以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的であり、例えば各構成要素の厚さ、幅等の寸法は実際の構成要素の寸法と異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付け、説明を省略する場合がある。本明細書において「接続する」の用語は、直接接続する場合に限定されず、間接的に接続する意味を含んでいてもよい。
図1は電気化学反応装置の構成例を示す模式図である。電気化学反応装置は、図1に示すように、電解液槽11と、還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、イオン交換膜4と、流路50aないし50cと、を具備する。
電解液槽11は、収容部111と、収容部112と、を有する。電解液槽11の形状は、収容部となる空洞を有する立体形状であれば特に限定されない。電解液槽11の材料としては、例えば光を透過する材料が用いられる。
収容部111は、被還元物質を含む電解液21を収容する。被還元物質は、還元反応により還元される物質である。被還元物質は、例えば二酸化炭素を含む。また、被還元物質は水素イオンを含んでいてもよい。電解液21に含まれる水の量や電解液成分を変えることで、反応性を変化させ、非還元物質の選択性や生成する化学物質の割合を変えることができる。
さらに、電解液21は、水を含む液相21aと、有機溶媒を含み液相21aに接する液相21bとを有する。液相21aおよび液相21bの少なくとも一つの液相は、上記被還元物質を含み、還元電極31に接する。
収容部112は、被酸化物質を含む電解液22を収容する。被酸化物質は、酸化反応により酸化される物質である。被酸化物質は、例えば水、またはアルコールもしくはアミン等の有機物や酸化鉄などの無機酸化物である。電解液21と同じ物質が電解液22に含まれていてもよい。この場合、電解液21および電解液22が1つの電解液であるとみなされてもよい。
電解液22のpHは、電解液21のpHよりも高いことが好ましい。これにより、水素イオンや水酸化物イオン等が移動し易くなる。また、pHの差による液間電位差により酸化還元反応を効果的に進行させることができる。
電解液21の液相21aとしては、例えばLiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液を用いてもよい。液相21aは、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を含んでもよい。液相21aは、電解液22と同じであってもよい。しかしながら、二酸化炭素を含む電解液における二酸化炭素の吸収量は高いことが好ましい。よって、二酸化炭素を含む電解液として水を含む電解液と異なる溶液を用いてもよい。二酸化炭素を含む電解液は、二酸化炭素の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸収剤を含む電解液であることが好ましい。
液相21aとしては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4 −やPF6 −等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。例えば、式:[PEGm(mim)2](式中、PEGはポリエチレングリコールであり、mimはメチルイミダゾリウムであり、mは10以上10000以下の数である)で表される有機化合物等を用いることができる。
アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4 −、PF6 −、CF3COO−、CF3SO3 −、NO3 −、SCN−、(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド、ビストリフルオロメタンスルフォニルイミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で接続した双生イオンでもよい。なお、リン酸カリウム溶液等の緩衝溶液を収容部111、112に供給してもよい。
液相21bの有機溶媒としては、例えばトルエン、ベンゼン、オクタン、オクタノール、ジメチルホルムアミド、ヘキサン、キシレン、クロロベンゼン、酢酸エチル、クロロエチレン、ジクロロエチレン、酢酸、ホルマリン、ギ酸、アセトアルデヒド、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリオキサール、アセトニトリル、酢酸メチル、エチルメチルケトン、ジメチルエーテル、アセトン、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルスルホキシド (Dimethyl sulfoxide:DMSO)、ジメチルジスルフィド(Dimethyl disulfide:DMDS)、アプロティック溶媒としてヘキサメチルリン酸トリアミド(Hexamethylphosphoric Triamide:HMPA)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(N,N’−dimethylpropyleneurea:DMPU)等が挙げられ、これらの単体もしくは混合物を用いることができる。なお、親水性の有機溶媒を用いる場合、液相21bと液相21aとが分離されるように例えば他の疎水性の有機溶媒と組合わせて用いられることが好ましい。なお、液相21bが被還元物質を含む場合、有機溶媒に加え、上記液相21aに適用可能な電解液を含んでいてもよい。有機溶媒は、例えばイオン液体を含んでいてもよい。
電解液22としては、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4 2−)、ホウ酸イオン(BO3 3−)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl−)、炭酸水素イオン(HCO3 −)等を含む水溶液が挙げられる。また、電解液22が二酸化炭素を含む場合、液相21aに適用可能な電解液を用いてもよい。
還元電極31は、液相21aおよび液相21bの少なくとも一つの液相に接するように電解液21に浸漬される。図1に示す還元電極31は液相21aに接している。還元電極31は、例えば被還元物質の還元触媒を含む。還元触媒は、上記少なくとも一つに液相に接することが好ましい。還元反応により生成される化合物は、還元触媒の種類等によって異なる。還元反応により生成される化合物は、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の炭素化合物、または水素である。
還元電極31は、例えば薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤー状の構造を有してもよい。必ずしも還元電極31に還元触媒を設けなくてもよい。還元電極31以外に設けられた還元触媒を還元電極31に電気的に接続してもよい。
酸化電極32は、電解液22に浸漬される。酸化電極32は、例えば被酸化物質の酸化触媒を含む。酸化反応により生成される化合物は、酸化触媒の種類等によって異なる。酸化反応により生成される化合物は、例えば水素イオンである。
酸化電極32は、例えば薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤー状の構造を有してもよい。必ずしも酸化電極32に酸化触媒を設けなくてもよい。酸化電極32以外に設けられた酸化触媒を酸化電極32に電気的に接続してもよい。
酸化電極32が光電変換体33に積層され、かつ電解液22に浸漬される場合であって、酸化電極32を介して光電変換体33に光を照射して酸化還元反応を行う場合、酸化電極32は、透光性を有する必要がある。酸化電極32の光の透過率は、例えば酸化電極32に照射される光の照射量の少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。これに限定されず、例えば還元電極31を介して光電変換体33に光を照射してもよい。
イオン拡散効率は、還元電極31と酸化電極32との間隔が近いほど高い。このため、還元電極31は、酸化電極32に対向することが好ましい。このとき、受光側の電極を入射光に対して垂直に配置し、受光側の反対側の電極を入射光に対し平行に配置することが好ましい。
光電変換体33は、還元電極31に電気的に接続された面331と、酸化電極32に電気的に接続された面332と、を有する。なお、必ずしも光電変換体33が設けられなくてもよく、他の電源を酸化電極32および還元電極31に接続してもよい。電源としては、光電変換体を含む光電変換素子に限定されず、系統電源、蓄電池等の電源装置または風力、水力、地熱などの再生可能エネルギー等を用いてもよい。還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、は積層されている。還元電極31は面331に接し、酸化電極32は面332に接している。このとき、還元電極31、酸化電極32、および光電変換体33を含む積層体を光電変換セルともいう。光電変換セルは、イオン交換膜4を貫通して電解液21および電解液22に浸漬されている。
光電変換体33は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。電荷分離により発生した電子は還元電極側に移動し、正孔は酸化電極側に移動する。これにより、光電変換体33は、起電力を発生することができる。光電変換体33としては、例えばpn接合型またはpin接合型の光電変換体を用いることができる。光電変換体33は例えば電解液槽11に固定されていてもよい。なお、複数の光電変換体を積層することにより光電変換体33が形成されてもよい。還元電極31、酸化電極32、および光電変換体33のサイズは、互いに異なってもよい。
イオン交換膜4は、収容部111と収容部112とを区切るように設けられている。イオン交換膜4は、特定のイオンを通過させることができる。イオン交換膜4としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)や旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。
イオン交換膜4が例えばプロトン交換膜である場合、水素イオンを電解液21側に移動することができる。ナフィオン等の固体高分子膜であるイオン交換膜を用いることにより、イオンの移動効率を高めることができる。なお、必ずしもイオン交換膜4が設けられなくてもよく、イオン交換膜4の代わりに寒天等の塩橋を設けてもよい。
流路50aは、液相21aと電解液槽11の外部との間を接続する。流路50aは、液相21aに含まれる還元反応による生成物を回収するための流路である。なお、流路50aの形状は、配管等の空洞を有する形状であれば特に限定されない。また、生成物の種類ごとに別々の回収流路を設けてもよい。また、流路50aを蒸留器に接続する、または流路50aに分離膜等を設けることにより生成物を抽出して回収してもよい。さらに、流路50bとは別に液相21bの送入または送出を行うための流路を設けてもよい。さらに、流路50aとは別に液相21aの送入または送出を行うための流路を設けてもよい。
流路50bは、液相21bと電解液槽11の外部との間を接続する。流路50bは、液相21bに含まれる還元反応による生成物を回収するための流路である。流路50bの形状は、配管等の空洞を有する形状であれば特に限定されない。また、流路50bを蒸留器に接続する、または流路50bに分離膜等を設けることにより生成物を抽出して回収してもよい。さらに、流路50bとは別に液相21bの送入または送出を行うための流路を設けてもよい。
流路50cは、電解液22と電解液槽11の外部との間を接続する。流路50cは、電解液22に含まれる酸化反応による生成物を回収するための流路である。また、流路50cを蒸留器に接続する、または流路50cに分離膜等を設けることにより生成物を抽出して回収してもよい。さらに、流路50bとは別に液相21bの送入または送出を行うための流路を設けてもよい。流路50cの形状は、配管等の空洞を有する形状であれば特に限定されない。
次に、図1に示す電気化学反応装置の動作例について説明する。光電変換体33に光が入射すると、光電変換体33は、光励起電子および正孔を生成する。このとき、還元電極31には光励起電子が集まり、酸化電極32には正孔が集まる。これにより、光電変換体33に起電力が発生する。光としては、太陽光が好ましいが、発光ダイオードや有機EL等の光を光電変換体33に入射させてもよい。
電解液21の液相21aおよび電解液22として水および二酸化炭素を含む電解液を用い、一酸化炭素を生成する場合について説明する。酸化電極32周辺では、下記式(1)のように水の酸化反応が起こり、電子を失い、酸素と水素イオンが生成される。生成された水素イオンの少なくとも一つは、イオン交換膜4を介して収容部111に移動する。
2H2O → 4H++O2+4e− ・・・(1)
還元電極31周辺では、下記式(2)のように二酸化炭素の還元反応が起こり、電子を受け取りつつ水素イオンが二酸化炭素と反応し、一酸化炭素と水が生成される。また、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成される。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成されてもよい。
CO2+2H++2e− → CO+H2O ・・・(2)
2H++2e− → H2 ・・・(3)
光電変換体33は、酸化反応の標準酸化還元電位と還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、式(1)における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23[V]である。式(2)における還元反応の標準酸化還元電位は0.03[V]である。式(3)における還元反応の標準酸化還元電位は0Vである。このとき、式(1)と式(2)との反応では開放電圧を1.26[V]以上にする必要がある。
光電変換体33の開放電圧は、酸化反応の標準酸化還元電位と還元反応の標準酸化還元電位との電位差よりも過電圧の値以上高くすることが好ましい。例えば、式(1)における酸化反応および式(2)における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である。式(1)と式(2)との反応では、開放電圧を1.66[V]以上にすることが好ましい。同様に式(1)と式(3)との反応では、開放電圧を1.63[V]以上にすることが好ましい。
水素イオンや二酸化炭素の還元反応は、水素イオンを消費する反応である。このため、水素イオンの量が少ない場合、還元反応の効率が悪くなる。よって、電解液21と電解液22との間で水素イオンの濃度を異ならせ、濃度差により水素イオンを移動させやすくしておくことが好ましい。陰イオン(例えば水酸化物イオン等)の濃度を電解液21と電解液22との間で異ならせてもよい。イオン交換膜として陽イオン交換膜を用いる場合には陽イオンを移動させ、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用いる場合には陰イオンを移動させる。また、水素イオンの濃度差を高めるために、二酸化炭素を含まない不活性気体(窒素、アルゴン等)を例えば電解液22に直接吹き込み、電解液22に含まされる二酸化炭素を放出させて電解液22中の水素イオン濃度を低くする方法が考えられる。
式(2)の反応効率は、電解液中に溶存された二酸化炭素の濃度によって変化する。二酸化炭素濃度が高くなるほど反応効率は高くなり、低くなるほど低下する。式(2)の反応効率は、炭酸水素イオンや炭酸イオン濃度によっても変化する。しかしながら、炭酸水素イオン濃度や炭酸イオン濃度は、電解液濃度を高めることやpHを調整することによって調整できるため、二酸化炭素濃度よりも調整させやすい。なお、酸化電極と還元電極との間にイオン交換膜4を設けても二酸化炭素ガスや炭酸イオン、炭酸水素イオン等がイオン交換膜4を通過してしまうため、完全に性能低下を防ぐことは困難である。二酸化炭素濃度を高める方法としては、例えば電解液21に直接二酸化炭素を吹き込む方法が考えられる。このとき、電解液21中に多孔質層を設け、多孔質層を介して二酸化炭素を供給することにより、電解液21中の二酸化炭素濃度を高めることができる
本実施形態の電気化学反応装置では、電解液21が水を含む液相21aと有機溶媒を含む液相21bとを有する。液相21aが還元電極31に接する場合、還元反応により生成される生成物が液相21aに溶解する。液相21a中の上記生成物は、液相21aと液相21bとの間の上記生成物の分配係数に応じて液相21bに移動することができる。分配係数の値は、例えば液相21aおよび液相21bに含まれる溶媒の種類と溶媒中の生成物の種類とによって決定される。
液相21bの有機溶媒が例えばキシレンであり、還元反応による生成物が例えばエタノールである場合、エタノールが高い親水性を有し、エタノールとキシレンとの親和性が高いため、エタノールは任意の割合でキシレンに溶解する。このとき、液相21a中のエタノール濃度に対する液相21b中のエタノール濃度の比はエタノールの量によらずほぼ一定の値である。上記濃度比を分配係数という。
生成物がエタノールの場合、m−キシレン、ヘキサノールなどの混合溶媒を用いることにより、蒸留や膜分離等により生成物を液相21aから抽出しやすくすることができる。このように、抽出したい生成物に応じて抽出しやすい溶媒を選択することにより、液相21aから液相21bに生成物を移動させやすくすることができる。よって、液相21b中に含まれる生成物の濃度を高めることができる。例えば、液相21bの単位体積当たりの還元生成物濃度を、液相21aの単位体積当たりの還元生成物濃度よりも高くすることができる。よって、還元生成物の生成効率を高めることができる。また、液相21bを有しない場合と比較して蒸留や膜分離等により生成物を分離するために必要なエネルギーを低減することができる。なお、還元反応による生成物が親水性を有し、液相21b中の生成物濃度が低い場合であっても、沸点や分子サイズ等の違いから、低濃度の生成物を含む蒸留や膜分離等により生成物を分離するために必要なエネルギーを低減することができる。
図2は、光電変換セルの構造例を示す断面模式図である。図2に示す光電変換セルは、導電性基板30と、還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、光反射体34と、金属酸化物体35と、金属酸化物体36と、を備える。
導電性基板30は、還元電極31に接するように設けられる。なお、導電性基板30を還元電極の一部とみなしてもよい。導電性基板30としては、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、およびAgの少なくとも1つまたは複数を含む基板が挙げられる。例えば、SUS等のステンレス鋼を含むステンレス基板を用いてもよい。これに限定されず、導電性樹脂を用いて導電性基板30を構成してもよい。また、SiまたはGe等の半導体基板を用いて導電性基板30を構成してもよい。さらに、樹脂フィルム等を導電性基板30として用いてもよい。例えば、イオン交換膜4に適用可能な膜を導電性基板30として用いてもよい。
導電性基板30は、支持体としての機能を有する。収容部111と収容部112とを分離するように導電性基板30を設けてもよい。導電性基板30を設けることにより光電変換セルの機械的強度を向上させることができる。また、導電性基板30を還元電極31の一部とみなしてもよい。さらに、必ずしも導電性基板30を設けなくてもよい。
還元電極31は、還元触媒を含むことが好ましい。還元電極31は、導電材料および還元触媒の両方を含んでいてもよい。還元触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水素イオンや二酸化炭素の還元反応により水素や炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、金属材料または炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば水素の場合、白金、ニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。二酸化炭素の還元反応では金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、もしくはニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、またはケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体またはRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。また、複数の材料を混合してもよい。
酸化電極32は、酸化触媒を含むことが好ましい。酸化電極32は、導電材料および還元触媒の両方を含んでいてもよい。酸化触媒としては、水を酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水の酸化反応により酸素と水素イオンを生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、イリジウム、鉄、白金、コバルト、またはマンガン等が挙げられる。また、酸化触媒としては、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、または四元系金属酸化物などを用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等が挙げられる。なお、これに限定されず、酸化触媒としてRu錯体またはFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。
還元電極31および酸化電極32の少なくとも一方は、多孔質構造を有していてもよい。多孔質構造を有する電極に適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC−72等のカーボンブラック、活性炭、金属微粉末等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
多孔質構造は、5nm以上100nm以下の細孔分布を有することが好ましい。上記細孔分布を有することにより触媒活性を高めることができる。さらに、多孔質構造は、複数の細孔分布ピークを有することが好ましい。これにより、表面積の増大、イオンや反応物質の拡散性の向上、高い導電性の全てを同時に実現することができる。例えば、5μm以上10μm以下の細孔分布を有する上記材料の導電層に100nm以下の上記還元触媒に適用可能な金属または合金の微粒子(微粒子状の還元触媒)を含む還元触媒層を積層して還元電極31を構成してもよい。このとき、微粒子も多孔質構造を有していてもよいが、導電性や反応サイトと物質拡散の関係から必ずしも多孔質構造を有していなくてもよい。また、上記微粒子を他の材料に坦持させてもよい。
還元電極31として多孔質導電層と還元触媒を含む多孔質触媒層との積層構造を有していてもよい。例えば、多孔質導電層としてナフィオンおよびケッチェンブラック等の導電性粒子の混合物を用い、多孔質触媒層として金触媒を用いることができる。また、多孔質触媒層の表面に5μm以下の凹凸を形成することにより、反応効率を高めることができる。さらに、高周波を加えることで多孔質触媒層の表面を酸化させ、その後電気化学的に還元することにより、ナノパーティクル構造を有する還元電極31を形成することができる。金以外としては、銅、パラジウム、銀、亜鉛、スズ、ビスマス、鉛等の金属が好ましい。また、多孔質導電層はさらにそれぞれの層が孔径の異なる積層構造を有していてもよい。孔径が異なる積層構造によって例えば電極近傍の反応生成物濃度の違いやpHの違いなどによる反応の違いを孔径によって調整して効率を向上することが可能となる。
比較的低い光の照射エネルギーを用いて低電流密度の電極反応を行う場合、触媒材料の選択肢が広い。よって、例えばユビキタス金属等を用いて反応を行うことが容易であり、反応の選択性を得ることも比較的容易である。一方、電解液槽11に光電変換体33を設けず、配線等により光電変換体33と還元電極31および酸化電極32の少なくとも一方とを電気的に接続する場合、電解液槽を小型化する等の理由により一般的に電極面積は小さくなり、高電流密度で反応を行う場合がある。この場合、触媒として貴金属を用いることが好ましい。
光電変換体33は、光電変換層33xと、光電変換層33yと、光電変換層33zとを有する積層構造を備える。光電変換層の積層数は、図2に限定されない。
光電変換層33xは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層331nと、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウムを含むi型半導体層331iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層331pと、を有する。i型半導体層331iは、例えば400nmを含む短波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33xでは、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
光電変換層33yは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層332nと、真性のアモルファスシリコンゲルマニウムを含むi型半導体層332iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層332pと、を有する。i型半導体層332iは、例えば600nmを含む中間波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33yでは、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
光電変換層33zは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層333nと、真性のアモルファスシリコンを含むi型半導体層333iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層333pと、を有する。i型半導体層333iは、例えば700nmを含む長波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33zでは、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
p型半導体層またはn型半導体層は、例えば半導体材料にドナーまたはアクセプタとなる元素を添加することにより形成することができる。なお、光電変換層では、半導体層としてシリコン、ゲルマニウム等を含む半導体層を用いているが、これに限定されず、例えば化合物半導体層等を用いることができる。化合物半導体層としては、例えばGaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSe等を含む半導体層を用いることができる。また、光電変換が可能であればTiO2やWO3のような材料を含む層を用いてもよい。さらに、各半導体層は、単結晶、多結晶、またはアモルファスであってもよい。また、光電変換層に酸化亜鉛層を設けてもよい。
光反射体34は、導電性基板30と光電変換体33との間に設けられる。光反射体34としては、例えば金属層または半導体層の積層からなる分布型ブラッグ反射体が挙げられる。光反射体34を設けることにより、光電変換体33で吸収できなかった光を反射させて光電変換層33xないし光電変換層33zのいずれかに入射することができるため、光から化学物質への変換効率を高めることができる。光反射体34としては、例えばAg、Au、Al、Cu等の金属、それら金属の少なくとも1つを含む合金等の層を用いることができる。
金属酸化物体35は、光反射体34と光電変換体33との間に設けられる。金属酸化物体35は、例えば光学的距離を調整して光反射性を高める機能を有する。金属酸化物体35としては、n型半導体層331nとオーミック接触が可能な材料を用いることが好ましい。金属酸化物体35としては、例えばインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素を含む酸化錫(Fluorine−doped Tin Oxide:FTO)、アルミニウムを含む酸化亜鉛(Aluminum−doped Zinc Oxide:AZO)、アンチモンを含む酸化錫(Antimony−doped Tin Oxide:ATO)等の透光性金属酸化物の層を用いることができる。
金属酸化物体36は、酸化電極32と光電変換体33との間に設けられる。金属酸化物体36を光電変換体33の表面に設けてもよい。金属酸化物体36は、酸化反応による光電変換セルの破壊を抑制する保護層としての機能を有する。金属酸化物体36を設けることにより、光電変換体33の腐食を抑制し、光電変換セルの寿命を長くすることができる。なお、必ずしも金属酸化物体36を設けなくてもよい。
金属酸化物体36としては、例えばTiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、またはHfO2等の誘電体薄膜を用いることができる。金属酸化物体36の厚さは、10nm以下、さらには5nm以下であることが好ましい。トンネル効果により導電性を得るためである。金属酸化物体36として、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素を含む酸化錫(FTO)、アルミニウムを含む酸化亜鉛(AZO)、アンチモンを含む酸化錫(ATO)等の透光性を有する金属酸化物の層を用いてもよい。
金属酸化物体36は、例えば金属と透明導電性酸化物とを積層させた構造、金属とその他導電性材料とを複合させた構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とを複合させた構造を有してもよい。上記構造にすることにより、部品点数が減り、軽量かつ製造が容易になりコストも低くすることができる。金属酸化物体36は、保護層、導電層、および触媒層としての機能を有していてもよい。
図2に示す光電変換セルでは、n型半導体層331nのi型半導体層331iとの接触面の反対面が光電変換体33の第1の面となり、p型半導体層333pのi型半導体層333iとの接触面の反対面が第2の面となる。以上のように、図2に示す光電変換セルは、光電変換層33xないし光電変換層33zを積層することで、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光エネルギーをより効率良く利用することができる。このとき、各光電変換層が直列に接続されているため高い電圧を得ることができる。
図2では、光電変換体33上に電極が積層されているため、電荷分離した電子と正孔とをそのまま酸化還元反応に利用することができる。また、配線等により光電変換体33と電極を電気的に接続する必要がない。よって、高効率で酸化還元反応を行うことができる。
並列接続で複数の光電変換体を電気的に接続してもよい。2接合型、単層型の光電変換体を用いてもよい。2層または4層以上の光電変換体の積層を有していてもよい。複数の光電変換層の積層に代えて、単層の光電変換層を用いてもよい。
本実施形態の電気化学反応装置は、還元電極と、酸化電極と、光電変換体とを一体化し、部品数が低減され、簡略化されたシステムである。よって、例えば製造、設置、およびメンテナンスの少なくとも一つが容易になる。さらに、光電変換体と還元電極および酸化電極とを接続する配線等が不要となるため、光透過率を高め、受光面積を大きくすることができる。
光電変換体33が電解液に接触するために腐食し、腐食生成物が電解液に溶解することで電解液の劣化が生じる場合がある。腐食を防ぐためには、保護層を設けることが挙げられる。しかし、保護層成分が電解液に溶解する場合がある。そこで、流路や電解液槽内に金属イオンフィルタなどのフィルタを設けることで電解液の劣化が抑制される。
電気化学反応装置の構造例は、図1に限定されない。図3ないし図6は電気化学反応装置の他の例を示す模式図である。図3に示す電気化学反応装置では、光電変換体33が電解液槽11の外部に設けられている。面331と還元電極31との間、および面332と酸化電極32との間は例えば配線等の導電部材で接続されている。配線等により光電変換体と還元電極または酸化電極とを接続する場合、機能ごとに構成要素が分離されているため、システム的に有利である。
図4に示す電気化学反応装置では、液相21bが還元電極31に接している。この場合、液相21bにおいて生成された還元反応による生成物を液相21aと液相21bとの間の生成物の分配係数に応じて液相21aに移動することができる。よって、還元生成物の生成効率が向上する。また、液相21aと液相21bとの両方が還元電極31に接していてもよい。
液相21bから蒸留や膜分離等により抽出する生成物は、例えば液相21aおよび液相21bの成分の沸点や、生成物と液相21aとの親和性等を考慮して選択されることが好ましい。例えば、エタノールを水およびキシレンのそれぞれから蒸留する場合について考える。水の沸点は1気圧で100℃であり、キシレンの沸点は1気圧で144℃であり、エタノールの沸点は1気圧で78℃である。上記沸点の差や共沸のしやすさの違いから水よりもキシレン中からエタノールを抽出する方が容易であることがわかる。なお、これに限定されず、キシレン中において生成された還元反応による生成物を水中に移動させて蒸留により抽出してもよい。
前述の分配係数との関係でより濃度が低い溶媒から蒸留により生成物を抽出しても全体のエネルギーやコスト、システム性からこれら関係は任意である。よって、液相21aおよび液相21bのうち、抽出したい生成物の濃度が低い方の液相から蒸留等により生成物を抽出してもよい。また、膜分離でも同様で、分子のサイズや形状、疎水性などの違いによってより分離性の高い溶媒を選択することができる。
液相21aは、塩を含んでいてもよい。塩としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ニッケル、およびコバルトの少なくとも一つの元素を有する第1の塩、またはフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素の少なくとも一つの元素を有する第2の塩等が挙げられる。さらに、第1の塩としては、例えば塩化ナトリウム、水酸化マグネシウム、硫酸カリウム、炭酸カルシウム、または水酸化コバルト等が用いられることが好ましい。また、第2の塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化コバルト、またはヨウ化コバルト等が用いられることが好ましい。塩を液相21a中に混合することによって液相21aと液相21bとの間の還元生成物の分配係数を変化させることができる。有機化合物等は高濃度の塩の溶液には溶解しないもしくは溶解しにくい性質を有する。例えば、塩を水溶液に加えると水和力が強いため水分子を水和水として固定することができる。よって、回収したい還元反応による生成物を液相21bに移動させやすくすることができる。低分子の有機物質についても同様の効果があるため、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールなどについても塩を含ませることにより液相21bに生成物を移動させやすくすることができる。
電解液21および電解液22の温度を調節する温度調節装置を例えば電解液槽11内に設けることにより電解液21および電解液22の温度差を小さくし、生成物の分離効率を高めることができる。また、電気化学反応装置の温度上昇を抑制することができる。さらに、触媒の選択性を変化させることができる。
液相21bの比重が液相21aの比重よりも大きい場合、重力方向において液相21bが液相21a上から液相21aを通過しえ送入されることにより、液相21aへの接触性が向上して液相21aに溶解された還元生成物を効率よく液相21bに移動することができる。上記生成物を含む液相21bを取り出して生成物の少なくとも一部を分離または反応させ、その後、液相21bを再度液相21aの重力方向の上部に循環させることで反応効率を向上させることができる。
生成物を含む液相21aおよび液相21bの少なくとも一つを含む電解液21の少なくとも一部を流路を介して別の電解液槽11に供給してもよい。これにより、反応生成物を連続的に反応させることができる。よって、次段の電解液槽11での反応に適した溶媒を次段の電解液21における液相21bまたは液相21aに用いることができ、溶媒置換を行う必要がない。また、次段の電解液槽11での反応生成物の分離精製に適した溶媒を選択することができるため、反応効率を高めることができる。
次段の電解液槽11における還元反応によって生じた生成物により、分配係数が変わるため、連続的に反応させることで、生成物を濃縮することができる。よって、還元生成物の生成効率をさらに高めることができる。加えて、次段の反応や蒸留、膜分離等によって最初に生成された還元生成物の濃度は低下するため、分配係数に応じて生成物が移動する。
液相21aで生じた生成物が液相21bに移動し、液相21b中の生成物濃度が次段の反応や蒸留により低下すると、液相21aに含まれる生成物は化学平衡に従って液相21bに移動する。よって、連続的に反応するため効率的なだけでなく、液相21a中の生成物の反応拡散による効率低下や溶解度の制限を受けることなく、反応効率を高めることができる。このときの還元電極31と、液相21aと、液相21bとの位置や反応の関係は任意であって、いかなる組合せでも適した組み合わせを選択することで同様の効果を得ることができる。
酸化還元反応により不純物が生じて酸化還元反応を妨げる、または電気化学反応装置の寿命や電解液槽11の腐食等により生成物の生成効率が低下する場合、例えば液相21aおよび液相21bの一方で不純物を捕捉し、他方で還元反応を行ってもよい。これにより還元反応の継続性を向上させることができる。この液相関係は任意であって、いかなる組合せでも適した組み合わせを選択することで同様の効果が得られる。
複数種の還元生成物を有する場合、複数種の還元生成物の一種を液相21aから回収し、他の一種を液相21bから回収することもできる。これにより、効率的にそれぞれの生成物を回収することができる。また、反応速度の違いを利用して液相21aから一つの生成物を回収し、液相21bから反応速度が遅い別の生成物を回収してもよい。さらに、余剰電力や夜間電力、自然エネルギーを用いる場合には日照や風況等に応じて生成物の回収を行うことができる。
液相21aおよび液相21bが還元電極31に接する場合、接触面積を変えることにより生成物の割合を変化させることができる。接触面積は、例えば供給する液相21aと液相21bとの体積(液量)を変えることにより調整される。これにより、電力や自然環境、生成物の需要に応じて反応をより効率的に行うことができる。よって、例えば低コスト性での運用や、高効率の運用等状況に応じた反応を行うことができる。
図5に示す電気化学反応装置では、還元電極31が第1の還元触媒を含み液相21bに接する領域31aと第1の還元触媒と異なる第2の還元触媒を含み液相21aに接する領域31bとを有する。第1の還元触媒および第2の還元触媒としては、還元触媒として適用可能な材料を適宜用いることができる。これにより、液相毎に適した還元反応を進行させることができる。
上記構成の場合、酸化還元反応を連続的に行うことができる。例えば、液相21aにおいて還元反応により生成された生成物を液相21bに移動し、液相21bで上記生成物の還元反応を行い、別の化合物を連続的に生成することができる。このときの還元電極31と、液相21aと、液相21bとの位置や反応の関係は任意であって、いかなる組合せでも適した組み合わせを選択することで同様の効果を得ることができる。
図6に示す電気化学反応装置は、図1に示す構成要素に加え、電解液槽12と、液相21bに含まれる生成物の一部を分離する分離槽6と、非還元物質の少なくとも一部を回収する回収装置7と、を具備する。このとき、図6に示す流路50aは、液相21aと回収装置7との間を接続し、流路50bは、液相21bと分離槽6との間を接続する。さらに、図6に示す電気化学反応装置は、分離槽6と液相21aとの間を接続する流路50dと、電解液槽12と回収装置7との間を接続する流路50eと、電解液槽12の外部に生成物を放出するための流路50fと、をさらに具備する。図1に示す構成要素と同一部分については、図1の説明を適宜援用することができる。なお、分離槽6および回収装置7は、必ずしも設けられなくてもよい。
電解液槽12は、電解液23を収容する収容部121を有する。その他電解液槽12の説明としては電解液槽11の説明を適宜援用することができる。電解液23は、液相23aと、液相23aに接する液相23bと、を含む。液相23aは、例えば水を含む。液相23aは、流路50eを介して回収装置7に接続される。液相23aは、液相21aに適用可能な材料を含んでもよい。液相23bは、流路50dを介して分離槽6に接続される。液相23bは、例えば有機溶媒を含む。有機溶媒としては、例えば液相21bに適用可能な有機溶媒を用いることができる。液相23aおよび液相23bの少なくとも一つの液相は被還元物質を含む。電解液槽12において膜分離や蒸留塔等を行ってもよい。また、電解液槽12に生成物回収流路を設けてもよい。
分離槽6は、電解液槽11から供給される電解液から生成物の少なくとも一部を分離することができる。分離槽6での分離方法は、例えば蒸留または膜分離等である。図6では、一例として膜分離により生成物の分離を行う例について説明する。
図6に示す分離槽6は、電解液24を収容する収容部161aと収容部161aを複数の領域に区切るように設けられた気液分離膜161bとを有する。電解液24は、流路50bを介して供給される液相21bの少なくとも一部である。気液分離膜161bは、例えば中空糸膜等を含む。中空糸膜は、例えばシリコーン樹脂やフッ素系樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE))等を含む。
図6に示す分離槽6では、例えば気液分離膜161bの外側(電解液24の接触面の反対面側)を減圧するとともにガス状の生成物を含む電解液24が気液分離膜161bを通過することにより効率よくガス状の生成物を分離することができる。
回収装置7は、流路50eを介して供給される液相23aの少なくとも一部に含まれる二酸化炭素等の被還元物質を例えばアミン溶液やゼオライトに吸着させて熱等で再放出させる。これにより、被還元物質の濃度や純度を高めることができる。再放出された被還元物質を例えば地中に埋めるまたは天然ガスやシェールガスの採掘に用いることにより、大気中の被還元物質の濃度の上昇を抑制することができる。また、液相23aの少なくとも一部を流路50eを介して回収装置7に供給し、回収装置7により得られた高濃度の被還元物質を含む電解液を再度収容部111に供給することにより、酸化還元効率を高めることができる。このように、回収装置7を用いることにより、例えば被還元物質である二酸化炭素の排出量の削減や、酸素利用による全体のシステム効率の向上、有価物を得ることができるシステムを実現することができる。
次に、図6に示す電気化学反応装置の動作例について説明する。図6に示す電気化学反応装置では、図1に示す電気化学反応装置と同様に、上記酸化還元反応により生成物が生成される。このとき、液相21bは生成物を含む。
図6に示す電気化学反応装置では、液相21aの温度と液相23bの温度とを異ならせる。例えば、液相21aの温度を液相23aよりも低くする。このとき、液相21aの温度は80℃以下であることが好ましく、0℃〜40℃であることが好ましい。液相23aの温度は100℃以下であることが好ましく、さらには50〜80℃であることが好ましい。これにより、生成物や電解液成分の安定性を高めエネルギー効率を高めることができる。
液相21aの温度と液相23bの温度とを異ならせるために、電解液23を加熱する加熱器と、液相21aまたは回収装置7に供給された電解液を冷却する冷却器と、を電気化学反応装置に設けてもよい。冷却器および加熱器のそれぞれは、例えば温度調節器により制御される。
液相21aおよび液相21bの少なくとも一つの液相がイオン液体を含む場合、被還元物質を含むイオン液体は液相21aに移動する。すなわち、電解液の温度を高くすることにより、イオン液体は有機溶媒を含む液相21aに移動する。液相21aの少なくとも一部は、流路50bを介して分離槽6に移動する。分離槽6は、電解液中から生成物の少なくとも一部を分離する。
分離槽6による分離後の電解液は、流路50dを介して電解液槽12に移動する。電解液23がイオン液体を含み、液相23bの温度が液相21aの温度よりも高い場合、被還元物質および生成物を含むイオン液体は、液相23bに移動する。これにより、イオン液体を含む液相中からメタノールやエチレングリコール等の有機生成物を効率よく回収することができる。このように、数十℃の温度差を形成して分離を行うことにより目的の生成物を低エネルギーで取り出すことができる。よって、コストを低減することができる。
有機溶媒の沸点は、通常60℃〜150℃程度である。これに対し、イオン液体の沸点は、約300℃である。よって、例えば蒸留により生成物としてメタノールを分離する場合、イオン液体とメタノールとの共沸が起こりにくいため、一度の蒸留でメタノールだけを取り出すことができる。
膜分離を行う場合、大きいサイズの分子を含むイオン液体を用いることにより生成物を分離しやすくすることができる。また、分離された生成物とイオン液体との混合物に液相21aに適用可能な塩を加えることにより、イオンバランスを変化させイオン液体を液体から固体に変化させてから生成物を取り出してもよい。
液相23bの温度が液相21aの温度よりも高い場合、液相23bに溶解する被還元物質を流路50fを介して効率よく放出することができる。このとき、膜分離等をにより被還元物質を放出してもよい。
イオン液体を用いることにより、二酸化炭素の還元反応の際に過電圧を低下させることができる。また、反応の際に不純物を水を含む液相で回収、もしくは除去することで継続的に反応を進行させることができる。仮に、イオン液体でなくても、分配係数が変化するため、このように生成物を濃縮することで、生成物の分離回収の効率を高めることができる。さらにはイオン液体でなくても二酸化炭素の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、二酸化炭素吸収性能を有する材料を用いることが好ましい。
イオン液体やアミンを主とする二酸化炭素の吸収率が高い有機物を用いることにより、低温側では電解液に被還元物質を吸収させ、高温側では二酸化炭素を放出することができる。これにより、電気化学反応装置を二酸化炭素分離回収システムとして機能させることができ、回収された被還元物質の少なくとも一部を効率良く還元し、エネルギー物質として得ることができるため、システム全体の効率を向上させることができる。
液相23aの少なくとも一部は、流路50eを介して回収装置7に供給される。回収装置7に供給された電解液を冷却する場合、被還元物質の一部が溶解されにくくなる。回収装置7では、溶解されずに存在する被還元物質を回収する。回収後の電解液は、流路50aを介して液相21aに供給される。なお、ポンプ等を用いて電解液槽11と電解液槽12との間で電解液を循環させてもよい。
液相21aの温度を液相23aよりも高くしてもよい。これにより、液相21aに接する還元触媒の活性を高めて、イオン液体中で反応させる。さらに、反応後の電解液を電解液槽12において冷却して、イオン液体を水を含む液相に移動させ、生成物を分離することができる。
(実施例1)
構造体を具備する電気化学反応装置を作製した。構造体は、厚さ500nmの三接合型光電変換体と、三接合型の光電変換体の第1の面上に設けられた厚さ300nmのZnO層と、ZnO層上に設けられた厚さ200nmのAg層と、Ag層上に設けられた厚さ1.5mmのSUS基板と、三接合型光電変換体の第2の面上に設けられた厚さ100nmのITO層と、を有する。なお、SUS基板上の各層は、光閉じ込み効果を得るためにサブミクロンオーダーのテクスチャー構造を有する。
三接合型光電変換体は、短波長領域の光を吸収する第1の光電変換層と、中波長領域の光を吸収する第2の光電変換層と、長波長領域の光を吸収する第3の光電変換層と、を有する。第1の光電変換層は、p型微結晶シリコン層と、i型アモルファスシリコン層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。第2の光電変換層は、p型微結晶シリコン層と、i型アモルファスシリコンゲルマニウム層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。第3の光電変換層は、p型微結晶シリコンゲルマニウム層と、i型アモルファスシリコン層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。
次に原子層堆積法によりITO層上に酸化触媒として厚さ5nmのNi触媒層を形成した。また、SUS基板の裏面に導線を接続した。導線を介して接続された厚さ1.5mmのSUS基板とSUS基板上の坦持量0.5mg/cm2の銅坦持カーボン膜とを有する複合基板(4cm角)を準備した。複合基板と、構造体との間にイオン交換膜(Nafion117、6cm角)を設け、モジュール内に炭酸カリウム溶液を供給した。複合基板を還元電極とし、構造体の酸化触媒側を酸化電極とし、銀塩化銀電極を参照極とした。ガルバノスタットを用い0.5mA/cm2の条件で電流を流して二酸化炭素を還元してメタノールおよびエタノールを生成した。このとき、還元側の電解液として2mlのトルエンと10mlの炭酸水素カリウム水溶液を供給した。
ソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m2)を用いて上記構造体に光を照射し、還元電極側から発生する気体を捕集し、二酸化炭素の変換効率を測定した。気体の回収は、還元電極の上部で行い、発生する気体をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより同定・定量を行った。
1時間の反応時間経過後にトルエン中から生成物の抽出を繰り返し行い、その後抽出物の蒸留を行った。得られたメタノールの量は0.03mgであり、エタノールの量は、0.005mgであった。このことから還元反応による生成物が有機溶媒を含む液相に移動することがわかる。
(実施例2)
実施例1の電気化学反応装置において、還元側の電解液として式:[PEGm(mim)2][NTf2]2(式中、PEGはポリエチレングリコールであり、NTfはビストリフルオロメタンスルフォニルイミドであり、mimはメチルイミダゾリウムであり、mは500である)で表される1mlの有機化合物と10mlの水を供給した。還元側の電解液に模擬生成物として3mlのメタノールと酢酸エチルを加えた。電解液の温度が20℃から50℃まで上昇させたときの電解液の変化を観察した。20℃ではメタノールを含む電解液はメタノールおよび酢酸エチルを含む液相と、イオン液体と水を含む液相とに分離した。このまま50℃まで温度を上昇させると、水を有する液相と、メタノールを含むイオン液体および酢酸エチルを有する液相に分離した。
(実施例3)
実施例1の電気化学反応装置において、還元側の電解液として1mlのポリエチレングリコールm(メチルイミダゾリウム)2ビストリフルオロメタンスルフォニルイミド(m=500)と10mlの水を供給した。還元側の電解液に模擬生成物として3mlのエチレングリコールと酢酸エチルを加えた。電解液の温度が20℃から50℃まで上昇させたときの電解液の変化を観察した。20℃ではエチレングリコールを含む電解液はエチレングリコールおよび酢酸エチルを含む液相と、イオン液体および水を含む液相とに分離した。このまま50℃まで温度を上昇させると、水を有する液相と、エチレングリコールを含むイオン液体および酢酸エチルを有する液相に分離した。実施例2および実施例3の結果から電解液の温度を変化させることにより相分離の効率を高めることができる。
上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。