施の形態に従う滑材供給量の制御を行なうことなく、印刷が続行される。
印刷対象のすべての画像データについて印刷が完了していない場合(ステップS12においてNOの場合)には、ステップS6以下の処理が繰り返される。一方、印刷対象のすべての画像データについて印刷が完了している場合(ステップS12においてYESの場合)には、ステップS2以下の処理が繰り返される。
これに対して、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての印字率が第1のしきい値以下であり(ステップS8においてYESの場合)、かつ、予約印刷画像の印字率が第2のしきい値以上である場合(ステップS10においてYESの場合)には、ステップS20以下に示す、滑材供給量の制御が実施される。
より具体的には、制御部50は、滑材供給量の増加を開始するタイミングが到来したか否かを判断する(ステップS20)。滑材供給量の増加を開始するタイミングが到来していなければ(ステップS20においてNOの場合)、滑材供給量の増加を開始するタイミングの到来を待つ(ステップS20)。
滑材供給量の増加を開始するタイミングが到来すると(ステップS20においてYESの場合)、制御部50は、滑材供給量を所定量まで増加させる(ステップS22)。そして、制御部50は、その印字率が第2のしきい値以上であると判断された画像(予約印刷画像/高印字率の画像)の先端が所定位置に到達したか否かを判断する(ステップS24)。この所定位置とは、予約印刷画像(高印字率の画像)の先端が滑材供給部8を通過する前に、滑材供給量を本来の量に低減させる処理を完了するための、当該低減処理の開始位置に相当する。すなわち、制御部50は、滑材供給量の低減を開始するタイミングが到来したか否かを判断する。
予約印刷画像(高印字率の画像)の先端が所定位置に到達していない判断された場合(ステップS24においてNOの場合)。先端が所定位置に到達するまで待つ(ステップS24)。
予約印刷画像(高印字率の画像)の先端が所定位置に到達したと判断された場合(ステップS24においてYESの場合)、制御部50は、滑材供給量を所定量まで低減させる(ステップS26)。そして、制御部50は、先に算出されている、既に印刷した画像の印字率および予約印刷画像の印字率をリセットする(ステップS28)。すなわち、上述したような制御ロジックに従う滑材の供給量の増加および低減の操作が行なわれた後、先に算出されていた印字率がリセットされる。そして、処理は、ステップS12へ進む。
以上のような処理手順によって、低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷したときに発生し得るクリーニング不良という課題に対処する。
<H.滑材供給量の制御内容>
次に、本実施の形態における解決手段である、滑材供給量の制御の内容について、より詳細に説明する。
(h1:滑材供給量の増加開始タイミング/低減開始タイミング)
図8に示すような、滑材供給量の増加を開始するタイミング(図11のステップS20参照)、および、滑材供給量の低減を開始するタイミング(図11のステップS24参照)について説明する。
滑材供給量の増加を開始するタイミングとしては、印刷時に画像の後端に相当する領域が滑材供給機構(滑材を塗布する機構)を通過した直後が好ましい。このようなタイミングを設定することで、先に印刷される低印字率の画像の画像安定性に影響を与えず、かつ、次に印刷される高印字率の画像が滑材供給機構に到来するまでの時間を最大化することができる。
あるいは、高印字率の画像が連続印刷されることが予めわかっており、かつ、滑材供給量の増加を優先する場合には、低印字率画像の一連の印刷が終了する前の紙間領域(すなわち、一連の印刷の最終の画像より手前の画像間)において、滑材供給量を増加させ、滑材供給量を増加させた状態で1または数枚にわたって低印字率の画像を印刷してもよい。このような方法を採用することで、高印字率の画像が印刷されるときの感光体上の滑材量をより確実に高めることができる。
滑材供給量を確実に増加させるために、低印字率の画像と高印字率の画像との間の紙間領域を延長し、滑材が供給される面積を多くしてもよい。すなわち、低印字率の画像の印刷が完了した後、次に引き続く高印字率の画像の印刷開始を遅らせることで、滑材供給機構と感光体1との接触時間を長くできる。このような紙間領域を延長することで、先に印刷される低印字率の画像および引き続いて印刷される高印字率の画像のそれぞれについての画像安定性に対する影響を軽減しつつ、十分な滑材を供給できる。
紙間領域を延長する場合には、その延長する距離は、感光体の一周以上とすることが好ましい。すなわち、感光体1(像担持体)の一周以上にわたって、潤滑剤の供給量が増加された状態を維持するようにしてもよい。
このように、低印字率の画像の印刷終了後から高印字率の画像の印刷開始前までの期間を延長する処理を採用するとともに、当該延長された期間の間、滑材の供給量が増加された状態を維持する。このような処理を採用することで、感光体1上における滑材の分布ばらつきを低減できる。
また、滑材供給量の低減を開始するタイミングとしては、印刷時に画像の先端に相当する領域が滑材供給機構を通過する前に設定されることが好ましい。すなわち、高印字率の画像の先端に相当する領域が滑材供給機構(滑材を塗布する機構)を通過する前までに、滑材の供給量を第2の所定量まで低減させる。このようなタイミングを設定することで、高印字の画像の画像安定性を損なわずに印刷を続行できる。
本実施の形態に従う滑材供給量制御の典型例として、印刷時に画像の後端に相当する領域が滑材供給機構を通過した直後に、滑材供給量を増加させるとともに、引き続く高印字率の画像の先端に相当する領域が滑材供給機構に到達する直前に、一旦増加した滑材供給量を低減させる。
なお、低印字率の画像と高印字率の画像との間の紙間領域の距離が短く、滑材供給機構の応答性能上、実現が難しい場合には、高印字率の画像が1枚または数枚印刷された後の紙間領域に滑材供給量の低減を開始するタイミングを設定してもよい。すなわち、高印字率の画像およびそれに引き続く画像を含めて所定枚数分だけ感光体1(像担持体)が移動した後に、印刷すべき画像が存在しない区間において、供給されている潤滑剤を所定量まで低減させるようにしてもよい。このようなタイミングを設定することで、滑材の供給制御をより安定して行なうことができる。
(h2:滑材の供給量)
次に、供給される滑材の量について説明する。図8に示すように、滑材供給量の増加を開始するタイミングにおいて、滑材の供給量が最大になっていることが理想である。但し、ある程度の時間遅れが生じるので、滑材の供給量を可能な限り早期に増加させることが好ましい。
また、滑材の供給量を一旦増加させた後、所定の供給量まで低減させることになるが、この所定の供給量としては、滑材の供給量を増加させるための供給量と実質的に同じ値に設定できる。すなわち、滑材の供給量を増加させた後、当該滑材の供給量を、低印字率の画像の印刷時に供給されていた滑材の供給量と実質的に同じ所定量(第2の所定量)まで低減させるようにしてもよい。このような供給量の設定を採用することで、滑材供給量に係る制御を単純化できる。
高印字率の画像を印刷中の滑材供給量(滑材供給量を一旦増加させた後に低減させた後の滑材供給量)は、印刷対象の高印字率の画像についての印字率に応じて決定するようにしてもよい。つまり、滑材の供給量を予約印刷画像についての印字率(第2の印字率)に応じた第2の所定量まで減少させるようにしてもよい。例えば、「低印字率の画像印刷時の滑材供給量≦高印字率の画像印刷時の滑材供給量<最大供給量(低印字率の画像から高印字率の画像への切り替え時の滑材供給量)」の関係が維持されるように、印刷対象の画像の印字率に応じて滑材供給量を制御してもよい。
このように、高印字率の画像を印刷する際の滑材供給量をより多くする理由としては、高印字率の画像の印刷時には、ブレードエッジ51に突入するトナーの量が相対的に多くなり、その結果、感光体1上に形成された滑材が研磨されるためである。すなわち、高印字率の画像の印刷時には、感光体1上に形成された滑材がより多く除去されることになり、この結果、感光体1上の滑材が枯渇状態になると、トナーがすり抜け、感光体1の摩耗といった不具合が生じる可能性がある。
このような滑材供給量の制御を行なうことで、クリーニング不良が生じやすい条件の場合に限って、供給される滑材量を局所的に増加させる一方で、それ以外の部分については、供給される滑材の量を適正化することで、滑材量の供給量を増加させたことによって生じる、クリーニング不良以外の不具合の発生を抑制する。併せて、クリーニングブレードのエッジ摩耗を低減しつつ、長期にわたる安定的な印刷動作を実現できる。
(h3:滑材供給機構)
本実施の形態に従う滑材供給量の制御は、任意の滑材供給機構を用いて実現できる。但し、滑材供給機構とクリーニングブレード5との間に、感光体1表面に接触するような部材が存在しない構成が好ましい。より具体的には、クリーニングブレード5の上流側に滑材供給機構を配置する構成が好ましい。すなわち、滑材供給機構は、感光体1(像担持体)上において、現像部4より下流側であって、かつ、クリーニングブレード5より上流側に配置されることが好ましい。このような構成を採用することで、滑材供給機構により感光体1表面により多くの滑材が供給された領域が、クリーニングブレード5に到達する前に、現像部4や転写部を通過することがなく、感光体1表面の滑材量の変動が抑制され、制御性能を高めることができる。
<I.滑材供給量の調整手段>
次に、上述したような滑材供給量の制御を実現するための供給される滑材量を調整するための構成について説明する。上述したように、供給する滑材量を可変にできるものであれば、どのような滑材供給機構を用いてもよい。以下では、典型例として、(1)像担持体である感光体1の表面に滑材を塗布する構成、および、(2)滑材をトナーに外添する構成とについて説明する。
(i1:感光体表面に滑材を塗布する構成)
図2および図3に示すように、滑材供給機構(滑材供給部8)を用いて、感光体1表面に滑材を供給する場合、滑材供給量の調整方法として、滑材塗布部材(塗布ブラシ81)の回転速度を変化させるという手法を採用できる。図2および図3に示す構成では、滑材塗布部材として塗布ブラシ81が設けられている。
例えば、塗布ブラシ81の回転方向が感光体1の回転方向に対してカウンター回転である場合を例にすると、塗布ブラシ81の回転速度が上がると、塗布ブラシ81の感光体1および固形滑材84に対する単位時間当たりの接触回数が増加する。これにより、塗布ブラシ81が固形滑材84から掻きとる滑材の単位時間当たりの量、および、掻き取った滑材を感光体1に接触させる回数が増加し、結果として、感光体1上に転移する単位時間当たりの滑材量が増加する。なお、塗布ブラシ81が感光体1に対してウィズ回転している場合でも、同様の関係が成立する。
滑材供給量の別の調整方法として、塗布ブラシ81に対する固形滑材84の押圧力を変化させるという手法を採用できる。この場合、塗布ブラシ81が固形滑材84から掻きとる滑材の単位時間当たりの量が増加し、結果として、感光体1上に転移する単位時間当たりの滑材量が増加する。
なお、滑材供給機構(滑材供給部8)によって滑材が塗布される場合、現像部4が感光体1上に存在する滑材を掻きとることにより、現像部4への滑材の混入が生じ得る。そのため、通算の印刷枚数に応じて、現像部4への滑材の混入が生じていると判断できる状態であれば、滑材をトナーに外添する場合の制御を併用してもよい。
塗布ブラシ81を含む滑材供給機構(滑材供給部8)を採用することで、滑材供給量の制御応答性を高めることができる。
(i2:滑材をトナーに外添する構成)
図4に示すように、滑材をトナーに外添する構成を用いた場合には、滑材供給量の調整方法として、電磁的作用を用いる手法を採用できる。
具体的には、滑材がトナーに外添された場合、現像剤中において滑材の大部分はトナー粒子に付着して存在する。但し、トナーには付着せず現像剤中に遊離している滑材も存在する。このような状態において、現像剤が現像部4に運ばれると、画像部(トナーを付着すべき領域)について、感光体1上でトナー像として現像されるとともに、滑材もトナーに付着して感光体1上に運ばれる。
一般的に、滑材はトナーとは逆極性に帯電しているため、現像剤中に遊離している滑材やトナーに付着している滑材の一部は非画像部(トナーを付着すべきではない領域)にも付着する。その後、感光体1が中間転写体に当接し、中間転写体に印加された電位によりトナーは中間転写体に転写される。中間転写体での電界は滑材を感光体1側に押し付ける電界であり、トナーに付着した滑材はトナーから離脱して感光体1側に残存する。
トナーを移動させる電界とは逆の電界を印加すれば、感光体1上への滑材供給量は増加する。また、トナーを移動させる電界と同じ方向の電界を印加した場合においても、その電界強度が弱い方が感光体1への滑材供給量は大きくなる。
このような電磁的作用を考慮すれば、トナーに滑材が外添されている場合に感光体1上の滑材量を制御するには、現像部4で生じる現像電位差、および、転写部で生じる転写電位差の少なくとも一方を制御すればよい。
(1)現像電位差を制御する場合
トナーを移動させる電界と同じ方向の電界を印加するときには、現像電位差を小さくすることで滑材供給量は増加する。また、トナーを移動させる電界とは逆の電界を印加するときには、現像電位差を大きくすることで滑材供給量は増加する。
(2)転写電位差を制御する場合
転写電位差を大きくすることで、滑材供給量は増加する。
なお、滑材の帯電方向によっては、上述の関係が逆転することもある。
(i3:その他)
また、滑材供給機構(滑材供給部8)とトナー外添方式とを併用した場合、上述した二つの制御方法はいずれも適用できる。さらに、上述した制御方法以外にも、感光体1への滑材塗布量の制御に対して有効な方法は、本実施の形態に従う制御方法にも適用可能である。
<J.部分的な印字率の算出およびそれに応じた滑材供給量制御>
上述の説明においては、感光体1の所定期間(所定の周面距離/副走査方向の距離)の平均印字率(積算印字率)、すなわち軸方向全域の画像面積率に基づいて、滑材供給量を制御する構成について例示した。しかしながら、感光体1(像担持体)上の画像形成領域を回転軸方向(主走査方向)、すなわち感光体1表面の回転軸に沿って複数の領域に分割し、それらの分割された複数の領域(セグメント)毎に印字率を算出するともに、各セグメントの印字率に基づいて滑材供給量を制御するようにしてもよい。
このように、画像形成装置100の制御部50が有する印字率算出機能は、感光体1(像担持体)の回転軸に沿って規定される複数のセグメントに各々に関して、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての印字率(第1の印字率)をそれぞれ算出するとともに、次に印刷する画像(予約印刷画像:第2の画像)についての印字率(第2の印字率)をそれぞれ算出する。
以下、このようなセグメント毎に滑材供給量を制御する構成について例示する。
(j1:セグメント毎の印字率の算出)
基本的には、各セグメントでの滑材供給量の制御方法は、上述したものと同様である。つまり、セグメント毎に上述した滑材供給量の制御が実行される。具体的には、セグメント毎に、既に印刷した画像の印字率を算出するとともに、まだ印刷されていない画像データに関する、予約印刷画像の印字率を算出する。そして、セグメント毎に、滑材供給量を増加させる制御を開始させるための条件((1)所定期間の平均印字率(積算印字率)が第1のしきい値以下であり、かつ、(2)次に印刷される画像の印字率が第2のしきい値以上である)が満たされると、滑材供給量を増加すべきタイミングと判断され、滑材供給量を増加させるための処理が実行される。ここで、滑材は軸方向全域で同じ供給量だけ供給されるものとする。滑材供給量を増加させるための処理の詳細については、上述したものと同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図12は、本実施の形態に従うセグメント毎の滑材供給量の制御方法を示す模式図である。図12には、非画像部が相対的に大きな縦帯チャートである画像1を連続印刷した後、画像部が相対的に大きな縦帯チャートである画像2に切り替える場合を示す。
画像1が連続印刷されている間、画像1の画像部(トナーを付着すべき領域)に対応する主走査方向の領域での滑材量は相対的に少なくなっている。上述したように、クリーニングブレード5においてトナーが滑材を研磨するからである。ここで、画像1から画像2のように、印字率が部分的に切り替わるような画像パターンの印刷が予定されると、当該画像パターンの切り替わり直前において、滑材供給量を軸方向全域で一様に増加させる。そして、画像パターンが切り変わるタイミングに応じて、滑材供給量を低減させる。
このように、画像形成装置100は、複数のセグメントのうちいずれかのセグメントについての第2の印字率が当該セグメントについての第1の印字率より高い場合に、先に印刷されている画像の印刷終了後であって、次に印刷する画像の印刷開始前に、滑材の供給量を軸方向全域で一様に第1の所定量まで増加させるとともに、増加させた供給量を所定期間内に軸方向全域で一様に第2の所定量まで低減させる。
図12に示すような滑材供給量の制御を採用することで、画像1から画像2に切り替わるような、軸方向のそれぞれのセグメント毎に印字率が異なる場合においても、クリーニング不良の発生を高い精度で防止できる。
画像パターンの切り替わりに対し、滑材供給量の増加開始タイミングおよび低減開始タイミングについては、上述した処理と同様の方法を採用できる。また、滑材供給量の設定についても、上述した処理と同様の方法を採用できる。さらに、滑材供給量の調整手段についても、上述した構成を採用できる。
図12に示す滑材供給量の制御において、画像パターン切り替わり後の印刷中の滑材供給量(第2の所定量)は、軸方向全域の印字率(平均値)に応じて設定してもよいし、あるいは、それぞれのセグメントの印字率にうち最も大きな印字率に応じて設定してもよい。すなわち、滑材の供給量は、複数のセグメントのそれぞれについての第1の印字率のうち最大の印字率に応じた第2の所定量までの減少に留まることになる。このような方法で滑材供給量を調整することで、トナーのすり抜け、感光体1の摩耗といった不具合を高い精度で抑制できる。
(j2:セグメント毎の滑材供給量の調整)
上述の説明では、セグメント毎に印字率を算出して、いずれかのセグメントにおいて滑材供給量を増加させる制御を開始させるための条件が満たされると、軸方向全域で同じ供給量だけ滑材を増加させる制御について例示した。
このようなセグメント毎の印字率の算出に加えて、特定のセグメントについてのみ滑材供給量を増加させる制御を実施するようにしてもよい。すなわち、特定のセグメントにおいて、低印字率の画像領域から高印字率の画像領域に切り替わることが予めわかっていれば、当該セグメントについてのみ滑材供給量を増加させるようにしてもよい。
図13は、本実施の形態に従うセグメント毎の滑材供給量の別の制御方法を示す模式図である。図13には、図12と同様に、非画像部が相対的に大きな縦帯チャートである画像1を連続印刷した後、画像部が相対的に大きな縦帯チャートである画像2に切り替える場合を示す。画像1から画像2に切り替わるにあたって、非画像部から画像部に切り替わるセグメントについてのみ、滑材供給量を増加させる。画像2に切り替わると、所定期間内に滑材供給量を低減させる。
このように、画像形成装置100は、複数のセグメントのうちいずれかのセグメントについての第2の印字率が当該セグメントについての第1の印字率より高い場合に、先に印刷されている画像の印刷終了後であって、次に印刷する画像の印刷開始前に、セグメントに対する滑材の供給量を第1の所定量まで増加させるとともに、当該セグメントに対して増加させた供給量を所定期間内に第2の所定量まで低減させる。
図13に示すような制御を行なうことにより、低印字率から高印字率に切り替わるセグメントについては、クリーニング不良の発生を抑制できる。また、高印字率から低印字率に切り替わるセグメントにおいては、滑材の増加がないか、あるいは、最小限に抑えられるため、クリーニングブレードのエッジ摩耗を抑制できる。
図13に示すようなセグメント毎の滑材供給量の調整を実現する手段として、上述したような、現像部4で生じる現像電位差、および、転写部で生じる転写電位差の少なくとも一方を制御する方法を採用できる。
また、塗布ブラシを含む滑材供給部を用いる場合には、セグメント毎に回転速度、または、塗布ブラシに対する固形滑材の押圧力を異ならせる構成を採用することが好ましい。
図14は、本実施の形態に従うセグメント毎の滑材供給量の制御に提起した滑材供給部の構成例を示す模式図である。図14を参照して、滑材供給部8Aは、塗布ブラシ81の外周側に、塗布ブラシ81の回転軸に沿って複数の固形滑材84_1〜84_6が並んで配置されている。固形滑材84_1〜84_6の配置は、印字率を算出する複数のセグメントに対応付けられている。塗布ブラシ81に対する固形滑材84_1〜84_6の押圧力をそれぞれ変化させることで、滑材供給量をセグメント毎に制御することができる。
(j3:部分的な印字率および全体的な印字率の考慮)
上述したように、セグメント毎の印字率を算出し、各セグメントの印字率に基づいて、滑材供給量の制御を実現する構成において、軸方向全域の印字率についても併せて考慮するようにしてもよい。
例えば、いずれかのセグメントが低印字率から高印字率に切り替わると判断されるという条件に加えて、軸方向全域としての直前の低印字率も低い場合に限って、滑材供給量を増加させるようにしてもよい。このように、セグメント毎の印字率に加えて、軸方向全域の印字率についても考慮するのは、以下のような理由による。
すなわち、クリーニングブレード5の静止層56を構成するのは、主として、トナーに外添されているシリカ等の微粒子である。このような微粒子は、非画像部(トナーを付着すべきではない領域)においても、現像部4のストレスによりトナーからごく微量ずつ脱離し、感光体1上に供給される。低い印字率の画像の印刷が連続すると、現像器4内のトナーに含まれる微粒子の総量は減少する。印字率が低いため、新たなトナーおよび外添剤が現像器4内に導入されないためである。
よって、部分的な印字率のみならず、全体的な印字率が低い場合にも、上述したような課題(低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷したときに発生し得るクリーニング不良)はより顕著に発生し得る。そこで、このような場合に限って、本実施の形態に従う滑材供給量の制御を実行することにより、より多くの滑材を供給するのを、クリーニング不良が特に発生し易い状況に限ることができる。このように、滑材供給量を増加させる状況を制限することで、他の状況においては、滑材量の供給量が抑制されることとなり、クリーニングブレードのエッジ摩耗をさらに抑制できる。
図15は、本実施の形態に従う部分的な印字率および全体的な印字率の考慮した制御方法を示す模式図である。図15(A)〜(C)に示す、3つのパターンを例にして説明する。図15(A)〜(C)の各々において、画像1から画像2へ印刷対象が切り替わるとする。
図15(A)に示すパターン1における画像1は、セグメント毎の印字率(部分印字率)が第1のしきい値以下である領域(白地部分)が存在するとともに、軸方向全域の印字率(全体印字率)が所定のしきい値以下であるとする。ここで、印刷対象が画像1から画像2に切り替わり、低印字率から高印字率に変化する領域が出現すると判断されると、滑材供給量を増加させる制御が実行される。なお、全体印字率を比較する所定のしきい値を、第1のしきい値と同じ値に設定してもよいし、異なる値に設定してもよい。
図15(B)に示すパターン2における画像1では、軸方向全域の印字率(全体印字率)が所定のしきい値以下であるが、主走査方向に沿って一様な画像部が存在するため、セグメント毎の印字率(部分印字率)はいずれも第1のしきい値以下とはならない。そのため、印刷対象が画像1から画像2に切り替わるとしても、滑材供給量を増加させる制御は実行されない。
図15(C)に示すパターン3における画像1では、セグメント毎の印字率(部分印字率)が第1のしきい値以下の領域(白地部分)は存在するものの、印刷可能領域内の画像部の面積が相対的に大きいので、軸方向全域の印字率(全体印字率)は所定のしきい値以下とはなっていない。そのため、印刷対象が画像1から画像2に切り替わるとしても、滑材供給量を増加させる制御は実行されない。
このように、複数のセグメントのうちいずれかのセグメントについての第2の印字率が当該セグメントについての第1の印字率より高い場合であって、かつ、少なくとも現在印刷中の画像を含む1または複数の画像についての所定期間にわたる軸方向全域の印字率(全体印字率;第3の印字率)が所定のしきい値以下である場合に限って、上述したような滑材供給量の制御が有効化される。
(j4:カラー画像形成装置での制御)
図1に示すようなカラー画像形成装置での制御方法を考慮すると、複数の色が被転写部材である媒体40に重ねられて印刷されることになる。この場合、上流側で重ねられる色(トナー)が存在するか否かに応じて、上述したような滑材供給量を増加するようにしてもよい。すなわち、被転写部材上に複数のトナーが重ねられて印刷が行なわれる場合、上流側の画像パターンを考慮して制御を行なってもよい。これは、上流側で重ねられるトナーのうち一定の比率のトナーが、下流側で重ねられるトナーに逆転写するためである。逆転写したトナーは、クリーニングブレード5のブレードエッジ51に到達し、静止層56を形成する作用を有する。よって、逆転写トナーを考慮して制御することにより、無駄な滑材の供給をより効率的に防止でき、ひいてはエッジ摩耗を抑制できる。
このような制御ロジックの一例としては、上流側で転写される画像パターン(トナーパターン)の全体印字率または部分印字率を算出し、その算出された印字率に所定係数を乗じて当該色の印字率に加算(すなわち、逆転写分を補正)する。そして、この加算された印字率を上述したようなしきい値と比較することで、各色において、上述したような滑材供給量の制御を実行するか否かを判断する。
図1に示すような画像形成装置100は、感光体1(像担持体)および現像部4の組を複数有しており、各組において形成されたそれぞれのトナー像が被転写媒体である中間転写ベルト12に重ね合わせるように構成されている。このような構成においては、中間転写ベルト12に先に転写されたトナー像の印字率を考慮して、対象の感光体1における印字率を算出するようにしてもよい。
なお、所定係数は、システム毎の特性によって適宜調整されることが好ましい。また、軸方向にセグメントを分割してセグメント毎の印字率を算出するような場合、上流側の印字率もセグメント毎に加算されることが好ましい。
<K.効果確認実験>
上述した本実施の形態に従う画像形成装置100によるクリーニング能力およびクリーニングブレードのエッジ摩耗の維持性能を確認するいくつかの実験(実施例1〜3および比較例1〜5)を行なった結果を以下に示す。
具体的な装置構成としては、実施例および比較例ともに、図2または図3に示す画像形成装置の構成に従って、感光体1、現像部4、転写装置、トナー、クリーニングブレード5等を以下のように設定した。ベースとなる画像形成装置としては、KONICA MINOLTA社製 bizhub PRESS C1000を改造したものを用いた。
(1)感光体1
感光体1としては、アルミニウムからなるドラム状の金属基体の外周面に、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ25μmの感光層が形成された直径80mmの有機感光体を用いた。感光体1は、400mm/secで回転させた。
(2)現像部4
現像部4としては、線速度600mm/minで回転駆動される現像スリーブを有し、この現像スリーブに感光体1の表面電位と同極性のバイアス電圧が印加され、二成分現像剤によって反転現像が行なわれるものを用いた。
(3)転写装置
転写装置の中間転写体として、導電性を付与したポリイミド樹脂からなる無端状のベルトを用い、ベルトを介して感光体1に圧接させ、トナーの帯電極性とは逆極性の電圧を印加する転写ローラーを設けたものを用いた。
(4)クリーニングブレード5
クリーニングブレード5としては、ウレタンゴムからなる反発弾性率が50%(25℃)、JIS A硬度が70°、厚さが2mm、自由長が10mm、幅が324mmのものを用いた。クリーニングブレード5について、感光体1に対する当接荷重が25N/mであり、当接角が15°であるように設定した。
(5)トナー
二成分現像剤を構成するトナーとして、乳化重合法により製造された体積平均粒径が6.5μmのトナー粒子のものを用いた。トナーには負帯電性を付与した。トナー粒子に滑材を添加する場合、そのトナー粒子にステアリン酸亜鉛を添加したものを使用した。詳細は、上述したので、ここでは繰り返さない。
(6)固形滑材84
図2および図3に示す滑材供給部をもつ構成として、固形滑材84から塗布ブラシ81で滑材を掻きとって感光体1に付着させる機構を採用した。ブラシの形状としては直毛形状のものを使用し、固形滑材84としてはステアリン酸亜鉛を圧縮成型した棒状のものを用いた。
評価方法として、以下に示す3種類の印刷処理(a)〜(c)の組み合わせを用いて耐久試験を行った。すなわち、以下の印刷処理(a)〜(c)を順次実施する処理パターンを50サイクル実行した。
(a)3%縦帯チャートの画像を連続して1000枚印刷した後、画像領域の全域にわたるドットハーフパターンの画像を10枚印刷
(b)3%横帯チャートの画像を連続して1000枚印刷した後、画像領域の全域にわたるドットハーフパターンの画像を10枚印刷
(c)40%縦帯チャートの画像を連続して1000枚印刷した後、画像領域の全域にわたるドットハーフパターンの10枚印刷
「クリーニング不良」の評価方法として、目視にてドットハーフパターンの画像印刷時の生じる、スジおよび地汚れの有無を評価した。目視にてクリーニング不良を判断されたものをNGとし、それ以外のものをGとした。
「ブレード摩耗」の評価方法として、上述の耐久試験実施後に、クリーニングブレードのブレードエッジをレーザー顕微鏡(キーエンスVK7000)にて観察し、摩耗幅を推定した。摩耗幅は、軸方向の5点を観察して、その平均値を採用した。また、判定として、摩耗幅が30μm以下であればG、それ以上であればNGとした。
以下に実験内容および各実験結果の一例を示す。
上表中の「塗布形態」欄に「トナー外添え」とあるものは、図4に示すイメージングユニットを用いて、トナーに滑材を重量比0.2部外添したものを用いた場合を示す。同欄に「上流塗布」とあるものは、図2に示す滑材供給機構を用いて滑材を感光体表面に塗布した場合を示す。このとき、比較例3を除いて、塗布ブラシの感光体に対する周速比を0.4とした。
比較例1〜3は、本実施の形態に従う滑材供給量の制御を実行しなかった場合の実験結果を示す。すなわち、これらの比較例においては、滑材供給量を決定するパラメータに対する何らの制御も行なっていない。比較例1は、トナー外添構成における実験結果に相当し、比較例2は、感光体表面に滑材を塗布する構成における実験結果に相当する。また、比較例3は、比較例2に比較して、塗布ブラシの周速比を高めることで、より多くの滑材を供給するようにした場合の実験結果に相当する。
比較例1および比較例2においては、クリーニングブレードのエッジ摩耗は比較的良好であったものの、クリーニング不良が発生した。これに対して、比較例3においては、クリーニング不良は発生せずに良好であったものの、クリーニングブレードのエッジ摩耗が大きくなってしまっていた。
これらの理由として、比較例1および比較例2は、低印字率の画像印刷時に、静止層が枯渇し、高印字率の画像への切り替わり時にクリーニング不良が発生するという、本願発明者らの見出した新たな知見とよく一致する。また、比較例3については、感光体上の滑材量が定常的に多くなっている状態(滑材過多の状態)であるために、クリーニング不良については抑制できているが、感光体表面で滑材が被膜化することで、表面粗さが減少し、クリーニングブレードのエッジ摩耗が促進するという、本願発明者らの見出した新たな知見とよく一致する。
上述の比較例1〜3に対して、実施例1〜5は、上述したような本実施の形態に従う滑材供給量の制御を適用した場合の実験結果を示す。
実施例1〜5では、上述した本実施の形態に従う滑材供給量の制御を実装した上で実験を行なった。実装した制御は、上表の「制御」欄に示す。「制御」欄の「制御1」は、軸方向全域の印字率に基づく制御であり、「制御2」は、上述の(j1:セグメント毎の印字率の算出)において説明したセグメント毎の印字率に基づく制御であり、「制御3」は、上述の(j2:セグメント毎の滑材供給量の調整)において説明したセグメント毎の印字率に基づいてセグメント毎に滑材供給量を調整する制御であり、「制御4」は、(j3:部分的な印字率および全体的な印字率の考慮)において説明した、部分的な印字率および全体的な印字率を考慮した制御である。
なお、制御1において、低印字率の画像であるか否かの判断に用いられるしきい値(第1のしきい値)は5%に設定し、高印字率の画像であるか否かの判断に用いられるしきい値(第2のしきい値)は30%に設定した。制御2〜制御4においても、セグメント毎の印字率に対して、これらと同じしきい値を設定した。また、制御4において、全体印字率に対する低印字率の画像であるか否かの判断に用いられる所定のしきい値は4%に設定し、高印字率の画像であるか否かの判断に用いられる所定のしきい値は35%に設定した。
上表から明らかなように、実施例1〜5のいずれについても、クリーニング不良、および、クリーニングブレードのエッジ摩耗に対して、いずれも良好な結果が得られた。これは、上述したような本願発明者らの新たな知見による解決手段が有効に機能しているためであると結論付けられる。
<L.まとめ>
上述したように、本願発明者らは、低印字率の画像を連続印刷した後に、高印字率の画像が印刷される場合に、クリーニング不良が発生し易くなるという事象を発見した。この原因が、クリーニングブレードのくさび部に生じる微粒子溜り(静止層)が枯渇するためであることを突き止めた。このような課題に対して、滑材供給量を単純に増加させるとクリーニング不良は解決するが、クリーニングブレードのエッジ摩耗が増加する。一方、トナーを過剰に供給してもクリーニング不良は解決するが、トナーの消費量が増加するというさらに新たな課題の存在についても発見した。
そこで、本実施の形態においては、無駄なトナー消費およびクリーニングブレードのエッジ摩耗を抑制しつつ、低印字率の画像を連続印刷した後に高印字率の画像を印刷したときに発生し得るクリーニング不良という課題を解決する。
上述したような解決手段を採用することで、静止層が枯渇している状態でも、供給される滑材量が一時的に増加することにより、静止層を再生成でき、クリーニング不良を抑制できる。また、通常の印刷時には滑材供給量を適正な値に抑えることで、凝着摩耗の進行を抑制し、なおかつ追加的なトナー供給をすることなく、クリーニング不良の発生を抑制できる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。