以下、本発明に係る成膜装置について具体化した一実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係る成膜装置1の概略構成について図1及び図2に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、及び制御部6等から構成されている。処理容器2は、ステンレス等の金属製であって、気密構造の処理容器である。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、成膜対象である導電性を有する被加工材料8が、ステンレス等で形成された導電性を有する保持具9により保持されている。
被加工材料8の材質は、表面が導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、本実施形態では低温焼戻し鋼である。ここで低温焼戻し鋼とは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)、G4401(炭素工具鋼鋼材)、G44−4(合金工具用鋼材)、又はマルエージング鋼材などの材料である。被加工材料は、低温焼戻し鋼以外にも、セラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされているものでもよい。また、表面にスパッタリング法等により金属膜が成膜された被加工材料を用いてもよい。
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスと不活性ガスとを供給する。具体的には、He、Ne、Ar、Kr、またはXeなどの不活性ガスとCH4、C2H2、又はTMS(テトラメチルシラン)等の炭化水素系の原料ガスとが供給される。本実施形態では、C2H2、CH4、およびTMSの原料ガスにより被加工材料8がDLC成膜処理されるとして説明する。
ガス供給部5から供給される原料ガス、および不活性ガスの流量、および圧力が後述するCPU31により制御されてもよいし、作業者により制御されてもよい。原料ガスは、アルキン、アルケン、アルカン、芳香族化合物などのCH結合を有する化合物、または炭素が含まれる化合物が含まれるガスであればよい。H2が原料ガスに含まれてもよい。
処理容器2の内部に保持された被加工材料8に対してDLC成膜処理を行うためのプラズマが発生される。このプラズマは、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13(図2参照)、負電圧電源15、及び負電圧パルス発生部16により発生される。本実施形態では、特開2004−47207号公報に開示された方法(以下、「MVP法(Microwave sheath−Voltage combination Plasma法)」という。)により表面波励起プラズマが発生されるとして説明する。以降の記載では、MVP法を説明する。
マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、後述のようにパルス周波数39kHz以下のパルス信号を所定デューティ比で発振し(図15等参照)、この発振したパルス信号をマイクロ波発振器12へ供給する。マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、マイクロ波パルスを発生する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、指示された出力で2.45GHzのマイクロ波を発振するマイクロ波発振器12へ電力を供給する。つまり、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、パルス状のマイクロ波パルスで後述するアイソレータ17に供給する。
そして、マイクロ波パルスは、マイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、導波管19から図示されない同軸導波管変換器を介して突設された同軸導波管21、及び石英などのマイクロ波を透過する誘電体等からなるマイクロ波供給口22を経由し、保持具9及び被加工材料8の処理表面に供給される。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナー18は、マイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合するものである。
マイクロ波供給口22の上端面を除く外周面、つまり、マイクロ波導入面22Aを除く外周面は、ステンレス等の金属で形成された側面導体23で被覆されている。側面導体23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。マイクロ波供給口22の中央には同軸導波管21の中心導体が延長されている。
図1に示すように、側面導体23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面導体23の全周に渡って処理容器2内へ突出された筒状の包囲壁部23Aが形成されている。包囲壁部23Aは、保持具9及び被加工材料8から構成される中心導体24を内側に囲むようにマイクロ波導入面22Aの全周に渡って形成されている。即ち、包囲壁部23Aは、ステンレス等の金属で形成されている。これにより、包囲壁部23Aの内周面と中心導体24の外周面との間に、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状の包囲空間20が形成されている。
従って、マイクロ波供給口22のマイクロ波導入面22Aを除く外周面が側面導体23で被覆されているので、マイクロ波供給口22に供給されたマイクロ波パルスによって、保持具9が設けられたマイクロ波導入面22A付近にマイクロ波が伝搬する。この結果、包囲空間20及び被加工材料8の処理表面に沿ってプラズマが生成される。また、被加工材料8の保持具9に対して反対側の部分は、マイクロ波供給口22に対して処理容器2の内側に向かって突出するように配置され、負のバイアス電圧パルスを印加するための負電圧電極25が電気的に接続されている。
マイクロ波供給口22の中心導体と保持具9との間には、真空を保持するため、これらの間に石英等の誘電体が配置されている。被加工材料8は、例えば棒状であり、マイクロ波供給口22の中心導体の延長線上に保持される。
負電圧電源15は、制御部6の指示に従い、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、負電圧電源15から供給された負のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、負電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、後述のようにパルス周波数250kHz以下の負のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及び、デューティ比を制御すると共に、負のバイアス電圧パルスを発生していない間に、所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正のバイアス電圧を発生するように制御する処理である。このパルス状の負のバイアス電圧である負のバイアス電圧パルス、及び、正のバイアス電圧である正のバイアス電圧パルスが、処理容器2の内部に保持された被加工材料8に負電圧電極25を介して印加される。
即ち、被加工材料8が、金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされた場合であっても、被加工材料8の少なくとも処理表面全域に負のバイアス電圧パルスが印加される。また、保持具9の表面全域にも被加工材料8を介して負のバイアス電圧パルスが印加される。
図3に示すように、発生されたパルス周波数39kHz以下のマイクロ波パルス38、およびパルス周波数250kHz以下の負のバイアス電圧パルス39が同時に印加されるように制御されることにより、図1に示すように、表面波励起プラズマ28が発生される。マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz〜50GHzの周波数であればよい。負のバイアス電圧パルス39が印加されていない間には、所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正のバイアス電圧パルス41が印加される。負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16が本発明の負電圧印加部の一例である。
マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、及び同軸導波管21が本発明のマイクロ波供給部の一例である。尚、成膜装置1は負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16を備えたが、更に正電圧電源、および正電圧パルス発生部を備えてもよいし、負電圧パルス発生部16の代わりに、パルス状の負のバイアス電圧でなく、連続する負のバイアス電圧を印加する負電圧発生部を備えてもよい。
処理容器2の側壁に設けられた石英窓27の外側近傍の位置に、放射温度計29が配置されている。放射温度計29は、被加工材料8の処理表面のうち、被加工材料8の上端部から包囲壁部23Aの上端部に対向する図1中、範囲H1の処理表面の任意の位置の表面温度を連続的に測定する。放射温度計29は、制御部6に電気的に接続されている。また、液晶ディスプレイ(LCD)30が制御部6に電気的に接続されている。また、不図示のブザー等が制御部6に電気的に接続されている。
放射温度計29は、被加工材料8の処理表面からの測定波長帯の中心波長λの赤外線を受信し、受信された赤外線の強度Vを算出する。放射温度計29は、算出した赤外線の強度Vと、予め記憶している温度計設定放射率ε1とから被加工材料8の処理表面の表面温度として出力する出力温度TP1を算出する。放射温度計29は、算出した出力温度TP1を所定時間毎に、例えば、0.1秒毎に、制御部6へ出力する。
尚、放射温度計29は、算出した赤外線の強度Vを所定時間毎に、例えば、0.1秒毎に、制御部6に出力するようにしてもよい。制御部6は、入力された赤外線の強度Vと、予め記憶している温度計設定放射率ε1とから被加工材料8の処理表面の表面温度TP1を算出するようにしてもよい。
例えば、放射温度計29は、「トライボロジスト 2008年第53巻5号301頁」に開示された下記式(1)により、被加工材料8の処理表面の表面温度として出力する出力温度TP1を算出する。下記式(1)において、αは装置定数であり、C2はプランクの第二定数であり、λは放射温度計29の測定する赤外線の測定波長帯の中心波長であり、ε1は温度計設定放射率であり、Vは赤外線の強度である。
TP1=C2/λ/Ln{α×ε1/V+1}・・・(1)
図2に示すように、制御部6には、圧力調整バルブ7、大気開放バルブ10、真空計26、放射温度計29、液晶ディスプレイ(LCD)30、負電圧電源15、負電圧パルス発生部16、マイクロ波パルス制御部11、ガス供給部5、及びマイクロ波電源13が電気的に接続されている。
制御部6は、負電圧電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と負電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、負電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の負のバイアス電圧パルスのパルス周波数、供給電圧、デューティ比、及びマイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスのパルス周波数、デューティ比、及び供給電力を制御する。
制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計26から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、制御信号を圧力調整バルブ7に出力する。この制御信号が入力された圧力調整バルブ7は、この制御信号に含まれる圧力信号に基づいて、バルブ開度を調節することにより、処理容器2内の圧力を制御する。
制御部6は、全開、全閉の制御信号を大気開放バルブ10に出力する。全開の制御信号が入力された大気開放バルブ10は、バルブ開度を全開にする。全閉の制御信号が入力された大気開放バルブ10は、バルブ開度を全閉にする。大気開放バルブ10が全開になった場合には、処理容器2は、大気開放バルブ10を介して、内部の圧力が外気圧と同じになる。
制御部6は、CPU31、RAM32、ROM33、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)34、タイマ35、終了判定用タイマ36等を備え、コンピュータから構成される。CPU31は、RAM32等の揮発性記憶装置に種々の情報を一時記憶し、図8に示す成膜処理等のプログラムを実行して、成膜装置1の全体の制御を行う。タイマ35は、全成膜処理の経過時間を計測する。終了判定用タイマ36は、イオンクリーニング、被加工材料8の処理表面に成膜される中間層膜42及び中間層膜42の表面に成膜されるDLC層膜43(図4参照)の各成膜処理の終了を判定する。
ROM33とHDD34は、不揮発性記憶装置であり、図8に示す成膜処理等のプログラム、図3に示す負のバイアス電圧パルスのパルス周波数、供給電圧、デューティ比、及び、マイクロ波パルスのパルス周波数、デューティ比、及び供給電力を示す情報、図5乃至図7に示す各データテーブル45〜47等を記憶している。
尚、図8に示す成膜処理のプログラムは、図示しないドライバによりCD−ROM、またはDVD−ROMなどの記憶媒体から読み込まれてもよいし、図示しないインターネット等のネットワークからダウンロードされてもよい。また、図示しないインターネット等のネットワークに接続したサーバで実行されてもよい。
[表面波励起プラズマの説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、いわゆるシース層が形成される。物体が、負のバイアス電圧を加えた導電性を有する被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、すなわち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においてはほぼ比誘電率ε≒1の層である。このため、印加する負のバイアス電圧の絶対値を例えば−100Vの絶対値より大きくすることによりシース層のシース厚さを厚くできる。すなわちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。
従って、被加工材料8を保持する保持具9の一端に近接して配置されたマイクロ波供給口22からマイクロ波が供給され、かつ被加工材料8及び保持具9に負のバイアス電圧が印加されると、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8及び保持具9の表面に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上述した表面波励起プラズマ28である。
このような被加工材料8の表面の近傍での表面波励起による高密度プラズマの電子密度は1011〜1012cm―3に達する。このMVP法を用いたプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合は、通常のプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合よりも1桁から2桁高い成膜速度3〜30(ナノm/秒)が得られるので高速成膜が可能である。
このMVP法では、金属基材である被加工材料8及び保持具9の表面近傍に高密度励起プラズマを発生させるので、被加工材料8及び保持具9の表面温度が焼き戻し温度以上、例えば、約250℃〜約300℃に上昇する。但し、高速成膜が可能であるため、成膜時間は通常のプラズマCVDの成膜時間の1/10〜1/100となる。即ち、成膜時間を数十秒〜数分に短縮できるので、被加工材料8の表面温度が焼き戻し温度を超えても、被加工材料8の軟化を抑制することができる。
ここで、マイクロ波パルスと負のバイアス電圧パルスの印加される波形の一例について図3に基づいて説明する。
図3に示すように、マイクロ波パルス38の周期は、T1(秒)である。マイクロ波パルス38の1パルス毎の供給時間は、T11(秒)である。従って、マイクロ波パルス38の周期に対するマイクロ波パルス38の1パルス毎の供給時間の比率であるデューティ比(第2デューティ比)は、T11/T1である。
また、負のバイアス電圧パルス39の周期は、マイクロ波パルス38の周期よりも短いT2(秒)である。負のバイアス電圧パルス39の印加時間は、T21(秒)である。従って、負のバイアス電圧パルス39の周期に対する負のバイアス電圧パルス39の1パルス毎の印加時間の比率であるデューティ比(第1デューティ比)は、T21/T2である。また、正のバイアス電圧パルス41の印加時間は、T22=T2−T21(秒)である。
そして、マイクロ波パルス38の1周期内におけるマイクロ波の供給されていない供給停止時間(T1−T11)(秒)内に、複数の負のバイアス電圧パルス39、例えば、2個〜6個の負のバイアス電圧パルス39が印加されるように設定されている。更に、負のバイアス電圧パルス39の1周期内の印加時間、つまり、T21(秒)は、マイクロ波パルス38の1周期内の供給時間、つまり、T11(秒)よりも長い時間となるように設定されている。各時間T1、T11、T2、T21、T22(秒)を示す情報は、制御部6のROM33又はHDD34に格納される各データテーブル45〜47に記憶されているデータからCPU31により算出される。
次に、ROM33又はHDD34に記憶されているクリーニングデータテーブル45の一例について図5に基づいて説明する。このクリーニングデータテーブル45には、図8に示すフローチャートの各ステップ14〜16において、CPU31が実行する被加工材料8の処理表面をイオンクリーニングする際の「基本イオンクリーニング条件」が記憶されている。
図5に示すように、クリーニングデータテーブル45は、被加工材料8の種類を表す「ワーク種類」と、「ワーク種類」に対応する「基本イオンクリーニング条件」と、イオンクリーニングの開始前に、真空ポンプ3で排気する処理容器2の内部の真空度を表す「到達真空度(Pa)」とを示す各データから構成されている。「ワーク種類」には、被加工材料8の全種類に対して共通である旨が記憶されている。
基本イオンクリーニング条件は、「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、及び、「処理時間(sec)」を示す各データから構成されている。
「負のバイアス電圧(V)」には、負のバイアス電圧パルス39の印加電圧が記憶されている。「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」には、負のバイアス電圧パルスの周波数が記憶されている。「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」には、負のバイアス電圧パルス39のデューティ比(第1デューティ比)が記憶されている。「マイクロ波出力(kW)」には、マイクロ波パルス38の供給電力が記憶されている。「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」には、マイクロ波パルスの周波数が記憶されている。「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」には、マイクロ波パルス38のデューティ比が記憶されている。
「ガス流量(sccm)」には、不活性ガスArと、CH4、C2H2、TMSの各原料ガスの順にガス流量(sccm)が記憶されている。「圧力(Pa)」には、イオンクリーニング時の処理容器2内の不活性ガスArの圧力が記憶されている。「処理時間(sec)」には、イオンクリーニングを行う処理時間が記憶されている。
次に、ROM33又はHDD34に記憶されている中間層成膜データテーブル46の一例について図6に基づいて説明する。この中間層成膜データテーブル46には、図8に示すフローチャートの各ステップ17〜19において、CPU31が実行するDLC膜である中間層膜42(図4参照)を成膜する際の「中間層膜の基本成膜条件」が記憶されている。ここで、図4に示すように、中間層膜42は、被加工材料8の処理表面に成膜されるDLC膜である。
図6に示すように、中間層成膜データテーブル46は、被加工材料8の種類を表す「ワーク種類」と、「ワーク種類」に対応する「中間層膜の基本成膜条件」とを示す各データから構成されている。「ワーク種類」には、被加工材料8の全種類に対して共通である旨が記憶されている。また、中間層膜の基本成膜条件は、「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、及び、「処理時間(sec)」を示す各データから構成されている。
「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」は、数値は異なるが、上記クリーニングデータテーブル45と同様のデータが記憶されている。
「圧力(Pa)」には、中間層膜42の成膜時の処理容器2の内部の不活性ガスAr及び原料ガスの圧力(全圧)が記憶されている。「処理時間(sec)」には、中間層膜42を成膜する成膜処理時間が記憶されている。
次に、ROM33又はHDD34に記憶されているDLC層成膜データテーブル47の一例について図7に基づいて説明する。このDLC層成膜データテーブル47には、図8に示すフローチャートの各ステップ20〜22において、CPU31が実行するDLC層膜43(図4参照)を成膜する際の「DLC層膜の基本成膜条件」が記憶されている。ここで、図4に示すように、DLC層膜43は、中間層膜42の表面に成膜されるDLC膜である。尚、中間層膜42は本発明の第1層目の第1皮膜に相当し、DLC層膜43は本発明の第2層目の第2皮膜に相当する。
図7に示すように、DLC層成膜データテーブル47は、被加工材料8の種類を表す「ワーク種類」と、「ワーク種類」に対応する「DLC層膜の基本成膜条件」とを示す各データから構成されている。「ワーク種類」には、被加工材料8の全種類に対して共通である旨が記憶されている。また、「DLC層膜の基本成膜条件」は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と数値は異なるが、ほぼ同様の構成である。
但し、「圧力(Pa)」には、DLC層膜43の成膜時の処理容器2の内部の不活性ガスAr及び原料ガスの圧力(全圧)が記憶されている。「処理時間(sec)」にはDLC層膜43を成膜する成膜処理時間が記憶されている。
[基本成膜処理]
次に、上記のように構成された成膜装置1のCPU31が実行する処理であって、被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜する基本成膜処理について図8に基づいて説明する。この成膜処理は、保持具9に保持された被加工材料8が処理容器2の内部に作業者によってセットされる。尚、本実施形態では被加工材料8の材質は、SCM415鋼(浸炭焼き入れ、200℃焼き戻し)を用いた。
その後、CPU31は、自動的に、若しくは、作業者による成膜開始指示が、不図示の操作部に設けられた操作ボタンを介して制御部6に入力されたことを検知することにより「基本成膜処理」を開始する。また、処理容器2内にセットされる被加工材料8の種類は、不図示のセンサにより検出され、対応する「ワーク種類」を中間層成膜データテーブル46、又はDLC層成膜データテーブル47から抽出する。抽出された「ワーク種類」はRAM32に記憶される。尚、「ワーク種類」は、作業者により不図示の操作部を介して入力され、RAM32に記憶されてもよい。
図8に示すように、先ず、ステップ(以下、Sと略記する)11において、CPU31は、中間層成膜データテーブル46からRAM32に記憶された「ワーク種類」に対応する「中間層膜の基本成膜条件」の各データを読み出し、RAM32に記憶する。
例えば、図6に示すように、「ワーク種類」が「A」の場合には、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」として「−600V」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」として「200kHz」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」として「80%」、「マイクロ波出力(kW)」として「1(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」として「30kHz」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」として「8%」、「ガス流量(sccm)」として、不活性ガスArは「100sccm」、C2H2は「100sccm」、TMSは「15sccm」、H2は「100sccm」、「圧力(Pa)」として「80Pa」、「処理時間(sec)」として「5秒」を中間層成膜データテーブル46から読み出し、RAM32に記憶する。
続いて、S12において、CPU31は、DLC層成膜データテーブル47からRAM32に記憶された「ワーク種類」に対応する「DLC層膜の基本成膜条件」の各データを読み出し、RAM32に記憶する。
例えば、図7に示すように、「ワーク種類」が「A」の場合には、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」として「−600V」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」として「200kHz」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」として「80%」、「マイクロ波出力(kW)」として「1(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」として「30kHz」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」として「75%」、「ガス流量(sccm)」として、不活性ガスArは「100sccm」、C2H2は「100sccm」、TMSは「15sccm」、H2は「100sccm」、「圧力(Pa)」として「80Pa」、「処理時間(sec)」として「17秒」をDLC層成膜データテーブル47から読み出し、RAM32に記憶する。
尚、S11において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」の各データを制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにしてもよい。また、S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「DLC層膜の基本成膜条件」の各データを制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにしてもよい。
そして、S13において、CPU31は、クリーニングデータテーブル45から「到達真空度(Pa)」のデータを読み出し、RAM32に記憶する。その後、CPU31は、真空ポンプ3を起動させた後、圧力調整バルブ7を全開に設定し、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、「到達真空度(Pa)」の真空度、例えば、「1Pa」になるのを待つ。処理容器2の内部が、この真空度に達した場合には、CPU31は、S14の処理に移行する。
S14において、CPU31は、クリーニングデータテーブル45から「ガス流量(sccm)」と「圧力(Pa)」の各データを読み出し、RAM32に記憶する。そして、CPU31は、「ガス流量(sccm)」のうち、不活性ガスArのガス流量値をRAM32から読み出し、ガス供給部5に対して読み出したガス流量値、例えば、「20sccm」で処理容器2内へ不活性ガスArの供給をするように指示する供給信号を出力する。これにより、ガス供給部5は、供給信号に従い、不活性ガスArを、例えば、「20sccm」で処理容器2の内部に供給する。つまり、不活性ガスArの供給が開始される。
その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2内の不活性ガスを一定流量で排気するように設定する。そして、CPU31は、「圧力(Pa)」をRAM32から読み出し、処理容器2の内部が、この「圧力(Pa)」の圧力値、例えば、「15Pa」になるように調整する。続いて、CPU31は、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、「圧力(Pa)」の圧力値、例えば、「15Pa」に達するのを待つ。そして、処理容器2の内部が、「圧力(Pa)」の圧力値、例えば、「15Pa」に達した場合には、CPU31は、S15の処理に移行する。
S15において、CPU31は、クリーニングデータテーブル45から「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「処理時間(sec)」の各データを読み出し、RAM32に記憶する。
そして、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値をRAM32から読み出し、負電圧電源15に送信する(制御工程)。CPU31は、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数と、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比とをRAM32から読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する(制御工程)。CPU31は、「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値をRAM32から読み出し、マイクロ波電源13に送信する(制御工程)。CPU31は、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数と、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比とをRAM32から読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する(制御工程)。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧、例えば、「−600V」に従い、負電圧パルス発生部16に、例えば、−600Vの負の印加電圧と所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、供給された負の印加電圧で、受信した「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数で、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比の負のバイアス電圧パルス39を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する(負電圧印加工程)。
また、負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、負のバイアス電圧パルス39の1周期内における負のバイアス電圧の印加停止時間内に所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正のバイアス電圧パルス41を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力、例えば、「1kW」に従い、マイクロ波発振器12に、例えば、1kWの電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、図3の上段に示すように、受信した「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数で、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比のパルス信号を生成して、マイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、供給された電力、例えば、1kWに応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、受信したパルス信号に従うマイクロ波パルス38を生成して、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する(マイクロ波供給工程)。
これにより、これら負のバイアス電圧パルス39により被加工材料8の表面に沿うシース層が、マイクロ波の伝搬する伝搬方向に対して直交する方向に、つまり、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波パルス38により不活性ガスArのプラズマが発生する。
マイクロ波の伝搬方向は、マイクロ波供給口22付近では、マイクロ波導入面22Aに垂直な方向であるが、マイクロ波は被加工材料8の表面に沿って生成されたシース層にそって伝搬するため、マイクロ波の伝搬方向は、被加工材料8の延びる方向に沿う。この発生された不活性ガスArのプラズマにより、被加工材料8の表面がイオンクリーニングされる。CPU31は、イオンクリーニングが開始されると、タイマ35及び終了判定用タイマ36の各計測時間を「0」にリセットした後、全成膜処理の経過時間とイオンクリーニングの処理時間のカウントを開始して、S16の処理に移行する。
S16において、CPU31は、放射温度計29から入力された出力温度TP1をRAM32に記憶する。そして、CPU31は、RAM32から出力温度TP1を読み出し、所定温度以上、例えば、250℃以上であるか否かを判定する判定処理を実行する。つまり、CPU31は、イオンクリーニングを終了するか否かを判定する判定処理を実行する。
尚、CPU31は、クリーニングデータテーブル45から「処理時間(sec)」のイオンクリーニングを行う処理時間、例えば、「60sec」を読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間がイオンクリーニングの処理時間に達したか否かを判定する判定処理を実行して、イオンクリーニングを終了するか否かを判定するようにしてもよい。また、CPU31は、イオンクリーニングを終了するか否かの判定を、アーキング発生頻度が所定の頻度未満か否かにより判定するようにしてもよい。
そして、放射温度計29から入力された出力温度TP1が所定温度未満、例えば、250℃未満であると判定した場合には(S16:NO)、CPU31は、ROM33又はHDD34から予め記憶されている「温度測定間隔τ(sec)」、例えば、0.2secを読み出し、この温度測定間隔τ(sec)が経過するのを待つ。CPU31は、温度測定間隔τ(sec)が経過した場合には、再度S16以降の処理を実行する。
一方、放射温度計29から入力された出力温度TP1が所定温度以上、例えば、250℃以上であると判定した場合には(S16:YES)、CPU31は、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス38の出力を停止する(マイクロ波供給工程)。
また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止する(負電圧印加工程)。また、CPU31は、ガス供給部5へ不活性ガスArの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。その後、CPU31は、S17の処理に移行する。
S17において、CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「ガス流量(sccm)」の不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSを供給するそれぞれのガス流量値を読み出し、ガス供給部5に流量制御指示として送信する。これにより、ガス供給部5は、流量制御指示に従い、不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSを処理容器2の内部に供給する。つまり、不活性ガスAr及び各原料ガスの供給が開始される。
その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2内の不活性ガスAr及び原料ガスを一定流量で排気するように設定し、上記S11でRAM32に記憶した「圧力(Pa)」の圧力値、例えば、「80Pa」になるように調整する。また、CPU31は、不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSの流量を液晶ディスプレイ30に表示し、表示した流量で各ガスを供給するように促す。そして、CPU31は、真空計26から入力される処理容器2内の圧力が、「圧力(Pa)」の圧力値で安定した場合には、S18の処理に移行する。
尚、ROM33又はHDD34に、予め、中間層ガス安定待ち時間T31(秒)を記憶しておくようにしてもよい。そして、CPU31は、ROM33又はHDD34から中間層ガス安定待ち時間T31(秒)を読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間が中間層ガス安定待ち時間T31(秒)に達した場合には、S18の処理に移行するようにしてもよい。
S18において、CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値、例えば、「−600V」を読み出し、負電圧電源15に送信する(制御工程)。CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「200kHz」と、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「80%」とを読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する(制御工程)。
また、CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値、例えば、「1kW」を読み出し、マイクロ波電源13に送信する(制御工程)。CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「30kHz」と、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「8%」とを読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する(制御工程)。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧、例えば、「−600V」に従い、負電圧パルス発生部16に、例えば、−600Vの負の印加電圧と所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、供給された負の印加電圧で、受信した「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「200kHz」で、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「80%」のデューティ比(第1デューティ比)の負のバイアス電圧パルス39を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する(負電圧印加工程)。
また、負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、負のバイアス電圧パルス39の1周期内における負のバイアス電圧の印加停止時間内に所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正のバイアス電圧パルス41を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力、例えば、「1kW」に従い、マイクロ波発振器12に、例えば、1kWの電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、図3の上段に示すように、受信した「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「30kHz」で、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「8%」デューティ比(第2デューティ比)のパルス信号を生成して、マイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、供給された電力、例えば、1kWに応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、受信したパルス信号に従うマイクロ波パルス38を生成して、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する(マイクロ波供給工程)。
これにより、これら負のバイアス電圧パルス39により被加工材料8の表面に沿うシース層が、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波パルス38により不活性ガスAr及び原料ガスのプラズマが発生する。そして、被加工材料8の処理表面に、図4に示す中間層膜42の成膜が開始される。CPU31は、中間層膜42の成膜が開始されると、終了判定用タイマ36の計測時間を「0」にリセットした後、中間層膜42の成膜時間のカウントを開始して、S19の処理に移行する。
S19において、CPU31は、上記S11でRAM32に記憶した「処理時間(sec)」、例えば、「5sec」を読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間が、中間層膜42の成膜時間に達したか否かを判定する判定処理を実行する。つまり、CPU31は、中間層膜42の成膜を終了するか否かを判定する判定処理を実行する。
そして、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「5sec」に達していないと判定した場合には(S19:NO)、CPU31は、再度、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「5sec」に達したか否かを判定する判定処理を実行する。一方、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「5sec」に達したと判定した場合には(S19:YES)、CPU31は、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、マイクロ波発振器12は、パルス信号を受信しないため、マイクロ波パルス38の出力を停止する(マイクロ波供給工程)。
また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止する(負電圧印加工程)。また、CPU31は、ガス供給部5へ不活性ガスAr及び原料ガスの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。この結果、不活性ガスAr及び原料ガスの供給が停止される。つまり、中間層膜42の成膜が停止される。その後、CPU31は、S20の処理に移行する。
これにより、後述のように、被加工材料8の処理表面に、厚さ約30ナノm〜60ナノmの中間層膜42が短時間、例えば、3秒〜5秒で成膜されて、HF1〜HF4となる密着性を有するDLC膜を成膜することが可能となる(図12参照)。
S20において、CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「ガス流量(sccm)」の不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSを供給するそれぞれのガス流量値を読み出し、ガス供給部5に流量制御指示として送信する。これにより、ガス供給部5は、流量制御指示に従い、不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSを処理容器2の内部に供給する。つまり、不活性ガスAr及び各原料ガスの供給が開始される。
その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2内の不活性ガスAr及び原料ガスを一定流量で排気するように設定し、上記S12でRAM32に記憶した「圧力(Pa)」の圧力値、例えば、「80Pa」になるように調整する。また、CPU31は、不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMSの流量を液晶ディスプレイ30に表示し、表示した流量で各ガスを供給するように促す。そして、CPU31は、真空計26から入力される処理容器2内の圧力が、「圧力(Pa)」の圧力値で安定した場合には、S21の処理に移行する。
尚、ROM33又はHDD34に、予め、DLC層ガス安定待ち時間T32(秒)を記憶しておくようにしてもよい。そして、CPU31は、ROM33又はHDD34からDLC層ガス安定待ち時間T32(秒)を読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間がDLC層ガス安定待ち時間T32(秒)に達した場合には、S21の処理に移行するようにしてもよい。
S21において、CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値、例えば、「−600V」を読み出し、負電圧電源15に送信する(制御工程)。CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「200kHz」と、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「80%」とを読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する(制御工程)。
また、CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値、例えば、「1kW」を読み出し、マイクロ波電源13に送信する(制御工程)。CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「30kHz」と、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「75%」とを読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する(制御工程)。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧、例えば、「−600V」に従い、負電圧パルス発生部16に、例えば、−600Vの負の印加電圧と所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、供給された負の印加電圧で、受信した「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「200kHz」で、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「80%」のデューティ比(第1デューティ比)の負のバイアス電圧パルス39を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する(負電圧印加工程)。
また、負電圧パルス発生部16は、図3の下段に示すように、負のバイアス電圧パルス39の1周期内における負のバイアス電圧の印加停止時間内に所定電圧、例えば、+10V〜+60Vの正のバイアス電圧パルス41を生成して、負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力、例えば、「1kW」に従い、マイクロ波発振器12に、例えば、1kWの電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、図3の上段に示すように、受信した「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」の周波数、例えば、「30kHz」で、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデューティ比、例えば、「75%」デューティ比(第2デューティ比)のパルス信号を生成して、マイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、供給された電力、例えば、1kWに応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、受信したパルス信号に従うマイクロ波パルス38を生成して、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する(マイクロ波供給工程)。
これにより、これら負のバイアス電圧パルス39により被加工材料8の表面に沿うシース層が、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波パルス38により不活性ガスAr及び原料ガスのプラズマが発生する。そして、被加工材料8の処理表面に、図4に示すDLC層膜43の成膜が開始される。CPU31は、DLC層膜43の成膜が開始されると、終了判定用タイマ36の計測時間を「0」にリセットした後、DLC層膜43の成膜時間のカウントを開始して、S22の処理に移行する。
S22において、CPU31は、上記S12でRAM32に記憶した「処理時間(sec)」、例えば、「17sec」を読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間が、DLC層膜43の成膜時間に達したか否かを判定する判定処理を実行する。つまり、CPU31は、DLC層膜43の成膜を終了するか否かを判定する判定処理を実行する。
そして、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「17sec」に達していないと判定した場合には(S22:NO)、CPU31は、再度、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「17sec」に達したか否かを判定する判定処理を実行する。一方、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「17sec」に達したと判定した場合には(S22:YES)、CPU31は、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、マイクロ波発振器12は、パルス信号を受信しないため、マイクロ波パルス38の出力を停止する(マイクロ波供給工程)。
また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止するように指示する停止信号を送信する(制御工程)。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止する(負電圧印加工程)。また、CPU31は、ガス供給部5へ不活性ガスAr及び原料ガスの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。この結果、不活性ガスAr及び原料ガスの供給が停止される。つまり、DLC層膜43の成膜が停止される。その後、CPU31は、S23の処理に移行する。
これにより、後述のように、被加工材料8の処理表面に、所定厚さ、例えば、厚さ約2μmのDLC層膜43が成膜されて、HF1〜HF4となる密着性を有するDLC膜を成膜することが可能となる(図12参照)。つまり、第1層である中間層膜42が被加工材料8の表面に形成されているので、第2層であるDLC層膜43の成膜速度を上げてもDLC膜の密着性が保たれる。
S23において、CPU31は、圧力調整バルブ7へ排気を全開にするように指示する排気信号を送信する。圧力調整バルブ7は、全開となり処理容器2内に残留している原料ガス及び不活性ガスを真空ポンプ3ですみやかに排気する。その後、CPU31は、真空ポンプ3を停止した後、圧力調整バルブ7を全閉するように指示する。更に、CPU31は、圧力調整バルブ7が全閉になった後、大気開放バルブ10を全開するように指示する制御信号を送信する。大気開放バルブ10は、全開となり、処理容器2は、内部の圧力が外気圧と同じになる。
そして、CPU31は、真空ポンプ3を停止した後、真空計26からの信号に基づいて、処理容器2の内部の圧力が外気圧と同じになった場合には、液晶ディスプレイ(LCD)30に成膜終了である旨を表示し、成膜処理を終了する。これにより、作業者又は自動搬送機によってDLC膜が成膜された被加工材料8が取り出される。
[実験例1]
次に、実験例1の結果について図9乃至図11に基づいて説明する。実験例1は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」と「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」の各データを変更して、上記基本成膜処理(S11〜S23)によって被加工材料8の処理表面に成膜したDLC膜の密着性試験を行った。
密着性試験は、ドイツ技術者協会の規格(VDI3198 Coating of cold forging tools)の剥離判定試験により行った。ロックウェル硬度計へダイヤモンド圧子を装着し、150kgfの荷重を試験片へ印加してできる圧痕を観察する方法で密着性試験を行った。尚、本実施形態における密着性の判断基準として、「HF1」〜「HF4」までを合格(○)とし、「HF5」及び「HF6」を不合格(×)と判定した。これは、DLC膜を一般的な工業用用途として用いる場合、通常、密着性が「HF1」〜「HF4」のDLC膜を要求されることが多いためである。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、「処理時間(sec)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータとして、「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数を成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
また、各周波数「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」毎に、図3に示す正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「0.4μsec」、「1μsec」、「2μsec」、「5μsec」、「6μsec」、「8.5μsec」に設定されたときの各「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」を不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」のデータとして、成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
その結果、第1密着性測定結果テーブル51(図9参照)、負電圧印加時間テーブル52(図10参照)、及び、第1デューティ比テーブル53(図11参照)に示すように、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「20kHz」に設定した場合には、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「0.4μsec」〜「8.5μsec」に設定された全てにおいて、つまり、各「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「99%」〜「83%」に設定された全てにおいて、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「75kHz」に設定した場合には、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「1μsec」〜「5μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「93%」〜「63%」に設定されたときに、密着性試験は「HF1」〜「HF3」となり、合格(○)であった。一方、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「0.4μsec」及び「6μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「97%」及び「55%」に設定されたときには、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「200kHz」に設定した場合には、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「0.4μsec」及び「1μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「92%」及び「80%」に設定されたときに、密着性試験は「HF1」となり、合格(○)であった。一方、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「2μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「60%」に設定されたときには、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「250kHz」に設定した場合には、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「0.4μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「90%」に設定されたときに、密着性試験は「HF1」となり、合格(○)であった。一方、正のバイアス電圧パルス41の印加時間T22が、「1μsec」に設定されたとき、つまり、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」が「75%」に設定されたときには、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
マイクロ波パルスの周波数が「30kHz」に対し、負のバイアス電圧パルスの周波数を「20kHz」に設定した場合には、マイクロ波パルスの1周期内におけるマイクロ波の供給されていない供給停止時間内に複数の負のバイアス電圧パルスは印加されない。一方、負のバイアス電圧パルスの周波数を「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」に設定した場合には、マイクロ波パルスの1周期内におけるマイクロ波の供給されていない供給停止時間内に複数の負のバイアス電圧パルスが印加されている。これにより、イオンや電子の衝撃回数が増えてDLC膜の密着性が向上している。
[実験例2]
次に、実験例2の結果について図12及び図13に基づいて説明する。実験例2は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」と「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」の各データを変更して、上記基本成膜処理(S11〜S23)によって被加工材料8の処理表面に成膜したDLC膜の成膜レート(nm/sec)の測定と上記密着性試験を行った。
成膜レート(nm/sec)は、球面研磨法による所謂CALOTESTにより、DLC膜の被加工材料8の表面からの厚さを測定し、中間層膜42及びDLC層膜43の各処理時間の合計時間(22秒)で除算して算出した。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、「処理時間(sec)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。従って、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波を30kHzの周波数で、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のマイクロ波パルス38を生成して、供給する。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータとして、「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数を成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
また、負のバイアス電圧パルスの周波数が、各周波数「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」のうちのいずれかに設定される毎に、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のデータとして、「0%」、「8%」、「16%」、「24%」、「32%」、「75%」の各デューティ比(第2デューティ比)のうちのいずれかを成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
従って、負のバイアス電圧パルスの周波数が「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」のうちのいずれかに設定される毎に、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波を30kHzの周波数で、「0%」、「8%」、「16%」、「24%」、「32%」、「75%」のうちのいずれかの「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のマイクロ波パルス38を生成して、供給する。
その結果、成膜レートテーブル55(図12参照)、及び、第2密着性測定結果テーブル56(図13参照)に示すように、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「20kHz」に設定した場合には、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「0%」に設定されたときに、成膜レートは「0.3nm/sec」で、密着性試験は「HF1」となり、合格(○)であった。一方、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「8%」〜「75%」に設定されたときには、成膜レートは「12.9nm/sec」〜「42.0nm/sec」で、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「75kHz」に設定した場合には、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「0%」〜「24%」に設定されたときに、成膜レートは「1nm/sec」〜「24.5nm/sec」で、密着性試験は「HF1」〜「HF3」となり、合格(○)であった。一方、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「32%」及び「75%」に設定されたときには、成膜レートは「33.6nm/sec」及び「82.0nm/sec」で、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「200kHz」に設定した場合には、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「0%」〜「24%」に設定されたときに、成膜レートは「1.7nm/sec」〜「26.5nm/sec」で、密着性試験は「HF1」〜「HF3」となり、合格(○)であった。一方、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「32%」及び「75%」に設定されたときには、成膜レートは「36.5nm/sec」及び「118.0nm/sec」で、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「250kHz」に設定した場合には、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「0%」〜「24%」に設定されたときに、成膜レートは「1.9nm/sec」〜「28.1nm/sec」で、密着性試験は「HF1」〜「HF3」となり、合格(○)であった。一方、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「32%」及び「75%」に設定されたときには、成膜レートは「38.1nm/sec」及び「120.0nm/sec」で、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
[実験例3]
次に、実験例3の結果について図14及び図15に基づいて説明する。実験例3は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」のデータを変更して、上記基本成膜処理(S11〜S23)によって被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜中における異常放電回数(アーキング回数)(回)の測定と上記密着性試験を行った。異常放電回数は、「0回」〜「59回」までを合格(○)とした。
ここで、被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜中に、異常放電(アーキング)が発生すると、所定時間、例えば、150マイクロ秒だけ負のバイアス電圧パルスの印加を停止する必要がある。そのため、異常放電回数が多いと、DLC膜の成膜レートの低下や、膜質のバラツキの発生に繋がる。また、異常放電が被加工材料8の表面で発生すると、DLC膜の表面に放電痕が生成され、異常放電回数が多いと、表面欠陥の発生に繋がる。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、「処理時間(sec)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」のデータとして、「1kHz」、「5kHz」、「10kHz」、「20kHz」、「30kHz」、「40kHz」の各周波数を成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
従って、負電圧パルス発生部16は、「200kHz」の周波数で、デューティ比(第1デューティ比)「80%」の負のバイアス電圧パルス39を生成して、負のバイアス電圧「−600V」で負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する。また、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波を「1kHz」〜「40kHz」の各周波数で、「8%」及び「75%」の各「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のマイクロ波パルス38を生成して、「1kW」の供給電力で供給する。
その結果、異常放電回数テーブル57(図14参照)、及び、第3密着性測定結果テーブル58(図15参照)に示すように、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」を「1kHz」に設定した場合には、DLC膜の成膜中における異常放電回数は、「3335回」で、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。また、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」が「5kHz」に設定されたときには、密着性試験は「HF3」であったが、DLC膜の成膜中における異常放電回数は、「60回」となり、不合格(×)であった。
一方、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」が、「10kHz」〜「30kHz」に設定されたときには、DLC膜の成膜中における異常放電回数は、「4回」〜「0回」で、密着性試験は、「HF3」〜「HF1」となり、合格(○)であった。また、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」が、「40kHz」に設定されたときには、密着性試験は「HF3」で、DLC膜の成膜中における異常放電回数は、「1回」であったが、DLC層膜43の表面に「表面荒れ」が発生し、不合格(×)であった。
[実験例4]
次に、実験例4の結果について図16及び図17に基づいて説明する。実験例4は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」のデータを成膜毎に変更して、上記基本成膜処理(S11〜S23)によって被加工材料8の処理表面に成膜したDLC膜の表面欠陥数(個/mm2)の計測と上記密着性試験を行った。
表面欠陥数(個/mm2)の計測は、DLC膜の撮影を行い、表面欠陥は周囲よりも濃く撮影されることを利用して、明るさを示す濃度閾値により2値化処理を行ったDLC膜の表面画像に対して画像処理範囲を1×1mm2に設定する。そして、設定した画像処理範囲内において濃く撮像された部分が内接する外接円の直径が10μm以上である部分を一つの表面欠陥と判断する閾値として抽出し計測した。表面欠陥数は、「0個/mm2」〜「18個/mm2」までを合格(○)とした。表面欠陥数が多い場合は、表面欠陥が起点となりDLC膜の剥離に結びつく虞があるため問題である。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」、「処理時間(sec)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧(V)」のデータとして、「−100V」、「−200V」、「−400V」、「−600V」、「−800V」の各負のバイアス電圧(V)を順番に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
従って、負電圧パルス発生部16は、「200kHz」の周波数で、デューティ比(第1デューティ比)「80%」の負のバイアス電圧パルス39を生成して、各負のバイアス電圧「−100V」〜「−800V」で負電圧電極25を介して被加工材料8に印加する。また、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波を「30kHz」の周波数で、「8%」及び「75%」の各「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」のマイクロ波パルス38を生成して、「1kW」の供給電力で供給する。
その結果、表面欠陥数テーブル59(図16参照)、及び、第4密着性測定結果テーブル61に示すように、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧(V)」を「−100V」に設定した場合には、DLC膜の表面欠陥数は、「3個/mm2」であったが、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
一方、「負のバイアス電圧(V)」が、「−200V」〜「−600V」に設定されたときには、DLC膜の表面欠陥数は、「1個/mm2」〜「10個/mm2」で、密着性試験は、「HF1」となり、合格(○)であった。また、「負のバイアス電圧(V)」が、「−800V」に設定されたときには、密着性試験は「HF1」であったが、DLC膜の表面欠陥数は、「420個/mm2」となり、不合格(×)であった。
[実験例5]
次に、実験例5の結果について図12及び図18に基づいて説明する。実験例5は、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータと、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータを成膜毎に変更して、上記基本成膜処理(S11〜S23)によって被加工材料8の処理表面に成膜したDLC膜の密着性試験を行った。つまり、上記S19において成膜される中間層膜42の膜厚さを「0nm」〜「1000nm」まで成膜毎に変更して、被加工材料8の処理表面に成膜したDLC膜の上記密着性試験を行った。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。また、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータは、図7に示すDLC層成膜データテーブル47のデータを用いた。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータとして、「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数を成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
また、負のバイアス電圧パルスの周波数が、各周波数「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」」のうちのいずれかに設定される毎に、図4に示す中間層膜42の膜厚さが「0nm」、「10nm」、「30nm」、「50nm」、「100nm」、「1000nm」になる「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータを図12に示す成膜レートテーブル55に基づいて算出し、成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
ここで、図12に示す成膜レートテーブル55から、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」の「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」が「30kHz」で、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「8%」に設定されたときの、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」が「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数における中間層膜42の成膜レートは、「12.9nm/sec」、「13.2nm/sec」、「12.8nm/sec」、「13.2nm/sec」である。
従って、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」の「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」が「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数に設定されたときの、中間層膜42の膜厚さが「0nm」、「10nm」、「30nm」、「50nm」、「100nm」、「1000nm」になる「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」は、各周波数における中間層膜42の成膜レートで割り算することによって算出できる。
例えば、「中間層膜の基本成膜条件」の「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」が「200kHz」に設定されたときの、中間層膜42の膜厚さが「0nm」、「10nm」、「30nm」、「50nm」、「100nm」、「1000nm」になる「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」は、それぞれ、「0sec」、「10/12.8=0.8sec」、「30/12.8=2.3sec」、「50/12.8=3.9sec」、「100/12.8=7.8sec」、「1000/12.8=78.1sec」となる。
尚、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」が「200kHz」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」が「30kHz」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「75%」、「処理時間(sec)」が「17sec」の場合には、成膜レートテーブル55(図12参照)からDLC層膜43の成膜レートは、「118.0nm/sec」である。従って、DLC層膜43(図4参照)の膜厚さは、118.0×17=2006nmとなり、被加工材料8の処理表面に膜厚さ約2μmのDLC膜が成膜される。
その結果、第5密着性測定結果テーブル63(図18参照)に示すように、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」とDLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「20kHz」に設定した場合には、被加工材料8の処理表面に成膜される中間層膜42の膜厚さが「0nm」〜「1000nm」に設定された全てにおいて、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数に設定した場合には、被加工材料8の処理表面に成膜される中間層膜42の膜厚さが「0nm」に設定されたときには、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。一方、被加工材料8の処理表面に成膜される中間層膜42の膜厚さが「10nm」〜「1000nm」に設定されたときには、密着性試験は「HF1」〜「HF4」となり、合格(○)であった。従って、中間層膜42の膜厚さが「10nm」以上であれば、密着性試験は合格(○)となり、好ましくは、「30nm」以上であれば、密着性試験は、「HF1」となり、合格(○)となる。
尚、中間層膜42は、膜厚さがあまりに薄いと被加工材料8の処理表面に島状に形成されてしまい、被加工材料8の処理表面全体を覆うことが難しく、DLC膜としての密着性が得られない場合がある。しかしながら、中間層膜42の膜厚さが10nm程度以上であれば、被加工材料8の処理表面全体を覆うことができ、被加工材料8に対するDLC膜の密着性を十分に確保することができる。
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る成膜装置1では、上記実験例1乃至実験例5から、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」を、図19に示す中間層成膜条件テーブル65の成膜条件に従って設定することにより、密着性試験が「HF1」〜「HF4」となる中間層膜42を被加工材料8の処理表面に成膜することが可能となる。
具体的には、図19に示すように、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧(V)」は、「−200V」〜「−800V」に設定し、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」は、「75kHz」〜「250kHz」に設定し、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」は、「63%」〜「93%」に設定し、つまり、負のバイアス電圧パルス39の印加時間T21(図3参照)を「3.6μsec」〜「12.3μsec」に設定する。
また、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波出力(kW)」を「1(kW)」に設定し、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」は、「6kHz」〜「39kHz」に設定し、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」は「8%」〜「24%」に設定し、つまり、マイクロ波パルス38の供給時間T11(図3参照)を「2.6μsec」〜「10μsec」に設定する。
好ましくは、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧(V)」は、「−200V」に設定し、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」は、「200kHz」に設定し、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」は、「80%」に設定する。また、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波出力(kW)」を「1(kW)」に設定し、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」は、「6kHz」に設定し、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」は「8%」に設定する。
そして、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」を「3sec」〜「5sec」に設定することにより、被加工材料8の処理表面に、膜厚さが「30nm」以上の中間層膜42を成膜することが可能となる。従って、密着性試験が「HF1」〜「HF4」となるDLC膜(中間層膜42+DLC層膜43)の成膜処理時間を従来よりも大幅に短縮することが可能となる。
また、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」を「24%」に設定し、「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数に設定することによって、密着性試験の「HF3」を維持しつつ、中間層膜42の成膜レート(nm/sec)の向上を図ることが可能となる。
また、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」を「6kHz」〜「39kHz」に設定することによって、異常放電回数を抑止して安定して成膜することが可能となると共に、被加工材料8の処理表面に成膜されたDLC膜の表面欠陥数を18(個/mm2)以下にすることが可能となる。
尚、本発明は前記実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。例えば、以下のようにしてもよい。尚、以下の説明において上記図1乃至図19の前記実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一符号は、前記実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
[他の第1実施形態]
例えば、他の第1実施形態に係る成膜装置1のCPU31は、上記「基本成膜処理」に替えて図20に示す「第2成膜処理」を実行して、被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜するようにしてもよい。先ず、上記成膜装置1と同様に、保持具9に保持された被加工材料8が処理容器2の内部に作業者によってセットされる。
その後、CPU31は、自動的に、若しくは、作業者による成膜開始指示が、不図示の操作部に設けられた操作ボタンを介して制御部6に入力されたことを検知することにより「第2成膜処理」を開始する。また、処理容器2内にセットされる被加工材料8の種類は、不図示のセンサにより検出され、対応する「ワーク種類」を中間層成膜データテーブル46、又はDLC層成膜データテーブル47から抽出する。抽出された「ワーク種類」はRAM32に記憶される。尚、「ワーク種類」は、作業者により不図示の操作部を介して入力され、RAM32に記憶されてもよい。
[第2成膜処理]
図20に示すように、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS11〜S16の処理を実行して、放射温度計29から入力された出力温度TP1が所定温度以上、例えば、250℃以上であると判定した場合、つまり、被加工材料8の表面のイオンクリーニングが終了したと判定した場合には(S16:YES)、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス38の出力を停止する。
また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止する。また、CPU31は、ガス供給部5へ不活性ガスArの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。その後、CPU31は、S16-2の処理に移行する。
S16−2において、CPU31は、ROM33又はHDD34から予め記憶されている「排気真空度(Pa)」のデータを読み出し、RAM32に記憶する。その後、CPU31は、真空ポンプ3を起動させた後、圧力調整バルブ7を全開に設定し、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、「排気真空度(Pa)」の真空度、例えば、「1Pa」になるのを待つ。そして、処理容器2の内部が、「排気真空度(Pa)」の真空度に達した場合には、CPU31は、S17の処理に移行する。その結果、CPU31は、処理容器2内のイオンクリーニング用の不活性ガス、例えば、不活性ガスArを排気した後、S17の処理に移行することが可能となる。
そして、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS17〜S19の処理を実行して、終了判定用タイマ36の計測時間が「処理時間(sec)」、例えば、「5sec」に達したと判定した場合、つまり、中間層膜42の成膜が終了したと判定した場合には(S19:YES)、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、マイクロ波発振器12は、パルス信号を受信しないため、マイクロ波パルス38の出力を停止する。
また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧パルス39及び正のバイアス電圧パルス41の印加を停止する。また、CPU31は、ガス供給部5へ不活性ガスAr及び原料ガスの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。この結果、不活性ガスAr及び原料ガスの供給が停止される。つまり、中間層膜42の成膜が停止される。その後、CPU31は、S19-2の処理に移行する。
S19−2において、ROM33又はHDD34から予め記憶されている「排気真空度(Pa)」のデータを再度、読み出し、RAM32に記憶する。その後、CPU31は、真空ポンプ3を起動させた後、圧力調整バルブ7を全開に設定し、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、「排気真空度(Pa)」の真空度、例えば、「1Pa」になるのを待つ。そして、処理容器2の内部が、「排気真空度(Pa)」の真空度に達した場合には、CPU31は、S20の処理に移行する。その結果、CPU31は、処理容器2内の中間層膜42を成膜した残りの中間層ガス(例えば、不活性ガスAr及び各原料ガスCH4、C2H2、TMS等)を排気した後、S20の処理に移行することが可能となる。
続いて、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS20〜S23の処理を実行して、真空計26からの信号に基づいて、処理容器2の内部の圧力が外気圧と同じになった場合には、液晶ディスプレイ(LCD)30に成膜終了である旨を表示し、成膜処理を終了する。これにより、作業者又は自動搬送機によってDLC膜が成膜された被加工材料8が取り出される。
従って、「第2成膜処理」では、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS11〜S16の処理を実行した後、S16ー2において、処理容器2内のイオンクリーニング用の不活性ガス、例えば、不活性ガスArを排気する。続いて、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS17〜S19の処理を実行した後、S19−2において、処理容器2内の中間層膜42を成膜した残りの中間層ガスを排気する。その後、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS20〜S23の処理を実行して、成膜処理を終了する。
尚、CPU31は、上記「第2成膜処理」のS11〜S16−2の処理を実行して、処理容器2内のイオンクリーニング用の不活性ガス、例えば、不活性ガスArを排気した後、上記「基本成膜処理」のS17〜S23の処理を実行して、成膜処理を終了するようにしてもよい。つまり、処理容器2内のイオンクリーニング用の不活性ガスを排気する排気工程のみ設けるようにしてもよい。
また、CPU31は、上記「基本成膜処理」のS11〜S19の処理を実行した後、上記「第2成膜処理」のS19−2〜S23の処理を実行して、成膜処理を終了するようにしてもよい。つまり、処理容器2内の中間層膜42を成膜した残りの中間層ガスを排気する排気工程のみ設けるようにしてもよい。
[実験例6]
ここで、実験例6の結果について図21に基づいて説明する。実験例6は、上記「基本成膜処理」、つまり、イオンクリーニング用の不活性ガスの排気工程、及び、中間層ガスの排気工程が設けられていない「排気工程無し」の成膜処理(S11〜S16〜S17〜S23)で成膜したDLC膜の上記密着性試験を行った。また、「イオンクリーニング用ガスのみ排気工程有り」の成膜処理(S11〜S16〜S16−2〜S17〜S23)で成膜したDLC膜の上記密着性試験を行った。
また、「中間層ガスのみ排気工程有り」の成膜処理(S11〜S19〜S19-2〜S20〜S23)で成膜したDLC膜の上記密着性試験を行った。また、上記「第2成膜処理」、つまり、「イオンクリーニング用ガスと中間層ガスの排気工程有り」の成膜処理(S11〜S16〜S16−2〜S17〜S19〜S19-2〜S20〜S23)で成膜したDLC膜の上記密着性試験を行った。
また、実験例6は、上記S11、及びS12において、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータと、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータを変更して、中間層膜42の膜厚さを「10nm」とした膜厚さ「2μm」のDLC膜を被加工材料8の処理表面に成膜した。
尚、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」と、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」のそれぞれにおける「負のバイアス電圧(V)」、「負のバイアス電圧パルスのデューティ比(%)」、「マイクロ波出力(kW)」、「マイクロ波パルスの周波数(kHz)」、「マイクロ波パルスのデューティ比(%)」、「ガス流量(sccm)」、「圧力(Pa)」の各データは、図6に示す中間層成膜データテーブル46と、図7に示すDLC層成膜データテーブル47の各データを用いた。また、DLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータは、図7に示すDLC層成膜データテーブル47のデータを用いた。
具体的には、上記基本成膜処理の上記S11及び上記S12において、作業者が不図示の操作部を介して、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」のデータとして、「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数を成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
また、各周波数「20kHz」、「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」毎に、図4に示す中間層膜42の膜厚さが「10nm」になる「中間層膜の基本成膜条件」における「処理時間(sec)」のデータを図12に示す成膜レートテーブル55の「30kHzマイクロ波パルスのデューティ比(%)」が「8%」に設定されたときの、各「成膜レート(nm/sec)」に基づいて算出し(例えば、約0.8sec〜約1sec)、成膜毎に制御部6に入力し、CPU31が各データをRAM32に記憶するようにした。
その結果、第6密着性測定結果テーブル67(図21参照)に示すように、中間層成膜データテーブル46の「中間層膜の基本成膜条件」とDLC層成膜データテーブル47の「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「20kHz」に設定した場合には、上記「基本成膜処理」、つまり、「排気工程無し」の成膜処理、「イオンクリーニング用ガスのみ排気工程有り」の成膜処理、「中間層ガスのみ排気工程有り」の成膜処理、及び、上記「第2成膜処理」、つまり、「イオンクリーニング用ガスと中間層ガスの排気工程有り」の成膜処理の全てにおいて、密着性試験は「HF5」となり、不合格(×)であった。
また、「中間層膜の基本成膜条件」と「DLC層膜の基本成膜条件」における「負のバイアス電圧パルスの周波数(kHz)」を「75kHz」、「200kHz」、「250kHz」の各周波数に設定した場合には、上記「基本成膜処理」、つまり、「排気工程無し」の成膜処理において成膜されたDLC膜の密着性試験は、全て「HF4」となり、合格(○)であった。
また、「イオンクリーニング用ガスのみ排気工程有り」の成膜処理において成膜されたDLC膜の密着性試験は、全て「HF3」となり、合格(○)であった。また、「中間層ガスのみ排気工程有り」の成膜処理において成膜されたDLC膜の密着性試験は、全て「HF3」となり、合格(○)であった。また、上記「第2成膜処理」、つまり、「イオンクリーニング用ガスと中間層ガスの排気工程有り」の成膜処理において成膜されたDLC膜の密着性試験は、全て「HF2」となり、合格(○)であった。
従って、被加工材料8の処理表面のイオンクリーニング終了後に、「イオンクリーニング用ガスの排気工程」(S16−2)を行って被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜することによって、DLC膜の密着性の向上を図ることが可能となる。また、被加工材料8の処理表面に中間層膜42を成膜した後、「中間層ガスの排気工程」(S19−2)を行って被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜することによって、DLC膜の密着性の向上を図ることが可能となる。
また、「イオンクリーニング用ガスの排気工程」(S16−2)と「中間層ガスの排気工程」(S19−2)の両工程を行うことによって、被加工材料8の処理表面に成膜されたDLC膜の密着性の更なる向上を図ることが可能となる。これらの排気工程を追加することによって、前工程におけるガス比率等の影響を受けることなく、成膜環境を整えて成膜することが可能となり、密着性や成膜速度の向上のために好ましい。