JP2017121203A - ジヒドロキシナフタレンの製造方法 - Google Patents

ジヒドロキシナフタレンの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】安価なヒドロキシナフトエ酸を原料としてジヒドロキシナフタレンを生産するための方法を提供すること。
【解決手段】
芳香環水酸化ジオキシゲナーゼやシトクロームP450水酸化酵素に属する水酸化酵素または水酸化酵素複合体を発現している微生物を含む水性溶媒、該微生物の培養物を含む水性溶媒および該培養物の処理物を含む水性溶媒のいずれかの水性溶媒に対して、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などのヒドロキシナフトエ酸を混合する方法によりヒドロキシナフトエ酸を水酸化してジヒドロキシナフトエ酸を調製する。その後、該ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを生産できる。
【選択図】なし

Description

本発明は、ヒドロキシナフトエ酸を原料として微生物を用いてジヒドロキシナフトエ酸を得た後に脱炭酸反応に供することにより、樹脂、染料および医薬品などの合成原料として有用なジヒドロキシナフタレンを製造する方法に関する。
ジヒドロキシナフタレンには、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンの合計10種類の異性体が存在する。ジヒドロキシナフタレンは、樹脂、染料、樹脂の改質剤および医薬品などの合成原料として有用なことが知られている。ジヒドロキシナフタレンの一般的な工業的製法としては、ナフタレンをスルホン化して得たナフタレンスルホン酸を水酸化ナトリウムで中和した後、アルカリ融解反応によってジヒドロキシナフタレンを調製する方法が知られている。しかし、この製造方法は、反応過程で異性体も生成しやすいうえに多段階の合成反応を必要とすることから、製造コストが高くなるという問題点がある〔非特許文献1、2〕。また、1,3−ジヒドロキシナフタレンについては、マロン酸ジエチルとフェニルアセチル・クロライドを原料として5段階の化学反応により製造する方法が知られている〔非特許文献3〕。
微生物を用いたジヒドロキシナフタレンの生産については、ナフタレン・ジオキシゲナーゼとナフタレン1,2−ジヒドロジオール・デヒドロゲナーゼを発現している大腸菌を用いてナフタレンを原料として1,2−ジヒドロキシナフタレンを生産できることが知られているが〔非特許文献4〕、その生産量は約1g/Lと低く、工業生産に適しているとはいえない。また、水酸化酵素シトクロームP450酵素のCYP110が2−ヒドロキシナフタレンを2,3−ジヒドロキシナフタレンに転換する活性を持つことも報告されているが、その転換活性は極めて低い〔特許文献1〕。
微生物を用いてヒドロキシナフトエ酸をジヒドロキシナフトエ酸に転換する反応については、チトクロームP450酵素(CYP199A2)を用いて1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸をそれぞれ1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に転換できることが報告されているが〔非特許文献5、6〕、これらジヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフタレンを得られることは報告されていない。
また、チトクロームP450酵素(CYP199A4)が、2−ナフトエ酸から7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および8−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成することが報告されているが〔非特許文献7〕、ヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフトエ酸を生成できることは報告されていない。
1,3−ジヒドロキシナフタレンの生産については、ナフタレンを酸化することにより製造されるのではなく、マロン酸ジエチルとフェニルアセチル・クロリドを出発原料として、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を得た後、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に対して脱炭酸処理を施すことにより製造できることが知られている〔非特許文献3〕。1,3−ジヒドロキシナフタレン以外のジヒドロキシナフタレンの製造に関しては、ジヒドロキシナフトエ酸の製造コストが高くなるので、ジヒドロキシナフトエ酸を経由し
てジヒドロキシナフタレンを生産することは知られていない。
なお、ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒に対して加熱処理を加えることにより脱炭酸反応を起こさせてジヒドロキシナフタレンを得る反応については、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の水溶液を100℃で2時間加熱処理を行うことにより1,3−ジヒドロキシナフタレンが得られることが報告されているが〔非特許文献3〕、この報告以外に、ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒に対して加熱処理を加えることにより脱炭酸反応を起こさせる反応については報告がない。
有機合成化学協会誌39巻、960-997ページ(1981年) FUNDAMENTAL PROCESSES OF DYE CHEMISTRY、(HANS EDUARD FIERZ-DAVIDand Louis BLANGEY共著)、INTERSCIENCE PUBLISHERS LTD., LONDON (1949) Org. Synth. Vol. 25, p. 73 (1945) Tetrahedron Letters Vol. 38, p. 6267-6270 (1997) Biosci. Biotechnol. Biochem. Vol. 73, p.2796-2799 (2009) Appl. Environ. Microbiol. Vol. 78, p.6087-6094 (2012) Chem. Eur. J. Vol. 18, p.16677-16688 (2012)
特開2010−220609
本発明の課題は、工業的に生産されている3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などのヒドロキシナフトエ酸を原料として、ジヒドロキシナフトエ酸を経由してジヒドロキシナフタレンを生産するための方法を提供することにある。また、ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を用いることにより製造コストを低減し、さらに得られたジヒドロキシナフトエ酸をもとに簡易な反応によりジヒドロキシナフタレンを生産するための方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために、工業的に生産されているヒドロキシナフトエ酸をもとに、ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物、該微生物の培養物または該培養物の処理物を用いてジヒドロキシナフトエ酸を生成させた後に、脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフタレンを生産する手段を考案し、鋭意研究を行った。
まず、日本国の複数地点の土壌を採取し、これらを混合した土壌サンプルから、2−ナフトエ酸を炭素源とする集積培養法により単離したバークホルデリア・テラエ(Burkholderia terrae)TNA241株が2−ナフトエ酸を原料として1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生産することを見出した。続いて、バークホルデリア・テラエTNA241株のゲノム配列を決定することにより、2−ナフトエ酸を1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に転換するのに必要な芳香環水酸化酵素複合体(以下、2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体と呼ぶ)を構成する3種類の蛋白質をコードする新規遺伝子を同定することに成功した。これら3種類の遺伝子を発現するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K-12株(以下、大腸菌という)の培養液に対して3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、1
,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を40℃以上に加熱することにより1,3−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成し、さらに該水溶液の温度を上げることにより、1,3−ジヒドロキシナフタレンの生成率が向上することを見出し、工業的に生産されている安価なヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフトエ酸を経由してジヒドロキシナフタレンを効率よく生産できることを実証した。
さらに、上記3種類の遺伝子を発現する大腸菌の培養液に対して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を80℃以上に加熱することにより1,6−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成し、さらに該水溶液の温度を上げることにより、1,6−ジヒドロキシナフタレンの生成率が向上することを見出し、工業的に生産されている安価なヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフトエ酸を経由してジヒドロキシナフタレンを効率よく生産できることを実証した。
また、本発明で開示するように、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas
palustris)CGA009株のシトクロームP450水酸化酵素CYP199A2を、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)ATCC17453株が持つフェレドキシンとフェレドキシン・レダクターゼとともに発現する大腸菌を作製した後に、この大腸菌の培養液に対して1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、1,7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を70℃以上に加熱することにより1,7−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成し、さらに該水溶液の温度を上げることにより、1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成率が向上することを見出した。
さらに、上記のCYP199A2を発現する大腸菌の培養液に対して、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を高温高圧容器内で200℃以上に加熱することにより2,6−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成することを見出した。
さらに、上記のCYP199A2を発現する大腸菌の培養液に対して、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を225℃以上に加熱することにより2,3−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成することを見出した。
また、本発明で開示するようにロドシュードモナス・パルストリスCGA009株のシトクロームP450水酸化酵素CYP199A2の185番目のフェニルアラニンをロイシンに置換したアミノ酸配列を有する蛋白質(以下、CYP199A2・F185L変異体という)をシュードモナス・プチダATCC17453株が持つフェレドキシンとフェレドキシン・レダクターゼとともに発現する大腸菌を作製した後に、この大腸菌の培養液に対して1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を70℃に加熱することにより1,5−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成し、さらに該水溶液の温度を上げることにより、1,5−ジヒドロキシナフタレンの生成率が向上することを見出した。
また、上記のCYP199A2・F185L変異体を発現する大腸菌の培養液に対して、
3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を225℃以上に加熱することにより1,7−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成することを見出した。
また、上記のCYP199A2・F185L変異体を発現する大腸菌の培養液に対して、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を加えたところ、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が効率よく生成することを見出した。続いて、培養液から回収した5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液を250℃以上に加熱することにより1,2−ジヒドロキシナフタレンが効率よく生成することを見出した。
以上、ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物を用いることによりヒドロキシナフトエ酸をもとに多種類のジヒドロキシナフトエ酸を生成させた後に、これらジヒドロキシナフトエ酸を含む水溶液に対して加熱処理を施すことにより、1,3−ジヒドロキシナフタレンと1,6−ジヒドロキシナフタレン以外に、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよび2,6−ジヒドロキシナフタレンを生成できることを確認することにより、発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(16)に関する。
(1)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物を含む水性溶媒、該微生物の培養物を含む水性溶媒および該培養物の処理物を含む水性溶媒のいずれかの水性溶媒とヒドロキシナフトエ酸を混合する方法によりヒドロキシナフトエ酸を水酸化してジヒドロキシナフトエ酸を調製した後に、該ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とするジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(2)前記ヒドロキシナフトエ酸が、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からなる群より選択される一種または二種以上のヒドロキシナフトエ酸であることを特徴とする前記(1)に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(3)前記ジヒドロキシナフタレンが、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよび2,6−ジヒドロキシナフタレンからなる群より選択される一種または二種以上のジヒドロキシナフタレンであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(4)前記微生物が、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌およびコリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌からなる群より選択される微生物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(5)前記(1)に記載のナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が、以下に示す水酸化酵素複合体A、水酸化酵素D、および水酸化酵素Eからなる群より選択される一種または二種以上の酵素または酵素複合体であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
水酸化酵素複合体A:以下の(a1)、(a2)または(a3)に示す蛋白質、以下の(
b1)、(b2)または(b3)ならびに、以下の(c1)、(c2)または(c3)に示す蛋白質の3つの蛋白質からなることを特徴とする水酸化酵素複合体。
(a1)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
(a2)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(a3)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(b1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
(b2)配列番号4に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(b3)配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(c1)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
(c2)配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(c3)配列番号6に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
水酸化酵素D:以下の(d1)、(d2)または(d3)に示す蛋白質であることを特徴とする水酸化酵素。
(d1)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
(d2)配列番号8に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(d3)配列番号8に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
水酸化酵素E:以下の(e1)、(e2)または(e3)に示す蛋白質であることを特徴とする水酸化酵素。
(e1)配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
(e2)配列番号10に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(e3)配列番号10に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有する配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
(6)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、40℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,3−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(7)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、80℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,6−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(8)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素複合体Aであることを特徴とする前記(6)または(7)に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(9)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、70℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより脱炭酸反応により1,7−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(10)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、200℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより2,6−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(11)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、225℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより2,3−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(12)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素Dであることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(13)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、70℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,5−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(14)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られ3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、225℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,7−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(15)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、250℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,2−ジヒドロキシナフタレンを生成することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(16)ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素Eであることを特徴とする前記(13)〜(15)のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
(17)前記(5)に記載した(a1)、(a2)または(a3)に示す蛋白質、(b1)、(b2)または(b3)、ならびに(c1)、(c2)または(c3)に示す蛋白質からなる水酸化酵素複合体A。
(18)水酸化酵素複合体Aを構成する3種類の蛋白質をコードするDNAで形質転換された微生物。
本発明によれば、従来の製造法と比べて製造コストも低減でき、かつ危険な薬品を使わず、かつ危険な廃棄物も生成せず、かつ環境問題を解決するバイオプロセス法と加熱処理という2つの方法の組み合わせにより、工業的に生産されているヒドロキシナフトエ酸をもとにジヒドロキシナフタレンを安価に製造する方法を提供することができる。
加熱処理によって1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸から1,3−ジヒドロキシナフタレンが生成し、その生成量がpHで変化することを示す図。 加熱処理による1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,6−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,6−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,3−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,5−ジヒドロキシナフタレンと1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。 加熱処理による5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,2−ジヒドロキシナフタレンと2,3−ジヒドロキシナフタレンの生成を示す図。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では、ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物を用いてヒドロキシナフトエ酸を水酸化してジヒドロキシナフトエ酸を調製した後に、該ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを生産させる製造することができる。
ジヒドロキシナフタレンを生産させるための出発原料として用いるヒドロキシナフトエ酸としては、2位にカルボキシル基を有するヒドロキシ−2−ナフトエ酸類、すなわち1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および8−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のいずれのヒドロキ
シナフトエ酸を用いることができる。好ましくは、工業的に生産されている1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を用いることができる。
ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物を用いてこれらヒドロキシナフトエ酸を水酸化した後、得られたジヒドロキシナフトエ酸を加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを得ることができる。好ましくは、ジヒドロキシナフタレンを得る際に、加熱温度が350℃以下のときに脱炭酸反応が起こるジヒドロキシナフトエ酸を用いる方がよい。
さらに詳しくは、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発原料とした場合には、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の3位、4位、5位、6位、7位または8位を水酸化する酵素または酵素複合体を用いることにより、それぞれの酵素または酵素複合体による反応により、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を得ることができる。続いて、得られた1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより、それぞれのジヒドロキシナフトエ酸から、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレンを製造することができる。
3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発原料とした場合には、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位、4位、5位、6位、7位または8位を水酸化する酵素または酵素複合体を用いることにより、それぞれの酵素または酵素複合体による反応により、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または3,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を得ることができる。続いて、得られた1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または3,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより、それぞれのジヒドロキシナフトエ酸から、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレンを製造することができる。
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発原料とした場合には、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位、3位、4位、5位、7位または8位を水酸化する酵素または酵素複合体を用いることにより、それぞれの酵素または酵素複合体による反応により、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を得ることができる。続いて、得られた1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6,8−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより、そ
れぞれのジヒドロキシナフトエ酸から、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレンを製造することができる。
本発明で用いるナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体としては、ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環の炭素原子を酸化する酵素であれば、いかなる酵素を用いることができるが、好ましくは、ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環の炭素原子を酸化する活性を有する芳香環水酸化ジオキシゲナーゼ、芳香環水酸化ジオキシゲナーゼ型モノオキシゲナーゼ、シトクロームP450、フラボ蛋白質モノオキシゲナーゼなどが挙げられる。さらに好ましくは、上述の水酸化酵素複合体A、水酸化酵素Dおよび水酸化酵素Eが挙げられる。
水酸化酵素複合体Aは、バークホルデリア・テラエTNA241株が持つ2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体であり、オキシゲナーゼ・コンポーネントとレダクターゼ・コンポーネントからなる。オキシゲナーゼ・コンポーネントは配列番号2で表される大サブユニット蛋白質と配列番号4で表される小サブユニット蛋白質からなる。レダクターゼ・コンポーネントは配列番号6で表されるレダクターゼ蛋白質である。
水酸化酵素複合体Aの該大サブユニット蛋白質としては、配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。また、該蛋白質として、配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。ここで、「ヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能」とは、小サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質とともにヒドロキシナフトエ酸と反応させたときに1位に水酸基を有するジヒドロキシナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。より具体的には、小サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質とともに、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と反応させたときに、それぞれ1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。
水酸化酵素複合体Aの該小サブユニット蛋白質としては、配列番号4のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。また、該蛋白質として、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。ここで、「ヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能」とは、大サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質とともにヒドロキシナフトエ酸と反応させたときに1位に水酸基を有するジヒドロキシナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。より具体的には、大サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質とともに、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と反応させたときに、それぞれ1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。
水酸化酵素複合体Aの該レダクターゼ蛋白質としては、配列番号6のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。
また、該蛋白質として、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。ここで、「ヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能」とは、大サブユニット蛋白質および小サブユニット蛋白質とともにヒドロキシナフトエ酸と反応させたときに1位に水酸基を有するジヒドロキシナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。より具体的には、大サブユニット蛋白質および小サブユニット蛋白質とともに、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と反応させたときに、それぞれ1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。
水酸化酵素Dは、ロドシュードモナス・パルストリスCGA009株が持つチトクロームP450酵素(CYP199A2)であり、配列番号8で表される蛋白質である。水酸化酵素Dとしては、配列番号8のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能をあげることができる。また、該蛋白質として、配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。ここで、「ヒドロキシナフトエ酸7位の水酸化に関わる機能」とは、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質とともにヒドロキシナフトエ酸と反応させたときに7位に水酸基を有するジヒドロキシナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。より具体的には、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質とともに、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と反応させたときに、それぞれ1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。
水酸化酵素Eは、ロドシュードモナス・パルストリスCGA009株が持つチトクロームP450酵素(CYP199A2)のCYP199A2・F185L変異体であり、配列番号10で表される蛋白質である。水酸化酵素Eとしては、配列番号10のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。また、該蛋白質として、配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質をあげることができる。ここで、「ヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能」とは、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質とともにヒドロキシナフトエ酸と反応させたときに5位に水酸基を有するジヒドロキシナフトエ酸とを生成しうる機能を意味する。より具体的には、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質とともに、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と反応させたときに、それぞれ1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸または5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成しうる機能を意味する。
上記の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の大サブユニット蛋白質、小サブユニット蛋白質、レダクターゼ蛋白質またはシトクロームP450蛋白質において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ目的の水酸化酵素活性を有する蛋白質は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)
(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Res., 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Res., 13, 4431 (1985)、Proc.Natl. Acad. Sci.,
USA, 82, 488 (1985)、Biochem J., 462, 257 (2014) に記載の部位特異的変異導入法を用いて、たとえば配列番号2、4、6、8または10で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質において特定の位置に欠失、置換もしくは付加が導入されるように、それぞれコードする配列番号1、3、5、7または9に表わされるDNAに部位特異的変異を導入することにより取得することができる。欠失、置換または付加される1または数個というアミノ酸の数は、目的の水酸化酵素活性が維持される限り特に限定されないが、配列番号2、4または6、8または10のアミノ酸配列との違いの個数以内であることが望ましく、1〜20個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
本発明で用いられる2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質をコードするDNAとしては、たとえば、配列番号1で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
本発明で用いられる2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質をコードするDNAとしては、たとえば、配列番号3で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
本発明で用いられる2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAとしては、たとえば、配列番号5で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
本発明で用いられるシトクロームP450・CYP199A2蛋白質をコードするDNAとしては、たとえば、配列番号7で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
本発明で用いられるシトクロームP450・CYP199A2・F185L変異体蛋白質をコードするDNAとしては、たとえば、配列番号9で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
本発明のDNAには、本発明の目的の水酸化酵素活性を失わない範囲内で置換変異、欠失変異、挿入変異などの変異が導入されたDNA、たとえば、配列番号1、3、5、7または9に表わされるDNAの全部もしくは一部をプローブとして、ハイブリダイゼーション法によってストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも包含する。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、具体的には、DNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0 MのNaClの存在下で65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1 倍濃度SSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150 mM NaCl、15 mMクエン酸ナトリウムである)の中、65℃でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを意味する。なお、ハイブリダイゼーションの実験法は、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A laboratory manual)、第2版〔サンブルック(Sambrook)、フリッチ(Fritsch) 、マニアチス(Maniatis)編集、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press) 、1989年刊〕に記載されている。
ジヒドロキシナフトエ酸の生産に用いられる本発明の微生物としては、ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環を水酸化できる能力を有している微生物であれば、いずれの微生物を用いることができる。
ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環を水酸化できる能力を有している微生物としては、
ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体の蛋白質をコードする組換えDNAを導入することにより該蛋白質を発現させることにより該能力を獲得した形質転換体であってもよい。たとえば、配列番号1に示す2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質をコードするDNA、配列番号3に示す2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質および配列番号5に示す2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAを組換えDNA技術を用いてエシェリヒア・コリなどのエシェリヒア属細菌、Pseudoomonas putida(シュードモナス・プチダ)などのシュードモナス属細菌、またはCorynebacterium glutamicum(コリネバクテリウム・グルタミカム)などのコリネバクテリウム属細菌などの宿主細胞に導入した形質転換体であってもよい。また、配列番号7または9に示すシトクロームP450蛋白質などの水酸化酵素蛋白質をコードする組換えDNAを導入することにより該蛋白質を発現させることにより該能力を獲得した形質転換体であってもよい。
ヒドロキシナフトエ酸のナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体の蛋白質を組換えDNA技術を用いて宿主細胞に発現させることにより本発明の微生物を得る際には、該酵素または該酵素複合体による酸化反応にとって必要となる電子伝達に関わる蛋白質を発現させることが好ましい。たとえば、バークホルデリア・テラエ(Burkholderia terrae)TNA241株が持つ2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の場合には、配列番号6のアミノ酸配列を持つレダクターゼ蛋白質がNAD(P)Hから電子を受け取る役目を担っている。
また、シトクロームP450水酸化酵素による水酸化反応の場合には、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質を発現している微生物であることが好ましい。該微生物は、シュードモナス・プチダ属細菌、ロドシュードモナス属細菌およびストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌などの細菌から、フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAを単離して、組換えDNA技術などを用いて宿主細胞に発現させた微生物であってもよい。たとえば、配列番号12もしくは14またはこれらの配列と80%以上同一な配列を有するフェレドキシン蛋白質をコードするDNAならびに配列番号16またはこの配列と80%以上同一な配列を有するフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAを組換えDNA技術などを用いて宿主細胞に発現させることが望ましい。フェレドキシン蛋白質とフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質の発現の代わりに、バシルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)のシトクロームP450・BM3(CYP102A1)蛋白質を利用してもよい。すなわち該蛋白質のP450部分をナフタレン環を水酸化するP450蛋白質と置換した融合型蛋白質、またはロドコッカス属細菌(Rhodococcus sp.)NCIMB9784株のシトクロームP450水酸化酵素(CYP116B2)蛋白質を利用し、該蛋白質のP450部分をナフタレン環を水酸化するP450蛋白質と置換した融合型蛋白質を作製し、宿主細胞に発現させることによっても、NAD(P)Hから電子伝達を効率よく行わせることができる。
本発明の微生物が形質転換体である場合は、モレキュラー・クローニング第2版に記載の方法にしたがって組換えDNAを作製し、該組換えDNAを用いて宿主細胞を形質転換することにより取得することができる。以下に、DNAのクローニングと形質転換体の作製方法について詳しく述べる。なお、その他の形質転換体も同様の方法により取得することができる。
上記のバークホルデリア・テラエTNA241株またはロドシュードモナス・パルストリスCGA009株をバークホルデリア属細菌またはロドシュードモナス属細菌の培養に通常用いられる公知の方法により培養する。培養後、公知の方法(たとえば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーに記載の方法)により、該微生物の染色体DNAを単離・精製する。この染色体DNAから合成DNAを用いて、ハイブリダイ
ゼーション法またはポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)法などにより、ヒドロキシナフトエ酸の水酸化に関わる酵素または酵素複合体の蛋白質をコードするDNAを含む断片を取得することができる。また、同様の方法により、シュードモナス属細菌、ロドシュードモナス属細菌およびストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌から、ナフタレン環を水酸化する酵素に電子を伝達する機能を有する蛋白質をコードするDNAを含む断片を取得することができる。
ヒドロキシナフトエ酸の水酸化に関わる酵素または酵素複合体の蛋白質をコードするDNA、およびナフタレン環を水酸化する酵素に電子を伝達する機能を有する蛋白質をコードするDNAについては、該DNAの塩基配列が分かっている場合には、合成DNAを連結することによっても得ることができる。
上記DNAを連結するベクターとしては、大腸菌K12株などにおいて自立複製可能なベクターであればプラスミドベクター、ファージベクター等いずれも使用可能であるが、具体的には、pUC19〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pUC18、pBR322、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、ZAP Express〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 58 (1992)〕、pBluescript II SK(+)〔ストラタジーン社製、Nucleic Acids Res., 17, 9494 (1989)〕、pUC118(タカラバイオ社製)等を用いることができる。
該ベクターに上記で取得したDNAを連結して得られる組換えDNAの宿主に用いる大腸菌(エシェリヒア・コリ)は、エシェリヒア・コリに属する微生物であればいずれでも用いることができるが、具体的には、エシェリヒア・コリK−12株から派生した菌株であるエシェリヒア・コリMG1655〔Science, 277, 1453 (1997)〕、エシェリヒア・コリ XL1-Blue MRF'〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 81 (1992)〕、エシェリヒア・コリC600〔Genetics, 39, 440 (1954)〕、エシェリヒア・コリJM105〔Gene, 38, 275 (1985)〕、エシェリヒア・コリJM109、エシェリヒア・コリBL21等をあげることができる。
ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、シュードモナス属、またはロドシュードモナス属に属する微生物の中に、上記DNAを導入するときは、これら微生物の中で自立複製可能なベクターを用いる。好ましくは、該微生物のいずれかと大腸菌K12株の両方の微生物の中で自立複製可能なシャトル・ベクターを用いて、組換えDNAを宿主となる該微生物に導入することができる。
組換えDNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、たとえば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法〔Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)〕等をあげることができる。
上記のようにして得られた形質転換体から組換えDNAを抽出し、該組換えDNAに含まれる本発明のDNAの塩基配列を決定することができる。塩基配列の決定には、通常用いられる塩基配列解析方法、たとえばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463 (1977)〕または3730xl型DNAアナライザー(アプライド・バイオシステムズ社製)等の塩基配列分析装置を用いることができる。
また、上記において決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することによっても目的とするDNAを調製することもできる。
上記の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の大サブユニット蛋白質、小サブユニット蛋白質、レダクターゼ蛋白質、チトクロームP450蛋白質、フェレドキシン蛋白質および
/またはフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質を発現する形質転換体は、下記の方法を用いて上記のDNAを宿主細胞中で発現させることによって得られる。
上記蛋白質をコードするDNAを用いる際には、必要に応じて、本発明の蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製することができる。また、該蛋白質をコードする部分の塩基配列を、宿主の発現にとって最適なコドンとなるように、改変することにより、該蛋白質の生産率を向上させることもできる。本発明のDNAを発現する形質転換体は、上記DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えDNAを作製し、該組換えDNAを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより取得することができる。
本発明の蛋白質を発現させる宿主としては、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。好ましくは、フェレドキシン蛋白質およびフェレドキシン・レダクターゼ蛋白質を発現しており、かつジヒドロキシナフトエ酸の代謝能を欠損または減弱している性質を有する微生物を用いることができる。より好ましくは、該性質を有するエシェリヒア属、ロドコッカス属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、シュードモナス属、ロドシュードモナス属、スフィンゴモナス属、バークホルデリア属およびストレプトマイセス属の細菌をあげることができる。さらに好ましくは、エシェリヒア・コリK12株をあげることができる。
このような宿主微生物に本発明の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の大サブユニット蛋白質と小サブユニット蛋白質とレダクターゼ蛋白質、もしくは本発明のシトクロームP450蛋白質を発現させることにより作製した本発明の微生物を用いることにより、ヒドロキシナフトエ酸からジヒドロキシナフトエ酸を製造することができる。すなわち本発明の微生物をヒドロキシナフトエ酸を含有する培地中に加えてヒドロキシナフトエ酸と反応させることにより、ジヒドロキシナフトエ酸を得ることができる。
また、このような本発明の微生物を増殖させて、ヒドロキシナフトエ酸を細胞内に取り込ませてジヒドロキシナフトエ酸を製造する場合には、ヒドロキシナフトエ酸の輸送(取り込み)能を有する微生物を用いることが好ましい。
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、本発明のDNAを含有してなる組換えDNAは原核生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列、より構成された組換えDNAであることが好ましい。プロモーターからの転写を制御する蛋白質をコードする遺伝子が含まれていてもよい。
本発明の蛋白質、または該蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質をコードするDNAを大腸菌などの微生物に導入し、発現するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、たとえばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。より具体的には、ベクターとしては、たとえば、pUC19〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pUC18、pBR322、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、pKK233-2(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)、pSE280(イ
ンビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pET-3(ノバジェン社製)pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(+)(ストラタジーン社製)、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)等を用いることができる。
プロモーターとしては、大腸菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。たとえば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター等の、T7プロモーターなどの大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、およびtacプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等、およびシュードモナス・プチダのTOLプラスミドのXylS蛋白質により制御されるPmプロモーターを用いることができる。
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(たとえば5〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明の組換えDNAにおいては、本発明のDNAの発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
組換えDNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、たとえば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110 (1972) 〕、エレクトロポレーション法〔Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)〕、接合伝達法〔J. G. C. Ottow, Ann. Rev.Microbiol., Vol.29, p.80 (1975)〕、細胞融合法〔M.H. Gabor, J. Bacteriol., Vol.137, p.1346 (1979)〕等をあげることができる。
組換えDNA技術などを用いて、上記いずれか1つ以上の蛋白質の生産量を野生株と比較して増強した微生物を作製し、ジヒドロキシナフトエ酸の生産量を上げることもできる。具体的には、上記いずれかの蛋白質をコードする遺伝子を発現させるためのプロモーターとして天然のプロモーターよりも転写活性が強いプロモーターを用いる、あるいは該蛋白質をコードする遺伝子の転写を終結するためのターミネーターとして天然のターミネーターよりも転写終結活性が強いターミネーターを用いる、あるいは発現ベクターとして高コピー数ベクターを利用すること、相同組換えで染色体上に組み込むことなどがあげられる。
以上のようにして得られる本発明のジヒドロキシナフトエ酸生産微生物を、好ましくは0.1mM〜1.5Mのヒドロキシナフトエ酸を含有する培地で培養し、培養物中にジヒドロキシナフトエ酸を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、ジヒドロキシナフトエ酸を製造することができる。本発明の微生物を培地に培養する方法は、微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
本発明の微生物の培養は、炭素源、窒素源、無機塩、各種ビタミン等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、たとえばブドウ糖、ショ糖、果糖等の糖類、エタノール、メタノール等のアルコール類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類、廃糖蜜等が用いられる。窒素源としては、たとえばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等がそれぞれ単独または混合して用いられる。また、無機塩としては、たとえばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等が用いられる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンステイープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することができる。ジヒドロキシナフトエ酸を生産するための原料としては、ヒドロキシナフトエ酸を添加する。
培養は、通常、通気攪拌、振とう等の好気条件下で行う。培養温度は、本発明の微生物が
生育し得る温度であれば特に制限はなく、また、培養途中のpHについても本発明の微生物が生育し得るpHであれば特に制限はない。培養中のpH調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。
本発明のジヒドロキシナフトエ酸生産微生物を培養した後、ヒドロキシナフトエ酸を含む水性媒体中に、該微生物の培養物もしくは該培養物の処理物を加えることにより、該媒体中にジヒドロキシナフトエ酸を生成、蓄積させ、該媒体からジヒドロキシナフトエ酸を採取することもできる。
該培養物の処理物として、本発明の微生物を担体に固定化したものを用いてもよい。その場合には、培養物から回収されたまま、あるいは適当な緩衝液、たとえば0.02〜0.2M程度のリン酸緩衝液(pH6〜10)等で洗浄された菌体を使用することができる。また、培養物から回収された菌体を、超音波、圧搾等の手段で破砕して得られる破砕物、該破砕物を水等で抽出して得られる本発明の蛋白質を含有する抽出物、該抽出物を更に硫安塩析、カラムクロマトグラフィー等の処理を行って得られる本発明の蛋白質の部分精製成分等を担体に固定化したものも、本発明のジヒドロキシナフトエ酸の製造に使用することができる。
これら菌体、菌体破砕物、抽出物または精製酵素の固定化は、それ自体既知の通常用いられている方法に従い、アクリルアミドモノマー、アルギン酸、またはカラギーナン等の適当な担体に菌体等を固定化させる方法により行うことができる。
反応に用いる水性媒体は、ヒドロキシナフトエ酸を含有する水溶液または適当な緩衝液、たとえば0.02〜0.2 M程度のリン酸緩衝液(pH6〜10)とすることができる。この水性媒体には、さらに菌体の細胞膜の物質透過性を高める必要のあるときには、トルエン、キシレン、非イオン性界面活性剤等を0.05〜2.0%(w/v)添加することもできる。
水性媒体中の反応原料となるヒドロキシナフトエ酸の濃度は、0.1mM〜1.5M程度が適当である。上記の水性媒体における酵素反応温度およびpHは特に限定されないが、通常10〜60℃、好ましくは15〜50℃が適当であり、反応液中のpHは通常5〜10、好ましくは6〜9付近とすることができる。また、pHの調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。発明で使用する酵素は、菌体抽出液をそのまま、またはそれから遠心分離、濾過等で集め、これを水または緩衝液に懸濁して得ることができる。このようにして得られた酵素をヒドロキシナフトエ酸の存在下、反応させるが、反応液中のヒドロキシナフトエ酸の濃度は酵素の活性を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利である。反応は静置、攪拌、振盪のいずれの方法で行ってもよい。また、酵素を適当な支持体に固定化してカラムに充填し、ヒドロキシナフトエ酸を含む溶液を流す方法も利用できる。反応は、通常10〜60℃、好ましくは15〜50℃、pH5〜9、好ましくはpH6〜9で行う。
また、上記水性媒体に、反応時に抗酸化剤または還元剤を添加すると、ジヒドロキシナフトエ酸の生成収率が一層向上する場合がある。抗酸化剤/還元剤としては、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、システイン、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリムなどのチオ硫酸塩が挙げられる。添加濃度は、抗酸化剤/還元剤の種類によって異なるが、ジヒドロキシナフトエ酸の生成を阻害しない濃度で加えることが望ましく、通常0.001〜5%(W/V)、好ましくは0.005〜1%である。
また、上記水性媒体に、反応時に酸化剤を添加すると、ジヒドロキシナフトエ酸の生成収率が一層向上する場合がある。酸化剤としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の硝酸塩、塩化第二鉄等の金属塩、ハロゲン、ペルオキソ酸等が挙げられ、好ましくは、亜硝酸ナトリウム、塩化第二鉄が挙げられる。添加濃度は、酸化剤の種類によって異なるが、ジヒドロキシナフトエ酸の生成を阻害しない濃度で加えることが望ましく、通常0.001
〜0.05%(W/V)、好ましくは0.005〜0.02%である。
培養終了後の培養液または反応液中からのジヒドロキシナフトエ酸は、酢酸エチル等の有機溶剤によって抽出することにより単離・精製することができる。また、必要に応じて遠心分離等により該培養液から菌体等の不溶成分を除いた後、たとえば、活性炭を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法、結晶化法、蒸留法、沈殿法等の方法を単独でまたは組み合わせることによってジヒドロキシナフトエ酸を採取することができる。
上述の方法により調製したジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒に対して、加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを得ることができる。上述の方法により調製したジヒドロキシナフトエ酸が固形物の場合には、水または水性緩衝液などの水性溶媒に該固形物を溶解させることにより、ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒を調製する。
該水性溶媒中のジヒドロキシナフトエ酸の濃度は、0.1mM〜1.5M程度が適当であるが、ジヒドロキシナフトエ酸を水性溶媒に溶解する際の温度は、脱炭酸反応が起こる温度を超えないことが好ましい。
該水性溶媒に溶解させるジヒドロキシナフトエ酸の異性体の種類については、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。目的の生産物であるジヒドロキシナフタレンが1種類であるが、2種類以上のジヒドロキシナフトエ酸の混合物を含む該水性溶媒から目的のジヒドロキシナフタレンを得る場合には、加熱温度や水性溶媒中のpHを調整することにより該ジヒドロキシナフタレンが優先的に生成する反応条件を選ぶことが望ましい。または、脱炭酸反応により複数種のジヒドロキシナフタレンが生成する場合には、後述する精製法を用いて目的のジヒドロキシナフタレンを分離することもできる。
一定の割合で複数種のジヒドロキシナフタレンが混合している製品が工業的に使われる場合がある。このような製品の場合には、個々のジヒドロキシナフタレン精製品を一定の割合で混合してよいし、または複数種のジヒドロキシナフトエ酸の混合物を含む水性溶媒を加熱することにより脱炭酸反応を行い、目的の複数種のジヒドロキシナフタレンの混合物を得ることもできる。
脱炭酸反応を行う温度については、出発物質となるジヒドロキシナフトエ酸の種類によって異なるが、温度が高いほどジヒドロキシナフトエ酸からのジヒドロキシナフタレンの転換効率が高くなる。1位に水酸基を持つジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発物質とする場合には、100℃以下の温度でも脱炭酸反応が起こる。より好ましくは、1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸および1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発物質とする場合には、それぞれ40℃以上、80℃以上、70℃以上および70℃以上の温度で加熱することにより脱炭酸反応を起こさせることができる。
1位に水酸基を持たないジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発物質とする場合には、200℃以上の温度にしないと効率の良い脱炭酸反応が起こらない。より好ましくは、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸および5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を出発物質とする場合には、それぞれ200℃以上、225℃以上、225℃以上および250℃以上の温度で加熱することにより脱炭酸反応を起こさせることができる。
一方で、温度が高すぎると、生成したジヒドロキシナフタレンが重合などの構造変化を引き起こす場合がある。したがって、ジヒドロキシナフトエ酸の異性体の種類によっては、
好適な脱炭酸反応が起きるように脱炭酸反応を行う温度を調整することが望ましい。脱炭酸反応に好適な温度は、ジヒドロキシナフトエ酸の濃度や水性溶媒の種類により異なる場合があるので、予め小さなスケールの容器を用いてジヒドロキシナフトエ酸からのジヒドロキシナフタレンの転換効率と加熱温度との関係を調べてから、大量調製に用いる温度条件を決めることが望ましい。
ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒を常圧下で100℃以上の温度に加熱すると、水が蒸発するので、100℃以上で脱炭酸反応を行う場合には、耐圧容器内で加熱し、高圧下で脱炭酸反応を行わせることが好ましい。
ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒に酸素が溶存していると、該水性溶媒を加熱する際にジヒドロキシナフトエ酸およびジヒドロキシナフタレンが酸化しやすくなる。したがって、該水性溶媒を加熱する前に、窒素バブリングなどにより該水性溶媒中の酸素を脱気することが望ましい。また、耐圧容器内で加熱する場合には、容器内の気体を窒素で置換することが望ましい。
ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性溶媒を加熱する際に、該水性溶媒のpHが低いほど脱炭酸反応効率が向上する場合が多い。ジヒドロキシナフトエ酸を水に溶解する場合には、pHが酸性側になるが、水性溶媒が緩衝液であったり、ジヒドロキシナフトエ酸の塩を水性溶媒に溶解する場合には、pHが酸性にならないこともある。このような場合には、硫酸や塩酸などの酸を該水性溶媒に添加して、pHが酸性になるように調整することが好ましい。より好ましくは、pHを3以下に調整した方がよい。
加熱による脱炭酸反応処理を行うことにより生成したジヒドロキシナフタレンは、該水性溶媒から酢酸エチル等の有機溶剤によって抽出する方法、活性炭を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法、結晶化法、蒸留法、沈殿法等の方法を単独でまたは組み合わせることによって単離・精製することができる。
以下に本発明の方法を実施例により具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1.バークホルデリア属細菌を用いた3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
1−1.2−ナフトエ酸分解菌バークホルデリア・テラエTNA241株の単離
2−ナフトエ酸分解菌バークホルデリア・テラエTNA241株(受託番号:NITE P−02165)は日本国内20ヵ所の土壌サンプルを加えた5mMの2−ナフトエ酸を含有するW液体培地〔W培地の組成は、1.7g/Lのリン酸一カリウム、9.8g/Lのリン酸二ナトリウム、1.0g/Lの硫酸アンモニウム、0.1g/Lの硫酸マグネシウム七水和物、0.95mg/Lの硫酸鉄七水和物、10.75mg/Lの酸化マグネシウム、2.0mg/Lの炭酸カルシウム、1.44mg/Lの硫酸亜鉛七水和物、0.25mg/Lの硫酸銅五水和物、0.28mg/Lの硫酸コバルト七水和物、0.06mg/Lのホウ酸、51.3μL/Lの塩酸からなる〕を用いた集積培養を行い、2−ナフトエ酸の資化能を指標に単離した。なお、TNA241株の属種の同定は、後述する実施例2−1で得られたゲノムDNAの塩基配列情報に含まれる16S rRNA遺伝子の配列情報をもとに決定した。
なお、バークホルデリア・テラエTNA241株は、2015年11月20日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンターNBRC(日本国千葉県木更津市
かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE P-02165で寄託されている。
1−2.バークホルデリア・テラエTNA241株による2−ナフトエ酸からの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生成
5mMの2−ナフトエ酸と0.025%乾燥酵母エキスを含有する3mLのW培地にバークホルデリア・テラエTNA241株を接種し、30℃、290rpmで3日間振とう培養を行った。培養終了後、吸光度600nmが5.0となる溶液100μLを調製するのに必要な菌体量に相当する培養液を採取し、遠心により菌体を集めた。50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)0.4mLで2回洗浄し、99.6μLの50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。以下、特記しない限り「TNA241株の休止菌体の懸濁液」は、ここで述べた方法を用いて調製した。
この菌体懸濁液を30℃、1000 rpmで5分間振とうした。その後、0.4μLの0.5M 2−ナフトエ酸の水溶液を加えて、30℃、1000 rpmで反応させた。経時的に反応液を2μLずつ取り、これにアセトニトリルを8μL加えて懸濁した後、遠心分離に供した。その後、上清を全量取り、1.7mLチューブに移し、390μLの水を加えた後、懸濁液を調製した。
この懸濁液について、表1に示す高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分離条件でLC-TOF型質量分析計(Waters社、LCT Permier XE;以下、LC-TOF型質量分析計はこの機器を用いた)による分析を行った。以下、特記しない限り「バークホルデリア・テラエTNA241株の休止菌体の懸濁液を用いた水酸化酵素反応と反応後の反応産物の分析」はこの方法を用いて行った。各化合物の同定は標品(東京化成工業株式会社より購入)と比較して、HPLCの保持時間、特異吸収波長、質量分析計で測定した精密質量値を合わせて行った。
その結果、反応24時間後に2−ナフトエ酸が消失し、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と同じ溶出時間に質量数187.0412のピークが検出された。2−ナフトエ酸に1原子の酸素が付加した産物をLC-TOF型質量分析計で分析した場合、水素原子が引き抜かれてイオン化したピークの理論的質量数は187.0395と算出される。したがって、実測値との質量数の差が0.0017となり、LC-TOF型質量分析計の測定誤差内で両者の質量数は一致した。この結果、単離したバークホルデリア・テラエTNA241株は2−ナフトエ酸を水酸化して1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成することがわかった。
1−3.バークホルデリア・テラエTNA241株による3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生成
上記1−2で述べた方法で調製した菌体懸濁液に対して、0.5M 3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を0.4μL加えることにより、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸への水酸化反応を調べた。その結果、反応24時間後に約1mMの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が消失し、質量数203.0377の化合物の蓄積が新たに検出された。3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に1原子の酸素が付加した産物をLC-TOF型質量分析計で分析した場合、水素原子が引き抜かれてイオン化したピークの理論的質量数は203.0344と算出される。したがって、実測値との質量数の差が0.0033となり、LC-TOF型質量分析計の測定誤差内で両者の質量数は一致した。
以上の結果より、バークホルデリア・テラエTNA241株が持つ2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化する可能性が示唆された。また、後述する実施例2−5に示すように、本菌株から単離した2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体を用いて3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を水酸化することで得られるジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と上述の質量数203.0377の化合物はHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値で一致しており、後述する実施例3−3の脱炭酸反応によって1,3−ジヒドロキシナフタレンが生成することが示されたことから、上述の質量数203.0377の化合物は1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であると結論付けた。
実施例2.組換え大腸菌の培養物および該培養物の処理物を用いた3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
2−1.バークホルデリア・テラエTNA241株のゲノム解析
バークホルデリア・テラエTNA241株を5mMの2−ナフトエ酸と0.025%の乾燥酵母エキスを含有する5mLのW液体培地に接種し、30℃で3日間振とう培養を行った。培養液から菌体を集めて、該菌体からQIAGEN社製Gentra Puregene Yeast/Bact.キットを用いてTNA241株のゲノムDNAを調製した。
このゲノムDNA約20μgを長岡技術科学大学に送付した。長岡技術科学大学においてTNA241株ゲノムDNAのフラグメント・ライブラリーを作製し、イルミナ社製のMiSeqシーケンサーを用いて約1000万塩基の配列を決定した。塩基配列のアセンブリーが行われ、合計の長さが6,019,683塩基であるゲノム配列が得られた。
バークホルデリア・テラエTNA241株のゲノムDNA配列について、翻訳領域予測プログラムであるGeneLook〔Nishi, T., Ikemura, T., Kanaya, S.: Gene 346, 115-125 (2005)〕を用いて翻訳領域を予測した。続いて、予測された翻訳領域に対してBLAST相同性解析を用いて既存の蛋白質のアミノ酸配列との相同性解析を行った。その結果、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するオキシゲナーゼ・コンポーネントの大サブユニット蛋白質をコードするDNA(配列番号1)、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するオキシゲナーゼ・コンポーネントの小サブユニット蛋白質をコードするDNA(配列番号3)、ならびに配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するレダクターゼ蛋白質をコードするDNA(配列番号5)を同定できた。また、これら3種類の蛋白質が2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸への変換に関わっている2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の大サブユニット蛋白質、小サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質と推定された。
2−2.2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸への変換に関わる3種類の蛋白質のクローニング
2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の大サブユニット蛋白質、小サブユニット蛋白質およびレダクターゼ蛋白質をクローニングするために、配列番号17〜23に示すフォワードPCRプライマーとリバースPCRプライマーを設計し、合成した。配列番号17と配列番号18のPCRプライマーセットは大サブユニット蛋白質の遺伝子を増幅させるために合成した。配列番号19と配列番号21のPCRプライマーセットと配列番号20と配列番号21のPCRプライマーセットはともに小サブユニット蛋白質の遺伝子を増幅させるために合成した。また、配列番号22と配列番号23のPCRプライマーセットはレダクターゼ蛋白質の遺伝子を増幅させるために合成した。
なお、PCRプライマーの合成は株式会社ファスマックに外注した。続いて、上記で得たゲノムDNAを鋳型にし、タカラバイオ社から購入したPrimeSTAR DNAポリメラーゼとPCRプライマーを用いて、添付の説明書に従って2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の3種類の蛋白質をコードするDNAを増幅した。
配列番号17と配列番号18のPCRプライマーセットを用いて増幅させた大サブユニット蛋白質をコードするDNAを制限酵素PacIと制限酵素NotIによる消化反応に供した後、大腸菌発現ベクターであるpUXPEaLT19(特開2014-50373を参照)のPacI部位とNotI部位の間に組み込むことにより、pUXPEaLT_largeを造成した。同様にして、配列番号19と配列番号21のPCRプライマーセットを用いて増幅させた小サブユニット蛋白質をコードするDNAを制限酵素PacIと制限酵素NotIによる消化反応に供した後、大腸菌発現ベクターであるpUXPEaLT19(特開2014−50373を参照)のPacI部位とNotI部位の間に組み込むことにより、pUXPEaLT_smallを造成した。
配列番号20と配列番号21のPCRプライマーセットを用いて増幅させた小サブユニット蛋白質をコードするDNAと配列番号22と配列番号23のPCRプライマーセットを用いて増幅させたレダクターゼ蛋白質をコードするDNAはTaqポリメラーゼ(タカラ・バイオ社製)を用いて3'末端にA残基を付与する処理を行った後、ゲル電気泳動後により目的DNAを精製した。精製した目的DNAをpT7Blue(Novagen社製;タカラバイオ社から購入)のTベクターに組み込むことにより、それぞれpT7Blue_smallとpT7Blue_reductaseを造成した。pT7Blueに挿入した小サブユニット蛋白質をコードするDNA、およびレダクターゼ蛋白質をコードするDNAはそれぞれ翻訳開始コドンの上流に制限酵素SwaI部位を有しており、終止コドン下流に制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位を有している。各遺伝子は制限酵素SwaI部位と制限酵素NotI部位により切り出すことができ、各遺伝子の終止コドン下流の制限酵素PmeI部位とNotI部位に挿入することができる。pUXPEaLT_largeの制限酵素PmeI部位とNotI部位にレダクターゼ蛋白質をコードするDNAを挿入したpUXPEaLT_LRを構築した。このpUXPEaLT_LRに小サブユニット蛋白質をコードするDNAを挿入して、これら3遺伝子を発現するプラスミドpUXPEaLT_LRSを造成した。さらに、同様なDNA連結法により、2−ナフトエ1−水酸化酵素複合体の3種類の蛋白質をコードする遺伝子のうち、レダクターゼ蛋白質をコードする遺伝子以外の2種類の遺伝子を保持するプラスミドpUXPEaLT_LSを造成した。また、pUXPEaLT_smallの制限酵素PmeI部位とNotI部位にレダクターゼ蛋白質をコードするDNAを挿入して、大サブユニット蛋白質をコードする遺伝子以外の2種類の遺伝子を保持するプラスミドpUXPEaLT_SRを造成した。
2−3.組換え大腸菌の休止菌体を用いた2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した4種類の発現プラスミドを大腸菌JM109に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)、JM109/(pUXPEaLT_LR)、JM109/(pUXPEaLT_LS)およびJM109/(pUXPEaLT_SR)を造成した。これら形質転換株を終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む0.
2mLのLB液体培地〔10g/Lのトリプトン(Difco社製)、5g/Lの乾燥酵母エキス(Difco社製)、10g/Lの塩化ナトリウム〕で一晩培養した。終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む3mLのLB液体培地に対して3/100容量の一晩培養液を接種し、対数増殖期になるまで30℃で培養した。m−トルイル酸を終濃度1mMになるように添加し、さらに30℃で蛋白質を誘導発現するための培養を3時間行った。吸光度600nmで2.0となる溶液100μLを調製するのに必要な菌体量に相当する培養液を採取し、菌体を集めた。該菌体を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、菌体を1%グルコースを含む99μLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁することにより、組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液を調製した。以下、特記しない限り「組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液」はこの方法を用いて調製した。
この懸濁液を30℃、1000rpmの条件で5分間加温した。その後、100mMの2−ナフトエ酸水溶液(2−ナフトエ酸は東京化成工業株式会社より購入した)を調製し、その1μLをこの懸濁液に添加した後、30℃、1000rpmの条件で1時間反応させた。反応後、反応液2μLに対して8μLのアセトニトリルを加えて激しく懸濁した後、遠心にかけた。上清を全量採取し1.7mLチューブに移し、390μLの水を加えた後、懸濁した。孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、表1に示すHPLCの分離条件でLC-TOF型質量分析計による分析を行った。以下、特記しない限り「組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液を用いた水酸化酵素反応と反応後の反応産物の分析」はこの方法を用いて行った。
その結果、基質として2−ナフトエ酸を終濃度約1mMとなるように加えて反応させた場合に、オキシゲナーゼ・大サブユニット蛋白質、オキシゲナーゼ・小サブユニットグ蛋白質およびレダクターゼ蛋白質の3種類すべてのタンパク質を発現する組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)、ならびにオキシゲナーゼ・大サブユニット蛋白質とオキシゲナーゼ・小サブユニット蛋白質の2種類のたんぱく質を発現する組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LS)で1.1mMと0.04mMの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産が観察された。なお、オキシゲナーゼ・大サブユニット蛋白質ジオキシゲナーゼ・小サブユニット蛋白質のいずれかを発現しない組換え大腸菌では1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産は検出感度以下であった。1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(340nm)で形成されるピークエリアから算出した。
以上より、オキシゲナーゼ・大サブユニット蛋白質をコードする遺伝子、オキシゲナーゼ・小サブユニット蛋白質をコードする遺伝子、レダクターゼ蛋白質をコードする遺伝子は、2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸への変換に関わっている2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体であることを確認した。
2−4.組換え大腸菌の菌体処理物(粗酵素液)による2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)を、終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む0.2mLのLB液体培地で一晩培養した。終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む3mLのLB液体培地に対して3/100容量の一晩培養液を接種し、対数増殖期になるまで30℃で培養した。m−トルイル酸を終濃度1mMになるように添加し、さらに30℃で5時間培養を行った後に、菌体を集めた。該菌体を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、200μLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液を超音波破砕に供することにより細胞を破砕した。その後、遠心分離(4℃、15分、15000rpm)を行って上清と沈殿物に分離した後、上清を大腸菌の菌体処理物すなわち粗酵素液とした。ブラッドフォード法に基づいたバイオラッド(Bio-Rad)プロテイン・アッセイ(Bio-Rad Laboratories, CA, USA)を用いて粗酵素液の蛋白質濃度を計測した。以下、特記しない限り、組換え大腸菌の粗酵素液はこの方法を用いて調製した。
該粗酵素液による2−ナフトエ酸から1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産は、5mM NADH、5mM NADPH、0.1mM硫酸鉄七水和物および100μgの蛋白質を含む粗酵素液を含む100μLの反応液に2−ナフトエ酸を1mM加えた後、30℃で1時間保温した。その後、2μLの反応液に対して8μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全部採取し、1.7mLチューブに移し、390μLの水を加えた後、懸濁した。孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、表1に示すHPLCの分離条件でLC-TOF型質量分析計による分析を行った。以下、特記しない限り、「組換え大腸菌の粗酵素液を用いた水酸化酵素反応と反応後の反応産物の分析」はこの方法を用いて行った。その結果、反応1時間後において0.23mMの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産を確認できた。なお、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(340nm)で形成されるピークエリアから算出した。
2−5.組換え大腸菌の休止菌体による3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記2−3で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)をもとに、m−トルイル酸の添加後の蛋白質発現培養の時間を5時間に変更すること以外は、上記2−3で述べた方法を用いて組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液を調製した。この懸濁液と100mMの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む溶液1μLを用いて上記2−3で述べた方法により水酸化酵素反応と反応産物の分析を行った。その結果、反応開始前には1.31 mMであった3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は1時間の反応で0.16mMに減少し、上記で同定した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から1.15mMと算出された。なお、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(361nm)で形成されるピークエリアから算出した。
2−6.組換え大腸菌の粗酵素液による3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)を上記2−4で述べた方法で誘導培養を行い、該組換え大腸菌の粗酵素液を調製した。水酸化酵素反応は2−ナフトエ酸を終濃度1mMの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に、酵素反応時間を1時間から2時間に変更したこと以外は上記2−4で述べた方法で行い、水酸化酵素反応と反応産物の分析を行った。その結果、反応開始前には1.24 mMであった3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は2時間の反応で0.64mMに減少し、上記で同定した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から0.6mMと算出された。なお、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(361nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例3.1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,3−ジヒドロキシナフタレンの生産
3−1.1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の大量調製
上記2−3で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)を終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む3.0mLのLB液体培地で一晩培養した。終濃度100mg/Lのアンピシリンを含む100mLのLB液体培地に対して3/100容量の一晩培養液を接種し、対数増殖期になるまで30℃で培養した。m−トルイル酸を終濃度1mMになるように添加し、さらに30℃で5時間培養を行った後に、菌体を集めた。該菌体を10mLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、99mLの1%グルコースを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この懸濁液を30℃、290rpmの条件で5分間加温した。その後、1mLの0.5M 3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記2−4で述べた方法を用いて行った。その結
果、反応開始前には5.54 mMであった3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で0.13mMに減少し、上記で同定した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から5.41mMと算出された。なお、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(361nm)で形成されるピークエリアから算出した。
3−2.1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の作製
1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む20mLの溶液に0.3mLの6N塩酸を加えて混合し、塩化ナトリウムで飽和した酢酸エチル溶液を5.0mL加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から4.0mLの溶液を回収した。残った溶液に5.0mLの酢酸エチルを加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から5.0mLの溶液を回収した。この操作をもう一度繰り返した。回収した14.0mLの酢酸エチル溶液に対して減圧乾燥処理を施して溶媒を蒸発させた。残留物に対して水と水酸化ナトリウムを加えて1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の抽出液を作製した。該抽出液の容量は20.0mLであり、pHは7.02であった。
3−3. 1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の加熱処理による脱炭酸反応
上記3−2で調製したpH7.02の1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む溶液に塩酸を加えて、pH5.73, 3.65, 1.49の時にそれぞれ1.5 mLを分取した。各pHの溶液50 μLを1.7mLチューブ7本に分注し、それぞれ30℃, 40℃, 50℃, 60℃, 70℃, 80℃, 90℃で30分間加温した。加温後、メチルスルホキシド(以下、DMSOと略す)を全量で100 μLになるように加えて撹拌した。この溶液から4μLを分取し、16μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。上記1−2に記載した方法を用いてLC−TOF型質量分析計による分析を行った。その結果、図1に示すように、30℃でも1,3−ジヒドロキシナフタレンの生成が確認され、上記3−2の工程でも脱炭酸反応が起こることが示唆された。また、1,3−ジヒドロキシナフタレンの生成量は加熱温度を上げることにより温度に依存して増加すること、ならびに同一温度条件下でもpHを下げることにより、1,3−ジヒドロキシナフタレンの生成量が増加することも判明した。なお、生成した1,3−ジヒドロキシナフタレンは東京化成工業株式会社より購入した標品の1,3−ジヒドロキシナフタレンとHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、1,3−ジヒドロキシナフタレンの定量は1,3−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(286nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例4. バークホルデリア・テラエTNA241株による1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記1−2で述べた方法と同じ方法を用いて、バークホルデリア・テラエTNA241株を培養し、集菌した後、上記1−2で述べた方法を用いてTNA241株の休止菌体の懸濁液を調製した。この休止菌体の懸濁液99.6μLを30℃、1000rpmで5分間振とうした。0.4μLの0.5M 6―ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を加え、30℃、1000rpmの条件で反応を行った。経時的に反応液を2μLずつ採取し、それぞれの採取液2μLに対して8μLのアセトニトリルを加えて懸濁し、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、390μLの水を加えた後、懸濁した。孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、表1に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の同定は東京化成工業株式会社より購入した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と比較して、HPLCのピークの保持時間と特異吸収波長ならびに質量分析計で測定した精密質量値を合わせて行い、定量は特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。その結果、反応開始前には2.0mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は2
4時間の反応で検出限界以下になり、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の蓄積が検出された。このジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は後述する実施例6−3に示すように、脱炭酸反応により1,6−ジヒドロキシナフタレンが生成することにより、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であることが判明した。
以上の結果より、バークホルデリア・テラエTNA241株が持つ2−ナフトエ酸1−ヒドロキラーゼは6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化し、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成することがわかった。
実施例5.組換え大腸菌を用いた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
5−1.大腸菌休止菌体による1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)をもとに、上記2−3で述べた方法を用いて誘導培養を行い、組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液を調製した。
この懸濁液と100mMの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む溶液1μLを用いて上記2−3で述べた方法により水酸化酵素反応と反応産物の分析を行った。その結果、反応開始前には1.05 mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は1時間の反応で0.42mMに減少し、実施例4で述べた1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から0.63mMと算出された。なお、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。
5−2.組換え大腸菌の粗酵素液による6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)を上記2−4で述べた方法で誘導培養を行い、該組換え大腸菌の粗酵素液を調製した。水酸化酵素反応は2−ナフトエ酸を終濃度1mMの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に、酵素反応時間を1時間から2時間に変更したこと以外は上記2−4で述べた方法で行い、水酸化酵素反応と反応産物の分析を行った。その結果、反応開始前には0.85 mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は2時間の反応で0.75mMに減少し、実施例4で述べた1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から0.1mMと算出された。なお、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例6.1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,6−ジヒドロキシナフタレンの生産
6−1.1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の大量調製
上記で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_LRS)を用いて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の大量調製を行った。該組換え大腸菌の培養、2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体の誘導発現および休止菌体の調製などは上記3−1で述べた方法と同じ方法で行った。調製した休止菌体の懸濁液を30℃、290rpmの条件で5分間加温した。その後、1mLの0.5M 6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間で4μLの反応液に対して16μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。表1に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。
その結果、反応開始前には6.45mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で1.18mMに減少し、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に相当するピークが新たに検出された。生成した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から5.27mMと算出された。なお、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。
6−2.1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の作製
上記6−1で調製した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む20mLの溶液に0.3mLの6N塩酸を加えて混合し、これに飽和量となる塩化ナトリウムを加えた後、酢酸エチル溶液を5.0mL加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から4.0mLの溶液を回収した。残った溶液に5.0mLの酢酸エチルを加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から5.0mLの溶液を回収した。この操作をもう一度繰り返した。回収した酢酸エチル層の総量は14.0mLである。
6−3.1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の加熱処理による脱炭酸反応
上記6−2で抽出した1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む酢酸エチル溶液を0.2mLずつ7本の1.7mLチューブに分注した後に、減圧乾燥処理を施して溶媒を蒸発させた。残留物に0.2mLの水を加え、ボルテックスミキサーで5分間撹拌して残留物を溶解した後に、それぞれ30℃, 40℃, 50℃, 60℃, 70℃, 80℃, 90℃の温度で1時間、加温した。加温後、0.2mLのDMSOを加えて撹拌した。この溶解液から4μLを分取し、16μLのアセトニトリルを加えて激しく懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。表1に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。その結果、図2に示すように、80℃以上で加温することにより1,6−ジヒドロキシナフタレンが生成することがわかった。1,6−ジヒドロキシナフタレンの生成量は加熱温度を上げることにより温度に依存して増加することが明らかになった。なお、生成した1,6−ジヒドロキシナフタレンの同定は東京化成工業株式会社より購入した標品の1,6−ジヒドロキシナフタレンのHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、1,6−ジヒドロキシナフタレンの定量は1,6−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(286nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例7.組換え大腸菌を用いた1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
7−1.シトクロームP450・CYP199A2遺伝子とロドコキシン(rhodocoxin)遺伝子をコードするDNAの増幅
シトクロームP450・CYP199A2遺伝子を得るため、ロドシュードモナス・パルストリスCGA009株をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(以下、ATCCと略記す)から製品番号ATCC・BAA−98として入手した。本菌株をTryptic Soy Broth(BD Difco社製)で培養した後、菌体を集菌し、QIAGEN社製Gentra Puregene Yeast/Bact.キットを用いてゲノムDNAを調製した。
ロドシュードモナス・パルストリスCGA009株のシトクロームP450・CYP199A2遺伝子とロドコキシン(rhodocoxin)遺伝子の塩基配列については、ナショナル・センター・フォア・バイオテクノロジー・インフォメーション(以下、NCBIと略す)のジェンバンク(GenBank;以下、GBと略す)データベースから、GBアクセッション番号NC_005296における塩基番号2099919〜2101157の配列(配列番号7)と2101167〜2101487の配列(配列番号11)として得た。CYP199A2遺伝子を含むDNAを得るために、CYP199A2内部の制限酵素サイトNotIサイトとSfiIサイトの破壊を同時に行うため、配列番号24と25のPCRプライマーセット、配列番号26と27のP
CRプライマーセットならびに、配列番号28と29のPCRプライマーセットを設計した。これら3組のPCRプライマーセットは、それぞれCYP199A2遺伝子の前半部、中央部および後半部のDNA領域を増幅するためのPCRプライマーセットである。ロドコキシン遺伝子を含むDNAを得るために配列番号30と31のPCRプライマーセットを設計した。なお、PCRプライマーの合成は株式会社ファスマックに外注した。上記で調製したゲノムDNAを鋳型に上記2−2と同じ方法でDNAの増幅を行った。
7−2.シトクロームP450・CYP199A2遺伝子発現プラスミドの構築とロドコキシン遺伝子のクローニング
上記7−1で配列番号24と配列番号25、配列番号26と配列番号27、配列番号28と配列番号29の各PCRプライマーセットを用いて増幅させたCYP199A2遺伝子の一部をコードするDNA断片をそれぞれ制限酵素PacIと制限酵素HindIII、制限酵素HindIIIと制限酵素NdeI、制限酵素NdeIと制限酵素NotIでそれぞれ消化し、大腸菌発現ベクターであるpUXPEaLT19(特開2014−50373を参照)のPacI部位とNotI部位の間に組み込むことにより、pUXPEaLT_CYP199A2を造成した。上記7−1で配列番号30と配列番号31のPCRプライマーセットで増幅させたロドコキシン遺伝子をコードするDNA断片をTaq DNAポリメラーゼによってDNA断片の3'末端にA残基を付加した後、DNA断片をゲル電気泳動法により精製し、pT7Blue由来のTベクターに組み込むことにより、プラスミドpT7Blue_rhodocoxinを造成した。
7−3.P450camの電子伝達系遺伝子を保持するシュードモナス・プチダATCC17453株の培養とゲノムDNAの調製
シトクロームP450・CYP199A2を活性化させるための電子伝達系としてP450camの電子伝達系であるプチダレドキシン遺伝子とプチダレドキシン・レダクターゼ遺伝子を利用することにした。両遺伝子を保持しているシュードモナス・プチダATCC17453株は理化学研究所微生物系統保存施設よりJCM6157として入手した。本菌株をLB培地で培養し、菌体を集菌した後、該菌体からQIAGEN社製Gentra Puregene Yeast/Bact.キットを用いてゲノムDNAを調製した。
7−4.P450camの電子伝達系遺伝子をコードするDNAの増幅
シュードモナス・プチダATCC17453株のプチダレドキシン遺伝子とプチダレドキシン・レダクターゼ遺伝子の塩基配列については、NCBIのGBデータベースから、GBアクセッション番号NG_036907における塩基番号16111〜16434の配列(配列番号13)と塩基番号14787〜16055の配列(配列番号15)として得た。プチダレドキシン遺伝子とプチダレドキシン・レダクターゼ遺伝子を含むDNAを得るにあたり、配列番号32と配列番号33のPCRプライマーセットおよび配列番号34と配列番号35のPCRプライマーセットを用いた。なお、PCRプライマーの合成は株式会社ファスマックに外注した。上記7−3で調製したゲノムDNAを鋳型に上記2−2と同じ方法でDNAの増幅を行った。
7−5.P450camの電子伝達系発現プラスミドの構築
配列番号34と配列番号35のPCRプライマーセットを用いたPCR反応により得られたプチダレドキシン・レダクターゼをコードするDNAは制限酵素PacIと制限酵素NotIで切り出し、大腸菌低コピー発現ベクターであるpRTCXP19のPacI部位とNotI部位の間に組み込むことにより、pRTCXP_Redを造成した。なお、大腸菌低コピー発現ベクターであるpRTCXP19はプラスミドベクターpRTC_SfiI(特許公開番号:WO2012081084084を参照)の制限酵素SfiIサイトの中に配列番号36で表されるDNAを挿入して構築した。なお、配列番号36に示すDNAは、シュードモナス・プチダmt−2株が持つPmプロモーターとXylS遺伝子を持っている。また、pRTCPmc8_lacZ(特開2014−50373を参照)のlacZ遺伝子を含むDNAをPacIとNotIで切り出し、pRTCXP19のPacI部位と
NotI部位の間に組み込むことにより、pRTCXP_lacZを造成した。
配列番号32と配列番号33のPCRプライマーセットを用いたPCR反応により得られたシュードモナス・プチダATCC17453株のプチダレドキシンをコードするDNAはTaq DNAポリメラーゼ(タカラ・バイオ社製)による3’末端にA残基を付与する処理を行った後、ゲル電気泳動後により目的DNAを精製した。精製した目的DNAをpT7Blue(Novagen社製で、タカラバイオ社から購入)のTベクターに組み込むことにより、pT7Blue_Prdxを造成した。
pT7Blueに挿入したプチダレドキシンをコードするDNAと上記7−2で得たロドコキシンをコードするDNAは翻訳開始コドンの上流に制限酵素SwaI部位を有し、さらに終止コドン下流に制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位を有している。このため両遺伝子は制限酵素SwaI部位と制限酵素NotI部位により切り出すことができ、プチダレドキシン・レダクターゼ遺伝子の終止コドン下流の制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位に挿入することができる。pRTCXP_Redの制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位にプチダレドキシンをコードするDNAを挿入し、P450camの電子伝達系遺伝子発現プラスミドpRTCXP_RedPrdxを造成した。同様にして、上記7-2で造成したpT7Blue_rhodocoxinから制限酵素SwaI部位と制限酵素NotI部位により切り出したロドコキシンをコードするDNAを挿入してP450camのプチダレドキシン・レダクターゼとロドコキシン発現プラスミドpRTC_Redrhodを造成した。
7−6.組換え大腸菌を用いた1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記7−2で造成したCYP199A2発現プラスミドpUXPEaLT_CYP199A2を大腸菌JM109に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2)を造成した。
この組換え大腸菌に上記7−5で造成したP450camの電子伝達系遺伝子発現プラスミドpRTCXP_RedPrdx、P450camのプチダレドキシン・レダクターゼとロドコキシン発現プラスミドpRTC_RedrhodoおよびpRTCXP_lacZをそれぞれ形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-RedPrdx)、JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-Redrhodo)およびJM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-lacZ)を造成した。これらの組換え大腸菌を、それぞれ終濃度100mg/Lのアンピシリンと終濃度50mg/Lのカナマイシンを含む0.2mLのLB液体培地で一晩培養した。同じ濃度の抗生物質を含む6mLのLB液体培地に対して3/100容量の一晩培養液を接種し、対数増殖期になるまで30℃で培養した。m−トルイル酸を終濃度1mMになるように添加し、さらに30℃で蛋白質を誘導発現するための培養を4時間行った。この培養液をもとに、上記2−3で述べた方法を用いて組換え大腸菌の休止菌体の懸濁液を調製した後、この懸濁液を用いて1mMの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む反応液中で30℃、1000rpmの条件で18時間保温した。各反応時間で4μLの反応液に対して16μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。表1に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。以下、特記しない限り、「CYP199A2発現組換え大腸菌の休止菌体を用いた水酸化酵素反応と反応後の反応産物の分析」はこの方法を用いて行った。
その結果、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-RedPrdx)を用いた場合、反応開始前には1.51 mMであった1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は17時間の反応で0.004mMに減少し、新たに保持期間0.94分にジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の蓄積が検出された。このジヒドロキシ−2―ナフトエ酸は後述する実施例8に示すように、脱炭酸反応により1,7−ジヒドロキシナフタレンが生成することにより、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であることが判明した。
以上の結果より、シトクロームP450・CYP199A2は、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化し、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を生成することが示された。また、生成した1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から1.51mMと算出された。
同様にして、JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-Redrhodo)を用いた場合には、反応開始前には1.56 mMであった1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は17時間の反応で0.87mMに減少し、0.69mMの1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生成が認められた。また、電子伝達系遺伝子の代わりにlacZ遺伝子を導入した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-lacZ)を用いた場合でも、17時間の反応で1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から0.19mM
1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生成が観察された。この結果から、大腸菌K−12株は保有する電子伝達系でもシトクロームP450・CYP199A2の活性化が起こることが示された。なお、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(340nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例8.1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生産
8−1.1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の大量調製
上記7−6で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-RedPdrx)を用いて、上記3−1で述べた方法と同様の方法を用いて、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の代わりに1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を原料として、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を大量に調製した。
組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2- RedPdrx)の一晩培養液を終濃度100mg/mLのアンピシリンと終濃度50mg/mLのカナマイシンを含む200mLのLB液体培地に接種し、対数増殖期になるまで30℃で培養した。m−トルイル酸を終濃度1mMになるように添加し、さらに30℃で蛋白質を誘導発現するための培養を4時間行った。
集めた菌体を5mLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、吸光度600nmで20.0となる量の1%グルコースを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、30℃、290rpmの条件で5分間加温した。その後、0.5Mの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記7−6で述べた方法を用いて行った。その結果、反応開始前には1.3mMであった1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は20時間の反応で0.001mMに減少し、実施例7で述べた1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成した1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から1.3mMと算出された。なお、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(340nm)で形成されるピークエリアから算出した。
8−2.1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の作製
上記の反応で生成した1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を以下のようにして抽出した。1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む6mLの溶液に0.15mLの6N塩酸を加えて混合し、この溶液に飽和量となる塩化ナトリウムを加えた後、酢酸エチル溶液を5.0mL加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から4.0mLの溶液を回収した。残った溶液に5mLの酢酸エチルを加えて懸濁した後、遠心分離に供し、酢酸エチル層から5.0mLの溶液を回収した。この操作をもう一度繰り返した。回収した酢酸エチル溶液の容量は14.0mLであった。
8−3.1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液の加熱処理による脱炭酸反応
上記8−2で得た1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸抽出液を0.5mLずつ8本の1.7mLチューブに分注した後、減圧乾燥器内で溶媒を蒸発させた。残留物を0.25mLの水に溶解した後、それぞれ30℃, 40℃, 50℃, 60℃, 70℃, 80℃, 90℃の温度で1時間、加温した。加温後、0.25mLのDMSOを加えて撹拌した。各々のチューブの溶液から4μLずつ採取し、それぞれに16μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。表1に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。その結果、図3に示すように、70℃以上に加温すると脱炭酸反応が起こり、1,7−ジヒドロキシナフタレンが生成することがわかった。1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成量は加熱温度を上げることにより温度に依存して増加することが明らかになった。なお、生成した1,7−ジヒドロキシナフタレンの同定は東京化成工業株式会社より購入した標品の1,7−ジヒドロキシナフタレンのHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、1,7−ジヒドロキシナフタレンの定量は1,7−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(336nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例9.組換え大腸菌を用いた3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記7−6で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-RedPrdx)を用いて、実施例8で述べた方法と同じ方法を用いて菌体懸濁液を調製した。0.5Mの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記7−6で述べた方法を用いて行った。その結果、反応開始前には1.1mMであった3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は20時間の反応で0.02mMに減少し、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが新たに検出された。生成したジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は標品の3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(東京化成工業株式会社より購入)と、HPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値で一致していたことから、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であることが判明した。なお、各化合物の定量はそれぞれの特異吸収波長(3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸:361nm、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸:385nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例10.3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,6−ジヒドロキシナフタレンの生産
10−1.2,6−ジヒドロキシナフタレンの生成条件の検討
標品の3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を用いて、実施例8−3で述べた方法を用いて100℃の加熱により脱炭酸が起こることを確かめたところ、脱炭酸反応は観察されなかった。そこで、以下のようにして、100℃より高温の条件で3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の脱炭酸が起こるかを調べた。
標品の3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸粉末(10mg)をPTFEサンプル瓶(内容量2mL、東京硝子器機株式会社より購入)に入れ、1mLの水を加えて懸濁することにより、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を調製した。この溶液に対して窒素ガスを1分間吹き付けて溶存酸素を除去した。この3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液が入ったPTFEサンプル瓶を高温高圧釜(デスクトップリアクターOML−1特殊型、オーエムラボテック社製)に設置し、密閉した後、高温高圧釜内部を窒素ガスで置換した。反応温度は、175℃、200℃、225℃、250℃および275℃でそれぞれ1時間加温した。室温から各温度までの昇温時間については、175℃と200℃では60分、225℃では90分、250℃と275℃では120分に設定した。反応後、DMSOを添加して撹拌することにより反応産物を溶解した後、DMSOを追加して溶解液の総量が2mLになるように調整した。続いて、得られた溶解液から4μLを分取し、16μLのアセトニトリルを加えて懸濁した後、遠心分離に
供した。上清を全量採取し、1.7mLチューブに移し、380μLの水を加えた後、懸濁した。表2に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。
その結果、図4に示すように、200℃以上の加熱により3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,6−ジヒドロキシナフタレンの生成が認められ、その生成量は温度に依存して増加することが明らかになった。なお、生成した2,6−ジヒドロキシナフタレンの同定は東京化成工業株式会社より購入した標品の2,6−ジヒドロキシナフタレンのHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、2,6−ジヒドロキシナフタレンの定量は2,6−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(339nm)で形成されるピークエリアから算出した。
10−2.3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,6−ジヒドロキシナフタレンの生産
実施例6−2に述べた方法を用いて、実施例9で調製した20mLの3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液をもとに酢酸エチルによる抽出操作を行って、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む29.8mLの酢酸エチル溶液を調製した後、減圧濃縮法により2.25mLに濃縮した。
このようにして得た3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む1.0mLの酢酸エチル溶液をPTFEサンプル瓶に入れて減圧乾燥器で乾固させた。残留物を1.0mLの水に溶解した後、上記10−1で述べた方法と同じ方法を用いて、250℃、1時間の加熱処理を行った。250℃までの昇温時間については120分に設定した。加熱処理を行った後、反応産物を上記10−1で述べた方法と同じ方法を用いて分析した。
その結果、加熱処理により3.9mMの2,6−ジヒドロキシナフタレンが生成したことがわかった。なお、2,6−ジヒドロキシナフタレンの定量は2,6−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(339nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例11.組換え大腸菌を用いた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記7−6で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2-RedPrdx)を用いて、実施例8で述べた方法と同じ方法を用いて菌体懸濁液を調製した。0.5Mの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応さ
せた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記7−6で述べた方法を用い、LC−TOF型質量分析計のHPLC分析の条件を表3に示す条件に変更して行った。
その結果、反応開始前には1.01mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で0.38mMに減少し、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが検出された。生成したジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の減少量から0.63mMと算出された。また、実施例12で示すように、本ジヒドロキシナフトエ酸をもとに脱炭酸反応により生成したジヒドロキシナフタレンが2,3−ジヒドロキシナフタレンであったことから、生成したジヒドロキシナフトエ酸は6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であることが判明した。なお、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例12.6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの2,3−ジヒドロキシナフタレンの生産
実施例6−2に述べた方法を用いて、実施例11で調製した64mLの6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液をもとに酢酸エチルによる抽出操作を行って、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む19.8mLの酢酸エチル溶液を調製した後、減圧濃縮法により2.5mLに濃縮した。
実施例10で述べた方法を用いて、この6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸溶液を0.25mLずつPTFEサンプル瓶に入れた後、減圧乾燥器で乾固させた後、残留物を1.0mLの水に溶解した。この6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液に対して窒素ガス置換処理を施した後、高温高圧釜内で、200℃、225℃、250℃、275℃および300℃で1時間加温した。室温から各温度までの昇温時間については、200℃では60分、225℃では90分、250℃では120分、275℃と300℃では150分に設定した。反応後、DMSOを添加して撹拌することにより反応産物を溶解した後、DMSOを追加して溶解液の総量が2mLになるように調整した。続いて、得られた溶解液に含まれる反応産物を実施例11で述べた方法と同じ方法により分析した。
その結果、図5に示すように、225℃以上の加熱により6,7−ジヒドロキシ−2−ナフ
トエ酸からの2,3−ジヒドロキシナフタレンの生成が認められ、その生成量は温度に依存して増加することが明らかになった。なお、生成した2,3−ジヒドロキシナフタレンの同定は標品の2,3−ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社より購入)のHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、2,3−ジヒドロキシナフタレンの定量は2,3−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(325nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例13.組換え大腸菌を用いた1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
13−1.シトクロームP450・CYP199A2・F185L変異体の構築
CYP199A2の185番目のフェニルアラニン残基をロイシン残基に置換した変異体(CYP199A2・F185L変異体)が2−ナフトエ酸の5位を水酸化できることが報告されている〔非特許文献7:Appl. Environ. Microbiol. Vol. 78, p.6087-6094 (2012)〕。この知見に基づいて、配列番号37と配列番号38で表されるPCRプライマーを用いシトクロームP450・CYP199A2・F185L変異体を以下のようにして構築した。
具体的には上記7−6で構築したpUXPEaLT_CYP199A2を鋳型として、CYP199A2の前半部分のDNAを配列番号24と配列番号37のPCRプライマーセットを用いて、ならびにF185L変異が導入された後半部分のDNAを配列番号29と配列番号38のPCRプライマーセットを用いて上記7−1に示した方法により増幅させた。増幅させたDNA断片をそれぞれ精製し、混合した後、これを鋳型に配列番号24と配列番号29のPCRプライマーセットを用いて上記2−2で示した方法によりF185L変異が導入されたCYP199A2(以下、CYP199A2_F185Lとする)を増幅した。
増幅したCYP199A2_F185LのDNA断片を回収し、制限酵素PacIと制限酵素NotIで切り出し、大腸菌発現ベクターであるpUXPEaLT19のPacI部位とNotI部位の間に組み込むことにより、CYP199A2_F185L発現プラスミドpUXPEaLT_CYP199A2_F185Lを造成した。これを大腸菌JM109に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L)を造成した。この組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L)に上記7−6で造成したP450camの電子伝達系遺伝子発現プラスミドpRTCXP_RedPrdxを形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L-RedPrdx)を造成した。
13−2.組換え大腸菌を用いた1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
上記で造成した組み換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L-RedPrdx)を用いて実施例8で述べた方法と同じ方法を用いて菌体懸濁液を調製した。0.5Mの1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記7−6で述べた方法を用い、LC−TOF型質量分析計のHPLC分析の条件を表4に示す条件に変更して行った。その結果、反応開始前には1.47mMであった1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で0.41mMに減少し、精密質量数からジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と推定される新たな2つの化合物のピークがHPLC保持時間1.54分と1.58分に出現した。保持時間1.58分の化合物は、保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値を合わせることにより、1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であると同定された。また、保持時間1.54分の化合物は、実施例14で後述するように脱炭酸によって1,5−ジヒドロキシナフタレンが生成したことから、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であると同定された。なお、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(340nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例14.1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,5−ジヒドロキシナフタレンと1,7−ジヒドロキシナフタレンの生産実施例6−2に述べた方法を用いて、上記で調製した5.0mLの1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む水溶液をもとに酢酸エチルによる抽出操作を行って、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む14.8mLの酢酸エチル溶液を得た。
この1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む酢酸エチル溶液を1.48mLずつ分注し、減圧乾燥器中で乾固した後、それぞれ1mLの水に懸濁した。続いて、上記8−3に述べた方法に従って加熱処理を行った後、表7に示す条件でLC−TOF型質量分析計による分析を行った。
その結果、図6に示すように、70℃以上に加温すると脱炭酸が起こり、1,5−ジヒドロキシナフタレンと1,7−ジヒドロキシナフタレンが生成することが確認され、その検出量は温度に依存して増加することが明らかになったなお、生成した1,5−ジヒドロキシナフタレンおよび1,7−ジヒドロキシナフタレンの同定は標品の1,5−ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社より購入)および1,7−ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社より購入)のHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、各化合物の定量はそれぞれの特異吸収波長(1,5−ジヒドロキシナフタレン:315nm、1,7−ジヒドロキシナフタレン:336nm)で形成されるそれぞれのピークエリアから算出した。
実施例15.組換え大腸菌を用いた3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
実施例13で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L-RedPrdx)を用いて、実施例8で述べた方法と同じ方法を用いて菌体懸濁液を調製した。0.5Mの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は上記7−6で述べた方法を用いて行った。
その結果、反応開始前には0.56mMであった3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で検出限界以下にまで減少し、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来するピークが溶出時間0.87分に検出された。このジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、標品の3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(東京化成工業株式会社より購入)と比較して、HPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較から3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸であると同定した。生成した3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸は0.56mMと算出された。なお、各化合物の定量はそれぞれの特異吸収波長(3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸:361nm、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸:374nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例16.3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生産
16−1.3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸から1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成条件の検討
東京化成工業株式会社より購入した3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、上記10−1で述べた方法と同じ方法を用いて3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液の脱炭酸条件を調べた。高温高圧釜の加熱温度は、200℃、225℃、250℃および275℃であり、1時間加温した。室温から各温度までの昇温時間については200℃を60分、225℃を90分、250℃と275℃を120分に設定した。反応後、DMSOを添加して撹拌することにより反応産物を溶解した後、DMSOを追加して溶解液の総量が2mLになるように調整した。続いて、得られた溶解液に含まれる反応産物を上記10−1で述べた方法と同じ方法により分析した。
その結果、図7に示すように、225℃以上の加熱により3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生成が認められ、その生成量は温度に依存して増加することが明らかになった。なお、生成した1,7−ジヒドロキシナフタレンの同定は東京化成工業株式会社より購入した標品の1,7−ジヒドロキシナフタレンのHPLCの保持時間、特異吸収波長およびLC−TOF型質量分析計を用いて求めた精密質量値の比較により行った。また、1,7−ジヒドロキシナフタレンの定量は、1,7−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(336nm)で形成されるピークエリアから算出した。
16−2.3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,7−ジヒドロキシナフタレンの生産
実施例6−2に述べた方法を用いて、実施例15で調製した25.0mLの3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液をもとに酢酸エチルによる抽出操作を行って、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む29.8mLの酢酸エチル溶液を得た。これを減圧乾燥器で1.25mLにまで濃縮した。
このようにして得た3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む酢酸エチル溶液の内、1.0mLをPTFEサンプル瓶に入れて減圧乾燥器で乾固させた。残留物を1.0mLの水に溶解した後、上記10−1で述べた方法と同じ方法を用いて、250℃、1時間の加熱処理を行った。250℃までの昇温時間は150分に設定した。加熱処理を行った後、反応産物を上記10−1で述べた方法と同じ方法を用いて分析した。
その結果、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸から、加熱処理により2.5mMの1,7−ジヒドロキシナフタレンが生成したことがわかった。なお、1,7−ジヒドロキシナフタレンの定量は1,7−ジヒドロキシナフタレンの特異吸収波長(336nm)で形成されるピークエリアから算出した。
実施例17.組換え大腸菌を用いた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸の生産
実施例13で造成した組換え大腸菌JM109/(pUXPEaLT_CYP199A2_F185L-RedPrdx)を用いて、実施例8で述べた方法と同じ方法を用いて菌体懸濁液を調製した。0.5Mの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液を最終濃度で1.5mMになるように添加し、30℃、290rpmの条件で反応させた。各反応時間における反応液中の基質と反応産物の分析は実施例11で述べた方法を用いて行った。その結果、反応開始前には1.49mMであった6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の濃度は15時間の反応で0.12mMに減少し、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する2つのピークが保持時間1.26分と1.32分に新たに検出された。保持時間1.32分のピークは実施例11で生成させた6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と特異吸収波長が一致していることから、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と同定した。なお、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の定量は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の特異吸収波長(305nm)で形成されるピークエリアから算出した。
一方、ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸に相当する分子量を持つ保持時間1.26分のピークは、実施例18で後述するように、脱炭酸反応により1,2−ジヒドロキシナフタレンが生成したことから、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸と同定した。
実施例18.5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸からの1,2−ジヒドロキシナフタレンの生産
実施例6−2に述べた方法を用いて、実施例17で調製した82mLの5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液をもとに酢酸エチルによる抽出操作を行って、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む19.8mLの酢酸エチル溶液を得た。これを減圧乾燥器で1.52mLにまで濃縮した
このようにして得た5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸溶液を0.2mlずつPTFEサンプル瓶に入れた後、減圧乾燥器で乾固させた。残留物を1.0mLの水に溶解して得られた5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸水溶液に対して窒素ガス置換処理を施した後、高温高圧釜内で、225℃、250℃、275℃および300℃の温度で1時間加温した。室温から各温度までの昇温時間については、225℃と250℃を120分、275℃と300℃を150分に設定した。反応後、DMSOを添加して撹拌することにより反応産物を溶解した後、DMSOを追加して溶解液の総量が2mLになるように調整した。続いて、得られた溶解液に含まれる反応産物を実施例11で述べた方法と同じ方法により分析した。
その結果、図8に示すように、5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含む溶液を250℃以上に加温すると、1,2−ジヒドロキシナフタレンが生成することがわかった。また、この溶液には少量の6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸が混在しており、図8に示すように、275℃以上に加温すると、2,3−ジヒドロキシナフタレンが生成することがわかった。各化合物の定量は、それぞれの特異吸収波長(1,2−ジヒドロキシナフタレン:333nm、2,3−ジヒドロキシナフタレン:325nm)で形成されるピークエリアから算出した。
[配列表の説明]
配列番号1:Burkholderia terrae TNA241株2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質をコードするDNA
配列番号2:Burkholderia terrae TNA241株の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質
配列番号3:Burkholderia terrae TNA241株の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質をコードするDNA
配列番号4:Burkholderia terrae TNA241株の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質
配列番号5:Burkholderia terrae TNA241株の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質をコードするDNA
配列番号6:Burkholderia terrae TNA241株の2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質
配列番号7:シトクロームP450水酸化酵素CYP199A2蛋白質をコードするDNA
配列番号8:シトクロームP450水酸化酵素CYP199A2蛋白質
配列番号9:CYP199A2・F185変異体の蛋白質をコードするDNA
配列番号10:CYP199A2・F185変異体蛋白質
配列番号11:ロドコキシン蛋白質をコードするDNA
配列番号12:ロドコキシン蛋白質
配列番号13:プチダレドキシン蛋白質をコードするDNA
配列番号14:プチダレドキシン蛋白質
配列番号15:プチダレドキシン・レダクターゼ蛋白質をコードするDNA
配列番号16:プチダレドキシン・レダクターゼ蛋白質
配列番号17:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号18:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・大サブユニット蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号19:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー1
配列番号20:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー2
配列番号21:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・小サブユニット蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号22:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号23:2−ナフトエ酸1位水酸化酵素複合体・レダクターゼ蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号24:CYP199A2蛋白質の前半部をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号25:CYP199A2蛋白質の前半部をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号26:CYP199A2蛋白質の中央部をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号27:CYP199A2蛋白質の中央部をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号28:CYP199A2蛋白質の後半部をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号29:CYP199A2蛋白質の後半部をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号30:ロドコキシン蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号31:ロドコキシン蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号32:プチダレドキシン蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号33:プチダレドキシン蛋白質をコードするDNAのPCR増幅用リバース・プ
ライマー
配列番号34:プチダレドキシン・レダクターゼをコードするDNAのPCR増幅用フォワード・プライマー
配列番号35:プチダレドキシン・レダクターゼをコードするDNAのPCR増幅用リバース・プライマー
配列番号36: プラスミドベクターpRTCXP19内の2つのSfiI部位に挟まれた合成DNA由来の塩基配列
配列番号37:CYP199A2・F185L変異体蛋白質の作製用の合成DNA1
配列番号38:CYP199A2・F185L変異体蛋白質の作製用の合成DNA2

Claims (18)

  1. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体を発現する微生物を含む水性溶媒、該微生物の培養物を含む水性溶媒および該培養物の処理物を含む水性溶媒のいずれかの水性溶媒とヒドロキシナフトエ酸を混合する方法により、ヒドロキシナフトエ酸を水酸化してジヒドロキシナフトエ酸を調製した後に、該ジヒドロキシナフトエ酸を含む水性媒体に対して加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことによりジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とするジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  2. 前記ヒドロキシナフトエ酸が、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からなる群より選択される一種または二種以上のヒドロキシナフトエ酸であることを特徴とする請求項1に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  3. 前記ジヒドロキシナフタレンが、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよび2,6−ジヒドロキシナフタレンからなる群より選択される一種または二種以上のジヒドロキシナフタレンであることを特徴とする請求項1または2に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  4. 前記微生物が、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌およびコリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌からなる群より選択される微生物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  5. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が、以下に示す水酸化酵素複合体A、水酸化酵素D、および水酸化酵素Eからなる群より選択される一種または二種以上の酵素または酵素複合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
    水酸化酵素複合体A:
    以下の(a1)、(a2)または(a3)に示す蛋白質、以下の(b1)、(b2)または(b3)ならびに、以下の(c1)、(c2)または(c3)に示す蛋白質の3つの蛋白質からなることを特徴とする水酸化酵素複合体。
    (a1)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (a2)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (a3)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (b1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (b2)配列番号4に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (b3)配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (c1)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (c2)配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (c3)配列番号6に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    水酸化酵素D:
    以下の(d1)、(d2)または(d3)に示す蛋白質であることを特徴とする水酸化酵素。
    (d1)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (d2)配列番号8に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (d3)配列番号8に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の7位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    水酸化酵素E:
    以下の(e1)、(e2)または(e3)に示す蛋白質であることを特徴とする水酸化酵素。
    (e1)配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質。
    (e2)配列番号10に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (e3)配列番号10に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有する配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の5位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
  6. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,3−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、40℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,3−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  7. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の1位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、80℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,6−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  8. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素複合体Aであることを特徴とする請求項6または7に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  9. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、70℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより脱炭酸反応により1,7−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  10. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、200℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより2,6−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項
    に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  11. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の7位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる6,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、225℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより2,3−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  12. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素Dであることを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  13. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる1,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、70℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,5−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  14. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られ3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、225℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,7−ジヒドロキシナフタレンを生成させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  15. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の5位を水酸化する酵素または酵素複合体であり、かつ該酵素または該酵素複合体の作用により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から得られる5,6−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸をもとに、250℃以上の加熱による脱炭酸反応を引き起こす処理を施すことにより1,2−ジヒドロキシナフタレンを生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  16. ナフタレン環を水酸化する酵素または酵素複合体が前記水酸化酵素Eであることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載のジヒドロキシナフタレンの製造方法。
  17. 下記(a1)、(a2)または(a3)に示す蛋白質、(b1)、(b2)または(b3)、ならびに(c1)、(c2)または(c3)に示す蛋白質からなる水酸化酵素複合体A。
    (a1)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (a2)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (a3)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (b1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (b2)配列番号4に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (b3)配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列
    からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (c1)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む蛋白質。
    (c2)配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
    (c3)配列番号6に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつヒドロキシナフトエ酸の1位の水酸化に関わる機能を有する蛋白質。
  18. 請求項17に記載の水酸化酵素複合体Aを構成する3種類の蛋白質をコードするDNAで形質転換された微生物。
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