JP2017150440A - 油圧機械の診断方法及び診断システム、油圧機械、並びに再生可能エネルギー型発電装置 - Google Patents

油圧機械の診断方法及び診断システム、油圧機械、並びに再生可能エネルギー型発電装置 Download PDF

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Abstract

【課題】高圧弁の損傷を適切に検知可能な油圧機械並びにその診断システム及び診断方法を提供する。
【解決手段】
回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断方法であって、前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、前記診断方法は、前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記作動室の圧力を計測するステップと、前記作動室の圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するステップと、を備える。
【選択図】 図6

Description

本開示は、油圧機械の診断方法及び診断システム、油圧機械、並びに再生可能エネルギー型発電装置に関する。
従来から、油圧ポンプや油圧モータ等の油圧機械が知られている。
例えば、特許文献1には、シリンダとピストンにより形成される作動室の周期的な容積変化を利用し、作動流体の流体エネルギーと回転シャフトの回転エネルギーとの間で変換するようにした油圧機械が記載されている。
また、特許文献2には、作動室と作動室外部の高圧ラインとの連通状態を切り替えるための高圧弁として、ポペット弁を採用した油圧機械が記載されている。
米国特許公開第2010/0040470号明細書 特表2014−533811号公報
ところで、油圧機械においてバルブに損傷が生じると、油圧機械の性能低下や、油圧機械の寿命低減の原因となり得る。油圧機械の性能低下や寿命低減を未然に防ぐためには、バルブの損傷を適切に検知することが重要である。
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、高圧弁の損傷を適切に検知可能な油圧機械並びにその診断システム及び診断方法と、再生可能エネルギー型発電装置と、を提供することを目的とする。
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る油圧機械の診断方法は、
回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断方法であって、
前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、
前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記作動室の圧力を計測するステップと、
前記作動室の圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するステップと、
を備える。
本発明者の鋭意検討の結果、高圧弁の損傷状態が、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した作動室の圧力に影響を与えることが明らかになった。
上記(1)の方法によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した作動室の圧力に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記ポペットは、
ポペット本体と、
前記ポペット本体から前記シート側に突出した内側リッジと、
前記内側リッジの外周側に位置し、前記ポペット本体から前記シート側に突出した外側リッジと、
を含み、
前記高圧弁は、該高圧弁の閉状態において、前記ポペットの前記内側リッジ及び外側リッジが前記シートに当接することで、前記高圧ラインと前記作動室とを非連通状態とするように構成されており、
前記圧力を計測するステップでは、前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記高圧ラインの圧力を減少させながら前記作動室の圧力を計測し、
前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知することを特徴とする。
上記(2)の方法によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、高圧弁のリーク圧を把握することができ、このリーク圧に基づいて、ポペット(内側リッジ又は外側リッジ)の摩耗に関連した高圧弁の損傷を適切に検知することができる。
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、
前記作動室の前記圧力が上昇し始める前記高圧ラインの圧力に基づいて、前記高圧弁における前記内側リッジと前記外側リッジとの間で摩耗量に差が生じていることを検知する。
上記(2)で述べたような、内側リッジ及び外側リッジを含むポペットの場合、内側リッジと外側リッジとの摩耗進行度の相違により、内側リッジ又は外側リッジの何れかとシートとの間に隙間が形成されると、高圧油によってポペットが前記隙間分だけ変形してしまうことがある。この場合、ポペットの変形に起因した応力が生じ、ポペットの疲労破壊のリスクが高まる。
本発明者は、鋭意検討の結果、内側リッジと外側リッジとの摩耗進行度が相違するような高圧弁の損傷モードが発生している場合、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら筒内圧を計測すると、筒内圧が上昇し始める高圧ラインの圧力が存在することを見出した。このことは、高圧ラインの圧力を低下させることで、ポペットの高圧油による変形が解除されて、内側リッジ又は外側リッジの何れかとシートとの間の隙間が開放され、該隙間を介して高圧油が高圧ラインから作動室内に流入するためであると考えられる。
この点、上記(3)の方法によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、内側リッジと外側リッジとの摩耗進行度が相違するような高圧弁の損傷モード(偏摩耗)の発生の有無を検知することができる。
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の方法において、
前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷度を評価する。
本発明者の知見によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値(リーク圧)は、高圧弁の損傷度(ポペットとシートとの隙間拡大量)と相関がある。
この点、上記(4)の方法によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、高圧弁の損傷度(損傷の進行度合い)を評価することができる。
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の前記圧力の上昇の有無に基づいて、前記高圧弁に損傷が生じていると判定する。
上記(5)の方法によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した筒内圧の上昇の有無に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷が生じていると判定することができる。
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記損傷を検知するステップでは、前記高圧ラインの圧力と前記作動室の前記圧力との差に対する、前記作動室の前記圧力の変化速度の比に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知する。
高圧ラインの圧力と筒内圧との圧力差に対する、筒内圧の変化速度の比は、ポペットとシートとの間の隙間における流れ抵抗を示す。本発明者の知見によれば、ポペットの摩耗量と前記流れ抵抗との間に相関がある。
この点、上記(6)の方法によれば、高圧ラインの圧力と筒内圧との圧力差に対する、筒内圧の変化速度の比(流れ抵抗)に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの方法において、
前記損傷を検知するステップにおいて前記高圧弁の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応する前記シリンダを、押しのけ容積を生成しない休止状態とする、又は、前記高圧弁を交換する。
上記(7)の方法によれば、高圧弁の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応するシリンダを休止状態とし、又は、高圧弁を交換する。これにより、正常に動作しない高圧弁を休止又は交換することで、油圧機械の運転を適切に行うことができる。
(8)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る油圧機械の診断システムは、
回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断システムであって、
前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、
前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記作動室の圧力を計測するように構成された圧力計測部と、
前記圧力計測部で計測された前記作動室の圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成された損傷検知部と、
を備える。
上記(8)の構成によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した作動室の圧力に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、
前記ポペットは、
ポペット本体と、
前記ポペット本体から前記シート側に突出した内側リッジと、
前記内側リッジの外周側に位置し、前記ポペット本体から前記シート側に突出した外側リッジと、
を含み、
前記高圧弁は、該高圧弁の閉状態において、前記ポペットの前記内側リッジ及び外側リッジが前記シートに当接することで、前記高圧ラインと前記作動室とを非連通状態とするように構成されており、
前記圧力計測部は、前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記高圧ラインの圧力を減少させながら前記作動室の圧力を計測するように構成され、
前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成される。
上記(9)の構成によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、高圧弁のリーク圧を把握することができ、このリーク圧に基づいて、ポペット(内側リッジ又は外側リッジ)の摩耗に関連した高圧弁の損傷を適切に検知することができる。
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記損傷検知部は、前記作動室の前記圧力が上昇し始める前記高圧ラインの圧力に基づいて、前記高圧弁における前記内側リッジと前記外側リッジとの間で摩耗量に差が生じていることを検知するように構成される。
上記(10)の構成によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、内側リッジと外側リッジとの摩耗進行度が相違するような高圧弁の損傷モード(偏摩耗)の発生の有無を検知することができる。
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)の何れかの構成において、
前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷度を評価するように構成される。
本発明者の知見によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値(リーク圧)は、高圧弁の損傷度(ポペットとシートとの隙間拡大量)と相関がある。
この点、上記(11)の構成によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で高圧ラインの圧力を減少させながら計測した筒内圧の上昇開始時点における高圧ラインの圧力値に基づいて、高圧弁の損傷度(損傷の進行度合い)を評価することができる。
(12)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、
前記損傷検知部は、前記作動室の前記圧力の上昇の有無に基づいて、前記高圧弁に損傷が生じていると判定するように構成される。
上記(12)の構成によれば、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した筒内圧の上昇の有無に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷が生じていると判定することができる。
(13)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、
前記損傷検知部は、前記高圧ラインの圧力と前記作動室の前記圧力との差に対する、前記作動室の前記圧力の変化速度の比に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成される。
高圧ラインの圧力と筒内圧との圧力差に対する、筒内圧の変化速度の比は、ポペットとシートとの間の隙間における流れ抵抗を示す。本発明者の知見によれば、ポペットの摩耗量と前記流れ抵抗との間に相関がある。
この点、上記(13)の構成によれば、高圧ラインの圧力と筒内圧との圧力差に対する、筒内圧の変化速度の比(流れ抵抗)に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
(14)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る油圧機械は、
回転シャフトと、
シリンダと、
前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、
前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、
上記(8)乃至(13)の何れかの構成の油圧機械の診断システムと、を備える。
上記(14)の構成によれば、上記(8)で述べた原理により、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した作動室の圧力に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
(15)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る再生可能エネルギー型発電装置は、
再生可能エネルギーを受け取って回転するように構成されたロータと、
前記ロータによって駆動されて作動油を昇圧するように構成された油圧ポンプと、
前記油圧ポンプにより昇圧された作動油によって駆動されるように構成された油圧モータと、
前記油圧ポンプの吐出口と前記油圧モータの吸込口とを接続する高圧ラインと、
前記油圧モータの吐出口と前記油圧ポンプの吸込口とを接続する低圧ラインと、
前記油圧モータによって駆動されるように構成された発電機と、を備え、
前記油圧ポンプ又は油圧モータの少なくとも一方は、上記(14)の構成の油圧機械である
ことを特徴とする。
上記(15)の構成によれば、上記(8)で述べた原理により、高圧弁及び低圧弁を閉じた状態で計測した作動室の圧力に基づいて、ポペットの摩耗に関連した高圧弁の損傷を検知することができる。
本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、高圧弁の損傷を適切に検知可能な油圧機械並びにその診断システム及び診断方法と、再生可能エネルギー型発電装置と、を提供することを目的とする。
一実施形態に係る風力発電装置の概略図である。 一実施形態に係る油圧機械の構成を示す概略図である。 一実施形態に係る診断システムの構成を示す概略図である。 一実施形態に係る高圧弁の断面図である。 一実施形態に係る高圧弁の断面図である。 圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。 圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。 一実施形態に係る高圧弁のシート部を示す図である。 一実施形態に係る高圧弁のシート部を示す図である。 一実施形態に係る高圧弁のシート部を示す図である。 高圧ラインのリーク圧と、ポペットとシートとの間の隙間量との相関関係の一例を示すグラフである。 摩耗部における流れ抵抗Rと、ポペットとシートとの間の隙間量との相関関係の一例を示すグラフである。 圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。 圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
まず、一実施形態に係る診断システム及び診断方法の適用対象である油圧機械を備えた再生可能エネルギー型発電装置の一例である風力発電装置の全体構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る風力発電装置の概略図である。同図に示すように、風力発電装置1は、再生可能エネルギーとしての風を受けて回転するように構成されたロータ3と、ロータ3の回転を伝達するための油圧トランスミッション7と、電力を生成するための発電機16とを備える。
ロータ3は、少なくとも一本のブレード2と、ブレード2が取り付けられるハブ4とを含む。
油圧トランスミッション7は、回転シャフト6を介してロータ3に連結される油圧ポンプ8と、油圧モータ10と、油圧ポンプ8と油圧モータ10とを接続する高圧ライン12及び低圧ライン14と、を含む。高圧ライン12は、油圧ポンプ8の吐出口と油圧モータ10の吸込口とを接続しており、低圧ライン14は、油圧モータ10の吐出口と油圧ポンプ8の吸込口とを接続している。
発電機16は、油圧モータ10の出力軸を介して油圧モータ10に連結される。一実施形態では、発電機16は、電力系統に連系されるとともに、油圧モータ10によって駆動される同期発電機である。
なお、油圧ポンプ8及び油圧モータ10や発電機16は、タワー19上に設置されたナセル18の内部に設置されてもよい。
図1に示す風力発電装置1では、ロータ3の回転エネルギーは、油圧ポンプ8及び油圧モータ10を含む油圧トランスミッション7を介して発電機16に入力され、発電機16において電力が生成されるようになっている。
ブレード2が風を受けると、風の力によってロータ3全体が回転し、油圧ポンプ8がロータ3によって駆動されて作動油を加圧し、高圧の作動油(圧油)を生成する。油圧ポンプ8で生成された圧油は高圧ライン12を介して油圧モータ10に供給され、この圧油によって油圧モータ10が駆動される。そして、出力軸を介して油圧モータ10に接続される発電機16において電力が生成される。油圧モータ10で仕事をした後の低圧の作動油は、低圧ライン14を経由して油圧ポンプ8に再び流入するようになっている。
油圧ポンプ8及び油圧モータ10は、押しのけ容積が調節可能な可変容量型であってもよい。
幾つかの実施形態では、油圧ポンプ8又は油圧モータ10の少なくとも一方は、以下で説明する油圧機械20である。
次に、一実施形態に係る油圧機械及びその診断システムの構成について説明する。
図2は、一実施形態に係る油圧機械の構成を示す概略図であり、図3は、一実施形態に係る診断システムの構成を示す概略図である。
一実施形態に係る診断システム及び診断方法における診断対象である油圧機械20は、図2に示すように、回転シャフト32と、シリンダ21と、シリンダ21と共に作動室24を形成するピストン22と、作動室24に対して設けられる高圧弁28及び低圧弁30と、回転シャフト32の回転運動とピストン22の往復運動との間の変換を行うためのカム26(変換機構)とを有する。カム26は、ピストン22に当接するカム曲面を有する。
なお、油圧機械20において、複数のシリンダ21及びピストン22が、油圧機械20の周方向に沿って配列されている。
ピストン22は、ピストン22の往復運動を回転シャフト32の回転運動にスムーズに変換する観点から、シリンダ21内を摺動するピストン本体部22Aと、該ピストン本体部22Aに取り付けられ、カム26のカム曲面に当接するピストンローラー又はピストンシューとで構成することが好ましい。なお図2には、ピストン22がピストン本体部22Aとピストンシュー22Bとからなる例を示した。
カム26は、油圧機械20の回転シャフト(クランクシャフト)32の軸中心Oから偏心して設けられた偏心カムである。ピストン22が上下動を一回行う間に、カム26及びカム26が取り付けられた回転シャフト32は一回転するようになっている。
他の実施形態では、カム26は、複数のローブ(凸部)を有する環状のマルチローブドカム(リングカム)であり、この場合には、カム26及びカム26が取り付けられた回転シャフト32が一回転する間に、ピストン22は上下動をローブの数だけ行うようになっている。
高圧弁28は、作動室24と作動室24の外部に設けられた高圧ライン12との間の高圧連通ライン34に設けられており、作動室24と高圧ライン12との連通状態を切り替え可能に構成されている。低圧弁30は、作動室24と作動室24の外部に設けられた低圧ライン14との間の低圧連通ライン36に設けられており、作動室24と低圧ライン14との連通状態を切り替え可能に構成されている。
なお、高圧弁28又は低圧弁30の少なくとも一方は、コイルへの励磁電流の供給の切替えにより開閉制御可能な電磁弁であってもよい。
図2及び図3に示す油圧機械20の診断システム101は、各作動室24の圧力を検出するための圧力センサ72と、圧力センサ(圧力計測部)72による圧力検出結果に基づいて油圧機械20の診断及び制御を行うための診断・制御部100と、を含む。
診断システム101の診断・制御部100は、損傷検知部102と、バルブ制御部106と、を含み、診断システム101は、以下に説明するように、油圧機械20の高圧弁28の損傷を検知するように構成されている。
図2に示す油圧機械20では、ピストン22の往復運動に合わせてバルブが制御されて、ピストン22の往復運動に合わせて作動室24の圧力(作動室圧力)が周期的に変化するようになっている。
油圧機械20が油圧モータ10である場合、油圧ポンプ8により生成される高圧ライン12と低圧ライン14との差圧によって、ピストン22が周期的に上下動し、ピストン22が上死点から下死点に向かうモータ工程と、ピストン22が下死点から上死点に向かう排出工程とが繰り返される。油圧モータ10の運転中、ピストン22とシリンダ21の内壁面によって形成される作動室24の容積は周期的に変化する。すなわち、油圧モータ10では、モータ工程において高圧弁28を開き低圧弁30を閉じることで高圧ライン12から作動室24内に作動油を流入させるとともに、排出工程において高圧弁28を閉じ低圧弁30を開くことで作動室24内で仕事をした作動油を低圧ライン14に送り出す。
このようにして、作動室24への圧油の導入によってピストン22の往復運動が起こり、この往復運動がカム26の回転運動に変換される結果、カム26とともに油圧機械20の回転シャフト32が回転する。
油圧機械20が油圧ポンプ8である場合、回転シャフト32とともにカム26が回転すると、カム面に合わせてピストン22が周期的に上下動し、ピストン22が下死点から上死点に向かうポンプ工程と、ピストン22が上死点から下死点に向かう吸入工程とが繰り返される。そのため、ピストン22とシリンダ21の内壁面によって形成される作動室24の容積は周期的に変化する。すなわち、油圧ポンプ8では、吸入工程において高圧弁28を閉じ低圧弁30を開くことで低圧ライン14から作動室24内に作動油を流入させるとともに、ポンプ工程において高圧弁28を開き低圧弁30を閉じることで作動室24から高圧ライン12に圧縮された作動油を送り出す。
このようにして、油圧機械20の回転シャフト32とともに回転するカム26の回転運動がピストン22の往復運動に変換され、作動室24の周期的な容積変化が起こり、作動室24で高圧の作動油(圧油)が生成される。
次に、図4A及び図4Bを参照して、高圧弁28について説明する。図4A及び図4Bは、それぞれ、一実施形態に係る高圧弁28の断面図である。
図4A及び図4Bに示す高圧弁28は、コイルへの励磁電流の供給の切替えにより開閉制御可能な電磁弁であり、図4A及び図4Bにおいては、高圧弁28の閉弁状態を示している。
なお、幾つかの実施形態では、高圧弁28は、油圧機械20において作動室24から高圧ライン12に向かう作動油の流れのみを許容するポペット式の逆止弁であってもよい。
幾つかの実施形態に係る高圧弁28は、図4A及び図4Bに示すように、シート46(46a〜46c)と、シート46に対向して設けられたポペット(弁体)35と、を含むポペット弁である。ポペット35は、シート46に対して油圧機械20の高圧ライン12(図2参照)側から当接するように構成されている。
すなわち、ポペット35はバルブケーシング部61,62,63を含むバルブケーシング64に収容されており、バルブケーシング64には、高圧ライン12と連通する第1連通流路43と、作動室24と連通する第2連通流路45とが設けられている。そして、ポペット35は、第1連通流路43と第2連通流路45との間において、シート46よりも第1連通流路43側に設けられており、第1連通流路43側からシート46に対して当接するようになっている。
図4A及び図4Bに示す例示的な高圧弁28において、ポペット35は、ポペット本体65と、ポペット本体65からシート46(46a〜46c)側へ突出したリッジ60(60a〜60c)と、を含む。
図4Aに示す高圧弁28においては、ポペット35は、ポペット本体65からシート46側に突出した内側リッジ60aと、内側リッジ60aの外周側に位置し、ポペット本体65からシート46側に突出した外側リッジ60bと、を含む。また、シート46は、内側シート46aと内側シートの外周側に位置する外側シート46bとを含み、内側リッジ60a及び外側リッジ60bは、それぞれ、内側シート46a及び外側シート46bに当接するようになっている。
そして、高圧弁28は、高圧弁28の閉状態において、ポペット35の内側リッジ60a及び外側リッジ60bがシート46(46a,46b)に当接することで、高圧ライン12と作動室24とを非連通状態とするようになっている。すなわち、高圧弁28は、二重に配列されたシート46に当接する二重シート式のポペット35を有する高圧弁である。
一方、図4Bに示す高圧弁28において、ポペット35は、ポペット本体65と、ポペット本体65からシート46c側に突出したリッジ60cを含む。そして高圧弁28は、高圧弁28の閉状態において、ポペット35のリッジ60cがシート46cに当接することで、高圧ライン12と作動室24とを非連通状態とするようになっている。すなわち、高圧弁28は、一重に配列されたシート46に当接する一重シート式のポペット35を有する高圧弁である。
幾つかの実施形態では、高圧弁28は、コイルへの励磁電流の供給の切替えにより開閉制御可能な電磁弁であってもよい。
図4A及び図4Bに例示する高圧弁28は、ポペット35を含む可動ユニット40と、可動ユニット40を開弁位置と閉弁位置とに移動させるためのアクチュエータとして機能するソレノイドコイル42と、スプリング44と、をさらに備えている。高圧弁28は、ノーマルクローズ式のポペット形電磁弁であり、シート46がポペット35に対して作動室24側に設けられている。高圧弁28は、作動室24と高圧ライン12(図2参照)との連通状態を、ソレノイドコイル42の電磁力又はスプリング44の付勢力に起因した可動ユニット40の移動により切り替え可能に構成されている。
高圧弁28の開閉は、バルブコントローラからの制御信号(開閉指令)により制御されるようになっている。幾つかの実施形態では、診断・制御部100のバルブ制御部106(図3参照)から高圧弁28に開閉指令の制御信号が付与されるようになっている。
バルブ制御部106からの制御信号によって高圧弁28が励磁されていないときには、可動ユニット40は、スプリング44によってシート46に向かって付勢されて、作動室24と高圧ライン12とが連通しない位置(ノーマル位置;図4A及び図4Bに図示される可動ユニット40の位置)に保持される(すなわち高圧弁28は閉状態となる)。バルブ制御部106からの制御信号によって高圧弁28が励磁されると、可動ユニット40は、電磁力によってスプリング44の付勢力に抗して、作動室24と高圧ライン12とが連通する位置(励磁位置)に移動する(すなわち高圧弁28は開状態となる)。すなわち、高圧弁28は、励磁電流の供給制御によって、励磁電流の非供給時におけるノーマル位置と、励磁電流の供給時における励磁位置との間で弁体が移動可能に構成されている。
以上に説明した構成を有する油圧機械20において高圧弁28の損傷を検知するための油圧機械の診断方法について以下に説明する。
幾つかの実施形態に係る油圧機械20の診断方法は、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で作動室24の圧力(作動室圧力)を計測する圧力計測ステップと、作動室24の圧力(作動室圧力)に基づいて、高圧弁28の損傷を検知する損傷検知ステップと、を備える。
なお、幾つかの実施形態では、以下に説明する油圧機械20の診断方法は、上述の診断システム101により実行される。
(圧力計測ステップ)
圧力計測ステップでは、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で作動室24の圧力(作動室圧力)を計測する。
幾つかの実施形態では、高圧弁28又は低圧弁30の少なくとも一方は上述した電磁弁であり、圧力計測ステップでは、バルブ制御部106(図3参照)から電磁弁である高圧弁28又は低圧弁30に制御信号(閉指令)を付与することで高圧弁28又は低圧弁30を閉じてもよい。
また、圧力検出ステップでは、油圧機械20の各シリンダ21に設けられた圧力センサ72を用いて各シリンダ21の作動室圧力を検出してもよい。
(損傷検知ステップ)
損傷検知ステップでは、作動室24の圧力(作動室圧力)に基づいて、高圧弁28の損傷を検知する。
本発明者の知見によれば、高圧弁28の損傷状態が、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で計測した作動室24の圧力に影響を与えることが見出された。そこで、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で計測した作動室24の圧力に基づいて、ポペット35の摩耗に関連した高圧弁28の損傷を検知することができる。
幾つかの実施形態に係る圧力計測ステップ及び損傷検知ステップでは、図4Aに示す高圧弁28、すなわち、内側リッジ60a及び内側リッジ60aの外周側に位置する外側リッジ60bを有する二重シート式のポペット35を含む高圧弁28を損傷検知の対象とする。
図4Aに例示する二重シート式のポペット35を含む高圧弁28を対象とした損傷検知ステップについて、図5〜図9を参照して説明する。
一実施形態では、圧力計測ステップでは、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で、高圧ライン12の圧力を減少させながら作動室24の圧力を計測する。
ここで、高圧ライン12の圧力は、例えば、油圧ポンプ8等を用いて所定圧力まで上昇させてから、油圧ポンプ8を停止するとともに、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で、高圧ライン12に設けられたリリーフ弁を用いて徐々に減少させてもよい。あるいは、高圧ライン12の圧力は、一旦油圧ポンプ8等による所定圧力まで上昇させた後、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で、高圧ライン12系統における通常の油漏れにより自然に低下させてもよい。
そして、損傷検知ステップでは、作動室24の圧力の上昇開始時点における高圧ライン12の圧力に基づいて、高圧弁28の損傷を検知する。
図5及び図6は、それぞれ、図4Aに示す高圧弁28が設けられた作動室24についての上述の圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。
図5及び図6において、横軸は時間を表し、縦軸は圧力を表す。また、図5及び図6のグラフにおいて、Pは高圧ライン12の圧力を示し、Pは作動室圧力を示す。
図5に示す作動室圧力Pの計測結果では、高圧ライン12の圧力(高圧ライン圧力)Pが油圧ポンプ8等により所定圧力Pまで上昇されている時点t11において、作動室圧力Pは低圧ライン14の圧力に相当する圧力Pとなっている。(これは、作動室24と高圧ライン12が連通していない状態においては、作動室24と低圧ライン14とが連通状態となっているためである。)この後、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で、時刻t12から高圧ライン圧力Pを徐々に減少させているが、高圧ライン圧力Pが低圧ライン14の圧力に相当する圧力Pとなるまで、作動室圧力Pは上昇していない。
一方、図6に示す作動室圧力Pの計測結果では、高圧ライン圧力Pが所定圧力Pとなっている時点t21において、作動室圧力Pは低圧ライン14の圧力に相当する圧力Pとなっている。この後、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で、時刻t22から高圧ライン圧力Pを徐々に減少させていくと、時刻t23から作動室圧力Pが上昇し始める。なお、作動室圧力Pの上昇開始時点の高圧ライン圧力Pをリーク圧Pとする。この後、高圧ライン圧力Pの低下に伴い作動室圧力Pは上昇し、高圧ライン圧力Pと作動室圧力Pが等しくなった時点t24から、作動室圧力P及び高圧ライン圧力Pは同じ圧力で低下する。
ここで、図7A〜図7Cは、それぞれ、一実施形態に係る高圧弁28のシート部(リッジ60a,60b及びシート46a,46b)を示す図であり、一実施形態に係る損傷検知の原理を説明するための図である。図7Aに示すポペット35においては摩耗が発生していないのに対し、図7B及び図7Cに示すポペット35においては外側リッジ60bに摩耗が生じている。
図5に示す作動室圧力Pの計測結果は、図7Aに示すように、高圧弁28のポペット35が摩耗に至っていない場合の計測結果である。この場合、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン圧力Pを低下させていっても(図5のグラフにおける時刻t12以降)、ポペット35の内側リッジ60aと外側リッジ60bとはそれぞれシート46に当接している。このため、高圧ライン12と作動室24とは非連通状態が維持されるため、作動室圧力Pは、時間が経過しても上昇しない(図5のグラフにおけるt12〜t13の期間)。
一方、図6に示す作動室圧力Pの計測結果は、図7B及び図7Cに示すように、高圧弁28のポペット35のリッジ60a,60bに摩耗が生じた場合の計測結果である。図4Aに例示する二重シート式のポペット弁では、内側リッジ60a又は外側リッジ60bの何れか一方において摩耗がより進行し、内側リッジ60aと外側リッジ60bとで摩耗量(摩耗の深さ)に差が生じることがある。この点、例えば図7B及び図7Cでは、外側リッジ60bにおいてより摩耗が進行しており、外側リッジ60bのほうが内側リッジ60aよりも摩耗量(摩耗深さ)がWだけ大きくなっている。
このように内側リッジ60aと外側リッジ60bとで摩耗量に差が生じている場合、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン圧力Pを低下させていくと、ある時点(図6のグラフにおけるt23)までは、作動室圧力Pは上昇しない。
これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、図7Bに示すように、高圧ライン圧力Pを低下させている間に作動室圧力Pが上昇しない期間においては、高圧ライン圧力Pが比較的高圧である。このため、摩耗によってポペット35のリッジ60a、60bのうち一方の高さが減っていたとしても、ポペット35が高圧ライン12側からの高圧を受けて変形する。これにより、両方のリッジ60a,60bがシート46に当接した状態が維持されるためである。
また、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン圧力Pをさらに低下させていくと、ある時点(図6のグラフにおけるt23)から、作動室圧力Pが上昇する。これは、高圧ライン圧力PHが時刻t23の時点よりも低下して、ポペット35を高圧ライン12側からシート46に押し付ける力が減少した結果、高圧ライン12側の高圧に起因するポペット35の変形が元に戻る。そして、図7Cに示すように、外側リッジ60bと外側シート46bとの間に隙間Gが生じ、この隙間Gを介した高圧ライン12側から作動室24側への作動油の漏れが生じるためであると考えられる。
このように、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力を減少させながら計測した筒内圧(作動室圧力)において、上昇が認められれば、高圧弁28において、ポペット35における摩耗等に起因したリークが発生していると推定することができる。よって、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力を減少させながら計測した筒内圧(作動室圧力)の上昇開始時点(例えば図6における時刻t23)における高圧ラインの圧力P基づいて、高圧弁のリーク圧Pを把握することができ、このリーク圧Pに基づいて、ポペット35(内側リッジ60a又は外側リッジ60b)の摩耗に関連した高圧弁28の損傷を適切に検知することができる。
一実施形態では、損傷検知ステップにおいて、作動室24の圧力Pが上昇し始める高圧ライン12の圧力Pに基づいて、高圧弁28における内側リッジ60aと外側リッジ60bとの間で摩耗量に差が生じていることを検知する。
上述したように、内側リッジ60aと外側リッジ60bとの摩耗進行度の相違により、内側リッジ60a又は外側リッジ60bの何れかとシート46との間に隙間(例えば図7CのG)が形成されると、高圧油によってポペット35が隙間分だけ変形してしまうことがある。この場合、ポペット35の変形に起因した応力が生じ、ポペット35の疲労破壊のリスクが高まる。
ここで、本発明者の知見によれば、内側リッジ60aと外側リッジ60bとの摩耗進行度が相違するような高圧弁28の損傷モードが発生している場合、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力Pを減少させながら筒内圧Pを計測すると、筒内圧Pが上昇し始める高圧ライン12の圧力Pが存在する。このことは、高圧ラインの圧力Pを低下させることで、ポペット35の高圧油による変形が解除されて、内側リッジ60a又は外側リッジ60bの何れかとシート46との間の隙間Gが開放され、該隙間Gを介して高圧油が高圧ライン12から作動室24内に流入するためであると考えられる。
上述したように、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力Pを減少させながら計測した筒内圧Pの上昇開始時点における高圧ラインの圧力P(すなわちリーク圧P)に基づいて、内側リッジ60aと外側リッジ60bとの摩耗進行度が相違するような高圧弁28の損傷モード(偏摩耗)の発生の有無を検知することができる。
一実施形態に係る損傷検知ステップでは、作動室圧力Pの上昇開始時点における高圧ラインの圧力P(すなわちリーク圧P)に基づいて、高圧弁28の損傷度を評価する。
本発明者の知見によれば、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力Pを減少させながら計測した筒内圧Pの上昇開始時点における高圧ライン12の圧力P(すなわちリーク圧P)は、高圧弁28の損傷度(ポペット35とシート46との隙間拡大量)と相関がある。
ここで、図8は、高圧ライン12のリーク圧(リーク発生圧力)Pと、ポペット35とシート46との間の隙間量W(例えば図7Cに示す外側リッジ60bとシート46bとの間の隙間量W)との相関関係の一例を示すグラフである。
図8に示すように、ポペット35とシート46との間の隙間量Wが増加するほど(言い換えると、内側リッジ60aと外側リッジ60bとの摩耗量の差が増加するほど)、リーク圧Pは増加する傾向を有する。
このようなリーク圧Pと隙間量Wとの相関関係に基づけば、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で高圧ライン12の圧力Pを減少させながら計測した筒内圧Pの上昇開始時点における高圧ラインの圧力(リーク圧P)に基づいて、高圧弁28の損傷度(損傷の進行度合い)を評価することができる。
例えば、リーク圧Pが大きいほど、高圧弁28の損傷度が大きくなっていると評価することができる。あるいは、リーク圧Pが大きいほど、高圧弁28において内側リッジ60aと外側リッジ60bの摩耗量の差が拡大しており、損傷度が大きくなっていると評価することができる。
一実施形態では、損傷検知ステップにおいて、高圧ライン12の圧力Pと作動室圧力Pとの差に対する、作動室圧力Pの変化速度の比に基づいて、高圧弁28の損傷を検知する。
高圧ライン12の圧力Pと筒内圧Pとの圧力差に対する、筒内圧Pの変化速度の比は、ポペット35とシート46との間の隙間Gにおける流れ抵抗Rを示す。本発明者の知見によれば、ポペットの摩耗量と流れ抵抗Rとの間に相関がある。
ここで、図9は、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rと、ポペット35とシート46との間の隙間量W(例えば図7Cに示す外側リッジ60bとシート46bとの間の隙間量W)との相関関係の一例を示すグラフである。
なお、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rは、以下の式により求めることができる。
ポペット35とシート46との間の隙間における作動油のリーク量Qは、隙間Gにおける流れ抵抗R、高圧ライン圧力P及び作動室圧力Pを用いて、以下の式(1)で表すことができる。
Q=R(P−P) ・・・(1)
また、作動室圧力Pの変化速度(P)’は、上述のリーク量Q、作動室容積V及び作動油の体積弾性率Kを用いて、以下の式(2)で表すことができる。
(P)’=(K/V)×Q ・・・(2)
そして、式(1)及び式(2)より、流れ抵抗Rは、以下の式(3)で表すことができる。
R=(V/((P−P)×K))×(P)’ ・・・(3)
すなわち、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rは、式(3)により示されるように、高圧ライン12の圧力Pと作動室圧力Pとの差に対する、作動室圧力Pの変化速度の比を用いて表すことができる。
図9に示すように、ポペット35とシート46との間の隙間量Wが増加するほど(言い換えると、内側リッジ60aと外側リッジ60bとの摩耗量の差が増加するほど)、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rは増加する傾向を有する。
よって、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rと、ポペット35とシート46との間の隙間量Wとの相関関係に基づいて、ポペット35の摩耗に関連した高圧弁28の損傷を検知することができる。
例えば、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rが大きいほど、高圧弁28の損傷度が大きくなっていると評価することができる。あるいは、摩耗部(隙間G)における流れ抵抗Rが大きいほど、高圧弁28において内側リッジ60aと外側リッジ60bの摩耗量の差が拡大しており、損傷度が大きくなっていると評価することができる。
また、幾つかの実施形態に係る圧力計測ステップ及び損傷検知ステップは、図4Bに示す高圧弁28、すなわち、一重に配列されたシート46に当接する一重シート式のポペット35を含む高圧弁28を損傷検知の対象とする。
図4Bに例示する一重シート式のポペット35を含む高圧弁28を対象とした損傷検知ステップについて、図10及び図11を参照して説明する。
一実施形態では、圧力計測ステップでは、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で作動室24の圧力(作動室圧力)を計測し、損傷検知ステップでは、作動室圧力の上昇の有無に基づいて、高圧弁28に損傷が生じていると判定する。
ここで、図10及び図11は、それぞれ、図4Bに示す高圧弁28が設けられた作動室24についての上述の圧力計測ステップにおける圧力の計測結果の一例である。また、図10のグラフは、高圧弁28のポペット35(又はリッジ60c)に摩耗等の損傷が生じていない場合の作動室圧力計測結果を示し、図11のグラフは、高圧弁28のポペット35(又はリッジ60c)に摩耗等の損傷が生じている場合の作動室圧力計測結果を示す。
ポペット35に摩耗が生じていない場合、図10に示すように、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態では、ポペット35のリッジ60cとシート46cとが当接することによって高圧ライン12と作動室24とは非連通状態になっている。このため、高圧ライン圧力Pは初期圧力Pから変化せず、作動室圧力Pも初期圧力P(低圧ライン14の圧力相当の圧力)から変化しない。
一方、ポペット35に摩耗が生じている場合、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態において、ポペット35のリッジ60cとシート46cとの間に隙間が存在している。このため、この隙間を介して高圧ライン12と作動室24とは常に連通状態となる。よって、高圧ライン圧力Pに対する例えば油圧ポンプ8からの高圧油の供給が停止した時点t以降、高圧ライン圧力Pは初期圧力Pから低下するとともに、作動室圧力PCは、初期圧力P(低圧ライン14の圧力相当の圧力)から上昇する。そして、高圧ライン圧力Pと作動室圧力Pが等しくなった時点t2から、作動室圧力P及び高圧ライン圧力Pは同じ圧力で低下する。
このように、一重シート式の高圧弁28(ポペット弁)においてポペット35に摩耗がある場合、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で作動室圧力を計測すれば、作動室圧力の上昇が生じるはずである。よって、高圧弁28及び低圧弁30を閉じた状態で計測した筒内圧の上昇の有無に基づいて、ポペット35の摩耗に関連した高圧弁28の損傷が生じていると判定することができる。
以上説明した損傷検知ステップにおいて、高圧弁28の損傷が生じていると判定された場合には、油圧機械20のシリンダ21のうち、該高圧弁28に対応するシリンダ21を、押しのけ容積を生成しない休止状態としてもよい。あるいは、損傷検知ステップにて、高圧弁28の位損傷が生じていると判定された場合には、該高圧弁28を交換してもよい。
なお、油圧機械20のシリンダ21を休止状態とするには、該シリンダ21に対応する高圧弁28及び低圧弁30に対して、バルブ制御部106(図3参照)から、適切な開閉指令の制御信号を送る。油圧機械20(油圧モータ10又は油圧ポンプ)においてシリンダ21を休止状態とするには、該シリンダ21に対応する高圧弁28を閉状態に維持するとともに、低圧弁30を開状態に維持する。これにより、シリンダ21と高圧ライン12とは非連通状態となるとともに、シリンダ21と低圧ライン14とは連通状態となるので、作動油は、作動室24と低圧ライン14との間で流出入するのみである。よって、該シリンダ21に対応するピストン22は、実質的に仕事をせず、又は仕事をされない。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
1 風力発電装置
2 ブレード
3 ロータ
4 ハブ
6 回転シャフト
7 油圧トランスミッション
8 油圧ポンプ
10 油圧モータ
12 高圧ライン
14 低圧ライン
16 発電機
18 ナセル
19 タワー
20 油圧機械
21 シリンダ
22 ピストン
22A ピストン本体部
22B ピストンシュー
24 作動室
26 カム
28 高圧弁
30 低圧弁
32 回転シャフト
34 高圧連通ライン
35 ポペット
36 低圧連通ライン
40 可動ユニット
42 ソレノイドコイル
43 第1連通流路
44 スプリング
45 第2連通流路
46 シート
46a 内側シート
46b 外側シート
60 リッジ
60a 内側リッジ
60b 外側リッジ
61 バルブケーシング部
62 バルブケーシング部
63 バルブケーシング部
64 バルブケーシング
65 ポペット本体
72 圧力センサ
100 制御部
101 診断システム
102 損傷検知部
103 圧力計測部
106 バルブ制御部
G 隙間
O 軸中心
隙間量

Claims (15)

  1. 回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断方法であって、
    前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、
    前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記作動室の圧力を計測するステップと、
    前記作動室の圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するステップと、
    を備えることを特徴とする油圧機械の診断方法。
  2. 前記ポペットは、
    ポペット本体と、
    前記ポペット本体から前記シート側に突出した内側リッジと、
    前記内側リッジの外周側に位置し、前記ポペット本体から前記シート側に突出した外側リッジと、
    を含み、
    前記高圧弁は、該高圧弁の閉状態において、前記ポペットの前記内側リッジ及び前記外側リッジが前記シートに当接することで、前記高圧ラインと前記作動室とを非連通状態とするように構成されており、
    前記圧力を計測するステップでは、前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記高圧ラインの圧力を減少させながら前記作動室の圧力を計測し、
    前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知することを特徴とする請求項1に記載の油圧機械の診断方法。
  3. 前記作動室の前記圧力が上昇し始める前記高圧ラインの圧力に基づいて、前記高圧弁における前記内側リッジと前記外側リッジとの間で摩耗量に差が生じていることを検知する
    ことを特徴とする請求項2に記載の油圧機械の診断方法。
  4. 前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの前記圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷度を評価することを特徴とする請求項2又は3に記載の油圧機械の診断方法。
  5. 前記損傷を検知するステップでは、前記作動室の前記圧力の上昇の有無に基づいて、前記高圧弁に損傷が生じていると判定することを特徴とする請求項1に記載の油圧機械の診断方法。
  6. 前記損傷を検知するステップでは、前記高圧ラインの圧力と前記作動室の前記圧力との差に対する、前記作動室の前記圧力の変化速度の比に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知することを特徴とする請求項1に記載の油圧機械の診断方法。
  7. 前記損傷を検知するステップにおいて前記高圧弁の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応する前記シリンダを、押しのけ容積を生成しない休止状態とする、又は、前記高圧弁を交換することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の油圧機械の診断方法。
  8. 回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断システムであって、
    前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、
    前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記作動室の圧力を計測するように構成された圧力計測部と、
    前記圧力計測部で計測された前記作動室の圧力に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成された損傷検知部と、
    を備えることを特徴とする油圧機械の診断システム。
  9. 前記ポペットは、
    ポペット本体と、
    前記ポペット本体から前記シート側に突出した内側リッジと、
    前記内側リッジの外周側に位置し、前記ポペット本体から前記シート側に突出した外側リッジと、
    を含み、
    前記高圧弁は、該高圧弁の閉状態において、前記ポペットの前記内側リッジ及び前記外側リッジが前記シートに当接することで、前記高圧ラインと前記作動室とを非連通状態とするように構成されており、
    前記圧力計測部は、前記高圧弁及び前記低圧弁を閉じた状態で、前記高圧ラインの圧力を減少させながら前記作動室の圧力を計測するように構成され、
    前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成されたことを特徴とする請求項8に記載の油圧機械の診断システム。
  10. 前記損傷検知部は、前記作動室の前記圧力が上昇し始める前記高圧ラインの圧力に基づいて、前記高圧弁における前記内側リッジと前記外側リッジとの間で摩耗量に差が生じていることを検知するように構成された
    ことを特徴とする請求項9に記載の油圧機械の診断システム。
  11. 前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の上昇開始時点における前記高圧ラインの前記圧力値に基づいて、前記高圧弁の損傷度を評価するように構成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の油圧機械の診断システム。
  12. 前記損傷検知部は、前記作動室の前記圧力の上昇の有無に基づいて、前記高圧弁に損傷が生じていると判定するように構成されたことを特徴とする請求項8に記載の油圧機械の診断システム。
  13. 前記損傷検知部は、前記高圧ラインの圧力と前記作動室の前記圧力との差に対する、前記作動室の前記圧力の変化速度の比に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するように構成されたことを特徴とする請求項8に記載の油圧機械の診断システム。
  14. 回転シャフトと、
    シリンダと、
    前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、
    前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、
    請求項8乃至13の何れか一項に記載の油圧機械の診断システムと、を備えることを特徴とする油圧機械。
  15. 再生可能エネルギーを受け取って回転するように構成されたロータと、
    前記ロータによって駆動されて作動油を昇圧するように構成された油圧ポンプと、
    前記油圧ポンプにより昇圧された作動油によって駆動されるように構成された油圧モータと、
    前記油圧ポンプの吐出口と前記油圧モータの吸込口とを接続する高圧ラインと、
    前記油圧モータの吐出口と前記油圧ポンプの吸込口とを接続する低圧ラインと、
    前記油圧モータによって駆動されるように構成された発電機と、を備え、
    前記油圧ポンプ又は前記油圧モータの少なくとも一方は、請求項14に記載の油圧機械である
    ことを特徴とする再生可能エネルギー型発電装置。
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