JP2017148975A - 燃料電池ゴムガスケット用成形型、その製造方法および再生方法 - Google Patents

燃料電池ゴムガスケット用成形型、その製造方法および再生方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 成形面に形成されためっき層表面のフッ素樹脂膜が剥離しにくく耐久性に優れた燃料電池ゴムガスケット用成形型、その製造方法および再生方法を提供する。
【解決手段】 燃料電池ゴムガスケット用成形型1は、燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面100、110にめっき層を有する。めっき層は、表面にフッ素樹脂膜を有し、該めっき層の表面における任意の一方向の最大高さ粗さ(Rz)は3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下である。燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法は、成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理するブラスト処理工程と、該ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成するめっき処理工程と、を有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、燃料電池の構成部材間をシールするゴムガスケットを成形するための成形型、その製造方法および再生方法に関する。
燃料電池においては、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を含む電極部材を、セパレータで挟持したセルが発電単位となる。燃料電池は、セルを多数積層して構成される。電極部材の周囲や、隣り合うセパレータの間には、ガスや冷媒に対するシール性と絶縁性とを確保するために、枠状のゴムガスケットが配置される。
ゴムガスケットは、ゴム材料を射出成形、プレス成形などして成形される(例えば特許文献1参照)。成形型からゴムガスケットを取り出す際の離型性を高めるため、成形型の成形面(ゴムガスケットと接触する面)には離型処理が施される。離型処理としては、離型剤の塗布、めっき処理などがあるが、なかでも無電解ニッケル(Ni)めっき処理は、成形面に離型性を有する膜を薄く均一に形成することができるため有効である(例えば特許文献2参照)。
特開2015−69839号公報 特開2010−105338号公報 特許第3040321号公報 特許第3423908号公報
例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を含むNiめっき液を使用した無電解Ni−PTFEめっき処理の場合、成形面の素地をめっき液に浸漬させた後、350℃程度の温度で焼成すると、一部のPTFE粒子が溶融してめっき層の表面にPTFE膜が形成される。PTFE膜の摩擦係数は非常に小さい。よって、めっき層の表面にPTFE膜を形成することにより、成形面に優れた離型性を付与することができる。
しかしながら、PTFE膜は、成形を繰り返すうちに剥離してしまうという問題があった。PTFE膜が少なくなると、成形面の離型性が低下する。すると、ゴムガスケットが成形面に付着しやすくなり、微細な形状や寸法精度を維持することが難しくなる。また、離型作業を慎重にせざるを得ないため、時間がかかる。また、ゴムガスケットのコストにおいては、成形型のメンテナンスに要するコストも看過できない。例えば、メンテナンスの回数を少なくしてコストを削減するためには、PTFE膜を剥離しにくくするなどして成形型の耐久性を向上させることが必要である。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、成形面に形成されためっき層表面のフッ素樹脂膜が剥離しにくく耐久性に優れた燃料電池ゴムガスケット用成形型を提供することを課題とする。また、当該燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法および再生方法を提供することを課題とする。
本発明者がPTFE膜の剥離について検討を重ねた結果、以下の知見を得た。燃料電池ゴムガスケット用成形型の成形面は、主に切削加工により形成される。切削加工によると、切削機が移動した方向に筋目が形成される。図3に、切削加工された切削面のモデル図を示す。説明の便宜上、図3においては、切削面の凹凸を誇張して示す。図3に示すように、切削面90には、切削方向(図中、白抜き矢印A方向)に溝部91が多数平行に形成されている。これにより、切削面90は凹凸状を呈している。図4に、切削面をめっき処理した従来の成形面のモデル図を示す。図4に示すように、めっき層92は、成形面93の素地(切削面)全体を覆うように配置されている。成形面93は、素地と同様の凹凸状を呈している。すなわち、成形面93は、前出図3の溝部91に対応する凹部94を有している。めっき層92の表面には、図中、ハッチングで示すようにPTFE膜95が島状に配置されている。PTFE膜95は、凹部94に入り込んで付着している。PTFE膜95の付着力は、表面の凹凸によるアンカー効果に因るところが大きい。しかしながら、めっき層92の表面の凹凸には方向性がある。すなわち、凹部94は切削方向(図中、白抜き矢印A方向)に延びているため、切削方向と垂直な方向(図中、白抜き矢印B方向)においては凹凸が大きいものの、切削方向においては凹凸は小さい。このため、凹凸が小さい切削方向に応力が生じると、アンカー効果が発揮されず、PTFE膜95が剥離しやすいことがわかった。
(1)このような知見に基づきなされた本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型は、燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面にめっき層を有する燃料電池ゴムガスケット用成形型であって、該めっき層は、表面にフッ素樹脂膜を有し、該めっき層の表面における任意の一方向の最大高さ粗さ(Rz)は3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下であることを特徴とする。
本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型(以下、単に「本発明の成形型」と称する場合がある)において、成形面に配置されるめっき層の表面にはフッ素樹脂膜が存在する。そして、めっき層の表面における任意の一方向のRzは3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下である。Rzを所定の範囲に限定することにより、めっき層の表面には従来と同等レベルの凹凸が付与される。加えて、任意の一方向とその垂直方向とのRzの差を小さくすることにより、凹凸の方向性をなくした。すなわち、本発明の成形型の成形面は、いずれの方向においても、同程度の表面粗さを有する。これにより、どのような方向に応力が加わっても、凹凸によるアンカー効果が充分発揮され、めっき層の表面のフッ素樹脂膜が剥離しにくい。したがって、成形型の耐久性が向上し、メンテナンスの回数を少なくすることができる。また、ゴムガスケットの離型性や形状保持性も向上する。
本明細書において、表面粗さの指標であるRzおよび後出のRa(算術平均粗さ)としては、JIS B 0601:2001に準拠した方法で測定された値を採用する。また、Rzが規定される「任意の一方向」は、次のようにして決定する。まず、めっき層の表面に基準点を定め、基準点から一方向におけるRzを測定する。次に、基準点を中心として当該一方向から22.5°ずらした方向のRzを測定する。続けて、22.5°の間隔で最初の一方向から157.5°回転した方向までRzの測定を重ねる。そして、8回の測定値のうち、Rzが最大となった方向を、任意の一方向とする。後出のRaを規定する「任意の一方向」についても、上記同様にして決定する。
(2)本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法は、燃料電池のゴムガスケットを成形するための燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法であって、成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理するブラスト処理工程と、該ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成するめっき処理工程と、を有することを特徴とする。
上述したように、燃料電池ゴムガスケット用成形型の成形面の素地には、切削加工による筋目が形成されている場合が多い。この点、本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある)によると、めっき処理する前に、成形面の素地表面をブラスト処理する。これにより、成形面の素地表面が削られ、一方向に延びる筋目がなくなるため、凹凸に方向性がなくなる。すなわち、成形面の素地表面の任意の一方向とその垂直方向との表面粗さを、同程度にすることができる。その結果、後のめっき処理工程において形成されるフッ素樹脂膜が、成形を繰り返しても剥離しにくくなる。よって、本発明の製造方法によると、耐久性に優れた燃料電池ゴムガスケット用成形型を製造することができる。
一般に、ブラスト処理は、投射材を数百kPaの圧力で吹き付ける。これに対して、本発明の製造方法におけるブラスト処理は、吹き付けを30kPa以下の低圧で行う。低圧でブラスト処理することにより、素地の削り過ぎや、エッジ部のだれなどを抑制することができる。これにより、成形面の寸法精度を守ることができる。したがって、本発明の製造方法によると、微細な形状や寸法精度が要求される燃料電池ゴムガスケット用成形型を、容易に製造することができる。
また、本発明の製造方法におけるめっき処理工程においては、めっき液による処理の後、焼成を行う。焼成することにより、めっき液に含まれるフッ素樹脂粒子の一部が溶融して、めっき層の表面にフッ素樹脂膜を形成することができる。これにより、めっき層の表面、すなわち成形面の摩擦係数が小さくなり、離型性を向上させることができる。また、焼成することにより、成形型の素地を硬くすることができるため、耐久性の向上にも有利である。
(3)本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法は、燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面にめっき層を有する燃料電池ゴムガスケット用成形型において、該成形面から該めっき層を剥離して素地を表出させる剥離工程と、該成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理するブラスト処理工程と、該ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成するめっき処理工程と、を有することを特徴とする。
従来、成形を繰り返して離型性が低下した場合には、成形面を酸などにより処理して古いめっき層を剥離すると共に素地表面を活性化させて、再度めっき処理を施していた。この際、成形型の素地の成分が酸により溶け出して、ピンホールが発生したり凹凸が形成されるなどして素地表面が荒れてしまうという問題があった。この場合、元の状態に戻すためには、再度成形面の切削加工などが必要になるため、メンテナンスの負荷が大きく、メンテナンスに要するコストも高かった。
この点、本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法(以下、単に「本発明の再生方法」と称する場合がある)においては、剥離工程において古いめっき層を剥離した後、成形面の素地表面をブラスト処理する。これにより、成形面の素地表面が削られるため、再度切削加工を施さなくても、成形面の素地表面を容易に元の状態に戻すことができる。また、ブラスト処理を30kPa以下の低圧で行うため、素地の削り過ぎや、エッジ部のだれなどが生じにくい。これにより、成形面の寸法精度を守ることができる。このように、本発明の再生方法によると、微細な形状や寸法精度が要求される燃料電池ゴムガスケット用成形型を、容易に再生することができる。また、本発明の再生方法によると、容易なメンテナンスにより、燃料電池ゴムガスケット用成形型の寿命を延ばすことができる。
燃料電池ゴムガスケット用成形型の一実施形態の上下方向断面図である。 剥離力の測定方法の概略図である。 切削加工された切削面のモデル図である。 切削面をめっき処理した従来の成形面のモデル図である。
以下、本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型、その製造方法および再生方法の実施の形態について説明する。なお、本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型、その製造方法および再生方法は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
<燃料電池ゴムガスケット用成形型>
本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型は、燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いらる。ゴムガスケットの材質、形状などは、特に限定されない。例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型は、成形面にめっき層を有する。成形面は、ゴムガスケットが収容されるキャビティを区画する面である。成形面は、ゴムガスケットが収容される溝状の凹部表面を含む。図1に、本発明の成形型の一実施形態として、成形型の型締め状態の上下方向断面図を示す。図1に示すように、成形型1は、上型10と下型11とを備えている。下型11の上面には、ゴムガスケットが収容される溝状の凹部110が凹設されている。凹部110とそれを覆う上型10の下面100とにより、キャビティ12が区画されている。キャビティ12を区画する凹部110の表面および下面100は、本発明における成形面の概念に含まれる。凹部110の表面には、めっき層が形成されている。キャビティ12を区画する上型10の下面100にもめっき層が形成されている。ここでは、成形型を構成する上型および下型の両方の成形面にめっき層が形成されている形態を示したが、めっき層は、例えば一方の成形面のみに形成されていてもよい。
めっき層の材質は、特に限定されない。例えば、Niめっき層、Ni母材中にフッ素樹脂粒子が分散されている複合Niめっき層などが挙げられる。めっき層の厚さは特に限定されないが、例えばピンホールなどの欠陥が生じにくいという観点から、4μm以上であるとよい。また、燃料電池のゴムガスケットの厚さや幅は極めて薄く、成形型には厳しい寸法公差が要求される。この点を考慮すると、めっき層の厚さは6μm以下であるとよい。
めっき層は、表面にフッ素樹脂膜を有する。フッ素樹脂膜は、めっき層の最表層全体に配置されていてもよいが、例えば島状に点在する形態のように、最表層全体ではなく一部に配置されていてもよい。フッ素樹脂膜としては、PTFE、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)などが挙げられる。フッ素樹脂膜の厚さは特に限定されないが、離型性を高めるという観点から、0.01μm以上であるとよい。また、寸法精度の要求を考慮すると、4μm以下であるとよい。フッ素樹脂膜は、例えばフッ素樹脂粒子を含むめっき液を用いてめっきした後に、フッ素樹脂粒子が溶融可能な温度で焼成することにより、一部のフッ素樹脂粒子を溶融させて形成することができる。
めっき層の表面における任意の一方向の最大高さ粗さ(Rz)は、3.60μm以上6.50μm以下である。めっき層の表面に適度な凹凸が存在することにより、アンカー効果によりフッ素樹脂膜の剥がれが抑制される。さらに、めっき層の表面における任意の一方向の算術平均粗さ(Ra)は、0.51μm以上0.80μm以下であることが望ましい。
めっき層の表面において、任意の一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は、1.00μm以下である。任意の一方向とその垂直方向とのRzの差が小さいため、凹凸の方向性がなくなり、めっき層の表面全体において同程度の表面粗さが実現される。さらに、任意の一方向のRaと該一方向に垂直な方向のRaとの差は、0.10μm以下であることが望ましい。ここで、「任意の一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差」および「任意の一方向のRaと該一方向に垂直な方向のRaとの差」は、任意の一方向のRz(Ra)から垂直方向のRz(Ra)を引いた値である。
<燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法>
本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法は、ブラスト処理工程と、めっき処理工程と、を有する。以下、各工程を説明する。
<ブラスト処理工程>
本工程は、成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理する工程である。成形面の素地、すなわち成形型の母材としては、ゴム用あるいはプラスチック用金型材として知られている種々の鋼材を使用すればよい。成形型は、ゴムガスケットが収容されるキャビティを有する。本発明の製造方法は、成形型を切削加工して当該キャビティを区画する成形面を形成する場合に好適である。この場合、成形面は、切削加工が施された切削面になる。
ブラスト処理は、圧縮空気などで投射材を成形面の素地表面に吹き付ければよい。吹き付けの際の圧力は、30kPa以下にする。素地の寸法変化を小さくするという観点から、20kPa以下、さらには10kPa以下にすると好適である。投射材としては、アルミナ粒子などのセラミック粒子、スチール粒子、ガラス粒子などの公知の粒子を用いればよい。なかでも、アルミナ粒子が好適である。粒子形状は、球状、薄片状、多角形状など特に限定されない。例えば、多角形粒子は、成形面の素地表面を所望の表面粗さにしやすいため好適である。粒子径は、ブラスト処理する部分の形状などに応じて適宜選択すればよい。例えば、最大径が20〜70μm程度の粒子が好適である。ブラスト処理の時間は、成形面の素地の表面粗さおよび寸法変化を考慮して、適宜調整すればよい。例えば、100mmあたり0.3〜10秒程度が好適である。
成形面の素地の表面粗さは、後述するめっき層の表面粗さとほぼ同じになる。したがって、成形面の素地表面においても、任意の一方向のRzは3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下であることが望ましい。また、任意の一方向のRaは0.51μm以上0.80μm以下であり、該一方向のRaと該一方向に垂直な方向のRaとの差は0.10μm以下であることが望ましい。ブラスト処理に加えて酸処理などにより表面粗さを調整してもよい。
燃料電池のゴムガスケットの厚さや幅は極めて薄く、成形型には厳しい寸法公差が要求される。例えば、成形型が、ゴムガスケットが収容される溝状の凹部を有する場合、該凹部の表面は成形面に含まれる。この場合、ブラスト処理を行う前後において、該凹部の幅の寸法交差を25μm以下、該凹部の深さの寸法交差を10μm以下にすることが望ましい。
<めっき処理工程>
本工程は、ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成する工程である。めっき液としては、フッ素樹脂粒子含有Niめっき液が好適である。例えば、成形型のブラスト処理された表面をめっき液に浸漬して、電解あるいは無電解めっき処理を行えばよい。その後、所定の温度で焼成することにより、一部のフッ素樹脂粒子を溶融させて表面にフッ素樹脂膜を形成することができる。焼成温度は、フッ素樹脂の溶融温度に応じて適宜決定すればよい。フッ素樹脂膜は、めっき層の最表層全体に配置されていてもよいが、例えば島状に点在する形態のように、最表層全体ではなく一部に配置されていてもよい。フッ素樹脂粒子としては、PTFE、PFAなどが好適である。例えば、PTFE粒子を含むめっき液を使用した場合には、めっき層の表面にPTFE膜が形成される。
上述した本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型と同様に、めっき層の厚さは、4μm以上6μm以下にするとよい。フッ素樹脂膜の厚さは、0.01μm以上4μm以下にするとよい。また、めっき層の表面における任意の一方向のRzは3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下であることが望ましい。めっき層の表面における任意の一方向のRaは0.51μm以上0.80μm以下であり、該一方向のRaと該一方向に垂直な方向のRaとの差は0.10μm以下であることが望ましい。
<燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法>
本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法は、燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面にめっき層を有する燃料電池ゴムガスケット用成形型に適用される。本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法は、剥離工程と、ブラスト処理工程と、めっき処理工程と、を有する。ブラスト処理工程およびめっき処理工程については、上述した本発明の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法と同じである。よって、ここでは剥離工程についてのみ説明する。
剥離工程は、成形面からめっき層を剥離して素地を表出させる工程である。めっき層を剥離するためには、剥離液を使用すればよい。剥離液は、成形型の母材に応じて適宜選択すればよい。例えば、母材がプラスチック金型用鋼の場合には、エチレンジアミンなどのアミン系化合物が挙げられる。本工程は、例えば、成形面を剥離液に所定時間浸漬して行えばよい。
次に、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
<試験片の製造>
[実施例1]
切削加工により製造された長方形平板状の基材を準備した。基材はプラスチック金型用鋼製であり、基材の大きさは縦50mm、横25mm、厚さ5mmである。基材の表面には、切削方向に沿った筋目が形成されている。
まず、基材の表面のうちの片側半分の区画をブラスト処理した。ブラスト処理には、ユニテック・ジャパン(株)製のマイクロブラスト表面処理機「UNIFINISH PRO」を使用した。投射材には、アルミナ粒子(多角形粒子、粒子径40〜50μm)を使用した。処理圧力を8kPa、処理時間を1秒とした。
次に、ブラスト処理した基材を、無電解Ni−PTFEめっき液に浸漬し、無電解Ni−PTFEめっき処理した。めっき液に含まれるNi粒子の粒子径は5μm、PTFE粒子の粒子径は0.2μmである。その後、温度350℃下で1時間焼成した。形成されためっき層の厚さは5μm、そのうち表面のPTFE膜の厚さは0.1μmであった。めっき層におけるPTFE粒子(PTFE膜を含む)の含有量は、めっき層全体を100体積%とした場合の20体積%である。めっき層におけるPTFE粒子の含有量は、めっき層を硝酸で溶解した溶液に含まれるPTFEの質量から算出した。このようにして製造された試験片を、実施例1の試験片と称す。
[実施例2]
ブラスト処理後の表面粗さを変更するために、ブラスト処理後めっき処理前に、表面を酸処理した。酸処理は、試験片を濃度3.5質量%の塩酸水溶液に30分間浸漬させて行った。これ以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を、実施例2の試験片と称す。
[比較例1]
ブラスト処理を行わない以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。すなわち、基材の表面に直接、無電解Ni−PTFEめっき処理を施した。得られた試験片を、比較例1の試験片と称す。
[参考例1]
ブラスト処理の投射材、処理圧力、処理時間を変更した以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。投射材には、アルミナ粒子(多角形粒子、粒子径250μm)を使用した。処理圧力を200kPa、処理時間を5秒とした。得られた試験片を、参考例1の試験片と称す。
[参考例2]
ブラスト処理後の表面粗さを変更するために、ブラスト処理後めっき処理前に、表面を酸処理した。酸処理は、試験片を3.5質量%の塩酸水溶液に60分間浸漬させて行った。これ以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を、参考例2の試験片と称す。
[参考例3]
ブラスト処理後の表面粗さを変更するために、ブラスト処理後めっき処理前に、表面を酸処理した。酸処理は、試験片を3.5質量%の塩酸水溶液に100分間浸漬させて行った。これ以外は、実施例1と同様にして試験片を製造した。得られた試験片を、参考例3の試験片と称す。
<表面粗さの測定>
試験片のめっき層の表面粗さRz、Raを、(株)キーエンス製の形状解析レーザ顕微鏡「VK−X 200」により測定した。任意の一方向のRz、Raとしては、22.5°ごとに測定された8方向の測定値の最大値を採用した。そして、任意の一方向のRzとそれに垂直な方向のRzとの差を算出した。同様に、任意の一方向のRaとそれに垂直な方向のRaとの差を算出した。なお、同顕微鏡で観察したところ、実施例1、2および参考例1〜3の試験片においては、切削方向に沿った筋目は消えていた。表1に、各試験片における任意の一方向のRz、Ra、当該一方向とその垂直方向とにおけるRzの差およびRaの差を示す。
Figure 2017148975
表1に示すように、実施例1、2の試験片においては、任意の一方向のRzは3.60μm以上6.50μm以下の範囲内であり、任意の一方向とその垂直方向とにおけるRzの差は1.00μm以下であった。また、任意の一方向のRaは0.51μm以上0.80μm以下の範囲内であり、任意の一方向とその垂直方向とにおけるRaの差は0.10μm以下であった。ブラスト処理を行っていない比較例1の試験片においては、任意の一方向のRz、Raは上記範囲内であったが、任意の一方向とその垂直方向とにおけるRzの差は1.00μmより大きかった。同様にRaの差も0.10μmより大きかった。これは、基材の表面に、切削方向に沿った筋目があるため、任意の一方向とその垂直方向とにおいて凹凸の程度が異なるためである。また、参考例2、3の試験片においては、実施例1、2の試験片と比較して、任意の一方向のRz、Raが小さくなった。これは、ブラスト処理の後、酸処理を長時間行ったことにより、基材の表面が溶けて凹凸が小さくなったためである。
<ブラスト処理による寸法変化の測定>
試験片の製造において、ブラスト処理の前後における寸法変化(削れ量)を測定した。基材において、ブラスト処理されていない表面と、ブラスト処理された表面と、の段差の大きさを形状解析レーザ顕微鏡(同上)により測定し、その値を削れ量とした。そして、削れ量が2μm未満の場合を寸法変化小、2μm以上の場合を寸法変化大と評価した。前出の表1に、削れ量と寸法変化の評価を併せて示す。
表1に示すように、参考例1の条件では、削り量が大きく、寸法変化が大きくなった。これは、ブラスト処理の圧力が30kPaより高かったためである。このように、30kPaを超える高圧のブラスト処理は、成形型の寸法精度を維持することができないため、燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造には適用できない。
<耐久性の評価>
[接触角の測定]
製造した試験片を用いて繰り返しプレス成形を行い、一回の成形が終わるごとにめっき層の表面の接触角を測定した。プレス成形は、二つの試験片をめっき層を内側にして対向配置して、試験片の間に厚さ2mmのゴム組成物を挟み、150℃下で15分間保持して行った。ゴム組成物の成分は、以下の(A)〜(E)である。
(A)ゴム成分:EPDM(JSR(株)製「JSR EP27」)。
(B)架橋剤:パーオキシエステル(日油(株)製「パーブチル(登録商標)I」(t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート))。
(C)架橋助剤:マレイミド化合物(大内新興化学工業(株)製「バルノック(登録商標)PM」)。
(D)接着成分:シランカップリング剤(信越化学工業(株)製「KBM403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン))。
(E)軟化剤:パラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」)。
接触角の測定は、JIS R3257:1999に準拠した方法で、純水を使用して行った。接触角の測定には、協和界面科学(株)製の接触角測定器「DM500」を用いた。接触角は、一つの試験片につき五か所で測定し、それらの平均値を採用した。なお、参考例1の試験片については、ブラスト処理による削れ量が大きかったため、接触角の測定は行わなかった。
PTFE膜が剥がれると、接触角は低下する。このため、各試験片について、接触角が110°に低下するまでのプレス回数を数え、次式(i)により、比較例1の試験片のプレス回数を基準にして各試験片のプレス回数の相対値を求めた。
相対値=接触角が110°に低下するまでの各試験片のプレス回数/接触角が110°に低下するまでの比較例1のプレス回数 ・・・(i)
表2に、比較例1の試験片のプレス回数を1とした時の各試験片のプレス回数の相対値を示す。相対値が大きいほど、接触角の低下が少なく、耐久性に優れるといえる。
Figure 2017148975
表2に示すように、実施例1、2の試験片の相対値は、比較例1の試験片の3倍以上になった。これより、実施例1、2の試験片では、プレス成形を繰り返しても、接触角が低下しにくいことがわかる。また、参考例2、3の試験片では、実施例1、2の試験片と比較して、相対値が小さく、接触角の低下が早かった。以上より、実施例1、2の試験片に形成されためっき層は、PTFE膜が剥離しにくく耐久性に優れることが確認された。
[剥離力の測定]
製造した試験片を用いて繰り返しプレス成形を行い、所定回数の成形が終わるごとにゴムに対する剥離力を測定した。ゴムが剥離しやすいほど剥離力は小さくなる。したがって、剥離力が小さいほど、PTFE膜の剥がれが少ないと考えられる。なお、参考例1の試験片については、ブラスト処理による削れ量が大きかったため、剥離力の測定は行わなかった。剥離力の測定は、次のようにして行った。図2に、剥離力の測定方法の概略図を示す。
図2に示すように、まず、試験片50と同じ材質、形状の金属片51を準備し、金属片51の右端部と試験片50の左端部とが上下方向に重なるように配置した。試験片50の左端部の上面には、めっき層500が形成されている。一方、金属片51の右端部の下面には、EPDM製のゴム部材510が接着されている。金属片51に接着されたゴム部材510は、試験片50のめっき層500に接触している。次に、試験片50の右端部と金属片51の左端部とを各々ストログラフのチャック(図略)に固定した。それから、温度120℃下で、二つのチャックを各々図中、白抜き矢印で示すように左右方向に10mm/分の速度で移動させ、試験片50と金属片51とを反対方向に引っ張った。そして、試験片50がゴム部材510から剥離する時の力を測定した。
所定のプレス回数ごとに、次式(ii)により剥離力増加率を算出し、剥離力増加率が初めて150以上になるプレス回数を求めた。そして、次式(iii)により、剥離力増加率が150以上になる比較例1の試験片のプレス回数を基準にして各試験片のプレス回数の相対値を求めた。
剥離力増加率=プレス成形n回後の剥離力/プレス成形前の初期剥離力 ・・・(ii)
相対値=剥離力増加率が初めて150以上になる各試験片のプレス回数/剥離力増加率が初めて150以上になる比較例1のプレス回数 ・・・(iii)
表3に、比較例1の試験片のプレス回数を1とした時の各試験片のプレス回数の相対値を示す。相対値が大きいほど、剥離力が増加しにくく、耐久性に優れるといえる。
Figure 2017148975
表3に示すように、実施例1、2の試験片の相対値は、比較例1の試験片の9倍以上になった。これより、実施例1、2の試験片では、プレス成形を繰り返しても、剥離力が増加しにくいことがわかる。また、参考例2、3の試験片では、実施例1、2の試験片と比較して、相対値が小さく、剥離力の増加が早かった。以上より、実施例1、2の試験片に形成されためっき層は、PTFE膜が剥離しにくく耐久性に優れることが確認された。
<再生試験>
実施例1の試験片を用いて、次のようにして再生試験を行った。まず、試験片を濃度3.5質量%の塩酸水溶液に30分間浸漬させて、めっき層が形成されていた区画の任意の一方向の表面粗さRz、Raを測定した。次に、再び試験片を濃度3.5質量%の塩酸水溶液に70分間浸漬させて(合計100分間)、同区画の任意の一方向の表面粗さRz、Raを測定した。塩酸処理後の試験片においては、めっき層が剥離され、基材の素地が表出している。続いて、素地の表面を、実施例1の試験片を製造した際の方法と同じ方法でブラスト処理して(処理圧力:8kPa)、任意の一方向の表面粗さRz、Raを測定した。Rz、Raについては、上述した方法、すなわち、試験片のめっき層の表面粗さを測定した方法と同じ方法で測定した。表4に、表面粗さRz、Raの測定結果を示す。
Figure 2017148975
表4に示すように、塩酸に浸漬する時間が長いほど、表面粗さRz、Raは小さくなった。これは、塩酸分子の衝突により凸部が削れていくためと考えられる。しかしながら、再び低圧でブラスト処理を行うことにより、素地の表面粗さは最初の表面粗さに近くなった。このように、低圧でブラスト処理を行うと、基材の素地表面を容易に元の状態に戻せることが確認された。
1:成形型(燃料電池ゴムガスケット用成形型)、10:上型、11:下型、12:キャビティ、100:下面、110:凹部、50:試験片、51:金属片、500:めっき層、510:ゴム部材。

Claims (10)

  1. 燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面にめっき層を有する燃料電池ゴムガスケット用成形型であって、
    該めっき層は、表面にフッ素樹脂膜を有し、
    該めっき層の表面における任意の一方向の最大高さ粗さ(Rz)は3.60μm以上6.50μm以下であり、該一方向のRzと該一方向に垂直な方向のRzとの差は1.00μm以下であることを特徴とする燃料電池ゴムガスケット用成形型。
  2. 前記めっき層の表面における任意の一方向の算術平均粗さ(Ra)は0.51μm以上0.80μm以下であり、該一方向のRaと該一方向に垂直な方向のRaとの差は0.10μm以下である請求項1に記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型。
  3. 前記フッ素樹脂膜は、ポリテトラフルオロエチレン膜である請求項1または請求項2に記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型。
  4. 前記めっき層の厚さは、4μm以上6μm以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型。
  5. 前記フッ素樹脂膜の厚さは、0.01μm以上4μm以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型。
  6. 燃料電池のゴムガスケットを成形するための燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法であって、
    成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理するブラスト処理工程と、
    該ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成するめっき処理工程と、
    を有することを特徴とする燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法。
  7. 前記成形面の素地表面は、切削加工が施された切削面である請求項6に記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法。
  8. 前記ブラスト処理において、投射材として多角形粒子を使用する請求項6または請求項7に記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法。
  9. 前記燃料電池ゴムガスケット用成形型は、前記ゴムガスケットが収容される溝状の凹部を有し、前記成形面は該凹部の表面を含み、
    前記ブラスト処理を行う前後において、該凹部の幅の寸法交差は25μm以下であり、該凹部の深さの寸法交差は10μm以下である請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の燃料電池ゴムガスケット用成形型の製造方法。
  10. 燃料電池のゴムガスケットを成形するために用いられ、成形面にめっき層を有する燃料電池ゴムガスケット用成形型において、
    該成形面から該めっき層を剥離して素地を表出させる剥離工程と、
    該成形面の素地表面を30kPa以下の圧力でブラスト処理するブラスト処理工程と、
    該ブラスト処理された表面を、フッ素樹脂粒子を含むめっき液で処理した後に焼成して、表面にフッ素樹脂膜を有するめっき層を形成するめっき処理工程と、
    を有することを特徴とする燃料電池ゴムガスケット用成形型の再生方法。
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