以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の熱交換器1の概略縦断面図、図2は図1のX−X線断面図である。図1において上下方向は鉛直方向であるとする。
3重管構造の熱交換器1の全体的な構成を、図2を参照して説明すると、熱交換器1の全体は、内管2、中間管11、外管21の3つの円筒状の管からなる3重管で構成される。これら3つの各管2,11,21は相対的に熱伝導率の高い材料、例えば金属で構成する。ここでは、内管2、中間管11、外管21の中心軸は一致しているとする。内管2の内部の空間は排気通路31として排気を一方向に流す。
中間管11と外管21との間に形成される円筒状の空間は、冷却水(第1媒体)を流すウォータジャケット35(冷却水通路)として構成される。冷却水は常に液相で用いる。冷却水としては、例えば不凍液や水を用いることができる。
中間管11と内管2との間に形成される円筒状の空間は、冷媒通路32を構成し、この冷媒通路32には冷媒(第2媒体)が満たされる。冷媒としては、例えば純水を用いることができる。
次に、3重管構造の熱交換器1の使用方法を説明すると、エンジンの負荷域を大きく低負荷域と高負荷域の2つに分ける。このうち、低負荷域では冷媒を介して、排気と、ウォータジャケット35を流れる冷却水(以下、単に「ジャケット冷却水」ともいう。)との間での熱交換を促進し、排気の熱(以下、「排熱」あるいは単に「熱」ともいう。)をジャケット冷却水に回収する。一方、排気が高温となる高負荷域では冷媒を介して、排気とジャケット冷却水との間での熱交換を抑制し、熱をジャケット冷却水に回収しないようにする。これによって、ジャケット冷却水が沸騰することを防止する。つまり、エンジンの低負荷域では熱回収を促進し、エンジンの高負荷域になると熱回収を抑制する。
例えば、エンジンの低負荷域では比較的低温の排気が排気通路31を流れる。この排気通路31を流れる低温の排気から熱を回収するため、冷媒通路32に液体の冷媒を満たす。エンジンの低負荷域で冷媒通路32に液体の冷媒を満たしておくことで、液体の冷媒と排気との間で熱交換が行われ、熱が液体の冷媒に回収される。また、液体の冷媒とジャケット冷却水との間でも熱交換が行われ、液体の冷媒が受け取った熱が、ジャケット冷却水に回収される。
一方、エンジンの高負荷域では比較的高温の排気が流れる。この高温の排気からも熱を回収したのでは、ジャケット冷却水が沸騰することが考えられる。そこで、冷媒通路32の内部に存在する液体の冷媒と高温の排気とを熱交換させることで、冷媒通路32の内部に存在する液体の冷媒を沸騰させて気体(水蒸気)とする。冷媒通路32の内部が気体の冷媒で満たされると、排気から冷媒への熱伝達効率及び冷媒からジャケット冷却水への熱伝達効率が急激に低下する。つまり、冷媒通路32の内部が気体の冷媒で満たされることは、冷媒通路32が断熱層となることを意味する。排気とジャケット冷却水との間に断熱層が形成されることになり、ジャケット冷却水が沸騰することが回避される。以下、エンジンの低負荷域において熱回収を促進するときを、「熱回収促進時」という。エンジンの高負荷域において熱回収を抑制するときを、「熱回収抑制時」という。
次に、3重管構造の熱交換器1の具体的な構成を、主に図1を参照して説明する。3つの管2,11,21の軸方向(以下、単に「軸方向」という。)は図1において左右方向である。また、各管2,11,21の径方向は(以下、単に「径方向」という。)は図1において上下方向である。
図1に示したように、まず中間管11を例えば全体として円筒状に形成する。中間管11の内径及び管厚は、後述する排気管62の内径及び管厚と一致させておく。つまり、中間管11は排気通路の一部を構成する排気管として機能する。
図1に示したように、外管21を、中間管11から径方向外側に離れて位置する外周壁部位22と、この外周壁部位22の軸方向の両端から径方向内側に向かって延び中間管11と当接する2つの側壁部位23A,23Bとで構成する。ここで、23Aは排気通路31の上流側(以下、単に「上流側」という。)の側壁部位、23Bは排気通路31の下流側(以下、単に「下流側」という。)の側壁部位である。2つの側壁部位23A,23Bと中間管11の外周11Aとは両者の当接部位で溶接等によって固定する。これによって、外管21と中間管11との間にウォータジャケット35(第1媒体通路)としての円筒状の空間が形成される。冷却水はウォータジャケット35の内部を、つまり中間管11の外周に沿って流れる。
冷却水の流れ方向に直交するウォータジャケット35の流路断面は、図1にも示したように、上部の流路断面でほぼ等脚台形状、下部の流路断面でほぼ逆等脚台形状である。ウォータジャケット35の流路断面は、この形状に限られず、長方形、四角形、六角形、三角形、円形、楕円形等の他の形状であってよい。
外管21にはウォータジャケット35への冷却水の入口24と、ウォータジャケット35からの冷却水の出口25とを設ける。冷却水の入口24は外管21の鉛直下方に、冷却水の出口25は外管21の鉛直上方に設ける。
図1に示したように、内管2を、中間管11から径方向内側に離れて位置する内周壁部位3と、この内周壁部位3の軸方向の両端から径方向外側に向かって延び中間管11と当接する2つの側壁部位4A,4Bとで構成する。ここで、4Aは上流側の側壁部位、4Bは下流側の側壁部位である。2つの側壁部位4A,4Bと中間管11の内周11Bとは両者の当接部位で溶接等によって固定する。これによって、内管2と中間管11との間に冷媒通路32(第2媒体通路)としての円筒状の空間が形成される。液体の冷媒は、冷媒供給口5(後述する)からこの冷媒通路32の内部に侵入し、中間管11の内周に沿って流れ、内部の全体を冷媒が満たす。
冷媒の流れ方向に直交する冷媒通路32の流路断面は、図1にも示したように、上部の流路断面でほぼ逆等脚台形状、下部の流路断面でほぼ等脚台形状である。冷媒通路32の流路断面も、この形状に限られず、長方形、四角形、六角形、三角形、円形、楕円形等の他の形状であってよい。
内管2よりも径方向内側の空間は、排気通路の一部として構成され、図1において左側から右側に向けて一方向に排気を流す。この排気の流れを図1においては複数の短い矢印で示している。
次に、熱交換器1の車両への取り付け位置を、例えば直列のエンジン51が車両(図示しない)の前方に横置きされて搭載されている場合で説明する。図3は横置きエンジン51の概略構成図である。本発明では排気が関係するので、図3には特に排気系のみを示している。図3では左側が車両前方側、右側が車両後方側である。
エンジンの排気系を先に説明すると、エンジン51は、排気マニホールド61及び排気管62を備える。排気マニホールド61は複数の気筒の排気ポートから排出される排気を集合させるものである。排気マニホールド61に排気管62が接続される。排気管62は車両後方に向かって延びている。
排気マニホールド61の集合部にマニホールド触媒63を、排気管62の途中にメイン触媒64を備える。メイン触媒64は車両の床下に取り付けられている。2つの各触媒63,64は、例えば三元触媒である。
次に、熱交換器1の取り付け位置を説明する。メイン触媒64下流の排気管62に、上記の熱交換器1を設ける。例えば、メイン触媒64下流の排気管62を途中で切断し、切断した上流側の排気管62と中間管11の上流端13(図1参照)とを溶接等により接続する。また、切断した下流側の排気管62と中間管11の下流端14(図1参照)とを溶接等により接続する。これによって、中間管11は排気管62の一部を構成する。
熱交換器1をメイン触媒64下流の排気管62に設ける理由は次の通りである。すなわち、触媒63,64は活性温度にならないと触媒として機能しない。このため、排気の熱で触媒63,64を常時加熱しておくことが必要となる。そのため、メイン触媒64の上流の排気管62やマニホールド触媒63の上流の排気マニホールド61に熱交換器1を設け、この位置で排熱を回収したのでは、触媒63,64の活性化に支障がでることが考えられる。そこで、触媒63,64の活性化に支障がでない位置、つまりメイン触媒64の下流の排気管62に熱交換器1を設けることとしたものである。
熱交換器1の冷却水の入口24、出口25と、エンジン51の内部に形成されている冷却水通路とは、2本の配管55,56で接続する。すなわち、横置きエンジン51の車両後方側の側壁51Aに、エンジン51の内部に形成されている冷却水通路につながる冷却水の取出し口52と、熱交換器1から冷却水をエンジン51の内部に形成されている冷却水通路に戻す戻し口53とを設ける。車両後方側の側壁51Aに設けた取出し口52と、熱交換器1の冷却水の入口24とを一方の配管55で、熱交換器1の冷却水の出口25と車両後方側の側壁51Aに設けた戻し口53とを他方の配管56で接続する。これよって、たとえばエンジンの冷間始動時に、取出し口52から冷たい状態の冷却水が一方の配管55を介して熱交換器1のウォータジャケット35に導かれることで温められる。温められたジャケット冷却水は、他方の配管56を介して戻し口53に戻されエンジン51を暖機する。
エンジン51と、排気マニホールド61及び排気管62等からなる排気系とは別個の振動体であるため、剛体としての2本の配管55,56でエンジン51と排気系とを接続したのでは、一方から他方へと振動が伝達されてしまう。そこで、2本の配管55,56の途中には、可撓性のあるホース部分57,58を設けておき、一方から他方へと振動が伝達されないようにする。
このように熱交換器1をメイン触媒64の下流に設けることで、エンジン51の低負荷域においてメイン触媒64の下流に捨てられる排熱を回収することができる。その一方で、エンジン51の高負荷域においては排熱をできるだけ回収しないようにすることで、排気通路から分岐するバイパス通路に熱交換器を設けると共に、分岐部に切換バルブを設ける場合より装置の全体をコンパクトにすることができる。図3では熱交換器1の取り付け位置を横置きエンジンの場合で説明したが、エンジンは横置きエンジンの場合に限られるものでない。
さて、従来の熱交換器1では、熱回収促進時に熱回収の効率を良くすること及び熱回収抑制時に熱回収量を低減することについて改善の余地があった。すなわち、従来の熱交換器1では外管21と内管2の軸方向の長さについてまでは考慮していない。
ここで、熱回収の効率を表す指標として次式を新たに導入する。
熱回収促進/熱回収抑制の比率=熱回収促進時の総受熱量/熱回収抑制時の総受熱量
…(1)
上記(1)式右辺の分子は熱回収促進時の冷媒からジャケット冷却水への受熱量と、部材からジャケット冷却水への受熱量の合計である。上記(1)式の右辺の分母は熱回収抑制時の冷媒からジャケット冷却水への受熱量と部材からジャケット冷却水への受熱量の合計である。以下、冷媒からジャケット冷却水への受熱を、単に「冷媒からの受熱」ともいう。同様に、部材からジャケット冷却水への受熱を、単に「部材からの受熱」ともいう。
このように熱回収促進/熱回収抑制の比率を導入したとき、上記(1)式右辺の分母が同じであっても、上記(1)式右辺の分子を大きくすることができれば、上記(1)式左辺の熱回収促進/熱回収抑制の比率が大きくなる。また、上記(1)式右辺の分子が同じであっても、上記(1)式右辺の分母を小さくすることができれば、上記(1)式左辺の熱回収促進/熱回収抑制の比率が大きくなる。
本発明の第1実施形態は、この新たに導入した指標に鑑み、外管21と内管2の軸方向の長さについて考察した結果、得られたものである。すなわち、第1実施形態では、外管21の軸方向長さよりも内管2の軸方向長さを長くする。図1に示したように外管21の軸方向長さを所定値A、内管2の軸方向長さを所定値Bとしたとき、所定値Aよりも所定値Bのほうが長くなるようにする。
ここでは、外管21の軸方向の長さとして、外管21の上流側端から下流端までの長さを採用している。同様に、内管2の軸方向の長さとして、内管2の上流側端から下流端までの長さを採用している。軸方向の長さの採り方としてはこの場合に限られない。例えば、外管21の軸方向の長さとして、ウォータジャケット35の上流側端から下流端までの長さを採用してもかまわない。同様に、内管2の軸方向の長さとして、冷媒通路32の上流側端から下流端までの長さを採用してもかまわない。
これによって、中間管11には、内管2の上流側側壁部位4Aと外管21の上流側側壁部23Aとをつなぐ部位12Aと、内管2の下流側側壁部位4Bと外管21の下流側側壁部23Bとをつなぐ部位12Bとが軸方向に形成される。以下、当該部位12A,12Bを「つなぎ部」という。ここで、12Aは上流側つなぎ部、12Bは下流側つなぎ部である。つなぎ部12A,12Bは、換言すれば、冷媒通路32の外側にウォータジャケット35が存在しない部位とも言える。
つなぎ部12A,12Bを中間管11に形成することで、当該つなぎ部12A,12Bと内管2との間に、冷媒通路32を軸方向の上流側と下流側とに拡大する通路部分33A,33Bが形成される。以下、つなぎ部12A,12Bと内管2のうちの上流側部分とによって拡大される通路部分33A,33Bを「通路拡大部」という。ここで、33Aは上流側の通路拡大部、33Bは下流側の通路拡大部である。また、本実施形態では冷媒通路32及び通路拡大部33A,33Bを合わせた全体についても「冷媒通路」という。
本実施形態では、中間管11に上流側つなぎ部12Aと下流側つなぎ部12Bの両方を設ける場合で説明するが、この場合に限られない。上流側つなぎ部12Aと下流側つなぎ部12Bの少なくとも一方を中間管11に設ける場合であってもよい。
第1実施形態との比較のため、外管21と内管2の軸方向長さを同じ所定値Aとした熱交換器(以下「比較例」という。)を図4に示す。ここで、図4(A)は比較例の熱回収促進時の熱の流れを、図4(B)は比較例の熱回収抑制時の熱の流れをモデルで示した解析結果である。また、図4に対応させて、本実施形態の場合を図5に示す。ここで、図5(A)は本実施形態の熱回収促進時の熱の流れを、図5(B)は本実施形態の熱回収抑制時の熱の流れをモデルで示した解析結果である。図4,図5においても排気の流れを左から右に向かう複数の短い矢印で示している。
熱交換器1の主要な構成要素である外管21と内管2は、中間管11(排気管62)の外周に沿って設けられているため、熱の流れとしては、基本的に排気流れの中心軸から径方向外側に向かって生じる。解析結果を分かり易くするため、排気の流れとは別の矢印で熱回収に関係する熱の流れを示している。図4,図5に示される縦方向の断面においては、実際には鉛直上方にも鉛直下方と対称的に熱の流れが生じるのであるが、図が煩雑になるのを避けるため、図4,図5においては鉛直下方だけに熱回収に関係する矢印を示している。熱回収に関係する矢印はその棒の太さが太いほど多くの熱が流れるものとする。
以下、図4,図5の順に、熱回収に関係する熱の流れの詳細を説明するが、これらの説明に入る前に、3重管構造の熱交換器1の基本的な熱回収について先に説明しておく。3重管構造の熱交換器1では主に次の2つで熱回収が行われる。
〈1〉冷媒からの受熱
〈2〉部材からの受熱
上記〈1〉の「冷媒からの受熱」とは、冷媒通路32,33A,33Bの内部に存在する冷媒そのものを介して、排気からジャケット冷却水へと熱が伝えられることをいう。上記〈2〉の「部材からの受熱」とは、排気通路31、冷媒通路32、ウォータジャケット35の3つを区画している部材(2,11、21)を介して、排気からジャケット冷却水へと熱が伝えられることをいう。図4では冷媒からの受熱を鉛直下方に向かう3本の直線の矢印で示している。また、部材からの受熱を、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る曲線の矢印と、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る曲線の矢印の2本で示している。
冷媒からの受熱に加えて、部材からの受熱が生じるのは、熱交換器1の3つの通路31,32,33A,33B,35を区画している部材(2,11,21)が金属で構成されているためである。すなわち、上流側では内管2の上流側側壁部位4Aから中間管11へ、中間管11から外管21の上流側側壁部位23Aへ、上流側側壁部位23Aからジャケット冷却水へと熱が伝達される(図4の左右の図において左側の曲線の矢印参照)。同様に、下流側では内管2の下流側側壁部位4Bから中間管11へ、中間管11から外管21の下流側側壁部位23Bへ、下流側側壁部位23Bからジャケット冷却水へと熱が伝達される(図4の左右の図において左側の曲線の矢印参照)。言い換えると、冷媒からの受熱とは別個に、3つの通路31,32,33A,33B,35を区画している部材(2,11,21)を介して、熱が排気からジャケット冷却水へと伝達されるのである。これで、3重管構造の熱交換器1の基本的な熱回収についての説明を終了する。
まず、図4を参照して比較例による熱回収について述べる。
(1)比較例の熱回収促進時
比較例では熱回収促進時(排気と第1媒体の熱交換を促進するとき)に、冷媒からの受熱量がH11、部材からの受熱量がH12となったとする。ここで、H11とH12とでは熱量の大きさが例えば一桁程度相違し、H11のほうがH12より大きい。
図4(A)には、比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱を3本の太い直線の矢印で示している。また、比較例の熱回収促進時の部材からの受熱を図4(A)に2本の細い曲線の矢印で示している。これによって、熱回収促進時の部材からの受熱量H12が熱回収促進時の冷媒からの受熱量H11より小さいことを表している。
(2)比較例の熱回収抑制時
熱回収抑制時(排気と第1媒体の熱交換を抑制するとき)には冷媒通路32が断熱層として働くので、熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H13が、熱回収促進時の冷媒からの受熱量H11より例えば一桁程度小さくなる。また、熱回収抑制時のほうが熱回収促進時より排気の温度が高いので、熱回収抑制時の部材からの受熱量H14は熱回収促進時の部材からの受熱量H12より排気温度の上昇分に見合う分だけ大きくなる。この結果、冷媒からの受熱量H13が部材からの受熱量H14より一桁程度小さい値となる。このように、熱回収抑制時には、冷媒からの受熱量と部材からの受熱量の大小関係が、熱回収促進時と逆転する。
(3)比較例の熱回収促進時と熱回収抑制時の総受熱量の比較
冷媒からの受熱量H13が熱回収促進時より一桁程度小さい値となる。一方、部材からの受熱量H14は熱回収促進時より排気温度の上昇に対応して増える。この場合に、冷媒からの受熱量の減少割合のほうが、部材からの受熱量の増加割合より大きい。この結果、熱回収抑制時の総受熱量(=H13+H14)は熱回収促進時の総受熱量(=H11+H12)より小さくなる。
図4(B)には、比較例の熱回収抑制時の冷媒からの受熱を3本の細い直線の矢印で示している。また、比較例の熱回収抑制時の部材からの受熱を図4(B)に2本の太い曲線の矢印で示している。これによって、熱回収抑制時には、部材からの受熱量H14が冷媒からの受熱量H13よりも一桁程度大きくなることを表している。
熱交換器1では、ジャケット冷却水を常に液相で用いるため、外管21の温度はジャケット冷却水が沸騰しない温度に保持される。この温度を100℃と仮定する。ここで挙げた100℃はあくまで数値計算を簡単化するための値であり、ジャケット冷却水が沸騰する温度として採用しているのでない。従って、ジャケット冷却水が沸騰しない温度として、100℃未満の値を用いてもかまわない。一方、熱回収促進時には内管2の温度が例えば200℃程度にとどまり、熱回収抑制時になると内管2の温度が例えば700℃程度にまで上昇するとする。このとき、熱回収促進時の内管2と外管21の温度差は200℃−100℃=100℃程度、熱回収抑制時の内管2と外管21の温度差は700℃−100℃=600℃程度となる。部材からの受熱量は、内管2と外管21の温度差に比例するので、内管2と外管21の温度差が相対的に大きくなる(この例では約6倍になる)熱回収抑制時においては、部材からの受熱が無視できないほど大きくなるのである。ここでは、熱回収促進時の部材からの受熱と熱回収抑制時の部材からの受熱の差をイメージとしてつかみやすくするため、熱回収促進時の内管2の温度として200℃程度を、熱回収抑制時の内管2の温度として700℃程度を挙げた。しかしながら、これらの温度は一例に過ぎず、熱回収促進時、熱回収抑制時の内管2の温度がこれらの温度に限定されるものでない。
次に、図5を参照して本実施形態による熱回収について述べると、本実施形態において、比較例と相違する構成は次の点である。すなわち、中間管11につなぎ部12A,12Bが、内管2の内部に通路拡大部33A,33Bが形成されることである。これらつなぎ部12A,12B及び通路拡大部33A,33Bの存在によって、熱回収促進時、熱回収抑制時とも、後述するように本実施形態の冷媒からの受熱量及び部材からの受熱量が比較例と相違してくることとなる。具体的には、通路拡大部33A,33Bの存在によって冷媒からの受熱量が大きくなり、つなぎ部12A,12Bの存在によって部材からの受熱量が小さくなる。
(4)本実施形態の熱回収促進時
本実施形態では、比較例と同じエンジン運転条件での熱回収促進時に、冷媒からの受熱量がH21、部材からの受熱量がH22となったとする。ここで、H22がH21より一桁程度小さい値となるのは比較例と同じである。
まず、本実施形態の冷媒からの受熱について説明すると、通路拡大部33A,33Bが存在することによって本実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H21が比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H11より大きくなる。詳述すると、H21がH11より大きくなる理由は次の通りである。すなわち、本実施形態の冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が、通路拡大部33A,33Bの分だけ、比較例の冷媒通路32の流路断面の面積より大きくなる。冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が大きくなると、その分、熱交換にかかわる液体冷媒の量が比較例より多くなる。冷媒からの受熱量は液体冷媒の量に比例するので、熱交換にかかわる液体冷媒の量が大きい分だけ、本実施形態の冷媒からの受熱量H21のほうが比較例の冷媒からの受熱量H11より大きくなるのである。
図5(A)には、冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が大きくなるのに対応して冷媒からの受熱量が比較例より大きくなる分(「本実施形態での追加分」で略記。)の熱の流れを、上流側と下流側の2本の太い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分(図5(A)では「大気放出分」で略記。)があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、本実施形態の部材からの受熱について説明すると、中間管11につなぎ部12A,12Bが存在することで本実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H22が比較例の熱回収促進時の部材からの受熱量H12より小さくなる。詳述すると、H22がH12より小さくなる理由は次の通りである。すなわち、部材からの受熱のうち上流側では、熱が内管2の上流側側壁部位4Aから中間管11の上流側つなぎ部12Aへ、当該つなぎ部12Aから外管21の上流側側壁部位23Aへと伝わる。そして、当該側壁部位23Aからジャケット冷却水へと熱が伝わる。これによって、中間管11の上流側つなぎ部12Aの分だけ、内管2の上流側側壁部位4Aと外管21の上流側側壁部位23Aとの距離(つまり熱が伝わる経路の長さ)が比較例より長くなる。同様に、部材からの受熱のうち下流側では、熱が内管2の下流側側壁部位4Bから中間管11の下流側つなぎ部12Bへ、当該つなぎ部12Bから外管21の下流側側壁部位23Bへと伝わる。そして、当該側壁部位23Aからジャケット冷却水へと伝わる。これによって、中間管11の下流側つなぎ部12Bの分だけ、内管2の下流側側壁部位4Bと外管21の下流側側壁部位23Bとの距離(つまり熱が伝わる経路の長さ)が比較例より長くなる。このように、内管2の側壁部位4A,4Bと外管21の側壁部位23A,23Bとの距離が長くなると、その分、ジャケット冷却水へと伝わる前に大気に放出される分が比較例の場合より増す。熱が伝わる経路の長さが軸方向に長くなって熱が大気に放出される分だけ本実施形態の部材からの受熱量H21のほうが比較例の部材からの受熱量H11より小さくなるのである。
図5(A)には、部材(21,11,2)を一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印と、部材(21,11,2)を一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印の2本で、部材からの受熱を示している。ここで、部材からの受熱量は、内管2の温度とジャケット冷却水温度との温度差に比例する。上記のように熱回収促進時の内管2の温度が例えば200℃程度とし、ジャケット冷却水温度を100℃とすると、両者の温度差は100℃(=200℃−100℃)になる。部材からの受熱量はこの100℃の温度差によって生じるのである。
この場合、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から下方に向けて分岐する2本の破線の矢印を記載している。これは、熱が上流側つなぎ部12Aから上流側側壁部位23Aに伝わることなく、大気に放出される分(図では「大気放出分」で略記。)があることを示している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から下方に向けて分岐する2本の破線の矢印を記載している。これは、熱が下流側つなぎ部12Bから下流側側壁部位23Bに伝わることなく、大気に放出される分(図では「大気放出分」で略記。)があることを示している。これは、内管2が受ける熱量が比較例と同じであっても、熱が伝わる経路が長いと、熱が経路の途中で大気に放出される分があるためである。ここで、大気に放出される分は、内管2の温度と大気温度との温度差に比例する。上記のように熱回収促進時の内管2の温度が仮に例えば200℃程度とし、大気温度を20℃程度とすると、両者の温度差は180℃(=200℃−20℃)になる。大気に放出される分は、この180℃の温度差によって生じる。このとき、内管2が受ける熱量の例えば半分程度が大気に放出される分になった。なお、内管2が受ける熱量の半分程度が大気に放出される分となる場合に限定されるものでない。内管2が受ける熱量の半分より多い量や半分より少ない量が大気に放出される分となる場合であってよい。
(5)本実施形態と比較例の熱回収促進時の総受熱量の比較
本実施形態では、冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が比較例より大きくなる分に対応して、冷媒からの受熱量が大きくなる分の熱の流れが新たに加わる。一方、本実施形態の部材からの受熱量は、比較例の半分程度になった。この場合、部材からの受熱量のほうが冷媒からの受熱量より一桁程度小さい値であるので、冷媒からの受熱量の増加分のほうが部材からの受熱量の減少分より大きい。この結果、本実施形態の熱回収促進時の総受熱量(=H21+H22)は、比較例の熱回収促進時の総受熱量(=H11+H12)より大きくなる。
(6)本実施形態の熱回収抑制時
比較例と同じエンジン運転条件での熱回収抑制時には冷媒通路32,33A,33Bが断熱層として働くので、本実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H23は本実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H21より例えば一桁程度小さくなる。また、熱回収抑制時のほうが熱回収促進時より排気の温度が高いので、熱回収抑制時の部材からの受熱量H14は熱回収促進時の部材からの受熱量H12より排気温度の上昇分に見合う分だけ大きくなる。この結果、熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H23が熱回収抑制時の部材からの受熱量H24より一桁程度小さい値となる。このように、冷媒からの受熱量と部材からの受熱量の大小関係が、熱回収促進時と逆転する。
まず、冷媒からの受熱について説明すると、本実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H23が比較例の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H13より大きくなる。詳述すると、H23がH13より大きくなる理由は次の通りである。すなわち、本実施形態の冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が、通路拡大部33A,33Bの分だけ、比較例の冷媒通路32の流路断面の面積より大きくなる。冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が大きくなると、その分、熱交換にかかわる気体冷媒の量が比較例より多くなる。冷媒からの受熱量は、気体冷媒の量に比例するので、熱交換にかかわる気体冷媒の量が大きい分だけ本実施形態の冷媒からの受熱量H23のほうが比較例の冷媒からの受熱量H13より大きくなるのである。
図5(B)には、冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が大きくなる分に対応して冷媒からの受熱量が比較例より大きくなる分(「本実施形態での追加分」で略記。)の熱の流れを、上流側と下流側の2本の細い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分(図5(B)では「大気放出分」で略記。)があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、本実施形態の部材からの受熱について説明する。熱回収抑制時のほうが熱回収促進時より排気温度が高いので、本実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H24は本実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H22より排気温度の上昇分に見合う分だけ大きくなる。
また、中間管11につなぎ部12A,12Bが存在することによって本実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H24が比較例の熱回収抑制時の部材からの受熱量H14より小さくなる。内管2の側壁部位4A,4Bと外管21の側壁部位23A,23Bとの距離が前述の通り長くなっているため、ジャケット冷却水へと伝わる前に大気に放出される分が比較例の場合より増す。熱が伝わる経路の長さが軸方向に長くなって熱が大気に放出される分だけ本実施形態の部材からの受熱量H24のほうが比較例の部材からの受熱量H14より小さくなるのである。
図5(B)には、部材(21,11,2)を一旦上流側に向かった後に下流側に戻る太い折れ線の矢印と、部材(21,11,2)を一旦下流側に向かった後に上流側に戻る太い折れ線の矢印の2本で、部材からの受熱を示している。ここで、部材からの受熱量は、内管2の温度とジャケット冷却水温度との温度差に比例する。上記のように熱回収抑制時の内管2の温度が例えば700℃程度とし、ジャケット冷却水温度を100℃とすると、両者の温度差は600℃(=700℃−100℃)になる。部材からの受熱量はこの600℃の温度差によって生じるのである。
この場合、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る太い折れ線の矢印から下方に向けて分岐する2本の破線の矢印を記載している。これは、熱が上流側つなぎ部12Aから上流側側壁部位23Aに伝わることなく、大気に放出される分(図では「大気放出分」で略記。)があることを示している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る太い折れ線の矢印から下方に向けて分岐する2本の破線の矢印を記載している。これは、熱が下流側つなぎ部12Bから下流側側壁部位23Bに伝わることなく、大気に放出される分(図では「大気放出分」で略記。)があることを示している。これは、内管2が受ける熱量が比較例と同じであっても、熱が伝わる経路が長いと、熱が経路の途中で大気に放出される分があるためである。ここで、大気に放出される分は、内管2の温度と大気温度との温度差に比例する。上記のように熱回収抑制時の内管2の温度が仮に例えば700℃程度とし、大気温度を20℃程度とすると、両者の温度差は680℃(=700℃−20℃)にもなる。大気に放出される分はこの680℃の温度差によって生じる。このとき、内管2が受ける熱量の例えば半分程度が大気に放出される分になった。なお、内管2が受ける熱量の半分程度が大気に放出される分となる場合に限定されるものでない。内管2が受ける熱量の半分より多い量や半分より少ない量が大気に放出される分となる場合であってよい。
(7)本実施形態と比較例の熱回収抑制時の総受熱量の比較
本実施形態では、冷媒通路32,33A,33Bの流路断面の面積が比較例より大きくなる分に対応して、冷媒からの受熱量が大きくなる分の熱の流れが新たに加わる。一方、本実施形態の部材からの受熱量は、比較例の半分程度になった。この場合、冷媒からの受熱量のほうが部材からの受熱量より一桁程度小さい値であるので、部材からの受熱量の減少分のほうが冷媒からの受熱量の増加分より大きい。この結果、本実施形態の熱回収抑制時の総受熱量(=H23+H24)は比較例の熱回収抑制時の総受熱量(=H13+H14)より小さくなる。
この結果を、新たに導入した上記(1)式に当てはめてみると、本実施形態のほうが比較例より熱回収促進時の総受熱量が大きくなり、本実施形態のほうが比較例より熱回収抑制時の総受熱量が小さくなる。つまり、熱回収促進時の熱回収の効率を良くすると共に、熱回収抑制時の熱回収量を低減することができた。これによって、本実施形態のほうが比較例より、上記(1)式の熱回収促進/熱回収抑制の比率が大きくなるのである。ここでは、上流側と下流側の通路拡大部33A,33Bが形成されている場合で説明したが、通路拡大部33A,33Bのいずれか一方だけ形成してある場合であっても、上記(1)式の熱回収促進/熱回収抑制の比率を大きくすることができる。
さらに述べると、エンジンの仕様が同じで、かつ排気管62の管径が同じである場合に、エンジンの冷却要求によって熱回収促進時の要求総受熱量、熱回収抑制時の要求総受熱量といった、熱交換器1の仕様が予め定まる。ここで、熱回収促進時の要求総受熱量とは、熱回収促進時にジャケット冷却水に対してどのくらいの受熱量があればよいかを定めるものである。また、熱回収抑制時の要求総受熱量とは、熱回収抑制時にジャケット冷却水に対してどのくらいの受熱量があってはだめなのかを定めるものである。本実施形態では、冷媒通路の通路拡大部33A,33Bが軸方向に長くなるほど、冷媒からの受熱量が大きくなる。かつ、つなぎ部12A,12Bの軸方向長さが長くなるほど大気に放出される分が増えて部材からの受熱量が小さくなる。従って、熱回収促進時の要求総受熱量、熱回収抑制時の要求総受熱量といった、熱交換器1の仕様を満たすように、つなぎ部12A,12Bの軸方向長さを定めればよい。
次に、冷媒通路32,33A,33Bへの冷媒の供給、戻しについて図1を参照して説明する。本実施形態では中間管11につなぎ部12A,12Bが形成された。このうち、下流側つなぎ部12Bの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設ける。冷媒供給口5と冷媒タンク6とは冷媒供給通路9で接続する。
冷媒タンク6の底面6Aが中間管11の外周11Aよりも上方(鉛直上方)に位置するように冷媒タンク6を設ける。これは、後述するように、タンク6に貯留する液体の冷媒が自重で冷媒供給通路9を介して冷媒通路32,33A,33Bに供給されるようにするためである。
タンク6は、有底円筒状の下部部材7と、上部部材である蓋8とから構成される。タンク6の底面6Aに冷媒供給通路9を接続する。冷媒供給通路9と冷媒供給口5を接続した後に、タンク6の内部に液体の冷媒を注入する。この注入によってタンク6の内部の液体冷媒が、自重で落下して冷媒通路32,33A,33Bにくまなく充満した後には蓋8をし、各フランジ部8A,7Aを溶接等することによって両者の間を気密状態にする。この場合、液体冷媒をタンク6に一杯にまで注入するのではなく、上部に空間を残して注入する。
このように構成したときの冷媒の動きを説明すると、熱回収促進時に冷媒が液体であるときには、タンク6内の冷媒は自重で冷媒供給通路9を伝って、冷媒通路32,33A,33Bに侵入し冷媒通路32,33A,33Bの全体を満たす。この液体冷媒の移動で、タンク6の上部に形成される空間部は大気圧よりも低い圧力となる。この状態では、冷媒通路32,33A,33Bに満たされた液体冷媒を介して排気とジャケット冷却水との間で熱交換が行われ、ジャケット冷却水が温められる。
一方、排気温度が上昇する熱回収抑制時になると、高温となった排気の熱を受けて冷媒通路32,33A,33Bの液体冷媒が沸騰して気体へと変化する。この沸騰による冷媒の体積膨張によって、気体となった部分が、冷媒通路32,33A,33Bの内部においてまだ液体である冷媒部分を押しのけようとする圧力が生じる。冷媒通路32,33A,33Bの内部での液体冷媒の沸騰が継続すれば、冷媒通路32,33A,33Bの内部の冷媒が、やがて全て気体となり、まだ液体で残っている冷媒は冷媒供給通路9を介してタンク6へと戻される。タンク6を当初に隙間無く満たしていると、熱回収抑制時に冷媒通路32,33A,33Bに残っているこの液体の冷媒をタンク6に戻せなくなるので、タンク6の上部に空間を残したのである。このようにタンク6の内部における液体の冷媒の量を調整しておくことで、液体の冷媒を冷媒通路32,33A,33Bへと吐出するためのポンプや、冷媒供給通路9を開閉するためのバルブを設けることなく、冷媒の供給と戻しとを行わせることができる。
熱回収抑制時に冷媒通路32,33A,33Bの内部の液体冷媒が気化することによる断熱効果は、断熱層の厚さが薄くても得られる。このため、内管2の径方向の幅Cは、外管21の径方向の幅Dと相違して、あればよいという程度の幅であればよい。一方、ウォータジャケット35には冷却水が液相で常時流れるため、外管21の径方向の幅Dとしてはある程度の幅があることが必要である。この結果、内管2の径方向の幅Cは外管21の径方向の幅Dより小さくてもよい。
なお、上記した冷媒の注入方法では、冷媒通路32,33A,33Bの内部に空気の粒(気泡)が残ってしまうことがある。これは、次の理由による。すなわち、液体冷媒は冷媒通路32,33A,33Bの下方から浸入し、液体冷媒より軽い空気は鉛直上方の冷媒通路32,33A,33Bにたまる。しかしながら、冷媒通路32,33A,33Bの鉛直上方に出口がない。鉛直上方の冷媒通路32,33A,33Bにたまった気泡は速やかに抜けてゆかないのである。上方の冷媒通路32,33A,33Bに気泡が残ってしまうと、その気泡の体積分だけ熱回収促進時に熱回収の効率が低下する。
鉛直上方の冷媒通路32,33A,33Bに残るこうした気泡を排除するには真空ポンプを用いた次の方法を用いることが好ましい。すなわち、冷媒供給通路9を冷媒供給口5とタンク底面6Aに接続した後に、下部部材7の上部に蓋8と同じ形状及び材質の置換蓋(図示しない)を被せ、被覆した内部(タンク6、冷媒供給通路9、冷媒通路32,33A,33Bの全体)を密封状態に保持する。次に、被覆した内部の空気を真空ポンプ(図示しない)である程度まで抜く。被覆した内部の空気を真空ポンプである程度まで抜くことで、特に鉛直上方の冷媒通路32,33A,33Bに気泡が残らないようにすることができる。この状態でタンク6の内部に液体の冷媒を注入すると、液体の冷媒が鉛直上方の冷媒通路32,33A,33Bにも侵入する。こうして液体の冷媒が冷媒通路32,33A,33Bにくまなく充満した後には、上記の置換蓋を取り外して蓋8をし、2つのフランジ部8A,7Aを溶接等することによってタンク6、冷媒供給通路9、冷媒通路32,33A,33Bの全体を気密状態にする。
図1では、冷媒供給口5を下流側つなぎ部12Bの鉛直方向の最下方に設けているが、上流側つなぎ部12Aの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設ける場合であってよい。
ただし、下流側つなぎ部12Bの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設けたほうが次のメリットが生じる。すなわち、熱回収抑制時には冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を全て抜く必要がある。さて、熱交換器1は車両に配備されているため、熱交換器1が常に水平位置に保持されるとは限らない。図3にも示したように下流側つなぎ部12Bは車両の後方側に、上流側つなぎ部12Aは車両の前方側にあるため、車両の登坂走行時には、図6(A)に示したように下流側つなぎ部12Bのほうが上流側つなぎ部12Aよりも鉛直下方にくる。このとき、熱回収抑制時で冷媒通路32,33A,33Bに残存する液体の冷媒は、軸方向下流側拡大部33Bに貯まる。この貯まった液体の冷媒の底には冷媒供給口5が開口している。この状態であれば、冷媒通路32,33A,33Bの気体部分に発生する蒸気圧力によって、軸方向下流側拡大部33Bに貯まっている液体の冷媒が冷媒供給口5からタンク6へと速やかに戻される。このように、下流側つなぎ部12Bの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設けることで、熱回収抑制時かつ登坂走行時に冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を容易に排出することができる。
ここで、冷媒が純水であるときには、液体の純水の冷媒通路32,33A,33Bからの抜けやすさの程度を「水抜け性」で定義することができる。冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を容易に排出することができることは、冷媒通路32,33A,33Bからの水抜け性をよくすることができる、ことを意味する。
一方、熱回収抑制時で下り坂走行時には、図6(B)に示したように上流側つなぎ部12Aのほうが下流側つなぎ部12Bよりも鉛直下方にくる。このとき、冷媒通路32,33A,33Bに残存する液体の冷媒は、軸方向上流側拡大部33Aに貯まる。この状態であるときには、軸方向上流側拡大部33Aに貯まった液体の冷媒の底に冷媒供給口5が開口していない。冷媒通路32,33A,33Bの気体部分に発生する蒸気圧力によって、軸方向上流側拡大部33Aに貯まっている液体の冷媒がタンク6へと戻されることはないのである。このように、上流側つなぎ部12Aの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設けたのでは、熱回収抑制時かつ登坂走行時に冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を容易に排出することができない。
さらに述べると、上流側つなぎ部12Aの鉛直方向の最下方に冷媒供給口5を設けることで、下り坂走行時における冷媒通路32,33A,33Bからの水抜け性を良くすることができる。しかしながら、エンジンの運転条件を考えると、登坂走行時にエンジンの高負荷時(つまり熱回収抑制時)に移行し、下り坂走行時にエンジンの低負荷時(つまり熱回収促進時)に移行すると思われる。この場合に、冷媒通路32,33A,33Bからの水抜け性が良くなって欲しいのは、エンジンの高負荷時(熱回収抑制時)に移行する登坂走行時である。熱回収抑制時かつ登坂走行時に冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を容易に排出し得るようにして、冷媒通路32,33A,33Bの全体を素早く断熱層にすることで、ジャケット冷却水の沸騰防止を確実にするのである。なお、冷媒通路32,33A,33Bへの冷媒の供給、戻し方は、第1実施形態の場合に限定されるものでない。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態の熱交換器1は、排気通路31と、ウォータジャケット35とを備え、排気と冷却水との間で熱交換を行なう。上記排気通路31はエンジンの排気を通流させるものである。上記ウォータジャケット35は常に液相で用いる冷却水を通流させるものである。また、排気通路31とウォータジャケット35は、冷媒通路32を間に挟んで隣接している。上記冷媒通路32は冷媒を通流させるものである。また、本実施形態の熱交換器1において、熱回収促進時には冷媒通路32の内部を液相の冷媒で満たす。また、熱回収抑制時には冷媒通路32の内部を気相の冷媒で満たす。さらに、本実施形態の熱交換器では、ウォータジャケット35の軸方向長さよりも冷媒通路32の軸方向長さを大きくする。これによって、熱交換促進時には、冷媒通路32の軸方向長さがウォータジャケット35の軸方向長さと同一である場合よりも排気と冷却水の熱交換を促進することができる。また、熱交換抑制時には、冷媒通路32の軸方向長さがウォータジャケット35の軸方向長さと同一である場合よりも排気と冷却水の熱交換を抑制することができる。
本実施形態では、中間管11と、中間管11の内側に設けられ、中間管11との間に冷媒通路32を形成する内管2と、中間管11の外側に設けられ、中間管11との間にウォータジャケット35を形成する外管21と、を備えている。この場合に、外管21の軸方向長さ(A)よりも内管2の軸方向長さ(B)を大きくする。これによって、熱回収促進時には内管2の軸方向長さと外管21の軸方向長さとが同一(A)である場合よりも排気とジャケット冷却水の熱交換を促進することができる。また、熱交換抑制時には内管2の軸方向長さと外管21の軸方向長さとが同一(A)である場合よりも排気とジャケット冷却水の熱交換を抑制することができる。
本実施形態では、冷媒タンク6と、冷媒供給通路9と、を備えている。冷媒タンク6の底面6Aは、冷媒通路32,33A,33Bより鉛直上方にあり、熱回収促進時には冷媒が自重で落下して冷媒通路32,33A,33Bを満たす。熱回収抑制時には排気の熱を受けて冷媒通路32,33A,33Bの内部の冷媒が沸騰して気体となり、この気体の圧力で液体の冷媒を冷媒通路32,33A,33Bから排出する。これによって、液体の冷媒を冷媒通路32,33A,33Bへと吐出するためのポンプや、冷媒供給通路9を開閉するためのバルブを設けることなく、冷媒の供給と戻しとを行わせることができる。
本実施形態では、エンジン51が車両に搭載され、排気通路31が車両の前後方向に設けられている。ウォータジャケット35の下流側側壁部23Bよりも冷媒通路32の下流側側壁部4Bが排気流れ方向の下流側にある。この場合に、下流側つなぎ部12Bの鉛直方向の最下方(第1媒体通路の排気流れ方向の下流端と第2媒体通路の排気流れ方向の下流端とを区画する部材の下部)に冷媒供給口5(連通路)が開口する。これによって、熱回収抑制時かつ登坂走行時に冷媒通路32,33A,33Bから液体の冷媒を容易に排出することができる。
(第2実施形態)
図7,図8は第2実施形態で、第1実施形態の図1,図2と置き換わるものである。図1,図2と同一部分には同一の符号を付している。
第2実施形態は、第1実施形態に対して、熱伝達促進部材としてのフィン部材71(排熱回収体)を内管2の径方向内側に追加して設けるものである。
フィン部材71は円柱状部材であって、フィン部材71の外周73と内管2の内周壁部位3の内周3Aとを圧入、溶接等によって固定する。これによって、フィン部材71の外周73と内管2の内周壁部位3の内周3Aとが接合される。
フィン部材71には、排気が通過可能な複数の貫通孔72を有する。貫通孔72は、フィン部材71の上流端74から下流端75まで軸方向に貫通している。フィン部材71としては、排気管62や排気マニホールド61を形成する材料よりも熱伝導率の高い材料、例えば炭化珪素(SiC)といったセラミックを用いる。
ここでは、貫通孔72の断面形状が、図8に示したように正方形である場合であるが、貫通孔72の断面形状が六角形であるハニカム構造体として構成されてもよい。なお、貫通孔72の断面形状は、四角形や六角形に限らず、円形や三角形等のその他の形状でもよい。
第2実施形態では、フィン部材71を内管2の軸方向のちょうど中央の位置に設けているが、フィン部材71の軸方向の位置は中央の位置に限定されるものでない。フィン部材71を軸方向のさらに上流側にあるいは下流側にずらして設けてもかまわない。
第2実施形態では排気が通過することによって排気の熱を回収可能な排熱回収体としてのフィン部材71を内管2の内周面(3A)に当接して設けることで、冷媒からの受熱量を第1実施形態よりも増加させることができる。
詳述すると、第2実施形態では、フィン部材71を追加することで、第1実施形態と相違して、冷媒からの受熱が次の2つから構成されることとなる。
〈3〉フィン部材71を介した冷媒からの受熱
〈4〉排気を介した冷媒からの受熱
第1実施形態の冷媒からの受熱は全て、上記〈4〉の排気を介した冷媒からの受熱であった。
一方、第2実施形態では、上記〈3〉のフィン部材71を介した冷媒からの受熱が新たに生じる。これについて説明すると、格子状に仕切られた多数の貫通孔72を排気が流れることで、排気から熱をもらってフィン部材71の温度が上昇する。つまり、フィン部材71が熱を蓄える。フィン部材71が蓄えた熱はフィン部材71の軸心から径方向外側に向かい、フィン部材71の外周73から内管2へ、内管2から冷媒通路32内部の冷媒へ、当該冷媒からジャケット冷却水へと伝達される。このように排気の熱がフィン部材71に蓄えられ、このフィン部材71に蓄えられた熱がフィン部材71から冷媒通路32内部の冷媒へ、当該冷媒からジャケット冷却水に伝達されることが、上記〈3〉のフィン部材71を介した冷媒からの受熱である。
第2実施形態では、冷媒からの受熱のうち上記〈3〉のフィン部材71を介した冷媒からの受熱が支配的となる。これは、次の理由による。すなわち、第1実施形態では、気体と固体の接触による熱伝達であったのが、第2実施形態では固体と固体の接触による熱伝達となる。具体的には、第1実施形態ではフィン部材71がなく、 排気と内管2が接触し排気(つまり気体)から内管2(つまり固体)へと熱が伝わる。一方、第2実施形態ではフィン部材71と内管2が接触しフィン部材71(つまり固体)から内管2(つまり固体)へと伝わる。両者を比較すると、固体と固体の接触による熱伝達によって伝わる熱量のほうが気体と固体の接触による熱伝達によって伝わる熱量より格段に大きくなるのである。
第1実施形態に対してフィン部材71を追加して設けることで熱回収促進時の冷媒からの受熱量が増加する。しかしながら、その一方で、外管21の軸方向長さが第1実施形態と同じの所定値Aのままであると、熱回収促進時にジャケット冷却水への受熱量が第1実施形態の場合より多くなってしまう。エンジンの燃焼状態が最適となるようにエンジン冷却水の温度が予め定められているので、このように熱回収促進時の冷媒からのジャケット冷却水への受熱量が多くなって、その分エンジン温度が上昇してしまう事態が生じることは、必ずしも好ましいことでない。従って、第1実施形態を前提とするなら、第2実施形態においても、熱回収促進時にジャケット冷却水への受熱量が第1実施形態と同じレベルとなるようにして、エンジン温度を上昇させないことが好ましい。
そこで、第2実施形態では、熱回収促進時にジャケット冷却水への受熱量を第1実施形態と同等レベルとするため、図7に示したように外管21の軸方向長さを、第1実施形態の外管21の軸方向長さである所定値Aよりも短い所定値Eとする。これは、ジャケット冷却水への受熱量が外管21の軸方向長さに比例するので、外管21の軸方向長さをAよりEへと短くすることで、その軸方向長さの減少分だけジャケット冷却水への受熱量を減らすことができるためである。言い換えると、熱回収促進時(排気と第1媒体の熱交換を促進するとき)にフィン部材71を設けたことによる冷媒からの受熱量(第2媒体を介した受熱量)の増加分を相殺するように、外管2の軸方向長さを減少させるのである。
ただし、第2実施形態において外管21の軸方向長さを第1実施形態より短くすると、中間管11に形成されるつなぎ部12A,12Bの軸方向長さが第1実施形態の場合より長くなる。このつなぎ部12A,12Bの軸方向長さの拡大によって、熱回収促進時、熱回収抑制時とも、後述するように部材からの受熱量が第1実施形態より減少することとなる。
詳述すると、図9(A)は第2実施形態の熱回収促進時の熱の流れを、図9(B)は熱回収抑制時の熱の流れをモデルで示した解析結果である。第1実施形態の図5と同一部分には同一の符号を付している。
(8)第2実施形態の熱回収促進時
第2実施形態例では、第1実施形態と同じエンジン運転条件での熱回収促進時に、冷媒からの受熱量がH31、部材からの受熱量がH32となったとする。ここで、H32がH31より一桁程度小さい値となるのは第1実施形態と同じである。
まず、第2実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱について説明する。第2実施形態では、冷媒からの受熱のうち、フィン部材71を介した冷媒からの受熱が支配的になる。このため、図9(A)に、フィン部材71を介した冷媒からの受熱(図では「〈3〉の受熱」で略記。)の流れを太い1本のみの直線の矢印で示している。この場合に、例えば熱回収促進時のフィン部材71を介した冷媒からの受熱量と比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱量とが同じになるように、フィン部材71の仕様を選定する。
また、図9(A)に、通路拡大部33A,33Bの存在によって、冷媒からの受熱(図では「〈4〉の受熱」で略記。)が大きくなる分の熱の流れを、上流側と下流側の2本の太い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、第2実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱について説明する。第2実施形態では外管2の軸方向長さが第1実施形態より短くなったことで、つなぎ部12A,12Bの軸方向長さが第1実施形態の場合より長くなる。上流側つなぎ部12Aの軸方向長さが第1実施形態より拡大された分だけ、内管2の上流側側壁部位4Aと外管21の上流側側壁部位23Aとの距離が長くなる。同様に、下流側つなぎ部12Bの軸方向長さが第1実施形態より拡大された分だけ、内管2の下流側側壁部位4Bと外管21の下流側側壁部位23Bとの距離が長くなる。このように、内管2の側壁部位4A,4Bと外管21の側壁部位23A,23Bとの距離が長くなると、その分、ジャケット冷却水へと伝わる前に大気に放出される分が第1実施形態の場合より増す。熱が伝わる経路の長さが軸方向に長くなって熱が大気に放出される分だけ第2実施形態の部材からの受熱量H32のほうが第1実施形態の部材からの受熱量H22より小さくなるのである。
その一方で、熱が伝わる経路の長さが第1実施形態より長くなると、熱回収促進時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分が第1実施形態より大きくなる。前述したように第1実施形態では図5(A)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する2本の細い矢印で表した。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する2本の細い矢印で表した。このとき、上記のように内管2が受ける熱量の例えば半分程度が大気に放出される分になった。
一方、第2実施形態では図9(A)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の細い矢印で表している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の細い矢印で表している。第2実施形態では下向きに分岐する矢印の数を2本から3本と多くすることで、熱回収促進時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分が第1実施形態より大きくなることを表しているわけである。このとき、内管2が受ける熱量の例えば2/3程度が大気に放出される分になった。これによって第2実施形態の大気に放出される分が、第1実施形態の半分程度から2/3程度へと大きくなったわけである。なお、内管2が受ける熱量の2/3程度が大気に放出される分となる場合に限定されるものでない。内管2が受ける熱量の2/3より多い量や半分より少ない量が大気に放出される分となる場合であってよい。
(9)第2実施形態と第1実施形態の熱回収促進時の総受熱量の比較
外管21の軸方向長さを短くし、フィン部材71を介した冷媒からの受熱量と比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱量とが同じになるようにした。これによって、第2実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H31が第1実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H21より多少大きくなった。かつ、大気放出分が大きくなる分だけ第2実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H32が第1実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H22より小さくなった。この場合、部材からの受熱量のほうが冷媒からの受熱量より一桁程度小さいために、冷媒からの受熱量の増大のほうが総受熱量の全体に対して大きく影響する。この結果、第2実施形態の熱回収促進時の総受熱量(=H31+H32)は、第1実施形態の熱回収促進時の総受熱量(=H21+H22)とほぼ変わらないこととなった。
(10)第2実施形態の熱回収抑制時
第2実施形態では、第1実施形態と同じエンジン運転条件での熱回収抑制時に冷媒からの受熱量がH33、部材からの受熱量がH34となったとする。ここで、H33がH34より小さい値となるのは第1実施形態と同じである。ただし、H33とH34の割合は第1実施形態のH23とH24の割合と同じでない。
第2実施形態では、熱回収抑制時にもフィン部材71を介した冷媒からの受熱が支配的になる。このため、図9(B)にフィン部材71を介した冷媒からの受熱(図では「〈3〉の受熱」で略記。)の流れを細い1つの直線の矢印で示している。この場合に、熱回収促進時のフィン部材71を介した冷媒からの受熱量と比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱量とはほぼ同じであった。
また、図9(B)に通路拡大部33A,33Bの存在によって、冷媒からの受熱(図では「〈4〉の受熱」で略記。)が大きくなる分の熱の流れを、上流側と下流側の2本の細い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、第2実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱について説明する。第2実施形態では外管2の軸方向長さが第1実施形態より短くなったことで内管2の側壁部位4A,4Bと外管21の側壁部位23A,23Bとの距離が長くなり、ジャケット冷却水へと伝わる前に大気に放出される分が第1実施形態の場合より増す。熱が伝わる経路の長さが長くなって熱が大気に放出される分だけ第2実施形態の部材からの受熱量H34のほうが第1実施形態の部材からの受熱量H24より小さくなるのである。
その一方で、熱が伝わる経路の長さが第1実施形態より軸方向に長くなると、熱回収抑制時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分が第1実施形態より大きくなる。前述したように第1実施形態では図5(B)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する2本の太い矢印で表した。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する2本の太い矢印で表した。このとき、上記のように内管2が受ける熱量の例えば半分程度が大気に放出される分になった。
一方、第2実施形態では図9(B)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の太い矢印で表している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の太い矢印で表している。第2実施形態では下向きに分岐する矢印の数を2本から3本と多くすることで、熱回収抑制時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分が第1実施形態より大きくなることを表しているわけである。このとき、内管2が受ける熱量の例えば2/3程度が大気に放出される分になった。これによって第2実施形態の大気に放出される分が、第1実施形態の半分程度から2/3程度へと大きくなったわけである。なお、内管2が受ける熱量の2/3程度が大気に放出される分となる場合に限定されるものでない。内管2が受ける熱量の2/3より多い量や半分より少ない量が大気に放出される分となる場合であってよい。
(11)第2実施形態と第1実施形態の熱回収抑制時の総受熱量の比較
外管21の軸方向長さを短くしフィン部材71を介した冷媒からの受熱量と比較例の熱回収促進時の冷媒からの受熱量とが同じになるようにした。これによって、第2実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H33が第1実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H23とほぼ同じになった。かつ、大気放出分が大きくなる分だけ第2実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H34が第1実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H24より小さくなった。この場合、冷媒からの受熱量のほうが部材からの受熱量より一桁程度小さいために、部材からの受熱量の減少のほうが総受熱量の全体に対して大きく影響する。この結果、第2実施形態の熱回収抑制時の総受熱量(=H33+H34)が第1実施形態の熱回収抑制時の総受熱量(=H23+H24)よりも小さくなった。
上記のように、第2実施形態と第1実施形態とで熱回収促進時の総受熱量はほぼ同じである。かつ、第2実施形態のほうが第1実施形態より熱回収抑制時の総受熱量が小さくなる。このように、第2実施形態は、熱回収促進時の熱回収の効率を第1実施形態と同様としつつ、熱回収抑制時の熱回収量を第1実施形態より低減することができた。この結果を、新たに導入した上記(1)式に当てはめてみると、第2実施形態のほうが第1実施形態より、上記(1)式の熱回収促進/熱回収抑制の比率が大きくなった。フィン部材71を追加して設ける第2実施形態のほうが第1実施形態より熱回収の効率が良いこととなった。
第2実施形態では、フィン部材71を追加して設ける場合に、フィン部材71を介した冷媒からの受熱量が比較例と同等レベルとなるようにフィン部材71の仕様を定めたが、フィン部材71の仕様の定め方はこの場合に限られない。また、ジャケット冷却水への受熱量が第1実施形態と同様となるように外管21の軸方向長さを定めたが、外管21の軸方向長さの定め方はこの場合に限られない。
第2実施形態では、内管2の内周面(3A)に当接するように設けられ、排気が通過することによって排気の熱を回収可能な排熱回収体としてのフィン部材71をさらに備えている。これによって、熱回収促進時に冷媒からの受熱量を、フィン部材71を設けていない場合より増大させることができる。
第2実施形態では、熱回収促進時にフィン部材71を設けたことによる冷媒からの受熱量の増加分を相殺するように、外管21の軸方向長さを減少させる。これによって、フィン部材71を設けている場合であっても、熱回収促進時のジャケット冷却水への受熱量を、フィン部材71を設けていない場合と同じレベルとすることができる。
(第3実施形態)
図10は第3実施形態で、第2実施形態の図7と置き換わるものである。図7と同一部分には同一の符号を付している。
第3実施形態は、第2実施形態に対してフィン部材71の上流側と下流側にデフューザ81,91を追加して設けるものである。
ここで、「デフューザ」とは、流路の入口から流路の出口に向けて流路の断面積を徐々に拡大したり、この逆に徐々に縮小したりするものをいう。すなわち、フィン部材71より下流側に設けるデフューザ(以下「下流側デフューザ」という。)81は流路の入口から流路の出口に向けて流路の断面積を徐々に拡大するものである。フィン部材71より上流側に設けるデフューザ(以下「上流側デフューザ」という。)91は流路の入口から流路の出口に向けて流路の断面積を徐々に縮小するものである。第3実施形態では、形状が流体力学上のデフューザに似るものの、断熱層を形成するための部材としてデフューザを用いる。解析に用いた熱回収器では、熱回収抑制時には冷媒からの受熱量と部材からの受熱量の大小関係が、熱回収促進時と逆転し、部材からの受熱量のほうが冷媒からの受熱量より大きくなることを前述した。従って、冷媒からの受熱量のほうが大きくなる熱回収抑制時には、この部材からの受熱量を抑制したい要求があり、この要求に応えるためデフューザ81,91を設けることとしたものである。これによって、特に熱回収抑制時の部材からの受熱量を第2実施形態よりも減少させることができる。第3実施形態では2つのデフューザ81,91を設ける場合で説明するが、少なくとも1つのデフューザを設ける場合であってよい。
下流側デフューザ81から説明すると、フィン部材71より下流側の内管(以下、「フィン下流側内管」という。)2Bの径方向内側に位置させて下流側デフューザ81を設け、中間管11に下流側デフューザ81の下流端(82)を固定する。
下流側デフューザ81の外周81Aとフィン下流側内管2Bとの間には、フィン下流側内管2Bの径方向内側に沿って軸方向に延びる空間85が形成される。空間85を設けたのは、特に熱回収抑制時に空間85を断熱層として機能させるためである。このため、下流側デフューザ81の外周81Aの一部でもフィン下流側内管2Bと径方向に接触していると、その接触部で断熱効果が得られなくなるので、下流側デフューザ81の外周81Aの一部でもフィン下流側内管2Bと径方向に接触しないようにする。
このように下流側デフューザ81を設けることで、フィン部材71から下流に流れ出す排気の一部が、下流側デフューザ81の外周81Aとフィン下流側内管2Bとの間に形成された空間85に入り込む。空間85の下流側は閉塞されているので、空間82に入った排気が下流に流れ出すことはなく、空間85の内部で排気がよどむ。これによって、特に熱回収抑制時に空間85が断熱層として機能することとなる。一方、フィン部材71から流れ出す排気の大部分は、下流側デフューザ81の上流端81Bから下流側デフューザ81の内部に流入し、流入した排気は下流側デフューザ81の下流端81Cから下流側へと排出される。
空間85に排気の一部を導入するため、フィン部材71の下流端75から所定の距離Fだけ軸方向に離して下流側デフューザ81の上流端81Bを設ける。これによって、空間85に排気の一部が入り込むことが確保される。また、金属の下流側デフューザ81とセラミックのフィン部材71とが軸方向に接触していると、両者の接触部でフィン部材71の剥落が生じ得るが、両者を軸方向に離すことで、こうした事態を避けることができる。
下流側デフューザ81によって断熱層ができさえすればよいので、下流側デフューザ81の中間管11への取り付け位置は適当でよい。ただし、下流側デフューザ81の中間管11への取り付け位置が下流側になるほど、熱交換器1の全体が軸方向に長くなってしまうので、下流側デフューザ81の中間管11への取り付け位置は、最終的には適合により定める。
詳細には、下流側デフューザ81は、ベース部82,先端部83,テーパ状部84で構成されている。ベース部82,先端部83,テーパ状部84の3つの部位は同じ材料を用いて一体で形成する。このため、ベース部82,先端部83,テーパ状部84の各厚さはほぼ同様である。下流側デフューザ81の厚さは、内管2の厚さと同等とする。
ベース部82及び上流側に延び出す先端部83は円筒状に形成され、先端部83はベース部82の外径より小さい外径を有している。テーパ状部84は先端部83とベース部82を連絡している。
下流側デフューザ81のベース部82を中間管11の内周11Bに、例えば溶接することによって、下流側デフューザ81と中間管11を接合(固定)する。下流側デフューザ81は、溶接によって接合される中間管11と同じ材質である。中間管11の材料は金属であるので、下流側デフューザ81の材料も中間管11と同じ金属である。下流側デフューザ81の材質は金属に限られず、金属と同等の性質を有する金属以外の材料であってもかまわない。
次に、上流側デフューザ91を説明すると、フィン部材71より上流側の内管(以下、「フィン下流側内管」という。)2Aの径方向内側に位置させて上流側デフューザ91を設け、中間管11に上流側デフューザ91の上流端(92)を固定する。
上流側デフューザ91の外周91Aとフィン上流側内管2Aとの間には、フィン上流側内管2Aの径方向内側に沿って軸方向に延びる空間95が形成される。空間95を設けたのは、特に熱回収抑制時に空間95を断熱層として機能させるためである。このため、上流側デフューザ91の外周91Aの一部でもフィン上流側内管2Aと径方向に接触していると、その接触部で断熱効果が得られなくなるので、上流側デフューザ91の外周91Aの一部でもフィン上流側内管2Aと径方向に接触しないようにする。
このように上流側デフューザ91を設けることで、上流側から上流側デフューザ91の内部に流れ込んだ排気の一部は、上流側デフューザ91の外周91Aとフィン上流側内管2Aとの間に形成された空間95に逆流して入り込む。空間95の上流側は閉塞されているので、空間95に入った排気が上流に流れ出すことはなく、空間95の内部で排気がよどむ。これによって、特に熱回収抑制時に空間95が断熱層として機能することとなる。一方、上流側デフューザ91の上流端91Cから下流側デフューザ81の内部に流入した排気の大部分は上流側デフューザ91の下流端91Bから下流側へと排出される。
空間95に排気の一部を導入するため、フィン部材71の上流端74から所定の距離Gだけ軸方向に離して上流側デフューザ91の下流端91Bを設ける。これによって、空間95に排気の一部が逆流して入り込むことが確保される。また、金属の上流側デフューザ91とセラミックのフィン部材71とが軸方向に接触していると、両者の接触部でフィン部材71の剥落が生じ得るが、両者を軸方向に離すことで、こうした事態を避けることができる。第3実施形態では、距離Gと上記の距離Fとを同じにしているが、両距離F,Gが異なるものであってよい。
上流側デフューザ91によって断熱層ができさえすればよいので、上流側デフューザ91の中間管11への取り付け位置は適当でよい。ただし、上流側デフューザ91の中間管11への取り付け位置が上流側になるほど、熱交換器1の全体が軸方向に長くなってしまうので、上流側デフューザ91の中間管11への取り付け位置は、最終的には適合により定める。
詳細には、上流側デフューザ91の構成そのものは、フィン部材71より下流側に設ける下流側デフューザ81と同様である。すなわち、上流側デフューザ91は、ベース部92,先端部93,テーパ状部94で構成されている。ベース部92,先端部93,テーパ状部94の3つの部位は同じ材料を用いて一体で形成する。このため、ベース部92,先端部93,テーパ状部94の各厚さはほぼ同様である。上流側デフューザ91の厚さは、内管2の厚さと同等とする。
ベース部92及び下流側に延び出す先端部93は円筒状に形成され、先端部93はベース部92の外径より小さい外径を有している。テーパ状部94は先端部93とベース部92を連絡している。
上流側デフューザ91のベース部92を中間管11の内周11Bに、例えば溶接することによって、上流側デフューザ91と中間管11を接合(固定)する。上流側デフューザ91は、溶接によって接合される中間管11と同じ材質である。中間管11の材料は金属であるので、上流側デフューザ91の材料も中間管11と同じ金属である。上流側デフューザ91の材質は金属に限られず、金属と同等の性質を有する金属以外の材料であってもかまわない。
下流側デフューザ81の外周81Aとフィン下流側内管2Bとの間に径方向の間隔がありさえすれば断熱効果が得られるので、図10では下流側デフューザ81の外周81Aとフィン下流側内管2Bとの間の間隔が軸方向に一定していない。同様に、上流側デフューザ91の外周91Aとフィン上流側内管2Aとの間に径方向の間隔がありさえすれば断熱効果が得られるので、図10では上流側デフューザ91の外周91Aとフィン上流側内管2Aとの間の間隔が軸方向に一定していない。
デフューザ81,91の形状は図10に示すものに限られない。例えば、下流側デフューザ81の外周81Aとフィン下流側内管2Bとの間の間隔が一定となるように下流側デフューザ81を形成してもかまわない。同様に、上流側デフューザ91の外周91Aとフィン上流側内管2Aとの間の間隔が一定となるように上流側デフューザ91を形成してもかまわない。また、デフューザ81,91からベース部82,92を省略し、テーパ状部84,94を中間管11の内周11Bに例えば溶接することによって、デフューザ81,91と中間管11を接合(固定)することができる。
このように、デフューザ81,91を設け空間85,95を断熱層として働かせることで、内管2の受熱量が第2実施形態より例えば半分程度にまで減少する(以下、単に「半減する」という。)ものとする。半減する場合で考えるのは、冷媒からの受熱量、部材からの受熱量の把握が容易となるためである。内管2の受熱量が半減すると、冷媒からの受熱について、上記〈4〉の排気を介した冷媒からの受熱量が半減する。
次に、部材からの受熱については、内管2の受熱量が半減することで、第3実施形態の部材からの受熱量が第2実施形態より半減する。ただし、部材からの受熱についての熱の伝わり方は第2実施形態と同様である。すなわち、下流側で内管2が受けた熱は、内管2から下流側つなぎ部12Bを含む中間管11へ、当該中間管11から下流側側壁部位23Bへ、下流側側壁部位23Bからジャケット冷却水へと伝わる。同様に、上流側で内管2が受けた熱は、内管2から上流側つなぎ部12Aを含む中間管11へ、当該中間管11から上流側側壁部位23Aへ、上流側側壁部位23Aからジャケット冷却水へと伝わる。
第3実施形態では、デフューザ81,91の存在によって内管2の受熱量が第2実施形態より半減する場合で説明するが、この場合に限定されるものでない。デフューザの仕様によっては、内管2の受熱量が第2実施形態の半分より多くなることも少なくなることも有り得る。
さらに詳述すると、図11(A)は第3実施形態の熱回収促進時の熱の流れ様子を、図11(B)は熱回収抑制時の熱の流れをモデルで示した解析結果である。第2実施形態の図9と同一部分には同一の符号を付している。
(12)第3実施形態の熱回収促進時
第3実施形態では、第2実施形態と同じエンジン運転条件での熱回収促進時に、冷媒からの受熱量がH41、部材からの受熱量がH42となったとする。ここで、H42がH41より一桁程度小さい値となる。
まず、第3実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱について説明する。第3実施形態でも、冷媒からの受熱のうち、フィン部材71を介した冷媒からの受熱が支配的になる。このため、図11(A)に、フィン部材71を介した冷媒からの受熱(図では「〈3〉の受熱」で略記。)の流れを太い1つの直線の矢印で示している。
次に、第3実施形態では、空間85,95が断熱層として働くことによって、内管2の受熱量が半減するため、排気を介した冷媒からの受熱量が第2実施形態より半減する。しかしながら、第3実施形態においても、フィン部材71を介した冷媒からの受熱量が支配的であることに変わりないので、この排気を介した冷媒からの受熱量の半減は、熱回収促進時の冷媒からの受熱量全体から見れば微小である。また、冷媒からの受熱には大気へと逃げてしまう分があるが、これも、空間85,95が断熱層として働くことによって第2実施形態より半減する。この結果、第3実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H41は第2実施形態の熱回収促進時の冷媒からの受熱量H31より減少する。
第3実施形態では図11(A)に、通路拡大部33A,33Bの存在によって、排気を介した冷媒からの受熱(図では「〈4〉の受熱」で略記。)が大きくなる分の熱の流れを、上流側と下流側の2本の太い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、第3実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱について説明する。第3実施形態においても、つなぎ部12A,12Bの存在によって、熱が伝わる経路の長さが長くなり熱が大気に放出される分だけ、部材からの受熱量が第1実施形態の部材からの受熱量より小さくなる。
その上、空間85,95が断熱層として働くことによって、第3実施形態の熱回収促進時の内管2の受熱量が、第2実施形態より半減する。また、内管2の受熱量が半減することで、第3実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分についても第2実施形態より半減少する。このように、内管2の受熱量及び大気放出分が第2実施形態より半減するので、第3実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H42が第2実施形態の熱回収促進時の部材からの受熱量H32より半減する。
第3実施形態では図11(A)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の細い矢印で表している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る細い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の太い矢印で表している。
(13)第3実施形態と第2実施形態の熱回収促進時の総受熱量の比較
デフューザ81,91の存在により第3実施形態の冷媒からの受熱量H41が第2実施形態の冷媒からの受熱量H31より減少する。かつ、デフューザ81,91の存在により第3実施形態の部材からの受熱量H42が第2実施形態の部材からの受熱量H32より半減する。この結果、第3実施形態の熱回収促進時の総受熱量(=H41+H42)は、第2実施形態の熱回収促進時の総受熱量(=H31+H32)より減少する。
(14)第3実施形態の熱回収抑制時
第3実施形態では、第2実施形態と同じエンジン運転条件での熱回収抑制時に、冷媒からの受熱量がH43、部材からの受熱量がH44となったとする。ここで、H43がH44より小さい値となる。
まず、第3実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱について説明する。第3実施形態でも、冷媒からの受熱のうち、フィン部材71を介した冷媒からの受熱が支配的になる。このため、図11(B)に、フィン部材71を介した冷媒からの受熱(図では「〈3〉の受熱」で略記。)の流れを細い1つの直線の矢印で示している。
次に、第3実施形態では、空間85,95が断熱層として働くことによって、内管2の受熱量が半減するので、排気を介した冷媒からの受熱量が第2実施形態より半減する。しかしながら、フィン部材71を介した冷媒からの受熱量が第3実施形態においても支配的であることに変わりないので、この排気を介した冷媒からの受熱量の半減は、熱回収抑制時の冷媒からの受熱量全体から見れば微小である。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分があるが、これも、空間85,95が断熱層として働くことによって第2実施形態より半減する。この結果、第3実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H43は第2実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H33より減少する。
第3実施形態では図11(B)に、通路拡大部33A,33Bの存在によって、排気を介した冷媒からの受熱(図では「〈4〉の受熱」で略記。)が大きくなる分の熱の流れを、上流側と下流側の2本の細い折れ線の矢印で示している。また、冷媒からの受熱には大気に放出される分があるので、これを上流側と下流側に2本の下向きの細くて長い直線の矢印で表している。
次に、第3実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱について説明する。第3実施形態においても、つなぎ部12A,12Bの存在によって、熱が伝わる経路の長さが長くなり熱が大気に放出される分だけ、部材からの受熱量が第1実施形態の部材からの受熱量より小さくなる。
その上、空間85,95が断熱層として働くことによって、第3実施形態の熱回収抑制時の内管2の受熱量が第2実施形態より半減する。また、内管2の受熱量が半減することで、第3実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量のうち、大気に放出される分についても第2実施形態より半減する。このように、内管2の受熱量及び大気放出分が第2実施形態より半減するので、第3実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H44が第2実施形態の熱回収抑制時の部材からの受熱量H42より半減する。
第3実施形態では図11(B)に、一旦上流側に向かった後に下流側に戻る太い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の太い矢印で表している。同様に、一旦下流側に向かった後に上流側に戻る太い折れ線の矢印から、大気に放出される分を下向きに分岐する3本の太い矢印で表している。
(15)第3実施形態と第2実施形態の熱回収抑制時の総受熱量の比較
デフューザ81,91の存在により第3実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H43が第2実施形態の熱回収抑制時の冷媒からの受熱量H33より減少する。かつ、デフューザ81,91の存在により第3実施形態の部材からの受熱量H44が第2実施形態の部材からの受熱量H34より半減する。この結果、第3実施形態の熱回収抑制時の総受熱量(=H43+H44)は、第2実施形態の熱回収抑制時の総受熱量(=H33+H34)より減少した。
上記のように第3実施形態のほうが第2実施形態より熱回収促進時の総受熱量が小さくなり、かつ第3実施形態のほうが第2実施形態より熱回収抑制時の総受熱量が小さくなる。この場合、熱回収促進時の総受熱量の減少割合と、熱回収抑制時の総受熱量の減少割合とを比較すると、熱回収抑制時の総受熱量の減少割合のほうが大きい。この結果を、新たに導入した上記(1)式に当てはめてみると、第3実施形態のほうが第2実施形態より、上記(1)式の熱回収促進/熱回収抑制の比率が大きくなった。このように、デフューザ81,91を追加して設ける第3実施形態のほうが第2実施形態より特に熱回収抑制時の熱回収量を低減できることとなった。
第3実施形態では、フィン部材71よりも下流側の排気管(11)内に、流路の断面積が上流側に向けて徐々に小さくなる下流側デフューザ81をさらに備えている。これによって、特に熱回収抑制時の総受熱量を、下流側デフューザ81を設けていない場合より減らすことができる。
第3実施形態では、フィン部材71よりも上流側の排気管(11)内に、流路の断面積が下流側に向けて徐々に小さくなる上流側デフューザ91をさらに備えている。これによって、特に熱回収抑制時の総受熱量を、上流側デフューザ91を設けていない場合より減らすことができる。