[ゴルフボール用ゴム組成物]
本発明のゴルフボール用ゴム組成物は、(a)基材ゴム組成物、(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤を含有する。そして、前記(a)基材ゴム組成物が、基材ゴム成分とイソオレフィン系アイオノマーとを含有し、前記(a)基剤ゴム組成物中のイソオレフィン系アイオノマーの含有率が、1質量%以上、10質量%未満であることを特徴とする。基材ゴムに対して所定量のイソオレフィン系アイオノマーを配合することで、ゴルフボール用ゴム組成物から形成される部材の反発性を維持しつつ、耐衝撃性が向上する。
前記(a)基材ゴム組成物は、基材ゴムとイソオレフィン系アイオノマーとを含有する。前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、反発に有利なシス−1,4−結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。
前記ハイシスポリブタジエンは、1,2−ビニル結合の含有量が2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
前記ハイシスポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。なお、本発明でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300−1(2013)に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC−8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
前記(a)基材ゴム組成物は、イソオレフィン系アイオノマーを含有する。前記イソオレフィン系アイオノマーの含有率は、(a)基材ゴム組成物中、1質量%以上、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上であり、10質量%未満、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。前記イソオレフィン系アイオノマーの含有率が、1質量%以上であればゴルフボールの耐久性が向上し、10質量%未満であればゴルフボールの反発性の低下を抑制できる。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、全繰返し単位中、イソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を80モル%以上、および、アイオノマー部分を有する繰返し単位を0.05モル%以上含有するアイオノマーである。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、イソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、および、アイオノマー部分を有する繰返し単位を含有することが好ましい。
前記イソオレフィンモノマーとしては、例えば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。これらの中でも、イソブテンが好ましい。前記イソオレフィンモノマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記マルチオレフィンモノマーとしては、例えば、イソプレン、ブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエンが挙げられる。これらの中でも、イソプレンが好ましい。前記マルチオレフィンモノマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、全繰返し単位中、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰り返し単位の含有率が、0.20モル%以上が好ましく、より好ましくは0.25モル%以上、さらに好ましくは0.30モル%以上であり、10.0モル%以下が好ましく、より好ましくは7.0モル%以下、さらに好ましくは5.0モル%以下である。
前記アイオノマー部分を有する繰返し単位とは、イオン基が導入されている繰返し単位である。前記イオン基としては、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
[式中、Aは窒素原子またはリン原子を表す。R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜18のアルキル基、単環または炭素数4〜8縮合環で構成されるアリール基、または、ホウ素、窒素、酸素、ケイ素、リンおよび硫黄よりなる群から選択されるヘテロ原子を表す。*は結合手を表す。]
前記Aとしては、リン原子が好ましい。前記R1、R2およびR3としては、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜18のアルキル基、または、単環または炭素数4〜8縮合環で構成されるアリール基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、フェニル基がより好ましい。
前記イオン基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリイソプロピルアンモニウム基、トリ−n−ブチルブチルアンモニウム基、トリメチルホスホニウム基、トリエチルホスホニウム基、トリイソプロピルホスホニウム基、トリ−n−ブチルホスホニウム基、トリフェニルホスホニウム基が好ましい。前記イオン基の対イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオンが挙げられ、臭化物イオンが好ましい。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、全繰返し単位中、アイオノマー部分を有する繰返し単位の含有率が、0.05モル%以上が好ましく、より好ましくは0.10モル%以上、さらに好ましくは0.20モル%以上であり、5.0モル%以下が好ましく、より好ましくは4.0モル%以下、さらに好ましくは3.0モル%以下である。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位を含有していてもよい。この場合、全繰返し単位中、5モル%以下が好ましく、より好ましくは4モル%以下である。前記ハロゲン化アリルとしては、例えば、塩化アリル、臭化アリルが挙げられる。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、他の単量体から誘導された繰返し単位を含有していてもよい。他の単量体としては、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレンなどが挙げられる。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、下記一般式(2)、(3)および(4)で表される繰返し単位を含有するものが好ましい。
[式中、R
11〜R
13はそれぞれ独立して、水素原子、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜5のアルキル基を表し、R
11〜R
13の少なくとも1つは直鎖または分岐鎖の炭素数1〜5のアルキル基である。R
21〜R
26およびR
31〜R
35はそれぞれ独立して、水素原子、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜5のアルキル基を表す。R
41〜R
43はそれぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜18のアルキル基、単環または炭素数4〜8縮合環で構成されるアリール基、または、ホウ素、窒素、酸素、ケイ素、リンおよび硫黄よりなる群から選択されるヘテロ原子を表す。Aは窒素原子またはリン原子を表す。Xはハロゲン原子を表す。l、mおよびnは、全繰返し単位中のモル%を表し、80≦l≦99.7、0.2≦m≦10.0、0.05≦n≦5である。*は結合手を表す。]
前記R11〜R13としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基が好ましい。前記R21〜R26およびR31〜R35としては、メチル基、エチル基、ネオペンチル基が好ましい。前記R41〜R43としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、フェニル基が好ましい。Aとしてはリン原子が好ましい。Xとしては臭素原子が好ましい。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、ムーニー粘度(ML1+8(125℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上であり、80以下が好ましく、より好ましくは75以下、さらに好ましくは70以下である。なお、ムーニー粘度(ML1+8(125℃))とは、JIS K6300−1(2013)に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間8分間、125℃の条件下にて測定した値である。
前記イソオレフィン系アイオノマーは、イソオレフィンモノマーと、マルチオレフィンモノマーとを含有するモノマー組成物を用いてイソオレフィン系ポリマーを重合する工程;前記イソオレフィン系ポリマーをハロゲン化する工程;ハロゲン化したイソオレフィン系ポリマーと求核剤とを反応させる工程;を含む製造方法により作製することができる。
前記モノマー組成物中のイソオレフィンモノマーおよびマルチオレフィンモノマーの含有率は、所望するイソオレフィン系アイオノマーの組成に応じて適宜調整すればよい。モノマー組成物を重合する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよい。
前記イソオレフィン系ポリマーをハロゲン化する方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。例えば、イソオレフィン系ポリマーを溶媒(ヘキサンと水との混合溶媒など)に溶解させ、急速攪拌しながら元素状の塩素や臭素などを加える方法が挙げられる。ハロゲンの使用量は、イソオレフィン系ポリマー100質量部に対して0.1質量部〜8質量部が好ましい。ハロゲン化により、イソオレフィン系ポリマー中のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位が、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位に転化する。
前記ハロゲン化したイソオレフィン系ポリマーと求核剤とを反応させる方法は特に限定されず、例えば、ハロゲン化したイソオレフィン系ポリマーと求核剤とを混合すればよい。前記求核剤としては、下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
[式中、Aは窒素原子またはリン原子を表す。R
51、R
52およびR
53はそれぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜18のアルキル基、単環または炭素数4〜8縮合環で構成されるアリール基、または、ホウ素、窒素、酸素、ケイ素、リンおよび硫黄よりなる群から選択されるヘテロ原子を表す。]
前記求核剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンが挙げられる。求核剤の使用量は、所望するアイオノマー部分のモル%に応じて適宜調整すればよい。
ハロゲン化したイソオレフィン系ポリマーと求核剤とを反応させることで、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位が、アイオノマー部分を有する繰返し単位に転化する。
前記(b)共架橋剤は、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。前記(b)共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が好ましい。前記(b)共架橋剤として使用されるα,β−不飽和カルボン酸の炭素数は、3〜8が好ましく、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは3または4である。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等を挙げることができる。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオン;アルミニウムなどの三価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属が好ましい。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。特に、二価の金属塩としては、得られるゴルフボールの反発性が高くなるということから、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の亜鉛塩が好ましく、より好ましくはアクリル酸亜鉛である。なお、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
前記(b)共架橋剤の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。(b)共架橋剤の含有量が15質量部未満では、コア用ゴム組成物から形成される部材を適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、ゴルフボールの反発性が低下する傾向がある。一方、(b)共架橋剤の含有量が50質量部を超えると、コア用ゴム組成物から形成される部材が硬くなりすぎて、ゴルフボールの打球感が低下するおそれがある。
前記(c)架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
前記(c)架橋開始剤の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.5質量部以下である。0.2質量部未満では、コア用ゴム組成物から形成される部材が柔らかくなりすぎて、ゴルフボールの反発性が低下する傾向があり、5.0質量部を超えると、コア用ゴム組成物から形成される部材を適切な硬さにするために、前述した(b)共架橋剤の使用量を減少する必要があり、ゴルフボールの反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
前記(b)共架橋剤としては炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を使用する際は、(d)金属化合物を含有してもよい。
前記(d)金属化合物としては、ゴム組成物中において(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を中和することができるものであれば、特に限定されない。前記(d)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。(d)前記金属化合物として好ましいのは、二価金属化合物であり、より好ましくは亜鉛化合物である。二価金属化合物は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸と反応して、金属架橋を形成するからである。また、亜鉛化合物を用いることにより、反発性の高いゴルフボールが得られる。これらの(d)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記コア用ゴム組成物は(e)カルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。前記(e)カルボン酸および/またはその塩を含有することで、得られる球状コアの外剛内柔度合を大きくできる。前記(e)カルボン酸および/またはその塩としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸塩が挙げられる。前記(e)カルボン酸および/またはその塩は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。なお、前記(e)カルボン酸および/またはその塩は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は含まない。
前記(e)脂肪族カルボン酸および/またはその塩としては、飽和脂肪酸および/またはその塩、不飽和脂肪酸および/またはその塩のいずれでもよいが、飽和脂肪酸および/またはその塩が好ましい。飽和脂肪酸および/またはその塩としては、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸もしくはベヘニン酸、または、これらのカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。不飽和脂肪酸および/またはその塩としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、エルカ酸もしくはネルボン酸、または、これらのカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。前記(e)芳香族カルボン酸および/またはその塩としては、特に、安息香酸、ブチル安息香酸、アニス酸(メトキシ安息香酸)、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、アセトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、フランカルボン酸もしくはテノイル酸、または、これらのカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
前記(e)カルボン酸および/またはその塩の含有量は、例えば、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であって、40質量部以下が好ましく、より好ましくは35質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。(e)カルボン酸および/またはその塩の含有量が0.5質量部以上であれば、球状コアの外剛内柔度合が大きくなり、40質量部以下であれば、コア硬度の低下が抑制され、反発性が良好となる。
前記コア用ゴム組成物は、さらに(f)有機硫黄化合物を含有することが好ましい。前記(f)有機硫黄化合物を含有することで、得られる球状コアの反発性をより高めることができる。前記(f)有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類、ポリスルフィド類、チウラム類、チオカルボン類、ジチオカルボン類、スルフェンアミド類、ジチオカルバミン酸塩類、チアゾール類などを挙げることができる。球状コアの硬度分布が大きくなるという観点から、(f)有機硫黄化合物としては、チオール基(−SH)を有する有機硫黄化合物、または、その金属塩が好ましく、チオフェノール類、チオナフトール類、または、これらの金属塩が好ましい。前記(f)有機硫黄化合物は、単独もしくは二種以上を混合して使用することができる。
前記(f)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類および/またはその金属塩、チオナフトール類および/またはその金属塩、ジフェニルジスルフィド類、チウラムジスルフィド類が好ましく、より好ましくは2,4−ジクロロチオフェノール、2,6−ジフルオロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、2,6−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、1−チオナフトール、2−チオナフトール、ジフェニルジスルフィド、ビス(2,6−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
前記(f)有機硫黄化合物の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下である。前記(f)有機硫黄化合物の含有量が、0.05質量部以上であれば、得られるゴルフボールの反発性がより向上し、5.0質量部以下であれば、得られるゴルフボールの圧縮変形量が大きくなりすぎず、反発性の低下が抑制される。
前記ゴルフボール用ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。
ゴルフボール用ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。また、酸化チタンの含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上であって、8質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
ゴルフボール用ゴム組成物が白色顔料と青色顔料とを含有することも好ましい態様である。青色顔料は、白色を鮮やかに見せるために配合され、例えば、群青、コバルト青、フタロシアニンブルーなどを挙げることができる。また、前記紫色顔料としては、例えば、アントラキノンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレットなどを挙げることができる。
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。充填剤の含有量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記老化防止剤の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)基材ゴム組成物100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記ゴルフボール用ゴム組成物は、(a)基材ゴム組成物、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、および、必要に応じてその他の添加剤などを混合して、混練することにより得られる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
[ゴルフボール]
本発明のゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆するカバーとを有し、前記球状コアの少なくとも一部が、前記ゴルフボール用ゴム組成物から形成されている。前記球状コアの少なくとも一部を前記ゴルフボール用ゴム組成物から形成することで、球状コアの耐衝撃性が向上し、ゴルフボールの耐久性が向上する。
前記球状コアの中心硬度(H0)は、ショアC硬度で、35以上が好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは45以上であり、70以下が好ましく、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。球状コアの中心硬度がショアC硬度で35以上であると、球状コアが軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られ、また、70以下であれば、球状コアが硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
前記球状コアの表面硬度(H3)は、ショアC硬度で、75以上が好ましく、より好ましくは77以上、さらに好ましくは79以上であり、94以下が好ましく、より好ましくは92以下、さらに好ましくは90以下である。前記球状コアの表面硬度が、ショアC硬度で75以上であれば、ドライバーショットに対してスピン低減効果があり、また、94以下であれば、コアの耐久性がより向上する。
前記球状コアの表面硬度(H3)と中心硬度(H0)との硬度差(H3−H0)は、ショアC硬度で、5以上が好ましく、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは20以上、最も好ましくは25以上であり、50以下が好ましく、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。コア表面とコア中心の硬度差が大きいと、高打出角および低スピンの飛距離が大きいゴルフボールが得られる。一般的に、外剛内柔度合いの高い球状コアは耐久性が劣る傾向がある。しかしながら、ゴム組成物にイソオレフィン系アイオノマーを配合することで、外剛内柔度合いが高く、かつ、耐久性に優れた球状コアが作製できる。
前記球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。前記球状コアの直径が34.8mm以上であれば、反発性がより良好となる。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーや中間層が薄くなり過ぎず、カバーや中間層の機能がより発揮される。
前記球状コアは、直径34.8mm〜42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向に球状コアが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、6.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましい。前記圧縮変形量が、2.0mm以上であれば打球感がより良好となり、6.0mm以下であれば、反発性がより良好となる。
前記球状コアは、単層構造でもよいし、多層構造でもよい。球状コアが単層構造である場合、球状コアの全体が前記ゴルフボール用ゴム組成物から形成される。球状コアが多層構造である場合、全ての層がゴム組成物から形成されており、少なくとも一層が前記ゴルフボール用ゴム組成物から形成されていればよい。前記球状コアが、球状の内層コアと、前記内層コアを被覆する外層コアとを有する2層コアである場合、前記外層コアが前記ゴルフボール用ゴム組成物から形成されていることが好ましい。
前記内層コアの表面硬度(H1)は、ショアC硬度で、55以上が好ましく、より好ましくは57以上、さらに好ましくは59以上であり、85以下が好ましく、より好ましくは82以下、さらに好ましくは80以下である。前記内層コアの表面硬度が、ショアC硬度で55以上であればゴルフボールの反発性がより良好となり、また、85以下であればゴルフボールの耐久性がより良好となる。
前記内層コアの直径は、5mm以上が好ましく、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは15mm以上であり、30mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、さらに好ましくは20mm以下である。前記内層コアの直径が5mm以上であればドライバーショットにおけるスピン量を低減できる。一方、内層コアの直径が30mm以下であればゴルフボールの反発性を維持しつつ、ドライバーショットにおけるスピン量を低減できる。
前記外層コアの最内点硬度(H2)は、ショアC硬度で、55以上が好ましく、より好ましくは58以上、さらに好ましくは63以上であり、85以下が好ましく、より好ましくは82以下、さらに好ましくは79以下である。前記外層コアの最内点硬度が、ショアC硬度で55以上であればゴルフボールの反発性能がより向上し、また、85以下であればフィーリングが良好となる。
前記球状コアの表面硬度(H3)と外層コアの最内点硬度(H2)との硬度差(H3−H2)は、ショアC硬度で、5以上が好ましく、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、45以下が好ましく、より好ましくは40以下、さらに好ましくは38以下である。コア表面と外層コアの最内点との硬度差が大きいと、高打出角および低スピンの飛距離が大きいゴルフボールが得られる。
前記外層コアの厚さは、5mm以上が好ましく、より好ましくは8mm以上、さらに好ましくは10mm以上であり、20mm以下が好ましく、18mm以下がより好ましく、さらに好ましくは16mm以下である。前記外層コアの厚さが5mm以上であればゴルフボールの反発性能がより向上する。一方、外層コアの厚さが20mm以下であればドライバーショット時の過剰なスピンが抑制される。
前記ゴルフボール用ゴム組成物を用いて球状コアを製造する方法は特に限定されず、混練後のゴム組成物を金型内で成形すればよい。球状コアに成形する温度は、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、170℃以下が好ましい。成形温度が170℃を超えると、コア表面硬度が低下する傾向がある。また、成形時の圧力は、2.9MPa〜11.8MPaが好ましい。成形時間は、10分間〜60分間が好ましい。
前記ゴルフボールは、前記ゴルフボール用ゴム組成物から成形された構成部材以外の部分は、従来公知の材料を用いることができる。
前記球状コアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物、カルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱する。
前記カバーは、ゴルフボール本体の最外層である。前記カバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成される。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂(例えば、三井・デュポン・ポリケミカル社製「ハイミラン(Himilan)(登録商標)」)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(例えば、BASFジャパン社製「エラストラン(登録商標)」)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(例えば、アルケマ社製「ペバックス(登録商標)」)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(例えば、東レ・デュポン社製「ハイトレル(登録商標)」、三菱化学社製「プリマロイ」)、熱可塑性スチレンエラストマー(例えば、三菱化学社製「ラバロン(登録商標)」)などが挙げられる。
前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
前記カバー用組成物のスラブ硬度およびカバー厚さは、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で50以上が好ましく、より好ましくは55以上であり、80以下が好ましく、より好ましくは70以下である。カバー用組成物のスラブ硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットおよびアイアンショットにおいて、高打出角で低スピンのゴルフボールが得られ、飛距離が大きくなる。また、カバー用組成物のスラブ硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。
なお、この場合、カバー用組成物は、樹脂成分として、アイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
前記ディスタンス系のゴルフボールの場合、カバーの厚さは、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上であり、2.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下である。カバーの厚さが0.5mm以上であればゴルフボールの反発性能がより向上し、2.0mm以下であればゴルフボールの耐久性がより良好となる。
また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、20以上が好ましく、より好ましくは25以上であり、40以下が好ましく、より好ましくは35以下である。カバー用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で40以下であれば、ドライバーショットでは、本発明のコアにより、高飛距離化がはかれるとともに、アプローチショットのスピン量が高くなり、グリーン上で止まりやすいゴルフボールが得られる。また、スラブ硬度がショアD硬度で20以上であれば、耐擦過傷性が向上する。
なお、この場合、カバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含有することが好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中の熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
スピン系のゴルフボールの場合、カバーの厚さは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、2.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下である。カバーの厚さが上記範囲内であれば、アプローチショットにおけるスピン性能がより良好となる。
カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
カバーが成形されたゴルフボールは、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
前記ゴルフボールは、球状コアとカバーとの間に中間層を有してもよい。前記中間層は単層でもよいし、複層でもよい。前記中間層は、樹脂成分を含有する中間層用組成物から形成されることが好ましい。
中間層の樹脂成分としては、カバーと同様のものが使用できる。これらの中でも、中間層の樹脂成分としては、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマーが好ましい。中間層用組成物の樹脂成分中のアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
中間層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて球体を包み、加圧成形する方法、または、中間層用組成物を直接球体上に射出成形して球体を包み込む方法などを挙げることができる。
中間層用組成物を球体上に射出成形して中間層を成形する場合、成形用上下金型としては、半球状キャビティを有しているものを使用することが好ましい。射出成形による中間層の成形は、ホールドピンを突き出し、被覆球体を投入してホールドさせた後、加熱溶融された中間層用組成物を注入して、冷却することにより中間層を成形することができる。
圧縮成形法により中間層を成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。中間層用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いて中間層を成形する方法としては、例えば、球体を2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形して中間層に成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みを有する中間層を成形できる。
なお、成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。また組成物の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT−500」を用いて、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、プランジャー面積:1cm2、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
前記中間層用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で45以上が好ましく、より好ましくは50以上であり、80以下が好ましく、より好ましくは78以下である。
前記中間層の厚みは、0.8mm以上が好ましく、より好ましくは0.9mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上であり、2.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。複数の中間層の場合は、複数の中間層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
本発明のゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールの縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以上であり、さらに好ましくは2.5mm以上であり、最も好ましくは2.8mm以上であり、5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは4.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を5.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
本発明のゴルフボールの構造は、球状コアと、前記球状コアを被覆するカバーとを有するものであれば、特に限定されない。図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、この球状コア2の外側に位置する中間層3と、この中間層3の外側に位置するカバー4とを有する。前記球状コア2は、内層コア21と、この内層コア21の外側に位置する外層コア22とを有している。前記カバー4の表面には、多数のディンプル41が形成されている。このカバー4の表面のうち、ディンプル41以外の部分は、ランド42である。
本発明のゴルフボールとしては、例えば、単層の球状コアと、前記球状コアを被覆する単層のカバーとからなるツーピースゴルフボール;単層の球状コアと、前記球状コアを被覆する単層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボール;2層構造の球状コアと、前記球状コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール;単層の球状コアと、前記球状コアを被覆する2層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボール;2層構造の球状コアと、前記球状コアを被覆する2層以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール;などを挙げることができる。上記いずれの構造のゴルフボールにも本発明を好適に利用できる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)スラブ硬度
中間層用組成物またはカバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore D」を用いた。
(2)硬度
内層コア、コアの表面部において測定した硬度を内層コア表面硬度、コア表面硬度とした。カバーの表面(ランドの部分)において測定した硬度をゴルフボールの表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定した硬度をコア中心硬度とした。また、コアを半球状に切断し、内層コアと外層コアとの境界線よりも1.0mm外側(中心からの距離=内層コアの半径+1.0mm)において測定した硬度を外層コア最内点硬度とした。硬度は、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて測定した。検出器は、「Shore C」または「Shore D」を用いた。なお、コア硬度は、4点で硬度を測定して、これらを平均することにより算出した。
(3)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアまたはゴルフボールが縮む量)を測定した。
(4)反発係数
各コアまたはゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の前記円筒物およびコアまたはゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および質量から各コアまたはゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各コアまたはゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値をそのコアまたはゴルフボールの反発係数とした。
(5)耐久性
各ゴルフボールを10個ずつ、エアガンを用いて金属板に50m/秒の速度で衝突させて、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し回数を測定し、10個の平均値を算出した。耐久性は、ゴルフボールNo.1〜10、12〜17についてはNo.11の衝突回数を100として各ゴルフボールについての回数を指数化した値で示し、ゴルフボールNo.18〜21についてはNo.22の衝突回数を100として各ゴルフボールについての回数を指数化した値で示し、ゴルフボールNo.23〜26についてはNo.27の衝突回数を100として、各ゴルフボールについての回数を指数化した値で示した。
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
ゴルフボールNo.1〜17
表1に示す配合のゴム組成物を混練ロールにより混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で加熱プレス(170℃、20分間)することにより球状の内層コアを得た。
ニーダーを用いて、基材ゴム(ポリブタジエンゴム)を素練りし、これに表4の配合となるようにイソオレフィン系アイオノマーを添加し、混練(材料温度:150℃、混練時間:3分間)した。さらに、表4に示す配合となるように他の成分を添加し、混練ロールにより混練してゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物からハーフシェルを成形した。ハーフシェルの成形は、ゴム組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに一つずつ投入し、加圧した。圧縮成形は成形温度30℃、成形時間1分、成形圧力10MPaの条件で行った。上記で得た内層コアを2枚のハーフシェルで被覆した。この内層コアおよびハーフシェルを、共に半球状キャビティを備えた上型および下型からなる金型に投入し、加熱プレス(170℃、20分間)して球状コアを得た。
ゴルフボールNo.18〜27
ニーダーを用いて、基材ゴム(ポリブタジエンゴム)を素練りし、これに表5の配合となるようにイソオレフィン系アイオノマーを添加し、混練(材料温度:100℃、混練時間:3分間)した。さらに、表5に示す配合となるように他の成分を添加し、混練ロールにより混練してゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物を、半球状キャビティを有する上下金型内で加熱プレス(170℃、20分間)することにより球状コアを得た。なお、表4、5において、硫酸バリウムの配合量は、コアまたは外層コアの密度が所望の値となるように調整した。
表1で使用した原料は以下の通りである。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量=96質量%、1,2−ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3))」
酸化マグネシウム:協和化学工業社製、「マグサラット(登録商標)150ST」
メタクリル酸:三菱レイヨン社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
(2)中間層の作製
表2に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用樹脂組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。表4、5に示した樹脂組成物を上述のようにして得られたコア上に射出成形して、中間層を成形した。
サーリン(登録商標)8945:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン(登録商標)AM7329:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ポリアミド6:東レ社製、アミラン(登録商標)CM1017K
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
(3)カバーの作製
次に、表3に示した配合のカバー用材料を、二軸混練型押出機により押し出して、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35で行った。配合物は、押出機のダイの位置で150〜230℃に加熱された。得られたカバー用組成物を用いて、カバーを形成した。なお、樹脂組成物No.Xを用いる場合は圧縮成形、樹脂組成物No.Yを用いる場合は射出成形を採用した。
エラストラン(登録商標)XNY84A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
サーリン8945:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ラバロン(登録商標)T3221C:三菱化学社製、熱可塑性スチレンエラストマー
得られたゴルフボールについての評価結果を表4、5に示した。
表4、5で使用した原料は以下の通りである。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量=96質量%、1,2−ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3))」
イソオレフィン系アイオノマー1:ランクセス社製、「Butyl Ionomer 24(イソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を80モル%以上、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰り返し単位0.2モル%〜10.0モル%、アイオノマー部分を有する繰返し単位0.05モル%〜5.0モル%、ムーニー粘度(ML1+8(125℃))=35〜80)」
イソオレフィン系アイオノマー2:ランクセス社製、「BUTYL I 4565 P(イソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を80モル%以上、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰り返し単位0.60モル%、アイオノマー部分を有する繰返し単位0.40モル%、ムーニー粘度(ML1+8(125℃))=56)」
アクリル酸亜鉛:三新化学工業社製、「サンセラー(登録商標)SR」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」、最終的に得られるゴルフボールの質量が45.4gとなるように調整した。
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
安息香酸:シグマアルドリッチ社製
カプリル酸亜鉛:三津和化学薬品株式会社製
PBDS:ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド、川口化学工業社製
2−チオナフトール:東京化成工業社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
ゴルフボールNo.1〜10、14および15は、コア外層が、(a)基材ゴム組成物、(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤を含有し、前記(a)基材ゴム組成物がイソオレフィン系アイオノマーを含有し、前記(a)基剤ゴム組成物中のイソオレフィン系アイオノマーの含有率が、1質量%以上、10質量%未満のゴルフボール用ゴム組成物から形成されている。これらのゴルフボールは、ゴルフボールNo.11に比べて耐久性が向上しており、かつ、反発性にも優れている。ゴルフボールNo.13は、コア外層が、(a)基剤ゴム組成物中のイソオレフィン系アイオノマーの含有率が10質量%のゴルフボール用ゴム組成物から形成されている。このゴルフボールNo.13は、耐久性には優れるものの、反発性が劣る。ゴルフボールNo.16および17は、(a)基材ゴム組成物がイソオレフィン系アイオノマーを含有せず、ゴム組成物に炭酸カルシウム、架橋ゴム粉末を配合した場合である。これらのゴルフボールは、反発性および耐久性のいずれも劣る。
ゴルフボールNo.18〜20および23〜25は、コアが、(a)基材ゴム組成物、(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤を含有し、前記(a)基材ゴム組成物がイソオレフィン系アイオノマーを含有し、前記(a)基剤ゴム組成物中のイソオレフィン系アイオノマーの含有率が、1質量%以上、10質量%未満のゴルフボール用ゴム組成物から形成されている。これらのゴルフボールは、ゴルフボールNo.22または27に比べて耐久性が向上しており、かつ、反発性にも優れている。ゴルフボールNo.21および26は、コア外層が、(a)基剤ゴム組成物中のイソオレフィン系アイオノマーの含有率が10質量%のゴルフボール用ゴム組成物から形成されている。これらのゴルフボールは、耐久性には優れるものの、反発性が劣る。