以下、本実施形態における沈殿槽について、図面を参照しながら説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、第1の実施形態における沈殿槽の概略構成を示す断面図であり、図2は、図1に示す沈殿槽の平断面図である。また、図3は、図1に示す沈殿槽における傾斜部材の配置位置を説明する図であり、図4は、傾斜部材上のフロックと該フロックと衝突する上昇流の動きを説明する図である。
図1に示すように、第1の実施形態の沈殿槽10は、槽体11と、槽体11の内部に配設され、該槽体11内に被処理水を供給する流入管12と、流入管12を中心とする槽体11内の周方向に、槽体11の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有し、流入管12の流入口12aよりも高い位置に配置された傾斜部材13と、を備えてなる。
なお、槽体11の上端部には図中矢印で示すように、流入管12を介して槽体11内に被処理水を外部から供給する配管と、さらに、以下に説明するフロックの分離(沈殿)除去操作を実施して得られる処理水を外部に排出するための溢流堰14、流出管15が配設されている。
槽体11は円柱状又は多角柱状の形状をした槽である。この槽体11は、その壁面と底面とで構成される容器であり、内部に被処理水を貯留すると共に、フロックを沈殿させることが可能となっている。この槽体11は、内部に貯留する被処理水の流れを所定の方向に均一化できるよう、槽体11の中心軸を鉛直方向と一致するように配置する。このとき、槽体11を平面視したときの槽体の壁面の外形形状(図中上方あるいは下方から見た場合の形状)は円形状又は多角形状である。多角形状としては、正方形あるいは長方形などの矩形状であってもよいし、五角形以上の多角形状であってもよい。
なお、後述するように、槽体11内において被処理水をできるだけ均等に流れるようにすることがフロックを効率的に沈殿させることができる点で好ましい。そのため、槽体11の形状は、円形状であれば真円、多角形状であれば正多角形、の外形形状とすることがより好ましい。
また、槽体11の底部は、沈殿物を沈殿させ、効率的に回収できるように、底部中央が凹んだ形状であることが好ましい。このように凹んだ形状としては、円錐状又は多角錐状を上下逆さにした形状がより好ましい。すなわち、底部中央が錐体の頂点であり最下部となるような形状である。そして、この槽体11の底部の最下部には、槽体11の外部に沈殿物(汚泥)を排出できるよう排出口が設けられ、排出口には汚泥引抜管16が配設されている。
また、槽体11の大きさは処理すべき被処理水の量に応じて任意に調整することができる。この槽体11の大きさとしては、例えば、容量が6〜880m3、内径が2〜15m、高さが2〜5m、のものが例示できる。
流入管12は、槽体11の内部に被処理水の流入口12aが設けられるように配設される。そして、この流入管12から供給される被処理水は、流入口12aから槽体11の軸方向下方に向かって槽体11内に供給される。すなわち、流入口12aは槽体11の平面視形状においては、その槽体11の外形形状の中心部に位置し、槽体11の底部に向かって設けられている。
さらに、この流入口12aは、槽体11の直胴部の高さにおいて、その中央部分より低い位置に設けられることが好ましい。この位置に設けることで、後述する被処理水の槽体内における上昇流の形成を十分に行うことができる。なお、本明細書において、「直胴部」とは槽体11の筒状に形成された壁面部分を指し、底部は含まない。
また、流入管12の大きさは、被処理水の供給量にも係ってくるものであり、槽体11の大きさ等により適宜選択すればよい。この流入管12の径としては、例えば、槽体11の内径に対して0.1〜0.4倍の内径を有する配管が好ましい。
また、流入管12の中心部には、掻寄シャフト17が配設されている。掻寄シャフト17は、駆動モータ20により、槽体11の中心で回転する構成となっている。この掻寄シャフト17は、その下部に位置する支持部材18に連結されており、支持部材18には下方(槽体の底部)に向けて複数の掻寄板19が垂設されている。
掻寄シャフト17、支持部材18、掻寄板19及び駆動モータ20は掻寄機構を構成し、この掻寄機構は、以下に説明するように、被処理水の処理後の沈殿物を槽体の底部中央に位置する排出口付近に掻寄せることができる。掻寄せられた沈殿物は、当該排出口から槽体11の外部に沈殿物を排出できるように構成されている。
傾斜部材13は、槽体11内において、槽体11の側面に沿って下方から上方に流れる上昇流と槽体11の上方で形成されたフロックとの接触機会を増加させて、フロックの沈殿を促進させるものである。すなわち、傾斜部材13は、上昇流中のSSを既成のフロックと衝突させることでフロック中に取り込み、フロックの成長を促進させることで除去効率を向上させようとするものである。
このような作用を生じさせるために、傾斜部材は、槽体11内の中央上方から外周下方に向かって傾斜面を有する部材とする。このような傾斜部材として、例えば、図1及び図2に示したように1つの部材で構成される傾斜部材13が挙げられる。この傾斜部材13は、流入管12を中心にして配置され、鉛直方向下方から上方に向かって幅が狭くなるテーパー形状で形成されている。そのため、流入管12の周囲全方向において、槽体11の中央上方から外周下方に向かって切れ目なく傾斜面を有するものとなる。
そして、この傾斜部材13の傾斜面は、槽体11上方で形成されたフロックが沈降したときに、フロックを下方へ転がしながら、上昇流との接触機会を増加させる位置に落とす役割を有する。なお、この傾斜部材13の傾斜面としては、その傾斜面の水平面に対する角度θIが40度〜70度の範囲が好ましく、45度〜60度がより好ましい。この角度を40度以上とすることで、上昇流の流れ方向への影響を小さくでき、さらに、フロックを下方へ転がすことが十分にできる。また、この角度を70度以下とすることで、フロックの傾斜部材13への堆積可能な面積を確保し、さらに、フロックが転がり落ちる際に、他のフロックとの衝突の機会を高めることができる。
次に、傾斜部材13の配置位置について説明する。図3は、図2の沈殿槽の平断面図において、傾斜部材13の配置を説明するための図であり、一部を簡略化し、一部領域をハッチングパターンで示している。図3に示したように、傾斜部材13とその外側にある槽体11の内壁面との距離をaとする。このとき、距離aは、槽体11の内径の半径rに対して5〜30%となるように設けることが好ましく、半径rに対して10%〜25%の範囲がより好ましい。
さらに、この傾斜部材13の配置位置は、図3のように平面視したときに、傾斜部材13の外側(槽体11側)と内側(流入管12側)との関係が所定の関係を満たすようにすることが好ましい。この所定の関係は、図3に示した、傾斜部材13と槽体11の内壁面との間に形成される領域の面積S1と、傾斜部材13と流入管12との間に形成される領域の面積S2と、の関係が次の式(1)を満たすようにすることが好ましく、式(2)を満たすようにすることがより好ましく、式(3)を満たすようにすることがさらに好ましい。
0.04×S1 ≦ S2 ≦ 2.0×S1 …(1)
0.1×S1 ≦ S2 ≦ 0.8×S1 …(2)
0.2×S1 ≦ S2 ≦ 0.4×S1 …(3)
このような位置に配置することで、槽体11内での沈殿分離を妨げるような流れの発生を抑えることができる。
また、傾斜部材13を配置する高さとしては、傾斜部材13の上端面が溢流部14の上端部(沈殿操作においては槽体11に収容される被処理水の水面の高さ)から20〜50cm下方とすることが好ましい。また、傾斜部材13の下端面が流入管13の入流口12aと同一又はそれよりも上方に設けることが好ましい。
このような高さに配置することで、流入管12から下方に向かって供給された被処理水が槽体11内で上昇流に変換される流れを妨げることなく、槽体11の沈殿分離処理を行うことができる。また、このような配置は、傾斜部材13の傾斜面を転がり落ちてくるフロックと被処理水の上昇流とが、衝突してフロックの成長を促進するのに効果的である。
溢流堰14は、槽体11内でフロックの沈降処理が行われ、被処理水を清浄化処理して得られた処理水を得るためのものであり、槽体11の上部に設けられる。この溢流堰14は、その上端部から溢れた処理水を収容できるように槽体11内に溝状に、一般に槽体11の壁面に沿って、設けられる。そして、溢流堰14に収容された処理水を流出管15により槽体11の外部に流出させる。このように得られた処理水はさらに他の処理を行う等してユースポイントへ送出される。
汚泥引抜管16は、槽体11の底部に沈殿し滞留した汚泥を槽体11の外部に排出する排出管である。この汚泥は、槽体11内においてフロックが塊状物となって沈降し、滞留した混合物である。この汚泥は、槽体11の底部に配設された掻寄機構の掻寄シャフト17を駆動モータ20により、支持部材18に垂設された掻寄板19を回転させることによって底部中央(最下部)に掻き寄せられる。
さらに、沈殿槽10には被処理水中のフロックの沈殿効率を高めるための棚板21を設けてもよい。この棚板21は、流入管12から供給された被処理水が槽体11の壁面に沿って上昇流となって流れる高さに、水平面に対して主面を平行または傾斜した状態で設けられる。また、この棚板21は、槽体11の内壁面の周方向に円環状となるように設けられる。本明細書においては、円環状は、円環形状の平板状部材(棚板21)1枚により形成してもよいし、扇形状の平板状部材(棚板21)の複数枚を水平面に整列して設けて形成してもよい。扇状の平板状部材(棚板21)を複数枚用いる場合、内壁面の周方向において、棚板21同士の間に隙間ができるように配列してもよい。
なお、複数の棚板21を、棚板同士の間に隙間ができるように配列した場合、これらの隙間の鉛直方向の上下のいずれかに、所定の間隔を有して別の棚板を設け、棚板を多段に設けた構成とすることが好ましい。すなわち、同一高さの棚板同士の隙間に対して、その鉛直方向に他の棚板が設けられるようにする。さらに、この棚板は、異なる高さに形成された棚板同士が平面視したときに重なるように形成されていることが好ましい(すなわち、平面視したとき、同一平面に形成された棚板同士の隙間よりも、異なる高さに設けられた棚板が周方向に長い形状で形成され、該隙間の鉛直方向に必ず異なる高さの棚板が設けられている)。このような構成とすることで、槽体11内で上昇流となった被処理水は棚板21により流れ方向を変えることができ、それにより上昇流となった被処理水中のフロックの沈降を促進できる。
この棚板21は、槽体11の内壁面と接触させて固定されることが好ましい。また、棚板21は、その主面を水平面と平行に設置してもよいが、槽体11の壁面側(外周側)より中心側(内周側)の方が下方に存在するように水平面と所定の傾斜角度θsをなすように傾斜して設置してもよい。傾斜して設置する場合、この傾斜角度θsは、例えば30°〜70°の範囲に設定することが好ましい。
沈殿槽10を構成する上記した槽体11、流入管12、傾斜部材13、棚板21等は任意の材料から構成することができるが、腐食性の被処理水を取り扱う場合は、ステンレス、プラスチック、一般構造用圧延鋼材(SS400)等の金属板にエポキシ樹脂系等の樹脂素材を塗装した樹脂被覆材料などから構成することができ、特に強度が要求されるような場合はステンレスから構成する。
また、本実施形態における“フロック”とは、浮遊物質を含む被処理水中に、例えば凝集剤などを添加するときに生じる、綿くず状の塊状物を意味するものである。
次に、図1及び図2に示す沈殿槽10を用いた被処理水の沈殿処理方法について説明する。最初に、沈降性のあるフロックを含む被処理水を流入管12に流入させると、被処理水は、流入管12の内部を流通していき、流入口12aから槽体11内に供給され、槽体11内を満たすこととなる。
続けて供給される被処理水は、流入管12の流入口12aから下方に向かって、槽体11内に供給される。供給された被処理水は、底面付近で方向を変え、槽体11の壁面に向けて分散される(沈殿槽10を平面視したとき、中央から外周に向かって放射状に広がる)。
槽体11内に供給された被処理水は、その流れ方向が槽体11の壁面に向かう流れとなり、槽体11の壁面に到達した被処理水は、その一部が槽体11の内壁面に沿って上昇し、他の一部は下降する。上昇流中に含まれるフロックは、近くのフロックと塊状になる等しながら沈降し、また下降流中に含まれるフロックは、そのまま沈降する。このようにして沈降したフロックは、槽体11の下部において汚泥として滞留するようになる。
なお、上昇流を形成する被処理水は、上記のように槽体11の壁面に沿って上昇するが、その一部が途中で棚板21と衝突し、フロックの沈降が促進される。
上昇流となって水面付近にまで到達した被処理水中には、沈降できなかった微小なフロックがわずかに存在し、これらの微小なフロックはその一部が槽体11の上部において凝集し、成長して、沈降を始める。槽体11の上部で沈降を開始するフロックは、沈降していくと、傾斜部材13の傾斜面の上に到達する。そして、この後、本実施形態における傾斜部材13は次のような作用を奏する。なお、この作用を説明するために、図4に傾斜部材13の斜視図と、その周囲におけるフロックと被処理水の上昇流の動きを示した。
傾斜部材13の傾斜面の上に到達したフロックは、その傾斜面に沿って転がり落ちていく(図4の黒矢印)。転がり落ちるフロックは、その傾斜面の端部まで転がり、再び重力によって鉛直方向下方に(槽体11の底面に向かって)沈降し始める。なお、傾斜面を転がる間に、傾斜面を転がるフロック同士がぶつかり成長することもあり、その点でもフロックの成長促進を図ることができる。
そして、この傾斜面の端部は、槽体11の外周(壁面付近)に設けられているため、該端部から槽体11の底面に向かって沈降する際、転がり落ちたフロックは、槽体11の内壁面付近を上昇する被処理水(図4の白矢印)と衝突する。この衝突により、転がり落ちたフロックは、被処理水中に含まれる微小なフロックを取り込んでフロックの成長が促進される。このように傾斜部材13によりフロックを所定の位置まで移動させることで、フロックを被処理水の上昇流と効率的に接触させることができ、フロックを成長させる機会を増やすことができる。
また、傾斜部材13の端部を、槽体11の外周側へ設ける理由は、流入管12から槽体11内へ供給される被処理水は、槽体11内を上昇流となって移動するが、その中でも槽体11の外周側においては、上昇流の流速が中央部等に比べてわずかに速くなる傾向がある。そのため、外周側の上昇流は他の場所よりもフロックを含有する割合が大きく、フロックの成長促進に好適であると考えられるためである。
そして、上記のように様々な段階で、被処理水中において沈降したフロックは、従来と同様に槽体11の底部に滞留(沈殿)する。
したがって、本実施形態によれば、槽体11内での被処理水中におけるフロックの成長を促進させて沈殿処理を行うことができる。そのため、フロックの沈降による処理水の清浄化を効率的に行うことができ、水質を向上させた処理水を得ることができる。
一方、槽体11の底部に滞留した汚泥及びフロックの塊状物は、それぞれ汚泥の混合物として、槽体11の底部に配設された掻寄機構により、槽体11の底部中央に設けられた排出口付近に集められ、該排出口に接続された汚泥引抜管16により外部に排出される。
以上のような操作を経ることにより、沈殿槽10内に供給されたフロックを含む被処理水から当該フロックが分離除去された処理水は、槽体11の上部に配設された溢流堰14を越えて集められ、流出管15により外部に流出される。このように清浄化された処理水は、さらに所定の処理等を施されユースポイントに供給される。
以上説明したように、本実施形態では、傾斜部材13を配設するという簡易な構造とするだけで、槽体11内に供給された被処理水中のフロックの分離(沈殿)効率を効果的に高めることができ、槽内構造の簡略化と沈殿効率向上を両立した沈殿槽を提供することができる。
なお、上記した傾斜部材13は、槽体11内に1つ設けた例を示したが、これを複数の傾斜部材13を多段構造のものとしてもよい。図5には、傾斜部材13を鉛直方向に並べて2段構造とした例を図示した。また、図6には、傾斜部材13を水平方向に並べて4段構造とした例を示した。
なお、このように多段構造とする際、各段の傾斜部材13は、上記した条件を満たす限り、それぞれ異なる傾斜角度となっていてもよい。また、配置位置については、多段を構成する傾斜部材13の一番高い位置、低い位置、内側の位置、外側の位置、にそれぞれ配置された傾斜部材13が、上記条件を満たすようにすればよい。すなわち、多段構成とした場合には、異なる位置に設けられた複数の傾斜部材13を一体的に見て条件を満たすか否かを判断すればよい。ここで、傾斜部材13の間の間隔は、5cm〜50cmが好ましく、このようにすることで、沈降するフロックを、傾斜部材13に比較的早く接触させ、底部への沈降を促進できる。なお、傾斜部材13は、平面視したときに他の傾斜部材13の一部と重なるように配置し、傾斜部材間において沈殿槽の底部が見えないようにすることが好ましい。また、傾斜部材13の角度は、それぞれ同一の角度とすることが傾斜部材間の被処理水の流れを乱すことなく、フロックが沈降したり、転がり落ちたり、する際の挙動も安定するため好ましい。
また、傾斜部材13において、その槽体11の中央側の端部を槽体11中央下方又は鉛直下方に傾斜するように返し構造を形成してもよい。図7には、例えば、傾斜部材13の変形例である傾斜部材23を示した。この傾斜部材23には、槽体11の中央側の端部に返し構造23aが設けられている。傾斜部材をこのような形状とすると、傾斜部材の傾斜面下面において、被処理水の流れが槽体11の外周下方から中央上方に向かって流れ、傾斜部材の返し構造において、中央下方に流れ方向が変えられる。このようにすることで槽体11内における上昇流と返し構造による流れとの衝突が起こり、フロックの成長を促進させることもできると考えられる。
さらに、このとき槽体11の内壁面に棚板21を設けておくことが好ましい。この棚板21を設けておくと、供給後、槽体11の内壁面に沿って上昇する被処理水がこの棚板21に衝突し、棚板21の下面に沿って流れる方向が斜め上方に変わる。これに対して、被処理水中に含まれるフロックは、被処理水が棚板21に衝突すると、流れが乱れてフロック同士が塊状物を形成し、フロックの沈降が促進される。
また、棚板21との衝突によっても沈降せず、流れ方向が斜め上方、そして上昇流となった被処理水中に含まれるフロックは、棚板21の上方で、近くのフロックと塊状になる等しながら沈降する。このフロックの沈降の際、フロックは上昇流の流れの影響で棚板21よりも上方で沈降を開始し、棚板21の上面に沈降することとなる。そして、棚板21の上面にフロックがさらに堆積していき、ある程度堆積するとフロックの塊状物は槽体11内の底部へと崩落する。
棚板21を水平面に設置した場合には、フロックの堆積等の仕方などにより崩落の度合いが異なり、槽体11の底部へ沈降するフロックの大きさの変動の幅が大きい。このとき、堆積量が多く巨大化したフロックの塊状物が崩落すると、槽体11の底部に滞留した汚泥を巻き上げてしまうおそれがある。一方、棚板21を水平面に対して傾斜させた場合には、水平面に設けた場合に比べてフロックの塊状物の崩落を早め、棚板21に沈降したフロックの堆積量を少なく、その塊状物の巨大化を抑制することができる。そして、このように棚板21から滑り落ちるフロックの塊状物の巨大化を抑制することで、槽体11の底部に滞留した汚泥の巻き上げに与える影響も抑制することができる。また、棚板21の傾斜角度θsを大きくすると、フロックの塊状物が棚板21の上面を転がり落ちるようにすることができ、安定して、槽体11内の底部へとフロックを沈殿させることができる。
また、棚板21は、複数枚を同一水平面に整列して、内壁面の周方向に棚板同士の隙間ができるように配列した場合、上記したように、これらの隙間の鉛直方向の上下のいずれかに、所定の間隔を有して別の棚板を設け、棚板を多段に設けることが好ましい。この場合、効率的にフロックを分離するには、異なる水平面に形成された棚板同士が平面視したときに重なるように(同一平面に形成された棚板同士の隙間よりも、他の段に設けられた棚板が周方向に長い形状で形成され、該隙間の鉛直方向に必ず他の棚板が設けられるように)配置することが好ましい。
このとき、異なる水平面に形成された棚板同士の重なりをできるだけ大きくすることがより好ましい。ただし、重なっている部分が大きすぎると、上昇流の流れ方向が急激に変わることとなり乱流が発生したり、また、異なる水平面に設けられた棚板同士の鉛直方向の距離を狭くしすぎると、フロックが上昇流に巻き上げられたり、しやすくなる。なお、これらの棚板を傾斜させても同様の状態となる。したがって、棚板21の複数枚を同一水平面に整列して、内壁面の周方向に棚板同士の隙間ができるように配列して、これらの隙間の鉛直方向の上下のいずれかに所定の間隔を有して別の棚板を設け、棚板を多段に設けた場合、十分にフロックが沈降できるように適宜条件を設定することが求められる。
〔第2の実施形態〕
図8は、第2の実施形態における沈殿槽の概略構成を示す断面図である。
図8に示すように、第2の実施形態の沈殿槽30は、槽体11と、槽体11の内部に配設され、該槽体11内に被処理水を供給する流入管12と、流入管12を中心とする槽体11内の周方向に、槽体11の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有し、流入管12の流入口12aよりも高い位置に配置された傾斜部材13と、流入管12の下方に配設され、槽体11内に供給される被処理水との衝突により被処理水を水平方向に分散させる被処理水分配機構31と、を備えてなる。
ここで、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下の説明では省略する。したがって、この図8に示した第2の実施形態における沈殿槽30は、図1に示した第1の実施形態の沈殿槽10において、流入口12aの下方に被処理水分配機構31を設けている点が異なるもので、それ以外は同一の構成を有している沈殿槽である。
被処理水分配機構31は、流入管12から供給される被処理水を水平方向に分散させるものである。図8に示すように、被処理水分配機構31は、1枚の分散プレートから構成されている。その平面形状は特に限定されるものではないが、槽体11の平面視したときの外形形状と相似形状であることが好ましい。すなわち、円形、楕円形又は多角形状であることが好ましい。
この被処理水分配機構31の平面形状の直径又は一辺の長さは、流入管12の直径以上とするものであり、流入管12の内径の1〜3倍が好ましい。
また、この被処理水分配機構31は、複数枚の分散プレートで構成してもよい。外形形状が円形の複数枚の分散プレートを用いる場合、その外径が互いに同じ大きさの円形状の分散プレートと中心に開口部が設けられた円環状の分散プレートを用意し、この円形状及び円環状の分散プレートを互いに間隔をあけて、鉛直方向に整列して固定する例が挙げられる。このとき、上方の分散プレートから下方の分散プレートに向かって、開口部が小さくなるようにして、最下段に開口部のない円形状の分散プレートを設ける。また、これら開口部及び中心は流入管12の軸、すなわち掻寄シャフト15を中心として同心円状に形成されている。
なお、複数の分散プレートの外径は、流入管12の直径以上とするもので、流入管12の内径の1〜3倍が好ましい。また、例えば、円環状の分散プレートを2枚、円形状の分散プレートを1枚の計3枚の分散プレートを用いる場合、一番上の分散プレートに設けられる開口部の直径は、例えば流入管12の直径の0.7〜0.8倍とすることができ、上から2番目の分散プレートに設けられる開口部の直径は、流入管12の直径の0.5〜0.6倍とすることができる。そして、一番下の分散プレートを開口部の形成されていない円形状のものとする。
このように、上方に位置する分散プレートから下方に位置する分散プレートに向かって、順番に開口部の直径が小さくなるようにすることで、供給される被処理水の流束が外周側から順番に各分散プレートに衝突することとなる。分散プレートと衝突した被処理水は、外周側の水平方向に均等に分散される。また、このとき、分散は、各分散プレートで段階的に行われるため、一度に衝突させて被処理水の流れを変更するのに比べ負荷が少なく、効率的に分散させることができる。
被処理水分配機構31を構成する分散プレートは保持部材により所定の位置関係になるように保持、固定される。例えば、流入管12との位置関係も作用や効果に関わり、それぞれの分散プレートは鉛直方向に流入管12の中心(軸)が一致するように配置、固定されることが好ましい。したがって、この被処理水分配機構31は、流入管12に固定されることが好ましい。また、上記した被処理水分配機構31は、複数枚の分散プレートで構成する場合には、分散プレートの枚数は3〜5枚程度が好ましい。
この第2の実施形態によれば、流入管12から供給される被処理水が、槽体11の底部方向に流れることなく、その流れが水平方向へと変更されるため、汚泥の巻き上げを確実に防止できる。
〔第3の実施形態〕
図9及び図10は、第3の実施形態における沈殿槽の概略構成を示す断面図である。
図9及び図10に示すように、第3の実施形態の沈殿槽40は、槽体11と、槽体11の内部に配設され、該槽体11内に被処理水を供給する流入管12と、流入管12を中心とする槽体11内の周方向に、槽体11の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有し、流入管12の流入口12aよりも高い位置に配置された傾斜部材41,42と、を備えてなる。
ここで、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下の説明では省略する。したがって、この図9に示した第3の実施形態における沈殿槽40は、図1に示した第1の実施形態の沈殿槽10において、傾斜部材13に替えて、傾斜部材41,42を設けたものである。そして、本実施形態で用いる傾斜部材は、複数の傾斜板を所定の配置となるように整列して設けてなる傾斜部材41と、同様に複数の傾斜板を所定の配置となるように整列して設けてなる傾斜部材42と、をそれぞれ鉛直方向に異なる高さに設けたものであり、2段の傾斜部材で構成してなる。それ以外は、第1の実施形態と同一の構成を有している。
ここで傾斜部材41は、2段になっている傾斜部材の下段を形成する。この傾斜部材41は、流入管12を中心として、周方向に均等に配置された4枚の傾斜板から構成されている。そして、この傾斜板はいずれも槽体11内の中央上方から外周下方に向かって傾斜し、平面視においては流入管12を中心に放射状に広がって配置されている。
また、傾斜部材42は、2段になっている傾斜部材の上段を形成する。この傾斜部材42は、傾斜部材41と同様に、流入管12を中心として、周方向に均等に配置された4枚の傾斜板から構成されている。そして、この傾斜板はいずれも槽体11内の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有し、平面視においては流入管12を中心に放射状に広がって配置されている。
そして、傾斜部材41と傾斜部材42とは、平面視したときに、その配置位置をずらして、かつ、異なる段の傾斜部材と重なるように配置することが好ましい。このように重なりを設けることで、槽体11上方で沈降し始めたフロックは、必ず傾斜部材の傾斜面に接触して、槽体11の外周側へ転がり落ちるようになり、被処理水の上昇流と接触させる機会を増やすことができる。なお、図10では、傾斜部材41と傾斜部材42とは、同一の構成の傾斜部材とし、平面視において、傾斜部材41を流入管12を中心に45度回転させた位置に傾斜部材42を配置している。
なお、図10では、傾斜部材41及び42は、平板で台形形状の傾斜板を例示したが、この形状に限られず、例えば、矩形、扇形等の形状であってもよい。また、1つの段が4枚で構成されている例を示したが、これも枚数は適宜変更できる。この枚数としては、4〜8枚が好ましい。さらに、図10では、2段の傾斜部材で構成された例を示しているが、3段以上の傾斜部材で構成してもよい。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。