本発明によれば、変異キナーゼ融合タンパク質、CD74−ROSの原因となるこれまでに未知の遺伝子転座が、ここで、肺癌のサブタイプであるヒト非小細胞肺癌(NSCLC)において同定されている。染色体(5q32)と染色体(6q22)との間で生じる転座によって、CD74のN末端と、2347アミノ酸の受容体チロシンキナーゼである癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼROS前駆体(ROS)キナーゼの膜貫通ドメインおよびキナーゼドメインとを結合した融合タンパク質が産生される。この結果生じる703アミノ酸のタンパク質であるCD74−ROS融合タンパク質は、キナーゼ活性を維持していると考えられ、この融合タンパク質を発現しているヒトNSCLC腫瘍のサブセットの増殖および生存を引き起こしていることが予想される。
神経膠芽細胞腫におけるFIG−ROS欠失(6)(q21,q21)転座(前掲、Charestら(2003)を参照されたい。)および活性のある切断型のROS(前掲、Birchmeierらを参照されたい。)を含む、ROSキナーゼに関わる異常な融合タンパク質の原因となる少数の遺伝子転座が記載されているが、本開示のCD74−ROSの転座および融合タンパク質は新規であり、この融合キナーゼは原発性のヒトNSCLC患者において初めて報告される。CD74は、MHCクラスIIシャペロンタンパク質として機能する膜内在性タンパク質である。ROSは、インスリン受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体チロシンキナーゼであり、細胞の増殖および分化の過程に関与する。ROSは、ヒトにおいて、多様な異なる組織の上皮細胞中で発現する。神経膠芽細胞腫ならびに中枢神経系の腫瘍において、ROSの発現および/または活性化における欠陥が見いだされている。例えば、前掲、Charestら(2003)を参照されたい。
以下にさらに記載のように、CD74−ROSの転座遺伝子および融合タンパク質は、現在、単離および配列決定され、この変異キナーゼタンパク質を発現させるためのcDNAが作製されている。したがって、本発明は、部分的には、CD74−ROS融合ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドとハイブリッド形成する核酸プローブ、ならびに組換え変異ROSポリペプチドを作製するためにこのようなポリヌクレオチドを利用するための方法、ベクター、および宿主細胞を提供する。また、本発明は、部分的には、CD74−ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列を含有する単離ポリペプチド、組換え変異ポリペプチド、ならびにCD74−ROS融合ポリペプチドを特異的に結合および/または検出するが、野生型CD74も野生型ROSも結合または検出しない単離試薬も提供する。本発明のこれらの態様は、後でさらに詳述するが、なかでも、肺癌ならびにCD74−ROSの転座および/または融合タンパク質を特徴とする他の癌を特定するための、変異ROSキナーゼの発現/活性によって引き起こされる癌の機序のさらなる研究において、ならびに以下にさらに記載のような本発明の方法の実施において有用であろう。
このROSキナーゼの新規な変異体および転座の同定には、この転座および/または融合タンパク質を特徴とする、NSCLCのような疾患の診断および治療の可能性に向けて重要な意味がある。NSCLCは、米国における癌死の主要な原因であり、転移するまで診断するのが難しいことが多く、この疾患を効果的に治療する、あるいは治癒させることをますます困難にしている。このため、NSCLCの死亡率は、診断後2年以内で75%である。前掲、American Cancer Societyを参照されたい。標的化されたEGFR−阻害剤が現在NSCLCの治療用に承認されているが、この療法は、全体的にまたは部分的に、(EGFRではなく、あるいはEGFRに加えて)変異ROSキナーゼが発現してその疾患を引き起こしている腫瘍を有する患者に対して、部分的にまたは全体的に効果がないこともあり得ることが予想される。
したがって、NSCLC腫瘍のサブセットにおいて増殖および生存を引き起こすことが予想される、NSCLCにおける遺伝子転座から生じるCD74−ROS融合タンパク質の本発見は、哺乳動物の(NSCLCのような)肺癌、ならびにCD74−ROS融合タンパク質または切断型ROSキナーゼを発現している他の癌を、正確に同定するための重要な新しい方法を使用可能にする。これらの腫瘍は、この変異ROSキナーゼのキナーゼ活性の阻害剤に反応性を示す可能性がきわめて高い。変異ROSキナーゼによって引き起こされる癌を可能な限り早期に同定できることは、どの療法、あるいは併用療法が特定の患者に最適かを臨床的に決定するのを大いに助けるであろうし、したがって、実際にはその癌を引き起こしている主要なシグナル伝達分子ではない他のキナーゼを標的とする阻害剤の処方を回避するのに役立つ。
したがって、本発明は、部分的には、本発明の融合に特異的な試薬および変異に特異的な試薬を用いて、癌におけるCD74−ROSの転座(t(5,6)(q32、q22)および/または融合ポリペプチドがあることを検出する方法を提供する。このような方法を、例えば、この変異タンパク質のROSキナーゼ活性の阻害剤に反応性を示す可能性が高い、NSCLC腫瘍のような癌を同定するために実施することもできる。また、本発明は、部分的には、化合物がCD74−ROS融合ポリペプチドを特徴とする癌の進行を抑制するかどうかを決定するための方法も提供する。さらに、本発明は、変異ポリペプチドの発現および/または活性を阻害することによってCD74−ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を抑制するための方法も提供する。このような方法については、後でさらに詳述する。本発明を実施する中で、当業者に知られる任意の好適な材料および/または方法を利用することができる。ただし、好ましい材料および方法については記載する。以下の記載および実施例において言及する材料および試薬などは、特に明記しない限り、市販の供給源から得ることができる。
本発明のさらなる態様、効果、および実施形態については、後でさらに詳述する。本明細書に引用する特許、公開された出願、および科学文献は、当業者の知識を確証し、それぞれが参照により組み込まれるものとして具体的かつ個別に示されているのと同程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中のあらゆる引用文献と本明細書の特定の教示との間のいかなる矛盾も後者を支持して解決されるものとする。同様に、技術分野で知られている単語または句の定義と本明細書中で特定的に教示する単語または句の定義との間のいかなる矛盾も後者を支持して解決されるものとする。本明細書中で用いているように、以下の用語には示すような意味がある。本明細書中で用いているように、単数形「一(a、an)」および「該(the)」は、その内容が他に明示されない限り、特にこれらが指す用語の複数形も包含する。「約」という用語は、およそ、近辺、おおよそ、または周辺を意味するために本明細書中で用いられている。数値の範囲に関連して「約」という用語を用いる場合には、記載する数値の上下の境界が拡張されることによってその範囲が少し変化する。一般に、「約」という用語は、記述した値の上下で20%の変動により数値を変化させるために本明細書中で用いられている。
「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」とは、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを含む全種類の免疫グロブリンのことをいい、そのFab断片または抗原認識断片が含まれ、キメラ抗体、ポリクローナル抗体、およびモノクローナル抗体が含まれる。本発明の抗体を産生するために好適なペプチド抗原を、周知の技術に従って設計、構築、および利用することができる。例えば、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL, 第5章, p.75-76、HarlowおよびLane(編)、Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Czernik、Methods In Enzymology, 201:264-283(1991);Merrifield、J. Am. Chem. Soc. 85:21-49(1962))を参照されたい。また、単鎖抗体、ラクダ科動物抗体およびその類似物ならびに重鎖または軽鎖を含むその抗体の構成要素を含む、4鎖より少ない抗体分子も本発明の範囲内にある。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン鎖は、5’側から3’側の順序で可変領域および定常領域を含有していてもよい。この可変領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4の構造をとるために、分散型のフレームワーク(FR)領域と共に、3つの相補性決定領域(CDR)を含有していてもよい。また、重鎖または軽鎖の可変領域、フレームワーク領域、およびCDRも本発明の範囲内にある。本発明の抗体は、CH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の一部もしくは全部を含む重鎖定常領域を含有していてもよい。本発明の抗体は、1×10−7Mまたはそれより小さい結合親和性(KD)を有していてもよい。他の実施形態では、該抗体は、1×10−8M、1×10−9M、1×10−10M、1×10−11M、1×10−12M、またはそれより小さいKDで結合する。特定の実施形態において、このKDは、1pM〜500pM、500pM〜1μMの間、1μM〜100nMの間、または100mM〜10nMの間である。本発明の抗体は、任意の種の動物、好ましくは哺乳動物から得ることができる。非限定的な自然抗体の例には、ヒト、ニワトリ、ヤギ、および齧歯動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、およびウサギ)に由来する抗体が含まれ、この齧歯動物には、ヒト抗体を産生させるために遺伝的に改変した遺伝子導入齧歯動物が含まれる(例えば、Lonbergら、WO第93/12227号;米国特許第5,545,806号;およびKucherlapatiら、WO第91/10741号;米国特許第6,150,584号を参照されたく、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。自然抗体は宿主動物によって産生される抗体であるが、本発明は、そのアミノ酸配列を天然の抗体のアミノ酸配列から変化させた遺伝子改変抗体も意図する。本出願に対する組換えDNA技術の適合性から、自然抗体に見られるアミノ酸の配列に限定する必要はなく、望ましい特性を得るために抗体を再設計することができる。可能な変形態様は多数あり、ただ1つのまたは少数のアミノ酸を変更することから、例えば可変領域または定常領域の、完全な再設計までに及ぶ。定常領域における変更は、一般に、補体固定、膜との相互作用、および他のエフェクター機能のような特性を改良または変化させるためになされるであろう。可変領域における変更は、抗原結合特性を改良するためになされるであろう。「ヒト化抗体」という用語は、本明細書中で用いているように、本来の結合能力を依然として維持させたまま、より厳密にヒト抗体に類似させるために、非抗原結合領域中でアミノ酸を置換した抗体分子のことをいう。特定的に意図される他の抗体は、オリゴクローナル抗体である。本明細書中で用いているように、「オリゴクローナル抗体」という句は、異なるモノクローナル抗体の所定の混合物のことをいう。例えば、PCT公開WO第95/20401号;米国特許第5,789,208号および第6,335,163号を参照されたい。一実施形態では、1つまたは複数のエピトープに対する抗体の所定の混合物からなるオリゴクローナル抗体は、単一の細胞内で産生される。他の実施形態では、オリゴクローナル抗体は、多様な特異性を有する抗体を産生するために、一般的な軽鎖と対形成できる複数の重鎖を含有する(例えば、PCT公開WO第04/009618号)。オリゴクローナル抗体は、単一の標的分子上の複数のエピトープを標的とすることが望まれる場合に特に有用である。本明細書に開示のアッセイおよびエピトープに鑑みて、当業者は、意図する目的および所望の必要性のために適用可能な抗体または抗体の混合物を作製または選択することができる。本発明において特定したリン酸化部位に対する組換え抗体も本出願中に含まれる。これらの組換え抗体は、その自然抗体と同じアミノ酸配列を有する、あるいは本出願においてその自然抗体の変更したアミノ酸配列を有する。これらは、原核生物および真核生物の両方の発現系を含む任意の発現系において、あるいはファージディスプレイ法を用いて作製することができる(例えば、Dowerら、WO第91/17271号、およびMcCaffertyら、WO第92/01047号;米国特許第5,969,108号を参照されたく、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。抗体を、多数の方法によって改変することができる。これらは、(小モジュール免疫薬剤、すなわちSMIP(商標)を含む)単鎖抗体、Fab断片、およびF(ab’)2断片などとして作製することができる。抗体を、ヒト化、キメラ化、脱免疫化する、あるいは、完全なヒト抗体とすることができる。多数の刊行物に、多種類の抗体およびそのような抗体の改変方法が記載されている。例えば、米国特許第6,355,245号;第6,180,370号;第5,693,762号;第6,407,213号;第6,548,640号;第5,565,332号;第5,225,539号;第6,103,889号;および第5,260,203号を参照されたい。これらの遺伝子改変抗体は、上記の自然抗体と機能的に同等であるべきである。特定の実施形態において、改変抗体は、改良された安定性または/および治療有効性をもたらす。改変抗体の例には、アミノ酸残基の保存的置換、および抗原結合の有用性をそれほど悪化させることのない1つまたは複数のアミノ酸の欠失または付加を有するものが含まれる。置換は、その治療的な有用性が維持される限り、1つまたは複数のアミノ酸残基を変更または修飾することから領域を完全に再設計することまでに及んでもよい。本出願の抗体を、翻訳後に修飾(例えば、アセチル化、および/またはリン酸化)することができ、あるいは合成的に修飾(例えば、標識基を付加)することができる。改変したまたはバリアントの定常領域またはFc領域を有する抗体は、例えば抗原依存性細胞傷害作用(ADCC)および補体依存性細胞傷害作用(CDC)などの、エフェクター機能を調節するのに有用となり得る。改変したまたはバリアントの定常領域またはFc領域を有するそのような抗体は、親シグナル伝達タンパク質(表1)が正常な組織内で発現している場合に有用となり得る;これらの場合、エフェクター機能のないバリアント抗体は、正常組織を損傷せずに所望の治療反応性を引き出し得る。したがって、本開示の特定の態様および方法は、1つまたは複数のアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失を含有し、エフェクター機能が変化している抗体に関する。「生物学的に活性な」という用語は、天然に存在する分子の構造的、調節的、または生化学的な機能を有するタンパク質のことをいう。同様に、「免疫学的に活性な」とは、自然の、組換えの、あるいは合成のCD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチド、またはこれらの任意のオリゴペプチドが、適切な動物内または細胞内で特定の免疫応答を誘導できること、および特定の抗体と結合できることをいう。
「生体試料」という用語は、最も広義に用いられており、CD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドあるいはCD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチドあるいはこれらの断片を含むと考えられる任意の生体試料を意味し、細胞、細胞から単離した染色体(例えば、広がった中期染色体)、(溶体中の、あるいはサザン解析用などの固体担体に結合した)ゲノムDNA、(溶体中の、あるいはノーザン解析用などの固体担体に結合した)RNA、(溶体中の、あるいは固体担体に結合した)cDNA、細胞からの抽出物、血液、尿、骨髄、または組織などを含み得る。
本明細書中で用いている技術用語および科学用語には、他で定義されない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されている意味がある。本明細書において、当業者に知られている種々の方法および材料に対して参照を行う。組換えDNA技術の一般的な原理を記載している標準的な参考資料には、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(1989);Kaufmanら(編)、Handbook of Molecular and Cellular Methods in Biology in Medicine, CRC Press, Boca Raton(1995);McPherson(編)、Directed Mutagenesis:A Practical Approach, IRL Press, Oxford(1991)が含まれる。薬理学の一般的な原理を記載している標準的な参考資料には、GoodmanおよびGilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeutics, 第11版, McGraw Hill Companies社, New York(2006)が含まれる。
癌および変異ROSのポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関して、「を特徴とする」とは、CD74−ROSのような転座および/または融合ポリペプチドが存在しない癌と比較して、CD74−ROS遺伝子の転座および/またはCD74−ROS遺伝子が発現した融合ポリペプチドが存在する癌を意味する。このような融合ポリペプチドの存在は、全体的にあるいは部分的に、そのような癌の増殖および生存を引き起こし得る。
「コンセンサス」とは、不要な塩基を分離するために再配列決定した核酸配列、またはXL-PCR(商標)(Perkin Elmer, Norwalk, Conn.)を使用して5’および/または3’方向に伸長して再配列決定した核酸配列、GELVIEW(商標)断片構築システム(GCG, Madison, Wis.)を使用して2つ以上のIncyteクローンの重複している配列から構築した核酸配列、または伸長および構築の両方を行った核酸配列のことをいう。
「ROSキナーゼ阻害治療薬」とは、野生型または切断型のROSの発現および/または活性を、直接的もしくは間接的に、単独でかつ/もしくはCD74−ROS融合タンパク質の一部として阻害する、1つまたは複数の化学的または生物学的な化合物を含有する任意の組成物を意味する。
「誘導体」とは、CD74−ROS融合ポリペプチドをコードしている核酸配列の化学修飾、あるいはそのコードされたポリペプチド自体のことをいう。このような修飾の例は、アルキル基、アシル基、またはアミノ基による水素の置換であろう。核酸の誘導体は、自然分子の必須の生物学的特性を維持するポリペプチドをコードするであろう。
本明細書に開示のポリペプチド、ポリヌクレオチド、または試薬に関して、「検出可能な標識」とは、これらに限定されるわけではないが、蛍光、質量、残基、色素、放射性同位体、標識、またはタグ修飾などを含む、化学的、生物学的、あるいは他の修飾を意味し、これによって目的とする分子の存在を検出し得る。
生体試料中のCD74−ROS融合ポリペプチドに関して、「発現」または「発現した」とは、この融合ポリペプチドがそれほど発現していない対照試料と比較して、顕著に発現していることを意味する。
「重同位体標識ペプチド」(AQUAペプチドと互換可能に用いる)とは、少なくとも1つの重同位体標識を含有するペプチドを意味し、これは、後でさらに述べる、WO第/03016861号、「Absolute Quantification of Proteins and Modified Forms Thereof by Multistage Mass Spectrometry」(Gygiら)に記載のように、タンパク質の絶対的な定量化または検出に好適である。このようなAQUAペプチドに関して、「特異的に検出する」という用語は、このペプチドがAQUAペプチド配列を含むポリペプチドおよびタンパク質のみを検出および定量化し、AQUAペプチド配列を含まないポリペプチドおよびタンパク質を実質上検出しないであろうことを意味する。
「単離した」(または「実質上精製した」)とは、その自然環境から取り出して、単離または分離した核酸配列またはアミノ酸配列のことをいう。これらは、これらが自然に結合している他の成分が、少なくとも60%ないことが好ましく、75%ないことがより好ましく、90%以上ないことが最も好ましい。
「模倣体」とは、CD74−ROS融合ポリペプチドまたはその一部の構造の知識からその構造が開発されている分子であって、したがって、転座関連のタンパク質様分子の作用の一部もしくは全部を遂行することができる分子のことをいう。
「変異ROS」ポリヌクレオチドまたは「変異ROS」ポリペプチドとは、本明細書に記載のようなCD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたはCD74−ROS融合ポリペプチドを意味する。
「ポリヌクレオチド」(または「ヌクレオチド配列」)とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、またはポリヌクレオチド、およびこれらの断片または一部、ならびにゲノム由来または合成由来のDNAまたはRNAのことをいい、これらは一本鎖または二本鎖であってもよく、センス鎖またはアンチセンス鎖を表してもよい。
「ポリペプチド」(または「アミノ酸配列」)とは、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列、およびこれらの断片または一部、ならびに天然に存在する分子または合成分子のことをいう。本明細書中で天然に存在するタンパク質分子のアミノ酸配列のことをいうために「アミノ酸配列」を列挙する場合に、「アミノ酸配列」および「ポリペプチド」または「タンパク質」などの同様の用語は、アミノ酸配列を、列挙したタンパク質分子に関連した、完全な、天然のアミノ酸配列に限定することを意味するわけではない。
「CD74−ROS融合ポリヌクレオチド」とは、自然供給源か、合成供給源か、半合成供給源か、または組換え供給源かを問わず、任意の供給源に由来する、任意の種、特に、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ、および好ましくはヒトを含む哺乳動物から得られる、実質上精製した、本明細書に記載のCD74−ROS転座の遺伝子産物、すなわち融合ポリヌクレオチドの核酸配列のことをいう。
「CD74−ROS融合ポリペプチド」とは、自然、合成、半合成、または組換えかを問わず任意の供給源からの任意の種、特に、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ、および好ましくはヒトを含む哺乳動物から得られ、実質上精製した、本明細書に記載のCD74−ROS融合ポリペプチドのアミノ酸配列のことをいう。
抗体とタンパク質またはペプチドとの相互作用に関して、「特異的に結合する」(あるいは「特異的に結合している」または「特異的結合」)という用語は、その相互作用がそのタンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存していることを意味する;換言すれば、その抗体は、タンパク質全体よりはむしろ特定のタンパク質構造を認識して結合している。特異的でない配列または抗原決定基に対する抗体の結合に関して、「結合しない」という用語は、その抗体に特異的な抗原決定基または配列に対する抗体の結合と比較して、実質上反応しないことを意味する。
配列またはプローブのハイブリダイゼーション条件に関して、「ストリンジェント条件」という用語は、約Tmマイナス5℃(そのプローブまたは配列の融解温度(Tm)より5℃下)からTmより約20℃〜25℃下までの範囲内で生じる「ストリンジェンシー」である。典型的なストリンジェント条件は以下の通りである:50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸3ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、および20マイクログラム/mLの変性、切断したサケ精子DNAを含む溶液中、42℃で一晩インキュベートした後、0.1×SSC中、約65℃でフィルターを洗浄する。当業者に理解されるであろうように、同一または類似のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを変えることもできる。
CD74−ROS融合ポリペプチドの「バリアント」とは、1つまたは複数のアミノ酸だけ変更されたアミノ酸配列のことをいう。このバリアントは、「保存的」変化をする場合もあり、このとき、置換されたアミノ酸は構造的または化学的に類似した特性を有し、例えば、ロイシンがイソロイシンで置換される。稀に、バリアントが「非保存的」変化をする場合もあり、例えば、グリシンがトリプトファンで置換される。類似した軽微な変化には、アミノ酸の欠失または挿入、あるいはその両方が含まれ得る。生物学的または免疫学的な活性を損なうことなく、どのアミノ酸残基を置換、挿入、または欠失することができるかを決定する際の手引きは、例えばDNASTARソフトウェアなど、当技術分野において周知のコンピュータープログラムを用いて見いだすこともできる。
A.ヒトNSCLCにおける変異ROSキナーゼの同定。ヒトNSCLCにおいて染色体(5q32)と染色体(6q22)との間で生じ、CD74のN末端(エクソン1〜6)とROSの膜貫通ドメインおよびキナーゼドメイン(エクソン34〜43)とを結合した、2種類のバリアントの融合タンパク質の発現に至る、本明細書に開示の新規なヒト遺伝子転座は、驚いたことに、肺癌のサブタイプであるヒト非小細胞肺癌(NSCLC)患者からの抽出物で包括的なリン酸化ペプチドプロファイルを調べていた時に同定された。この転座に関与するこれらの染色体、遺伝子、および産物を図1に示す。
この細胞株のリン酸化プロファイルは、複雑な混合物から修飾ペプチドを単離し、質量分析で特徴解析するための最近記載された技術を用いて明らかにした(本明細書中で実施例1にさらに記載のように、米国特許公開第20030044848号、Rushら、「Immunoaffinity Isolation of Modified Peptides from Complex Mixtures」(「IAP」技術)を参照されたい。リン酸化チロシン特異的抗体(CELL SIGNALING TECHNOLOGY社, Beverly, MA, 2003/04 カタログ#9411)を使用したIAP技術の適用により、1名のNSCLC患者が、(そうでない大部分の他のNSCLC患者とは対照的に)ROSキナーゼを発現することを特定した。このスクリーニングにより、ROSを含む、この患者における多数の他の活性化したキナーゼが同定された。次いで、5’RACE法による、ROSの5’の配列の解析によって、このキナーゼがCD74のN末端に融合されていることを確認した(図5を参照されたい)。
図1のパネルBに示すように、CD74−ROS転座は、CD74のN末端(アミノ酸1〜208)をROSの膜貫通ドメインおよびキナーゼドメイン(アミノ酸1853〜2347)(配列番号:1も参照されたい)と結合して、1つの融合体を生じさせる(図1のパネルCを参照されたい)。この転座は、CD74の最も5’側の膜貫通ドメインを維持している。この結果生じるCD74−ROS融合タンパク質は、703アミノ酸(図1のパネルCおよび図2(配列番号:1)を参照されたい)を含有するが、ROSのキナーゼ活性を維持していることが予想される。
ヒトNSCLC腫瘍の包括的なリン酸化ペプチドプロファイリングおよびFISH解析によって、少ない割合の患者が実際にこの変異を有しており(実施例1および3を参照されたい)、これらの患者はROS阻害剤療法の恩恵をうけ得ることが示されている。
B.単離ポリヌクレオチド。本発明は、部分的には、CD74−ROS融合ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドとハイブリッド形成するヌクレオチドプローブ、ならびに組換え融合ポリペプチドを作製するためにこのようなポリヌクレオチドを利用するための方法、ベクター、および宿主細胞を提供する。特に明記しない限り、本明細書中でDNA分子をシークエンシングすることによって決定する全ヌクレオチド配列は、(Applied Biosystems社からのモデル373などの)自動DNA配列決定装置を使用して決定し、本明細書中で決定するDNA分子によってコードされるポリペプチドの全アミノ酸配列は、自動ペプチド配列決定装置を使用して決定した。この自動化アプローチによって決定する任意のDNA配列について当技術分野で知られているように、本明細書中で決定する任意のヌクレオチド配列は、いくつかのエラーを含み得る。自動操作によって決定するヌクレオチド配列は、配列決定するDNA分子の実際のヌクレオチド配列と、典型的には少なくとも約90%同一であり、より典型的には少なくとも約95%から少なくとも約99.9%同一である。実際の配列は、当技術分野で周知の手動DNA配列決定方法などの他のアプローチによって、より正確に決定することができる。また、当技術分野で知られているように、実際の配列と比較して、決定したヌクレオチド配列中にある1つの挿入または欠失は、そのヌクレオチド配列の翻訳物中に、そのような挿入または欠失の部位から始まり、決定したヌクレオチド配列によってコードされる予測アミノ酸配列が配列決定したDNA分子によって実際にコードされるアミノ酸配列と完全に異なるようなフレームシフトを引き起こすであろう。特に明記しない限り、本明細書中に記載の各ヌクレオチド配列は、デオキシリボヌクレオチドの配列(略記A、G、C、およびT)として示す。しかし、核酸分子またはポリヌクレオチドの「ヌクレオチド配列」は、DNA分子またはポリヌクレオチドについては、デオキシリボヌクレオチドの配列を、RNA分子またはポリヌクレオチドについては、対応するリボヌクレオチドの配列(A、G、C、およびU)を意図し、ここで、特定のデオキシリボヌクレオチド配列中の各チミジンデオキシリボヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドウリジン(U)により置換される。例えば、配列番号:2の配列またはデオキシリボヌクレオチドの略記号を用いて記載される配列を有するRNA分子の参照は、配列番号:2の各デオキシリボヌクレオチドA、G、またはCが対応するリボヌクレオチドA、G、またはCにより置換され、かつ各デオキシリボヌクレオチドTがリボヌクレオチドUにより置換されている配列を有するRNA分子を示すことを意図する。
一実施形態では、本発明は、以下からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を含有する単離ポリヌクレオチドを提供する:(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;(b)CD74のN末端アミノ酸配列(配列番号:3の残基1〜208)およびROSのキナーゼドメイン(配列番号:5の残基1945〜2222)を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;(c)CD74のN末端ヌクレオチド配列(配列番号:4の残基1〜624)およびROSのキナーゼドメインヌクレオチド配列(配列番号:6の残基6032〜6865)を含有するヌクレオチド配列;(d)CD74−ROS融合ポリヌクレオチドの融合ジャンクション(配列番号:2の残基622〜627)を含む少なくとも6つの連続したヌクレオチドを含有するヌクレオチド配列;(e)CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション(配列番号:1の残基208〜209を含む少なくとも6つの連続したアミノ酸を含有するポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;ならびに(f)(a)〜(e)のいずれかのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列。
図2にあるヌクレオチド配列(配列番号:2)のような、本明細書に記載の情報を利用し、出発物質としてmRNAを使用してcDNAをクローニングするための方法などの標準的なクローニング法およびスクリーニング法を用いて、本発明の変異ROSポリペプチドをコードしている本発明の核酸分子を得ることもできる。この融合遺伝子は、他の肺の癌腫、またはCD74−ROS転座(5q32、6q22)が生じる、あるいは欠失または他の転座により野生型キナーゼの細胞外ドメインを欠いている切断型ROSキナーゼの発現に至る癌におけるcDNAライブラリー中でも同定され得る。
CD74−ROS転座遺伝子産物の決定したヌクレオチド配列(配列番号:2)は、キナーゼ融合タンパク質703アミノ酸(図2(配列番号:1)および図1を参照されたい)をコードする。CD74−ROS融合ポリヌクレオチドは、野生型CD74タンパク質のN末端(エクソン1〜6)をコードする野生型CD74のヌクレオチド配列(図3(配列番号:3)を参照されたい)の一部と野生型ROSタンパク質(エクソン34〜43)の膜貫通ドメインおよびキナーゼドメインをコードする野生型ROSのヌクレオチド配列(図4(配列番号:5)を参照されたい)の一部を含有する。図1を参照されたい。
示しているように、本発明は、部分的には、CD74−ROS融合タンパク質の成熟型を提供する。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞により分泌されるタンパク質には、伸長するタンパク質鎖の粗面小胞体からの輸送が開始されると成熟タンパク質から切断されるシグナル配列または分泌リーダー配列がある。多くの哺乳動物細胞、および昆虫細胞も、同様の特異性で分泌タンパク質を切断する。しかし、場合によっては、分泌タンパク質の切断が完全に一様であるというわけではなく、その結果、そのタンパク質について2つ以上の成熟種が生じる。さらに、分泌タンパク質の切断特異性は、最終的に完全なタンパク質の一次構造によって決まることが長い間知られており、すなわち、そのポリペプチドのアミノ酸配列に固有である。したがって、本発明は、部分的には、ブダペスト条約の条項の規定により、2006年9月20日にアメリカ培養細胞系統保存機関(Manassas, Virginia, U.S.A.)に寄託された、ATCC寄託番号***−****として識別されるcDNAクローンにコードされるアミノ酸配列を有する成熟CD74−ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を提供する。
寄託されたcDNAクローンによってコードされるアミノ酸配列を有する成熟CD74−ROSポリペプチドとは、寄託された宿主細胞内のベクター中に含有されるクローンのヒトDNA配列によってコードされる完全なオープンリーディングフレームを哺乳動物細胞(後述するように、例えば、COS細胞)で発現させることによって産生されるこの融合タンパク質の成熟型を意味する。
示しているように、本発明のポリヌクレオチドは、mRNAのようなRNAの形態であってもよく、あるいは、例えばクローニングによって得られるかまたは合成によって産生されるcDNAおよびゲノムDNAを含む、DNAの形態であってもよい。このDNAは、二本鎖または一本鎖であってよい。一本鎖のDNAまたはRNAは、センス鎖としても知られるコード鎖であってもよく、あるいはアンチセンス鎖とも呼ばれる非コード鎖であってもよい。
本発明の単離ポリヌクレオチドは核酸分子、DNA、またはRNAであり、これらの天然の環境から取り出されている。例えば、ベクター内に含まれる組換えDNA分子は、本発明のために単離したものとみなされる。単離DNA分子のさらなる例には、異種の宿主細胞内で維持される組換えDNA分子、または(部分的に、あるいは実質上)精製した、溶液中のDNA分子が含まれる。単離RNA分子には、in vivoまたはin vitroにおける、本発明のDNA分子のRNA転写産物が含まれる。本発明による単離核酸分子には、さらに、合成的に生成されるそのような分子が含まれる。
本発明の単離ポリヌクレオチドには、図2(配列番号:2)に示すDNA分子、図1(配列番号:1)に示す成熟CD74−ROS融合タンパク質のコード配列を含有するDNA分子、および上記のものと実質上異なる配列を含有するが遺伝暗号の縮重のために依然として本発明の変異ROSポリペプチドをコードするDNA分子が含まれる。この遺伝暗号は当技術分野で周知であり、したがって、そのような縮重バリアントを作製することは当業者にとって日常的であろう。
他の一実施形態では、本発明は、上記の寄託cDNAクローン内に含まれるCD74−ROS転座ヌクレオチド配列を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしている単離ポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、このような核酸分子は、該寄託cDNAクローンによってコードされる成熟融合ポリペプチドをコードするであろう。他の一実施形態では、本発明は、CD74のN末端アミノ酸配列(配列番号:3の残基1〜208)およびROSのキナーゼドメイン(配列番号:5の残基1945〜2222)を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしている単離ヌクレオチド配列を提供する。一実施形態では、ROSのキナーゼドメインを含有するポリペプチドは、配列番号:5(図1、パネルBを参照されたい)の残基1853〜2347を含有する。他の一実施形態では、上記のCD74のN末端アミノ酸配列およびROSのキナーゼドメインはそれぞれ、配列番号:4のヌクレオチド1〜624および配列番号:6のヌクレオチド6032〜6865を含有するヌクレオチド配列によってコードされる。
本発明はさらに、本発明の変異ROS融合ポリペプチドのうちの1つと相補的な配列を有するヌクレオチド配列を含有する、単離ポリヌクレオチドを提供する。このような単離分子、特にDNA分子は、染色体とのin situハイブリダイゼーションによる遺伝子マッピング用、かつノーザンブロット解析などによるヒト組織中のCD74−ROS融合タンパク質または切断型ROSキナーゼポリペプチドの発現の検出用のプローブとして有用である。
本発明はさらに、本明細書に記載の単離核酸分子の断片に関する。本発明の単離CD74−ROSポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドの断片とは、長さが、少なくとも約15ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも約30ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも約40ヌクレオチドの断片を意図し、これらは、本明細書中で述べるように、診断用のプローブおよびプライマーとして有用である。当然、本発明では、該寄託cDNAのCD74−ROSヌクレオチド配列のすべてではなくとも大部分と一致している断片あるいは図2(配列番号:2)に示すような断片が有用であるように、長さが約50〜1500ヌクレオチドのより大きな断片も有用である。長さが少なくとも20ヌクレオチドの断片とは、例えば、その断片の由来となるそれぞれのヌクレオチド配列からの20以上の連続した塩基を含む断片を意図する。
このようなDNA断片の作製は、当業者にとって日常的であり、例えば、該寄託cDNAクローンから得られる、あるいは本明細書中に開示の配列の通りに合成して得られるDNAを、制限エンドヌクレアーゼ切断すること、あるいは超音波処理によって剪断することによって行うことができる。あるいは、このような断片を、直接、合成的に作製することもできる。
本発明の好ましい核酸断片または核酸プローブには、CD74−ROS転座遺伝子産物の融合ジャンクション(図1、パネルBおよびCを参照されたい)をコードしている核酸分子が含まれる。例えば、特定の好ましい実施形態において、本発明の単離ポリヌクレオチドには、CD74−ROS融合ポリヌクレオチドの融合ジャンクション(配列番号:2の残基622〜627)を含む少なくとも6つの連続したヌクレオチドを含有するヌクレオチド配列/断片が含まれる。他の好ましい一実施形態において、本発明の単離ポリヌクレオチドには、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション(配列番号:1の残基208〜209)を含む少なくとも6つの連続したアミノ酸を含有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列/断片が含まれる。
他の一態様において、本発明は、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、本明細書中に記載の本発明の変異ROSキナーゼポリヌクレオチドの一部とハイブリッド形成する単離ポリヌクレオチドを提供する。「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」とは、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸3ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、および20マイクログラム/mLの変性、剪断したサケ精子DNAを含む溶液中、42℃で一晩インキュベートした後、0.1×SSC中、約65℃でこのフィルターを洗浄することを意図する。
ポリヌクレオチドの「一部」とハイブリッド形成するポリヌクレオチドとは、基準ポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、より好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、さらにより好ましくは約30〜70ntとハイブリッド形成するポリヌクレオチド(DNAもしくはRNA)を意図する。これらは、上述し、以下に詳述するように、診断用のプローブおよびプライマー(例えばPCR用)として有用である。
当然、該寄託cDNAのヌクレオチド配列または図2(配列番号:2)に示すヌクレオチド配列のすべてではなくとも大部分と一致しているポリヌクレオチドが有用であるのと同様に、基準ポリヌクレオチド(例えば、図2に記載の成熟CD74−ROS融合ポリヌクレオチド(配列番号:2)のより大きい部分、例えば、長さが50〜750ntの部分と、あるいは基準ポリヌクレオチドの全長とハイブリッド形成しているポリヌクレオチドも本発明のプローブとして有用である。
「長さが少なくとも20ヌクレオチド」のポリヌクレオチドの一部とは、例えば、基準ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列由来の20以上の連続したヌクレオチドを意図する。示しているように、このような一部は、例えば、開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, 第2版, Sambrook, J., Fritsch, E. F.およびManiatis, T.(編)、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.(1989)に記載されているように、従来のDNAハイブリダイゼーション技術によるプローブとして、もしくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による標的配列の増幅用のプライマーとして、診断的に有用である。当然、(図2に示すCD74−ROS配列(配列番号:2の3’末端ポリ(A)領域のような)ポリA配列またはT(もしくはU)残基の相補的なストレッチにのみハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、ポリ(A)ストレッチまたはその相補鎖を含む任意の核酸分子(例えば、実際的には任意の二本鎖cDNAクローン)とハイブリッド形成するため、本発明の核酸の一部とハイブリッド形成させるために用いる本発明のポリヌクレオチドには含まれないであろう。
示しているように、本発明の変異ROSキナーゼポリペプチドをコードする本発明の核酸分子には、それ自体でこの成熟ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするもの;プレタンパク質配列またはプロタンパク質配列、あるいはプレプロタンパク質配列のように、この成熟ポリペプチドのコード配列と、例えばリーダー配列または分泌配列をコードしているもののような、追加配列;上記の追加のコード配列の有無にかかわらず、この成熟ポリペプチドのコード配列と、例えば、転写や、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルを含むmRNAプロセッシングにおいて、例えば、mRNAのリボソーム結合および安定性において、役割を果たす、転写された非翻訳配列のような、イントロンならびに5’側および3’側の非コード配列が含まれるが、これらに限定されない追加の非コード配列;追加の機能を提供するような追加のアミノ酸をコードする追加のコード配列が含まれ得るが、これらに限定されない。
したがって、このポリペプチドをコードしている配列を、融合ポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードしている配列のようなマーカー配列と融合することもできる。本発明のこの態様の特定の好ましい実施形態において、このマーカーアミノ酸配列は、数ある中で、pQEベクター(Qiagen社)中に備わっているタグのようなヘキサヒスチジンペプチドであり、それらの多くが市販されている。Gentzら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:821-824(1989)に記載のように、例えば、ヘキサヒスチジンは、その融合タンパク質の簡便な精製を可能にする。「HA」タグは、インフルエンザ血球凝集素タンパク質由来のエピトープに相当する、精製に有用なもう1つのペプチドであり、Wilsonら、Cell 37:767(1984)に記載されている。後述するように、他のこのような融合タンパク質には、N末端またはC末端でFcと融合したCD74−ROS融合ポリペプチド自体が含まれる。
本発明はさらに、本明細書中に開示のCD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドの一部、アナログ、または誘導体をコードする、本発明の核酸分子のバリアントに関する。自然の対立遺伝子のバリアントのように、バリアントは自然に生じ得る。「対立遺伝子のバリアント」とは、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占めている1つの遺伝子のいくつかの代替型のうちの1つを意図する。例えば、GENES II, Lewin, B.(編)、John Wiley & Sons, New York(1985)を参照されたい。天然に存在しないバリアントは、当技術分野で公知の変異生成技術を用いて作製することができる。
このようなバリアントには、ヌクレオチドの置換、欠失、または付加によって得られるものが含まれる。この置換、欠失、または付加には、1つまたは複数のヌクレオチドが含まれ得る。このバリアントは、コード領域、非コード領域、または両方において変化させることができる。このコード領域における変化によって、保存的または非保存的な、アミノ酸の置換、欠失、または付加を生じさせることもできる。これらの中で特に好ましいのは、本明細書中に開示の変異ROSキナーゼポリペプチドの特性および活性(例えば、キナーゼ活性)を変化させないサイレントな置換、付加、および欠失である。また、この点に関しては、保存的置換も特に好ましい。
本発明のさらなる実施形態には、少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含有する単離ポリヌクレオチドが含まれる。本発明のいくつかの実施形態において、このヌクレオチドは、本発明の変異ROSポリヌクレオチド(例えば、図2に示す全アミノ酸配列を有するRB−ROS融合ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列(配列番号:1;またはCD74のN末端およびROSのキナーゼドメインをコードしているヌクレオチド配列(図1、パネルB;ならびに図3および4を参照されたい);またはこのような例示的な配列と相補的なヌクレオチド)と少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一である。
変異ROSキナーゼポリペプチドをコードする基準ヌクレオチド配列と、少なくとも、例えば、95%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとは、このポリヌクレオチド配列が、変異ROSポリペプチドをコードする基準ヌクレオチド配列のそれぞれ100ヌクレオチドあたり5つまでの点変異を含み得ることを除き、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列がこの基準配列と同一であることを意図する。換言すれば、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、基準配列中の5%までのヌクレオチドを欠失させるか、他のヌクレオチドで置換するか、または基準配列中の全ヌクレオチドの5%までのいくつかのヌクレオチドを基準配列に挿入することもできる。基準配列のこれらの変異は、基準配列中のヌクレオチド間に個々に点在して、もしくは基準配列中の1つまたは複数の連続した群として点在して、基準ヌクレオチド配列の5’’末端位置に、あるいはそれら末端位置の間のどこに生じてもよい。
実際問題として、任意の特定の核酸分子が、例えば、図2に示すヌクレオチド配列(配列番号:2)または上記の該寄託cDNAクローンのヌクレオチド配列と、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかどうかは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, バージョン8 Unix(登録商標)用, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711のような既知のコンピュータプログラムを用いて、従来通り決定することができる。Bestfitは、SmithおよびWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)の局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の相同性が最も高いセグメントを見つけ出す。Bestfitまたは任意の他の配列アライメントプログラムを用いて、特定の配列が、例えば本発明の基準CD74−ROS融合ポリヌクレオチド配列と95%同一であるかどうかを決定する場合には、パラメータは、当然、同一性の百分率がその基準ヌクレオチド配列の全長にわたって算出され、基準配列中のヌクレオチドの総数の最高5%までの相同性におけるギャップが許されるように設定する。
本発明は、その範囲内に、図2に示す核酸配列(配列番号:2)と、または配列番号:2のヌクレオチド625〜2172と、あるいは該寄託cDNAの核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である核酸分子を、これらがROSキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするかどうかにかかわらず含んでいる。これは、特定の核酸分子がROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコードしない場合であってもなお、当業者は、例えばハイブリダイゼーションプローブまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとしてのこの核酸分子の使用法を理解するであろうためである。キナーゼを有するポリペプチドをコードしない本発明の核酸分子の用途には、特に、(1)cDNAライブラリー中のCD74−ROS転座遺伝子またはその対立遺伝子バリアントを単離すること;(2)Vermaら、HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES, Pergamon Press, New York(1988)に記載のような、CD74−ROS転座遺伝子の正確な染色体部位を提供するための、分裂中期染色体伸展標本に対するin situハイブリダイゼーション(例えば、「FISH」);および特定組織内のCD74−ROS融合タンパク質mRNA発現を検出するためのノーザンブロット解析が含まれる。
また、本発明の変異ROSキナーゼポリペプチドと、あるいはROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドを実際にコードする該寄託cDNAの核酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する核酸分子も本発明の範囲内にある。そのような活性は、特定の生物学的アッセイで測定されたとき、本明細書中に開示のCD74−ROS融合タンパク質(全長タンパク質、成熟タンパク質、またはキナーゼ活性を維持するタンパク質断片のいずれか)の活性と類似し得るが、必ずしも同一というわけではない。例えば、1つまたは複数のチロシン含有ペプチド基質、例えば多くの受容体チロシンキナーゼおよび非受容体チロシンキナーゼの基質である「Src関連ペプチド」(RRLIEDAEYAARG)をリン酸化する能力を測定することによって、ROSのキナーゼ活性を調べることができる。
遺伝暗号の縮重によって、当業者は、該寄託cDNAの核酸配列または図2に示す核酸配列(配列番号:2)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一の配列を有する多数の核酸分子が、ROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコードするであろうことを直ちに理解するであろう。実際に、これらのヌクレオチド配列の縮重バリアントはすべて同じポリペプチドをコードするため、これは上記の比較アッセイを行わないとしても当業者に明らかであろう。縮重バリアントではない核酸分子についても、適度な数がROSキナーゼ活性を維持するポリペプチドをコードするであろうことは、当技術分野でさらに理解されるであろう。これは、当業者が、タンパク質機能に大きく影響する可能性が低い、もしくは大きくは影響しそうにないアミノ酸置換(例えば、1つの脂肪族アミノ酸をもう1つの脂肪族アミノ酸で置換すること)を十分に知っているためである。例えば、表現型的にサイレントなアミノ酸置換を作製する方法についての手引きは、アミノ酸配列の変化の許容度を調査するための2種類の主要なアプローチを記載する、Bowieら、「Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions」, Science 247:1306-1310(1990)に提供されている。このような技術に精通している当業者は、どのアミノ酸の変化がそのタンパク質のある部位で許容的となる可能性が高いかも理解している。例えば、埋没しているアミノ酸残基の大部分は非極性側鎖を必要とするが、表面側鎖の特徴は一般的にほとんど保存されていない。他のそのような表現型的にサイレントな置換は、前掲、Bowieら、およびその中の引用文献に記載されている。
本発明の任意のポリヌクレオチドの実施形態を実施するために、当技術分野で周知であり、かつ一般的に利用可能であるDNAシークエンシングのための方法を用いることができる。この方法には、DNAポリメラーゼIのクレノウ断片SEQUENASE(登録商標)(US Biochemical Corp, Cleveland, Ohio)、Taqポリメラーゼ(Perkin Elmer)、耐熱性T7ポリメラーゼ(Amersham, Chicago, I11.)、またはGibco BRL(Gaithersburg, Md.)により市販されるELONGASE増幅系のような組換え型ポリメラーゼと校正エキソヌクレアーゼの組合せなどの酵素を利用することもできる。このプロセスは、Hamilton Micro Lab 2200(Hamilton, Reno, Nev.)、Peltierサーマルサイクラー(PTC200;MJ Research, Watertown, Mass.)、およびABI 377 DNAシークエンサー(Perkin Elmer)などの機械により自動化されることが好ましい。
当技術分野において知られている、プロモーターおよび調節エレメントなどの上流配列を検出するための種々の方法を用いて、部分ヌクレオチド配列を利用して、本発明の変異ROSポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列を伸長させることもできる。例えば、利用可能な1つの方法である「制限部位」PCR法では、既知部位に隣接する未知配列を読み出すユニバーサルプライマーを使用する(Sarkar, G.、PCR Methods Applic. 2:318-322(1993))。特に、ゲノムDNAは、最初に、リンカー配列に対するプライマーおよび既知領域に特異的なプライマーの存在下で増幅させる。例示的なプライマーは、本明細書中の実施例4に記載のものである。増幅した配列を、次いで、同リンカープライマーおよび最初のプライマーより内側の別の特異的なプライマーと共に2回目のPCRにかける。各回のPCR産物を、適切なRNAポリメラーゼで転写させ、逆転写酵素を用いて配列決定する。
また、逆PCR法を用いて、既知領域に基づく分岐プライマーを使用して配列を増幅または伸長させることができる(Trigliaら、Nucleic Acids Res. 16:8186(1988))。このプライマーは、OLIGO4.06プライマー解析ソフトウェア(National Biosciences社、Plymouth, Minn.)または他の適切なプログラムを使用して、長さが22〜30ヌクレオチドであって、50%以上のGC含量を有し、かつ約68〜72℃の温度でその標的配列とアニーリングするように設計することができる。この方法には、遺伝子の既知の領域中で、好適な断片を生成するいくつかの制限酵素を使用する。この断片を、次いで、分子内ライゲーションによって環状化して、PCR鋳型として使用する。
別の使用可能な方法には、ヒトおよび酵母の人工染色体DNAにおける既知の配列に隣接するDNA断片のPCR増幅を含むキャプチャーPCR法がある(Lagerstromら、PCR Methods Applic. 7. 111-119(1991))。この方法では、複数の制限酵素による消化およびライゲーションを用いて、PCRを行う前に、改変した二本鎖配列をそのDNA分子の未知の部分に入れることもできる。未知の配列を読み出すために使用可能な別の方法には、Parkerら、Nucleic Acids Res. 19:3055-3060(1991))に記載されている方法がある。さらに、PCR、ネストプライマー、およびPROMOTERFINDER(登録商標)ライブラリー(Clontech, Palo Alto, Calif.)を使用して、ゲノムDNA歩行を行なうこともできる。このプロセスは、ライブラリーをスクリーニングする必要性を回避し、イントロン/エクソン接合部を見つける際に有用である。
全長cDNAをスクリーニングする場合には、より大きなcDNAを含むようにサイズ選択されたライブラリーを用いることが好ましい。また、遺伝子の5’領域を含む配列をより多く含むであろうという点で、ランダムプライムライブラリーが好ましい。オリゴd(T)ライブラリーで全長cDNAを得られない状況には、ランダムプライムライブラリーの使用が特に好ましいであろう。ゲノムライブラリーは、5’および3’の非転写調節領域内への配列の伸長に有用となり得る。
市販のキャピラリー電気泳動システムを用いて、シークエンシングまたはPCRの産物のサイズの解析またはヌクレオチド配列の確認を行うことができる。特に、キャピラリーシークエンシングには、電気泳動による分離のための流動性ポリマー、レーザー励起される4つの異なる蛍光色素(各ヌクレオチドについて1つ)、および電荷結合素子カメラによる放射された波長の検出を用いることができる。適切なソフトウェア(例えば、GENOTYPER(商標)およびSEQUENCE NAVIGATOR(商標)、Perkin Elmer)を用いて、出力/光強度を電気的信号に変換することができ、試料のロードからコンピュータ解析までの全過程および電子データ表示をコンピュータ制御することができる。キャピラリー電気泳動システムは、特定の試料において限られた量だけ存在し得る小断片のDNAの配列決定に特に好ましい。
C.ベクターおよび宿主細胞。また、本発明は、本発明の単離ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、この組換えベクターで遺伝子改変した宿主細胞、および組換え技術による組換えCD74−ROSポリペプチドまたはそれらの断片の作製を提供する。
感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション、エレクトロポレーション、および形質転換などの周知の技術を用いて、組換え構築物を宿主細胞に導入することができる。このベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス、またはレトロウイルスのベクターであってもよい。レトロウイルスベクターは、複製能を有しても、あるいは複製欠損であってもよい。後者の場合、一般的に、ウイルスの増殖は宿主細胞を相補した時にのみ起こるであろう。
ポリヌクレオチドを、宿主における増殖用の選択可能なマーカーを含有するベクターに結合させてもよい。一般的には、プラスミドベクターを、リン酸カルシウム沈殿のような沈殿中で、あるいは荷電脂質との複合体中で導入する。ベクターがウイルスである場合、それを、適切なパッケージング細胞株を用いてin vitroでパッケージングし、次いで、宿主細胞に形質導入することができる。本発明は、目的のポリヌクレオチドに対するシス作用性制御領域を含有するベクターを用いて実施することもできる。適切なトランス作用性因子が、宿主によって供給されてもよく、相補ベクターによって供給されてもよく、あるいは宿主への導入によりベクター自体によって供給されてもよい。この点に関して、特定の好ましい実施形態において、ベクターは特異的な発現を提供し、その発現は誘導可能および/または細胞型特異的(例えば、温度および栄養添加剤のように処置が容易な環境因子によって誘導可能なもの)であってもよい。
本発明のCD74−ROSポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドを含有するDNA挿入断片は、適切なプロモーターに効果的に結合されるべきであり、その例を少し挙げれば、ファージラムダPLプロモーター、大腸菌のlacプロモーター、trpプロモーター、およびtacプロモーター、SV40初期プロモーターおよびSV40後期プロモーター、ならびにレトロウイルスLTRのプロモーターなどがある。他の好適なプロモーターは、当業者に知られている。この発現構築物にはさらに、転写の開始部位、終了部位、および、その転写された領域内に、翻訳用のリボソーム結合部位が含まれるであろう。この構築物により発現される成熟転写産物のコード部分には、翻訳するポリペプチドの開始部分に適切に位置した翻訳開始コドン、かつ終末部分に適切に位置した終止コドン(UAA、UGA、またはUAG)が含まれることが好ましいであろう。
示しているように、この発現ベクターには、少なくとも1つの選択可能なマーカーが含まれることが好ましいであろう。このようなマーカーには、真核生物細胞培養物についてはジヒドロ葉酸レダクターゼ耐性またはネオマイシン耐性、大腸菌および他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が含まれる。適切な宿主の代表例には、大腸菌細胞、ストレプトミセス細胞、およびサルモネラチフィムリウム細胞などの細菌細胞;酵母細胞などの真菌細胞;ショウジョウバエのS2細胞およびスポドプテラのSf9細胞などの昆虫細胞;CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞などの動物細胞;ならびに植物細胞が含まれるが、これらに限定されない。上記の宿主細胞に適した培養培地および培養条件は、当技術分野において知られている。
細菌における使用に好ましいベクターには、Qiagenより入手可能なpQE70、pQE60、およびpQE−9;Stratageneより入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、およびpNH46A;ならびにPharmaciaより入手可能なptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5が含まれる。好ましい真核性のベクターには、Stratageneより入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、およびpSG;ならびにPharmaciaより入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLがある。他の好適なベクターは、当業者には容易に明らかであろう。
本発明における使用に適した既知の細菌性プロモーターには、大腸菌のlacIプロモーターおよびlacZプロモーター、T3プロモーターおよびT7プロモーター、gptプロモーター、ラムダPRプロモーターおよびラムダPLプロモーター、ならびにtrpプロモーターが含まれる。好適な真核性プロモーターには、CMV最初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期のSV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のもののようなレトロウイルスLTRのプロモーター、ならびにマウスメタロチオネイン−Iプロモーターのようなメタロチオネインプロモーターが含まれる。
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)という酵母においては、アルファ因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHなどの構成的または誘導可能なプロモーターを含有するいくつかのベクターを使用することができる。総説には、Ausubelら、(1989)CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, N.Y、およびGrantら、Methods Enzymol. 153:516-544(1997)を参照されたい。
宿主細胞への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、またはその他の方法によって行うことができる。このような方法は、Davisら、BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY(1986)などの多数の標準的な実験室マニュアルに記載されている。
エンハンサー配列をベクター内に挿入することによって、高等真核生物による、本発明のCD74−ROS融合ポリペプチドをコードするDNAの転写を増大させることもできる。エンハンサーはDNAのシス作用性エレメントであって、通常、約10〜300bpであり、特定の宿主細胞型においてプロモーターの転写活性を増大するように作用する。エンハンサーの例には、複製起点の後期側の100〜270bpに位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが包まれる。
翻訳されたタンパク質を小胞体内腔、細胞周辺腔、または細胞外環境に分泌させるために、発現するポリペプチドに適切な分泌シグナルを挿入することもできる。このシグナルは、該ポリペプチドに内因性のものであってもよく、あるいは異種シグナルであってもよい。
該ポリペプチドは、融合タンパク質(例えばGST−融合体)のように修飾した形態で発現させることもでき、分泌シグナルだけでなく、さらなる異種の機能的な領域を含んでいてもよい。例えば、さらなるアミノ酸、特に荷電アミノ酸の領域を該ポリペプチドのN末端に付加して、宿主細胞内、精製中、またはその後の取り扱い中および保存中の安定性および持続性を改善することもできる。また、ペプチド部分を該ポリペプチドに付加して精製を容易にすることもできる。最終的にポリペプチドを調製する前に、このような領域を除去することもできる。ペプチド部分をポリペプチドに付加し、とりわけ、分泌または排出を引き起こして、安定性を向上させ、精製を容易にすることは、当技術分野でよく知られた日常的な技術である。好ましい融合タンパク質は、タンパク質を可溶化するために有用な、免疫グロブリン由来の異種領域を含有する。
例えば、EP−A−O第464 533号(カナダの第2045869号に相当)は、免疫グロビン分子の定常領域の種々の部分を別のヒトタンパク質またはその一部と共に含む融合タンパク質を開示している。多くの場合、融合タンパク質中のFc部分は、療法および診断における使用に完全に有益であり、その結果、例えば、薬物動態学的特性を改善する(EP−A第0232 262号)。一方、いくつかの用途には、記載の好都合な方法で融合蛋白質を発現、検出、および精製した後に、Fc部分を除去できることが望ましいであろう。これは、療法および診断に用いるためにFc部分が障害となることが判明した場合であり、例えば、その融合タンパク質を免疫化のための抗原として使用する場合である。薬剤の発見において、例えば、hIL5−のようなヒトタンパク質は、hIL−5のアンタゴニストを同定するための高処理スクリーニングアッセイの目的で、Fc部分と融合されている。Bennettら、Journal of Molecular Recognition 8:52-58(1995)、およびJohansonら、The Journal of Biological Chemistry 270(16):9459-9471(1995)を参照されたい。
CD74−ROSポリペプチドは、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン交換クロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法を用いて、組換え細胞培養物から回収し精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を精製に用いることが最も好ましい。本発明のポリペプチドには、自然に精製された産物、化学合成法の産物、および組換え技術によって原核生物または真核生物の宿主、例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫、および哺乳動物細胞などから産生された産物が含まれる。組換え産生法に用いる宿主に応じて、本発明のポリペプチドは、グリコシル化される場合もあれば、グリコシル化されない場合もある。さらに、本発明のポリペプチドは、場合によっては宿主によって媒介される過程により、開始修飾メチオニン残基をも含み得る。
したがって、一実施形態において、本発明は、(上記のような)組換え宿主細胞をその融合ポリペプチドの発現に好適な条件下で培養することによって組換えCD74−ROS融合ポリペプチドを産生させて、そのポリペプチドを回収するための方法を提供する。宿主細胞の増殖およびそのような細胞からの組換えポリペプチドの発現に好適な培養条件は、当業者に周知である。例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel FMら(編)、第2巻、第16章、Wiley Interscienceを参照されたい。
D.単離ポリペプチド。
また、本発明は、部分的には、単離CD74−ROS融合ポリペプチドおよびそれらの断片も提供する。一実施形態では、本発明は、以下からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含有する単離ポリペプチドを提供する:(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしているアミノ酸配列;(b)CD74のN末端アミノ酸配列(配列番号:3の残基1〜208)およびROSのキナーゼドメイン(配列番号:5の残基1945〜2222)を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしているアミノ酸配列;ならびに(c)CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション(配列番号:1の残基208〜209または配列番号:3の残基208〜209)を含む少なくとも6つの連続したアミノ酸を含有するポリペプチドをコードしているアミノ酸配列。
好ましい一実施形態において、本発明は、上記の寄託cDNA(ATCC寄託番号***−****)によってコードされるアミノ酸配列を有する単離CD74−ROS融合ポリペプチドを提供する。他の好ましい一実施形態において、本発明の組換え変異ポリペプチドを提供し、それは、上記のような組換えベクターまたは組換え宿主細胞を用いて作製してもよい。
CD74−ROS融合ポリペプチドのいくつかのアミノ酸配列を、その変異タンパク質の構造または機能にそれほど影響することなく変更できることは、当技術分野で理解されるであろう。配列中にそのような相違を意図する場合には、該タンパク質上に活性を決定する重要部位(例えば、ROSのキナーゼドメイン)があるであろうことを覚えておくべきである。一般に、類似の機能を果たしている残基を使用する場合には、三次構造を形成する残基を置換することが可能である。他の例では、該タンパク質の非重要領域でこの変化が生じる場合には、残基の種類が全く重要でないこともある。
したがって、本発明にはさらに、実質的なROSキナーゼ活性を示す、あるいはCD74タンパク質およびROSタンパク質の以下に述べるタンパク質部分のような領域を含むCD74−ROS融合ポリペプチドの変形態様が含まれる。このような変異体には、欠失、挿入、逆位、反複、およびタイプ置換(例えば、1つの親水性残基から別の残基へと置換すること、しかし原則として強い親水性残基から強い疎水性残基へは置換しないこと)が含まれる。小さな変化、あるいはこのような「中性」アミノ酸置換は、一般的には、活性にほとんど影響しないであろう。
典型的に保存的置換とみなされるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中の1つからもう1つへの置換、ヒドロキシル残基SerとThrの置換、酸性残基AspとGluの置換、アミド残基AsnとGlnの間の置換、塩基性残基LysとArgの置換、および芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。当業者に知られている保存的アミノ酸置換の例は、以下の通りである:芳香族:フェニルアラニン トリプトファン チロシン;疎水性:ロイシン イソロイシン バリン;極性:グルタミン アスパラギン;塩基性:アルギニン リジン ヒスチジン;酸性:アスパラギン酸 グルタミン酸;小型:アラニン セリン スレオニン メチオニン グリシン。上記に詳細に示したように、どのアミノ酸変化が表現型的にサイレントである(すなわち、機能にそれほど悪影響を及ぼしそうにない)かに関するさらなる手引きは、前掲、Bowieら、Science 247に見いだすことができる。
本発明のポリペプチドは、単離した形態で提供されることが好ましく、実質上精製されていることが好ましい。組換え産生型の本発明のCD74−ROS融合ポリペプチドは、SmithおよびJohnson、Gene 67:31-40(1988)に記載のワンステップ法によって実質上精製することができる。
本発明のポリペプチドには、図2のCD74−ROS融合ポリペプチド(配列番号:1)(リーダー配列を含むかどうかを問わない)、該寄託cDNAクローン(ATCC番号***−****)によってコードされる融合ポリペプチド、CD74のN末端アミノ酸配列(配列番号:5の残基1〜208)およびROSのキナーゼドメイン(配列番号:7の残基1945〜2222)を含有するCD74−ROS融合ポリペプチドをコードしているアミノ酸配列、およびCD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション(配列番号:1の残基208〜209)を含む少なくとも6つの連続したアミノ酸を含有するポリペプチドをコードしているアミノ酸配列、ならびに上記のポリペプチドと少なくとも90%の類似性、より好ましくは少なくとも95%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも96%、97%、98%、または99%の類似性を有するポリペプチドが含まれる。
2種類のポリペプチドについての「%の類似性」とは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, バージョン8 Unix(登録商標)用, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)および類似性を決定するための初期設定を用いて、2種類のポリペプチドのアミノ酸配列を比較することによって得られる類似性スコアを意図する。Bestfitは、SmithおよびWaterman(Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981))の局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の類似性が最も高いセグメントを見つけ出す。
本発明の変異ROSポリペプチドの基準アミノ酸配列と、少なくとも、例えば、95%「同一の」アミノ酸配列を有するポリペプチドとは、そのポリペプチド配列がCD74−ROS融合ポリペプチドの基準アミノ酸配列のそれぞれ100アミノ酸あたり5つまでのアミノ酸の変更を含み得ることを除き、そのポリペプチドのアミノ酸配列がこの基準配列と同一であることを意図する。換言すれば、基準アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、基準配列中の5%までのアミノ酸残基を欠失させるか、他のアミノ酸で置換するか、または基準配列中の全アミノ酸残基の5%までのいくつかのアミノ酸を基準配列に挿入することもできる。基準配列のこれらの変更は、基準配列の残基間に個々に、もしくは基準配列中の1つまたは複数の連続した群として点在して、基準アミノ酸配列のアミノ末端またはカルボキシ末端の位置に、あるいはそれら末端位置の間のどこに生じてもよい。
Bestfitまたは任意の他の配列アライメントプログラムを用いて、特定の配列が、例えば、本発明の基準配列と95%同一であるかどうかを決定する場合には、パラメータは、当然、同一性の百分率がその基準アミノ酸配列の全長にわたって算出され、基準配列中のアミノ酸残基の総数の最高5%までの相同性におけるギャップが許されるように設定する。
本発明のCD74−ROS融合ポリペプチドを、例えば、当業者に周知の方法を用いて、SDS−PAGEゲルまたはモレキュラーシーブゲル濾過カラムにおける分子量マーカーとして使用することができる。
後でさらに詳述するように、本発明のポリペプチドを用いて、変異ROSポリペプチドの発現を検出するための後述のようなアッセイに有用な、あるいは変異ROSタンパク質の機能/活性を増強または阻害できるアゴニストおよびアンタゴニストとして有用なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のような、融合ポリペプチド特異的試薬を作製することもでる。さらに、本発明のアゴニストおよびアンタゴニストの候補でもあるCD74−ROS融合ポリペプチド結合タンパク質を「捕獲する」ために、このようなポリペプチドを酵母ツーハイブリッドシステムにおいて用いることもできる。酵母ツーハイブリッドシステムは、FieldsおよびSong、Nature 340:245-246(1989)に記載されている。
他の一態様において、本発明は、本発明のポリペプチドのエピトープを含む部分、すなわち、CD74−ROS融合ポリペプチドバリアントの融合ジャンクションを含むエピトープ、を含有するペプチドまたはポリペプチドを提供する。このポリペプチド部分のエピトープは、本発明のポリペプチドの免疫原性または抗原性のエピトープである。「免疫原性エピトープ」は、タンパク質全体が免疫原であるときに、抗体応答を誘導する、タンパク質の一部として定義される。これらの免疫原性エピトープは、その分子上の少数の部位に限定されると考えられている。一方、抗体が結合可能なタンパク質分子の領域は、「抗原性エピトープ」として定義される。 タンパク質の免疫原性エピトープの数は、一般的には、抗原性エピトープの数より少ない。例えば、Geysenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998-4002(1983)を参照されたい。本発明の融合ポリペプチド特異的抗体の作製については、後でさらに詳述する。
抗原性エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドによって惹起される抗体は、類似タンパク質を検出するために有用であり、種々のペプチドに対する抗体を、翻訳後プロセシングを受けるタンパク質前駆体の種々の領域の運命を追跡するために使用することもできる。短いペプチド(例えば、約9アミノ酸)であってもより大きなペプチドを結合および置換することができることが免疫沈降アッセイにおいて示されているため、このペプチドおよび抗ペプチド抗体を、類似タンパク質の多様な定性的または定量的なアッセイ、例えば、競合アッセイに用いることもできる。例えば、Wilsonら、Cell 37:767-778(1984)の777を参照されたい。また、本発明の抗ペプチド抗体は、当技術分野で周知の方法を用いた、例えば吸着クロマトグラフィーによる、類似タンパク質の精製にも有用である。免疫学的アッセイ形態については、後でさらに詳述する。
また、組換え変異ROSキナーゼポリペプチドも本発明の範囲内であり、上記のセクションBに記載のように、本発明の融合ポリヌクレオチドを使用して作製することができる。例えば、本発明は、(上記のような)組換え宿主細胞をその融合ポリペプチドの発現に好適な条件下で培養することによって組換えCD74−ROS融合ポリペプチドを産生させて、そのポリペプチドを回収するための方法を提供する。宿主細胞の増殖およびそのような細胞からの組換えポリペプチドの発現に好適な培養条件は、当業者に周知である。
E.変異体特異的試薬
開示の方法の実施において有用な変異ROSポリペプチド特異的試薬には、とりわけ、生体試料中のCD74−ROS融合ポリペプチドに対応し、かつ生体試料中のCD74−ROS融合ポリペプチド発現の検出および定量化に適した、融合ポリペプチド特異的抗体およびAQUAペプチド(重同位体で標識したペプチド)が含まれる。融合ポリペプチド特異的試薬は、生体試料中で発現したCD74−ROS融合ポリペプチドを特異的に結合し、生体試料中で発現したCD74−ROS融合ポリペプチドの存在/レベルを検出、および/または定量化することができる、生物学的または化学的な、任意の試薬である。この用語には、下記の好ましい抗体試薬およびAQUAペプチド試薬が含まれるが、これらに限定されるものではなく、同等の試薬は本発明の範囲内にある。
抗体。
本発明の方法の実施における使用に適した試薬には、CD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体が含まれる。本発明の融合体特異的抗体は、本発明のCD74−ROS融合ポリペプチド(例えば、配列番号:1)を特異的に結合するが、野生型CD74も野生型ROSも実質上結合しない、単離抗体である。他の好適な試薬にはエピトープ特異的抗体が含まれ、これらは、野生型ROSタンパク質配列の細胞外ドメイン(このドメインは本明細書中に開示の切断型ROSキナーゼには存在しない)内のエピトープに特異的に結合し、そのため、試料中の野生型ROSの存在(または欠如)を検出することができる。
ヒトCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、他の哺乳動物種、例えばマウスまたはウサギにおける、相同性が高くかつ同等なエピトープのペプチド配列に結合してもよく、逆もまた同様である。本発明の方法の実施において有用な抗体には、(a)モノクローナル抗体、(b)標的ポリペプチド(例えば、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションに特異的に結合する精製ポリクローナル抗体、(c)他のヒト以外の種(例えば、マウス、ラット)において、同等でかつ相同性が高いエピトープまたはリン酸化部位を結合する、上記の(a)〜(b)に記載のような抗体、(d)本明細書中で開示の例示的な抗体が結合する抗原(または、より好ましくは、エピトープ)に結合する、上記の(a)〜(c)の断片が含まれる。
本明細書で用いている「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを含む、全種類の免疫グロブリンのことをいう。該抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよく、かつ(例えば)マウス、ラット、ウサギ、ウマ、またはヒトを含む任意の種の由来であってもよく、あるいはキメラ抗体であってもよい。例えば、M. Walkerら、Molec. Immunol. 26:403-11(1989);Morrisionら、Proc. Nat'l. Acad. Sci. 81:6851(1984);Neubergerら、Nature 312:604(1984))を参照されたい。該抗体は、米国特許第4,474,893号(Reading)または米国特許第4,816,567号(Cabillyら)に開示の方法に従って作製される組換えモノクローナル抗体であってもよい。また、該抗体は、米国特許第4,676,980号(Segelら)に開示の方法に従って化学的に構築した特異的抗体であってもよい。
本発明のCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体の好ましいエピトープ部位は、ヒトCD74−ROS融合ポリペプチド配列(配列番号:1)の約11〜17アミノ酸から本質的になるペプチド断片であり、この断片には、融合ジャンクション(第1および第2の融合タンパク質バリアント中の残基208で生じる(図1(パネルC)および図7(下パネル)を参照されたい))が含まれる。CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを包含するより短いまたはより長いペプチド/エピトープを特異的に結合する抗体は本発明の範囲内にあることが理解されよう。
本発明は、抗体の使用に限定されるわけではなく、タンパク質結合ドメインまたは核酸アプタマーのように、融合タンパク質または切断型タンパク質に特異的な様式で、本発明の方法において有用なCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体またはROS切断点エピトープ特異的抗体が結合するエピトープと本質的に同じエピトープに結合する同等の分子が含まれる。例えば、Neubergerら、Nature 312:604(1984)を参照されたい。このような同等の非抗体試薬は、後で詳述する本発明の方法において適切に用いることもできる。
本発明の方法の実施において有用なポリクローナル抗体は、既知の方法に従って、好適な動物(例えば、ウサギ、ヤギなど)を、所望の融合タンパク質に特異的なエピトープ(例えば、融合ジャンクション)を含む抗原で免疫化して、その動物から免疫血清を回収し、その免疫血清からポリクローナル抗体を分離し、所望の特異性を有するポリクローナル抗体を精製することによって、標準的な技術に従って作製することができる。この抗原は、周知の技術によって選択および構築され、所望のエピトープ配列を含有する合成ペプチド抗原であってもよい。例えば、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL, 第5章, p.75-76, HarlowおよびLane(編), Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Czernik, Methods In Enzymology, 201:264-283(1991);Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:21-49(1962))を参照されたい。本明細書に記載のように作製したポリクローナル抗体を、後で詳述するように、スクリーニングおよび単離することもできる。
モノクローナル抗体も、本発明の方法において有益に用いることができ、KohlerおよびMilsteinの周知の技術に従ってハイブリドーマ細胞株において作製することができる。Nature 265:495-97(1975);KohlerおよびMilstein、Eur. J. Immunol. 6:511(1976);また、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、Ausubelら(編)(1989)も参照されたい。このようにして作製したモノクローナル抗体はきわめて特異的であり、本発明が提供するアッセイ方法の選択性および特異性を向上させる。例えば、適切な抗原(例えば、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含有する合成ペプチド)を含む溶液を、マウスに注入することができ、(従来の技術に合わせて)十分な時間の後に、そのマウスを屠殺して脾細胞を得る。次いで、この脾細胞を、典型的にはポリエチレングリコール存在下で、骨髄腫細胞と融合させることによって不死化して、ハイブリドーマ細胞を作製する。ウサギ融合ハイブリドーマは、例えば、1997年10月7日に発行された、C. Knight、米国特許第5,675,063号に記載のように作製することができる。次いで、このハイブリドーマ細胞を、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)などの好適な選択培地中で増殖させ、後述するように、所望の特異性を有するモノクローナル抗体があるかどうかについてその上清をスクリーニングした。分泌された抗体を、沈澱、イオン交換、または親和性クロマトグラフィーなどのような従来法によって組織培養液上清から回収することができる。
モノクローナルFab断片は、当業者に知られている組換え技術によって、大腸菌中で作製することもできる。例えば、W. Huse、Science 246:1275-81(1989);Mullinaxら、Proc. Nat'l Acad. Sci. 87:8095(1990)を参照されたい。あるアイソタイプのモノクローナル抗体が特定用途に好ましい場合には、特定のアイソタイプを、最初の融合から選択することによって直接調製することができるし、あるいはクラススイッチバリアントを単離するためのシブセレクション技術を用いることによって、種々のアイソタイプのモノクローナル抗体を分泌している親ハイブリドーマから二次的に調製することができる(Steplewskiら、Proc. Nat'l. Acad. Sci., 82:8653(1985);Spiraら、J. Immunol. Methods, 74:307(1984))。このモノクローナル抗体の抗原結合部位をPCRによってクローニングすることができ、単鎖抗体をファージディスプレイ組換え抗体または可溶性抗体として大腸菌中で産生させる(例えば、ANTIBODY ENGINEERING PROTOCOLS, 1995, Humana Press、Sudhir Paul(編)を参照されたい)。
さらに、米国特許第5,194,392号、Geysen(1990)には、目的とする抗体の特定のパラトープ(抗原結合部位)に相補的なエピトープとトポロジー的に同等なもの(すなわち、「ミモトープ」)である単量体(アミノ酸または他の化合物)の配列を検出または決定する一般的な方法が記載されている。より一般的には、この方法には、目的とする特定の受容体のリガンド結合部位に相補的なリガンドのトポグラフィー的な同等物である単量体の配列を検出または決定することが含まれる。同様に、米国特許第5,480,971号、Houghtenら、(1996)は、直鎖状C1−C−アルキルペルアルキル化オリゴペプチドならびにこのようなペプチドのセットおよびライブラリー、ならびに目的とするアクセプター分子に選択的に結合するペルアルキル化オリゴペプチドの配列を決定するためにこのようなオリゴペプチドのセットおよびライブラリーを使用するための方法を開示している。したがって、本発明のエピトープを含んだペプチドの非ペプチドアナログも、これらの方法によって通常通りに作製することができる。
本発明の方法において有用な抗体を、ポリクローナルまたはモノクローナルにかかわらず、標準的な技術に従って、エピトープおよび融合タンパク質の特異性についてスクリーニングすることができる。例えば、Czernikら、Methods in Enzymology, 201:264-283(1991)を参照されたい。例えば、所望の抗原に対する特異性および、必要に応じて、野生型CD74または野生型ROSとではなく本発明のCD74−ROS融合ポリペプチドのみとの反応特異性の両方を確実にするために、ELISAによってペプチドライブラリーに対してこの抗体をスクリーニングすることもできる。標的タンパク質を含む細胞調製物に対するウエスタンブロットによって、この抗体を試験し、所望の標的のみとの反応性を確認し、ROSを含む他の融合タンパク質と測定可能な結合をしないことを確認することができる。融合タンパク質特異的抗体の産生、スクリーニング、および使用は、当業者に知られており、記載されている。例えば、Wetzelら、米国特許公開第20050214301号、2005年9月29日を参照されたい。
本発明の方法において有用な融合ポリペプチド特異的抗体は、他の融合タンパク質における類似した融合エピトープと、あるいは野生型CD74および野生型ROSにおける融合ジャンクションを形成するエピトープといくらかの限られた交差反応性を示してもよい。大部分の抗体がいくらかの程度の交差反応性を示すので、これは予想外ではなく、抗ペプチド抗体は、免疫化ペプチドと相同性が高いまたは同一なエピトープと交差反応することが多いであろう。例えば、前掲、Czernikを参照されたい。他の融合タンパク質との交差反応性は、既知の分子量のマーカーと並べたウエスタンブロットによって容易に特徴付けされる。交差反応するタンパク質のアミノ酸配列を調べて、抗体が結合するCD74−ROS融合ポリペプチド配列ときわめて相同または同一の部位を特定することができる。望ましくない交差反応性は、ペプチドカラム上の抗体精製を用いるネガティブ選択(例えば、野生型CD74および/または野生型ROSを結合する抗体を選択して除くこと)によって除去できる。
本明細書中に開示の方法を実施するのに有用な本発明のCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、ヒトの融合ポリペプチドに特異的であることが理想的であるが、本質的には、ヒト種のみを結合することに限定されない。本発明には、他の哺乳動物種(例えば、マウス、ラット、サル)における保存された相同性の高いまたは同一のエピトープにも結合する抗体の作製および使用が含まれる。他の種における相同性の高いまたは同一の配列は、本明細書中に開示のヒトCD74−ROS融合ポリペプチド配列(配列番号:1)との標準的な配列比較(例えばBLASTを用いる配列比較)によって容易に特定できる。
本発明の方法において用いる抗体を、特定のアッセイ形態、例えばFC、IHCおよび/またはICCにおいて用いることによってさらに特徴付け、特定のアッセイ形態、例えばFC、IHCおよび/またはICCにおいて用いることの妥当性について検証することもできる。このような方法におけるCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体の使用については、以下のセクションFにおいて詳述する。以下のセクションFにおいて詳述するように、抗体を、他のシグナル伝達(リン酸化型AKT、リン酸化型Erk 1/2)および/または細胞マーカー(サイトケラチン)の抗体と共にマルチパラメータ解析で使用するために、蛍光色素(例えば、Alexa488、PE)、または量子ドットのような標識と都合よく結合させることもできる。
本発明の方法の実施において、所定の生体試料中の野生型CD74および/または野生型ROSの発現および/または活性は、これらの野生型タンパク質の抗体(リン酸化特異的抗体もしくはトータル抗体)を用いて、都合よく試験することもできる。例えば、CSF受容体リン酸化部位特異的抗体は市販されている(CELL SIGNALING TECHNOLOGY社、Beverly MA、2005/06カタログ、#3151、#3155、および#3154;ならびにUpstate Biotechnology、2006カタログ、#06-457を参照されたい)。このような抗体も、上記のように、標準的な方法に従って作製することができる。ヒトのCD74およびROSの両方のアミノ酸配列は、他種由来のこれらのタンパク質の配列と同様に、公表されている(図3および4、ならびに参照のSwissProt登録番号を参照されたい)。
生体試料(例えば腫瘍試料)において、CD74−ROS融合ポリペプチドの発現に加えて、野生型CD74および野生型ROSの発現および/または活性化を検出することによって、この融合タンパク質が単独で腫瘍を引き起こしているのかどうか、あるいは野生型ROSも活性化して腫瘍を引き起こしているのかどうかについての情報を得ることができる。このような情報は、この融合タンパク質またはこの(これらの)野生型タンパク質、あるいはその両方を標的とするかどうかを評価する際に臨床的に有用であり、あるいは腫瘍の進行の抑制および適切な治療薬またはその組合せの選択にきわめて有益となる可能性が高い。本明細書中に開示の切断型ROSキナーゼには存在しない野生型ROSキナーゼ細胞外ドメインに特異的な抗体は、変異ROSキナーゼの存在/欠如を決定するために特に有用となり得る。
上記の方法の実施において2種類以上の抗体を使用してもよいことを理解されよう。例えば、1つまたは複数のCD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体を、CD74−ROS融合ポリペプチドが発現している癌において活性化されていることが疑われる、あるいはその可能性がある、他のキナーゼ、受容体、またはキナーゼ基質に特異的な1つまたは複数の抗体と共に、そのような癌由来の細胞を含む生体試料中のそのような他のシグナル伝達分子の活性を検出するために、同時に用いることもできる。
当業者は、上記の本発明のCD74−ROS融合ポリペプチドおよびそれらの融合ジャンクションエピトープ含有断片を、免疫グロブリン(IgG)の定常ドメインの部分と結合することができ、結果としてキメラポリペプチドとし得ることを理解するであろう。これらの融合タンパク質は、精製を容易にし、かつin vivoで半減期の増加を示す。これは、例えば、ヒトCD4ポリペプチドの先頭2つのドメインと哺乳動物免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の定常領域の種々のドメインからなるキメラタンパク質について示されている(EPA第394,827号;Trauneckerら、Nature 331:84-86(1988))。また、IgG部分によるジスルフィド結合二量体構造を有する融合タンパク質も、他の分子を結合および中和する際に、単量体のCD74−ROS融合ポリペプチド単独よりも有効となり得る(Fountoulakisら、J Biochem 270:3958-3964(1995))。
重同位体標識ペプチド(AQUAペプチド)。
開示の方法の実施において有用なCD74−ROS融合ポリペプチド特異的試薬には、生体試料中の発現したCD74−ROS融合ポリペプチドの絶対的な定量化に好適な重同位体標識ペプチドも含まれ得る。複雑な混合物中のタンパク質の絶対的な定量化(AQUA)のためのAQUAペプチドの作製および使用については記載されている。WO第/03016861号、「Absolute Quantification of Proteins and Modified Forms Thereof by Multistage Mass Spectrometry」、Gygiら、およびGerberら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100:6940-5(2003))も参照されたい(これらの教示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
AQUA法では、ペプチド標準との比較によって、生体試料中の配列およびタンパク質修飾が同じペプチドの絶対量を決定するために、(LC−SRMクロマトグラフィーによって検出可能な固有のサインを有する)少なくとも1つの既知量の重同位体標識ペプチド標準を、消化した生体試料に導入することを採用する。簡単に説明すると、このAQUA法には、以下の2段階がある:ペプチド内部標準の選択および検証、ならびに方法開発;ならびに検証したペプチド内部標準を用いた試料中の標的タンパク質の検出および定量化の実施。この方法は、細胞溶解液のような複雑な生物学的混合物中の所定のペプチド/タンパク質を検出および定量化するための強力な技術であり、例えば、薬剤治療によるタンパク質リン酸化の変化を定量化するために、あるいは種々の生物学的状態におけるタンパク質のレベルの差異を定量化するために用いることもできる。
一般的には、好適な内部標準を開発するために、標的タンパク質配列内の特定のペプチド(または、修飾ペプチド)を、そのアミノ酸配列および消化するために用いる特定のプロテアーゼに基づいて選択する。次いで、固相ペプチド合成によって、1つの残基が安定同位体(13C、15N)を含むそれと同じ残基で置換されるようにペプチドを作製する。結果として、タンパク質分解によって生成される天然の対応物と化学的に同一のペプチドが得られるが、これは、MSで7Daの質量シフトによって容易に識別可能である。次いで、この新たに合成したAQUA内部標準ペプチドをLC−MS/MSによって評価する。このプロセスは、逆相クロマトグラフィーによるペプチド保持、イオン化効率、および衝突誘起解離を介した断片化に関する定性的な情報を提供する。天然ペプチドおよび内部標準ペプチドのセットに有益かつ豊富なフラグメントイオンを選択し、次いで、ペプチド標準の固有のプロファイルに基づいて、選択反応モニタリング(LC−SRM)法を形成するための、クロマトグラフィーによる保持の関数として、高速で連続的に特異的にモニタリングする。
AQUA戦略の第2段階は、複雑な混合物からのタンパク質または修飾タンパク質の量を測定するためのその実施である。全細胞溶解液を、典型的には、SDS−PAGEゲル電気泳動によって分別して、タンパク質の移動と一致するゲルの領域を切り出す。このプロセスの後に、AQUAペプチド存在下でのインゲルタンパク質分解およびLC−SRM解析を行う。(Gerberら、前掲を参照されたい。)タンパク質分解酵素による全細胞溶解液の消化によって得られる複雑なペプチド混合物中に、AQUAペプチドをスパイクして、上記のようなイムノアフィニティー精製にかける。消化(例えば、トリプシン処理)によって生成される天然ペプチドの保持時間および断片化パターンは、事前に測定するAQUA内部標準ペプチドのものと等しい;したがって、SRM実験を用いたLC−MS/MS解析は、きわめて複雑なペプチド混合物から直接に内部標準および分析物をきわめて特異的かつ高感度に測定することになる。
絶対量のAQUAペプチド(例えば、250fmol)を添加するため、曲線下面積の比率を用いて、もとの細胞溶解液中のタンパク質またはリン酸化型のタンパク質の正確な発現レベルを測定することができる。さらに、天然ペプチドが生成されるインゲル消化中に、ゲル断片からのペプチド抽出効率、(真空遠心分離を含む)試料取扱い中の絶対的な損失、およびLC−MSシステムに導入する間の可変性が、測定する天然ペプチドおよびAQUAペプチドの存在比に影響を及ぼさないように、内部標準を入れておく。
IAP−LC−MS/MS法によって事前に同定された標的タンパク質内の既知配列に対してAQUAペプチド標準を作製する。この部位が修飾される場合には、部位内の特定の残基の修飾型を組み込んでいる1種類のAQUAペプチドを作製することができ、この残基の非修飾型を組み込んでいるもう1種類のAQUAペプチドを作製することができる。このように、2種類の標準を用いて、生体試料中のその部位の修飾型および非修飾型の両方を検出および定量化することができる。
また、タンパク質の一次アミノ酸配列を調査して、プロテアーゼ切断によって生成されるペプチドの境界を決定することによって、ペプチド内部標準を作製することもできる。あるいは、実際にタンパク質をプロテアーゼで消化してもよく、次いで、生成された特定のペプチド断片の配列を決定することができる。好適なプロテアーゼには、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、ヘプシン)、メタロプロテアーゼ(例えば、PUMP1)、キモトリプシン、カテプシン、ペプシン、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
標的タンパク質内のペプチド配列は、内部標準としてのペプチドの使用を最適化するために、1つまたは複数の基準に従って選択する。このペプチド配列が標的以外の他のタンパク質の他の部分に反復している可能性を最小限にするように、ペプチドのサイズを選択することが好ましい。したがって、ペプチドは少なくとも約6アミノ酸であることが好ましい。イオン化の頻度を最大限にするように、ペプチドのサイズも最適化する。したがって、約20アミノ酸より長いペプチドは好ましくない。約7〜15アミノ酸の範囲であることが好ましい。また、質量分析中に化学的に反応性となる可能性が低いペプチド配列が選択されるので、システイン、トリプトファン、またはメチオニンを含有する配列が避けられる。
標的領域の修飾領域を含まないペプチド配列を選択してもよく、それによって、このペプチド内部標準を用いて、すべての型のタンパク質の量を測定できるようになる。あるいは、修飾型の標的タンパク質のみを検出および定量化するために、修飾アミノ酸を含むペプチド内部標準が望まれる場合もある。修飾領域および非修飾領域の両方に対するペプチド標準を共に用いて、特定の試料中の修飾の程度を測定すること(すなわち、タンパク質の総量のうちのどのくらいの割合が修飾型に相当するかを測定すること)ができる。例えば、特定の部位でリン酸化されることが知られているタンパク質のリン酸化型および非リン酸化型の両方に対するペプチド標準を用いて、試料中のリン酸化型の量を定量化することができる。
1つまたは複数の標識アミノ酸を使用してペプチドを標識する(すなわち、標識はペプチドの実際の一部である)。あるいは、あまり好ましくないことではあるが、標準的な方法に従って合成後に標識を付加することもできる。この標識は、以下の考慮点に基づいて選択される、質量を変える標識であることが好ましい:質量は、MS解析によって低バックグラウンドでスペクトルの領域に生じるシフト断片の質量に固有であるべきである;イオン質量サインの構成要素は、MS解析において固有のイオン質量サインを示すことが好ましい標識部分の一部である;標識の構成原子の質量の合計は、あり得るすべてのアミノ酸の断片とは独自に異なることが好ましい。結果的に、標識したアミノ酸およびペプチドは、結果として生じるマススペクトルにおけるイオン/質量のパターンによって、非標識のものから容易に区別される。イオン質量サインの構成要素は、20種類の天然アミノ酸のうちのどの残基の質量とも一致しない質量をタンパク質断片に与えることが好ましい。
該標識は、MSの断片化条件下で頑強でなければならず、好ましくない断片化を受けてはならない。標識化学反応は、さまざまな条件下、特に変性条件下で効率的であるべきであり、標識したタグは、選択されるMS緩衝液系中で可溶性のままであることが好ましい。該標識は、タンパク質のイオン化効率を抑制せず、かつ化学的に反応性でないことが好ましい。各標識断片の位置で固有の質量分析パターンを生じさせるために、該標識には、2つ以上の同位体的に異なる種の混合物が含まれていてもよい。安定同位体、例えば、2H、13C、15N、17O、18O、または34Sは、好ましい標識の1つである。また、異なる同位体標識を組み込んだペプチド内部標準の対を調製することもできる。重同位体標識を組み込み得る好ましいアミノ酸残基には、ロイシン、プロリン、バリン、およびフェニルアラニンが含まれる。
ペプチド内部標準は、それらの質量電荷(m/z)比によって特徴付けされ、さらに、好ましくはクロマトグラフカラム(例えば、HPLCカラム)上でのそれらの保持時間によっても特徴付けされる。同一配列の非標識ペプチドと共溶出する内部標準を、最適な内部標準として選択する。次いで、任意の好適な方法、例えばアルゴンまたはヘリウムを衝突ガスとして用いる衝突誘起解離(CID)などによって、このペプチドを断片化することによって、この内部標準を解析する。次いで、ペプチド断片化サインを得るために、例えば、フラグメントイオンスペクトルを得るための多段階質量分析法(MSn)によって、この断片を解析する。各断片に対応するピークをよく分離させることができるよう、ペプチド断片のm/z比に顕著な差異があり、標的ペプチドに固有のサインが得られることが好ましい。最初の段階で好適な断片サインが得られない場合には、固有のサインが得られるまで追加の段階のMSを行う。
MS/MSおよびMS3のスペクトル中のフラグメントイオンは、典型的には、目的とするペプチドにきわめて特異的であり、さらに、LC法と併せて、何千または何万ものタンパク質を含む細胞溶解液のような複雑なタンパク質混合物中の標的ペプチド/タンパク質を検出および定量化するきわめて選択的な方法を可能にする。目的とする標的タンパク質/ペプチドを含んでいる可能性のある任意の生体試料をアッセイすることができる。未精製の細胞抽出液または部分的に精製した細胞抽出液は好ましく用いられる。一般的には、試料は、少なくとも0.01mgのタンパク質を含有し、典型的には0.1〜10mg/mLの濃度であって、これを所望の緩衝液濃度およびpHに調整することができる。
次いで、検出/定量化する標的タンパク質に対応する既知量の標識ペプチド内部標準、好ましくは約10フェントモルを、細胞溶解液のような生体試料に添加する。次いで、このスパイクした試料を、1つまたは複数のプロテアーゼで、消化させるために好適な時間消化させた。次いで、(例えば、HPLC、逆相HPLC、キャピラリー電気泳動、イオン交換クロマトグラフィーなどによって)分離を行い、標識内部標準およびそれに対応する標的ペプチドを、試料中の他のペプチドから単離する。ミクロキャピラリーLCは、好ましい方法である。
次いで、単離したそれぞれのペプチドを、MSにおいて、選択した反応のモニタリングによって調べる。これには、このペプチド内部標準の特徴付けによって得られる従来の知識を用い、次いで、目的とするペプチドおよびその内部標準の両方に対するMS/MSスペクトルまたはMSnスペクトル中の特定のイオンを、継続してMSでモニタリングすることが含まれる。溶出後、ペプチド標準および標的ペプチドの両方のピークの曲線下面積(AUC)を算出する。この2つの面積の比から、解析に用いた細胞数およびタンパク質の分子量を標準化できる絶対的な定量化が可能となり、細胞あたりのタンパク質の正確なコピー数が示される。このAQUA法についてのさらなる詳細は、Gygiら、およびGerberら、前掲に記載されている。
本発明の変異ROSポリペプチド内の任意の固有部位(例えば、CD74−ROS融合ポリペプチド内の融合ジャンクション)を検出および定量化するために、AQUA内部ペプチド標準(重同位体標識ペプチド)を、上記のように、望ましいように作製することができる。例えば、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション配列に対応するAQUAリン酸化ペプチドを調製することもできる。CD74−ROS融合ジャンクションに対するペプチド標準を作製して、生体試料中の融合ジャンクション(すなわち、CD74−ROS融合ポリペプチドの存在)を検出および定量化するために、そのような標準をAQUA法において用いることもできる。
例えば、本発明の例示的なAQUAペプチドはアミノ酸配列LVGDDFを含有し、これは、CD74−ROS融合ポリペプチドの第2の(短い)バリアントにおける融合ジャンクションのすぐ両側に位置する3アミノ酸に対応する。また、融合ジャンクション配列(およびその下流または上流の追加的な残基)を含有するより大きなAQUAペプチドも構築できることが理解されよう。同様に、そのような配列の全残基より少なく含有する(しかし、融合ジャンクション点自体はまだ含有している)より小さいAQUAペプチドを代わりに構築することもできる。このようなより大きなAQUAペプチドまたはより短いAQUAペプチドは本発明の範囲内であり、好ましいAQUAペプチドの選択および作製を上記のように行うことができる(Gygiら、Gerberら、前掲を参照されたい。)。
核酸プローブ。
本発明が提供する融合体特異的試薬には、上記のセクションBにおいて詳細に記載したような、CD74−ROSポリヌクレオチドの検出用に好適な核酸プローブおよびプライマーも含まれる。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)またはPCR増幅などのアッセイにおけるこのようなプローブの具体的な使用については、下記のセクションFに記載する。
また、本発明は、生体試料中のCD74−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはCD74−ROS融合ポリペプチドの検出用のキットも提供し、このキットには、少なくとも1つの本発明の融合ポリヌクレオチド特異的試薬または融合ポリペプチド特異的試薬、および1つまたは複数の第2の試薬が含まれる。キットでの使用に適した第2の試薬は当業者によく知られており、これには、例えば、緩衝液、検出可能な二次抗体またはプローブ、キナーゼ、活性化剤、キナーゼ基質などが含まれる。
F.診断適用およびアッセイ形態。
本発明の方法を、当業者に知られている多様な種々のアッセイ形態で行うこともできる。
イムノアッセイ。
本発明の方法の実施において有用なイムノアッセイは、ホモジニアスイムノアッセイまたはヘテロジニアスイムノアッセイであってもよい。ホモジニアスアッセイにおいて、この免疫学的反応は、通常、変異ROSポリペプチド特異的試薬(例えば、CD74−ROS融合ポリペプチド特異的抗体)、標識した分析物、および目的とする生体試料を必要とする。標識から生じるシグナルは、抗体が標識した分析物に結合することによって、直接的または間接的に修飾される。免疫学的な反応およびその程度の検出の両方は、ホモジニアス溶液中で行われる。用い得る免疫化学標識には、遊離ラジカル、放射性同位体、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、補酵素などが含まれる。半導体ナノ結晶標識、あるいは「量子ドット」を都合よく用いることもでき、これらの調製および使用については十分に記載されている。一般的には、K. Barovsky, Nanotech. Law & Bus. 1(2):Article 14(2004)およびこの中に引用される特許を参照されたい。
ヘテロジニアスアッセイのアプローチでは、試薬は、通常、生体試料、変異ROSキナーゼポリペプチド特異的試薬(例えば、抗体)、および検出可能なシグナルを生じる好適な手段である。後で詳述するような生体試料を用いることもできる。該抗体を、一般的には、ビーズ、プレート、またはスライドなどの担体上に固定して、液相中に抗原を含むと考えられる試料と接触させる。次いで、この担体を液相から分離して、担体相もしくは液相を、検出可能なシグナルについて、そのようなシグナルを生じる手段を用いて調べる。このシグナルは、生体試料中の分析物の存在と関連している。検出可能なシグナルを生じる手段には、放射標識、蛍光標識、酵素標識、量子ドットなどの使用が含まれる。例えば、検出すべき抗原が第2の結合部位を含む場合には、その部位に結合する抗体を検出可能な基に結合させて、分離工程の前に液相反応溶液に添加することができる。固体担体上の検出可能な基の存在は、この試験試料中に抗原があることを示す。適切なイムノアッセイの例には、ラジオイムノアッセイ、免疫蛍光、酵素結合イムノアッセイなどがある。
本明細書中に開示の方法を行うために有用となり得る、イムノアッセイ形態およびそれらの変形態様は、当技術分野で周知である。一般的には、E. Maggio, Enzyme-Immunoassay,(1980)(CRC Press社, Boca Raton, Fla.)を参照されたい;また、例えば、米国特許第4,727,022号(Skoldら、「Methods for Modulating Ligand-Receptor Interactions and their Application」);米国特許第4,659,678号(Forrestら、「Immunoassay of Antigens」);米国特許第4,376,110号(Davidら、「Immunometric Assays Using Monoclonal Antibodies」)も参照されたい。試薬−抗体複合体を形成させるための好適な条件は、当業者に周知である。同上を参照されたい。CD74−ROS融合ポリペプチド特異的モノクローナル抗体を、標識モノクローナル抗体および結合モノクローナル抗体の両方の供給源としての役割を果たす単一のハイブリドーマ細胞株による、「ツーサイト(two-site)」アッセイまたは「サンドイッチ」アッセイにおいて用いることもできる。このようなアッセイは、米国特許第4,376,110号に記載されている。CD74−ROS融合ポリペプチドの結合がバックグラウンドと比較して検出可能となるように、検出可能な試薬の濃度を十分にするべきである。
本明細書中に開示の方法の実施において有用な抗体を、沈降反応のような既知の技術に従って、診断用アッセイに好適な固体担体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンなどの材料から形成されたビーズ、プレート、スライド、またはウェル)に結合させることもできる。抗体または他のCD74−ROS融合ポリペプチド結合試薬を、既知の技術に従って、同様に、放射標識(例えば、35S、125I、131I)、酵素標識(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、および蛍光標識(例えば、フルオレセイン)などの検出可能な基に結合させることもできる。
フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)などの細胞に基づくアッセイは、本発明の方法の実施において特に望ましい。これは、このようなアッセイ形態が臨床上好適であって、in vivoにおける変異ROSポリペプチド発現の検出を可能にし、抽出液を得るために、例えば腫瘍試料から得た細胞を処理することに起因して活性が人為的に変化する危険性を避けるためである。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明の方法を、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)のアッセイ形態で実施する。
フローサイトメトリー(FC)を用いて、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療の前、中、後の哺乳動物の腫瘍における変異ROSポリペプチドの発現を測定することもできる。例えば、細針吸引で得た腫瘍細胞を、CD74−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性化について、ならびに、望まれる場合には、癌細胞型などを同定するマーカーについて、フローサイトメトリーによって解析することができる。フローサイトメトリーは、標準的な方法に従って行うことができる。例えば、Chowら、Cytometry(Communications in Clinical Cytometry)46:72-78(2001)。簡単に説明すると、例えば、細胞数測定解析用の以下のプロトコルを用いることもできる:2%パラホルムアルデヒドによる37℃で10分間の細胞固定後、90%メタノール中、氷上でf0分間の透過化処理。次いで、細胞を、CD74−ROS融合ポリペプチド特異的一次抗体で染色し、洗浄して、蛍光標識した二次抗体で標識することもできる。次いで、使用する機器の規定のプロトコルに従って、これらの細胞をフローサイトメーター(例えば、Beckman Coulter FC500)上で解析する。このような解析は、腫瘍において発現したCD74−ROS融合ポリペプチドのレベルを同定するであろう。ROS阻害治療薬を用いた腫瘍治療後の同様な解析は、ROSキナーゼの標的化阻害剤に対する、CD74−ROS融合ポリペプチドを発現している腫瘍の応答性を明らかにするであろう。
免疫組織化学(IHC)染色を用いて、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療の前、中、後の哺乳動物の癌(例えば、NSCLC)における変異ROSキナーゼポリペプチドの発現および/または活性化の状態を測定することもできる。IHCは、周知の技術に従って行うことができる。例えば、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL、第10章、HarlowおよびLane(編)、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)を参照されたい。簡単に説明すると、例えば、パラフィン包埋組織(例えば、生検からの腫瘍組織)を、キシレン、次いで、エタノールで組織切片の脱パラフィンを行い;水中で水和し、次いで、PBS中で水和し;クエン酸ナトリウム緩衝液中でスライドを加熱することによって抗原をアンマスキングし;過酸化水素中で切片をインキュベートし;ブロッキング溶液中でブロッキングし;抗CD74−ROS融合ポリペプチド一次抗体中および二次抗体中でスライドをインキュベートし;最後に、製造業者の使用説明書に従って、ABCアビジン/ビオチン法を用いて検出することによって、免疫組織化学染色用に調製する。
また、免疫蛍光(IF)アッセイを用いても、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療の前、中、後の哺乳動物の癌におけるCD74−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性化の状態を測定することができる。IFは、周知の技術に従って行うことができる。例えば、J. M. polakおよびS. Van Noorden(1997)INTRODUCTION TO IMMUNOCYTOCHEMISTRY、第2版;ROYAL MICROSCOPY SOCIETY MICROSCOPY HANDBOOK 37、BioScientific/Springer-Verlagを参照されたい。簡単に説明すると、例えば、患者の試料を、パラホルムアルデヒド中で固定し、次いで、メタノール中で固定し、ウマ血清のようなブロッキング溶液でブロッキングし、CD74−ROS融合ポリペプチドに対する一次抗体でインキュベートし、次いで、Alexa488のような蛍光色素で標識した二次抗体でインキュベートして、落射蛍光顕微鏡で解析することもできる。
上記のアッセイに用いる抗体を、他のシグナル伝達(EGFR、リン酸化型AKT、リン酸化型Erk 1/2)および/または細胞マーカー(サイトケラチン)の抗体と共にマルチパラメータ解析で使用するために、蛍光色素(例えば、Alexa488、PE)、または量子ドットのような他の標識と都合よく結合させることもできる。
酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光励起細胞分取(FACS)を含む、変異ROSキナーゼポリペプチドを測定するための他の多様なプロトコルは、当技術分野において知られており、CD74−ROS融合ポリペプチド発現レベルの変化または異常を診断するための基礎を提供する。CD74−ROS融合ポリペプチド発現の正常値、すなわち標準値は、正常哺乳動物の対象者、好ましくはヒトから得られた体液または細胞抽出液を、複合体形成に好適な条件下で、CD74−ROS融合ポリペプチドに対する抗体と結合させることによって決定する。標準的な複合体形成の量は、種々の方法によって定量化し得るが、測光法によることが好ましい。対象者、対照、および生検組織から得た疾患試料において発現したCD74−ROS融合ポリペプチドの量を標準値と比較する。標準値と対象者の値との間の偏差によって、疾患を診断するためのパラメータを確立する。
ペプチドアッセイおよびヌクレオチドアッセイ。
同様に、上記のセクションEに詳述しているように、腫瘍からの細胞を含む生体試料における、発現した変異ROSポリペプチドの検出/定量化のためのAQUAペプチドを調製して、標準的なAQUAアッセイに用いることもできる。したがって、本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態において、CD74−ROS融合ポリペプチド特異的試薬には、セクションEに上述しているように、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含有するペプチド配列に対応する重同位体標識リン酸化ペプチド(AQUAペプチド)が含まれる。
本発明の方法の実施において有用な変異ROSキナーゼポリペプチド特異的試薬は、生体試料中の融合ポリペプチドまたは切断型ポリペプチドの発現転写産物に直接ハイブリッド形成して検出可能な、mRNA、オリゴヌクレオチド、またはDNAプローブであってもよい。このようなプローブについては、上記のセクションBに詳述している。簡単に説明すると、例えば、ホルマリン固定してパラフィン包埋した患者の試料を、フルオレセイン標識RNAプローブでプローブし、次いで、ホルムアミド、SSC、およびPBSで洗浄して、蛍光顕微鏡で解析することができる。
変異ROSキナーゼポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを、診断目的で使用することもできる。用い得るポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチド配列、アンチセンスのRNA分子およびDNA分子、ならびにPNAが含まれる。これらのポリヌクレオチドを、CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチドの発現が疾患と関連している可能性のある生検組織中の遺伝子発現を検出および定量化するために用いることもできる。この診断用アッセイを使用して、CD74−ROS融合ポリペプチドの欠如、存在、および過剰発現を見分けて、治療介入期間中のCD74−ROS融合ポリペプチドレベルの調節をモニタリングすることもできる。
好ましい一実施形態において、CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチド、あるいは密接に関連した分子をコードする、ゲノム配列を含む、ポリヌクレオチド配列を検出可能なPCRプローブとのハイブリダイゼーションを用いて、変異ROSポリペプチドをコードする核酸配列を同定することもできる。このようなプローブの構築および使用については、上記のセクションBに記載している。このプローブの特異性(きわめて特異的な領域、例えば、該融合ジャンクション中の固有の10ヌクレオチドから作製されたか、あまり特異的でない領域、例えば、3’コード領域から作製されたかは問わない)、およびハイブリダイゼーションまたは増幅のストリンジェンシー(最も高い、高い、中程度、または低い)は、このプローブが変異ROSキナーゼのポリペプチド、対立遺伝子、または関連配列をコードしている天然に存在する配列のみを同定するかどうかを決定するであろう。
プローブは、関連配列の検出のために用いることもでき、好ましくは、変異ROSポリペプチドをコードしている任意の配列由来の少なくとも50%のヌクレオチドを含んでいるべきである。上記のセクションBに詳述しているように、本発明のハイブリダイゼーションプローブは、DNAまたはRNAであってよく、最も好ましくは該融合ジャンクションを含む、配列番号:2のヌクレオチド配列由来、あるいは天然に存在するCD74ポリペプチドおよびROSポリペプチドのプロモーター、エンハンサーエレメント、およびイントロンを含む、ゲノム配列由来であってもよい。
本発明のCD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドを、患者の生検からの体液または組織を利用する、サザン解析またはノーザン解析、ドットブロット、あるいは他のメンブレンに基づく技術において;PCR技術において;あるいはディップスティックアッセイ、ピンアッセイ、ELISA、またはチップアッセイにおいて用いて、変異ROSキナーゼポリペプチド発現の変化を検出することもできる。このような定性的または定量的な方法は、当技術分野で周知である。特定の一態様において、変異ROSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、NSCLCなどの肺の癌を含む種々の癌の活性化または誘発を検出するアッセイにおいて有用となり得る。変異ROSポリヌクレオチドを、標準的な方法によって標識して、ハイブリダイゼーション複合体の形成に好適な条件下において、患者からの体液または組織の試料に添加することもできる。好適なインキュベーション時間後に、この試料を洗浄し、そのシグナルを定量化して標準値と比較する。生検または抽出したこの試料中のシグナルの量が、比較可能な対照試料のシグナルの量から顕著に変化している場合には、該ヌクレオチド配列が試料中のヌクレオチド配列とハイブリッド形成しており、試料中のCD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のレベルに変化があることから関連疾患の存在が示唆される。また、このようなアッセイを、動物試験、臨床試験、または個々の患者の治療のモニタリングにおいて、特定の治療的処置の効力を評価するために用いることもできる。
変異ROSポリペプチドの発現を特徴とする疾患の診断のための基礎を提供するために、正常な、すなわち標準的な発現のプロファイルを確立する。これは、ハイブリダイゼーションまたは増幅に好適な条件下において、動物もしくはヒトの正常対象者から得た体液または細胞抽出液を、CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドをコードする配列またはその断片と結合させることによって達成することができる。標準的なハイブリダイゼーションは、正常対象者から得られた値を、既知量の実質上精製したポリヌクレオチドを用いた実験から得られた値と比較することによって定量化することができる。正常試料から得られた標準値を、疾患の症状を示す患者由来の試料から得られた値と比較することができる。標準値と対象値との間の偏差を用いて、疾患の存在を確定する。
疾患を確定して療法プロトコルを開始すれば、ハイブリダイゼーションアッセイを定期的に繰り返して、その患者における発現のレベルが、正常患者においてみられるものと近くなるかどうかを評価することができる。連続したアッセイから得られた結果を用いて、数日から数ヶ月に及ぶ期間にわたる治療の効力を示すこともできる。
本発明の変異ROSポリヌクレオチドのさらなる診断用の用途には、当業者に標準的な他の好ましいアッセイ形態であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の用途が含まれ得る。例えば、MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, 第2版、Sambrook, J., Fritsch, E. F.およびManiatis, T.(編)、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989)を参照されたい。PCRオリゴマーは、化学的に合成してもよく、酵素で生成させてもよく、あるいは組換え源から産生させてもよい。オリゴマーは、特定の遺伝子または条件を同定するために最適化された条件下で用いられる、センス方向(5’から3’)およびアンチセンス方向(3’から5’)の2種類のヌクレオチド配列からなることが好ましい。密接に関連したDNAまたはRNAの配列を検出および/または定量化するために、同様の2種類のオリゴマー、ネストセットのオリゴマー、または縮重プールのオリゴマーでさえも、よりストリンジェンシーの低い条件下で用いることができる。
CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドの発現を定量化するために用い得る方法には、ヌクレオチドを放射標識またはビオチン化すること、対照核酸の共増幅、および実験結果を内挿する標準曲線が含まれる(Melbyら、J. Immunol. Methods, 159:235-244(1993);Duplaaら、Anal. Biochem. 229-236(1993))。多数の試料の定量化の速度は、目的とするオリゴマーが多様な希釈率で提供され、分光光度法または比色法による反応によって迅速な定量化が可能となるELISAの形態でアッセイを行うことによって促進され得る。
本発明の他の一実施形態では、本発明の変異ROSポリヌクレオチドを用いて、天然に存在するゲノム配列をマッピングするために有用なハイブリダイゼーションプローブを作製することもできる。周知の技術を用いて、この配列を、特定の染色体に、あるいは染色体の特定の領域にマッピングすることもできる。Price, C. M.、Blood Rev. 7:127-134(1993)およびTrask, B. J.、Trends Genet. 7:149-154(1991)に総説されるように、このような技術には、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、FACS、または人工染色体構築物、例えば、酵母人工染色体、細菌人工染色体、細菌のP1構築物、または単一染色体cDNAライブラリーが含まれる。
好ましい一実施形態において、(Vermaら、HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES、Pergamon Press, New York, N. Y.(1988)に記載されるように)FISHを用いて、これを他の物理的染色体マッピング技術および遺伝子地図データと関連づけることもできる。遺伝子地図データの例は、1994 Genome Issue of Science(265:1981f)に見いだすことができる。CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチドをコードする遺伝子の物理的染色体地図上の部位と、特定の疾患、あるいは特定の疾患の疾病素質との間の関連性は、その遺伝的疾患に関連するDNA領域の範囲の決定を補助し得る。本発明のヌクレオチド配列を用いて、健常者、保因者、または罹患者の間の遺伝子配列の相違を検出することができる。
染色体標本のin situハイブリダイゼーション、および確立された染色体マーカーを使用する連鎖解析のような物理的マッピング技術を用いて、遺伝子地図を拡張することもできる。マウスなどの他の哺乳動物種の染色体上における遺伝子の配置は、特定のヒト染色体の番号または腕が未知の場合であっても、関連マーカーを明らかにし得ることが多い。物理的マッピングによって、新しい配列を、染色体腕、またはその一部に帰属させることができる。これは、ポジショナルクローニングまたは他の遺伝子発見技術を用いて疾患遺伝子を探索している研究者に貴重な情報を提供する。例えば、ATが11q22〜23に位置付けされているように(Gattiら、Nature 336:577-580(1988))、疾患または症候群が遺伝的連鎖によって特定のゲノム領域におおまかに位置づけされると、その領域にマッピングされる任意の配列によって、さらに調査するための関連遺伝子または調節遺伝子が表され得る。また、本発明のヌクレオチド配列を用いて、転座、逆位などに起因する、健常者、保因者、または罹患者の間の染色体上の位置における相違を検出することもできる。
生体試料
本発明の方法の実施において有用な生体試料は、CD74−ROS融合ポリペプチドの存在を特徴とする癌が存在または進行している、あるいは存在または進行している可能性のある、任意の哺乳動物から得ることができる。一実施形態では、該哺乳動物はヒトであり、このヒトは、肺癌、例えばNSCLCの治療のためのROS阻害治療の候補者となり得る。該ヒト候補者は、現在ROSキナーゼ阻害剤で治療している、またはその治療を検討している患者であってもよい。別の一実施形態では、該哺乳動物はウマまたはウシのような大型動物であり、一方、他の実施例では、該哺乳動物はイヌまたはネコのような小型動物であり、これらの全てが肺癌を含む癌を発症することが知られている。
哺乳動物の癌由来の細胞(または細胞の抽出液)を含むすべての生体試料が、本発明の方法における使用に適している。一実施形態では、該生体試料には、腫瘍生検から得られた細胞が含まれる。該生検は、標準的な臨床技術に従って、哺乳動物の臓器内に生じている原発性腫瘍から、あるいは他の組織内の転移した続発性腫瘍から得ることができる。他の一実施形態では、該生体試料には、腫瘍から採取した細針吸引液から得られた細胞が含まれ、このような吸引液を採取する技術は当技術分野で周知である(Cristalliniら、Acta Cytol. 36(3):416-22(1992)を参照されたい)。
また、該生体試料には、胸水のような浸出液から得られる細胞も含まれ得る。胸水(肺の外側の胸腔内に生じる液体であって癌細胞を含む)は、進行した肺癌(NSCLCを含む)を有する多くの患者に生じることが知られており、このような浸出液の存在は、転帰が悪く、生存期間が短いことを予示する。胸水試料を採取するための標準的な技術は、記載されており、当技術分野で周知である(Sahn、Clin Chest Med. 3(2):443-52(1982)を参照されたい)。また、腫瘍マーカー、サイトケラチンタンパク質マーカー、または記載されているような他のネガティブ選択の方法(Maら、Anticancer Res. 23(1A):49-62(2003)を参照されたい)を用いて、血清から循環腫瘍細胞を得ることもできる。白血病を有する患者については、血清および骨髄の試料が特に好ましいこともある。ROSの異常な発現は、神経膠芽細胞腫において観察されている。Charestら、前掲を参照されたい。
生体試料には、CD74−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドは発現および/または活性化しているが、野生型ROSキナーゼは発現および/または活性化していない癌由来の細胞(または細胞抽出液)が含まれ得る。あるいは、該試料には、変異ROSポリペプチドおよび野生型ROSキナーゼの両方が発現および/または活性化している癌、あるいは野生型のROSキナーゼおよび/またはCD74は発現および/または活性化しているが変異ROSポリペプチドは発現および/または活性化していない癌の由来の細胞が含まれ得る。
上記の生体試料の細胞抽出液を、標準的な技術に従って、未精製のままで、もしくは部分的に(あるいは完全に)精製して、調製し、本発明の方法において用いることができる。あるいは、細胞全体を含む生体試料を、上記に詳述しているように、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー(FC)、および免疫蛍光(IF)などの好ましいアッセイ形態において利用することもできる。このような細胞全体のアッセイは、これらが該腫瘍細胞試料の操作を最小限に抑え、したがって、この細胞のin vivoでのシグナル伝達/活性化の状態を変化させ、かつ/または人為的なシグナルを導く危険性を低減させるるという点で好都合である。また、細胞全体のアッセイは、これらが、腫瘍細胞および正常細胞の混合物よりもむしろ、腫瘍細胞のみにおける発現およびシグナル伝達の特徴を明らかにすることからも好都合である。
CD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドを特徴とする腫瘍の進行を化合物が抑制するかどうかを決定するための開示の方法の実施において、哺乳動物の異種移植片(または骨髄移植片)由来の細胞を含む生体試料も都合よく用いることができる。好ましい異種移植片(または移植レシピエント)は、変異ROSキナーゼポリペプチドを発現するヒト腫瘍(または白血病)を有している、マウスのような小型哺乳動物である。ヒト腫瘍を有している異種移植片は当技術分野で周知であり(KaI、Cancer Treat Res. 72:155-69(1995)を参照されたい)、ヒト腫瘍を有している哺乳動物の異種移植片の作製は、よく記載されている(Winogradら、In Vivo. 1(1):1-13(1987)を参照されたい)。同様に、骨髄移植モデルの作製および使用はよく記載されている(例えば、Schwallerら、EMBO J. 77:5321-333(1998);Kellyら、Blood 99:310-318(2002)を参照されたい)。CD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチド「を特徴とする癌」とは、そのような転座および/または融合ポリペプチドが存在しない癌と比較したとき、そのような変異ROSの遺伝子および/または発現したポリペプチドが存在する癌を意味する。
哺乳動物の癌腫瘍由来の細胞を含む生体試料中の変異ROSのポリヌクレオチドの存在またはポリペプチドの発現を評価する際に、比較の目的で、このような転座および/または融合タンパク質が生じない細胞を代表した対照試料を、望ましいように用いることができる。この対照試料には、そのような変異(例えば、CD74−ROSの転座)が生じておらず、かつ/またはそのような融合ポリペプチドが発現していないサブセットを代表する、特定の癌(例えば、NSCLC)のサブセット由来の細胞が含まれることが理想的である。この対照試料に対する試験生体試料中のレベルを比較することによって、変異ポリヌクレオチドおよび/または変異ポリペプチドが存在するかどうかを識別する。あるいは、CD74−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはCD74−ROS融合ポリペプチドは、大部分の癌には存在しない可能性もあるため、同様に変異ROSポリペプチドを発現しない(またはこの変異ポリペプチドを有していない)任意の組織を対照として用いることができる。
後述する方法は、変異ROSポリヌクレオチドおよび/または変異ROSポリペプチドを特徴とする癌に対する価値ある診断的有用性を有し、このような癌の治療を決定するであろう。例えば、CD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドを特徴とする癌を有すると事前に診断されていない対象者、あるいはそのような癌の治療をまだ受けていない対象者から生体試料を採取することができ、該方法を用いて、そのような対象者において、変異ROSポリヌクレオチドおよび/または変異ROSポリペプチドが存在/発現している腫瘍(例えば、NSCLC腫瘍)のサブセットに属するような腫瘍を診断によって同定する。
あるいは、EFGRなどの1種類のキナーゼによって引き起こされる癌を有すると診断され、そのような癌の治療のために、EGFR阻害剤療法(例えば、Tarceva(商標)、Iressa(商標))のような療法を受けている対象者から生体試料を採取することもでき、本発明の該方法を用いて、その対象者の腫瘍がCD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドをも特徴とし、したがって、従来の療法に完全に反応性を示す可能性が高いかどうか、かつ/あるいは他のまたは追加のROSキナーゼ阻害療法が望ましいかどうかまたは正当化されるかどうかを同定する。また、ROSキナーゼを阻害する治療薬または併用治療薬を含有する組成物による対象者の治療後に、本発明の方法を用いて、変異ROSポリペプチドを発現している癌の進行または抑制をモニタリングすることもできる。
このような診断用アッセイを、事前の評価または外科的なサーベイランス手順の後に、あるいはその前に行うことができる。本発明のこの同定方法は、ROSキナーゼ活性を阻害することを目標とした療法に反応性を示す可能性がきわめて高いと考えられる、NSCLCのような、CD74−ROS融合タンパク質によって引き起こされる癌を有する患者を同定する診断法として用いることができるので有利である。また、そのような患者を選択できることは、ROSを標的とした将来的な治療薬の効力の臨床評価ならびにそのような薬剤の患者への将来的な処方においても有用であろう。
診断。
CD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドが存在する癌を選択的に同定できることにより、診断の目的でそのような腫瘍を正確に同定するための新しい重要な方法、ならびに、癌の治療用の単一の薬剤として投与する場合に、そのような腫瘍がROS阻害治療組成物に反応性である可能性が高いのかどうか、あるいは別のキナーゼを標的とする阻害剤に部分的にまたは完全に非反応性である可能性が高いのかどうかを決定する際に有用となる情報を得るための新しい重要な方法が可能になる。
したがって、一実施形態では、本発明は、癌における変異ROSポリヌクレオチドおよび/または変異ROSポリペプチドの存在を検出する方法を提供し、この方法には以下のステップが含まれる:(a)癌を有する患者から生体試料を採取すること;ならびに(b)CD74−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはCD74−ROS融合ポリペプチドが生体試料中に存在するかどうかを決定するために、本発明の変異ROSポリヌクレオチドまたは変異ROSポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を利用すること。
いくつかの好ましい実施形態では、この癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)のような肺癌である。他の好ましい実施形態では、変異ROSキナーゼポリペプチドの存在によって、少なくとも1つのROSキナーゼ阻害治療薬を含有する組成物に反応性を示す可能性の高い癌が同定される。
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の診断方法を、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)のアッセイ形態で実施する。他の好ましい一実施形態では、CD74−ROS融合ポリペプチドの活性を検出する。他の好ましい実施形態では、本発明の診断法を、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のアッセイ形態で実施する。
本発明は、化合物がCD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたはCD74−ROS融合ポリペプチドを特徴とする癌の進行を抑制するかどうかを判定する方法をさらに提供し、前記方法には、前記化合物が前記癌において前記CD74−ROS融合体の発現および/または活性を阻害するかどうかを判定するステップが含まれる。好ましい一実施形態では、本発明のCD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたはCD74−ROS融合ポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて、CD74−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性の阻害を判定する。ROSキナーゼ活性の阻害に好適な化合物については、下記のセクションGでさらに詳述する。
本発明の方法の実施において有用な変異ROSポリヌクレオチドプローブおよび変異ROSポリペプチド特異的試薬については、上記のセクションBおよびDでさらに詳述している。好ましい一実施形態では、CD74−ROS融合ポリペプチド特異的試薬には、融合ポリペプチド特異的抗体が含まれる。他の好ましい一実施形態では、該融合ポリペプチド特異的試薬には、CD74−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションに対応する重同位体標識リン酸化ペプチド(AQUAペプチド)が含まれる。
また、上記の本発明の方法には、任意選択で、前記生体試料中の野生型ROSおよび野生型EGFRなどの他のキナーゼまたは下流の他のシグナル伝達分子の発現または活性化のレベルを測定するステップも含まれていてもよい。所定の生体試料中のCD74−ROS融合ポリペプチドの発現/活性化と他のキナーゼおよび経路の発現/活性化の両方をプロファイリングすることによって、どのキナーゼおよび経路がその疾患を引き起こしているか、そのため、どの治療計画が最も有益である可能性が高いかについての有用な情報を提供することができる。
化合物スクリーニング。
また、本明細書に記載の新規CD74−ROS融合ポリペプチドの発見によって、これらの変異ROSタンパク質の活性、特にそれらのROSキナーゼ活性を阻害する新しい化合物の開発も可能となる。したがって、本発明はまた、部分的には、化合物がCD74−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはCD74−ROS融合ポリペプチドを特徴とする癌の進行を抑制するかどうかを判定する方法も提供し、前記方法には、前記化合物が前記癌において前記CD74−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性を阻害するかどうかを判定するステップが含まれる。好ましい一実施形態では、本発明の変異ROSポリヌクレオチドおよび/または変異ROSポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて、CD74−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性の阻害を判定する。本発明の好ましい試薬については、上述している。ROSキナーゼ活性の阻害に好適な化合物については、下記のセクションGでさらに詳述する。
この化合物は、例えば、小分子阻害剤または抗体阻害剤のようなキナーゼ阻害剤であってもよい。これは、いくつかの異なるキナーゼに対する活性を有する汎キナーゼ阻害剤、すなわちキナーゼ特異的阻害剤であってもよい。ROSキナーゼ阻害化合物については、下記のセクションGでさらに詳述する。該阻害剤による治療の前後に患者の生体試料を採取してもよく、次いで、上記の方法を用いて、該阻害剤が、下流の基質タンパク質のリン酸化を含む、ROSキナーゼ活性に及ぼす生物学的影響について解析することもできる。このような薬力学的アッセイは、好ましくは最大耐用量までとなり得るその薬剤の生物学的有効量を決定する際に有用となり得る。このような情報は、薬剤の作用機序を実証することによって、薬剤の承認申請の際にも有用であろう。このような所望の阻害特性を有する化合物の同定については、下記のセクションGで詳述する。
G.癌の治療的阻害。
本発明によって、該CD74−ROS融合ポリペプチドがヒトNSCLCの少なくとも1つのサブグループにおいて生じることをここで示してきた。したがって、CD74−ROS融合タンパク質を発現する哺乳動物の癌(例えば、NSCLC)の進行を、そのような癌におけるROSキナーゼ活性を阻害することによってin vivoで抑制することができる。変異ROSキナーゼの発現を特徴とする癌におけるROS活性は、その癌(例えば腫瘍)をROSキナーゼ阻害治療薬と接触させることによって阻害することができる。したがって、本発明は、部分的には、癌におけるROSキナーゼの発現および/または活性を阻害することによってCD74−ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を抑制するための方法を提供する。
ROSキナーゼ阻害治療薬は、ROSキナーゼの発現および/または活性をin vivoで直接的もしくは間接的に阻害する、少なくとも1つの生物学的または化学的化合物を含有する任意の組成物であってもよく、これには、後述の例示的な種類の化合物が含まれる。このような化合物には、ROSキナーゼ自体に、あるいはROSの活性を変化させるタンパク質または分子に、直接的に作用する治療薬、またはROSの発現を阻害することによって間接的に作用する治療薬が含まれる。また、このような組成物には、単一のROSキナーゼ阻害化合物のみを含有する組成物および複数の治療薬(他のRTKに対するものを含む)を含有する組成物も含まれ、これには、化学療法剤または一般的な転写阻害剤のような非特異的な治療剤も含まれ得る。
小分子阻害剤。
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の方法の実施において有用なROS阻害治療薬は、標的化される小分子阻害剤である。小分子標的化阻害剤は、典型的には、特異的に、かつ多くの場合不可逆的に、それらの標的酵素の触媒部位に結合し、かつ/あるいはATP結合溝またはその酵素がその活性に必要なコンフォメーションをとることを妨げるその酵素内の他の結合部位に結合して、その酵素の活性を阻害するあるクラスの分子である。例示的な小分子標的化キナーゼ阻害剤は、Gleevec(登録商標)(イマチニブ、STI-571)であり、これは、CSF1RおよびBCR−ABLを阻害し、その特性はよく記載されている。Dewarら、Blood 105(8):3127-32(2005)を参照されたい。
小分子阻害剤は、ROSキナーゼ三次元構造のX線結晶学的モデリングまたはコンピューターモデリングを用いて合理的に設計することができ、あるいはROSの阻害に対する化合物ライブラリーの高処理スクリーニングによって見つけ出すこともできる。このような方法は当技術分野で周知であり、記載されている。上記のように、ROSの阻害の特異性は、例えば、キナーゼのパネルうち、ROS活性を阻害するが、他のキナーゼ活性は阻害しない、そのような化合物の能力を調べることによって、かつ/またはNSCLC腫瘍細胞を含む生体試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認することができる。このようなスクリーニング法については、後で詳述する。
抗体阻害剤。
また、本発明の方法において有用なROSキナーゼ阻害治療薬は、ROS活性に必要とされる重要な触媒部位もしくは結合部位または触媒ドメインもしくは結合ドメインに特異的に結合し、リガンド、基質、または第2の分子の第1の分子への到達を阻止することおよび/またはこの酵素がその活性に必要なコンフォメーションをとるのを妨げることによってこのキナーゼを阻害する標的化抗体であってもよい。ヒト化標的特異的抗体の作製、スクリーニング、および治療的使用については、よく記載されている。Merluzziら、Adv Clin Path. 4(2):77-85(2000)を参照されたい。ヒト化標的特異的抑制抗体の高処理の作製およびスクリーニングのために、Morphosys社のヒトコンビナトリアル抗体ライブラリー(HuCAL(登録商標))のような市販の技術およびシステムを利用することができる。
種々の抗受容体キナーゼ標的化抗体の作製および標的とする受容体の活性を阻害するためのその使用については、記載されている。例えば、米国特許公開第20040202655号、「Antibodies to IGF-I Receptor for the Treatment of Cancers」、2004年10月14日、Mortonら;米国特許公開第20040086503号、「Human anti-Epidermal Growth Factor Receptor Single-Chain Antibodies」、2004年4月15日、Raischら;米国特許公開第20040033543号、「Treatment of Renal Carcinoma Using Antibodies Against the EGFr」、2004年2月19日、Schwabらなどを参照されたい。受容体チロシンキナーゼ活性抑制抗体を作製および使用するための標準化された方法は、当技術分野において知られている。例えば、欧州特許第EP1423428号、「Antibodies that Block Receptor Tyrosine Kinase Activation, Methods of Screening for and Uses Thereof」、2004年6月2日、Borgesらを参照されたい。
また、ファージディスプレイのアプローチを用いてROS特異的抗体阻害剤を作製することもでき、バクテリオファージライブラリーの構築および組換え抗体の選択のためのプロトコルは、周知の参考書、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、Colliganら(編)、John Wiley & Sons社(1992-2000)、第17章、セクション17.1に示されている。また、米国特許第6,319,690号、2001年11月20日、Littleら;米国特許第6,300,064号、2001年10月9日、Knappikら;米国特許第5,840,479号、1998年11月24日、Littleら;米国特許公開第20030219839号、2003年11月27日、Bowdishらも参照されたい。
バクテリオファージの表面上にディスプレイされた抗体断片のライブラリーを作製して(例えば、米国特許第6,300,064号、2001年10月9日、Knappikらを参照されたい)、(ROSのような)受容体タンパク質チロシンキナーゼの可溶性二量体型に結合するものをスクリーニングすることができる。スクリーニングに用いるRTKの可溶性二量体型に結合する抗体断片を、細胞内で標的RTKの構成的な活性化を阻止する候補分子として同定する。欧州特許第EP1423428号、Borgesら、前掲を参照されたい。
抗体ライブラリーのスクリーニングで上記のように同定したROS結合標的化抗体を、その後、ROSの活性を阻止するそれらの能力について、in vitroのキナーゼアッセイおよびin vivoの細胞株および/または腫瘍の両方においてさらにスクリーニングすることもできる。上記のように、ROSの阻害は、例えば、キナーゼのパネルうち、ROSキナーゼ活性を阻害するが、他のキナーゼ活性は阻害しない、そのような抗体治療薬の能力を調べることによって、かつ/または癌細胞を含む生体試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認することができる。ROSキナーゼ阻害のためのこのような化合物をスクリーニングする方法については、上記に詳述している。
間接的阻害剤。
開示の方法の実施において有用なROS阻害化合物は、ROSキナーゼそのもの以外のタンパク質または分子の活性を阻害することによって、間接的にROS活性を阻害する化合物であってもよい。このような阻害治療薬は、ROS自体をリン酸化または脱リン酸化する(したがって、活性化または不活性化する)重要な調節キナーゼの活性を調節する、あるいはリガンドの結合を妨げる標的化阻害剤であってもよい。他の受容体チロシンキナーゼと同様に、ROSは、アダプタータンパク質および下流のキナーゼのネットワークを通して下流のシグナル伝達を制御する。この結果として、これらの相互作用しているタンパク質または下流のタンパク質を標的化することによって、ROS活性による細胞の増殖および生存の誘導を阻害することができる。
ROSが活性のあるコンフォメーションをとるために必要な活性化分子の結合を阻害する化合物を用いて、ROSキナーゼ活性を間接的に阻害することもできる。例えば、抗PDGF抗体の作製および使用については記載されている。米国特許公開第20030219839号、「Anti-PDGF Antibodies and Methods for Producing Engineered Antibodies」、Bowdishらを参照されたい。受容体に結合するリガンド(PDGF)の阻害により、受容体活性が直接的に下方制御される。
ROS活性の間接的阻害剤は、ROS三次元構造のX線結晶学的モデリングまたはコンピューターモデリングを用いて合理的に設計することができ、あるいは結果としてROSキナーゼ活性を阻害することとなる、重要な上流の調節酵素および/または必要な結合分子の阻害についての化合物ライブラリーの高処理スクリーニングによって見つけ出すこともできる。このようなアプローチは当技術分野で周知であり、記載されている。上記のように、このような治療薬によるROSの阻害は、例えば、キナーゼのパネルうち、ROS活性を阻害するが、他のキナーゼ活性は阻害しない、化合物の能力を調べることによって、かつ/またはNSCLC細胞などの癌細胞を含む生体試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認することができる。CD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドならびに/あるいは切断型ROSのポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを特徴とする癌を抑制する化合物を同定する方法については、後で詳述する。
アンチセンス阻害剤および/または転写阻害剤。
ROS阻害治療薬には、ROSをコードする遺伝子および/または該CD74−ROS融合遺伝子の転写を阻止することによってROSキナーゼ活性を阻害する、アンチセンス阻害化合物および/または転写阻害化合物も含まれていてもよい。癌の治療用のアンチセンス治療薬による、VEGFR、EGFR、およびIGFR、ならびにFGFRを含む種々の受容体キナーゼの阻害については、記載されている。例えば、米国特許第6,734,017号;第6,710,174号、第6,617,162号;第6,340,674号;第5,783,683号;第5,610,288号を参照されたい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドを、標的遺伝子に対する治療剤として、既知の技術に従って設計、構築、および利用することができる。例えば、Cohen, J.、Trends in Pharmacol. Sci. 10(11):435-437(1989);Marcus-Sekura、Anal. Biochem. 172:289-295(1988);Weintraub, H.、Sci AM. pp.40-46(1990);Van Der Krolら、BioTechniques 6(10):958-976(1988);Skorskiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1994)91:4504-4508を参照されたい。EGFRのアンチセンスRNA阻害剤を用いた、in vivoでのヒト癌腫増殖の阻害については、最近記載されている。米国特許公開第20040047847号、「Inhibition of Human Squamous Cell Carcinoma Growth In vivo by Epidermal Growth Factor Receptor Antisense RNA Transcribed from a Pol III Promoter」、2004年3月11日、Heらを参照されたい。同様に、哺乳動物のROS遺伝子(図4(配列番号:8を参照されたい)あるいはCD74−ROS融合ポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチド(図2(配列番号:2)または切断型を参照されたい)に対する少なくとも1種類のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するROS阻害治療薬を、上記のような方法に従って調製することができる。ROS阻害アンチセンス化合物を含有する医薬組成物を、後で詳述するように調製および投与することができる。
低分子干渉RNA。
RNA干渉の過程を通して、ROSの翻訳を阻害し、したがってROSの活性を阻害する、低分子干渉RNA分子(siRNA)組成物も、本発明の方法において望ましいように用いることができる。RNA干渉、すなわち、標的タンパク質をコードするmRNAと相補的な配列を含有する外因性の短い二本鎖RNA分子の導入による、標的タンパク質の発現の選択的なサイレンシングについては、よく記載されている。例えば、米国特許公開第20040038921号、「Composition and Method for Inhibiting Expression of a Target Gene」、2004年2月26日、Kreutzerら;米国特許公開第20020086356号、「RNA Sequence-Specific Mediators of RNA Interference」、2003年6月12日、Tuschlら;米国特許公開第20040229266号、「RNA Interference Mediating Small RNA Molecules」、2004年11月18日、Tuschlらを参照されたい。
例えば、実施例3に記載のように、CD74−ROS融合タンパク質の発現のsiRNAを介したサイレンシングを、この融合タンパク質を発現しているヒトNSCLC細胞株において生じさせることもできる。
二本鎖RNA分子(dsRNA)は、RNA干渉(RNAi)として知られているきわめて保存された調節機構で遺伝子発現を阻止することが示されている。簡単に説明すると、RNアーゼIIIダイサーがdsRNAを処理して約22ヌクレオチドの低分子干渉RNA(siRNA)にして、これが、RNA誘導サイレンシング複合体RISCによる標的特異的なmRNA切断を誘導するためのガイド配列として働く(Hammondら、Nature(2000)404:293-296を参照されたい)。RNAiは触媒型反応に関わり、これによって、新しいsiRNAは、より長いdsRNAの連続的な切断を通して生成される。したがって、アンチセンスとは異なり、RNAiは、不定比性の様式で標的RNAを分解する。細胞または生体に投与する場合には、外因性dsRNAが、RNAiを介して内因性メッセンジャーRNA(mRNA)の配列特異的な分解を導くことが示されている。
哺乳動物細胞におけるこれらの発現および使用のためのベクターおよびシステムを含む、多種多様な標的特異的siRNA製品が、現在、市販されている。例えば、Promega社(www.promega.com);Dharmacon社(www.dharmacon.com)を参照されたい。RNAiのためのdsRNAの設計、構築、および使用についての詳細な技術マニュアルが利用可能である。例えば、Dharmaconの「RNAi Technical Reference & Application Guide」;Promegaの「RNAi:A Guide to Gene Silencing」を参照されたい。 また、ROS阻害siRNA製品も市販されており、本発明の方法において適切に用いることができる。例えば、Dharmacon社、Lafayette、CO (カタログ番号M-003162-03、MU-003162-03、D-003162-07 thru-10 (siGENOME(商標)SMARTselection and SMARTpool(登録商標)siRNAs)を参照されたい。
哺乳動物においてRNAiを媒介する際には、標的mRNA配列の一部と実質的に同一な少なくとも1つの配列を含有する長さが49ヌクレオチド未満、好ましくは19〜25ヌクレオチドの短いdsRNAであって、最適には片方の末端に1〜4ヌクレオチドの突出を少なくとも1つ有するdsRNAが、最も有効であることが最近確立されている。米国特許公開第20040038921号、Kreutzerら、前掲;米国特許公開第20040229266号、Tuschlら、前掲を参照されたい。このようなdsRNAの構築、およびin vivoで標的タンパク質の発現を停止させるための医薬品におけるその使用については、このような刊行物に詳述されている。
哺乳動物において標的とする遺伝子の配列が既知の場合には、例えば、21〜23ヌクレオチドのRNAを作製して、ヒトまたは他の霊長類の細胞のような哺乳動物細胞において、RNAiを媒介するそれらの能力について試験することができる。in vivoにおけるこれらの有効性をさらに評価するために、RNAiを媒介することが示されたこれらの21〜23ヌクレオチドのRNA分子を、必要に応じて、適切な動物モデルにおいて試験することもできる。既知の標的部位、例えば、リボザイムまたはアンチセンスなどの他の核酸分子を用いた試験に基づいて有効な標的部位であることが確認された標的部位、あるいは変異または欠失を含む標的部位などの疾患または病態と関連していることが知られている標的部位なども同様に用いて、それらの部位を標的とするsiRNA分子を設計することができる。
あるいは、例えばコンピュータのフォールディングアルゴリズムを用いて、目的とする標的mRNAを標的部位についてスクリーニングして、有効なdsRNAの配列を合理的に設計/予測することもできる。カスタマイズしたPerlスクリプト、あるいはOligo、MacVector、またはGCG Wisconsin Packageなどの市販の配列解析プログラムを用いて、この標的配列をコンピュータ上(in silico)で解析して、特定の長さの全ての断片または部分配列、例えば23ヌクレオチドの断片のリストにすることができる。
多様なパラメータを用いて、標的RNA配列内のどの部位が最も好適な標的部位であるかを決定することができる。これらのパラメータには、RNAの二次構造または三次構造、標的配列のヌクレオチドの塩基組成、標的配列の種々の領域間の相同率、あるいはRNA転写産物内での標的配列の相対的な位置が含まれるが、これらに限定されない。これらの決定に基づいて、RNA転写産物内の任意の数の標的部位を選択して、例えばin vitroのRNA切断アッセイ、細胞培養、または動物モデルを用いて、siRNA分子を効力についてスクリーニングすることができる。例えば、米国特許公開第20030170891号、2003年9月11日、McSwiggen J.を参照されたい。RNAi標的部位を同定および選択するためのアルゴリズムも、最近記載されている。米国特許公開第20040236517号、「Selection of Target Sites for Antisense Attack of RNA」、2004年11月25日、Drlicaらを参照されたい。
一般に用いられる遺伝子移入技術には、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン方、エレクトロポレーション法、およびマイクロインジェクション法、ならびにウイルスによる方法が含まれる(Grahamら(1973)Virol. 52:456;McCutchanら,(1968),J. Natl. Cancer Inst. 41:351;Chuら(1987),Nucl. Acids Res. 15:1311;Fraleyら(1980),J. Biol. Chem. 255:10431;Capecchi(1980),Cell 22:479)。また、カチオン性リポソームを用いてDNAを細胞内に導入することもできる(Feignerら(1987)、Proc. Natl. Acad. Sci USA 84:7413)。市販のカチオン性脂質製剤には、Tfx50(Promega)またはリポフェクトアミン 200(Life Technologies)などがある。あるいは、ウイルスベクターを用いて、細胞にdsRNAを送達して、RNAiを媒介させることもできる。米国特許公開第20040023390号、「siRNA-mediated Gene Silencing with Viral Vectors」、2004年2月4日、Davidsonらを参照されたい。
哺乳動物細胞におけるRNAiのためのトランスフェクションシステムおよびベクター/発現系は、市販されており、よく記載されている。例えば、Dharmacon社、DharmaFECT(商標)システム;Promega社、siSTRIKE(商標)U6ヘアピンシステムを参照されたい;また、Gouら、(2003)FEBS. 548, 113-118;Sui, G.ら、A DNA vector-based RNAi technology to suppress gene expression in mammalian cells (2002)Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 5515-5520;Yuら、(2002)Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 6047-6052;Paul, C.ら、(2002)Nature Biotechnology 19, 505-508;McManusら、(2002)RNA 8, 842-850も参照されたい。
その後、調製したdsRNAを含有する医薬製剤を哺乳動物に投与することによって、調製したdsRNA分子を用いて哺乳動物内でsiRNA干渉を生じさせることもできる。標的遺伝子の発現を阻害するために十分な用量でこの医薬組成物を投与する。典型的には、dsRNAを、1日に体重1キログラムあたりdsRNA5mg未満で、かつ標的遺伝子の発現を阻害または完全に抑制するために十分な用量で投与することができる。一般に、dsRNAの好適な用量は、1日に受容者の体重1キログラムあたり0.01〜2.5ミリグラムの範囲、好ましくは1日に体重1キログラムあたり0.1〜200マイクログラムの範囲、より好ましくは1日に体重1キログラムあたり0.1〜100マイクログラムの範囲、さらにより好ましくは1日に体重1キログラムあたり1.0〜50マイクログラムの範囲、最も好ましくは1日に体重1キログラムあたり1.0〜25マイクログラムの範囲であろう。該dsRNAを含有する医薬組成物を、例えば、当技術分野で周知の徐放性製剤を用いて、1日1回または複数の副用量で投与する。後で詳述するように、このような医薬組成物の製剤および投与は、標準的な技術に従って行うことができる。
その後、このようなdsRNAを用いて、上記のように、治療有効量のこのようなdsRNAを含有する医薬製剤を調製して、CD74−ROS融合タンパク質または切断型ROSキナーゼポリペプチドを発現している癌を有するヒトの対象者にこの製剤を投与することによって、例えば、腫瘍に直接注射することによって、癌におけるROSの発現および活性を阻害し得る。siRNA阻害剤を用いた、VEGFRおよびEGFRなどの他の受容体チロシンキナーゼの同様の阻害が、最近記載されている。米国特許公開第20040209832号、2004年10月21日、McSwiggenら;米国特許公開第20030170891号、2003年9月11日、McSwiggen;米国特許公開第20040175703号、2004年9月9日、Kreutzerらを参照されたい。
治療用組成物:投与。
本発明の方法の実施において有用なROSキナーゼ阻害治療用組成物を、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、直腸、膣、および局所(頬および舌下など)の投与を含む経口または腹膜の経路を含むが、これらに限定されない、当技術分野で知られている任意の方法によって、哺乳動物に投与することができる。
経口投与の場合、ROS阻害治療薬は、一般的に、錠剤またはカプセル剤の形態で、粉末または顆粒として、あるいは水溶液または懸濁液として提供されるであろう。経口使用のための錠剤には、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、賦香剤、着色剤、および保存剤などの医薬的に許容される賦形剤と混合された該活性成分が含まれていてもよい。好適な不活性希釈剤には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、およびラクトースなどがあり、一方、好適な崩壊剤には、コーンスターチおよびアルギン酸がある。結合剤には、デンプンおよびゼラチンが含まれていてもよく、潤滑剤が存在する場合には、一般的に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、または滑石であろう。必要に応じて、該錠剤をモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンのような物質でコーティングして、胃腸管内での吸収を遅延させることもできる。
経口使用のためのカプセル剤には、該活性成分を固体希釈剤と混合した硬質ゼラチンカプセル剤、ならびに該活性成分を水、あるいはピーナッツ油、液体パラフィン、またはオリーブ油のような油と混合した軟質ゼラチンカプセル剤が含まれる。筋肉内、腹腔内、皮下、および静脈内の使用には、本発明の医薬組成物は、一般的に、適切なpHおよび等張に緩衝された、無菌の水溶液または懸濁液の中で提供されるであろう。好適な水溶性賦形剤には、リンゲル液および等張性塩化ナトリウムなどがある。該担体は、排他的に緩衝水溶液からなっていてもよい(「排他的に」とは、該ROS阻害治療薬の摂取に影響を及ぼす可能性がある、あるいはその摂取を媒介する可能性のある、補助剤または封入物質が存在しないことを意味する)。このような物質には、後述するように、例えば、リポソームまたはカプシドのようなミセル構造体が含まれる。水性懸濁剤には、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、およびトラガカントゴムなどの懸濁剤、ならびにレシチンなどの湿潤剤が含まれていてもよい。水性懸濁剤に好適な保存剤には、p−ヒドロキシ安息香酸エチルおよびp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルなどがある。
また、ROSキナーゼ阻害治療用組成物には、植込錠およびマイクロカプセル封入送達系を含む徐放性製剤のように、該治療薬(例えばdsRNA化合物)を体内からの急速な除去から保護するためのカプセル剤が含まれていてもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。これらの物質は、Alza社およびNova Pharmaceuticals社から市販のものを得ることもできる。また、リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、医薬的に許容される担体として用いることができる。例えば、米国特許第4,522,811号;PCT公開第WO91/06309号;および欧州特許公開第EP−A−43075号に記載されるような、当業者に知られている方法に従って、これらを調製することができる。カプセル製剤には、ウイルスコートタンパク質が含有されていてもよい。このウイルスコートタンパク質は、ポリオーマウイルスのようなウイルス由来のものまたはそれに関連したものであってもよく、あるいは、部分的にまたは完全に人工のものであってもよい。例えば、このコートタンパク質は、ポリオーマウイルスのウイルスタンパク質1および/またはウイルスタンパク質2、あるいはこれらの誘導体であってもよい。
また、ROS阻害組成物には、リポソームなどの、対象者に投与するための送達賦形剤、担体および希釈剤、ならびにこれらの塩も含まれていてもよく、かつ/あるいはROS阻害組成物が医薬的に許容される製剤中に含まれていてもよい。例えば、核酸分子の送達方法は、Akhtarら、1992、Trends Cell Bio., 2, 139;DELIVERY STRATEGIES FOR ANTISENSE OLIGONUCLEOTIDE THERAPEUTICS、Akbtar(編)、1995、Maurerら、1999、Mol. Membr. Biol., 16, 129-140;HoflandおよびHuang、1999、Handb. Exp. Pharmacol, 137, 165-192;ならびにLeeら、2000、ACS Symp. Ser., 752, 184-192に記載されている。Beigelmanら、米国特許第6,395,713号、およびSullivanら、PCT第WO94/02595号には、核酸分子の送達のための一般的な方法についてさらに記載されている。これらのプロトコルは、事実上、あらゆる核酸分子の送達に利用することができる。
当業者に知られている多様な方法によってROS阻害治療薬を哺乳動物の腫瘍に投与することができ、これには、リポソーム中へのカプセル化法、イオン泳動法、または、他の賦形剤、例えば、ハイドロゲル類、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、および生体接着性マイクロスフェアなどに組み入れる方法、あるいはタンパク質性ベクターによる方法(O'HareおよびNormand、国際PCT公開第WO00/53722号)が含まれるが、これらに限定されない。別法としては、この治療薬/賦形剤の組合せを、直接注射によって、あるいは注入ポンプを用いて、局所的に送達する。該組成物の直接注射は、皮下、筋肉内、または皮内を問わず、標準的な針およびシリンジの方法を用いて、あるいはConryら、1999、Clin. Cancer Res., 5, 2330-2337、およびBarryら、国際PCT公開第WO99/3 1262号に記載されているような、針を使用しない技術によって行うことができる。
ROSキナーゼ阻害治療薬の医薬的に許容される製剤には、上記の化合物の塩、例えば、酸付加塩、例えば、塩化水素、臭化水素、酢酸、およびベンゼンスルホン酸の塩が含まれる。薬理組成物または薬理製剤とは、例えばヒトを含む、細胞または患者への投与、例えば全身投与、に適した形態の組成物または製剤のことをいう。好適な形態は、部分的には、使用法、あるいは、経口、経皮、または注射によるなどの導入経路によって異なる。このような形態は、該組成物または該製剤が標的細胞に到達するのを妨げるべきではない。例えば、血流に注入する薬理組成物は、可溶性であるべきである。他の要因は当技術分野において知られており、該組成物または該製剤がその効果を発揮するのを妨げる毒性および形態などの問題が含まれる。
全身性吸収(すなわち、血流中での薬剤の全身性の吸収または蓄積に続く全身にわたる分配)をもたらす投与経路が望ましく、これには、静脈内、皮下、腹腔内、吸入、経口、肺内、および筋肉内が含まれるが、これらに限定されない。これらの各投与経路では、該ROS阻害治療薬を到達可能な患部組織または腫瘍に曝露させる。この循環への薬剤の導入率は、分子量またはサイズの関数であることが示されている。本発明の化合物を含有するリポソームまたは他の薬剤担体の使用により、例えば、細網内皮系(RES)の組織のような特定の種類の組織において、薬剤を局在化させることができる可能性がある。薬剤を、リンパ球およびマクロファージのような細胞の表面と結合しやすくさせることができるリポソーム製剤も有用である。このアプローチでは、マクロファージおよびリンパ球による、癌細胞などの異常細胞の免疫認識の特異性を利用することによって、標的細胞への薬剤の送達を向上させることができる。
「医薬的に許容される製剤」とは、所望の活性のために最も好適な身体部位で、本発明の核酸分子の効果的な分配を可能にする組成物または製剤を意味する。本発明の核酸分子を含む製剤に好適な薬剤の非限定的な例には、以下のものが含まれる:中枢神経系への薬剤の導入を向上させることができる、P−糖タンパク質阻害剤(プルロニックP85など)(Jolliet-RiantおよびTillement、1999、Fundam. Clin. Pharmacol., 13, 16-26);大脳内植込後の徐放性送達のためのポリ(DL−ラクチド−コグリコリド)マイクロスフェアのような、生分解性ポリマー(Emerichら、1999、Cell Transplant, 8, 47-58)(Alkermes社、Cambridge, Mass.);血液脳関門を越えて薬剤を送達することができ、神経細胞による取り込みの機構を変化させ得る、ポリブチルシアノアクリレート製のもののような、充填ナノ粒子(Prog Neuro-psychopharmacol Biol Psychiatry, 23, 941-949, 1999)。本発明の方法において有用なROS阻害化合物の送達戦略の他の非限定的な例には、Boadoら、1998、J. Pharm. Sci, 87, 1308-1315;Tylerら、1999、FEBS Lett., 421, 280-284;Pardridgeら、1995、PNAS USA., 92, 5592-5596;Boado、1995、Adv. Drug Delivery Rev., 15, 73-107;Aldrian-Herradaら、1998、Nucleic Acids Res., 26, 4910-4916;およびTylerら、1999、PNAS USA., 96, 7053-7058に記載される物質が含まれる。
また、ポリ(エチレングリコール)脂質を含む表面修飾リポソーム(PEG修飾、あるいは長期循環リポソームまたはステルスリポソーム)を含有する治療用組成物も、本発明の方法において適切に用いることができる。これらの製剤は、標的組織内での薬剤の蓄積を増加させるための方法を提供する。この種の薬剤担体は、単核食細胞系(MPSまたはRES)によるオプソニン作用および排除に抵抗性であり、これにより、封入された薬剤の血液循環時間を長くして組織への曝露を促進することができる(Lasicら、Chem. Rev. 1995, 95, 2601-2627;Ishiwataら、Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 1005-1011)。このようなリポソームは、おそらく血管が新生された標的組織における溢出および捕獲によって、腫瘍中に選択的に蓄積されることが示されている(Lasicら、Science 1995, 267, 1275-1276;Okuら、1995、Biochim. Biophys. Acta, 1238, 86-90)。長期循環リポソームは、特に、MPS組織内に蓄積されることが知られている従来のカチオン性リポソームと比較して、DNAおよびRNAの薬物動態および薬力学を向上させる(Liuら、J. Biol. Chem. 1995, 42, 24864-24870;Choiら、国際PCT公開第WO96/10391号;Ansellら、国際PCT公開第WO96/10390号;Hollandら、国際PCT公開第WO96/10392号)。また、長期循環リポソームは、肝臓および脾臓のような代謝的に活発なMPS組織における蓄積を回避できるため、カチオン性リポソームと比較して、薬剤をヌクレアーゼ分解からより強く保護する可能性も高い。
治療用組成物には、医薬的に許容される担体または希釈剤中の医薬的有効量の所望の化合物が含まれていてもよい。治療用途に許容される担体または希釈剤は、当医薬技術分野で周知であり、例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES、Mack Publishing社(A. R. Gennaro(編)1985)に記載されている。例えば、保存剤、安定剤、色素、および賦香剤を用いることができる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが含まれる。さらに、抗酸化剤および懸濁剤を用いることもできる。
医薬的に有効な用量とは、疾患状態の予防、発症の阻害、または治療(症状のある程度緩和、好ましくはすべての症状の緩和)に必要な用量である。医薬的に有効な用量は、疾患の種類、用いる組成物、投与の経路、治療する哺乳動物の種類、検討中の特定の哺乳動物の身体的な特徴、併用する薬剤、医薬分野の当業者が認識するであろう他の因子によって異なる。一般的には、負に荷電したポリマーの効力に依存して、0.1mg/kg〜100mg/kg体重/日の量の活性成分を投与する。
上記の病態の治療において、1日に体重1kgあたり約0.1mg〜約140mgの水準の用量レベルが有効である(1日に患者あたり約0.5mg〜約7g)。担体物質と組み合わせて単一の剤形を形成することのできる活性成分の量は、治療する宿主および特定の投与様式によって異なる。単位剤形には、一般に、約1mg〜約500mgの活性成分が含有される。あらゆる特定患者に対する特定の用量レベルは、用いる特定化合物の活性、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時間、投与の経路、および排出の速度、薬剤の組合せ、ならびに治療している特定の疾患の重症度を含む多様な因子に依存することが知られている。
ヒト以外の動物に投与する場合には、該組成物を、動物用の飼料または飲料水に添加することもできる。動物が食餌と共に治療に適した量の該組成物を取り入れるように、この動物用の飼料および飲料水の組成物を製剤することは好都合であり得る。また、飼料または飲料水に添加するためのプレミックスとして該組成物を提供することも好都合であり得る。
本発明の実施において有用なROS阻害治療薬には、上記のような単一の化合物が含有されていてもよく、あるいは、同じ種類の阻害剤(すなわち、抗体阻害剤)中にあるか、または異なる種類の阻害剤(すなわち、抗体阻害剤と小分子阻害剤)中にあるかにかかわらず、複数の化合物の組合せが含有されていてもよい。化合物のこのような組合せは、融合タンパク質を発現している癌の進行を抑制する際の総合的な治療効果を向上させ得る。例えば、該治療用組成物は、STI-571(Gleevec(登録商標))単独のように1種類の小分子阻害剤であってもよく、あるいはROS活性を標的とする他のGleevec(登録商標)アナログおよび/またはTarceva(商標)またはIressa(商標)などのEGFRの小分子阻害剤との併用であってもよい。該治療用組成物には、1つまたは複数の標的化阻害剤に加えて、1つまたは複数の非特異的な化学療法剤が含有されていてもよい。このような組合せにより、多くの癌において腫瘍を死滅させる相乗的な効果がもたらされることが最近示されている。in vivoにおいてROSの活性および腫瘍の増殖を阻害する際のこのような組合せの有効性は、後述のように評価することができる。
変異ROSキナーゼ阻害化合物の同定。
本発明はまた、部分的には、化合物が癌においてCD74−ROS融合ポリペプチドの活性を阻害するかどうかを判定することによって、化合物がCD74−ROSの転座および/または融合ポリペプチドを特徴とする癌の進行を抑制するかどうかを判定する方法も提供する。いくつかの好ましい実施形態では、骨髄、血液、または腫瘍からの細胞を含有する生体試料を調べることによって、ROSの活性の阻害を判定する。他の好ましい一実施形態では、少なくとも1つの本発明の変異ROSポリヌクレオチドまたは変異ROSポリペプチド特異的試薬を用いて、ROSの活性の阻害を判定する。
試験される化合物は、上記のような治療薬または組成物のどのタイプであってもよい。化合物の効力を、in vitroおよびin vivoの両方において、評価する方法は、当技術分野でよく確立されており知られている。例えば、ROSキナーゼが活性化している細胞または細胞抽出液を用いて、組成物がin vitroでROSを阻害する能力を調べることができる。化合物のパネルを用いて、(EGFRまたはPDGFRなどの他の標的と対比して)ROSに対する化合物の特異性を試験することもできる。
公開されたPCT出願第WO84/03564号に記載されるように、用い得る別の薬剤スクリーニング技術によって、目的のタンパク質に対して好適な結合親和性を有する化合物の高処理スクリーニングを行うことができる。この方法では、変異ROSポリペプチドに適用するように、多数のさまざまな小さな被験化合物を、プラスチックピンまたは何らかの他の表面などの固体基板上で合成する。これらの被験化合物を、変異ROSポリペプチドまたはその断片と反応させ、洗浄する。次いで、当技術分野で周知の方法によって、結合した変異ポリペプチド(例えば、CD74−ROS融合ポリペプチド)を検出する。精製変異ROSポリペプチドを、上記の薬剤スクリーニング技術で用いるために、プレート上へ直接コーティングすることもできる。あるいは、非中和性抗体を用いて、このペプチドを捕捉して、これを固体担体上に固定することもできる。
次いで、in vitroでROS活性の有効な阻害剤であることが明らかになった化合物を、in vivoで、例えばCD74−ROS融合タンパク質によって引き起こされるヒトNSCLC腫瘍を有する哺乳動物の異種移植片を用いて、CD74−ROS融合ポリペプチドを発現している癌の進行を抑制する能力について調べることができる。この方法では、CD74−ROS融合タンパク質によって引き起こされることが知られる細胞株をマウスの皮下に入れる。その後、この細胞は、視覚的に観察され得る腫瘍塊に成長する。次いで、このマウスを該薬剤で治療することができる。この薬剤治療が腫瘍サイズに及ぼす効果を、外見的に観察することができる。次いで、このマウスを屠殺して腫瘍を採取し、IHCおよびウエスタンブロットによって解析する。同様に、標準的な方法によって、哺乳動物の骨髄移植片を調製して、変異ROSキナーゼを発現している血液学的腫瘍における薬剤反応性を調べることもできる。このようにして、該薬剤の効果を、患者に最も近く類似した生物学的設定において観察することができる。該腫瘍細胞または周囲の間質細胞においてシグナル伝達を変化させる該薬剤の能力を、リン酸化特異的抗体を用いた解析によって測定することもできる。また、細胞死誘導または細胞増殖阻害における該薬剤の有効性を、切断されたカスパーゼ3および切断されたPARPなどのアポトーシス特異的マーカーを用いた解析によって観察することもできる。
このような化合物の毒性および治療有効性を、培養細胞または実験動物において、標準的な医薬の方法、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を測定するための方法などによって測定することができる。毒性と治療効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
上記および下記の全引用文献の教示は、これによって参照により本明細書に組み込まれる。以下の実施例は、本発明をさらに例示するためにのみ示すものであって、本明細書に添付の特許請求の範囲において示す場合を除き、本発明の範囲を限定する意図はない。本発明には、本明細書中で教示する方法の変更形態および変形形態が含まれ、これらは当業者に明らかであろう。
実施例1
包括的なリン酸化ペプチドプロファイリングによる、NSCLC患者由来のROSキナーゼ活性の同定
最近記載された、複雑な混合物から修飾ペプチドを単離して質量分析で特性決定を行うための強力な技術(「IAP」技術、Rushら、前掲を参照されたい)を用いて、CS042を含む数人のヒトNSCLC患者におけるキナーゼ活性化の包括的なリン酸化プロファイルを調べた。リン酸化チロシン特異的抗体(CELL SIGNALING TECHNOLOGY社、Beverly, MA, 2003/04カタログ#9411)を用いてIAP技術を行い、NSCLC細胞株の抽出液からリン酸化チロシンを含むペプチドを単離し、次いで、その特性決定を行った。
具体的には、NSCLC患者における活性化チロシンキナーゼの同定を容易にし、この疾患の新規の誘起因子を同定するために、このIAPアプローチを用いた。
リン酸化ペプチド免疫沈降。
合計0.5gの腫瘍組織を、1.25×108細胞/mLで、尿素溶解緩衝液(20mM HEPES pH8.0、9M 尿素、1mM バナジン酸ナトリウム、2.5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM β−グリセロリン酸)中にホモジナイズして溶解して、超音波で破砕した。超音波で破砕した溶解液を、20,000×gの遠心分離によって清澄化して、以前に記載されているようにタンパク質を還元してアルキル化した(Rushら、Nat. Biotechnol. 23(1):94-101(2005)を参照されたい)。試料を20mM HEPES pH 8.0で希釈して、尿素の最終濃度を2Mにした。トリプシン(0.001M HCl中に1mg/mL)をこの溶解液上清に1:100v/vで添加した。試料を室温で一晩消化させた。
消化後、1%TFAの最終濃度となるように溶解液を酸性化した。以前に記載されているように、Sep-Pak C18カラムを用いてペプチド精製を行った(Rushら、前掲を参照されたい)。精製後、全溶出液(0.1%TFA中、8%、12%、15%、18%、22%、25%、30%、35%、および40%のアセトニトリル)を合わせて、凍結乾燥した。乾燥ペプチドを、1.4mLのMOPS緩衝液(50mM MOPS/NaOH pH7.2、10mM Na2HPO4、50mM NaCl)中に再懸濁して、12,000×gで10分間の遠心分離によって不溶性物質を除去した。
腹水液由来のリン酸化チロシンモノクローナル抗体P-Tyr-100(Cell Signaling Technology)を、プロテインGアガロースビーズ(Roche)に4mg/mLビーズで、4℃で一晩非共有結合させた。結合後、抗体−樹脂を、PBSで2回、MOPS緩衝液で3回洗浄した。固定化抗体(40μL、160μg)を、MOPS IP緩衝液中で1:1のスラリーとして、可溶化したペプチド分画に添加して、この混合物を4℃で一晩インキュベートした。この固定化抗体ビーズを、MOPS緩衝液で3回、ddH2Oで2回洗浄した。ペプチドを、40μLの0.1%TFAで各20分間インキュベートすることによって、2回ビーズから溶出させ、それらの分画を合わせた。
LC−MS/MS質量分析法による解析。
IP溶出液(40μL)中のペプチドを、溶出した抗体からStop and Go抽出チップ(StageTips)を用いて濃縮および分離させた(Rappsilberら、Anal. Chem., 75(3):663-70(2003)を参照されたい)。このマイクロカラムから、ペプチドを、1μLの60%MeCN、0.1%TFAで、7.6μLの0.4%酢酸/0.005%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)中に溶出させた。この試料を、不活性のサンプルインジェクションバルブを有するFamosオートサンプラー(Dionex)を用いて、Magic C18 AQ逆相樹脂(Michrom Bioresources)の詰まった10cm×75μmのPicoFritキャピラリーカラム(New Objective)上にロードした。このカラムを、0.4%酢酸、0.005%HFBA中のアセトニトリルの45分間の直線濃度勾配によって、流速280nL/分(Ultimate、Dionex)で展開した。
タンデムマススペクトルは、LCQ Deca XP Plusイオントラップ質量分析計(ThermoFinnigan)により、トップ4法を用いて、動的除外反復カウント1、反復期間0.5分間、データ従属方式で収集した。
データベース解析および帰属。
(BioWorks 3.0の一部として供給されるSequest Browser package(v.27, rev.12)中の)TurboSequest(ThermoFinnigan)を用いて、MS/MSスペクトルを評価した。以下の設定で、Sequest BrowserプログラムCreateDtaを用いて、生のデータファイルから個々のMS/MSスペクトルを抽出した:下限分子量、700;上限分子量、4,500;イオンの最小数、20;最小TIC、4×105;かつプレカーサー荷電状態、不特定。試料注入前の生のデータファイルの開始から溶出勾配の終了まで、スペクトルを抽出した。Sequest解析用にさらにMS/MSスペクトルを選択するために、IonQuestプログラムおよびVuDtaプログラムは用いなかった。以下のTurboSequestパラメータでMS/MSスペクトルを評価した:ペプチドマストレランス、2.5;フラグメントイオントレランス、0.0;修飾ごとに異なるアミノ酸の最大数、4;マスタイプ親、平均;マスタイプ断片、平均;内部切断部位の最大数、10;水およびアンモニアのbおよびyイオンからのニュートラルロスは相関解析において考慮した。エラスターゼ消化から収集されるスペクトルを除き、タンパク質分解酵素を特定した。
27,175個のタンパク質を含む、2004年8月24日に公開されたNCBIヒトデータベースに対して、動的修飾として酸化メチオニン(M+16)およびリン酸化(Y+80)を許容して検索を行った。
プロテオミクス研究において、そのタンパク質が、実際に、試料中に存在していることを示すために、1回の実験結果で1個のペプチドを観察することのみに基づいてタンパク質同定を確認することが望ましい。これは、ペプチド帰属を確認する統計的方法(まだ広くは受け入れられていない)ならびにタンパク質およびペプチドの同定結果の公開のためのガイドラインの開発をもたらし(Carrら、Mol. Cell Proteomics 3:531-533(2004)を参照されたい)、本実施例ではこれを適用した。しかし、この免疫親和性戦略によって、非リン酸化ペプチドからリン酸化ペプチドが分離され、多くのリン酸化タンパク質はチロシンリン酸化部位を1つだけ有するため、一般的に、タンパク質から1種類のリン酸化ペプチドのみを観察する結果となる。
このため、リン酸化ペプチドの帰属を確認するための追加の判定基準を用いることが適切である。以下の追加の判定基準のいずれかが満たされる場合には、帰属が正しい可能性が高い:(i)MS/MSスペクトルは荷電状態によって著しく変化するため、同じ配列が、さまざまな荷電状態で共溶出するイオンに帰属する;(ii)不完全なタンパク質分解またはトリプシン以外のプロテアーゼの使用による配列の重複によって、その部位が、2つ以上のペプチド配列の配列中に認められる;(iii)同一ではないが、相同なタンパク質アイソフォームがあるので、その部位が、2つ以上のペプチド配列コンテキスト中に認められる;(iv)種の間で同一ではないが、相同なのタンパク質があるので、その部位が、2つ以上のペプチド配列コンテキスト中に認められる;および(v)イオントラップ質量分析計により再現性の高いMS/MSスペクトルが生成されるため、合成リン酸化ペプチドのMS/MS解析によって確認される部位が帰属された配列と対応している。この最後の基準は、特に興味がある新規部位の帰属を確認するために、通常通りに用いられる。
Sequestで作製した全スペクトルおよび全配列帰属を関係データベースに取り込んだ。保守的な2段階のプロセスに従って、帰属された配列を承認または否認した。第1のステップでは、最大RSp値10を許容して、+1の荷電状態に対して少なくとも1.5、+2に対して2.2、かつ+3に対して3.3のXCorr値にフィルタリングすることによって、高スコアの配列帰属のサブセットを選択した。以下の判定基準のいずれかが満たされた場合には、このサブセットにおける帰属を否認した:(i)そのスペクトルが、aイオン、bイオン、またはyイオンとして、bイオンまたはyイオンからの水またはアンモニアのニュートラルロスから生じているイオンとして、あるいは多価プロトン化イオンとして、帰属された配列にマッピングされ得ない、少なくとも1つの主要なピーク(そのスペクトル中で最も強度が高いイオンの少なくとも10%)を含む;(ii)そのスペクトルが、少なくとも6つの連続した残基と同等な一連のbイオンまたはyイオンを含んでいない;あるいは(iii)その配列が、我々が行ったすべての試験において少なくとも5回観察されなかった(不完全なタンパク質分解またはトリプシン以外のプロテアーゼの使用による配列の重複を除く)。第2のステップでは、本物の参照ライブラリー検索の戦略を模擬し、低スコアのスペクトルが他の試験において収集された高スコアのスペクトルと高度な類似性を示す場合には、閾値より下のスコアによる帰属を許容した。帰属した配列の最終的な一覧を裏づける全スペクトル(ここには示していない)は、それらの信頼性を確立するために、少なくとも3人の科学者によって再検討された。
上記のIAP解析により、多数のチロシンリン酸化タンパク質が同定され、その大多数は新規である。チロシンリン酸化キナーゼの中で、検出された数種類のものは、通常、他のNSCLC細胞株におけるMS解析によって検出されず(未発表データ)、これにはROSキナーゼが含まれる。
実施例2
CD74−ROS融合遺伝子の単離および配列決定
NSCLC患者において活性化型のROSキナーゼの存在が認められた場合には、キメラなROS転写産物が存在するかどうかを決定するために、ROSのキナーゼドメインをコードしている配列のcDNA末端の5’高速増幅を行った。
相補的DNA末端の高速増幅
RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて、CS045細胞株からRNAを抽出した。DNAは、DNeasy Tissueキット(Qiagen)を用いて抽出した。cDNA末端の高速増幅は、5' RACEシステム(Invitrogen)を用いて、cDNA合成用のROS−GSP1プライマーならびにネストPCR反応用のROS−GSP2プライマーおよびROS−GSP3プライマーで行った。
PCRアッセイ
RT−PCRのために、SuperScript(商標)IIIファーストストランド合成システム(Invitrogen)を用いて、ファーストストランドcDNAを、2.5μgの全RNAからオリゴ(dT)20で合成した。次いで、以下のCD74−F1およびROS−GSP3のプライマー対を用いて、CD74−ROS融合遺伝子を増幅した:
ROS−GSP1:ACCCTTCTCGGTTCTTCGTTTCCA(配列番号:7)
ROS−GSP2:GCAGCTCAGCCAACTCTTTGTCTT(配列番号:8)
ROS−GSP3:TGCCAGACAAAGGTCAGTGGGATT(配列番号:9)
CD74−F1:GCAGAATGCCACCAAGTATGGCAA(配列番号:10)
得られた産物の配列解析によって、ROSのC端末がCD74遺伝子のN末端に融合していることが明らかにされた(図1、パネルBおよびCを参照されたい)。このCD74−ROS融合遺伝子は、インフレームであり、CD74の最初の208アミノ酸がROSの最後の495アミノ酸に融合されており(図1、パネルBを参照されたい)、結果として融合タンパク質が生じていた。CD74は染色体5q32に位置し、一方、ROSは染色体6q22に位置していた。したがって、該融合遺伝子は、t(5;6)(q32;q22)によって引き起こされていた。
CD74とROSの融合を、RNAの逆転写酵素PCRによって確認した。図5を参照されたい。
実施例3
FISHアッセイを用いた、ヒト癌試料中のCD74−ROS融合タンパク質の発現の検出
以前に記載されているように、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)アッセイを用いて、ヒトNSCLC腫瘍試料中のCD74−ROS融合タンパク質の存在を検出した。例えば、Vermaら、HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES, Pergamon Press, New York, N.Y.(1988)を参照されたい。200を超える、パラフィン包埋したヒトNSCLC腫瘍試料を調べた。
ROSに関する再編成を解析するために、二色分離プローブを設計した。近位プローブ(BACクローンRP1−179P9)および2種類の遠位プローブ(BACクローンRP11−323O17、RP1−94G16)をそれぞれ、Spectrum Orange dUTPまたはSpectrum Green dUTPで標識した。ニックトランスレーションによるプローブの標識およびFFPE組織切片を用いた間期FISHは、製品使用説明書(Vysis)に従って、以下の点を変更して行った。簡単に説明すると、パラフィン包埋組織切片を再水和して、0.01Mのクエン酸緩衝液(pH6.0)中で11分間、マイクロ波抗原賦活化を行った。切片を、プロテアーゼ(4mg/mLペプシン、2000〜3000U/mg)で37℃で25分間消化し、脱水して、該FISHプローブセットと共に37℃で18時間ハイブリッド形成させた。洗浄後、Vectashieldマウンティングメディウム(Vector Laboratories, Burlingame, CA)中の4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;mg/mL)を核対比染色に適用した。
このROS再編成プローブには、野生型配列(図4Bおよび図1を参照されたい)のROS遺伝子の切断点の両側を別々に標識する2つのプローブが含まれる。ハイブリッド形成した際に、天然のROS領域は橙色/緑色の融合シグナルのように見えるが、(該CD74−ROS融合タンパク質で生じているような)この部位における再編成によって橙色と緑色の別々のシグナルが生じることとなる。
このFISH解析によって、試験した試料集団におけるこのROS変異の発生率が低いことが明らかにされた。123腫瘍のうち2つ、すなわち1.6%の腫瘍に該融合変異が含まれていた。しかし、世界的なNSCLCの高い発生率(毎年、米国だけで新規症例が151,00件を超える)を考慮すると、相当な数の患者がこの変異ROSを有していると考えられ、これらの患者は、ROS阻害治療薬療法から恩恵をうけ得る。
実施例4
PCRアッセイを用いた、ヒト癌試料中の変異ROSキナーゼの発現の検出
以前に記載されている、ゲノムもしくは逆転写酵素(RT)のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、ヒト癌試料中の切断型ROSキナーゼおよび/またはCD74−ROS融合タンパク質の存在を検出することもできる。例えば、Coolsら、N. Engl. J. Med. 348:1201-1214(2003)を参照されたい。
簡単に説明すると、例えば、腫瘍または胸水の試料を、標準的な技術を用いて、NSCLCを有する患者から採取することができる。切断型ROSキナーゼまたはCD74−ROS融合タンパク質に対するPCRプローブを構築する。RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて、腫瘍または胸水の試料からRNAを抽出することができる。DNAは、DNeasy Tissueキット(Qiagen)を用いて抽出することができる。RT−PCRのために、例えばSuperScript(商標)IIIファーストストランド合成システム(Invitrogen)を用いて、ファーストストランドcDNAを、例えば2.5μgの全RNAから、オリゴ(dT)20で合成する。次いで、例えばCD74−F1およびROS−GSP3のプライマー対を用いて、CD74−ROS融合遺伝子を増幅する。
このような解析によって、切断型ROSキナーゼ(および/またはCD74−ROS融合タンパク質)の発現を特徴とする癌を有する患者が同定されることとなり、その患者がROS阻害治療薬を用いた治療の候補者となる。