JP2017176829A - 医療器具用部材および医療器具 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶血毒性を示さない生体適合性材料からなり、部材の耐熱性に優れ、直接血液または生体細胞を接触させる形態で使用される医療器具用部材又は医療器具を提供。
【解決手段】式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成される生体適合性材料からなる医療器具用部材又は医療器具。
Figure 2017176829

(R〜Rは各々独立にF、Fを含有するC1〜10のアルキル基、Fを含有するC1〜10のアルコキシ基又はFを含有するC2〜10のアルコキシアルキル基;R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【選択図】なし

Description

本発明は、医療器具用部材および医療器具に関する。
従来の血液バッグや人工心肺用の体外循環回路などの医療器具を用いる医療では、多くの医療器具に用いられる高分子材料が血液適合性を有していないため、医療器具の使用に際して抗凝固剤の併用が不可欠である。
また、高分子材料表面に血球やタンパク質などの生体成分が吸着し変性すると血液凝固を引き起こし、血栓形成、炎症反応などの悪影響を生体内に引き起こすばかりでなく、血液凝固は材料の劣化にもつながることから、高分子材料表面への生体成分の吸着、変性は解決すべき重要な課題のひとつである。
医療技術の進歩に伴って、高分子材料が生体組織や血液と接触する機会はますます増えており、高分子材料の血液適合性が大きな問題になってきている。
また、最近では創薬開発や医療の分野において、細胞を用いた薬剤評価や組織細胞を培養し医療に応用する再生医療、および関連分野の技術開発が盛んに行われている。これらの研究ツールのひとつである細胞培養容器の開発では、一般的にコラーゲン、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートがその適応材料として有効であり、中でもポリスチレンが細胞毒性の低さと経済性、加工性に優位性があり、現行の細胞培養ではポリスチレンを親水化処理したものが広く利用されている。
しかしながら、このような部材からなる培養容器では細胞の進展、増殖は認められるものの、細胞の機能維持に有利とされる3次元的な構成の細胞を形成できず、また、培養した細胞は容器から離脱できず、採取する際にスクレバーなどで剥がす必要があり細胞を損傷させるなど潜在的な問題がある。
こうした問題点を解決するために、これまでにも優れた生体適合性高分子材料の実現を目指した材料開発や、特に部材の直接生体と接する面の表面加工に関する材料の研究がなされてきた。
生体適合性高分子材料で特に多くの検討が行われている材料としてポリエチレンオキサイド(以下、PEGと略す)が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。PEGは、高い親水性と低い抗原性を有し、従来から非イオン性界面活性剤、可塑剤、医薬品基材などとして利用されてきた。しかし、PEGは非常に優れた血液適合性を有する一方、水溶性であるため、医薬品材料としての利用では、他のポリマーとの共重合体や組成物として使用する必要があり、使用される分野も限定的である。
また、部材の直接生体と接する面の表面加工に関する研究では、例えば、リン脂質極性基を有するメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを成分として有する材料を基材表面に処理すると、該表面にリンパ球などの細胞が全く接着しないため、細胞培養基材、人工心肺、ステントなど様々な医療製品の表面処理剤としての利用が検討されている(特許文献3参照)。
さらに、メトキシエチルアクリレートも生体適合性を有する高分子材料であることから、人工心肺をはじめとする多くの医療機器の表面処理剤として検討されている(特許文献4参照)。
しかしながら、これらの材料は基材表面の処理という形態で用いられるため、処理ムラによる不具合や未硬化モノマーの溶出による生体毒の発現など、医療への適応において課題がある。
また、上記した細胞を用いる創薬開発や再生医療では、細胞培養技術開発の目覚ましい進展の中で、様々な材料で作製された培養容器を利用した細胞培養の研究、関連技術開発が行われている(例えば、参考文献5、6参照)。しかしながら、今後、臨床や医療への応用など実用化へのステージを経る段階で、細胞を培養する容器材料の毒性など、生体適合性が問題になる可能性がある。
さらには、細胞を用いた薬剤評価や組織細胞を培養し医療に応用する再生医療の分野での医療器具の滅菌工程において、上記したポリスチレン製容器は、ガラス転位温度が100℃であり、広く利用されている121℃での高圧蒸気滅菌に適応できない。
特開平09−290019号公報 特許第5831666号公報 国際公開第2009/081870A1号パンフレット 国際公開第2011/083815A1号パンフレット 国際公開第2015/129837A1号パンフレット 特開2010−45980号公報
本発明は、溶血毒性を示さない生体適合性材料からなり、かつ、部材の耐熱性に優れる医療器具用部材、およびそれらからなる医療器具を提供することを目的とする。
本発明は、以下に示される。
(1)
医療器具を構成する部材であって、
上記部材が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成され、かつ、溶血毒性試験において、酸素化ヘモグロビンのUV極大吸収である波長576nmの吸光度から算出される溶血率が0%以上2%以下である生体適合性材料からなることを特徴とする医療器具用部材。
Figure 2017176829
(式(1)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
(2)
(1)に記載の医療器具用部材において、
上記フッ素含有環状オレフィンポリマーが上記一般式(1)で表される構造単位[A]と下記一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有し、そのモル比[A]/[B]が90/10〜10/90である医療器具用部材。
Figure 2017176829
(式(2)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
(3)
蛍光波長200nm以上1000nm以下、および励起波長200nm以上1000nm以下の全領域において蛍光を発しないことを特徴とする(1)または(2)に記載の医療器具用部材。
(4)
上記部材が、上記フッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成されることを特徴とし、かつ、上記フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物中における上記フッ素含有環状オレフィンポリマーと上記光硬化性化合物の質量比(上記フッ素含有環状オレフィンポリマー/上記光硬化性化合物)が、99.9/0.1〜30/70である(1)から(3)のいずれか一つに記載の医療器具用部材。
(5)
(1)から(4)のいずれか一つに記載の医療器具用部材であって、
上記フッ素含有環状オレフィンポリマーの固体粘弾性測定における120℃の貯蔵弾性率(E´)が1×10〜1×1010Paであることを特徴とする医療器具用部材。
(6)
(1)から(5)のいずれか一つに記載の医療器具用部材を備える医療器具。
本発明によれば、溶血毒性を示さない生体適合性材料からなり、かつ、部材の耐熱性に優れ、直接血液または生体細胞を接触させる形態で使用される医療器具用部材または医療器具を提供することができる。
実施例1に記載のフィルム状の部材の溶血毒性試験におけるUV吸光度スペクトルを示す図である。
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本明細書中において「〜」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
(医療器具用部材)
本実施形態における医療器具を構成する部材の材料とは、以下に示される。
一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成され、かつ、溶血毒性試験において、酸素化ヘモグロビンのUV極大吸収である波長576nmの吸光度から算出される溶血率が0%以上2%以下であることを特徴とする生体適合性材料である。
Figure 2017176829
(式(1)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
以下、本実施形態における医療器具について詳細に説明する。
本実施形態における医療器具を構成する部材とは、一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、好ましくは一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、または該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物から製造された、例えば、フィルム、シート、繊維、射出成形体などの成形物であり、また、他の材料にコートした形態や、金属などの無機材料や樹脂などの有機材料と複合化した形態の成形物である。
例えば、本実施形態の部材から構成される医療器具としては、カテーテル、血液バッグ、ステント、人工心肺用の体外循環回路、プレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、チューブなどの部材が挙げられる。
何れの医療器具であっても、少なくとも直接、血液や生体細胞が接する面に、本実施形態の一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、さらには該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物から構成された部材を用いることで、血液凝固、炎症反応、生体細胞増殖の減衰、細胞変異、死滅などを誘発する生体毒成分が発生しない医療器具を構成することができる。
医療機器の生物学的安全性試験に関するガイドライン(厚生労働省医薬食品局、薬食機発0301第20号)によれば、生物学的有害作用(毒性ハザード)のリスク評価を行うための生物学的安全性に関する考え方の中で、物質の生物学的安全性評価の項目を、人体と接触する部位、および使用される医療器具の使用形態別に設定している。
この中で、血液適合性試験および細胞毒性評価は、主要な評価項目とされ医療器具を構成する部材の安全性を示す指標となっている。例えば、血液適合性試験の溶血毒性試験では、被検体からの溶出物による赤血球の破壊の程度を示す溶血率において、5段階の安全性を示す指標(グレードとも示される)が設定されており、この中で、溶血率が2%以下を非溶血グレードと位置付け、カテーテル、血液バッグ、ステント、人工心肺用の体外循環回路などに要求される高い安全性を示す指標とされている。
本実施形態の一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、さらには該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物からなる部材の溶血毒性試験において、酸素化ヘモグロビンのUV極大吸収である波長576nmの吸光度から算出される溶血率は0%以上2%以下であることが好ましく、より好ましくは、0%以上1.5%以下、さらに好ましくは0%以上1%以下である。これにより、部材からの血液汚染を防止して血栓形成、炎症反応を引き起こす血液の変性を防止することができる。また、少なくとも生体細胞と直接接する面を本実施形態の医療器具用部材から構成された医療器具を用いることで、長期間にわたり細胞の死滅、変異を起こすことなく培養を実施することができる。
ここで、溶血毒性試験について説明する。当該試験は、ISO10993「医療機器の生物学的評価」に準拠して行われる。医療器具を構成する、例えば、フィルム、シート状の部材からの毒物質の抽出は、被検体の厚みから規定される面積(抽出液1mLに対して、厚み0.5mm以下の検体は6cmの面積とする。)で細断した試験片を加熱容器に入れ、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの抽出液を用いて加熱する。次いで、抽出液に抗凝固剤処理血液を添加して37℃でインキュベートし、試験液を遠心分離機にかけ、上清の液を採取して試験サンプルとする。
溶血率の算出に用いる吸光度は、UV分光光度計により求められる。試験サンプルの吸光度を測定し、酸素化ヘモグロビンの極大吸収である波長576nmの吸光度を測定して、以下に示す式(2)により溶血率を算出する。式(2)中、陽性対照液の吸光度は、上記の抽出液を注射用蒸留水に変えて調製したサンプルの吸光度(図1参照)であり、陰性対照液は被検体からの毒物質の抽出に用いた抽出液の吸光度である。
Figure 2017176829
医療機器の申請において、例えば、人工血管や冠動脈ステントなどの心臓血管系の医療器具では、機能確認のために臨床適用に際して動物での評価が行われる場合がある。このような機能性試験には、適用部位において安全に使用できることを確認することが含まれ、血栓症のリスク評価も重要な評価項目となっている場合が少なくない。医療機器の申請において、血栓症のリスク評価は試験の信頼性が確保され、適切な評価が行われていれば、機能性試験の一項目として本実施形態の血液毒性試験を適用することができる。
また、細胞毒性評価法について、ISO10993「医療機器の生物学的評価」によれば、哺乳類細胞を用いて評価に用いることとされ、細胞種として、L929細胞(マウス)、BALB/3T3細胞(マウス)、V79細胞(チャイニーズハムスター)の3種が試験細胞として規定されている。さらに、試験方法として、材料の抽出液を用いる方法、材料と細胞との直接接触および間接接触による方法とがあり、使用する培地の種類も、例えば、10%仔ウシ血清D−MEM培地が推奨されている。
本実施形態では、部材と細胞を直接接触させる方法により、10%仔ウシ血清D−MEM培地を使用して、マウスBALB/3T3 細胞を培養し、細胞の成長過程の増殖性が減衰しない、培養した細胞の死滅に伴う自家蛍光が観察されない、かつ、薬剤の代謝機能を維持している。これらの実施形態から、細胞毒性評価の点からも、本実施形態の部材から構成された医療器具の生体適合性材料としての安全性を確認した。
(医療器具を構成する部材に利用するフッ素含有環状オレフィンポリマー)
本実施形態における医療器具を構成する部材に用いられるフッ素含有環状オレフィンポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位を含有する。
Figure 2017176829
(式(1)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
一般式(1)においてR〜Rは、フッ素;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロピル基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロピル基、n−ペルフルオロブチル基、n−ペルフルオロペンチル基、ペルフルオロシクロペンチル基等のアルキル基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルキル等のフッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基;フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、ヘキサフルオロイソプロポキシ基、ヘプタフルオロイソプロポキシ基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロポキシ基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロポキシ基、n−ペルフルオロブトキシ基、n−ペルフルオロペントキシ基、ペルフルオロシクロペントキシ基等のアルコキシ基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルコキシ基等のフッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基;またはフルオロメトキシメチル基、ジフルオロメトキシメチル基、トリフルオロメトキシメチル基、トリフルオロエトキシメチル基、ペンタフルオロエトキシメチル基、ヘプタフルオロプロポキシメチル基、ヘキサフルオロイソプロポキシメチル基、ヘプタフルオロイソプロポキシメチル基、ヘキサフルオロ−2−メチルイソプロポキシメチル基、ペルフルオロ−2−メチルイソプロポキシメチル基、n−ペルフルオロブトキシメチル基、n−ペルフルオロペントキシメチル基、ペルフルオロシクロペントキシメチル基等のアルコキシアルキル基の水素の一部または全てがフッ素で置換されたアルコキシアルキル基等のフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基が例示される。
また、R〜Rが互いに結合して環構造を形成していてもよく、ペルフルオロシクロアルキル、酸素を介したペルフルオロシクロエーテル等の環を形成してもよい。
フッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(1)で表される構造単位のみを有するものであってもよく、一般式(1)で表される構造単位であって、R〜Rの少なくとも1つが互いに異なる二種類以上の構造単位を含んでいてもよい。
本実施形態における一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーの具体的な例として、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロエチル−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロ−iso−プロピル−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1,2−ビス(トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2,2,3,3,3a,6a−オクタフルオロシクロペンチル−4,6−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2,2,3,3,4,4,3a,7a−デカフルオロシクロヘキシル−5,7−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロエチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(1−トリフルオロメチル−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−シクロペンチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ((1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロブチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−ペルフルオロエチル−2,2−ビス(トリフルオロメチル))−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロプロピル−2−トリフルオロメチル)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロブチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−2−ペルフルオロペンチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,3,3,3a,6a−ヘキサフルオロフラニル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1,2−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロエトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−ペルフルオロエトキシ−2,2−ビス(トリフルオロメトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−ペルフルオロプロポキシ−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロブトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−ペルフルオロヘプトキシ3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−ペルフルオロペンチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2’,2’,2’−トリフルオロエトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2’,2’,3’,3’,3’−ペンタフルオロプロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,2’−トリフルオロエトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−(2’,2’,2’−トリフルオロエトキシ)−2,2−ビス(トリフルオロメトキシ))−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−(2’,2’,3’,3’,3’−ペンタフルオロプロポキシ)−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(1’,1’,1’−トリフルオロ−iso−プロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)等が挙げられる。
さらには、本実施形態における医療器具を構成する部材に用いられるフッ素含有環状オレフィンポリマーは、上記の一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有していてもよい。その際の構造単位[A]と構造単位[B]とのモル比〔A〕/〔B〕は90/10〜10/90とすることが好ましく、85/15〜15/85とすることがより好ましく、80/20〜20/80とすることがとくに好ましい。
Figure 2017176829
(式(2)中、R〜Rは、上記一般式(1)で表される構造単位[A]のR〜Rと同義であり、R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
一般式(2)においてR〜Rは、一般式(1)で表される構造単位[A]のR〜Rと同義であり、R〜Rが互いに結合して環構造を形成していてもよく、ペルフルオロシクロアルキル、酸素を介したペルフルオロシクロエーテル等の環を形成してもよい。
フッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(2)で表される構造単位のみを有するものであってもよく、一般式(2)で表される構造単位であって、R〜Rの少なくとも1つが互いに異なる二種類以上の構造単位を含んでいてもよい。
本実施形態における一般式(2)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーの具体的な例として、ポリ(3,3,4−トリフルオロ−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−ペルフルオロ−iso−プロピル−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3,4−ビス(トリフルオロメチル)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメチル−4−ペルフルオロエチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3−(3−トリフルオロメチル−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−シクロペンチル)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ((3,3,4−トリフルオロ−2−ペルフルオロブチル)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメチル−4−ペルフルオロブチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3−フルオロ−3−ペルフルオロエチル−4,4−ビス(トリフルオロメチル))−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−ペルフルオロプロピル−4−トリフルオロメチル)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメチル−4−ペルフルオロブチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメチル−4−ペルフルオロペンチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,3,4−トリフルオロ−4−トリフルオロメトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3,4−ビス(トリフルオロメトキシ)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−4−ペルフルオロエトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,3,4−トリフルオロ−2−ペルフルオロブトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−4−ペルフルオロブトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3−フルオロ−3−ペルフルオロエトキシ−4,4−ビス(トリフルオロメトキシ)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−ペルフルオロプロポキシ−4−トリフルオロメトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−4−ペルフルオロブトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,3,4−トリフルオロ−3−ペルフルオロヘプトキシ−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3,4−ジフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−4−ペルフルオロペンチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(3−(4’,4’,4’−トリフルオロエトキシ)−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)、ポリ(1−(2’,2’,3’,3’,3’−ペンタフルオロプロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,2’−トリフルオロエトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1−フルオロ−1−(2’,2’,2’−トリフルオロエトキシ)−2,2−ビス(トリフルオロメトキシ))−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−(2’,2’,3’,3’,3’-ペンタフルオロプロポキシ)−2−トリフルオロメトキシ−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−(1’,1’,1’−トリフルオロ−iso−プロポキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)、ポリ(1,2−ジフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−2−(2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブトキシ)−3,5−シクロペンチレンエチレン)等が挙げられる。
本実施形態の医療器具用部材としての一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマーは、R〜R、またはR〜Rの置換基がフッ素、または何れもフッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。これにより、置換基のフッ素原子が比較的強い分子間相互作用による水素結合を形成することで、部材の熱変形温度の指標としての固体粘弾性測定における貯蔵弾性率(E´)を適切な範囲に調整することができる。また、同様な効果を一般式(2)で表される嵩高い環状構造を有する繰り返し構造単位[B]との共重合により得られるフッ素含有環状オレフィンポリマーで実現することができる。
熱変形温度の指標としての固体粘弾性測定における貯蔵弾性率(E´)とは、高圧蒸気滅菌の温度条件である120℃の貯蔵弾性率(E´)であり、好ましくは1×10〜1×1010Pa、より好ましくは1×10〜7×10Pa、さらに好ましくは1×10〜5×10Paである。
細胞を利用する創薬、または再生医療の現場において、簡便でかつ運転コストが安価な効果的な滅菌法として高圧蒸気滅菌が挙げられる。医療現場における滅菌保証のガイドライン2015(一般社団法人日本医療機器学会)によれば、通常、耐熱性菌の芽胞が10−12以下のレベルで死滅する基準として、121℃、15分の加熱滅菌が適応されている。
本実施形態の一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマーの固体粘弾性測定における120℃の貯蔵弾性率(E´)を上記の範囲とすることで、121℃、15分の条件で実施される高圧蒸気滅菌において、熱変形を起こさない十分な耐熱性を有する医療器具としての部材を提供することができる。
本実施形態におけるフッ素含有環状オレフィンポリマーの分子量は、例えば試料濃度3.0〜9.0mg/mlでゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)において、5,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜300,000であることがより好ましい。この重量平均分子量(Mw)を上記下限値以上とすることにより、部材作製において、特に、曲げなどの稼働部位に適応する成形物において外部応力に起因したヒビなどの発生しない、良好な状態の部材をより確実に得ることができる。また、重量平均分子量(Mw)を上記上限値以下とすることにより、溶融成形が容易な流動性を持つことができる。
さらには、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を上記範囲とすることで、高圧蒸気滅菌の温度条件である120℃の貯蔵弾性率(E´)を、好ましくは1×10〜1×1010Pa、より好ましくは1×10〜7×10Pa、さらに好ましくは1×10〜5×10Paの範囲に確実に調整することができる。
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.3〜5.0とすることが好ましく、1.5〜4.5とすることがより好ましく、1.7〜4.0とすることがとくに好ましい。この分子量分布(Mw/Mn)を上記下限値以上とすることにより、溶液キャスト法や溶融成形法などの各種成形法で作製したフィルムまたは成形物の靱性を向上させ、外部応力に起因したクラックや割れの発生をより効果的に抑制することができる。一方で、分子量分布(Mw/Mn)を上記上限値以下とすることにより、オリゴマーなどの特に低分子量成分が溶出することを抑え、溶血毒性を示さない生体適合性材料からなる部材を作製でき、当該部材から構成された医療器具を好適に得ることができる。
示差走査熱量分析によるフッ素含有環状オレフィンポリマーのガラス転移温度(Tg)は、50〜300℃とすることが好ましく、80〜280℃とすることがより好ましく、100〜250℃とすることがさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲である場合、本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマーは特徴的な耐熱性である120℃における固体粘弾性の貯蔵弾性率(E´)が、好ましくは1×10〜1×1010Pa、より好ましくは1×10〜7×10Pa、さらに好ましくは1×10〜5×10Paであり高圧蒸気滅菌を適応することができる。また、使用環境下で形状を維持することができ、さらに溶融成形において加熱温度に対して優れた流動性を有し製造安定性良く、色相にも優れた医療用または生体細胞および細胞を利用した検査のための本実施形態の部材からなる医療器具を好適に得ることができる。
本実施形態における上記部材の利用形態としては、例えば、カテーテル、血液バッグ、ステント、人工心肺用の体外循環回路やプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、チューブなどの医療器具を構成する部材が例示できる。
(フッ素含有環状オレフィンポリマーの製造方法)
次に、フッ素含有環状オレフィンポリマーの製造方法について説明する。
医療器具の少なくとも血液や生体細胞と直接接触する部材に、以下に記載の製造方法によって得られるフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成された医療器具用部材を用いることで、血液汚染を防止して血栓形成、炎症反応を引き起こす血液の変性を起こさず、また、長期間にわたり細胞の死滅なく、血液を含む生体細胞と接触させる医療器具を得ることができる。
具体的には、下記一般式(3)で表される環状オレフィンモノマーを開環メタセシス重合触媒によって連鎖移動重合し、得られる重合体の主鎖のオレフィン部を水素添加することによって、フッ素含有環状オレフィンポリマーを合成することができる。
Figure 2017176829
(式(3)中、R〜Rは、一般式(1)のR〜Rと同義である。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
また、下記一般式(4)で表される環状オレフィンモノマーを上記一般式(3)で表される環状オレフィンモノマーと共重合させ、得られる重合体の主鎖のオレフィン部を水素添加することによって、フッ素含有環状オレフィンポリマーを合成することもできる。
Figure 2017176829
(式(4)中、R〜Rは、一般式(2)のR〜Rと同義である。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
なお、本実施形態の効果を損なわない範囲であれば、一般式(3)および(4)で表される環状オレフィンモノマー以外のモノマーを含んでいてもよい。
ここで、本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマーを合成するに際し、一般式(3)および(4)で表されるモノマーは、重合に寄与する化合物全体のうち、90〜100質量%用いることが好ましく、95〜100質量%用いることがより好ましく、98〜100質量%用いることが更に好ましい。
本実施形態の一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたは一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマーは、一般式(3)または/および一般式(4)で表されるモノマーを開環メタセシス重合した後に、主鎖の二重結合を水素添加(水添)したフッ素含有ポリマーである。開環メタセシス重合は、Schrock触媒が好ましく用いられ、Grubbs触媒を用いてもよく、これにより極性モノマーに対する重合触媒活性を高め、工業的に優れた製造方法を実現することができる。なお、これらの開環メタセシス重合触媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、古典的な有機遷移金属錯体、遷移金属ハロゲン化物または遷移金属酸化物と、助触媒としてのルイス酸との組み合せからなる開環メタセシス重合触媒を用いることもできる。
また、開環メタセシス重合を行う時は分子量、およびその分布を制御するために、連鎖移動剤としてオレフィンまたはジエンを使用することができる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンまたはこれらのフッ素含有オレフィンを用いることができる。さらには、ビニルトリメチルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、アリルトリイソプロピルシラン等のケイ素含有オレフィンまたはこれらのフッ素およびケイ素含有オレフィン等も連鎖移動剤として用いることもできる。また、ジエンとしては、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン等の非共役系ジエンまたはこれらのフッ素含有非共役系ジエンがあげられる。これらオレフィン、フッ素含有オレフィンまたはジエンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、モノマーの開環メタセシス重合は、無溶剤で行っても溶剤を使用してもよい。溶剤を使用する場合の溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンもしくはジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピルもしくは酢酸ブチル等のエステル類;ペンタン、ヘキサンもしくはヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンもしくはデカリン等の脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;またはペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
モノマーの開環メタセシス重合では、該モノマーの反応性および重合溶剤ヘの溶解性によっても異なるが、モノマー溶液に対するモノマーの濃度は5〜100質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。また、反応温度は、−30〜150℃であることが好ましく、30〜100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、10分〜120時間であることが好ましく、30分〜48時間であることがより好ましい。さらに、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン等のケトン類、メタノール等のアルコール類、水等の失活剤で反応を停止し、重合体の溶液を得ることができる。
開環メタセシス重合で得られたポリマーの主鎖の二重結合部を水素添加するための触媒は、水素添加できる触媒であれば、均一系金属錯体触媒でも不均一系の金属担持触媒のいずれであってもよい。この中で好ましくは、触媒を容易に分離できる不均一系金属担持触媒が好適であり、例えば、活性炭担持パラジウム、アルミナ担持パラジウム、活性炭担持ロジウム、アルミナ担持ロジウム、活性炭担持ルテニウム、アルミナ担持ルテニウム等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、または二種類以上を組合せて使用することもできる。特に好ましくは、活性炭担持触媒である。この活性炭担持触媒を使用することによって、上記重合触媒および水添触媒に由来する金属成分が除去され、直接接触する血液または生体細胞に対して溶血毒性がなく、生体適合性材料としてのフッ素含有環状オレフィンポリマーを製造することができる。
水素添加に用いられる溶剤としては、ポリマーを溶解し、かつ、溶剤自身が水素添加されないものであれば特に制限はなく、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピルまたは酢酸ブチル等のエステル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロデカリン等のフッ素含有脂肪族環状炭化水素類;ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
上記の主鎖のオレフィン部の水素添加反応は、水素圧力が常圧〜10MPaであることが好ましく、0.5〜8MPaであることがより好ましく、2〜5MPaであることがとくに好ましい。また、反応温度は、0〜200℃の温度であることが好ましく、室温〜150℃であることがより好ましく、50〜100℃であることがとくに好ましい。水素添加反応の実施様式は、特に制限はないが、例えば、触媒を溶剤中に分散または溶解して行う方法、触媒をカラムなどに充填し、固定相としてポリマー溶液を流通させて行う方法などが挙げられる。
さらに、主鎖のオレフィン部の水素添加処理は、水素添加処理前のポリマーの重合溶液を貧溶剤に析出させポリマーを単離した後に、再度溶剤に溶解して水素添加処理を行なっても、重合溶液からポリマーを単離することなく、上記の水添触媒で水素添加処理を行なってもよく、特に制限はない。
また、ポリマーのオレフィン部の水素添加率は80%以上であることが好ましく、90〜100%であることが好ましく、95〜100%であることが更に好ましい。水素添加率を上記下限値以上とすることは、オレフィン部において、光吸収に起因した劣化や成形時の加熱に起因した酸化が生じることを抑制し、医療器具を構成する部材との接着性を良好なものとすることができる。さらに、2重結合の残留は、蛍光顕微鏡での成長細胞の観察を妨げることがある。
水素添加後、特に、活性炭担持パラジウム、アルミナ担持パラジウムなどの不均一系金属担持触媒を好ましく用いる場合のポリマー溶液からポリマーを取得する方法は、特に制限はないが、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の方法で触媒を含有しないポリマー溶液を取得し、撹拌下の貧溶剤に反応溶液を排出する方法、反応溶液中にスチームを吹き込むスチームストリッピング等の方法によってポリマーを析出させる方法、または、反応溶液から溶剤を加熱等によって蒸発除去する方法等が挙げられる。
また、不均一系金属担持触媒を利用して水素添加反応を実施した場合は、合成液をろ過して金属担持触媒をろ別した後に、上記した方法でポリマーを取得することもできる。好ましくは、医療器具を構成する部材として触媒を含有しないポリマー溶液を得るためには、触媒成分を粗取りした溶液をろ過し、上記した方法でポリマーを取得してもよい。特に、触媒成分を精密ろ過することが、好適であり、ろ過フィルターの目開きは、好ましくは、10μm〜0.05μm、特に好ましくは、10μm〜0.10μm、さらに好ましくは、5μm〜0.10μmである。
本実施形態の医療器具を構成する部材の作製に用いる、一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーまたは一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマーからなる成形物(部材)は、部材からの自家蛍光を発しない。これにより、当該材料からなる部材を実装した医療器具は、例えば、生体内に薬剤を抽入する医療用チューブとして体外からの蛍光による薬剤のマーキングや、細胞の生死判定に用いる細胞の自家蛍光の観察など広く利用することができる。その際に、適応できる蛍光波長は、波長200〜1000nmであることが好ましく、より好ましくは220〜900nmであり、さらに好ましくは250〜800nmである。さらに、上記の蛍光波長において適応可能な蛍光の励起波長は、波長200〜1000nmでることが好ましく、より好ましくは220〜900nmであり、さらに好ましくは250〜800nmである。紫外から近赤外まで広範な領域の蛍光波長、および蛍光の励起波長に適応できることで、多くの種類の薬剤や細胞に適応でき、医療器具として広範な分野で利用できる。
(医療器具を構成する部材に利用するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物)
本実施形態に係る部材は、フッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成されてもよい。
本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物において、本実施形態の一般式(1)で表されるフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマーと光硬化性化合物の質量比(フッ素含有環状オレフィンポリマー/光硬化性化合物)は、99.9/0.1〜30/70であることが好ましく、99.9/0.1〜35/65であることがより好ましく、99.9/0.1〜40/60であることがさらに好ましい。
光硬化性化合物としては、カチオン重合可能な開環重合性化合物、反応性二重結合基を有する化合物等が挙げられる。好ましくは、コートして用いる際の硬化後の体積収縮にともなう部材の変形の抑制や、フッ素含有環状オレフィンポリマーとの相溶性、および生体への安全性の観点からカチオン重合可能な開環重合性化合物が選ばれる。
カチオン重合可能な開環重合性化合物および反応性二重結合基を有する化合物は、1分子中に反応性基を1個有していてもよく、複数個有していてもよい。また、光硬化性化合物中には、異なる反応性基数の化合物を任意の割合で混合して用いてもよい。さらに、光硬化性化合物として、反応性二重結合基を有する化合物とカチオン重合可能な開環重合性化合物を任意の割合で混合したものを用いてもよい。
光硬化性化合物のうち、カチオン重合可能な開環重合性化合物としては、例えば、シクロヘキセンエポキシド、ジシクロペンタジエンオキサイド、リモネンジオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルアルコール、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−1,2−ジ(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸)エステル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、フェニルグリシジルエーテル、ジシクロヘキシル−3,3´−ジエポキシド、1,7−オクタジエンジエポキシド、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−、m−、p−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートといった脂環式エポキシ樹脂あるいは水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル等のエポキシ化合物等の、エポキシ化合物類が挙げられる。
さらに、3−メチル−3−(ブトキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ペンチロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(オクチロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(デカニロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(ドデカニロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ブトキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ペンチロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(オクチロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(デカニロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ドデカニロキシメチル)オキセタン、3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−メチル−3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3,3−ジメチルオキセタン、3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−n−プロピル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−イソプロピル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−n−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−イソブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−sec−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−tert−ブチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシル)オキセタン等、その他、オキセタニル基を2個以上有する化合物としてビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル(3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン)、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]プロパン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)]−2,2−ジメチル−プロパン、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、1,4−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4´−ビス{[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス[(3−メチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4’−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のオキセタン化合物類が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の上記モノマーを硬化させる為の光硬化開始剤としては、光の照射によってカチオンを生成する光カチオン開始剤、光の照射によってラジカルを生成する光ラジカル開始剤、などが挙げられる。光硬化開始剤の使用量は、光硬化性化合物100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。
光硬化開始剤の種類や、光硬化性化合物に対する使用量は、本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物からなる部材から構成された医療器具として使用目的に応じて好適に選ばれる。
光硬化開始剤のうち、光の照射によってカチオンを生成する光カチオン開始剤としては、光照射により、上記カチオン重合可能な開環重合性化合物類のカチオン重合を開始させる化合物であれば特に限定はないが、例えば、オニウム陽イオンと対を成す陰イオンとのオニウム塩のように光反応しルイス酸を放出する化合物が好ましい。
オニウム陽イオンの具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス〔4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル〕スルフィド、η−2,4−(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6−η−(メチルエチル)ベンゼン〕−鉄(1+)等が挙げられる。また、オニウム陽イオン以外に、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロトルエンスルホン酸イオン等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
一方、陰イオンの具体例としては、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロロアンチモネート、テトラ(フルオロフェニル)ボレート、テトラ(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラ(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラ(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラ(ペルフルオロフェニル)ボレート、テトラ(トリフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ[ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ボレート等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
さらに好ましく用いられる光カチオン開始剤の具体例としては、例えば、イルガキュアー250(BASF社製)、イルガキュアー290(BASF社製)、イルガキュアー784(BASF社製)、エサキュアー1064(ランベルティー社製)、WPI−124(和光純薬工業社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカーバイト日本社製)、CPI−100P(サンアプロ社製)、PHOTO INITIATOR 2074(ソルベイジャパン社製)、アデカオプトマーSP−172(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−170(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−152(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP−150(ADEKA社製)等が挙げられる。また、これらの光カチオン開始剤は、単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
さらに、必要に応じて第3成分として他の公知の成分、例えば、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤等の改質剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤などの安定剤、光増感剤、シランカップリング剤等を加えてもよいが、本実施形態の生体適合性材料は、溶血毒性を有しない材料であるので、可能な限り第3成分を入れる必要が無ければ、不要である。
本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は硬化後の形態で、光硬化性化合物が3次元の網目構造を形成することができ表面硬度を硬く改質することができる。このため、本実施形態の部材を医療器具等に実装した場合の傷付き性を改善でき、医療の現場で利便性良く使用することができる。
(医療器具用部材の製造方法)
本実施形態における医療器具を構成する部材とは、一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、または該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物から製造された部材であり、例えば、金属などの無機材料、および樹脂などの有機材料と複合化した部材であり形態は特に限定されない。
複合化に用いる他材料としては、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、ゲルマニウム、チタン、シリコン等の金属材料、ガラス、石英、アルミナ等の無機材料、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料、ダイヤモンド、黒鉛、炭素繊維等の炭素材料等が挙げられる。
溶融成形法により医療器具を構成する部材を作製する方法としては、上記において例示したフッ素含有環状オレフィンポリマーを溶融混練機で加熱溶融しTダイを経てフィルム化する方法が挙げられる。Tダイによる溶融押出しフィルム製造においては、例えば、必要に応じて添加剤を配合した環状オレフィンポリマーを押出機に投入し、ガラス転移温度よりも好ましくは50℃〜200℃高い温度、より好ましくは80℃〜150℃高い温度で溶融混練し、Tダイから押出し、冷却ロールで送りながら、巻取りロールへ送りフィルムに加工する。
また、溶融成形法において、押出し機の樹脂出口に所望の筒状形状のダイスを設け溶融樹脂を押し出し、引き取り機にて樹脂を送り冷却することで、チューブ形状に加工することもできる。さらに、筒状形状のダイスから押し出された樹脂を金型で挟み込み、金型の空気の抽入口から空気を吹き込み樹脂を膨らませ、冷却した後に金型から離脱させるブロー成形により、フラスコ形状などの成形物を加工することもできる。
射出成形により医療器具を構成する部材を作製する方法としては、上記において例示したフッ素含有環状オレフィンポリマーを溶融混練機で加熱溶融し、プランジャー、またはスクリューを介して、金型に充填し所望の形状の部材を得る方法が挙げられる。この際に用いられる樹脂を溶融する温度は、上記したガラス転移温度よりも高い温度で行われ、射出圧力は好ましくは1MPa〜100MPa、より好ましくは5MPa〜90MPa、さらに好ましくは10MPa〜80MPaの範囲で行われ、射出速度は成形体の形状、または生産性を考慮して好適に選ばれる。
さらに、射出成形による成形を行う際に、あらかじめ金型の中に、例えば、金属や樹脂などからなる部材を充填(インサート)しておき、加熱溶融した樹脂をプランジャー、またはスクリューを介して、金型に充填し、所望の形状で金属や樹脂と本実施形態のフッ素含有環状オレフィンポリマーを一体成形したインサート成形法を用いてもよい。
溶融押出し成形法、射出成形法、インサート成形法などの何れの成形法においても、本実施形態の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤を添加してもよい。
他の方法としては、溶液キャスト法によるフィルム、シート成形が挙げられる。一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、好ましくは一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、またはフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物は、有機溶剤を使用して溶液化し、上記した金属などの無機材料、樹脂などの有機材料に塗工、乾燥し、フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いる際はUV照射により光硬化性化合物を硬化させ、コートした形態の複合部材を作製することができる。
何れの場合であっても、上記した金属などの無機材料、樹脂などの有機材料からなる塗工用の基板から剥離することで、本実施形態のフィルム、シート状の部材を得ることができる。
用いられる有機溶剤としては、例えば、ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のフッ素含有エーテル類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;または、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等を挙げることができる。これらのうちから、溶解性や製膜性を考慮して選択することができる。また、これらは単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。特に、製膜性の観点からは、大気圧下で70℃以上の沸点をもつ溶剤が好ましい。これにより、蒸発速度が速くなりすぎることを確実に抑えることができ、膜表面におけるムラの発生を抑制でき、また、製膜時における膜厚精度の向上にも資することができる。
また、溶液化に使用した溶剤を乾燥により除去するための加熱の温度は、好ましくは50℃〜300℃であり、より好ましくは60℃〜280℃であり、さらに好ましくは70℃〜250℃である。段階的に加熱温度を変化させる多段のプロセスを用いてもよい。加熱の温度は、複合化させる有機、無機材料の特性や生産性を考慮して好適に選ばれ、乾燥時の時間は、医療器具として用いる際に許容される安全性を考慮した下限以下となる残留溶剤の量を確認しながら適時設定される。
さらに、フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を硬化させる際に用いられる光の照射強度と時間の積で表される積算光量は、好ましくは3〜3000mJ/cmであり、より好ましくは5〜2500mJ/cmであり、さらに好ましくは10〜2000mJ/cmである。この光の照射は、目的とする製品毎に制御されるものであって特に限定されるものではないが、積算光量を上記下限値以上とすることにより、光重合開始剤からの活性種の発生を十分なものとし、得られる硬化物の特性の向上を図ることができる。一方で、積算光量を上記上限値以下とすることにより、生産性向上に寄与することができる。また、重合反応を促進するために加熱を併用することも場合によっては好ましい。その際の光を照射して硬化性樹脂を硬化させる温度は、通常0〜150℃が好ましく、0〜60℃がより好ましい。
また、上記した方法で得られた本実施形態のフィルム、シート状の部材を用いて、所望の金属または樹脂からなる型から、加熱真空成形法によりカップ形状などの成型物を加工することもできる。この際に用いられる樹脂を加熱する温度は、上記したガラス転移温度(Tg)を基準にすれば、好ましくはTg−30℃〜Tg+30℃、より好ましくはTg−25℃〜Tg+25℃、さらに好ましくはTg−20℃〜Tg+20℃であり、真空度は好ましくは90〜0.001kPa、より好ましくは50〜0.005kPa、さらに好ましくは10〜0.01kPaの範囲で行われ、成形体の形状、または生産性を考慮して好適に選ばれる。
さらに、医療器具の目的に応じて、本実施形態の医療器具を構成する部材の表面に凹凸構造を形成させてもよい。凹凸構造の形成は、スクリーン印刷、エンボス加工、サブミクロンインプリント、ナノインプリントなど様々な方法が適用でき、凹凸構造の形状、サイズにより好適に選ばれる。特に、サブミクロンインプリント、およびナノインプリントは、凹凸構造の形状の自由度が高く、また、サイズはマイクロからナノオーダーまで、広く適用できるため好ましく用いられる。
以下、実施例において、本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例におけるポリマー分析値測定方法、生体適合性材料評価としての単層フィルム部材および複合シート部材の作製条件および分析方法、血液毒性試験方法、細胞毒性評価として実施した細胞培養および培養細胞の評価方法は以下に記載された通りである。
[重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
下記の条件下でゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、テトラヒドロフラン(THF)または、トリフルオロトルエン(TFT)に溶解したポリマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、ポリスチレンスタンダードによって分子量を較正して測定した。
検出器:日本分光社製RI−2031および875−UVまたはViscotec社製Model270、直列連結カラム:Shodex K−806M、804、803、802.5、カラム温度:40℃、流量:1.0ml/分、試料濃度:3.0〜9.0mg/ml
[ガラス転移温度]
島津製作所社製DSC−50を用い、測定試料を窒素雰囲下で10℃/分の昇温速度で加熱し測定した。
[水素添加率測定]
ポリマー試料を重水素化アセトンに溶解し、270MHz、1H−NMRスペクトルのケミカルシフトδ=5.0〜7.0ppm範囲で二重結合炭素の水素に帰属するピークの積分値で測定した。
[金属含有量測定]
試料量既知の溶液を容器に精秤し、硝酸と共にマイクロウエーブで熱分解処理し、残留金属成分をアジレント・テクノロジー(株)HP−4500のICP−MS装置で定量した。または、溶液のポリマー試料を容器に精秤し、加熱し溶媒を蒸発させた後、硝酸と共にマイクロウエーブで熱分解処理し、残留金属成分を同ICP−MS法により定量した。
[UV硬化]
塗布膜の硬化には光源として、クライムプロダクツ社製SE650UVを用いて、波長365nmのLED光を照射して硬化した。
[血液毒性試験のための血液採取、および抗凝固剤処理]
抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを添加した注射器と注射針を用いて、3匹のウサギの耳介動脈からそれぞれ5mLずつ血液を採取した。採取した抗凝固剤添加血液(抗凝固剤処理血液とも呼ぶ。)の波長576nmにおける吸光度を測定し、溶血が認められない血液を試験に用いた。
[溶血率算出のための吸光度測定のサンプル調整]
膜厚70〜72μm(コート膜の場合の厚み10μm)、サイズ21cm×10cmのフィルムから2.0cm×1.5cmのサイズで70枚細断し、70%エタノールに浸漬して滅菌処理し、リン酸緩衝生理食塩水(35mL)と混合してオートクレーブに入れ、37℃、72時間の加熱により被検体の抽出液を得た。次いで、滅菌チューブに抽出液を5mL、抗凝固剤処理血液0.1mLを添加して混合し37℃で1、2および4時間インキュベートし、遠心分離機を使用して抽出液を分離、上清を採取して吸光度測定用のサンプルを調整した。陰性対照も同様にインキュベート処理し、陽性対照はインキュベートなしでそのまま使用した。
[吸光度の測定と溶血率の算出]
日立製作所社製UV−3310分光光度計を使用して、波長500〜600nmの吸光度を測定し、抗凝固剤処理血液の添加後のインキュベート時間が1、2および4時間のサンプルのそれぞれの溶血率を、波長576nmの吸光度から上述した(2)式により算出し平均値を溶血率とした。
[細胞種および培養液について]
マウス線維芽細胞(以下、BALB/3T3細胞と略す)を用い、10%仔ウシ血清(Calf Bovine Serum、CBS)と、高グルコースと、D−MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド、ピルビン酸ナトリウム含有)と、を含む溶液(以下、BALB/3T3細胞液と記載する。)中で、すべての継代培養および細胞増殖性試験を行った。
[細胞培養器具の滅菌方法]
直径15mmに切り出した円形の培養フィルムをTCPSマルチウェルプレート(コーニング社製)穴部底面に置き、70%エタノール水溶液を加えて40分〜1時間浸漬した後、70%エタノール水溶液を除去してダルベッコPBS(−)に15分〜40分間浸漬した。次に、PBS(−)を除去して、培養器具(穴部底面に培養フィルムが置かれたTCPSマルチウェルプレート)の穴部底面に置いた培養フィルムをひっくり返し、同様な操作を行い、培養器具の表裏面を滅菌処理し、滅菌灯下、クリーンベンチ内で一晩乾燥させた。
[細胞増殖性の評価]
培養開始後1、3、および7日経過後の培養容器を加湿インキュベーターから取り出して培地を除去し、10%WST−8(Cell Counting Kit−8)/10%仔ウシ血清D−MEM培地の混合溶液を添加して、加湿インキュベーターで3時間インキュベートした。その後、培地200μlを96ウェルプレートに移し、プレートリーダー(SPECTRA max PLUS384、Molecular Devices社製)で波長450nmの吸光度を測定した。各培養容器の細胞増殖性は、吸光度の経時変化により確認した。
[細胞の生存率の算出]
培養により増殖させた細胞の明暗視顕微鏡による観察で確認した細胞数と、オールインワン蛍光顕微鏡BZ−X700(キーエンス社製)を使用して観察した自家蛍光を発する死滅細胞の数をカウントし、細胞の生存率を、生存率(%)=[(死滅細胞数)/(明暗視顕微鏡による観察で確認した細胞数)]×100の数式から算出した。
[部材の自家蛍光観察]
日本分光社製FP−6600分光光度計を使用して、励起光測定範囲200〜1000nm、蛍光測定範囲200〜1000nmの各波長範囲で、スキャンスピード2000nm/min、励起側バンド幅5nm、蛍光側バンド幅6nmの条件で測定した。
[高圧蒸気滅菌方法]
30mm×30mmのサイズに切出した試験片を、内径15mm×高さ20mmの筒状のSUS管で上下から挟み、SUS製のクリップで固定した形状の容器を作製し、オートクレーブを用いて、2気圧の水蒸気雰囲気下、121℃で15分高圧蒸気滅菌し、滅菌灯下、クリーンベンチ内で一晩乾燥させた。
[固体粘弾性測定]
RSA−III(ティー・エイ・インスツルメント社製)を使用して、幅10mm×長さ30mmに切出した試験片を用いて引張モードで、温度範囲0〜160℃、昇温速度3℃/min、周波数1Hzの条件で測定し、120℃の貯蔵弾性率(Pa)を確認した。
[製造例1]ポリマー1
5,5,6−トリフルオロ−6−(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(100g)と1−ヘキセン(0.268g)のテトラヒドロフラン溶液に、Mo(N−2,6−Pr )(CHCMePh)(OBut(50mg)のテトラヒドロフラン溶液を添加し、70℃で開環メタセシス重合をモノマーが完全に消費するように行った。得られたポリマーのオレフィン部を、パラジウム5%担持カーボン触媒(5g)存在下160℃で水素添加反応を行い、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)のテトラヒドロフラン溶液を得た。
得られた溶液を孔径0.1μmのフィルターで加圧ろ過し、パラジウム担持カーボン触媒を除去した溶液をメタノールに加え、白色のポリマーをろ別、溶剤を完全に除去乾燥し99gのポリマー1を得た。
得られたポリマー1は、上記一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、ICP−MSによる分析でMo、Pd金属含有量は10ppb以下であり、重量平均分子量(Mw)は78000、分子量分布(Mw/Mn)は1.70、ガラス転移温度は110℃であり、120℃の貯蔵弾性率は3×10Paであった。
[実施例1]部材1
製造例1で合成したポリマー1をメチルイソブチルケトンに30質量%濃度で溶解し、その溶液を孔径1μmのフィルターで加圧ろ過し、次いで0.1μmのフィルターでろ過してポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を調製した。次いで、ガラス基板にポリマー1のメチルイソブチルケトン溶液を塗布し、アプリケーターを用いて均一にコートした後、140℃で60分乾燥して剥離することで、厚み70μmの単層フィルム部材1を作製した。
次いで、得られたフィルムを細断し、滅菌処理後、リン酸緩衝生理食塩水(35mL)と共にオートクレーブに入れ、37℃で72時間加熱し、吸光度測定用の抽出液を調製した。抽出液(5mL)、抗凝固剤処理血液(0.1mL)を滅菌チューブ内で混合したサンプルを3本準備し、それぞれを37℃で1、2、4時間インキュベートした。所定の時間経過後のサンプルを遠心分離機(780G)にかけ5分静置し、上清液を採取して吸光度測定用のサンプルを調整した。
UV吸光度スペクトルから、波長576nmの吸光度は0.06(加熱1時間)、0.08(加熱2時間)、0.07(加熱4時間)であり、溶血率は0.13%(加熱1時間)、0.14%(加熱2時間)、0.13%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.13%であった。(測定結果の例として、加熱4時間のサンプルを測定した際のUV吸光度スペクトルを図1に示す。)
[実施例2]部材2
フッ素含有環状オレフィンモノマーの種類を5,6−ジフルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに変更したこと以外は、製造例1と同様な方法により97gのポリマー2を得た。得られたポリマー2は、一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、ICP−MSによる分析でMo、Pd金属含有量は10ppb以下であり、重量平均分子量(Mw)は91000、分子量分布(Mw/Mn)は1.93、ガラス転移温度は104℃であり、120℃の貯蔵弾性率は2×10Paであった。次に、実施例1と同様な方法により厚み70μmの単層フィルム部材2を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材2の吸光度は0.01(加熱1時間)、0.01(加熱2時間)、0.02(加熱4時間)であり、溶血率は0.03%(加熱1時間)、0.03%(加熱2時間)、0.04%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.03%であった。
[実施例3]部材3
フッ素含有環状オレフィンモノマーの種類を5,6−ジフルオロ−5−へプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに変更したこと以外は、製造例1と同様な方法により98gのポリマー3を得た。得られたポリマー3は、一般式(1)により表される構造単位を含有していた。また、水素添加率は100%、ICP−MSによる分析でMo、Pd金属含有量は10ppb以下であり、重量平均分子量(Mw)は142000、分子量分布(Mw/Mn)は1.40、ガラス転移温度は137℃であり、120℃の貯蔵弾性率は7×10Paであった。次に、実施例1と同様な方法により厚み72μmの単層フィルム部材3を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材3の吸光度は0.05(加熱1時間)、0.07(加熱2時間)、0.06(加熱4時間)であり、溶血率は0.13%(加熱1時間)、0.14%(加熱2時間)、0.14%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.14%であった。
[実施例4]部材4
実施例1で調整したフッ素含有環状オレフィンポリマー1(A)を30質量%濃度で溶解したメチルイソブチルケトン溶液100gに、光硬化性化合物(B)として3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンと1,7−オクタジエンジエポキシドの質量比9/1の混合物を20g、および光硬化開始剤としてアデカオプトマーSP−172(ADEKA社製)を0.8g加えた溶液を調製し、孔径1μmのフィルターで加圧ろ過し、次いで0.1μmのフィルターでろ過して光硬化性組成物1を調製した(成分(A)と成分(B)の比:[(A)/(B)=60/40])。次いで、厚み50μmの東レ社製PETフィルムにバーコーターを用いて、光硬化性組成物1を塗工して120℃で10分乾燥し、室温へ放冷した後、波長365nmのUV光を照射した。再度、塗工面と反対面に同じ方法で光硬化性組成物1を塗工し、乾燥、UV照射して、PETフィルムの両面に光硬化性組成物1を厚み10μmで両面にコートした複合シート部材4を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材4の吸光度は0.08(加熱1時間)、0.05(加熱2時間)、0.06(加熱4時間)であり、溶血率は0.15%(加熱1時間)、0.13%(加熱2時間)、0.14%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.14%であった。
[実施例5]部材5
実施例1で調整したフッ素含有環状オレフィンポリマー1(A)と、光硬化性化合物(B)の比率を(A)/(B)=95/5に変更し、光硬化開始剤をCPI−100P(サンアプロ社製)に変更して光硬化性組成物2を調整したこと以外は、実施例4と同様な方法によりPETフィルムの両面に光硬化性組成物2を厚み10μmで両面にコートした複合シート部材5を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材5の吸光度は0.02(加熱1時間)、0.01(加熱2時間)、0.01(加熱4時間)であり、溶血率は0.04%(加熱1時間)、0.03%(加熱2時間)、0.03%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.03%であった。
[実施例6]
実施例1、2、および3で作製した単層フィルム部材の自家蛍光を、励起光測定範囲200〜1000nm、蛍光測定範囲200〜1000nmの各波長範囲で測定し、蛍光強度分布を確認すると、何れの部材からも自家蛍光の発光を示す、蛍光は観測されなかった。
[実施例7]
コーニング社製6穴TCPSマルチウェルプレートの凹部底面を切り抜き、実施例1に記載の単層フィルム部材1を底面に貼り、容器の底が部材1からなる細胞培養容器としての医療器具を作製した。エタノールによる滅菌処理の後、10%仔ウシ血清D−MEM培地で7500cells/mLに調整したBALB/3T3細胞の懸濁液(10mL)を培養容器の凹部に播種し、蓋をしてインキュベーターに移動し、37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.52±0.03であり、3日経過後で1.70±0.03であり、7日経過後で4.45±0.09であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[実施例8]
貼り合せる部材を実施例4で作製した部材4に変更したこと以外は、実施例7と同様な方法により、容器の底が複合シート部材4からなる細胞培養容器としての医療器具を作製した。次いで、実施例7と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を行った。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.41±0.01であり、3日経過後で1.34±0.02であり、7日経過後で3.35±0.08であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[実施例9]
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(13.2g)と8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(17.3g)の2種類のモノマー、および1,5−ヘキサジエン(0.27g)のテトラヒドロフラン溶液に、Mo(N−2,6−Pr )(CHCMePh)(OBut(17mg)のテトラヒドロフラン溶液を添加し、70℃にてモノマーを完全に反応消費して開環メタセシス重合を行った。得られたポリマーのオレフィン部を5%パラジウム/アルミナ担持水素添加触媒(2.3g)を用いて、水素加圧下、160℃で水素添加反応を行い、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)/(3,3,4−トリフルオロ−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)の共重合体のテトラヒドロフラン溶液を得た。溶液をメタノールに加え、白色のポリマーをろ別、乾燥し47gのポリマー4を得た。水素添加率は100%、組成比[A]/[B]=50/50、重量平均分子量(Mw)は75000、分子量分布(Mw/Mn)は3.06、ガラス転移温度は149℃であり、120℃の貯蔵弾性率は2×10Paであった。次に、実施例1と同様な方法により厚み70μmの単層フィルム部材6を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材6の吸光度は0.02(加熱1時間)、0.01(加熱2時間)、0.02(加熱4時間)であり、溶血率は0.02%(加熱1時間)、0.02%(加熱2時間)、0.03%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.02%であった。
[実施例10]
モノマーの比率を[A]/[B]=80/20に変更したこと以外は、実施例9と同様な方法で、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)/(3,3,4−トリフルオロ−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)の共重合体のテトラヒドロフラン溶液を得た。溶液をメタノールに加え、白色のポリマーをろ別、乾燥し50gのポリマー5を得た。水素添加率は100%、組成比[A]/[B]=80/20、重量平均分子量(Mw)は71000、分子量分布(Mw/Mn)は3.01、ガラス転移温度は179℃であり、120℃の貯蔵弾性率は3×10Paであった。次に、実施例1と同様な方法により厚み65μmの単層フィルム部材7を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材7の吸光度は0.01(加熱1時間)、0.01(加熱2時間)、0.01(加熱4時間)であり、溶血率は0.01%(加熱1時間)、0.02%(加熱2時間)、0.01%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.01%であった。
[実施例11]
構造単位[A]のモノマー種を5,6−ジフルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンに、モノマーの比率を[A]/[B]=20/80に変更したこと以外は、実施例9と同様な方法で、ポリ(1,1,2−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−3,5−シクロペンチレンエチレン)/(3,3,4−トリフルオロ−4−トリフルオロメチル−7,9−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカニレンエチレン)の共重合体のテトラヒドロフラン溶液を得た。溶液をメタノールに加え、白色のポリマーをろ別、乾燥し52gのポリマー6を得た。水素添加率は100%、組成比[A]/[B]=80/20、重量平均分子量(Mw)は69000、分子量分布(Mw/Mn)は2.91、ガラス転移温度は116℃であり、120℃の貯蔵弾性率は2×10Paであった。次に、実施例1と同様な方法により厚み70μmの単層フィルム部材8を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材8の吸光度は0.03(加熱1時間)、0.03(加熱2時間)、0.03(加熱4時間)であり、溶血率は0.02%(加熱1時間)、0.02%(加熱2時間)、0.02%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.02%であった。
[実施例12]
貼り合せる部材を実施例9で作製した部材6に変更したこと以外は、実施例7と同様な方法により、容器の底が複合シート部材6からなる細胞培養容器としての医療器具を作製した。次いで、実施例7と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を行った。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.40±0.01であり、3日経過後で1.31±0.02であり、7日経過後で3.15±0.08であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[実施例13]
フッ素含有環状オレフィンポリマーを実施例9で合成したポリマー4に変更したこと以外は実施例4と同様な方法で複合シート部材9を作製した。
実施例1と同様な方法で調整して測定した部材9の吸光度は0.02(加熱1時間)、0.01(加熱2時間)、0.01(加熱4時間)であり、溶血率は0.01%(加熱1時間)、0.02%(加熱2時間)、0.01%(加熱4時間)であり、溶血率の平均値は0.01%であった。
次いで、貼り合せる部材を複合シート部材9に変更したこと以外は、実施例7と同様な方法により、容器の底が複合シート部材9からなる細胞培養容器としての医療器具を作製した。次いで、実施例7と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を行った。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.38±0.01であり、3日経過後で1.29±0.02であり、7日経過後で3.09±0.08であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[実施例14]
布施真空社製NGF−0404−T真空成形機を使用し、実施例1と同様な方法で作製した厚み70μmの単層フィルム部材1(サイズ:200mm×200mm)を用いて、ステージ上に直径15mm、高さ18mmの円柱形状のSUS棒を3行3列で配置した型を用いて加熱真空成形を行った。加熱温度105℃、真空度1kPaの条件で、単層フィルム部材1に型を押し当て大気解放することで200mm×200mmの面内に直径15mm、深さ18mmのサイズで9個の凹形状を形成した細胞培養容器としての医療器具(容器7)を作製した。次いで、実施例7と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を行った。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.32±0.01であり、3日経過後で1.23±0.01であり、7日経過後で3.03±0.06であった。経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[実施例15]
実施例9、10、および11で作製した単層フィルム部材6、7、および8の自家蛍光を、励起光測定範囲200〜1000nm、蛍光測定範囲200〜1000nmの各波長範囲で測定し、蛍光強度分布を確認すると、何れの部材からも自家蛍光の発光を示す、蛍光は観測されなかった。
[実施例16]
実施例1、2、3、4、5、9、10、11、および13で作製した部材1、2、3、4、5、6、7、8、および9を、それぞれ30mm×30mmのサイズで切り出したフィルムを内径15mm×高さ20mmのSUS管で上下から挟み、SUS製のクリップで固定した形状の容器を作製した。次いで、2気圧の水蒸気雰囲気下、121℃で15分高圧蒸気滅菌した。その後、オートクレーブから取り出した容器の形状を観察したが、高圧蒸気滅菌の際の熱変形に伴う欠陥を生じた容器はなく、全ての容器は製造時と変わらず正常な形状をたもっていた。次いで、滅菌灯下、クリーンベンチ内で一晩乾燥させた。
[実施例17]
実施例14に記載の200mm×200mmの面内に9個の凹形状を形成した容器7を実施例16と同様な方法で高圧蒸気滅菌し形状観察すると、製造時と変わらず正常な形状をたもっていた。次いで、滅菌灯下、クリーンベンチ内で一晩乾燥させた。
[実施例18]
実施例16に記載の高圧蒸気により滅菌した容器1、6および7を使用したこと以外は、実施例7と同様な方法でBALB/3T3細胞の培養を行った。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、容器1で1日経過後の吸光度が0.39±0.02であり、3日経過後で1.29±0.01であり、7日経過後で3.11±0.08であり、容器6で1日経過後の吸光度が0.42±0.02であり、3日経過後で1.32±0.01であり、7日経過後で3.14±0.04であり、容器7で1日経過後の吸光度が0.36±0.01であり、3日経過後で1.26±0.01であり、7日経過後で3.08±0.03であった。容器1、容器6、および容器7何れにおいても、経過日数に対して吸光度は直線的に増大しており、7日経過しても細胞増殖の減衰は見られなかった。また、7日間培養した細胞の自家蛍光を観察すると、容器1、容器6、および容器7何れにおいても、死滅細胞を現す緑色蛍光は観察されず、100%が生細胞であることを確認した。さらには、この培養細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、ほぼ100%の細胞の生存率で生態系と同様な薬物代謝系酵素活性を示すことが分かった。
[比較例1]
スチレン(25g)を30質量%で溶解したシクロヘキサノン溶液に窒素気流下で活性アルミナを加え、撹拌後、ろ過し重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去した。次いで、n−ブチルリチウムを溶解したシクロヘキサノン溶液を調整し、窒素下でオートクレーブにスチレンのシクロヘキサノン溶液、次いで、n−ブチルリチウムのシクロヘキサノンを仕込み、80℃に加熱して反応を開始した。1時間後、室温まで放冷し、オートクレーブの蓋を開け、内容物を取り出し、メタノールに滴下して白色粉末を析出させ、ろ別分離後、加熱乾燥してポリスチレンの白色固体(24g)を得た。次いで、白色粉末をメチルイソブチルケトンに30質量%濃度で溶解し、実施例1と同様な方法でポリスチレンからなる厚み70μmのフィルム状の部材10を作製した。
実施例1と同様な方法で被検体を準備して測定した吸光度から算出した溶血率は、3%(加熱1時間)、5%(加熱2時間)、9%(加熱4時間)でありインキュベーターで加熱した時間の経過に伴って溶血率は増大した。
[比較例2]
細胞培養容器としての医療器具である、γ線滅菌済み6穴TCPSマルチウェルプレート(コーニング社製)の底部を切り出して採取した試験片を用いて、実施例6と同様な方法で自家蛍光を観察した。励起光測定範囲250〜400nm、蛍光測定範囲280〜500nm、および励起光測定範囲580〜900nm、蛍光測定範囲260〜400nmの範囲において強い自家蛍光のシグナルが観察された。後述(比較例3)するBALB/3T3細胞の培養試験において、自家蛍光を直接観察しようと試みたが容器からの強い緑色の蛍光発光により細胞の自家蛍光を観察できなかった。
[比較例3]
γ線滅菌済み6穴TCPSマルチウェルプレート(コーニング社製)を使用し、実施例7と同様にBALB/3T3細胞液を播種し、蓋をしてインキュベーターに移動し、37℃、炭酸ガス濃度5%の滅菌空気下で培養を開始した。
WST−8法による細胞増殖性の評価では、1日経過後の吸光度が0.27±0.03であり、3日経過後で1.88±0.11であり、7日経過後で3.15±0.23であった。経過日数に対して吸光度の傾きは減衰した。また、7日間培養した細胞を容器から採取してガラス製のウェルプレートに移し、自家蛍光を観察すると、死滅細胞を現す緑色蛍光が観察され、明暗視野顕微鏡で確認した細胞数をベースに細胞の生存率を算出すると85%であった。さらには、7日間培養した細胞のNADPHデハイドロゲナアゼで薬物代謝系酵素活性評価を行うと、細胞の薬物代謝機能は発現しなかった。
[比較例4]
6穴TCPSマルチウェルプレート(コーニング社製)の一部を切り出して測定したガラス転移温度は100℃であり、固体粘弾性測定における120℃の貯蔵弾性率は8×10Paであった。次いで、2気圧の水蒸気雰囲気下で121℃、15分の高圧蒸気滅菌を実施した。オートクレーブから取り出した6穴TCPSマルチウェルプレートは加熱による熱変形で、全体が歪み、細胞の播種面も荒れた状態となり、細胞培養には適応できなかった。
本発明の一般式(1)により表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー、または一般式(1)で表される構造単位[A]と一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有したフッ素含有環状オレフィンポリマー、または該フッ素含有環状オレフィンポリマーを含む組成物からなる部材を、血液や細胞が接する面に配置した医療器具を用いることで、高圧蒸気滅菌を適応でき、医療や、細胞を用いた創薬開発、再生医療などの分野において、血液凝固、細胞増殖の減衰、細胞変異、死滅などを誘発する生体毒成分が発生しない生体適合性材料からなる医療器具を提供することができる。

Claims (6)

  1. 医療器具を構成する部材であって、
    前記部材が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマーにより構成され、かつ、溶血毒性試験において、酸素化ヘモグロビンのUV極大吸収である波長576nmの吸光度から算出される溶血率が0%以上2%以下である生体適合性材料からなることを特徴とする医療器具用部材。
    Figure 2017176829
    (式(1)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
  2. 請求項1に記載の医療器具用部材において、
    前記フッ素含有環状オレフィンポリマーが前記一般式(1)で表される構造単位[A]と下記一般式(2)で表される繰り返し構造単位[B]とを含有し、そのモル比[A]/[B]が90/10〜10/90である医療器具用部材。
    Figure 2017176829
    (式(2)中、R〜Rは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルキル基、フッ素を含有する炭素数1〜10のアルコキシ基、またはフッ素を含有する炭素数2〜10のアルコキシアルキル基である。R〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R〜Rは互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
  3. 蛍光波長200nm以上1000nm以下、および励起波長200nm以上1000nm以下の全領域において蛍光を発しないことを特徴とする請求項1または2に記載の医療器具用部材。
  4. 前記部材が、前記フッ素含有環状オレフィンポリマーと、光硬化性化合物と、光硬化開始剤と、を含むフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物により構成されることを特徴とし、かつ、前記フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物中における前記フッ素含有環状オレフィンポリマーと前記光硬化性化合物の質量比(前記フッ素含有環状オレフィンポリマー/前記光硬化性化合物)が、99.9/0.1〜30/70である請求項1から3のいずれか一つに記載の医療器具用部材。
  5. 請求項1から4のいずれか一つに記載の医療器具用部材であって、
    前記フッ素含有環状オレフィンポリマーの固体粘弾性測定における120℃の貯蔵弾性率(E´)が1×10〜1×1010Paであることを特徴とする医療器具用部材。
  6. 請求項1から5のいずれか一つに記載の医療器具用部材を備える医療器具。
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