本発明が適用される車両の実施例として、図1及び図2に示すトラクタ100の全体構造について説明する。なお、図1、図2において、矢印Fはトラクタ100の前方を示すものであり、後述の図4〜7、図9、図10における矢印Fは、当該トラクタ100に後記トランスミッション1を搭載した場合におけるトラクタ100及びトランスミッション1の前方を示すものである。以下のトラクタ100及びトランスミッション1の説明の中で言及される各部材や部分の位置や方向については、矢印Fを前方向きとしていることを前提とする。
図1に示すように、トラクタ100は車体フレーム101を備えている。車体フレーム101の前部にて、前車軸駆動ケース20が支持されており、該前車軸駆動ケース20にて、左右一対の前輪9が支持されている。車体フレーム101の前部上方には、ボンネット102が搭載されており、該ボンネット102内に、図2に示すエンジン10が配設されている。図1に示すように、該ボンネット102の後方にて、車体フレーム101の後部上方にはキャビン103が搭載されている。
図1に示すように、キャビン103の下方にて、車体フレーム101の後端部が、トランスミッション1のミッションケース2に接続されている。トランスミッション1は、左右一対の後輪8の車軸28(左車軸28L及び右車軸28R。図4等参照)を支持するとともに、前車軸駆動ケース20へと前輪駆動用の動力を出力するための前輪駆動軸34(図2参照)を支持している。トランスミッション1は、後部にリアPTO軸60(図2、図4等参照)を支持している。リアPTO軸60にて、リンク機構115を介してトラクタ100に装着されるロータリ耕運機等の作業機が駆動される。トランスミッション1のミッションケース2の後端部からはトップリンク115a及び左右一対のロアリンク115bを後方に延設しており、これらのリンク115a・115bにて、3点リンク式の作業機装着用リンク機構115を構成している。
図1に示すように、キャビン103にて構成される運転室内には、座席105が配設され、その前方に立設されるフロントコラム106の上部よりステアリングハンドル107が延設され、ステアリングハンドル107の近傍に、前後進切換(リバーサ)レバー108が配置されている。座席105の左右近傍には、主変速レバー109、副変速レバー110、PTO変速・逆転レバー111の他、作業機昇降操作用スイッチ、PTOクラッチスイッチ等が設けられている。フロントコラム106から下方にクラッチペダル112が延設され、また、フロントコラム106の足元となる床面にはアクセルペダル113や、図示されない左右一対のブレーキペダル等が設けられている。また、該床面の、座席105寄り部分には、デフロックペダル114が設けられている。また、運転室の前部に設けられるフロントコラム106の上部にも、二輪/四輪駆動モードの切換や、前輪増速設定等の設定用のスイッチ等の操作具や様々な計器類が配設されている。
図2より、トラクタ100の動力系統について説明する。トラクタ100には、前記エンジン10の出力を伝達する動力系統として、後輪8及び前輪9に動力を伝達する走行用動力系統PT1と、リアPTO軸60に動力を伝達する作業機駆動用動力系統PT2とが設けられている。トランスミッション1は、両動力系統PT1・PT2にて共有される前後方向延伸状の入力軸21を有している。該入力軸21は、ユニバーサルジョイント付き伝動軸11を介して、エンジン10の出力軸に連結される。
走行用動力系統PT1は、前輪8・後輪9に分配する動力を伝達する共通駆動系PT1mとして、主変速装置12、リバーサクラッチ13、副変速装置14を有し、エンジン10にて駆動される入力軸21の回転動力を、主変速装置12から、リバーサクラッチ13を介して、副変速装置14へと伝達するものとしている。さらに、走行用動力系統PT1は、共通駆動系PT1mの副変速装置14の出力を左右後輪8の車軸28へと分配する後輪駆動系PT1rとして、リアデフ機構15、デフロック機構16、左右一対のブレーキ17、第1減速ギア機構18、第2減速ギア機構19等を備え、また、副変速装置14の出力を左右前輪9の車軸9aへと分配する前輪駆動系PT1fとして、前輪駆動用ギア機構30、前輪駆動モード設定用クラッチ32、前輪駆動軸34、フロントデフ機構36、ファイナル減速ギア機構37等を備えている。
走行用動力系統PT1のうち、主変速装置12、リバーサクラッチ13、副変速装置14よりなる共通駆動系PT1m、リアデフ機構15から車軸28までの後輪駆動系PT1rの全構成要素、及び、前輪駆動系PT1fのうち前輪駆動用ギア機構30から前輪駆動軸34までの構成要素が、トランスミッション1に組み込まれている。前輪駆動系PT1fのうち、フロントデフ機構36は前車軸駆動ケース20に収容されており、その入力軸36aが前車軸駆動ケース20より後方に突出しており、伝動軸35を介して、トランスミッション1に支持される前輪駆動軸34に連結されている。前車軸駆動ケース20と左右各前輪9の車軸9aとの間にはファイナル減速ギア機構37が介設されており、フロントデフ機構36の出力が、左右のファイナル減速ギア機構37を介して、左右前輪9へと伝達されるものとしている。
図2より、トランスミッション1における走行用動力系統PT1の各構成要素の構造について詳述する。まず、共通駆動系PT1mにおいて、本実施例では、油圧機械式無段変速装置(以下、「HMT」)を主変速装置12としている。該主変速装置12としてのHMTは、アキシャルピストン型の油圧ポンプ12Pと、該油圧ポンプ12Mからの作動油の供給を受けて駆動するアキシャルピストン型の油圧モータ12Mとを有する。該HMTは、前記入力軸21と同一軸心上に配置され、入力軸21と一体状に回転可能に入力軸21に連結されるポンプ軸12aを有しており、該油圧ポンプ12P及び油圧モータ12Mを該ポンプ軸12a上にて同一軸心上に配している。また、該HMTには、該油圧ポンプ12Pの容積を設定する可動斜板であるポンプ斜板12bと、該油圧モータ12Mの容積を画する固定斜板であるモータ斜板12cとが設けられている。主変速装置12の出力軸22は、入力軸21と同一軸心上の前後方向に延伸される筒状部材となっており、入力軸21に対し相対回転自在に、入力軸21の周りに配設されている。モータ斜板12cは、該出力軸22に同一軸心上に配され、該出力軸22と一体に回転するように、該出力軸22に連結されている。
ポンプ斜板12bは、傾倒角0の位置(ポンプ軸12a及び入力軸21に対し垂直に配置されている状態)から、減速用傾倒方向に傾動可能であり、また、該傾倒角0の位置から、該減速用傾倒方向とは反対側の増速用傾倒方向に傾動可能である。モータ斜板12c及び出力軸22は、ポンプ斜板12bの傾倒角及び方向にかかわらず、入力軸21及びポンプ軸12aの回転と同じ方向に回転するものであり、ポンプ斜板12bの傾倒角が0のときに入力軸21及びポンプ軸12aと同じ速度で回転する。ポンプ斜板12bを傾倒角0の位置から減速用傾倒方向に傾動するにつれ、モータ斜板12c及び出力軸22の回転速度が低くなり、減速用傾倒方向で最大傾倒角に到達すると、モータ斜板12c及び出力軸22の回転速度は0となる。一方、ポンプ斜板12bを傾倒角0の位置から増速用傾倒方向に傾動するにつれ、モータ斜板12c及び出力軸22の回転速度が高くなり、増速用傾倒方向で最大傾倒角に到達すると、モータ斜板12c及び出力軸22の回転速度は、最大(例えば入力軸21及びポンプ軸12aの回転速度の二倍)となる。
ポンプ斜板12bの傾倒角及び方向は、前記主変速レバー109の操作によって変更される。主変速レバー109は速度0位置から最大速度位置まで傾動可能となっている。主変速レバー109を速度0位置にしているとき、ポンプ斜板12bは、減速用傾倒方向における最大傾倒角位置に傾倒されて、エンジン10の回転にかかわらず、モータ斜板12c及び出力軸22の回転速度を0としている。主変速レバー109を速度0位置から最大速度位置へと傾倒させるにつれ、ポンプ斜板12bは、減速用傾動方向にて最大傾倒角位置から傾倒角0位置へと傾倒角度を減少させ、やがて、傾倒角0の位置から増速用傾倒方向に傾動して傾倒角度を増大させ、主変速レバー109が最大速度位置に達すると、増速用傾倒方向における最大傾倒角位置に達する。
なお、アクセルペダル113を踏み込むことによってもポンプ斜板12bの傾倒角及び方向が制御される。すなわち、アクセルペダル113の踏込み量を増すにつれて、エンジン回転数が増大する一方、このエンジン回転数の増大に応じて、ポンプ斜板12bが減速用傾動方向の最大傾倒角位置から増速用傾動方向の最大傾倒角位置へと傾動し、主変速装置12としてのHMTの速度比、すなわち、入力軸21に対する出力軸22の回転速度比が、エンジン回転数に対応するように自動的に調整される。
トランスミッション1には、入力軸21及び主変速装置12の出力軸22に対し平行な、前後方向延伸状のリバーサクラッチ軸23、アイドル軸24及び副変速出力軸25が設けられている。出力軸22には平ギア22a・22bが固設され、リバーサクラッチ軸23には、前進クラッチ13Fと後進クラッチ13Rとを一体に組み合わせた構造のリバーサクラッチ13が設けられている。リバーサクラッチ13を介して、平ギア13a・13bがリバーサクラッチ軸23に装着されている。平ギア13aは平ギア22aと直接噛合し、平ギア22a・13aにて前進用ギア列が構成されている。平ギア13bはアイドル軸24上に支持されたアイドルギア24aを介して平ギア22bと噛合しており、平ギア22b・24a・13bにて後進用ギア列が構成されている。
リバーサクラッチ13は、前記リバーサレバー108の操作によって、前進クラッチ13Fを接合し後進クラッチ13Rを離間する前進状態、前進クラッチ13Fを離間し後進クラッチ13Rを接合する後進状態、及び、前進クラッチ13F・後進クラッチ13Rをともに離間する中立状態の3つの状態のうちのいずれかに設定される。リバーサクラッチ13が前進状態に設定されると、主変速装置12の出力軸22の回転動力が、平ギア22a・13aよりなる前進用ギア列を介してリバーサクラッチ軸23に伝達され、リバーサクラッチ軸23は前進方向に回転する。リバーサクラッチ13が後進状態に設定されると、主変速装置12の出力軸22の回転動力が、平ギア22b・24a・13bよりなる後進用ギア列を介してリバーサクラッチ軸23に伝達され、リバーサクラッチ軸23は後進方向に回転する。リバーサクラッチ13が中立状態に設定されると、主変速装置12の出力軸22の回転にかかわらず、リバーサクラッチ軸23は非駆動状態となる。
リバーサクラッチ軸23と副変速出力軸25との間に、副変速装置14としてのギア式有段変速装置を構成する低速ギア列、中速ギア列、高速ギア列が介設されている。すなわち、リバーサクラッチ軸23には平ギア23a・23b・23cが固設され、副変速出力軸25には相対回転自在に平ギア25a・25b・25cが装着されており、平ギア23a・25aが直接噛合して低速ギア列を構成し、平ギア23b・25bが直接噛合して中速ギア列を構成し、平ギア23c・25cが直接噛合して高速ギア列を構成している。副変速出力軸25上には、平ギア25a・25b間にてクラッチスライダ14aが、また、平ギア25cの近傍にてクラッチスライダ14bが、それぞれ、副変速出力軸25に沿って摺動自在かつ副変速出力軸25に対し相対回転不能(一体回転可能)に設けられている。クラッチスライダ14a・14bは、前記副変速レバー110の操作によって摺動操作され、平ギア25a・25b・25cのうちのいずれか一つが、クラッチスライダ14aまたは14bを介して副変速出力軸25に噛合する。
すなわち、副変速装置14は、クラッチスライダ14aを平ギア25aに噛合して、平ギア23a・25aよりなる低速ギア列を介してリバーサクラッチ軸23から副変速出力軸25へと動力を伝達する低速段状態と、クラッチスライダ14aを平ギア25bに噛合して、平ギア23b・25bよりなる中速ギア列を介してリバーサクラッチ軸23から副変速出力軸25へと動力を伝達する中速段状態と、クラッチスライダ14bを平ギア25cに噛合して、平ギア23c・25cよりなる高速ギア列を介してリバーサクラッチ軸23から副変速出力軸25へと動力を伝達する高速段状態とのうちのいずれかの速度段状態に設定される。リバーサクラッチ軸23の回転方向はリバーサクラッチ13の切換により前進方向か後進方向かに設定されるので、主変速装置12の無段変速、及び、副変速装置14の高中低の3段変速による、幅広くきめ細かい変速効果を、前進設定時にも後進設定時にも得られるものである。なお、全ての平ギア25a・25b・25cをクラッチスライダ14a・14bと噛合しない中立状態に副変速装置14を設定することも可能である。
副変速出力軸25の後端にはベベルピニオン25dが固設(または形成)されており、該ベベルピニオン25dは、リアデフ機構15の入力ギアであるベベルリングギア15aと噛合している。一方、副変速出力軸25の前端部には、平ギア25eが固設されており、該平ギア25eは、前輪駆動用ギア機構30を構成するカウンタ軸31に固設された平ギア31aと直接噛合している。こうして、副変速出力軸25の回転動力は、後輪駆動系PT1rのリアデフ機構15と、前輪駆動系PT1fの前進駆動用ギア機構30とに分配される。なお、図2において平ギア25eに係るように図示されている部材25fは、回転数検出部材であり、回転数検出部材25fにて検出される変速出力軸25の回転数に基づいて、後述の前輪増速クラッチ32Hの入り切り制御等がなされるものとしている。
後輪駆動系PT1rのリアデフ機構15は、前記ベベルリングギア15a、該ベベルリングギア15aの左右一側に固設されるデフケース15b、デフケース15b内に配置されるベベルデフピニオン15c、ベベルデフピニオン15cをデフケース15bに枢支するデフピニオン軸15dを備えている。ベベルリングギア15aは、左右方向にて互いに同一軸心上に配置された左右一対の差動出力軸26(左差動出力軸26L及び右差動出力軸26R)のうちの一方(本実施例では、右差動出力軸26R)上に相対回転自在に装着されており、デフケース15bは、ベベルリングギア15aに対し反対側の左右一端に形成したボス部15b1を、左右一対の差動出力軸26(26L・26R)のうちの他方(本実施例では左差動出力軸26L)上に相対回転自在に装着している。両差動出力軸26(26L・26R)の内側端部が、デフケース15b内に配置され、各差動出力軸26L・26Rの該内側端部に、各ベベルデフサイドギア26a・26bが固設されている。各ベベルデフピニオン15cは、左右両差動出力軸26L・26Rのベベルデフサイドギア26a・26bと噛合している。なお、一対のベベルデフサイドギア26a・26bのうち、デフケース15bのボス部15b1を装着した方の差動出力軸26Lのベベルデフサイドギア26aには、後記デフロックピン16bを挿通するための孔が形成されている。
リアデフ機構15には、デフロック機構16が備えられている。デフロック機構16は、デフケース15bの前記ボス部15b1に軸心方向摺動自在に装着されたスライドリング16aと、該スライドリング16aに固設された左右方向延伸状のデフロックピン16bとを有している。デフケース15bの本体部には孔が設けられており、該孔を介して挿通されるデフロックピン16bの先端がデフケース15bの本体部内に配置されている。スライドリング16aは、その摺動により、デフケース15bの本体部から遠ざかったロック解除位置と、デフケース15bの本体部に近接したデフロック位置とのうちのいずれかに設定される。スライドリング16aをデフロック位置に配置すると、該スライドリング16aより延設されるデフロックピン16bの先端が、デフケース15bを装着した差動出力軸26Lのベベルデフサイドギア26aの孔を介してこのベベルデフサイドギア26aに嵌入し、これにより、デフケース15bを該差動出力軸26Lにロックし、これにより、左右の差動出力軸26L・26Rをデフロック(差動不能の状態に)する。スライドリング16aをロック解除位置にすると、該デフロックピン16bの先端がベベルデフサイドギア26aより後退し、両差動出力軸26L・26Rを差動可能な状態とする。
なお、図2においては図略されているものの、図11にてわかるように、左右延伸状のフォーク軸40がトランスミッション1の後記ミッションケース2内にて延設されており、フォーク軸40より延設されるフォーク40aがスライドリング16aの環状溝に係合している。フォーク軸40は軸心方向(左右方向)に摺動可能となっており、その摺動により、フォーク40aを介してスライドリング16aが摺動して前記デフロック位置か前記ロック解除位置かに配置される。また、フォーク軸40及びフォーク40aは、フォーク軸40に巻装されたバネ40bにより、スライドリング16aを前記ロック解除位置に配置する方向に付勢されている。フォーク軸40は、前記デフロックペダル114の操作により摺動される。デフロックペダル114を踏み込んでいないときは、スライドリング16aは前記ロック解除位置にあり、デフロックペダル114が踏み込まれると、スライドリング16aは前記デフロック位置に配置される。
図2をもとに、後輪駆動系PT1rにおける左右各差動出力軸26(左差動出力軸26L・右差動出力軸26R)から左右各車軸28(左車軸28L・右車軸28R)までの部分の構成について説明する。以下、後輪駆動系PT1rの構造の説明において、各差動出力軸26の軸心方向(左右方向)において、リアデフ機構15側を「内側」、リアデフ機構15に対し反対側、すなわち車軸28側を「外側」と称するものとする。なお、図2では、後輪駆動系PT1rの、リアデフ機構15から左側の車軸28(28L)までの部分を図示しており、右差動出力軸26Rの外側部分、右側の減速軸27、右差動出力軸26Rの外側部分と右側の減速軸27との間に介設される右側の第1減速ギア機構18、さらに、右側の第2減速ギア機構19及び右側の車軸28(28R)を図略している。
各差動出力軸26の内側寄り部分には、ブレーキ17(左ブレーキ17L・右ブレーキ17R(図9、10、11参照))が設けられている。左右ブレーキ17L・17Rは、前述の如くキャビン103内に設けられた図示されない左右一対のブレーキペダルのそれぞれの踏込み操作にて各別に操作される。なお、左右ブレーキ17L・17Rは、このようなオペレータによるブレーキペダルの踏込み操作以外に、後述の如く、図3に示す自動ブレーキ用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)72L・72Rによっても操作可能となっている。これは、キャビン103内に設けられた図示されない自動ブレーキ設定用のスイッチ等の操作具を、自動ブレーキ設定にしたときに、車両旋回のためにステアリングハンドル107を回動すると、旋回内側のブレーキ17用の油圧シリンダ76Lまたは76Rを操作して、当該ブレーキ17をかけ、旋回内側の後輪8を制動して、トラクタ100の小旋回を可能ならしめるものである。なお、トラクタ100の小旋回用の構造としては、このように旋回内側の後輪8を制動する自動ブレーキシステム以外に、後述の如く、旋回時に前輪9の速度を後輪8に比して高くする前輪増速システムも設けられている。
各差動出力軸26の外側端部には、平ギア18aが固設(または形成)されている。左右方向に延伸される左右一対の減速軸27が、左右一対の差動出力軸26L・26Rの外側部分に対し、それぞれ平行に配置されている。各減速軸27は、その外周上に、平ギア18aより大径の平ギア18bを固設(または形成)したギア軸となっている。該平ギア18bは、各差動出力軸26の平ギア18aに直接噛合させており、平ギア18a・18bにて、各差動出力軸26と各減速軸27との間に介設される第1減速ギア機構18を構成している。
左右各減速軸27の外側には、該減速軸27と同一軸心上にて、左右各車軸28(28L・28R)が配置されており、減速軸27と車軸28との間に、第2減速ギア機構19が介設されている。第1減速ギア機構18が小径・大径の平ギア18a・18bを噛合させたものであるのに対し、第2減速ギア機構19は、サンギア19a、インターナルギア19b、遊星ギア19c、キャリア19dを有する遊星ギア機構となっている。減速軸27は、第2減速ギア機構19である遊星ギア機構のサンギア軸にもなっていて、これにサンギア19aが固設(または形成)されている。サンギア19aの周りには、トランスミッション1の後記筐体の内周面に固設されたインターナルギア19bが配置されており、サンギア19aとインターナルギア19bとの間に遊星ギア19cが介設されている。遊星ギア19cはキャリア19dに枢支されており、該キャリア19dは車軸28の内側端に固設されている。サンギア19a及びインターナルギア19bに噛合する各遊星ギア19cは、サンギア19aの回転に伴ってサンギア19a周りを公転し、この遊星ギア19cの公転によりキャリア19d及び車軸28が回転する。
以上のように、走行用動力系統PT1における後輪駆動系PT1rは、リアデフ機構15にて副変速出力軸25の回転動力を受け、その回転動力を、左右両差動出力軸26L・26Rに分配し、各差動出力軸26の回転動力を、減速軸27及び二つの減速ギア機構18・19を介して、左右各車軸28へと伝達する構成となっており、このような構成の後輪駆動系PT1rが全て、前述のようにトランスミッション1に組み込まれている。
前輪駆動系PT1fのうち、前輪駆動軸34からフロントデフ機構36を介して左右各前輪9の車軸9aに至る部分の構造については前述のとおりであり、ここでは、前輪駆動系PT1fのうち、トランスミッション1に組み込まれている部分の構成について説明する。前記平ギア25e・31aは、副変速出力軸25の回転動力をカウンタ軸31へと伝達する減速ギア列を構成している。カウンタ軸31には平ギア31b・31cが固設され、カウンタ軸31に対し平行に配設された前輪駆動用クラッチ軸33には、前輪通常速駆動クラッチ32Lと前輪増速駆動クラッチ32Hとを一体に組み合わせた構造の駆動モード切換クラッチ32が設けられている。駆動モード切換クラッチ32を介して、平ギア32a・32bが前輪駆動用クラッチ軸33に装着されている。平ギア32aは平ギア31bと直接噛合し、平ギア31b・32aにて前輪通常速駆動用ギア列が構成されている。平ギア32bは平ギア31cと直接噛合しており、平ギア31c・32bにて前輪増速駆動用ギア列が構成されている。前輪増速駆動用ギア列は、前輪通常速駆動用ギア列に比して、出力/入力ギア径比が小さいものとなっている。
駆動モード切換クラッチ32は、図示されない前記の駆動モード・前輪増速設定用の操作具(以下、「駆動モード操作具」と称する)、及びステアリングハンドル107の操作によって、前輪通常速駆動クラッチ32Lを接合し前輪増速駆動クラッチ32Hを離間する通常四輪駆動状態と、前輪通常速駆動クラッチ32Lを離間し前輪増速駆動クラッチ32Hを接合する前輪増速駆動状態と、両クラッチ32L・32Hをともに離間する二輪駆動状態とのうちのいずれかの状態に設定される。一方、前輪9への動力伝達状態に関し、駆動モード操作具の操作にて、二輪駆動モード、通常四輪駆動モード、前輪増速モードのうちのいずれかが設定される。
通常四輪駆動モードが設定されると、ステアリングハンドル107の操作にかかわらず、駆動モード切換クラッチ32が通常四輪駆動状態に設定され、カウンタ軸31の回転動力が、平ギア31b・32aよりなる前進通常速駆動用ギア列を介して前輪駆動用クラッチ軸33に伝達され、前輪駆動用クラッチ軸33は通常速度で回転する。これにより前輪9は、後輪8と略同期する速度にて回転駆動される。
前輪増速モードが設定された状態において、車両旋回のためにステアリングハンドル107が回動されると、駆動モード切換クラッチ32が前輪増速駆動状態に切り換えられる。このとき、カウンタ軸31の回転動力は、平ギア31c・32bよりなる前輪増速駆動用ギア列を介して前輪駆動用クラッチ軸33に伝達され、前輪駆動用クラッチ軸33の回転が増速される。これにより、前輪8の回転速度が後輪7に比べて高くなり、圃場を荒らすことなくトラクタ100を小旋回させることができる。一方、前輪増速モード設定時においても、ステアリングハンドル107を直進位置に配している限り、駆動モード切換クラッチ32は通常四輪駆動状態に設定され、前輪9は後輪8と略同期する速度で回転駆動する。
二輪駆動モードが設定されると、駆動モード切換クラッチ32は二輪駆動状態に設定され、カウンタ軸31の回転にかかわらず、前輪駆動用クラッチ軸33は非駆動状態となる。なお、二輪駆動モードであっても、前輪通常速駆動クラッチ32Lを半クラッチ状態にして前輪駆動用クラッチ軸33に若干の動力を伝達するようにすることも考えられる。
前輪駆動用クラッチ軸33には平ギア33aが固設(または形成)されており、前輪駆動軸34に固設(または形成)されている平ギア34aに直接噛合している。これら平ギア33a・34aにて、前輪駆動用クラッチ軸33から前輪駆動軸34へと動力を伝達するギア列を構成している。
図2に示す走行用動力系統PT1の構造についての説明は以上である。次に、図2に示すPTO駆動用動力系統PT2の構造について説明する。筒状のPTO駆動軸50にギア51a・51bが固設されている。ギア51aは、入力軸21に固設されたギア21aと噛合し、ギア51bはポンプ駆動軸52に固設されたギア51cと噛合している。こうして、ギア21a・51a・51b・51cよりなるポンプ駆動用ギア列51を介して入力軸21の回転動力がポンプ駆動軸52へと伝達される構造となっている。ポンプ駆動軸52には、タンデム油圧ポンプセット62が接続されている。こうして、エンジン10の動力がトランスミッション1の入力軸21に伝達されている限り、タンデム油圧ポンプセット62の後記第1・第2油圧ポンプ62a・62bがエンジン10の動力にて駆動されるよう構成されている。
筒状のPTO駆動軸50は、PTOクラッチ軸54に相対回転自在に周設されており、該PTO駆動軸50とPTOクラッチ軸54との間に、油圧式のPTOクラッチ53が介設されている。ポンプ駆動軸52にはPTOクラッチ53の入り切りと関係なく入力軸21の回転動力がポンプ駆動用ギア列51(ギア21a・51a・51b・51c)を介して伝達されるものであり、一方、ギア21a・51aを介してPTO駆動軸50に伝達された入力軸21の回転動力は、PTOクラッチ53を接合した場合に限りPTOクラッチ軸54に伝達される。
PTOクラッチ53を介してPTOクラッチ軸54に伝達された入力軸21の回転動力は、PTO変速・逆転ギア機構55、PTO伝動軸59、ギア59a・60aを介して、リアPTO軸60へと伝達される。PTO変速・逆転ギア機構55は、PTOクラッチ軸54に対し同一軸心上にて一体回転自在に接続されるPTO変速駆動軸56、該PTO変速駆動軸56に対し平行なPTO変速従動軸57及びアイドル軸58、PTO変速駆動軸56とPTO変速従動軸57との間に介設される複数のPTO変速ギア列及びPTO逆転ギア列等より構成される。
すなわち、該PTO変速・逆転ギア機構55において、PTO変速駆動軸56には、平ギアである低速駆動ギア56a、中速駆動ギア56b、高速駆動ギア56c、逆転駆動ギア56dが固設(または形成)されており、PTO変速従動軸57には、平ギアである低速従動ギア57a、中速従動ギア57b、高速従動ギア57c、逆転従動ギア57dが相対回転自在に装着されている。低速駆動ギア56aと低速従動ギア57aとは直接噛合してPTO低速ギア列を構成しており、中速駆動ギア56bと中速従動ギア57bとは直接噛合してPTO中速ギア列を構成しており、高速駆動ギア56cと高速従動ギア57cとは直接噛合してPTO高速ギア列を構成しており、これら三つのギア列にて、PTO変速・逆転ギア機構55における正転3速のPTO変速ギア列が構成されている。一方、逆転駆動ギア56dと逆転従動ギア57dとはアイドル軸58上のアイドルギア58aを介して噛合しており、これらギア56d・58a・57dにて、PTO変速・逆転ギア機構55におけるPTO逆転ギア列を構成している。
さらに、該PTO変速・逆転ギア機構55は、前記PTO低速ギア列、PTO中速ギア列、PTO高速ギア列、PTO逆転ギア列のうちから択一したギア列をPTO変速従動軸55に駆動連係するためのクラッチスライダ55a・55b・55cを有している。すなわち、低速・中速従動ギア57a・57b間にてクラッチスライダ55aが、高速従動ギア57c近傍にてクラッチスライダ55bが、逆転従動ギア57d近傍にてクラッチスライダ55cが、それぞれ、相対回転不能かつ軸心方向摺動自在にPTO変速従動軸57に装着されている。クラッチスライダ55a・55b・55cのうちのいずれか一つが従動ギア57a・57b・57c・57dのうちの一つと噛合することにより、その該当のギア列を介して、PTO変速駆動軸56の回転動力をPTO変速従動軸57に伝達する構造となっている。
PTO変速従動軸57には、同一軸心上のPTO伝動軸59が、PTO変速従動軸57と一体状に回転可能となるように接続されている。リアPTO軸60はPTO伝動軸59に対し平行に延設されており、PTO伝動軸58に固設されたギア58aとリアPTO軸60に固設されたギア60aとが噛合してPTO伝動軸58からリアPTO軸60へと動力を伝達するギア列を構成している。なお、本実施例ではギア60aがギア59aより大径となっていて、ギア59a・60aよりなるギア列は減速ギア列となっているが、ギア59a・60aを同一径とすることや、ギア59aをギア60aより大径とすることも考えられる。
以上のように、PTOクラッチ53及びPTO変速・逆転機構55を備えて、入力軸21からリアPTO軸60へと動力を伝達する構成のPTO駆動用動力系統PT2が、トランスミッション1に組み込まれている。
なお、前述の如く、トラクタ100のキャビン103内には、図示されないPTOクラッチスイッチ及びPTO変速・逆転レバー111が設けられており、オペレータのPTOクラッチスイッチのON・OFF操作に基づき、PTOクラッチ53の入り切り制御がなされ、オペレータのPTO変速・逆転レバー111の操作に基づき、PTO変速・逆転機構55のクラッチスライダ55a・55b・55cの位置制御がなされるものとなっている。こうして、リアPTO軸60については、PTOクラッチスイッチ及びPTO変速・逆転レバー111の操作により、駆動状態・非駆動状態の選択、正転か逆転かの回転方向の選択、及び、正転時の速度段(低速・中速・高速)の選択をすることが可能となっている。
トラクタ100には、前述の主変速装置12であるHMTにおける油圧ポンプ12P及び油圧モータ12M、リバーサクラッチ13、前輪9の操舵用のパワーステアリングシリンダ65、PTO軸60への動力伝達の断接を行う油圧式PTOクラッチ53、リンク機構115に装着された作業機の姿勢を制御するための姿勢制御用シリンダ89、リンク機構115に装着された作業機を昇降するためのリフトシリンダ91等の様々な油圧機器(油圧アクチュエータ)が装備されている。以下、これらの油圧機器駆動用の油圧系統の構成について、図3に示すトラクタ100の油圧回路図及び図4乃至図8に示すトランスミッション1の全体図をもとに説明する。
トラクタ100は、これら油圧機器への作動油や潤滑油の供給源として、第1油圧ポンプ62a及び第2油圧ポンプ62bよりなるタンデムポンプユニット62を備えている。タンデムポンプユニット62は、図4乃至図7に示すようにトランスミッション1に備えられており、両ポンプ62a・62bは、トランスミッション1の入力軸21及び前記ポンプ駆動用ギア列51を介して、エンジン10の動力を受けて駆動され、ミッションケース2の油溜まりや別途設けたオイルリザーバ等で構成されるオイルタンクからラインフィルタ61を介して油を吸入する。
図3の油圧回路図でわかるように、第1油圧ポンプ62aの吐出油は、その全量が、圧油管63を介して、図4乃至図7に示す如く配設されたパワーステアリング用バルブセット64の入口ポート64aに供給される。パワーステアリング用バルブセット64には、パワーステアリング作動油給排ポート64c・64dが設けられており、これらのポート64c・64dは、図3に示すように、配管を介してパワーステアリングシリンダ65に接続される。パワーステアリング用バルブセット64内のバルブは、ステアリングハンドル107の操作に基づき制御され、これにより、入口ポート64aよりパワーステアリング用バルブセット64に導入された作動油のパワーステアリングシリンダ65に対する給排制御が行われる。
パワーステアリング用バルブセット64及びパワーステアリングシリンダ65に供給された油は、パワーステアリング用バルブセット64の出口ポート64bから排出され、圧油管66、ラインフィルタ67、圧油管68を介して、図4乃至図8に示すようにトランスミッション1に備えられる走行用バルブセット70の入口ポート70aへと供給される。
走行用バルブセット70には、図3に示すように、リバーサクラッチ13の前進クラッチ13F及び後進クラッチ13R、駆動モード切換クラッチ32の前輪通常速駆動クラッチ32L及び前輪増速駆動クラッチ32H、自動ブレーキ用油圧シリンダ76L・76Rに対する作動油の給排制御用バルブ群が組み込まれている。この作動油給排制御用バルブ群に含まれる各バルブについて説明する。
リバーサクラッチ13の前進クラッチ13F・13Rに対する作動油給排制御用にはリバーサクラッチ用方向制御弁71が設けられている。該方向制御弁71は、前進クラッチ13Fに油を供給して後進クラッチ13Rより油を排出する前進位置、前進クラッチ13F・後進クラッチ13Rより油を排出する中立位置、前進クラッチ13Fから油を排出して後進クラッチ13Rに油を供給する後進位置の3位置に切換可能となっている。また、該方向制御弁71は油圧パイロット弁であり、該方向制御弁71を前進位置にセットするためのパイロット圧をかけるための前進用切換弁72F、及び、該方向制御弁74を後進位置にセットするためのパイロット圧をかけるための後進用切換弁72Rが設けられている。前進用切換弁72F・後進用切換弁72Rは、リバーサレバー108の操作に基づき図示されないコントローラにて制御される電磁切換弁となっている。また、方向制御弁71がどの位置にあるかにかかわらず、クラッチペダル112を踏み込むことで前進クラッチ13F及び後進クラッチ13Rより油を排出して該両クラッチ13F・13Rを離間するためのクラッチバルブ73を設けている。
駆動モード切換クラッチ32の前輪通常速駆動クラッチ32Lに対する作動油給排用には前輪通常速駆動用切換弁74Lが設けられ、前輪増速駆動クラッチ32Hに対する作動油給排用には前輪増速駆動用切換弁74Hが設けられている。これら切換弁74L・74Hは、前記の駆動モード操作具の操作に基づいてコントローラにて制御される電磁切換弁である。また、左差動出力軸26L上のブレーキ17Lを作動するための自動ブレーキ用油圧シリンダ76Lに対する作動油給排用に左自動ブレーキ用切換弁75Lが設けられ、右差動出力軸26R上のブレーキ17Rを作動するための自動ブレーキ用油圧シリンダ76Rに対する作動油給排用に右自動ブレーキ用切換弁75Rが設けられている。これら切換弁75L・75Rは、前記の自動ブレーキ設定用操作具を自動ブレーキ設定としたときのステアリングハンドル107の旋回操作に基づいてコントローラにて制御される電磁切換弁である。
以上の如き作動油給排制御用バルブ群を備えた走行用バルブセット70には、リリーフ弁69が組み込まれており、リリーフ弁69のリリーフ油が、主変速装置12であるHMTにおけるチャージ弁機構12dまたは12eを介して、油圧ポンプ12P・油圧モータ12M間の閉回路の作動油の補填に用いられる。該リリーフ弁69を通らずに流れる入口ポート70aからの油は、その一部が、該走行用バルブセット70より主変速装置12としてのHMTへと分流し、該HMTのポンプ斜板12b制御用のサーボ機構を構成する方向制御弁17e及び油圧シリンダ17fへと供給され、残りが、該走行用バルブセット70における前記作動油給排制御用バルブ群へと供給される。
走行用バルブセット70の前記作動油給排制御用バルブ群における作動油の給排に用いられた後の油は、PTOクラッチ制御用バルブセット77に供給され、該PTOクラッチ制御用バルブセット77に組み込まれたバルブを介して、PTOクラッチ53用の作動油として供給される。
第2油圧ポンプ62bの吐出油は、圧油管82を介して、図4乃至図8の如くトランスミッション1に設けられた作業機用の油路ブロック83へと供給される。該油路ブロック83内の油は、作業機の油圧制御(フロート制御等)用の外部取出ポートを有する作業機油圧制御用バルブセット87、姿勢制御用シリンダ89に対する作動油給排用のバルブセット88、及びリフトシリンダ91に対する作動油給排用のバルブセット90へと供給される。なお、図3ではリフトシリンダ91が一つ図示されているが、実際には、左右一対のリフトシリンダ91を、図4、図5、図7、図8等に示すようにトランスミッション1に設けられた左右一対のリフトアーム7のボス部7cと左右一対のロアリンク115bとの間に介設している。また、姿勢制御用シリンダ89は、左右いずれか一方のリフトアーム7の先端のブラケット7bとその側のロアリンク115bとの間に介設されており、左右他方のリフトアームのブラケット7bとその側のロアリンク115bとの間にはリンクロッドが介設されている。
また、図3乃至図7に示すように、トランスミッション1の油路ブロック83より、油管84を介して、トラクタ100の前部に配設されるオイルクーラー85へと油が供給され、オイルクーラー85にて冷却された油は、油管86を介して、トランスミッション1に設けられた管合流部材78へと戻される。管合流部材78は、トランスミッション1内にて、PTOクラッチ53への潤滑油路、及び、リバーサクラッチ13への潤滑油路に接続されており、また、後に詳述するように、潤滑油管79及び管分岐部材80を介して、左右一対の潤滑油管81(左潤滑油管81L及び右潤滑油管81R)に接続されており、左右潤滑油管81L・81Rを介して、トランスミッション1における左右車軸28L・28Rの各々を軸支するテーパーローラ軸受46・47に潤滑油が供給される構造となっている。
次に、図4乃至図12より、トランスミッション1における各機構や部材等の配置構成について説明し、その中で、特に、前記後輪駆動系を構成する差動機構15から左右車軸28L・28Rまでの後輪駆動系PT1rの支持構造について詳述する。
トランスミッション1の筐体は、図4乃至図8等に示すように、ミッションケース2、HMTケース3、リアカバー4、左右一対の差動出力軸ケース5(5L・5R)、左右一対の車軸ケース6(6L・6R)を組み合わせてなる。
ミッションケース2の(後記前室2Fに臨む)前半部の左右一外側面(本実施例では右側面)には前記走行用バルブセット70を構成するブロックが固設されている。また、ミッションケース2の上面上に、前記油路ブロック83や作業機制御用油圧バルブセット87等が搭載され、さらに、ミッションケース2の後上端部には、左右一対のリフトアーム7が搭載されている。各リフトアーム7の基端部は、左右方向延伸状の回動支点軸7aを介してミッションケース2に枢支されて、これにより、左右一対のリフトアーム7が前後方向に回動自在にミッションケース2上に支持されるものとしている。
各リフトアーム7の先端部にはブラケット7bが形成されており、前記の如く、左右一方のリフトアーム7のブラケット7bには、該一方のリフトアーム7をその側のロアリンク115に連結するように、図3に図示される姿勢制御用シリンダ89が連結され、左右他方のリフトアーム7のブラケット7bには、該他方のリフトアーム7をその側のロアリンク115に連結するように図示されないリフトロッドが連結される。また、各リフトアーム7の、基端部と先端部との間の途中部には、ボス部7cが設けられ、左右各リフトアーム7のボス部7cには、前述の如く、各リフトアーム7を左右各ロアリンク115に連結するように、図3に図示されるリフトシリンダ91が連結される。
ミッションケース2の前端には、前記主変速装置12としてのHMT(図4乃至図12において図示せず)を収容するHMTケース3が前方延出状に固設されている。HMTケース3は、図5等に示すように、前後方向に延設される入力軸21を支持している。該入力軸21は、前述の如くユニバーサルジョイント付き伝動軸11を介してエンジン10の出力軸に連結されるように、HMTケース3より前方に突出されている。
ミッションケース2内は、図9、図10等にてわかるように、左右方向に延設される鉛直状の隔壁2aにて前室2Fと後室2Rとに区画されている。前室2F内には、ここでは図示されないリバーサクラッチ13や副変速装置14が収容されている。副変速装置14の副変速出力軸25は、前後方向に延設され、その後部が、軸受39を介して隔壁2aにて軸支されている。さらに、副変速出力軸25の後端部は、隔壁2aを介して、後室2R内に突入されており、この後端部に、ベベルピニオン25dが形成(または固設)されている。後室2R内にはリアデフ機構15が収容されており、図9等に示すように、副変速出力軸25の後端に設けられたベベルピニオン25dがリアデフ機構15のベベルリングギア15aと噛合している。
図9乃至図11に示すように、ミッションケース2の左右両外壁には、後室2Rの左右両端を画するように、左開口部2d・右開口部2eが設けられている。左右各差動出力軸ケース5の内側端部(ミッションケース2側の端部)5aは、開口端部であって、フランジ状に膨出されている。左右各差動出力軸ケース5の内側端部5aは、ミッションケース2の開口部2d・2eを塞ぐように、ミッションケース2の左右各外壁に接合されている。各差動出力軸ケース5の内側端部5a内には各ブレーキ17が嵌装されていて、それぞれ、ミッションケース2の左右各開口部2d・2e沿いに配設される。すなわち、ミッションケース2の左開口部2d周りの左外壁には左差動出力軸ケース5Lの右端部である内側端部5aを接合して、左ブレーキ17Lをミッションケース2の左開口部2dに沿設しており、一方、ミッションケース2の右開口部2e周りの右外壁には右差動出力軸ケース5Rの左端部である内側端部5aを接合して、右ブレーキ17Rをミッションケース2の右開口部2eに沿設している。
なお、図10にてわかるように、各差動出力軸ケース5の内側端部5aの前端部には、左右方向に延設されるブレーキカム軸17bが枢支されている。該ブレーキカム軸17bの内側端部にはカムが形成されており、差動出力軸ケース5内にて、各ブレーキ17の押動部材と連係されている。ブレーキカム軸17の外側端部は差動出力軸ケース5の外側に突出しており、この突出外端にブレーキアーム17aが固設されている。こうして、トランスミッション1の左右両側にて、左右差動出力軸ケース5L・5Rそれぞれの前方に、前後回動自在にブレーキアーム17aを支持しており、各ブレーキアーム17aを、前記の左右各ブレーキペダルや、前記の各自動ブレーキ用油圧シリンダ76L・76Rに連係している。
後室2R内にて、隔壁2aの左右略中央部より鉛直状の支持壁2bが後方に延設されている。リアデフ機構15は、支持壁2bの左右一側、すなわち、支持壁2bと、左右開口部2d・2eのうちの一方との間に配置されている。本実施例では、支持壁2bの右側、すなわち支持壁2bと右開口部2eとの間に配設されている。したがって、副変速出力軸25も、隔壁2aの、支持壁2bより右側の部分にて、軸受39を介して軸支されている。以下、リアデフ機構15が、このようにして後室2Rの右部分内に配置されていることを前提として、後室2R内における各部材の配置構成について説明する。ただし、リアデフ機構15の配置についてはこのような右寄りの配置に限定されず、後室2Rの左部分における支持壁2bと左開口部2dとの間とすることや、あるいは支持壁2bをなくして、後室2Rの左右中央に配置すること等も考えられるものであり、関連する他の部材(例えば副変速出力軸25)の配置についても、適宜、リアデフ機構15の配置に合わせてアレンジされるものである。
リアデフ機構15の右側に配置される開口部2eには、支持部材15eが嵌装され、ミッションケース2に固定されており、該支持部材15eの中心部に、リアデフ機構15の右側部及び右差動出力軸26Rを軸受するための、ボール軸受等の右軸受41Rが嵌装されている。一方、リアデフ機構15の左側に配置される支持壁2b内には、リアデフ機構15の左側部及び左差動出力軸26Lを軸支するための、ボール軸受等の左軸受41Lが嵌装されている。
図10及び図11に示すように、リアデフ機構15のベベルリングギア15aは、支持部材15eの左側に隣接配置されており、支持部材15eの中心孔に嵌着された右軸受41Rに、右方延出状にベベルリングギア15aに形成された中心ボス部15a1が嵌入されている。ベベルリングギア15aの前端部の左側に、副変速出力軸25の後端部のベベルピニオン25dが配置されていて、該ベベルリングギア15aの前端部と噛合している。このベベルピニオン25dの後方にて、デフケース15bが、ベベルリングギア15aより左方に延設されており、ベベルリングギア15aに対し、ボルト等にて固定されている。デフケース15bの左端部には、該デフケース15bの本体部より左方に延出するようにボス部15b1が形成されており、該ボス部15b1が、隔壁15b内の左軸受41Lに嵌入されている。
右差動出力軸ケース5Rには左右方向延伸状に右差動出力軸26Rが支持されている。右ブレーキ17Rは、右差動出力軸26Rに周設されていて、前述の如く右差動出力軸ケース5Rの内側端部5a(左端部)をミッションケース2の右外壁に接合すると、右ブレーキ17Rが、右開口部2eに嵌装された支持部材15eの右側に隣接配置される。右差動出力軸26Rの内側端部(左端部)は、右ブレーキ17Rよりさらに内側方(左方)に延出され、右軸受41R内のベベルリングギア15aの中心ボス部15a1に挿通されて、その先端部がデフケース15bの本体部の右部分内に配置されている。該右差動出力軸26Rの内側端部(左端部)には、右ベベルデフサイドギア26bが固設されている。
左差動出力軸ケース5Lには左右方向延伸状に左差動出力軸26Lが支持されている。左ブレーキ17Lは、左差動出力軸26Lに周設されていて、前述の如く左差動出力軸ケース5Lの内側端部5a(右端部)をミッションケース2の左外壁に接合すると、左ブレーキ17Lが左開口部2dの左側に隣接配置される。左差動出力軸26Lの内側端部(右端部)は、左ブレーキ17Lよりさらに内側方(右方)に延出され、左軸受41R内のデフケース15bのボス部15b1に挿通されて、その先端部がデフケース15bの本体部の左部分内に配置されている。該左差動出力軸26Lの内側端部(右端部)には、左ベベルデフサイドギア26aが固設されている。
デフケース15bの本体部内に、該デフケース15bと一体に回転するようにデフピニオン軸15dが配設されており、該デフピニオン軸15dに枢支されたベベルデフピニオン15cが、左右ベベルデフサイドギア26a・26bと噛合している。なお、本実施例では、デフピニオン軸15dを十字状に構成し、四つのベベルデフピニオン15cを前後方向の鉛直面上に等間隔に配置した状態とし、各ベベルデフピニオン15cが左右両ベベルデフサイドギア26a・26bと噛合する状態としているが、ベベルデフピニオン15cの配置や数については限定されない。
デフロック機構16のスライドリング16aは、支持壁2bとデフケース15bの本体部との間にて、デフケース15bのボス部15b1に、該ボス部15b1に沿って左右方向摺動自在に装着されている。デフロックピン16bはスライドリング16aより右方に延出して、デフケース15bの本体部の左端部に形成した孔を通って、該デフケース15bの本体部内に嵌入されている。デフロックピン16bはスライドリング16aと一体に摺動するものであり、スライドリング16aが前記デフロック位置に配置されると、デフロックピン16bの先端部(右端部)が、左デフサイドギア26aに形成されるピン孔に嵌入され、左デフサイドギア26aに固定されている左差動出力軸26Lをデフケース15bにロックする。フォーク軸40は後室2Rの上部にて左右延伸状に支持されており、該フォーク軸40より延設されるフォーク40aがスライドリング16aの環状溝に嵌合されている。
後室2R内において、支持壁2bの後端にて、左右方向に延伸する鉛直状の支持壁2cが形成されている。なお、支持壁2cは、支持壁2bの後端から、左右方向でリアデフ機構15とは反対側の左側に延設されており、これにより、後記リアカバー4を外してミッションケース2の後端開口部2gを開放したときに、後室2Rの左部分に形成された支持壁2cの右側は開放されていて、後室2Rの右部分に配置されるリアデフ機構15にアクセス可能となっている。
図9及び図10に示すように、ミッションケース2の後端には、該ミッションケース2の後端開口部2gを塞ぐように、リアカバー4が接合される。リアカバー4には、ボール軸受等の軸受60cを介して、前後方向に延設されるリアPTO軸60が軸支される。また、後室2R内にて、支持壁2cに、ボール軸受等の軸受60bを介して、リアPTO軸60の前端部が軸支されている。リアPTO軸60の後端部はリアカバー4より後方に突出されており、作業機装着用リンク機構115を介してトラクタ100に連結された作業機の入力軸に、ユニバーサルジョイント付き伝動軸等を介して、このリアPTO軸60の後端部を連結するものとしている。
なお、ミッションケース2の後室2Rの支持壁2cより後方の部分またはリアカバー4内では、図2に示すようなギア60aがリアPTO軸60に設けられており、また、リアPTO軸60とギア59a・60aを介して連動連係されるPTO伝動軸59等が配設されているが、図9乃至図11ではこれらを図略している。
こうしてトランスミッション1に支持されるリアPTO軸60の軸心高さは、図11で示すように、差動出力軸26(26L・26R)の軸心高さと略同じであり、また、左右方向において、図9及び図10にてわかるように、リアデフ機構15のすぐ左側であって、左差動出力軸26Lと重なる位置に配置され、トランスミッション1がトラクタ100に設けられた状態においては、トラクタ100の左右略中央に配置されることとなる。
このリアPTO軸60の左右両側には、前述の作業機装着用リンク機構115における左右両側のリフトシリンダ91やロアリンク115b等が配置されるものであり、これらは、ミッションケース2より左右方向に延設される左右差動出力軸ケース5(5L・5R)の後端部近接配置されることとなる。ここで、仮に、差動出力軸26と車軸28との間に介設される減速ギア機構が、ブレーキ17の近傍における差動出力軸ケース5の内側端部寄りの部分内に配置されており、さらには、この減速ギア機構が、同一軸心上に配された差動出力軸26と車軸28との間に介設される遊星ギア機構である場合、差動出力軸ケース5におけるこの減速ギア機構の収容部分が、後方に膨出することとなって、その直後に配置される作業機装着用リンク機構115における上記部材との干渉を引き起こすおそれがある。
しかし、以下の差動出力軸26から車軸28までの伝動構成の説明で明らかになるように、本実施例では、第1・第2減速ギア機構18・19を、車軸28のハブ28a近くの、差動出力軸ケース5の外側端部寄りの部分及びその外側の車軸ケース6内に収容しているので、作業機装着用リンク機構115におけるリフトシリンダ91やロアリンク115b等の直前に配される差動出力軸ケース5の内側端部寄り部分は、このような減速ギア機構を収容しておらず、比較的径長の小さい差動出力軸26のみを収容する部分となっているので、後方への膨出も抑えられる。さらには、差動出力軸ケース5の外側端部内に収容される第2減速ギア機構19として、遊星ギア機構を用いているものの、差動出力軸26と第2減速ギア機構19との間に介設されるように、平ギア列よりなる第1減速ギア機構18が構成されて、これが第2減速ギア機構19及び車軸28を前寄りに配する効果をもたらし、差動出力軸ケース5の内側端部寄りの部分のみならず、その外側端部寄りの部分、さらにはその外側に配置される車軸ケース6も、後方への膨出が抑えられる。このようなことから、差動出力軸ケース5や車軸ケース6の後方の作業機装着用リンク機構115との干渉が回避されるものとなっている。
トランスミッション1の左右両側部における差動出力軸26、減速軸27、車軸28、第1・第2ギア機構18・19よりなる伝動機構は、左右対称状に構成されている。図9乃至図11では、トランスミッション1の右側部の、右差動出力軸26Rから右車軸28までの伝動機構のみを図示しているが、これは、左右両側部のものを代表しての図示であり、以下、これらの図をもとに、トランスミッション1の左右各側部の当該伝動機構の支持構造について説明するものとする。
左右各差動出力軸ケース5(5L・5R)の外側端部5bと、左右各車軸ケース6の内側端部6bとが接合されており、左右各車軸ケース6(6L・6R)の外側端にはオイルシールカバー6aが固設されていて、各オイルシールカバー6aより左右外側に、左右各車軸28(28L・28R)が突出しており、その外側端には、各後輪8に固定されるハブ28aが形成されている。
図9乃至図11に示すように、各差動出力軸ケース5の外側端部5b寄りの部分の内部には、軸受壁5cが形成されている。また、各差動出力軸ケース5内において、外側端部5bと軸受壁5cとの間に支持部材49が配設されている。前記の差動出力軸ケース5の外側端部5b及び車軸ケース6の内側端部6bは、開口端部であって、これらを接合することにより、差動出力軸ケース5の外側端部5b・車軸ケース6の内側端部6b内に、一繋がりの開口部が形成され、この開口部に、第2減速ギア機構19としての遊星ギア機構のインターナルギア19bの外周縁部が嵌着されている。支持部材49及びインターナルギア19bは、ボルトにて車軸ケース6に共締めされており、これにより、支持部材49及びインターナルギア19bが、差動出力軸ケース5及び車軸ケース6に対し固定されている。
差動出力軸ケース5内において、軸受壁5c内にはボール軸受42が嵌装されており、該支持部材49内にはボール軸受43が嵌装されている。差動出力軸26は、軸受壁5c内のボール軸受42に挿通され、その外側端が支持部材49内のボール軸受43にて軸支されている。軸受壁5cと支持部材49との間にて、差動出力軸26には平ギア18aが設けられている。なお、本実施例では平ギア18aを差動出力軸26に形成しているが、平ギア18aを差動出力軸26とは別の部材として、スプライン嵌合等で該差動出力軸26の外周面に固設するものとしてもよい。こうして、左右のボール軸受42・43を介して、差動出力軸26の外側端部及びここに設けられた平ギア18aを、差動出力軸ケース5の軸受壁5c及び支持部材49に支持している。
差動出力軸ケース5の、左右方向において軸受壁5cから外側端部5bに至るまでの部分は、差動出力軸26を支持する部分より前方に膨出されており、このような差動出力軸ケース5の形状に対応して、支持部材49も、ボール軸受43を設けた部分より前方に膨出している。軸受壁5cの、ボール軸受42より前方に膨出している部分には、ボール軸受44が嵌装されており、一方、支持部材49の、ボール軸受43より前方に膨出している部分には、ボール軸受45が嵌装されている。
平ギア18aの前方にて、軸受壁5bと支持部材49との間には、平ギア18aより大径の平ギア18bが配置されており、平ギア18bの中心ボス部が左右両側方に延出して、左右の軸受44・45に嵌挿されている。平ギア18aと平ギア18bとは直接噛合している。支持部材49には、左右方向の軸心を有する減速軸27が挿通されており、該減速軸27は、差動出力軸26の前方にて、差動出力軸26に対し平行に配置されている。減速軸27の内側(ミッションケース2寄り側)部分が、ギア軸として、平ギア18bのボス孔に挿入されて、該平ギア18bに対しスプライン嵌合にて固定されている。こうして、左右のボール軸受44・45を介して、減速軸27の内側端部及びここに設けられた平ギア18bを、差動出力軸ケース5の軸受壁5c及び支持部材49に支持している。
以上のように、差動出力軸26の外側端部上に設けた平ギア18aと、減速軸27の内側端部上に設けた平ギア18bとを噛合することで、差動出力軸26から減速軸27へと動力を伝達する第1減速ギア機構18が構成されている。第1減速ギア機構18は、該第一差動出力軸ケース5の、外側端部5b寄り部分の内部に配設されていて、左右方向では、ミッションケース2の左右外側部と車軸28のハブ28aとの間のおよそ中間の位置に配置されている。この位置は、その後方に、前述の如き作業機装着用リンク機構115のロアリンク115bやリフトシリンダ91等が近接するところであるが、前述の如く、減速軸27は差動出力軸26の前方に配置され、差動出力軸ケース5の、第1減速ギア機構18を収容する部分も、差動出力軸26の支持する部分から前方に膨出するように形成されているので、差動出力軸ケース5の当該部分が、第1減速ギア機構18の収容のために後方に膨出するということがなく、これにより、差動出力軸ケース5と作業機装着用のこれらの部材との干渉が回避されるものとなっている。
該減速軸27の外側(車軸28寄り側)部分は、該支持部材49より外側方に突出して、前述の如く差動出力軸ケース5の外側端部5bと前記車軸ケース6の内側端部6bとが接合してこれらの内部に形成された開口部内に配置されており、この減速軸27の該外側部分にはサンギア19aが形成されている。また、この開口部内にて、サンギア19aの周りにはキャリア19dが配設されており、該キャリア19dの周りに前記のインターナルギア19bが配置されている。キャリア19dには、差動出力軸26及び減速軸27に対して平行な左右延伸状の枢支軸19eにて、遊星ギア19cが枢支されている。なお、遊星ギア19cは、好ましくは一つのキャリア19dに複数個設けられる。遊星ギア19cは、その内周縁部にてサンギア19aと噛合し、その外周縁部にてインターナルギア19bと噛合している。こうして、減速軸27の該外側部分をサンギア軸として、第2減速ギア機構19としての遊星ギア機構が構成されている。
車軸ケース6の外側端部にはボス部6dが形成されて、該ボス部6d内に、左右内側・外側のテーパーローラ軸受46・47が嵌装されている。一方、キャリア19dの外側端部にはボス部19d1が形成され、外側方に延出し、左右内側のテーパーローラ軸受46に嵌入されている。左右外側のテーパーローラ軸受47の外側部分が、前記オイルシールカバー6aにて覆われており、該オイルシールカバー6aと該テーパーローラ軸受47との間に、オイルシールリング48が介装されている。車軸28は、このようにオイルシールカバー6a内に嵌装されたオイルシールリング48及び車軸ケース6のボス部6d内に嵌装されたテーパーローラ軸受46・47に挿通され、その内側端部が、キャリア19dのボス部19d1にスプライン嵌合にて嵌入されている。
このようにして、キャリア19dに固定された車軸28は、第2減速ギア機構19のサンギア軸としての減速軸27の左右外側にて、該減速軸27に対し同一軸心上に配置される。減速軸27の外側端と車軸28の内側端とは近接しており、両者の間の隙間に、スラスト軸受としてのシム29を介設して、減速軸27及び車軸28が互いの回転を干渉しないようにしている。
遊星ギア機構である第2減速ギア機構19は、そのサンギア軸としての減速軸27の径方向においてかなり大きなスペースを占めるものである。しかし、前述の如く、その減速軸27が差動出力軸26の前方に配置されているため、第2減速ギア機構19も、差動出力軸26に対し前方に偏心配置されることとなる。したがって、第2減速ギア機構19を収容する差動出力軸ケース5の前記外側端部5bは、差動出力軸26を支持する部分よりも前方に膨出するように形成されており、該外側端部5bに内側端部6bを接合される車軸ケース6も、減速軸27に対し同一軸心上に配置される車軸28を軸支していることから、差動出力軸26の軸心位置から見れば前方寄りに偏向配置される。よって、第2減速ギア機構19を収容する差動出力軸ケース5の外側端部5b及び車軸ケース6全体も、その後端部が、差動出力軸26の軸心位置から見て後方には膨出しておらず、その後方にて近接するおそれのある作業機装着用のロアリンク115bやリフトシリンダ91等との干渉が回避されるのである。
ここで、以上に述べた差動出力軸26、減速軸27、車軸28、第1・第2減速ギア機構18・19よりなる動力伝達構成が、特には、トランスミッション1の適用対象としてのトラクタ100が中形クラスのものであることを考慮したものであるという点について、説明する。
減速機構については、中型クラスのトラクタ100の車軸としての車軸28に求められる支持強度を考慮して、車軸28を支持する第2減速ギア機構19として遊星ギア機構を用いている。そして、車軸28の軸心長は短いので、第2減速ギア機構19は、一部が車軸ケース6に収容されて、左右方向ではハブ28aにかなり近い位置に、すなわち、ミッションケース2からは離れた位置に配置される。
中型クラスのトラクタ100においての差動出力軸26と車軸28との間で必要とされる減速比を確保するには、この遊星ギア機構としての第2減速ギア機構19のみでは足りないものの、第2減速ギア機構19にて、必要な減速比の大部分は確保されるので、該第2減速ギア機構19に追加して設けられる減速ギア機構にて補足すべき減速比は小さくてすむ。しかも、遊星ギア機構である第2減速ギア機構19が、大きな支持強度が求められる車軸28を支持しており、この追加分の減速ギア機構は、支持強度が小さくてすむ差動出力軸26を支持すればよい。そこで、本実施例では、この追加分の減速ギア機構である第1減速ギア機構18を、平行な差動出力軸26と減速軸27との間に平ギア18a・18bを介設してなる平ギア列構造のものとしているものであり、減速比が小さくてすむことから、差動出力軸26と減速軸27との軸間距離も小さくてすみ、第1減速ギア機構18をコンパクトなものとしている。そして、減速比を確保するのにこのような二つの減速ギア機構を備える場合において、仮に遊星ギア機構を二つ設けるものとすればコストは高くなってしまうが、本実施例では、第1減速ギア機構18を平ギア列構造のものとすることで、コストも抑えられ、中形クラスのトラクタ100に見合ったものとすることができる。
また、この平ギア列構造の第1減速ギア機構18は、遊星ギア機構である第2減速ギア機構19のサンギア軸を兼ねている減速軸27の軸長を短くすべく、第2減速ギア機構19に近接するように、差動出力軸ケース5の外側端部5bに近い部分に収容されている。その分、差動出力軸26は軸心方向にかなり長いものとなっており、差動出力軸ケース5の、内側端部5aと軸受壁5cとの間の、差動出力軸26を覆う部分も、差動出力軸26の軸心長が長い分、左右方向に長くなっている。この部分は、差動出力軸26のみを覆えばよいので、差動出力軸26の径方向の大きさが絞られ、その分、コンパクトかつシンプルな構成となり、差動出力軸ケース5自体の製造コストも低減できる。
なお、このように、差動出力軸26の軸長が大きく確保されることで、それを収容する、差動出力軸ケース5の、径方向に小さい部分が、左右方向に長く構成されていることが、前述のように、差動出力軸ケース5とその後方に配置される作業機装着用の部材との干渉を回避するのに貢献している。
さらにいえば、第1減速ギア機構18を平ギア列構造のものとすることが、遊星ギア機構である第2減速ギア機構19を収容する筐体部分と作業機装着用の部材との干渉を回避する構造を確保するのに貢献している。遊星ギア機構は、そのサンギア軸と、キャリアに固定される出力軸とを、同一軸心上に配置する必要がある。仮に、減速軸27なしで、差動出力軸26をサンギア軸としてこのような遊星ギア機構を構成すれば、差動出力軸26と車軸28とが同一軸心上に配置され、この遊星ギア機構を収容する筐体部分の後端部も、差動出力軸26の軸心からみて後方に大きく膨出して、作業機装着用の部材との干渉が問題となるはずであるが、第1減速ギア機構18が、その出力軸として、差動出力軸26の前方に配置される減速軸27を有しており、遊星ギア機構である第2減速ギア機構19は、この減速軸27をサンギア軸としているので、前述のように、第2減速ギア機構19も、差動出力軸26の軸心からみて前方に偏向配置され、第2減速ギア機構19を収容する差動出力軸ケース5の外側端部5b及び車軸ケース6の後端部も、後方には膨出せず、作業機装着用の部材との干渉が回避されるものとなっているのである。
次に、第1減速ギア機構18及び第2減速ギア機構19を構成する差動出力軸26・減速軸27・車軸28の軸受支持構造、及び、車軸28の軸受についての潤滑油供給構造について説明する。第1減速ギア機構18を構成する平ギア18a・18b、差動出力軸26、及び減速軸27を支持する軸受としては、前述の如く、ボール軸受42・43・44・45が用いられている。第1減速ギア機構18は、平ギア18a・18bのギア径も小さく、平ギア18a・18b同士の噛合で互いに受ける応力も小さくてすむので、さほど大きな支持強度も要求されず、その軸受42・43・44・45についても、ボール軸受のような簡単で低コストなものですむ。
一方、車軸28については、径方向に太く、かつ軸心長が短いので、片持ち支持のような形となり、ハブ28aに固定される後輪8から受ける応力も強く、軸受にはこれを支持するだけの強度が求められることから、前述の如くテーパーローラ軸受46・47が用いられている。
このテーパーローラ軸受46・47にかかるストレスは大きいので、その分、潤滑油も多く必要となる。その一方で、本実施例では、テーパーローラ軸受46・47の位置が、車輪に固定されるハブ28aに近接し、トラクタ100の左右中心部に配置されるミッションケース2からは左右方向で大きく離れているので、トラクタ100の左右方向における傾きに伴って、テーパーローラ軸受46・47の配置される車軸ケース6は上下に大きく移動し、上方の移動に伴って、テーパーローラ軸受46・47からは潤滑油が抜けてしまう可能性が高くなる。そのため、テーパーローラ軸受46・47に対する積極的な潤滑油供給構造が望まれる。
そこで、本実施例では、図12等でわかるように、車軸ケース6の前記ボス部6d内の空間において、左右のテーパーローラ軸受46・47間に左右方向の距離をとって、両軸受46・47間に、潤滑油溜まり6eとしての隙間空間を確保している。そして、前述の如く、トランスミッション1においては、管分岐部材80より分岐する左右潤滑油管81(81L・81R)が延設されて、各潤滑油管81の端部が、各車軸ケース6の上端に設けた潤滑油ポート6cに接続されている。潤滑油ポート6cは、車軸ケース6内にて、潤滑油溜まり6eに連通している。こうして、前記第2油圧ポンプ62bの吐出油を、左右潤滑油管81等を介して潤滑油溜まり6eに供給するものとしている。さらにいえば、前述の如く、管分岐部材80には、潤滑油管79を介して、管合流部材78より油が供給されるものであり、管合流部材78では、油管86を介してのオイルクーラー85からの油の流れに、PTOクラッチ53への潤滑油、及び、リバーサクラッチ13への潤滑油も合流するので、潤滑油管81L・81Rには、充分な量の潤滑油が供給される。こうして、トラクタ100の揺動にかかわらず、潤滑油溜まり6eには充分な潤滑油が常時補填されており、この潤滑油で、テーパーローラ軸受46・47が常に潤滑される構造としているのである。
なお、潤滑油ポート6cからの油を、遊星ギア機構である第2減速ギア機構19等にも供給することが可能である。これは、潤滑油溜まり6eやテーパーローラ軸受46・47を介しての供給としてもよいし、車軸ケース6内に、潤滑油ポート6cから第2減速ギア機構19への油路を形成して潤滑油を供給するものとしてもよい。
次に、図13乃至図23により、車体フレーム101の構造、並びに、車体フレーム101へのエンジン10、前車軸駆動装置20及びトランスミッションのミッションケース2の接続構造について説明する。車体フレーム101は、トラクタ100の前後方向に延設される左側枠120L及び右側枠120Rを有しており、左側枠120L及び右側枠120Rの各々は、鉛直平板状の前側枠材121及び鉛直平板状の後側枠材122よりなるものであり、前側枠材121の後端部と後側枠材122の前端部とを接続して構成される。
前側枠材121と後側枠材122の接続について詳しく説明すると、前側枠材121の後端接合部121aと後側枠材122の前端接合部122aとが、側面視で重複するように、左右内外に配置され、前側枠材121の後端接合部121aと後側枠材122の前端接合部122aとの間に間座板材123が介設される。こうして重ねられた前側枠材121の後端接合部121a、前座板材123、後側枠材122の前端接合部122aが、左右方向に挿通されたボルト141にて締結されることで、前側枠材121・後側枠材122が一体状になって、各側枠120L・120Rとして構成される。
さらに、鉛直平板状の前端枠材124をトラクタ100の左右方向に延設し、前端枠材124の左端部を左側枠120Lの前側枠材121の前端にボルト142にて締止し、前端枠材124の右端部を右側枠120Rの前側枠材121の前端にボルト142にて締止することで、左側枠120L及び右側枠120Rの前端同士を前端枠材124にて接続する構成としている。こうして、左側枠120L及び右側枠120Rと前端枠材124とで平面視「コ」の字(U字)状に車体フレーム101を構成している。
車体フレーム101の左右両前側枠材121・121上には、トラクタ100の車体の前部を構成するボンネット102が搭載されることとなり、前端枠材124は、ボンネット102の前端に形成されるフロントグリルの直下方に配置される。
前端枠材124の後方にて、左右の前側枠材121・121間には、車体フレーム101の下方に配置される前車軸駆動装置20を支持するための前車軸支持枠材125が架設されている。前車軸支持枠材125は、その下方に配置される前車軸駆動装置20の左右中央の上方を覆うように、水平板状に形成されており、その左右端部が鉛直板状に形成されて、該鉛直板状の左右端部が、左右の前側枠材121に、左右方向のボルト143にて締止されている。前車軸支持枠材125の水平板状部分からは複数のボルトボス125aを下方に延出しており、ボルトボス125aの下端に、前車軸駆動装置20のケースに形成されているボルト締止部を嵌合し、該ケースをボルトボス125aにボルト締結することで、該前車軸駆動装置20のケースを該前車軸支持枠材125に固定し、こうして、車体フレーム101にて前車軸駆動装置20を支持するものとしている。
前車軸支持枠材125の直後方には、保護板材126が配設されており、その左右端部をボルト144にて左右の前側枠材121・121に締止することで、左右前側枠材121・121間に保護板材126を架設している。保護板材126は略前上方に傾斜する板材となっていて、エンジン10の前端部に配設されるファンベルト等の下方に配置される。この保護板材126より後方においては、前記後端部121aまで、左右の前側枠材121・121間に空間S1を設けており、この空間S1に、エンジン10の下部(オイルパン、クランクケース等)を配置するものとしている。
エンジン10を車体フレーム101に搭載する際には、保護板材126の上方位置にて、左右各前側枠材121の左右外側面にエンジン支持ステー150を固設している。これら左右エンジン支持ステー150には防振ゴムを設け、該防振ゴムを介してエンジン10を車体フレーム101に支持するものとしている。
前述の如く各前側枠材121の後端接合部121aは、ボルト141での締結にて、各後側枠材122の前端接合部122aに接合されており、左右前側枠材121・121の後端接合部121aの後端が、おおよそ、前述の如くエンジン10の下部を配置するための空間S1の後端を画している。この左右前側枠材121・121の後端接合部121aの後端の直後方、すなわち、空間S1の直後方にて、左右の後側枠材122・122間に、橋状枠材127が架設されている。橋状枠材127の左右端部は上下前後に幅広くフランジ状に形成されており、これらフランジ状の左右端部を左右各後側枠材122に左右方向のボルト145にて締止している。左右両端部間にて左右方向に延伸する部分は、その直前に配置されることとなるエンジン10の下後端部や、その直後に配置されることとなるステアリング用油圧バルブセット64等を含む油圧機器及び配管等の配置スペースを確保するため、フランジ状の左右端部に比べて上下前後に細くなっているが、前後方向にはある程度の幅を有して、その断面形状を、前後に長径を有する楕円形状とする(図21参照)ことで、支持強度を確保している。
左右各後側枠材122の、橋状枠材125のフランジ状左右端部の後部との接合部分の直上方にて、各後側枠材122より、左右外側方にキャビン支持ステー128を突設している。このキャビン支持ステー128には、キャビン103底部の左右前端部が載置され、該水平板面128aより上方に突出する固定ピンをキャビン103の底部に嵌入することで、トラクタ100の車体の前後中央部分となるキャビン103の前部を支持するものとしている。
橋状枠材127の後方にて、左後側枠材122と右後側枠材122との間には空間S2が確保されている。この空間S2の後半部を、前記のトランスミッション1のうちのミッションケース2の前部を配置するためのスペースとしており、空間S2の前半部を、エンジン10とトランスミッション1の入力軸2との間に介設される伝動軸11や、ミッションケース2より前方に配置されるポンプセット62、パワーステアリング用油圧バルブセット64、ラインフィルタ67、及びこれらに接続する圧油管63・66等の油圧機器群の配置スペースとしている。
左右両後側枠材122・122間の空間S2の後半部には、前記前室2Fを構成するものであるミッションケース2の前部が配置され、ミッションケース2の左右側面に左右両後側枠材122・122の後端部がボルト締結にて接続される。こうして車体フレーム101に支持されたミッションケース2の後半部が、該車体フレーム101の後端より後方に延設され、左右両後側枠材122の後端の後方に、前記左右差動出力軸ケース5L・5Rの取付端部となる左右開口端部2d・2eが配置される。
この左右各後側枠材122のミッションケース2への締結構造について詳述する。図23を参照してわかるように、後側枠材122の後端部の上部及び下部にそれぞれ、ボス孔122bが形成されていて、各ボス孔122bに、左右方向にピン孔135aを有する円筒状のボス部材135が挿通されている。各ボス部材135の左右(軸芯)方向内側端部は、各後側枠材122の内側面より左右内側へと(すなわち、左右後側枠材122・122間の空間S2へと)突出しており、その左右内端が、左右両後側枠材122・122間に配置されたミッションケース2の左右外側面に当接することとなる。ピン孔135aには、ピン孔135aと同軸芯状のボルト孔132aを有する円筒状の締結ピン132が挿通される。締結ピン132はボス部材132より左右内側に突出し、ミッションケース2の左右側部に形成された円筒状凹部2hに嵌入される。締結ピン132のボルト孔132aには左右方向に軸芯を有するボルト134が挿通され、その左右内端部に形成される螺子山部が凹部2h内の締結ピン132の左右内端よりさらに左右内方に突出して、ミッションケース2内に形成されている雌螺子孔に螺入される。
こうして、左右各後側枠材122の後端部における上・下端部それぞれに設けたボス部材135に挿通した締結ピン132を、ミッションケース2の左右各側部の上下に形成した凹部2hに嵌入し、さらに、締結ピン132に挿通した上下一対のボルト134をミッションケース2の各凹部2hの奥部に螺入することにより、ミッションケース2を車体フレーム101の左側枠120L及び右側枠120Rに締止している。
一方、各ボス部材135の左右(軸芯)方向外側端には、フランジ136が形成され、該フランジ136を、各後側枠材122の外側面に当接しており、フランジ136の外周縁を後側枠材122の外側面に溶接固着している。なお、図23のWは、この溶接のために施された溶接ビードを示す。ボス部材135のピン孔135aに挿通された締結ピン132の左右外端は、フランジ136の外側面に添設した円板状の間座板材133にて覆われる。締結ピン132のボルト孔132aに挿通されたボルト134の頭端部が間座板材133の左右外側に配置され、ボルト134を前述の如くミッションケース2に螺入することで、ボルト134の頭端部が間座板材133をフランジ136の外側面へと締めつけ、これにより、ボス部材135から締結ピン132が左右外方へと抜け出さないようにしている。
各ボス部材135のフランジ136の外周縁は、後述の締結ピン132及びボルト134の挿通方向となるピン孔135aの軸芯方向(左右方向)に見て(以下、「側面視」とはこの方向に見ることをいう)、非円形状(オーバル)となっている。すなわち、図22に示すように、フランジ136の外周縁は、側面視で、ボルト孔122b、該ボルト孔122bに挿通されるボス部材135の円筒状部、ピン孔135aに挿通される締結ピン132、締結ピン132に挿通されるボルト134を同心円状に囲むように形成された、該ピン孔135a、締結ピン132、ボルト134の軸芯(以後、軸芯Xとする)を中心としての一定の曲率半径をR1とする円弧状部分136aと、該軸芯Xを中心とする径方向に、該円弧状部分136aの曲率半径R1よりも長い径長R2で延出された延伸部分136bとを有する形状となっている。
さらに、本実施例では、延伸部分136bの、前記円弧状部分136aとは反対側の先端部は、円弧状部分136aよりも小径の他の円弧状部分136cとなっていて、側面視でのフランジ136の外周縁の全体形状は卵形状となっている。すなわち、延伸部分136bの長さを画する前記径長R2は、円弧状部分136aの曲率中心である軸芯Xと、円弧状部分136cの曲率中心Yとを結ぶ線分の長さLと、円弧状部分136cの、曲率中心からの曲率半径R3とを合わせた長さとなるものであり、円弧状部分136cの曲率半径R3を円弧状部分136aの曲率半径R1より短くしているので、延伸部分136bは、円弧状部分136aから円弧状部分136cに向かうにしたがって徐々に幅が絞られるように形成されている。
側面視でのフランジ136の外周縁の形状には拘わらないものであって、例えば、円弧状部分136cの曲率半径R3を円弧状部分136aの曲率半径R1と同一にして、側面視のフランジ136の外周縁の形状を長円状や楕円状にしてもよい。
各後側枠材122において、ボス部材135は上下に一対設けられていて、これらのボス部材135に挿通した締結ピン132及びボルト134を、ミッションケース2の左右各側部の上端部と下端部とに嵌入するものとしているので、該後側枠材122の後端部の上下幅と略等しい上下幅を有するミッションケース2を、その上端部及び下端部にて支持することとなり、車体フレーム101におけるミッションケース2の支持強度を高めている。
そして、各締結ピン132及びボス部材135にかかる拗れ応力の集中箇所を考慮してフランジ136の外周縁の延伸部分136bの延伸方向を設定している。すなわち、従来は、このようなボス部材に設けられているフランジの外周縁は、側面視で、軸芯Xを同心円状に囲む、本実施例での円弧状部分136aの曲率半径R1を半径とする全円形状となっていたところ、図22に示すように、ボス部材135に、拗れ応力が集中する箇所Zがある。なお、図22は、上下一対のボス部材135のうち、上側のボス部材135のフランジ136を示しており、応力集中箇所Zは、ボス部材135の円筒状部分の前下部分となっている。図略しているが、下側のボス部材135については、応力集中箇所Zは、ボス部材135の円筒状部分の前上部分となる。
フランジ136の外周縁の延伸部分136bは、この応力集中箇所Zを回避するように配置される。すなわち、例えば本実施例のように卵形状のフランジ136の外周縁の場合、大径の円弧形状部分136aと小径の円弧形状部分136bとを結ぶように、上・下に一対の延伸部分136bが延伸しており、この二つの延伸部分136b・136bの間に応力集中箇所Zがある状態としている。このように、フランジ136の外周縁の延伸部分136b・136bは、応力集中箇所Zを避けて配置されているのであって、これにより、フランジ136の溶接部位である外周縁への応力集中が回避され、当該溶接が剥がれにくい構造としているのである。
そして、前述の如く、各後側枠材122における上下一対のボス部材135のうち、上側のボス部材135にはその前下部に応力が集中し、下側のボス部材135にはその前上部に応力が集中するので、このような応力集中部を迂回するように、上側のボス部材135のフランジ136の外周縁の延伸部分136bは円弧状部分136aからは前下方傾斜状に延伸しており、一方、下側のボス部材135のフランジ136の外周縁の延伸部分136bは円弧状部分136aからは前上方傾斜状に延伸していて、例えば、図15(a)や図16(a)等でわかるように、上下一対のボス部材135の側面視でのフランジ136の外周縁形状が、間に水平の仮想直線を介しての線対称状となっている。
さらに、左右両後側枠材122・122間にて、上下一対の補強枠材129・130を架設している。上側の補強部材129は、両後側枠材122・122の後端部における上側の左右一対のボス部材135・締結ピン132・ボルト134の直前方に、これら上側の締結部材135・132・134と略同じ高さの位置にて配設されており、そのフランジ状に形成した左右両側端部129aをボルト146にて左右両後側枠材122に締止している。下側の補強部材130は、両後側枠材122・122の後端部における下側の左右一対のボス部材135・締結ピン132・ボルト134の直前方に、これら下側の締結部材135・132・134と略同じ高さの位置にて配設されており、そのフランジ状に形成した左右両側端部130aをボルト147にて左右両後側枠材122に締止している。
これら両後側枠材122・122間に架設される各補強枠材129・130のフランジ状の左右端部が各々、各ボス部材135の前方近傍に配置されて、左右後側枠材122にボルト締止されるので、各補強枠材129・130の支持力が後側枠材122を介して各ボス部材135にすぐに伝わり、締結ピン132を拗れなく堅固に支持することができるのである。