JP2017078196A - 鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法および角形鋼管の製造方法 - Google Patents

鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法および角形鋼管の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低降伏比で、かつ角部におけるじん性に優れる角形鋼管を製造する。
【解決手段】質量%で、C:0.06〜0.2%、Si:0.03%以下、Mn:0.2〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.002〜0.015%、Al:0.005〜0.07%、 N:0.006%以下、およびTi:0.01〜0.05%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼素材を、粗圧延出側温度:900〜1050℃の条件で粗圧延し、30〜150秒空冷し、仕上圧延入り側温度:850〜1000℃、圧下率:50%以上、および仕上圧延出側温度:750〜850℃の条件で仕上圧延し、4〜10秒空冷し、前記仕上圧延によって得た鋼帯の表面で、冷却停止温度:300℃以上、550℃未満、前記冷却停止温度までの平均冷却速度:50〜200℃/sの条件で水冷し、巻取温度:500〜600℃の条件で巻き取る、鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法に関するものであり、特に、建築構造用冷間ロール成形角形鋼管の素材として好適に用いることのできる鋼帯に関するものである。また、本発明は前記製造方法によって得られた鋼管用厚肉熱延鋼帯を用いた、角形鋼管の製造方法に関するものである。
熱延鋼帯や熱延鋼板を冷間加工することによって製造される角形鋼管は、建築構造部材などの用途に広く用いられている。一般的な角形鋼管の製造方法としては、プレス成形を利用する方法とロール成形を利用する方法の2つが知られている。前者は、熱延鋼板を冷間でプレス成形した後、溶接して角形鋼管とする方法であり、この方法で得られる鋼管は、冷間プレス成形角形鋼管、プレスコラム等と呼ばれる。また、後者は、熱延鋼帯をロール成形して丸形鋼管とし、さらに該丸形鋼管を冷間成形して角形鋼管とする方法であり、この方法で得られる鋼管は、冷間ロール成形角形鋼管、ロールコラム等と呼ばれる。
冷間ロール成形角形鋼管は、熱延鋼帯に対して、丸形鋼管への成形、溶接、角形鋼管への成形などの処理を連続的に施して製造されるため、鋼板を1枚ずつ処理して製造される冷間プレス成形角形鋼管に比べて生産性に優れている。しかし、その一方で、加工によるひずみが大きいため、特に角部でじん性が低下するという問題がある。また、角形鋼管には降伏比(YR=降伏強度(YS)/引張強度(TS))の低さも求められている。
そこで、高じん性、低降伏比という、優れた機械的特性を有する冷間ロール成形角形鋼管の開発が行われている。例えば、特許文献1には、所定の成分組成を有する鋼素材に対して、特定の温度条件で熱間圧延と冷却を施すことによって高じん性、低降伏比の角形鋼管用熱延鋼帯を製造する方法が記載されている。
特開2012−153963号公報
特許文献1に記載された方法で製造された熱延鋼帯を用いれば、機械的特性に優れる角形鋼板を得ることができる。しかし、特許文献1記載の方法では、仕上圧延後の冷却において、鋼帯の板厚中央部における温度を所定の範囲に制御する必要がある。板厚中央部の温度は直接測定することができないため、実操業において特許文献1に記載された方法の温度制御を用いることは困難である。また、特許文献1では、角形鋼管の機械的特性を平坦部において評価している。しかし、上述したように角形鋼管では角部において加工ひずみが大きく、じん性が低下する。したがって平坦部のみならず、角部においても優れたじん性を有する角形鋼管を製造できる方法が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低降伏比で、かつ角部におけるじん性に優れる角形鋼管を製造するために用いることができる鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は前記製造方法によって得られた鋼管用厚肉熱延鋼帯を用いて、低降伏比で、かつ角部におけるじん性に優れる角形鋼管を製造する方法を提供することを目的とする。なお、ここで「厚肉」とは、板厚が12mm以上であることを意味する。
本発明者らは、角形鋼管のじん性向上を鋭意検討した結果、次の知見を得た。
(1)角形鋼管のじん性を向上させるためには、Tiを添加した鋼を用い、熱延鋼帯を製造する際の仕上圧延後に急冷を行って、TiCを微細に析出させるとともに、フェライトを細粒化することが有効である。
(2)しかし、TiCが多量に析出すると、強度、特に降伏強度が上昇し、その結果、降伏比が高くなってしまう。また、TiCが線状に析出し、じん性が低下する。
(3)上記(2)の現象を抑制するには、TiCとTiSとを複合的に析出させることにより、フェライトの細粒化に寄与するTiCの量を制御することが有効である。
以上の知見に基づき、鋼の成分組成および製造条件について詳細な検討を行い、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)質量%で、
C :0.06〜0.2%、
Si:0.03%以下、
Mn:0.2〜1.0%、
P :0.03%以下、
S :0.002〜0.015%、
Al:0.005〜0.07%、
N :0.006%以下、および
Ti:0.01〜0.05%
を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼素材を、
粗圧延出側温度:900〜1050℃の条件で粗圧延し、
30〜150秒空冷し、
仕上圧延入り側温度:850〜1000℃、圧下率:50%以上、および仕上圧延出側温度:750〜850℃の条件で仕上圧延し、
4〜10秒空冷し、
前記仕上圧延によって得た鋼帯の表面で、冷却停止温度:300℃以上、550℃未満、前記冷却停止温度までの平均冷却速度:50〜200℃/sの条件で水冷し、
巻取温度:500〜600℃の条件で巻き取る、鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法。
(2)前記1に記載の鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法で得た鋼管用厚肉熱延鋼帯を丸形鋼管に成形し、
前記丸形鋼管を冷間成形して角形鋼管とする、角形鋼管の製造方法。
本発明によれば、低降伏比で、かつ角部におけるじん性に優れる角形鋼管の製造に適した鋼管用厚肉熱延鋼帯を製造することができる。また、前記鋼管用厚肉熱延鋼帯を用いて、低降伏比で、かつ角部におけるじん性に優れる角形鋼管を製造することができる。
鋼のTi含有量と、角形鋼管の機械的特性(降伏比およびシャルピー吸収エネルギー)との関係を示す図である。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。
本発明の鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法においては、所定の成分組成を有する鋼素材を用いることが重要である。そこで、まず、本発明において鋼の成分組成を上記のように限定する理由を説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.06〜0.2%
Cは固溶強化元素であり、YSを過度に上昇させることなくTSを向上させる作用を有しているため、低YR化に寄与する。また、Cは、Tiと炭化物を形成して、細粒化によりじん性を向上させる作用を有している。前記効果を得るために、C含有量を0.06%以上とする。一方、C含有量が過剰となると、かえってじん性が低下する。そのため、C含有量は0.2%以下とする。なお、C含有量は、0.09〜0.16%とすることが好ましい。
Mn:0.2〜1.0%
Mnは固溶強化元素であり、Cと同様、低YR化に寄与する。この効果を得るために、Mn含有量を0.2%以上とする。一方、Mn含有量が過剰であるとMnSが析出しやすくなるため、本発明が意図するTiSによるTiCの制御が妨げられる。そのため、Mn含有量は1.0%以下とする。なお、Mn含有量は、0.4〜0.8%とすることが好ましい。
Si≦0.03%
Si含有量が高いと、熱間圧延時に赤スケールが発生しやすくなる。赤スケール部は、スケール剥離後の表面粗さが大きいため、仕上圧延後の水冷の際に冷却水との接触面積が大きくなる。その結果、局所的に冷却速度が速くなり、マルテンサイトが析出しやすくなる。マルテンサイトが析出すると、最終的に得られる角形鋼管におけるじん性が低下するとともに、角部で割れが生じやすくなる。そのため、本発明ではSi含有量を0.03%以下とする。本発明のように仕上圧延後、300〜550℃の範囲といった低温域まで急冷する場合には、上記のようにSi含有量を抑制することが特に重要である。なお、Si含有量は、0.02%以下とすることが好ましい。
P≦0.03%
Pは、じん性を低下させるので、P含有量は低い方が良い。そこで、本発明ではP含有量を0.03%以下とする。P含有量は、0.02%以下とすることが好ましい。
S:0.002〜0.015%
Sは、TiとTiSを形成し、仕上圧延後の水冷時に前記TiSを核にTiCが析出する。そのため、適切な量のSを含有させることによって、細粒化に寄与するTiC量を制御することができる。前記効果を得るために、S含有量は0.002%以上とする。一方、S含有量が過剰になるとMnSが析出しやすくなり、じん性が低下する。そのため、S含有量は0.015%以下とする。なお、S含有量は、0.003〜0.010%とすることが好ましい。
Al:0.005〜0.07%
Alは、脱酸剤として添加される元素である。脱酸が不十分であると、Ti酸化物が生成し、本発明が意図するTiによる細粒化効果を得ることができない。そのため、Al含有量は0.005%以上とする。本発明のようにSi含有量を低く制御する鋼では、脱酸元素としてのAl含有量は重要である。一方、Al含有量が高すぎると、鋼が窒化しやすくなり、Tiが窒化物を形成してしまう。その結果、やはり、Tiによる細粒化を利用したじん性向上効果を得ることができない。そのため、Al含有量は0.07%以下とする。Al含有量は、0.01〜0.04%とすることが好ましい。
N≦0.006%
Nは、Tiと析出物を形成する。そのため、Nが過剰であると、TiSおよびTiCによる細粒化に寄与することのできるTiが実質的に減少し、その結果、じん性が低下する。そのため、N含有量は0.006%以下とする。N含有量は、0.004%以下とすることが好ましい。
Ti:0.01〜0.05%
Tiは、炭化物を析出することによって結晶粒を細粒化し、その結果、じん性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、Ti含有量は0.01%以上とする。なお、この効果を得るためには、NおよびSの含有量も上述の範囲に制御することが重要である。一方、Ti含有量が過剰であると、析出物が多くなりすぎ、降伏比が高くなってしまう。そのため、Ti含有量は0.05%以下とする。Ti含有量は、0.02〜0.03%とすることが好ましい。
本発明で用いられる鋼素材は、以上の成分に加え、残部のFeおよび不可避的不純物とからなる。
上述したように、本発明では、炭化物と硫化物の両者を形成し得るTiの特定を利用して、フェライトの細粒化に寄与するTiCの量を制御している。Tiと異なり、Nb、V、Bなどの元素は硫化物をほとんど形成しないため、これらの元素では上記の効果を得ることが難しい。そのため、本発明で用いる鋼には、意図的にはNb、V、およびBを添加しない。これらの元素が不可避的に鋼に含有される場合には、Nb含有量を0.02%以下、V含有量を0.02%以下、B含有量を0.001%以下とすることが好ましい。また、Nb含有量を0.01%以下、V含有量を0.01%以下、B含有量を0.0003%以下とすることがより好ましい。
次に、本発明における鋼管用厚肉熱延鋼帯および角形鋼管の製造方法について説明する。本発明においては、上記成分組成を有する鋼素材に対して、粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施した後に、水冷による急冷を行い、巻き取ることによって鋼管用厚肉熱延鋼帯が製造される。その際、前記粗圧延と前記仕上圧延との間、および前記仕上圧延と前記水冷との間において、それぞれ空冷が行われる。なお、以下の説明において、粗圧延と仕上圧延との間で行われる空冷を「仕上前空冷」、仕上圧延と水冷との間で行われる空冷を「ROT前空冷」と、それぞれ言う場合がある。ROTとは、水冷に用いられるRun Out Tableを意味する。
前記熱間圧延の仕上圧延においては、鋼中に微細なTiSを多量に析出させる。そして、前記仕上圧延直後にTiCが多量に線状に析出しないように、仕上圧延後の水冷に先立って空冷(ROT前空冷)を実施し、オーステナイトを再結晶させる。これにより、仕上圧延中に析出したTiSが再結晶粒の粒成長を抑えると共に、TiCがTiSに複合析出することにより、じん性低下の原因となるTiCの線状析出が抑制される。
しかし、仕上圧延前にTiSが多量に析出してしまうと、仕上圧延中にTiSが成長し、上記の効果が小さくなる。そのため、粗圧延後の温度を一定以上とし、さらに、仕上圧延までに一定時間滞留(仕上前空冷)させ、オーステナイト粒を再結晶させることにより、TiSが析出する際の核となる転位を減少させ、仕上圧延前にTiSを析出させないようにする。
仕上圧延後は、空冷を行った後に、TiCによるフェライト細粒化のための急冷(水冷)を実施する。適切な空冷を行うことなく仕上圧延直後に水冷を行うと、未再結晶オーステナイトからTiCが多量に析出してしまう。そして、その結果、降伏強度が上昇し、降伏比が高くなる。また、TiCが線状に並んで析出することにより、じん性が劣化する。これを防止するために、仕上圧延後、水冷を行う前に、空冷(ROT前空冷)を行ってオーステナイトを再結晶させておくことが重要である。
また、水冷の際に鋼帯表面が冷えすぎると、マルテンサイトが析出し、じん性が劣化すると共に、角形への成形の際に、角部に割れが生じやすくなる。そのため、水冷の際には、マルテンサイトが析出せず、かつ、微細TiCが析出する温度に一旦急冷する。その後、表面温度が復熱するのを待ち、所定の巻取温度で巻き取る。前記復熱は、通常の空冷(巻取前空冷)によって行うことができる。また、前記空冷の後、巻取りの前に、任意に水冷を行うこともできる。
上記のようにして製造した熱延鋼帯を丸形鋼管に成形し、得られた丸形鋼管をさらに冷間成形して角形鋼管を製造する。成型方法としては、特に限定されることなく任意の方法を用いることができる。例えば、熱延帯鋼をロールフォーミングした後に、継目を電気抵抗溶接して丸形鋼管とし、サイザーを用いて前記丸形鋼管を冷間成形して角形鋼管を得ることができる。さらに降伏比を低くするために、熱延鋼帯から丸形鋼管への成形を、フレキシブルロールフォーミング法によって行うこともできる。また、造管の際には、通板のため鋼帯先端部を切断してもよい。
電気抵抗溶接を行う際には、溶接部の酸化物低減のため、鋼帯エッジ部に開先を付与しても良い。溶接後には外面のビードを切削する。また、超音波探傷による溶接シーム部のNDI(非破壊検査)を行う際に、内面ビードが残っているとビードから跳ね返ったビームを検知して、溶接部欠陥を検知しにくくなる場合がある。そこで、これを防ぐために内面ビードを切削してもよい。また、溶接部のじん性向上のため、シーム部に熱処理(焼準、または焼入れと焼鈍し)を施すこともできる。
次に、各工程における処理条件の限定理由について説明する。なお、特に断らない限り、温度は鋼帯の幅方向中央における表面温度を意味するものとする。
粗圧延出側温度:900〜1050℃
熱間圧延工程における粗圧延出側温度は、粗圧延時にTiSが多量に析出しないよう、900℃以上とする。一方、粗圧延出側温度が高すぎると、粗圧延された鋼(粗バー)の温度が、その後の仕上圧延における温度条件を満たすために必要な空冷時間が長くなりすぎてしまう。空冷時間が長すぎると、長手方向における端部((先端)T部、(後端)B部)と中間部(M部)とにおける材質差が大きくなってしまうことに加えて、粗バーが上反りすることにより仕上圧延の際に粗バーが詰まるというトラブルが発生しやすくなる。これを防止するために、粗圧延出側温度は1050℃以下とする。
なお、本発明において、熱延加熱温度、すなわち、粗圧延前の加熱温度は特に限定されず、任意の温度とすることができるが、TiS、TiC等を固溶させるために、熱延加熱温度は1180〜1250℃とすることが好ましく、1200〜1220℃とすることがより好ましい。
仕上前空冷時間:30〜150秒
粗圧延後の空冷(仕上前空冷)の時間は、後の仕上圧延でTiSを効率よく析出させるために、30秒以上とする。一方、空冷時間が長すぎると、長手方向における端部(T部、B部)と中間部(M部)との間で材質差が大きくなると共に、粗バーが上反りすることにより仕上圧延でトラブルが発生しやすくなる。そのため、空冷時間は150秒以下とする。
なお、特に限定はされないが、仕上圧延の前には常法に従ってデスケーリングを行うことができる。また、Siを含有する鋼を熱間圧延すると、鋼帯表面に、Siスケール(ファイアライト)が酸化されてできる赤スケール(ヘマタイト)が生じる場合がある。鋼帯表面に赤スケールが残ると、赤スケール部が仕上圧延後の水冷で急冷され、赤スケール部とそれ以外の部分との材質差が大きくなる。そのため、噴射圧力20MPa以上の高圧水を用いた高圧デスケーリングを、仕上圧延前に実施することが好ましい。
また、仕上圧延前にエッジヒーターを用いて粗バーを加熱し、エッジ部の温度を上げること、仕上圧延前に粗バーを誘導加熱装置等で長手方向に加熱すること、および仕上圧延前に粗バーを一旦コイル状に巻き取ってから仕上圧延を施すこともできる。
仕上圧延入り側温度:850〜1000℃
仕上圧延中にTiSを効率よく析出させるため、仕上圧延入り側温度は850〜1000℃とする。仕上圧延入り側温度が1000℃を超えるとTiS析出が十分ではなく、一方、仕上圧延入り側温度が850℃未満では仕上圧延より前にTiSが析出しやすいためである。
圧下率:50%以上
仕上圧延における圧下率は50%以上とする。仕上圧下率が低いと、TiS析出が不十分となるためである。なお、TiS析出のため、仕上圧延はタンデム圧延で実施することが好ましい。また、その場合、TiSのひずみ誘起析出のため、タンデム圧延は少なくとも3段以上で行うことが好ましい。
仕上圧延出側温度:750〜850℃
仕上圧延出側温度が750℃未満では、仕上圧延中にTiCが多量に析出し、じん性が低下する。これを防止するため、仕上圧延出側温度は750℃以上とする。一方、仕上圧延出側温度が850℃を超えると、細粒化によりじん性向上に寄与するTiCが、仕上圧延後の冷却の際に十分に析出しない。そのため、仕上圧延出側温度は850℃以下とする。
ROT前空冷時間:4〜10秒
仕上圧延後、水冷を行う前に、4〜10秒間空冷する。これにより、フェライトが析出する際にTiCが線状(点列状)に並んで析出し、じん性が低下することを抑制する。
冷却停止温度:300℃以上、550℃未満
前記空冷後、鋼帯を水冷する。該水冷における冷却停止温度が300℃未満であると、マルテンサイトが析出して高強度化することにより、造管時に割れが発生しやすくなる。一方、冷却停止温度が550℃以上であると、TiCの析出が十分ではなく、細粒化によるじん性向上効果が得られない。そのため、冷却停止温度は300℃以上、550℃未満とする。
平均冷却速度:50〜200℃/s
前記水冷における平均冷却速度が50℃/s未満であると、TiCの析出が不十分となり、細粒化によるじん性向上効果を十分に得ることができない。一方、平均冷却速度が200℃/sを超える急冷では温度制御が困難となり、鋼帯の表面粗さのばらつきや、鋼板表面に部分的に水がたまる水のり等が原因で、局部的に高強度なところが出やすくなる。そのため、平均冷却速度は50〜200℃/sとする。なお、ここで平均冷却速度とは、水冷開始時から前記冷却停止温度に到達した時点までの間における平均冷却速度を意味する。
巻取温度:500〜600℃
巻取温度が500℃未満であると、ベイナイト組織が析出しやすくなり、本発明において意図されるTiCの析出が不十分となり、その結果、じん性が劣化する。よって、巻取温度は500℃以上とする。一方、巻取温度が高すぎると、TiCが凝集粗大化し、YS、TSが下がると共に、じん性が劣化する。よって、巻取温度は600℃以下とする。なお、巻取温度は530〜580℃とすることが好ましい。
上記方法によって得られる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、低降伏比で、かつ角部におけるじん性にも優れている。なお、角形鋼管の機械的特性は特に限定されないが、好適には以下の通りである;降伏強度:295〜445MPa、引張強度:400〜550MPa、降伏比:90%以下で、角部を含む位置におけるシャルピー吸収エネルギー:0℃で70J以上。
次に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
鋼の成分組成と製造条件が、角形鋼管の機械的特性に及ぼす影響を評価するために、以下の実験を行った。まず、表1に示す成分組成を有する鋼素材を常法に従って溶製し、鋼素材を得た。なお、表1におけるNb、V、およびBは、不可避不純物として含有されているものであるが、鋼種KにはNbが、鋼種LにはVが、それぞれ不可避不純物として含まれる量を超えて添加されている。また、前記鋼素材は、表1に記載した元素と残部のFeおよび他の不可避不純物からなる。
次いで、前記鋼素材に対し熱間圧延を施した後、水冷と巻取を行って、厚さ22mmの熱間圧延鋼帯を得た。前記熱間圧延における仕上圧延の前後においては、仕上前空冷およびROT前空冷を行った。また、前記水冷の後には、空冷(巻取前空冷)を行って、鋼帯表面を巻取温度まで復熱させた。各工程における処理条件を表2に示す。
得られた熱延鋼帯をロールフォーミングし、電気抵抗溶接することによって丸形鋼管とし、さらにサイジングでの冷間加工を行って、外寸500mm角、板厚22mmの角形鋼管を得た。その後、得られた角形鋼管の機械的特性を以下の方法で測定した。
[引張試験]
得られた角形鋼管のそれぞれから、試験片の長さ方向が管軸方向となるように引張試験片を採取した。前記引張試験片は、角形鋼管の辺の中央部(平坦部)から採取し、JIS Z2201の5号試験片に仕上げた。得られた試験片を用いて、JIS Z2241に従い引張試験を行い、降伏強度(YS)、引張強さ(TS)、および伸び(El)を測定した。また、得られたYSおよびTSの値から、降伏比(YR)=(YS/TS)×100(%)を求めた。
[シャルピー衝撃試験]
同様に、得られた角形鋼管のそれぞれから、試験片の長さ方向が管軸方向となるように平坦部と角部からシャルピー衝撃試験片を採取した。前記シャルピー衝撃試験片は、試験片の中心が板厚外側の1/4となるように採取し、JIS Z2202の4号試験片に加工した。得られた試験片を用いて、JIS Z2242に従いシャルピー衝撃試験を行い、−20℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-20)を測定した。測定は、同様の方法で得た3つの試験片について行い、平均値をvE-20とした。−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが70J以上であれば、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを安定して70J以上とすることができる。
測定結果を表3に示す。鋼の成分組成および鋼帯の製造条件が本発明の条件を満たす発明例においては、得られた角形鋼管が降伏比の低さとじん性の高さを兼ね備えた、優れた機械的特性を有していた。一方、製造条件が本発明の条件を満たさない比較例(No.2〜7)においては、vE-20が低く、角部におけるじん性が不十分であった。さらに、比較例No.5、7においては、マルテンサイトが析出した結果、YSおよびTSが高くなっていた。また、鋼の成分組成が本発明の条件を満たさない比較例No.11〜18においては、YSおよびTSが低い、YRが高い、またはvE-20が低くい等、機械的特性が劣っていた。
(実施例2)
次に、Ti含有量の影響を評価するために、以下の実験を行った。まず、Ti含有量が異なり、他の成分の含有量がほぼ等しい9種の鋼素材を溶製した。Ti以外の成分は、C:0.11〜0.14%、Si:0.01〜0.02%、Mn:0.60〜0.72%、P:0.005〜0.012%、S:0.003〜0.005%、Al:0.021〜0.036%、N:0.0029〜0.0048%、残部のFeおよび不可避的不純物である。Ti含有量は0.002〜0.067%の間で変化させた。
次いで、前記鋼素材に対し粗圧延、仕上前空冷、仕上圧延、ROT前空冷、水冷、巻取前空冷、および巻取の各処理を順次施して、厚さ22mmの熱延鋼帯とした。各工程における処理は以下の通りとした。
熱延加熱温度:1200〜1215℃、
粗圧延出側温度:957〜999℃、
仕上前空冷時間:88〜97秒、
仕上圧延入側温度:888〜927℃、
仕上圧延圧下率:56〜61%、
仕上圧延出側温度:786〜817℃、
ROT前空冷時間:5〜7秒、
平均冷却速度:127〜163℃/s、
冷却停止温度:407〜435℃、
巻取前空冷時間:3〜5秒、
巻取温度:568〜589℃。
得られた熱延鋼帯を角形鋼管に成形し、角形鋼管の機械的特性を測定した。鋼管への成型方法および機械的特性の測定方法は、実施例1と同様とした。
測定結果を図1に示す。図1(a)は鋼のTi含有量と降伏比との関係を、図1(b)は鋼のTi含有量と角部におけるシャルピー吸収エネルギーとの関係を、それぞれ示している。この図より、Ti含有量が本発明の条件を満たす場合には、降伏比、シャルピー吸収エネルギーともに良好な値を示すことが分かる。
Figure 2017078196
Figure 2017078196
Figure 2017078196

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C :0.06〜0.2%、
    Si:0.03%以下、
    Mn:0.2〜1.0%、
    P :0.03%以下、
    S :0.002〜0.015%、
    Al:0.005〜0.07%、
    N :0.006%以下、および
    Ti:0.01〜0.05%
    を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼素材を、
    粗圧延出側温度:900〜1050℃の条件で粗圧延し、
    30〜150秒空冷し、
    仕上圧延入り側温度:850〜1000℃、圧下率:50%以上、および仕上圧延出側温度:750〜850℃の条件で仕上圧延し、
    4〜10秒空冷し、
    前記仕上圧延によって得た鋼帯の表面で、冷却停止温度:300℃以上、550℃未満、前記冷却停止温度までの平均冷却速度:50〜200℃/sの条件で水冷し、
    巻取温度:500〜600℃の条件で巻き取る、鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法。
  2. 請求項1に記載の鋼管用厚肉熱延鋼帯の製造方法で得た鋼管用厚肉熱延鋼帯を丸形鋼管に成形し、
    前記丸形鋼管を冷間成形して角形鋼管とする、角形鋼管の製造方法。
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