JP2017137275A - 抗微生物部材 - Google Patents
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Abstract
Description
そのため、本発明者らは、特許文献1に、実使用環境を想定した条件での抗菌力評価法を提案している。
特許文献2に提案されている抗微生物性材料は、JIS Z 2801に基づいた試験法では高い抗菌性を発揮しても、特許文献1で提案した実使用環境を想定した条件では、高い抗菌力を有さない場合がある。
特許文献3の抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物は、抗菌効果が水にわずかに溶解するベンゾトリアゾール銅化合物から徐放する銅のみに由来する。抗菌剤であるベンゾトリアゾール銅化合物は、樹脂成形製品や塗料製品などへ配合して使用され、抗菌剤は製品の表面全面に露出しないから、抗菌剤自体よりも徐放する銅の量が抑えられるとともに、抗菌剤が露出していない部位に接触した菌に対し、抗菌効果が発揮しにくい場合がある。そのため、特許文献3で提案されている抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物を配合した製品は、特許文献1で提案した実使用環境を想定した条件でも、高い抗菌力を有さない場合がある。また、銅をベンゾトリアゾールとの化合物とすることで銅の変色は起こりにくくなるが、発現できる色相は銅赤色のみであり、製品としての応用が限られる。
前記抗微生物層が、銅−錫合金を含有し、
前記抗微生物層の最表面から最大で0.15μmの深さを有する表層部における前記銅−錫合金が、銅を83質量%以上含有し、銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下であることを特徴とする抗微生物部材。
2.前記表層部の最表面から0.015μm以上の深さを有する表層内部における酸素含有量が10質量%以下であることを特徴とする1.に記載の抗微生物部材。
3.前記表層部が、窒素原子を有する変色防止剤と銅の化合物を含有することを特徴とする1.または2.に記載の抗微生物部材。
4.前記窒素原子を有する変色防止剤が、ピロール環、ピラゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のいずれかを有する複素環式化合物、メルカプト基を有する化合物、チオウレア類、チアジアゾール類の少なくとも1種であることを特徴とする3.に記載の抗微生物部材。
5.前記表層内部における窒素含有量が3.5質量%以下であることを特徴とする3.または4.に記載の抗微生物部材。
本発明の抗微生物部材は、医療施設、老健施設、幼児施設、教育施設、公共施設、公共交通機関、オフィスビル、医薬品製造施設、食品製造施設、飲食施設、畜産施設等において使用される様々な製品、設備等に利用することができる。具体的には、本発明の抗微生物部材を、ドアノブ、ドアハンドル、レバーハンドル、スライドラッチ、プッシュプレート、ベッドフットボード、ベッドサイドテーブル、ストレッチャー、カウンターテーブル、キーボード、ボールペン、点滴台、メイヨスタンド、エマージェンシーカート、ドレッシングカート、ハンパーカート、トイレットペーパーホルダー、トイレのレバー、水道栓、手すり、つり革、エレベータのボタン、ナースコールボタン、照明ボタン、壁面、床面、壁紙等として利用することで、衛生的な環境面、および、部材、製品を提供できる。また、本発明の抗微生物部材を、食品製造装置、食品運搬装置、厨房機器、調理器具等に利用することにより、食中毒のリスクを低減することができる。
さらに、変色防止剤と銅の化合物を配合することにより、抗菌力を維持しながら、経時的な変色を低減することができる。
基材2は、抗菌性を付与したい任意の素材から選択することができ、また、その形状も制限されない。例えば、銅、真鍮、ニッケル、チタン、アルミニウム等の非鉄金属や合金、ステンレス等の鉄合金、合金鋼、あるいはそれらの複合金属、樹脂、フィルム、天然繊維、不織布、ガラス、セラミックス、紙、木材、布、皮革等が挙げられる。
抗微生物層3は、抗微生物部材1の最表面に位置し、銅−錫合金を含有する。本発明の抗微生物層は、銅と錫という2種類の抗菌成分を併用することにより、耐性菌の発生を予防する効果を奏している。抗微生物層の厚さが薄すぎると、内部から表面に供給される抗菌成分の量が少なくなり、抗菌力が持続する期間が短くなる。抗微生物層の厚さは0.015μmよりも大きければよいが、0.030μm以上であることがより好ましく、0.15μm以上であることがさらに好ましい。抗微生物層の厚さは、特に制限されないが、基材との密着性の点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
抗微生物層は、本発明の特性を阻害しない範囲で他の金属や樹脂、抗菌成分、変色防止剤等の有機化合物等を含有することができる。
表層部31は、抗微生物層3の最表面から最大で0.15μm以下の深さまでの部分である。表層部31は、最大で0.15μmの深さを有し、抗微生物層3の厚さが0.15μm未満の場合は、抗微生物層3の全厚が表層部31となる。
表層部31における銅−錫合金は、銅を83質量%以上含有し、銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下の範囲である。なお、表層部における銅−錫合金は、銅を83質量%以上含有し、銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下の範囲であればよく、銅、錫以外の他の金属を含有する合金とすることもできる。
本発明の抗微生物部材において、抗菌力は、抗微生物層の最表面から最大で0.15μmの深さを有する表層部における銅−錫合金の銅含有量が重要な要因の一つであり、表層部における銅−錫合金の銅含有量が83質量%未満では十分な抗菌力を得ることは困難である。また、銅と錫の質量%比(銅/錫)も抗菌力の重要な要因の一つである。銅含有量は、84質量%以上96質量%以下、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下であることが好ましく、84質量%以上90質量%以下、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が6以上12以下であることがさらに好ましい。
銅が銅赤色しか発現できないのに対し、銅−錫合金は錫の配合比を変えることにより、様々な色相の金属色を発現することができる。また、銅−錫合金は、銅よりも変色が起こりにくく、変色が生じても目立ちにくい。銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下の銅−錫合金は、銅赤色、黄銅色、黄金色、白金色等の様々な色相からなる金属色を発現することができる。
なお、抗微生物層において、表層部よりも深い部分の組成については特に制限されない。しかし、抗微生物性を長期間に亘って維持するためには、表層部に要求される銅を83質量%以上含有し、銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下の範囲である組成を、より深い部分まで満足することが好ましい。
表層内部32は、表層部31(抗微生物層3)の最表面から0.015μm以上の深さを有する部分である。すなわち、表層内部32は、表層部31の最表面から0.015μm未満の深さを有する部分を除いた残りの部分である。
表層内部32は、酸素含有量が10質量%以下であることが好ましい。銅および銅合金は、室温で空気に触れると酸化第一銅(Cu2O)を含む薄い酸化皮膜が形成される。銅原子は、この薄い酸化皮膜を通して外側に拡散し、酸素と反応して酸化皮膜が成長する。この酸化皮膜が0.005μm程度の厚さまで増して緻密になると、銅の拡散は起こりにくくなるが、さらに皮膜の成長が進み厚さが増すと、表面の金属光沢を保てなくなり、次第に干渉色を示す変色現象が起こる。銅−錫合金からなる日本国の10円硬化の例からもわかるように、銅合金の変色現象はよくみられる。そのため、厚い酸化皮膜が形成されると銅の拡散が減少し、抗菌力が低下してしまうことが予想される。しかしながら、本発明の抗微生物部材の表層内部における酸素含有量が10質量%以下であれば、抗菌力を発揮することができる。表層内部における酸素含有量は、7%以下であることがより好ましい。
変色防止剤とは、銅と反応、結合、または吸着して変色を抑制する化合物である。
抗微生物層の表層部に、窒素原子を含有する変色防止剤を反応させ、変色防止剤と銅との化合物を含有する皮膜を形成すると、抗菌力を維持しながら、抗微生物層の変色をさらに抑制することができる。
また、変色防止剤自体はエタノール等に溶解するが、本発明の抗微生物部材においては変色防止剤は銅と化学的に結合しているため、表面を消毒用エタノール等で清拭しても、変色防止剤は消失しにくく、変色防止効果は低下しにくい。
ピロール環を有する複素環式化合物の例としては、ピロール、ジベンゾピロール等が挙げられる。
ピラゾール環を有する複素環式化合物の例としては、ピラゾール、2,1−ベンゾピラゾール、3−アミノピラゾール等が挙げられる。
イミダゾール環を有する複素環式化合物の例としては、イミダゾール、2−アミノイミダゾール、2−アミノイミダゾールのアミノ基のR置換体、ベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾールのアミノ基のR置換体、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
テトラゾール環を有する複素環式化合物の例としては、5,5’−ビ−1H−テトラゾール、5,5’−ビ−1H−テトラゾール・アンモニウム塩等が挙げられる。
チオウレア類としては、チオウレア、エチレンチオウレア、トリメチレンチオウレア、1−フェニル−2−チオウレア等が挙げられる。
チアジアゾール類としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。
ベンゾトリアゾールは、銅や銅合金の腐食抑制剤、変色防止剤として知られており、銅と反応してベンゾトリアゾール銅またはベンゾトリアゾールと銅の錯化合物を形成する。ベンゾトリアゾールは、皮膜形成型の腐食抑制・変色防止剤であり、銅含有量の高い銅−錫合金に適用すると、その表面には、主にベンゾトリアゾール銅皮膜、及び酸化第一銅(Cu2O)皮膜を含有する多層皮膜が形成され、この皮膜が酸素拡散障壁となる。銅は、アノード溶解反応により銅イオンとなり、酸素と反応して腐食、変色するが、この皮膜が特に、アノード溶解反応と対になるカソード反応を抑制することにより、空気中の酸素や腐食性ガスによる銅の腐食および変色を抑制する。
一般的な変色防止剤であるベンゾトリアゾールを例に説明する。
ベンゾトリアゾール処理後に形成される皮膜は、酸素拡散障壁となる。高い銅含有量の銅合金が有する抗菌力の核はCu+、次いでCu2+であり、ベンゾトリアゾール処理後でも高い抗菌力を維持するためには、Cu+やCu2+が外側へ拡散する必要がある。
銅表面の凝縮水中ではCu2Oが析出し、大気中に曝露されると緑青が成長する。緑青は大気中の成分によって化合物の種類や色が異なる。例えば、CuCl(白色系)、CuCO3Cu(OH)2(淡緑色系)、CuCl3Cu(OH)2(淡緑色系)、CuSO43Cu(OH)2(緑色系)、CuO(黒色系)等である。これらの生成物は、銅イオンの外側への移動を妨げないが、酸素の下地銅表面への拡散の障壁になる。
ベンゾトリアゾール処理後に形成される皮膜がそれほど緻密でない場合や欠陥部が存在する場合には、緑青と同様に銅イオンの外側への拡散を妨げず、抗菌力が維持される。
銅―錫合金を含有する抗微生物層の作製法としては、例えば、真空蒸着法、レーザー蒸着法、アーク蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、溶射法、転写法、溶融めっき法、電気めっき法、無電解めっき法、プラズマCVD法、熱CVD法、PVD法、塗装法、圧着法等の方法を用いることができる。また、複数の方法を組み合わせて用いることもできる。
これらの中で、コストや生産性、簡便性の点から、電気めっき法や真空蒸着法による共蒸着が好ましい。例えば共蒸着法としては、1)銅と錫を蒸着源として別々に蒸発速度を制御し蒸着させる方法や、2)銅−錫合金を蒸着源として蒸着させる方法がある。例えば1)の方法において、市販の蒸着装置(例えば、ベルージャが約400mmφ、到達真空度1×10−7mmHg、拡散ポンプ排気能力400L/min)を用いて、所定量の銅と錫を4個のタングステン線コニカルバスケットに2個ずつ配置し、各2個を直列連結し、加熱電流を調整することにより蒸発速度を制御して蒸着を行い、蒸着物の合金組成を分析して、蒸着源の銅と錫の量を調整することにより、本発明の組成を有する銅−錫合金を含有する抗微生物層を作製することができる。
変色防止処理は、抗微生物部材を変色防止剤を含む溶媒に20℃〜60℃で30秒〜90秒間浸漬して水洗して乾燥することにより、行うことができる。溶媒としては、水と有機溶媒の混合溶媒が適している。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、アセトン等が挙げられる。有機溶媒の添加量としては、水に対して0.1〜200g/Lが望ましい。また、低圧下において変色防止剤の飽和蒸気中に、抗微生物部材を室温〜85℃で10分〜3時間放置した後、水洗、乾燥することにより行うこともできる。
変色防止処理は、銅−錫合金を含有する抗微生物層を作製した直後に行うことが好ましい。抗微生物層を作製後に時間をおくと、酸化皮膜が形成され、皮膜の緻密さや厚さ等によっては変色防止剤と抗微生物層中の銅との反応が進行しにくくなる場合や、剥離しやすい皮膜が形成される場合がある。
本発明の抗微生物部材は、表層部における銅含有量が高く、銅を主たる抗微生物成分とするため、銅の抗微生物スペクトルと同等の種類の微生物に効果を有する。
銅は、グラム陰性菌、グラム陽性菌、エンベロープのあるウィルス、エンベロープのないウィルス、真菌、芽胞菌等に幅広く抗微生物効果を示す。銅が抗微生物性を有する微生物は、グラム陰性菌の例としては大腸菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、エンテロバクター・アエロゲネス、レジオネラ菌等、グラム陽性菌の例としては黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、クロストリディウム・ディフィシル等、エンベロープのあるウィルスの例としてはインフルエンザウィルス等、エンベロープのないウィルスの例としてはアデノウィルス等、真菌の例としてはアスペルギルス・ニガー等、芽胞菌の例としてはクロストリディウム・ディフィシル等が挙げられる。また、銅は、クリプトスポリジウム・パルバム等の原虫に対する抗微生物性も確認されている。
基材としてステンレス鋼板を使用し、以下に示す条件でめっき処理により銅−錫合金を含有する抗微生物層を基材表面に形成して、抗微生物部材A〜Eを作製した。
基材を市販のめっき処理液で脱脂処理、酸洗処理を行った後、ニッケルストライクめっき、電気銅−錫合金めっきにより、2.5〜4.5μm厚さのめっき層を形成した。
電気銅−錫合金めっき浴は、ピロリン酸第二銅とピロリン酸第一錫を混合して0.12mol/Lとし、その混合比を増減させ、ピロリン酸カリウムを1mol/L、メタンスルホン酸を0.6mol/L含有し、光沢剤を適宜加え、pH7.5に調製した浴を使用した。
抗微生物部材A〜Eの抗微生物層について、基材中心部における深さ方向の元素含有量を、グロー放電発光分光分析装置(GDS)により4mm径の範囲で定量分析した。所定深さまでの元素分析値(質量%)の平均値(各元素のグラフの所定深さまでの積分値をその深さで除して求めた単位深さ当たりの値に相当)を算出することにより、その深さまでの元素含有量(質量%)とした。分析元素は、銅、錫、酸素、窒素、炭素、ニッケル、リン、硫黄、鉄、クロム、マンガン、ケイ素とした。
グラム陰性菌であるPseudomonas aeruginosa NBRC 13275(緑膿菌)と、グラム陽性菌であるStaphylococcus aureus IID 1677(メシシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)を試験菌とした。
試験菌を普通寒天培地で35±1℃、16〜24時間培養した後、1/20濃度の普通ブイヨン培地に浮遊させ、菌数が約108/mLになるように調整した。模擬皮脂としてオレイン酸を0.05mg及びトリオレインを0.18mg含浸させたろ紙に各培養液を0.3mL〜0.6mL添加した後、抗微生物部材A〜Eの抗微生物層に接触させて菌を接種した。ろ紙を剥離した抗微生物部材A〜Eを、28℃、相対湿度43%で3時間保持した後、SCDLP培地10mLで洗い出して生菌数を混釈平板培養法により測定し、試料1個当たりに換算した。コントロールとしてステンレス鋼板を用いた。
n=3で試験を行い、抗微生物部材A〜Eの3時間後の対数値の差(0時間後値−3時間後値)からコントロールの3時間後の対数値の差(0時間後値−3時間後値)を差し引いた値が2.0以上場合は評価◎、1.0〜2.0の場合は評価○、1.0未満の場合は評価△とした。◎と○を抗菌性ありと判断した。
抗微生物部材A〜Eについて、JIS H 8504:1999に準拠した密着性試験を行った。めっき層が剥離しない場合を○、剥離する場合を×とした。
抗微生物層の0.05μmまでの深さにおける銅含有量が77.5質量%、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が4.1である抗微生物部材A、抗微生物層の0.15μmまでの深さにおける銅含有量が70.0質量%、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が2.5である抗微生物部材Bは、緑膿菌、MRSAに対する抗菌力に劣っていた。
抗微生物層の0.15μmまでの深さにおける銅含有量が84.3質量%以上、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が6.8〜36.6である抗微生物部材C〜Eは優れた抗菌力を示しており、抗微生物層の最表面から最大で0.15μmの深さを有する表層部における銅含有量が83質量%以上、かつ銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下であると、優れた抗微生物性を示すことが確認できた。
また、めっき層は、強固に密着しており、抗微生物部材A〜Eのいずれも剥離しなかった。
[酸化処理]
抗微生物部材Dを、200℃で1時間または300℃で1時間静置して、酸化処理を行った。実験1と同様にして元素含有量を測定したところ、最表面から0.015μm以上0.15μm以下の深さを有する表層内部における最も高い酸素含有量は、300℃で1時間処理した場合に検出され、その値は9.1質量%であった。
表層内部での酸素含有量が9.1質量%である酸化処理後の抗微生物部材の抗菌力を、実験1と同様にしてMRSAで評価したところ、1.3(○)を示した。
酸化皮膜が形成されることにより、銅は表面に拡散しにくくなり、抗菌力は低下した。しかし、十分な抗菌力を維持しており、表層内部における酸素含有量が10質量%以下であれば、抗菌力を有することが確認できた。
[ベンゾトリアゾール処理材料の評価]
実験1の抗微生物部材Dと同条件で、ステンレス鋼板とステンレス製レバーハンドルを基材として、抗微生物部材D2を作製した。
さらに、この抗微生物部材D2の抗微生物層に、市販のベンゾトリアゾール処理液を使用して変色防止処理を行い、抗微生物部材Fを作製した。処理時間はメーカー推奨の1.5分間とし、処理後に十分に水洗した。
実験1と同様にして、抗微生物部材F(鋼板)の深さ方向の元素含有量を測定したところ、最表面から0.015μm以上0.15μm以下の深さを有する表層内部における最も高い窒素含有量は1.3質量%であった。
[抗菌力試験]
実験1と同様にして、抗菌力試験を行った。
レバーハンドルである抗微生物部材D2、F、およびコントロールとしてステンレス製レバーハンドルを実使用環境にそれぞれ3カ所ずつ試験施工した。医療施設での使用を想定して、3回/週の頻度で消毒用エタノール含浸面シート(76.9〜81.4vol%)による清拭を行い、施工直後と6カ月後の一般細菌数測定を行った。
菌の採取は、市販の拭取り検査キットを用いて、レバーハンドルの約100cm2を拭き取っておこなった。生菌数測定は、標準寒天平板培養法で行った。コントロールと比較して平均生存率が20%未満の場合は評価◎、20〜50%の場合は評価○、50〜80%の場合は評価△、80%以上の場合は評価×とした。
実用的な観点から、実使用環境下における抗微生物部材の光沢度や色彩の変化を評価した。
長期評価試験で実使用環境に試験施工したレバーハンドルである抗微生物部材D2、Fの光沢及び色彩の変化を目視により評価した。これは、レバーハンドルは、その形状のため光沢度計や色差計での計測が困難なためである。
評価法は同一の照明条件下で未使用のレバーハンドルである抗微生物部材D2、Fとの違いを、目視比較および写真撮影の比較を組み合わせて行い、施工1カ月後と6カ月後の評価を行った。変化なしの場合は評価◎、わずかに変化の場合は評価○、明らかに変化の場合は評価△、大幅に変化の場合は評価×とした。
変色防止処理を行った抗微生物部材Fは、変色防止処理を行っていない抗微生物部材D2と同等の抗菌効果を有していた。また、有機溶媒による拭き取りを6ヶ月間、週に3回行った後も、抗菌効果は低下しなかった。
変色防止処理を行っていない抗微生物部材D2は、1ヶ月後には僅かに変色が確認でき、6ヶ月後には明らかに変色した。それに対し、変色防止処理を行った抗微生物部材Fは、1ヶ月後には変色が確認できず、6ヶ月後に僅かに変色が見られただけであった。
すなわち、変色防止処理を行うことにより、変色防止効果が得られるが、抗菌効果は低下しないことが確認できた。
2 基材
3 抗微生物層
31 表層部
32 表層内部
Claims (5)
- 基材と、最表面に位置する抗微生物層を有し、
前記抗微生物層が、銅−錫合金を含有し、
前記抗微生物層の最表面から最大で0.15μmの深さを有する表層部における前記銅−錫合金が、銅を83質量%以上含有し、銅と錫の質量%比(銅/錫)が5以上37以下であることを特徴とする抗微生物部材。 - 前記表層部の最表面から0.015μm以上の深さを有する表層内部における酸素含有量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の抗微生物部材。
- 前記表層部が、窒素原子を有する変色防止剤と銅の化合物を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の抗微生物部材。
- 前記窒素原子を有する変色防止剤が、ピロール環、ピラゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のいずれかを有する複素環式化合物、メルカプト基を有する化合物、チオウレア類、チアジアゾール類の少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の抗微生物部材。
- 前記表層内部における窒素含有量が3.5質量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の抗微生物部材。
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