JP2017178864A - エチレンオキシドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】エチレンオキシドの製造プロセスにおいて、熱交換器において、内管側での腐食の発生を抑制し、長期間の連続製造を可能としうる手段を提供する。
【解決手段】エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含む原料ガスをエチレン酸化反応器に供給すること、エチレン酸化反応器において、銀触媒の存在下で、原料ガス中におけるエチレンと分子状酸素とを接触気相酸化して、エチレンオキシド、水および塩素化合物を含むガスを生成すること、ならびに、水および前記塩素化合物を含む被冷却ガスを熱交換器で冷却すること、を含むエチレンオキシドの製造方法であって、熱交換器において、被冷却水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却する、製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明はエチレンオキシドの製造方法に関する。
エチレンオキシドは、今日ではエチレンを銀触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して製造される。そして、エチレンオキシドの製造プロセスにおける精製方法は大略以下のとおりである(例えば、特許文献1を参照)。
まず、エチレンと分子状酸素含有ガスとを銀触媒上で接触気相酸化して、エチレンオキシドを含む反応生成ガスを得る(反応工程)。次いで、得られた反応生成ガスをエチレンオキシド吸収塔へ導き、水を主成分とする吸収液と接触させて、エチレンオキシドを水溶液として回収する(吸収工程)。次いで、回収されたエチレンオキシド水溶液をエチレンオキシドの精製系へと送り、いくつかの段階を経て高純度エチレンオキシドが得られる。このエチレンオキシドの精製系は通常、放散工程、精留工程、脱水工程、軽質分分離工程、重質分分離工程などからなっている。
なお、エチレンオキシド吸収塔の塔頂部から排出される未反応エチレン、副生した炭酸ガス(二酸化炭素;CO)や水、さらには不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン等)を含む排出ガスについては、そのままエチレン酸化工程に循環させるか、またはその一部を抜き出し、炭酸ガス吸収塔に導きアルカリ性吸収液により炭酸ガスを選択的に吸収させ、この吸収液を炭酸ガス放散塔に供給して炭酸ガスを放散回収することが通常行われている(例えば、特許文献2を参照)。
特開昭62−103072号公報 特開昭60−131817号公報
特許文献1および特許文献2などの従来のエチレンオキシドの製造プロセスにおいては、反応を行う反応系および炭酸ガスの放散回収を行う炭酸ガス系等において、原料ガスおよび再利用ガス等を加熱および冷却するために熱交換器が設置されることが通常である。しかしながら、従来のエチレンオキシドの製造プロセスにおいては、長期間製造を行った際に、熱交換器内管側の腐食が発生する問題がある。
そこで本発明は、エチレンオキシドの製造プロセスにおいて、熱交換器内管での腐食を抑制し、長期間の連続製造を可能としうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決を図るべく、鋭意研究を行った。一般に、静置した金属表面に塩素化合物を含む液が付着すると、金属表面が腐食されることが知られている。上記プロセスでも同様に、原料ガスが塩素化合物を含み、熱交換器で冷却される被冷却ガスが塩素化合物および水を含むため、熱交換器内管に腐食が生じることを確認した。本発明者らは、さらなる検討の結果、驚くべきことに、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを熱交換器の内管側を通過させて冷却する際に、ガス線速を7m/s以上とすることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一形態は、エチレンオキシドの製造方法に関する。当該製造方法は、エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含む原料ガスをエチレン酸化反応器に供給すること、エチレン酸化反応器において、銀触媒の存在下で、原料ガス中におけるエチレンと分子状酸素とを接触気相酸化して、エチレンオキシド、水および塩素化合物を含むガスを生成すること、ならびに、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを熱交換器で冷却すること、を含む。そして、当該製造方法は、熱交換器において、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却する点に特徴がある。
本発明によれば、エチレンオキシドの製造プロセスにおいて、熱交換器内管の腐食を抑制し、長期間の連続製造を可能とする。本発明に係るエチレンオキシドの製造プロセスは、熱交換器の交換頻度を著しく低下させることが可能となることから、生産効率の向上が可能となるという、工業的に見てきわめて有利な効果が奏される。
本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造方法を実施するエチレンオキシドの製造プロセスの構成例を示すブロック図である。 本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造プロセスを実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。図2は、後述する放散工程に対応している。 放散されたエチレンオキシドが最終的に精製されるまでの精留工程の構成例を示すブロック図である。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。
本発明の一形態は、エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含む原料ガスをエチレン酸化反応器に供給すること、エチレン酸化反応器において、銀触媒の存在下で、原料ガス中におけるエチレンと分子状酸素とを接触気相酸化して、エチレンオキシド、水および塩素化合物を含むガスを生成すること、ならびに、水および前記塩素化合物を含む被冷却ガスを熱交換器で冷却すること、を含むエチレンオキシドの製造方法であって、前記熱交換器において、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却する、製造方法である。
原料ガスは、エチレン、分子状酸素および塩素化合物を必須に含む。また、原料ガスには、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気、またはメタンもしくはエタン等の低級炭化水素類などの1種または2種以上が混合されていてもよい。原料ガス組成としては、特に制限されないが、例えば、原料ガスの質量基準でエチレン0.5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、酸素5〜15質量%、好ましくは9〜12質量%、炭酸ガス0.5〜30質量%、好ましくは8〜13質量%、残部が水蒸気、および窒素、アルゴンまたは低級炭化水素類等の不活性ガス、および原料ガスの容積基準で、0.01〜1000容量ppmの塩素化合物よりなる混合ガスが挙げられる。
塩素化合物は、反応調整剤として機能するものであり、少なくとも反応器内において気体で存在する。塩素化合物は有機塩素化合物であることが好ましく、例えば、塩素化エチレン、塩化ビニル、塩化メチル、塩化t−ブチルなどの炭素数1〜6の塩素アルケン、ジクロロメタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロホルム、塩素化ビフェニル、モノクロロベンゼンなどの塩素化ベンゼン、ジクロロプロパン、ジクロロプロペン、クロロブタン、ジクロロブタン、クロロブテン等が例示でき、これらの1種類または2種類以上を併用して使用することができる。これらの中でも、塩化ビニル、塩素化エチレンまたはそれらの混合物を使用することが好ましく、塩化エチレンを使用することがより好ましい。これらの塩素化合物の濃度は、好ましくは原料ガスの容積基準で、0.01〜1000容量ppm、より好ましくは0.1〜100容量ppm、特に好ましくは0.5〜50容量ppmである。
本発明の一形態に係るエチレンオキシドの製造方法は、水および塩素化合物を含むガスを冷却するために、熱交換器を用いることを必須とする。
水および塩素化合物を含む被冷却ガスを冷却するための熱交換器の設置位置は、特に制限されず、エチレンオキシド製造プロセスのいずれの位置に設けられたものであってもよい。熱交換器内管側のガス線速を7m/s以上とする熱交換器は、後述のエチレンの酸化反応によってエチレンオキシドを製造する系(本明細書において、単に「反応系」とも称する)内に配置される1つもしくは2つ以上の熱交換器、または任意に有していてもよい後述の炭酸ガス吸収塔へのガスの導入に始まる炭酸ガス回収系(本明細書において、単に「炭酸ガス系」とも称する)内に配置される1つもしくは2つ以上の熱交換器であることが好ましく、反応系内に配置される1つまたは2つ以上の熱交換器、および炭酸ガス系内に配置される1つまたは2つ以上の熱交換器であることが好ましく、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを冷却するための製造系内に存在する全ての熱交換器であることがさらに好ましい。
水および塩素化合物を含む被冷却ガスを冷却するための熱交換器は、具体的な構造については特に制限はなく、水および塩素化合物を含む被冷却ガスと吸熱媒体との間での熱交換が可能な装置であればよい。これより、熱交換器は、公知の熱交換器を用いることができる。これらの中でも多環式熱交換器を用いることが好ましい。通常、多管式熱交換器は円筒の胴の内部に、細く、肉厚の薄い、多数の伝熱管(以下、内管とも称する)を1本に束ねた管束を配置した構造で内管の内外部に接触する流体である熱媒体および吸熱媒体間で熱交換を行う。一般に、胴側流体の流れが、内管に対して最も有効に流れるようにし、伝熱効率を向上させると共に、内管を保持するために、邪魔板を設ける。
また、熱交換器としては、竪型熱交換器および横型熱交換器のいずれを用いてもよい。腐食防止の観点からは、内管内に滞留物が発生し難い竪型熱交換器の方が好ましいが、より腐食が生じ易い系において、本発明の腐食防止効果をより有効に活用するとの観点からは、横型熱交換器を好ましく用いることができる。
水および塩素化合物を含む被冷却ガスを冷却するための熱交換器において、熱交換器の内管を形成する材料は特に限定されないが、ステンレス鋼製であることが好ましい。内管をステンレス鋼製とすることで、内管とガスとの接触部分において発生する腐食や、応力腐食割れと呼ばれる亀裂が生じることを低減させることができる。
熱交換器内管を形成するステンレス鋼の種類としては、特に制限されず、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレスおよび析出硬化系ステンレス等の公知のステンレス鋼を用いることができる。これらの中でも、本発明の奏する長期間製造時における腐食防止効果によって、従来、長期間製造時において腐食が発生する場合があるとされてきたものも好ましく用いることができる。すなわち、本発明の一形態に係る熱交換器としては、本発明の腐食防止効果をより有効に活用するとの観点から、比較的安価で、工業用に用いられる一般的なステンレス鋼性の熱交換器内管を有するものも好ましく用いることができる。なお、熱交換器としては、腐食防止を高めるために特殊な組成としたステンレス鋼製の熱交換器内管を有するものを使用できることは当然である。
ここで、熱交換器内管を形成するステンレス鋼としては、ステンレス鋼の総質量に対して、含有されるクロム(Cr)の含有量(質量%)およびモリブデン(Mo)の含有量(質量%)が下記式1を満たすものを用いることが好ましい。
上記式1の値は、ステンレス鋼の腐食容易性を表し、その値が小さいほど腐食が生じ易いことを示す。したがって、上記式1を満たすことは、より腐食が発生し易いステンレス鋼製の熱交換器内管を有する熱交換器は、本発明の腐食防止効果をより有効に活用するとの観点から、好ましいことを意味する。同様の観点から、熱交換器内管を形成するステンレス鋼としては、下記式1の値が20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。なお、下限値は工業用途のステンレス鋼としての好ましい値である。
上記式1を満たすステンレス鋼としては、例えば、マルテンサイト系ステンレスであるSUS403、SUS410、SUS410J1、SUS410F2、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS420F2、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440CおよびSUS440F、フェライト系ステンレスであるSUS405、SUS410L、SUS430、SUS430FおよびSUS434、オーステナイト系ステンレスであるSUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS303Se、SUS303Cu、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J3、SUS305、SUS309S、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316Ti、SUS890L、SUS321、SUS347およびSUSXM15J1、析出硬化系ステンレスであるSUS630およびSUS631等が挙げられる。これらの中でも、量産性や機械特性等との両立の観点から、SUS430、SUS430F、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J3、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316Tiであることが好ましく、SUS430、SUS304、SUS316、SUS316Lであることが好ましく、SUS430であることがさらに好ましい。なお、これらは、JIS(日本工業規格)に準拠した表記法である。
吸熱媒体としては、熱交換器に供給される熱媒体である水および塩素化合物を含む被冷却ガスよりも沸点が低く、常温より沸点が高く熱容量の大きいものが好適に用いられる。また、熱交換器の吸熱媒体としては、特に限定されるものではないが、吸熱媒体がエチレン、分子状酸素および塩素化合物を含むガスであることが好ましい。ここで、反応系における反応生成ガスはエチレン、分子状酸素および塩素化合物を含むガスであることが好ましい。また、炭酸ガス系における供給ガスは、水および塩素化合物を含むガスであり、炭酸ガス系における未吸収ガスは、エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含むガスであることが好ましい。これらの場合、後述の反応系における原料ガスと、原料ガスより生成される反応生成ガスとが、または後述の炭酸ガス系における供給ガスと未吸収ガスとが熱交換することとなり、プロセス内の各種反応によって生じた熱エネルギーを回収し、有効に活用することができる。
本発明の一形態に係るエチレンオキシドの製造方法は、熱交換器において、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却することを必須とする。
熱交換器内管側のガス線速が7m/s未満であると、長期間製造時において、熱交換器内管の腐食、特にステンレス鋼製の熱交換器内管を用いた際に孔食と呼ばれる腐食の発生頻度が著しく高まる。熱交換器が腐食された場合、熱交換器が使用できなくなり、エチレンオキシドを製造することができなくなる。ここで、孔食とは、ステンレス鋼の不動態被膜が部分的に破壊され、その部分で電気化学的な反応が生じることで、ステンレス鋼が点状または孔状に腐食される現象である。前述のように、原料ガスが塩素化合物を含有する場合に、熱交換器で冷却される被冷却ガスが塩素化合物および水を含むと、ステンレス鋼の腐食は発生するが、原料ガスに含まれるガス状態の塩素化合物、たとえば有機塩素化合物自体はステンレス鋼を腐食しない。これより、本発明者らは、熱交換器内管の腐食発生は、長期間の製造の中で、塩素化合物が分解されて塩酸等の不動態被膜を破壊しうる化合物へと変化すること、そしてかかる化合物が内管に部分的に付着して熱交換器内管内に滞留することが一因であると考えている。また、熱交換器において冷却される側である熱交換器内管側においてステンレス鋼の腐食が発生することから、詳細は不明であるが、熱交換器内でガス温度が低下した際に、熱交換器内管側で凝縮する成分が、塩素化合物の分解または滞留を促進させていると考えられる。ここで、熱交換器内管側のガス線速を7m/s以上とすることで熱交換器内管の腐食が抑制されることから、ガス線速を一定以上とすることで、腐食の原因となる化合物へと変化しうる塩素化合物、または塩素化合物の滞留を促進させる成分を弾き飛ばして除去する等、塩素化合物の分解、塩素化合物の滞留または腐食の原因となる化合物の滞留を抑制する何らかの効果が奏されることとなると推察される。
ここで、熱交換器内管側のガス線速は、7m/s以上30m/s以下であることが好ましい。この理由は、熱交換器内管側のガス線速の上限は、特に制限されないが、熱交換器内管が破損しない速度とする必要があり、熱交換機の種類および構成によっても異なるが、一般的な熱交換器内管側においては、このガス線速の値以下とすることが好ましいからである。これらの観点から、熱交換器内管側のガス線速は、7m/s以上25m/sであることがより好ましく、8m/s以上20m/s以下であることがさらに好ましく、9m/s以上15m/s以下であることが特に好ましい。なお、熱交換器内管側のガス線速は、原料ガスの昇圧ブロワの回転数で制御することができる。
水および塩素化合物を含む被冷却ガスを冷却するための熱交換器は、熱交換器内管入口での温度が水の露点以上である、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、熱交換器内管出口での温度が水の露点以下となるように冷却するものであることが好ましい。かかる熱交換器においては、熱交換器内管側のガスが冷却される際に、ガスに含まれる水蒸気が凝縮して液体の水であるドレンが発生する。ドレンとは、水蒸気が有する熱エネルギーのうち、潜熱が水蒸気から熱交換器の吸熱媒体へと移動した結果、露点以下の温度となって凝縮して熱交換器内管に付着する液体の水を表す。ここで、ドレンが発生する熱交換器において本発明の効果がより顕著に表れる理由は、塩素化合物がドレンに溶解することで、熱交換器内管側における塩素化合物の滞留がより生じ易くなり、塩素化合物の分解もより促進されるからであると考えられる。また、熱交換器内管入口での温度および熱交換器内管出口での温度の差が大きい方が、一般的にドレンの発生量も多くなるため、熱交換器内管側において腐食がより発生し易くなると考えられる。本発明は、ドレンの発生量によらず、熱交換器において水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却することで腐食を抑制することができる。したがって、ドレンの発生量が多い条件の熱交換器において本発明を用いることが、本発明の腐食防止効果をより有効に活用するとの観点からより好ましい。なお、ドレンの元となる水蒸気は、例えば、原料ガス中に含まれる水や、エチレンオキシド生成の際の副反応により生じる水でありうる。
これより、水および塩素化合物を含む被冷却ガスの熱交換器入口での温度は、水の露点以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、水および塩素化合物を含む被冷却ガスの熱交換器入口での温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。また、水および塩素化合物を含む被冷却ガスの熱交換器出口での温度は、15℃以上であることが好ましく、また、水および塩素化合物を含む被冷却ガスの熱交換器出口での温度は、水の露点以下であることが好ましく、水の露点未満であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましく、20℃以下であることが特に好ましい。
なお、熱交換器内管の腐食は、目視試験、ファイバースコープ試験および渦流探傷検査によって確認することができる。これらを用いた熱交換器内管の腐食の評価方法について、詳細は実施例に記載する。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための具体的な形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみには限定されない。
≪反応系≫
まず、図1を参照しつつ、エチレンの酸化反応によってエチレンオキシドを製造する系(単に「反応系」とも称する)について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造方法を実施するエチレンオキシドの製造プロセスの構成例を示すブロック図である。図1に示すエチレンオキシドの製造プロセスは、大きく分けて反応系、炭酸ガス系、および精製系の3つの系から構成されている。
本発明で用いられる「エチレンオキシドを含有する反応生成ガス」は、エチレンを銀触媒の存在下、分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化させる工程(以下、「エチレン酸化反応工程」とも称する)で生成したものであればよい。ここで、分子状酸素含有ガスとは、分子状酸素を含有しているガスであり、例えば、空気、純酸素、純酸素と不活性ガスとの混合物、酸素富化ガス等が挙げられる。この接触気相酸化反応の技術自体は広く知られたものであり、本発明の実施にあたっても、従来公知の知見が適宜参照されうる。なお、反応生成ガスの組成等の具体的な形態に特に制限はないが、反応生成ガスの質量基準で0.5〜5質量%のエチレンオキシド、0.3〜1.2質量%の生成水、反応生成ガスの容量基準で0.01〜1000容量ppmの塩素化合物を含有していることが好ましい。一例として、反応生成ガスは、反応生成ガスの質量基準で0.5〜5質量%のエチレンオキシドの他、反応生成ガスの容量基準で0.01〜1000容量ppmの塩素化合物、未反応酸素、未反応エチレン、生成水、二酸化炭素(炭酸ガス)、窒素、アルゴン、メタン、エタン等のガスに加えて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのアルデヒド類、酢酸等の有機酸類を微量含有している。
図1を参照すると、まず、エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含有する原料ガスは、昇圧ブロワ110で昇圧された後、導管118を通じて熱交換器112を通過することで加熱され、導管101を通じてエチレン酸化反応器111に供給される。エチレン酸化反応器111は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた多管式反応器である。エチレン酸化反応工程で生成した反応生成ガスは、導管102を通じて熱交換器112を通過することで冷却された後、導管103を通じてエチレンオキシド吸収塔(以下、単に「吸収塔」とも称する)113に供給される。具体的には、反応生成ガスは吸収塔113の塔底部から供給される。一方、吸収塔113の塔頂部からは、水を主成分とする吸収液が供給される。これにより、吸収塔113の内部において気液の向流接触が行われ、反応生成ガスに含まれるエチレンオキシド(通常は99質量%以上)が吸収液に吸収される。また、エチレンオキシドの他にも、塩素化合物、エチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン等)、並びにエチレン酸化反応工程で生成したホルムアルデヒド等の低沸点不純物、アセトアルデヒド、酢酸等の高沸点不純物もその実質量が同時に吸収される。なお、吸収塔113に供給される反応生成ガスの温度は、好ましくは約15〜80℃である。また、吸収液の組成について特に制限はなく、水を主成分とするもののほか、特開平8−127573号公報に開示されているようなプロピレンカーボネートが吸収液として用いられてもよい。また、必要に応じて、吸収液には添加剤が添加されうる。吸収液に添加されうる添加剤としては、例えば、消泡剤やpH調整剤が挙げられる。消泡剤としては、エチレンオキシドおよび副生エチレングリコール等に対して不活性であり、吸収液の消泡効果を有するものであればいかなる消泡剤も使用されうるが、代表的な例としては、水溶性シリコンエマルションが吸収液への分散性、希釈安定性、熱安定性が優れているため、効果的である。また、pH調整剤としては、例えば、カリウム、ナトリウムといったアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩等の、吸収液に溶解しうる化合物が挙げられ、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが好ましい。なお、吸収液のpHは、好ましくは5〜12であり、より好ましくは6〜11である。
吸収塔113としては、通常、棚段塔形式または充填塔形式の吸収塔が用いられうる。吸収塔113の操作条件としては、反応生成ガス中のエチレンオキシド濃度が、反応生成ガスの質量基準で0.5〜5質量%、好ましくは1.0〜4質量%であり、吸収塔113の操作圧は0.2〜4.0MPa gauge、好ましくは1.0〜3.0MPa gaugeである。吸収操作は、高圧ほど有利であるが、そのとりうる値は酸化反応器の運転圧力に応じて決定されうる。また、反応生成ガスに対する吸収液のモル流量比(L/V)は、通常0.30〜2.00である。また、反応生成ガスの標準状態における空間線速度(GHSV[NTP])は、通常400〜4000h−1である。
吸収塔113において吸収されなかった塩素系化合物、エチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン)、アルデヒド、酸性物質等を含有するガスは、吸収塔113の塔頂部から導管109を通じて排出される。そして、この排出ガスは、昇圧ブロワ110によって圧力を高められた後、導管118を通じて熱交換器112を通過することで加熱され、導管101を通じてエチレン酸化反応器111へと循環される。なお、エチレン酸化反応工程の詳細については上述したとおりである。ここで、エチレン酸化反応工程は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた酸化反応器中で、加圧(1.0〜3.0MPa gauge程度の圧力)条件下にて行われる。このため、吸収塔113の塔頂部からの排出ガスをエチレン酸化反応工程へと循環する前に、昇圧ブロワ110等の昇圧手段を用いて昇圧する必要があるのである。
また、熱交換器112内で発生したドレンは、熱交換器112の底部から取り出され、導管104を通じて導管202(図2)に供給されて吸収塔113の塔底液(吸収液)と合流し、導管202を通じて熱交換器203へ供給される。
≪炭酸ガス系≫
好ましい実施形態においては、図1に示すように、吸収塔113の塔頂部から排出されるガスの少なくとも一部を、昇圧ブロワ110等の昇圧手段により昇圧し、導管105を通じて熱交換器114を通過することで加熱し、導管117を通じて炭酸ガス吸収塔115へ供給する。以下、図1を参照しつつ、炭酸ガス吸収塔115へのガスの導入に始まる炭酸ガス回収系(単に「炭酸ガス系」とも称する)について説明する。
上述したように吸収塔113の塔頂部から排出されるガスが加圧されて炭酸ガス吸収塔115へ導入される場合、その際のガス圧力は0.2〜4.0MPa gauge程度に調節され、ガス温度は80〜120℃程度に調節される。炭酸ガス吸収塔115の後段には炭酸ガス放散塔116が設置されており、この炭酸ガス放散塔116の塔底部からはアルカリ性吸収液が炭酸ガス吸収塔115の上部へ供給される。そして、このアルカリ性吸収液との向流接触により、炭酸ガス吸収塔115へ導入されたガスに含まれる炭酸ガス、塩素化合物、エチレンおよび酸素や、少量の不活性ガス(例えば、メタン、エタン、窒素、アルゴン等)が吸収される。炭酸ガス吸収塔115の塔頂部から排出される未吸収ガスは導管106を通じて熱交換器114を通過することで冷却され、導管107を通じて導管109へ循環され、新たに補充される塩素化合物、酸素、エチレン、メタン等と混合された後、熱交換器112を通過することで加熱され、エチレン酸化反応器111へ循環される。
また、熱交換器114内で発生したドレンは、熱交換器114の底部から取り出され、導管108を通じて系外へと排出される。
炭酸ガス吸収塔115において炭酸ガスを吸収した炭酸ガス濃厚吸収液は、炭酸ガス吸収塔の塔底部から抜き出された後、圧力0.01〜0.5MPa gauge、温度80〜120℃程度に調節され、塔底部にリボイラー(図示せず)を備えた炭酸ガス放散塔116の上部に供給される。炭酸ガス放散塔116の上部の供液部において吸収液は、炭酸ガス吸収塔115と炭酸ガス放散塔116との圧力差によって圧力フラッシュを起こす。これにより、吸収液中の10〜30容量%の炭酸ガスおよび大部分の不活性ガスは吸収液から分離され、炭酸ガス放散塔116の塔頂部から排出される。
上述した圧力フラッシュにより炭酸ガスの一部を分離された残りの炭酸ガス吸収液は、供液部の下方に設けられた気液接触部(図示せず)に入り、リボイラー(図示せず)より発生した蒸気および気液接触部(図示せず)以下の部分から発生した炭酸ガスを主とするガスと向流接触して吸収液中の炭酸ガスの一部およびその他の不活性ガスの大部分が吸収液から分離される。炭酸ガス系におけるこれら一連のプロセスにより、気液接触部(図示せず)の最上部から下方、好ましくは気液接触に必要な一理論段数以上に相当する気液接触部の下部の炭酸ガス放散塔116の内部から、高純度の炭酸ガスが得られる。すなわち、気液接触部(図示せず)で炭酸ガス吸収液中の不活性ガスは、下部から上昇してくるごく微量の不活性ガスを含む炭酸ガスと水蒸気とによって向流気液接触を起こして放散され、これにより不活性ガスの濃度は極めて低くなる。したがって、この放散後のガスを取り出せば高純度の炭酸ガスが得られる。
≪精製系≫
吸収塔113においてエチレンオキシドを吸収した吸収液は、当該吸収塔113の塔底液として、エチレンオキシド精製系(以下、単に「精製系」とも称する)へと送られる。精製系の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、精製系は通常、放散工程、精留工程、脱水工程、軽質分分離工程、重質分分離工程などからなっている。以下、図2および図3を参照しつつ、これらのうちのいくつかの工程からなる精製系について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造プロセスを実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。
吸収塔113の塔底液(吸収液)は、エチレンオキシド放散塔(以下、単に「放散塔」とも称する)201へ供給される前に、通常は放散塔201における放散に適した温度にまで予め加熱される。具体的には、図2に示すように、吸収塔113の塔底液(吸収液)は導管202を通じて熱交換器203へ供給される。そして、この熱交換器203において、放散塔201の塔底液との間での熱交換が行われ、さらに必要であれば加熱器204によって加熱され、吸収塔113の塔底液(吸収液)は70〜110℃程度の温度まで加熱される。本実施形態において、放散塔201の塔底液との熱交換によって加熱された吸収塔113の塔底液(吸収液)は、導管205を通じて気液分離タンク206に供給される。気液分離タンク206においては、一部エチレンオキシドおよび水を含む不活性ガスの軽質分ガスが分離され、導管207を通じて排出される。一方、軽質分ガスをフラッシュした残部の吸収液は、導管208を通じて放散塔201の上部へ供給される。なお、導管208のように特に高温条件下でエチレンオキシドが水と共存する部位については、その配設距離を可能な限り短くするように配慮することで、吸収液の滞留時間を短くすることができ、その結果、エチレングリコールの副生の防止に資することができる。
続いて、例えば、図2に示すように水蒸気等の加熱媒体を加熱器209へ供給し、当該加熱器209において加熱された加熱媒体を用いて放散塔201を加熱するか、または、放散塔201の塔底部へ直接水蒸気を供給することによって放散塔201を加熱する。このようにして放散塔201が加熱されることによって、放散塔201の上部から供給された吸収液に含まれるエチレンオキシド(通常はその99質量%以上)が放散し、放散塔201の塔頂部から導管210を経て排出される。なお、放散塔201の操作条件は、運転圧力(塔頂圧力)が3〜60kPa gaugeであり、好ましくは3〜30kPa gaugeである。塔頂圧力は小さいほど塔内の温度が低下し、その結果として塔内におけるエチレンオキシドからのエチレングリコールの副生が抑制される傾向がある。しかしながら、エチレンオキシドは比較的着火しやすい物質であるため、系内への酸素の漏れ込みを防止するという観点から、大気圧以下での運転は通常行われず、上述したように大気圧よりもやや大きい圧力で運転される。なお、放散塔201の温度条件としては、塔頂温度は好ましくは82〜93℃であり、塔底温度は好ましくは101〜115℃である。
エチレンオキシドが放散された後の残部の吸収液は、図2に示すように、放散塔201の塔底液として抜き出され、吸収塔113における吸収液として吸収塔113の上部へ供給され、循環使用されうる。ただし、吸収液の組成を調節する目的で、別途設けた導管を通じて、新鮮な水や、必要に応じて上述した添加剤を吸収塔113へと供給してもよい。また、吸収塔113へ供給される吸収液中のエチレングリコール濃度を一定に保持することが好ましい。このため、吸収塔113と放散塔201との間を循環する吸収液の一部は放散塔201の塔底部から抜き出される。ここで、放散塔201の塔底液はエチレンオキシドを実質的に含まない。具体的には、当該塔底液中に含まれるエチレンオキシドの濃度は、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下である。この塔底液は、エチレン酸化反応工程とエチレンオキシド放散工程との間で吸収液中に副生したエチレングリコールを含有しており、その一部は、導管211および導管212を通じて抜き出される。抜き出された液は、燃焼処理に供されるか、または、含有するエチレングリコールを濃縮して回収するためのエチレングリコール濃縮工程に供給される。さらに、場合によっては、抜き出された液に含まれるエチレングリコールをそのまま、またはエチレングリコール濃縮工程を経た後に、特公昭45−9926号公報や特公平4−28247号公報等に開示されているような化学的処理のほか、場合によっては物理的処理を施すことによって、繊維グレード製品として回収することも可能である。
なお、放散塔201の塔底液は、ホルムアルデヒド等の低沸点不純物、アセトアルデヒドおよび酢酸等の高沸点不純物をも含有していることから、上述したようにその一部を系外に抜き出すことで、吸収塔113に循環される吸収液中へのこれらの不純物の蓄積を防止することができるという利点も得られる。
放散塔201の塔頂部から放散された、エチレンオキシドを含む放散物は、導管210を通じて、導管213および導管214に冷却水が通る放散塔凝縮器215へ送り、凝縮液は導管216を通じて放散塔201の塔頂部へ還流し、未凝縮蒸気は導管217を通じて脱水塔301(図3)へ供給される。
脱水塔301に供給されたエチレンオキシドを含む蒸気は、導管302を通して還流される液と接触してよりエチレンオキシド濃度の高い蒸気となり、塔底から抜き出されるエチレンオキシド濃度の低い液は導管を通して放散塔凝縮器215(図2)へ送られる。
脱水塔301の塔頂部から排出された、エチレンオキシドを含む蒸気は、導管303を通じて、導管304および導管305に冷却水が通る脱水塔凝縮器306へ送り、凝縮液の一部は導管302を通して脱水塔301の塔頂部へ還流し、脱水塔凝縮器306の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管307を通して図1に示すエチレンオキシド再吸収塔(以下、単に「再吸収塔」とも称する)119へ供給される。
脱水塔凝縮器306の凝縮液の残部は導管308を通して軽質分分離塔309へ供給される。軽質分分離塔309の加熱器310により水蒸気等の加熱媒体で導管311を通じて加熱する方式により加熱し、軽質分分離塔309の塔頂部より軽質分を含むエチレンオキシド蒸気は導管312を通じて導管313および導管314に冷却水が通る軽質分分離塔凝縮器315へ送り、凝縮液は導管316を通じて軽質分分離塔309の塔頂部へ還流し、軽質分分離塔凝縮器315の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管317を通してエチレンオキシドを回収するため図1に示す再吸収塔119へ供給される。
軽質分分離塔309の塔底液は導管318を通してエチレンオキシド精留塔(以下、単に「精留塔」とも称する)319へ供拾される。精留塔319の加熱器320へ圧力0.05〜0.10MPa gauge程度の水蒸気を供給し、精留塔319の塔底温度35〜80℃、精留塔319の塔底圧力0.10〜0.80MPa gaugeで精留を行い、精留塔319の塔頂部から、塔頂温度35〜75℃、塔頂部圧力0.10〜0.80MPa gaugeのエチレンオキシド蒸気を、導管321および導管322に冷却水が通る精留塔凝縮器323へ送り、エチレンオキシドを液化させ、一部は導管324を通して精留塔319の塔頂部へ還流液として供給し、残部は導管325を通して製品エチレンオキシド(製品EO)として抜き出す。精留塔凝縮器323の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管326を通してエチレンオキシドを回収するため図1に示す再吸収塔119へ供給される。
なお、精留塔319の塔底液は、アセトアルデヒド、水、および酢酸等の高沸点不純物の重質分分離のため、必要により導管327を通して抜き出される。
上述したように、精製系から排出される未凝縮蒸気(図3に示す実施形態では、脱水塔凝縮器306、軽質分分離塔凝縮器315、および精留塔凝縮器323由来の未凝縮蒸気)はエチレンオキシドを含有している。このため、これらの未凝縮蒸気は、図1に示す再吸収塔119へ供給される。
再吸収塔119では、上述した吸収塔113と同様に、吸収液との向流接触によってエチレンオキシドが再吸収される。ここで、再吸収塔119においてエチレンオキシドの再吸収に用いられる吸収液の組成やpH、再吸収塔の形態(棚段塔形式または充填塔形式)などについては、吸収塔113について上述したのと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。再吸収塔119の運転圧力は、好ましくは100〜150kPa gaugeである。
再吸収塔119の塔底液は、導管120を通じて、上述した吸収塔113の塔底液と同様に精製系(本実施形態では、具体的には放散塔201)へと循環される。より詳細には、図2に示す導管202へと循環され、予め加熱された後に、放散塔201へ導入される。
一方、再吸収塔119において吸収されなかった未凝縮ガスは、再吸収塔119の塔頂部から導管121を通じて排出される。一実施形態において、導管121を通じて排出された未凝縮ガスは、ガス圧縮機122によって圧力を高められた後、導管123および導管103を経由して吸収塔113へと循環される。ただし、再吸収塔119の塔頂部から排出される未凝縮ガスには炭酸ガスが多く(通常は5〜60容量%程度)含まれていることから、当該未凝縮ガスを吸収塔113に循環させると、吸収塔113から炭酸ガス吸収塔115に供給されるガス中の炭酸ガス量が増加する。そうすると、炭酸ガス吸収塔115および炭酸ガス放散塔116で処理される炭酸ガス量が増加し、炭酸ガス放散塔116のリボイラー(図示せず)に投入する蒸気量を増やす必要が生じたり、炭酸ガス吸収促進剤の投入量を増やす必要が生じたりする可能性がある。したがって、再吸収塔119の塔頂部から導管121を通じて排出された未凝縮ガスは、ガス圧縮機122によって圧力を高められた後、炭酸ガス吸収塔115へ供給してもよい。このような構成とすることによって炭酸ガス吸収塔115へ供給されるガスの流量はわずかに増加するにすぎないが、上述したようにエチレンオキシド再吸収塔の塔頂部から排出される未凝縮ガスには炭酸ガスが多く(通常は5〜60容量%程度)含まれている。したがって、再吸収塔119の塔頂部から排出されるエチレンオキシド含有未凝縮ガスを炭酸ガス吸収塔115へ供給すると、炭酸ガス吸収塔115へ供給されるガス中の炭酸ガス濃度はわずかに増加することになる。このように、本実施形態によれば、より高濃度の炭酸ガスを含有するガスを炭酸ガス系へ導入することによって、工業的に有利な種々の効果を奏することができるのである。
なお、再吸収塔119の塔頂部から導管121を通じて排出される未凝縮ガスの圧力を高めるためのガス圧縮機122の吸込圧力は、微加圧であることが好ましい。具体的には、3〜5kPa gaugeであることが好ましい。かような構成とすることで、大気からガス圧縮機122への酸素流入を防ぐことができ、ガス圧縮機122にて、酸素と可燃性ガスとの混合ガスを圧縮することによる爆発の危険を回避することができる。
また、再吸収塔119の塔頂部から排出される未凝縮ガス中には反応原料であるエチレンが含まれているが、上述したように炭酸ガス吸収塔115の塔頂部から排出される未吸収ガスは導管109および導管118を経由し、熱交換器112を通過することで加熱され、エチレン酸化反応器111へ循環されるし、エチレンは炭酸ガス吸収塔115においてほとんど吸収されないことから、上述のような構成を採ったとしても、反応原料であるエチレンのロスが生じる虞はない。
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
<エチレンオキシド製造プロセス>
[実施例1]
図1〜図3に示すエチレンオキシドの製造プロセスによりエチレンオキシドを製造した。本実験において、図1〜図3の製造プロセスを行うための製造装置としては、熱交換器の管径(管断面積)が異なる以外は本プラントと同様のパイロットプラントを用いて、本プラントと同様のガス組成および運転条件で運転を行い、エチレンオキシドを製造した。
ここで、導管101における原料ガスには、原料ガスの質量基準で、エチレンが27質量%、分子状酸素ガスが11質量%含有されており、さらに反応調整剤として塩素化エチレンを、原料ガスの容量基準で6容量ppmの濃度となるよう添加した。
この際、反応系の熱交換器112および炭酸ガス系の熱交換器114は、内管の材質がステンレス鋼SUS430:Cr含有量 16〜18質量%、Mo含有量 0質量%)である、竪型熱交換器を用いた。
熱交換器112および熱交換器114の内管側のガス線速を10.4m/sとなるよう原料ガスの昇圧ブロワ110の回転数を調整した。ここで、熱交換器112の内管側のガス線速は、導管101に設置した流量計、反応器111での主反応と副反応の割合、エチレン転化率および導管102の温度から計算により算出し、熱交換器114の内管側のガス線速は、導管105に設置した流量計、反応器111での主反応と副反応の割合、エチレン転化率、炭酸ガス吸収塔115の出口温度、出口圧力および炭酸ガスが吸収される割合から計算により算出した。
なお、導管102のガス組成および圧力における水の露点は67℃であり、導管106のガス組成および圧力における水の露点は104℃であった。
ここで、エチレンオキシド製造プロセスにおいて、プロセス内の各位置における、炭酸ガス、エチレンオキシド(EO)および水、ならびにこれら以外のガスである残部ガスの各成分量(組成の単位は「質量%」である)および運転条件を表1に示す。
ここで、残部ガスはエチレン、分子状酸素および塩素化合物を含有しており、プロセス内の各成分量の測定位置において不活性であった。
各成分量(質量%)は、数値は小数点以下2桁を四捨五入した値とした。また、MPa gaugeをMPaGと表記した。以下、表2および表3も同様である。
[実施例2]
実施例1において、熱交換器の出口温度をより高温とし、運転条件を表2の条件へと変更した以外は実施例1と同様にして、エチレンオキシドを製造した。
ガス組成および運転条件は表2に示す。
[実施例3]
実施例1において、熱交換器の出口温度をより低温とし、運転条件を表3の条件へと変更した以外は実施例1と同様にして、エチレンオキシドを製造した。
ガス組成および運転条件は表3に示す。
[比較例1]
実施例1において、熱交換器112および熱交換器114の内管側のガス線速を5m/sとなるよう原料ガスの昇圧ブロワ110の回転数を調整した以外は実施例1と同様にして、エチレンオキシドを製造した。ここで、ガス線速を変化させた際も、ガス組成およびドレン量(導管104および導管108の水の量)の変化はなく、ガス組成および運転条件は表1と同様であった。
[比較例2]
実施例2において、熱交換器112および熱交換器114の内管側のガス線速を5m/sとなるよう原料ガスの昇圧ブロワ110の回転数を調整した以外は実施例2と同様にして、エチレンオキシドを製造した。ここで、ガス線速を変化させた際も、ガス組成およびドレン量の変化はなく、ガス組成および運転条件は表2と同様であった。
[比較例3]
実施例3において、熱交換器112および熱交換器114の内管側のガス線速を5m/sとなるよう原料ガスの昇圧ブロワ110の回転数を調整した以外は実施例3と同様にして、エチレンオキシドを製造した。ここで、ガス線速を変化させた際も、ガス組成およびドレン量の変化はなく、ガス組成および運転条件は表3と同様であった。
なお、実施例1〜3および比較例1〜3の全てにおいて、導管105のガスは、質量基準でエチレン25質量%、分子状酸素8質量%および容量基準で塩素化合物6容量ppmを含有していた。
また、導管102のガスは、容量基準で塩素化合物6容量ppmを含有しており、導管106のガスは、容量基準で塩素化合物5容量ppmを含有していた。
<熱交換器内管の腐食評価>
パイロットプラントにおいて、実施例1〜3および比較例1〜3の条件で1年間製造を行った後に、以下の熱交換器112および熱交換器114の内管の目視試験、ファイバースコープ試験および渦流探傷検査を行った。これらの評価は、エチレンオキシドの製造を1年間行うごとに製造を一時停止して実施した。そして、評価終了後にエチレンオキシドの製造を再開した。ここで、熱交換器112および熱交換器114の内管は製造開始から継続して同一のものを用いた。
(目視試験)
実施例1〜3および比較例1〜3の条件における各エチレンオキシドの製造に用いた熱交換器112および熱交換器114の内管を、それぞれ目視で確認し、腐食の有無および形状変化を確認した。評価基準は下記のものを採用した。
○:腐食なし
×:腐食あり
(ファイバースコープ試験)
実施例1〜3および比較例1〜3の条件における各エチレンオキシドの製造に用いた熱交換器112および熱交換器114の内管内に、ファイバースコープカメラ(オリンパス株式会社製 IPLEX(登録商標) MX R シリーズ)を挿入し、映像を目視で確認することで、内管の腐食の有無および形状変化を確認した。評価基準は下記のものを採用した。
○:腐食なし
×:腐食あり
(渦流探傷検査)
渦流探傷検査は、電磁誘導試験の一種であり、交流を流したコイルにより時間的に変化する磁場を被試験体に加えたとき、被試験体に生じる渦電流が被試験体中の欠陥、形状、寸法および電気伝導率などに変化することを使用して、被試験体の欠陥の有無、形状および寸法の変化、ならびに組成などを評価する検査である。より具体的には、渦流探傷検査は、検査用のコイルが2つ組み込まれたプローブを被試験体上で走査させ、欠陥部分において生じた渦電流の変化をとらえる。ここで、2つのコイルは四辺ブリッジになっており、渦電流の変化による検査コイルのインピーダンス変化を取り出すことで、被試験体の欠陥有無および被試験対の厚み変化を確認する検査である。なお、渦流探傷検査は、材料の非破壊検査であるため、製造プロセス中の部材の経時変化を一定期間毎に確認することに適する。
本実験においては、渦流探傷検査により、実施例1〜3および比較例1〜3の条件における各エチレンオキシドの製造に用いた熱交換器112および熱交換器114の内管内を検査することで、各熱交換器内管の厚み変化(初期厚みに対する、減少した厚み(減肉厚)の比率(%))を評価した。ここで、渦流探傷検査器としては、探傷器:日本電測機株式会社 ND−382D、記録計:株式会社エー・アンド・デイ RA2300を使用し、自己比較方式:38kHz、標準比較方式:38kHzで測定を行った。
熱交換器112および熱交換器114の内管について、目視試験、ファイバースコープ試験および渦流探傷検査の評価結果を以下に記載する。ここで、エチレンオキシド製造開始から1年経過後の評価結果を表4に、エチレンオキシド製造開始から2年経過後の評価結果を表5に示す。
表4および表5に示す結果から明らかなように、実施例と比較例との比較から、水および塩素化合物を含む被冷却ガスを、熱交換器にて冷却する際に、熱交換器内管側の水および塩素化合物を含む被冷却ガスのガス線速を7m/s以上とすることで、熱交換器内管の腐食が顕著に抑制されることが確認された。
また、実施例1〜3、比較例1〜3のように、熱交換器出口側の温度を変更した際にも、本発明で規定する高いガス線速を採用することで、熱交換器内管の腐食が顕著に抑制されることが確認された。この結果は、本発明で規定する高いガス線速を採用することで、熱交換器内で発生するドレン量の多少に関わらず、優れた腐食防止効果が得られることを示すものである。
上記のように、本発明に係るエチレンオキシドの製造プロセスは、熱交換器の交換頻度を著しく低下させることが可能となることから、生産効率の向上が可能となるという、工業的に見てきわめて有利な効果が奏される。
101、102、103、104、105、106、107、108、109、117、118、120、121、123 導管
110 昇圧ブロワ
111 エチレン酸化反応器
112 熱交換器
113 エチレンオキシド吸収塔
114 熱交換器
115 炭酸ガス吸収塔
116 炭酸ガス放散塔
119 エチレンオキシド再吸収塔
122 ガス圧縮機
201 エチレンオキシド放散塔
202、205、207、208、210、211、212、213、214、216、217 導管
203 熱交換器
204 加熱器
206 気液分離タンク
209 放散塔加熱器
215 放散塔凝縮器
301 脱水塔
302、303、304、305、307、308、311、312、313、314、316、317、318、321、322、324、325、326、327 導管
306 脱水塔凝縮器
309 軽質分分離塔
310 軽質分分離塔加熱器
315 軽質分分離塔凝縮器
319 エチレンオキシド精留塔
320 精留塔加熱器
323 精留塔凝縮器。

Claims (5)

  1. エチレン、分子状酸素および塩素化合物を含む原料ガスをエチレン酸化反応器に供給すること、
    前記エチレン酸化反応器において、銀触媒の存在下で、前記原料ガス中における前記エチレンと前記分子状酸素とを接触気相酸化して、エチレンオキシド、水および塩素化合物を含むガスを生成すること、ならびに、
    前記水および前記塩素化合物を含む被冷却ガスを熱交換器で冷却すること、
    を含むエチレンオキシドの製造方法であって、
    前記熱交換器において、前記被冷却ガスを、7m/s以上の熱交換器内管側のガス線速で冷却する、製造方法。
  2. 前記熱交換器は、熱交換器内管入口での温度が水の露点以上である、前記被冷却ガスを、熱交換器内管出口での温度が水の露点以下となるように冷却する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記塩素化合物の濃度は、前記原料ガスの容積基準で、0.01容量ppm以上1000容量ppm以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記熱交換器において、前記被冷却ガスを冷却するための吸熱媒体がエチレン、分子状酸素および塩素化合物を含むガスである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記熱交換器内管はステンレス鋼製であり、前記ステンレス鋼の総質量に対するクロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の含有量(質量%)が、下記式1の関係を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
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