以下、図面を参照して、本発明による第1及び第2実施形態の三次元形状提示システム1を例示して順に説明する。図1は、第1実施形態の三次元形状提示システム1の概略構成を示す図である。
〔第1実施形態〕
(システム構成)
本実施形態の三次元形状提示システム1は、三次元モデルで表現可能な仮想物体(即ち、仮想空間における視認性の有無を問わない物体)の触力覚を提示する装置であり、触力覚提示ユニット2、制御ユニット3、触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子)5、及び駆動ユニット6を備えるよう構成される。提示する三次元モデルのモデルデータは、制御ユニット3内に格納されており、必要に応じて外部の表示装置4(例えば、パーソナルコンピュータ)に表示させることができる。
触力覚提示ユニット2は、その詳細は図4及び図5を参照して後述するが、モータもしくはソレノイドのような駆動デバイスを用いることなく手のひらサイズで構成され、テレスコピックパイプ状の入れ子構造により伸縮可能とした棒状(より正確には長細の多段筒状)の触力覚提示素子22を基台部20に複数配設して構成される。尚、触力覚提示ユニット2は、可撓性生地28で各触力覚提示素子22の先端部を覆うよう構成されている。そして、それぞれの触力覚提示素子22には、利用者の指先に対する接触点(即ち、触力覚提示素子22の先端部)に圧力センサ23が設けられている。圧カセンサ23は、触感覚の違和感を低減させるため厚みの無いものが好ましく従来から既知のシート状のものを用いるのが好適である。触力覚提示ユニット2は、制御ユニット3によって制御される。
高分解能触力覚提示素子5は、利用者の指先に装着可能な箱状体の「触力覚提示装置」として構成され、被接触対象物(本例では、触力覚提示ユニット2)を用いて三次元モデルで表現可能な仮想物体を触覚させるよう長さ調整で伸縮可能とした複数の刺激ピン51を備えている。触力覚提示素子22を利用者の指先に固定する方法は、非伸縮性バンド5bに指先を入れるようなもので構成すればよく、これに限定されない。
駆動ユニット6は、高分解能触力覚提示素子5における複数の刺激ピン51の各々について、ケーブル5aを介して長さ調整で伸縮させるよう駆動する装置であり、駆動対象の高分解能触力覚提示素子5毎に設けられる。高分解能触力覚提示素子5は、駆動ユニット6を介して制御ユニット3によって制御される。
尚、図1に例示する形態では、高分解能触力覚提示素子5及び駆動ユニット6を2組設け、それぞれの高分解能触力覚提示素子5を利用者の人差し指及び親指に装着する例を示しているが、利用者の装着対象とする指先は5本の指先のいずれでもよく、更に、高分解能触力覚提示素子5及び駆動ユニット6を1組としてもよいし、5本の指先の全てに装着する形態でもよい。利用者の両手の全ての指先に、高分解能触力覚提示素子5を装着した形態とすることも可能である。
制御ユニット3は、変位量検知部11、反力算出部12、反力発生部13、三次元モデル設定部14、三次元モデルデータベース15、三次元モデル表示制御部16、接触検知部31、刺激ピン長監視部32、刺激ピン長決定部33、及び刺激ピン長・反力制御部34を備える。
変位量検知部11は、各触力覚提示素子22における圧力センサ23のセンサ出力から各触力覚提示素子22の変位量(即ち、利用者の指による押し込み量に相当)を監視する機能部である。触力覚提示素子22が三次元モデルで表現可能な仮想物体の形状に相当する変位量に達すると、後述する反力算出部12は、当該三次元モデルの硬度に相当する反力である該変位量における縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力(即ち、反力)を算出する。
三次元モデルのモデルデータは、三次元モデルデータベース15に1つ以上格納されており、提示する仮想物体の形状とその硬度を、触力覚提示ユニット2におけるそれぞれの触力覚提示素子22に対応付けた座標で制御できるよう構成されている(図8(b)を参照して後述する)。そして、外部操作可能なマン−マシンインターフェースとして構成される三次元モデル設定部14により、三次元モデルデータベース15に1つ以上格納されている三次元モデルのモデルデータのうち1つを選択して設定することで、「提示する仮想物体」を決定できるようになっている。
また、三次元モデル設定部14により決定した「提示する仮想物体」の三次元モデルは、三次元モデル表示制御部16により外部の表示装置4に表示させる。尚、三次元モデル設定部14は、タッチパネルなど操作画面を提示し、その三次元モデルを表示するよう構成する。尚、種々の三次元モデルを単に番号管理して選択可能としてもよい。そして、三次元モデルデータベース15への三次元モデルのモデルデータの追加や削除は、図示しない専用のインターフェースを介して可能とするように構成してもよいし、外部の表示装置4として構成する、例えばパーソナルコンピュータから制御可能に三次元モデル表示制御部16を備えた構成としてもよい。
反力算出部12は、変位量検知部11からの指示を受け付けると、該変位量における縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力を当該三次元モデルの硬度に相当する反力として算出し、反力発生部13に出力する。
反力発生部13は、当該ブレーキ力を該触力覚提示素子22に生じさせるよう制御する。図6(a)乃至(c)を参照して詳細に後述する構成例のように、このブレーキ力は、コンプレッサによるダンパー作用や圧電素子による弾性変形作用によって実現することができる。
尚、変位量検知部11は、各触力覚提示素子22における圧力センサ23のセンサ出力から各触力覚提示素子22の変位量を監視している。変位量検知部11は、当該仮想物体の形状に相当する変位量に未到達、又は到達後に未到達となる触力覚提示素子22に対して、反力算出部12を介してその未到達である旨を反力発生部13に指示する機能を有する。そして、未到達である旨を受け付けた反力発生部13は、当該三次元モデルの硬度に相当するブレーキ力を反力として該触力覚提示素子22に発生させるのを中止する。
また、伸縮可能な触力覚提示素子22に対して、縮長方向への利用者の指先による押し込み力が弱まると、触力覚提示素子22は、伸長方向への復元力が付勢される構造を有する。図6(a)乃至(c)により後述する構成例では、当該反力に対して十分に小さい力で付勢する圧縮バネ(即ち、反力として非動力源である圧縮バネ)により当該復元力を実現するか、当該反力を発生させるためのコンプレッサによるダンパー作用を利用して、当該反力に対して十分に小さい力で付勢することで当該復元力を実現することができる。従って、伸縮可能な触力覚提示素子22に対して、縮長方向への利用者の指先による押し込み力が無くなると、触力覚提示素子22は伸長し、初期長さに復元する。
接触検知部31は、前述した変位量検知部11による各触力覚提示素子22の変位量の監視機能を利用し、各触力覚提示素子22における圧力センサ23のセンサ出力から利用者の指先が触れたか否かを検知する機能部である。接触検知部31は特に、利用者の指先に装着された高分解能触力覚提示素子5の刺激ピン51が触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22における圧力センサ23に接触した状態を検知して刺激ピン長決定部33に通知する。
或いは、接触検知部31は、当該圧力センサ23のセンサ出力を基に指先が触力覚提示素子22に触れたか否かを検知する以外にも、刺激ピン長監視部32から得られる刺激ピン長の情報を取得して初期位置から変化したか否かを基に、指先が触力覚提示素子22に触れたか否かを検知する。接触検知部31は、或いはその双方の情報を基に指先が触力覚提示素子22に触れたか否かを検知するよう構成してもよい。
刺激ピン長監視部32は、駆動ユニット6から得られるエンコーダ出力(図2を参照して後述する)を利用して、高分解能触力覚提示素子5の本体から突出する刺激ピン51の長さを監視する。そして、刺激ピン長監視部32は、常時、その刺激ピン51の長さを示す情報を刺激ピン長決定部33に出力(通知)する。尚、刺激ピン長監視部32は、当該エンコーダ出力を利用して、被接触対象(触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22)が反力発生状態にあるか否かを推定し、反力発生状態にある場合、反力発生状態の信号(その状態を示す旨)を刺激ピン長決定部33に出力(通知)する。
刺激ピン長決定部33は、接触検知部31から刺激ピン51が触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22における圧力センサ23に接触した旨の通知を受け、刺激ピン長監視部32から被接触対象(触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22)が反力発生状態にある旨の通知を受けると、三次元モデルデータベース15に1つ以上格納されている三次元モデルのモデルデータのうち三次元モデル設定部14により選択されている1つの三次元モデル(仮想物体)の形状データを参照して、刺激ピン長監視部32から得られる刺激ピン51の長さを示す情報を基に当該三次元モデル(仮想物体)の形状データに対応する刺激ピン51の長さを決定する。さらに、刺激ピン長決定部33は、当該三次元モデルの形状データに含まれる硬度データに対応する反力を算出し、その刺激ピン51の長さ情報及び反力情報を刺激ピン長・反力制御部34に出力(通知)する。
刺激ピン長・反力制御部34は、刺激ピン長決定部33から当該刺激ピン51の長さ情報及び反力情報を取得すると、実際の高分解能触力覚提示素子5の対応する刺激ピン51が当該通知された刺激ピン51の長さ情報及び反力情報に対応させて、駆動ユニット6を介して当該高分解能触力覚提示素子5の対応する刺激ピン51の長さ及びその反力を制御する。
尚、接触検知部31、刺激ピン長監視部32、刺激ピン長決定部33、及び刺激ピン長・反力制御部34は、各高分解能触力覚提示素子5が備える複数の刺激ピン51毎に個別に制御動作する。
(触力覚提示装置)
図2は、本発明による第1実施形態の三次元形状提示システム1における高分解能触力覚提示素子5及び駆動ユニット6の概略構成を示す図である。
高分解能触力覚提示素子5は、利用者の指先に装着可能な箱状体の「触力覚提示装置」として構成されており、その内部構造は、図2に示すように、複数の刺激ピン51をそれぞれの案内溝52により相対移動可能に支持しており、各刺激ピン51を所定のストロークで伸縮可能としている。各刺激ピン51の基端側は、ワイヤ53の一端が刺激ピン51に接続される。また、ワイヤ53の他端は、駆動ユニット6内のスライダ62の取着部62aに接続される。高分解能触力覚提示素子5と駆動ユニット6とを接続するケーブル5aは、各刺激ピン51用のワイヤ53を収容する構造となっている。
駆動ユニット6は、エンコーダ64を内蔵する電動モータ63、電動モータ63の回転駆動軸に連結されるスパイラルシャフト61、及び、スパイラルシャフト61の長手方向に移動可能に支持されるスライダ62から構成される。電動モータ63の回転駆動軸の回転はスパイラルシャフト61の回転を伴い、スパイラルシャフト61の回転はスライダ62の直線移動へと変換されるようになっている。従って、対応関係にある刺激ピン51の長さとスライダ62の位置は一体的に移動する。そして、エンコーダ64は、電動モータ63の回転駆動軸の回転量を示すエンコーダ出力を発生させ、制御ユニット3の刺激ピン長監視部32へ出力するよう構成されている。
また、電動モータ63は、トルク制御可能なモータであれば任意であり、例えば誘導モータであってもよく、トルク制御対応のステッピングモータであってもよい。電動モータ63は、制御ユニット3の刺激ピン長・反力制御部34からのモータ制御信号によってトルクが制御される。尚、エンコーダ64は電動モータ63に対し外部に設けられる構成でもよいし、電動モータ63を駆動するための駆動回路は、駆動ユニット6内か、又は制御ユニット3の刺激ピン長・反力制御部34内に設けられる(図示せず)。
各刺激ピン51の突出する長さの初期状態(利用者による被接触対象物に対する押し込み力が無い状態)は、当該所定のストロークの最長位置に設定されている。そして、制御ユニット3の制御により、利用者による被接触対象物(本例では、触力覚提示ユニット2)に対する接触が検知されると、電動モータ63を駆動制御することで高分解能触力覚提示素子5の本体から突出する各刺激ピン51の長さを制御する。
ただし、電動モータ63のトルクに応じたスライダ62aの推力は、刺激ピン51の長さ及びその反力を制御するまでは、利用者による被接触対象物(本例では、触力覚提示ユニット2)に対する押し込み力より弱い状態であり、尚且つ触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22の伸縮に要する当該復元力より強い保持力を有するよう設定する。従って、当該利用者による刺激ピン51の押し込み力に応じてワイヤ53を経てスライダ62aが移動し、この移動に応じてスパイラルシャフト61が回転する。さらに、スパイラルシャフト61の回転がエンコーダ64のエンコーダ出力を発生させて制御ユニット3へと出力される。これにより、刺激ピン長監視部32は、駆動ユニット6を経て高分解能触力覚提示素子5の本体から突出する刺激ピン51の長さを監視することができる。
一方、制御ユニット3の刺激ピン長・反力制御部34によって三次元モデル(仮想物体)の形状データに対応する刺激ピン51の長さ及び反力を発生させるときは、電動モータ3のトルクを制御しスライダ62aの移動を付勢する推力を、モータ制御信号によって当該押し込み力より強い状態にする。利用者によって当該押し込み力が異なる場合でも、エンコーダ64のエンコーダ出力によって刺激ピン51の長さを監視しているため、制御ユニット3はその推力を発生させるための電動モータ3のトルクを適応制御することができる。
高分解能触力覚提示素子5における刺激ピン51の数及び配置は、1本の刺激ピン51で構成してもよく、高分解能を提示する場合には、刺激ピン51を2本以上とし、3〜5本程度としてもよい。また、図3(a)に示すように、例えば3本の刺激ピン51を直線状に配置することも可能であるが、面を提示できるようにするため、3本の刺激ピン51であれば三角形に配置することや(図3(b)参照)、4本の刺激ピン51であれば四角形に配置してもよく(図3(c)参照)、5本の刺激ピン51であれば四角形に4本及びその中央に1本配置する構成としてもよい(図3(d)参照)。そして、仮想物体の三次元形状の輪郭が、被接触対象の形状(触力覚提示ユニット2が提示する形状)の輪郭より高い解像度を持つ領域を有している場合には、複数の刺激ピン51の各々の間隔は、該領域に対応する当該被接触対象物の形状の輪郭より狭くなるよう配置されている。
このように、本実施形態における三次元形状提示システム1では、触力覚提示ユニット2における触力覚提示素子22と、1以上の高分解能触力覚提示素子5とにより、提示する仮想物体に相当する三次元モデルの形状や硬度を提示するよう構成している。
これは、触力覚提示ユニット2における触力覚提示素子22では提示できない微細な形状を、1以上の高分解能触力覚提示素子5により提示可能とするためである。以下、より具体的に、触力覚提示ユニット2における触力覚提示素子22の詳細構造と動作、並びに高分解能触力覚提示素子5の動作について順に説明する。
(触力覚提示ユニットにおける触力覚提示素子の詳細構造例)
図4(a), (b)は、それぞれ本発明による第1実施形態の三次元形状提示システム1における触力覚提示ユニット2及びその触力覚提示素子22の概略構成を示す斜視図及び平面図である。
本実施形態の触力覚提示ユニット2は、図4(a)に示すように、球状の基台部20に、入れ子構造により伸縮可能とした棒状(より正確には長細の多段筒状)の触力覚提示素子22が複数配設されて、全体として手のひらサイズに構成されている。尚、本例の基台部20は、入れ子構造により伸縮可能とする機構が内蔵できるよう中空としている。各触力覚提示素子22は、基台部20における予め区画された基台座標上に1つずつ配置され、その基端部が固定されており、三次元空間の全方向に基台部20から突起して伸在されている。そして、それぞれの触力覚提示素子22には、利用者の指先との接触点(即ち、触力覚提示素子22の先端部)に圧力センサ23が設けられている。
尚、基台部20は、その内部に、各触力覚提示素子22に設けられた圧力センサ23からの配線を制御ユニット3へと中継接続する回路基板(図示せず)を内蔵する。本実施形態では、基台部20を球状とした例を説明する。なお、基台部20は必ずしも球状である必要はなく、直方体でも多面体でもよいし、鉄アレイ状など、より複雑な形状とすることもできる。
各触力覚提示素子22は、例えば図4(b)に示すように、入れ子構造により伸縮可能とした伸縮機構24により構成される。各触力覚提示素子22は、5段の伸縮機構24‐1〜24‐5で構成すると、図示する最大伸長時の状態から、概ね最下段の伸縮機構24‐5の高さまで縮長できる。尚、各触力覚提示素子22は、楕円柱状や多角注状に構成してもよいが、この伸縮動作の摺動性を高めるために図示するように略円柱状とするのが好ましい。また、本実施形態では、各触力覚提示素子22の最大伸長時の高さ(即ち、初期長さ)を略同一とする例を示しているが、別個の高さで組み合わせたものとしてもよく、このため伸縮機構の段数も別個に定めることができる。
触力覚提示ユニット2は、基台部20に複数の触力覚提示素子22を配置する際に、触力覚を提示する解像度を高めるべく、なるべく密集するように配置するのが好ましい。即ち、図5(a)に示すように基台部20から略球状に全方向に放射して伸長した初期長さの状態にある各触力覚提示素子22に対して、図5(b)に示すように、利用者の指先へ本発明に係る高分解能触力覚提示素子5の装着が無い状態でも、手のひらで触力覚提示ユニット2を包み持ったときに(即ち、把持したときに)、その触力覚提示素子22が縮長し、提示する仮想物体に対応する三次元モデルの予め決められた変位量でその縮長を停止するよう制御ユニット3により制御する。これにより、触力覚提示ユニット2は、手のひらで触力覚提示ユニット2を把持したときに反力が生じ、提示する仮想物体に対応する三次元モデルの形状及び硬度を知覚させることができる。
そして、触力覚提示ユニット2は、伸縮可能な触力覚提示素子22に対して、縮長方向への指等による押し込み力が弱まるか、又はその押し込み力が無くなると、図5(a)に示すように触力覚提示素子22は伸長し、初期長さに復元するようになっている。後述するように、触力覚提示素子22は、当該反力に対して十分に小さい力で付勢する圧縮バネや、当該反力を発生させるためのコンプレッサによるダンパー作用を利用して当該反力に対して十分に小さい力で付勢することでその復元力を実現することができる。このように触力覚提示素子22を伸縮可能に入れ子構造とすることで、単にソレノイドを用いて伸縮可能とする構成よりも伸縮範囲を大きくとることができ、三次元モデルの形状及び硬度の提示範囲を拡大させることができる。
次に、図6を参照して、触力覚提示素子22の構成例として幾つかの例を説明する。図6(a), (b), (c)は、それぞれ本発明による第1実施形態の三次元形状提示システム1における触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22に関する構成例を示す平面透視図であり、図6(d)は触力覚提示素子22の先端部に設けられる可撓性生地28を例示する断面図である。尚、同様な構成要素には同一の参照番号を付している。
図6(a)に例示する触力覚提示素子22は、伸縮機構24(図示する例では、5段の伸縮機構24‐1〜24‐5)により伸縮可能に入れ子構造を有し、その筒状の内部に空気又はオイル等の加圧材25がほぼ充満されている。そして、反力発生部13をコンプレッサにより構成する。手のひらサイズの触力覚提示ユニット2に複数配設する触力覚提示素子22の大きさ程度の圧力制御であれば、コンプレッサのサイズも携帯可能な大きさで実現することができる。制御ユニット3は、変位量検知部11により、各触力覚提示素子22における圧力センサ23に接続される信号線23aを経て圧力センサ23のセンサ出力を得ることができ、このセンサ出力から各触力覚提示素子22の変位量(即ち、指等による押し込み量に相当)を監視する。
そして、制御ユニット3は、反力算出部12により、三次元モデルの形状に相当する変位量に達する触力覚提示素子22に対して、当該三次元モデルの硬度に相当する反力として該変位量における縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力を算出する。そして、制御ユニット3は、反力発生部13として構成するコンプレッサにより、チューブ25aを経て触力覚提示素子22内にほぼ充満されている空気又はオイル等の加圧材25の圧力を変化させ、当該ブレーキ力を該触力覚提示素子22に生じさせるよう制御する。一方、制御ユニット3は、変位量検知部11により、当該仮想物体の形状に相当する変位量に未到達、又は到達後に未到達となる触力覚提示素子22に対しては反力算出部12を介してその未到達である旨を反力発生部13に指示する。制御ユニット3から未到達である指示を受けた反力発生部13は、当該三次元モデルの硬度に相当するブレーキ力を反力として該触力覚提示素子22に発生させるのを解除して、触力覚提示素子22の初期長さへ向かわせる復元力を該触力覚提示素子22に発生させる。
このように、図6(a)に例示する触力覚提示素子22では、触力覚提示素子22内にほぼ充満されている空気又はオイル等の加圧材25の圧力をコンプレッサにより変化させるダンパー作用により、触力覚提示素子22の初期長さへ向かわせる復元力の発生と、三次元モデルにおける当該三次元モデルの硬度に相当する反力として縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力の発生が制御されるよう構成されている。
図6(b)に例示する触力覚提示素子22は、図6(a)に例示する構成に加えて、その復元力を助力するために、当該反力に対して十分に小さい力で付勢する圧縮バネ26(即ち、反力として非動力源である圧縮バネ)が、触力覚提示素子22の筒状の内部にて基端部から先端部まで延在するよう設けられている。また、触力覚提示素子22は、図6(a)に例示する構成と同様に、その筒状の内部に空気又はオイル等の加圧材25がほぼ充満されている。この場合も、図6(b)に例示する触力覚提示素子22は、制御ユニット3により図6(a)に例示する構成と同様に制御することで、復元力の発生と、反力(即ち、ブレーキ力)の発生を制御する。ただし、圧縮バネ26の利用により、復元力の発生のための油圧制御は大まかでもよくなり、図6(a)に例示する構成の場合よりも簡単になる。
一方、図6(c)に例示する触力覚提示素子22は、伸縮機構24(図示する例では、5段の伸縮機構24‐1〜24‐5)により伸縮可能に入れ子構造を有し、その先端部に圧力センサ23が設けられている点で上述の図6(a),(b)に例示する構成と同様であるが、その筒状の内部に加圧材25を用いていない点で相違する。代わりに、触力覚提示素子22の筒状の内部には、図6(b)に例示する構成で説明したような圧縮バネ26が当該復元力の発生のために基端部から先端部まで延在するよう設けられている。更に、触力覚提示素子22の筒状の内部には、当該反力の発生のために本例では上位4段の伸縮機構24‐1〜24‐4の内壁(又は外壁)に、それぞれ一対の圧電素子27‐1〜27‐4が貼付されている(総括して「圧電素子27」と称する。)。そして、触力覚提示素子22は、反力発生部13を、圧電素子27を駆動する圧電素子駆動回路により構成する。
制御ユニット3は、変位量検知部11により、各触力覚提示素子22における圧力センサ23に接続される信号線23aを経て圧力センサ23のセンサ出力を得ることができ、このセンサ出力から各触力覚提示素子22の変位量(即ち、指等による押し込み量に相当)を監視する。
この場合の制御ユニット3は、反力算出部12により、三次元モデルの形状に相当する変位量に達する触力覚提示素子22に対して、当該三次元モデルの硬度に相当する反力として該変位量における縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力を算出する。そして、制御ユニット3は、反力発生部13として構成する圧電素子駆動回路により、信号線27aを経て圧電素子27を制御して当該ブレーキ力を該触力覚提示素子22に生じさせるよう制御する。一方、制御ユニット3は、変位量検知部11により、当該仮想物体の形状に相当する変位量に未到達、又は到達後に未到達となる触力覚提示素子22に対しては、反力算出部12を介してその未到達である旨を反力発生部13に指示する。そして、未到達である旨を受け付けた反力発生部13は、当該三次元モデルの硬度に相当するブレーキ力の発生を解除し、圧縮バネ26による復元力により触力覚提示素子22の初期長さへ向かわせる。
圧電素子27は、その筒状の円周上に設置する必要はなく、対面の二箇所もしくは四箇所程度に貼付すれば十分である。例えば、各段の圧電素子27に触力覚提示素子22の伸縮方向に向かって波状の振動を表面弾性波現象によって発生させると、各段の伸縮機構24‐1〜24‐4におけるその伸縮方向への移動を妨げる摩擦力を生じさせることができる。更に、圧電素子27は、圧電素子27による振動振幅は圧カセンサ23のセンサ出力に応じて変化させることで、その摩擦力の大きさを制御することができる。これを利用して、圧電素子27は、三次元モデルにおける当該三次元モデルの硬度に相当する反力として縮長方向への押し込み力に対するブレーキ力を発生させることができる。
尚、触力覚提示素子22に押し込み力がほとんど無く触れている状態では、強い抵抗を感じさせないようにするのが好ましい。例えば、図6(a),(b)に例示する触力覚提示素子22において、初期長さにある状態で完全に圧縮空気やオイル等の加圧材25を高い圧力で充満させておくと、その加圧材25の高い圧力で押し込み力がほとんど無く触れている状態でも触力覚提示素子22の反発力を僅かに感じてしまうため、その初期長さにある状態では低圧力となるよう加圧材25を充満させるのが有効である。このため、図6(b)に例示する触力覚提示素子22のように、当該復元力のために圧縮バネ26を併用する場合には、三次元モデルの形状を提示する範囲内で少なめに加圧材25を充満させるよう構成することもできる。尚、圧縮空気やオイル等の加圧材25の圧力調整は加圧材25の送り込み量で制御することができる。このため、反力の発生については、圧カセンサ23によって検知される押し込み力(即ち、変位量)に応じて、三次元モデルの形状及び硬度を提示可能に自動的に調整することができる。
また、圧縮空気やオイル等の加圧材25を触力覚提示素子22内に充満させるにあたり、触力覚提示素子22内に高柔軟性の袋状容器を収容させ、この袋状容器とチューブ25aを流通可能に接続することで、触力覚提示素子22の外部への漏れを防止することができる。
また、図6(b),(c)に例示する触力覚提示素子22のように、当該復元力のために圧縮バネ26を用いる場合でも、断面径の小さい態様でより長尺に伸縮するよう形成するのが容易であり、その制御構成も単純化することができる。圧縮バネ26の一例として、スプリングコイルとすることができる。尚、圧縮バネ26を用いる場合、触力覚提示ユニット2を把持するときに、押し込み力がほとんど無く触れている状態でも触力覚提示素子22の反発力を僅かに感じてしまうが、この反発力は、当該提示する反力(ブレーキ力)に比べて十分に小さい力で付勢するものとすることで、三次元モデルの形状及び硬度の知覚に影響しなくなる。
以上のような入れ子構造の触力覚提示素子22を多数配設して、触力覚提示ユニット2を構成することで、例えばソレノイドを用いて基台部20内に複数の固定棒を出し入れするような構成とするよりも、基台部20自体をより小型化することができる。このため、提示する三次元モデルの大きさの変化幅を拡大することができる。特に、触力覚提示素子22の伸縮機構24の1段の長さも小さくすることや、伸縮機構24の段数を増加させることで、提示する三次元モデルの大きさの変化幅を拡大することができる。
また、図6(d)に示すように、可撓性生地28で各触力覚提示素子22の先端部を覆うよう構成しているため、触力覚の提示解像度を補間的に高めることができる。
(触力覚提示ユニットにおける触力覚提示素子の制御動作)
次に、図7及び図8を参照して、本実施形態の三次元形状提示システム1における触力覚提示ユニット2に関する制御ユニット3の制御を説明する。図7は、本実施形態の三次元形状提示システム1における触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22に関する制御ユニット3の制御を示すフローチャートである。図8(a)は、それぞれ本実施形態の三次元形状提示システム1における制御ユニット3の制御に関する触力覚提示素子22の動作説明図であり、図8(b)は、その触力覚提示素子22に反力を発生させるための三次元モデルのモデルデータを示すテーブル例である。
制御ユニット3は、変位量検知部11により、触力覚提示ユニット2の基台部20における予め定めた基台座標21ごとに設けられた各触力覚提示素子22における圧力センサ23のセンサ出力から、各触力覚提示素子22の変位量(即ち、指等による押し込み量に相当)を監視しており、まず押し込みの有無を判別する(ステップS1)。
変位量検知部11は、「押し込み無し」と判別するときは(ステップS1:No)、「押し込み有り」となるまで監視を継続し、「押し込み有り」と判別すると(ステップS1:Yes)、初期位置(初期長さ)からの変位量が、提示する三次元モデルの形状の位置に到達したか否かを判別する(ステップS2)。
続いて、制御ユニット3は、変位量検知部11により、当該変位量が、提示する三次元モデルの形状の位置に到達していないと判別すると(ステップS2:No)、到達するまで監視を継続する。制御ユニット3は、当該変位量が、提示する三次元モデルの形状の位置に到達したと判別すると(ステップS2:Yes)、反力算出部12により、当該三次元モデルで表現可能な仮想物体の硬度に相当する反力として該変位量における縮長方向への押し込み力に対する反力(ブレーキ力)を算出する(ステップS3)。
例えば、図8(a)に示す初期位置(初期長さ)からの変位量が、提示する三次元モデルの形状の位置となる変位量Lであるか否かは、三次元モデルデータベース15に格納される三次元モデルのモデルデータのテーブルである図8(b)を参照することで判別する。三次元モデルのモデルデータには、予め定めた基台座標21(x,y,z)上に固有に設けられた各触力覚提示素子22について、三次元モデルの座標(X,Y,Z)と対応付けられており、その提示する三次元モデルの形状の位置に対応する変位量Lがそれぞれ割り当てられている。尚、これらの座標定義は一例を示したにすぎず、慣性系や回転座標系など任意である。
そして、三次元モデルのモデルデータとして、提示する三次元モデルの形状を示す変位量Lに反力係数Kを対応付けて定めておくことで、三次元モデルの硬度に相当する反力として押し込み力に対するブレーキ力を算出することができる。例えば、圧力センサ23のセンサ出力Svは初期位置(初期長さ)からの変位量に比例した値として得られ、提示する三次元モデルの形状を示す変位量Lが更に縮長したときに比例したときの長さに相当して得られる圧力センサ23のセンサ出力ΔSvと、三次元モデルのモデルデータの反力係数Kを用いて、三次元モデルの硬度に相当する反力F(ブレーキ力)は、
F=K・ΔSv
として得ることができる。従って、この反力係数Kは、その三次元モデルの硬さ(或いは柔らかさ)を定義付けることができる。
続いて、制御ユニット3は、反力発生部13により、当該ブレーキ力を該触力覚提示素子22に生じさせるよう制御する(ステップS4)。
また、制御ユニット3は、継続して、変位量検知部11により、各触力覚提示素子22における圧力センサ23のセンサ出力から、各触力覚提示素子22の変位量を監視して、提示する三次元モデルの形状の位置を維持しているか否かを判別する(ステップS5)。
このとき、変位量検知部11は、当該変位量が、提示する三次元モデルの形状及び硬度の位置を維持していないと判別するときは(ステップS5:No)、ステップS1に移行し、当該変位量が、提示する三次元モデルの形状の位置を維持していると判別するときは(ステップS5:Yes)、その変位量に応じたブレーキ力を該触力覚提示素子22に生じさせるようステップS3に移行する。
このように、制御ユニット3によって、各触力覚提示素子22の変位量に関して、この変位量に応じて提示する三次元モデルの形状及び硬度を提示するよう各触力覚提示素子22の反力を発生可能に制御することで、多様性の有る三次元モデルの形状及び硬度を1つの触力覚提示ユニット2で提示することができる。
ただし、テレスコピックパイプ状の入れ子構造による触力覚提示素子22を多数配置して構成される触力覚提示ユニット2は、触力覚提示素子22の先端部を可撓性生地28で覆うように構成して触力覚の提示解像度を補間的に高めるようにしているが、利用者の指先への刺激として三次元形状を提示するにはその提示解像度に限界がある。
即ち、提示する三次元形状のサイズが大きくなると触力覚提示素子22が伸びることで触力覚提示素子22の先端部同士の間隔が広くなる。そのため、触力覚提示素子22の先端部を可撓性生地28で覆われた面が平面となり、滑らかな形状を提示するにはその提示解像が不足しうる。従って、触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22のみでは、多角形を触っているようで滑らかな形状を提示することができないことがある。これは、三次元形状の解像度(ポリゴン数に相当)の低下を意味する。
このため、本実施形態の三次元形状提示システム1では、図1及び図2に示すように、本発明に係る高分解能触力覚提示素子5を利用者の指先に嵌めて使用可能としている。以下、高分解能触力覚提示素子の動作について詳細に説明する。
(高分解能触力覚提示素子の動作)
図9は、本発明による第1実施形態の三次元形状提示システム1における高分解能触力覚提示素子5に関する制御ユニット3の制御を示すフローチャートである。
まず、制御ユニット3は、接触検知部31により、刺激ピン51の押し込み有無を検知する(ステップS11)。
制御ユニット3は、接触検知部31により、刺激ピン51の押し込みが検知されるまで待機し(ステップS11:No)、刺激ピン51の押し込みが検知されると(ステップS11:Yes)、ステップS12に移行する。
続いて、制御ユニット3は、刺激ピン長監視部32により、駆動ユニット6から得られるエンコーダ出力を利用して、高分解能触力覚提示素子5の本体から突出する刺激ピン51の長さを監視し、被接触対象物(本例では、触力覚提示ユニット2)が反力発生状態にあるか否かを推定する。即ち、電動モータ63のトルクに応じたスライダ62aの推力は、刺激ピン51の長さ及びその反力を制御するまでは、利用者による被接触対象物(本例では、触力覚提示ユニット2)に対する押し込み力より弱い状態であり、尚且つ触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22の伸縮に要する当該復元力より強い保持力を有するよう設定されているため、刺激ピン51の長さの変化が停止した状態を検知することで、触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22が反力発生状態にあることを検知することができる。
制御ユニット3は、刺激ピン長監視部32により、被接触対象物(触力覚提示ユニット2の触力覚提示素子22)が反力発生状態にあることを検知するまで待機し(ステップS12:No)、当該反力発生状態を検知すると(ステップS12:Yes)、ステップS13に移行する。尚、刺激ピン長監視部32は、高分解能触力覚提示素子5の本体から突出する刺激ピン51の長さを監視しており、常時、その刺激ピン51の長さを示す情報を刺激ピン長決定部33に通知している。
続いて、制御ユニット3は、刺激ピン長決定部33により、当該刺激ピン51の長さを示す情報を基に当該三次元モデル(仮想物体)の形状データに対応する刺激ピン51の長さを決定するとともに、当該三次元モデルの形状データに含まれる硬度データに対応する反力を算出する(ステップS13)。図10を参照して後述するが、刺激ピン長決定部33は、被接触対象の三次元形状(触力覚提示ユニット2が提示する形状)の輪郭データと、提示する三次元モデル(仮想物体)の形状の輪郭データとの差分により刺激ピン51の長さを決定する。
続いて、制御ユニット3は、刺激ピン長・反力制御部34により、当該三次元モデルの形状データに対応するよう刺激ピン51の長さ制御を実行し(ステップS14)、続いて当該三次元モデルの形状データに含まれる硬度データに対応するよう反力制御を実行する(ステップS15)。
ここで、図10を参照して、当該三次元モデル(仮想物体)の形状データに対応する刺激ピン51の長さの決定方法について説明する。図10は、本発明による第1実施形態の三次元形状提示システム1における触力覚提示ユニット2に対する高分解能触力覚提示素子5の動作説明図である。
図10には、触力覚提示ユニット2が提示する形状(低解像度の三次元形状)の輪郭(図示する可撓性生地28の実線部分)と、実際に提示する当該三次元モデル(仮想物体)の滑らかな形状(高解像度の三次元形状)の輪郭(図示する破線)との関係を部分的に示しており、高分解能触力覚提示素子5の刺激ピン51が当該可撓性生地28の表面に触れて押圧している状態を図示している。
指先に装着する高分解能触力覚提示素子5の刺激ピン51の位置は、触力覚提示ユニット2における圧力センサ23により検知した隣接する触力覚提示素子22を基準に定める。当該隣接する触力覚提示素子22の伸縮方向の交点を中心点Oとし、中心点Oから各触力覚提示素子22の圧力センサ23が配置される先端部までの長さをそれぞれPn,Pn+1として定める。Pn,Pn+1は、触力覚提示ユニット2が形状提示する時点で定まる値である。このとき刺激ピン51に隣接する触力覚提示素子22を2本とすると、その角度θも定まる。尚、触力覚提示ユニット2が図4(a)に示すように球状であればθは一定である。そして、2本の触力覚提示素子22の間に位置する刺激ピン51の位置は、一方の触力覚提示素子22からの傾斜角として角度αnとしたとき、αnの関数で表すと中心点Oから刺激ピン51の位置までの長さLn(αn)は、式(1)で表される。
中心点Oから刺激ピン51の位置までの長さLn(αn)の伸長方向の線分と実際に提示する当該三次元モデル(仮想物体)の滑らかな形状の輪郭との交点を定め、該交点と刺激ピン51の位置までの長さを、高分解能触力覚提示素子5の本体から突出させる刺激ピン51の長さXn(αn)として近似決定する。
これにより、高分解能触力覚提示素子5を装着した指先で低解像度の三次元形状を提示する触力覚提示ユニット2を触ることで、当該三次元モデル(仮想物体)の滑らかな形状の輪郭を提示することができる。
そして、この長さXn(αn)とする刺激ピン51の長さで、実際に提示したい当該三次元モデル(仮想物体)の硬度データを基に、制御ユニット3により電動モータ63のトルクに応じたスライダ62aの推力をより強く、或いはより弱く制御することで、その硬さや柔らかさも提示することができる。
尚、図10に示す例では、二次元的に2本の触力覚提示素子22を対象にした例を説明したが、より多くの触力覚提示素子22を対象にしてその重心位置から刺激ピン51の位置を検出することができ、三次元的に演算して長さXn(αn)を定めることができる。
また、図10に係る説明では、刺激ピン51の長さXn(αn)を定めるにあたり、当該三次元モデル(仮想物体)の形状データからその都度、刺激ピンの長さXn(αn)を演算する例とした。このような演算を不要とするために、触力覚提示ユニット2と当該三次元モデル(仮想物体)が予め特定されていることから、触力覚提示ユニット2における外表面上の座標点を高解像度座標に設定し基台部20の基台座標21と対応付けておき、基台座標21を基にした高解像度座標の触力覚提示ユニット2が提示する輪郭と、三次元モデル(仮想物体)の輪郭との差分データを予め三次元モデルデータベース15内に保持しておくこともできる。これにより、制御ユニット3における刺激ピン長決定部33は当該差分データに対応する刺激ピン51の長さXn(αn)を迅速に決定することが可能となる。
このように低解像度の三次元形状と実際に提示したい三次元形状との差分の長さに比例させて刺激ピン51の長さを制御することで、低解像度の提示形状物体に刺激ピン51が触れたときに、その指先が当該三次元モデル(仮想物体)の表面より内側には入り込まず、実際に提示したい三次元モデル(仮想物体)の形状を提示することができる。
尚、本実施形態の三次元形状提示システム1は、触力覚提示ユニット2が提示する形状(低解像度の三次元形状)を基に制御するよう構成しているが、このような触力覚提示ユニット2以外の他の原理により三次元形状を提示する方式で被接触対象を構成するものでもよい。ただし、レリーフ造形のように高分解能触力覚提示素子5によって触れることができる方式に限定される。
そして、第1実施形態の三次元形状提示システム1では、より高解像化させた仮想物体の形状を提示するにあたり、触力覚提示ユニット2における基台部20によって定まる基台座標21を基準に三次元座標を規定しているため、触力覚提示ユニット2を自由に持ち移動させることもできる。
以上のように、本実施形態によれば、手のひら内に収めて把持可能な小物体の触力覚を提示することができ、その用途を拡大させることができる。また、三次元形状提示システム1の小型化の実現や低廉化も容易となる。更に、より高解像度に三次元形状を提示することができる。
〔第2実施形態〕
(システム構成)
図11は、本発明による第2実施形態の三次元形状提示システム1の概略構成を示す図である。本実施形態の三次元形状提示システム1は、触力覚提示ユニット2を被接触対象とせずに、実物体Objを被接触対象とする例であり、この実物体の形状を基に異なる形状となる三次元モデルで表現可能な仮想物体(即ち、仮想空間における視認性の有無を問わない物体)の触力覚を提示する装置として構成される。尚、第1実施形態と同様な構成要素には、同一の参照番号を付している。
本実施形態の三次元形状提示システム1は、制御ユニット3、触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子)5、駆動ユニット6、及び三次元磁気センサ位置計測装置7を備えるよう構成される。提示する三次元モデルのモデルデータは、制御ユニット3内に格納されており、必要に応じて外部の表示装置4(例えば、パーソナルコンピュータ)に表示させることができる。
本実施形態における触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子)5及び駆動ユニット6の構成は、第1実施形態と同様に構成される。
三次元磁気センサ位置計測装置7は、磁界発生ユニット71によって発生する磁界を基に、計測ユニット72‐1,72‐2により、触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子)5とともに指先に装着されるそれぞれの磁気センサ73‐1,73‐2の三次元位置をそれぞれ計測し、その三次元磁気センサ位置情報を出力する既存の装置である(例えば、http://www.ddd.co.jp/polhemus/参照)。
即ち、本実施形態では、第1実施形態と異なり、三次元磁気センサ位置計測装置7が計測した三次元座標で被接触対象の実物体Objの外形形状、及び利用者の指先位置を定義付けるため、被接触対象の実物体Objは固定位置に載置される。
本実施形態の制御ユニット3は、三次元モデル設定部14、三次元モデルデータベース15、三次元モデル表示制御部16、接触検知部31、刺激ピン長監視部32、刺激ピン長決定部33、刺激ピン長・反力制御部34、及び被接触対象計測設定部35を備える。
ここで、三次元モデル設定部14、三次元モデルデータベース15、三次元モデル表示制御部16、接触検知部31、刺激ピン長監視部32、刺激ピン長決定部33、及び刺激ピン長・反力制御部34の処理機能は、第1実施形態と同様である。ただし、本実施形態の制御ユニット3は、被接触対象計測設定部35を備えている点と、接触検知部31及び刺激ピン長決定部33の機能が一部異なる点で、第1実施形態とは相違している。
被接触対象計測設定部35は、固定位置に載置される被接触対象の実物体Objの外形形状を磁気センサ73‐1,73‐2を装着した指先で触れ、三次元磁気センサ位置計測装置7による計測ユニット72‐1,72‐2から三次元磁気センサ位置情報を取得することで、例えば図13に示すような実物体Objの外形形状を予め計測し、提示する三次元モデル(仮想物体)の形状及び硬度データと対応付けて三次元モデルデータベース15に設定するキャリブレーションを行う機能部である。
尚、実物体Objの外形形状が予め詳細に把握されている場合には、実物体Objを固定位置に載置した状態で、実物体Objの外形形状の数箇所を磁気センサ73‐1,73‐2を装着した指先で触れる(なぞる)のみで、当該実物体Objの詳細な外形形状を、三次元磁気センサ位置計測装置7が定義する三次元座標に整合させて三次元モデルデータベース15に設定することができる。
また、本実施形態では、当該実物体Objの輪郭に対応する三次元座標を基に、当該実物体Objの輪郭と提示する三次元モデル(仮想物体)の輪郭との差分データを三次元モデルデータベース15内に予め保持しておく。
また、本実施形態の接触検知部31は、磁気センサ73‐1,73‐2を装着した指先の三次元磁気センサ位置情報を基に指先が実物体Objの輪郭に触れたか否かを検知するか、又は刺激ピン長監視部32から得られる刺激ピン長の情報を取得して初期位置から変化したか否かを基に指先が実物体Objの輪郭に触れたか否かを検知するか、或いはその双方の情報を基に指先が実物体Objの輪郭に触れたか否かを検知する。
また、本実施形態の刺激ピン長決定部33は、磁気センサ73‐1,73‐2を装着した指先の三次元磁気センサ位置情報を基に、三次元モデルデータベース15内に予め保持している当該差分データに対応する刺激ピン51の長さXnを決定する(図14参照)。
(高分解能触力覚提示素子の動作)
図12は、本発明による第2実施形態の三次元形状提示システム1における高分解能触力覚提示素子5に関する制御ユニット3の制御を示すフローチャートである。
まず、制御ユニット3は、接触検知部31により、刺激ピン51の押し込み有無を検知する(ステップS11a)。
制御ユニット3は、接触検知部31により、刺激ピン51の押し込みが検知されるまで待機し(ステップS11a:No)、刺激ピン51の押し込みが検知されると(ステップS11a:Yes)、ステップS13aに移行する。
続いて、制御ユニット3は、刺激ピン長決定部33により、当該三次元モデル(仮想物体)の形状データに対応する刺激ピン51の長さXnを決定するとともに、当該三次元モデルの形状データに含まれる硬度データに対応する反力を算出する(ステップS13a)。
続いて、制御ユニット3は、刺激ピン長・反力制御部34により当該三次元モデルの形状データに対応するよう刺激ピン51の長さ制御を実行し(ステップS14a)、続いて当該三次元モデルの形状データに含まれる硬度データに対応するよう反力制御を実行する(ステップS15a)。
本実施形態によれば、図14に例示するように、三次元プリンタで作成したものや日常存在するような実物体を被接触対象としても、当該三次元モデル(仮想物体)を提示することができる。例えば本物のみかんを高分解能触力覚提示素子5によって触れると桃の形状となる等、実際の形状とは異なる変形した三次元形状を提示することも可能となる。ただし、この被接触対象は第1実施形態とは異なり、磁気センサ73‐1,73‐2によって三次元座標を定めておく必要があるため、自由に持ち運ぶことができず固定位置に載置されているものに限定される。
尚、本実施形態においても、利用者の装着対象とする指先は5本の指先のいずれでもよく、高分解能触力覚提示素子5を1つの指に装着するとしてもよいし、5本の指先の全てに装着する形態でもよい。ただし、2以上の高分解能触力覚提示素子5を異なる指先に設けることで、仮想物体の知覚化が高まる。このため、本実施形態では、2以上の高分解能触力覚提示素子5における複数の刺激ピン51について個別に長さ及び反力を生業できるようにしている。そして、利用者の両手の全ての指先に、高分解能触力覚提示素子5を装着した形態とすることも可能である。
〔第3実施形態〕
上述した第1実施形態及び第2実施形態の三次元形状提示システム1を組み合わせて、第3実施形態の三次元形状提示システム1を構成することができる。
従って、第3実施形態では、非伸縮性バンド5bを利用して触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子5)を装着するとともに、第2実施形態で説明した磁気センサ73‐1(73‐2)を指先に装着した例である。この第3実施形態の三次元形状提示システム1では、図1に示す三次元形状提示システム1と図11に示す三次元形状提示システム1における各構成要素(制御ユニット3や、三次元磁気センサ計測装置7等)をすべて備えるよう構成される。
このため、第3実施形態の三次元形状提示システム1では、被接触対象が第1実施形態で説明した触力覚提示ユニット2であるか、又は被接触対象が第2実施形態で説明した実物体であるかに応じて、制御ユニット3が高分解能触力覚提示素子5における刺激ピン51の長さ及び反力を制御するよう構成される。より具体的には、制御ユニット3は、被接触対象の輪郭データと、提示する三次元モデル(仮想物体)の形状の輪郭データとの差分により高分解能触力覚提示素子5における刺激ピン51の長さ及び反力を制御する。このため、制御ユニット3内の三次元モデル設定部13は、被接触対象の種別に応じて、三次元モデルデータベース15に1つ以上格納されている三次元モデルのモデルデータのうち1つを選択して設定できるように構成される。
図15は、被接触対象が第1実施形態で説明した触力覚提示ユニット2であるときの、本発明による第3実施形態の三次元形状提示システム1に関する触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子5)の説明図である。尚、図15は、第1実施形態に係る図10と対比して、磁気センサ73‐1(73‐2)を指先(本例では、非伸縮性バンド5b)に装着している点で相違しており、その他は同様である。
第3実施形態では、磁気センサ73‐1(73‐2)が指先に装着されるため、制御ユニット3は、被接触対象が第1実施形態で説明した触力覚提示ユニット2であるとき、その基台座標(図8(b)参照)を基に高分解能触力覚提示素子5)における刺激ピン51の長さ及び反力を制御することや、三次元磁気センサ位置情報(図13参照)を基に高分解能触力覚提示素子5)における刺激ピン51の長さを制御することを選択的に行うことができる。
そして、本実施形態であれば、被接触対象が第2実施形態で説明した実物体である場合にも、三次元モデル設定部13により被接触対象の種別に応じた三次元モデルを選択設定するのみで、高分解能触力覚提示素子5における刺激ピン51の長さ及び反力を制御することができる。
〔第4実施形態〕
図16は、本発明による第4実施形態の三次元形状提示システム1に関する触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子)5の説明図である。
第4実施形態では、第1乃至第3実施形態の更なる変形例として、刺激ピン51が指先側に触れるよう高分解能触力覚提示素子5を逆向き配置とし、非伸縮性バンド5bを利用する代わりに、伸縮性バンド5cを利用して触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子5)を装着する例である。尚、図16では、第3実施形態に係る図15と対比可能に図示している。
図16に示すように、高分解能触力覚提示素子5の本体(刺激ピン51とは逆面)を触力覚提示ユニット2等の被接触対象に接触させ、伸縮性バンド5cの伸縮性を利用して、制御ユニット3により指先側に触れる刺激ピン51の長さ及び反力を制御する。
ここで、制御ユニット3による刺激ピン51の長さの制御は、第1乃至第3実施形態と同様である。ただし、制御ユニット3による刺激ピン51の反力の制御は、その伸縮性バンド5cの伸縮力を加味した反力を提示するよう制御する。伸縮性バンド5cの伸縮力は、ゴム材で構成されその伸び量に応じた伸縮力が発生するため、刺激ピン51の長さの決定により一意にその伸縮力を決定することができ、このため刺激ピン51の提示する反力も三次元モデルに応じて決定することができる。
以上の各実施形態において、制御ユニット3は、1つの筐体内に全ての構成要素を備えるよう構成する必要はなく、その携帯性を高めるよう複数の筐体に分けて構成することができる。
また、制御ユニット3における変位量検知部11、反力算出部12、三次元モデル設定部14、三次元モデルデータベース15、三次元モデル表示制御部16、接触検知部31、刺激ピン長監視部32、刺激ピン長決定部33、及び刺激ピン長・反力制御部34は、1つのコンピュータとして機能させることができ、当該コンピュータに、これらの構成要素を実現させるためのプログラムは、当該コンピュータの内部又は外部に備えられるメモリ(図示せず)に記憶される。コンピュータに備えられる中央演算処理装置(CPU)などの制御で、各構成要素の機能を実現するための処理内容が記述されたプログラムを、適宜、メモリから読み込んで、これら各構成要素の機能をコンピュータに実現させることができる。ここで、各構成要素の一部の機能をハードウェアで実現してもよい。
以上、特定の実施形態の例を挙げて本発明を説明したが、本発明は前述の実施形態の例に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、刺激ピン51は、触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子5)の本体に対し出入することで伸縮する棒状体とする代わりに、図6(a)に示すような触力覚提示素子22と同様に、触力覚提示装置(高分解能触力覚提示素子5)の本体上で油圧や空気圧、バネ制御によって伸縮する入れ子構造体(テレスコピックパイプ)で構成してもよい。
また、第1実施形態における説明では、触力覚提示ユニット2を手のひらサイズで構成する例を説明したが、これは本発明によって実現される一例であり、手のひらサイズ以上の大きさで触力覚提示ユニット2を構成してもよい。
また、第2実施形態における説明では、被接触対象部が固定形状の実物体からなり、且つ該実物体の形状が磁気センサ73‐1(又は73‐2)により三次元座標が規定される例を説明したが、指先の位置を特定可能なセンサであれば任意のセンサとすることができる。
また、表示装置4はパーソナルコンピュータでなくとも携帯端末や表示パネルでもよく、1つの表示装置4に複数の三次元形状提示システム1を提示して共用表示・共用制御するよう構成することもできる。具体的な適用例として、或る三次元形状提示システム1が提示する三次元モデルを1つの表示装置4に表示させ、他の三次元形状提示システム1が当該或る三次元形状提示システム1が提示する三次元モデルのモデルデータを利用して触力覚を提示するよう共用接続する。これにより、1つの三次元モデルを同時共用して多数の利用者が個々に触力覚を感知することができるため、例えば美術館に展示される彫刻やレリーフなどを多数の利用者に対して個々に触力覚を感知させたい用途に適用できる。
また、表示装置4を必要せず、三次元形状提示システム1を利用する用途も想定される。例えば、1つの三次元形状提示システム1で視覚障害者向けに様々な物体形状を感知させたいときに有用となる。
また、肉眼で視認困難な分子構造を体感的に知得したいときなど、三次元モデルで表現可能な仮想物体は、仮想空間における視認性の有無を問わない物体を対象とすることができ、これに伴い、第1実施形態における基台部20の形状は、球状、楕円体、直方体、多面体、鉄アレイ状など、より複雑な形状とすることができる。