以下、本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置について図面を参照しつつ説明する。
<本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電動制動装置DSSの全体構成図である。車両には、電動制動装置DSS、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、駐車ブレーキ用スイッチPSW、回転部材(例えば、ブレーキディスク、ブレーキドラム)KTB、及び、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド、ブレーキシュー)MSBが備えられる。電動制動装置DSSは、電子制御ユニットECU、通信線SGL、及び、制動手段BRKにて構成される。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPの操作に応じて、制動手段BRKによって、車輪WHLの制動トルクが調整される。その結果として、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。
制動操作部材BPには、操作量取得手段BPAが設けられる。操作量取得手段BPAによって、制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダの圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力を検出するセンサ(踏力センサ)、及び、制動操作部材BPの操作変位を検出するセンサ(ストロークセンサ)のうちの、少なくとも1つが採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。検出された制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
駐車ブレーキ用スイッチ(単に、駐車スイッチともいう)PSWは、運転者によって操作されるスイッチであり、オン又はオフの信号Psw(駐車信号という)を、電子制御ユニットECUに対して出力する。即ち、運転者は、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキの作動又は解除を、駐車スイッチPSWの操作によって指示する。具体的には、駐車信号Pswのオン(ON)状態で駐車ブレーキの作動が指示され、駐車信号Pswのオフ(OFF)状態で駐車ブレーキの解除が指示される。
≪電子制御ユニットECU≫
電子制御ユニットECUは、指示押圧力演算ブロックFBS、指示通電量演算ブロックIMS、駐車ブレーキ演算ブロックIPS、目標通電量演算ブロックIMT、及び、車体側通信部CMBにて構成される。ここで、車両を減速し、停止させる通常ブレーキに係るもの(指示押圧力演算ブロックFBS、指示通電量演算ブロックIMS、及び、目標通電量演算ブロックIMT)が「通常ブレーキ制御手段SBC」と称呼され、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキに係るもの(駐車ブレーキ演算ブロックIPSと目標通電量演算ブロックIMT)が「駐車ブレーキ制御手段PKC」と称呼される。また、通常ブレーキ制御手段SBCと駐車ブレーキ演算ブロックIPSとが総称されて、「制御手段CTL」と称呼される。
指示押圧力演算ブロックFBS(通常ブレーキ制御手段SBCに相当)では、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押す力(押圧力)に関する目標値(指示押圧力)Fbsが演算される。具体的には、指示押圧力Fbsは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された演算マップCHfsに基づいて、制動操作量Bpaが増加するにしたがって指示押圧力Fbsがゼロから単調増加するように演算される。ここで、指示押圧力Fbsは通常ブレーキ機能における目標値Fbsであり、指示押圧力演算ブロックFBSから指示通電量演算ブロックIMSに入力される。
指示通電量演算ブロックIMSにて、目標押圧力Fbsに基づいて、指示通電量Imsが演算される。指示通電量Imsは、通常ブレーキにおける(即ち、運転者の制動操作部材BPの操作による)電気モータMTRへの通電量の目標値である。具体的には、指示通電量Imsは、指示押圧力Fbs、及び、予め設定された演算マップCHisに基づいて、指示押圧力Fbsが増加するにしたがって指示通電量Imsがゼロから単調増加するように演算される。指示通電量Imsは、目標通電量演算ブロックIMTに入力される。
駐車ブレーキ演算ブロックIPS(駐車ブレーキ制御手段PKCに相当)では、駐車信号Psw、実押圧力Fba、及び、歯車回転角Rka(又は、モータ回転角Mka)に基づいて、駐車ブレーキ制御用の信号Ipt(駐車通電量)、Scd(指示信号)が演算される。駐車通電量Iptは目標通電量演算ブロックIMTに入力され、指示信号Scdは車体側通信部CMBに入力される。
目標通電量演算ブロックIMT(通常ブレーキ制御手段SBC、及び、駐車ブレーキ制御手段PKCに相当)では、指示通電量Ims(通常ブレーキの通電目標値)Fbs、及び、駐車通電量Iptに基づいて、電気モータMTRへの通電状態(最終的には電流の大きさと方向)の目標値である目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Imsと駐車通電量Iptとが比較され、それらのうちで、大きい方が目標通電量Imtとして、車体側通信部CMBに入力される。
目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向(押圧力の増加方向)に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向(押圧力の減少方向)に駆動される。また、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きくなるように制御され、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。なお、上記の駐車ブレーキ演算ブロックIPS、及び、目標通電量演算ブロックIMTの詳細については後述する。
車体側通信部CMBでは、通信線SGLを介して、制動手段BRK内の駆動手段DRV(特に、車輪側通信部CMW)との間で信号の送受信が行われる。車体側通信部CMBからは、目標通電量Imt、及び、駐車ブレーキの指示信号Scdが、車輪側通信部CMWに送信される。車輪側通信部CMWからは、実際の押圧力Fba、ラチェット歯車の回転角Rka、及び、電気モータの回転角Mkaが、車体側通信部CMBに送信される。
通信線SGLは、車体に固定される電子制御ユニットECUと、車輪に固定される制動手段BRKとの間の通信手段である。信号線SGLとして、シリアル通信バス(例えば、CANバス)が採用され得る。
≪制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK≫
制動手段BRKは、車輪WHLに設けられ、車輪WHLに制動トルクを与え、制動力を発生させる。制動手段BRKによって、走行中の車両は減速される(即ち、通常ブレーキとして機能する)。また、制動手段BRKは、車両の停止中には、その停止状態を維持する駐車ブレーキとして機能する。
制動手段BRKとして、所謂、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示されている。この場合、摩擦部材MSBはブレーキパッドであり、回転部材KTBはブレーキディスクである。制動手段BRKは、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)であってもよい。ドラムブレーキの場合、摩擦部材MSBはブレーキシューであり、回転部材KTBはブレーキドラムである。
制動手段BRK(ブレーキアクチュエータ)は、ブレーキキャリパCRP、押圧部材PSN、電気モータMTR、位置取得手段MKA、減速機GSK、入力部材SFI、出力部材SFO、ねじ部材NJB、押圧力取得手段FBA、駆動手段DRV、及び、駐車ブレーキ用ロック機構LOKにて構成される。上記の各部材(PSN等)は、ブレーキキャリパCRPの内部に収納されている。
ブレーキキャリパCRP(単に、キャリパともいう)として、浮動型キャリパが採用され得る。キャリパCRPは、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCRP内にて、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材KTBに対して移動(前進、又は、後退)される。押圧部材PSNの移動によって、摩擦部材MSBが回転部材KTBに押し付けられて摩擦力が発生する。
押圧部材PSNの移動は、電気モータMTRの動力によって行われる。具体的には、電気モータMTRの出力(モータ軸まわりの回転動力)が、減速機GSKを介して、出力部材SFOに伝達される。そして、出力部材SFOの回転動力(トルク)が、ねじ部材NJBによって、直線動力(押圧部材の軸方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。その結果、押圧部材PSNが、回転部材KTBに対して移動される。押圧部材PSNの移動によって、摩擦部材MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)が調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLの制動力が調整される。
電気モータMTRは、押圧部材PSNを駆動(移動)するための動力源である。例えば、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、又は、ブレシレスモータが採用され得る。電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。
位置取得手段(例えば、回転角センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(回転角)Mkaを取得(検出)する。検出された回転角Mkaは、駆動手段DRV(具体的には、駆動手段DRV内のプロセッサ)に入力される。位置取得手段MKAは、後述する歯車回転角取得手段RKAを兼ね得る。即ち、歯車回転角Rkaとして、モータ回転角Mkaが採用され得る。
押圧力取得手段(例えば、押圧力センサ)FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaを取得(検出)する。検出された実際の押圧力Fbaは、駆動手段DRV(具体的には、DRV内のプロセッサ)に入力される。例えば、押圧力取得手段FBAは、出力部材SFOとキャリパCRPとの間に設けられる。
駆動手段DRV(駆動回路)は、電気モータMTR、及び、ソレノイドアクチュエータSOLを駆動する電気回路である。駆動手段DRVは、プロセッサ(演算処理装置)、ブリッジ回路HBR等にて構成される。駆動手段DRVによって、目標通電量Imtに基づいて電気モータMTRが制御され、指示信号Scdに基づいてソレノイドSOLが駆動される。
駐車ブレーキ用ロック機構LOK(単に、ロック機構ともいう)は、車両の停止状態を維持するブレーキ機能(所謂、駐車ブレーキ)のため、電気モータMTRが、逆転方向に回転しないようにロックする。ロック機構LOKによって、押圧部材PSNが回転部材KTBに対して離れる方向に移動することが拘束(制限)され、摩擦部材MSBによる回転部材KTBの押圧状態が維持される。ここで、ロック機構LOKは、電気モータMTRと減速機GSKとの間に設けられ得る。
<駆動手段DRV>
図2の概要図を参照して、駆動手段DRVについて説明する。これは、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される場合の例である。駆動手段DRVによって、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLが駆動される。駆動手段DRVは、車輪側通信部CMW、モータ駆動部DRM、及び、ソレノイド駆動部DRSにて構成される。
駆動手段DRV(駆動回路)には、電力線PWLを介して、蓄電池BAT、発電機ALTから電力が供給される。駆動手段DRVには、押圧力取得手段FBAの取得結果(実押圧力)Fba、位置取得手段MKAの取得結果(モータ回転角)Mka、及び、ラチェット歯車の回転角取得手段RKAの取得結果(歯車回転角)Rkaが入力される。さらに、駆動手段DRV(特に、車輪側通信部CMW)には、信号線SGLを介して、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLを制御(駆動)するための信号Imt、Scdが、電子制御ユニットECU(特に、車体側通信部CMB)から入力される。逆に、駆動手段DRVから電子制御ユニットECUには、信号線SGLを介して、実押圧力Fba、歯車回転角Rka、及び、モータ回転角Mkaが出力される。
≪モータ駆動部DRM≫
モータ駆動部DRMは、ブリッジ回路HBR、パルス幅変調ブロックPWM、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
ブリッジ回路は、双方向の電源を必要とすることなく、単一の電源で電気モータへの通電方向が変更され、電気モータの回転方向(正転方向、又は、逆転方向)が制御され得る回路である。ブリッジ回路HBRは、スイッチング素子SW1乃至SW4によって構成される。スイッチング素子SW1乃至SW4は、電気回路の一部をオン(通電)/オフ(非通電)できる素子である。スイッチング素子SW1〜SW4は、スイッチング制御ブロックSWTからの信号Sw1〜Sw4によって駆動される。夫々のスイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクとが調整される。例えば、スイッチング素子として、MOS−FET、IGBTが用いられる。
電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、スイッチング素子SW1、SW4が通電状態(オン状態)にされ、スイッチング素子SW2、SW3が非通電状態(オフ状態)にされる。逆に、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、スイッチング素子SW1、SW4が非通電状態(オフ状態)にされ、スイッチング素子SW2、SW3が通電状態(オン状態)にされる。即ち、電気モータMTRの逆転駆動では、電流が正転駆動とは逆方向に流される。
ブラシ付モータに代えて、ブラシレスモータが採用される場合、ブリッジ回路HBRは、6つのスイッチング素子によって構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、デューティ比Dutに基づいて、スイッチング素子の通電状態/非通電状態が制御される。ブラシレスモータでは、位置取得手段MKAによって、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、実際の位置Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子が制御される。スイッチング素子によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、電気モータMTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
ブリッジ回路HBRには、電気モータ用の通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが設けられる。通電量取得手段IMAは、電気モータMTRの通電量(実際値)Imaを取得する。例えば、モータ電流センサIMAによって、実通電量Imaとして、実際に電気モータMTRに流れる電流値が検出され得る。
パルス幅変調ブロックPWMでは、目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調を行うための指示値(目標値)Dutが演算される。具体的には、パルス幅変調ブロックPWMでは、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(周期的なパルス波において、その周期に対するオン状態の割合)が決定される。併せて、パルス幅変調ブロックPWMでは、目標通電量Imtの符号(正符号、又は、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向が決定される。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(電源電圧)、及び、デューティ比Dutによって最終的な出力電圧が決まるため、パルス幅変調ブロックPWMでは、電気モータMTRの回転方向と、電気モータMTRへの通電量(即ち、電気モータMTRの出力)が決定される。
さらに、パルス幅変調ブロックPWMでは、所謂、電流フィードバック制御が実行される。通電量取得手段IMAの検出値(例えば、実際の電流値)Imaが、パルス幅変調ブロックPWMに入力され、目標通電量Imtと、実際の通電量Imaとの偏差eImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、目標値Imtと実際値Imaとが一致するよう、高精度なモータ制御が達成され得る。
スイッチング制御ブロックSWTでは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子SW1〜SW4を駆動する信号(駆動信号)Sw1〜Sw4が決定される。これらの駆動信号Sw1〜Sw4によって、各スイッチング素子SW1〜SW4における通電/非通電、及び、単位時間当りの通電時間が制御される。即ち、駆動信号Sw1〜Sw4によって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクが制御される。
≪ソレノイド駆動部DRS≫
ソレノイド駆動部DRSは、スイッチング素子SS、及び、ソレノイド制御ブロックCSLにて構成される。スイッチング素子SSは、ソレノイドSOLへの通電状態を制御する。具体的には、スイッチング素子SSは、電気回路の一部をオン(通電)/オフ(非通電)できる素子であり、駆動信号Ssに基づいて、スイッチング素子SSの通電/非通電の状態が切り替えられる。これによって、ソレノイドSOLの吸引力の発生/解除が切り替えられる(即ち、ソレノイドSOLが駆動される)。例えば、スイッチング素子SSとして、MOS−FET、IGBT、又は、リレーが用いられ得る。
ソレノイド制御ブロックCSLにて、指示信号Scdがソレノイドの駆動信号Ssに変換されてスイッチング素子SSに出力される。ソレノイド駆動部DRSには、ソレノイド用の通電量取得手段(例えば、電流センサ)ISAが設けられる。通電量取得手段ISAは、ソレノイドSOLの通電量(実際値)Isaを取得する。例えば、ソレノイド電流センサISAによって、実通電量Isaとして、実際にソレノイドSOLに流れる電流値が検出され得る。
<駐車ブレーキ用のロック機構>
図3の概要図を参照して、駐車ブレーキ用ロック機構(単に、ロック機構という)LOKについて説明する。ロック機構LOKでは、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの咬み合いによって、その機能を発揮する。ここで、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っている場合(ロック機構LOKが作動している場合)が、駐車ブレーキが効いている状態であり、咬み合っていない場合(ロック機構LOKが非作動の場合)が、駐車ブレーキが効いていない状態である。
先ず、ロック機構LOKの構造について説明する。ロック機構LOKは、ラチェット機構(つめブレーキ)として構成される。ラチェット機構は、回転動作を一方向に制限するものである。したがって、ロック機構LOKは、ラチェット機構が咬み合った状態で、一方向の回転(矢印Fwdで示す方向)を許容するが、他方向の回転(矢印Rvsで示す方向)を拘束する(動きを制限する)。図3(a)は、駐車ブレーキの解除維持状態(つめ部材TSUが解除位置にある状態)を示し、図3(b)は、駐車ブレーキの係合維持状態(つめ部材TSUが咬合位置にある状態)を示している。
ロック機構LOKは、ソレノイドアクチュエータSOL、つめ部材TSU、ガイド部材GID、ラチェット歯車RCH、及び、弾性部材SPRにて構成される。
ソレノイドアクチュエータ(単に、ソレノイドともいう)SOLは、キャリパCRPに固定される。ロック機構LOKが解除状態から咬合状態に遷移する場合、ソレノイドSOLへの通電によって、ソレノイドSOLの一部であるプッシュバーPSBによって、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに向けて押圧される。具体的には、つめ部材TSUが、ラチェット歯車RCHの回転軸に近づく方向(咬合方向)Ddwに、ソレノイドSOLから力を受ける。つめ部材TSUは、キャリパCRPに固定されるガイド部材GIDによって位置決めされ、咬合方向Ddw、及び、その反対方向(解除方向)Dupの動きに限って許容されている。つめ部材TSUが、ラチェット歯車RCHと咬み合うことによって、駐車ブレーキ機能が発揮される。
ソレノイドSOLは、コイルCOL、固定鉄芯(ベースともいう)BAS、可動鉄芯(プランジャともいう)PLN、プッシュバーPSB、及び、ハウジングHSGにて構成される。ハウジングHSGの内に、コイルCOL、及び、ベースBASは収められ、ハウジングHSGは、キャリパCRPに固定される。即ち、ソレノイドSOLは、キャリパCRPに固定される。
コイルCOLは、導線に電流が流されることによって磁界を発生する。通電によって、コイルCOLに磁界が発生されると、固定鉄芯(ベース)BASに磁束が通り、BASが可動鉄芯(プランジャ)PLNを吸引する。そして、通電している間は、プランジャPLNはベースBASに常に吸引されるが、通電が遮断されると、この吸引力は消滅される。プランジャPLNにプッシュバーPSBが固定され、プランジャPLNの吸引動作に応じて、プッシュバーPSBによって、つめ部材TSUが押される。
つめ部材TSUは、一方の端部に突起部(つめ)が設けられる。この突起部分が、ラチェット歯車RCHと咬み合わされる。つめ部材TSUの他方の端部は、プッシュバーPSBに当接されている。ソレノイドSOLへの通電が行われると、つめ部材TSUはプッシュバーPSBに押されて、ラチェット歯車RCHに向かう方向(咬合方向)Ddwに移動される。
つめ部材TSUの突起形状(つめ形状)において、すくい角αが設けられる。ここで、すくい角αは、つめ部材TSUのつめとラチェット歯車RCHとの接触部と、咬合方向Ddwとのなす角度である。つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされている状態で、つめ部材TSUは、ラチェット歯車RCHとの接触部において、ラチェット歯車RCHから力を受ける。すくい角αによって、この力の分力が咬合方向Ddwに作用するため、ソレノイドSOLへの通電が停止された後も、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合った状態が維持される。
ラチェット歯車RCHは入力部材SFIに固定され、電気モータMTRと一体となって回転する。ラチェット歯車RCHには、一般的な歯車とは異なり、方向性をもつ歯(のこぎり状の歯)が形成される。この「のこぎり歯」形状によって、ラチェット歯車RCHの回転軸まわりの運動に対する方向性が生じる。具体的には、電気モータMTRの正転方向に対応する回転運動(PSNがKTBに近づき、Fbaが増加し、制動トルクが増加する方向の動き)Fwdは許容されるが、電気モータMTRの逆転方向に対応する動き(PSNがKTBから離れ、Fbaが減少し、制動トルクが減少する方向の動き)Rvsは拘束(ロック)される。ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとが咬み合わされると、押圧部材PSN(即ち、摩擦部材MSB)が回転部材KTBから離れる方向に相当する電気モータMTRの回転(逆転方向Rvs)が制限される。
弾性部材(例えば、復帰スプリング)SPRが、圧縮された状態で、ガイド部材GID(即ち、キャリパCRP)とつめ部材TSUとの間に設けられる。従って、弾性部材SPRは、ガイド部材GID(キャリパCRP)に対して、咬合方向Ddwとは反対方向(解除方向)Dupに、常時、つめ部材TSUを押し付けている。ソレノイドSOLに通電されることによってプランジャPLNがソレノイドSOL内に引き込まれ、プッシュバーPSBがつめ部材TSUを咬合方向Ddwに押圧する。即ち、ソレノイドSOLの可動部材PSBがつめ部材TSUに及ぼす咬合方向Ddwの力(咬合力)が発生される。弾性部材SPRによる押し付け力(ばね力であって、TSUを解除方向Dupに押す力である解除力)よりもソレノイドSOLの吸引力(咬合力)が大きくなると、つめ部材TSUが咬合位置に移動され、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされる(図3(b)参照)。しかし、ソレノイドSOLへの通電が停止されると、ソレノイドSOLの吸引力が失われ、弾性部材SPRによって、つめ部材TSU及びプッシュバーPSB(プランジャPLN)が解除位置にまで戻される(図3(a)参照)。
ラチェット歯車RCHと同軸に、ラチェット歯車RCHの回転角(歯車回転角)Rkaを取得(検出)する歯車回転角取得手段RKAが設けられる。即ち、電気モータMTRから減速機GSKへの入力部材(入力シャフト)SFIに、歯車回転角取得手段RKAが固定される。歯車回転角Rkaとして、モータ回転角取得手段(位置取得手段)MKAの取得結果(モータ回転角)Mkaが採用され得る。また、減速機GSKのギア比は既知であるため、歯車回転角取得手段RKAは減速機GSKの出力部材(出力シャフト)SFOに設けられ得る。(以上、図1参照)
≪つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの咬み合いにおける状態遷移≫
つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが、咬み合っていない状態から咬み合う状態に遷移する場合について説明する。図3(a)は、ソレノイドSOLへの通電が行われておらず、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていない場合(解除維持状態)を示す。ここで、つめ部材TSUは、弾性部材SPRの弾性力によってソレノイドSOL(又は、キャリパCRP)に押し付けられている。この状態における、つめ部材TSUの位置(TSUがRCHから最も離れた位置)が、「解除位置」と称呼される。
電気モータMTRに通電が行われて、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動され、これに伴い、押圧力Fbaが増加される。そして、押圧力Fbaが所定値に到達した後に、ソレノイドSOL(即ち、コイルCOL)への通電が開始される。この通電によって、プランジャPLNがベースBASに吸引され、咬合方向DdwにプランジャPLNが引き寄せられる。ソレノイドSOLの吸引力(即ち、PSBがTSUを押す力である咬合力)が弾性部材SPRの弾性力(即ち、TSUとRCHとの咬み合いを解除する力である解除力)よりも大きくなることによって、プランジャPLNに固定されているプッシュバーPSBが、つめ部材TSUを咬合方向Ddwに移動させる。このとき、つめ部材TSUの移動は、ガイド部材GIDによって案内される。
つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに接触した状態で、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動される。この結果、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに確実に咬み合わされる。この咬み合い状態が確認された後に、ソレノイドSOLへの通電が停止されるとともに、電気モータMTRへの通電も停止される(図3(b)の係合維持状態)。
つめ部材TSUにはすくい角α(TSUの中心軸Jtsと、TSUとRCHとの接触部とがなす角度)が設けられ、これに対応するようにラチェット歯車RCHには傾き角β(RCHの歯先とRCHとの回転軸を結んだ直線と、TSUとRCHとの接触部とがなす角度)が設けられる。つめ部材TSU(特に、ラチェット歯車RCHとの接触部)には、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性によってラチェット歯車RCHからの力(接線力)が作用する。すくい角αによる接線力の分力は、咬合方向Ddwに作用するため、通電停止後の咬み合い状態が、確実に維持され得る。
次に、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが、咬み合う状態から咬み合っていない状態に遷移する場合について説明する。図3(b)に示すように、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電が行われていない状態でも、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされる状態が維持される。電気モータMTRへの通電が行われることによって、この咬み合い状態が解除される。このとき、ソレノイドSOLへの通電は停止されたままである。
電気モータMTRが駆動されて、正転方向Fwdに回転されると、つめ部材TSUは、咬み合わされていたラチェット歯車RCHの歯を乗り越える。このとき、弾性部材(圧縮ばね)SPRの弾性力(ばね力)によって、つめ部材TSUは、ラチェット歯車RCHから離れる方向(解除方向)Dupに、解除位置まで移動される。具体的には、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとが咬み合った状態において、ラチェット歯車RCHが、ラチェット歯車RCHの歯先とラチェット歯車RCHの回転中心を結ぶ直線と、つめ部材TSUのつめ先とラチェット歯車RCHの回転中心とを結ぶ直線とのなす角度γ(「咬合角」と称呼する)よりも大きく回転すると、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとの咬み合い状態が解消される。この結果、つめ部材TSUは、弾性部材SPRに押されて、図3(a)に示す状態に戻る。なお、咬合角γは、角度α、β、及び、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの幾何的関係(つめ部材TSUの中心軸Jtsと、ラチェット歯車RCHの回転軸Jrcとの距離)で、予め設定されている値である。
<駐車ブレーキの制御状態>
図4の状態遷移図を参照して、駐車ブレーキ制御における制御状態について説明する。駐車ブレーキの制御状態には、基本的には、「係合作動」、「係合維持」、「解除作動」、及び、「解除維持」の4つの状態が存在する。さらに、特殊な状態として、「再係合作動」がある。
「係合維持」は、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合う状態」が維持されている場合である。即ち、係合維持状態では、駐車ブレーキ機能が発揮されている。「解除維持」は、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていない状態」が維持されている場合である。即ち、解除維持状態では、駐車ブレーキ機能が発揮されていない。
「係合作動」は、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていない状態」から「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合う状態」に遷移させる作動である。逆に、「解除作動」は、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合う状態」から「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていない状態」に遷移させる作動である。さらに、「再係合作動」は、運転者によって制動操作部材BPが強く操作されたことによって、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合う状態」が解除されてしまった場合に、上記の係合作動が再度行われることである。
解除維持状態において、運転者が駐車スイッチPSWをオフ状態からオン状態に操作すると、駐車信号Pswもオフ状態からオン状態に変化する。この変化に基づいて、係合作動の実行が開始される。係合作動では、先ず、摩擦部材MSBの回転部材KTBに対する押圧力の調整処理(押圧力調整処理)が行われる。続けて、ラチェット歯車RCHの停止処理(歯車停止処理)、つめ部材TSUの押圧処理(つめ押圧処理)、及び、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの咬合確保処理が実行される。歯車停止処理、つめ押圧処理、及び、咬合確保処理をまとめて、「咬合処理」と称呼される。咬合処理として、具体的には、駐車ブレーキ制御手段PKCは、電気モータMTRへの通電状態を一定にしてラチェット歯車RCHの回転運動を停止した上で、ソレノイドSOLに通電してつめ部材TSUをラチェット歯車RCHに押圧した後に、押圧力Fbaを減少する方向に電気モータMTRが回転するよう通電状態を調整する。
係合作動の実行(即ち、咬合処理)が終了されると、駐車ブレーキは係合維持状態となる。この状態では、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電は不必要である。
係合維持状態において、制動操作部材BPの操作が行われると、再係合作動が開始される。再係合作動では、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っているか、否かの咬合判定処理が行われる。そして、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていないことが判定されると、係合作動の押圧力調整処理とは異なる、再係合作動の押圧力調整処理が実行される。該処理に続けて、係合作動の咬合処理と同様の処理が実行される。再係合作動が終了されると、係合維持状態に戻る。
係合維持状態において、運転者が駐車スイッチPSWをオン状態からオフ状態に操作すると、駐車信号Pswもオン状態からオフ状態に変化する。この変化に基づいて、解除作動の実行が開始される。そして、解除作動が終了すると、駐車ブレーキの解除維持状態となる。
<駐車ブレーキ制御>
図5のフロー図を参照して、駐車ブレーキ制御の全体について説明する。駐車ブレーキ制御では、駐車信号Pswに基づいて、前述した4つの制御状態(係合作動状態、係合維持状態、解除作動状態、及び、解除維持状態)のうちの何れか1つが選択される。
ステップS100にて、駐車信号Pswにおける、前回の演算サイクルにおける前回値Psw(n−1)、及び、今回の演算サイクルにおける今回値Psw(n)が読み込まれる。次に、ステップS110に進む。ステップS110にて、前回値Psw(n−1)と今回値Psw(n)とが対比される。前回値Psw(n−1)と今回値Psw(n)とが一致している場合(「YES」の場合)には、ステップS120に進む。一方、前回値Psw(n−1)と今回値Psw(n)とが不一致である場合(「NO」の場合)には、ステップS130に進む。
ステップS120にて、今回の演算サイクルにおいて駐車信号Psw(n)がオン状態であるか、否かが判定される。駐車信号Psw(n)がオン状態である場合(「YES」の場合)には、ステップS140に進む。一方、駐車信号Psw(n)がオフ状態である場合(「NO」の場合)には、ステップS150に進む。ステップS130にて、ステップS130と同様に、今回値Psw(n)がオン状態であるか、否かが判定される。駐車信号Psw(n)がオン状態である場合(「YES」の場合)には、ステップS160に進む。一方、駐車信号Psw(n)がオフ状態である場合(「NO」の場合)には、ステップS170に進む。
ステップS140では、係合状態の維持が行われる(駐車ブレーキの制御状態では係合維持状態)。ステップS150では、解除状態の維持が行われる(制御状態では解除維持状態)。ステップS160では、係合作動が実行される(制御状態では係合作動状態)。ステップS170では、解除作動が実行される(制御状態では解除作動状態)。ステップS140〜S170の処理後は、ステップS180に進み、今回値Psw(n)が前回値Psw(n−1)として記憶される。そして、処理は、ステップS100に戻される。
<押圧力調整処理>
図6のフロー図を参照して、駐車ブレーキ制御の係合作動における押圧力調整処理について説明する。駐車信号において、前回値Psw(n−1)がオフ状態で、今回値Psw(n)がオン状態である時に、ステップS160に移行し、係合作動が開始される(図5参照)。
先ず、ステップS200にて、時間カウンタ(タイマ)が開始される。次に、ステップS210に進み、押圧力Fba、及び、指示通電量Imsが読み込まれる。そして、ステップS220に進み、駐車通電量Iptがパターン出力される。駐車通電量Iptは、駐車ブレーキ制御用の電気モータMTRの通電量の目標値である。具体的には、ブロックB220の時系列特性CHipで示すように、時間カウンタが開始された時点をゼロ(起点)として、時間勾配kz0で増加し、上限値ipmとなるよう、駐車通電量Iptが出力される。ここで、上限値ipmは、ブレーキアクチュエータBRKにおける動力伝達効率を考慮して、確実に実押圧力Fbaが、後述する値fbuよりも大きくなるように設定される。
ステップS230にて、実際の押圧力Fbaが下方値(所定しきい値)fbsよりも小さいか、否かが判定される。押圧力Fbaが値fbsよりも小さい場合(「YES」の場合)には、ステップS240に進む。ここで、下方値fbsは、予め設定された所定値である。一方、押圧力Fbaが値fbs以上である場合(「NO」の場合)には、ステップS250に進む。ステップS240にて、駐車通電量Iptが指示通電量Imsよりも大きいか、否かが判定される。駐車通電量Iptが指示通電量Imsよりも大きい場合(「YES」の場合)には、ステップS260に進む。一方、駐車通電量Iptが指示通電量Ims以下である場合(「NO」の場合)には、ステップS270に進む。
ステップS250にて、押圧力Fbaが上方値(所定しきい値)fbuよりも大きいか、否かが判定される。ここで、上方値fbuは、下方値fbs以上であり、予め設定された所定値である。押圧力Fbaが値fbuよりも大きい場合(「YES」の場合)には、ステップS270に進む。押圧力Fbaが値fbu以下である場合(「NO」の場合)には、係合作動の押圧力調整処理が終了され、係合作動の咬合処理が開始される。
ステップS260では、目標通電量Imtとして駐車通電量Iptが出力される。即ち、ステップS260では、駐車ブレーキ制御手段PKCによって目標通電量Imtが決定される。その後、処理はステップS200に戻される。ステップS270では、目標通電量Imtとして指示通電量Imsが出力される。即ち、ステップS270では、通常ブレーキ制御手段SBCによって目標通電量Imtが決定される。その後、ステップS200に処理が戻される。
以上、フロー図を参照して説明したように、係合作動の押圧力調整処理では、押圧力Fbaが下方値fbs(≦fbu)よりも小さい条件では、駐車通電量Ipt、及び、指示通電量Imsのうちの大きい方が、目標通電量Imtとして出力される。押圧力Fbaが上方値fbu(≧fbs)よりも大きい条件では、指示通電量Imsが目標通電量Imtとして出力される。換言すれば、Fba>fbuの場合には、駐車ブレーキよりも、運転者による制動操作部材BPの操作(通常ブレーキ操作)が優先される。押圧力Fbaが下方値fbs以上、且つ、上方値fbu以下の条件が成立した時点で、押圧力調整処理が完了され、咬合処理が開始される。即ち、押圧力Fbaが値fbsから値fbuまでの範囲内に入った時に、咬合処理が開始される。
<咬合処理>
図7のフロー図を参照して、駐車ブレーキ制御の係合作動における咬合処理について説明する。係合作動の押圧力調整処理が完了されると、次に、係合作動の咬合処理が開始される。係合作動の咬合処理は、駐車ブレーキ制御手段PKCによって実行される。なお、係合作動の咬合処理は、後述する再係合作動の咬合処理と同じである。
先ず、ステップS300にて、目標通電量Imtが、その時点(押圧力調整処理が完了時)の値に保持される。そして、ステップS310にて、ラチェット歯車RCHの回転角(歯車回転角)Rkaが読み込まれる。次に、ステップS320にて、歯車回転角Rkaが一定か、否かが判定される。即ち、歯車回転角Rkaに基づいて、ラチェット歯車RCHが静止状態であるか、否かが判定される。ステップS320にて、歯車回転角Rkaが一定であると判定される場合(「YES」の場合)には、ステップS330に進む。ステップS320にて、歯車回転角Rkaが一定でない(ラチェット歯車RCHが未だ回転している)と判定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS300に戻される。
ステップS330にて、ステップS320の判定が肯定された時点の歯車回転角Rkaが値rk1として設定される。ここで、値rk1は、「保持値」と称呼される。次に、ステップS340にて、時間カウンタ(タイマ)が開始される。そして、ステップS350にて、時間カウンタが開始されてから時間tx1を経過したか、否かが判定される。歯車回転角Rkaの一定状態が時間tx1に亘って経過した場合(「YES」の場合)には、ステップS360に進む。一方、歯車回転角Rkaの一定状態が時間tx1を経過していない場合(「NO」の場合)には、ステップS300に戻される。ステップS300からステップS350までの処理は、ラチェット歯車RCHの回転運動を停止させ、その停止状態を確認するためのものであり、「歯車停止処理」と称呼される。
ステップS360にて、ソレノイドSOLへの通電が行われる。ステップS370にて、上記と同様に、時間カウンタが開始される。ステップS380にて、時間カウンタが開始されてから時間tx2を経過したか、否かが判定される。ソレノイドSOLへの通電時間が時間tx2となった場合(「YES」の場合)には、ステップS390に進む。一方、ソレノイドSOLへの通電時間が時間tx2未満の場合(「NO」の場合)には、ステップS360に戻る。ステップS360からステップS380までの処理は、つめ部材TSUをラチェット歯車RCHに、確実に押し付けるためのもので、「つめ押圧処理」と称呼される。
ステップS390にて、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。即ち、電気モータMTRが逆転する方向に回転するよう、予め設定された通電(負符号の通電量)が行われる。ステップS400にて、時間カウンタが開始され、ステップS410にて歯車回転角Rkaが読み込まれる。ステップS420にて、ステップS330にて設定された保持値rk1と、歯車回転角Rkaとの偏差が所定範囲内にあるか、否かが判定される。保持値rk1と歯車回転角Rkaとの差が値hr1以下であり、該所定範囲内にある場合(「YES」の場合)には、ステップS430に進む。一方、保持値rk1と歯車回転角Rkaとの差が所定範囲外である場合(「NO」の場合)には、ステップS480に進む。ステップS390からステップS430までの処理は、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとを確実に咬み合せ、その状態を確認するためのもので、「咬合確保処理」と称呼される。
ステップS430の条件が満足されると、ステップS450にて電気モータMTRへの通電が停止され、ステップS460にてソレノイドSOLへの通電が停止される。そして、その時点の歯車回転角Rkaが、値rk0として設定され、係合作動の咬合処理が終了される。ここで、値rk0は、「解除値」と称呼される。なお、解除値rk0は、ラチェット機構が咬み合っているか、否かの判定に採用させる。
ステップS430の条件が否定される場合は、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされなかった場合である。このため、ステップS480にて、押圧力Fba、及び、目標通電量Imtが読み込まれ、ステップS490にて、目標通電量Imtが所定値imxだけ増加される。ステップS500にて、押圧力Fbaが下方値fbsよりも大きいか、否かが判定される。押圧力Fbaが値fbsよりも大きい場合(「YES」の場合)には、ステップS300に戻り、再度、咬合処理が開始される。一方、押圧力Fbaが値fbs以下である場合(「NO」の場合)には、処理はステップS480に戻り、さらに、所定値imxが加えられて、目標通電量Imtが増加される。ステップS420、S480〜S500の処理によって、上記の所定範囲内の駐車ブレーキ時の押圧力が確保され得る。
<咬合判定処理、及び、押圧力調整処理>
図8のフロー図を参照して、駐車ブレーキ制御の再係合作動における咬合判定処理、及び、押圧力調整処理について説明する。ここで、再係合作動は、駐車ブレーキ制御の制御状態の1つであり、係合維持状態において、制動操作部材BPの操作力が大となり、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとの咬み合いが外れた場合に実行される。
先ず、再係合作動の咬合判定処理について説明する。ステップ600にて、駐車ブレーキ制御の制御状態が読み込まれる。ステップS610にて、駐車ブレーキの制御状態が、「係合維持状態であるか、否か」が判定される。係合維持状態である場合(「YES」の場合)には、ステップS620に進む。一方、係合維持状態ではない場合(「NO」の場合)には、再係合作動は実行されない。
ステップS620にて、制動操作量Bpaが読み込まれる。ステップS630にて、制動操作量Bpaに基づいて、制動操作があるか、否かが判定される。制動操作がある場合(「YES」の場合)には、ステップS640に進み、制動操作がない場合(「NO」の場合)にはステップS610に戻り、再係合作動は実行されない。ステップS630において、「制動操作の有無」の判定に代えて、制動操作量Bpaが所定量bpxより大きいか、否かが判定され得る。この判定でも同様に、制動操作量Bpaが値bpxよりも大である場合(「YES」の場合)には、ステップS640に進み、制動操作量Bpaが値bpx以下である場合(「NO」の場合)には、ステップS610に戻される。
ステップS640にて、解除値rk0(咬合処理の終了時に設定される歯車回転角Rkaの値)が読み込まれる(図7のステップS470を参照)。ステップS650にて、歯車回転角Rkaが読み込まれる。そして、ステップS660にて、歯車回転角Rkaと解除値rk0とが比較され、歯車回転角Rkaと解除値rk0との偏差が所定範囲内であるか、否かが判定される。歯車回転角Rkaと解除値rk0との差が値hrx以下であり、所定範囲内にあると判定される場合(「YES」の場合であり、ラチェット機構が咬み合っていると判定された場合)には、ステップS610に戻る。一方、歯車回転角Rkaと解除値rk0との差が値hrxより大きく、所定範囲外であると判定される場合(「NO」の場合であり、ラチェット機構の咬み合いが外れたことが判定された場合)には、ステップS670に進む。ここで、値hrxは、咬合角γに基づいて、予め設定される所定値である。以上、再係合作動における咬合判定処理について説明した。
次に、再係合作動の押圧力調整処理について説明する。ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとも咬み合いが解除されたことが判定されると、ステップS670にて、押圧力Fba、及び、指示通電量Imsが読み込まれる。そして、ステップS680にて、押圧力Fbaが下方値(所定値)fbsよりも小さいか、否かが判定される。押圧力Fbaが値fbsよりも小さい場合(「YES」の場合)には、ステップS690に進む。一方、押圧力Fbaが値fbs以上である場合(「NO」の場合)には、ステップS700に進む。ステップS700にて、押圧力Fbaが上方値(所定値)fbuよりも大きいか、否かが判定される。押圧力Fbaが値fbuよりも大きい場合(「YES」の場合)には、ステップS710に進む。一方、押圧力Fbaが値fbu以下である場合(「NO」の場合)には、再係合作動の押圧力調整処理が終了され、係合作動の咬合処理と同様の、再係合作動の咬合処理が開始される。
ステップS690にて、指示通電量Imsが所定値imxだけ増加され、目標通電量Imtとして出力される。ステップS710にて、指示通電量Imsが目標通電量Imtとして出力される。即ち、ステップS710では、通常ブレーキ制御手段SBCによって目標通電量Imtが決定される。ステップS690、S710の処理後、処理はステップS670に戻される。再係合作動の咬合処理は、図7を用いて説明した係合作動の咬合処理と同じであるため、説明は省略される。
再係合作動の押圧力調整処理では、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとの咬み合い状態が解除されても、押圧力Fbaが上方値fbu(≧fbs)よりも大きい場合には、指示通電量Imsが目標通電量Imtとして出力されるのみで、咬合処理は開始されない。即ち、通常ブレーキ制御手段SBCが、駐車ブレーキ制御手段PKCよりも優先される。そして、運転者が制動操作を弱めると、制動操作量Bpaが減少し、通常ブレーキ制御手段SBCによって、実際の押圧力Fbaは減少される。押圧力Fbaが上方値fbu以下の条件が成立した時点で、駐車ブレーキ制御手段PKCによって、咬合処理が開始される。
咬み合い状態が解除されたことが判定された時点で、直ちに咬合処理が開始される場合、制動操作量Bpaの増加にしたがって、押圧力Fbaが過大な状態で、係合維持状態が継続され得る。再係合作動では、運転者の制動操作に起因する押圧力Fbaが下方値fbsから上方値fbuまでの範囲内に入った時に、押圧力調整処理が完了され、駐車ブレーキ制御手段PKCによって、咬合処理が開始されるため、不必要に過大な押圧状態が回避され得る。
<駐車ブレーキ制御の再係合作動>
図9の時系列線図(時間Tに対する遷移図)を参照して、駐車ブレーキ制御の再係合作動について説明する。駐車ブレーキの係合維持状態において、運転者によって制動操作量Bpaが増加された後に、減少される場合を想定する。ここで、時点v1〜v3が咬合判定処理、時点v3〜v6が押圧力調整処理、時点v6〜v7が歯車停止処理、時点v7〜v8がつめ押圧処理、及び、時点v8〜v9が咬合確保処理に、夫々、相当する(図4参照)。
駐車スイッチPSWがオンされ、駐車信号Pswのオン状態が継続的に指示されている。時点v1にて、運転者が制動操作部材BPの操作を開始し、制動操作量Bpaが増加し始める。制動操作量Bpaの増加にしたがい目標通電量Imt(結果として、実際の通電量Ima)が増加する。ここで、通電量フィードバック制御によって、通電量の目標値Imtと実際値Imaとが一致するよう制御されるため、実際の通電量Imaは、目標通電量Imtと重なっている。
時点v2にて、押圧力Fbaの増加が、値fb0(前回の咬合処理が終了した時の押圧力Fba)から始まり、ラチェット歯車RCHの回転運動も前回の解除値rk0(前回の咬合処理が終了した時点で記憶された歯車回転角Rka)から増加される。時点v3にて、歯車回転角Rkaと前回の解除値rk0との偏差が所定範囲外となり(即ち、Rkaと解除値rk0との差が所定値(しきい値)hrxを超過し)、咬合判定処理においてラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとの咬み合い状態が解除されたことが判定される。その後、時点v4にて、制動操作部材BPの操作が保持され、制動操作量Bpaの一定値bpdに相当する押圧力Fbaは値fbdで維持される。
時点v5にて、制動操作部材BPの操作が減少され始め、それにしたがって、目標通電量Imt、押圧力Fbaが減少する。併せて、歯車回転角Rkaも値rkdから減少する。時点v6にて、押圧力Fbaが値fbu以下になると、係合作動の咬合処理と同じ、再係合作動の咬合処理が開始される(図7参照)。具体的には、時点v6にて、目標通電量Imtが一定値に保持されることによって、ラチェット歯車RCHの回転が停止される。歯車回転角Rkaに基づいて、ラチェット歯車RCHの停止が確認されると、時点v7にて、ソレノイドSOLへの通電が開始され、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHの方向に移動され、ラチェット歯車RCHに押し付けられる。つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに完全に押し付けられた時点v8にて、目標通電量Imtが予め設定されたパターンで出力され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。保持値rk1(ラチェット歯車RCHの回転停止が確認された時点の歯車回転角Rka)と歯車回転角Rkaとの偏差が所定範囲内であること(歯車回転角Rkaと保持値rk1との差が所定値(しきい値)hr1未満であること)が、所定時間tx3に亘って確認されると、時点v9にて、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電が停止され、再係合作動の咬合処理が終了される。なお、咬合処理の終了時(時点v9)には、該時点の歯車回転角Rkaが今回の解除値rk0として記憶(設定)される。
駐車ブレーキ用のロック機構として、つめ部材TSU、及び、ラチェット歯車RCHにて構成されるラチェット機構が採用される場合、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する力が増加する方向(MTRの正転方向)への、ラチェット歯車を回転させる力が所定値以上になると、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの咬み合いが外れる。運転者による制動操作部材BPの操作に基づく通常ブレーキ制御を駐車ブレーキ制御よりも優先するとともに、駐車ブレーキとしてラチェット機構が採用される電動制動装置において、制動操作部材BPが強く操作される場合(例えば、押圧力Fbaが値fbu以上になる場合)には、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとの咬み合いが解除された時点で、再度、ラチェット歯車RCHとつめ部材TSUとが咬み合わされると、駐車ブレーキの解除と咬み合せとが交互に繰り返され、最終的には過大な押圧力で駐車ブレーキが係合維持状態となる。このような場合を想定して、制動手段BRKが設計されると、強度を確保するため、装置全体が大型化され得る。しかしながら、上記の構成によれば、制動操作部材BPが強く操作された場合においても、運転者の制動操作が優先され、且つ、適正な押圧力(押圧力が所定の値fbsから値fbuの範囲内)にて駐車ブレーキが係合維持状態とされるため、装置が小型・軽量化され得る。
以上の説明では、ラチェット歯車RCHに固定された歯車回転角取得手段RKAの出力(歯車回転角)Rkaに基づいて、咬合判定処理、及び、咬合処理が行われることとしている。ラチェット歯車RCHと電気モータMTRとは同軸、又は、減速機GSKを介して接続されるため、歯車回転角取得手段RKAとして、モータ回転角取得手段MKAが採用され、モータ回転角Mkaに基づいて、咬合判定が実行され得る。即ち、電動制動装置には、ラチェット歯車RCHの回転角(Rka、Mka)を取得する角度取得手段(RKA、MKA)が備えられ、駐車ブレーキ制御手段PKCによって、前記回転角(Rka、Mka)の変化に基づいて、「つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っているか、咬み合っていないか」が判定される(咬合判定処理)。