図1は、実施例の解析装置10の構成を説明するための図である。解析装置10は、有限要素法を用いたモード解析により構造体の振動特性を解析するものであり、車両などの解析対象に外力を入力した場合に、解析対象各部の応答の原因となる振動モードを特定する。解析装置10は、コンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウェアとソフトウェアの任意の組み合わせによって実現される。
解析装置10は、入出力部12、モデル読込部14、応答算出部16、縮約点設定部18、固有モード算出部20、励起量算出部22、寄与度算出部24および特定部26を備え、これらの各構成の機能は、主として解析プログラムを実行することでコンピュータにより実現される。
入出力部12は、ユーザの入力によって解析対象、評価点および外力などの設定情報を取得する。また、入出力部12は、設定情報にもとづいて解析した結果を表示装置に出力する。例えばユーザは、解析対象として車両の車体骨格や搭載ユニットなどの有限要素モデルを設定し、解析の目的に応じた外力の発生位置および大きさを設定する。
モデル読込部14は、解析対象となる構造体を有限個の小さな要素に分けて各要素を節点でつないだ有限要素モデルを読み込む。有限要素モデルを構成する各要素は数値解析が可能に定義され、具体的には、各要素について、座標系における節点座標値、要素形状、材料特性などが定義される。2次元モデルを対象とする場合には、各要素として三角形状を有する3節点要素や、四角形状を有する4節点要素を用いる。また、3次元モデルを対象とする場合には、四面体形状を有する4節点要素や、六面体形状を有する6節点要素なども用いる。なお、以下の説明では、有限要素モデルとして車両を用いた解析処理を説明するが、実施例の解析処理は、車両に限らず別の構造体にも適用できる。
応答算出部16は、有限要素モデルに外力を入力させた場合の各節点の応答、すなわち変位を算出する。下記の(式1)は、車両に所定の外力fが作用した際の車両振動に関する運動方程式を動剛性行列Zを用いて示す。応答算出部16は、(式1)から未知変位u
o、u
aを算出する。
なお、Zは動剛性行列、fは車体に入力した外力、uは車体振動、添え字aは車体に設定した縮約点の自由度、添え字oは縮約点以外の車体の自由度を示す。
縮約点設定部18は、有限要素モデルの複数の節点のうち、節点の総数よりも少ない数の節点を縮約点として設定する。縮約点設定部18は、例えば、数十万個の節点を有する車両のモデルを解析する際に、ユーザが車体骨格の解析を所望する場合には、ユーザの入力した設定情報にもとづいて主要な骨格の長手方向に沿って数十個の縮約点を設定する。つまり、縮約点は、ユーザが所望する解析対象の主要な部位に設定される。
固有モード算出部20は、(式1)に示す運動方程式にグヤンの静縮約(Guyan's reduction)を適用して、縮約した運動方程式から固有モード(以下、縮約処理後の固有モードを「RC(Reduced Constitutive)モード」という)を算出する。この縮約処理により、設定した縮約点の数に応じて自由度を下げて運動方程式の次元数を下げることで、算出するRCモードの数を静縮約処理前の実固有モードの数よりも減らすことができる。具体的に、固有モード算出部20は、まず動剛性行列Zに含まれる剛性行列Kを用いて下記の(式2)から、自由度aの縮約点に静変形を与えた場合の静変形ベクトルの線形和である下記の(式3)を算出する。
なお、行列0はゼロ行列、行列Iは単位行列を示す。
次に、固有モード算出部20は、(式3)を用いて(式1)に縮約処理を行って下記の(式4)を算出する。(式4)の左辺行列の質量行列成分と剛性行列成分を用いた固有値計算により、実固有ベクトル行列Φと、下記の(式5)が導出され、行列Φの各列ベクトルがRCモードを示す。このように、有限要素モデルを縮約して自由度を減らすことで、算出するモードの数を減らすことができる。
励起量算出部22は、固有モード算出部20により算出したRCモードと、応答算出部16により算出されたグヤンの静縮約を実行する前の縮約点における外力に対する応答(変位u
a)とにもとづいてRCモードの励起量を算出する。励起量算出部22は、(式1)から算出した縮約点の節点の応答(変位u
a)と、(式4)の左辺行列のうちの質量行列部分の対称行列成分D
M *とを用いて、グラム・シュミットの直交化法によりモード励起係数ξを下記の(式6)に算出する。モード励起係数ξはRCモードの励起量を示す。
寄与度算出部24は、グヤンの静縮約を実行する前の少なくとも一つの節点における外力に対する応答(変位u)を、RCモードの励起量の線形和で表して、RCモードの寄与度を算出する。寄与度算出部24は、応答算出部16から得た変位uに(式5)、(式6)を用いて(式7)を算出する。(式7)に示す右辺第1項は、RCモードの励起量の線形和で表されており、周波数応答特性を示す。寄与度算出部24は、算出した周波数応答特性のそれぞれの周波数において、外力に対する応答における各RCモードの寄与度を算出する。各RCモードの寄与度は、振動評価点での応答の原因となる各RCモードの寄与の割合を示す。(式7)に示す右辺第2項は残差項であり、これも周波数毎に示される。縮約点の変位u
aは、(式7)に示すように残差項がゼロであるため、周波数応答特性を評価したい点を縮約点に含めることによって残差項に起因する誤差をなくして算出精度の低下を抑えることができる。
(式7)の左辺に示す詳細な有限要素モデルでの応答(変位u)を、縮約した少ない数のRCモードを用いて表すことで、演算を容易にしつつ、算出精度の低下を抑えることができる。例えば、振動解析の分野における一つの手法として、互いに似た共振を1つの平均的な共振に近似し、振動評価点の応答を近似した共振の線形和で表して原因となる成分を特定するものが知られている。この手法では、互いに似た共振を1つの平均的な共振に近似するため、応答の算出精度が低下する。実施例の解析装置10では、残差項はあるものの近似する処理は不要であるため、算出精度の低下を抑えることができる。
(式7)において、RCモードを列ベクトルに有する行列Φには、様々な共振周波数のモードを含むため、実施例の解析装置10では、低周波域や高周波域を削除して、着目する周波数の範囲に限定して、着目周波数範囲に含まれるベクトルのみを行列Φに用いて解析してもよい。例えば、アイドリング時の車両を振動解析する場合には、アイドリングによって発生する主要な振動周波数から充分に離れた周波数域を調べる必要はなく、着目する周波数の範囲を限定する。この場合、着目周波数範囲に含まれない周波数のベクトルは残差項に含まれるが、充分に離れた共振であるため無視することができ、算出精度の低下は抑えられている。
特定部26は、寄与度算出部24で算出したモード寄与度にもとづいて、解析対象の振動応答(変位u)に含まれる複数のRCモードのうち、モード寄与度の大きいRCモードを特定する。モードの数を減らしているため、特定が容易である。特定部26により特定された結果は、入出力部12から表示装置に送信されて表示装置に表示される。
図2は、車体の有限要素モデルについて振動解析をした結果を説明するための図である。図2(a)は縮約処理をしていない比較技術の振動解析の結果を示し、図2(b)は実施例の振動解析の結果を示す。図2の縦軸は、振動の大きさ(dB)を示し、横軸は周波数(Hz)を示す。なお、図2は、(式7)で算出される振動解析の結果の一部の情報を示すものであり、複素数で算出される解析結果のうち振幅部分を示す。
図2(a)および図2(b)に示す最も大きい振動応答30,34は、振動評価点における外力に対する応答、すなわち外力を入力した際の振動評価点における振動の大きさを示し、実施例では(式1)を解いて求めた変位であり、(式7)の左辺に相当する。有限要素モデルの全体の振動は、図2(a)に示す従来技術でも図2(b)に示す実施例でも算出精度は同水準である。これは、(式7)の左辺に示すように、実施例において(式1)から求めた外力に対する応答はそのまま用いるからである。なお、振動解析でよく用いられる技術に、縮約処理を実行してから外力を与える技術が知られているが、この技術では外力に対する応答にも縮約処理が及ぶため、図2(a)に示す振動応答30と異なる形の振幅特性が表れ、算出精度の低下を招く。
図2(a)に示す各固有モードの励起量32はいずれも小さいレベルで数が多く、どの固有モードが主要な原因であるか特定しづらい。これに対し、図2(b)に示すRCモードの励起量は、100Hzから200Hz域では、全体の振動応答34の大きさに近い第1成分36が最も励起量が大きく、次に第2成分38の励起量が大きいことが容易に特定できる。図2(b)では、励起量の振幅だけを示したが、各RCモードの位相情報を用いることで振動応答30に対する寄与度を算出できる。図2(b)に示すRCモードの励起量は、(式7)の右辺第1項に対応する。このように、実施例の解析装置10では、モードの数を減らしているため、原因となる成分を容易に特定できる。
振動解析で用いられる主成分分析の技術では、入力する外力の条件に応じて主成分として抽出される主成分モードが決定されるため、同じ有限要素モデルであっても外力の条件が変わるたびに主成分として抽出される主成分モードが変わる。これに対し、実施例の解析装置10では、同じ有限要素モデルであれば外力の条件を変更されても、主成分の抽出処理が不要であり、各RCモードの寄与度をRCモードの励起量の線形和で表して容易に解析できる。
図3は、実施例の解析処理のフローについて説明するための図である。モデル読込部14は、入出力部12から入力された情報にもとづいて解析対象の有限要素モデルを読み込む(S10)。応答算出部16は、有限要素モデルに外力を入力した場合の各節点の応答を算出する(S12)。
縮約点設定部18は、有限要素モデルの複数の節点のうち、節点の総数よりも少ない数の節点を縮約点として設定する(S14)。縮約点は、入出力部12で入力した情報にもとづいて決定される。固有モード算出部20は、設定した縮約点にもとづいて有限要素モデルの運動方程式にグヤンの静縮約を実行し、縮約した運動方程式からRCモードを算出する(S16)。
励起量算出部22は、固有モード算出部20により算出したRCモードと、グヤンの静縮約を実行する前の縮約点における外力に対する応答とにもとづいてRCモードの励起量を算出する(S18)。寄与度算出部24は、グヤンの静縮約を実行する前の任意の節点における外力に対する応答を、RCモードの励起量の線形和で表して、RCモードの寄与度を算出する(S20)。特定部26は、RCモードの寄与度を参照して、振動の原因となるRCモードを特定する(S22)。
なお、実施例の解析装置10は構造・音場連成解析にも適用でき、例えば車室内の音場を解析し、音の発生原因を特定することができる。具体的には、振動解析で用いた運動方程式を下記の(式8)に示す構造・音場連成方程式に置き換えることで実現できる。(式8)に示す3行目、3列目を除けば、(式1)に示す運動方程式と同じになる。
なお、Zは動剛性行列、fは外力、uは車体振動、qは音圧、ωは角振動数、添え字aは車体に設定した縮約点の自由度、添え字oは縮約点以外の車体の自由度、添え字sは音場の自由度を示す。
(式1)から(式7)と同様の処理をして、音場のみの実固有モード行列をΨとして(式8)の第3式から(式9)が算出される。(式9)に示すように、外力に対する音圧をRCモードの励起量の線形和と残差項で表し、RCモードの寄与度が算出される。これにより、音場においても音圧の原因となる振動モードの特定が容易にできる。
本発明は、上述の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。