JP2017071784A - 粘着剤組成物および粘着シート - Google Patents
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Abstract
【課題】弾性発泡体に対する貼付作業性を向上させ得る粘着剤組成物、粘着シートの提供。【解決手段】ベースポリマーとしてのアクリル系重合体と、軟化点150〜180℃の粘着付与樹脂とを含み、前記アクリル系重合体を重合するために用いられるモノマー成分として、アクリル酸及びメタクリル酸を含み、前記粘着付与樹脂は、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂およびテルペン系樹脂から選択され、前記粘着付与樹脂の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して5〜15質量部である、粘着剤組成物。非剥離性の基材層10の両面に、前記粘着剤組成物からなる粘着剤層21,22を備える粘着シート1。【選択図】図1
Description
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
粘着シートには、目的および用途に応じて種々の特性が求められる。そのような特性の一つとして、ポリウレタンフォーム等のような弾性を有する発泡体(以下「弾性発泡体」という。)からなる部材を被着体の表面形状に沿って弾性変形させた状態に固定する場合に、上記部材が変形前の形状に戻ろうとする反撥力に抗して該部材を上記弾性変形させた形状に保持する性能(すなわち上記反撥力に耐える性能。以下「耐反撥性」ともいう。)が挙げられる。例えば特許文献1には、2kgのローラを用いて粘着シートを弾性発泡体に貼り付けた条件にて行われる試験において所定の耐反撥性を示す粘着シートが開示されている。
上記耐反撥性が優れるものは、被着体への貼付作業性も良好となるので好ましい。しかし、上述の弾性発泡体は、硬質の被着体と異なり、これに粘着シートを圧着しようとする力が該発泡体の弾性変形により吸収されてしまうため、該弾性発泡体に粘着シートをしっかりと圧着すること自体が困難である。また、弾性発泡体に粘着シートを強く押し付けると、該発泡体が強く圧縮され(押し潰され)、これにより発泡体が損傷を受ける可能性がある。また、弾性発泡体の背面を支える構造物の強度や形状によっては、該構造物との間で弾性発泡体を十分にかつムラなく圧縮することが困難である。このようなことから、弾性発泡体に粘着シートをしっかりと圧着しようとすると、弾性発泡体を圧縮するために余分な力を要し、また作業に慎重さが求められる等の作業負担が大きい。より貼付作業性に優れた粘着シートが求められている。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主要な目的は、弾性発泡体に対する貼付作業性を向上させ得る粘着剤組成物を提供することである。本発明の他の目的は、かかる粘着剤組成物を利用した粘着シートの提供である。
本発明によると、ベースポリマーとしてのアクリル系重合体と、軟化点125℃以上の粘着付与樹脂と、を含む粘着剤組成物が提供される。前記粘着付与樹脂の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満である。
かかる粘着剤組成物は、上記のように、高軟化点を有する粘着付与樹脂を少量含む。通常、耐反撥性を向上させようとすれば、反撥力に耐え得るだけの強い粘着力を得ようとして粘着付与樹脂の使用量を多くする等の対策が考えられ得る。従来の粘着剤組成物においても、粘着特性を良好なものとすること等のため、粘着付与樹脂は、アクリル系重合体100質量部に対して20質量部以上用いられているのが通常である。しかし本発明者らは、粘着付与樹脂の含有量を従来と比べて少なくすることで、粘着力を損なわずに耐反撥性が向上する知見を得て、本発明を完成した。本発明では、高軟化点を有する粘着付与樹脂を採用する。かかる粘着剤組成物を用いて形成された粘着シートは、弾性発泡体に対する耐反撥性に優れる。特に、弾性発泡体に軽圧着した場合においても優れた耐反撥性(以下、「軽圧着耐反撥性」ともいう。)を示す。そのため、該粘着シートの貼付作業性が向上する。かかる構成は、シンプルであるがゆえに実用性が高い。なお、粘着付与樹脂の含有量が上記アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満であるとは、0質量部より多く20質量部より少ないことを意味する。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着剤組成物は、水性溶媒および/または酢酸エチルを主成分とする溶媒を含む。かかる粘着剤組成物は、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤を主成分とする溶媒を用いるものと比べて、環境衛生上好ましい。なお、水性溶媒とは、水または水を主体(50質量%以上を占める成分)とする混合溶媒を指す。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒は、水と均一に混合し得る各種の有機溶媒(低級アルコール等)から選択される1種または2種以上であり得る。また、特に水性溶媒を含む粘着剤組成物、典型的には水分散型(エマルション型)の粘着剤組成物を用いて作製される粘着シートは、溶剤型粘着剤組成物を用いた粘着シートに比べて、発泡体のように表面に微細な凹凸を有する被着体に対する接着性(粗面接着性)が不足する傾向がある。しかし、本発明の上記構成によると、水分散型粘着剤組成物を用いた場合でも、優れた耐反撥性を実現することができる。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記アクリル系重合体は、式(1):
CH2=CR1COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素原子数6以上のアルキル基を示す)で表わされるモノマーを主モノマーとするアクリル系重合体であり、前記粘着付与樹脂は、ロジン系樹脂および/またはテルペン系樹脂である。かかる組成の粘着剤組成物は、アクリル系重合体と粘着付与樹脂との相溶性が高いので、粘着力、保持力、軽圧着耐反撥性等の諸特性を安定して発揮することができる。
CH2=CR1COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素原子数6以上のアルキル基を示す)で表わされるモノマーを主モノマーとするアクリル系重合体であり、前記粘着付与樹脂は、ロジン系樹脂および/またはテルペン系樹脂である。かかる組成の粘着剤組成物は、アクリル系重合体と粘着付与樹脂との相溶性が高いので、粘着力、保持力、軽圧着耐反撥性等の諸特性を安定して発揮することができる。
また、本発明によると、粘着剤層を備える粘着シートが提供される。前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系重合体と、軟化点125℃以上の粘着付与樹脂と、を含む。前記粘着付与樹脂の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満である。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着シートは、以下の特性:(A)厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色))で裏打ちされた幅10mm、長さ50mmの粘着シートの試料片の、該試料片の長手方向の一端から10mmまでの部分を、厚さ2mmのアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂板(ABS板)の一方の面における外縁部に1kgのローラを一往復させて圧着し、該試料片の残りの部分を前記ABS板の端から他方の面に折り返して圧着し、これを23℃、50%RHの環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持し、前記試料片の長手方向の一端につき、前記ABS板表面からの浮き距離を測定することで行われる軽圧着耐反撥性試験において、前記浮き距離が2mm以下である;を満たす。このように1kgのローラを用いて軽圧着した場合にも優れた軽圧着耐反撥性を示す粘着シートは、基材として弾性発泡体を用いる構成や、弾性発泡体に貼り合わせる用途において貼付作業性が特に優れる。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着シートは、以下の特性:(B)前記粘着シートを65℃で2時間保持したとき、該粘着シートから放散されるトルエンの総量が該粘着シート100cm2当たり2μg以下である;を満たす。かかる構成の粘着シートによると、トルエン放散量が低減されているので、環境衛生上好ましい。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着シートは、以下の特性:(D)ポリプロピレン板に対する粘着力が8N/20mm以上である;を満たす。このようにポリプロピレン(PP)板に対する粘着力に優れた粘着シートは、基材や被着体となり得るポリウレタンフォーム等の弾性発泡体とPP等のポリオレフィン製部材とを貼り合わせる用途に好適である。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着シートは自動車内装部材に貼り付けられる。軟質ポリウレタンフォーム等の弾性発泡体は、例えば自動車の内装において、両面粘着シートを用いて所望の箇所(被着体)に固定され、あるいは該弾性発泡体を基材とする片面粘着シートを貼り付ける態様で、緩衝材等として広く用いられている。かかる使用態様において本発明の粘着シートは、弾性発泡体が剥がれる不都合を好適に抑制し得る。
また、本発明によると、貼付用ウレタンフォームが提供される。かかる貼付用ウレタンフォームは、ここに開示されるいずれかの粘着シートと、該粘着シートの粘着剤層に貼り付けたウレタンフォームと、を備えており、該粘着シートは両面粘着シートとして構成されている。ここで用いられる粘着シートは優れた軽圧着耐反撥性を示すので、ウレタンフォームを貼り付ける種々の用途に好適に用いられ得る。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明において、同様の作用を奏する部材または部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
ここに開示される粘着剤組成物についてより詳しく説明する。上記粘着剤組成物の形態は特に限定されない。例えば溶剤型、エマルション型、水溶液型、活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化型、ホットメルト型等の種々の形態であり得る。典型的には、モノマー成分を適当な溶媒中で重合させて得られたアクリル系重合体溶液または分散液に、必要に応じて他の成分を配合することにより調製される。あるいは、例えばエマルション重合後、必要に応じてpH調整、塩析、精製等の処理を施して得られたアクリル系重合体を、架橋剤および必要に応じて各種の添加剤等(任意成分)とともに、トルエン、酢酸エチル等の有機溶媒に溶解させて得られる溶剤型粘着剤組成物であってもよい。
上記粘着剤組成物は、水性溶媒または酢酸エチル等の非トルエン系有機溶媒(すなわち非トルエン系溶媒、典型的にはトルエンを実質的に含有しない溶媒)中に、粘着成分が分散または溶解した態様の粘着剤組成物であることが好ましい。ここで、水性溶媒とは、水および水を主成分とする混合溶媒を包含する用語である。水性溶媒中に粘着成分を含む組成物を、水性粘着剤組成物という。そのうち、粘着成分が水性溶媒に分散した態様のものを、水分散型(エマルション型)粘着剤組成物という。粘着成分が水性溶媒に溶解した態様のものを、水溶液型粘着剤組成物という。また、酢酸エチル中に粘着成分を含む組成物を、酢酸エチル溶剤型粘着剤組成物という。酢酸エチル溶剤型粘着剤組成物において粘着成分は、典型的には、その酢酸エチル中に溶解している。これら水性粘着剤組成物および酢酸エチル溶剤型粘着剤組成物は、いわゆる「非トルエン系粘着剤組成物」の典型例である。なかでも、水分散型粘着剤組成物は、有機溶媒を用いないか、有機溶媒の使用量が少ないため、粘着シートの製造時において自然環境への負荷が少なく作業環境上好ましい。以下、主として水分散型粘着剤組成物について説明するが、本発明に係る粘着剤組成物は水分散型粘着剤組成物に限定されるものではない。
上記粘着剤組成物は、ベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、主たる粘着性成分)として、アクリル系重合体を含む。ここで「アクリル系重合体」とは、典型的には、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含み、このアルキル(メタ)アクリレート(以下、単に「主モノマー」ともいう。)と共重合性を有する副モノマー(以下、単に「副モノマー」ともいう。)をさらに含んでよいモノマー成分(単一モノマーまたはモノマー混合物)を重合することによって合成された重合体(共重合体)である。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
上記アクリル系重合体を重合するために用いられるモノマー成分は、主モノマーとして、式:
CH2=CR1COOR2
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はアルキル基を示す)で表わされるモノマーを含む。上記アルキル基は直鎖状または分岐状であり得る。R2を示すアルキル基の炭素原子数は好適には1〜20(以下、かかる炭素原子数の範囲をC1−20と表記することがある。)である。換言すれば、主モノマーとして、C1−20のアルキル(メタ)アクリレートを好適に用いることができる。好ましい一態様では、全モノマー成分のうち70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)がC1−14のアルキル(メタ)アクリレートであり、例えばC1−10のアルキル(メタ)アクリレートである。上記主モノマーは、上述の範囲から選ばれる1種または2種以上であり得る。
CH2=CR1COOR2
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はアルキル基を示す)で表わされるモノマーを含む。上記アルキル基は直鎖状または分岐状であり得る。R2を示すアルキル基の炭素原子数は好適には1〜20(以下、かかる炭素原子数の範囲をC1−20と表記することがある。)である。換言すれば、主モノマーとして、C1−20のアルキル(メタ)アクリレートを好適に用いることができる。好ましい一態様では、全モノマー成分のうち70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)がC1−14のアルキル(メタ)アクリレートであり、例えばC1−10のアルキル(メタ)アクリレートである。上記主モノマーは、上述の範囲から選ばれる1種または2種以上であり得る。
また、上記主モノマーとして、上記式のR2が炭素原子数6以上のアルキル基であるモノマー(以下、単に「モノマーA」ともいう。)を用いることが好ましい。上記モノマーAのアルキル基(R2)の炭素原子数は、好ましくは7以上(典型的には8)である。これによって、後述する粘着付与樹脂がロジン系樹脂および/またはテルペン系樹脂(典型的にはロジン系樹脂)である場合に、粘着付与樹脂との相溶性が良好となるので、粘着力、保持力、軽圧着耐反撥性等の諸特性を安定して発揮することができる。上記炭素原子数は凡そ20以下とすることが適当である。モノマーAの好適例としては、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が特に好ましい。これらモノマーAは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記主モノマーとして、ガラス転移温度(Tg)の調整や凝集力向上のため、上記モノマーA以外のモノマー、すなわち炭素原子数1〜5のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(以下、単に「モノマーB」ともいう。)を用いてもよい。上記モノマーBの好適例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでもn−ブチルアクリレート(BA)、メチルアクリレート(MA)が特に好ましい。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アクリル系重合体を重合するために用いられる全モノマー成分に占めるモノマーAの割合は20質量%以上であることが好ましい。得られる粘着剤の疎水性を向上させて、粘着付与樹脂がロジン系またはテルペン系である場合の該樹脂との相溶性を高める観点から、モノマーAの割合は、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上(例えば70質量%以上、典型的には80質量%以上)である。主モノマーとしてモノマーAのみを用いてもよい。同様の理由から、上記全モノマー成分に占めるモノマーBの割合は、80質量%以下(例えば70質量%以下)とするのが適当であり、50質量%以下(例えば30質量%以下、典型的には20質量%以下)としてもよい。主モノマーとして、モノマーBを用いなくてもよい。
アクリル系重合体を重合するために用いられる全モノマー成分に占める主モノマーの割合は、60質量%以上(典型的には60〜98質量%)であることが好ましく、70質量%以上(典型的には80〜95質量%)であることがより好ましい。90質量%以上(典型的には90〜95質量%)であることが特に好ましい。
上記アクリル系重合体には、任意成分として、主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な副モノマーが用いられ得る。上記副モノマーとしては、例えば、カルボキシル基、アルコキシシリル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等から選択される1種または2種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることができる。これら官能基含有モノマーは、アクリル系重合体に架橋点を導入するのに役立ち得る。副モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
このような官能基含有モノマーのうち、カルボキシル基を有するモノマーまたはその酸無水物から選択されるモノマー(以下、まとめて「カルボキシル基含有モノマー」ともいう。)を好ましく用いることができる。カルボキシル基含有モノマーの具体例としては、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも好ましいカルボキシル基含有モノマーとして、AAおよびMAAが例示される。これらの一方を単独で用いてもよく、AAとMAAとを任意の割合で組み合わせて用いてもよい。AAとMAAとを併用することで、軽圧着耐反撥性がより向上する。AAとMAAとの質量比(AA:MAA)は、例えば凡そ1:10〜10:1の範囲とすることができ、凡そ1:4〜4:1(例えば1:2〜2:1)の範囲とすることが好ましい。カルボキシル基含有モノマーを共重合させる場合、アクリル系重合体を重合するために用いられる全モノマー成分に占めるカルボキシル基含有モノマーの割合は、凡そ5質量%以下(例えば0.5〜4質量%、例えば1〜2.5質量%)とすることが好ましい。
好ましく使用し得る官能基含有モノマーの他の例として、アルコキシシリル基を有するモノマーが挙げられる。かかるアルコキシシリル基含有モノマーの具体例としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このようなアルコキシシリル基含有モノマーを共重合させることは、軽圧着粘着力と保持力とをより高レベルで両立可能な粘着シートを実現する上で有利な手法となり得る。アルコキシシリル基含有モノマーを共重合させる場合、全モノマー成分に占めるアルコキシシリル基含有モノマーの割合は、凡そ0.005〜1質量%(例えば0.01〜0.1質量%)程度とすることが好ましい。
上記カルボキシル基含有モノマーやアルコキシシリル基含有モノマーを含む官能基含有モノマーは、全モノマー成分のうち15質量%以下(例えば0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%)の範囲で用いることが好ましい。官能基含有モノマーの使用量を上記の範囲とすることにより、良好な凝集力が得られる。
アクリル系重合体に共重合され得るその他のモノマー(以下、「その他の共重合性モノマー」ともいう。)としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;等が挙げられる。さらに他の例として、一分子内に複数の重合性官能基を有する多官能モノマー、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。かかるその他の共重合性モノマーは必要に応じて適量用いればよい。
重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、エマルション重合法においては、アゾ系重合開始剤を好ましく使用し得る。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤が挙げられる。かかるレドックス系開始剤の例としては、過酸化物(過酸化水素水等)とアスコルビン酸との組合せ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組合せ等が挙げられる。
このような重合開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば全モノマー成分100質量部に対して0.005〜1質量部(典型的には0.01〜1質量部)程度の範囲から選択することができる。
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えばn−ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択される1種または2種以上であり得る。なかでもn−ラウリルメルカプタンの使用が好ましい。
あるいは、連鎖移動剤として、3級メルカプタンおよび芳香族メルカプタンから選択される1種または2種以上のメルカプタンを主成分とする硫黄含有連鎖移動剤を用いてもよい。かかる構造のメルカプタンは、該メルカプタンの存在下で合成されたアクリル系重合体において硫黄含有ガスの発生源となり難い。したがって、かかるアクリル系重合体を含む粘着剤組成物によると、粘着性能がよく、かつ金属腐食が防止された粘着シートが形成され得る。なかでも3級メルカプタンが好ましい。
3級メルカプタンの具体例としては、ターシャリーブチルメルカプタン、ターシャリーオクチルメルカプタン、ターシャリーノニルメルカプタン、ターシャリーラウリルメルカプタン、ターシャリーテトラデシルメルカプタン、ターシャリーヘキサデシルメルカプタン等が挙げられる。芳香族メルカプタンの具体例としては、フェニルメルカプタン、4−トリルメルカプタン、4−メトキシフェニルメルカプタン、2,4−ジメチルベンゼンチオール、4−アミノベンゼンチオール、4−フルオロベンゼンチオール、4−ブロモベンゼンチオール、4−ヨードベンゼンチオール、4−t−ブチルフェニルメルカプタン、1−ナフチルメルカプタン、1−アズレンチオール、1−アントラセンチオール、4,4’−チオベンゼンチオール等が挙げられる。また、芳香族メルカプタンは、2−ピリジルメルカプタン、2−ピロリルメルカプタン、2−インドリルメルカプタン、2−フラニルメルカプタン、2−チオフェンチオール、2−ベンゾチオフェンチオール、2−メルカプトピリミジン等のヘテロ芳香族メルカプタンであり得る。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、ターシャリーラウリルメルカプタンが特に好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、全モノマー成分100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量は凡そ0.02〜0.1質量部程度であってもよい。
アクリル系重合体の調製に当たっては、必要に応じて乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれも使用可能である。通常は、アニオン系またはノニオン系の乳化剤の使用が好ましい。このような乳化剤は、例えば、モノマー成分をエマルション重合させる際や、他の方法で得られたアクリル系重合体を水に分散させる際等に好ましく使用することができる。アニオン系乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロぺニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。あるいは、かかるラジカル重合性基を有しない乳化剤のみを使用してもよい。このような乳化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
乳化剤の使用量は、アクリル系重合体をエマルションの形態に調製することが可能な使用量であればよく特に制限されない。通常は、アクリル系重合体100質量部に対して、固形分基準で例えば0.2〜10質量部(好ましくは0.5〜5質量部)程度の範囲から選択することが適当である。
ここに開示されるモノマー成分のエマルション重合における好ましい一態様では、重合開始剤を有する反応容器に上記モノマー成分を供給して系を常温よりも高い重合温度(好ましくは凡そ40℃〜80℃、例えば凡そ50℃〜70℃)に維持することにより、該モノマー成分の重合反応を行う。通常は、モノマー成分の供給終了とほぼ同時あるいはモノマー成分の供給終了よりも前に、重合開始剤の供給を終了することが好ましい。あるいは、重合開始剤の一部が仕込まれた反応容器にモノマー成分の少なくとも一部を供給して該モノマー成分の重合を開始させ、残りの重合開始剤は所定時間に亘って連続的に、あるいはいくつかに分割して所定時間毎に供給してもよい。通常は、モノマー成分の供給終了とほぼ同時あるいはモノマー成分の供給終了よりも前に、重合開始剤の供給を終了することが好ましい。
また、上述の重合開始剤(すなわち、モノマー成分の供給終了前に反応容器に導入された重合開始剤。以下「主開始剤」ともいう。)を用いてモノマー成分を重合した後、間隔をあけて、該反応容器の内容物(反応液)に追加の重合開始剤(以下「追加開始剤」ともいう。)を供給し、かかる追加開始剤を用いてさらに重合を行うことが好ましい。このように追加開始剤を供給することにより、反応液中に残存するモノマーの量を効率よく減少させる(典型的には、該残存モノマーの重合を促進する)ことができる。その結果、粘着シートのTVOC(Total Volatile Organic Compounds)量および臭気の低減に寄与することができる。使用する追加開始剤は、先にモノマー成分の重合反応に使用された重合開始剤と同一であってもよく異なってもよい。残存モノマー量の減少を効率よく行い得る追加開始剤として、主開始剤よりも半減期温度の低い重合開始剤を好ましく用いることができる。そのような追加開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いることが好ましい。追加開始剤の使用量は特に限定されず、例えばモノマー成分100質量部に対して凡そ0.005〜2質量部程度の範囲から選択することができる。
特に限定するものではないが、上記アクリル系重合体(典型的には水分散型アクリル系重合体)のゲル分率(該重合体に占める酢酸エチル不溶分の質量割合)は、例えば凡そ30〜70%程度であることが好ましい。アクリル系重合体のゲル分率は、以下の方法で測定することができる。
[アクリル系重合体のゲル分率測定方法]
測定サンプルとしてのアクリル系重合体約0.1g(質量:Wc1mg)を、平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(質量:Wc2mg)で巾着状に包み、口を凧糸(質量:Wc3mg)で縛る。この包みを容量50mLのスクリュー管に入れ(1個の包みにつきスクリュー管1本を使用する。)、該スクリュー管に酢酸エチルを満たす。これを室温(典型的には23℃)で7日間放置した後、上記包みを取り出して130℃で2時間乾燥させ、該包みの質量(Wc4mg)を測定する。アクリル系重合体のゲル分率は、各値を以下の式:
ゲル分率[%]=[(Wc4−Wc2−Wc3)/Wc1]×100;
に代入することにより求められる。なお、上記テトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜としては、上記商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」またはその相当品を使用することが望ましい。また、上記測定に供する測定サンプルとしては、例えば、アクリル系重合体のエマルションを130℃で2時間乾燥させたものを用いるとよい。
[アクリル系重合体のゲル分率測定方法]
測定サンプルとしてのアクリル系重合体約0.1g(質量:Wc1mg)を、平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(質量:Wc2mg)で巾着状に包み、口を凧糸(質量:Wc3mg)で縛る。この包みを容量50mLのスクリュー管に入れ(1個の包みにつきスクリュー管1本を使用する。)、該スクリュー管に酢酸エチルを満たす。これを室温(典型的には23℃)で7日間放置した後、上記包みを取り出して130℃で2時間乾燥させ、該包みの質量(Wc4mg)を測定する。アクリル系重合体のゲル分率は、各値を以下の式:
ゲル分率[%]=[(Wc4−Wc2−Wc3)/Wc1]×100;
に代入することにより求められる。なお、上記テトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜としては、上記商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」またはその相当品を使用することが望ましい。また、上記測定に供する測定サンプルとしては、例えば、アクリル系重合体のエマルションを130℃で2時間乾燥させたものを用いるとよい。
アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、凡そ25×104〜130×104の範囲にあることが好ましく、凡そ30×104〜100×104(例えば40×104〜95×104)であることがより好ましい。アクリル系重合体のMwが上記範囲内であることにより、粘着剤の凝集性が良好となり、粘着シートを被着体から剥がす際に該被着体表面への糊残りが生じ難い。また、表面が粗面である被着体(発泡体等)に対して良好な密着性を発現することができる。さらに、不織布等の多孔質体を基材(支持体)とする粘着シート(典型的には両面粘着シート)において、該多孔質体に良好に含浸するため、長時間に亘り被着体に貼り付けられていた粘着シートを剥がす場合に糊残りが生じ難く、また粘着シートが千切れやすい等の不都合が生じ難い傾向がある。なお、本明細書において重量平均分子量とは、測定サンプル(例えば、アクリル系重合体の水性エマルションを乾燥させて得られた不揮発分)をテトラヒドロフラン(THF)で抽出して得られた可溶分(ゾル分ともいう。)につきゲル透過クロマトグラフィ(GPC)測定を行って得られたポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
アクリル系重合体は、上記粘着剤組成物に含まれる不揮発分のうち、50質量%以上(例えば85質量%以上、典型的には95質量%以上)を占めることが好ましい。また、上記粘着剤組成物に含まれる不揮発分に占めるアクリル系重合体の質量割合は、凡そ99質量%以下であり、通常は95質量%以下とすることが適当である。アクリル系重合体の質量割合を上記の範囲とすることにより、軽圧着耐反撥性を含む粘着特性のバランスが良好なものとなりやすい。
ここに開示される粘着剤組成物は、さらに粘着付与樹脂を含有する。かかる粘着付与樹脂の軟化点は125℃以上である。このような高軟化点の粘着付与樹脂を少量用いることによって、粘着力を損なわずに軽圧着耐反撥性を向上させることができる。上記軟化点は好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは160℃以上(典型的には160〜180℃)である。
上記粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、安定化ロジン(例えば、前記ロジンを不均化または水素添加処理した安定化ロジン)、重合ロジン(例えば、前記ロジンの多量体、典型的には二量体)、変性ロジン(例えば、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された不飽和酸変性ロジン等)等が挙げられる。上記ロジン誘導体樹脂としては、前記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。上記石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、これらの水素化物等が例示される。上記テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂等が挙げられる。上記ケトン系樹脂としては、例えば、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトン等)とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン系樹脂が例示される。これらは1種を単独でまたは2種以上を併用することが可能である。なかでも、ロジン系樹脂やロジン誘導体樹脂、テルペン系樹脂が好ましい。アクリル系重合体(典型的には、2EHAを主モノマーとして用いて重合されたアクリル系重合体)との間で優れた相溶性を示すことから、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂が特に好ましい。
かかる粘着付与樹脂は、該樹脂が水に分散したエマルション(粘着付与樹脂エマルション)の形態で好ましく使用され得る。例えば、アクリル系重合体としてエマルション重合により得られたアクリル系重合体を採用する場合、該重合体と上記粘着付与樹脂のエマルションを混合することにより、これらの成分を所望の割合で含有する粘着剤組成物を容易に調製することができる。粘着付与樹脂のエマルションとしては、少なくとも芳香族炭化水素系溶剤を実質的に含有しない(より好ましくは、芳香族炭化水素系溶剤その他の有機溶剤を実質的に含有しない)ものを用いることが好ましい。このことによって、よりTVOCの少ない粘着シートが提供され得る。
上記粘着付与樹脂の含有量は、不揮発分(固形分)基準で、アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満である。これによって、軽圧着耐反撥性を向上させることができる。また、比較的少量の粘着付与樹脂を水分散型粘着剤組成物に含ませることで、エマルションの機械的安定性にも優れるという利点を有する。通常、エマルション中の重合体粒子は、せん断等の機械的応力により凝集する傾向があり、かかる凝集が起こると、凝集粒子によるコート不良等の不具合を引き起こす虞がある。上記のように粘着付与樹脂の含有量を少量とすることで、かかる凝集が抑制された状態で安定する。これが機械的安定性の典型例である。また、粘着付与樹脂中に含まれる低分子成分は、経時的に窓ガラス等に付着してガラス曇りの原因となり得る。ここに開示される粘着シートは上述のように粘着付与樹脂の使用量が少ないので、かかる不都合が抑制されている。したがって、ガラス近傍で用いられる態様、典型的には窓ガラスを有する室内で使用される態様や、窓ガラスを有する自動車の車内で使用される態様に好適である。粘着付与樹脂の含有量は、アクリル系重合体100質量部に対して18質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。また、粘着付与樹脂の含有量は、アクリル系重合体100質量部に対して凡そ0質量部より高ければよいが、好ましくは1質量部以上(より好ましくは2質量部以上、典型的には3質量部以上)とすることでより良好な粘着力を実現することができる。
なお、ここに開示される粘着剤組成物は、上記高軟化点の粘着付与樹脂に加えて、相対的に軟化点の低い粘着付与樹脂(以下、「低軟化点粘着付与樹脂」ともいう。)を含んでもよい。低軟化点粘着付与樹脂の軟化点は125℃未満とし、120℃以下(典型的には80℃〜120℃)であり得る。かかる粘着付与樹脂の含有量は、アクリル系重合体100質量部に対して10質量部未満(例えば5質量部未満、典型的には3質量部未満)とすることが適当である。粘着剤組成物は、上記低軟化点粘着付与樹脂を実質的に含まない態様でも好適に実施され得る。
また、本明細書において、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K 5902およびJIS K 2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。次に、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。次に、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃±5℃に15分間保つ。次に、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。次に、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0±0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。なお、軟化点100℃以下の粘着付与樹脂については、上記軟化点試験方法において、グリセリンの代わりに水を用いてもよい。
上記粘着剤組成物には、本発明の効果を顕著に損なわない限り、粘着剤組成物の分野において一般的な架橋剤、例えばヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、活性メチロール系架橋剤、活性アルコキシメチル系架橋剤、シランカップリング剤等から選択される架橋剤が配合されていてもよい。これらの架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用し得る。あるいは、かかる架橋剤が配合されない組成の粘着剤組成物であってもよい。
ここに開示される粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤(典型的には増粘剤)、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。このような添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
本発明により提供される粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層を基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層が剥離ライナー(剥離面を備える基材としても把握され得る。)に保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本発明により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート1は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート2は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シート2を巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レスの両面粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート3は、基材レスの粘着剤層21の両面21A,21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート4は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート5は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。図6に示す粘着シート6は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート6を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(粘着面)21Bが基材の他面10Bで保護されるようになっている。
粘着シートを構成する基材としては、例えば、各種の樹脂フィルム類(ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム等)、紙類(和紙、上質紙等)、各種の繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等の布類、ゴムシート類(天然ゴムシート等)、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類(発泡ポリウレタンシート等)、金属箔類(アルミニウム箔等)、これらの複合体等を用いることができる。このような基材の片面または両面に、下塗剤の塗付、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の厚みは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね10μm〜500μm(典型的には10μm〜200μm)程度である。軽圧着耐反撥性の観点からは、厚さ10μm〜50μmの基材の使用が有利である。
上記粘着剤層は、例えば、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を基材または剥離ライナーに付与(典型的には塗付)し、該組成物を乾燥させることにより形成され得る。かかる粘着剤層を備える粘着シートは種々の方法で作製され得る。例えば、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して乾燥させることで該基材上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層に剥離ライナーを積層する方法;剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に貼り合わせ、該粘着剤層を基材に転写するとともに上記剥離ライナーをそのまま粘着剤層の保護に利用する方法;等を採用することができる。粘着剤組成物の塗付は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。粘着剤組成物中の水分や残留モノマー等の揮発分の除去効率向上や、架橋反応促進等の観点から、該組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。特に限定するものではないが、例えば凡そ40℃〜140℃(好ましくは60℃〜120℃)程度の乾燥温度を採用することができる。乾燥時間は例えば凡そ1分〜5分程度とすることができる。乾燥後の粘着剤層を適当な条件で(例えば、40℃以上(典型的には40℃〜70℃)の環境下で)熟成(養生)することにより、さらに架橋反応を進行させることができる。
粘着剤層の厚さは、例えば5μm〜200μm(好ましくは10μm〜100μm)程度であり得る。ここでいう粘着剤層の厚さは、基材の両面に粘着剤層が設けられた両面粘着シートの場合、その片面当たりの粘着剤層の厚さをいう。軟質ポリウレタン等の弾性発泡体に貼り付けて使用され得る粘着シートでは、該発泡体に対する良好な粘着力を得るために、該発泡体に貼り付けられる粘着剤層の厚みを30μm以上(好ましくは40μm以上)とすることが有利である。一方、他の粘着物性とのバランスや粘着シートの生産性等の観点からは、粘着剤層の厚みを100μm以下とすることが好ましい。
剥離ライナーとしては、粘着シートの分野において周知ないし慣用のものを適宜選択して用いることができる。例えば、各種の樹脂フィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体(例えば、紙の両面にオレフィン樹脂がラミネートされた積層構造のシート)等からなる基材の表面に、必要に応じて剥離処理が施された構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。
ここに開示される粘着シートは、特性(A):厚さ10mmの軟質ウレタンフォームで裏打ちされた幅10mm、長さ50mmの粘着シートの試料片の、該試料片の長手方向の一端から10mmまでの部分を、厚さ2mmのABS板の一方の面における外縁部に1kgのローラを一往復させて圧着し、該試料片の残りの部分を上記ABS板の端から他方の面に折り返して圧着し、これを23℃、50%RHの環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持し、上記試料片の長手方向の一端につき、上記ABS板表面からの浮き距離を測定することで行われる軽圧着耐反撥性試験において、上記浮き距離が2mm以下である;を満たすことが好ましい。このように軽圧着耐反撥性に優れる粘着シートは、弾性発泡体に貼り合わせる用途における貼付作業性に優れる。上記軟質ウレタンフォームとしては、株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色)(以下、単に「F−2フォーム」ということもある。)を使用する。上記浮き距離は、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下(典型的には0.5mm以下)である。
ここに開示される粘着シート(典型的には両面粘着シート)は、特性(B):前記粘着シートを65℃で2時間保持したときに該粘着シートから放散されるトルエンの総量が該粘着シート100cm2当たり2μg以下である;を満たすことが好ましい。かかる特性(特性B)を満足する粘着シートは、例えば、室内で使用される家電やOA機器、あるいは密室を構成する自動車等のようにVOC低減に対する要請のある用途に好ましく使用され得る。なかでも、VOC対策が強く要請されている自動車の車内(典型的には自動車内装部材)に用いられる態様において特に好適である。なお、上記粘着シートのトルエン放散量は、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
ここに開示される粘着シートは、特性(C):軟質ウレタンフォームに対する180°引き剥がし粘着力(以下、「フォーム軽圧着粘着力」ともいう。)が1.5N/20mm以上である;を満たすことが好ましい。かかる特性(特性(C))を満たす粘着シートは、フォームに対する軽圧着粘着力に優れるので、軽圧着耐反撥性にも優れる傾向がある。上記軽圧着粘着力は、1.8N/20mm以上(例えば2.0N/20mm以上、典型的には2.2N/20mm以上)であることが好ましい。上記軽圧着粘着力の上限は特に限定されない。ただし、次の点に留意する必要がある。すなわち、粘着力を高めようとすると、粘着付与樹脂を増量する等の手段が講じられることとなるが、かかる粘着力向上手段は、粘着シートの他の特性を低下させる虞がある。特に、上記軽圧着粘着力の向上は、上記軽圧着粘着力と比例関係を有すると思われていた軽圧着耐反撥性の低下を招くことが本発明者らの検討で明らかになった。したがって、上記軽圧着粘着力は、4N/20mm以下(例えば3.0N/20mm以下、典型的には2.5N/20mm以下)程度に設定してもよい。上記軟質ウレタンフォームとしては、上述のF−2フォームを使用する。上記軽圧着粘着力は、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
ここに開示される粘着シートは、特性(D):ポリプロピレン(PP)に対する180°引き剥がし粘着力(以下、「PP粘着力」ともいう。)が8N/20mm以上である;を満たすことが好ましい。特性(A)(好ましくは特性(A)に加えて特性(C))および特性(D)を満たす粘着シートは、ウレタンフォーム等の弾性発泡体をPP等のポリオレフィン製部材に貼り合わせる両面粘着シートとして好適である。また該弾性発泡体を基材とする片面粘着シートとしても好適である。上記の両面粘着シートは、一方の粘着表面を上記弾性発泡体に貼り付け、他方の粘着表面をポリオレフィン(典型的にはPP製部材等のポリオレフィン製部材)に貼り付ける態様で用いられ得る。かかる使用態様において、PP粘着力が所定値以上であることにより、弾性発泡体からの剥がれよりも先にポリオレフィンからの剥がれが生じる不都合が生じない。PP粘着力は9N/20mm以上(例えば10N/20mm以上)であることが好ましい。上記PP粘着力は、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
<例1>
(アクリル系重合体エマルションの調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器にイオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃にて1時間以上攪拌した。次いで、この反応容器に2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を投入し、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)85部、メチルアクリレート(MA)13部、アクリル酸(AA)1.25部、メタクリル酸(MAA)0.75部、t−ラウリルメルカプタン(t−LSH、連鎖移動剤)0.048部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社の商品名「KBM−503」)0.02部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に添加して乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで35%過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を常温まで冷却した後、10%アンモニウム水の添加によりpH7に調整した。このようにして、アクリル系重合体Aのエマルションを得た。アクリル系重合体Aのモノマーと連鎖移動剤の組成を表1に示す。
(アクリル系重合体エマルションの調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器にイオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃にて1時間以上攪拌した。次いで、この反応容器に2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を投入し、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)85部、メチルアクリレート(MA)13部、アクリル酸(AA)1.25部、メタクリル酸(MAA)0.75部、t−ラウリルメルカプタン(t−LSH、連鎖移動剤)0.048部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社の商品名「KBM−503」)0.02部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に添加して乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで35%過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を常温まで冷却した後、10%アンモニウム水の添加によりpH7に調整した。このようにして、アクリル系重合体Aのエマルションを得た。アクリル系重合体Aのモノマーと連鎖移動剤の組成を表1に示す。
(粘着剤組成物の調製)
得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体A 100部に対して、粘着付与樹脂として軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション(荒川化学工業株式会社の商品名「E−865NT」)を固形分基準で5部配合して混合した。さらに、pH調整剤としての10%アンモニウム水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社の商品名「アロンB−500」)を用いて、pHを8.0、粘度を10Pa・sに調整した。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。このようにして例1に係る粘着剤組成物を得た。使用した粘着付与樹脂の商品名、軟化点、配合量を表2に示す。
得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体A 100部に対して、粘着付与樹脂として軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション(荒川化学工業株式会社の商品名「E−865NT」)を固形分基準で5部配合して混合した。さらに、pH調整剤としての10%アンモニウム水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社の商品名「アロンB−500」)を用いて、pHを8.0、粘度を10Pa・sに調整した。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。このようにして例1に係る粘着剤組成物を得た。使用した粘着付与樹脂の商品名、軟化点、配合量を表2に示す。
(粘着シートの作製)
得られた粘着剤組成物を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(王子特殊紙株式会社の商品名「75EPS(M)クリーム(改)」)に塗付し、100℃で2分乾燥して、厚み約60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を不織布基材(大福製紙株式会社の商品名「SP原紙−14」、厚さ42μm)の両面にそれぞれ貼り合わせて例1に係る粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
得られた粘着剤組成物を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(王子特殊紙株式会社の商品名「75EPS(M)クリーム(改)」)に塗付し、100℃で2分乾燥して、厚み約60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を不織布基材(大福製紙株式会社の商品名「SP原紙−14」、厚さ42μm)の両面にそれぞれ貼り合わせて例1に係る粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
<例2〜例5>
粘着付与樹脂の配合量を表2に示す量とした他は例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例2〜例5に係る粘着シートを作製した。なお、表2中、配合量0部は、粘着付与樹脂を配合しなかったことを意味する。
粘着付与樹脂の配合量を表2に示す量とした他は例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例2〜例5に係る粘着シートを作製した。なお、表2中、配合量0部は、粘着付与樹脂を配合しなかったことを意味する。
<例6〜例13>
粘着付与樹脂の種類と配合量を表2に示す内容とした他は例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例6〜例13に係る粘着シートを作製した。なお、表2中、「E−625NT」は、軟化点125℃の重合ロジンエステルの水性エマルションの商品名(荒川化学工業株式会社製)であり、「E−200NT」は、軟化点145℃のロジンフェノールの水性エマルションの商品名(荒川化学工業株式会社製)である。
粘着付与樹脂の種類と配合量を表2に示す内容とした他は例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例6〜例13に係る粘着シートを作製した。なお、表2中、「E−625NT」は、軟化点125℃の重合ロジンエステルの水性エマルションの商品名(荒川化学工業株式会社製)であり、「E−200NT」は、軟化点145℃のロジンフェノールの水性エマルションの商品名(荒川化学工業株式会社製)である。
<例14〜例18>
配合成分(モノマーおよび連鎖移動剤)の組成を表1に示す内容に変更した他は例1と同様にしてアクリル系重合体Bのエマルションを調製した。得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体B 100部に対して、表2に示す量の「E−200NT」(粘着付与樹脂)を配合して混合した。このようにアクリル系重合体および粘着付与樹脂の種類、配合割合を変更した他は例1と同様にして例14〜例18に係る粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例14〜例18に係る粘着シートを作製した。
配合成分(モノマーおよび連鎖移動剤)の組成を表1に示す内容に変更した他は例1と同様にしてアクリル系重合体Bのエマルションを調製した。得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体B 100部に対して、表2に示す量の「E−200NT」(粘着付与樹脂)を配合して混合した。このようにアクリル系重合体および粘着付与樹脂の種類、配合割合を変更した他は例1と同様にして例14〜例18に係る粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例14〜例18に係る粘着シートを作製した。
<例19〜例23>
配合成分(モノマーおよび連鎖移動剤)の組成を表1に示す内容に変更した他は例1と同様にしてアクリル系重合体Cのエマルションを調製した。得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体C 100部に対して、表2に示す量の「E−865NT」(粘着付与樹脂)を配合して混合した。このようにアクリル系重合体および粘着付与樹脂の種類、配合割合を変更した他は例1と同様にして例19〜例23に係る粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例19〜例23に係る粘着シートを作製した。
配合成分(モノマーおよび連鎖移動剤)の組成を表1に示す内容に変更した他は例1と同様にしてアクリル系重合体Cのエマルションを調製した。得られたエマルションに含まれるアクリル系重合体C 100部に対して、表2に示す量の「E−865NT」(粘着付与樹脂)を配合して混合した。このようにアクリル系重合体および粘着付与樹脂の種類、配合割合を変更した他は例1と同様にして例19〜例23に係る粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして例19〜例23に係る粘着シートを作製した。
例1〜例23で用いられたアクリル系重合体A〜Cのモノマーと連鎖移動剤の組成を表1に示す。表1には、アクリル系重合体A〜Cのゲル分率と分子量(ゾル分の重量平均分子量:Mw)もあわせて示す。
なお、表1中、BAはn−ブチルアクリレート、2EHAは2−エチルヘキシルアクリレート、MAはメチルアクリレート、AAはアクリル酸、MAAはメタクリル酸、KBM−503は3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、LSHはn−ラウリルメルカプタン、t−LSHはt−ラウリルメルカプタン、をそれぞれ示す。
[フォーム軽圧着粘着力の測定]
被着体として、厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色))を幅30mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを用意した。23℃の環境下において、各例で作製した粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを、該試料片の長手方向の一端から約2/3の位置まで剥がした。これにより露出した粘着面を下にして試料片をウレタンフォーム上に載置し、その試料片の長手方向に重さ2kg、直径85mmのローラを30cm/分の速度で一往復させて圧着した。このようにしてウレタンフォームに圧着した試料片を、23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。測定長さは少なくとも10mm以上とした。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、それらを用いた3回の測定結果の平均値を算出した。結果を表2に示す。
被着体として、厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色))を幅30mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを用意した。23℃の環境下において、各例で作製した粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを、該試料片の長手方向の一端から約2/3の位置まで剥がした。これにより露出した粘着面を下にして試料片をウレタンフォーム上に載置し、その試料片の長手方向に重さ2kg、直径85mmのローラを30cm/分の速度で一往復させて圧着した。このようにしてウレタンフォームに圧着した試料片を、23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。測定長さは少なくとも10mm以上とした。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、それらを用いた3回の測定結果の平均値を算出した。結果を表2に示す。
[PP粘着力の測定]
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面を、被着体としてのポリプロピレン(PP)板に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。各例に係る粘着シートから3つの試料片を作製し、これらの試料片を用いた3回の測定結果の平均値を算出した。結果を表2に示す。
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面を、被着体としてのポリプロピレン(PP)板に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。各例に係る粘着シートから3つの試料片を作製し、これらの試料片を用いた3回の測定結果の平均値を算出した。結果を表2に示す。
[軽圧着耐反撥性試験]
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面を厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色))上に載置し、上記試料片の長手方向に重さ1kgのローラを一往復させて圧着した。これを幅10mm、長さ50mmに裁断して試料片を作製した。図7に示すように、この試料片50の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面の長手方向の一端50Aから10mmまでの部分(すなわち、幅10mm、長さ10mmの接着面積)を、厚さ2mmのABS板52の一方の面52Aにおける外縁部に、重さ1kg、直径95mmのローラを約30cm/分の速度で1往復させて圧着した。次いで、図8に示すように、試料片50の残りの部分をABS板52の端から他方の面52Bに折り返して貼り合わせた。これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、さらに70℃の環境下に2時間放置した後、試料片50の一端50Aの浮き距離を測定した。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、これらの試料片の浮き距離の平均値を算出した。なお、図8において、符号502は粘着シートを、符号504は該粘着シートの一方の粘着面に圧着されたウレタンフォームを示している。結果を表2に示す。
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面を厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「F−2」(灰色))上に載置し、上記試料片の長手方向に重さ1kgのローラを一往復させて圧着した。これを幅10mm、長さ50mmに裁断して試料片を作製した。図7に示すように、この試料片50の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面の長手方向の一端50Aから10mmまでの部分(すなわち、幅10mm、長さ10mmの接着面積)を、厚さ2mmのABS板52の一方の面52Aにおける外縁部に、重さ1kg、直径95mmのローラを約30cm/分の速度で1往復させて圧着した。次いで、図8に示すように、試料片50の残りの部分をABS板52の端から他方の面52Bに折り返して貼り合わせた。これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、さらに70℃の環境下に2時間放置した後、試料片50の一端50Aの浮き距離を測定した。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、これらの試料片の浮き距離の平均値を算出した。なお、図8において、符号502は粘着シートを、符号504は該粘着シートの一方の粘着面に圧着されたウレタンフォームを示している。結果を表2に示す。
表2に示されるように、軟化点125℃以上の粘着付与樹脂の配合量を減らしていくことにより軽圧着耐反撥性が向上する傾向が見られた。特に、例3と例4の対比、例12と例13の対比、例16と例17の対比、例21と例22の対比から明らかなように、粘着付与樹脂の配合量をアクリル系重合体100部に対して20部未満とすることにより軽圧着耐反撥性が顕著に向上したことがわかる。また、例1と例6の対比、例14と例19の対比から、粘着付与樹脂の軟化点が高くなるほど軽圧着耐反撥性が向上する傾向があることがわかる。一方、粘着付与樹脂を含まない粘着剤層を用いた例5,例18,例23に係る粘着シートは、軽圧着耐反撥性が低下し、また粘着力(特にPP粘着力)が低下する傾向が見られた。
[トルエン放散量の測定]
例1〜例23で得られた各粘着シートにつき、面積100cm2の粘着剤層を含む試料を10Lの気密バッグに密封した。そのバッグを65℃で2時間保持し、ヘッドスペースオートサンプラーを用いて、ガス1.0mLをガスクロマトグラフ測定装置(GC測定装置)に注入してトルエンの量を測定した。その測定結果から、上記試料に含まれるトルエン発生量(放散量)[μg/100cm2]を算出した。その結果、例1〜例23に係る粘着シートはいずれもトルエン放散量が2μg/100cm2以下であった。
例1〜例23で得られた各粘着シートにつき、面積100cm2の粘着剤層を含む試料を10Lの気密バッグに密封した。そのバッグを65℃で2時間保持し、ヘッドスペースオートサンプラーを用いて、ガス1.0mLをガスクロマトグラフ測定装置(GC測定装置)に注入してトルエンの量を測定した。その測定結果から、上記試料に含まれるトルエン発生量(放散量)[μg/100cm2]を算出した。その結果、例1〜例23に係る粘着シートはいずれもトルエン放散量が2μg/100cm2以下であった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1,2,3,4,5,6:粘着シート
10:基材
10A:基材の表面(非剥離性)
21,22:粘着剤層
21A,21B:粘着面
31,32:剥離ライナー
10:基材
10A:基材の表面(非剥離性)
21,22:粘着剤層
21A,21B:粘着面
31,32:剥離ライナー
Claims (2)
- ベースポリマーとしてのアクリル系重合体と、軟化点125℃以上の粘着付与樹脂と、を含み、
前記粘着付与樹脂の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満である、粘着剤組成物。 - 粘着剤層を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系重合体と、軟化点125℃以上の粘着付与樹脂と、を含み、
前記粘着付与樹脂の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して20質量部未満である、粘着シート。
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